1G23 弾性衝突を考慮した受動的歩行シミュレーション ○小山崇之 杉内 肇 藪田哲郎 (横浜国大) Passive Dynamic Walking Simulation in consideration of Elastic Collision *Takayuki Koyama, Hajime Sugiuchi, and Tetsuro Yabuta Yokohama National Univ., 79-1 Tokiwadai, Hodogaya-ku, Yokohama Abstract − Although many papers have been published on dynamic walk simulation under the condition of non-elastic collision , this paper tries to calculate the passive dynamic walk simulation in consideration of elastic collision. Simulation results show the possibility of elastic collision analysis. Key Words: Passive Dynamic Walking, Biped Walking, Collisions, Contacts, Dynamics Simulation 1. はじめに 近年,産業分野用ロボットから,人間との共生を 目的としたロボットの開発が盛んに行われるよう になり,その中で人間への親和性,生活環境への適 応の観点から HONDA の ASIMO や SONY の SDR シリーズを始めとしたヒューマノイド型ロボット が注目されている.これに伴い多くの研究機関にお いて二足歩行の研究がなされている.二足歩行ロボ ットの歩行制御法には ZMP1)規範型・生物規範型を 始めとして,多くの制御則が適応されている.これ とは別に,より滑らかでかつエネルギー効率面にお いて優れる二足歩行実現のために McGeer により提 案された Passive Dynamic Walking(受動的歩行) 2)の 研究も盛んに行なわれている.二足歩行研究におけ る受動的歩行とは,人間の脚を模した二脚構造を有 するモデルが,角関節に能動的なトルクを加える制 御なしに,前方への倒れこみ動作により巧みに重力 エネルギーの作用を利用し,平坦な斜面を下ってい く歩行が自律的に生成されることを言う.受動的歩 行はその性質上,歩行機の持つ特性に依るところが 大きく,歩行が実現する条件範囲が狭い.歩行可能 な傾斜角や歩行周期,歩幅は系のパラメータに強く 依存する.受動的歩行研究における歩行機は,コン パス型モデルやこれに膝関節を付加したモデルが 広く利用されている.これらのモデルが床と完全非 弾性衝突すると仮定し,2D シミュレーション解析を 行なう.これにより,受動的歩行において,引き込 み現象や傾斜角の増加に伴い歩行周期が倍分岐し, やがてカオスに至る現象が報告されている 3) 4).さ らに,これに対する制御側もいくつか提案されてい る 5)6)7).受動的歩行解析は,人間の歩行原理解明の 点からも非常に興味深い研究と言える.また,実機 を用いた受動的歩行実験も盛んに行われ,McGeer のモデルや,Collins らの腕を有する 3D 歩行モデル 8) などがある. しかし,これら実環境における受動的歩行ロボッ トに関するシミュレーションはあまりなされてい ない.そこで,本研究においてはより実世界に近い 検証を行なうため,2D を 3D に拡張し,特に任意の リンク系を構築した場合,外部環境との衝突・接触 が系に及ぼす影響を検証するため,床との弾性衝突 を考慮した 3D シミュレータを開発した.また,こ れを用いて受動的歩行の簡単なモデルであるコン パス型モデルによる歩行シミュレーション実験を 行った.本稿ではシミュレーション結果を示す. 2. 3D 動力学計算シミュレータ 2.1 運動方程式 多体系の運動方程式は, F + H T Q = MV& + N (1) である.また,拘束式は HV = 0 (2) で表される.ここで F は強制力・外力, H は拘束 を表す速度変換行列,Q は拘束力,M は質量行列, V は速度,V& は加速度, N は非線形力(コリオリ 力・遠心力)である.順運動学問題は, Q , V& 以外 を既知の状態において,V& を求める問題に帰着する. 式(1)より, V& = M −1 H T Q + M −1 (F − N) (3) 式(2)を微分すると, HV& + H& V = 0 (4) これに式(3)を代入して, (HM −1 H T )Q = −(HM −1 (F − N) + H& V) (5) を得る.これを解き得られた Q を式(3)に代入し,V& を得る.本シミュレータにおいては,積分法として ・ オイラー(Euler)法 ・ 陰的オイラー法 ・ 2 次のルンゲクッタ(Rnuge-Kutta)法 ・ 4 次のルンゲクッタ法 ・ 台形則(Trapezoidal formula) を現在実装している. 2.2 衝突・接触計算 二足歩行に代表されるヒューマノイドロボット の運動では,ロボットと環境の間で衝突・接触が頻 繁に発生するため,衝突現象のモデルと接触力計算 が必要になる.受動的歩行においても例外ではない. 第21回日本ロボット学会学術講演会(2003年9月20日∼22日) 3. 歩行ロボットモデル Passive Dynamic Walking の研究ではコンパス型モ デル 11)や,これに膝関節を加えたモデルがよく採用 される.本研究ではシミュレーション対象として,ま ず Fig.1 に示す 2 リンク・3 質点からなるコンパス型 二足歩行ロボットを用いる.このロボットで以下の 条件を仮定する. ・脚と床は点接触し,衝突に関しては弾性衝突と する. ・質量は両脚のリンク中心・上体に分布. ・股関節は 1 自由度回転関節.非駆動であり摩擦・ 粘性もない. また,シミュレーションにおいて用いた各パラメ ータを Table.1 に示す.これらパラメータ以外に,床 剛性・足先リンク剛性を合成した剛性をばねで表現 するため,ばね剛性面法線方向(kn)・接線方向(kt), 粘性係数面法線方向(dn)・接線方向(dt)及び,静止摩 擦係数(mus)・動摩擦係数(mud)を任意に設定する. l lg 脚部の質量 腰部の質量 脚の長さ 脚部重心と股間の長さ g 重力加速度 m mh θ st θ sw γ 4. 7.0[kg] 7.0[kg] 7.0[m] 0.5[m] 9.8 [m/s 2 ] 支持脚の角度 [rad] 遊脚の角度 [rad] 傾斜角度 [rad] Table.1 Parameters 数値シミュレーションの一例 傾斜角度,及びばね剛性,粘性係数,静止摩擦係 数,動摩擦係数を任意に設定し,シミュレーション した結果を以下に示す.なお,数値積分には台形則 を使い,積分時間幅は適宜変更した. 傾斜角度 0.31[rad]の急斜面を初期姿勢として前脚 を少し上げた状態からシミュレーションした結果を Fig.2 に示す.ばね剛性・粘性係数一定とし,摩擦係 数を変化させた. Z 従来,これらの計算では Penalty 法に代表される関 係しあう物体間にばねとダンパを挟み込み,衝突衝 撃力や接触力を求める手法がとられていた.しかし, この手法は数値積分が発散しやすく,きわめて小さ い積分時間幅を要する.これは,シミュレーション 速度と精度の低下を招くことになる.他の手法とし て,Baraff 9)らによって拘束条件から拘束力を計算す る剛体モデルが提案された.この手法は不等式拘束 条件を含む方程式を解くための膨大な計算量が問 題となるが,この解決策として中村・山根による陰 積分を導入する方法 10)が提案されている.本研究に おいては,人体に代表される,やわらかい物体の衝 突・接触をシミュレーションすることを前提に,剛 体モデルではなく,各係数を変化させることで物体 の柔らかさを表現することができるばねダンパモ デルを用いることにした. 2 0 -2 -4 -6 -8 -10 -12 0 5 10 15 20 25 X (a)mus=0.1, mud=0.1 mh swing leg stance leg lg θ st θ sw Z m l m x Z g 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 -6 0 5 10 X γ Fig.1 Compass model of a biped robot (b)mus=0.5, mud=0.4 30 2 0 Z -2 -4 -6 -8 -10 0 5 10 15 20 X (c)mus=0.5, mud=0.1 Fig.2 Trajectory of the center of hip シミュレーション結果から,傾斜面に沿ったコン パス型モデルの腰部の上下運動を確認できた.現時 点では,これが歩行に依るものか,ジャンプ運動に 依るものかは確定できない.しかし,静止摩擦係数・ 動摩擦係数を変化させることにより,上下運動の 幅・周期に違いがでる事が示せた. 5. まとめ 本研究においては,3D 動力学シミュレータを作成 し,その有効性を確認するため,簡単なコンパス型 モデルを用いた受動的歩行シミュレーションを行な い,床との弾性衝突におけるリンク系への影響を確 認できた.周期的な脚の振り出し,上下運動を確認 できが,これが受動的歩行に依るものかは確認でき なかった.今後は足先と床との衝突・接触力,及び 関節角度の出力を行い,平行して作製を進めている GUI と本シミュレータとを結合して,歩行動作をよ り詳細に確認できるようにする.さらに,歩行ロボ ットモデルを上体・左右の腰の揺れを考慮した 3D へ 拡張し,その時に,系の剛性がモデルに及ぼす影響 を検証する. 参考文献 1) M. Vukobratovic, B. Borovac, D. Surla, D.Stokic:Biped Locomotion: Dynamics Stabirity, Contorol and Application, Vol.7 of Scientific Fundamentals of Robotics., Springer-Verlag, 1990. 2) T. McGeer:Passive Dynamic Walking, Int. J. of Rob. Res., Vol.9, No.2, pp.62-82, 1990. 3) 山北浩介, 石村康生, 氏家英樹, 和田充雄:受動歩行に見 られるカオス的挙動とその制御, 第 8 回ロボティクスシ ンポジア予稿集, 11B2, 2003. 4) 池俣吉人, 佐野明人, 藤本英雄:エネルギー関数と固有 地による受動歩行の解析, 第 8 回ロボティクスシンポジ ア予稿集, 11B3, 2003. 5) 潮俊光:カオス制御,朝倉書店,1996. 6) 杉本靖博, 大須賀公一:遅延フィードバック制御に基づ く準受動的歩行の安定化について, 第 7 回ロボティクス シンポジア予稿集, 12A1, 2002. 7) 大須賀公一, 桐原謙一:受動的歩行を規範とした歩行ロ ボ ッ ト と 制 御 , 日 本 ロ ボ ッ ト 学 会 誌 , Vol.20, No.3, pp.233-236, 2002. 8) S. H. Collins, M. Wisse and A. Ruina:A Three-Dimensional Passive-Dynamic Walking Robot with Two Legs and Knees , The Int. J. of Rob. Res., Vol.20, No.7, pp.607-615, 2001. 9) D. Baraff:Fast Contact Force Computation for Nonpenetrating Rigid Bodies, Proc. SIGGRAPH, pp.23-34, 1994. 10) 山根克,中村仁彦:O(N)順動力学計算法と陰積分によ る衝突・接触の高速シミュレーション,日本機械学会 [No.02-6] ロボティクス・メカトロニクス講演会’02 講 演論文集 11) J. W. Grizzle, G. Abba, and F. Plestan:Asymptotically Stable Walking for Biped Robots: Analysis via Systems with Impulse Effects, IEEE Trans. Automat. Contr., Vol.46, No.1, 2001, pp.51-64
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