ギャロッピング現象と対策用ルーズスペーサについて Galloping Phenomenon and the Effectiveness of "Loose Spacer" 中野 純 (J. Nakano) (技術グループ) <概要>最上試験線において、長年にわたる多導体送電線のギャロッピング観測の実 測,挙動解析,およびギャロッピング対策品であるルーズスペーサの効果確認の結果 で得た知見を基に、ギャロッピングとルーズスペーサについてまとめた。またルーズ スペーサについては、4 導体用,2 導体用と開発を行ったので、現在のラインナップ についてもその形状・構造と合わせて紹介する。 1.はじめに 最上試験線(山形県立川町)では、これまで超高圧多導体送電線のギャロッピング現象の実測、 および挙動解析を行ってきた。また、ギャロッピングを抑制する対策品の 1 つとしてルーズスペー サが開発され、その効果も同試験線で実証してきた。その成果は、電気学会全国大会など公の場や AEW 技報などに発表してきた。 本報告では、ギャロッピングの発生原理とその対策としてのルーズスペーサについて、これまで 得た知見を基にまとめた。 弊社のルーズスペーサは 4 導体用から開発し効果の実証をしているが、2 導体用も効果の実証が されているので、現在までに開発したラインナップも紹介する。 2.ギャロッピングがもたらす被害とその対策品 架空送電線のギャロッピングは世界的な問題であり、日本でも毎年のように発生している。 ギャロッピングはその振動の大きさから、短絡・地絡事故を引き起こすことがあり、また電線に も大きな張力変動をあたえ、設備に機械的な損傷を引き起こすこともある。海外ではギャロッピン グにより鉄塔部材が破断したり、電線が切断して落下するような深刻な被害もある。ギャロッピン グは山間部だけではなく平地においても発生するので、その対策は急務である。 ギャロッピングによる事故を大別すると、次のようになる。 (1) 電気的事故:大きな振幅による電線同士の接近(相間短絡),接触 (2) 機械的事故:大きな張力変動による鉄塔,がいし装置,電線の疲労蓄積,損傷,破断 ギャロッピングは世界的な問題であるのでその対策品は様々であり、国内では捻回抑制装置,ス パイラルロッド,偏心重量錘方式,相間スペーサ,およびルーズスペーサが採用されている。 ルーズスペーサは、ギャロッピングを抑制する機能がありながら、標準スペーサの延長線上の設 計にある。つまり、標準スペーサに要求される性能は全て具備しており、かつギャロッピング抑制 効果を付加した製品という位置付けである。しかも施工には特別な工具や技能を必要としないとい う特徴がある。 ルーズスペーサの取付数量は、標準スペーサよりも若干多めになるが、その考え方と事例を AEW 技報 32 号に報告済みである。それによると、必要個数は標準スペーサの約 1 割増程度である。その 数量で標準スペーサと同等の性能があり、かつギャロッピングを抑制することができる。 AEW 第 33 号 - 18 - 3.ギャロッピング現象 3-1 ギャロッピングとは ギャロッピングとは、電線に着氷雪が付いてそこに強い風が作用した時に、まれに発生する大振 幅かつ低周波数の自励振動のことを指す。自励振動とは、電線が振動しその振動自体によって風か らの駆動力を受け取り、振動が大きくなって持続する現象である。ギャロッピングのイメージを図 1に示す。 電線 風 電線の動き 着氷雪 電線の受ける力の向き 図1 ギャロッピングのイメージ 3-2 ギャロッピングの発生条件 (1) 電線に氷雪が付着すること。 (2) ギャロッピングを起こすのに十分な風(10 分間平均風速で 7∼20m/s)が吹いていること。 わが国は南西諸島を除いて、全域が電線の着氷雪を経験し得るところに位置していることから、 全線路、全径間でギャロッピングを発生する可能性がある。 しかし実際にギャロッピングが発生し、しかも事故につながることが多くない理由は、 (1) ギャロッピングが発生するような着氷雪の形状になることは比較的まれである。 (2) ギャロッピングが発生するために必要な以下のトリガーが重畳しにくい。 (a) 上下振動周期と捻回周期の一致 (b) 風向風速,風の性質,吹き上げ角など 3-3 ギャロッピングの発生原理 (1) 電線に働く力 電線に着氷雪が付いた時、電線には 3 つの空気力(抗力、揚力、モーメント)が働く。この 3 つ の空気力を求めるのに必要なのが空力係数(CD、CL、CM)である。着氷雪の有無による空気力の違 いを図 2 に示す。 AEW 第 33 号 - 19 - FL:揚力 着氷雪 風となす角度 θ 風 FM:モーメント FD :抗力 FD:抗力 風に対して水平方向の力(抗力)のみ 抗力以外に ①鉛直方向の力(揚力) ②ねじれの力(モーメント)が発生する 図 2-1 図 2-2 電線のみの場合 図2 着氷雪がある場合 電線に作用する力 (2) ギャロッピングの発生条件 電線が円形の図 2-1 においては、風に対して水平方向の力(抗力)のみが働き、揚力が発生しな いため電線は上下振動を生じない。図 2-2 においては、電線が見かけ上非円形断面になるため、風 を受けた場合に電線に揚力が発生する。その揚力により発生した振動が自励振動になり、ギャロッ ピングへと発展する。これを式で表したのが Den-Hartog のギャロッピング発生条件式(1)式であり、 (1)式が満足されるとギャロッピングが発生する。 CD + d (CL ) < 0 ・・・(1) dθ ただし、CD:抗力係数、CL:揚力係数、 θ: 風となす角度(deg) 4.ルーズスペーサについて 4-1 ルーズスペーサとは ルーズスペーサとは、クランプ把持部が N 個である多導体スペーサにおいて、N/2 個の把持部が ある範囲内で自由回転できる構造をもつスペーサが一般的である。ある範囲内で自由回転するクラ ンプ把持部のことをルーズ把持部と呼ぶ。これに対し、自由回転しない把持部を固定把持部という。 なおルーズ把持部は、N 導体のうち半分の N/2 個であるが、半分でもギャロッピング抑制効果が あることは確認済みである。図 3 に 4 導体用ルーズスペーサの 2 つの種類を示す。 ルーズ把持部 固定把持部 固定把持部 ルーズ把持部 ルーズ把持部 固定把持部 ルーズ把持部 固定把持部 ルーズ把持部片側配列型 図3 AEW 第 33 号 ルーズ把持部対角配列型 4 導体用ルーズスペーサの種類 - 20 - 4-2 ルーズスペーサのギャロッピング抑制原理 ルーズスペーサのギャロッピング抑止原理は、ルーズ把持部の自由回転機構による。 ルーズ把持部の電線はある範囲で自由に回転できるので、もし着氷雪が発生したとしても、着氷 雪の偏心重量により電線は捻じれる。そのため、着氷雪は均一な形状(図 2-2 に示すような三角形) になりにくく、ルーズ把持部の電線にはギャロッピング発生条件を満たすような抗力・揚力が発生 しない。 最上試験線では、人工着雪を同一方向に取付けてギャロッピング実証試験を実施している。それ でもルーズスペーサがギャロッピングを抑制しているのは、ルーズ把持部の素導体に発生する抗 力・揚力の大きさが固定把持部と異なること、振動周期が多導体全体の捻回および上下振動周期と 同期しない等の理由により、ギャロッピング発生条件を満たさないからである。 4-3 ルーズスペーサのギャロッピング抑止効果 (1) 鉛直方向変位 標準スペーサ使用時とルーズスペーサ使用時の鉛直方向変位を、それぞれ図 4 に示す。 ルーズスペーサの場合は標準スペーサに比べて、垂直方向変位量が少なく、ギャロッピングを抑 制していることが分かる。すなわち、短絡事故は発生しにくいといえる。 標準スペーサの場合 ルーズスペーサ使用時 図4 電線の動揺軌跡 (2) 最大張力変動 図 5 にギャロッピング発生時の標準スペーサ,ルーズスペーサおよび相間スペーサ使用時の最大 張力変動を示す。無対策時(標準スペーサ)と比較してルーズスペーサの場合、最大張力変動は約 1/3 である。張力変動が少ないということは、設備や電線に与える疲労や損傷も少ないということ を示している。 ルーズスペーサを相間スペーサと比較すると、風速 15m/s 以下における最大張力変動はほぼ同等 であるが、それを超えると顕著な差が出ている。相間スペーサに比べても張力変動は小さく、ギャ ロッピングをより抑制していることが分かる。 AEW 第 33 号 - 21 - 図5 最大張力変動の比較 5.ルーズスペーサの種類について 弊社は 4 導体のギャロッピング観測からスタートしたが、その後ルーズスペーサのギャロッピン グ抑制効果の有効性が明らかになるにつれ、2 導体への展開も期待されたので、各種の開発を行っ てきた。その結果、現在は表 1 に示す製品がラインナップされている。 ルーズ把持部の形状は、2 導体用でも 4 導体用でもほぼ同等である。各導体の代表として、 (T)ACSR610mm2 用ルーズスペーサの形状を図 6 および図 7 に示す。 表1 導体数 2 導体 4 導体 現在のルーズスペーサ種類 電線種類・サイズ 素導体間隔 (試験)使用開始時期 (T)ACSR240mm2 400 平成 16 年 11 月 (T)ACSR330mm2 400 平成 15 年 11 月 (T)ACSR410mm2 400 平成 14 年 9 月 (T)ACSR610mm2 400 平成 16 年 9 月 (T)ACSR410mm2 400×400 平成 13 年 6 月 (T)ACSR610mm2 500×500 平成 12 年 10 月 (T)ACSR810mm2 500×500 平成 10 年 11 月 (Z2)SB(T)ACSR/UGS780mm2 500×500 平成 12 年 10 月 (Z2)LN-SB(T)ACSR/EGS810mm2 500×500 平成 14 年 10 月 6.今後のルーズスペーサについて 表1の(試験)使用開始時期欄に示すとおり、4 導体用ルーズスペーサはギャロッピング発生箇所に 採用されて最大 5 回の冬季を経過し、その抑止効果は実線路でも検証されていると考えている。ル ーズスペーサのルーズ把持部と固定把持部を半々に割り振ることで、従来方式の捻回復元特性によ るスペーサ配置の設計が可能であることから、その基本思想はほぼ定まったと言えそうである。 4導体を越える多導体においても、ルーズ把持部・固定把持部の割合と、その時の耐捻回モーメ ントが 4 導体と同等以上となるようにルーズスペーサの配置を決めることにより、そのギャロッピ ング対策は可能と考える。 AEW 第 33 号 - 22 - ルーズ把持部 固定把持部 SP ロックナット ルーズ把持部 固定把持部 (軸力規制型ナット) SP ロックナット (軸力規制型ナット) SP 型ボルトレスクランプ (コイルスプリング方式) SP 型ボルトレスクランプ (コイルスプリング方式) 図6 図7 2 導体用ルーズスペーサ 4 導体用ルーズスペーサ (T)ACSR610mm2 用 2 (T)ACSR610mm 用 7.おわりに ギャロッピング現象およびルーズスペーサのギャロッピング抑止原理について、これまでの知見 や成果を参考にまとめてみた。この論文が、今後のギャロッピング対策の一助になれば幸いである。 最後になりましたが、ギャロッピング現象の研究およびルーズスペーサの開発・実証にあたり、 ご指導とご助言をいただいた東京電力の関係者の皆様に、深く感謝いたします。 参考文献 ・「架空送電線のギャロッピング現象解析技術」電気学会技術報告 第 844 号 ・「最上試験線における模擬着雪ギャロッピング観測」小澤他、平成 6 年 AEW 技報 24 号 ・「最上試験線におけるギャロッピング観測結果」大熊他、平成 9 年 AEW 技報 26 号 ・「最上試験線における観測結果 ルーズスペーサのギャロッピング抑止効果」大浦他、平成 10 年、 AEW 技報 27 号 ・「ルーズスペーサのギャロッピング抑止効果実証試験」土師他、平成 12 年電気学会全国大会 ・「ルーズスペーサのギャロッピング抑止効果実証試験(その 2)」三塚他、平成 13 年電気学会全国大会 ・「ルーズスペーサのギャロッピング抑止効果」三塚他、平成 13 年 AEW 技報 30 号 ・「2 導体ルーズスペーサのギャロッピング実証試験」宍戸他、平成 15 年電気学会全国大会 ・「2 導体ルーズスペーサのギャロッピング実証試験」宍戸他、平成 15 年 AEW 技報 32 号 ・「ルーズスペーサ取付間隔の検討」中野、平成 15 年 AEW 技報 32 号 AEW 第 33 号 - 23 -
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