138 解 説 J. Jpn. Soc. Colour Mater., 84〔4〕,138 – 143(2011) Lean Green Compact −いすゞ無人上塗ブースの現在・過去・未来 田 村 吉 宣*,† * いすゞ自動車㈱車両技術部塗装技術グループ 神奈川県藤沢市土棚 8 番地(〒 252-8501) † Corresponding Author, E-mail: [email protected] (2010 年 10 月 25 日受付; 2011 年 2 月 10 日受理) 要 旨 いすゞ自動車は“リーン・グリーン・コンパクト(Lean,Green,Compact)”と名付けた塗装近代化戦略を進めている。この意味と 具体事例を日本初の完全無人上塗ブースとなった“藤沢工場 P3 上塗ブース”を取り上げて解説する。そして無人化をベースに省エネ を目指す未来計画を紹介し,その中で最新の省エネ・環境技術として注目を集めるドライセパレーション(塗装ブース)排気洗浄技 術の概要に触れる。 1990 年代の日本の強さの秘密とされ,欧米各国がその研究と導 1.はじめに 入を競った。しかし,BRICs の勃興などによる右肩上がりの持 今,自動車業界は激変の嵐に見舞われている。BIG3 の凋落, 続的好景気の中で,いつしかそれは二の次になっていった。 新興国の台頭,クルマ造りの潮流変化……,などなど,従来の BIG3 の凋落はこうした基本をおろそかにしたことが一因になっ 価値観や方法の連続線上では対応できない局面を迎えている。 ているとも言われている。 この難局に打ち勝つには何が求められるのであろう。いすゞ自 「グリーン」は「環境負荷低減」のことである。VOC(光化 動車はこの嵐を乗り越え,嵐の後の新世界に対応する塗装技術 学スモッグの原因物質とされるシンナーなどの揮発性有機化合 戦略を“リーン・グリーン・コンパクト(Lean,Green,Compact) ” 物)排出の削減が代表事例であるが,法規制対応や自主規制対 と名付け,塗装近代化を進めている。 応のため技術開発・設備投資・実採用が進み,塗装を革新して 本解説ではこの実例として“いすゞ藤沢工場 P3 上塗ブース” きた分野である。これに CO2 排出削減が加わろうとしている。 を取り上げ,日本初となった完全無人上塗ブースの現在と過 また,規制物質は各種重金属など,ますます対応すべき対象が 去,そしてこの未来計画を紹介していく。 増加してきている。 なお,この解説は昨年 11 月に色材協会が開催した「第 11 回 「コンパクト」は,真空管ラジオがトランジスタラジオに換 塗料・塗装講座」 ,および昨年 6 月にパリで開催された自動車塗 わったように,同じ機能を果たす装置を小型化・高密度化・高 装国際会議 SurCar にて“SurCar 2009 Award”を受賞した講演 集積化し,省スペース・省エネルギー・投資コスト削減・リー 「リーン・グリーン・コンパクト上塗ブースを目指して」(い ドタイム短縮などの同時達成を実現していくものである。 すゞ無人上塗ブースの現在・過去・未来)の内容をベースにし ている。 いすゞはこの「リーン・グリーン・コンパクト」の同時達成 こそが塗装の未来方向であると確信し,塗装近代化を進めて来 た。その典型例として,一昨年 9 月に日本初の「完全無人上塗 2. 「リーン・グリーン・コンパクト上塗ブース」の 基本的考え方 ブース」を達成した。 「リーン・グリーン・コンパクト」は,いすゞの塗装近代化 戦略スローガンである。 3. 「リーン・グリーン・コンパクト上塗ブースを目指して」 その現在・過去・未来 「リーン」それはお客様が求める機能をお届けするもの以外 は「ムダ」と認識し,それらを徹底排除して「骨皮筋衛門」と 「完全無人上塗ブース」はいすゞ藤沢第 3 塗装工場の中にあ る。この概要を図-1 に示す。 トラックキャブボディー(13 車型)は図-1 の右から,左に流 するものである。これを実現する「リーンプロダクション」は 〔氏名〕 たむら よしのぶ 〔現職〕 いすゞ自動車㈱車両技術部塗装技術グループ シニアスペシャリスト 〔趣味〕 ビール,ワイン,カラオケ,塗装技術 〔経歴〕 自動車塗装技術一筋に 35 年。現在も継続。 家族帯同で英国 4 年,タイ 2 年の駐在経験。 れていく。ブースサイズは長さ 90 m,幅 6 m であり,生産能力 は 1 時間当たり 46 台ある。このブースの中で,20 台のロボット により,完全無人塗装を行っている。キャブ 1 台当たりの上塗 オーブン出口の塗装欠点数(上塗初期品質)は 0.5 件未満。す なわち,2 台に1 件の欠点しかない高品質で安定したものである。 生産品目はいすゞの主力製品であるベストセラー小型トラッ ク“エルフ”のキャブボディーである。トラックキャブ塗装は − 12 −
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