ちょっと意外な知的財産

第
5
回
これって意匠権になるの?
*
原嶋 成時郎
原嶋特許事務所
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「どんなときに意匠権がとれるのですか?」
、
「これ
にかかわる物品を指定する必要がある。
で意匠権がとれるのですか?」などと聞かれることが
この定義の中で最も悩ましいのが、
「視覚を通じて
よくある。特許権や商標権については何となくわかっ
美感を起こさせるもの」であり、どのくらい美感を起
ていても、意匠権についてはほとんど知らない人・中
こさせるものでなければならないか、ということだ。
小企業が案外多いようだ。そして、意匠権と聞くと、
これに対して多くの人・中小企業がかなり高いハード
なんだか専門のデザイナーだけに与えられる難しい権
ルのように考え、美術品のようなものでなければなら
利のように思われているようだ。しかし、そのような
ない、と考えているようだが、そのようなことはない。
ことは決してなく、日常的な業務においても、意匠権
見る者に美感を起こさせればよく(あるいは、起こさ
を与えるのに値する創作が行われており、また、金型
せる可能性があればよく)
、その程度はほとんど問わ
業界を含む多くの製造業において、意匠権を取得可能
れない、と言っていいだろう。実際の審査では、ほか
なケースあるいは取得すべきケースが隠れているもの
の物品と識別できるだけの程度でも、美感を起こさせ
である。
る、として意匠と認められるケースも少なくない。こ
そこで今回は、意匠権の対象となる創作物・成果物
のことは、後述する部分意匠の例でもわかっていただ
や、意匠権を取得することで上手に保護を受ける方法
けるであろうが、ここでは 2 つの典型例を紹介する。
などについて、具体例を紹介しながら説明する。
まず、物品の形状、模様および色彩の結合からなる、
典型的な意匠の例を紹介する(図 1)
。
意匠権の対象
この意匠は、芳香剤容器に関し、図 2 に示すよう
意匠権を取得するには、当然ながらまず、創作物が
に、花の中心部に対応する球体の頂部に凹部を設けて
意匠法で定義するところの意匠でなければならない。
いる。この凹部に綿などを埋め込み、芳香剤を適宜含
意匠法第 2 条
この法律で「意匠」
とは、
物品の形状、
模様若しくは
色彩又はこれらの結合であって、
視覚を通じて美感
を起こさせるものをいう。
ませて使用するものである。この例では、球体にきれ
いなリボンがまかれ、頂部にこれまたきれいなリボン
で花があしらわれているため、見る人のほとんどに美
感を起こさせる、と言えるだろう。
少しわかりにくいが、物品の形状や模様、色彩にか
かわるものであって、それを見る者に美感を起こさせ
るものを、意匠と定義している。したがって、物品と
は独立した模様・絵柄そのもの(例えば、ブランド品
のマーク・模様)や材料・素材そのものは意匠とはな
らない。このため、意匠登録出願をする際にも、意匠
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Jojiro Harashima
横浜国立大学工学部卒業後、通信機器メーカー、プレス・金型メ
ーカー、米国の電力設備メーカーなどを経て、2003 年弁理士
として独立。現在、原嶋特許事務所代表。
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図 1 意匠登録第 1438709 号