修 士 論 文 要 旨 論文題名 中学校社会科の授業における 自己管理支援による 学力向上の取り組み 新潟大学大学院教育学研究科 学 校 教 育( 教 育 実 践 開 発 コ ー ス )専 攻 現 職 加茂市立若宮中学校 特別支援教育専修 教諭 山本 満紀子 (1 頁目) 学 習 障 害( 以 下 LD と 略 す )等 の 子 ど も た ち は 、知 的 な 遅 れ が 見 ら れ な く て も 、そ の 障 害 特性による困難さから、授業中の学習活動を逸脱し、十分な学業成果が得られない者が見 られる。特に通常の学級での一斉授業では、発達障害のある子どもは、指導者の個別の配 慮がない場合、学習に対する自己管理が困難となり、学習活動がうまく成立せず、成績不 振だけでなく、問題行動につながる可能性がある。そこで、学習内容 の支援はもちろんの こと、学習活動への自己管理スキル獲得と、そのための指導も教科の学習では必要となる と考える。 学習活動遂行を目的とした自己管理スキルの指導実践が多数報告された が、それらは個 別指導でのものであり、通常の学級で、教科学習の時間に学級の全体の生徒に対して取り 組んだ実践報告はほとんど見られない。中学校通常学級の教科学習では、授業担当者が一 人で授業を行っている。文部科学省の調査では、通常の学級では、知的発達に遅れはない ものの学習や行動面で著しい困難を示す児童生徒が見られると明らかになっている 。この ことから、通常の学級に在籍している特別な支援が必要な生徒に、学習活動で個別の指導 を 行 う こ と は 極 め て 困 難 で あ る 。 近 年 、 学 習 の ユ ニ バ ー サ ル デ ザ イ ン ( 以 下 UDL と 略 す ) が 注 目 さ れ て い る 。 UDL を 導 入 す る こ と で 、 担 任 や 教 科 担 当 一 人 で も あ る 程 度 特 別 な 対 応 ができ、多くの子どもの学力を保障することや、診断されていない子どもにも 適応できる 等 の 効 果 が 期 待 さ れ る ( Basham,Israel,& Graden,2010)。 UDL の 内 容 に は 、 自 己 管 理 ス キ ルに関する項目も見られる。そこで、特別な支援が必要な生徒について、中学校の社会科 の 一 斉 授 業 で 、 UDL の 構 成 要 素 の 一 つ で あ る 自 己 管 理 ス キ ル を 指 導 し そ の 獲 得 を 目 指 す こ と( 目 的 1 )と 、自 己 管 理 ス キ ル の 獲 得 が 学 力 向 上 に 有 効 か ど う か 確 か め る こ と( 目 的 2 ) を目的に特別な支援を要する生徒Bを含む学級の全生徒を対象に、A公立中学校の3年1 組で本研究に関わる実践を実施した。 自己管理スキルの指導は、授業の目標の提示、自己管理シートによるセルフモニタリン グ 、 ル ー ル の 明 示 、 生 徒 に よ る 自 己 評 価 を 行 っ た 。 な お 、 自 己 管 理 シ ー ト の 項 目 は 、 CAST の UDL の ガ イ ド ラ イ ン 、中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 社 会 科 編 の 教 科 の 目 標( 文 部 科 学 省 ,2007) 等を参考に、学習習慣や社会科の学習内容に関することから、筆者が7種類選択した。介 入 期 間 は 、 2011 年 10 月 上 旬 か ら 、 11 月 下 旬 ま で の 2 か 月 間 で あ っ た 。 授 業 は 、 週 に 1 、 2回あり、介入は、合計10回であった。社会科の授業で 生徒が記録した自己管理シート の結果と、介入前の定期テストの得点と介入後の定期テストの得点の平均点から結果を分 析した。 分析から、生徒Bは介入前より若干の自己管理スキルの獲得が認められ、学力も介入前 より上昇したが、十分な基準を満たすまでには至らなかった。また、学級全体の生徒のほ とんどが自己管理スキルの獲得ができ、学力の向上が見られた。一方でスキル獲得や学力 向上の様子にばらつきがあるという問題点が明らかになった。そこで、生徒を成績別に上 位群、中位群、下位群と分け、自己管理スキル獲得と学力との関係について整理した。そ の結果、成績の上位群では、自己管理スキルの獲得は十分 されていて、生徒のテストの平 均点も上昇していた。中位群でも、上位群と同様に自己管理スキルの獲得と平均点の上昇 が見られた。平均点の上昇率は上位群より中位群の方が高かかった。下位群では、自己管 理スキルはやや獲得しているが、テストの平均点での上昇は見られなかった。この結果か (2 頁目) ら、上・中間層の生徒のほとんどは、今研究の指導で自己管理スキルについて身に付ける こ と が で き 、学 力 を 向 上 さ せ る こ と が で き た 。一 方 で 、下 位 群 の 生 徒 は 、下 位 層 の 生 徒 は 、 自己管理スキルについてはやや獲得することはできたが、それだけでは、学力面で、基準 を 十 分 に 満 た す だ け の 向 上 は で き な か っ た 。 こ の 結 果 は 、 UDL は 学 習 を 失 敗 さ せ な い た め の 予 防 的 対 応 と し て 有 効 で あ り 、導 入 し た 学 級 の 80% の 生 徒 に 有 効 に 機 能 し 、成 績 の 中 位 群の生徒の学力を伸ばすのに特に有効であったとする米国の実践に類似した結果であった。 ( Vaughn,& Roberts,2007;,Johnson,& Smith,2008;,Vaughn,Wexler,& Roberts,2011)。 学 力 向 上 の た め に 学 級 全 体 を 対 象 に UDL を 導 入 し 、 達 成 状 況 に 応 じ て 段 階 的 に 介 入 を 進 め て い く 教 育 方 法 と し て 、 RTI(Response-to-Intervention) が あ る ( Fuchs , & Dechler,2007;Hollenbeck,2007;Basham,Israel,& Graden,2010)。RTI は 、Tier1 か ら Tier3 ま で の 三 層 構 造 で あ ら わ さ れ 、Tier1 で は 、学 級 全 員 を 対 象 に 、UDL で 授 業 が 行 わ れ 、Tier2 は 、Tier1 で 基 準 に 到 達 し な か っ た 子 ど も を 対 象 に 、小 グ ル ー プ で の 対 応 を 実 施 す る 。Tier3 で は 、 Tier2 の 対 応 で も 基 準 に 達 し な か っ た 子 ど も を 対 象 に 、 さ ら に 個 別 の 支 援 を 行 う と い う 構 造 に な っ て い る ( Johnson et al,2008;Basham et al,2010)。 RTI の 理 論 に 基 づ け ば 、 今 回 の 介 入 で 、 基 準 に 達 し な か っ た 下 位 群 の 生 徒 に は 、 Tier2 や Tier3 に 該 当 す る さ ら な る 特 別 な 支 援 を 行 う 必 要 が あ る と 考 え る 。 Tier2 ・ Tier3 の 段 階 の 子 ど も へ 、 ど の よ うな教授や場等で介入していくことが、より有効に機能するのか、実践し検討していくこ とが今後の課題である。
© Copyright 2024 ExpyDoc