フェノール/Phenol(108-95-2) - NIHS

急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)
Phenol (108-95-2)
フェノール
Table
Phenol
AEGL 設定値
108-95-2 (Final)
ppm
10 min
30 min
60 min
4 hr
8 hr
AEGL 1
19
19
15
9.5
6.3
AEGL 2
29
29
23
15
12
AEGL 3
NR
NR
NR
NR
NR
NR: データ不十分により推奨濃度設定不可
Level of Distinct Odor Awareness (LOA) = 0.25 ppm
設定根拠(要約):
フェノールは、吸湿性のある無色~ピンクの固体で、独特の甘いタール臭がある。純粋な
フェノールは、白色~透明な針状結晶である。溶融状態のフェノールは、無色透明な粘稠
性の低い液体である。
フェノールの摂取および皮膚接触によるヒトの死亡事故が報告されている。フェノールの
吸入曝露の試験データは、あまり得られていない。1 件の職業曝露調査では、時間加重平均
濃度 5.4 ppm で反復曝露されたことにより、肝臓および血液のパラメータの軽微な変化(血
清中トランスアミナーゼ活性の上昇、ヘモグロビン濃度の上昇、好塩基球数と好中球数の
増加、単球数の減少)が起こったことが報告されている(Shamy et al. 1994)。Piotrowski(1971)
の毒物動態試験では、被験者を 6.5 ppm の濃度で 8 時間曝露したが、症状も病訴も報告され
ていない。Ogata ら(1986)の毒物動態に関連して、平均濃度 4.95 ppm で曝露された交替制
勤務作業員を調査したが、何も影響について言及していない。1 mg/L を超える濃度で飲料
水に混入したフェノールに数週間曝露されたヒトでは、胃腸症状(下痢、悪心、口腔の灼
熱痛や爛れ)と皮疹の発生が報告されている(Baker et al. 1978)。臭気検知閾値については、
幾何平均値 0.060 ppm(評価した臭気閾値範囲は 0.0045~1 ppm)が報告されている〔米国
工業衛生協会(AIHA) 1989〕。おいて、Don(1986)による、0.010 ppm という臭気検知
閾値が、欧州標準化委員会〔CEN(2003)〕の比較試験のなかで報告されている。
動物におけるフェノールの半数致死濃度(LC50)値を報告した試験は、みつからなかった。
経口 LD50 値については、ウサギが 420 mg/kg、ラットが 400~650 mg/kg、マウスが 282~427
1
mg/kg と報告されている。フェノールのエアロゾルに 900 mg/m³の濃度で 8 時間曝露したラ
ットでは、6 匹中 1 匹に眼と鼻の刺激、協調運動障害、虚脱が報告されている(Flickinger 1976)。
フェノールの蒸気に 211 ppm または 156 ppm の濃度で 4 時間曝露した場合、白血球数の減
少がみられたが、毒性の徴候はみられなかったことが報告されている(Brondeau et al. 1990)。
フェノールの蒸気に 0.5、5、25 ppm の濃度で 1 日 6 時間、1 週 5 日間、2 週間曝露したラッ
トでは、臨床的、血液学的、または組織病理学的な影響は認められていない(Huntingdon Life
Sciences 1998; published in Hoffman et al. 2001)。フェノールの蒸気に 5 ppm の濃度で 90 日
間連続曝露したアカゲザル、ラット、マウスでは、血液学的または組織学的な影響は認め
られていない。フェノールの蒸気に 166 ppm の濃度で 5 分間曝露した雌の Swiss OF1 マウス
では、呼吸数の半減(RD50)が認められている。CD ラットに最大 120 mg/kg、CD-1 マウス
に最大 140 mg/kg を反復強制経口投与した試験では、催奇形性作用は認められていない。
Sprague-Dawley ラットを用いた飲水投与による二世代試験では、母体重減少と関連性がある
出生仔の生存率低下が最高濃度の 5,000 ppm で認められ、無毒性量(NOAEL)は 1,000 ppm
(雄で 70 mg/kg/日、雌で 93 mg/kg/日に相当する)であったと報告されている。経口投与に
よる発がん性試験では、
B6C3F1 マウスと Fischer 344 ラットに対し、フェノールが 2,500 mg/L
と 5,000 mg/L(マウスで 281 mg/kg/日と 412 mg/kg/日、ラットで 270 mg/kg/日と 480 mg/kg/
日に相当する)の濃度で飲水投与された。マウスと雌ラットには腫瘍発生率の上昇は認め
られず、高濃度曝露群の雄ラットには、腫瘍(副腎の褐色細胞腫、白血病、またはリンパ
腫)の有意な発生がみられている。フェノールは、ベンゼンで誘導後に皮膚に繰り返し塗
布すると、腫瘍促進活性を示した。フェノールは、染色体異常誘発作用を有し、おそらく
非常に弱い変異原性作用がある可能性がある。国際癌研究機関(IARC)では、発がん性に
関する知見を評価し、ヒト、実験動物ともに、フェノールの発がん性の証拠が不十分であ
ると結論づけている。したがって、フェノールは、「ヒトに対するその発がん性について
は分類できない(グループ 3)」とされている(IARC 1999, p.762)。米国環境保護庁(EPA)
の結論は、以下のとおりである(EPA 2002, p. 103):「経口、吸入、皮膚の各曝露経路に
よるフェノールの発がん性に関するデータは、ヒトに対する発がん性を評価するには不十
分である;フェノールは、ラットとマウスでの経口発がん性試験では陰性を示しているが、
生物検定において雄ラットに白血病が増加したことに加え、遺伝子突然変異試験で陽性デ
ータがあることと、最大耐容用量(MTD)以上の用量で皮膚発がん(イニシエーション/
プロモーション)試験が陽性であることについては、疑問が残る;適切な期間で行われた
吸入試験のデータは得られていない;したがって、どのような経路による発がん性も、定
量的には評価できない」。したがって、発がん性は、AEGL 値の導出における評価項目とは
しなかった。
AEGL-1 値は、ラットを用いた反復吸入試験(Huntingdon Life Sciences 1998; Hoffman et al.
2001)に基づいた。この試験では、フェノールに 25 ppm(試験した最高濃度)で 1 日 6 時
間、週 5 日間、2 週間にわたって曝露したが、臨床的、血液学的、または組織病理学的な影
2
響は認められていない。種間変動には、不確実係数 1 を適用した。不確実係数の毒物動態
学的な構成要素を 1 に減らした。これは、フェノールの毒性作用の多くが、フェノール自
体の作用によって引き起こされ、代謝作用によるものではないことと、局所刺激作用が起
こった場合は、主に吸入空気中のフェノール濃度に左右され、毒物動態の種差にはほとん
ど影響されないことによる。AEGL 値導出の開始点は、反復曝露試験の NOAEL とした。そ
のため、NOAEL は、AEGL-1 値に採用した値より低い。導出された値は、ヒトにおける試
験と労働環境調査(Piotrowski 1971; Ogata et al. 1986)によって支持されている。これらのこ
とから、種間不確実係数を 1 に減らした。局所的な影響については、毒物動態の差が種内
および種間でそれほど大きくないと考えられるため、種内変動に関して不確実係数 3 を適
用した。したがって、不確実係数は、毒物動態学的な構成要素を 1 に減らし、毒物動力学
的な構成要素は 3 のままにすることによって、ヒトの集団における標的組織での反応の変
動性にも対応することができる。他の個別の曝露期間についての値は、濃度-反応の回帰式
Cn × t = k を使用して、時間スケーリングを行って導出した。濃度指数 n は、それ求めるた
めの適切な実験データがないため、短い曝露期間についてはデフォルトの 3 を、長い曝露
期間については 1 を適用した。AEGL 値の導出が長い曝露期間の試験に基づいており、短い
曝露期間については、その濃度-時間-反応関係を特徴付ける試験がみつからず、裏付けが得
られないため、10 分間 AEGL-1 値は、30 分間 AEGL-1 値と同じとした。
フェノールの特異的臭気認知濃度(LOA)は、Don(1986)の試験で得られた臭気検知閾値
に基づいて、0.25 ppm と算出した。LOA は、それを超える濃度で曝露された人の半数以上
が少なくとも何の臭いかがわかり、約 10%がきついと感じる臭気強度の濃度である。LOA
は、化学災害対応要員が、公衆が臭気を知覚して曝露を自覚しているかどうかを評価する
際の助けとなる。
AEGL-2 値の導出は、Flickinger(1976)の試験と Brondeau ら(1990)の試験に基づいた。
フェノールに 900 mg/m³の濃度のエアロゾル(234 ppm の濃度の蒸気に相当)で 8 時間曝露
したところ、曝露開始から 4 時間の時点で、眼と鼻の刺激、軽微な協調運動障害、筋群の
痙攣が認められ、8 時間後には、6 匹中 1 匹に、さらに別の症状(振戦、協調運動障害、虚
脱)が認められている。死亡は起こっていない。エアロゾルの濃度が、室温で約 530 ppm
という飽和蒸気濃度よりも低くなっていたため、大半のフェノールはエアロゾルから気化
し、エアロゾルと蒸気の混合物による曝露が起こっていたと思われる。この試験は、Brondeau
ら(1990)の試験によって支持される。この試験では、フェノールの蒸気に 211 ppm の濃
度で 4 時間曝露し、軽微な影響しか認められなかったこと報告している。両試験とも、エ
アロゾルで曝露されていることと濃度が公称値であること、さらに片方の試験には毒性症
状が記載されていないという欠点があるが、統合すると試験の結果は一貫している。
AEGL-2 値の導出は、234 ppm の濃度で 8 時間曝露したデータに基づいた。経口致死データ
をみる限り、種差は大きくはなく(セクション 4.4.1 を参照)、また、3 より大きい不確実
3
係数を適用して得られる AEGL-2 値は、ヒトが有害影響を受けずに耐えられる濃度より低
くなるため(Piotrowski 1971; Ogata et al. 1986)、種間変動については不確実係数 3 を適用し
た。フェノールが混入した飲料水により数週間曝露された 45 家族(小児と高齢者を含む)
の各人を対象に行われた健康への影響調査(Baker et al. 1978)では、どの特定の部分集団を
とってみても、症状の発生率および重症度の上昇はみられていないため、種内変動につい
ては不確実係数 3 を適用した。さらに、新生児と乳児については、毒性のあるフェノール
代謝物を形成する代謝能が低く、感受性は成人より高くはないとみなした(セクション 4.4.2
を参照)。根拠としたデータベースの規模が小さく、試験にも不備があるため、修正係数 2
を適用した。他の個別の曝露期間の値を導出するため、濃度-反応の回帰式 Cn × t = k を使用
して、時間スケーリングを行った。濃度指数 n は、それ求めるための適切な実験データが
ないため、短い曝露期間についてはデフォルトの n = 3 とした。AEGL 値の導出が長い曝露
期間の試験に基づいており、短い曝露期間については、その濃度-時間-反応関係を特徴付け
る試験がみつからず、裏付けが得られないため、10 分間 AEGL-2 値は、30 分間 AEGL-2 値
と同じとした。
フェノールは生産量の多い化学物質であるが、AEGL-3 値の導出にふさわしい品質の急性曝
露試験データが得られなかった。したがって、十分なデータがなく、経路間外挿が確実で
はないため、AEGL-3 値は提言されない。Table に、導出した AEGL 値を一覧にして示す。
----------------------注:本物質の特性理解のため、参考として国際化学物質安全性カード(ICSC)を添付する。
4
国際化学物質安全性カード(WHO/IPCS/ILO)
1/3 ページ
国際化学物質安全性カード
ICSC番号:0070
フェノール
フェノール
PHENOL
Carbolic acid
Phenic acid
Hydroxybenzene
C6H6O / C6H5OH
分子量:94.1
CAS登録番号:108-95-2
RTECS番号:SJ3325000
ICSC番号:0070
国連番号:1671
EC番号:604-001-00-2
災害/
暴露のタイプ
一次災害/
急性症状
可燃性。
裸火禁止。強酸化剤との接触
禁止。
水溶性液体用泡消火薬剤。粉
末消火薬剤、水噴霧、泡消火
薬剤、二酸化炭素。
79℃以上では、蒸気/空気の爆 79℃以上では、密閉系および
発性混合気体を生じることがあ 換気。
る。
火災時:水を噴霧して容器類を
冷却する。
火災
爆発
身体への暴露
吸入
あらゆる接触を避ける!
経口摂取
いずれの場合も医師に相談!
咽頭痛、灼熱感、咳、めまい、 細かい粉塵やミストの吸入を避 新鮮な空気、安静。半座位。医
頭痛、吐き気、嘔吐、息切れ、 ける。換気、局所排気、または 療機関に連絡する。
息苦しさ、意識喪失。症状は遅 呼吸用保護具。
れて現われることがある(「注」
参照)。
吸収されやすい。重度の皮膚
熱傷、しびれ、痙攣、虚脱、昏
睡、死。
保護手袋、保護衣。
痛み、発赤、永久的な視力喪
失、重度の熱傷。
顔面シールド、または呼吸用保 数分間多量の水で洗い流し(で
護具と眼用保護具の併用。
きればコンタクトレンズをはずし
て)、医師に連れて行く。
皮膚
眼
応急処置/
消火薬剤
予防
汚染された衣服を脱がせる。多
量の水かシャワーで皮膚を洗
い流す。この物質を除去するた
めにポリエチレングリコール
300あるいは植物油を使用す
る。医療機関に連絡する。応急
処置を行うときは保護手袋を着
用する。
腐食性。腹痛、痙攣、下痢、シ 作業中は飲食、喫煙をしない。 口をすすぐ。多量の水を飲ませ
ョックまたは虚脱、咽頭痛、混 食事前に手を洗う。
る。吐かせない。医療機関に連
濁した帯緑暗色尿。
絡する。
漏洩物処理
貯蔵
包装・表示
・こぼれた物質を密閉式容器内に掃
き入れる。湿らせてもよい場合は、粉
塵を避けるために湿らせてから掃き
入れる。
・残留分を注意深く集め、安全な場所
に移す。
・(個人用保護具:自給式呼吸器付完
全保護衣)
・この物質を環境中に放出してはなら
・消火により生じる流出物を収容する
ための用意。
・強酸化剤、食品や飼料から離して
おく。
・乾燥。
・密封。
・換気のよい場所に保管。
・食品や飼料と一緒に輸送してはな
らない。
・EU分類
記号 : T, C
R : 23/24/25-34-48/20/21/22-68
S : 1/2-24/25-26-28-36/37/3945
・国連危険物分類(UN Haz Class):
6.1
http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0070c.html
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国際化学物質安全性カード(WHO/IPCS/ILO)
2/3 ページ
ない。
・国連包装等級(UN Pack Group):II
重要データは次ページ参照
Prepared in the context of cooperation between the International Programme on Chemical Safety & the
Commission of the European Communities © IPCS CEC 1993
ICSC番号:0070
国際化学物質安全性カード
ICSC番号:0070
フェノール
物理的状態; 外観:
暴露の経路:
特徴的な臭気のある、無色~黄色または淡い 体内への吸収経路:(急速である)--蒸気の吸
ピンク色の結晶。
入、経口摂取、経皮。
物理的危険性:
重
要
デ
|
タ
物理的性質
環境に関する
データ
吸入の危険性:
20℃で気化すると、空気が汚染されてややゆ
っくりと有害濃度に達する。
化学的危険性:
加熱すると、有毒なフュームを生じる。水溶液 短期暴露の影響:
は弱酸である。酸化剤と反応して、火災や爆 この物質および蒸気は眼、皮膚、気道に対し
発の危険をもたらす。
て腐食性を示す。蒸気を吸入すると、肺水腫を
起こすことがある。
許容濃度:
(「注」参照)。中枢神経系、心臓、腎臓に影響を
TLV:5 ppm(TWA);(皮膚) A4(人における発が 与え、痙攣、昏睡、心臓障害、呼吸不全、虚脱
ん性が分類できない物質); BEI(生物学的暴露 を生じることがある。死に至ることがある。これ
指標)記載あり (ACGIH 2004)
らの影響は遅れて現われることがある。医学
(訳注:詳細は ACGHI の TLVsand BEIs を参 的な経過観察が必要である。
照)
長期または反復暴露の影響:
MAK:皮膚吸収(H);発癌性カテゴリー:3B
反復または長期の皮膚への接触により、皮膚
(DFG 2004)
炎を起こすことがある。 肝臓、腎臓に影響を
(訳注:詳細は DFG の List of MAK and BAT 与えることがある。
values を参照)
・沸点:182℃
・融点:43℃
・密度:1.06 g/cm3
・水への溶解性:溶ける
・蒸気圧:47 Pa(20℃)
・相対蒸気密度(空気=1):3.2
・20℃での蒸気/空気混合気体の相対密度(空
気=1):1.001
・引火点:79℃(C.C.)
・発火温度:715℃
・爆発限界:1.36~10 vol%(空気中)
・log Pow (オクタノール/水分配係数):1.46
・水生生物に対して毒性が強い。
注
・その他の国連番号:2312(溶融);2821(溶液)
・アルコール飲料の使用により有害作用が増大する。
http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0070c.html
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国際化学物質安全性カード(WHO/IPCS/ILO)
3/3 ページ
・暴露の程度によっては、定期検診が必要である。
・肺水腫の症状は 2~3 時間経過するまで現われない場合が多く、安静を保たないと悪化する。したがって、安静
と経過観察が不可欠である。
・医師または医師が認定した者による適切な吸入療法の迅速な施行を検討する。
Transport Emergency Card(輸送時応急処理カード):TEC(R)-8A
NFPA(米国防火協会)コード:H(健康危険性)3;F(燃焼危険性)2;R(反応危険性)0;
付加情報
ICSC番号:0070
最終更新日:2001.10
フェノール
© IPCS, CEC, 1993
・ ICSCホームページへもどる
国立医薬品食品衛生研究所
http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0070c.html
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