木材の収縮と割れ - 大井製作所

木材乾燥がわかる本 その1
第2章
収縮と割れ
① 収縮異方性
木材の乾燥過程
収縮のメカニズム
では、まず自由水 ①
がなくなり、繊維飽
和点(含水率約30%)をきると、細胞壁中にある結合
水が徐々に減少していきます。結合水が抜けていっ
た細胞壁は、濡れた雑巾が乾くと薄くなるのと同じよ ②
うに、結合水が抜けた量に比例して厚さが減少して
いきます。細胞壁が薄くなると細胞の径が小さくなり
(図中①)、細胞(細胞壁)の集合体である木材が収
縮することになります(図中②)。
収縮のメカニズムの図
繊維飽和点以下にな
収縮異方性
ると木材は収縮してい
木材の収縮の比率
きますが、収縮の程度
板目方向の収縮率が は一様ではなく、方向により異なっています。
最も大きく、まさ目方向 収縮率の比は、板目(接線)方向:まさ目(放
射)方向:軸方向 = 10:5:0.5∼1 程度で
の約2倍です。
長さ方向の収縮率は す。つまり、横方向の収縮率が軸方向のそ
小さく横方向の10分 れよりも10倍以上も大きいのです。また、板
目方向の収縮率はまさ目の2倍ほどあり、乾
の 1 以下です。
燥後の変形や割れが生じる主な原因となっ
ています。
この方向により収縮率が異なる性質は、収縮異方性(いほうせい)と呼ばれます。これは、
細胞の並び方や細胞壁内の微細な構造などに起因する性質と考えられています。
ポイント12 : 細胞壁からの結合水の消失が木材の収縮の始まり。
ポイント13 : 木材の収縮率は方向により異なる(収縮異方性)。
ポイント14 : 収縮の比率は、おおよそ板目:まさ目:長さ=10:5:0.5∼1 程度。
O-MAX
(株)大井製作所
木材乾燥がわかる本 その1
第2章
収縮と割れ
② 収
縮
率
収縮率[%]
木材の収縮は含水率の
10
収縮率
減少にほぼ比例して大き
8
くなります(図参照)。この
接線方向
収縮する割合を収縮率と呼びます。収縮率
6
放射方向
は様々な樹種について調査されており、全
4
収縮率、気乾収縮率および平均収縮率が
2
繊維方向
発表されています。
0
気乾収縮率は含水率15%までの収縮
0
5
10 15 20 25 30
-2
率ですので、全収縮率つまり繊維飽和点
含水率[% ]
(約30%)から全乾までの収縮率の半分程
収縮経過の模式図 (木材乾燥のすべてより)
度になります。また、気乾収縮率と全収縮
一般に、板目方向は直線か上に凸、まさ目方
率は生材の寸法をもとにした収縮率ですの
向は直線か凹、接線方向は僅かに伸びてから
で、挽立寸法にそのまま掛け算して収縮量
収縮する傾向がある。
を求めることができます。
しかし、平均収縮率には少し注意が必要です。平均収縮率は含水率15%から全乾にな
るまでの含水率 1 %当たりの収縮率を含水率15%の寸法をもとに示すことになっていま
す。ですので、全収縮率を 1/30にした値に比べ若干大きくなります。
繊維方向の収縮率は比重による差が少なく、全収縮率は約0.
樹種別収縮率
2%です。しかし、4m材であれば含水率15%までに4mm程度
短くなることに注意が必要です。また横方向の収縮率は、ほぼ比
重に比例して大きくなり3∼10%の範囲にあります。表に代表的な樹種の収縮率を示します
が、小さな試験片のデータで、実際の材とは多少異なることに注意してください。
樹
種
スギ(熊本)
スギ(秋田)
ヒ ノ キ
ア カ マ ツ
カ ラ マ ツ
ト ド マ ツ
全乾
比重
平均収縮率
接線 放射
繊維
気乾収縮率
全乾収縮率
接線 放射 繊維 接線 放射 繊維
0.36
0.33
0.37
0.52
0.50
0.39
0.239
0.259
0.205
0.314
0.310
0.375
3.03
3.46
3.45
4.40
4.13
4.14
0.092
0.093
0.106
0.154
0.143
0.120
0.009
0.011
0.013
0.013
0.011
0.010
1.11
1.07
1.49
1.86
1.73
0.96
0.02
0.03
0.05
0.03
0.01
0.03
6.50
7.19
6.43
8.90
8.61
9.53
2.48
2.44
3.07
4.13
3.85
2.75
0.15
0.19
0.25
0.20
0.18
0.19
(木材乾燥のすべて・海青社より抜粋)
ポイント15 : 全収縮率、気乾収縮率、平均収縮率が一般に示されている。
ポイント16 : 繊維方向の全収縮率は約0.2%、横方向収縮率は比重に比例する。
O-MAX
(株)大井製作所
木材乾燥がわかる本 その1
第2章
収縮と割れ
木取りによる断面変形の模式図
③ 変 形 と狂 い
収 縮 異 方性 の項
木取りによる変形
目で説明したよう
に、板目方向の収
縮率はまさ目方向の2倍ほどあります。また、追い
まさ方向ではそれらの中間的な収縮率を示しま
す。ですので、同じサイズの材を製材したとしても、
乾燥後には木取りされた丸太の位置によって図
のような異なった変形をしてしまうのです。今後、
乾燥材生産が前提となった製材の木取りは、乾
燥後の変形や収縮を見込んだ寸法に挽くことが
ポイントになってきます。
そり、曲がり、ねじれを狂いと言います。
狂 い
狂いには、正常な材にも生じるものと、
欠点によって生じるものがあります。
板目材が木表側に反る幅ぞり(カップ)は、正常な材
にも生じるもので、放射方向と接線方向の収縮率が異な
ることが原因となっています。
まさ目板が辺材側を凹にして曲がることを弓ぞりある
いは単に曲がりと言い、板が厚み方向に反ったものを縦
ぞりと呼びます。これらは、幹が太る時に幹の中に貯め
幅ぞり(カップ)
弓ぞり(曲がり)
込まれた力(成長応力)やあて材の存在に原因される場
合が多いと考えられています。
ねじれを含め狂いのほとんどは交錯木理や旋回木
理などの細胞配列の乱れによる場合が多く、また節の周
囲も狂いがでやすい部分です。
狂いの低減には、低温での圧締乾燥や初期および
中間の蒸煮が有効と言われています。
縦ぞり
ねじれ
ポイント17 : 放射方向と接線方向との収縮率の違いにより変形が生じる。
ポイント18 : 成長応力、あて、細胞配列の乱れなどにより狂いは生じる。
O-MAX
(株)大井製作所
木材乾燥がわかる本 その1
第2章
収縮と割れ
④
割
れ
乾 燥初 期に生 じ る 割
独立の
表面割れ
初期割れ
れには、木口割れと表
面割れがあります。ど 面にかかる
木口割れ
ちらも木口部分や材表面が先に乾燥して
収縮するために起こります。板材などで
木口部分を貫通した割れを木口の裂けと
木口から伸びた
表面割れ
呼び、最も問題となる損傷です。
初期割れが発生する原因は、①水分
木口の裂け 木口割れ
傾斜、つまり表面は乾いて収縮しようとし
ても、内部には水分が残ったままで寸法
乾燥初期に生じやすい割れ
に変化が起こらず、逆に表面には引っ張
りの力が働くこと、②収縮率の差、つまり板目方向の収縮率がまさ目方向の2倍近くあること、
③板目方向の強度が最も弱い(強さは繊維方向>>まさ目方向>板目方向)ことです。逆
に言いますと、収縮率の差が小さい樹種や、横への引張力に耐えられる材であるならば、割
れが生じにくいことになります。また、木口割れの多くは、丸太の木口割れが製材後にも残
ったために生じると考えられています。
乾 燥 後に材 を 横切 りし た
内部割れ
時に見られる内部の割れ
を内部割れと言います。こ
の内部割れは乾燥の末期に発生します。
乾燥末期に生じる内部割れ
この割れが発生する原因は、①初期割れ
とは逆に、乾燥末期に内部が乾燥し収縮しよ
うとする時に、引張セットされた表層に引っ張
られる力に耐えられなくなることや、②落ち込
みと呼ばれる細胞のつぶれが内部に生じた
結果だと考えられています。
ポイント 19 : 乾燥初期に発生しやすい割れには、木口割れと表面割れがある。
ポイント 20 : 乾燥末期には内部割れが生じる場合がある。
O-MAX
(株)大井製作所
木材乾燥がわかる本 その1
第2章
収縮と割れ
⑤ 特 異 な収 縮
乾燥初期には、
乾燥応力
表層は繊維飽
和点をきって
収縮しようとし、その内部はまだ収
乾燥初期
応力転換期
乾燥末期
縮しません。この時、表層には内
部が突っ張るので引張応力が、
逆に内部には圧縮応力が働くの
です。乾燥がさらに進むと表層は
引っ張られたまま固定化し、内部
乾燥過程の応力と応力による変形
も繊維飽和点をきって収縮しよう
としだします。この時、表層の引張力が消え逆に圧縮力が、内部には引張力が働くようにな
ります。この応力が逆転する時期を応力転換期と呼びます。
薄くて小さな材が乾燥する時には、ほぼ自由に収縮でき、乾燥
ドライングセット
条件に関係なく収縮率は変わりません。しかし、ある程度の厚
材では、単純な収縮以外に、乾燥応力、細胞のつぶれ(落ち
込み)、重しの圧力などのいろいろな要素が複雑に絡みあい、乾燥条件や個々の材の質に
より収縮率に違いが現れます。自由収縮に対して、ある力の働く乾燥条件下での収縮を、ド
ライングセットと呼びます。
例えば、引張りながら乾燥させた材の収縮率は減少します(引張セット)。事実、同じサイ
ズの材を温度を変えて乾燥してみると、低温乾燥された材の収縮率が若干小さくなる現象
が見られます。これは表層に引張応力が、長く働くためだと考えられます。
樹種によって木材が乾燥する過程で、特定の細胞や組織は含水率が繊
落ち込み
維飽和点以上でつぶれる場合があります。これを細胞の落ち込みと呼
びます。この状態が特定の箇所に集中して発生すると、板にくぼみが生
じます。この状態を落ち込みが生じたと言います。また、板全体に発生すると収縮率が大き
くなるので、異常収縮とも呼ばれます。細胞の落ち込みの原因の一つは、水の引張力と考
えられており、温度が高いと発生しやすくなります。
ポイント 21 : 一般に乾燥過程の材には乾燥応力が働いている。
ポイント22 : 乾燥過程で自由収縮は稀で、多少はドライングセットされる。
ポイント23 : 繊維飽和点以上で細胞がつぶれ、落ち込みが生じることがある。
O-MAX
(株)大井製作所