日本金属学会誌 第 78 巻 第 3 号(2014)109116 Ti1-xCrxOz の作製およびその組織と熱電特性の解析 相 楽 勝 裕1, 魯 云1 菊 池 優 汰1, 小 椋 慧1, 吉 田 浩 之2 浅 沼 博1 野 末 貴 裕1, 1千葉大学大学院工学研究科 2千葉県産業支援技術研究所 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 3 (2014), pp. 109 116 2014 The Japan Institute of Metals and Materials Fabrication of Ti1-xCrxOz and Analysis of Its Microstructure and Thermoelectric Properties Katsuhiro Sagara1, , Yun Lu1, Yuta Kikuchi1, , Takahiro Nozue1, , 1, 2 1 Satoshi Ogura , Hiroyuki Yoshida and Hiroshi Asanuma 1Graduate 2Chiba School & Faculty of Engineering, Chiba University, Chiba 2638522 Industrial Technology Research Institute, Chiba 2630016 To obtain Ti1-xCrxOz, mixed powder of TiO2 and Cr powders was sintered in a graphite die by spark plasma sintering (SPS). The composition and the microstructure of the sintered compacts were examined by XRD and SEM. In addition, the thermoelectric properties of the sintered compacts were measured, the relationship of the thermoelectric properties and phases was also discussed. The results showed that the multiphase with compositions of TinO2n-1, TiCrO3 and Cr was obtained. The phases formed in a transformation from the rutile type TiO2 to TiCrO3 with the reduction during SPS and an increase in Cr additive fraction. The electrical resistivity of the sintered compacts greatly decreased due to an increase in Cr additive fraction. The thermoelectric performance of the sintered compacts was enhanced obviously, and the largest power factor of Ti1-xCrxOz with x=0.25 reached 0.57 mW/K2m at 973 K. [doi:10.2320/jinstmet.J2013071] (Received October 29, 2013; Accepted December 5, 2013; Published March 1, 2014) Keywords: titanium oxide, thermoelectric property, metal addition, shear structure, Magnáeli phase ォノン熱伝導率 kp の和であり,キャリア熱伝導率は次式の 1. 緒 言 WiedemannFranz の法則に従う. 1 r (3) p2 k2B 3 e2 (4) kc=LT 地球温暖化やエネルギー資源の枯渇,また東日本大震災に よる原子力発電所の事故などから,安全で持続可能なエネル L= ギーの有効利用は喫緊の課題となっている.こうした背景か ら,直接かつ相互に熱エネルギーと電気エネルギーを変換で ここで, L ( 2.44 × 10-8 WQ / K2 )はローレンツ数であり, きる熱電材料は,未利用熱エネルギーの有効利用や小型・分 理 論 的 に 式 ( 4 ) か ら 求 め ら れ る . ま た , kB ( 1.38 × 10-23 散型の発電システムへの応用ができるものとして注目され, J / K )はボルツマン定数, e ( 1.60 × 10-19 C )は電気素量であ 活発に研究・開発が行われている18). る.式( 3 )から,電気抵抗率とキャリア熱伝導率を独立に 熱電材料の性能は式( 1 )に示す出力因子 P (W /K2m),ま たは式( 2 )に示す無次元性能指数 ZT で評価される. P= ZT= S2 S2 rk 陥や粒界を導入することで,キャリアの散乱(キャリア移動 (1) r T 制御することは難しいことを示す.したがって,材料中に欠 (2) 度の低下)は抑えてフォノンを選択的に散乱(フォノン熱伝導 率の低減)させる必要がある. 近年,不定比酸化チタン TiO2-y( y は 0~1 の還元量)やマ グネリ相酸化チタン TinO2n-1(n は 4 以上の整数)は点欠陥ま ここで,S(V/K)はゼーベック係数,r(Qm)は電気抵抗率, たは面欠陥をもち,さらに電気伝導性をもつ物質であること k ( W / Km )は熱伝導率,また T ( K )は絶対温度である.式 から,熱電材料として非常に注目されている716).マグネリ ( 1 )と( 2 )からわかるように,熱電材料の高性能化には電 相は酸化物結晶中の酸素原子面の欠損による積層欠陥が周期 気抵抗率や熱伝導率の低減,あるいはゼーベック係数の増大 的に配列することに起因して形成するものである.このよう が必要である.一方,熱伝導率はキャリア熱伝導率 kc とフ にして形成したものを shear 構造といい,Fig. 1 に示す模式 図のように酸素欠陥に応じてある結晶面(shear 面)で構造の 千葉大学大学院生(Graduate Student, Chiba University) 変化を起こす17). 110 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻 Fig. 1 Schematic drawing of shear structure, (a) shear planes with a unit cell of rutile, (b) shear structure on (121) plane, (c) shear structure on (132) plane and (d) shear structure on (011) plane. Yamamoto らの報告11) では酸素欠陥と熱伝導率の関係が 詳細に述べられており, TiO2-y の還元量 y を増大させると 酸素欠陥は点欠陥から面欠陥へと遷移し,熱伝導率は効果的 約 0.3 mm ,純 度 99.0 )と Cr 粉末(粒径約 10 mm ,純 度 98)を所定の原子比(x=0.10~0.50)に秤量した. 株) 粉末の混合は遊星型ボールミル( 5 / 4 型,フリッチュ に低減する.さらに,酸素欠陥によってキャリア移動度は低 で,秤量した粉末と直径 10 mm の WC 製ボール 30 個を内 下するが,還元に起因するキャリア密度の増大によって電気 容積 250 mL の WC 製ポットへ封入して行った.なお,粉 抵抗率は低減できる. 末の充填量はポットの内容積の約 1 / 3 とした.粉末の混合 一 方 , TinO2n-1 の ほ か に shear 構 造 を 有 す る 酸 化 物 と 条件は 80 mL のアセトンを溶媒として湿式で 2 h,アセトン し て , TiO2 へ Cr2O3 を 添 加 し て 作 製 し た マ グ ネ リ 相 を蒸発させてから乾式で 2 h,いずれも回転速度 300 rpm と Tin-2Cr2O2n-1 が あ る1721) . こ の 酸 化 物 は TiO2-y や した.ただし,長時間回転させることによる発熱を防ぐた TinO2n-1 と同様の理由で高い熱電性能を実現する可能性が め,湿式混合および乾式混合ともに 10 min 回転させるごと ある15). に 2 min 中断して冷却する時間を設け,ポットの総回転時間 本研究では,TiO2 に Cr を添加することで,高い導電性と が 2 h になるように混合した. 酸素欠陥を有する熱電材料の作製および高性能化を目的とし Ti1-xCrxOz 焼結体の作製は,混合粉末をグラファイト型に て,Ti1-xCrxOz(x=0~0.50,z=2(1-x)-y)を作製した.作 充填して,放電プラズマ焼結(SPSSPS1030,住友石炭鉱 製した焼結体については,組織観察と X 線回折(XRD)によ 株 )した.焼結条件は印加圧力 27 MPa,真空度約 10 Pa, 業 って生成した相を解析するとともに,相の生成機構について 昇温速度 50 K/min,焼結温度 1273 K,焼結保持時間 5 min 考察した.また,電気抵抗率とゼーベック係数を測定し,組 とした.焼結後の冷却は炉冷とした. 織と熱電特性の関係および高性能化について検討した. 組織観察はエネルギー分散型 X 線分光器(EDS)を備えた 株 )で行っ 走査型電子顕微鏡(SEMJSM6510A,日本電子 実 験 2. 2.1 方 法 Ti1-xCrxOz の作製 Ti1xCrxOz の作製にあたり,まずルチル型 TiO2 粉末(粒径 た.また,構造および相の判別には XRD (線源は Cu Ka , 株 )で行った. JDX3530,日本電子 3 第 2.2 号 Ti1-xCrxOz の作製およびその組織と熱電特性の解析 111 XRD パターンを示したものである.なお, Fig. 3 中には, 熱電特性の測定 XRD パターンとともに Cr 添加量 x と生成した相を併記し 熱電特性は,焼結 体から採取した約 40 mm × 5 mm × 2 mm の短冊状試験片を用いて,373~973 K まで 100 K 間隔 た. まず,ルチル型 TiO2 粉末を焼結したものに結晶構造の変 で測定した.電気抵抗率は直流四端子法で測定した.なお, 化はなく,ルチル型 TiO2 単相であった.しかし, TiO2 粉 温度差 DT ( K )に起因する熱起電力 DV ( V )が電気抵抗率に 末は白色であったが,焼結後は黒色に近い灰色であった.そ 及ぼす影響を考慮して,試験片の熱起電力 DV(=SDT)が 0 れらのことから, TiO2 は焼結時に還元され,焼結体はルチ V になった時の電気抵抗率を測定した.また,ゼーベック ル型の不定比酸化チタン TiO2-y になっている7,8). 係数は,試験片に測定温度近傍で 6 K の温度差をつけ,温 Cr 添加量 x = 0.10 の焼結体では,組成像に暗い灰色の 度差を反転させる際の熱起電力を測定し,DVDT 線図の勾 相,明るい灰色の相および白色の 3 相が見られる. EDS に 配から求めた. よる元素分布の分析結果から,暗い灰色の相は Ti と O から なる酸化物相である.一方,明るい灰色の相には Cr, Ti, O 実験結果および考察 3. 3.1 が分散しており,これらの 3 元素からなる酸化物相であ る.また,白色の相は混合時にわずかながら混入した W で Ti1-xCrxOz の組織 ある.XRD パターンと照らし合わせると,暗い灰色の相は Fig. 2 は作製した Ti1-xCrxOz の組成像を,また Fig. 3 は Fig. 2 Ti6O11 のマグネリ相であり,また明るい灰色の相は Ti が一 SEM micrographs of Ti1-xCrxOz sintered compacts. 112 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻 部 Cr に置換された( Ti,Cr )n O2n-1 ( n = 4, 5 )マグネリ相であ と考えられる.XRD パターンと照らし合わせると,暗い灰 ると考えられる. 色の酸化物相は TiCrO3 である. Cr 添加量 x = 0.20 ~ 0.30 の焼結体では,暗い灰色の相, また,いずれの焼結体においても 1 mm 以下の黒いコント 明るい灰色の相および白色の 3 相が見られる. EDS による ラストが多数見られる.この黒いコントラストは空隙であ 元素分布の分析結果から,暗い灰色の相は Ti と O,明るい り,熱伝導率の低減に寄与することが期待できる. 灰色の相は Cr, Ti, O からなる酸化物相である.一方,白色 以上の結果と Fig. 1 の shear 構造の概念図より, TiO2 に の相は Cr である.明るい灰色の相と白色の相の分散から, Cr を添加してグラファイト型の還元雰囲気中で SPS を行う 本実験条件において, Cr はおよそ 5 mm 以下の範囲で拡散 と,以下の機構によってそれぞれの相が生成すると考えられ したと考えられる.また,一部の Cr は酸化物層の中に金属 る.まず,Cr の添加量に依らず C による還元効果によって 相として複合する形で残ったものであると考えられる. 不定比 TiO2-y が生成する.結晶構造はルチル型であるた XRD パ タ ー ン と 照 ら し 合 わ せ る と , 暗 い 灰 色 の 相 は め,生じる酸素欠陥は点欠陥であると考えられる.また, Ti3O5,また明るい灰色の相は TiCrO3 である. TiO2 へ Cr を添加すると,酸化チタン層へ Cr が拡散して, Cr 添加量 x=0.35 および 0.50 の焼結体では,暗い灰色の Cr が分布している周辺に Cr ドーピングマグネリ相酸化チ 相と明るい灰色の相の 2 相が分散している. EDS による元 タ ン ( Ti, Cr )n O2n-1 ( n = 4, 5 ) が 生 成 す る . そ の 際 , 素分布の分析結果から,暗い灰色の相は Cr, Ti, O からなる ( Ti, Cr )n O2n-1 相の周辺では還元と Cr の添加によって酸素 酸化物相であり,また明るい灰色の相は Cr である.Cr の添 欠陥が点欠陥から面欠陥へ成長し, shear 面が生じて n ≧ 3 加量が多くなったことで,焼結体中に Cr が 5 mm 以下の間 の shear 構造を有する酸化チタン TinO2n-1 が生成する.酸 隔で分布するようになり,酸化物相に Cr が一様に拡散した 素欠陥の成長には Cr 添加量が関係しており,Cr 添加量 x= Fig. 3 XRD patterns of Ti1-xCrxOz sintered compacts. 3 第 号 113 Ti1-xCrxOz の作製およびその組織と熱電特性の解析 Table 1 Lattice characteristics of substances. Chemical formula Structure type Ti2O3 corundum TiCrO3 corundum Cr2O3 corundum Cell parameters/nm a=0.515 c=1.354 a=0.505 c=1.365 a=0.495 c=1.360 Cell density/Mg m-3 4.61 4.89 5.24 Consultation: National Institution for Materials Science, AtomWork〈http:// crystdb.nims.go.jp/〉(2013).22) 0.10 では主な相として n=6 の酸化チタンマグネリ相 Ti6O11, x = 0.20 では n = 3 の shear 構造を有する酸化チタン Ti3O5 と TiCrO3,また x=0.25 では Ti3O5 と TiCrO3 が生成する. 生成する酸化チタンマグネリ相は Cr 添加量が多くなるに したがって TinO2n-1 における n の値が小さくなる,すなわ ち Ti : O の比が小さくなる傾向にある.また, Cr 添加量 x ≧0.30 では酸化物相としてほぼ単相の TiCrO3 が生成し,一 部の Cr が反応せずに金属相として残り,TiCrO3 と Cr の複 合相を形成している.なお,Table 1 に示すように,Ti2O3, TiCrO3 および Cr2O3 は同じ結晶構造を有するため,TiO2 へ の Cr 添加量を増やすと最終的に TiCrO3 の酸化物相が生成 すると考えられる. Fig. 4 Relationship between electrical resistivity and measurement temperature of Ti1-xCrxOz. 結晶構造欠陥複合組織のような,原子スケールからメソ スケールまでを含むマルチスケールのバルク熱電材料は高性 能化に有効であることが報告されている3).本研究における 作製方法では TinO2n-1 相,( Ti,Cr )n O2n-1 相, TiCrO3 相お よび Cr 相のマルチスケール構造を有する焼結体が作製で き,高性能熱電材料が期待できる. 3.2 Ti1-xCrxOz の電気抵抗率 Fig. 4 は Ti1-xCrxOz の電気抵抗率の温度依存性を示した ものである.すべての試料において,温度に対して電気抵抗 率が低下する半導体的挙動を示した.また,Cr 添加量 x=0 の TiO2-y の電気抵抗率は 10-2~10-3 Qm のオーダーであっ たが, Cr を添加したいずれの試料の電気抵抗率は 10-4 ~ 10-6 Qm のオーダーまで低減できた.特に, Cr 添加量 x ≧ 0.35 の試料は酸化物相の TiCrO3 と金属相の Cr からなる複 合材料となっているため,電気抵抗率は 10-6 Qm のオー ダーまで低減した. 電気抵抗率の温度依存性を詳細に検討するために,アレニ ウスプロットを Fig. 5 に示す.同図中において, 373~ 473 Fig. 5 Arrhenius plot on electrical conductivity of Ti1-xCrxOz. K の電気抵抗率は破線,473~ 873 K の電気抵抗率は実線で 1 次近似を示した. Cr 添加量 x ≦ 0.10 の試料では, 373 ~ 873 K で勾配がほぼ同じであるため,電気抵抗率の温度依存 を用いることで活性化エネルギー Ea(J)を求めることができ 性は一様であると考えられる.一方,x≧0.20 の試料では, る. 373 ~ 473 K と 473 ~ 873 K では異なる勾配を示しており, 高温側になると勾配が小さくなっている.電気抵抗率はキャ Ln(1/r)= Ea +Ln(1/r0) k BT (6) リア移動度 m ( m2 / Vs )とキャリア密度 nc ( 1 / m3 )に対して次 Fig. 6 は 473~873 K における Ti1-xCrxOz の活性化エネル 式の関係にあるため,勾配の差は温度域によって多数キャリ ギーと Cr 添加量の関係を示したものである.まず,Cr 添加 アに変化が現れることに起因していると考えられる. 量 x ≦ 0.20 の試料では, Cr を添加すると活性化エネルギー 1/ r = e m n c (5) が低下した.活性化エネルギーの低下は電気抵抗率の温度依 次式はアレニウスの式であり,アレニウスプロットの勾配 存性が小さくなっていることを示す.また,この結果を 114 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻 Fig. 6 Relationship between activation energy and x value of Ti1-xCrxOz. Fig. 3 の XRD パターンと対応させると,TinO2n-1(n=3, 6) の生成に起因するものであると考えられる. Cr 添加量を x = 0.30 まで増やすと,活性化エネルギーは Fig. 7 Relationship between carrier thermal conductivity and measurement temperature of Ti1-xCrxOz. 上昇に転じ, Cr 添加量 x = 0.30 で最大値の 16.7 × 10-21 J (0.104 eV)に達した.さらに Cr 添加量を増やすと,活性化 エネルギーは低下した.活性化エネルギーの上昇は TiCrO3 が増えたことに起因しており, Cr 添加量 x = 0.30 でほぼ単 相の TiCrO3 になったことで最大値になったと考えられる. また, Cr 添加量 x ≧ 0.30 での活性化エネルギーの低下は金 属相の Cr が増加したことに起因すると考えられる. 電気抵抗率の低減は,以上で述べたように Cr 添加によっ て効果的に行うことができる.しかし,大幅な電気抵抗率の 低減はキャリア熱伝導率を上昇させ,結果として熱電性能を 低下させる要因になるため,キャリア熱伝導率についても十 分に検討をする必要がある. Fig. 7 は式( 3 )によって電気抵抗率から算出したキャリア 熱伝導率である.キャリア熱伝導率は Cr 添加量に対して高 くなった.また,いずれの試料も半導体的性質を有するた め,温度の上昇とともにキャリア熱伝導率は高くなった. TiO2-y および TinO2n-1 の熱伝導率はおよそ 1 ~ 5 W / Km であることが報告されている1116).Cr 添加量 x=0.10~0.50 の試料の熱伝導率がそれらのものと同等であるとすると,キ ャリア熱伝導率は 973 K においておよそ 0.5~3.8 W/Km で あったので, Cr 添加量が多くなると熱伝導率に対するキャ リアの影響が支配的になると考えられる.特に,Fig. 2 から Cr 添加量 x≧0.35 の試料では金属相の Cr が顕著に確認され ており,キャリア熱伝導率の上昇に強く寄与していることが Fig. 8 Relationship between Seebeck coefficient and measurement temperature of Ti1-xCrxOz. 考えられる.したがって,Ti1-xCrxOz は shear 構造を有する ことからフォノン熱伝導率が低く抑制されていると考えられ るので,低い電気抵抗率によって熱伝導率を上昇させる金属 を添加すると,いずれの試料においてもゼーベック係数は 相の Cr が残らないように Cr 添加量を調整する必要がある. TiO2-y のものより小さくなり,大きいもので Cr 添加量 x= 3.3 ゼーベック係数および出力因子 0.10 の-103~- 156 mV /K,小さいものは x =0.50 の+ 3.2 ~-43.5 mV/K であった. Fig. 8 は Ti1-xCrxOz のゼーベック係数の温度依存性を示 縮退半導体のゼーベック係数は次式で表されるとおり,キ したものである.Cr 添加量 x=0 の試料のゼーベック係数は ャリア密度が増加するとゼーベック係数が小さくなる関係に - 550 mV / K 前後の比較的大きなものであった.一方, Cr ある2). 第 3 号 Ti1-xCrxOz の作製およびその組織と熱電特性の解析 S= 8p2k 2B p mT 3eh2 3n c 2/3 ( ) (7) 115 Cr 添加量が多くなると,出力因子は TiO2-y のものより大 幅に向上した.Cr 添加量 x=0.10 の試料は 373~773 K にお ここで,h(Js)はプランク定数,m(kg)はキャリアの有効 いて 0.08~0.28 mW/K2m であり,いずれのものよりも高い 質量である.本実験条件においては,還元および Cr の添加 値を示した.また, 873~ 973 K では x = 0.25 の試料が最も によってキャリア密度が増加したことに起因してゼーベック 高い出力因子になっており, 973 K においては 0.57 mW / 係数が低下したと考えられる.一方,ゼーベック係数は温度 K2m に達した. の関数でもあるため,いずれの試料においても温度の上昇に したがってゼーベック係数は増大した. Cr 添加による出力因子の向上は,電気抵抗率の大幅な低 減と,-100 mV/K の比較的大きなゼーベック係数に起因す TiCrO3 を主な相とする x≧0.30 の試料については,373 K るものである.973 K における x=0.25 の試料は,酸化チタ におけるゼーベック係数は正の値であったが,温度が上昇し ンマグネリ相と同程度の熱伝導率 1 ~ 5 W / Km1116) である て 390~500 K になるとゼーベック係数の正負が反転し,さ とすると,無次元性能指数は約 0.1 ~ 0.5 に達すると予想さ らに温度が上昇するとゼーベック係数は負の方向へ大きくな れる.一方, Cr 添加量 x ≧ 0.30 の試料では,電気抵抗率の った.本実験結果と同様に,He らや Veremchuk らは Ti2O3 低減は著しいものであるが,ゼーベック係数が小さくなった の温度の上昇によってゼーベック係数の正負が反転すること ことに起因して出力因子が低下した.また,x=0.35 と 0.50 を報告している12,13) .また, Nowotny らは,酸素分圧と温 の試料の出力因子はほぼ同じ値であるが,x=0.50 の試料は 度によって TiO2 のキャリアタイプが反転することを報告し キャリア熱伝導率の上昇が顕著であるため,無次元性能指数 ている10).その際に,電子密度 は低くなると考えられる. ne と正孔密度 p が等しくな ることで,ゼーベック係数は 0 になると考察されている. 前節で述べたとおり,Fig. 5 のアレニウスプロットにおい 結 4. 論 て, x ≧ 0.30 の試料は 473 K 前後の温度域で勾配(活性化エ ネルギー)に変化が現れており,多数キャリアに変化が起き TiO2 に Cr を添加した Ti1-xCrxOz(x=0~0.50)焼結体の作 ていると考えられる.活性化エネルギーと Ti2O3 などの報告 製,焼結体の組織観察および熱電特性の測定を行った.その から,TiCrO3 は 473 K 以下での多数キャリアは正孔である 結果,以下の結論が得られた. が,温度の上昇によって電子の影響が強くなり,473 K 以上 Cr 添 加 量 x ≦ 0.25 の 組織 は 酸 化 チ タ ン マ グ ネ リ 相 では多数キャリアが正孔から電子に遷移したと考えられる. TinO2n-1 ( n = 3, 6 )と TiCrO3 であった.また, Cr 添加量が Fig. 9 は Ti1-xCrxOz の電気抵抗率とゼーベック係数から 多くなると Ti1-xCrxOz 中の O が相対的に少なくなるため, 算出した出力因子の温度依存性を示したものである.いずれ n 値は小さくなった.一方, x ≧0.25 の酸化物相は最終的に の試料においても,温度の上昇に対して出力因子は上昇する TiCrO3 になり,組織は TiCrO3 と Cr の複合相によって構成 傾向にあった.ただし, Cr 添加量 x ≧ 0.35 の試料は 373 ~ されたものであった. 473 K でゼーベック係数の反転があったため,その温度域で 出力因子は 0 mW/K2m 近傍の低い値になった. 電気抵抗率はいずれの試料においても半導体的挙動を 示した.Cr 添加量 x=0 の TiO2-y と Cr を添加したものを比 較すると,電気抵抗率は 2~3 桁の大幅な低減ができ,10-4~ 10-6 Qm オーダーに到達した. 973 K におけるキャリア熱伝導率はおよそ 0.5 ~ 3.8 W/Km であり,Cr の添加と温度の上昇によって電気抵抗率 が低減したことに起因して上昇した. Cr 添加によってゼーベック係数の低下があったもの の,電気抵抗率の大幅な低減によって出力因子は向上した. Cr 添 加 量 x = 0.25 の も のは , 973 K に お い て 出 力 因 子 が 0.57 mW/K2m に達した. 本 研 究 に お い て , 2012 年 度 の 卒 業 生 Muhammad Iskandar Zulkarnain 氏 に 一 部 実 験 の 協 力 を し て い た だ い た.ここに記して謝意を表す. 文 Fig. 9 Relationship between power factor and measurement temperature of Ti1-xCrxOz. 献 1) D. M. Rowe (Ed.): Thermoelectrics Handbook: Macro to Nano, (CRC Press, 2005). 2) G. J. Snyder and E. S. 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Candolfi, X. Feng, U. Burkhardt, M. Baitinger, J.T. Zhao and Y. Grin: Inorg. Chem. 第 78 巻 52(2013) 44584463. 14) D. Portehault, V. Maneeratana, C. Candolfi, N. Oeschler, I. Veremchuk, Y. Grin, C. Sanchez and M. Antonietti: ACS Nano 5(2011) 90529061. 15) S. Harada, K. Tanaka and H. Inui: J. Appl. Phys. 108(2010) 083703. 16) M. Mikami and K. Ozaki: Journal of Physics: Conference Series 379(2012) 012006. 17) K. Kosuge: Futeihi kagobutsu no kagaku, (Baifukan, 1985)(in Japanese). 18) S. Kachi: Butsuri 27(1972) 910922 (in Japanese). 19) S. Andersson, A. Sundholm and A. Magn áeli: Acta Chem. Scand. 13(1959) 989997. 20) R. M. Gibb and J. S. Anderson: J. Solid State Chem. 4(1972) 379390. 21) O. W. Fl äorke and C. W. Lee: J. Solid State Chem. 1(1970) 445 453 (in German). 22) Y. Xu, M. Yamazaki and P. Villars: Jpn. J. Appl. Phys. 50 (2011) 11RH02.
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