MIDCABの 術前3D-CTナビゲーション

次世代の
画像解析
ソフトウェア MIDCAB の
術前 3 D-CT ナビゲーション
144
No.
横山 泰孝 / 森田 照正 順天堂大学医学部附属順天堂医院心臓血管外科
はじめに
プロットし,ストレートビューで自動抽
脱させ左内胸動脈を剥離した後に,心膜
出された内胸動脈を,冠動脈の場合と
を切開して左冠動脈へ左内胸動脈の吻
冠動脈バイパス術のゴールドスタンダー
同様に回転させて末梢まで追跡し,内
合を行う。実際には存在する左肺や心膜
ドは,左内胸動脈を左冠動脈前下行枝
胸動脈の本幹を描出する。再度ストレー
を除去した 3 D-CT 画像は,左内胸動脈
へ吻合することである。その有用性は,
トビュー上で本幹から出る分枝をプロッ
と左冠動脈前下行枝の位置関係を把握
開存率,生命予後改善の両方の観点から,
トし,おのおのを末梢まで追跡すること
することや,内胸動脈の分枝形態と分
数あるバイパスの中で最も重要と考えら
で内胸動脈の分枝を描出する。内胸動
枝部位の目安を事前に把握することで手
れている 1)。冠動脈バイパス術の手術侵
脈抽出確定後に 3 D 表示し,カラーマッ
術イメージングに役立てた(図 3)。手術
襲を少なくする目的で,人工心肺を使
プメニューから心臓を選択する。内胸動
アプローチルートに従って仮想視点を進
用しない OPCAB(off-pump coronary
脈抽出後,胸腔内面での 3 D 構築,胸骨・
め,手術操作を想定しながら皮膚切開し,
artery bypass grafting)や胸骨正中切
肋骨透見像との融合,内胸動脈のみを
左第 5 肋間から左胸腔内に入り,左内
開を避けて肋間の小さい切開創で行う
表示させ,詳細な評価を行った(図 2)。
胸動脈と左冠動脈前下行枝を確認した。
MIDCAB(minimally invasive direct
この操作により,内胸動脈が第 6 肋間で
続いて,左内胸動脈の分枝がどこから出
coronary artery bypass grafting)が
筋横隔動脈と上腹壁動脈に分かれてい
ているのかを確認することができた。こ
行われている。MIDCAB は,きわめて
ることが容易に判読できる。
れは,バイパス術の成功のポイントであ
低侵襲ではあるが,胸骨正中切開の冠
MIDCAB のイメージング
動脈バイパス術では容易に見えていたも
のが,手術野が狭くなるために視認困難
実際の手術は,左第 5 肋間から左胸
となり,加えて高度制限下での操作は手
腔内に入り,右片肺換気下に左肺を虚
るグラフト採取の際に,グラフトのクオ
リティ低下の要因となる分枝損傷を回
避することに貢献する。
術の難易度が上がるため,内胸動脈グ
正中切開へ移行せざるを得ない症例があ
a
スト
スレ
トー
レト
ービ
トュ
ビー
ュー
スレ
トー
レト
ービ
トュ
ビー
ュー
スト
ラフト損傷などの合併症を起こし,胸骨
る 2)。そこで当科では,術前評価として
造影 CT を積極的に活用し,内胸動脈
水平断
水平断
の詳細な評価や肋間開創部からの手術
野のイメージングをあらかじめ行うことで,
を行った症例の造影 CT を用いて,術前
矢状断
矢状断
前額断
水平断
水平断
前額断
前額断
前額断
c
矢状断
矢状断
矢状断
矢状断
前額断
水平断
分 枝水平断
前額断
前額断
前額断
3 D-CT ナビゲーションの有用性を報告
する。
内胸動脈の走行・分枝形態の
評価
術前造影 CT のデータを,ワークステー
ション「AZE VirtualPlace 雷神」
(AZE
社 製 )を用いて内 胸 動 脈を解 析した
(図 1)
。CT 水平断で内胸動脈起始部を
66 INNERVISION (29・4) 2014
水平断
水平断
内胸動脈分岐
まで追跡
内胸動脈分岐
まで追跡
内胸動脈起始部 内胸動脈起始部
内胸動脈起始部 内胸動脈起始部
手術をより安全に行うことができると考
えている。本稿では,当科で実際に手術
矢状断
矢状断
水平断
分 枝 水平断
分 枝
分 枝
図 1 内胸動脈解析ソフトによる抽出工程
3D
3D
矢状断
矢状断
矢状断
b
矢状断
前額断
水平断
前額断
水平断
前額断
前額断
内胸動脈分岐
まで追跡
内胸動脈分岐
まで追跡
3D
3D
水平断
水平断
矢状断
矢状断
d
矢状断
矢状断
前額断
水平断
前額断
水平断
前額断
前額断
カラーマップ カラーマップ
カラーマップ カラーマップ
a:CT 水平断上にて内胸動脈の起始部をプロットする。
b:ストレートビュー上に自動抽出された内胸動脈を左ドラッグして左右に回転させ末梢まで追跡する。
c:再度,ストレートビュー上で抽出血管を回転させ,本幹から出る分枝をプロットし末梢まで追跡する。
d:内胸動脈抽出確定後,3 D 表示してカラーマップメニューから“心臓”を選択する。
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左乳頭
左乳頭
左乳頭
第 5肋間
第 5肋間
左乳頭
左乳頭
左乳頭
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
第 5肋間
上腹壁動脈
上腹壁動脈
上腹壁動脈
第 5肋間
第 5肋間
心臓
前下行枝
前下行枝
左内胸動脈
左内胸動
左内胸
前下行枝
前下行枝
心臓
心臓
前下行枝
筋横隔動脈
筋横隔動脈
筋横隔動脈
a:胸腔内面 3 D 像
第 5肋間
心臓
心臓
前下行枝
回旋枝
回旋枝
b:胸骨・肋骨透見 3 D 像
回
c:内胸動脈 3 D 像
図 2 内胸動脈の 3 D 構築
a:内胸動脈を胸腔の内側から見た
3D像
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
b:‌内胸動脈と透見させた胸骨・肋骨の 3 D 像。筋横隔動脈と上腹壁動脈
が第 6 肋間で分枝していることがわかる。
c:内胸動脈のみの 3 D 像。径 1 mm 以上の分枝
(→)が描出されている。
前下行枝
前下行枝
前下行枝
前下行枝
回旋枝
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
左内胸動脈
前下行枝
前下行枝
回旋枝
回旋枝
a
b
c
d
e
f
図 3 MIDCAB のイメージング
a:前下行枝までの直線距離 70 . 9 mm
b:回旋枝までの直線距離 83 . 2 mm
a:左乳頭の左下外側に皮膚切開する。
b:左第 5 肋間より左胸腔に入る。
c:胸腔に入ると心臓が見える(左肺,心膜は画像処理にて消去)
。
d:左内胸動脈と前下行枝の位置関係が評価される。
e:のぞき込めば回旋枝まで同定可能である。
f :内胸動脈の枝(↑)が画像から確認される。
が 70 . 9 mm,回旋
枝までが 83 . 2 m m
c:前下行枝までの直線距離 35 . 5 mm
d:回旋枝までの直線距離 65 . 1 mm
図 4 内胸動脈の剥離範囲の算出
a,b:‌第 2 肋骨まで剥離した内胸動脈の長さは 101 . 6 mm であり,前下
行枝も回旋枝も直線距離では到達可能である。
c,d:‌第 4 肋骨まで剥離した内胸動脈の長さは 54 . 8 mm であり,前下
行枝までは直線距離で到達可能であるが,回旋枝までは到達不可
能である。
グラフトを剥離する範囲により
到達できる冠動脈の算出
まとめ
となり, 左 内 胸 動
術前に十分な手術のイメージングをす
脈は両 方の枝へ到
ることで,術者のストレスが軽減され,
達 可 能 で あ っ た。
より円滑な手術が可能となる。特に,分
しかし,第 4 肋骨ま
枝を明瞭に描出した内胸動脈を,どこ
でしか剥離しなかっ
まで剥離すれば吻合予定部に到達でき
た場合のグラフト長
るのかを算出することで,余計な剥離を
は 54 . 8 mm であり,
減らし,グラフト損傷を回避できること
前 下 行 枝までは直
が期待され,より安全で低侵襲な手術
線距離で 35 . 5 mm なので到達可能であっ
が可能となる。加えて,術前に造影 CT
たが,回旋枝までは 65 . 1 mm となり到
を行い,ワークステーションを用いて
達不可能であることが術前に読影された。
3 D 構築することは,特に経験の少ない
内胸動脈の終末枝である筋横隔動脈
このことは術前に吻合予定部を決めるこ
若い外科医にとって,手術をより安全
と上腹壁動脈に分岐するまでをバイパス
とで,逆に剥離範囲を設定することがで
に行うための強力な一助となる。
グラフトとして使用できる末梢側として
きる。剥離範囲を最小限にすることで,
設定し,中枢側の剥離範囲を仮定する
不必要な剥離操作による出血などの合
ことにより,バイパスに用いる内胸動脈
併症を回避し,グラフト損傷による胸骨
グラフトの長さを計測した。その上で,
正中切開への移行のリスクを低減させる
直線で到達できる冠動脈の範囲を算出し,
可能性がある。実際の手術では,直線
冠動脈吻合予定部まで到達が可能かの
距離分だけではなく余分の剥離も必要と
判断を行った(図 4)。内胸動脈中枢側を
なるが,術前のプランニング,剥離の目
第 2 肋骨まで剥離したと仮定した場合の
安やバイパスデザインのナビゲーション
長さは 101 . 6 mm であり,剥離中枢端よ
として有用である。
り前下行枝吻合予定部までの直線距離
●参考文献
1)Loop, F.D., et al. : Influence of the internalmammary-artery graft on 10 -year survival and
other cardiac events. N. Engl. J. Med., 314,
1 〜 6 , 1986 .
2)Subramanian, V.A., et al. : Minimally Invasive
Direct Coronary Artery Bypass Grafting ; TwoYear Clinical Experience. Ann. Thorac. Surg. ,
64, 1648 〜 1655 , 1997 .
【使用 CT 装置】
Aquilion ONE(東芝社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE 社製)
INNERVISION (29・4) 2014 67