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総
1
評
理念・目的・教育目標の達成への全学的な姿勢
創立者松前重義が教育に対する情熱と理想を胸に 1936(昭和 11)年に開設した望星学
塾を基礎として、
「思想を培う教育、文科系と理科系の相互理解をめざした教育」を実
践すべく 1946(昭和 21)年に開設された貴大学は、湘南、代々木、清水、沼津、伊勢原
の 5 つのキャンパスに 13 学部 68 学科・専攻・課程、12 研究科 44 専攻を擁する総合大
学として現在に至っている。また、
「明日の歴史を担う強い使命感と豊かな人間性をも
った人材を育てることにより、調和のとれた文明社会を建設する」ために、
「知識や技
術の単なる修得にとどまらず、ヒューマニズムに立脚した教養を重視し、人生の基礎
となる確かな思想を身につけ、豊かな人間性を培うこと」を目指すという教育方針は、
世界に開かれる総合大学の一翼を担うものとして、国際社会のニーズにも応えるもの
といえよう。これらは、実際の授業科目においても、国際化・情報化時代に求められ
る幅広い視野と総合的な判断力を培うよう工夫された全学生必修の「現代文明論」と
して具現化されている。
2001(平成 13)年 4 月には、大学の理念および教育方針をより具体化する教育プログ
ラムとして、①「教養教育の重視」、②「文理融合の推進」、③自分の専攻の他に他分
野の科目群を体系的に履修しミニ専門を会得する「副専攻」制度による複視的プログ
ラムの実施、④「英語教育の重視」から成る「東海大学型リベラルアーツ教育」を導
入し、全学的な取り組みがなされている。特に副専攻制度の導入は、学生の勉学意欲
を高め視野を広げる教育システムとして高く評価できる。
特に、多様な教職員を有する貴大学が、多くの学生の要望や社会の需要に応えると
ともに、大学の理念を実際の教育現場で実現させるためには、教職員個々の強い自覚
が必要であり、実現に至る道のりの苦労は察するに余りあるものといえよう。今後は、
大学の理念と教育方針が、それぞれの学部・研究科やキャンパスにどの程度浸透し得
ているのかを十分に検証し、現状を認識した上で、各部局の理念・目標を諸施策に反
映させるよう努めることにより、さらなる飛躍を目指して新たな課題に取り組まれる
ことを期待する。
2
自己点検・評価の体制
貴大学では、学長諮問機関である「大学の自己評価検討委員会」を母体として 1992
年(平成 4)年に発足した「東海大学大学評価委員会」と、自己点検・評価の計画およ
び実施に係る事務組織である「学長室大学評価室」を、自己点検・評価の核となる組
織として設置している。その後、学部長・センター長の諮問機関として「学部評価委
員会」、大学部長会の諮問機関として「事務部門評価委員会」、研究科委員長の諮問機
関として「研究科評価委員会」を相次いで立ち上げ、教育・研究および管理運営の質的
向上を図っている。
今回提出された膨大な点検・評価結果を大学内において消化し、改善に結び付けて
いくことは、容易なことではないと想像される。特に、点検・評価報告書では、種々
の現状の問題点を自ら指摘、検討しているものの「将来の改善・改革に向けた方策」
において具体的に記述がなく「~が課題である」、「~が必要である」
、「~と思われる」
「~と考えている」というような表現が多く見受けられる。これは、自己点検・評価
報告書の作成において、個々の問題ごとの点検・評価が中心となっているからであろ
う。大学全体の現状と課題を恒常的に調査、分析し、より総合的な視点から改善・改
革を行うための制度システムを構築し、有効な自己点検・評価活動を行うことが、今
後の重要な課題となろう。
3
長所の伸張と問題点の改善に向けての取り組み
(1)
教育および研究指導の内容と条件整備
貴大学では、高校における理系科目履修の多様化を考慮して、基礎科目も含めた
「初期・導入科目」の配置や正課外における補習授業を実施するなどカリキュラム
における高・大の接続に配慮するだけでなく、体系的に科目を用意し、各授業に「授
業目的」を明示し、グレードナンバー制を取り入れ、履修モデルを提示することに
より導入的科目から難易度の高い科目へ段階的に進めるようにしている。オフィス
アワーの制度化や、厳正な成績評価の仕組みとして、1 セメスター24 単位を履修科
目登録の上限設定もされている。このように、さまざまな取り組みは評価できるが、
その機能状態について点検が必要であろう。特に、オフィスアワーについては、学
生の利用率は高いとは言えないことから、教員側からのアプローチを考える等、改
善の方策を検討することが望まれる。なお、貴大学では、卒業所要総単位数を全学
的にほぼ 124 単位に統一されているが、今後 124 単位にとらわれすぎると教育の品
質保証がおろそかになってしまう恐れがあることから、教育課程の事情に応じて柔
軟な対応を取られることが望まれる。
一方、大学院における教育・研究指導のための条件整備として、環境整備のため
に毎年度4千万円から 1 億円の設備を学内公募するとともに学生の研究発表のため
の旅費として 5 万円を補助することなどは、学問的刺激を誘発させるための制度と
して評価できる。
国内外の大学・大学院との教育・研究交流については、系列大学や放送大学、海
外派遣留学協定による海外大学との単位認定制度の導入、神奈川県内大学院間にお
ける学術交流協定に基づく県内 15 大学大学院における相互受け入れおよび研究指導、
工学研究科における衛星通信システムを利用した系列大学院間の遠隔授業による単
位互換などを整備している。また、海外の大学との学生交流も学生の国際的視野を
広げるために 30 年以上も前から取り組みを行っており、23 カ国 66 機関と学術交流
協定を締結している。ただし、これらは大学全体としての取り組みであり、交流実
績が少ない学部・研究科も多く、今後は、これらの諸制度をカリキュラムと連動さ
せ、如何に機能させるかが課題であろう。なお、外国人留学生への教育上の配慮に
ついては、協定留学制度がグローバルな視野で整えられ、留学生教育センターの活
用や学部・学科のチューター制度の導入を行っている。特に、湘南キャンパスでは、
アドバイザーがいる学生生活支援室において履修指導を受けられる体制が整えられ
ている点は評価できる。
(2)
学生の受け入れ
学部の学生募集については、大学全体として作成した多様な媒体を通じて大学に
関する情報を発信しているほか、入学後に単位が認定される体験留学制度を取り入
れ、多様な方法で広く入学者を受け入れている点は、貴大学の教育理念にも合致し
ており評価できる。このような多様な入学者選抜方法については、系列高校から進
学した学生にとっても様々なクロスオーバーが生じることで、活性化につながるこ
とから推進すべきであろうが、あまりに多様であるため、入学者に大きなバラツキ
が生じる恐れがある。入学後に新入生基礎学力テストを行わざるを得ない状況は、
多様な入試方法の弊害であり、十分な検証が望まれよう。
大学院においても、各研究科のガイドや入学試験要項を全研究科で 1 冊にしてい
るが、大学院の場合、これでは受験生にとって非常にわかりにくいものとなりかね
ない。また、大学院における飛び入学制度については、受け入れ基準の設定と受け
入れに対する認識に各研究科で大きな相違があることから、早急に全学的なコンセ
ンサスを確立し、明確な基準を作ることが望まれる。なお、博士後期課程の充足率
が低いことから、大学院進学者の学部での履修科目状況について点検し、将来研究
者を志す者の履修モデルの作成など学部教育との連結について工夫することが望ま
れよう。
(3)
研究活動と研究体制の整備
研究活動については、全学的な個人研究費の支援施策として、
「研究奨励計画」、
「国
内・外研究派遣計画」、
「学部等研究教育補助金制度」、共同研究費の支援施策として、
「研究装置・設備拡充計画」、「総合研究機構プロジェクト研究」を設け活動を活性
化させている。これらの制度は外部研究費の獲得率の高さにもつながり、デュアル
サポートシステムの一つとして評価できる。ただし、全学的に科学研究費補助金へ
の申請件数、採択件数がここ数年減少傾向にある点は気になるところである。
また、研究上の成果の公表については、毎年度「東海大学教育研究年報」を刊行
し、組織ごとの研究状況を公開している点は評価できる。しかしながら、個々の教
員の研究活動状況が明確でないので、個人別に、現状を把握できるようなシステム
を構築することが望まれる。また、研究成果は紀要への発表が多いようであるが、
外部評価に耐える学会誌への公表を推進されたい。特に若手研究者には、学会誌に
投稿されることを望みたい。
(4)
教育および研究のための人的体制
教員選考については、タイムリーで適切な人事計画によって比較的年齢の若い活
発な研究者を採用していくことが重要である。また、現在は教員が学部と大学院を
兼担し、運営活動や教育活動を含めかなりの負担を強いられていると推察されるが、
特にすぐれた研究者を大学院の専任教員とすることも、検討されるべきであろう。
また、教育・研究活動の評価については、1997(平成 9)年度から、大学院担当教
員に対して教員の自己申告に基づく「大学院研究指導教員資格再審査制度」を導入
し、3 年に1度、十分な業績を挙げているかどうか審査が行われている。業績が特に
優れていると判定された教員には「大学院研究指導教員研究教育奨励措置」が適用
され、奨励金や 6 か月以内の奨励休暇を受けることができる制度が導入されている
ことは評価できる。
なお、教員の研究時間の確保については、国内・外研究派遣計画、特別研究休暇
制度および上記大学院研究指導教員研究教育奨励措置等により年間 30 名前後の教員
が長期の留学や研究ができる制度を設けているが、貴大学の規模で年間 30 名という
のはかなり少ないというべきで、充実が望まれる。
(5)
施設および設備
全学共通の教育施設として総合教育センター、外国語教育センター、課程資格教
育センター、留学生教育センター、総合情報センターが設置されている。特に、外
国語教育センターが専攻にとらわれない履修希望外国語プログラムを幅広く用意し
ている点は評価できる。これらの諸センターは、貴大学の教育・研究の充実を図る
上で高く評価できるものであり、さらなる活用が望まれる。