2011.4 新しい大気圧プラズマ発生装置の 開発と高度利用 1104 東京工業大学大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻 沖野晃俊 教科書に書かれているプラズマ 物質の第4の状態 プラズマ中ではイオン,電子, 中性粒子,ラジカルなどが ランダムに運動している プラズマは反応性を持つ ラジカルなど,反応性の高い粒子が生成される → 半導体プロセシング,空気清浄,脱臭 プラズマは光る 気体に固有の波長の光を発する → PDP,レーザー,微量元素分析,紫外線殺菌 プラズマは高温である 10,000℃以上を容易に実現できる → 廃棄物処理,核融合 産業用プラズマの生成法 現在,プラズマは半導体プロセシングや表面処理などの極めて広い 分野で有効に利用されている 要求されるプラズマの気圧,温度,密度,純度,ガス種等に 応じて生成法が選択される ◆ 放電周波数 直流(DC) 高周波(MHz) マイクロ波(GHz),パルス ◆ 電界の印加法 電極放電 or 無電極放電 ◆ プラズマの大きさ メートル センチ ◆ 気圧 真空 低気圧 ミリ 大気圧 ミクロン 高気圧 ナノ? なぜ大気圧プラズマ? 低気圧:真空容器内での処理 大気圧:プラズマを直接照射 Merits (1) 真空系を用いないため,装置構成が簡単化できる。(安価) (2) 加工対象や試料を差動排気を用いずにそのままプラズマ中に導入 できる。(連続処理) (3) 高密度のプラズマが生成できるため,高速な処理が可能。(高速処理) (4) 真空中に入れられないものへの適用が可能。(生体応用) Demerit 低気圧に比べてプラズマの安定生成が容易ではなかった 大気圧プラズマを様々な分野に応用するためには ✓ 適切な温度のプラズマ ✓ 安定で高密度なプラズマ ✓ 放電損傷を与えないプラズマ ✓ 様々なガスのプラズマ が望まれる。 大気圧プラズマの新しいコンセプト・キーワード ✓ 適切な温度のプラズマ ⇒ 低温プラズマ ✓ 安定で高密度なプラズマ ⇒ リモートプラズマ ✓ 放電損傷を与えないプラズマ ⇒ ダメージフリープラズマ ✓ 様々なガスのプラズマ ⇒ マルチガスプラズマ 沖野研究室で開発した 大気圧ダメージフリープラズマ源 低温で放電損傷のない, 表面処理・殺菌用の高密度プラズマ源 従来の大気圧低温プラズマの問題点 低温(室温 100℃程度)の大気圧プラズマ源が開発された事から, ここ数年,急速に応用研究が実施されている バリヤ放電 コロナ放電 cathode Gap : 3mm Dielectric (glass, 1mm) anode ✓ バリヤ放電は 薄く,均一で,電気を通さない物質しか処理できない ✓ コロナ放電は 放電による損傷が生じる ✓ 両者とも,プラズマ化できるガスに制限がある 放電損傷を与えない,リモートプラズマ リモートプラズマでは,プラズマ生成部と処理部が離れているため, ✓ 処理対象は平面でなくてもよい ✓ アーク放電による放電損傷が少ない ✓ 処理対象によってプラズマの安定度が変化しない ✓ 高密度プラズマを利用可能 などの長所を持つ。 大気圧ダメージフリープラズマジェット (東工大沖野研 2008) プラズマバレットの一種であり,特殊な電極配置と電源特性により, 金属や生体を近づけても放電が生じず,放電損傷を与えない ✓ 金属や生体への応用が可能 ✓ 遠方のピンポイント処理が可能 主な用途: ★ 表面の親水化処理による ✓ 接着性の向上 ✓ 塗装性の向上 ✓ ハンダ接着性の向上 ★ 表面の殺菌処理 ★ 虫歯治療 大気圧マイクロプラズマジェット (東工大沖野研 2008) ・極めて細いプラズマを局所的に照射可能 ・低温・リモートプラズマのため,低ダメージ ・各種のガスを使用可能 → 表面処理, 殺菌, CVDに有利 ガス温度:室温 数100 K,電子温度: 1 eV,電子密度: 1014 cm-3 ダメージフリーマルチガスプラズマジェット (東工大沖野研 2010) Atmospheric Damage-Free Multi-Gas Plasma Jet 特許申請済 小型ジェット装置 ✓ 低温かつ放電損傷がないので,プラスチックや半導体だけでなく, 金属,繊維,紙,生体などへの適用が可能 ✓ マルチガスプラズマなので,親水化やクリーニングだけでなく, CVD等を用いたコーティング処理に有利 ✓ 大気圧プラズマ処理のフィージビリティスタディに最適(特許戦略等) ダメージフリープラズマの照射例 1 ✓ 高密度プラズマに直 接触れる事が可能(左) ✓ アセトン等を近づけて も引火しない(右) ✓ パイプの内部は進展 しやすい(右下) 紙・繊維 基板 プラスチック ガラス パイプの内部 ダメージフリープラズマの照射例 2 花火やロウソクは もちろん点火しない フルーツ,お刺身,卵は新鮮なまま ストッキングにも ダメージなし ○ーゲンダッツ,氷,チョコは少し溶けた ダメージフリーマルチガスプラズマジェット装置 Atmospheric Damage-Free Multi-Gas Plasma Jet 株式会社プラズマコンセプト東京 (東工大発ベンチャー)より発売中 大面積処理用335mmリニア型ダメージフリープラズマ (東工大沖野研 2010) 主な用途: ★ 表面の親水化処理による ✓ 接着性の向上 ✓ 塗装性の向上 ★ 表面のクリーニング ★ 表面の超高速コーティング アルミニウム わずか830gと超軽量 プラズマ照射スリット:1mm x 335mm 処理前 1秒処理後 金属表面の高速親水化処理 950 mm/sec! 700 W 500 W 300 W プラズマ源と搬送装置 0 11 その他の物質の親水化処理 (東工大沖野研 2010) 大気圧大型ダメージフリープラズマ (東工大沖野研 2008) 1m の大型化実証モデル 大気圧ソフトアブレーション法 (東工大沖野研 2010) 特許申請済 (Atmospheric Plasma Soft Ablation method; APSA) 表面付着物を基材にダメージを与えずにサンプリング ✓ 汗による疾病の簡易検査 ✓ 空港等におけるセキュリティ検査 ✓ 食品や薬の品質検査 大気圧マルチガスコロナ (東工大沖野研 2010) 主な用途: 空気以外のガスによる ✓ 難接着物質の接着 ✓ 高速親水化処理 Merit: ◆ 空気,酸素,窒素,二酸化炭素などでも 放電可能 ◆ 低温処理が可能 Demerit: ◆ 放電損傷が生じる 高密度ポリエチレンの接着性向上 (東工大沖野研 2008) エポキシ樹脂による高密度ポリエチレン(HDPE)の接着テスト 全く接着せず 完全な接着を実現 大気圧マルチガスマイクロプラズマ (東工大沖野研 2007) ・ガスを変更するだけで様々なマイクロプラズマを生成可能 ・二次元的に配置する事で実質的な大面積化が可能 ・バッテリー駆動が可能 ⇒ モバイル分析装置など ・40kW程度までの超高出力化が可能 ・電圧,電流値の制御でプラズマの特性を容易に制御可能 ガス温度:室温 5,000 K,電子温度: 数 eV,電子密度: 500 μm 放電なし ヘリウム アルゴン ネオン 窒素 酸素 炭酸ガス 空気 特許申請済 1015cm-3 主な用途: ★ 元素分析 ★ 局所表面処理 ★ ガス分解処理 ★ 新物質創造 ★ CVD処理 ★ DLCコーティング マイクロプラズマによるDLC成膜 ドロプレットネブライザを用いたNaCl溶液の発光分析 2000 1000 0 580 Limit of detection Droplet volume Integration time Injection frequency Na Ⅰ 589.59 3000 Na Ⅰ 588.99 50 ppm Na solution He Ⅰ 587.56 nm Emission intensity [arb. unit] 4000 585 590 595 Wavelength [nm] 300 ppb 30 pL 100 ms 100 Hz 600 Absolute LOD 90 fg 紙の高速ガラスコーティング (東工大沖野研 2009) 特許申請済 プラズマを5秒間照射 ✓ 通常のプラズマ照射では,親水化処理可能 ✓ 新手法の処理では, 撥水処理可能 無処理 親水化処理 撥水処理 ※ 液体量と写真倍率は同じです 紙や繊維への ✓セラミックコーティング ✓抗菌コーティング ✓酸化金属コーティング等についても研究を行っています。 ※ 25センチハンディ型ラインプラズマを使用 酸化チタン薄膜(光触媒)の高速コーティング 特許申請済 (東工大沖野研 2008) プラズマを3秒間照射 ✓ Anatase型(光触媒活性)の酸化チタン膜の形成を確認 ✓ エチレンブルーの脱色により,光触媒効果を確認 120 100 Intensity (a.u.) プラズマ処理なし 80 60 プラズマ処理あり 40 20 0 200 300 400 500 600 700 -1 Wave number (cm ) 800 900 ※ 25センチハンディ型ラインプラズマを使用 沖野研究室で開発した 大気圧高純度マルチガス熱プラズマ源 高純度・高温・高密度・マルチガスな, 物質分解・新物質創造・微量元素分析用プラズマ源 大気圧高純度マルチガス熱プラズマ (東工大沖野研 2008) 世界で唯一のプラズマ装置 特許申請済 主な用途: ★ 元素分析 ★ ガス分解処理 ★ 新物質創造 ★ CVD処理 ★ 半導体プロセシング ・ ガスを変更するだけで,アルゴン,ヘリウム,窒素,酸素,二酸化炭素, 空気およびそれらの混合ガスプラズマなどを大気圧下で安定して生成可能 ・無電極のため,超高純度 ・熱プラズマであるため,高温・高密度 ガス温度:3,000 8,000 K,電子温度: 10,000 K,電子密度: 1015cm-3 地球を温暖化する手術用麻酔ガス 手術用麻酔ガス = 笑気ガス + 酸素+ 揮発性麻酔薬 笑気ガス(N2O): (4L/min) (2L/min) ✓ 日本では手術用に1,000トン/年 使用 ✓ 地球温暖化効果 ⇒ CO2 の約300倍,寿命150年 ✓ オゾン層を最も破壊する物質 (09/8/28 毎日新聞) 二酸化炭素換算で年間30万トンがそのまま大気中に放出されている しかし, ✓ 排出ガスは約40%の高濃度 ✓ CO2換算で30万トン/年の笑気ガスが,4,000程度の施設から排出 技術的・戦略的に排出対策は比較的容易 マルチガスプラズマを用いた有害ガスの直接分解処理 従来のプラズマによる処理 アルゴン+ヘリウムプラズマ + 微量の分解したいガス マルチガスプラズマによる処理 分解するガス自身でプラズマを生成 高効率 & 低コスト 麻酔ガス自身で生成した大気圧プラズマ (世界初!) 麻酔ガスの直接高効率分解処理 (東工大沖野研 2010) ✓ 99.98 % の亜酸化窒素分解を達成 ✓ 942 g/kWh の高い分解効率を達成 (従来の燃焼法や触媒法の5倍以上) 日刊工業新聞 (2010.9.24) 半導体レジストの高速剥離 半導体レジストに酸素プラズマを照射 → 1秒で完全に剥離 Before irradiation Plasma gas: He+O2 (10 %) Irradiation time: 5 sec Plasma gas: O2 Irradiation time: 1 sec Plasma gas: He+O2 (10 %) Irradiation Time: 60 sec 炭化レジストの高速剥離 酸素プラズマでは炭化層を剥離できず He/H2 プラズマでは炭化レジストを高速に剥離 大気圧プラズマを用いた質量分析法 プラズマをイオン源として利用 大気圧の高温・高密度プラズマ中に分析試料を導入し,イオン化された 元素を差動排気によって高真空中に導入し,質量分離したのち,イオン数 をカウントする。 数 kW 高周波発振器 13 40 MHz インターフェイス イオンビーム スキマー Ar IC Pトーチ イオンレンズ QM S サンプラー イオン検出器 マッチング回路 キャリヤガス 中間ガス プラズマガス 760 Torr 1st stage 2nd stage 3rd stage few Torr -3 10 Torr -6 10 Torr 差動排気 単一細胞・ナノ粒子の個別分析 従来は多数の細胞や粒子を用いて,微量元素の平均情報を得ていた。 単一細胞内の超微量元素の情報が明らかになると,, ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ 代謝機構の解明 ガンやアルツハイマー等の発症原因の究明 iPS細胞の分化過程の解明 疾病予防・早期発見のための診断技術 細胞レベルでの薬効診断 単一細胞分析用 Direct Droplet Injection Nebulizer 2010 Okino lab. 特許取得済 30∼ 580 µm (14 pl ∼100 nL) 細胞をドロプレット中に 内包させる 100 µm Nozzle tip aqueous solution Droplet Nebulizer head 14 pL~ 酵母細胞の直接分析 酵母細胞をドロプレット中に 内包させる 30∼ 580 µm (14 pl ∼100 nL) 100 µm Plasma: Argon ICP Droplet volume: 180 pl Plasma gas: 15 L/min RF-power: 1000 W Sample: 30 yeast cells 酵母細胞30個中の元素分析 2.5 23 Na 信号強度 (a.u.) 2.0 1.5 24 1.0 Mg Ba 66 Zn 65 Cu 138 0.5 0 時間 (2ms/div) イーストを含有したドロプレットを導入し,Na, Mg, Cu, Zn, Ba による多元素の信号を取得した。 まとめ 大気圧ダメージフリープラズマ源 (低温プラズマ) ⇒ 従来のプラスチックやガラスの他,金属,生体,繊維,紙など のプラズマ処理が可能 表面処理 親水・撥水化処理,コーティング,表面硬化,クリーニングなど 殺菌処理 食品・農業・衛生・医療機器など 大気圧高純度マルチガス熱プラズマ源 (高温プラズマ) ⇒ 様々なガスで高温・高密度プラズマを生成可能 高速半導体プロセシング レジスト剥離,薄膜形成など 廃棄物処理・環境浄化 有害ガス・液体・固体の高効率分解処理など 微量元素分析 環境・医療・半導体・食品・犯罪捜査など 研究内容に関する連絡先: 東京工業大学大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻 准教授 沖野晃俊 226-8502 横浜市緑区長津田町4259-J2-32 Tel, Fax: 045-924-5688 E-mail: [email protected] http://www.es.titech.ac.jp/okino/ プラズマ装置販売・プラズマ照射実験等に関する連絡先: 株式会社 プラズマコンセプト東京 (東工大発ベンチャー第50号) E-mail: [email protected] http://www.pc-tokyo.co.jp 大学院受験をお考えの皆さんへ: 修士課程で当研究室を上位で希望される方と,博士後期課 程からの入学を希望される方には,個人での見学を強く推奨 しています。ご希望の方は沖野までメールでご連絡下さい。 見学は一年を通して受け付けています。また,次年度以降に 受験をお考えの方もお気軽にご相談下さい。 東京工業大学大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻 准教授 沖野晃俊 E-mail: [email protected]
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