開く - 東京電機大学

Annual Report
the Research Institute for Science and Technology
Tokyo Denki University
東京電機大学
総合研究所年報
高機能炭素材料成膜方法の提案システムの開発に関する研究
Development of an inquiry system for practical applications of amorphous carbon
coating
大越
東京電機大学
康晴
理工学部
電子・機械工学系
Yasuharu Ohgoe
Division of Electronic and Mechanical Engineering, Tokyo Denki University
Diamond-like carbon (DLC) film coating has been already applied to bearing
components, cutting tools, and engineering tools.
In enhancement of DLC film
advancement, DLC film coating is widely expected as surface modification technique
in aerospace, automotive, auto racing, cosmetics, bearings, electronics, industrial
wear parts, infrared optics, medical devices, etc.
As well known, there are many
kind properties of DLC films in each application, the film properties significantly
depend on coating methods and/or conditions.
Therefore, DLC film design should be
optimized and selected based on deposition methods in order to achieve the best
performance. It is expected that the value of DLC will be enhanced practically in a
wide variety of uses.
In this study, we categorized DLC film properties and
deposition methods based on the film application, and developed inquiry system for
practical applications of DLC coating.
1. はじめに
ラファイト構造に対応する sp2 結合の両方の結合が混
在し、長距離秩序的には定まった結晶構造を持たない
硬 質 炭 素 膜 とし て 知 ら れ るダ イ ヤ モ ン ド 状 炭 素
非晶質炭素膜である。DLC の物性的特性は、主として
(diamond-like Carbon (DLC))は、炭素原子が不規
sp3 と sp2 の結合比および原料ガス(主として水素炭化
則構造を有する非晶質炭素膜である[1]。DLC は、1970
系ガス)に含まれる水素量に依存する。現在では、ス
年代初期に、Aisenberg らが、イオンビーム蒸着法を
パッタリング法により、水素をほとんど含まない DLC
用いて作製した人工ダイヤモンドの副産物として生ま
(tetrahedral amorphous carbon:ta-C)の作製も可
れた材料である。その後、多くの研究者や技術者によ
能であるが、一般的には水素を含むのもが殆どである。
り研究・開発が行われてきた。DLC は、個々の作製条
通常、水素含有量が多くなるにつれ、DLC は軟質化す
件によって、高硬度、低摩擦係数、耐摩耗性、ガスバ
ることが知られており、300℃以上になると水素の脱
リヤ性などを示す。代表的な応用例としては、ハード
離による炭化および重合反応で膜が変質し、DLC の特
ディスクのヘッド表面、自転車部品、ペットボトルの
性が変化する。このように、成膜手法や条件に加え、
内壁、切削工具などへの応用が挙げられる。また、医
使用環境に応じて DLC の特性は大きく異なる[1-2]。
療分野における DLC は、上記の機械的特性とは異な
上述の通り、一言で“DLC”と言っても、その中身
り、生体に対して優れた安定性が見込まれ、抗血栓性、
は全く異なる。成膜技術の発達に伴い、DLC の成膜装
抗菌性、細胞親和性などの良好な生体適合性を有する
置の数だけ DLC の種類が存在する今日では、一般の
ことが報告されている[1-2] 。
DLC ユーザは、使用用途に適した DLC の成膜手法に
DLC は、ダイヤモンド構造に対応する sp3 結合とグ
関する情報が得られず、有効的に DLC を活用できな
.
大越康晴
いケースが多々見受けられる。そこで本研究では、各
築した。
種文献をデータベースとして、ニューラルネットワー
2. システムの概要
ク(neural network (NN))を用い、一般ユーザが求
める DLC に適した成膜手法を提案するシステムを構
本システムでは、使用ガスの情報を含めて、成膜手
What kind of
どんなDLC?
DLC films do
(膜の特徴、母材)
you want?
Detail deposition
成膜方法の提案
methods
(使用ガス、中間層の有無)
(gas, interlayer)
NN②
a)
Schematic diagram of inquiry system using neural network (NN)
入力層
Input
Chemical
化学的特性
1
特性
Characteristic
Mechanica
機械的特性
2
Biomedica
生体的特性
3
Electrical
電気的特性
中間層
Hidden
1
1
W2
2
2
W3
3
4
3
W4
W18
シリコン
母材
32
33
10
19
11
W20
Polymer
ポリマー
34
20
12
UBMS
UBMS法
Ion beam
イオンビーム法
R.F. plasma CVD
高周波プラズマCVD法
Deposition methods
PBII
PBII法
Ionization
イオン化蒸着法
AIP
AIP法
Output of 1st step NN for deposition methods
Input
入力層
特性
Chemical
機械的特性
Output
出力層
1
W1
2
1
2
W2
3
2
3
母材
W3
Siアルミニウム
4
3
4
W4
5
4
5
Ar gas
反応ガス(ベンゼンガス)
CH4 gas
反応ガス(メタンガス)
He gas
雰囲気ガス(ヘリウムガス)
Ar gas
雰囲気ガス(アルゴンガス)
Ti (interlayer)
中間層(チタン)
Ar gas
Spattering
スパッタリング法
装置
Deposition methods
UBMS
UBMS法
PBII
CVD
c)
PBII法
液相
W33
48
33
55
W34
49
34
56
51
35
Deposition methods
including
gas and interlayer
C2F6 gas
前処理ガス(フッ素ガス)
N2 gas
後処理ガス(酸素ガス)
O2 gas (Plasma treatment)
添加物(窒素ガス)
W35
50
条件
Metallic
シリコン
Hidden
中間層
1
Mechanical
化学的特性
Biomedical
光学的特性
Substrate
18
W19
Substrate Metallic金属
b)
4
Spattering
スパッタリング法
装置
Si
出力層
Output
W1
4
Characteristic
Deposition
成膜手法の提案
methods
NN①
57
58
添加物(カルシウム)
Ca (dope)
Output of 2nd step NN for deposition methods including information of gas and interlayer
Fig. 1
Schematic diagram of inquiry system for carbon film (DLC) deposition
高機能炭素材料成膜方法の提案システムの開発に関する研究
法を提案する。DLC の成膜は、成膜手法に大きく依存
法、DLC の特徴の項目については、
“0”として記して
する。例えば、Chemical Vapor Deposition (CVD)法
いる。文献 2 では、母材は「アルミニウム」、成膜手法
を利用する場合、反応性ガスとして炭化水素系ガスを
は「高周波プラズマ CVD 法」、DLC の特徴は「高硬
使用する一方で、Physical Vapor Deposition (PVD)法
度」、「低摩擦係数」が挙げられている。この場合は、
では、雰囲気ガスとして不活性ガスを使用する。その
母材の項目にある「アルミニウム」、成膜手法の項目に
ため、本システムでは第 1 段階として、NN にて成膜
ある「高周波プラズマ CVD 法」、DLC の特徴の項目
手法を提案した後、第 2 段階で、使用ガスや中間層を
にある「高硬度」
、「低摩擦係数」について、
“1”とし
提案するシステムの構築を試みた。DLC 形成方法提案
ている。同様に、文献 3 では、母材は「シリコン」、成
システム概要図を Fig. 1 に示す。
膜手法は「パルスプラズマ CVD 法」
、DLC の特徴は
過去の論文や特許などの文献から、ユーザが求める
「高硬度」、「高弾性率」について“1”としている。こ
DLC の特性や被膜対象となる母材について、使用した
のように、特許や論文などの文献を参照し、それぞれ
成膜手法や成膜条件をデータセットとして作成した。
の文献で記載している DLC の特徴、母材、成膜手法、
主な項目として機械的特性や化学的特性など、DLC の
使用ガス、中間層等の項目について“1”、“0”を用い
特徴に関する項目を 20 項目、被膜対象となる母材(ガ
てデータセットを作成した。この手法によって、133
ラス、シリコンなど)に関する項目を 14 項目、DLC
件の文献を用い、データベースを作成した。
成膜時に使用した PVD 法や CVD 法などの成膜手法に
3. 成膜手法提案システムの検証
関する項目を 12 項目、DLC 成膜時に使用するガスに
関する項目を 58 項目用意し、文献で示している項目に
前述のデータセットにより作成したデータベースに
対して”1”、文献で示していない項目を”0”として表
ついて、DLC の特性に関する項目と母材に関する項目
現した。
を入力層とし、成膜方法が出力層となるシステムを作
データセット作成方法の一例を以下に示す。文献 1
成した。なお、本システムでは 133 件の文献より作成
で は 、 母 材 と し て 「 SUS 基 板 」、 成 膜 手 法として
した 88 のデータセットをデータベースとして用いた。
「PACVD(Plasma-Assisted Plasma CVD)法(その
まず、総データ 88 データの中でテスト用として 5
他のプラズマ CVD 法)」、が用いられ、DLC の特徴と
データを無作為に抽出し、残り 83 データを教師用デー
して、
「高硬度」、「低摩擦係数」、「緻密な表面」が示さ
タとして、バックプロパゲーション法により学習を行
れている。この文献について、データセットの作成で
った。そして、テスト用データとして用意した 5 デー
は、母材の項目にある「SUS 基板」、成膜手法の項目
タを入力し、学習した結果求められた重みファイルを
にある「その他のプラズマ CVD 法」、特性の項目にあ
用いることで、成膜手法に関する 58 項目を出力した。
る「高硬度」、「低摩擦係数」
、「表面粗さが小さい」に
これについて、文献と同様の結果が得られるか否か正
“1”を記している。そして、該当しない母材、成膜手
答率を調査し検証した。ある入力に対して、文献で示
Supervised data
総
データ
教師
データ
NN
83データ
88 data
特性・母材
形成装置
88 data
from 133
88データ
references
テスト
データ
重みを
算出
重み Weight function
ファイル
Deposition methods including
形成条件 of gas and interlayer
information
NN
Test
data
5データ
(5 data)
Fig. 2
Study method for the inquiry system
出力
Output
結果
Validation
比較
文献
Reference
.
大越康晴
What do you want DLC film properties?
Mechanical
Input data
Film properties
• Biocompatibility
• Smooth surface
• Gas barrier
Substrate
• Polymer
Electrical
Hardness
High
Low
Friction
High
High
Low
Permittivity
Low
Roughness
High
Substrate
Resistance
Low
Bio-property
High
Low
Optical
Refraction
Optical
transmittance
Glass
Ceramics
Metal
Semiconductor
✓ Polymer
Alloy
Other
Blood compatibility Chemical
✓ Gas barrier
Cytocompatibility
Check
✓ Biocompatibility
Anti corrosion
Direction of the processing
Deposition
technique
Output data
Deposition technique
• R.F. plasma CVD
Carrier gas
• CH4
✓ Source
gas
R.F. Plasma CVD
80
CH4
90
Carrier gas
Interlayer
Pretreatment
Post
treatment
Addictive
Fig. 3
The inquiry system shows DLC deposition methods
されている成膜方法を出力した場合を正答とし、正答
十分な結果となった。一般的に、DLC の成膜方法で最
率を求めた。この時のフローチャートを Fig. 2 に、本
も重要になる項目は、プラズマ CVD 法やスパッタリ
システムの入出力(例)の様子を Fig. 3 に示す。同様
ング等の成膜手法(薄膜形成方法)である。その上で、
の正答率の調査を 4 回行った。本来であれば、正答率
使用ガスや中間層の有無を含め、詳細な成膜条件を十
は 100%に近い値となるはずであるが、正答率は 70%
分な正答率で提示するには、データベースの精査と同
であった。これは、本システムの出力層が多いことか
時にデータベースの数量を増やし、本システムの学習
ら、入力と出力に対する関係性の学習が不十分であり、
方法の改善が必要である。今後は、データベースの見
正答率が低下したと考えられる。
直しとシステムの改良に取り組む。
4. まとめ
参考文献
本研究では、適切に DLC が活用されることを目的
とし、一般ユーザが求める DLC の特性や母材に対し
て、NN による成膜方法提案システムの構築を行った。
本システムによる学習評価では、正答率は 70.0%であ
った。これは、データベースの数に対して出力項目が
58 項目と多いため、汎用性評価の正答率としては、不
[1]
白木
靖寛:エレクトロニクス薄膜技術、シーエ
ムシー出版(2008)
[2] 斎藤 秀俊、大竹 尚登、中東 孝浩:DLC 膜ハン
ドブック、NTS(2006)
本研究は、東京電機大学総合研究所(課題番号:
Q11L-06)として行ったものである。