23156 日本建築学会大会学術講演梗概集 (北海道) 2013 年 8 月 既存鉄筋コンクリート造建築物に分散配置された鉄骨枠付きブレースの補強効果に関する実験的研究 (その 3 分散配置した場合の鉄骨枠付きブレース架構の破壊形式に関する一考察) 正会員 勅使川原 正臣*2 正会員 ○大西 歩*1 1 正会員 田子 茂* 正会員 中村 聡宏*3 正会員 鈴木 史朗*4 鉄骨枠付きブレース 柱・梁接合部 分散配置 耐震補強 側及びブレース端が柱・梁接合部に接続されていない場 合(2 層ブレース RC 柱側等)の梁へ伝達されるブレース の水平力は 50%とした。結果,全ての試験体において, 体の実験結果に基づき,分散配置に補強した場合の鉄骨 柱・梁接合部破壊は生じないという判定となった。 枠付きブレース架構の破壊形式に関する考察を行った。 試験体 L-0.77 の梁主筋が降伏直前(1/500rad.)の梁の 2. 柱・梁接合部の破壊 軸歪分布を図 2 に示す。図 2 より,梁に圧縮軸力が作用 正載荷において,試験体 L-1.43 と S-1.43 は柱・梁接合 する場合(正載荷)では,梁が全断面圧縮となり,引張 部破壊を想定していた試験体であったが,柱・梁接合部 鉄筋が引張降伏していないことが確認された。 破壊は生じなかった。破壊形式が想定と違った原因とし 試験体 L-0.77 の変形角 1/500rad.と梁主筋が降伏直前の て,次の 3 つが考えられる。 柱と梁の曲率分布を図 3 に示す。③に関して,全ての試 ① 想定していた応力状態と違うこと 験体において,図 3 のように梁の曲げ戻しが小さく,柱 ② 実験では梁が全断面圧縮となり,引張鉄筋が引張降伏 が通し柱のような挙動を示していることが確認された。 していないこと このような挙動を示したのはスタブが梁に対して剛比が ③ 柱・梁接合部付近の梁の曲げモーメント分布が想定と 大きく,反曲点が梁側に偏ったことが考えられる。 違うこと 結果,①の理由より,梁曲げが大きく作用せん断力が そこで,①に関して,柱・梁接合部の応力状態を要素 6) 大きいと想定した場合でも柱・梁接合部破壊の判定には 実験の結果 を用いて仮定し,柱・梁接合部の作用せん 断力の再計算を行った。柱・梁接合部の応力図を図 1 に, ならない。加えて,②,③の理由により,柱・梁接合部 には大きな曲げモーメントが生じていなかったことが考 柱・梁接合部作用せん断力と強度一覧を表 1 に示す。こ えられる。今後,柱・梁接合部の作用せん断力の算出に の時,ブレース端が柱・梁接合部に接続されている場合 関して再検討を行う必要がある。 (1 階ブレース RC 柱側)の梁へ伝達されるブレースの水 3. 柱の破壊形式 平力は 33%とし,ブレース端が鉄骨柱に接続されている 予備計算では反曲点を階高の中心としていたが,実験 1. はじめに 本報(その 3)では,前報(その 2)で報告した 3 試験 正載荷 引張:正,圧縮:負 1554.5 柱の曲げモーメント 1611.0 柱のせん断力 梁の曲げモーメント 負載荷 -33.8 梁の曲げモーメント 0.33cQv+0.5tQv 0.5Qv 0.67cQv+0.5tQv 0.5Qv 31.0 -168.6 16.7 -263.3 -20.0 cQv: 圧 縮 ブ レ ー ス の 水 平 315 tQv: 引 張 ブ レ ー ス の 水 平 柱のせん断力 図2 Qv=cQv+tQv L=85 72 1/500rad.時の柱と梁の軸歪分布(L-0.77) [μ] 柱の曲げモーメント 図1 表1 凡例 赤色:1/500rad., 青色:ブレース降伏直前(左:1/150rad.,右:1/500rad.) at 4 負載荷 正載荷 Qju:柱・梁接合部強度 Qj:柱・梁接合部作用せん断力 dt3=121 dt2=200 L-0.77 L-1.43 S-1.43 252.8 Qju [kN] 248.7 233.4 161.4 183.2 Qj[kN] 50.2 0.20 0.69 0.72 Qj/Qju 凡例 72 at 3 at 2 at 1 柱・梁接合部応力図(要素実験結果) 柱・梁接合部作用せん断力と強度 86 dt1=279 図4 柱の曲げ強度 再計算時の仮定断面 図3 柱と梁の曲率分布(L-0.77) Strengthening effect of staggered placed steel braces for existing reinforced concrete building Part 3 Discussion about failure type of brace frame ― 325 ― -6 0 10 20 10 [1/mm] (正載荷 1 層柱のみ) OHNISHI Ayumi, TESHIGAWARA Masaomi, TAGO Shigeru, NAKAMURA Akihiro and SUZUKI Shiro 表3 表2 柱の強度一覧 鉄骨枠を考慮(h0 =615mm) L-0.77 Mu[kN・m] 99.5 Qmu [kN] 161.8 L-1.43 99.5 161.8 35.1 100.2 130.2 99.5 161.8 35.1 100.2 139.2 S-1.43 最大荷重 予備計算(h0=階高/2) Mu[kN・m] Qmu[kN] Qsu[kN] 35.1 100.2 134.0 L-0.77 L-1.43 Mu:曲げ強度,Q mu:曲げ強度時せん断力,Qsu:せん断強度 S-1.43 正載荷 549.8 負載荷 308.9 梁主筋が引張降伏 正載荷 557.9 ブレース降伏後,柱がせん断破壊 負載荷 正載荷 負載荷 401.0 403.3 317.4 ブレースと梁主筋が同時降伏 ブレース降伏後,柱がせん断破壊 ブレース降伏 より,反曲点が梁側に偏っていることが確認されたため, 柱のせん断強度を算出する際には考慮が必要である。こ こでは,スタブから 615mm 上方(または下方)のところ を反曲点位置とした。 柱の強度を算出する際に,鉄骨枠柱も曲げ強度に影響 すると仮定して,曲げ終局強度を算定する。ただし,鉄 骨枠柱に引張力が作用する場合(負載荷)では,モルタ ルは引張力を負担しないため,柱断面のみで計算した柱 の強度を用いて架構耐力を算出するものとし,鉄骨枠柱 に圧縮力が作用する場合(正載荷)のみ再計算を行う。 曲げ強度を算定する仮定断面を図 4 のように仮定する。 曲げ終局強度は完全塑性理論 3)による解析法を用い,式 (1),式(2)より算出する。中立軸位置を鉄骨枠位置, モルタル中,コンクリート中で場合分けをし,式(2)を 用いて計算をおこなった結果,中立軸は鉄骨枠柱位置と なった。 M u = ∑ ( ati ⋅ σ yi ⋅ jti ) ∑(a n Acc = i =1 ti 計算値 破壊形式 間接接合部破壊(せん断柱) 489.9 260.7 424.1 486.1 ブレース降伏(せん断柱) 梁主筋が引張降伏 間接接合部破壊(せん断柱) ブレース降伏(せん断柱) 394.1 322.6 283.6 間接接合部破壊 1.02 ブレース降伏(せん断柱) 1.25 ブレース降伏 1.12 色つき:4の検討内容を踏まえた変更箇所 実験/耐力 1.24 1.12 1.18 1.32 1.15 を再計算した(表 3) 。 (a)柱の反曲点はスタブから 615mm 上方(または下方) のところとする。 (b)鉄骨枠柱に圧縮力が作用する場合,柱のせん断強度 に鉄骨枠柱の影響を考慮して算定する。 鉄骨枠柱を含めた断面で柱のせん断強度を再計算し, 修正後の正載荷の破壊形式及び強度を実験結果と比較す ると,L-0.77 は実験で柱がせん断破壊した試験体ではない ため破壊形式は評価しきれていない。また,せん断破壊 柱となったことで,L-1.43 は柱の破壊形式が一致した。し かし,架構の破壊形式が実験ではブレースが降伏後せん 断破壊であったのに対し,計算では間接接合部破壊とな り,適切に評価しきれていない。S-1.43 は柱の破壊形式及 び架構の破壊形式が実験結果と対応した。架構の破壊形 式において,依然として相違があるため,正しく評価し (1) 5. まとめ 1)柱・梁接合部破壊は全試験体で生じなかった。理由と (2) して,①想定している応力状態が違ったこと②梁主筋が ⋅σ y ) σi ブレース降伏 耐力 443.1 ていくことが今後の課題である。 n i =1 破壊形式と耐力の再評価 実験値 破壊形式 ここで,ati:引張鉄筋の断面積(引張鉄筋はコンクリート ないしモルタルの圧縮域外にある柱の主筋すべてを考慮 引張降伏していなかったこと③反曲点位置が柱・梁接合 部に偏っていることが考えられ,今後柱・梁接合部の作 するが,圧縮域近傍の鉄筋は無視する)σyi:引張鉄筋の 用せん断力を再検討する必要があった。 降伏強度,Jti:引張鉄筋位置とコンクリート圧縮域の応力 2)柱の反曲点が梁側に偏っていることが確認され,全試 中心間距離,Acc:コンクリート圧縮域の面積,σi:鉄骨 枠柱の降伏強度,dti:鉄骨枠柱から引張鉄筋位置までの距 鉄骨枠柱の影響を考慮した断面で算定した柱の曲げ強 度 Mu,Qmu と予備計算時のせん断強度 Qsu,曲げ強度 Mu, Qmu を表 2 に示す。表 2 より,鉄骨枠柱を考慮して柱の曲 げ強度を算出すると,柱の曲げ強度が大きく上昇し,柱 のせん断強度 Qsu を上回った。これより,柱の破壊形式が 曲げ破壊からせん断破壊に変わったものと推定できる。 架構の破壊形式 ここで,3.より,次の 2 つの仮定を導入して,架構耐力 *1 名古屋大学大学院 大学院生 *2 名古屋大学大学院 教授 工博 ((独)建築研究所 客員研究員) *3 名古屋大学大学院 助教 博士(工学) *4(独)都市再生機構 を示した。 3)柱の曲げ強度を鉄骨枠柱も含めた仮定断面として算定 離である。 4. 験体で梁の曲げ戻しが小さく,柱が通し柱のような挙動 し直した結果,正載荷において,曲げ強度が上昇し,せ ん断破壊形の柱となり,柱の破壊形式は実験結果と一致 した。 4)架構の破壊形式は試験体 L-0.77,L-1.43(正載荷)に おいて,実験結果がブレース降伏であったが,計算上で は間接接合部破壊のままであり評価しきれなかったが, その差は小さい。今後検討が必要である。 参考文献 (その 4)にまとめて示す。 *1Graduate Student, Nagoya University *2Professor, Nagoya University, Dr.Eng. (Visiting Research Engineer, Building Research Institute) *3Assistant Professor, Nagoya University , Dr.Eng. *4Urban Renaissance Agency ― 326 ―
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