マイクロ流路の集積化と血液検査への適用に関する研究

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マイクロ流路の集積化と血液検査への適用に関する研究(
Abstract_要旨 )
野田, 雄一郎
Kyoto University (京都大学)
2013-11-25
http://hdl.handle.net/2433/180622
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
ETD
Kyoto University
京都大学
論文題目
博士(工学)
氏名
野田 雄一郎
マイクロ流路の集積化と血液検査への適用に関する研究
(論文内容の要旨)
本 論 文 は 、 MEMS・ NEMS の 応 用 分 野 と し て 重 要 で あ る マ イ ク ロ TAS( Total analysis
Systems) を 血 液 検 査 へ と 適 用 す る た め の 基 礎 研 究 に 関 す る も の で あ る 。
血液は、脂質・タンパク質等の多種多様な物質を含み、粘性,表面張力などにおい
て 通 常 の 水 溶 液 と は 異 な る 。少 量 の 血 液 を 用 い て 血 液 検 査 を 目 的 と す る POCT(Point of
care Testing)等 の よ う に マ イ ク ロ 流 路 を 有 す る マ イ ク ロ デ バ イ ス に お い て 、 粘 性 が 高
くかつ様々な付着性を有する高分子を含む血液を対象試料とする際の大きな課題であ
るタンパク質の吸着及び界面活性作用を防止し、マイクロル流路において、希釈混合
を行い、さらに血球測定を行うことを目的として、表面処理方法と微量血液の計量切
り出しおよびマイクロ流路内での混合方法を新たに考案し、血液の挙動を数値解析に
より明らかにするとともに、考案した処理方法と計量等のマイクロ構造を集積化した
マイクロデバイスを用いた血液検査の実現に関する研究を 7 章にまとめている。
第 1 章 は 序 論 で あ り 、 医 療 現 場 に お い て 患 者 が い る そ の 場 で 行 う POCT デ バ イ ス に
関する従来の研究について整理し、これまでの研究における課題を明確化するととも
に 、POCT デ バ イ ス に 用 い る マ イ ク ロ デ バ イ ス の 必 要 性 と マ イ ク ロ 化 に お い て 解 決 す べ
き課題について述べ研究の位置づけについて述べた。更に、研究の目的として簡便に
信頼性の高い検査結果を得られ、従来装置とのコスト競争に耐えるデバイスを実現す
るために必要となる定量化や混合等の技術ついて述べ研究の背景としている。
第2章では、微量血液を精度良く計量するため、タンパク質の吸着及び血液の界面
活性作用を防止するための表面処理を施した疏水性パッシブバルブを利用した新たな
方法を考案し、当該表面処理の評価方法及びマイクロディスペンサの耐圧を評価する
新 た な 方 法 を 提 案 し た 。こ れ ら の 方 法 に よ り 設 計 ,作 製 し た マ イ ク ロ デ ィ ス ペ ン サ を 血
液試料を用いた実験により評価し、その方法の有効性を示した。
第3章では、マイクロ流路内では従来困難であった血液と希釈液の効率良い混合を
実現するため、混合槽の壁に厚みの異なる突起を配置した質量分構造を設け、当該構
造に周波数掃引加振することで混合する新たな方法を考案し、数値解析により構造と
原理の有効性を予測するとともに、試作物により評価し、提案した混合方法の有効性
を示した結果について述べた。
第4章では、ポリスチレンから作製したマイクロデバイス表面上への血液に含まれ
る ア ル ブ ミ ン ,γ -グ ロ ブ リ ン ,フ ィ ブ リ ノ ー ゲ ン 等 の タ ン パ ク 質 の 吸 着 に よ る デ バ イ
ス性能への悪影響を防止するため、タンパク質の吸着を抑制する新たな表面処理方法
を提案している。
京都大学
博士(工学)
氏名
野田 雄一郎
POCT デ バ イ ス と し て 必 要 不 可 欠 で あ る 試 験 部 の 使 い 捨 て を 実 現 す る た め に 、安 価 な
プラスチックでマイクロ流路を利用する必要があることから、従来、樹脂表面の表面
処理剤としてポリエチレングリコール類が用いられてきたが、紫外線や酸等で樹脂表
面 を 活 性 化 処 理 す る 必 要 が あ り 、1 時 間 以 上 の 処 理 時 間 が 必 要 で あ っ た 。そ こ で 、本 研
究では、疎水基、親水基、疎水基が、この順に並んだ直鎖状の分子構造を有する表面
処 理 剤 を 用 い る こ と に よ り 、活 性 化 の 前 処 理 な く 10 分 程 度 の 処 理 時 間 で 表 面 処 理 を 可
能にした。そして、考案した表面処理を施したポリスチレンデバイスを用い、血液吸
着の抑制及びタンパク質吸着量の低下を実験により評価し、考案した表面処理方法の
有効性を示した結果についてまとめた。
第5章では、マイクロ流路を用いた血球計数計測の正確性と再現性の向上のため、
計測対象となる試料の量を一定化する新たな方法を提案している。
更 に 、そ れ を 基 礎 と し て 作 製 し た マ イ ク ロ デ バ イ ス に 、第 4 章 の 表 面 処 理 を 適 用 し 、
血液を試料として用いた評価実験を行い、考案した手法及び表面処理方法の有効性を
示した結果についてまとめた。
第6章では、血球計数検査の前処理工程、即ち、血液の 1 万倍希釈及び溶血(赤血
球破壊)を伴う血液の希釈を 1 枚のデバイス上で行うため、第2章から第5章で提案
した方法を集積化したマイクロ流路デバイスを作製し、デバイス内の送液制御を自動
化するための装置と組み合わせて、血液を用いた評価実験により、考案した一連の方
法が前処理の自動化と検査結果の再現性に有効であること示した結果についてまとめ
た。
第7章は結論であり、本論文で得られた成果について要約した。
氏
名
野田 雄一郎
(論文審査の結果の要旨)
本 論 文 は 、MEMS 技 術 を 用 い た マ イ ク ロ TAS を 血 液 検 査 (POCT)に 応 用 す る た め に 必
要なデバイスの表面処理法と、マイクロ流路内での試料の計量と希釈および混合方法
と血球計測方法を新たに考案し、血液と樹脂材料との相互作用に関して考察を加えた
一連の研究成果をまとめたものであり、主な成果は次の通りである。
(1) 微 量 血 液 の 計 量 手 法 を 提 示 し 、 血 液 と 樹 脂 デ バ イ ス 表 面 の 相 互 作 用 の 観 点 か ら 考
察を行った。従来の疎水性パッシブバルブを用いた計量法では、血液中のタンパク質
と樹脂表面の相互作用によりマイクロ流路内の流体制御ができない。樹脂表面の表面
処理材料特性の評価方法を検証するとともに、考案した表面処理方法の有効性を示し
た。更に、マイクロ流路内で血液と空気が置換する挙動を血液と樹脂デバイスの付着
力の観点から考察し、制御に必要な圧力の推定手法を提示し、その有効性を示した。
(2) 共 振 周 波 数 の 異 な る 構 造 体 を 組 み 合 わ せ た 新 た な 液 体 混 合 方 法 を 考 案 し 、 MEMS
技術を用いて、マイクロミキサでは実現困難なマイクロチャンバー内での渦の生成を
可能にし、本方法がマイクロ流路内における混合に有効であることを示した。
(3) 樹 脂 表 面 に 対 す る タ ン パ ク 質 の 吸 着 を 抑 制 す る 表 面 処 理 材 料 を 検 討 し 、 そ の 分 子
構造とタンパク質吸着抑制能力の関係について考察した。従来の親水基を有する表面
処理剤の共有結合による固定化法では、紫外線等による活性化前処理が必要で長時間
(1 時 間 以 上 )を 要 し た 。 こ の 課 題 に 対 し 、 親 水 性 の エ チ レ ン オ キ サ イ ド 基 と 疎 水 性 の
プ ロ ピ レ ン オ キ サ イ ド 基 が 交 互 に 並 ん だ 直 鎖 構 造 を 有 す る 表 面 処 理 剤 を 用 い 、10 分 程
度の表面処理剤の吸着処理によりタンパク質吸着抑制能力を樹脂表面に付与すること
を可能にした。表面処理後のタンパク質吸着抑制を血液試料による定性的実験及び蛍
光標識タンパクを用いた定量的実験によって評価し、その有効性を示した。
(4) 血 液 と 樹 脂 デ バ イ ス の 相 互 作 用 を 制 御 す る 表 面 処 理 と マ イ ク ロ 流 路 及 び 血 球 計 測
部を集積化したデバイスを試作した。疎水性でタンパク質吸着を抑制できる表面と、
親水性でタンパク質の吸着を抑制できる表面領域を作り込むことにより、集積化した
デバイス内において精度良く血液を取り扱うことを可能にしている。更に、血液を用
いた評価実験により、集積化デバイスが臨床現場において実用的な性能を有すること
を示し、考案した一連の表面処理と構造を有するマイクロデバイスが血液検査に応用
可能であることを示した。
以 上 、 本 論 文 は 、 血 液 と 樹 脂 表 面 の 相 互 作 用 と 、 MEMS 技 術 を 用 い た マ イ ク ロ デ バ イ
ス の 血 液 検 査 (POCT)へ の 応 用 に 関 す る 先 駆 的 な 研 究 で あ り 、 考 案 し た デ バ イ ス 構 造 と
表面処理方法は今後のマイクロデバイスの血液検査技術への応用研究の基礎として極
めて有用であり、学術上、実際上寄与するところが少なくない。
よ っ て 、本 論 文 は 博 士( 工 学 )の 学 位 論 文 と し て 価 値 あ る も の と 認 め る 。ま た 、平 成
25年9月26日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果、申請
者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。