第1章 木材と水

木材乾燥がわかる本 その1
第 1 章
木材と水
①樹の中にある水
私たちが木材として利用して
いる樹の幹は、根から葉へと
辺材と心材
水を送る役割(通道作用)を
しているので、幹の中に
は水がいっぱい入ってい
辺材
ます。
しかし、意外なこと
に水を通しているのは幹 心材
全体ではなく、幹の外側
の部分だけなのです。こ
の部分は辺材(白太)と呼ばれます。ですので、一般
に辺材には水分が多く、その内側にある心材(赤身)
には水分が少ないのです(表1参照)。
また、丸太の葉枯らし乾燥で、含水率が低下するのは通道をしている辺材部だ
けで、心材部の含水率低下はほとんど望めません。
表1.
樹の世界 にも例
外があって、通道
高含水率心材
をしてい ないは
ずの心材に水分が多い樹種があるのです。
表 1 からも分かるように、その代表がスギ
です。さらに厄介なことに個体ごとに心材
含水率が大きく異なっています。このよう
なことが、スギ材の乾燥をさらに難しいも
のにしています。
針葉樹の生材平均含水率
辺 材
心 材
樹 種
(%)
(%)
ヒ ノ キ
153.3
33.5
ネ ズ コ
186.0
56.2
アカマツ
147.3
33.7
ス
ギ
148.0
113.1
エゾマツ
169.1
40.6
トドマツ
211.9
76.1
サ ワ ラ
154.5
38.3
ポイント 1 : 一般に生材の場合、辺材には水分が多く、心材には少ない。
ポイント 2 : スギのように心材にも水分が多い樹種がある。
O-MAX
(株)大井製作所
木材乾燥がわかる本 その1
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木材と水
②木材の中にある水
木材は、細長い
細胞壁と内腔
パイプ状の細胞
が上下に連なり、
それらがぎっしり詰まってできています
(写真参照)。写真を見て分かるように、
細胞の中は空っぽになっています。実は
驚くことに、木材中のほとんどの細胞は
既に死んでいて、中身が消失しているの
です。その空洞の部分は内腔(ないこう)
と呼ばれ、内腔を取り囲んでいる壁は、
細胞壁(さいぼうへき)と呼ばれていま
す。
内腔
細胞壁
自由水
結合水
結合水
木材の顕微鏡写真
(エゾマツ)
幹 の中 を 通道 し
自由水と結合水
ている水は、内腔
の 中を 移 動し て
いきます。この水は通常の液体状の水と同じ
ですので、自由水と呼ばれます。また、細胞
壁の小さな隙間の中に入り込んだ水もあり、
これらは分子状になって木材成分と手を繋
いでいるので結合水と呼ばれます。つまり、
細胞断面(木口面)のイメージ図
木材の中には自由水と結合水という 2 種類の
生材では各細胞の内腔の中に自由水
異なった状態の水が入っているのです。
があり、細胞壁内に結合水がある。
ポイント 3: 木材の中の水には、自由水と結合水の2種類がある。
ポイント 4: 自由水は細胞内腔の中に、結合水は細胞壁の中にある。
O-MAX
(株)大井製作所
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木材と水
③水分の調節弁:壁孔
水が細胞間を
壁孔
移動していく ①
②
③
時には、細胞
壁孔
壁に無数に存在する壁孔と呼
ばれる小さな孔を通過してい
きます。この壁孔は、単なる
孔ではなく、壁孔膜と呼ばれ
る弁がついていて、水の流れ
をコントロールしています
(図参照)。
顕微鏡で観察してみると、
この壁孔膜は網目状のフィル
上下の細胞間にある壁孔(ピット)の役割
ター(マルゴ)と膨らんだ蓋 ①壁孔の中央部にある弁(壁孔膜)が、中立の位置
(トールス)からできている にあり自由に水が上へ流れていく。 ②下の細胞内
ことがわかります(写真参照)。腔中に気泡ができ、一つの壁孔の弁が閉じる。 ③
気泡が膨らむとすべての弁が閉じて、水の逆流を防
ぐ。
辺材の弁は比較的
心材の閉じた壁孔
自由に動くことが
できるのですが、
心材の弁は水を通さないようにするために、水を
壁孔膜の電子顕微鏡写真
追い出した後に、弁が閉じさらに糊付けされてい
ます(心材化現象)。しかし、スギのような樹種
にはいつのまにか心材の細胞の中にも水が溜ま
っています。ここで厄介なことは、心材の中にあ
る水は、細胞の中に閉じ込められた状態になって
いることです。ですので、心材内の水の移動は悪
く、辺材よりも乾燥に時間が掛かってしまうので
す。
ポイント 5: 辺材の壁孔は、水の流れの調節弁である。
O-MAX (株)大井製作所
ポイント 6: 心材の壁孔は、塞がれていて、水は閉じ込められている。
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木材と水
④木材の含水率の表し方
木材の含水率は 100%を越えることがあります。それ
乾量基準の含水
なら、水があふれているのではないかと心配になりま
す。木材の含水率は、乾量基準と呼ばれる方法で計算
することになっていて、単純に水分の含まれている率を示す湿量基準ではないので
す。この表示法では、完全に乾いた木材の重量(全乾重量)に対して、含まれてい
る水分の重量がどの程度かを示すことになっています。そのため、100%を超え
ることが起きるのです。
例えば、
全乾重量と同じ重量の水を含んでいる木材
=含水率 100%
全乾重量の 2 倍の重量の水を含んでいる木材
=含水率 200%
全乾重量の半分の重量の水を含んでいる木材
=含水率 50%
含水率の測定方法としては、全乾法や電気抵抗式含水率計、
全乾含水率
高周波式含水率計などがあります。全乾法は正確な含水率を
測定できる方法です。しかし、大きな材の含水率を小さな試
験片で代表させることや、材を破壊しなければならないことなどの問題があり、生
産現場では品質管理のための抜き取り検査に利用するのに向いた方法といえます。
①
②
③
全乾含水率の測定方法
①測定したい材から試験片を切り出し、直ちに重量を測定します。②105℃の電気オーブ
ンに試験片を入れ、重量が変わらなくなるまで(1∼2 日)完全に乾燥させます。③完全に
乾燥した試験片の重量(全乾重量)を測定します。含水率を計算により算出します。
ポイント 7: 木材の含水率は乾量基準の含水率 →100%を超えることがある。
木材の含水率 = 木材中の水分の重量 ÷
全乾重量 ×
100
= (ある水分状態の木材の重量―全乾重量)÷全乾重量×100
O-MAX (株)大井製作所
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木材と水
⑤含水率と水分状態
すべての木材では、概ね含水率30%を境にして水分の存在状
繊維飽和点
態が大きく異なっています。この含水率は繊維飽和点と呼ばれ、
細胞壁が結合水で満たされている状態です。含水率30%を超
えた状態では、細胞の内腔にも水(自由水)が存在しています。
また、逆に30%以下になると、細胞壁の中の結合水が減少していきます。細
胞壁は結合水が減っていくのに従って、細胞壁自体も徐々に薄くなっていきます。
そのため、細胞壁の集合体である木材が、徐々に収縮していくことになります。つ
まり、木材の乾燥に伴う収縮は、繊維飽和点(含水率30%)以下で起きる現象な
のです。また、繊維飽和点以下では、含水率の変化に従って、強度などの諸性質が
大きく変わります。
木材中の水分状態模式図
生材(30%以上)
繊維飽和点
平衡含水率(約 15%)
結合水
飽
和
飽
和
半分程度
な
い
自由水
あ
る
僅
か
な
な
い
収
しない
縮
平衡含水率
しない
い
1.0∼4.5%
2.0∼9.5%
木材がある温度と湿度の環境に置かれると、木材はいずれその
環境とバランスがとれた含水率になります。この含水率を平衡
含水率と呼びます。季節や地域によって違いがありますが、日
本の屋外の平均的な平衡含水率はおよそ15%と言われています。また、エアコン
が効いた室内の平衡含水率は10∼12%程度になるそうです。
ポイント 8 : 概ね含水率30%が繊維飽和点と呼ばれる。
ポイント 9 : 繊維飽和点以上では、自由水と結合水の両方が存在する。
ポイント 10: 繊維飽和点以下では、結合水のみが存在し、木材が収縮する。
ポイント 11: 環境とバランスのとれた含水率を、平衡含水率という。
O-MAX
(株)大井製作所