【はじめに】 偽関節の発生原因は骨折部の不安定性,感染,粉砕骨折

【はじめに】
偽関節の発生原因は骨折部の不安定性,感染,粉砕骨折,周囲軟部組織の血行障害など
多様である.自家骨移植,血管柄付き骨移植が標準的治療であるが,移植骨採取部の侵襲
を伴う,採取量が限られるなどの問題があるうえ,治療効果にも限界がある.
一方,骨髄間葉系幹細胞(MSC)は自己複製能,多分化能を有することに加え血管新生や骨
形成を促進する成長因子を発現する事が実証されており,偽関節治療や骨折治癒を促進す
る治療として期待されている.特に局所病変の治療においては適切な移植方法が重要であ
ることから,我々は磁気標識した細胞を磁場勾配を利用して標的部位へ誘導する細胞移植
方法(磁気ターゲティング法)を考案し,これまでに軟骨欠損部に骨髄幹葉系幹移植細胞
(MSC)を効率的に誘導,集積させること(Kobayashi Arthroscopy 2008), 骨再生(Oshima et
al JBJS Br 2010),軟骨再生(Hori et al J Orthop Res 2011)を促進することを示してきた.
本研究では磁気標識した MSC を体外磁場により骨折部へ誘導し骨癒合を促進さる試みを
行い,体外磁場による移植細胞の制御が移植細胞の動態と骨癒合に与える影響について検
討した.
【方法】生体発光イメージングによる移植細胞の動態解析のためにルシフェラーゼ遺伝子
導入ラットより樹立し MRI 用造影剤で磁気標識した MSC を移植細胞として使用した. 野生
型ラットにて大腿骨難治性骨折モデルを作製し 1×106 個の磁気標識 MSC を骨折部へ投与し
た.細胞投与時に外磁場発生装置より発生させた磁場を 10 分間作用させた群(MSC+M 群),
非磁場下に MSC を投与した群(MSC 群),磁場作用下に PBS のみ投与した群(PBS 群)の 3 群
を作製した.移植細胞の分布の経時的変化を生体発光イメージングで観察し,骨形成を X
線学的および組織学的に評価した.さらに LacZ 遺伝子導入ラットより樹立した MSC を同
様の方法にて大腿骨難治性骨折モデルへ移植し,移植細胞の骨折部局所での分布を組織学
的に観察した.
【結果】生体発光イメージングでの骨折部でのルシフェリン発光強度はいずれの細胞移植
群においても移植後3日で著明に増強し,その後漸減したが4週まで観察可能であった.また
移植後3日,4週にてMSC群と比較しMSC+M群で有意に高い発光強度を示していた.また移
植後8週で取り出した大腿骨のex vivo発光イメージングでは各群とも骨折部にのみ発光を認
めたが,MSC+M群で有意に高い発光強度を示していた.
LacZ遺伝子導入ラットより樹立したMSC移植後3日での免疫組織化学染色ではMSC+M群で
β-gal陽性細胞が骨折部周囲の肉芽組織に有意に集積していた.
X 線学的評価では MSC+M 群にて骨折後 8 週で 8 例中 4 例に骨癒合を認めたのに対し,
MSC 群,PBS 群では全例偽関節へ移行した.トルイジンブルー染色による骨折部の組織像
では,MSC+M 群で 4 週にて仮骨形成と内軟骨性骨化が生じ,8 週にて仮骨の架橋を認めた
のに対し,MSC 群では仮骨形成はある程度みられるものの仮骨の架橋は認めず,PBS 群で
は骨折部は線維組織へと置き換わっていた.骨折治癒を組織学的に 5 段階に分類したアレ
ンのスコアにおいても X 線評価と同様に MSC 群,PBS 群と比較し MSC+M 群では骨癒合
が有意に促進していた.
【考察】今回の研究では in vivo 生体発光イメージングにて移植細胞の集積,接着,増殖,
保持について経時的に観察する事が可能であった.移植後早期にて磁気ターゲティングシ
ステムが骨折部への移植細胞の集積を促進することが確認された.また細胞移植後 1 日か
ら 3 日の間で非磁場群と比較し有意な発光量の増加を認めたことから,移植細胞の接着が
促 進 さ れ よ り 多 く の 細 胞 が 増 殖 し た と 考 え ら れ た . こ の 結 果 は 中 前 ら (Nakamae T
SMARTT 2010)の行った In vitro の研究にて磁気標識した幹細胞が外磁場の誘導により培
養皿への接着を促進した事を in vivo にて再確認するものである.4 週の生体発光イメージ
ング,8 週の ex vivo イメージングにて磁場群にて有意に高い発光量を示した事から,磁気
ターゲティング法により長期においても移植細胞を残存させうる事が示唆された.
MSC の骨折治療に対する役割としては骨芽細胞へ分化し骨組織を形成すること,パラク
ライン効果を介して BMP-2 などの骨形成蛋白を分泌する事や血管新生を促進することなど
が考えられている.本研究では移植細胞の役割までは確認できていないが,ex vivo イメー
ジングにて骨折部にのみ発光を認めたことから,移植した MSC は骨折部へ生着し既述のい
ずれかの作用にて骨癒合を促進した後,仮骨内に取り込まれた事が示唆された.
【結語】体外磁場の誘導により磁気標識した MSC を効率的に骨折部へ集積させ,長期的に
移植細胞を生存させ,骨修復促進効果を増強させた.磁気ターゲティング法を用いた細胞
骨髄間葉系幹細胞移植は難治性骨折,偽関節治療において今後臨床応用が期待できる有用
な方法である.