6.人工呼吸器関連肺炎予防策(PDF:791KB)

病院感染対策マニュアル
市立札幌病院 2009.9
人工呼吸器関連肺炎予防策
人 工 呼 吸 器 を装 着 後 48時 間 以 上 経 過 し新 たに発 生 した肺 炎 。原 因 として、口 腔 や鼻
咽 頭 、胃 に定 着 し た細 菌 の誤 嚥 や汚 染 された呼 吸 器 からの汚 染 エア ロゾルの吸 入 、医
療 従 事 者 の汚 染 された手 を介 した感 染 などがある。
抗菌薬
患者の
その他の
要因
薬物投与
汚染された人工呼吸
外科手術
侵襲的
器具
器、呼吸機能検査機
交差感染
(手指、手袋)
器、麻酔機材
機器の不適切な
消毒・滅菌
口腔咽頭
への付着
胃への
汚染エアゾール
定着
の発生
汚染された水・
溶液
吸入
流入
菌血症
肺防御の破綻
トランスロケーション
肺炎
トランスロケーション:ショックによる消化管の血流傷害、経静脈栄養のみを続けることなどにより、腸管粘膜が
傷害され浸透圧の亢進が生じる。その結果、消化管の微生物が血中に移行し肺などの部位で感染症を発症する。
H I C P A C: G u id e l i ne f o r p r e ve n t io n o f n o s oc o m ia l p ne um o n i a . MM W R, 4 6 ( R R -1 ): 1 ∼ 7 9, 1 9 97 よ り 改 変
【図 1: 院 内 感 染 肺 炎 の発 生 器 所 】
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1.器具の消毒
人 工 呼 吸 器 回 路 の消 毒 に関 しては、病 院 感 染 対 策 マニュアル「標 準 予 防 策 :患 者 に
使 用 した医 療 器 具 の取 り扱 い」の項 を参 照 。
1) 呼 吸 器 回 路 内 吸 入 器 の消 毒
・
・
・
・
・
吸 入 器 は一 患 者 に一 個 を専 用 とする。
吸 入 器 の消 毒 は吸 入 毎 に行 う。
消 毒 は個 別 に行 う。
消 毒 後 は、十 分 乾 燥 させ、埃 がかからぬようビニール袋 に保 管 する。
最 終 使 用 後 は、ディスポーザブルのものは破 棄 。他 は呼 吸 器 回 路 とともにオートクレー
ブにて滅 菌 する。
2) 吸 入 器 消 毒 方 法 (呼 吸 器 機 種 別 )
( 1 ) エアロネブの場 合
(処 理 手 順 の図 解 は次 ページ)
① 吸 入 が終 了 したら、手 袋 を装 着 し T 型 アダプタプラグをアルコール綿 で清 拭
② 吸 入 ユニットを回 路 からはずし、T 型 アダプタプラグで回 路 を閉 鎖
③ 吸 入 ユニット本 体 は、使 用 の都 度 、滅 菌 蒸 留 水 で 1 分 間 作 動
空 焚 きは故 障 の原 因 になるので注 意
④ フィーラーキャップは本 体 から取 り外 し、アルコール綿 で清 拭
⑤ 吸 入 ユニット本 体 は、追 い炊 き後 、よく乾 燥
⑥ T 型 アダプタは、回 路 交 換 時 に本 体 に接 続 したまま ME センターに返 却
エ ア ロ ネ ブ の 製 造 業 者 は 、本 品 の 消 毒 を 禁 止 し て い る( 振 動 エ レ メ ン ト の 構 造 上 、故 障 等 の ト ラ ブ ル
を 生 じ る 可 能 性 が あ る た め )。 ゆ え に 、 同 一 患 者 に 繰 り 返 し こ れ を 使 用 す る 場 合 、 で き る だ け 清 潔 な
取 り 扱 い を す る 必 要 が あ る 。ネ ブ ラ イ ザ ー ユ ニ ッ ト に 薬 液 を 注 入 す る 際 は 、注 入 後 、消 毒 用 ア ル コ ー
ル で ゴ ム キ ャ ッ プ 部 分 を 清 拭 後 に 蓋 を 閉 め る よ う に す る 。ま た 、ゴ ム キ ャ ッ プ を は は ず し た り 、不 用
意に開いたりしないようにする。
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④ 滅菌蒸留水で1分追い炊き
注:空焚きは故障の元
① 吸入が終了した
T型アダプタプラグ
フィーラーキャップ
② 手袋を装着し、
T型アダプタープラグを
アルコール綿で拭き、
よく乾燥させる
⑤ フィーラーキャップを
アルコール綿で拭く
③ T型アダプタプラグで
回路を閉鎖する
⑥ ネブライザーユニット本体
はよく乾燥する
【図2:エアロネブネブライザーの消毒手順】
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(2)サーボ 300、サーボ i の場 合
① 吸 入 器 を分 解 する。
② B と C は吸 入 毎 に消 毒 する。0.05%次 亜 塩 素 酸 ナトリウムに 30 分 以 上 浸 漬 し、滅 菌
蒸 留 水 ですすいだ後 、十 分 に乾 燥 させる。
③ A は、毎 回 、作 用 水 を廃 棄 し乾 燥 させる。
④ A は、一 日 一 回 、エタコット ○R で内 部 をさっと拭 き乾 燥 させる。
⑤ B はその日 の最 終 使 用 後 (一 患 者 専 用 )に廃 棄 する。
A
分解
C
B
【 図 3 : サ ー ボ 300、 サ ー ボ i 吸 入 器 の 洗 浄 と 消 毒 】
(3) ベネット 7200 の場 合
① 吸 入 後 、吸 入 器 を回 路 内 からはずす。蛇 管 にはコネクターを接 続 する。
② 吸 入 器 を分 解 する。(図 3)
③ 0.05%次 亜 塩 素 酸 ナトリウムに 30 分 以 上 浸 漬 する。
④ 滅 菌 蒸 留 水 ですすいだ後 、十 分 に乾 燥 させる。
分解
【 図 4 : ベ ネ ッ ト 7200 吸 入 器 の 洗 浄 と 消 毒 】
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(3) サーボ 900 の場 合
① 吸 入 後 、回 路 内 からはずす。
② 吸 入 器 を分 解 する。
③ 0.05%次 亜 塩 素 酸 ナトリウムに 30 分 以 上 浸 漬 する。
④ 滅 菌 蒸 留 水 ですすいだ後 、十 分 に乾 燥 させる。
分解
【 図 5 : サ ー ボ 900 吸 入 器 の 洗 浄 と 消 毒 】
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2.人工呼吸器装着中の気管内吸引法
・ 気管吸引刺激による咳嗽時に、口腔内分泌物が気道に流入することを防ぐため、
原則的に、口腔内を吸引した後に気管吸引を行う。カフ上吸引チューブがついている
カニューレの場合は、カフ上の分泌物を吸引した後に気管吸引を行う。
【必要物品の準備】
① 吸引カテーテル 数本
② 単包エタコット 1 包
③ 防護具(グローブ・マスク・エプロンなど)
④ 水道水入りカップ 1ヶ
⑤テストラング
【図6:口腔内吸引方法】
① 手洗い後、ガウンまたはエプロンを装着
② 吸引カテーテルを開封する
⑤ 吸引カテーテルを引き出す
③ 吸引ボトルの連結管と接続する
利き手でカテーテル本体を持ち、もう
一方の手で外包装を押さえる
カテーテル本体を触る手は、できるだけ
環境に触れない
④ 手袋を着用
⑥口腔内を吸引する
⑦ 口腔用吸引カテーテルを廃棄する。
⑧ 手袋をはずす。
★引き続き気管吸引を行う場合、図7−②へ
⑨ 手指衛生を行う
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【 図 7:気 管 内 吸 引 方 法 】
① 手 洗 い 後 、 ガ ウ ン ま た は エ プ ロ ン を 装 着 す る
口 腔 内 の 吸 引 後 、連 続 して 気 管 を
吸 引 す るときはココから!
② 吸 引 カ テ ー テ ル を 開 封 す る
⑦ 連 続 で 吸 引 す る 場 合
エタコット
③ 吸 引 ボ トル の 連 結 管 と接 続 す る
連続吸引の場合、エタコットで
カテーテルの外表面を清拭する。
*閉塞した場合は新しいカテーテルを使用
*水は吸わない
④ 手 袋 を 着 用 。 聞 き 手 は 二 重 に 着 用 す る
⑧ 吸 引 ボ トル 連 結 管 の リ ン ス
⑤ カ テ ー テ ル マ ウン トを 外 し ,テ ス ト ラ ン グ を 取 り
つける
プラスティックカップは、
ノンクリティカル器材なので滅菌は
不要。一日一個、使い捨てる。
⑨ テ ス ト ラ ン グ の 接 続 部 を エ タ コ ッ ト で 清 拭 し 、
ビ ニ ー ル 袋 へ 入 れ る
⑩ カ テ ー テ ル を 廃 棄 す る (単 回 使 用 で 廃 棄 )
*ビニール袋に保管されている
患者専用の テストラングを使用する
⑥ 二 重 に 着 用 し た 手 袋 を 外 し 、清 潔 に
カ テ ー テ ル を 取 り 出 し 、気 管 内 吸 引 を 行 う
プラスチック
感染性廃棄物
黄色へ
⑪ 防 護 具 を 脱 ぎ 、 手 洗 い す る
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3.吸入液・周辺機器の管理
1) 吸 入 液 の管 理
・ 薬 液 は、各 薬 液 ごと、一 日 分 をシリンジに用 意 する。(小 児 の場 合 は、指 定 された
配 合 で一 日 分 調 合 する)
・ 開 封 した薬 液 とシリンジは冷 所 管 理 とする。
・ シリンジは一 日 で破 棄 する
・ 吸 入 液 は、使 用 都 度 、①で作 成 したシリンジから薬 液 を採 り調 合 する。
2) ウォータートラップと加 湿 器 の管 理
・ 蛇 管 内 の水 滴 が患 者 の気 管 内 に流 れ込 まないよう、蛇 管 の位 置 を適 切 に保 ち、適 宜 、
蛇 管 内 に貯 留 した水 滴 を除 去 する。
・ ウォータートラップの水 を破 棄 する場 合 は、手 袋 を着 用 し、清 潔 に取 り扱 う。
・ 加 湿 器 の滅 菌 蒸 留 水 は、少 なくとも各 勤 務 内 に残 りの蒸 留 水 を捨 て、新 しい蒸 留 水
を入 れる。継 ぎ足 しはしない。
3) テストラングの取 り扱 い
・ 一 患 者 専 用 とする。長 期 間 使 用 の場 合 、呼 吸 器 回 路 交 換
の度 に交 換 し、古 いものは廃 棄 する。
・ テストラングを使 用 しない場 合 は、ビニール袋 に入 れ、埃 が
かからないようにする。
ディスポーザブルの
テ ス ト ラ ン グ 小 児 用 500ml
4.栄養管理
・ 経 管 栄 養 中 は可 能 であれば、上 体 を 30∼45 度 挙 上 させる
・ 経 管 栄 養 中 は、消 化 管 運 動 や、チューブ先 端 位 置 を確 認 する
・ 経 管 栄 養 目 的 以 外 の経 鼻 胃 管 チューブは出 来 るだけ早 期 に抜 去 する
5.ストレス潰瘍予防薬(H2ブロッカー)
・ ルーチンに、人 工 呼 吸 装 着 患 者 へストレス潰 瘍 予 防 薬 を投 与 する必 要 はない。
・ ストレス潰 瘍 の危 険 性 の少 ない患 者 に対 して、H 2 ブロッカーを投 与 しない。
(H 2 ブロッカー投 与 は胃 の pH を上 げ、上 部 消 化 管 の細 菌 の増 殖 を助 長 する)
・ ストレス潰 瘍 の危 険 性 のある患 者 には、sucralfate(アルサルミン細 粒 )などの、胃 の pH
を上 昇 させない薬 剤 を使 用 することが望 ましい。
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・ 明 らかな上 部 消 化 管 出 血 の存 在 する患 者 やストレス潰 瘍 の危 険 性 が極 めて高 い
患 者 (消 化 性 潰 瘍 の既 往 がある患 者 )には、H 2 ブロッカーを投 与 する。
6.体位変換
・ 人 工 呼 吸 器 管 理 中 は誤 嚥 防 止 のため、上 体 を 45 度 半 座 位 の状 態 を保 つ。
<体 位 変 換 の方 法 >
・ 側 臥 位 や半 座 位 、シムス位 に体 位 を整 え、可 能 であれば前 倒 し姿 勢 や腹 臥 位 を
とるようにする。
・ この際 、気 管 内 チューブや点 滴 ライン・ドレーン類 の誤 抜 去 や閉 塞 に注 意 。
・ 患 者 の状 態 に合 わせ 30 分 から2時 間 、同 一 体 位 とする。
7.口腔内衛生(マウスケア)
気 管 内 チューブのカ フは細 菌 の流 入 を必 ずしも防 止 でき ないため、口 腔 内 の清 浄 化
が重 要 である。
・ 挿 管 される手 術 患 者 に関 しては、手 術 前 に口 腔 内 を観 察 し十 分 ケアする。(自 分 で行
えない患 者 には介 助 する)
・ 口 腔 ケアの実 施 頻 度 や方 法 は、VAP のリスクや口 腔 内 の状 況 をアセスメントし、決 定
する。
<口 腔 ケアの基 本 >
・ 歯 垢 や舌 苔 の機 械 的 除 去 と洗 浄 により口 腔 内 の清 潔 を保 つこと
・ 吸 引 により口 腔 内 分 泌 物 の貯 留 を防 ぐこと
<方 法 >
・ 誤 嚥 防 止 のため体 位 を整 える。(仰 臥 位 30°前 屈 姿 勢 )
・ 口 腔 内 を吸 引 し、口 腔 内 分 泌 物 を除 去 する。
・ カフ圧 を一 時 的 に上 げる。
(カフ圧 計 を使 用 する場 合 、30∼40mmHg を目 安 に)
・ 目 視 下 で、歯 ブラシなどを使 用 し、歯 牙 や口 腔 粘 膜 に
機 械 的 刺 激 を与 えつつ、口 腔 内 容 物 (洗 浄 液 )を十 分 吸 引
しながら行 う。
・ 気 管 内 吸 引 を行 う。
・ カフ圧 を戻 し、体 位 を整 える。
カフ圧計でカフ圧を確認
アングルワイダーを用い
て視野を広く保つ
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