DLC 被膜の熱電性能に及ぼす窒素含有率の影響 The Influence of Nitrogen Content to Thermoelectric Performance of DLC films 正 中村 雅史(茨城大) 正 原口 忠男(茨城大) ○ 永谷 聡 (茨城大院) 内山 賢 (茨城大院) Masashi NAKAMURA, Faculty of Engineering, Ibaraki University, 4-12-1 Nakanarusawa-cho, Hitachi-shi, 316-8522 Tadao HARAGUCHI, Faculty of Engineering, Ibaraki University Satoshi NAGATANI, Graduate school, Ibaraki University Satoshi UCHIYAMA, Graduate school, Ibaraki University Nitrogen doped diamond like amorphous carbon (DLC) thin films on grass substrate were prepared by radio frequency (rf) plasma chemical vapor deposition (CVD) using CH4 as the source of carbon and with different N2 flow rates (N2 : CH4 gas ratios between 0 : 100 and 40 : 60) ,at 270 ~ 300K. The resistivity of the film were measured by Van der pauw method. The nitrogen content in the films was about 3.8-6.0%, obtained from Glow discharge optical emission spectroscopy. The thermoelectric performance of nitrogen doped DLC was increased step by step with increasing nitrogen flow rate. The difference of thermoelectric performance was decreased with the increase temperature. Key Words: amorphous carbon, thermoelectric performance, nitrogen, RF plasma chemical vapor deposition 1. 緒言 現在、地球環境問題が深刻となっている。しかし、発電 などによって使用されているエネルギーは全体のおよそ 3 割ほどであり、残りの 7 割は廃熱エネルギーとして棄てら れている。熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する 熱電変換材料は、無駄な廃熱を有効利用できる材料として 注目されている。それらの多くには半導体材料が用いられ る。現在主流となっている熱電変換材料はレアメタルや環 境に有害な物質を利用している。 一方、ダイヤモンドライクカーボン被膜(以下 DLC 被膜) とは、耐摩耗性、低摩擦性、耐食性に優れ、切削ドリルや 摺動磨耗機械部品・エンジン部品などトライボロジー分野 において実用化が進んでいる[1]。 DLC 被膜は半導体としての性能を持っている。太陽電池 の半導体への利用も研究されるなど、近年半導体としての 性質に注目を集めている [2]。また、環境に害が無く、豊富 に存在する炭素を原料とした物質でもある。本研究ではそ れらの点に着目し、DLC の熱電変換材料としての可能性を 調 べ る こ と に し た 。 熱 電 性 能 Z[1/K] は ゼ ー ベ ッ ク 係 数 S[µV/K]、比抵抗 ρ[Ωm]、熱伝導率 κ[W/(m・K)]を用いて次 の(1)式で与えられる[3]。 Z= S 2 (1) ρκ この値 Z が大きいほど熱電変換材料は高い熱電性能を持 つので、高いゼーベック係数、低い比抵抗が要求される。 この中でも特に、電気的な性質に注目して評価を行う場 合、パワーファクター(以下 PF)を用いる。PF は次の(2) 式で与えられる。 PF = S 本研究では、DLC 被膜の熱電性能について評価を行った。 DLC 被膜の持つ高い比抵抗を減少させるために、DLC 被膜 に窒素を含有させた [4]。その際の比抵抗とゼーベック係数 の値をそれぞれ測定し、窒素含有量による熱電性能の影響 について評価した。 2. 供試材および実験方法 2-1 供試材 DLC 被膜は RF プラズマ CVD 法を用いて成膜した。供試 材の名称は表 1 のように定めた。原料ガスにメタンガスと 窒素ガスを用いることで、絶縁体であるガラスの基板上に DLC 被膜を成膜した。また、供試材の窒素含有率は、成膜 の際に用いたメタンガスと窒素ガスの比によって表記した。 ここで、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン;C6H18Si2O) ガスを用いて、Si を含んだ DLC 中間層を成膜した。これは ガラス基板と DLC 被膜の密着性を考慮してのことである。 被膜内に含まれる窒素量は、グロー放電発光分光分析装置 (Glow discharge optical emission spectroscopy)によって測定 した。膜厚の測定には SEM を用いた。 2-2 実験方法 ゼーベック係数の測定方法の模式図を図 1 に示す。ゼーベ ック係数は大気中で測定した。ヒーターで銅板を加熱し、 その上に、被膜面が上になるよう供試材を置いた。供試材 の一端には空気噴流で冷却を行い、温度差⊿T を与えた。 2 組の熱電対を用いて、温度差⊿T と、そこに生じる電位差 ⊿V を測定する。ゼーベック係数 S は次の(3)式で算出する。 Thermocouples 2 Thermocouples V (2) ρ Table.1 Some elements in DLC film and film’s thickness CH4 : N2 C:H:N:O Thin [µm] Name N0 100 : 0 0.73 N10 90 : 10 1844: 51 : 3 : 75 0.68 N20 80 : 20 1790 : 46 : 6 : 82 0.68 N40 60 : 40 1633 : 38 : 10 : 108 0.58 DLC film ⊿T Th Air Tc Specimen Heater Copper plate Fig.1 Measurement of Seebeck Coefficient N0 N10 N20 N40 Power factor[W/K2m] Seebeck Coefficient [μV/K] 10 -09 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 10 -11 10 -12 10 -13 10 -14 10 -15 0 50 100 150 Temperature [℃] 250 200 140 N0 N10 N20 N40 120 100 80 0 50 100 150 Temparature[℃] 200 Fig.4 Relation of Power factor and Temperature Fig.2 Relation of Seebeck Coefficient and Temperature Resistivity [Ωm] N0 N 10 N 20 N 40 10 -10 60 40 3-3 窒素含有 DLC 被膜の PF ゼーベック係数と比抵抗の測定の結果から、(2)式を用い て算出された各 DLC 被膜の PF と温度の関係を図 4 に示す。 窒素を含有させることで、125℃以下の温度範囲で PF の向 上がみられた。100℃以下では窒素を多く含むほどに PF が 大きいが、125℃で同程度となり、それ以上の温度範囲では 値の大小関係が変化し、N0 が最も高い値を示す。すなわち、 窒素を含有させることで PF が向上したのは、125℃以下の 温度範囲ということになる。それ以上の温度範囲では、N0 が最も高い値の PF を示した。 20 0 0 50 100 150 Temperature [℃] 200 250 Fig.3 Relation of Resistivity and Temperature S= ⊿V ⊿T (3) 大気中で van der pauw 法を行い,DLC 被膜の比抵抗を測 定した。 3. 実験結果および考察 3-1 窒素含有 DLC 被膜のゼーベック係数 各被膜のゼーベック係数を 25 から 200℃の温度範囲で測 定した。図 2 に各 DLC 被膜のゼーベック係数と温度の関係 を示す。全ての DLC 被膜において、高温になると共にゼー ベック係数の増加がみられた。常温ではどの DLC 被膜のゼ ーベック係数にも大きな違いは認められないが、200℃の状 態では N0 と比べると N10 は 0.89 倍、N20 は 0.76 倍、N40 は 0.78 倍程度の差がついている。このことから、被膜内へ 含有される窒素量が増加するとゼーベック係数が減少する ことがわかった。ただし、N20 に比べ、N40 のゼーベック 係数は同程度か、やや大きい程度であった。 3-2 窒素含有 DLC 被膜の比抵抗 各被膜の比抵抗を 25℃から 200℃の温度範囲において、 van der pauw 法によって測定した。図 3 に比抵抗と温度の関 係を示す。高温になるほど、各 DLC 被膜において比抵抗の 減少がみられるが、窒素含有量によってその減少の程度に 相違が認められる。すなわち、各 DLC 被膜の比抵抗の温度 への依存度は N40 が最も低く、N0 は最も高かった。常温 では窒素の含有量が多いほど比抵抗が低い値を示している。 しかし、温度が高温になるにつれて各 DLC 被膜の比抵抗の 差は縮まり、150℃以上の温度範囲においてはどの DLC 被 膜も同程度の比抵抗となった。 4. 結言 本研究では DLC 被膜の熱電性能について調査を行った。 特に、窒素を含有させた DLC 被膜を成膜し、熱電性能にお ける窒素含有量の影響について評価した。得られた結果は 以下のとおりである。 (1) 窒素含有量の違いにより、DLC 被膜のゼーベック係 数に相違が認められた。すなわち、200℃の状態で比較 すると、原料ガス比率が窒素ガス 0~20%までは、窒素 ガス比率が増加するほどにゼーベック係数は減少する が、原料ガスの窒素ガス比率 20%と 40%の各被膜のゼ ーベック係数は同程度かやや大きい程度であった。 (2) DLC 被膜の比抵抗は窒素含有量と温度によって相違 が認められた。すなわち、常温から 150℃の温度範囲 において窒素の含有量が多いほど比抵抗が減少したが、 150℃以上の温度範囲では他の DLC 被膜と同程度にな り、窒素含有量による影響は認められなくなる。 (3) DLC 被膜の PF は、125℃以下の温度範囲においては、 窒素を含有させることで向上することがわかった。 5. 今後の課題 高窒素量含有による熱電性能への影響、および DLC 被 膜の元素構成比による熱電性能の影響について調べていく。 謝辞 試験片を作成するにあたり、ご協力していただいた JCC・ 取締役技術部長・川名淳雄氏に深く御礼申し上げます。 参考文献 [1]池永勝;DLC 成膜技術,(日刊工業新聞社, 2007) [2]中村・原口・内山;表面技術 2009.4 [3](社)日本セラミックス協会・日本熱電学会編『熱電変 換材料』,(日刊工業新聞社,2005) [4] 高 橋 遵 , 半 戸 琢 也 , 木 下 治 久 ; 電 子 情 報 通 信 学 会 P73~P78.1996-1
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