海外向け技術(PDF 136KB)

海外向け技術
Technical Assistance for Overseas
遠藤 滋 (S. Endo)
(国際部)
1.はじめに
当社の沿革を見ると、会社創立後わずか 13 年目の 1961 年に台湾の中華電線電纜公司と技術指導
提携契約を締結していることが分かる。47 年前のことで、手元に資料が残っていないので、具体的
な技術指導の内容は良く分からないが、これが当社の最初の「海外への技術援助」と思われる。会
社創立後 13 年目にして、海外の会社の技術指導をしたということは、当時の諸先輩の自社の技術
に対する自負を感じられる出来事であろう。
しかし、当社も他の日本の企業と同じように、戦後から 1960 年代にかけては、積極的に海外の
技術を導入した時代であった。1962 年にドイツのカール・フィステラー社(KP 社)から楔形引留め
クランプの技術導入をしたのを皮切りに、アメリカのカーネイ社から H 形分岐スリーブや地中線用
サービス・クラスター、ノルウェーのラホス社やスイスのジュージ・フィッシャー社からの技術導
入と続いた。そして 1970 年代から 1980 年代にかけては、輸出全盛の時代。当時の記録を見ると、
ブラジル向けにダンパを 5 万個輸出したり、韓国向けに 2 導体、3 導体のスペーサを合計 105,000
台輸出したりしている。その他にも数億円規模のプロジェクトをアジアや中近東向けに数多く受注
していたようだ。1980 年代後半からは円高による輸出競争力の低下と相まって、技術援助や合弁事
業の推進という時代を経て現在に至っている。それは組織の変遷にも表れており、1973 年に営業部
の中に輸出課を創設。1985 年には営業部から輸出課を分離して輸出部に昇格さているが、1996 年
には、国際部に名称を変更している。現在の国際部の業務は、輸出よりも金額が数倍多くなった輸
入の管理や、中国にある合弁会社上海旭線路金具有限公司の経営支援が主業務となっている。
上記のような歴史的な潮流の中で、当社が実施した 4 社との技術支援についてご紹介する。
2.インド STAR IRON WORKS 社
1993 年 3 月 9 日にインドの STAR IRON WORKS 社(以下 SIW 社)と 1,000kV・10 導体までのス
ペーサダンパの製造技術に関する技術援助契約を締結した。SIW 社はインドのカルカッタにあるイ
ンド最大手の送電線金具メーカーで、この契約の下、インド国営の電力会社 POWER GRID
CORPORATION OF
INDIA LIMITED 社(以下 PGCIL 社)の入札に参加し、4 導体スペーサダン
パ、33,000 台の受注に成功した。SIW 社は当社の設計で試作品を製造し、PGCIL 社の立会官パー
ル氏の立会いの下、長井研究所で振動試験やコロナ試験を実施して合格し、商業生産を開始した。
これ以外にも SIW 社は 400kV、3 導体スペーサダンパ 87,217 台を受注するなど、当社との技術援
助契約を活用して、次々と大型受注を成し遂げた。このようなことから、当初の契約期間は契約締
結後 5 年間となっていたが、SIW 社の要請によりさらに 5 年間延長し、2003 年 3 月までこの契約
を継続した。
ただ、当初我々はこの契約に基づいて、インドにコイルバネを使ったボルトレススペーサダンパ
を根付かせようと考えていたが、コストの関係でボルト締め付けタイプのスペーサダンパに変更を
余儀なくされた。当時のインドの諸事情から判断すると、致し方ない面もあったかもしれないが、
その後 SIW 社が業界から姿を消したことを考えると、この技術援助契約は少し時代を先取りしす
ぎたようだ。
昨今のインド経済の高成長に伴い、インドの電力需要も急激に増加している。その需要増に対応
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する為に PGCIL 社は送電線網の整備を進める計画だ。PGCIL 社は 2012 年まで±800kV 直流送電
線(6 導体)を 4,000km、400kV 以上の 4 導体送電線を約 53,000km、さらに 2025 年までに、1,200kV
送電線(8 導体)を約 20,000km も建設計画を立てている。まさに今こそ、当社が長年培ってきたボ
ルトレスタイプの多導体スペーサダンパの技術がインドの電力供給に貢献できる時代が到来した。
そのような観点から、当社は 2007 年 2 月 5 日、6 日、インドのニューデリーで PGCIL 社が主催し
た展示会 GRIDTECH 2007 に出展し、インド市場に新たな第一歩を記した。詳細は AEW 技報第
36 号、『インド展示会(GRIDTECH 2007)参加』を参照願いたい。
3.韓国 宝星重電機社
宝星重電機社(以下宝星)とはかねてより、当社の開発品である落雷表示器や MR,YOUNG(電線挿
入量検査器)などの韓国側代理店として取引があったが、1996 年 5 月 29 日に楔形引留クランプの製
造に関する技術援助契約を締結した。韓国電力は圧縮形引留クランプを使用していたが、日本の電
力会社殿との交流の中で、楔形引留クランプの優位性に興味を持った。この韓国電力の意向に宝星
は着目し、楔形引留クランプの国産化を目的として、当社に技術支援を要請したのが契約締結のき
っかけである。
技術援助の範囲は製品の設計、鋳造から最終の検査工程に亘り、各工程に使われる機械設備、補
助設備、また全ての原材料に関する技術情報を含むものであった。
宝星は当社の誠実な対応を高く評価し、1998 年 6 月 15 日には落雷表示器の技術援助契約も当社
と契約し、落雷表示器の国産化を実現し、韓国電力に納入している。
4.中国 湖北旭通送電設備有限公司
中国の三峡ダムは 1994 年 11 月 8 日に着工し、2009
年完成予定の壮大な水力発電ダムの国家プロジェク
トである。その発電容量は 1,820 万 kW に達し、この
ダムで発電された電気は、超高圧交流・直流送電網で
主に中国沿海部の電力消費量の大きい地域に送電さ
れる『西電東送』の一翼を担う。この三峡ダムは湖北
省宣昌市に位置するが、その為、湖北省一帯は超高圧
架空送電線の通り道となっている。このような地理的
な背景の下、当社は 1999 年 4 月に、湖北省襄樊市に
写真 1
三峡ダム
地元襄樊市供電局傘下の通力高新技術発展股份有限公司(以下通力)と合弁会社を設立したのが湖北
旭通送電設備有限公司(以下湖北旭)である。当社と湖北旭は技術援助契約を締結し、当社が開発し
た SP 型ボルトレススペーサダンパを中心とする送電線用金具の技術支援をすることになった。
技術援助の範囲は上記の宝星との契約範囲の他に、湖北旭の従業員の教育や営業技術支援も含ま
れており、湖北旭の経営が出来るだけ早く軌道に乗るような内容となっていた。従業員の教育に関
しては、1999 年 7 月 29 日から 8 月 5 日まで、7 名の湖北旭従業員を長井工場で研修させ、湖北旭
の製造の立ち上げに大きく寄与した。また当社の SP 型ボルトレススペーサダンパは中国のスペー
サダンパとは構造が違う為、当社のエンジニアが湖北旭の営業マンと中国各地の電網公司や電力設
計院を訪問し、SP 型ボルトレススペーサダンパの PR を実施した。
2003 年には、湖北旭が河川横断などの長径間に使用される SP 型ボルトレスクリスマスツリーダ
ンパ(以下 SP-XD)の受注に成功したのに伴い、SARS 騒動で大変な時期にも拘わらず技術者を派遣
して、SP-XD の製造技術支援を行った。
2004 年 12 月 20 日から 26 日かけて湖北省中部の荊州市近辺の広範囲で、500kV4 導体送電線で
ギャロッピングが発生した。さらに、2005 年 2 月 6 日から 15 日にかけて、湖南省と湖北省の一帯
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で着氷によって 500kV 送電線用鉄塔 25 基が倒壊、3 基が変形した大事故が発生した。これを受け
て、このエリア一帯の送電線網を管理し、長年当社と友好関係にあった華中電網公司から、現場調
査の依頼を受けた。当社はすぐに加藤研究開発部長とギャロッピングを専門に研究している技術部
の中野担当を事故現場に派遣し、前述の華中電網公司や中南電力設計院と議論を重ねた結果、秋ま
でに当社で開発したルーズスペーサを対策品として採用する事が決定した。日本製ではコストが割
高になるので、当社の技術援助の下、湖北旭が製造することになり、数度に亘り日本から技術者を
湖北旭やその部品業者に派遣して、2005 年 9 月に 272 台の 4 導体ルーズスペーサを出荷すること
ができた。また、納品後の取り付けにおいても、当社の技術者を取り付け現場に派遣し、工事業者
に的確な取り付け方法の指導を行った。その後も
ルーズスペーサの受注は続き、湖北旭として、合
計 1,657 台の 4 導体ルーズスペーサを中国国内に
販売した。湖北旭の中国側出資者は 2005 年に前
述の通力から襄樊国網合成絶縁子股份有限公司
に変わったが、その後、諸般の事情で 2008 年 9
月に清算することになった。しかし、当社が心血
を注いで育成した湖北旭の事業は、後述の上海旭
線路金具有限公司に移管し、中国初の UHV 1,000kV
モデル試験線への 8 導体ルーズスペーサ納入と
いう形で花開くことになる。
写真 2
湖北旭製 4 導体ルーズスペーサ
5.中国 上海旭線路金具有限公司
湖北旭の設立から遡ること、3 年半前の 1995 年 12 月に、当社は、上海電力物資公司線路器材廠
(以下線路器材)と三井物産株式会社とで配電線用引留クランプや接続金具の製造と販売を目的とし
た合弁会社、上海旭線路金具有限公司(以下上海旭)を設立した。上海市の送配電を担っている上海
市電力公司(以下上海市電力)は長年東京電力株式会社殿(以下東電殿)と技術交流をしているが、東電
殿が採用している配電線用引留クランプや各種接続金具を上海でも使いたいとの意向があり、製造
メーカーである当社と上海市電力傘下の線路器材が中核となった合弁会社が発足した。湖北旭と同
様に、当社と上海旭は技術援助契約を締結して、対象製品の技術援助を開始した。
96 年の操業開始から 2001 年までは比較的順調に業績を伸ばしてきたが、2002 年からは他社と
の競争が激化して、業績が伸び悩んだ。業績低迷を打破する為に、従来の配電線用金具だけではな
く、地中線用金具や送電線用金具の製造販売に進出することにした。
その第 1 弾が上海洋山国際深水港向け 110kV 電力ケーブル用アルミクリートである。上海洋山
国際深水港プロジェクトは上海市の沖合 30km の大洋山と小洋山という島に大型コンテナ船が着
岸できる深水港を作る国家級プロジェクトで、その深水港へのアクセスとして、約 31km の東海大
橋を海上に建設し、その橋梁に 110kV の電力ケーブルを添架する。その電力ケーブルを固定する
為に約 50,000 個のアルミ製クリートが必要となり、上海旭が受注することになった。
当初ケーブル敷設を担当する上海市電力は、プラスチック製のクリートを採用するつもりでいた
が、ケーブルメーカーの強い意向もあり、日本と同様にアルミ鋳物(材質:AC7A)製のクリートを採
用することになった。但し、AC7A は鋳造が難しく、中国国内で高品質の AC7A 鋳物を作る製造
業者は皆無に等しかった。上海旭は設立以来、AC7A 鋳物を傘下の線路器材瓦屑鋳造廠で取り扱っ
ていたので、上海旭に白羽の矢が立ったのが受注の経緯である。しかし、短期間に大量の AC7A 鋳
物を安定した品質で製造することは非常に難しく、当社の鋳物の専門家を 1 ヶ月以上も上海に派遣
して、技術支援を行った結果、高品質のアルミクリートを納期に間に合わせることができて、上海
旭の業界での名声は一気に高まった。
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詳細は AEW 技報第 33 号の『上海洋山国際深水港プロジェクト向け 110kV 電力ケーブル用アル
ミクリートの技術支援』と第 34 号の『中国におけるアルミ鋳造技術の向上』を参照していただき
たいが、このプロジェクトの実績により、上海旭は 2010 年に万博を控えて、次々と進んでいる大
型電力ケーブル敷設工事に使われるアルミクリートを受注できたことは、技術支援をする側にとっ
ても大変喜ばしいことだ。
写真 3
東海大橋
中国初の UHV1,000kV 交流送電線は山西省南部の晋東南から湖北省の荊門までの約 650km に亘
る 8 導体の架空送電線である。荊門周辺は過去にギャロッピング現象が発生した地域であり、送電
線の建設を担当する国家電網公司(以下国網)もその対策に頭を痛めていた。国網は、湖北旭が納入
した 4 導体ルーズスペーサの実績や国網と東電殿とで締結している『1,000kV 送電技術コンサルテ
ィング契約』の一環で、当社の最上試験線を見学したことなどから、8 導体ルーズスペーサ 1,713
台の採用を決定した。問題はどこで作るかであったが、湖北旭は既に清算する方向で動いていたし、
国産化は絶対条件なので、上海旭で製造すること
にした。
しかし、上海旭では 4 導体のスペーサさえも作っ
たことがないのに、果たして 8 導体のルーズスペ
ーサが製造出来るかどうか、社内にも疑問視する
声があったが、上海旭の頑張りと当社の技術者の
献身的な指導の結果、無事納期どおりに納入する
ことが出来たことは、今後の上海旭の業容の拡大
に非常に大きな実績を残すことができた。この実
績を背景に上海旭は湖北旭の事業を引き継ぎ、4
導体ボルトレススペーサやクリスマスツリーダ
ンパを製造販売している。
写真 4
8 導体ルーズスペーサ
6.まとめ
今回ご紹介した 4 件の技術支援のうち最初の 2 件は当社と資本関係の無い会社への技術援助で、
後の 2 件は当社が出資をしている合弁会社への技術援助である。前半の 2 件については、技術援助
先の経営に当社が参画していない為、技術援助の効果の把握が難しい。一方、合弁会社への技術支
援については、単に対価を受け取るだけではなく、相手と一緒になって作り上げていく喜びや教え
る喜びがあるのではないだろうか?合弁会社に駐在員を派遣していない当社にとって、技術支援の
時に当社の技術者が現地に赴いて交流する事は、合弁パートナーとの信頼関係の醸成に大きく寄与
するであろう。さらに普段自分たちがやっている作業を人に教えるということは、自分たちの作業
を見直す良い機会であり、単に技術援助で得た対価以上の価値があるのではないか?以上のような
ことから、今後の海外への技術援助を考えると、限られた人的資源の中ではやはり合弁会社や当社
の調達先への技術援助を優先せざるを得ないだろう。
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