心電図検査

岐臨技
精度管理事業部
平成 25 年度 総括集
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心電図検査
野久
設問 1. 60 歳代、女性。
高度僧帽弁逆流にて、平成 16 年 7 月に僧帽弁置
換術を行っている。この患者から平成 25 年 2 月に
記録された 12 誘導心電図を図1に示す。
心電図所見として考えられるものはどれか。以下
に示す A~R の中から該当するものを選び、その合
計数で答えよ。
A.右軸偏位 / B.左軸偏位 / C.時計方向回転 /
D.反時計方向回転 / E.QT 延長 / F.QT 短縮 /
G.Ta 波/ H.J 波 / I.異常 U 波 / J.洞性不整
脈 / K.房室接合部調律 / L.上室性期外収縮 / M.
心室性期外収縮 / N.上室性補充調律 / O.心室
性補充調律 / P.心房細動 / Q.房室解離
1.
1
2.
2
3.
3
4.
4
5.
謙
分の差が陰性であるか陽性であるかをみる。この場
合、QRS 成分は陰性であることから電気軸の方向は
+から-方向となり、電気軸は-60°の左軸偏位とな
る。
(3 月 8 日サーベイ検討会スライド参照)
胸 部 誘 導 に お け る 時 計 方 向 回 転 (clockwise
rotation)とは、移行帯(transition zone)が V5~V6
の位置にある場合をいう。移行帯は、解剖学的には
心室中隔の長軸の体表面への向きを表すと考えて良
いが、心電図波形は心室の電流ベクトルであり、必
ずしも実際の解剖とは一致しない。
QT 時間の評価法としては、接線法が多く用いら
れているが、今回、本設問を評価対象外とした理由
の一つに、QT 時間の評価が正常か延長かで曖昧と
なる可能性が考えられたことが挙げられる。
5
正解:3 or 4 (評価対象外)
出題意図:心電図検査に関して、日常ルチン検査を
行っていく中で“隙のない判読手順”が身について
おり、記録された心電図から可能な限りの所見を読
み取ることができるかどうかを問う問題。今回は、
QT 時間が正常からやや延長で、結果として曖昧で
あったことなどもあり、評価対象外とした。
解説:設問で提示した 12 誘導心電図は、リズムは
不整(バラバラなRR間隔)でP波を認めず、まず
は慢性心房細動の可能性が考えられる。また、よく
見るとV1 誘導でレート 300 拍/分の頻度で小さいF
波を認め、慢性心房粗動の所見も認める。
電気軸を簡便法により評価すると、① Quadrant
Method : QRS 波 が Ⅰ 誘 導 で 上 向 き ( -90 ° ~
+90°)、aVF 誘導で下向き(0°~-180°)。両者の
交わりより-90°~0°となり左軸偏位。② Degree
Method : 6 つの肢誘導の内、最も振幅の小さい QRS
の誘導か、QRS の陽性成分と陰性成分振幅の等しい
誘導を探すと、aVR 誘導の QRS がいずれにも該当
する。aVR 誘導の軸に対し直行する軸は、Ⅲ誘導で
ある。心電図Ⅲ誘導の QRS で、陽性成分と陰性成
設問 2. 70 歳代、男性。
膀胱癌で当院泌尿器科通院中。図 2-1 は、熱中症
にて当院に救急搬送された時記録された、12 誘導
心電図を示す。採血データは、クレアチニン
2.0mg/dl 、 BUN 42.6mg/dl 、 CPK 67IU/L 、 Na
139mEq/L、K 5.9mEq/L、Cl 111mEq/L、Ca 9.2
mg/dl であった。
この患者の1ヵ月前に記録された 12 誘導心電図
(図 2-2)と比較し、心電図変化所見として正しい
ものはどれか。
1. T波が先鋭化しており、高カリウム血症に伴
う変化と思われる。
2. QT 時間が短縮しており、高カルシウム血症
が考えられる。
3. P 波の形に変化が見られ、Wondering
pacemaker を認める。
4. 胸部誘導(V2)で J 波が出現している。
5. 各誘導で、QRS 波の電位に差があるのは、
筋電フィルターの影響である。
正解:1
出題意図:非心臓疾患で見られる心電図変化を問う
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問題。電解質異常、特に血清カリウム値の異常は重
症不整脈の発生につながる可能性があり、それを予
測するためにも心電図波形変化の特徴を理解してお
く必要がある。
解説:血清カリウム値の上昇に伴う心電図変化とし
て本例に見られる所見は、①胸部誘導での高い尖鋭
化した T 波(テント状 T 波)
。②P 波の減高、消失
である。さらに血清カリウム濃度が上昇すると、③
PQ 延長。④R 波減高、QRS 幅の増大。
⑤wide QRS、
変形した QRS(サインカーブ状 QRS)、心室性期外
収縮の出現。⑥心室細動、心停止などの変化が認め
られる。
J 波は元々、低体温症に特徴的な QRS 波終末部の
鈍い陽性波として知られていた(Osborn 波)
。その
後、Burgada 症候群の発見、さらに 2008 年に早期
再分極に関連した突然死(N Engl J Med)について
報告されて以来、早期再分極異常に伴う J 波が、特
発性心室細動との関連性において注目されるように
なった。つまり、J 波の判定には、心電図所見のみ
でなく、むしろ臨床情報(低体温の有無、特発性と
思われる心室頻拍の有無など)を確認しながら、慎
重に行うべきである。
設問 3. 60 歳代、女性。
縦隔腫瘍の疑いにて当院内科を紹介受診。12 誘導
心電図(図 3-1)
、胸部X線(図 3-2)
、胸部CT(図
3-3)に異常所見を認め、労作時の息切れや左上腹部
膨満感などの症状もあったため、同日緊急入院とな
った。その後症状も軽快し、18 病日に記録した 12
誘導心電図(図 5-4)で波形の変化を認めた。
その心電図変化の理由として最も考えられるのは
どれか。
-2解説:リズムは正常洞調律で心拍数は 60 拍/分程度。
電気軸は正常範囲内であるが、胸部誘導で軽度反時
計方向回転と V3 から V6 誘導まで P、QRS、T 波は
良く似た波形を示しており、症状改善後の心電図(設
問 図 3-4)では胸部誘導で QRS 波は増高している。
QRS 波の低電位差の基準は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ誘導で振
幅が 0.5mV 以下、かつ胸部誘導で 1.0mV 以下
(Minnesota cod)となっている。
低電位差(QRS 波の減高)の原因を以下に示す。
①心起電力そのものが減少。
(心筋梗塞、心筋炎など)
②心臓が大きな容量の導体で囲まれている場合。
(滲
出性心膜炎などによる心膜液貯留など)。つまり、電
流の流れる導体が増加し電流の短絡を来たすことに
よって、体表面で記録される QRS 波の振幅が減少
する。③心臓周囲の電気伝導度の減少。
(電気抵抗の
高い空気や脂肪が心臓周囲を取り巻く、肺気腫、左
側気胸など)。④心臓の位置変化。
本例においては、臨床症状、胸部 X 線写真と CT
画像より、左胸水貯留による心電図変化と推測でき
る。
設問 4. 50 歳代、男性。
前日から持続する胸痛と呼吸困難にて、他院より
救急外来紹介受診。図 4-1 は、この時患者から記録
された 12 誘導心電図である。
この心電図所見として正しいものはどれか。
a. 左脚ブロック
b. WPW 症候群 (type C)
c. 前壁中隔心筋梗塞
d. 電極の付け間違い
e. 右胸心
1. a. b
1.
2.
3.
4.
5.
心膜液貯留
左胸水貯留
左側心膜欠損
左肺気胸
不適切な胸部電極装着による人為的ミス
2. b. c
3. c. d
4. d. e
5. a. e
正解:3
出題意図:
(例えば心筋虚血などのような)重大所見
のみに気をとられること無く、順序良く正確に“隙
無く”心電図を判読することが必要である。
正解:2
出題意図:心電図の判読にあたっては、他の画像所
見や検査所見と突き合わせる事も大切であり、種々
の画像診断や検査に関する理解を深める努力が必要
である。
解説:正常心電図の胸部誘導では、V1 から V6 誘導
へ向うにしたがい、S 波は徐々に減高し R 波は徐々
に増高していくという“流れ”がある。前壁中隔の
心筋虚血、左脚ブロック、右胸心などは、その“流
れ”に特徴があるので十分に理解しておきたい。日
常ルチン検査の中で、僅かな異常も見落とさない為
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のコツである。
-34)村川裕二
心電図
5)小川聡
設問 5. 10 歳代、女性。
細菌性腎炎と脳梁傍大部脳炎にて入院加療中。モ
ニター心電図にて不整脈を確認したためホルター心
電図を行った。
その時記録された波形 (ch1. CM5 誘導、ch2.
NASA 誘導)を図 5-1 に示す。正しいものはどれか。
a. Wenckebach 型 2 度房室ブロックを認める。
b. MobitzⅡ型 2 度房室ブロックを認める。
c. 完全房室ブロックを認める。
d. 上室性期外収縮を認める。
e. 上室性補充収縮を認める。
1. a. b
2. b. c
3. c. d
4. d. e
5. a. e
正解:5
出題意図:日常ルチン検査の中で比較的よく遭遇す
る不整脈を問う問題。
解説:a は正しい。PQ 間隔の漸増を認め、その後
QRS 波の脱落が認められる。Wenckebach 型房室ブ
ロックが考えられる。b は誤り。PQ 間隔が一定でな
く MobitzⅡ型房室ブロックは否定できる。cは誤り。
完全房室ブロックは、房室間の伝導が完全に遮断さ
れ、PQ 間隔は全くの不整となる。P-P 間隔は一定
で正常調律であるが、心室の伝導は心室内の別のペ
ースメーカーからの調律となる為、R-R 間隔一定の
徐脈となる。d は誤り。上室性期外収縮が、先行す
る正常心拍の不応期が終了していない時期に発生し
た場合、心室以降に興奮が伝わらず、QRS 波が出現
しない事があり、Blocked PAC と呼ばれる。この場
合、先行する心拍との P-P 間隔は短縮する。e は正
しい。房室ブロックによって QRS 波が脱落し、R-R
間隔が延長した直後、P 波を伴わない(QRS の直前
に、
関連性のある P 波が無いと思われる)
、正常 QRS
波と同じ形をした QRS 波は、上室性の補充収縮と
考えられる。
文献
1)循環器病の診断と治療に関するガイドライン
不整脈の非薬物治療ガイドライン
2)森博愛ほか:J 波症候群
医学出版社
3)矢崎義雄 ほか:心電図を読む
改訂版)メジカルビュー社
2011 改訂版
2004
(Heart View 新装
不整脈
ほか:(新)目で見る循環器病シリーズ
2007
ほか:(新)目で見る循環器病シリーズ
2005
6)池田隆徳
ほか:レジデントノート Vol.12 No.2
心電図の読み方、診かた、考え方
7)青沼和隆
羊土社
2010
ほか:新・心臓病診療プラクティス
不整脈を見る・治す
文光堂
2009