AALAS に見る実験動物/動物実験のトレンド

AALAS に見る実験動物/動物実験のトレンド
株式会社
アニメック
(日本実験動物学会ニュース
富田久志
平成 19 年 5 月 10 日発行より転載)
いえばサル類のことでした。せいぜいイヌでも運動さ
1)10 年一昔
せなければならないという論議があったぐらいです。
私がアメリカ実験動物学会(AALAS)に初めて出席し
今や環境エンリッチメントにかんする論議はマウスや
たのは 1996 年の第 47 回ミネアポリス(ミネソタ州)大
ラットに集中しています。マウスやラットに体を隠すた
会でした。この年は Guide for the Care and Use of
めのトンネルを入れたり、巣作り材を入れたりします。
Laboratory Animals(以下、ザ・ガイドと略)(日本語
その素材や色が検討されたりしています。単に動物
版:実験動物の管理と使用に関する指針)が改訂さ
福祉のためでなく信頼性の高いデータを得るためで
れ、NIH の基準から実験動物を使用するすべての研
す。
究施設の指針となった年でした。
4) IVC の密封度
その後、毎年出席してまいりました。昨年は第 57 回
大会がソルトレイクシティ(ユタ州)で開催されました。
個別換気ケージ(IVC)が普及し始めたのは 10 年前
通算 11 回参加したことになります。10 年一昔という言
頃からです。当初の IVC は直接給気・間接排気方式
葉がありますが、AALAS を通じてこの 10 年を振り返
といわれるものが主流でした。すなわちケージの中に
ってみると、実験動物/動物実験に大きなうねりと申
HEPA フィルター浄化空気を直接送り込み、排気は
しますか、いくつかのトレンドを感じることができます。
ケージトップのフィルターを通してケージの上にある
感じたままにまとめてみたいと思います。
キャノピー(天蓋)を介して行います。ある程度の空気
が室内に漏れ出ます。そのうち、ケージの中に直接
2)動物実験反対運動
給気し、ケージから直接排気する方式が開発されま
1997 年、第 48 回大会がアナハイム(カリフォルニア
した。この方式ですと給気と排気のバランスを調節す
州)で開催されたときでした。大規模な動物実験反対
ることによりケージ内を陽圧のみならず陰圧設定も可
デモがありました。アナハイム警察の機動隊が出動し、
能になり、検疫目的でも使われるようになりました。そ
学会場の前でデモ隊と対峙しました。私たちは裏口
の後、ケージとトップの密封度はどんどん改善され、
から出入りしました。今から思えば、このころのデモは
アレルゲンが室内に漏出ことが少なくなりました。感
おおっぴらで明るかったと思います。ところが、昨年
染実験にも使用できる IVC も開発されています。
のソルトレイクシティ大会のときにはデモは小規模で
5)ケージサイズ
警察の出動もありませんでしたが、デモの参加者は
覆面をしており薄気味悪く感じました。最近の動物実
私が初めて AALAS に出席したのは 1996 年で、その
験反対運動はテロの一種と見なされており、FBI の監
年にザ・ガイドが改訂になりました。ザ・ガイドには1匹
視が行われているため顔を見せたくないようです。
あたりのスペースを示した表があります。しかし、マウ
スは全員に与えられた スペースを等しく分かち合う
3)エンリッチメント
のではなく、ケージの周縁に寄り合って暮らします。
この 10 年間に環境エンリッチメントにかんする考えが
ザ・ガイドに示す有効面積の 60% しか利用していな
大きく進展しました。10 年前には環境エンリッチメント
いそうです。ザ・ガイドの改訂後に大きく普及してきた
1
個別換気ケージ(IVC)の場合はもっと多くの動物を
体にするかというコンセプトの違いが見られます。私
飼えるのではないかという意見が出てきています。ア
はセパレート方式のほうがよいと思います。
ンモニア濃度や炭酸ガス濃度が低く抑えられるから
8)トータルソ リューション
です。
トータルソ リューションという言葉がよく聞かれるよう
6)エルゴノミックス
になりました。実験動物の飼育管理はケージと給水
エルゴノミックス(Ergonomics)という言葉がよく使われ
ボトルの洗浄に始まり、ケージと給水ボトルの洗浄で
るようになりまし。人間工学と訳されますが、ギリシャ
終わります。その間をつなぐ器材や動物の輸送、ケ
語の ergon(働く)と nomoi(自然な状態)を組み合わ
ージ交換、給餌、給水、ケージへの給気と排気、など
せた造語だそうです。一昔前の AALAS といえば動物
のサークルに伴う課題を一貫して解決しようという動
だけのことしか考えていなかったのではないでしょう
きです。洗浄部門とケージ部門が密に連携してはじ
か。ケージ内の換気回数、ケージ内のアンモニア濃
めて可能なソリューションかもしれません。
度、すべて動物のことばかりでした。ところが最近で
9)ザ・ガイドの改訂
は人間のことも考えようという風潮になってきました。
ケージラックは軽くなり指一本で動かせます。ケージ
10 年一昔ということで書き始めましたが、サイエンス
交換ステーションやクリーンベンチの作業面の高さは
の世界では 10 年は大昔かもしれません。1996 年に
自由に調節できます。ケージ内の空気は室内に漏洩
改訂されたザ・ガイドはもはや陳腐化していると考え
しません。アレルゲン対策です。給水ボトルのキャッ
てもおかしくありません。昨年ソルトレイクシティで開
ピングで手を痛めることが少なくなりました。動物と人
催された第 57 回大会ではこのザ・ガイドの改訂問題
間はともに大切にしなければなりません。
が取り上げられていました。1996 年以降に公表され
た多くの文献が紹介されていました。それらの文献、
7)水生動物
専門家の意見、科学的原理を勘案して改訂すべきだ
比較的最近の傾向ですが、欧米では大手の実験動
と提案されていました。ケージ寸法が論じられていま
物器材メーカーはすべて水生動物の飼育装置を展
した。ケージ寸法は群飼育を基本とし環境エ ンリッ
示するようになりました。アフリカツメガエルとゼブラフ
チメントにも配慮すること。音、光などの環境パラメー
ィッシュの飼育装置です。マウス、ラット、イヌといった
ター、獣医学的管理、社会的ストレスの解消、栄養の
古典的な実験動物の使用数が漸減傾向にあるなか
重要性も論じられていました。まもなくザ・ガイドの改
で、アフリカツメガエルとゼブラフィッシュの使用数が
訂作業が始まるものと思われます。
急激に伸びているからです。ここでも IVC の場合と同
じく、水処理装置と水槽ラックをセパレートにするか一
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