フラグ?知らないなぁ… 雲猫’ タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ フラグ?知らないなぁ⋮ ︻Nコード︼ N6481BN ︻作者名︼ 雲猫’ ︻あらすじ︼ ある日友達との会話でフラグを建てまくったらしく、朝起きた ら転生していた⋮。しかも、どんなフラグを建てたかあまり覚えて いない。ちなみに産まれた世界は異世界で中華風な世界。しかも、 私の母親はどうやら側室みたいだ⋮フラグか?何だか嫌な予感がす ると、フラグが建つ気がする⋮。 それに、父親は陛下じゃない! ?マジでかΣ︵゜Д゜︶ あと、私前世は女でしたが、今は男になりました。モウヤダ⋮。 それに、同じ境遇の仲間も見つかり⋮え?婚約者? なら、いっ 1 そのこと偽装結婚しましょうか。そんな訳で、前世男なお姫様が嫁 さんになりました。 暗殺?ちょっとマミィ⋮え?妖怪なの!!? 何だか知らないうちに嫁さんと私は蚊帳の外で話が進んでいく⋮。 その内変態ロリコンまで現れたよ⋮⋮。フラグ何て⋮⋮フラグなん て、へし折ってやる!! てか、フラグ自体あるのか? 本編完結。只今少し長い後日談。この小説は息抜きに書いています。 誤字脱字が多く有ります。かなり遅い不定期更新です。2/21、 かなり似た名前があったのでタイトル変えました♪タグ、妖怪、人 外、恋愛?を追加しました。 2 プロローグ?知らないなぁ 物語にはフラグなんてモノがある。 それは良いモノだったり、最悪の場合、死亡フラグだったりする。 そんな話題を友達と話していた。 恋愛フラグはどうの、あのキャラの死亡フラグはどうすればへし 折れたかとか、多少オタクの気がある友達の話を聞いて私は言って しまった。 ﹁まぁ、現実にはフラグなんてモノがあるワケ無いんだよ。﹂ ⋮⋮今思えば、アレはフラグだったのかな? 何が言いたいのかというと、朝起きたら、赤ん坊になっていた⋮。 突然のことで今、絶賛パニック中だ。 ﹁︵これが、俗に言う転生か?しかもバッチリ記憶もある。︶﹂ 友達の会話でフラグが立っていたのか!? マジでかΣ︵゜Д゜︶ なら、私は一体いくつフラグを立ってたんだろう⋮。友達との会 話で一体いくつのフラグが立っている事か⋮憂鬱だなぁ。 3 はや ﹁まぁ、可愛らしい。貴方はあの人にそっくりね⋮。将来女性達に 持て囃されるでしょうね。﹂ 今、喋っている人は多分、今の私の母親であろう人。儚い感じの 美人さん。この人まだかなり若い。16歳位にしか見えないけど、 もしかして童顔なだけとか? それにさっき、スルーするとこだったあの人って私の父親ですか ね?まだ、会ってないけど⋮嫌な予感がするよ⋮。 ********** さっき、嫌な予感がすると言ったよね⋮アレはマジだった。 ﹁いつ見ても赤子は猿だな。﹂ ハイ、この私に会って早々猿呼ばわりした人が父親です。しかも、 ノックもナシ、母親であろうこの人に労いの言葉もナシにこの一言。 何様だ⋮。 ﹁陛下、赤ん坊と言うのは皆産まれたばかりこの様な顔ですよ。﹂ そうだそうだ!アンタも最初はこんな感じだったんだぞ。今の自 分の顔は見てないけど⋮。猿にしか見えなくても、本人の前で言う なよ、空気よめKY陛下。 4 ⋮⋮? 陛下?⋮陛下!!︵゜ロ゜ノ︶ノ この人が? このKYが!⋮今の私の父親 ですか? マミィよ、確かにこのKY陛下はお顔の作りはとても良いですか、 性格に難アリですよ。こんな性格じゃ、女性も直ぐに離れるよ。気 遣いとデリカシーのない人はモテませんよ∼。 ﹁⋮この赤子を見せるためにわざわざ呼んだのか?面倒な。﹂ わたくし ﹁私は呼んではおりませんよ。大方、陛下の側近達ではないのです か?﹂︵訳、誰かアンタなんて呼ぶか。︶ マミィ 今、気が付いた事。わが母は、儚い外見だが、精神的にはかなり 図太い。KY陛下よりも逞しいのでは無いだろうか⋮。だって副音 声が聞こえたよ。 しかし、KY陛下。アンタさっきから落ち着きないなぁ。何でそん なにキョロキョロしてんのさ。 ひく ﹁まさか、私の気を惹く策略では無いだろうな!﹂ 私の目から見てもそれは無いと思うよKY陛下。それを世間では 自意識過剰と呼ぶのだよ。 それにしても、この二人何歳何だろう。前世の私は二十歳だった けど、二人とも十代前後かなぁ? て、事は、二人とも私よりも精神年齢下なのか⋮。 5 わたくし わたくし ﹁陛下、私の家は貧しき下級貴族。例え陛下の気を惹いて何になり ますか。なにより、私が後宮に入ることを断ったのは知っておいで でしょう。陛下がこの後宮に態々入れたのですから。﹂︵訳、誰か 好き好んでこんな所に来るか。︶ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ なんか、赤ん坊の私をほったらかしにして、ドロドロな話をし始 めたよ。お願いだから勘弁してよ。赤ん坊の目の前でそんなドロド ロなんて、教育上宜しくないでしょ。 しかも、KY陛下が押されている⋮。どうやら軍配は母親にある ようだ。 どうも、母親はこの結婚に乗り気では無かったようだ。⋮私、育 児放棄にされないよね?この母親はそんな風に見えないが⋮。 それに、後宮って事は、他にも妻が居るって事で良いのかな?ド ロドロ愛憎劇の予感がするよ。 わたくし ﹁私の所に居るのがお嫌なら、他の妃の方々の所へどうぞ行って下 さいませ。私はこの子の面倒を見ますゆえ。﹂ マミィ 今の光景は、飼い主に見捨てられた飼い犬、状態。 やれやれ┘︵ ̄ヘ ̄︶┐ KY陛下がマミィの気を引きたいだけなんじゃない⋮?情けないよ ⋮KY陛下。 アンタはそれでも男か!好きなら好きと言えってんだ! 6 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁︵あ∼あ、諦め早いよKY陛下。︶﹂ まぁ、喋れたとしても助 何だか影を背負って部屋を出ていく陛下はとっても可哀想だった。 すまんなKY、私はまだ喋れないのだ。 ける気なんか端からないけどね。 だって、マミィ以外にも奥さん居るんでしょ? いじけるなんて、意気地無し。 ソレナノニ、マミィに気があるから構って欲しいけど、邪険にさ れたら ********* あれから1週間たったようだ。 KY陛下以外に誰も来ない。マミィの世話をする人は居るけど、こ の人達女官らしい。初めて見たよマミィやKY陛下以外。 そーいえばさぁ、ここの人達の格好がさ、何て言うかなぁ、中華 風? それもかなり昔の王朝時代の着物の様な感じの服装で、どう もここは違う世界か、時代を逆行したかのどちらからしい。 のだが、どうも異世界のようだ。何で分かるかって? だって、 7 KY陛下は金髪だからだよ。それに、話す言葉は日本語、月が二つ も有るんだから地球じゃないてしょ? あぁ、そうそう、あのKY陛下さえ来ない。手紙1つ寄越さない。 ホントにマミィに気があるのか怪しくなってきた⋮。ただの私の早 とちりか? どうも私以外に産まれたばかりの子供が居るらしく、みんなのそ っちに掛かりっぱなしらしい。その子の母親がかなり高い身分らし い。私としてはすごしやすいからこのままでも良いけど。 女官達の噂では、KY陛下はいたく気に入っている側室らしく、 産まれた子供も大変可愛がっている様でこっちに来る暇が無いとか。 やっぱり、私の早とちりだったようだ。それにしても、女官の皆さ ん、壁に耳ありですよ。赤ん坊だと思って話していたようてすが、 しっかりあなた達のマミィに対する悪口は記憶しました。 そんなKY陛下の扱いにもどこ吹く風なマミィは﹁陛下が居ない と平和で良いわね♪﹂と花が咲いた様な笑顔で言いました。アレ? もしかして、マミィ黒いの? そんな感じで過ごして居ると、興味深い事を聞いた。何でも、私 はKY陛下、つまり父親に全く似ていないらしく、女官達曰く、父 親が違うのではないかと、噂になっている。 そんな噂にマミィの一言、﹁当たり前でしょう、この子は婚約者 の子なのだから。﹂⋮⋮何て言うかな⋮、あぁやっぱりの一言でし たね。勿論誰も居ない所で言いましたよ。赤ん坊の私に言っても普 通は理解出来ませんよ⋮。 8 それにしてもマミィ、聞こえていたんですね女官達の嫌味。この 人は怒らせてはいけないタイプのようだ。 たくま そんな訳で、肩身の狭い、他の側室達からの嫌がらせやらで逞し く育ちましたよ。ただ今7歳、一番のやんちゃ盛りですが、精神的 には27歳⋮。 KY陛下は、あれから一度も顔を見ていません。私の同い年の弟 が可愛いらしく、私やマミィの事は忘れた様です。 薄情なヤツだな。まぁ、私が全く似ていないからかも知れない。 もしかしてKY陛下⋮マミィに全く手を出してないとか⋮。マミ ィは気が強いからな∼あり得るね。 ﹁︵それにしても、本当の父親は一体誰なんだろう⋮。マミィは教 えてくれない。︶﹂ 一度聞いてはみたが、いつも﹁いつか会えますよ。﹂何ではぐら かすから未だに解らずじまい。それと、マミィと心のなかでは言っ ているが、実際は母上と呼んでいる。ちなみにKY陛下は、陛下呼 びだ。一度しか会っていないのに父上はおかしい気がする。 本当の父親にいつか会えるのならいいけど、頼むからKY陛下み たいな薄情者は勘弁してね。 あっ、そうだ。言ってなかったけど、私、実は⋮⋮ 9 ﹁転生したら男になっていた⋮﹂ ⋮なのだ。きっとオタクの気がある友達ならこう言うだろう。﹁あ ぁ、性転換ものか⋮結構あるよねそう言う話。しかも転生、王子、 不憫、よくあるよくある。﹂絶対言ったよあの子なら。 ⋮⋮⋮⋮⋮せめて普通の家庭が良かった。 ⋮⋮フラグなんて、フラグなんて⋮ フラグなんて知っことかっ!!! 絶対フラグなんてぶっ壊す⋮ ⋮これもフラグにならないよね? 10 陰湿な嫌がらせフラグ?勘弁してよ⋮︵前書き︶ 息抜きに書き始めたこの話。どの方向に行くのやら⋮。でも、B Lには絶対なりません。理由は、BLをどうやって書けばいいか分 からないからです。百合も同じ理由です。 むしろBL 百合も嬉々として読むタイプです。 お気に入りにご登録なさってくれた方、ありがとうございます。! !︵゜ロ゜ノ︶ノ びっくりしております私。 なお、感想などどしどし募集中です。 11 陰湿な嫌がらせフラグ?勘弁してよ⋮ どうも、異世界からこんにちは、私はただ今⋮ ﹁ふん、父上の血を引かぬ紛い物が。﹂ ﹁女の様な姿で気味が悪い。﹂ ﹁お前は要らぬ子だ、さっさと出ていけ。﹂ ﹁︵出て行けるものなら出て行くよ。︶﹂ まぁ、こんな風に兄上達に絡まれている。でもさ、精神年齢27 にはこんなの効かないのよ。いやぁ∼よくやるなぁ飽きもせず毎日、 暇なのかなコイツら。 ﹁おい! 貴様!私の話を聞いていないだろ!!﹂ マミィ きゃんきゃん、よく吠えるこって。こんな風に絡まれる訳は、私 が陛下に全く似ていないからと、母上が下級貴族出身だから。古典 的だよね⋮はぁ∼。 ﹁聞いておりますよ、私が陛下に全く似ていないのでしょう。です が生憎私は陛下のお顔を拝見したことがないので。私の母親の生家 も下級貴族、それ故陛下の姿絵もありませんから⋮私の顔はそれほ ど似ておりませんか?兄上達はお会いしたこともごさいましょう?﹂ 実際は見たことあるけどね。 それに知ってんだよ私は。なにが? 12 実はこの兄上達、私が産まれた位から︵正確には同い年の弟が産 まれてから︶一度も会って無いってこと。兄上達の母親達の焦り様 は凄まじい。鬱憤もさぞ溜まっていることだろう。 でも、その憂さ晴らしにされる身としては堪ったもんじゃない! おい!KY陛下。アンタどういう了見なんだよ⋮。一人の側室に 片寄るとどんな事が起きるかアンタも子供の頃見てきたんじゃ無い のかよ。 ﹁⋮⋮お、オレ、父上に会ったことない⋮⋮⋮﹂ ﹁私とて⋮⋮1∼2回しか会ったことない⋮。﹂ ﹁う、うぅぅぅ⋮うああぁぁぁん⋮﹂ あちゃ∼。言い過ぎたか∼。そうだよな、普通の子供ならこんな 仕打ちされたらそらグレたくもなるわな。まだ、上の兄でも12歳 程度だもんな∼。 父上に構って欲しかったよな∼。 私は、中味27歳の成人だから別に構ってもらいたくないけどね。 ﹁︵コイツらも一応被害者だな。︶﹂ 母親達の醜い争いに巻き込まれ、どれが正しいかではなく、どう やって他者を蹴落とすかを、教え込まれた兄達。でも、自分で気づ かないとダメなんだよ。いくらか私が﹁アレは間違っている﹂と言 っても、結局は母親達の言葉を信じるものなんだよ子供ってさ。一 種の暗示なのかもしれない。 13 ﹁兄上達は、姿絵があるから良いではないですか、私は、顔も知り ませんよ。﹂ 一応フォローはしておく。効果なんて知らないけど。全く、どん どん後宮の雰囲気が悪くなっていく⋮。このままだと⋮⋮いや、止 めておこう、どうもこの7年間私が言ったことがフラグになってし まう様で、要らぬ苦労をしたことも⋮⋮ハァ。 ﹁ぅぅぅっ、うるさい、ぐずっ⋮私は、なっ、泣いてなど⋮⋮っ﹂ ﹁⋮⋮ぐずっ、ひくっ、ずずぅっ、⋮⋮﹂ ﹁ぅぅぅっ⋮ぅぅぅ⋮﹂ なかなか大惨事だね。けどさ、アンタらが私達親子にしてきた事 はもっとえげつなかったよ。 ある日は、料理に猛毒性のモノを混入したり、またある日は、寝 台︵ベットよりも固く寝心地最悪、︶に掛けてあるシーツに毒蛇を ごまんと居たり、そして昨日は暗殺者が侵入してきた。 こんな事がな日常茶飯事な7年間だった。勿論女官は大体敵だ。 他はなるべく関わらないように最低限近寄らない様にしている。 どうやってそんな命の危機に対処してるかって?⋮マミィは教え てくれない⋮気がついたら全部片付いている。不思議な事に、猛毒 を受けても私の身体は何の異常もない⋮私って変だよね? 14 ﹁︵それにしても、どうしよう⋮このままだとマミィの雷が⋮︶﹂ いざこざを起こすとマミィの雷が落ちる⋮このままだと私は、お 説教コースまっしぐらだ。どうにかしないと! ﹁︵でも、コレ、ゼッテェ泣き止まないな∼︶﹂ 日頃ちやほや甘やかされてる兄上達は他人に泣かされるなんて今 までなかっただろう。この3人の兄上達の母親達は皆上級貴族。問 題を起こすとマミィや私が立場的に不利なんだよなぁ⋮ヤバイな。 ﹁︵あぁぁ、私の考えナシィィ︶﹂ 未だに泣き続ける兄上達。今は泣くと言うよりも、泣きすぎて放 心状態の方が合ってるかも⋮ ﹁まあ!王子様方、一体どうしたのですか!﹂ 厄介さんが来たよ⋮ヤバイなこの展開。 ﹁またアナタですか! 一体王子様方に何をしたのですかっ!﹂ 今回は私が泣かせたけどさぁ、いつもいつも私のせいにすんのは なん この人の悪いところだよ。この怒鳴り込んできた人は筆頭女官の厄 介さん⋮じゃなくて、楠さん、私はいつも厄介さんと呼んでいる。 ﹁本当にアナタときたら⋮やはり陛下の血を引かぬ卑しい血が⋮﹂ 15 仮にも王子にそれは言い過ぎではないか? ﹁まぁ、筆頭女官たる者がその様な言葉を幼子に話すとは、品があ りませんね。﹂ マミィ 救世主が現れた!が、かなりお怒りのご様子⋮やはりお説教コー スまっしぐら!?orz ﹁⋮いいえ、この者が王子様方を泣かせておいででしたので⋮﹂ ﹁貴女は、この子達の会話を聞いていたのですか?いくら私達が下 級貴族でも、仮にも王子にその様な言葉を⋮﹂ ﹁聞いていましたとも。あの者は、王子様方に陛下の事をお聞きに なって泣かせてしまったのですよ。陛下の事はこの後宮ては禁句な のに⋮﹂ ⋮禁句だったの?知らなかったよ。女官達の噂や嫌味にいつもあ る話題だったから禁句だったなんて気づかなかった。 コウレン ﹁この子が王子様方に陛下の事を聞いたのですか? それは本当で すか?紅蓮?﹂ コウレン はい、しましたとも。ご免なさい。 ちなみに、紅蓮とは私の名前。でもコレ﹁ぐれん﹂って読むよね。 この名前の由来は私の目の色から、ちなみに髪の色は薄い藤色。結 構気に入っているんだよねこの髪の色。目の色は少し⋮うん。 ﹁ご免なさい母上。兄上達なら陛下の事を知っていると思ったので つい聞いてしまいました。﹂ 16 ﹁そうなのですか?王子様方?﹂ そう言えば、まだ兄上達居たんだった。あまりにも静かになった から存在を忘れていたよ。ははははははっ! ﹁⋮⋮⋮はい、父上の事を⋮聞かれました⋮っ﹂ コウレン ﹁それでは、紅蓮は他に何かお聞きになりましたか?﹂ ﹁⋮⋮いえっ⋮ぐずっ﹂ 何でお前らマミィに対して素直なんだよ。アレか、綺麗な歳上の マミィが初恋なのか?勘弁してよ⋮ ﹁と、言っていますが?筆頭女官様?﹂ ﹁それは⋮⋮﹂ コウレン ﹁子供は他の子達と喧嘩もなさいますよ。それに、コレは紅蓮の配 慮が足りなかった様ですし、﹂ ﹁ね?﹂と、微笑みながら兄上達に首を傾げながら聞くマミィは、 それは綺麗でした。そして、兄上達の顔は茹で蛸見たいに真っ赤だ った。 ﹁それにしても、どうして喧嘩と思ったら仲裁に直ぐに入らなかっ たのですか?筆頭女官様。﹂ 17 したた ただでは起きないマミィだった。将来こんな強かになりたい。 ********* 18 陰湿な嫌がらせフラグ?勘弁してよ⋮︵後書き︶ マミィ 母上強し! 今回はアンチ王道をうまく表現できなかった。 次は、頑張って表現しなくては⋮ ︵;・ω・︶ 19 愛され王子フラグは弟ですね。︵前書き︶ 主人公は図太く、口が悪かったりします。ご注意下さい。 この主人公は、独自の考えです。一般的な考えではないかもしれ ません。 お気に入り登録ありがとうございます。 20 愛され王子フラグは弟ですね。 コウレン ハローハロー、こんちは∼紅蓮だよ。あの大惨事の後、え? 大 惨事ってなんだっけ? それは前回の兄上達の大泣き事件だよ。い やぁ∼あの後大変だったよぉ。何せ兄上達の母親達がカンカンでさ ぁ。土下座しろなんて言い始めてさ。 え? 私のせいだろ? そうなんだよ。だからキチンと土下座し ましたとも。 勿論私だけ。マミィは悪くなかったんだし⋮いいじゃん。しかも マミィの居ない所でマミィ以外全員集合+女官付き。陰険だよね∼ いくら中身が27歳でも、自分の身長よりも高い大人が約10人。 かな∼り恐ろしい。 マミィがそんな場面を見つけちゃってさぁ⋮大変だったよ、⋮ハ ァ。︵ー︳ー;︶ うん⋮⋮。マミィはやっぱり怒らせてはいけない⋮。︵;・ω・︶ でさ、今かなり絶体絶命なんだよね∼。実はさ、とある人が今目 の前に居てね⋮⋮ コウレン ﹁貴方が紅蓮ね? 私は舞子って言います。よろしくね。﹂ この人がKY陛下のお気に入りの側室ですか⋮。なんかぁ∼前世 でよく聞いた感じの名前だなぁ。それにしても、マミィに先に挨拶 するのが礼儀の筈では?さりげにマミィを視界に入れてないのは気 のせい? 21 にっこり笑った顔は確かに万人受けしそうな、いかにも可愛いく レイシュン て保護欲をそそる様な感じの逆ハーのヒロインって感じだよ。 まいこ ﹁まぁ、初めまして舞子様。私は麗春と申します。﹂ レイシュン 今更だけど、マミィの名前が麗春なんです。とても綺麗な名前で マミィにとっても似合っていると思う。 名前の由来は、春を連想させる若草色の瞳かららしい。良いなぁ ⋮私もそんな目の色だったら良かったのに∼。ちなみに、髪の色は 私と同じ薄い藤色なんだよ。 って事はさ、父親が赤い目って事だよね⋮。 レイシュン ﹁⋮⋮そう。どうも初めまして麗春さん。そしてこの子が⋮﹂ 何だろう、なんか変な間があったような⋮。それに、後ろで隠れ ているのは誰? ﹁は、初めまして⋮﹂ あぁぁ、あのお気に入りの王子か⋮。何でそんなに隠れてんだよ ⋮。なんかめんどくさそうだねこの子。 コウレン それにしてもKY陛下に瓜二つだね。この子の将来が心配だよ。 タイガ ﹁この子は大雅。確か紅蓮と同い年だったでしょ? この子の言い 遊び相手になると思って⋮。﹂ 22 子守は正直、勘弁なんだけど。何で私にそんなことを⋮⋮。それ にさ、拒否されないの前提に話してるよね? 確かに日陰親子だけ どさ、私ら。 KY陛下のお気に入りとは天と地の差が有るけどさ ∼。 はいそうですか∼じゃ納得いかないのよ。なんせ私マミィに習い 事たんまり用意されてて暇ないのよ?他の兄弟達見たいに遊んでば ご免なさい。紅蓮はコレから習い事が有るので、ご一緒出来ま コウレン っかじゃ無いんだからさぁ。 ﹁ せん。また後ほどお誘い下さい。﹂ ナイスマミィ! それに、今更子供の遊びなんてしたくないしね ⋮。 コウレン ﹁⋮で、でも、子供だもの、もう少し遊んだ方が良いですよ。絶対 !ね?紅蓮もそう思うでしょ?﹂ そこで何で私に話をふる。そんな顔しても﹁うん﹂なんて言わな いよ。 ﹁私は習い事が良いです。色々な事を知るのは楽しいです。﹂ ﹁⋮ダメだよ、子供がそんな事を言っちゃ⋮。ほら、皆で遊びまし ょう?﹂ なんか、嫌な感じ⋮⋮。分かんないかなぁ。私達親子がアンタら と居るとこっちが大変なんだよ。それに皆って兄上達も入るなら尚 更嫌だ。 23 ハイエナ 何せ、誰も見向きもしない、気にかけてくれる人も無し。おまけ に何かあると直ぐに突っかかって来る義母達がいるしで⋮。ほっと いてよ⋮。 コウレン ﹁舞子様。差し出がましいのですが、紅蓮の趣味は、書物を読むこ と⋮﹂ ﹁ほら、やっぱりダメだよ、外で遊ばないと!﹂ ⋮⋮︵゜ロ゜︶ バカだ、いや、鈍感さんが居るよ。マミィの話 を遮ったりしたらどうなるか⋮⋮。 コウレン ﹁舞子様。話を遮るのは少々無作法では?それと、さっきの続きで タイガ すが、紅蓮の趣味は書物を読むこと、武術の稽古ですよ。﹂ コウレン ﹁す、凄いね∼紅蓮。なら大雅にも教えてくれないかしら?﹂ だから、何で私に話をふる。それにさマミィを無視しなかったか ⋮今。 タイガ ﹁お言葉ながら、大雅様はまだお早い様に思います。﹂ 手加減なんて出来るほど強くない私にどうしろと。怪我でもさせ たら堪ったもんじゃないよ⋮。勘弁してよね。 ﹁でも、始めるなら早い方が良いでしょ?﹂ おっしゃっ ﹁それならば、陛下に仰ってみればよいのでは? きっと武術の専門家を師に着けてくださいますよ。﹂ 24 そうそう。私の場合、マミィが武術の師匠だから、あまり表沙汰 に出来ないのよ。 だから早く諦めてよ。 ﹁そーね。その方がいいかも。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ 諦めたようだ⋮ふうぅ。⋮⋮ん! ﹁⋮⋮あの、何でダメなの?﹂ ⋮⋮はぁ? 何言ってんのコイツ。相手側が都合が悪いのだから むし 仕方ないだろ。 寧ろ何でそこで﹁何で﹂が付くんだよ。 ﹁僕のこと嫌いなの?﹂ 今、嫌いになったよ。我が儘。 ﹁︵ここは穏便にした方が良いですかね?︶﹂ ﹁︵本当の事を言ってしまいなさい。︶﹂ マミィからのゴーサインが出たのでハッキリ言いましょう。 ﹁嫌いです。誰よりも絹にくるまり、暖かい場所に在るのにまだ何 か足りないのですか?﹂ 何よりも、この親子が嫌いだ。この後宮に現状にも気付きやしな 25 い。気づいていて何もしなかったのなら尚更嫌だ。 ﹁両親の愛情を一身に受けてさぞや良い心地でしょう。でも、アナ タは兄上達に対するアナタの父上の態度を知っていますか?﹂ タイガ ﹁兄上達に対する父上の態度?﹂ コウレン ﹁紅蓮、そんなことは大雅に話さないで!﹂ やっぱり知っていたのか⋮ ﹁やはり知っていたのですね。舞子様。では尚更知るべきですよ。﹂ タイガ ﹁大雅様。アナタの父上はアナタに何日会いに来ない日が有ります か?﹂ タイガ ﹁ねえ大雅今日はもう疲れたでしょう?もう部屋に帰りましょ?﹂ ﹁何を慌てになっているのですか?﹂ マミィの援護射撃でこの親子を足止めしてもらっている内に言っ てしまおう。 ﹁実は、私は一度も陛下にお会いしたことが有りません。私は確か に陛下にお会いする程の地位は有りません。ですが、兄上達は、望 めば陛下にお会いで来るでしょう。なのに、兄上達まで陛下にお会 いしたことが有りません。合っても2∼3回程だそうですよ。 ﹁そ、それは⋮⋮﹂ 26 何か知ってよねコレは⋮。 その後もこの後宮で起きた出来事をダイジェストにして話しまし たよ。どうして気がつかないかをさらっと言ったり。 弟くんは始終黙りだったけどね。 でもね、いつかは知らなきゃいけない事なのよ。知らないと後で 苦労するよ。 まぁコレでこの後宮ともおさらばになるかな♪だってさ、血の繋 がらない王子がいても良い訳無いし。こんなにお気に入りの側室と 王子が嫌味なんか言われたら怒るでしょ?多分。 それとさ、 ﹁貴方が⋮もしも王子ではなかったら、今周りに居る者の何人がア ナタを支えてくれますか?﹂ 今の地位が有るからちやほやされんだよ⋮。それもいつかは気づ くよ。 あ∼、言いたいこと言ったら清々したよ。この7年間ストレス溜 まっていたもの良いストレス発散になったよ。 実は、この暴露かなり前からマミィと計画してました。ヽ︵ ̄▽  ̄︶ノ 何だかこの頃後宮内がどうもキナ臭い。コレは争奪戦勃発かな。 27 何が? 王位継承権の争奪戦だよ。実はさ、この国は女性でも王位継承権 が有って、王妃の産んだ子供以外は、性別、母親の生家の地位は関 係なく産まれた順番で決まるのだ。 なので私は、全兄弟の5番目に産まれたから継承権は5番目なのだ。 かなり命がヤバい。 かね ので、マミィと予てより計画していた後宮脱出計画を実行したの だ。  ̄▽ ̄︶ その後、KY陛下が7年振りに怒鳴りこんできた。そこですかさ ずこう言ったり。 ﹁あなたは誰ですか?﹂ 妙に落ち込んでた。なんでだ?まぁいっか。ざまぁ︵ 28 愛され王子フラグは弟ですね。︵後書き︶ 才能がほしい。と、切実に思います。 キャラクターが勝手に動いてしまう。 この話しは、結構適当な世界観なので細かい設定はありません。 主人公の考えも、ただフラグを折りたいのか、憂さ晴らししたいの か作者にも解りません。 ︵´・ω・`︶ 29 なんのフラグ?⋮回避失敗?︵前書き︶ マミィの本性が明らかに⋮。 お気に入り登録ありがとうございます。 この主人公は決して頭が良い訳ではございません。ちょっと自分 主義な部分があります。 30 なんのフラグ?⋮回避失敗? やあ、皆さん。今ね、KY陛下が部屋に来ているのだけど⋮⋮ ﹁どういう積もりだ! ﹂ うるせぇなぁ∼。いきなりでノックもまた無しかよ⋮。7年経っ ても進歩ねぇーなKY陛下。ちなみに、KY陛下は現在27歳、私 の精神年齢と同い年だったりするのだ。子供なんだね、きっと。 ﹁⋮⋮⋮﹂ どうもこうも⋮ねぇ? ﹁陛下⋮﹂ にっこり笑うマミィのお顔はとっても綺麗で⋮マミィをよく知っ ていれば、この顔は何か企んでいると気が付くだろうが⋮KY陛下 じゃ気付かないだろうね。 案の定、笑顔に騙されてるよ♪ わたくし ﹁私は言いましたよね?﹂ ﹁なんの話だ?﹂ マミィはKY陛下に私が生まれる前に言ったそうだ、 わたし ﹁私を後宮のゴタゴタに巻き込むなと、言った筈だよな?﹂ 31 ⋮⋮うん、コレ、マミィの本性。一応体裁を見繕っていたのだ。 ホントは私よりも口が悪かったりする。ちなみに、武術の稽古では、 男さながらな言葉を使っている。 ﹁いや、その⋮だな。あれは⋮﹂ さっきまでの威勢はどこ言ったよKY陛下さん。いきなし弱腰な んて⋮。 コウレン ﹁言い訳なんか聞きたくない。こっちはなぁ⋮紅蓮が猛毒盛られて んだよ!! この子のが死んだら、お前どう落とし前つける気だ! 半端ないよマミィ。ホントに私が7歳の子供だったらトラ あ゛あ゛ぁ!!﹂ 迫力 ウマ並みのお顔ですよ。何でもマミィの家は貴族と言うよりも平民 だったらしく、住んでいた場所もかなり治安が悪かったんだとか。 なのでマミィは並みのチンピラよりも強くないといけなかったらし い。苦労してきたんだねマミィ⋮︵´・ω・`︶ いつか私が大きくなったらマミィに楽させたいな∼。⋮でも、マ ミィかなりアクティブだからさぁ、家でおとなしくなんか絶対にし ないだろうなぁ。 ﹁おい⋮聞いてんのか?﹂ ﹁は、はい。﹂ いつの間にかKY陛下が正座しながらマミィの話を聞いていた。 32 腰低いな∼。やっぱりマミィ強し。 ﹁しかしな、舞子はお前達に嫌味を言われたと⋮﹂ ﹁えぇ、言ったけど。それが?﹂ ﹁彼女はか弱いんだぞ。何もあんな⋮﹂ ここ ﹁か弱いのなら、部屋から出さずに閉じ込めて置けば良いでしょ。 後宮がどれだけ危ない場所か、解らないなんてあり得ないでしょ? それとも、自分の側室達が住む場所がどんな場所か解らないなん て⋮無いでしょうね?﹂ マミィ 般若の迫力にKY陛下の顔が青ざめていく。でも助けないから。 こっちも怨みとかあるんだから。 あれは忘れもしない⋮私の可愛い⋮愛犬のポチ⋮。あの子は私を 庇って暗殺者に飛びかかって⋮掠り傷が出来たんだよ! バカども しかも、掠り傷が治ってもソコだけ毛が生えなくなったんだよ! おかげてあんの兄上達に間抜けとか言われたんだぞ!!︵ノ`△´︶ ノ ﹁ポチの敵⋮﹂ コウレン ﹁そうよ、家の愛犬だって怪我して紅蓮がどれだけ落ち込んだか⋮ 覚悟は出来てるか⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮す、すまん﹂ 33 ﹁﹁あ゛あ゛ぁ!!﹂﹂ ﹁すいませんでした!?﹂ ひれ伏すがいい!!ふははははぁ⋮⋮ てき ふう。あー、すっきりした。あの後マミィが、この7年間の愚痴 や嫌味、不満なんかを外の扉の向こうに張り付いているだろう女官 にまでバッチリ聞こえるほど大きな声で話していた。バッチリ聞こ えていただろうね。 今までマミィが猫被ってた訳なんだけど⋮、マミィの父親を盾に KY陛下に脅されたんだって。許すまじKY陛下。 ここ マミィの父親、私にとってはじいちゃんには会ったこと無いけど、 去年亡くなったらしくて、マミィが後宮に留まる理由が無くなった。 だからこの計画を実行した訳なんだよ。︵´・ω・`︶ 一度でいいから会ってみたかったよじいちゃんに。面会を申し込 んでたらしいけど、あの厄介さんこと、筆頭女官が握り潰していた。 隠密行動は得意なんだよ私は。 それに後宮って隠し事なんて到底出来ないんだよ。 部下の責任は上司の責任でしょ? ここ ここ だからさ、⋮早く後宮から出てっても良いでしょ。後は好きにす れば良いよ。元から戦場だった後宮はもっと激化するだろうけど。 私は知らない。 だって、私は聖人でも偽善者でもないんだし。それにさ⋮ 34 ︵こんな所で潰れる様なら、王なんて勤まらない︶ こんな子供の私に何ができる。 ここに居たら死亡フラグでしょ? ⋮⋮ん? あれ⋮もしかして、KY陛下苛めすぎて極刑なんて⋮ 無いよ⋮ね? ヤバくね? 私とマミィヤバイよね⋮。 絶対嫌、勘弁してよ。 極刑なんかになったら後宮半壊させてでも逃げ出してやる∼。勿 論ポチも一緒にね。 KY陛下がマミィ︵私もマミィを止めららないよ。何せマミィは 武道派だし。︶にケチョンケチョンにされてから3日後、何故か驚 く話が持ち上がった。良かった極刑フラグは無かったよ。 でも、それが後々のフラグになるなんて⋮この時は⋮⋮⋮ねぇ、 コレってフラグになるよね? なんかフラグ建てたかも⋮⋮⋮︵ノ︳<。︶ 35 ⋮⋮⋮⋮フラグをへし折る筈だったのに、自分でフラグ建てたよ。 私のバカァァ∼!!︵ノ︳<。︶ 36 なんのフラグ?⋮回避失敗?︵後書き︶ マミィ ふつうの主人公は、後宮が戦場の場合、母親が先に死んでしまう 事があると思います。なので、母親は強い御方にしてみました︵  ̄▽ ̄︶ どれ程強いかと言うと、熊でも武器さえあれば勝てるくらいです。 お、恐ろしい︵︵︵・・;︶ 37 人物紹介︵ネタバレあり︶︵前書き︶ 前書きと後書きを書き忘れていました。 えっと、お気に入り登録ありがとうございます。 それに、感想ありがとうございます。 投稿日時にばらつきがあると思いますがコレからもヨロシクお願い します。 今回は、簡単な説明です。後、ちょっと裏設定なんかも少し。 これは4話時点でのことです。 38 人物紹介︵ネタバレあり︶ コウレン 主人公・紅蓮 マミィ 読み的にはグレンなんだけど、母親が強引につけたとか。前世で 友人との会話でフラグを乱立した為か、異世界に転生していた。若 干ずれた感覚を持っているため7年間の陰湿な嫌がらせに耐えた。 猛毒を飲んでも何ともない程頑丈な体を持っているため死なずに すんでいた。 女だった前世のせいで最初は戸惑いも有ったようだが、7年間で 慣れた模様。結構図太い性格。 知識欲に目覚めたらしく読書と武術を習うのが趣味になった。勿 論師匠はマミィだったりする。 精神的には女性、身体は男の現状から恋愛は諦めているようで、 精神百合、BLフラグを回避したいと、切実に考えている。 マミィ 外見は、母親似ではないがまるで少女の様に可憐で身体も細い。 そのため、兄たちによく馬鹿にされた。が、大して気にしていない 模様。が、この外見がBLフラグに成らない事を祈っている。 髪は母親似の薄い藤色。目は紅。髪の色は気に入っているが目の 色は少し気にしている様だ。 前世で建てたフラグを折ることを誓っている。 39 精神年齢27歳 現年齢7歳 ちなみに、血の繋がりはないが、上に兄が3人、姉が2人、下に レイシュン 少なくとも、少なくとも、8人は居る。王位継承権第五位。 マミィ 母親・麗春 主人公を16歳の頃に産んだ母親。主人公は心の中でだけマミィ と呼んでいる。後宮に入る前、婚約者が居たようで、主人公の父親 は彼らしい。 例え、陛下だろうが、上級貴族だろうが、嫌なことはしないお人。 陛下に迫られても投げ飛ばしたとか⋮。かなり心身共に強い御方。 並みのチンピラよりも遥かに強い。猫被ってた。 外見だけは儚げな美人。主人公と同じ薄い藤色。目は明るい若草 色。 かなりの策略家でも有るようで、大体のことは切り抜ける。 ただ今主人公と共に後宮脱出計画画策中 現在23歳とても子持ちには見えない。 父親?・あの人︵本名不明︶ 主人公の父親。詳細不明の謎の人。マミィの婚約者だった。現在 40 は行方知れず。 主人公の外見は父親似らしい。髪の色不明、目の色は主人公と同 じ紅。 主人公の外見から推測すると、かなりの美人。猛毒を飲んでも何 ともない程頑丈な体らしく主人公はその頑丈さを受け継いだ。 王・陛下︵名前不明︶愛称︵主人公限定︶KY陛下 マミィ なび 行動がイマイチよく解らない王様。後宮に乗り気ではなかった主 人公の母親を無理矢理入れた張本人。それでいて自分に靡かないと いじけるお子ちゃまな面もある面倒臭い人。 後宮には現在20人の側室がおり、7男8女子供がいる。 KY陛下自身は王妃の子であったために他の優秀な兄弟を差し置 いて王位に就いた。その為に子供の頃は後宮には住んで居なかった ため、どういった闇が有るから今でもしらない様子。 余談だか、お気に入りの側室、舞子が懐妊した当時、浮気をし ていた様で、その後立て続けに男の子2人に女の子6人産まれた。 顔は良いが性格でモテないタイプ。優柔不断、浮気性、女好き、 飽きやすいなど、女の敵。まさにKY。 KY陛下のお気に入りの側室・舞子 41 何だか色々謎な部分がある側室。 少々KY気味。世間知らずな面が目立つ25歳らしい。出身、経歴 一切不明だったが、KY陛下が見初めたため後宮入りした。最近K Y陛下とすれ違い気味らしい。 どうやら、上級貴族の養女になってから後宮入りしたようで、実 質一番の王妃候補。しかし後宮内では格下︵子供を産んだ順で決ま る暗黙のルール︶。だが、遠慮なしな立ち振舞いをする。 タイガ どうも主人公に構いたいようで、息子大雅と共に後宮を彷徨いて いたらしく、他の側室を結果的に挑発することになったと言う裏設 定がある。 外見は、黒髪に黒目のアジア系の出で立ち。ふわふわした守って あげたくなる様な雰囲気。 どうも、KY陛下の浮気性には気が付いてない。自分の息子より もしたの兄弟の存在を知らない。 タイガ 第五王子・大雅 KY陛下のお気に入りの側室舞子の息子。今まで舞子やKY陛下 に甘やかされ気味で世間知らずに。甘えたがりで何故か主人公に構 ってもらいたいらしい。 甘やかされていた割りに直らしく女官受けもいい。ハーレム属性 の疑いあり。 顔立ちは、父親KY陛下にそっくり。 42 実は主人公は、この弟が自分よりもフラグが有るのではないかと、 将来が楽しみな様子。︵自分のフラグ回避のため︶ 43 人物紹介︵ネタバレあり︶︵後書き︶ コレからもキャラが増えていきますが、随時更新すると思います。 ちょいキャラ達は多分書かないかも⋮。 リクエストがあればちょいキャラ達の説明も書くかも。主人公の大 泣きした兄達とか、その母親とか。 44 婚約者フラグ?勘弁してよ⋮︵前書き︶ お気に入り登録してくださった方々ありがとうございます。 また、ここまでお読みくださった方々もありがとうございま。m ︵︳︳︶m 何だかどんどんキャラ達の暴走が制御出来なくなってきました。 自分の才能の無さを痛感しています。 45 婚約者フラグ?勘弁してよ⋮ ハロー⋮。皆元気ですかー。私はあまり元気じゃない。理由?じ つはさー コウレン ﹁と、いうわけだ。紅蓮、お前は隣国の末姫と結婚してもらうぞ。 反論は無しだ!﹂ ⋮⋮はぁ⋮。フラグはこれだったのかなぁ⋮。 コウレン ﹁どうした、紅蓮。末姫は将来絶世の美女と噂の姫だぞ、喜べ。﹂ アンタじゃないんだから、喜べるか! こちとら、精神的にはまだ女なんだよ! 精神百合とか、無理だからぁ⋮だからと言ってBLも無いからね! ⋮はぁ⋮。 ﹁今、末姫はお前の部屋に向かっているだろう。機嫌を損ねぬよう にな。﹂ 楽しそうに笑っていやがるKY陛下⋮。ゼッテーいつか泣かす! てか、何で一国の姫様をあの狭い部屋に向かわせた! 国の威信とかあるでしょ∼がっ! 狭い部屋に案内しなくてもいいだろ! 機嫌を損ねるな? だって⋮お前が損ねさせてるんだよ。 これ 46 も嫌がらせか、オイ。 こんな時こそ、後宮の無駄にあるだだっ広い部屋の一つ位貸せよ ⋮。 ちっ!! 気の気かねぇ⋮。 それにヤバイぞ、マミィは可愛い物好きだ。もしもしマミィに見 つかったら⋮着せ替え人形にされるな⋮。 今更だか、今私は⋮この馬鹿KY陛下に呼ばれて一人コイツの部 屋に来ている。多分だか、末姫の話から察すると、隣国の噂の白の 国の末姫なんじゃないかな? 何でも、夜泣きもせず、笑わない、表情が乏しいとか。姫だから って社交的とは限らないし、私の前世含め夜泣きなんかしなかった よ。無表情?ポーカーフェイスなだけなんじゃないのか。それだけ で不気味がられるなんて⋮。 どうやら厄介払いされたらしい、私も末姫も。KY陛下め、私や マミィはまだしも、他国の王族まで巻き込んだのか⋮。 ﹁⋮陛下。﹂ ﹁なんだ。﹂ 嫌味の一つも言っても良いよね?勿論ホドホドにね? ﹁畏れ多くも、私が隣国の王族と婚姻を交わすのはどうかと思われ 47 ます。我が国には私よりも年上の兄上達が3人もおります。何故、 私に白羽の矢が立ったのですか。﹂ そう、上の兄が3人。しかも、この国で結婚は12歳程からなの で、一番上の兄が適性だと思うのだ。 勿論例外もある。例えば親が認めた場合は何歳からでも結婚出来 るのだ。実際、平均な結婚年齢は10歳。わたしもこのままだとわ ずか7歳で所帯持ちになるよ⋮⋮。 阻止せねば!!Σ︵゜Д゜︶ ﹁⋮⋮いやな、先方の指名なんだよ⋮。﹂ 指名?なんだよそれ。 その後はどうでも良い話だったので割愛。 ﹁ρ︵・・、︶﹂ なんかKY陛下がいじけていたけど、どうでも良いよね∼。 *********** 48 今、私は、急いで廊下を歩いている。走っているような速さで。 ﹁︵部屋にもう着いている頃かも知れない。︶﹂ どうにかして隣国に帰ってもらわないと⋮。精神百合とか⋮私に は無理だよ!! 自己新記録の速さで部屋に着いた⋮。 そこで見た光景は⋮⋮⋮ ﹁この服も似合うわね♪﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁可愛い∼! これも似合うわよ!!﹂ 着せ替え人形にされた私と同じくらいの女の子が泣きそうな顔で 固まっていた⋮。 うん、マミィの迫力と押しの強さにドン引きしてんだよね。 ﹁か、母さん? その子は⋮﹂ コウレン ﹁あら、お帰りなさい紅蓮。この子可愛いでしょ♪ 私女の子が欲 しかったのよ∼♪﹂ コウレン ﹁勿論、紅蓮も大事だけれどね♪﹂なんて言ってまた着せ替え遊 びを始めようとしたので、慌てて止めた。 止めたらマミィがちょっと拗ねた。事情を話し末姫さんも含めて 49 作戦会議を始めた。 ﹁成る程ね∼。それは十中八九、私たちに対する嫌がらせね。﹂ ﹁言い切ったね。でも、王族の姫を巻き込んで嫌がらせなんかしな いでしょ?﹂ ﹁あの、陛下ならやりかねないわね。何せ、あの、陛下何だから。﹂ ﹁でも、あの、陛下でもまさか他国の王族を巻き込んだり⋮﹂ ﹁あの、すいません。お、私母国から厄介払いされたのでアリです よ。﹂ ﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂﹂ ﹁⋮⋮あの、⋮⋮﹂ あの馬鹿な無能KY陛下がっ!! か弱い少女を嫌がらせの為に結婚させる気だったのか!本気で⋮ 許すまじあの女ったらし⋮⋮いつか切り落としてやる。 ﹁すみません。﹂ ﹁あなたのせいじゃ無いわよ。﹂ ﹁そうそう。﹂ 50 全くだよ、なんのアホが⋮。 何でも、この末姫様は母親が亡くなったのを皮切りに扱いが酷くな ってきたらしく、国外追放紛いな形でこの国に来たとか。 ⋮⋮ねえ、もしかして⋮この子がこの物語の主人公なんじゃね? だって、こんなに不憫だしさ。まさに主人公だよね。なら、私は差 し詰め無理矢理嫁がされた国の王子な役割なんだね。よくいる苛め たりするヤツ居るよね。私は苛めたりしないからね! ⋮でもさ、これで他のハーレムフラグとか面倒臭いフラグは回避 出来るかも♪ タイガ この子が主人公なら。それに、愛され、溺愛フラグが建っている弟 の大雅が居るから更に回避しやすくなるよね? コウレン ﹁あら、お茶菓子が切れた。紅蓮、私はお茶菓子を持って来るから、 彼女と少し待っていてね。﹂ ちょっ!! マミィー!! こんな状況で二人っきりにしないで ぇ∼。何を話せば良いのか分かんないから!!Σ︵゜Д゜︶ 51 婚約者フラグ?勘弁してよ⋮︵後書き︶ 思うがままに書いているこの物語のは何処まで行くのか自分にも 解りません。 ︵ ̄▽ ̄;︶ コウレン 紅蓮はこのフラグを果たしてへし折れるのか⋮ 52 婚約者通り越して、結婚フラグに進化した!? その1︵前書き︶ タイトル通り分割します。 53 婚約者通り越して、結婚フラグに進化した!? その1 コウレン ヘローエブリワン。私、紅蓮です。ただ今、お茶菓子を取りに行 ってしまったマミィに、お見合いによくある﹁後は若いもの同士で ⋮﹂の状況にされて、隣国の末姫様と二人っきり状態。非常に気ま ずい⋮。 ここは、身体的に男、立場的にもてなす側の私が話をフッた方が 良いのだか⋮。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 無理。共通の話題も無いのにどう会話を成立させれば良いのか分 からん。 コウレン でもなぁ、このままだとこの子と結婚しないといけなくなるし⋮。 ん? 有るじゃん、共通話題! き ﹁私は、この国、﹁黄の国﹂の現王が6子、第5王子、紅蓮と申し ます。﹁白の国﹂より遠路はるばるお越し下さりました。旅の疲れ もあるでしょう、こんな狭い部屋では寛げはしないでしょうが、ど うぞごゆるりと。﹂ これでいいんだったかな?もてなす側なんて初めてだからよく分 からん。 54 ランメイ でも﹁自己紹介されたら自分もするのが礼儀﹂を叩き込まれている はず。王族なんだし。これでひとまず話を始められる。 ﹁⋮ご丁寧にありがとうございす。 ランメイ お、⋮私は白の国より参りました。現王が3子、二の姫、藍苺と申 します。﹂ ランメイ 一応婚約者︵仮︶の末姫の名前が判明した。藍苺と言うそうだ。 その後藍苺姫は﹁えっと、⋮⋮﹂と俯いて黙ってしまった。内気な のか? こうなったら、猫被りなんかやめて本題を言ってしまおう。国の 威信なんか知ったことか! もう知らん。私は気が短いんだから!! ﹁二の姫、率直に言います。国に帰ってください。私は誰とも結婚 する気はありません。﹂ この子には悪いけど、中身女なんですよ私。例え男でも精神年齢 27⋮⋮片や、推定7歳前後⋮⋮ロリコンじゃないんだから無いよ ∼。 ﹁それは⋮、でも、﹂ ﹁私ではなく、兄上達が適任ですよ。私は、なんの地位も力もあり ません。貴女を守る力も無いのです。﹂ 付け入る隙は与えない。これは事実でもあるんだし。末姫様のご 期待には答えられない。 ﹁なら、⋮どうしたら?⋮もう帰る所も無いのに⋮俺はどうしたら 55 いいんだ よっ⋮⋮うぅぅ⋮⋮⋮﹂ 泣いても同情なんてしない⋮⋮⋮? ???? 今、俺はって言ってなかった? 言ったよね?言ったよね!! 誰に聞いているか分かんないけど、 今、俺って言ったよね、末姫様。 ﹁末姫様!﹂ ﹁は、は、はいっ!!﹂ ﹁今、俺って言ったよね?言ったよね!!﹂ ﹁うぁ、あ、はい!!Σ︵゜Д゜︶﹂ 末姫様の肩を掴んでぐらぐら揺らす。現在男の私が女性にする事 じゃないけど、無視できない言葉を聞いた為に、私も混乱していた。 ﹁一体何故ですか!﹂ まさか、まさかね⋮ ﹁そ、それは、、前世で男だったからです∼!!﹂ ナカ∼マ♪ 仲間ゲットざぜ♪ かなりふらついている末姫様には悪いことしたけど、等々⋮仲間が いたよ∼!! 56 ﹁末姫様! 帰らなくても結構です!!﹂ むし 寧ろ帰さないよ、フフフフッ⋮ マミィやポチが居るけれど、やっぱり同じ境遇の仲間が居ると、 安心感とかあるでしょ? ﹁末姫様、ご出身はどちらですか?勿論前世ですよ。﹂ ﹁に、日本です⋮﹂ 口を押さえて吐き気を堪えている末姫様には、ホント申し訳ない けど、どこ出身か聞かないと、実は全然違う世界出身でした⋮なん てぬか喜びしたくわないでしょ。 もう、充分喜んでるけどね♪ それにしてもこの子、とってもからかい甲斐があるね⋮。何だろ う、ちょっと、⋮⋮⋮⋮楽しいかも⋮⋮フフフッ 57 婚約者通り越して、結婚フラグに進化した!? その1︵後書き︶ ここまで読んでくださった方々ありがとうございます。 続きは、もうひとつの小説とどちらにしようか迷っています。 一応、あちらがメインなので、こっちは速度が落ちると思います が、長い目で見ていただけると嬉しい限りです。 58 婚約者通り越して、結婚フラグに進化した!? その2︵前書き︶ サブタイトル、協力者現る。 お気に入り登録してくださった方々ありがとうございます。︵// /ω///︶♪ そしてこの小説をお読みいただいた方々ありがとうございます。 30分ちょいで書いたモノなので誤字脱字等あると思いますが、気 付き次第直します。 59 婚約者通り越して、結婚フラグに進化した!? その2 吐き気を堪えている末姫様に冷めきってしまったお茶を、入れた てのお茶と交換し、私も一息つく。 こんなに嬉しくて、はしゃいだのは何時振りか⋮。いつも周りの 目を気にしながらの生活は窮屈で、いつしかこの7年間、マミィの 前でしか自分らしさを出せなかった。いや、もしかしたら、マミィ むかし の前でも出しきれていなかったかも知れない。 こ 前世はよく友達とわけもなくはしゃいだりしていたなぁ⋮。あの 友達は元気でやっているだろうか⋮。 大丈夫だろう。きっと今頃、コスプレしてコミケにでも行ってる んじゃないか? あ∼、懐かしいな⋮。よくコスプレの着せ替え人形になっていた よ⋮。何でかいつも男性キャラの格好だったけど。 今の姿を見たら、発狂しそうだね⋮⋮⋮⋮? いやいや、まさか フラグ? 今の姿はあいつが建てたフラグ? 60 いつか〆る。 ﹁えっとさ、気持ち悪くない?﹂ ﹁えっ?﹂ ヤバい、思考がトリップしてた。なんだっけ?︵ ̄▽ ̄;︶ ﹁だ・か・ら! 前世とか云々だよ!﹂ ﹁あ∼、なるほど⋮全然。﹂ あら、転けた。芸人ばりのコケだね。 それにしても、口調が完全に違うねさっきと。こっちが素なんだ ね。 ・︳・︶ノΞ●~* さて、わたしも爆弾を投下しますかね⋮。 ︵ ﹁だって、私も転生しましたから。それも、前世では女でした。つ いでに、あなたと同じ元日本人ですよ。﹂ ﹁⋮⋮⋮は?﹂ ぶふっ! ウケる顔してるよ。なまじ顔がいい娘がやると見事な 破壊力! 61 ﹁ぶふっ!⋮⋮wwwww、ごめんなさい!!︵ノ´∀`*︶﹂ まえ ﹁笑うなら笑え。てか、何に対してそんなに笑ってんだよ!﹂ ﹁だって! だってその顔⋮ぶふふふ⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮泣いていいか⋮﹂ ﹁ごめんって、なんで涙目⋮﹂ そう言うと、涙目で話はじめた。 こ ﹁なんかさぁ、娘の体になってから、なんか涙脆くて⋮。前世はそ んなこと無かったのに⋮﹂ そう言うと、本格的に涙を流し始めてしまった。コレ私のせい? 悪いことしたなぁ。 いや、本当に泣かないでよ∼。どうすればいいか分かんなくなる から。 初めて女の子に泣かれた男の気持ちが痛いほど解った。本当にど うすればいいかわかんなくなるよコレ。 ﹁こうなったら⋮⋮⋮⋮﹂ 最終手段!出でよポチ∼! 今まで名前だけの登場だったあのポチだよ。まだ傷痕に毛は生え 62 てない⋮。いつになったら元通りになるのか⋮。 ﹁ポチ、ヘルプミ∼、ちょっと手伝って∼!﹂ 呼んだら直ぐに来てくれるとても賢いよこの子。さっきまで部屋 の隅っこで気配さえ消していたポチは尻尾を振りながらスゴい勢い で駆けて来る。いくら仔犬でも勢いが付いた毛玉は当たれば結構キ ツイ。けれど、そこはもう慣れた! 案の定、勢いよく突っ込んできた毛玉コト、ポチは私の腹に直撃 !だが、さっきも言った通り、もう慣れた。 ランメイ この時、末姫コト、藍苺が泣くのを忘れるほど驚いていたのは、 今の私は知らなかった。改めて思うと、七歳そこそこの子供が、仔 犬、それも巨大な仔犬にタックルされたのを見ればそりゃ驚くわな ⋮。 それにしてもポチ∼! お前ってホントにお利口さんだよね∼。 刷り刷りしたい。 因みに、ポチは一歳未満のオス。勘違いしてる人はいないかも知ら ないけど、柴犬じゃないよ。巨大が柴犬に付く訳ないしね。 ﹁その、可愛いけど、羽が生えた巨大な真っ黒毛玉は何に?﹂ ﹁可愛いでしょ? 特にこのフワフワと真っ黒の羽。この羽、鳥み たいに飛べるんだよ!﹂ そう。羽が付いた真っ黒の狼なのだ。それも鳥の翼の様な。まだ 仔犬なので長くは飛べないが、一応は飛べる。 前の世界ではいない。何せここは異世界なのだから、見たことも 63 ない生き物が居ても不思議ではない。 ﹁こんな生き物見たことないよ。﹂ ﹁それは、とても過保護に育てられたね。﹂ ﹁ん? どういう意味?﹂ 完全に泣き止んだようです何よりです。なんで泣き止んだか知ら ないけど。 なんで過保護かって? 外では普通。 つまり、一般的な常識だからねコレ。 ﹁この世界には人間の他に、妖怪って種族が居るんだよ。この子は 天狼のポチ。まだ生後一歳未満のオス。﹂ ﹁ポチと言うより、もっと強そうな名前が合うんじゃない? 確か に可愛いけど。⋮⋮⋮⋮⋮え? 妖怪ぃぃ!?﹂ こ ⋮ホントに、面白いこの娘。 ちょっと、マジでからかうと面白いよ。 ﹁妖怪って、あの?﹂ ﹁どれが﹁あの﹂、かは知らないけど、妖怪だよ。猫又とか、河童 に⋮後なんだっけ? まぁ、そんな感じ。人間の人口と同じくらい 居るよ。まぁ、私も外なんて見たこと無いんだけどね。﹂ マミィによると、妖怪達は普通に生活してるんだって。この国は 64 かなり寛大な所があるとかで、あの、KY陛下にしては⋮⋮いや、 先王達がしっかり土台を作ったからだね。 悲しいことに、世界の多くの国は迫害しているところもあるよう だ。おおっぴらにしていなくても暗黙の了解で容認されている国も ある。 どこに居ても、人間は差別を止めることが出来ないのか⋮。 ﹁そっか、俺が知らないだけで、この世界はそんなに⋮。もっと知 ろうとすれば良かった。﹂ ﹁まさに、後悔先に立たず、だね。まぁ、知ろうとしなかったのは 自業自得だね。﹂ ﹁⋮⋮そこは。﹁今度から知ろうとすれば良い﹂とか、言ってくれ よ。﹂ ﹁あはは。甘えんなよ。私はギャルゲーの登場人物でもないし、乙 女ゲーの攻略対象でもないんだよ。それに、精神年齢何歳だっけ? 二十歳越えてんだろ?﹂ ﹁うっ、⋮精神的には27歳です。﹂ えぇぇ、同い年∼。あれ、私老けてんのかな? それとも、環境 のせい? ﹁嘘だぁ、二の姫27歳なの? ちょっと子供っぽくない?﹂ ﹁二の姫なんて呼ぶなよ! ⋮⋮やっぱり子供っぽいかな俺。﹂ 65 ランメイ ランメイ ﹁じゃぁなんて呼べば良いんだよ。藍苺だったっけ? 藍苺って、 ブルーベリーのことだよね。﹂ ﹁そうだっけ?でも、女っぽいから名前呼びも⋮嫌だな。﹂ まえ ﹁じゃあ、前世の名前で呼べばいいんじゃない?﹂ ﹁その手があったか⋮。﹂ ﹁それと、子供っぽいかって? うん。そう思うよ。だってさっき 2回も泣いたし。﹂ ﹁だからぁ、あれは身体に精神が引っ張られて⋮﹂ ﹁ハイハイ、子供っぽくないよ∼。﹂ ﹁遊んでるだろ。﹂ ﹁あ、バレた?﹂ ﹁で?どうすんだよ。﹂ ﹁はい?﹂ 話がいきなり飛んだ。何の話だよ? ﹁いや、だから、婚約の話だよ。出来れば、お前が良いんだけど⋮﹂ 厄介な話だよね。てか、なんで私が? 66 ﹁なんで? 兄達の方がいいんじゃないかな∼。それと、お前にお 前って言われたくない。なんか偉そう⋮。﹂ 私も少し子供っぽいとは思うけど、オイとか、お前、なんて呼ば れると何かイラつく。 ﹁なら、レン?それとも、コウ?﹂ ん∼。響き的にはレンかなぁ。コウって言いづらいと思うのは私 だけか? ﹁じゃぁレンで。てか、そっちが名前短縮するなら、私もランかメ イって呼ぶけど良いよね。﹂ ﹁俺は別に構わないけど、出来れば女っぽくない無い方がいい。そ れにしても、いきなり言葉使いが荒くなったな⋮。﹂ ﹁あぁ⋮こっちが素だから。てか、そっちも最初と全然違うよ。﹂ 日頃言葉使いが悪いと、何かにつけ言い掛かり付けてくる奴等が 居るから⋮。 ﹁この後宮じゃ、独り言も迂闊に出来ないから。難癖つける隙を与 えたらアウト。だから日頃はあんな礼儀正しく喋ってるの。﹂ ﹁大変だな⋮ここは。﹂ ランメイ ﹁藍苺、もうランでいいよね。で、ランの所はどうだった? 確か 67 ランの母親も側室だっただろ? 何にも無かったわけない。﹂ ﹁何も。良いことも無いし、嫌なことも無し。空気みたいに扱われ たけど、ネチネチ嫌味攻撃なんかは無かったなぁ。﹂ なんと! 平和な後宮もあるのね。﹁空気みたいに扱われた﹂っ てトコは頂けないけど、命を狙われなかったのは幸いだね。 ﹁空気みたいにって、父親の王様は? 国を出て来るとき位は会っ てるだろ? 娘を嫁がせるんだし、そこも無関心だったの? この 国の陛下じゃ有るまいし。﹂ ﹁会ってはいるけど⋮会ったのはその一度きり。りゃぁ、俺とは血 が繋がって無いから⋮。﹂ ん? ちょっとマテ、この展開はもしかして⋮ ﹁だって俺、ここの国の王様の子だから⋮。だから⋮﹂ だから、血の繋がった兄弟である兄上達とは結婚出来んのか⋮。 は? てことは、先方は私が、KY陛下の子じゃないのは知って んのか! だから、何故私なのか聞いたとき、あっちの指示だとか言ってたの か⋮。 ﹁そっちの王様は私が⋮﹂ ﹁知ってるよ。だって⋮この国の王様が愚痴っていたのを俺の国の 密偵が聴いたから。﹂ 68 ﹁あぁなるほど⋮あのKYならあり得る⋮ハァ∼。﹂ 壁に耳あり障子に目ありだろ。なにしてんだよ!他国に付け入る 隙を与えんなよ! 私の出生は知られたとしても、国の一大事には発展しないだろう けど。つい、国家機密を独り言で言ってしまった場合、取り返しが つかなくなるよ⋮。日頃の王としての自覚が足りないんじゃないの? 因みに、この部屋の周囲は罠とか、色々仕掛けられていてとても 危険だ。勿論、普段人が通る所は安全だよ。 マミィ考案のえげつない罠だから、この部屋は今は安全だよ。 毒混入事件の時、かなり肝を冷やしたらしく、事件後はりきって 罠を仕掛けるマミィの姿が印象深かった⋮。アハハハ⋮毒なんて全 然効かなかったよ⋮どんだけハイスペックなんだろこの身体。 そのえげつない罠のお陰で、今の会話が出来るわけだよ。マミィ に感謝だね。さて、マミィもそろそろ戻って来る頃だろう。 やっかいさん マミィが茶菓子を取りに行って約20分⋮。後宮が無駄に広いう えに、筆頭女官に捕まったのだろう⋮。話が長いんだよあの人。 厨房辺りに茶菓子取りに行くだけなら、マミィの脚で往復5分程 しか掛からない筈。一般人なら往復20分掛かる。子供の私は片道 10分⋮どんだけハイスペックなんだろ、この身体。大人と同じく らい⋮。でも、マミィも大概ハイスペックだよね。 69 ﹁どうしたのだよ。遠くなんか見てさ⋮﹂ ﹁いや、ちょっと、自分の周りは常識が通用しないなぁって思って ⋮。﹂ ﹁レンだって普通じゃないと思う。﹂ ﹁マジで?﹂ えぇぇ⋮、私は至って普通ですよ。 ﹁あっ、ゴメン。呼び捨てしてた。﹂ ﹁別にいいよ、同い年だし﹂ 何か、ランって細かいことまで気にする性格のようだ。 ﹁話を戻そうか。﹂ ﹁そうだね。何でか話がずれる⋮﹂ ﹁ねえ、ホントにあのKY⋮陛下と血が繋がっているの? 似てな いよ全然。てか、なんで他国の側室がKY陛下の子供を産むんだよ ⋮⋮あの女ったらしが⋮切り落とすぞ⋮⋮﹂ ﹁あえて諸々聞かないからな、それ。﹂ まさかあの女ったらし、白の国訪問したとき手ぇだしたんじゃ⋮ あり得るな。 70 ﹁婚約云々のことはさぁ、つまりは、私を利用したいんだろ?﹂ ﹁やっぱりダメだよね⋮﹂ ﹁まぁ、騙されるのは嫌いだな⋮⋮いいよ、婚約しようか。なんな ら今すぐ結婚しようか?﹂ ﹁やっぱりダメだ⋮はぁ!? なんで?騙されるの嫌いだとか言っ て結婚しようとか⋮、どういうコトだよ⋮﹂ どういうコトって⋮そりゃ驚くわな。 ﹁お互い利点があるから。私は、政略結婚何かしたくない。ランは、 国に帰りたくないから、婚約しないといけないけど私以外の王子と 血が繋がっているから私以外とは無理。なら、結婚してしまった方 が良いんじゃない? どうせ、結婚出来ないし。﹂ ﹁つまりはお互い利用し合うってコト?﹂ ﹁そ。精神的に女だから、普通の恋愛は無理だしね。BL、百合は 勘弁だし。﹂ ﹁あ∼ぁ、確かに俺も自分が、となるとちょっと無理。﹂ 他人を見てる分には別にいいよ、他人なんだし。でも、自分のコ トになるとダメ。 フラグ回避のため、この婚約フラグは敢えて回避しない方がいい と思う。 自分で婚約から結婚フラグにレベルアップさせちゃったけど、偽装 71 結婚だしいいか。 ﹁偽装結婚だから、別に私はいいんだけど、ダメ?﹂ ﹁その話乗った! 因みに、そっちの王様が、うちの国の後宮に忍 び込んだ結果が俺だから。﹂ ランは﹁しかも同意なし﹂と、さらっと過ぎるカミングアウトを ありがとう。予想は当たったよ。ホントかは確信無いけど、今まで の前科があるKY陛下だしね。 どちらにしても、KY陛下に非があるよね。 ﹁なら、私達は共犯者だね。色々手伝ってもらうよ♪﹂ ﹁何すんのか分かんないけど、いいよ。俺も、頭にキテるから♪﹂ ハタからみたらニッコリ笑いながら談笑している、身分が高い子 供。にしか見えないのに、この会話の内容は⋮異様だっただろう。 誰も居ないけど。いや、ポチが居たか。 今まで私の膝で大人しくしていたポチを抱っこしながら、ランと ガッチリ握手をした。共犯ゲット! いや、協力者かな。 協力者がいると何かとありがたいね。イタズラ的な意味で⋮ふふ ふフフ⋮ さて、どんなイタズラ⋮違った、フラグへし折り⋮回避しようか な? 先ずはKY陛下に仕返ししてからかな⋮。 72 ここ あぁ∼、ポチの毛並みはふわふわだね∼♪ 後宮での私の唯一の 癒しだからね♪ だから、この毛並みを傷付けた暗殺企てた側室と、その要因を作 って、尚且つ後宮の管理を怠った。しかも、私に自分の不義の後始 末を押し付けてきた女ったらしの馬鹿には、徹底的に仕返しするこ とになりそうだ。 勿論、気付かれ無い様にこっそりとね、こっそりと。 マミィに報告しないとね。あっ、そうだ、実はねマミィ知ってる から。 えっ? なにがって? 勿論、私が転生者ってコトと女だったってコトだよ。 だってマミィは⋮⋮⋮同じ転生者だからね。あれ?言ってなかっ たっけ? ランメイ こうして、齢7歳精神27歳の私は白の国の末姫・藍苺と結婚す ることになりました。勿論偽装結婚ですよ。 73 結果、フラグ回収しちゃったけど、協力者としてコレからフラグ 回避を手伝ってもらうことになった。 今度こそはフラグへし折ってやる!! 74 ランメイ 婚約者通り越して、結婚フラグに進化した!? その2︵後書き︶ 。 今回は共犯者改め、協力者の藍苺こと、ランと偽装結婚すること コウレン にした、紅蓮こと、レン 果たしてこの選択は吉と出るのか⋮。 レイシュン そして、マミィこと、あまり名前が出てこない麗春は、転生者と 判明。心身ともに強いわけだよ⋮。 どんどん、ダメ男の面が出てきたKY陛下は、きっと今までの自 分の所業に後悔するときが来るでしょうね。 では、ここまでお読みいただきありがとうございました。m︵︳︳︶ m 75 フラグ回避のための情報収集︵前書き︶ 情報収集らしい事はあまりしてません。 以外な事実発覚⋮? お気に入り登録してくださった方々ありがとうございます。 そして、小説をお読みいただいた方々もありがとうございます。 ︵///ω///︶♪ 矛盾だらけではありますが、今後ともよろしくお願いします。m ︵︳︳︶m 76 フラグ回避のための情報収集 コウレン どうも、僅か7歳で結婚することになりました。紅蓮こと、レン です。さて、突然ですが問題です。私は今ドコに居るでしょう∼か? ランメイ 分かんない? そうだよね。私は、藍苺改めて、ランを戻ってき ほふく たマミィに託し、ただ今情報収集に来てきます。現在屋根裏移動中 なう。流石は無駄に広い後宮。屋根裏も匍匐前進しなくても歩ける。 ︵勿論子供の身長だから出来るだけ︶ むかし 埃っぽくて、前世のままの身体なら間違いなくくしゃみが止まら ない状況になっていた。 この身体ホントハイスペック⋮。きっと、花粉症にもならないだろ う。花粉症になるメカニズム云々はこの際無視。 ライキ さて、今一番上の兄、雷輝通称ライちゃん。いつも不機嫌な顔し ているちょっと扱いずらい兄。の母親の部屋の上で聞き耳をたてて います。 ﹁︵ライちゃんの母親は過激派だから要注意なんだよね⋮︶﹂ 他の側室達の実質リーダー的な立場。主に私の暗殺の半分はこの 人が発端。 別に王位なんて端から要らないのに、何の後ろ楯もない私を真っ 先に攻撃してきた。その思いきりの良さと判断力は良い方だと思う。 ここ 後宮で後ろ楯が無いということは、ホントに危険だ。身を守る術 が無いことなんだ。だから、私達親子を真っ先に排除しようとした 77 んだろうな⋮先ずは簡単に消せそうな私達から。 でも、私は毒なんて全然効かなかった。そして、一番の誤算はマ ミィの判断力と行動力の高さ。そして心身ともに強かったコトだね。 失敗しても何度も暗殺企てて来て正直ウザい。いい加減に諦めて くれないかな⋮結構執念深いから困ったもんだよ。特に子供のライ ちゃんに私を虐めなさい、なんて教えてる。母親としてダメでしょ。 人としてもね。 そして今、後宮内の派閥、過激派のお茶会を観察している。話さ え聞かなければ、ほのぼのしているように見える。 ﹁聞きましたか? あの紛い物が白の国から姫を貰うとか。白の国 と言えば大国、何故、紛い物なぞに与えるのか⋮陛下もお戯れが過 ぎますよ。﹂ キサイ 今、喋っているのは2番目の兄、ちょっと勝ち気な素直ではない 麒采コト、サイちゃんの母親。勿論、紛い物は私のコト。 ﹁ですが、白の国が寄越した姫は、何の力もない小娘。捨て置いて も良いのでは?﹂ キシュン 彼女は3番目の兄、輝駿コト、泣き虫⋮ではなく、シュンちゃん の母親。味方でもないし、敵でもない。イマイチよく分からない。 けれど、ライちゃんの母親よりも要注意人物。 彼女がではなく彼女の兄、シュンちゃんの叔父が曲者なんだよコ レがまた。 78 ﹁どうせ、紛い物は姫の機嫌を損ねますよ。何せ、礼儀を知らぬ母 親を持っているのだから。﹂ ﹁えぇぇ、その通りです。きっと姫は機嫌を害して国に帰りますよ。 ﹂ やっぱり、話題はランのコトだよね。どうしようかな、偽装だけ ど結婚することにしたんだよね∼。まぁ∼た煩くなりそうだ。 キサイ ﹁それよりも、あの王妃気取りのあの者はどうにかなりませんか? この前も麒采の額に痣を作っていましたのよ。それなのに謝りも しない。﹂ そんなコトがあったね。でもさ、アンタらだって私達親子を暗殺 やら精神攻撃とかしたよね⋮。人の振り見て我が振り直せじゃない? タイガ あ∼ぁそうそう、王妃気取りは、あの、KY陛下のお気に入り、 大雅の母親ね。 タイガ タイガ 事件はこうだ。何故か他の側室達の様に部屋でじっとしていない 大雅親子は、その日も後宮内をウロウロしていた。 そこに、サイちゃん親子と遭遇。そこでなにお思ったか、大雅⋮ 面倒だイガでいいや。イガ親子が話しかけた。 なんで話しかけんだよ⋮。挨拶ぐらいでいいんだよ。世間話する ぐらい仲が良いわけでもないんだし。 タイガ で、イガの母親は、﹁うちの大雅と遊んで♪﹂なんて気軽に言う もんだから、サイちゃんの母親の琴線に触れて口論になった。まぁ、 口論はサイちゃん側が言っているだけでイガ親子はその鈍感さから 79 その場の刺々の空気には気が付いてないけど。 それでイガが何もない所でコケけて、サイちゃんを下敷きにして 倒れて大泣き。 サイちゃんじゃないよ。イガの方が大泣きしたんだよ。サイちゃ ん涙目だったけど泣かなかった。エライねぇ。 んで、大泣きしたイガをイガの母親が付いてきた女官達と大騒ぎ ⋮。 泣いていないけど、かなり痛かったらしいサイちゃんが悪者扱い ⋮不憫⋮。 大した怪我は無かったけど、おでこに大きな痣が出来ていた。 イガ親子はソコで謝ればよかったもを、謝らすにさっさと帰って しまった。 ⋮⋮そりゃ⋮一言ぐらい謝ったら?今回はイガのドジに巻き込ん だコトだし⋮。 しかも極めつけは、KY陛下に告げ口したこと。本人は告げ口し た訳では無いだろうけど、結果的に告げ口になった。そして、もっ と自体を悪化させたのはKY陛下のサイちゃんの母親に対する一言。 なんて言ったと思う? ろく ﹁お前は碌な息子も産まずに偉そうにするな。﹂ ろく 女性をなんだと思ってんだか。碌なって、アンタよりはマトモだ 80 よあの子達。大して面倒もみない、顔もマトモに見てない癖に、よ く自分の子供にそんなこと言えるよね⋮。 アイツマジで女の敵だね。しかも、 ﹁少しは舞子を見習え﹂ 何てさ、言ったもんだから、もう側室の皆様カンカンなんだよ。 特に子供がいる側室の皆様がね。 当たり前のことだよね。こんなこと言われて怒らない親はいないで しょ。 ハッ、バッカだね∼。女がこの世で一番恐ろしいんだよ。 敵に回したらそら、恐ろしい事が起きるよ。なに考えてんだか⋮何 も考えてないのか⋮。 ライちゃんの母親主催のお茶会は愚痴大会に早変わりしてからか れこれ一時間⋮。 皆さんストレスが溜まっていたもよう。コレは何か仕掛けてくる前 兆だな。 あっち 過去、側室達が何かしら仕掛けてくるときは決まってお茶会をし た翌日が多い。しかも、こんな風にストレスが溜まっている時はほ ぼ確実に暗殺者が来るパターン。コレは報告だね。 ま そんな母親達のお茶会はまだ続きそうだ。その子供達、兄上達は え 隣の部屋で静かにしていた。お行儀良いね。私が10歳の時、勿論 81 前世のね、の時は静かではあったかたも知れんけど⋮⋮こんなにお 利口さんでは無かったなぁ⋮無口で表情が乏しい子って言われたな。 そんな事を考えると、兄上達はとてもお利口さんだと思う。母親 の言い付けを忠実に守るあたりどことなく犬に見えるのは私だけか な? ライキ ﹁雷輝兄上⋮母上達のお茶会はまだ終わりませんか⋮﹂ ﹁まだだ。﹂ キシュン ﹁麒駿少し落ち着け、母上達のお茶会はいつも長い。後二時間はか かるだろう⋮。﹂ まだまだ甘えたい8歳のシュンちゃんは早く帰りたいよね。この 子はホントに純粋で、少し危なっかし所がある。 それにたいしてサイちゃんは10歳で、ヤンチャな方。でも、空 気は多少読めるみたい。 そして、12歳にして無口になりかけているライちゃん。この子 はいつも不機嫌な顔している。母親に対してとても従順で、このま まだとマザコンになりそうで心配だ⋮。 そんな、KY陛下にあまり似ていない兄弟達だが、1つだけ血の 繋がりを証明しているものがある。 それは色。黄の国の王族は金髪金目。受け継がない者は継承権は 無い。なんかの物語である設定だね。目の色や髪の色で資質が決ま 82 る訳でもないのに⋮。 なので、私を除いた兄弟達はみんな同じ色の髪と目なのだ。だか ら、私は浮きまくりなのだ。 余談何だけど、KY陛下の子供であることをカミングアウトした ランの目の色は金色なのだ。髪だけは黒に見える紺色だから誰も気 づかない。 別に金髪や金目が珍しいわけではない。同じ色の組み合わせが王 族以外にあり得ないらしい。どうしてかはさっぱり謎だ。なので、 金髪も金目もざらに居る。ランの髪と目の色を目立たなくさせてい る。 コウレン ﹁⋮⋮紅蓮は結婚してしまうのですか?﹂ ん? 話聞いてなかった。私の話題になったみたい。 ﹁それは分からない。﹂ ﹁するんじゃないか? 父上のご意向には背けないだろ。﹂ ﹁もう顔を会わせることも出来ないのですか?﹂ うん、いじめっ子の君が何を言うか。シュンちゃん君らは私達親 子に出ていけと言っていたではないか。何を今更⋮ ﹁その方がアイツのためだろ⋮。ここに居ても、ただ苦しむだけだ。 ﹂ 83 ﹁そうだぞ⋮⋮﹂ あれ? 話が見えない⋮⋮ドユコト? ﹁もう会えないのでしょうか? 私は寂しいです⋮﹂ ﹁そうだな。﹂ キシュン ﹁でもな麒駿、母親達の魔の手から護るには他に方法がない⋮今ま での方法ではできなかった。﹂ ﹁まさか、言葉で反撃されるとは思わなかった。﹂ ﹁あの時は泣くなと思ったのに⋮逆に泣かされましたね⋮﹂ コウレン ﹁兄弟の中で一番強いのは紅蓮なのかもしれないな⋮﹂ ﹁あれが切っ掛けで、暗殺者くらい差し向けてくれれば思惑通りだ ったんだけどな⋮﹂ コウレン ﹁他の側室達は皆仕返ししてきたのに⋮紅蓮の母上はお強いのです ね。﹂ え? 何言ってんだか理解できない⋮ 私達の為? 母上達の魔の手? 助けようとしていた? ﹁もう、他の兄弟達は皆母親の実家に身を寄せるそうだ。でも⋮⋮﹂ コウレン ﹁紅蓮の母上は実家がもう無いのでしたよね。﹂ 84 ﹁ドコにも逃げる場所がない⋮﹂ ﹁もう、コレしか方法が⋮⋮⋮﹂ コウレン ﹁でも、コレではあまりにも紅蓮が不憫です。﹂ あの後、話を聞き続けて解ったことはこうだ。 1、私に突っかかって来るのは挑発して暗殺を仕掛けるため。 2、暗殺により、他の兄弟達を失脚させ、比較的安全な母親の実 家に帰させるため。 3、他の兄弟には有効な手段だったが、帰る所の無い私達親子に は効果がなく、マミィも仕返しに暗殺を企てなかったため、もう1 つの方法を実行するらしい。 4、KY陛下は無関心なため、暗殺が発覚しても、家のとりつぶ しや、極刑にはしないと確信があったために実行てしいた。 実際、実家に返された、或いは帰った者の家はとりつぶしは無か った。 5、新たな方法は不明。 6、母親達の事はどうにかしたいが、ムリ。 85 と、こんな感じ。今まで兄達の会話を聞いたことが無かったけど、 まさか助けようとしていたのは初めて知った。 でも、この方法はどれも将来の可能性を全て潰すようなもの。反 撃した母親達の罪であって、兄弟達に落ち度はない。それでも、兄 弟達は貴族として日の目を見るとは無い状況になった。 兄達は解っているのだろうか⋮。その方が例え兄弟達の命を助け 。 るためでも、他の貴族や親類から白い目で見られながら生活するこ とになることを。 今後、貴族としてマトモな生活は出来ないだろう でもさ、私の周りの貴族達は物凄く短気なのかね⋮。子供の喧嘩 で暗殺⋮怖いな。 私には理解できないのだろうね。 そして私は情報収集を終えて自分達の部屋に帰ることにした。 仕掛けてくるとしたら明日以降。なら、警戒しながらあの計画を ドコで実行するか見定めないと⋮。私達親子だけでなく、ランにも 被害が及ばない様にするにはさて、どうしようかな⋮⋮。 うたげ 実は明後日はイガの8歳の誕生日なんだよね⋮しかも、盛大に祝 うらしくて今残っている兄弟、側室、全員が宴に呼ばれている。行 86 きたくもないが、必ず来いと勅命を出されたので行くしかない。こ んなことに勅命使うなよ。 宴なんて絶対仕掛けるよね。ハァ⋮私には安息な日々は無いのか な⋮。 考えながら部屋に帰ると⋮ コウレン ﹁紅蓮収穫は?﹂ ﹁母さん⋮この状況は⋮⋮﹂ 部屋に入るとソコは、女物の服がわんさか積み上げられた山が幾 つもできあがっていた。その隣にまたまた着せ替え人形にされてい たランがへばっていた。 ﹁見てみて♪ランちゃんとっても可愛いでしょ? も∼可愛くて⋮。 元がいいから化粧栄えも良いし⋮ホントこの子が義理の娘になるな んて⋮グッチョブ!コウちゃん。﹂ マミィがまた暴走していたよ。 今回は私に死亡フラグがたったみたいだけど、どうにかしないと ね⋮⋮ハァ∼さて、ランをマミィの着せ替え人形から助けますかね ∼。 87 まさかこのときは⋮ダメだ、これもフラグになる⋮⋮。今度から ライちゃんみたいに無口キャラになろうかな⋮。 果たして私は死亡フラグを回避出来るのか⋮。不安だ⋮。 88 フラグ回避のための情報収集︵後書き︶ 子供の考える事は詰めが甘いことってありますよね。でも、兄達 は真剣だったりします。変な優しさですね。ぶきっちょなんです。 そのせいで主人公に反撃されて泣かされましたね。 それでは次の投稿で︵^︳^︶/ 89 死亡フラグ恐るべし⋮⋮︵前書き︶ 不吉なタイトル⋮ お気に入り登録数30件をいつの間にか達成!!Σ︵゜Д゜︶ 誠にありがとうございます。m︵︳︳︶m 先人様方には遠く及びませんが、嬉しい限りです。思わず3度見を しました︵笑︶ それから一言、お酒は二十歳から!! コレ絶対!! 90 死亡フラグ恐るべし⋮⋮ さて、ランを着せ替え人形地獄から助け出し、ただ今作戦会議中 ⋮。 ﹁やっぱり、仕掛けてくるわね∼宴なんて絶好のチャンスだもん。 でも、二人とももっと大事なことがあるわ⋮﹂ 暗殺対策考えるよりも大事なこと? ⋮⋮なんだろ? そう考えながら、ランの方を見ると⋮ ﹁︵めちゃくちゃ青い顔してる⋮!︶﹂ あ∼、うん、なんか解った。だが、こんなに服の山が幾つもでき あがっていたのか⋮⋮ハァ⋮。私の服も入ってたのね⋮。 うん、腹を括ろう。 ﹁コソ︵もしかしなくても、宴に着ていく衣装決め?︶﹂ ﹁コソコソ︵覚悟した方がいいぞ︶﹂ ﹁コソコソコソ︵なんかやつれてないか? 大丈夫?︶﹂ ﹁コソ、コソ︵大丈夫じゃねぇよ⋮レンのお母さんとってもパワフ ルなんだな⋮︶﹂ 91 ﹁コソ⋮︵暗殺者返り討ちにするくらい強いからね⋮︶﹂ ﹁コソ︵それはもはや人なのか?︶﹂ 隣に座っていた青い顔したランにこっそり聞いてみたら⋮やっぱ り私にも着せ替え人形地獄が待っているのか⋮てか、人の母親に対 して﹁人なのか?﹂って失礼じゃないか? コウレン ﹁さあ、着飾るなんて滅多に出来ないのだから張り切って着飾るわ よ⋮ね?紅蓮!﹂ ですよね∼⋮ ﹁それはそうと、コウちゃん!結婚するんだって? 私、娘が欲し かったのよ♪﹂ まだ若いんだから二人目も生めるでしょ?⋮⋮あっ、マミィ一途 だから父さん以外無理か。なら、仕方ないのか? ﹁でも母さんコレは偽装結こ﹁そんな些細なことは関係ないのよ﹂ ⋮そうですか。﹂ もうこのマミィの暴走を止める事は出来ないだろう。きっと父さ んも止められなかったんじゃないか? 慣れている私でもライフ半分は持っていかれるのに、初対面だっ たランなんかごっそり持っていかれて瀕死だよね⋮。 そんな瀕死なランはポチを抱っこしている。7歳の子供が抱っこ するとポチの方が大きくてバランスが悪いらしくちょっと落ちそう になっていた。ポチよ、男の私よりも、可愛い女の子の方が良いの 92 か⋮現金なヤツだな。やっぱりお前も雄なんだな⋮。 ﹁ところで、コウちゃん。﹂ マミィはからかう時やその場のノリでよくコウちゃんと呼ぶ。7 歳だけど、中身27歳だからちゃん付けで呼ばれるのは背中が痒く なる⋮。 ﹁あなた今日誕生日でしょ? はい!プレゼント。﹂ ⋮⋮あ∼そうだった。弟のイガが8歳になるんだから私も歳取る んだ。また一つ歳を取るのか⋮。 ﹁レン、今日誕生日だったか?﹂ コウレン ﹁そうよ、コレで紅蓮も8歳⋮長いようで短い8年だった⋮﹂ 遠い目をして言った母さん。こんな時は決まって父さんの事を考 えている。とても悲しそうなでも、楽しさを思い出している顔をし ていた。 ﹁もう、8年も経ったのね⋮。そう言えば、コウちゃん。貴方お父 さんに似てきたわね⋮コレは将来モテるわね♪﹂ ﹁めんどくさい∼。モテても嬉しくない∼。﹂ ﹁そうね。だって貴方はもう結婚してるんだし。浮気なんてダメよ !﹂ ﹁しないしない。だって面倒じゃない。陛下見てると結婚に夢なん 93 て持てないし⋮なにより、私は中身女なんだから⋮恋愛なんてムリ。 ﹁夢がないわね⋮でも、仕方ないか。貴方が選んだのなら私は口を 出さないから安心してね。﹂ ﹁確かに、体と精神が合わないと恋愛は俺ならムリだなぁ。記憶が ある分難しいかもな⋮。﹂ 私がいない間にマミィと大分打ち解けていたみたい。さっすがマ ミィ。 ﹁さあさあ、プレゼント開けてみて♪﹂ 袋に入っているプレゼントは綺麗な赤いリボンで括られていた。 この世界ではリボンなんて無いからマミィお手製なのだろう。綺麗 だからリボンとっておこう。 さて、何が入っているのかな⋮ ﹁ん? 紅と藍色の紐?﹂ 袋に入っていた物は、紅と藍色の紐だった。綺麗な光沢のある絹 か何かでてしているのかとてもしっかりした作りだった。 ﹁コウちゃんいつも髪をそこら辺の紐で結っているでしょ? だっ たらコレにしようと思って♪ ﹂ ﹁どうやって作ったの?﹂ ﹁あら、解る? ちょっと忍び込んでね? 物置部屋に♪ 作って 94 みました♪﹂ ここ 何度も言うけど、私達親子は後ろ楯が無い。食べ物も何が入って いか分からないので迂闊に後宮で出される物は食べれない。服も本 ここ 当はこんなに揃えられない程貧乏なのだ。だから、高価な組み紐は よ 買えない。ホントならね。それに、後宮でもこんな洗礼された紐は 無い。側室の皆さんが使っている紐は高価な絹糸を縒っただけの荒 縄みたいなものしかない。だから複雑な編み方の組み紐はないんだ よね⋮。 なら、あそこに鎮座しているあの山積みの服はどうしたか? 簡単だよ、マミィが外で集めてきたんだよ。勿論稼いだお金でね。 後宮の物は盗まないよ後でめんどくさいしね。 どんなことして稼いでいるかと言うとね、便利屋をしている。色 んな依頼を受けている。凄いよね♪ コウレン ﹁紅蓮結ってあげるからこっちにおいで。﹂ 凄いわくわくしているマミィ。正直近付くと録なことにならない のは経験済みなので⋮。断ったらダメ?あっ、ダメですよね⋮ ********* 95 ところかわって、宴当日。マミィに着せ替え人形にされて少しゲ ンナリした。 昨日は散々服を着せられた⋮。でも、別に服を選ぶのは嫌いじゃ ない。元は女何だから別にアリでしょ? ﹁︵この紐結構好き何だよね♪︶﹂ 部屋に元々備え付けてあった鏡でポニーテールにしてもらった髪 を見ながら思った。マミィのプレゼントは早くも私のお気に入りに なった。荒く裂いただけの布やそこら辺にあった紐なんかでいつも 縛っていた。腰まで長く伸びた髪は何度切ろうかと思ったのだが、 この国では王族は男女問わず髪を伸ばしているので止められた。で も、マミィは私の髪で遊びたいから止めたと思うのは間違っていな いと思う。 そう思うのは私だけだろうか⋮。 ﹁ハァ⋮なんで俺まで出ないといけないんだよ⋮。⋮⋮姫だからか ?﹂ ﹁それもあるけど、一番は私と結婚したからだよ。さっき言ったで しょ、私は立場が低いんだよ、誰よりも。だから例えKY陛下だろ うが、呼ばれたら参加しないといけないの∼。その嫁何だから同じ く強制参加だよ。﹂ ﹁⋮選択を誤ったかな⋮いや、コレ以外になかった。選択肢の中で 一番マトモだった。⋮⋮でか、KY陛下って⋮⋮仮にも陛下だろ⋮ 良いのか?﹂ ﹁おっと、つい本音が⋮﹂ 96 ﹁気を付けろよ。どこで誰が聞いてるか分かんないからな。でも、 確かにKYだな。﹂ おお、話が解るね♪ ﹁流石だ!同志よ。﹂ ﹁ハイハイ、同志、同志﹂ なんかランがここに来たときよりも逞しくなったように感じる⋮。 それともコレが本性か? ﹁どう? 可笑しな所ない? 寝癖とか﹂ ﹁ないよ。そんなにサラサラストレートで滅多に寝癖とかつかない だろ⋮﹂ ﹁例えストレートでも、つくときはつくんだよ寝癖って。油断でき ない⋮﹂ ﹁へー⋮俺は髪をどうしようかな⋮。﹂ フフフフフ⋮。良いこと思いついた♪ ﹁ラン、髪結ってあげるから♪﹂ ﹁︵この親子そっくりだ⋮︶﹂ ランの髪は長い。前髪辺りが癖が強いツンツン髪だ。後ろの髪は 97 重力に従って下にまっすぐ下がっているが、ボリュームがありすぎ 下へ行くほど広がっている。でもきっと短く切ったら某黄色い鳥に 髪型が似ているRPGの主人公みたいな重力無視した髪型になるの ではないだろうか⋮その位硬い剛毛なのだ。 ﹁で、どうすんだよ。言っておくけどなぁ、俺の髪はすんごく剛毛 だからポニーテールにしても直ぐに解けるぞ⋮﹂ ﹁大丈夫。ちょっと工夫するから⋮。﹂ 頑固な髪質の髪を結う場合は、頭の両サイドを少しだけ編み込み、 みつあみにしてから余っていた真ん中辺りの髪の下に二つのみつあ みの端と端を纏めて出来上がり♪ コレならボリュームがあり過ぎて広がった髪でも多少無理がある けれど押さえることが出来る。 ﹁コレでよし! でも、暴れたら解けてくるから大人しくしててね。 とくに両サイドは痒くても掻かないでよ。﹂ ﹁なんかキツイ⋮頭両サイド引っ張られて痛い。﹂ ﹁我慢!! 宴で馬鹿にされたくないだろ⋮﹁ちょっとぉ、あの子 どこから来たの? あんな頭で恥ずかしい∼﹂とか言われたいなら 別に構わないけど。﹂ ﹁⋮ぜっっったいやだ。ムカつく。﹂ ﹁でしょ?﹂ 98 何てね♪ホントは誰も私達親子は見ないから注目何てねされない けど。でも、ランは白の国の姫だから多少は注目されるかも。 なんてしょうもない話をしていると、準備を終えたマミィが部屋 に入ってきた。実はこの部屋、女官が待機する部屋なんだけど、私 もランも仕えてくれる女官はいないので、この部屋は私が使ってい た。 狭くはないけど⋮この度結婚したので︵偽装だけどね︶ランも一 緒に使うことになった。部屋が他に無いのだ。 けっ、ムダに広いんだから部屋の一つも貸せよ⋮あんの筆頭女官 が⋮⋮なぁにが、 ﹁一国の姫様にお貸し出来るような上等な部屋は御用意でません﹂ だ。無いなら部屋を整える。それが女官の仕事でしょ。 それで良いのか?筆頭女官さ・ま。 コレが発覚したら外交問題ダよ。 別に同じ部屋でも私は構わないけど。だって体は男だし、ランの ベット 中身も男だし⋮なんともない。ランは少しだけ戸惑っていたけど、 寝台は別だから構わないでしょ。 ﹁準備出来たみたいね。二人とも似合ってるわよ♪ ランちゃん綺 麗∼。﹂ ﹁母さんこそ似合ってるよって言った方がいい?﹂ ﹁そこは素直にキレイって言いなさい。﹂ 99 ﹁⋮⋮︵キレイって言われても嬉しくない⋮︶﹂ ﹁ランの髪はすんごく頑固なんだよ⋮でも、どうにか纏めてみまし た∼。﹂ ﹁グッチョブ♪ ちょっとランちゃん鏡みた方がいいわよ。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ どうやらハイテンションのマミィが苦手なようだ。ランよ慣れだ 慣れ。 ﹁さぁ、ランちゃん。化粧もしようね♪﹂ グイグイ引っ張るマミィに引きずられ化粧台に連れていかれた⋮ ドンマイ♪ ﹁︵あら!私がプレゼントした藍色の紐をランちゃんに使ったのね ⋮名前と偶然一致してるわ♪︶﹂ ********* 100 こうやって王族や貴族達が集まる宴では年功序列に会場に入らな ければいけないのだ。コレがかなり面倒臭い⋮。 先に下級貴族、次に中級、上級、地位の低い王族、側室、国賓、 王、の順番で入らなければいけない。しかも事細かに分けるので更 に時間が掛かる。 私達は側室の一番最初。だからKY陛下が入場するまで待ってい ないといけないのだ。ハァ⋮メンドイ⋮ ﹁どうする? ランは年功序列では陛下の前に入ることも出来るよ。 待っているのは辛いよ、特に私達は。﹂ ﹁いい、レン達と一緒に居るよ。一人だと余計に疲れそうだから⋮﹂ ﹁もしかして、ランちゃんこういう集まりは初めてなの?﹂ まさか、仮にも一国の姫様だよ。日陰に居たとしても一回位有る でしょ⋮ ﹁⋮一回も無い⋮⋮﹂ ヤツラ カモ 誤算だった⋮! ヤバイよ、ランからあまり目を離さない様にし ないと⋮。貴族のいい餌だ。 ﹁ぜっっったいに私達から離れないように。何が起こっても不思議 じゃないからねこの国は⋮あ、それと無闇に料理食べないでよ、毒 が入ってるかも知れないから⋮﹂ それだけこの国は腐りはじめているから⋮。うわぁ⋮死亡フラグ 101 のオンパレードだよ。 ﹁わ、わかった⋮。﹂ その後何事もなく会場に入場する順番が回ってきた。 ランは少しだけ青い顔だったが、何とか平静を保っていた。 私? 私は慣れてるよ。8回目だもん誕生式典は。 赤ん坊の頃 から皆勤賞だし。 ********* 私は退屈していた。貴族であるためにこの式典に参加を強制され 仕方なく来ていた。祝うつもりもない頼りない王子の誕生日などど うでもいい。 陛下の戯れも戯れ事も聞き飽きた。お気に入りの側室は頭が空な のか図太いのか周りの雰囲気に気付かず、絹にくるまれた生活をし ている。 いったいどれ程の国費が消えたことか⋮。 どれだけ恵まれた環境で育ったのか、故郷の生活に少しでも近く 102 するために国を傾ける事になるとは思わなかったのか。 やれやれ、やはり現王は王の器では無かったか⋮。まあ、それは 始めから分かっていたことだが コレから更に国は傾くだろう。民草に何と顔向けすればよいだろ うか。ハァ⋮ ﹁まぁ、見てくださいなアレは⋮﹂ 何ですかね、会場が一気に煩くなったようですが⋮ コウレン ﹁アレはもしかして、第4王子の紅蓮殿下かしら﹂ ﹁なら、隣は先日御結婚なされた白の国姫君ね。﹂ ﹁御二人とも美しいわ⋮﹂ コウレン ﹁紅蓮殿下のお母様もお美しい⋮。﹂ おやおや、白の国姫君を射止めた王子ですか⋮。別に射止めた訳 かんばせ ではありませんが⋮⋮何でも白の王直々に指名されたとか。まるで 少女の様な顔ですね。彼は現王よりはマトモそうですが、王位に全 く興味がない様なので、除害でしょうね。 まあ、現王に比べれば大半の人間はマトモですがね。 103 ********* ﹁!!!!﹂ ﹁コソ︵どうしたんだよレン。そんなにビックリして。︶﹂ 今一瞬、寒気と誰かの視線を感じたような⋮。今のは絶対に気の せいなんかじゃない。断言できる。 ﹁コソ︵ちょっと誰かの視線を感じた。気を引きしめた方がいい︶﹂ ﹁コソ︵大丈夫か? 顔青いぞ⋮︶﹂ 大丈夫? 大丈夫じゃない。まさか今回の暗殺者は凄腕のスナイ パーか? いや、まさかね∼ナイナイ。 おごそ 厳かに始まった第5王子の誕生式典は恙無く進んだ。時折視線が 集中したりするが、きっとランを見ているのだろう。それか、私達 の夫婦仲を観察して仲が悪ければあわよくばランを掠め取ろうと画 策するものも居るだろう。 仕掛けるとしたら、式典が終わってから、宴が始まってからだろ うと思われる。 104 私達はKY陛下から2番目、シュンちゃん親子と向かい合う場所 に座っている。 王の警護のため私達の周りまで武官達が立っている。外からの不 審者には安全だろう。だが、内部の暗殺には酷く脆い。武官達は外 からの敵を想定しているため、いざ内部に敵が居ても反応が遅れる。 気がつかない事もあるだろう。 例えば出される料理。毒味をしていたとしても、運んでいる最中 に入れ替わられ毒を盛られたら終わりだ。 もうひとつある。それは反逆だ。コレは敵と味方区別がつき難く、 混乱を招き事態は最悪な事になるだろう。 まぁ、KY陛下がどうなろうと、他の側室がどうなろうと、私は 知らない。自分達の身を護るので精一杯何だから。 それに、護る術があるのだから自分達で対処出来るでしょ。 ここで、一応位置の説明。広い階段の様に段がある、雛人形を飾 タイガ ライキ る台みたいな場所に、一番上はKY陛下、その隣、同じ段に第5王 キサイ キシュン 子大雅親子。その一段下に左側に第1王子雷輝親子、右側に第2王 子麒采お親子。下の段の左側に第3王子輝駿親子、右側に私達。そ の更に下に他の王族、貴族⋮とこんな感じ。 本来は、姉上達が上に座るのだか、皆母親の実家に帰されていな い。もうここにいる兄達しかし兄弟は居なくなってしまった。でも、 KY陛下はなんともない思ってないようだ。いつか後ろからグサッ !ってされるよコイツ。 105 説明をしていたら式典は終わった。コレからは各自比較的自由に 歩き回るのでちょっかいを出してくる貴族達は少々鬱陶しが、荒波 を立てたくないのでニッコリ笑ってスルーしておく。 ホントは、顔見せも済んでるし、いつでも帰れるのだけど⋮ちょ っとタイミングを逃した⋮ついてない。 っておい!何ランを口説こうとしてんの? 中身云々はこの際関 係ない。一応妃殿下なんだけど⋮。頭大丈夫?オッサン。 だからね⋮その汚い手で触んなよ⋮頭かち割るぞ!! ﹁殿下もお変わりないご様子で何よりですな⋮﹂ ﹁︵ハイハイ、何よりですね∼︶﹂ ﹁それにしても、わずか八つで御結婚とは、将来が楽しみですな⋮ ハハハハ⋮どうですか?私の娘は今年で十五になるのですが⋮﹂ ﹁︵KY陛下みたいに綺麗所集めれば言うこと聞くとでも思ってん のか⋮︶いえ、妻は一人で十分ですよ。私は未熟ですから。それに 年齢なら兄上達の方が合うのでは?﹂ ﹁私の娘もどうでしょう?﹂ ﹁私ではなく兄上達にもうした方がいいでしょうね。︵何度も言わ せんな!︶私は王の器では有りませんし⋮。︵嫁の目の前でよくも まぁ、好き勝手言えるよな⋮︶﹂ 106 ﹁︵何だろう、レンの機嫌が⋮⋮もしかして怒ってんのか?なんで ?︶﹂ さて、どうやってこのウザイオッサンどもを掻い潜るかな∼。マ ミィはこのウザイオッサンどもの奥方達に足止めされてる⋮チッ⋮ なんて連携のとれたチームプレイなんだ! ソロソロ限界が近い⋮私の機嫌とランの集中力が⋮⋮。 ﹁さあさあ⋮妃殿下も遠慮なさらず⋮﹂ ﹁えっ⋮あっ⋮⋮﹂ おい!子供に⋮結婚したら大人と同じ扱いになるけど、酒は不味 いだろ!!お酒は二十歳から何だからな⋮⋮日本では。 ﹁すいません、妻は酒の類いは苦手なのです。代わりに私が飲みま しょう⋮﹂ ﹁あっ⋮⋮しかし⋮﹂ ﹁︵ちょ、レン。一気はダメだ!︶﹂ オッサンが何か言っていたが、無視した。酒の種類は日本酒に近 い。ほのかに甘く、それでいて辛く⋮⋮絶対子供には早い。 ﹁そ、それでは私どもはコレで⋮﹂ ﹁ちょ、レン⋮だい⋮⋮ょ⋮⋮﹂ 107 え? なんだ?⋮⋮意識⋮⋮が⋮⋮ その時私は人生初の体調不良を体験した⋮酒か?酒なのか!? まさか毒? この身体毒が効かなかったのに⋮何事にも例外が有る のかな⋮⋮。 まさかここで死ぬの? ハイスペックな身体は期待を裏切り気絶の危機⋮。気絶だけは避 けたい、要らない視線を集めるから。 何とか部屋まで平然としないと⋮。 ﹁コソ︵ゴメン、ラン⋮抜かった⋮もう大体の顔見せは終わったか ら部屋に帰ろう⋮もうムリ⋮︶﹂ ﹁コソ︵酒を一気に飲むからだ! 急性アルコール中毒になったの かも⋮急いで帰ろう︶﹂ ﹁コソ︵慌てない、顔に出さない! 平然としていて⋮でも、急い 108 で母さんの所に行こう⋮⋮⋮︶﹂ ヤバめだなぁ⋮⋮血の気が顔から引くのが分かる。マトモに立っ ているのがやっと。酒なんて飲むモンじゃないな⋮ ﹁母上、お話の最中失礼します。﹂ コウレン ﹁!! どうかしたの紅蓮?﹂ いとま ﹁ソロソロ私達はお暇したいと思います。皆様に挨拶も済んでいま すし。妻はこの様な事にあまり慣れていませんから⋮﹂ ﹁⋮分かったわ。私もソロソロお暇しようと思っていたの。帰りま しょうか。﹂ ひき止める貴族たちをのらりくらりと交わしながら部屋に帰って きた⋮正直帰るまでの道のりを覚えていない⋮⋮酒なんか二度と飲 むか∼!!︵。>д<︶ ﹁どうして毒が⋮⋮いる⋮⋮⋮そ⋮⋮﹂ ﹁俺の⋮⋮⋮りに⋮⋮⋮一気⋮⋮⋮﹂ 何を言っているのか聞き取れない⋮流石にマジでヤバイのかもし れない。 寝台に寝かされて額を拭かれる⋮あぁ、私汗かいてたのか⋮とて も眠くなってきた⋮⋮ 109 ﹁紅⋮⋮の⋮⋮く⋮⋮⋮﹂ 薬? ソレノンダラ、ラクニナルノ∼? 何とか呑めたけど⋮ダメだ⋮気が飛んでま⋮⋮⋮⋮⋮ この時私は人生初の気絶を体験した。 散々な目に遭ったよ。でもまぁ、自分の不注意が招いた事だけど ね。 これって死亡フラグ? もしかして死亡フラグ回収しちゃった? 私は死んだのかな⋮⋮ 110 死亡フラグ恐るべし⋮⋮︵後書き︶ さぁ、どうなるコウちゃん!! 次回、別視点になります。m︵︳︳︶m そしてもう一度、お酒は二十歳から!! 111 知らぬ所でフラグは建つ︵前書き︶ ランメイ 今回はランちゃんこと、藍苺視点のお話です。 所々矛盾しているやも知れませんが、生暖かい目で見てくれると嬉 しいです。 112 知らぬ所でフラグは建つ 朝起きたら女になっていた。ソレも赤ん坊⋮。その時は性別なん て分からなかったけど。 赤ん坊視点からは色んなモノが見えた。どうやら俺は必要とされ てないみたいだ。 帰りたい⋮。元の場所に⋮。 母親が死んだ。最後まで俺を守った人だった。コレで本当にひと りぼっちだよ。 俺が隣国に嫁げ?ふざけるな⋮。迷惑かけないから、一人で生き ていくから構うな!! コイツが、黄の国の王が本当の父親? ああ、そう。だからなんだよ⋮。笑え?なんで? 楽しくもないの に笑わなきゃいけないんだよ⋮え? 血の繋がらない息子と結婚し ろ? 同い年だから丁度いい? 別に一人で部屋に行けるから、誰もいなくていい。変な顔された けど知らない。 どうせ、笑わない俺は気味悪がられる。 113 嫌々案内していた女官が足早に去っていった。扉を開けて入ると 若い女性が少々驚いた顔をしたが、すぐに⋮え?何でそんなにキラ キラした目で!! ⋮エラい目に遭った。初対面の相手を着せ替え人形にするなんて 型破りな人だった⋮。ああ、この人が結婚相手の母親なんだ。息子 もこんなんなの?勘弁なんだけど。 マトモだった。でも、直球で本題を言ってきた。あの国に帰れ? 確かに迷惑だが⋮⋮⋮嫌だ! もうあの冷たい場所に居たくない ⋮え? 何で一人称が俺かって? 今俺って言ってた? ヤバイ⋮ は? 仲間? ⋮⋮本当に? 俺は偽装結婚することになった。 ********** ﹁⋮⋮⋮⋮夢か⋮﹂ レンに会う前までの追憶を夢で見ていた。対して懐かしくもない。 思い出したくもない白の国の記憶。実はあまり覚えてない。産んで くれた母親には悪いが脱け殻の様に生きていたと思う。 114 部屋の端と端に置いてある離れたもうひとつの寝台にレンがポチ を抱き締めたまま眠っている⋮若干ポチが苦しそうにしている⋮ ﹁何だかんだ言っても、中身は女性なだな⋮﹂ まだ、成長途中の外見だからか、単に顔が女顔なのか、よく見な いと少女に見える。 ﹁︵共犯者⋮仲間⋮一応伴侶⋮︶﹂ 似たような境遇で、全く違う。やはり俺が弱かったから、卑屈に なっていたから状況は悪化していったのかな⋮。 コレからは、なるべく前向きに考えて行こう。人生無駄にしたく ないし、これ以上は。 ﹁仲間が居るって良いな⋮﹂ ******** タイガ この国に来て二日目。今日はレンのすぐ下の弟、第5王子大雅殿 下の誕生式典があるようで昨日散々着せ替え人形にされて決めた衣 装を着る。余分な部屋が無いのでレンと同じ寝室を使わせてもらっ ているが⋮もう少し恥じらいとか無いのか? 115 レンに聞いてみたら、 ﹁何で? 今は男だし、もうかれこれ8年間見てきたんだよこの身 体。慣れた。﹂ ってさ。まあ、俺もこの身体で7年ちょい生きてきたけど⋮確か に慣れたな。 そんなことを考えながら着替え、次は髪かぁ⋮この髪剛毛だから どうしよう。 あか レンはストレートの薄い藤色の髪を誕生日のプレゼントの紅の紐 。⋮⋮姫だから で上の方にひとつに纏めただけで良いみたいだ。羨ましい。手入れ が簡単そうで。 ﹁ハァ⋮なんで俺まで出ないといけないんだよ⋮ か?﹂ ついつい愚痴が出てしまう。今まで公の場には出たことが無かっ たので緊張する。 出来れば出たくはない。 。さっき言った 誰よりも。だから例えKY陛下 ﹁それもあるけど、一番は私と結婚したからだよ でしょ、私は立場が低いんだよ、 たら参加しないといけないの∼。その嫁何だか 同じく強制参加だよ。﹂ だろうが、呼ばれ ら なかなかシビアな⋮ 116 た。選択肢の中 いからな。でも、 KY陛下って⋮⋮仮にも陛下だ ﹁⋮選択を誤ったかな⋮いや、コレ以外になかっ で一番マトモだった。⋮⋮でか、 ろ⋮良いのか?﹂ ﹁おっと、つい本音が⋮﹂ ﹁気を付けろよ。どこで誰が聞いてるか分かんな 確かにKYだな。﹂ あれは異性にも同性にも嫌われる質だ。 そもそも王様には合わないだろう。 ﹁流石だ!同志よ。﹂ ﹁ハイハイ、同志、同志﹂ むかし 寝癖とか﹂ 癖って。油断で 寝癖とかつかな なんだか前世の様に笑えるような気がしてきた。やっと肩の荷が 可笑しな所ない? 落ちた気がした。 ﹁どう? ﹁ないよ。そんなにサラサラストレートで滅多に いだろ⋮﹂ ﹁例えストレートでも、つくときはつくんだよ寝 きない⋮﹂ ﹁へー⋮俺は髪をどうしようかな⋮。﹂ むかし この髪頑固過ぎるから困ったもんだ。前世も頑固な癖っ毛だった 117 なぁ。 もしかして呪いなのか? 天パの呪いか? いや、この髪は天パみたいにクルクルじゃないから⋮天パじゃな いから⋮ん? 髪。後ろの髪は重 何だろうレンが不気味⋮何か企んでいる顔してんだけど⋮ ﹁ラン、髪結ってあげるから♪﹂ ﹁︵この親子そっくりだ⋮︶﹂ 俺の髪は長い。前髪辺りが癖が強いツンツン 鳥に髪型が似ているRPGの主人公 力に従って下にまっすぐ下がっているが、ボリュームがありがある せいで広がっている。 でも短く切っても某黄色い みたいな重力無視した髪型にはならないぞ。 ﹁で、どうすんだよ。言っておくけどなぁ、俺の髪はすんごく剛毛 だからポニーテールにしても直ぐに解けるぞ⋮﹂ ﹁大丈夫。ちょっと工夫するから⋮。﹂ 頑固な髪を、頭の両サイドから引っ張られて痛い。みつあみの様 に見えるが触ってみると髪を編み込んでいた。垂らしたままの髪の 下に編んだ髪をひとつに纏めたようで髪が纏まっていた⋮。 コレならボリュームがあり過ぎて広がっも多少押さえることが出 来るかも。 118 ﹁コレでよし! 大人しくしてて かないでよ。﹂ でも、暴れたら解けてくるから ね。とくに両サイドは痒くても掻 ﹂ ょっとぉ、あの 恥ずかしい∼﹂とか言われたい 宴で馬鹿にされたくないだろ⋮﹁ち ﹁なんかキツイ⋮頭両サイド引っ張られて痛い。 ﹁我慢!! あんな頭で けど。﹂ 子どこから来たの? なら別に構わない ﹁⋮ぜっっったいやだ。ムカつく。﹂ ﹁でしょ?﹂ 確かにレンと母親はかなりの美形。注目の的だな。絶対嫉妬的な 視線とか突き刺さって来そうだな。俺は仮にも白の国の姫だから多 少は注目されるかも知れない⋮憂鬱だな。 考え事をしているとレンの母親が入ってきた。いつもは動きやす ﹂ ♪ ランちゃん そうな、後宮にいる格好ではないけど今日はきちんとした衣装を着 ている。 ﹁準備出来たみたいね。二人とも似合ってるわよ 可愛い∼。﹂ ﹁母さんこそ似合ってるよって言った方がいい? ﹁そこは素直にキレイって言いなさい。﹂ ﹁⋮⋮︵キレイって言われても嬉しくない⋮︶﹂ 119 いいわよ。﹂ にか纏めてみま 綺麗と言われると正直複雑だ。ブサイクと言われるのは確かにム カつくが、綺麗と言われても嬉しくはない。 ちょっとランちゃん鏡みた方が ﹁ランの髪はすんごく頑固なんだよ⋮でも、どう した∼。﹂ ﹁グッチョブ♪ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ もう見てるよ。目の前に有るんだから鏡⋮ ﹁さぁ、ランちゃん。化粧もしようね♪﹂ グイグイ引っ張れ化粧をされた⋮。もういいだろ⋮勘弁してくれ よ⋮。 そして、たった今誕生式典が終わり宴が始まった。祭典中は何も することが無かったので色々と観察してみた。 レン曰くKY陛下は、始終レンの母親の方をチラ見していた。何 なんだ⋮あの男。 そのとなりの女性、今回の主役第5王子の母親は、何故か俺を見 ていた。夫婦揃って何なんだよ⋮。 120 主役の第5王子はレンを見ていた。その隣にいた俺もチラリとた まに見ていたようだ。なんだかまって君か⋮。 他の側室と王子達は皆して俺をガン見していた。いや、あれは睨 んでいる、に近いな。 他の王族は我関せずを貫いている。貴族達は遠慮なしにこちらを 見ている。不愉快なほど。 そして話しかけてきた貴族達は遠慮なんてないと言わんばかりに レンに自分の娘を進めてきた⋮。そしてレンはニッコリ笑いながら スルーしていた。あのさオッサンどもよ、一応俺は嫁なんだけど? ソコまで堂々とされるといっそ清々しいな。 あと、必要に俺の手を触ってこようとするオッサンがウザイ。そ れにレンの機嫌が駄々下がりなんだが⋮。 ﹁さあさあ⋮妃殿下も遠慮なさらず⋮﹂ ﹁えっ⋮あっ⋮﹂ 子供に酒なんか薦めんなよ⋮酒は二十歳から何だからな⋮飲まな わりに私が飲み いぞ。俺は身長を伸ばしたいんだよ。でも、飲まないと失礼なのか? ﹁すいません、妻は酒の類いは苦手なのです。代 ましょう⋮﹂ ﹁あっ⋮⋮しかし⋮﹂ 121 え? いや、まてまて、何でそんなに男前なことすんだよ? 俺 の立場無いだろ⋮。 ﹁︵ちょ、レン。一気はダメだ!︶﹂ 一気に酒を飲んでしまったレン。大丈夫なのか、急性アルコール 中毒になるぞ⋮。 ソレにしても、オッサンどもがなんかそわそわしている。コレは 何かあるな⋮。 ﹁そ、それでは私どもはコレで⋮﹂ 案の定さっさと逃げてった。それじゃ、自分達が犯人ですって言 ﹂ ル中毒になった 見せは終わった ってるようなもんだけどな。酒を飲んだ後レンが一言も喋らなくな った。何か様子が変だ。 ﹁ちょ、レン、大丈夫?﹂ レンの意識が朦朧としているようだ。 から部屋に帰ろう⋮もうムリ⋮︶ 急性アルコー ﹁コソ︵ゴメン、ラン⋮抜かった⋮もう大体の顔 ﹁コソ︵酒を一気に飲むからだ! のかも⋮急いで帰ろう︶﹂ 酒だけでは無いだろう。酒が弱いならレンはあんなに一気に飲ま ないだろうし⋮多分 122 コレは早いとこ部屋に帰らないと⋮ 平然として ﹂ ﹁コソ︵慌てない、顔に出さない! いで母さんの所に行こう⋮⋮⋮︶ いて⋮でも、急 顔色が真っ青だ。あの酒ひ毒が入っていたのか。今はそんなこと はどうでもいい。 歩けはするが、もういつ倒れてもおかしくないだろう。ホントは 紅蓮 ?﹂ したいと思います。皆様に 慣れていませんか 挨 肩を貸して支えたい。けれど、レンは冷静を装うために断った。 暇 コウレン いとま どうかしたの ﹁母上、お話の最中失礼します。﹂ ﹁!! ﹁ソロソロ私達はお 拶も済んでいますし。妻はこの様な事にあまり ら⋮﹂ ていたの。帰り がら部屋に帰って ﹁⋮分かったわ。私もソロソロお暇しようと思っ ましょうか。﹂ ひき止める貴族たちをのらりくらりと交わしな きた。しつこかった⋮人気が無い廊下に差し掛かった辺りからレン の足取りは覚束なくなった⋮大丈夫だよな? ﹁どうして毒が⋮効いているの!?⋮早く解毒しないと。それにし てもどうして毒なんか⋮﹂ 123 ﹁俺の代わりに、勧められた酒を一気飲みして⋮俺のせいだ⋮﹂ コウレン ﹁違うわよ。あなた方飲んでいたら、今頃死んでいたわ。紅蓮は毒 なんか効かないのよ。効かない筈だった⋮。﹂ 罵られた方が気が楽だった。許されるのがこんなに辛いなんてな ⋮。 今はそんなことはどうでもいい。急いで部屋に入り寝台に寝かし、 毒消しを取りに行ったレンの母親の代わりに看病をする。 さっきよりも状態が悪化しているようで額には珠のような汗が絶 えず浮かんでくる。汗を拭いてはいるがキリがない。 窮屈な衣装を着ているせいで息苦しそうだが⋮気がひける⋮。 ﹁何もやましい事じゃない⋮けど﹂ 精神的に女と分かっていると何故か遠慮してしまう⋮。 別に素っ裸にする訳ではないと自分に言い聞かせ衣装を脱がすこ とにする。 コウレン ﹁ごめんなさい、少し時間が掛かったわ。紅蓮の容態は?﹂ ﹁さっきよりも悪化して、凄い汗をかいているんだ。息苦しそうだ が衣装は脱がせたけど⋮。コレしかすることがなかった⋮﹂ 124 コウレン ﹁それでいいよ。ありがとう。さぁ、紅蓮コレを飲んで薬よ⋮﹂ いったいどこまで毒消しを取りに行っていたのかは知らないけど、 コレでひと安心しても良いのだろうか⋮。 そこで俺の記憶は途切れていた。どうやら気が抜けて眠ってしま ったようだ。レンの母親には迷惑をかけてしまったな。 レン、死んだら承知しない。俺をわずか二日で未亡人にする気は 無いだろう? そんなの嫌だからな!! 125 知らぬ所でフラグは建つ︵後書き︶ 40分ちょいで書いたので多少誤字脱字等ありましたら順次修正 いたします。 主人公は自分の預かり知らぬ所でフラグが建っていたりしますよ ね。 所で、フラグは立つ?それとも建つ? ここでは、建築とかけて建つにしていますが、このままでいいのか な? 126 親が人外ってなんのフラグ?︵前書き︶ 漸く主人公が回復♪ お気に入り登録がもう少しで40件を達成します⋮。Σ︵゜Д゜︶ 本当にありがとう。︵。>д<︶ 127 親が人外ってなんのフラグ? 少し騒がしい店内でアニメや小説の話を熱く語る友達とソレを聞 いている私が居た。どうやら私は夢でも見ているのかな? ﹁似合うって、ね? コレ着ておねがい!﹂ ﹁またコレ? 何回目だよ⋮。﹂ ﹁だってコレ似合うじゃん♪ 顔立ちが外人だし。髪だってヅラ被 ればいいんだし∼、ね?﹂ ﹁ハーフだからね∼一応は。﹂ そう。私はハーフだった。どこの?と言われても解らない。何せ 父親は生まれる前に蒸発したから。ただ言えることは、間違いなく 父親は外人だってことだけ。 勿論私は顔立ちが父親似なのだろう。母親には似てないから。 ﹁ホントにおねがいしますベル様∼!﹂ そうそう。私の名前はベルだった。名前も顔も日本人にはまず見 えない。だが、私は歴とした日本人だ。英語出来ないし。名前の由 来なんて知らん。 128 ﹁よーし! コレで完了♪﹂ ﹁ハァ⋮何で毎度こんな格好⋮﹂ ﹁良いじゃない似合うって。さぁ、いざ行かん、戦場に♪﹂ みながわなつめ この子は友達の皆川棗、何故か皆からミケと呼ばれている。理由 は猫みたいだからだって。私もそう呼んでるけど詳しくは知らない。 ミケの言う戦場はコミケの事。私は毎度コスプレさせられて店先 に置かれる。所謂看板なのだ。勿論店とはミケの書いた⋮薄い本を 売る店の事。 ﹁うんうん、やっぱり似合うよ♪﹂ ﹁ねえ、もういいでしょ、さっきからカメラのフラッシュが⋮目が 痛い⋮。﹂ ﹁完成度高いからだよ。いやぁ∼ベルが居るとよく売れる♪ バイ ト代弾むよ♪﹂ 毎回こうしてコスプレをするとその、薄い本が飛ぶように売れる んだって。だから引っ張られて連れてこられるのだ。しかし利点も ある。 129 バイト代と言って利益の半分をくれるのだ⋮。結構いい額だった りする。 確かにカメラのフラッシュは正直勘弁だけど、金銭面ではとても 助かる。母子家庭な家はかなり切迫しているから。 ﹁ねえベル。今度は従兄弟も連れてくるから⋮。かなりのイケメン だよ。そろそろ恋をしてもいいんじゃない?﹂ ﹁まだ当分はいいや。勉強もあるし。大学卒業して就職してから考 えるよ﹂ ﹁私と同い年の有望株なんだよ従兄弟。﹂ ﹁ふん∼、でもさ、私に進めてくるにはなんかあんでしょ?﹂ ﹁ありゃ、バレた? 実は、異性に興味なくてさ⋮。それでいて同 性にも興味ないんだなコレが。BLなら応援したのにぃ⋮﹂ ﹁ハァ∼あんたねぇ、身内でもお構い無しか。そりゃ嫌われるよ∼﹂ ﹁それがバレたらね。﹂ ﹁相変わらず猫かぶってんのか⋮。﹂ ﹁フフフフ。﹂ ﹁程ほどにね﹂ ﹁はぁ∼いっ!﹂ 130 結構楽しかった。今思えばミケはオタクではなく、腐女子だった かも。 従兄弟も本のネタにするくらいだから間違いなく腐女子だったね。 ﹁そう言えばさぁ⋮あの⋮⋮⋮⋮⋮﹂ いきなり砂嵐のが目の前に広がった。目の前にいたミケは跡形も なく消えてしまった。 夢のなかでも真っ暗になるなんてあるんだね⋮なんも目えない。 段々と息苦しさが襲ってきた。あぁそういえば、お酒を一気に飲 んだんだった⋮。 気がつくと夢から覚めていた。だが頭痛が酷く、熱もあるようで、 視界は涙で霞んでよく見えない。 霞んでいるのは、何も涙のせいだけでは無いようだ。物まで歪ん で見える。 私の傍らに何か黒い動くモノがあった。 131 もしかしてポチ? ごめんね今遊んでやれないよ⋮ちょっと二日酔 いが酷くてさ⋮。 だが黒い動くモノはポチでは無かった。だって羽がないもの。 ﹁だ⋮⋮⋮?﹂ なんだ、ランか⋮。今なんて言ったの? よく聞き取れないよ。 なんと言ったのか聞こうとしたのだが、声がでない⋮のどが渇い ているのかも。 ランが泣き出した。ちょっと、中身は男でしょ。泣かないの。二 日酔い位で⋮。 腕を上げるのも一苦労だけど、泣いているランが妹みたいに思え て頭を撫でてみる。全く、どうしてこうも泣き虫なんだか⋮⋮。私 よりも女の子らしいよ。 記憶はまたここで途切れた。後から考えたら、二日酔いでこんな に重症な訳ないよね。 ********* 132 目覚めは突然だった。ぱちっと目が開いた。なんともスッキリし た目覚めだった。少し腕を動かしてみると難なく動かせた。ダルさ もなく⋮ん? おかしい、何か腰回りに違和感⋮。一先ず起きよう。寝台から起 き上がり、床に足をつく、やっぱりおかしい。それに心なしか音が いつもよりよく聞こえる。昨晩は熱がでて音もよく聞き取れ無かっ たから元に戻ってそう感じるのかも知らない。 そしてふと、備え付けの鏡に映った自分の姿を見た。 ﹁⋮⋮⋮⋮え?﹂ 鏡に映った自分は、何故か腰まわりが膨らんでいた。一晩で太っ たのか? まさか病気⋮。確かに酒が原因で肝臓が悪くなると腹が 膨らむけど、一回の飲酒でなるわけないじゃん⋮。 なら、なんで? ﹁⋮⋮はえ?﹂ もう一度確認していて気づいた⋮。 ﹁⋮⋮み、み、⋮⋮耳がーー!!!﹂ そう、耳が本来の位置に無かったのだ。代わりに頭の上に三角の 物体が付いていた⋮⋮。 133 何でだよ!! コレなのフラグなの!!!︵︵︵︵;゜Д゜︶︶︶ そして私のだした大声でマミィ達が部屋に駆け込んできた。扉が 不吉な音たててたけど大丈夫か? 蝶番の部分が壊れたかも。そし て今命の危機が⋮ ﹁く、苦しい⋮ちょっと、ねえ⋮﹂ ﹁ランちゃん、そんなに締めたらコウちゃんが窒息するわよ∼﹂ ちょっとマミィ!!見てないで助けてよ∼! てか、なんです、 この状況! ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂ ひたすら無言でかなりの力で抱き締めてくるラン。背骨とか肋骨 とか諸々バキバキ音がするほど抱き締められてる私。そして微笑み ながらお茶を飲むマミィの図。まさにカオス!! ﹁ランちゃんスッゴい心配してたのよ。看病も三日間付きっきりで ⋮。心配させたんだから⋮ね?﹂ ﹁勿論私も心配したわよ。テンパって使われてない後宮の部屋を 消し飛ばしちゃたわ♪﹂なんて言ったマミィ⋮え?マミィ人間だよ ね? 後宮の一部消し飛ばしたってどうやったの? 134 てか、3日?え、いつのまにそんなに経過してるの? ﹁3日もたったの?﹂ ﹁2日は意識不明だったのよ。昨日は少し目が覚めたみたいだけど、 またすぐに眠ってしまったのよ。﹂ ただの二日酔いで?え∼! いや、それも大切だけど、それよりも! ﹁か、母さん。み、耳!﹂ ﹁あら、可愛い♪﹂ 自分の頭に付いた三角の耳⋮なんの耳かは知らん、ソレを指差し てマミィに言ったら⋮⋮うん、予想通りの反応だったよマミィ。 ﹁⋮⋮!!★△●▽◎▼★■●!!⋮﹂ 方やランは驚いていた。人語を話せないほどにね。そういえば、 腰まわり⋮ 気になっていた腰まわりの違和感を確かめるべく、着物、コレは 白い浴衣みたいな薄い生地の着物で、寝間着代わりにいつも着てい るもの。本来は私服︵着物のようなモノ︶の下に肌着として着るも のだそうだ。でも、それは貴族や王族だけの事。 勿論下着ははいてるよ。何故かちゃんとした馴染み深いパンツ⋮ そうパンツなんだよ。マミィが作ったのではなく、元々この世界に あったもの。ゴムじゃなくてヒモで結ぶけどね。 135 寝間着の裾をあげてみると⋮ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ あれ? なんで⋮⋮尻尾?それも3本も生えてるよ∼。てかなん で私パンツはいてないの!? ﹁か、母さん⋮なんで私パンツはいてないの?﹂ ﹁ツッコムとこはソコなのか?﹂ ランのツッコミはムシムシ。だって、気になるじゃん、そりゃ尻 尾も気になるけど。あまりにも非日常的だし、薄々﹁あれ?もしか してハイスペックなのって妖怪だからじゃね?﹂って。きっと父親 が妖怪だったんだよ。 ﹁ランちゃんの言う通り、ツッコミ処が違うわよ⋮。ちなみに脱が したのは私よ。安心して。あなた方寝惚けて脱いだ訳じゃないから ♪﹂ ﹁あ∼よかった∼。変な寝相なのかと思ったよ⋮﹂ ﹁話がズレてるだろ! 尻尾はどうした尻尾は!﹂ ﹁そうでした。どうしよ母さん。ズボンが履けません!﹂ 136 ﹁だから、そこじゃ⋮⋮⋮!!﹂ うん、解るよ。でもね、多少は混乱してんだよ私も。だからさ、 ちょっと現実逃避したいんだよね⋮。うん、現実を見よう。 ﹁大丈夫よそれは私に似たからなんだから♪ その内羽も生えてく るから。﹂ ﹁﹁⋮⋮⋮⋮﹂﹂ うん、薄々気づいていたさ! コレでまた変なフラグが建つんでしょ⋮もう分かってんだよ∼!! ハァ∼。 137 親が人外ってなんのフラグ?︵後書き︶ ケモ耳+羽付き⋮私も羽が欲しいよ⋮。高い所苦手だけど飛んで みたいな⋮。 そられから、ちょい役の名前募集しようかな⋮あんまり浮かばない ⋮。︵。>д<︶ 中華風の名前ってあんまり思いつかない⋮。Σ︵゜Д゜︶ 全てを採用できるわけではありませんのでご了承下さい。m︵︳ ︳︶m 138 陛下︵バカ︶とフラグは使いよう︵前書き︶ タイトルはいつもその場の勢いで付けてます。関係ありません。 お気に入り登録数40件達成!!︵゜−゜︶︵。︳。︶ 思わず二度見⋮ 皆さんどうもありがとう。m︵.︳.︶m 139 陛下︵バカ︶とフラグは使いよう 衝撃的なマミィの発言で言葉をなくしたレンです。私と同じよう に黙ったままのラン。爆弾発言かましたマミィは⋮ ﹁自分の耳はあんまり触りたくないけど、他人の耳は触ってみたく なるのよね∼。程よい弾力で癖になりそう。﹂ 耳をいじっております。やめてください⋮ ⋮⋮よくさ、耳は敏感とか言うけどさ、確かにそうだね。けど、 触られるとイライラしてくるよ。 ﹁母さんやめて。イライラするから⋮﹂ ﹁あぁ、ごめんなさいね、あまりにもさわり心地が良くて⋮。それ に尻尾も⋮⋮﹂ ﹁勘弁して⋮﹂ 心なしか耳がしょげた気がする。それにしても、髪の毛は薄い藤 色なのに耳と尻尾は白なんだね⋮何でだろう。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 尻尾はマミィから何としても死守しないと。あれ?ランが頭かか えてる? ﹁どうかした?﹂ 140 ﹁どうかしたって⋮⋮早くズボン穿けよ!!﹂ 何ランの言う通り、今下に何も穿いていない。でも、ちゃんと寝 間着で隠れてるから。誤解しないでよ。全く、何を赤くなってんだ か。中身男なら昔見慣れてただろ⋮。まさか⋮⋮ ﹁まさか⋮幼児しゅ﹁違うからな﹂⋮⋮なんだ、良かった。﹂ ﹁ただもう少しで慎みを持てよ。﹂ ﹁今更だよねそれ。だって、もうかれこれ8年の付き合いだよこの 身体。﹂ そう言ったらまた頭抱えてた⋮そんなに気にすんなよ。あれ?私 可笑しい? ﹁所で、この耳と尻尾は母さんに似たって本当? って事は⋮母さ ん妖怪なの?﹂ ﹁そうよ。言ってなかった? そうじゃなかったら、ここから抜け 出して城下には行けないわよ。﹂ それもそうだった。あれ?それじゃあ、このハイスペックな身体 はマミィ譲りなのか? ﹁毒が効かないのは母さんが妖怪だから?﹂ ﹁そうね。でもね、毒の耐性はお父さん似よ。私よりも毒に強いか ら。﹂ 141 そうか、やっぱり父さん似なんだ。 ん? ならやっぱり父さんも妖怪? ﹁父さんも妖怪なの?﹂ ﹁そうよ。スッゴいかっこ良かったの♪ それに凄く強かった。﹂ ノロケになりそうだね⋮。 ﹁それならなんで、毒が効いたんだ? 両親共に毒の耐性が高いん だろ?﹂ 復活したランが疑問を口にする。ねえ、その目の下の隈大丈夫じ ゃないよね。もういいから眠って下さい御願いします。すんごく心 配だよ⋮。 ﹁そうなのよ。それが不思議でならなかったのよ⋮。でも、今はち ゃんと解決したわ。﹂ なんか話に着いていけない⋮。毒ってなんだよ。あれ?私毒で寝 込んでたの? ﹁毒?﹂ ﹁⋮⋮もしかして毒って気づいてなかったのか⋮﹂ ﹁ギクッ⋮⋮もしかして毒だったの? 私はてっきり二日酔いかと ⋮⋮⋮﹂ ﹁どれだけ酷い二日酔いなんだよ。死ぬところだったんだぞ⋮﹂ 142 ランの機嫌が悪いんだけど⋮もしかして心配させ過ぎた? ﹁ハハハ⋮。心配掛けました⋮。﹂ ﹁﹁ほんとにな﹂ね﹂ なんだかこの二人息ピッタリだよ。 コレはさっさと話を変えないと。 ﹁それで、毒が効いた理由ってなんだったの?﹂ ﹁そうだったわ⋮、今から三日前、あなたが倒れてから少し、私が ⋮⋮⋮﹂ ******* コウレン おかしい⋮。たとえ猛毒だとしても私達には効かないはず⋮。そ の証拠に昔毒を盛られた時にも全く効かなかった。なのに紅蓮は毒 で倒れてしまった⋮。運良く隠していた万能薬が有ったから良かっ たものの⋮一体どうして⋮。 考えられるのは、ただ一つ。そしてもしその可能性が本当だとし たら⋮。犯人はかなり絞られる。 コウレン 先ずは⋮私達に話し掛けて紅蓮達と分断してきた貴族、名前は知 143 らないけどなんか変態な顔の⋮⋮禿げ? そうよハゲだったわ! んー、でもそれだけだとこの国にはごまんといるし⋮⋮。他の特 徴は⋮ダメだわハゲが強すぎて他が消えてしまった⋮。恐るべしハ ゲの効果! 仕方ない、ランちゃんに聞こう。 コウレン 紅蓮が倒れてから一時間位経つ。ランちゃんはあれから付きっき りで看病している。あの子には落ち度は無いのに。前世は二十歳の 男性だったのに、何だか普通の女の子に見えてしまうわ⋮。 言葉使いは悪いけれど。 ﹁ねえ、ランちゃん。ちょっと聞きたいのだけれど、いいかしら⋮﹂ ﹁え、ああ、うん。⋮⋮何ですか?﹂ 目が充血しているわね。泣いていたのかも。そういえば、この子 ごく最近母親を無くしたのよね⋮。まだ引きずっているのかもしれ なわ。 コウレン ﹁看病を任せっきりでごめんなさい。悪いけど、一つ聞きたいのよ。 紅蓮に、お酒を飲ませたのは誰? 特徴は?﹂ ﹁正確には俺に勧めて来ました。顔の特徴は⋮禿げ?﹂ 不味いわ、この子もハゲの効果で他の特徴が霞んでしまったのか も⋮ 144 だいたい、犯人が禿げているのが悪いのよ⋮。小説なんだらもっ と解りやすい外見をしてなさいよ⋮。おっと、メタ発言はダメなの よ∼。コホン、今の無しね♪ ﹁確か⋮かなりゴテゴテの指輪とか飾りがやけに派手だった。⋮そ れと、必要に俺に触って来ようとしてた。レンに阻まれてたけど⋮。 ﹂ これしか解らないなんて言ってたけど、上出来よランちゃん。私 なんて、変態面と禿げしか覚えてなかったわ! ﹁ありがとうランちゃん。またコウちゃんの看病お願いね。私はち ょっと絞めて来るわ。﹂ ﹁︵何を絞めて来るのか恐くて聞けない⋮⋮。︶﹂ ふふふふ。さぁ、犯人探しといきますか。私の子供に手を出した こと、死ぬまで後悔するがいいわ⋮。 ゴテゴテの装飾、変態面、禿げ、幼女趣味⋮⋮。数人該当者が居 た。 私に話しかけてきた女性達の中に一人だけ該当者の妻が居た。一 先ずその屋敷に忍び込む事にする。 どうやって調べたか? 友達に頼んだのよ。勿論妖怪の。 145 ﹁作戦は失敗だ⋮⋮誤って第4王子に飲ませてしまった⋮。﹂ あら、ビンゴ♪おバカさんね。誰が聞いているとも知らないで、 勝手にペラペラ喋ってしまうなんて⋮。 証拠にこの録音用の宝珠で記録しておきましょう。この宝珠はか なり一般的に普及しているのよ。よく映像、音声とセットで夫の浮 気の証拠を押さえる妻たちの強い味方。記録したモノは映像、音声 共に細工不可な術をかけてあるので証拠としてもかなり有効な⋮⋮ って、通販の回し者みたいになってたわ私。 つまり、コレで記録していれば、こちらが有利なのよ。不法侵入 はこの世界では無い。常識的にはダメなのよ勿論。 でもね、こういった諜報活動は、忍び込まれるほうが悪いのよ⋮ って言う暗黙の了解があるの。だから、こちらに落ち度は無いよ。 ﹁陛下の頼みで引き受けたが⋮⋮誤算だった⋮。あの人嫌いの王子 が、助けるとは⋮ああぁぁ、私はどうなるんだ⋮。﹂ 人嫌い⋮コウちゃんはそんな風に思われて居たのか⋮。それにし バカ ても、ターゲットはランちゃんだったのね⋮。なら何故妖怪にも効 く毒を盛ったの? それに、あの陛下はどうしてランちゃんの命を ⋮⋮まさか、自分の汚点だとでも思って消そうとした? バカ あり得そうね、あの陛下なら。 ﹁︵まぁ、確かめれば良いわね⋮。もう少し記録してから行こうか 146 な⋮︶﹂ 別に、ハゲオヤジなんて見ていたくはないけど⋮。証拠の為よ我 慢よ我慢。 ﹁⋮⋮あの毒は猛毒だ⋮王子は助からないだろぅ⋮⋮あぁぁ⋮﹂ もういいわ、耐えられない⋮。変態オヤジの泣いてるシーンなん て誰特なのよ⋮。 バカ 次はあの陛下の所ね⋮。あの側室の所かしら⋮今の時間帯ならお 楽しみ中じゃないでしょうね⋮見たかないわよ⋮⋮⋮ハァ∼。︵; ¬︳¬︶ 移動は屋根伝い、つまりは屋根の上を走っている。この時だけは 妖怪なのはありがたい。走らずに翼を出して飛べば良いのだけど⋮。 正直めんどくさい。背中が空いた服を着ていないので翼を出したら 服をビリビリ破ってしまうから⋮。 それに別に飛ばなくても、この国で一番高いと名高い王宮の塀も 軽々と跳べる脚力があるので、今は必要ない。 ﹁さて、このザル警備のお陰で楽に侵入出来るから本当にいつも助 かっているわ⋮﹂ まるで某段ボールが好きな蛇の敵兵並の視野の狭さ⋮。正直コイ ツら居る意味あるの?と思うのだか⋮。 きっと一度見つかっても見失ったら何事も無かったように侵入者 147 も見逃すのでしょうね⋮。 そして着きました陛下の自室。あの側室の所には居なかったのよ ⋮。それなら自室かな、と思い来てみれば見事ビンゴ。行動が解り やすくて助かるわ∼。さて、記録記録⋮。 ﹁⋮⋮⋮あの毒をあの忌々しい化け物が⋮ふん!⋮ならば助からな いだろう。白の国から来た荷物は仕損じたが、まぁ同じ邪魔者⋮良 い掃除になるか⋮⋮﹂ ⋮⋮⋮今、奴はなんて言ったのかしら? 空耳ではないわね⋮。コイツドウシテクレヨウカ⋮⋮ ﹁⋮⋮コレで⋮﹂ コレでなんなのかしらね⋮。まさか私がなびくとでも思ってるの かしら⋮。私が愛しているのは後にも先にもコウちゃんの父親よ! 天地がひっくり返ってもあり得ないわよ! ﹁所詮化け物の子、邪魔な子供が消えれば⋮あの者も目を覚ますだ ヤッパリそうキタかー!? あんたが目を覚ませ! この勘違 ろう⋮﹂ い横恋慕男が!! ハァ∼。︵;¬︳¬︶ 148 ﹁︵なんで、こんなにバカなんだろう︶﹂ 元々コイツのせいであの人と離ればなれになってしまったのだか ら、少し位はうさはらししてもイイヨネ! 記録を録り終え次にとった行動は⋮後宮の一部破壊だった。勿論 それには理由があるけど、今は秘密♪ 後にこの後宮破壊騒動は後宮始まって以来の大事件として後世ま で語り継がれるのだか⋮それはまた後程⋮⋮。 ******** ﹁まぁでも、2/3はイラついたからよ♪﹂ ﹁ですよね∼︵;・ω・︶﹂ ﹁⋮⋮⋮︵/ー ̄;︶﹂ マミィはいつでも通常運転だった。安心して良いのかな? 149 ﹁えっと、それで、何の毒だったの?てか、私が生きているのって 不味いんじゃ⋮﹂ 比較的人間よりも身体能力が高い妖怪でもし死に至らしめるほど の毒で生きてるなんて怪しまれるよね確実に。 ﹁それに関しては心配要らないわ。コウちゃん例の作戦実行よ!﹂ ﹁ついに!﹂ ﹁何が?﹂ そう、その作戦こそが私達親子の最終目標なのです。 バカ ﹁作戦名、陛下とハサミは使いよう、よ。内容は⋮ここからの脱出 ! 毒の事は謁見したときに話すわよ♪﹂ 今まで機会を伺っていたけれど、どうやらマミィの堪忍袋の尾が 完全にキレたらしい。その証拠に今まで大人しく⋮後宮内では大人 しくしていたマミィが、一部とはいえ後宮を破壊したのは初めてだ。 相当キテる⋮⋮KY陛下の命が危ないかも⋮⋮別にいいか。でも、 あの、あ・のKY陛下が毒殺なんてするだろうか⋮⋮どうしょうも ないヤツだけど、そこまでするようなヤツだったか? ⋮だとしても私にはどうすることも出来ないし、しない。だって ⋮そんな義理無いもの。 ﹁昔から計画してた、と⋮でも、なんで、そんなに掛かったんだ? 150 正直言って直ぐにでも出て行けるだろ?﹂ そうだよね∼。マミィなら出来るよね確実に。現に後宮から何度 も城下に降りてるし。誰にも気づかれずに⋮。 ﹁勿論、直ぐにでも出ていきたかったわよ∼。けど、ただ出て行く だけだと色々厄介なのよ。血の繋がりは無くても王位継承とかね。 だから、それを破棄するために色々様子を見ていたの。継承破棄は 色々面倒なのよ⋮﹂ ﹁へー⋮。⋮⋮⋮ん? なら今は破棄出来るって事だよな⋮?﹂ あっ、そうだよね。破棄云々は私も知らないんだよね∼。何が 破棄の対象になるんだろ⋮ ﹁ねえ母さん、破棄はどうすんの?﹂ ﹁この国はね。妖怪の血を引く者は王位を継げないのよ。﹂ ああ、だからか∼。納得しました。 ﹁今の私の姿なら一発で破棄できるね∼。⋮⋮でも、ちょっとまっ た。ランはどうするの? 付いてくる? ここに居ることは、危な いから出来ないけど、白の国に帰る⋮⋮﹂ ﹁絶対ヤダ。こんな国もあの国も⋮。付いていく。置いていかれて も噛みついてでも付いていくからな。﹂ コウレン ﹁その方がいいわよ。きっと一人で居れば狙われるわ。一緒に居た 方が安全だもの。それとも紅蓮。あなたは妻を見捨てるの?﹂ 151 ﹁見捨てるなんて事しないよ。けど、私達の勝手でつれ回す訳にも いかないし。﹂ ﹁変な気をまわさなくていい。俺が決めたんだ。レンが気にする事 じゃ無い。﹂ 変な気をまわさなくていい、か。そうだよね。共犯者と言ったの は私なんだから、一緒に逃げるのは当たり前なんだ。 ﹁うん。ゴメン。ちょっと考え違いをしてたよ。そうだよ共犯なん だもん。よし! 一緒に行こうね♪ これからもよろしく嫁さん。﹂ ﹁⋮⋮ハイハイ。こっちこそよろしく旦那さん。﹂ ﹁青春ね⋮懐かしいわ∼。私もあの時は⋮⋮﹂ 一応話は纏まったのか? まぁいいじゃい。 さて、KY陛下に殴り込みに行くんでしょ? え?ちがうの? 謁見? でもラン、母さんは殺る気満々だよ? 止めろ? 無理だよ。母さんに勝てないもん。はぁ?死んでも止 めろ? ホントに死んだらどうすんの⋮。ほら、母さんの後を追い かけないと⋮⋮ハイハイ⋮ん?ズボン? 穿いたよ。いつ穿いたの か? 母さんの回想の時に。ほら、ちゃんと尻尾が出るように穴を 開けたんだよ♪ 勿論普通の時は見えないようにしてあるよ。 152 あっ、部屋の荷物纏めてないよ⋮。はぁ?もう終わった!? 部屋を飛び出して行ったマミィを追いかけながらランが、 ﹁なあ﹂ ﹁ん?﹂ ﹁耳はどうやって消したんだよ﹂ ﹁今さらだよね。何となく消そうと思ったら消せた。多分尻尾も消 せるんじゃない?﹂ 結構簡単に出来てしまったよ∼︵;・ω・︶ さて、KY陛下ちゃんと生きてるかな⋮マミィが潰してたりしな いかな⋮心配はしない。 153 陛下︵バカ︶とフラグは使いよう︵後書き︶ あんまり進まなくてごめんなさい。 書きたいことが先走って文章に出来ない。これってスランプ? そ れともただ単に才能がないだけ⋮ 間違いなく後者ですね。所々文章に乱れが有りますが、すいませ ん。これからちょこちょこ手直しをしていきます。 154 フラグなんて関係無かった!︵前書き︶ どうしてこうなった⋮⋮。キャラ、主にマミィが暴走してしまっ た。どこでこうなった? 才能がほしいと切実に思います。 私の知らぬまにユニークアクセス数が3000人を越えていた⋮。 ︵゜ロ゜; ありがとうございます。 実はつい先日までアクセス数をどうやって見るのか知りませんでし た。ホントに自分バカだな∼。 155 フラグなんて関係無かった! コウレン さぁ、マミィの怒りで国の存亡の危機が迫るなか、ちょっと遅れ てマミィを追いかけおります紅蓮です。マミィからはコウちゃんと 呼ばれランからはレンと呼ばれてます。何となくレンのが響きが良 いと思うのですが⋮。いや、今はそれどころでは無かった。 ﹁どうしようか⋮コレ﹂ ﹁どうしようもない⋮コレは﹂ 状況説明をすると、マミィの歩いた後には死屍累々⋮死んでない よ。と瓦礫の山が築かれていた以上。相当キテるねマミィ⋮ ﹁なんでそんなにキレてんだろ?﹂ ﹁そんなの、お前が死にかけたからだろ。解んだろそのくらい⋮。﹂ いや、ほら、マミィがここまでキレたとこ見たこと無いから⋮。 ちょっと実感がわかない⋮。それとも無意識に現実逃避したいのだ ろうか? ﹁この勢いだと謁見の間はどうなってんのか考えたかないな⋮。悲 惨な光景しか浮かばない⋮﹂ ﹁うん。きっと瓦礫を築いているよ⋮。今までの鬱憤を晴らさんば かりに暴れてるよ。⋮⋮どうしよう母さん国を滅亡させた悪女にさ れるよ⋮!!﹂ 156 ﹁そういえば、レンの尻尾ってさ⋮狐だよな⋮耳はしらんけど。﹂ ﹁言われてみれば⋮三本生えてるって事は⋮九尾狐と関係があった りして⋮。﹂ ﹁︵なんでそうやって自分でフラグを建てるんだよ⋮︶確か狐が皇 帝をたぶらかした物語が無かったか?﹂ ﹁?⋮⋮⋮あぁぁ、中国の∼確か壮絶バトルを繰り広げる古い物語 ?だったかな。タイトル忘れたけど。元々、実在した人物をモチー フにしてんだよね。﹂ だっき ﹁確かその妲己は狐だとか、九尾だとか言われてたような。詳しく は知らないが。狐絡みだったのは覚えてる。﹂ ﹁国を傾けたからそう言われてるのかもね⋮。母さんの場合は破壊 になりそうで怖い。﹂ ﹁冗談じゃなくホントにあり得そうだな。﹂ 本来こんなところで立ち話をしている暇など無いのだけど、マミ ィが恐くて正直言うと行きたくない。 ﹁話が進まないから⋮いきますか嫁さん⋮﹂ ﹁⋮⋮行かなきゃダメか旦那さん⋮⋮﹂ もうとっくに謁見の間に到着しているのだが、中がやけに静か過 ぎて逆に怖い。今までの道のりも人は皆気絶していたので日頃から 比較的静かな王宮は廃墟のような静けさになっていた。 157 もしも今の時間帯が夜ならば並のホラー映画よりも恐ろしい光景 だろう。特にそこら辺で転がっている女官やら武官、文官が︵勿論 むかし 死んでないよ︶よりいっそう恐怖を誘うだろう⋮。でも私はホラー の類いは平気だ。寧ろ好物だ。前世ミケに無理矢理ホラーゲームを させられてからハマってまうしまったのだ。以来、よくミケはホラ ーゲームを持ってきては私がプレイしてミケは横でガタガタ震えて いた。懐かしいな∼。ちなみに今の光景は、例えるなら⋮カメラで 除霊するゲームの三番目かな。しかも昼間だからかこっちは怖さ半 減ってとこかな。 ﹁ねえ、ランはホラーゲームやったことある?﹂ ﹁唐突だな⋮⋮。従姉妹が押し付けてきたのならやったことあるけ ど。あんまり恐くは無かったな。﹂ ﹁ほうほう、ちなみにタイトルは?﹂ ﹁バカ、タイトルなんて言ったら消されんだろ。ちなみにやったこ とあんのは、超能力とホラーと銃撃戦がごっちゃになってたヤツと、 地球外生命体とエンジニアが︵圭︶な装備のヤツ。後、ゾンビとか 寄生虫と闘うヤツに、カメラで悪霊倒すのと⋮⋮まだあった気がす るけどこんなところかな。俺基本RPGとか格闘ゲームしかしない けど、置いていかれたらやってみたくなるだろ?﹂ うん。解るよ。ちなみにランが言ったゲームはみんなやったこと があるモノだった⋮。 158 謁見の間の扉を開けようよした。そう﹁した﹂のだ。直感的なモ ノだった。扉の前にいたら危ない! ﹁ラン、避けて!﹂ ﹁あ?﹂ ﹁ドガガッ﹂っと音をたててランと私の顔スレスレに、扉の破片 が吹っ飛んでいった⋮⋮。 ﹁⋮⋮あははははぁ⋮⋮⋮どうしたら良いんだろ?嫁さん⋮﹂ ﹁⋮止めろよ。お前の母親だろう旦那さん⋮﹂ さも当たり前、お前なに言ってんだよ。という顔でポチをだっこ しながら私を見る嫁さんもとい、ラン。無茶だよ。 だってさ、マミィの姿が⋮ ﹁嫁さん嫁さん、家のお母様の姿が獣耳+尻尾何ですけど。﹂ ﹁ホントに後ろ姿がそっくりだな。髪がストレートか緩いウェーブ かの違う位かな旦那さん⋮。でも髪の色がピンクなんだけどな。﹂ ランのノリが良くなってきた。嬉しいような⋮複雑だなぁ。う? ピンクですと⋮本当だ。しかも⋮ ﹁尻尾が九本ってまんま九尾狐じゃん。﹂ 159 ﹁ワン﹂ ﹁ポチよ⋮何気に初台詞だね。おめでとう。﹂ ﹁く∼ん︵;・ω・︶﹂ ﹁ポチが怯えてんぞ。お前の母親恐ろしいな⋮﹂ 全くである。ランの言う通り、今のマミィはラスボス⋮いや、裏 ダンジョンのラスボスだね。我が母ながら恐ろしくも頼もしい。 ﹁あっ! コソ︵ちょっ、嫁さんアレ、あそこにKY陛下が!︶﹂ ﹁コソ︵どこだよ⋮︶﹂ ﹁コソ︵ほら、あそこに⋮母さんの足の下⋮︶﹂ ﹁コソコソ︵⋮⋮⋮踏まれてんな。アイツはマゾか?︶﹂︵注意・ 二人は極小さな声で話しています。︶ え∼!!! アイツマゾなの? マジ? ﹁人の性癖をとやかく言わないけどさ∼。﹂ ﹁二人とも。違うからね?﹂ ﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂﹂ ニッコリ笑っているのに目だけ笑ってない。威圧感ハンパナイの よ。ゴメンなさい。だからその肉食獣みたいな目で睨まないでくだ さい。 160 例えでなく、本当に獣の様な瞳なのだ。アレだよ、明るいところ に居る猫の目だよ。鋭い針の様な瞳。いつものふわふわした優しそ うなマミィがこの豹変ぶりである。世の中、日頃怒らない人が怒る と本当に恐ろしい⋮⋮。 ﹁コウちゃん⋮。事の顛末を話すからこっちに来なさい。﹂ ﹁はい。﹂ マミィに逆らうべからず。断る理由もないしね。ランとポチの二 人+一匹でマミィの側に歩いていく。 近くで見たマミィは、薄い藤色から薄いピンクになった髪が風に なびいている様にフワフワ動いている。勿論風になんて吹いていな い。 頭には私とお揃いの耳︵たぶん狐耳︶と腰より下辺り︵尾てい骨 辺り︶から尻尾が生えていた。私と違い、どんなトリックなのかキ チンと服の上から尻尾が生えていた。服に穴でも空いてんの?それ と尻尾の本数⋮九本。 ﹁さぁ、真実を話すときが来ましたよ。バカ陛下︵笑︶﹂ ﹁その陛下︵笑︶なんだけど⋮泡吹きて気絶してるよ⋮﹂ ﹁だっ⋮大丈夫よ? 手加減してるから⋮。︵ただし、手加減の範 囲ギリギリだったけど︶﹂ ﹁︵絶対怒らせないようにしよう。︶﹂ ﹁えっと⋮。﹂ 161 ﹁真実を⋮そうよ! 真実を話しなさいよ∼﹂ ﹁グフッ⋮⋮﹂ あっ、また気絶した。そんな陛下︵笑︶に往復ビンタを喰らわせ たマミィ⋮⋮。手加減はしてるだろうけど、一切の容赦は無いみた い。私でも同情するレベルだね。 ﹁ね、ねえ母さん⋮それ以上は喋れなくなるから⋮﹂ ﹁あら、ホントだわ∼。危ない危ない。﹂ ﹁︵もうとっくに危ない。主にあんたの思考が︶﹂ 嫁さんよ、マミィわ悪口はやめた方がいいぞ、後が怖いから⋮。 漸くマミィは陛下︵笑︶に往復ビンタするのをやめた。ちょっと 陛下︵笑︶の顔が腫れて綺麗な顔が台無しになっていた。女って怒 らせると本当に怖いわ。 ﹁こほん。さぁ、言いなさい。どうして私が入りたくもない後宮に 居るのか。貴方の口からキチンと言いなさい。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 黙りを決め込むつもりか黙ったままの陛下︵笑︶。きっと本人は 真剣な顔をしているのだろうけど、頬が腫れているせいでシリアス ぶち壊しだ。 ﹁シリアスでも無いけどな﹂ 162 ﹁え? 私口に出してた!?﹂ ﹁いや﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ え∼!! 私の身内はみんな人の心が読めんのかい! マミィ然り、ラン然り⋮。こうなったら私も読心術をいつかマスタ ーしてやる∼!! ﹁バカなこと考えてないで、現実を見ろよ。﹂ へいへい⋮。陛下︵笑︶の胸ぐらを掴みグラグラ揺すっている。 だからさ、そんなことしたらまた気絶するよ。今気づいたが、私達 の周りに立ち竦んだ武官やら、文官達が、それと貴族達。何でか宴 の時の⋮ハゲ?が近くに倒れている。死んではいないだろう。 ﹁⋮だからテメェは⋮﹂ 少し復活したらしい武官達がこちらを窺い始めた⋮。いつ襲い掛 かって来るか内心ドキドキする。 ﹁母さ﹁さっさと話せよ⋮あ゛ぁ゛、﹂ねえ⋮﹂ 完全に周りが見えてない。武官が武器を構え出した。文官達が助 けを呼びに出ていった⋮。早くしようよ⋮。このままだと武官が構 えてる槍で串刺しだよ。マミィは強そうだから避けられるかも知れ ないけれど、私とランは間違いなく避けられはしない。 163 ﹁ラン、私はどうしたら良いんだろ⋮﹂ ﹁俺にも分からない⋮﹂ お手上げだね。 ﹁あ∼もう!頭きた 最終手段!はい。皆さん注目∼!!﹂ マミィは懐から一つの宝珠を取り出した。確か宝珠は色々な効果 を術で封じ込めたモノ。色によって区別されている。アレは灰色だ から記録用宝珠かな。 ﹁なぁ、あのガラス玉みたいなの何なんだ? ﹁見たことなかった? アレは宝珠。色が灰色だから記録用宝珠だ よ。色によって様々な効果があるんだ。後で詳しい説明するよ。﹂ ﹁ふう∼ん。便利だな。﹂ ﹁そうでもないよ。持ち歩くにしたらかさ張るし、効果は様々、物 によっては高価過ぎたり。重宝するけど、単体ではあんまり役に立 たないらしいよ。﹂ ﹁それって、戦闘ではって意味だよな。﹂ ﹁母さんが言ってたから多分そうなんじゃない?﹂ ランと話している間に記録用宝珠が映像を映し出す。SF映画に よくあるスクリーンも無いのに画面が浮かび上がる映像。半透明の 映像が映し出したのはさっき倒れていたハゲのオッサン。ハゲのオ 164 ッサンはランに毒を飲ませようとして誤って私に飲ませたこと、し かもそれを陛下が指示したことをペチャクチャと喋り始めた⋮。こ こら辺は母さんの回想で聞いていたけど、実物で見ると⋮本当に誰 特なんだろ。 次に映し出されたのは、陛下︵笑︶。いつにも増して勘違いをし ている。マミィも性格から女好きの浮気者は眼中にないよ。目を醒 ますのはアンタだよKY陛下。 ﹁よくもぬけぬけと⋮⋮例え息子が亡くなってもアンタなんか眼中 ランメイ にないよ!! この勘違い男! よくも紅蓮を化け物だの邪魔者だ の、あまつさえランちゃん⋮藍苺を亡き者にしようとしたわね!﹂ なび ﹁お前が靡かぬのが悪いのだ!﹂ ﹁こんの∼!!!!!﹂ ﹁あっ! ヤバイ⋮。﹂ ﹁どこかに隠れた方が良いかも⋮﹂ 爆発するのではないかと思ったのだか、マミィは堪えたようだ。 うん。爆発してたら、冗談じゃなく私等木っ端微塵だよ。もしかす るとハイスペックな身体してる私なら大怪我で済むかも知れないけ ど、ランは人溜まりもないから。 ﹁⋮⋮⋮っ、私はね、別にこの国がどうなろうが知ったこっちゃ無 165 いのよ。けどね、もしも私の身内に国が何かしたら⋮⋮その時は完 膚なきまでに叩き潰すから。それと、﹂ そう言ってマミィは記録用宝珠を、誰だろう⋮これまた美形の男 性に渡す。何やら知り合いなのか? ﹁誰だか知らないけれど、この中に記録してあるものを見るのね。 アレが全てでは無いから。そうそう、それ以外にも記録用宝珠は有 るから。例え貴方達が隠蔽しても国全土に報せる事が出来るから。 変な気は起こさないで﹂。 脅しをかけても果たして意味が有るのかな⋮。上層部もかなり腐 ってんじゃないの? 最悪国民を⋮⋮⋮やめておこう。考えたくも ない。 ﹁⋮⋮⋮⋮確かに受けとりました。﹂ ﹁⋮⋮さて、陛下。見ての通り私は妖怪です。息子も純粋な妖怪で す。勿論貴方の子供でもないわよ。私はここに居る理由がもう無い ので帰ります。﹂ ﹁ま、待て! 理由はまだ有るだろう。﹂ ﹁これですか?﹂ 焦った陛下にマミィは懐からまた何かを取り出した。それは白と 紅が揺らめく不思議な水晶だった。 ﹁グッ⋮いつの間に⋮⋮﹂ 166 ﹁後宮を破壊した時に。守りが薄くなったから取り返すのに都合が 良くて♪ 確かに返してもらいますよ。私の夫を。﹂ アレが有ったからマミィはここを離れられなかったのかな? ﹁ん?夫?嫁さん⋮今、夫って言ったよね?﹂ ﹁⋮⋮⋮コクコク﹂ おいてけぼりで話が解らん。ちょっとマミィ説明してください。 ﹁さぁ、言いなさい。それともこの王宮を粉々にされたいの?﹂ ﹁嫁さん私は妖怪です。けど、あんなに強くないのよ?﹂ ﹁それでも止めろよ。手伝うから⋮。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ちょっと小さい声過ぎて聞き取れなかった。獣耳を出しておけば よかった。果たしてなんて意味だったのだろうか。 それでもマミィにはバッチリ聞こえたようで、ニッコリ笑ってい た。 ﹁喜んでコウちゃん、ランちゃん♪ここから出られるわよ♪﹂ 話が解らん⋮。どゆこと? ﹁もう、コイツに縛られていないから出ていけるわよ∼!﹂ 167 ﹁どうして? 縛られていないってどういうこと?﹂ ﹁取り返すモノも取り返したし、言霊で縛られていないから出てい けるのよ。こんなヤツに言霊で縛られたなんて一生の恥じだわ。﹂ ﹁⋮⋮﹂ 陛下は苦虫噛んでる顔をしながら私とランを見ていた。陛下の目 には底知れぬ憎悪があったように見えた。ここまで人は変わるもの か。いくらKY陛下だバカだと思っていても、命まで取ろうとする ほど自分勝手ではなかった。でも私が気付いていなかっただけだろ うか。 ﹁母さん⋮あのさ﹂ ﹁コウちゃん、私達は救世主ではないのよ。私達ではこれは解決で きないわ⋮﹂ ﹁解決?﹂ ﹁⋮⋮⋮︵この国には何か有るのか?︶﹂ ﹁でもそうね∼、解決策は有るわよ﹁陛下!!﹂﹂ 言い欠けたマミィの言葉を中断させたのは、やっぱりお気に入り の側室、舞子さま。大雅を連れてここまで来たみたいだ。陛下の所 まで駆け寄ると、こちらを睨み付けてきた。 確かに私達が悪者に見えるよね。マミィも少し破壊し過ぎたのも あるし。 168 ﹁どういう事なの? 貴女は陛下の側室でしょう? のにこんなことするの!﹂ 何で奥さんな この人少し勘違いをしている。側室とは正式にも、奥さんとは認 められていない。ただのお客様みたいなもの。王の妻と認められて いるのは王妃ただ一人。勿論側室から生まれた者は王族の一員では あるが、それはあくまで王妃の生んだ子供の代わりでしかないのだ。 この国ではの話だけども。 ﹁奥さん? 私はソイツの妻になったことなんか無いわよ。 だっ てもう結婚していたもの。﹂ ﹁え?﹂ ソイツ 初耳∼!初耳だよマミィ。どゆこと?父さんの事なの? シュリ ﹁私の夫は朱李ただ一人。そこの陛下にこの水晶に封じ込められた ね。その後、その水晶と父を盾にここに連れてこられただけよ。逃 げ出せないように言霊で縛り付けて。勿論指一本触れさせてはいな いから。﹂ ﹁ふ∼ん。陛下ってそんなことまでしてたんだ⋮。嫁さん、私はア イツを殴りたいんだけど⋮ダメ?﹂ ﹁首を傾げて言ってもダメだ。別の方法ならいいけど。﹂ ﹁別の方法って、例えば?﹂ ﹁そうだなぁ⋮。例えば⋮⋮⋮﹂ 169 ﹁だからと言って、王宮を壊さなくても良いじゃない。それに陛下 顔が⋮⋮﹂ コウレン ﹁王宮の事は謝るけど、ソイツの顔は謝らないわ。ソイツは紅蓮を 殺そうとしたのよ。子供が死にそうになったのに怒らない親はいな いわよ。﹂ ﹁それでも貴女は間違っているわ。﹂ ﹁どうして?﹂ ﹁そ、それは⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮て、言うのはどうだろう。﹂ ﹁ちょっとエグくない?嫁さん⋮︵゜ロ゜;﹂ ﹁あんな手合いはこんなのが有効だと思うけど⋮﹂ ﹁ん∼⋮。あ∼!!あったあったそんなの!。効き目はバッチリ!﹂ ﹁誰かに試したのか?﹂ ﹁うん。誰に試したかはナイショ♪﹂ ﹁⋮⋮⋮聞かなかった事にしよう。﹂ 男にとってはかなりのダメージになること確実な復讐をランと二 人で考えていたら、事の他良い案を思い付いたのだ。ちゃんと命に 170 関わらない方法だから大丈夫。精神攻撃の類いだから。 だからマミィと大雅の母親の言い合いバトルは見てなかった。相 手はなんか半泣きだ⋮。 ﹁マ、母さん、ちょっと⋮耳かして。﹂ ﹁何?﹂ ﹁あのね⋮⋮⋮⋮⋮って、どうかな∼﹂ ﹁良いわね∼︵これなら、解決策になるかも⋮。それに良いキミよ。 ︶、でもどうやって?﹂ 提案を教えるとキラキラした笑顔で聞いてきた。流石私の母親。 ノリがいいね。 ﹁ほら、前に薬品を調合する依頼で、作った失敗作にそんな効果の ヤツがあったでしょ?﹂ ﹁あ∼、アレねアレ♪﹂ そうそう、アレ、だよ。男には効果抜群の秘策。 ﹁フフフフフフ⋮﹂ ﹁アハハハハハ⋮﹂ ﹁︵この親本当に敵に回したくない⋮提案したの俺だけど⋮。︶﹂ 171 マミィは今度は懐ではなく、腰辺りに着けていた巾着から小瓶を 取り出した。思ったのだが、あの巾着は四次元的な巾着なのかも知 。それに今まで静 れない。前にあの巾着から大きなスイカが出てきた事があるのだ。 ﹁これを飲んだら、全て水に流します。﹂ マミィは小瓶を陛下達の前にかざし言い放つ かにしていた大雅が話し出した。 ﹁それは毒?﹂ ﹁空気読めないの? そんなもの和解に提案しないわよ坊や。これ はね、欲を押さえる薬。全ての欲に効くわけでは無いし、無くなる 訳では無いわよ。﹂ ﹁それを私に飲めと?﹂ ﹁貴方以外に誰がいるの? 別に飲まなくても良いのよ。私に八つ 裂きにされたいなら⋮。﹂ ﹁飲んだ方が身のためですよ∼。母は今気が立っているので。それ に死ぬ訳では無いですよ。﹂ ﹁︵精神的なダメージは大きいけどな。︶﹂ 渋々といった感じで飲むことに決めたようだ。 フフ⋮さて、欲を押さえる薬はどんな効果があるのかな? 察しの 良い人は分かるかも。ヒントは、これとは真逆の効果の薬を依頼さ 172 れたんだよね。 ﹁⋮ただの水に見えるが﹂ ただの水に見えるのはクライアントの要望。見つかってもただの 水って言い訳できるから。味を確かめてないけどむ無味無臭だった はず。 ﹁⋮⋮⋮⋮ただの水では無いのか?﹂ コウ ﹁いいえ、効き目はバッチリのはずよ。もっとも、この効果が解る のはもうちょっと先ね。﹂ コウレン ﹁⋮本当にこれで水に流がすのか?﹂ レン ﹁えぇ、紅蓮に感謝しなさい。命を取るのはダメだと言ったのは紅 蓮なんだから。﹂ そんなこと言ったっけ? ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 意地でも言わないつもりだよコイツ。 ﹁そうそう、ひとつ忠告。この国は後数年したら落ちぶれるわよ。 もう少し国民の事を考えた政治をしたら? それと、もう側室増や さない方がいいわよ。︵もう、遅いでしょうが⋮︶それと、その薬 の効果を消したいのなら、本気の恋をしなさい。それしか解けない から。 173 そう言ってマミィは私達の方に向きを変えて歩き出した。 ﹁さぁ、二人とも。もうここに用は無いから行きましょう。﹂ 私達の手を引いて歩き出した。不意に大雅の母親が声をかけてきた。 かけなくても良いのに⋮ コウレン ﹁どこに行くつもりなの? 紅蓮まで連れていくなんて⋮本当にど ういうつもりなの?﹂ ﹁そんなの私達の勝手でしょ。この子は私と夫の子よ。それに貴方 の掌で踊るつもりは無いから。精々化けの皮剥がれない様にね♪﹂ なんのことか良く分からないけど、あの人が猫被りなのは分かっ た。でも掌で踊る⋮? なんのこっちゃ。 足元に何かの力が集まってきた。何だろう。マミィの力だとは感 覚で分かった。 マミィが不意に足を止めてこう言った。 ﹁あぁ、そうだった。ソイツ、城下に下りては浮気してるから、貴 女が思っているよりも子供が居るから。じゃあバイバイ♪﹂ 足元の力が増して視界が光に包まれた。私達が消える瞬間、陛下 の青ざめた顔と大雅の母親の般若の様な顔がバッチリ見えた。御愁 傷様⋮ざまぁ 174 こうして、長い間暮らしていた後宮からやっとこさ脱出したのだ った。 脱出って言ったよね?アレは嘘だよ。 だって、あれは脱出って言うより逃走の方がしっくりくるよ。ねぇ? ﹁そういえば、部屋の荷物は?﹂ ﹁ちゃんとこの巾着に入ってるわよ♪﹂ ﹁その巾着はやっぱり四次元的な?﹂ ﹁ノーコメント♪﹂ ﹁︵もう少し緊張感持てよ。この親子⋮︶﹂ てか、ココドコヨ? 私達は森のなかにいた⋮⋮。 これからどうすんの? 175 フラグなんて関係無かった!︵後書き︶ さぁどうなるのかな?もうひとつの小説が出来次第投稿したいと 思います。 ︳︶σ‖ こっちはサブ連載なのに⋮あっちよりも書きやすい⋮。。。︵〃 ︳ 修正しました。勝って↓勝手 ご指摘ありがとうございました。m︵.︳.︶m 176 フラグの無い生活︵前書き︶ 山なし落ちなし⋮⋮でもフラグは? はい。どうも雲猫’です。新しい章になりましたが、あまり変わり ません⋮。少し説明が多くなったかも知れません。ほのぼの⋮なの かな。生暖かい目で見てください。では。 お気に入り登録してくださった方々ありがとうございます。 177 フラグの無い生活 コウレン 女↓男に転生しました。紅蓮です。あの後森の中に移動して、こ れからどうなるんだよ∼、と思っていた⋮⋮が、そんなことはなか った。 ﹁まさか全部揃っているなんて思わなかったよ。﹂ そう、全部揃っているのだ。家、家財道具、食料、家畜、畑に果 樹園⋮その他諸々。しかも家は広かった⋮。地下まであったよ。 よろずや 何でも、後宮の外に出ては仕事︵傭兵とか、調合等請け負う何で も屋?万屋?らしい︶で作った人脈でこの場所を確保したんだって。 勿論正式な取引でね。 むかし 家はマミィの手作り。前世とあるゲームで色んな建築をしていた らしく、少しずつ作っていたみたい。知らなかった⋮。 よく仕事帰りに、﹁直下堀は危ないよね⋮﹂とか、﹁マグマで全 ロスト⋮恐ろしい﹂なんて独り言言ってたけど、こういう事だった んだ。最初はなんのこっちゃ?と思ったけど。 後他に﹁匠が居ないって天国⋮﹂なんて言ってたよ。私的にはス ケさんとか、誤爆した時の黒いノッポとゾンビな豚さんの方が恐ろ しいよ。何度囲まれて袋叩きになったか⋮⋮。黒いノッポは単体で も恐ろしい。 ﹁反則だよな⋮。﹂ 178 ﹁反則だよね。数の暴力は⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮レンの母親の事なんだけど⋮﹂ え? お前何言ってんの? と、言いたげな顔でこちらを見てい た。悪かったよ∼ちょっと思考が明後日にトリップしてたんだよ⋮。 ﹁え、母さんの事?。そうだね、母さんホントにチートなんじゃな い? あっ!ランそれ薬草だよ。雑草はこっち。﹂ ﹁間違えた。植えておけば大丈夫か?﹂ ﹁結構丈夫みたいだから大丈夫。﹂ ただ今ランと二人で薬草園の草むしり中。ランはまだ雑草と薬草 の区別がつかないみたいだ。 アレから2ヶ月経過したのだが⋮。後宮の生活とあまり変わらな い。ランは慣れていないだろうけど。まぁ、暗殺の心配は今のとこ ろ無いから気が楽な位かな。贅沢なんてこの8年無かったしね∼。 勿論貧困に苦しむ人々から見たら充分贅沢な生活けどね。 ﹁ふうー⋮。腰が痛い⋮。﹂ 草取りってかなりの重労働だと思うよ。だって長時間腰曲げて黙 々と草を取らなきゃいけないんだもの。たまに伸ばすととても痛い ⋮。 ﹁レン、水汲み手伝って。﹂ 179 ﹁はいはい、ちょっと待って。あ゛∼腰痛い⋮。﹂ 痛くても働かざる者食うべからずなので働く。何もしていないと、 それはそれで暇なのだ。 ここに来て直ぐの頃、病み上がりだからと何もさせてもらえなか った時は凄く暇だった⋮。 ランに言われた通り、水汲みを手伝う。私は妖怪だけあって力は 大人よりも強い。てか、強くなった。あの毒で寝込んで以来。 マミィの説明では、命の危機で力が目覚めたらしい。良くある話 しだよね。 今居る場所の説明をしてなかったね。 この場所は、大国白の国。その端にある四方を絶壁に囲まれた平 らな広大な土地。地球で言えば⋮テーブルマウンテンかな?その下 はこれまた広大な森が広がっている。そんな感じの人が立ち入れな い場所にある。下の大地よりもものすごく高いため、羽がある者し か来れないので少しは安心できる。 この土地には名前は無いらしく、マミィや私達は﹁家﹂と呼んで いる。街に降りて買い物をするのはマミィ担当。家事は私とランの 担当。でもランは細かいことが苦手で大半私がしている。 180 まだ子供で身を守れない私達は容易に外に出られない。てか、恐 くて出られない。何だろう、出たら危ない目に会いそうなんだよ⋮。 なにより断崖絶壁を降りる手段が無い。マミィ曰く、私にも羽が あるらしいが、未だに確認でき出来てない。有ったとしても、果た して飛べるか⋮。 家畜や野菜、果樹園などの仕事は分担している。でもさっきみた いに、薬草と雑草をまちがえたりと、細かいことが苦手なランは比 較的簡単なモノや力仕事をすることが多い。でも体が子供なので水 汲み等の力を使った重労働はまだ出来ない。 そしていつも不貞腐れ気味で私に手伝い要求する。別に落ち込ま なくても良いのに。誰にだって苦手なものは有るって。最近、無理 をし始めた様で 絶賛筋肉痛なのだ。アレって歩くだけで痛いよね。 ﹁︵こういう時って大丈夫?とか、言ったりすると機嫌が悪くなる んだよね⋮。男のプライドが許さないのか⋮。︶﹂ ﹁⋮⋮っ⋮⋮⋮こんな、モンで⋮いいか。﹂ ﹁そうだね、これ位有れば、大丈夫。それにしても、この井戸どう なってんだろ⋮。いくら汲んでも減らない。それにココかなり高い 場所にあるから水はもっと下にあるはずだよね⋮。﹂ ﹁⋮⋮⋮そうだな⋮⋮っ⋮﹂ ﹁ココって富士山位の高さだからね。どうやって水が上がって来る んだろ。それに高山病にならなかったのは幸いだったよね。﹂ 181 ヘトヘトになりながらも水汲みをサボらないのはランの真面目な ⋮性格と男だった時のプライド。 少しは自覚すれば良いのに⋮。例え男でも、8歳の子供に水汲み なんて重労働は荷が重いって。それに姫として育ったんなら尚更。 ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁湿布貼ろうか。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮コク⋮⋮﹂ 痛さに負けたらしい。我慢しなきゃ良いのに⋮。 見てるこっちが辛い⋮。 ﹁ウチの嫁さんは努力家だね。でも程々にね。﹂ ﹁解ってはいる。﹂ ﹁そう。﹂ こんなやり取りも慣れてきた。 ﹁今日のお昼、母さんは帰ってこないからランのリクエストを採用 するけど、何が食べたい?﹂ ﹁⋮⋮チャーハン⋮﹂ ﹁いつものヤツ?﹂ 182 ﹁こないだ⋮作ったヤツ⋮⋮﹂ ﹁了解、了解。﹂ 痛さで言葉が途切れ途切れに成りつつも、キチンと答えてくれる 辺り結構直なランだった。 ﹁さて、湿布は何処に貼ろうか?介の字貼り? 後はヒラメ筋かな ⋮﹂ ﹁⋮⋮全部⋮⋮﹂ どうやら、相当痛いらしい。無理な事するからだよ、全く。 ﹁ほら、早く服脱いで⋮﹂ ﹁⋮⋮﹂ 何か言いたげにこちらを見るラン。何? ﹁貼れないけど?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 今更なんですけど⋮。結構こういう事気にするよね嫁さん。私全 然気にしないよ。それに、変に気にする方が恥ずかしいよ。 183 ﹁前向きながら脱げば? どうせ、貼るの背中だし。後、腕にも貼 る?﹂ ﹁⋮⋮はぁ⋮⋮コク﹂ どうやら観念したらしい。私前世女だよ。まったく⋮小さい子の、 それも女の子の裸見ても何とも思わないよ。まぁ、例え大人の男性 の裸見ても興味湧かないと思うよ。私って枯れてるのか? ﹁まさか子供に湿布を貼る日が来るとはね⋮。しかも介の字貼り⋮。 元々は肩こりの時の貼り方何だけど。痛いなら仕方がないよね。⋮ ⋮⋮はい、終わり。次、腕。二の腕に貼るの?﹂ ﹁うん。⋮内側の方が痛い⋮﹂ 二の腕の内側ってどこ? 脇の方かな? ﹁えっと⋮ココ?﹂ ﹁!!いっっ!⋮⋮うぅぅ⋮﹂ ﹁⋮ゴメン、ココだね。﹂ おもいっきり押したせいで、痛みのあまりまともに言葉が出なか はぎ ったらしい。スマン。どうもこの頃力加減が難しい。 ふく ﹁はい、終わり。次は脹ら脛?それとも太もも?﹂ ﹁脹ら脛が一番痛い⋮。﹂ 184 うん。だろうね。今まで大して使って無かったろうし。姫は肉体 労働しないだろうし。やっぱり力仕事は私がした方がいいかな? ちなみに、この湿布は元の世界の物とはちょっと違う。魔物のと ある一部を使って粘着性を増しているもので、剥がしたり、乾燥し たりで剥がれるが、それ以外では剥がれないという優れもの。 だからどんなに動いても安心です。魔物のとある一部とは、まぁ、 スライムだね。アレの粘着性を使っています。人体に害は無いので 私は構わないけど、巷ではあまり人気がない。おすすめなのに⋮。 まぁ、魔物の一部だしね⋮。 ﹁でもさ、湿布はあくまで補助的なモノだから。程々に動かして、 適度に休んだ方が良いんじゃない? と言うわけで、お昼までラン は休憩ね。﹂ ﹁は!? ちょっと待て、俺は﹂ ﹁休むことも立派な仕事。特にもう仕事はあらかた終わったんだか ﹂ ら、休んでも差し支えないだろう? それに、良いのか∼。﹂ ﹁⋮何が? ﹁小さい頃から筋肉付けすぎると身長が伸びないらしいよ。骨の成 長を妨げるとかで⋮⋮。良いの? 私が追い抜くよ身長。﹂ 案外こんな事が効果が有ったりする。本当に負けず嫌いだね。で もさ、いつかは私が追い抜く気がする。 185 ﹁︵性別違うんだから身長に差が出ても仕方ないと思うんだけど⋮ ⋮でも世の中には例外もあるし⋮。︶﹂ もう少し年取ってから考えることにしよう。今考えたって仕方な いし。 テーブルに上半身を横たえて居るランを居間に残し、私はお昼の 準備に取りかかる。 今日のお昼はランのリクエストのチャーハン。私の家のチャーハ ンは普通とはちょっと違うらしい。何が違うか、それは入れる具が 変わっているらしい。 たくあん ﹁沢庵を入れるのってそんなに珍しいのかな⋮。﹂ そう、沢庵をみじん切りにして入れる。他にもレタスを入れるこ ともある。そんなに変ですか? 勿論、普通のチャーハンも作るよ。 ﹁材料っと⋮⋮⋮青菜は⋮ホウレン草で良いかな。﹂ 186 沢庵を入れる場合、青菜以外の何も入れない。何でかは知らない が、合わないんじゃないかな? 他にもレタスチャーハンとかもあった。レタスの場合、玉葱の代 わりに入れていた。人によってはネギ類を入れてもいいと思う。私 的にはネギは入れないけど。 沢庵抜きで青菜をみじん切りにして入れる時もあった。その時は 卵と人参、玉葱とソーセージを入れるかな。魚肉ソーセージは私は チャーハンに入れるより、そのままで食べたい。 ﹁いつか暇な時にでもソーセージ作りたいな∼。でもソーセージっ てどうやって作るんだっけ⋮﹂ 材料を切り、卵を溶く。中華鍋に油を敷いて適度に温まったら卵 を入れて炒り卵を作る。油をけちると凄くくっつくよ。よくパラパ ラのご飯にしたいなら溶き卵をご飯と一緒に炒めると良いって言う けど、私は別々の方が好きだなぁ。食べ慣れてるし。ふわふわの卵 も美味しいよ。炒り卵はあまり細かくしなくても良いよ。後で混ぜ るから関係ないし。 人参は細かくすると吉。油を敷いて人参を油で浸すように、油で 揚げる様にすると火が通りやすいよ。オレンジから少し黄色っぽく なったら玉葱を入れて炒める。玉葱は火が通りやすいので少しでオ ッケー。 そして炊いていたご飯を入れて炒め、塩、コショウ、鶏ガラスー プの素を入れてココで沢庵を投入。 最後に香り付けに醤油を少し、後は少し炒めるだけで完成。 187 人によっては、卵は入れない方が良いかも。 注意点はこの味が好みでない人が結構多いことだね。あんまりお すすめしないよ。私は作ったけど。 ﹁よし、完成。﹂ ランも母さんも、文句言ってないから嫌いでは無いだろう。それ に、ココで取れるもので賄えるから楽なんだよね∼チャーハン。肉 と米は買わないといけないけど。 鶏ガラスープの素はマミィお手製♪どうやって作ったのか気にな る⋮いつか教えてもらおう。 ﹁出来たよ∼。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁文句があるなら食べなくても良いけど?﹂ ﹁⋮人参⋮⋮﹂ ﹁人参は細かくしてるから味なんて無いでしょ⋮。そんなに好き嫌 いしてると身長が伸びないよ。それとも、これから1週間、人参づ くしにしようか? ニンジンケーキに、ニンジンスープ、ニンジン 188 ⋮⋮﹂ ﹁分かったよ⋮食べる!﹂ 結構お子ちゃまなんだよねランってば。プライドはどうしたプラ イドは。 私も生のトマトと、牛乳がダメだけど、加工すれば食べれるから ノーカン。中でも牛乳は、呑み込む事すらできない。これは前世と 同じなんだよね。 シチューとか、調理するとなぜか食べれるから不思議だよね。 ﹁人参の味がしなければ食べれるでしょ?﹂ ﹁レンだって牛乳飲めないクセに⋮﹂ ﹁吐いても良いのなら今飲んで見ようか?﹂ ﹁そんなに嫌いなのか?﹂ ﹁これは前世でも嫌いだったんだ。赤ん坊の時もあんまり飲まなか ったみたいだよ。ミルク。﹂ ﹁よくそれで育ったな⋮﹂ ﹁ホントに⋮﹂ どちらの母親には感謝してるよ。 189 ﹁﹁ご馳走さま。﹂﹂ ﹁残さず食べたじゃん♪﹂ ﹁案外食べれた。﹂ よかったよかった♪ さて、後片づけしてちょっとのんびりしま しょうかね∼。 晩の仕込みも忘れずにしないと。マミィが帰ってきて直ぐに食べ れるように、疲れてると思うから、出来る限りの事はしたい。そん なことしか出来ないから。 食後の一息。勿論お茶を飲みながら∼。年寄りなんて言わないで よ。お互い精神年齢27なんだから⋮⋮いや、私は28だった。 そういえば⋮⋮ ﹁⋮お茶が美味しい⋮⋮そういえば、ランの誕生日っていつ?﹂ 今更ながら聞いていなかった。バタバタした2ヶ月だったのです っかり忘れていた。 ﹁⋮⋮⋮今日何の月だ?﹂ 190 ﹁⋮三の月、だけど。﹂ ﹁⋮⋮大分過ぎてた⋮。一の月だった。﹂ なん⋮だと⋮。 ﹁なら、明日はご馳走にしようかな。﹂ ﹁え!? そんな材料有るのか?﹂ そう、何を隠そう︵さっき説明したが︶、この家の周は絶壁の崖 ⋮しかもその下は森が広がっている。つまり、周に街なんて無いの だ。だからご馳走となると中々難しい。⋮のだが、そこはチート疑 惑のマミィ。抜かりは無いのだ。 ﹁ランが起きてくる前に母さんが⋮ね、﹂ どんな仕組みか解らないが、温室を作ったのだ。それだけなら未 だしも、常に実を収穫できるようにしたらしい。朝にちょっと行っ てみたら⋮⋮⋮うん。スゴいことになってた。 ﹁お前ら何時に起きてんだよ⋮﹂ ﹁5時起きですけど? ﹁⋮⋮⋮俺には無理だ⋮﹂ ﹁別に、いつも通り7時でいいよ。そんな訳で、今度から食材を気 にしなくても良いよ。何でも季節関係なく育つから⋮﹂ 191 ﹁今度見たいな、その温室。﹂ ﹁案内するよ。でも少し遠いんだよね∼。﹂ イチゴを季節関係なく食べれるのは嬉しいよね。何故かオーブン もあるし︵見た目昔の釜形︶、ケーキ焼こうかな⋮。生クリームも 作れるし⋮。 生クリームは牛乳から取り出す物だけど、ここは異世界。生クリ ームにも出来る牛乳代わりにも出来る木の実があるのだ♪ 楽で助 かるよ。そこら辺に放って置いても元気に育つから。所謂天然植物 性生クリーム。 ﹁あっ!﹂ そういえば、マミィが貰ってきた漬け物の中に塩っけ飲無い白菜 の漬け物があったんだった! 何で生クリームからいきなり漬け物の話になったのか解らないが。 何で? 実はあのチャーハンに入れた沢庵はこの家に来て私が漬けた物な こめぬか のだ。来て直ぐは暇だった︵病み上がり云々で、何もさせてもらえ なかった︶ので大根を1週間程干して、マミィに米糠と、塩を買っ てきてもらい、1ヶ月程漬けていたのだ。まだ漬けていた方が塩気 が増すだろうね。 192 家の畑白菜はまだ無かったので、 ⋮⋮塩気が少し物足りない。 貰った時は嬉しかったのだか ﹁あっ、ってなんだよ。何か忘れてたのか?﹂ ﹁うん。あの塩気の無い白菜の漬け物。まだ有るんだけど⋮ラン、 アレ食べる?﹂ ﹁もう少し塩気があれば⋮。けどあの白菜早く食べないといくら漬 け物だからって悪くなるよな。﹂ いやいや、食べ物を食べずに捨てるなんて勿体無い⋮。確か、 白菜の漬け物を⋮⋮ ﹁⋮⋮うん。思いついた!﹂ ﹁︵表情がコロコロ変わって面白い︶﹂ 確か、お母さんが⋮前世のね。お母さんが作っていたのがあった。 この際作ってみよう。 ﹁ラン、切るの手伝ってよ?﹂ ﹁俺に出来る範囲ならいくらでも。何すんだ?﹂ ﹁白菜の漬け物を千切り⋮は細かすぎるか、5ミリ程度に切って。 そんなに量が多い訳じゃないけど、二人でやった方が早いし。﹂ ﹁ん。分かった。﹂ 193 大雑把なだけで、不器用な訳じゃ無いんだよねランは。後、集中 力も無いんだよね⋮。長時間の単純な作業が苦手なんだよ。草むし りとか。 二人で切った白菜の漬け物。それを胡麻油を敷いた中華鍋に入れ て炒める。変かな?これ。でも私は結構好きなんだけど。 炒めるのは少しで良いよ。多少水分が飛んだかなぁ位。その後炒 りゴマをパラパラかけて⋮出来上がり♪ ﹁はい。味見♪﹂ ﹁︵毒味?︶﹂ ﹁どお?﹂ ﹁塩気が増した。味なんてつけたか?﹂ ﹁何も。胡麻油と炒りゴマだけだよ。水分が飛んだから塩気が出て これは前世で母が余った白菜の漬け物を有効活用するためによ きたんだよ。﹂ く作っていた。懐かしい。 ﹁これなら晩のおかずに出せるよね。﹂ ﹁旨い。﹂ ﹁さて、後片づけして皆に差し入れ持っていかないと∼﹂ 194 ﹁もうそんな時間か?﹂ ﹁着いたらちょうど良い時間だね。﹂ ﹁⋮⋮時計まで作るなんて⋮﹂ 全くだね。まさにチート⋮疑惑じゃなくて確定だねマミィのチー トは。 話が飛んだね、えっと⋮そうそう。差し入れの話だった。実はこ の家には私達以外にも住人が居るのだ。人間じゃないよ。そう、妖 怪。勿論悪さなんかしないから。いたずら好きではあるけど分別は ちゃんと有るみたい。 実はいたずら好きな彼等は昔退治のターゲットにされていたが、 マミィが説得して改心させた。 説得という名のシバキですね分かります。 そんな彼等は住む所がないので、この家の周に住んで居るのだ。 勿論働かざる者食うべからずなので畑や家畜の世話を頼んでいるの だ。私達子供二人にはちょっと無理だからね。 ﹁ポチ∼散歩だよ∼。犬用クッキーあげるからおいで∼。﹂ いざ行かん、妖怪達の職場へ! 御菓子を差し入れに♪ポチの散 歩も兼ねて。 195 フラグを気にしなくても良い生活ってなんて幸せなんだろう⋮♪ でもこういうのに限ってこの後何か起きんだよな⋮⋮。 ﹁︵またこいつは自分でフラグを建てる⋮⋮。︶﹂ 196 フラグの無い生活︵後書き︶ コウレン 知らぬ間に、と言うより自分でフラグ建てる紅蓮でした ランメイ 最後に心の中で話していたのは藍苺です。 。 この前レンとランを描いてみようと思ったのですが、どうやって 載せるんだ? と、なしまして調べてみると⋮⋮。よくわからん⋮。 しかも私、絵が下手⋮⋮⋮うん。美形の人物描けない、以前に、絵 が描けない⋮⋮。無理でした⋮。 どうやったらあんなに上手く描けるんだろ。 197 登場人物の外見︵前書き︶ 絵を描けないので、文章で説明。拙い言葉で通じるか不安です。 結構適当なので、今後チョコチョコ修正すると思います。 198 登場人物の外見 補足、この世界での大人の平均身長は男性175センチ、女性1 60センチ。これはあくまで人間の平均であって、妖怪は種族ごと にバラバラである。 コウレン 主人公・紅蓮 性別・男 種族・妖怪 キツネと??? 目の色・紅、鮮血色 髪の色・薄い藤色 外見・ 8歳時 一見すると少女の様な顔。きつめの美人。皮肉屋な顔をすることも。 少しつり目。結構表情豊。白い肌。サラサラストレートの腰辺りま である髪。いつもはポニーテールか密編みにしている。身長は13 0センチ以上140センチ以下。藍苺よりも低い。 少し細めの体格。成長期なので果たしてどうなるか⋮。 199 妖怪時の外見・ 耳がキツネで、先が少しだけ黒い白い耳。尻尾は白く三本のキツネ の尻尾。翼も有るようだが、未確認。尻尾と耳以外大して変わらな い。 ランメイ ヒロイン・サブ主人公・藍苺 性別・女 種族・人間 目の色・暗い黄色・金色 髪の色・黒に近い紺色 外見・ 7歳時 見た目儚げな美少女。いつも気を張っているので無表情に近いが、 気を抜くとよく笑う。最近は気が抜けた顔をよくする。やる気の無 い顔ともいう。健康的な肌色。前髪がツンツンの剛毛。腰より下に ある後ろの髪も剛毛だが、ボリュームがあり過ぎて広がり放題。後 宮脱出後は簡単に纏めるだけの髪型でまるでホウキの様に見える。 身長は135以上140センチ以下紅蓮よりも少し高い。 姫として育ったので、細い。どのように成長するのか⋮。 200 レイシュン 主人公の母親・麗春 性別・女 種族・妖怪 キツネと??? 目の色・明るい若草色 髪の色・薄い藤色︵紅蓮と同じ︶ 外見・ 23歳時 ふるゆわな髪のほんわか美人。目はタレ目。腰まである髪をいつも 下ろしている。透き通る様な白い肌。出産当時と変わらぬ外見。身 長160センチ以上165センチ以下。 細いのだか、胸は⋮人並み以上。 妖怪時の外見・ 耳と尻尾は紅蓮と同じ。しかし尻尾の本数は9本。普段は尻尾と耳 以外大して変わらない。怒ると髪の色が薄い藤色から薄いピンクに 変わり、目の瞳孔が猫の様になり目付きも恐ろしく変わるため、恐 い。翼も有るようだか未確認。 201 ペット?・ポチ 性別・オス 種族・妖怪 天狼 目の色・黒 毛並みの色・全身︵翼含め︶真っ黒 外見・ 正式な年齢は不明。見た目は翼が生えた大型犬の子犬。耳はピンと 立っている。尻尾は長めでフサフサ。翼はカラスの羽のように艶か で、同じく毛並みもツヤツヤ。くりくりの目。全長約50センチ以 上60センチ以下。 これから成長するのかも不明。 202 登場人物の外見︵後書き︶ ︳︶σ‖ 色って文字で説明が難しいですよね⋮。 。。︵〃︳ 203 姫にはフラグが憑き物⋮⋮︵前書き︶ 変態登場。憑き物⋮はコイツのことです。 お気に入り登録ありがとうございます。 204 姫にはフラグが憑き物⋮⋮ コウレン 籠を抱えて歩いています。所謂散歩中な紅蓮です。 ゴマあん 今日の差し入れは、胡麻餡の饅頭です。この世界にベーキング パウダーがあって良かったよ。これが有るだけでスイーツの幅が広 がる♪ ああでも、名前はベーキングパウダーじゃなくて、膨らまし粉ね。 饅頭は重曹でも作れるけど、ベーキングパウダーの方が失敗しに くい。苦味も無いしね。 そんな訳で、重たい籠を抱えて妖怪達の職場である温室と家畜小 屋に向かっていた。妖怪が饅頭なんか食べても大丈夫か? 私も食 べれるけど? 基本妖怪は雑食だから、何でも食べれる。見た目が猫でも犬でも 玉葱が食べれるんだって。流石妖怪。 ﹁歩こ∼う♪ 歩こ∼う♪﹂ ﹁元気だな﹂ ﹁何事もポジティブに。この差し入れも散歩のついでだと思えば⋮﹂ ﹁いつもエライ目にあってるのによく嫌にならないなぁ。︵俺なら 絶対近づきたくない⋮︶﹂ ﹁寧ろ逆に考えるんだ、アレは敵を避けるための訓練だと!﹂ 205 ﹁あ∼、ハイハイ。﹂ 最近、嫁さんの対応スキルが格段に上がったよ。前世含めて28 年の記憶があるにしても、ちょっとレベルアップ早すぎなんでは? だってまだ2ヶ月ちょいだよ⋮。 アレ? もしかしなくても、嫁さん猫被ってた? もしかして⋮嫁さん黒⋮ ﹁なんか言ったか。﹂ ﹁ゴマって何で安いんだろう∼て、思って。だってさ、あんなに手 間がかかるのに、安すぎるよね。﹂ ﹁⋮⋮ふ∼ん⋮︵真顔でサラッと言いやがった⋮。コイツ中々出来 るな。︶﹂ あ、危ない危ない⋮。ランてば鋭すぎでしょ。何なの? この鋭 さは。バレてるだろうね⋮。こわや、こわや。嫁さんは勘が良すぎ るよ。例え前世男でも、今は女なんだよ、そりゃ勘も良くなるよ⋮ ね? ﹁きっとゴマの生産量が多すぎるとか、なのかな∼。﹂ ﹁そういうのは元締めが絡んでるか、供給量が多いかで値が上下す るからな。﹂ ﹁この世界では一袋銅貨2枚なんて⋮。安すぎる。﹂ 206 ちなみに、1袋辺り1キロ入っている。それと、銅貨は円で言え ば1枚100円⋮。ゴマ1キロ200円⋮⋮。破格でしょ? ついでに、銅貨100円、銀貨1000円、金貨一万円、白金貨 10万円⋮とランクアップしていく。他にも鉄銭という穴が開いた 通貨もあるが、これは約10円と様々な通貨がある。 どの通貨も世界共通でどこでも使えるので、便利だ。でも、国ご とに物価が違うので少し面倒。 今居る大国、白の国は比較的治安も良く物価も安定しているため とても安く手に入る。でもそれは生活必需品だけで、その他贅沢品 は高い。それでも他国よりは安いだろう。税金は少し高目だが、福 祉は確りしている。病院なんかも破格の安さ。 その反面、私の居た黄の国は、税金も高い物価も高い。福祉は全 然⋮。隣にスゴい国があると見劣りするけど、これは少し酷い。 どうしてこんなにも違うのか? 簡単。国の歴史の長さ? 王の 力量? 国土の広さ? 確かにどれもそうだけど、決定的な違いが あるよ。 それは、後宮の有無。⋮今、そんなこと?って思ったてしょ。な ら聞くけど、あの絢爛豪華な後宮に毎月いくら掛かってると思う。 慎ましく暮らしたら国民が一年間不自由なく暮らせる額だよ。 毎日どれだけの残飯が捨てられていると思う? 手も付けずに捨てられた食べ物は、孤児院の子達が飢えを1週間 凌げるほどなんだ。 207 私も後宮に住んでは居たけど、あんな無駄使いしたこと無い。 一度着た服は捨てる何でもっての他! 上等なシルクの生地で作 られた服は、要らないなら寄付しろ。それか仕立て直せ。何でそん なに捨てるのか⋮。 マミィはそんな服や食べ物を孤児院に寄付していた。勿論、無断 でね。だって捨てるんなら良いでしょ。ここは日本じゃ無いから。 今、その食べ物や服で命が助かるなら、それで良い。 たまに因縁付けてくるチンピラなんかいたみたいだけど、マミィ が片付けました。 バレても、孤児院には迷惑は掛からないようにしていたし、そん なことイチイチ誰も気にしない。 ホントにあのKY陛下、もっとちゃんと政しろよ。ちょくちょく 城下に下りて女漁りしてる割りには、いまいち情報収集出来てない よね。才能無い⋮。 はぁ、止めよ。だんだん暗くなる。いつでもポジティブでいない と⋮。私には何も出来ないのだから、とやかく言う資格なんて無い し。 ﹁なぁ、アレ⋮⋮﹂ ﹁ん?何?﹂ 隣で歩いていたランが不意に問いかけてきた。ランの指差した方 208 を見ると目的地に着いていた。 私は道中無言で居たのか⋮。さぞや不気味だったのでは? ﹁これが⋮⋮温室か。⋮⋮⋮デカ過ぎやしないか⋮﹂ ﹁うん。そうだね。全面ガラス張りの温室が、3つも有ればそりゃ 大きいよね。﹂ ﹁全面ガラス張りって⋮⋮強度が心配だな。﹂ ﹁ソコは抜かりなく、ただのガラスじゃなくて、魔物の⋮⋮何だっ け⋮鱗?を溶かしてガラス見たいにしてるだけで、実際は強化ガラ スよりも割れないらしいよ。どんな攻撃にも耐えるって。﹂ ﹁⋮⋮⋮それは最早温室なのか?︵要塞の間違いだろ。︶﹂ ﹁何事も想定外を想定したらしいよ。﹂ 恨まれる様な事はしていないけど、どこで逆恨みされてるか分か らないので色々強化したんだって。 でも、最早趣味と興味の為にしたと思ってしまう。 ﹁さあ、入ろっか。﹂ ﹁あ、ま﹁若ぁ覚悟∼!﹂︵間に合わなかった⋮︶﹂ ﹁ぐえっ⋮!!﹂ 209 さて、私に一体何が起きたのか、分かりやすく説明すると。 私、ドアを開ける↓中から大量のちまっこい妖怪達の雪崩↓嫁さ ん避難↓私下敷き。 と、言う流れだった。毎回違うイタズラを仕掛けてくるが、今度 のは雪崩式だったのか。それにしても、軽い。こいつらちゃんと食 ってるのか? ﹁重くはないけど、そろそろ退いてくれない? 饅頭あげないよ。﹂ 今日もまた避けられなかった⋮。もっと気配に敏感にならないと。 ﹁﹁﹁﹁それはダメ!!﹂﹂﹂﹂ 部屋中そこらにいっぱいいる小妖怪達は一声に声をあげた。タイ ミング揃ってて練習でもしたのか。 ﹁大丈夫か?﹂ ﹁饅頭は死守した。﹂ 胸を張って答えたら﹁饅頭じゃ無くて⋮﹂と言われた。毎回の事 で慣れたよ。 210 ﹁はい、集合∼! 饅頭は一人1個だからね。﹂ ﹁こっちにも有るから、そんなに押すな!﹂ イタズラの後は毎度この争奪戦になるから大変だ。ちっちゃい子 供の相手をするよりも疲れる。何せ、30人︵匹︶居るわけだから。 保育士はホントにスゴいね。 ﹁それはおれのだよ!﹂ ﹁早いもん勝ち∼﹂ ﹁かえせ∼﹂ ﹁もう腹ん中♪﹂ こんな事もしょっちゅう⋮⋮。特にこの猿の妖怪は人の物を欲し がり、相手が自分よりも弱いと取り上げてしまう困ったヤツ。 ﹁いい加減にしないと、今度からお前の分は無いぞ。﹂ ﹁なら、今みたいに取っちゃえば⋮﹂ ﹁⋮⋮ん?﹂ ﹁だ、だから、取っ﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮ん?﹂ ﹁︵本気で怒ると口数は減るし、無表情になるしで、怖いなレンの 211 やつ。︶﹂ ﹁もう一回言ってみな、馬鹿猿﹂ ﹁⋮⋮すいません⋮もうしません⋮﹂ ﹁解れば宜しい。解れば⋮。﹂ おっと、ついついキレる所だった。この見た目は子猿の困ったヤ ツは⋮⋮⋮ここに居る妖怪達に名前無かった。不用意に名前をつけ ると、面倒だから。 弱い妖怪は自分よりも強い妖怪に仕えて身を守る方法があって、 このちまっこい妖怪達は妖怪の最下層に位置に居る最弱⋮⋮。なん て言いたくないけど、実際弱い。子供の私よりも弱い。ぶっちゃけ ランよりも弱い。 けんぞく 名前をつけると自分よりも弱い者なら使い魔?眷属になってしま うため私はつけません。 守るのは嫁さんとポチで充分手一杯だよ。 マミィ? あの人は私よりも強いから大丈夫です。 また話が逸れた⋮。 ちまっこい妖怪達の紹介をざっとしていこう。 なに、進め方が強引だ? 仕方ないでしょ、こういうの苦手なんだ よ。 212 まずは、鼠の小妖怪。この子達は全員家族で、2匹︵数えかたは 鼠達から﹁一匹、二匹で良いよ﹂と言われている。︶は親で他は子 供たち。姿は鼠が二本足で立っていて、身長50センチほど。毛色 は白、茶色、鼠色、ハムスターの様な模様もある。 可愛い。すんごく可愛い。特に顔を洗っている時。 イタチ 次は兎と栗鼠それと鼬の妖怪達。この子達も50センチ程で、二 本足で立っている。色も動物と同じ色合い。ホントに可愛い⋮⋮ ⋮⋮⋮ゴホン⋮。 後は、狸、狐、猫、犬⋮。こんなもんかな。皆二本足歩行だから ね。 他にも居るけど、また今度ね。別に面倒だからとかでは無いよ。 まぁ、 守らない訳じゃ無いよ。ここに居る限りは守りますよ。可愛いし⋮ ⋮⋮⋮。動物の可愛さは最強だと思う。 ﹁若遊ぼー﹂ ﹁遊ぼうよ∼若ぁ﹂ ﹁よーし、かかってこぉ∼い!﹂ こうやって遊ぶのもたまには良いよね。 213 ﹁怪物!覚悟∼!﹂ ﹁ぐあー殺られた∼⋮⋮バタ⋮﹂ でもね、怪物役は私も構わないけど、背中に載ってピョンピョン 跳ねるのは勘弁してよ⋮。 ﹁そろそろ止めてやれよ⋮﹂ ﹁姫、いまたすけにいきます!﹂ ﹁助けるの♪﹂ わたし そして毎回嫁さんは怪物に連れ去られた姫役。なんか言い得て妙 だね。 そう言えば、白の国なんだよねココは。どんな風に思われてんだ ろ。まさか姫を拐った妖怪⋮。なんて言われてる⋮⋮だろうね。 なんかこの頃フラグなんてどうでも良くなってきた⋮⋮ヤバイな。 平和ボケだよ完璧。 ﹁平和なのは良いけど、平和ボケはどうにかしないと⋮﹂ ﹁平和な証拠だろ。﹂ ﹁もう姫様ごっこは良いの?﹂ 214 ﹁俺はただ座ってただけだ。なんか皆昼寝し始めたから抜けてきた。 ﹂ ﹁そうだったね。今ちょうどお昼寝タイムだからね。﹂ ﹁またなんか考えてたな⋮﹂ ﹁ん∼ん。白の国でどう思われてるのかと思って。差し詰め姫を拐 った悪党かなぁ。てさ。﹂ ﹁誰がなんと言おうが、俺は自分の意思でここに居る。外野が五月 蝿くても気にするな。それにあのまま居たらそれこそ地獄だ。﹂ ﹁お、この頃ますます男らしさを取り戻したのかな? 心強い御言 スピードは緩め 葉どーも。そうだね、外野が五月蝿く⋮⋮⋮ん?⋮!!!﹂ なんだ⋮。強い気配⋮⋮母さんでもない ⋮⋮まさか!! ﹁ラン!!こっちに来て。﹂ ﹁⋮っ⋮!!﹂ ランの腕を掴んで走り出す。ランには悪いけど ランメイ られない。手当てするから勘弁ね。相手は私かランか、それとも母 さん目当てか⋮。恨みか、それとも⋮姫の奪還? ポチはアレから何処に行ったのか⋮。そばに居れば良いけど⋮。 他の妖怪達は逃げた後だろう。小さな妖怪達には私たちに構わず逃 げてと日頃から言っているから。 215 国がランを取り戻したいのなら、前なら差し出したかも。けど、 今は⋮⋮嫁さんが帰りたくないのなら、帰さない。帰った後の待遇 が前と同じ空気の様な扱いなら尚更。 例え偽装結婚だとしても、伴侶だもん。無下な扱いは許さない。 ラン ⋮⋮少し変な気がするけど、多分体が男だから、本能が嫁を守ら ないとって思うのかも。まさか⋮⋮恋なんて⋮⋮⋮ナイナイ。 そんな悲しい恋なんかしたくない。 ﹁ラン、足元気を付けてよ。ポチ!お前もこっちにおいで!﹂ ポチは思いの外そばに居た。温室奥の石で出来た床に扉がある。 ソコまで走り抜く。 ﹁レン!何処まで行くんだ⋮それにどうしたんだよ⋮。﹂ 話した方が良いだろうか⋮⋮ダメだね。絶対大人しくしてない。 断言できるよ。ポチも、暗殺者から私を守ろうとして怪我したし⋮。 マミィの作ったシェルターにランとポチを押し込もう。 後で怒られそうだけど、今は気にしない。気にしちゃいけないよ。 ランメイ ﹁藍苺、ちょっとここに入って。奥は狭いから先に入って。ポチお 前もだ。﹂ ﹁⋮⋮クウ?﹂ 216 ﹁は? あ∼⋮分かった。﹂ ごめんね ﹁なあ、ココそんなに狭くな⋮﹁バタン﹂!!﹂ ﹁どういうつもりだよ⋮﹂ ﹁キャン!!﹂ ﹁静かにしててね。お客さんが来たみたいだから。嫁さんは白の国 の姫なんだよ。あまり顔を見せるのは危ないでしょ? ポチ、お前 は⋮藍苺と一緒に居てね。お客さんが怖がるから。﹂ ﹁今更そんな事﹂ ﹁小言は今は聞きません。ポチ、静かにね。﹂ ﹁クウゥゥ∼⋮。﹂ ポチを撫でてやりたいけど、物理的に無理だ。 嫁さんよ。まさか私がココで殺られるとでも思っていますか? ナメんなよ。ソコまで弱くないし、敵に特攻するほど馬鹿ではな いよ。策もなしに敵前に飛び込むとでも? ﹁︵まぁまだ敵と決まった訳じゃ無いけど。でも、何処とな∼く殺 気が混じっている。︶﹂ 217 全く。人様の家に殺気振り撒いて来るとか⋮⋮敵確定だよね。ど んな馬鹿が来たのかな。 ﹁フフフフフフフフフフフフ⋮⋮敵駆逐♪﹂ 殺しはしないよ。半殺しに留めるから♪ ********** 我が国の姫が妖怪に拐われた。きっとあの儚い姫は今頃心細い思 いで私を待っているだろう⋮。いつも後宮の端で泣いていた⋮ ﹁姫、今助けに行きます。そして必ずや貴女の×××××に××× ××⋮⋮⋮⋮ ∼∼∼∼適切ではない表現がありましたので、花畑を走るポチをご 覧ください∼∼∼∼∼∼∼∼ ﹁ワウッ⋮ワウゥゥ⋮⋮クウ?﹂ 218 蝶々を追いかけながら花畑を走るポチは可愛いな⋮。鼻先に蝶々 が止まって頭を傾げるなんて可愛すぎでしょ? よし、浄化完了。戻りたくないけど現実に戻ろう。 します。どうか待っていてください。﹂ 誰も待っていたくないよアンタみたいな変態は。聞いてるこっち の身にもなれよ。人の嫁さんに対して放送禁止事項オンパレードっ てどういうつもりだ。どうしてくれようか⋮ ﹁ココが悪党の根城か⋮⋮庶民的だな。﹂ 城じゃないからね。そりゃそうだ。 ﹁しかし、ココなら姫と暮らすのにちょうど良い⋮﹂ おい、ちょっとまてよコラ! お前、見た目からして30半ばだ ろ。犯罪者になりたいか!それと、嫁さんはそんなに儚く無いよ。 それきっと猫被ってた時のだよ。 それにもう結婚する気でいるのかよ。ねぇ了承貰ったの? 貰っ てないだろ。それに、嫁さんは私の嫁だから。 ﹁クフフフ⋮アンナコトヤコンナコト⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ 219 今まで相手を観察するために隠れてたけど、ムリだわ♪ さっき は半殺しに留めると言ったがアレは嘘になる。2/3殺しにする! 何でそんなに腹が立つか⋮⋮私と同い年なんだよランは! つま り8歳⋮⋮。別に迷惑掛けないロリコンはなんとも思わないけど。 両想いならなら応援するよむしろ。でもね⋮コイツはダメだね。片 想いなのに、両想いだと妄想して現実と区別出来なくなってるよ。 害あるロリコンは抹殺すべし! 後、なんかムカついた。嫁の敵は私の敵! 一言言いたい ﹁それって、相手に了承貰ったの?﹂ ﹁なんだ? お前はココの悪党の手下か。﹂ 悪党って私か、それともマミィ? どっちでも良いけど、良くないか。でも、私って手下にしか見えな いのか。まぁ8歳のガキだしね見た目。 それにしても、コイツは国の手先か? どうも独断な気がしてな らない。バックに国が居るなら私の事は詳細まで伝わっているはず。 何せ白の国は黄の国なんか目じゃない程の密偵が居るのだから。 ﹁まぁ∼よかろう。娘、ここに居る妖怪の所に連れていけ。褒美に 私の妾にしてやろう。﹂ 220 ノーコメント。ココは人芝居するかな。 ﹁あの、貴方はどちら様?﹂ じょうゆう ﹁なに、私の事を知らんのか! まぁ∼こんな田舎に住んでいては 知らんだろう。よかろう、確と聞け、私は白の国現王の実兄、丈勇 だ。﹂ 何で王族って録なのが居ないのだろう⋮。ねぇ私の周りでマトモ なの居ないんだけど⋮。 ﹁こっちです。﹂ ﹁うむ、さっさと案内しろ。私は偉いのだ。﹂ 偉いのはアンタじゃなくて現王だろうに。何を勘違いしてるんだ か。 しかも、畑をメチャクチャにしやがった礼はキッチリせてもらう。 アンタが今歩いてきた場所は、昨日種を蒔いたばかりの畑なのに ⋮⋮。頑張っていたランが知れば⋮⋮悲しむなぁ⋮⋮烈火のごとく 怒り狂うかも。 ﹁それにしても、この道は土がユルすぎだ! 靴が汚れてしまった。 ﹂ ﹁⋮⋮︵だから、ソコは畑だってぇの︶当たり前です。ソコは畑な んですから。﹂ 221 ﹁なんと、こんな所に畑なぞ作るとは非常識なヤツだな﹂ ﹁︵お前がな︶道はあちらにありますけど?﹂ ﹁あれが道? 田舎者はこれだからダメなのだ。これは道とは言わ んよ。ただの獣道だ。﹂ だから、ソコに住んでいる私が道だと言ったら道なんだよ。頭湧 いてンのかぁ!? コイツと話してると怒りのボルテージが上がり続ける⋮⋮。 ﹁そんなに靴を汚したくないのなら、こちらを歩けば宜しいのでは ? それにしても、畑を知らないのですか?﹂ ﹁いや、もうこのままで良い。兵糧攻めにもなるだろう。畑なぞ王 族に必要ない。知らんでも良いだろう。﹂ ハァー⋮⋮。ロリコンで変態で、我が儘、世間知らず。ココまで なら、許せはしないけど、まだ、ま・だ我慢した。けど、王族に生 まれて、その地位にふんぞり返って、田畑の有り難みも知らない馬 鹿⋮⋮。死ねば良いのに⋮⋮。はっ!いけない⋮ ﹁︵危うく闇の意志に操られ⋮⋮なんて無いけど。︶﹂ そんな厨二な事は無いから。ただ単にさ殺意が沸いただけだから。 この馬鹿をある場所に案内する。何処だって? 222 お楽しみに♪ ﹁未だなのか⋮﹂ ﹁はい。もう少しです。疲れましたか?﹂ こういう輩は変にプライドが高い。私みたいなガキに疲れたかと 聞かれると疲れたとは言わない。外見的に弱そうな私が言ったら尚 更。 今回はそんなところを逆手にとることにする。目指すはマミィ特 製⋮⋮秘密部屋。 その前に確認しなければいけない事がある。それは、如何にして この場所に来たか。それを知れば後々対処できる。 ﹁それにしても、よくこの場所まで来れましたね。周りは切り立っ た崖でしょ? どんなスゴい業で来たのですか?﹂ ﹁うむ、なに、簡単だ。城の術師を連れてきたのだ。﹂ 何を偉そうに胸を張るか、人任せ何だろうに。 ﹁その方はどちらに? 失礼ですが、姿が見えませんが⋮﹂ ﹁なに、私を運ぶのに集中していたら妖怪に襲われてな、死んだの だろう。﹂ 部下の生死を簡単にいってのけた。コイツマジで腐ってる。それ とも、ただ単に馬鹿なのか。死の恐怖を知らないのか。人の命を何 223 だと思っている!! でも、どうしよう。コイツを始末したら探しに行こうか? そん な義理は無いけど、そしたらその術師が余りに惨め⋮⋮。よし。も しも、その術師がコイツと同じなら捨て置く。違うなら助けよう。 ﹁ココです。﹂ 案内したのはとても大きな⋮洋館⋮。そうだ。あのゾンビだらけ の洋館。中は⋮⋮⋮フフフフ⋮。 ﹁なんと、これは見たこともない建物だな。妖怪はこの様な所に住 んでいるいるのか。﹂ 住んでないよ。ソコは所謂遊び心の空間。私やランがやったこと のあるゲームや見たことのある映画などのホラー要素がてんこ盛り なお化け屋敷なのだ。しかも、私かマミィでないとココから出られ ません。嫁さんは例外だけど。 ﹁私はこの事がバレれば︵主に無断で使ったことでマミィに︶大変 なのでココまでです。﹂ ﹁うむ、案内ご苦労。お前は妾ではなく第2婦人にしてやろう。﹂ ﹁それでは行ってらっしゃいませ。﹂ あえて無視したけど、うざいなコイツ。 224 そんな事はお構いなしに入っていった。私が扉を閉める前に、一 言言って置いた。 ﹁ココは死人が徘徊しております。噛まれたり引っ掻かれたりする と死人の仲間入りするのでお気をつけて♪﹂ 死人の仲間入り云々は嘘だけど、これって一種の幻覚だから、か なり忠実に再現してるから。 休む暇など⋮無いよ⋮フフフフ⋮⋮ 何だろ、ちょっと楽しいです。 さて、あの馬鹿に見捨てられた術師を助けに行きますか。勿論ラ ンはもう少しあのままね。 ⋮⋮どうしよう嫁さんに殺されるかも⋮⋮。 初めてかも。フラグを建てずに⋮⋮建ててないよね? あれ? 225 226 姫にはフラグが憑き物⋮⋮︵後書き︶ 227 面倒なフラグなんかいらないっての!︵前書き︶ いつものように、いつものごとく。タイトル別に深い意味ありま せん。 お気に入りに登録ありがとうございます。m︵.︳.︶m そして、お読みいただいて嬉しいです。 拙いモノですが楽しんで頂けたら幸いです。 228 面倒なフラグなんかいらないっての! コウレン あの馬鹿男を地獄の肝試しin洋館に閉じ込めて若干楽しくなっ てきた紅蓮です。 私はSに目覚めてしまうのでしょうか。でもアレはただ単にイラ ついたせいだと思いたいですね。 さてさて、見捨てられた術師を捜しに行きますか。え、助けない の? 助けますよ。マトモなのヤツならね。 こんな人海戦術が有効な場合はわが家の特殊部隊に召集をかけま しょう。 温室管理は基本小型妖怪達にしてもらっています。でも、ココに 住むのは何も小型妖怪だけではありません。妖怪にも体格差があり、 小型、中型、大型に分けています。中でも小型が圧倒的に多く、大 型が少ない傾向にあります。 個人差有れど基本手先が器用な小型妖怪に雑用や作物の手入れを 担当してもらい、体の大きな大型妖怪には力仕事と、わが家の周り の警備を担当してもらっています。 中でも中型は力と器用さと、機動力などオールラウンドに活躍で きる特殊部隊を結成しました。 マミィがノリで作ったのですが、こんなときとても役に立つ。 ﹁ヤタガラス⋮緊急召集!﹂ 229 ﹁どうしたの?﹂ ﹁さっきのヤツ倒す?﹂ ﹁若呼んだ?﹂ ﹁たたかい?﹂ ﹁どったの?﹂ しゃべり方は子供みたいで頼りないかも知れないけど、かなり頼 ヤタガラス もしい奴らなのだ。でも、この特殊部隊の名前が⋮⋮。何でヤタガ ラスなのか?簡単。 この特殊部隊の隊長が八咫烏なのだ。 基本神出鬼没な奴らなので呼んだら即来てくれる。どうやって移 動してるのか気になる。 ココに集まってくれた5匹はその下っぱで、弱い。でも、それは ヤタガラス全体的に見てなので強いよこいつら。 他の隊員は私の言うことは聞きません。私を若と呼んで慕ってく れるのは、食い気のある奴らだけなんだよね。 ﹁みんなには悪いんだけど、下の森に人間が紛れているらしい。魔 物に追われて何処かに隠れているか⋮⋮それか死んでいるか確かめ たい。捜すの手伝ってくれない?﹂ 230 ﹁さっきのヤツの仲間?﹂ ﹁何で?﹂ ﹁たすけるの?﹂ ﹁めんどー﹂ ﹁助ける意味ある?﹂ 非難の嵐⋮。まぁ、確かに。助ける義理は無いけどさぁ⋮。家の 近くでの垂れ死んでたら目覚め悪いじゃん。飯が不味くなる⋮。 ﹁助けるかは、ソイツがマトモなヤツならね。だから、お願い致し ます。﹂ ﹁う∼∼∼若に頼まれると⋮﹂ ﹁邪険には出来ないよ∼﹂ ﹁そんなににんげんがしんぱい?﹂ ﹁でも、姫も人間だよ﹂ ﹁姫は論外﹂ なんか揉めてるけど⋮早くしてくれないかな⋮。 ﹁うん、そうしよう。﹂ 231 ﹁若の頼みだもんね∼﹂ ﹁わかったよ﹂ ﹁捜して来ます﹂ ﹁めんどー⋮だけど捜すよ。﹂ ﹁ありがとうみんな。今度御菓子オマケするから。﹂ ﹁﹁﹁﹁﹁いってきま∼す﹂﹂﹂﹂﹂ ﹁私も直ぐに捜に行くから﹂ *・ω・︶ノ﹂ ************ ﹁やあ︵ 232 ﹁何だよ⋮﹂ ﹁ふふん、女日照りでも気にしない従兄君にゲームのプレゼント。﹂ ﹁お前の持ってくるゲームは何でホラーばっか何だよ⋮。面白いけ ど。﹂ ﹁⋮⋮これが面白いと!⋮⋮侮れんな童貞が⋮⋮﹂ ﹁ハイハイ、で、今日は何の用なんだよ。﹂ ﹁ちょいとジンさんアンタ何で怒らないのよ。ソコはキレる所でし ょ!﹂ ﹁お前の戯言にイチイチ怒ってたらキリがない。﹂ ﹁⋮⋮ハァー、何で私の周りはノリが良くないんだろ⋮。その顔で 恋愛経験なし何て⋮⋮。﹂ ﹁それはミケが猫被ってるからだ。﹂ ﹁だから、ミケってか⋮⋮な∼るほど⋮⋮﹂ ﹁︵知らねーよ︶﹂ ﹁あ、忘れるとこだった。今度コスプレしてよ。﹂ ﹁はあ?﹂ 233 ﹁今度ね、私の友達⋮私的には親友なんだけど⋮その子とペアでカ ップリングなコスプレヨロシク♪﹂ ﹁誰がやるか!﹂ ﹁良いじゃん。儲けは山分けだよ⋮⋮。大学は休みとリサーチ済み だよ♪ さぁ、観念しなさい!?﹂ ﹁嫌だ﹂ ﹁ふふん⋮これを見よ!﹂ ﹁⋮⋮⋮何?﹂ ﹁アンタの好物♪ さっき言った親友が作った饅頭。すんごく美味 しいから。これで手を打ってよ。﹂ ﹁ぐ、⋮旨いのか?﹂ ﹁だから美味しいってば。ベルって言うんだけど、スゴく料理上手 いんだよ。ハーフでさ、父親のせいで恋愛に興味なくて⋮アンタち ょっとベルと話でもしなさいよ。あわよくば付き合いなさいよ♪﹂ ﹁料理上だからって付き合おうとは思わないだろ。相手に失礼だ。﹂ ﹁そんなんだから、二十歳になっても童貞なんだよ。﹂ ﹁ハイハイ、お前もな。﹂ 234 ********* あ∼⋮⋮。今のは夢か⋮。前世の夢なんていつ振りだろう。もう かれこれ⋮⋮何年だろう。 俺は何で寝てたんだ? ﹁⋮⋮ポチ?﹂ 何でココは暗いんだ。それにポチが居るのに⋮ ﹁レンのやつどこに⋮⋮!!﹂ そうだ。レンに閉じ込められたんだ。チキショーこんな所に閉じ 込めやがって⋮。何が危ないんだよ、自分だって子供だろう⋮。何 でそんなに守ろうとするんだよ。 ﹁ポチ、ちょっと起きろ⋮。﹂ ﹁クウ?﹂ ポチはこう見えて強い妖怪だ。レンがどの位強いか知らないが、 ポチもレンも俺よりは確実に強い。連れていけば戦力になるはず⋮。 なのに何でココに置いて行ったんだ? ﹁ポチお前何か知ってるだろ﹂ 235 ﹁キュン∼キュン!!﹂ 首を思いっきり振っているところが怪しい⋮ ﹁ホントに知らないのか?﹂ ﹁クゥン!﹂ ﹁なら、出口を知らないか?﹂ ﹁クウ?﹂ 知らないのか? ﹁⋮⋮⋮知ってるんだろ。レンならお前には何か教えてる筈だよな ?﹂ ﹁クゥゥーン⋮⋮﹂ ﹁心配すんなよ。ココから出たりしない。俺が捕まったらそれこそ 不利になる。わかってるから、俺が足手まといなの。﹂ ﹁キャン!⋮クゥゥ、ウォン!!﹂ ﹁慰めてるつもりか? なら、ありがとな⋮。﹂ ﹁クゥゥ﹂ ちゃんと分かってる。俺は弱い。だから、迎えに来るまでここに 236 居る。 ﹁︵レンのやつこの頃益々図太くなったよな⋮︶﹂ レンなら大丈夫だろ。心配はしているが、もっと心配な事がある。 ﹁︵長引けば長引くほど、俺が閉じ込められてる時間が⋮⋮︶﹂ 食料とか、トイレってどうすんだよ⋮⋮。 ********** ただ今下の森に来ています。どうやって降りたのか? そりゃ飛んで降りましたよ。妖怪に乗せてもらってね。私の翼は 未だ未確認で、飛べないので。 ﹁ありがとう。助かったよ。﹂ そうひ この子は走飛という種族の妖怪で、走るのが得意、飛ぶことも得 237 意。とても大人しく、馬の代わりに人に飼われている事が多い。目 付きはちょっと怖いけど人懐っこく、人の言葉は話せないが、頭が 良いので言葉を理解できる。様々な色が居るけど、この子は灰色。 ﹁後で生肉あげるからね∼﹂ ﹁キュアー!﹂ 主食は肉で、結構獰猛何だよね。何て言うの猛禽類に近いかな。 鳴き声もそんな感じかも。 走るためにも獲物を取る為にも発達した足は⋮うん、捕まれたら 腕なんか一瞬でポッキリ逝くね。大型の馬程の大きさで、下手な馬 よりも丈夫で、馬力もある。 この子はマミィの眷属で名前は知らないけど、私の頼みも聞いて くれる心の広い妖怪。 ﹁さて、久し振りに耳を出しますかね∼﹂ 探索には耳を出している方が何かと便利なんだよ。耳が良くなる し目もよく見える。 何が特別な事をしないと出せない訳ではなく、出し入れは自由自 在にできる。何故か尻尾もオマケで出てしまうけど、仕方ないらし い。それから、尻尾をズボンに穴を開けなくても出せる方法もわか ったよ。要はイメージなんだって。 本当は森に来たくなんか無かったけど、仕方ない。耳を澄まして 238 集中してみると、さっきの特殊部隊の面々の気配が近づいて来たの が分かった。 ﹁若∼見つけたよ♪﹂ ﹁見つけた﹂ ﹁気絶してる﹂ ﹁どうする﹂ ﹁めんどい∼﹂ ﹁ご苦労様。思いの外早かったね。どこに居た?﹂ ﹁んっとね、﹂ ﹁木の下﹂ ﹁神木のした﹂ ﹁女のひと﹂ ﹁厄介だよ∼あの女。結界張ってるもん∼﹂ ﹁結界張ってる⋮。︵ほっといても良かったかな︶﹂ ﹁なんかね、その人怪我とかしてないよ。﹂ ﹁どうする? 殺す?﹂ 239 ﹁でも、姫に嫌われたくないよ⋮﹂ ﹁あのひと⋮こわい﹂ ﹁若どうすんだ? 見たところ若や姫よりも大人だった。強いかも よ。﹂ 私より年上なのは当たり前だろ。王宮術師なんだから。並みの人 間よりも強いのも想定内。 ﹁︵暫く様子を見よう。もしも妙な真似をしたら⋮⋮容赦しない。︶ ﹂ ﹁若⋮こわい﹂ ﹁しー、言っちゃダメ﹂ なんか好き勝手言われてるけど、いつもの事だからスルー。 ﹁みんな気配を消して様子を見よう。相手が攻撃してきたら家に逃 げること。良いね。﹂ ﹁分かった﹂ ﹁うん﹂ ﹁了解﹂ ﹁若も?﹂ 240 ﹁若もだろ。勿論﹂ ﹁勿論。さぁ、作戦開始!﹂ 上手く気配を消して散らばって行った奴らを見送りながら考えた。 この森に棲む魔物を退ける程の結界を張る事が出来るのなら、空を 飛んであの馬鹿男を追いかける事も出来たはず。余程ヤツは嫌われ て居たのか⋮。それとも、 ﹁︵故意に置き去りにしたのか⋮︶﹂ 考え過ぎだろうか。いくら馬鹿で変態で幼女趣味なヤツでも、一 応は王族。そんなヤツを置き去りにすれば、ただては済まない。 ﹁︵国があの馬鹿男を見捨てたのなら、あの術師は⋮⋮⋮︶﹂ 止めよう。憶測で考えても埒があかない。 数十メートル離れた場所からここら辺で一番大きな木、みんなは 神木と言っている。別にこれだけが飛び抜けて大きい訳ではない。 神木は魔物の嫌いな匂いを出すみたいで魔物は寄ってこない。け れど、餌を目の前にしたら匂いなんか気にせず襲い掛かって来る。 それが狂暴な魔物なら尚更。 それでも、神木の匂いで自分の匂いを誤魔化す事は出来るだろう。 ソコに結界を張るって事はそれだけの知識と判断力を持っている。 確かに厄介だ。 241 ﹁︵ただ単にまぐれでも、結界を張れる実力者何だよね⋮︶﹂ 極力関わりたくない∼。絶対変なフラグ建つよ。 ﹁どうしたら上手く回避出来るんだろうね?﹂ ﹁キュエ?﹂ そうひ ﹁何が﹂といった感じで頭を傾げた。鋭い目の割に可愛い走飛だ った。 突然、特殊部隊の一匹が現れた。少しビックリしたが顔には出し ていない。ハズ⋮⋮。 ﹁どうしたの?﹂ ﹁若⋮あいつら捕まった。﹂ ﹁はあ?﹂ あのすばしっこいあいつらが⋮⋮。ただ者じゃない。 ﹁⋮⋮状況は?﹂ ﹁あの女に捕まった。変な術で閉じ込められた。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 242 ﹁あの女嫌いだな。めんどーそうな性格してるよ。﹂ 捕まったのなら、助けに行く。私の独断で危険な目に会わせたん なら、尚更助ける。 ﹁だから、アンタらの親玉の居場所は何処だ?﹂ ﹁しらない﹂ ﹁知らないよ﹂ ﹁何でココに居るの﹂ ﹁早く帰ればいのに﹂ ﹁あのね、私はアンタらの親玉を倒さないといけないの!﹂ ﹁若の敵なの?﹂ ﹁若の敵!﹂ ﹁わかのいのちねらってるの?なんで?﹂ ﹁あ∼!。もう、害がある妖怪は倒すに決まってるでしょ!﹂ 243 ﹁若が何したの?﹂ ﹁ただ住んでるだけだよ﹂ ﹁侵入者!﹂ ﹁ようかいだから?﹂ ﹁だからぁ、私の国のお姫さまがアンタの親玉が拐ったの。討伐に 私は⋮﹂ ﹁違うもん!﹂ ﹁自分の意思で来たんだよ。﹂ ﹁お前誘拐犯!﹂ ﹁ほんとうのことしらないの?﹂ ﹁ああああ!! もう五月蝿い! アンタらの親玉助けにも来ない じゃない。﹂ ﹁若が来なくていいの﹂ ﹁若は争い事が嫌いだから﹂ ﹁お前と違って!﹂ ﹁ようかいにもへいわしゅぎはいるんだよ﹂ 244 ﹁アンタらの話を聞いているとイライラしてくる⋮⋮﹂ 助けに来てみると、特殊部隊は巧みに?相手を自分たちのペース に巻き込んでいる。あれは素でやっているのだから凄いよね。 ソロソロ、術師のボルテージがヤバイので助けに行きますか。 私が使える術はいまのところ1つだけ。それも攻撃系の術ではな い。捕縛専用の術。 ﹁ああっ、もう、五月蝿い!! ﹃切り刻め 風の⋮﹄﹂ ﹁ハイ!﹃ストップ!!﹄﹂ ﹁なっ!!﹂ 術はスピードが大事。勿論威力も、精密さも大事だよ。でも、不 意討ちの場合はスピードが大事なんです。ノーマークなイレギュラ ーからの攻撃は想定してないからね。そして詠唱中に不意討ちされ ると詠唱中の術は不発に終わる。上位術なら暴発の恐れが有るけれ ど、ソコは妖怪。頑丈なので大丈夫ですよ。今回は何かのシールド で包まれているからかすり傷もつかないよ多分。 今かけた術は動きを止めるもの。術の中では初歩的な物なんだけ ど、結構使い勝手がいいんだよ。生き物にも、物にも有効。時間を 止めるわけではないよ、ただ動きを止めるだけ。その証拠に心臓や 内臓、目蓋や口は動くから。 245 さっきこの術師は詠唱してたけど、イメージが明確なら別に要ら ないよ。ぶっちゃけた話、発動時に何も言わなくても、出来るんだ ろうね。私は出来ないけど。 ﹁返してもらうよ。仲間を。﹂ ﹁貴様⋮親玉の下僕か!﹂ ﹁ハイハイ⋮︵結局私は親玉には見えないと⋮⋮まぁ、違うけど。︶ ココは国に認められた私有地だ。勝手に入って来られるのは迷惑だ。 直ぐに立ち去れ。﹂ ﹁その耳と3本の尻尾⋮⋮貴様妖怪だな。早くこの戒めを解け! これでは動けない。﹂ ﹁聞こえてないの? ココに不法侵入してるのはそっち何だけど。 立場を弁えなさい。﹂ ﹁五月蝿い! 妖怪の事など信じられるか! 大方私を親玉に献上 する気だろ! そしてあんなことやこん⋮﹂ ﹁何でそうなるの? 自意識過剰なんじゃないの? 献上って⋮私 って悪党面ですかそうですか。それにアンタに興味の興の字も無い から安心してよ。︵考え方が主従揃って⋮⋮︶﹂ 何でこんなに自意識過剰なんだか⋮。見たところ20代前半。確 かに綺麗な分類かも知れないけど、私にはそんな事関係ありません。 私は顔で判断しませんから。 246 ﹁⋮⋮⋮﹂ だんま ﹁黙りかい。なら、いつまでもソコに居るんだね。30分したら解 けるから。お帰りははアチラだよ。じゃあね∼﹂ こんなヤツに関わると録な事が無いからさっさと退散。隊員達に 掛けられていた術を解いて撤退を指示した。冷たい?冷徹? 今は それ誉め言葉♪ 今まで煩かった隊員達は空気を読んだか大人しくしている。あれ ?どうして私を見て怯えているのよ⋮。怯えなくてもいいじゃない ⋮。 だって、私の仲間に最初は攻撃こそしなかったけど、イラついて 攻撃しようとしたんだから情けなんて要らないよ。それに30分し たら解ける様にしたんだから情けはあったでしょ。 ﹁まっ、待て!⋮⋮貴様⋮ココに私を置き去りにする気ではないだ ろうな⋮﹂ ﹁そのつもりだけど?﹂ ﹁つ、連れていけ! こんな所に居たくない。﹂ ﹁そんな義理がこっちには無いけど?結界もあるし⋮﹂ ﹁待て、私には手紙を届ける使命が有るんだ!?﹂ ﹁そんな使命が有るなら何で討伐なんかしようとしたのさ。アンタ 247 使命も忘れて名誉でもほ欲しかったの?てか、誰宛?﹂ ﹁良いから連れてけ!﹂ ﹁⋮⋮⋮︵こっちも礼儀正しくしないといけないのは分かっている んだけどね⋮︶﹂ あ゛あ゛あ゛ぁぁ⋮。小娘がピーピーと喧しい。コロシテシテヤ ロウカ? ﹁⋮︵何考えてんだろ⋮この頃情緒不安定ななってる?︶分かった。 誰宛かは聞かない。そんなに助けて欲しいの?⋮﹂ ﹁何でもする!言うこと聞くから助けてくれ!﹂ ﹁⋮⋮ホントに?﹂ ﹁コクコク⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮分かった。﹂ ﹁ほっ⋮⋮。﹂ ﹁じゃあおやすみ﹃眠れ﹄﹂ ﹁!!!⋮⋮ZZZZ﹂ バタンと音をたてて倒れた術師。こんなヤツ助けたくないけど、 はぁ∼迷惑だ。煩いから気絶させたけど、運ぶのも面倒だな⋮。 248 起きた時暴れてもいいように術封じの牢屋に入れておこう。⋮う ん、これもマミィの悪ふざけで作ったモノだよ。 運ぶのは走飛に脚で掴んで飛んでもらおうかな。 落ちないといいけど⋮。 ********** 術師を術封じの牢屋に閉じ込めてランの居る温室内のシェルター に急ぐ。そんなに時間は経っていないけど、相当ご立腹であろう。 ﹁⋮⋮閉じ込めなくても良かったかも⋮。﹂ 侵入者はアレだったので、ランが居ても何とかなったかも知れな い。 でも、あんなのに会わせたくはないよ。今回はこれで良かったハ ズ。 ﹁︵開けたら殴られたり⋮⋮︶﹂ 開けないわけにもいかないので、腹を括って開ける。ポチには開 249 け方を教えておいたのだけど⋮。無理に開けなかったんだね嫁さん。 ポチを脅して出て来るかと思ったけど、大丈夫だったので安心し た。⋮⋮まさかポチのやつ、教えたこと忘れてないよね? ﹁⋮ごめんねラン﹁ドゴッ﹂グフッ!﹂ 鍵を開けたら間髪入れずに開いた扉に額を強打⋮⋮まさかそう来 るとは⋮。 ﹁遅い!!﹂ ﹁ッ⋮⋮ドアがいきなり開いて⋮オデコ打ったんだけど﹂ ﹁当たり前だろ。わざとだ。﹂ 仁王立ちのランが腕を組んで睨んでいた⋮⋮コワッ! 予想以上にご立腹のご様子。ポチは明後日の方を向いて目を会わ せてくれない。裏切り者ぉ∼。 ﹁で?誰だったんだよ。﹂ ただ今正座中⋮⋮。やれとは言われてないけど、した方がいいと 思った。 ﹁はい、なんか変態ロリコン中年王族と自意識過剰女術師が来たの で、変態はゾンビだらけの洋館に閉じ込めて、自意識過剰は気絶さ せて術封じの牢屋に入れておきました。﹂ 250 ﹁何で敬語なんだよ。⋮それに変態ロリコン?⋮⋮誰だよ。﹂ ﹁何となく敬語の方がいいかと。で、そのロリコンだけど、どうも 白の国の王族で現王の従兄弟だって。なんかランの事知ってるみた いだよ。知らない?名前は⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮丈勇が⋮⋮﹂ 嫁さんは苦虫を噛み潰した様な顔をしてる。絞り出された声は地 を這うような声だった。 ﹁⋮知っているみたいだね。﹂ ﹁白の国に居たときのストーカーだ。﹂ ﹁⋮⋮嫁さん⋮﹂ 何てことだ!ストーカーを閉じ込めてはおいたものの、まだこの 土地に居ることになる。さっさと放り出せば良かった。 でも、放り出すのは力的に無理があるし。アイツかなりガタイが 良いから重そうだ。また特殊部隊に頼もうか?いや、ココは力自慢 の妖怪達に頼もう! ﹁大丈夫。直ぐに簀巻きにして放り出すから!﹂ ﹁バカ、やめろ!﹂ スゴい剣幕で怒られた。⋮調子にのり過ぎました。 251 ﹁殺るなら簀巻き+重り付きで海に沈めないとヤツは懲りない。G と同じなんだから。﹂ ﹁⋮⋮なるほど!⋮お見逸れしました∼。じゃなくて!知り合いな の?﹂ ﹁あんなのと知り合い何て冗談じゃない。﹂ ﹁確かに冗談じゃないよね。私なんて初対面で妾にしてやるとか褒 美に第二夫人にしようとか言ってきたからね。﹂ ﹁恥ずかしいよ⋮あんなのと知り合いなんて⋮。︵あの変態⋮レン も守備範囲に入るのか⋮⋮違うな、女に間違われたんだな。⋮あの 野郎いつか〆める。︶﹂ ﹁冗談で言ったなら笑って流せるけど、アレはマジで言ってた。﹂ アレはプロホーズ何てもんじゃない。ただの命令と同じだ。しか も相手が断らないと思っている。面倒だな、主従揃って。 ﹁そう言えば、女術師が居たって言っていたけど、何で術封じの牢 屋に入れたんだ?﹂ ﹁あぁ∼。実はね⋮﹂ 私は今での事を全てランに話した。途中から呆れ顔でランは静か に聞いていた。 なかま ﹁つまり、妖怪を攻撃されそうになったから動きを封じたら、その 女術師が喚きはじめてイラついたから気絶させて牢屋にブチ込んだ 252 と。﹂ ﹁うん。﹂ ﹁その使命って気になるな。﹂ ﹁そお?﹂ ﹁あのオッサンここまで追っかけてくるとか⋮執念深いな⋮。何度 も断ったのに⋮⋮。﹂ ﹁⋮⋮⋮切り落とせば良いよ。︵黒笑︶﹂ ﹁⋮︵自分だって今は男だろ。いや、ソコはあまり関係無いのか?︶ ⋮それで、あのオッサンは俺が筋肉痛になってまで頑張って種を蒔 いた畑を荒らしたのか?﹂ ﹁うん。そりゃもう⋮。兵糧攻め云々って。正直あの畑だけ荒らし ても兵糧攻めにはならないよね。でも、イラついたからゾンビだら けの洋館に閉じ込めたんだよね。﹂ ﹁レンお前⋮⋮⋮⋮グッチョブ!﹂ 誉められてしまった。そんなに嫌いなんだねヤツが。まぁ、そう だろうね。アレだしね。イニシャルGと同じ扱いだし嫌ってるよね 相当。 ﹁それとさ、気を付けろよ﹂ ﹁ん?何が?﹂ 253 ﹁女術師に心当たりがある。ソイツが俺の知ってるヤツなら、惚れ やすいから気を付けろよ。﹂ ﹁私、まだ8歳なんですけど? それにスゴく邪険にしたけど?﹂ ﹁ソイツ⋮守備範囲バリ広だから。ショタでも関係ない。しかも自 分の恋の障害になると燃えるらしい。惚れたヤツの周りの女を排除 するから手に負えない。自分に対して絶対の自信があるから容姿も 実力もいつもトップじゃないと気が済まないタイプだ。﹂ ⋮⋮⋮なら、私じゃなくて嫁さんの方が危ないんじゃないのかい ? ランてば、綺麗だもの。ヤツが嫉妬しないとも限らない。嫁さ んの危機ですか!? ﹁冗談じゃない。︵人の嫁さんに手を出すなら、あの変態ロリコン と共に地獄に叩き込んでやる!︶﹂ ﹁あぁ、冗談じゃない︵コイツは鈍いからな∼︶﹂ ﹁これは母さんに報告しないと⋮⋮一応家長だしね。﹂ 大人はマミィしか居ないから自動的に家長はマミィになる。かな 今考えたら、激怒するんじゃない? この状況⋮⋮⋮⋮身内の り頼もしいよね強いし。 方が恐ろしいよ︵︵︵︵;゜Д゜︶︶︶ 254 私は果たして無事でいられるでしょうか? 255 面倒なフラグなんかいらないっての!︵後書き︶ うちの主人公は多少ヒネてます。元からなんです。 ヒロインもどこか枯れてます。 主人公の前世女、ヒロインの前世男と、逆転夫婦を目指している様 な? コウレン 主人公紅蓮の様子が変です。今後どうなるのやら⋮。 皆さまお読みいただきありがとうごさいます。 これから出てくるかも知れない妖怪はオリジナルのものが多くな ると思います。走飛は完全なオリジナルの名前です。 256 最強フラグなんか無くても母は最強ですねわかります︵前書き︶ またまたタイトル意味不明⋮。 お読みくださった方、お気に入りに登録してくれた方ありがとうご ざいます。 257 最強フラグなんか無くても母は最強ですねわかります ﹁⋮⋮⋮⋮︵汗︶﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮︵笑︶﹂ コウレン どうも、マミィが帰ってきて辺りの空気が氷点下の中、無言でお 送りします。一応主人公の紅蓮です。 あの後ね、マミィがそれはもうスゴい勢いと剣幕で飛んで帰って きたのですよ。比喩じゃなくてホントに飛んできた。一瞬ロケラン でも飛んで来たのかと⋮⋮。そうだよねマミィに翼が有るから私に も有るとか言ってたもんね。忘れてたよ。 うん。それで、マミィが久々にキレております。 ﹁ニッコリ⋮︵黒笑︶﹂ ﹁!!!!︵蒼白︶﹂ ラン 正座しながらマミィの黒い笑みで蒼白になっているのは私じゃな いよ。勿論、嫁でもない。 ほら、あの気絶させた自意識過剰の術師ですよ。 術封じの牢屋から出し、マミィはとても高度な術封じを術師に掛 け尋問しております。術師の顔は血の気が引いて真っ青。牢屋から 出そうとした時にまた喚いたもんだからマミィがキレちゃって⋮。 今のこの状況を見ると少しの罪悪感と同情が出てくる。少しやり 258 過ぎでは無いですかマミィ⋮。 ヤタガラス いつもの帰宅時間は夕暮れ時なのだが、どうやら八咫烏が緊急事 態と思いマミィに連絡したようで、急いで帰ってきた。八咫烏よ、 連絡手段があるならもっと早くに⋮⋮無理かマミィ主上主義だもん ね∼。私を信用してないから教えないだろうな。 それにしても⋮。本心は見てて楽しいよ。何だろ⋮転生してから 性格が歪んだ気がする。それにこの頃、攻撃的な性格になってきた 気がする。 コウレン ﹁紅蓮⋮説明を。﹂ ﹁︵おっと、話が脱線してた︶御母様、どこからですか?﹂ ﹁コウちゃん、ソコはマミィが良いわ。響きが可愛いから。勿論最 初から全部よ♪﹂ ﹁︵こころの中ではいつもマミィと呼んでますけど⋮︶えっと⋮⋮ 短くまとめると、嫁さんと子妖怪達とほのぼの↓変態ロリコンの気 配察知↓近くでポチ回収↓嫁さんとポチをシェンターに閉じ込める ↓変態ロリコン中年王族を種まきしたばかりの畑で発見↓変態ロリ コンが嫁さんに対する下ネタ発言を連発私イライラ↓嫁さん奪還発 言↓私イライラ↓遭遇↓何故か褒美に妾にする発言↓嫁さんの貞操 の危機!↓イラついてホラー満載な洋館に案内↓どじ込めザマァ︵ 笑︶。﹂ ﹁そんなんで解るか⋮﹂ ﹁なるほど。ランちゃんと自分の貞操の危機を感じで野放しにする のは危険だから私とコウちゃん以外脱出不可の洋館に閉じ込めたの 259 ね。それで、この術師さんの事は?﹂ ﹁解るんかよ!?﹂ 珍しく嫁さんがツッコミをいれたよ。自分で説明しといて何だけ ど、よく分かったね。流石はマミィ侮れない⋮⋮。 ﹁その人は⋮ロリコンを閉じ込める前に術師見捨てた発言↓飯が不 マミィ 味くなるので一応捜索↓特殊部隊ヤタガラス招集↓術師発見↓様子 見で隊員捕縛される↓隊員を捕縛した術師、ココの親玉討伐発言↓ 隊員ブーイングの嵐↓術師キレれて隊員に攻撃するため詠唱↓ヤバ いと思い捕縛専用の術で中断させる↓術師妖怪に対して批判的な発 言を喚く↓ココは私有地だから不法侵入と勧告↓手紙の配達がある とかほざく↓イラついて気絶させて牢屋にブチ込んだ。以上!﹂ ﹁レン⋮お前あの短時間でそんな事があったのか⋮⋮。大変だった な。それに何をそんなにイライラしてるんだよ。﹂ 同情されてるのはなぜ? イライラ?ハハハハッ⋮何でだろうね。 ﹁そうなの⋮。だそうだけど?一体どういう事なの私の子供に対し ていい度胸じゃないの。随分と偉くなったのね∼。ねぇミン?﹂ ﹁!!!!!﹂ あ、なんか今の驚き方面白いな。ギクーッ!!って、感じのリア クション。顔なんて青ざめるを通り越して白くなってるよ。 ﹁どうなのミン⋮自分の使命も忘れて名誉でもほしかったの? ま さか白の国でも名高い術師がよもや欲に駆られて現王の盟友を討と 260 うとしたなんて⋮⋮無いわよね。余計なオマケまで連れてきて。危 なく息子夫妻の貞操の危機だったわ。﹂ うん。マミィ⋮私と似たようなこと言ってるね。それよりも、現 王の盟友って⋮⋮初耳なんですけどぉ! ﹁嫁さん嫁さん。そちらさんの王様って私の母親と盟友何て私初耳 なんですけど⋮﹂ ﹁俺も初耳なんだけど。え?知り合いだったのか?﹂ ﹁二人とも、その話は後でね。さぁミン、説明しなさい。それと、 手紙を預かっている筈よ。渡しなさい。﹂ ﹁あ、あの⋮⋮そちらの子供に対して批判的な事は言いました。け れども貴方の御子息様には会っていません。﹂ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮やっぱり男には見えませんかそうですか節穴め⋮。 ﹁私は手紙を渡しなさいと言ったのよ。それと、説明もしなさいと 言わなかった?後、この子は正真正銘私の子供の紅蓮よ。﹂ KY陛下にキレたら時とはまた違ったキレ方だね。なんかKY陛 下の時は火山の噴火みたいな怒り方。けど、今回のキレ方はもっと 静かで冷たい⋮⋮背筋が凍える様な感じ。私はこっちの方が恐い。 ﹁それにしても、貴女の妖怪嫌いは健在なのね⋮むしろ前よりも悪 化したわね。この子が貴女に何かしたかしら?﹂ せんえつ ﹁僭越ながら、ご子息様に捕縛の術を掛けられ身動き出来ず⋮﹂ 261 ﹁あら、大事な所が抜けてるわよ。貴女は無断で私の土地に入って 来たでしょ。それに私の眷属を攻撃しようとしたんでしょ? 正当 防衛よ、それ。﹂ ﹁よ、妖怪の形をしていましたので⋮敵かと思い⋮。﹂ ﹁ハッキリ言いなさい。それと、その妖怪は全て敵って考えてを変 えたら? 始めは無理でしょうけど、このままだと仕事に差し支え るわよ。何より、自分の仕える君主の信用を落とす行為はクビでは 済まないのよ。﹂ だろうね。いくら部下の不手際でも、責任は上司にあるとみなさ れる。この術師が実際あの攻撃術を発動させて最悪ヤタガラスの隊 員が死んでまっていたら、術師にその直属の上司はクビが飛ぶだけ では済まないだろうね。何せこの土地はこの国で定められた正式な 手順でマミィが購入したのだから。 でもね、実は抜け道があるんだよ。それは﹁侵入しても気付かれ なければ良い﹂何て簡単な、けれど難しい事何です。 ココは特にね。後宮に居たときのあのトラップの数々から解るよ ね。ココも同じく難攻不落何ですよ。 ﹁コウちゃん悪いんだけど、夕食の支度お願いね。私はもう少し詳 しく聞きたいから♪﹂ もっと尋問するんですね、分かりました。 262 ﹁ほどほどにね。﹂ ﹁分かってるわよ。ランちゃんもコウちゃんを手伝ってあげてね。﹂ ﹁う?うん。︵拷問でもするのか⋮︶﹂ ﹁嫁さん、あんまりクビ突っ込まない方が良いよ。﹂ ﹁キャン⋮クゥ∼﹂ ﹁さあさあ∼二人とも部屋から出ていってね∼﹂ そんな風に見た目は子供、頭脳は大人なバーローよろしく部屋か ら摘まみ出されました。 ﹁投げられはしなかったけど。﹂ ﹁独り言が口に出てるぞ⋮﹂ ﹁あれま、ついうっかり⋮。﹂ そういえば、私らも見た目子供で頭脳も⋮ ﹁大人で良いんだよね?﹂ ﹁なんの事か分かんないけど、良いんじゃないか∼。﹂ うん。分かった事がある。私達に今必要なのはツッコミ要員だね。 ボケても面白くない。 ﹁︵⋮⋮あれ? 私ってこんな性格だったか?︶﹂ 263 この頃前世と今の私で性格にズレがあると思う。 前世の私はもう少し真面目でノリも良くなかった気がする。これは 良い傾向なのか、はたまた⋮ ﹁︵この体の元々の性格になってきた?︶﹂ だとしたら私は⋮⋮いつかは消えてしまうのか? ﹁⋮⋮⋮どうした?﹂ ﹁え? あ、なんか遥か彼方の世界にトリップしてたよ精神だけ。﹂ ﹁ふぅん。なんかしみったれた顔してた。﹂ ﹁そんな顔してた? あ、それよりも晩御飯の支度しないと! 急 げ∼﹂ 私そんなにしみったれた顔してた? 危ない危ない。嫁さんは勘 が良いから気付かれるところだった。 ﹁なあポチ。レンのやつ何か隠してるよな?﹂ ﹁キャン!﹂ ﹁⋮いつも何にも相談してくれないからな。俺ってそんなに頼りな いかな?﹂ 264 ﹁クゥ∼。﹂ ﹁︵男だったのに⋮俺ってこんなに女々しかったか?⋮⋮あれ?⋮ 俺ってどんな感じだったっけ⋮⋮?︶﹂ ********** ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂ さっきまでとどこか違った様子のランを観察しながら料理中。で もね、包丁は使ってないから大丈夫ですよ。それよりも今は嫁さん のあの様子⋮⋮悩み事かな。 ﹁︵悩んでも他人に相談しない私が言えた義理じゃないけど、心配 だなぁ。︶﹂ 手は動かしているけど、どこか気もそぞろで、今までこんなに悩 んでいる姿は見たことがなかった。 きっといつも悩んではいたけど、人前では見せていなかったんだと 思う。ランはとても用心深いから。 ﹁︵それでも、今はそんな姿も見せてくれるのだから少しは信用し てくれているのかな⋮︶﹂ 265 それなら嬉しいかぎりなんどけど。 だけど、このままだと怪我をするので休んでいるように言おう。 血は見たくないし。 ﹁嫁さん疲れているなら休んでても良いよ。後これだけだし。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁嫁さん? ⋮⋮ラン?﹂ 呼び掛けても返事がない。どうした。まさか具合悪いのかな? ﹁えっ!?﹂ ﹁どうしたの⋮具合悪いの?﹂ ﹁いや、悪くないけど。ゴメンボーとしてた。﹂ ﹁そう? ならもうすぐ出来るからもう休んでても良いよ。﹂ ﹁別に疲れてない。﹂ どうやら打ち明ける気は無いらしい。プライドからか、元々の性 格か、私と同じで人に悩みを言わないタイプだ。自分と同じタイプ だから悩んでどうなるか分かる。悩み続けると底無し沼に嵌まるタ イプだ。 ﹁そお?﹂ 266 ココはまだ聞かない方が良いね。無理に聞くと絶対言わないだろ うしね。 それにまだそこまで信頼が有るわけでもない。だってまだ数ヶ月 の付き合いなんだから。いくら夫婦、それも偽装結婚なんだし直ぐ に信頼なんて生まれないよ。 ﹁︵恋愛は出来ないけど、信頼関係は築きたいな⋮︶﹂ ランが他に好きな人が出来たらきっと私は⋮どうするんだろ? 267 最強フラグなんか無くても母は最強ですねわかります︵後書き︶ またあまり進展なし。 どうも雲猫’です。次回急展開?アイツがまた登場か⋮⋮ランちゃ んピンチ? 268 嫁さんに触れるならそれは死亡フラグと知れ!︵前書き︶ 無理矢理な表現があります。未遂ですが嫌な方、嫌悪感を受ける 方は戻ってください。 一応表現は控え目ですが⋮⋮。注意してください。 後からちょくちょく修正すると思います。 269 嫁さんに触れるならそれは死亡フラグと知れ! 恐れていた事が起きた。嫁さんが掌を切ってしまったのだ。一応 フォローしておくと、包丁で切ったわけでは無いよ。何故か欠けて いた食器を掴んで切っちゃっただけだから。あの時はボーとしてな かったし⋮⋮。 ﹁あちゃー⋮、痛いでしょ、結構切れてるよ。﹂ ﹁⋮⋮痛くない。﹂ 涙目で言われても説得力無いよ? それにしても、かなり深く切 れてる。不自然な程に⋮⋮。 ⋮⋮どうしてあの食器は欠けていたのだろう。昨日は欠けては無 かった筈だ。それにただ欠けただけの食器でここまでザックリ切れ るのか? もしかしたら誰が故意にやった? ﹁痛くなくても、これは縫った方が良いくらいの怪我だよ。先ずは 止血しようね。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ えっと⋮⋮救急箱は何処だった? ﹁救急箱∼救急箱はどこにある∼と、あったあった♪﹂ 270 そうだったよ∼。キッチンに置いてたんだ。ランてばよく包丁で 指先切ったりしたしね⋮⋮。今はそんなことなくなったけど。 ﹁ゴメン⋮﹂ ﹁なんで謝るの? 怪我したのは嫁さんのせいじゃないでしょ? 食器が欠けてたのが悪いんだから⋮謝んない!OK?﹂ ﹁⋮⋮⋮コク﹂ ﹁それよりも謝りたいのはコッチの方だよ⋮。治癒術が使えたら治 せるのに⋮。まだそこまで上達してないから治せない。﹂ 本当に必要なの時私は役立たずだ。 ﹁母さんなら治癒術で治せるから直してもらお?﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁ラン?﹂ ﹁ちょっと一人にさせてくれ⋮﹂ ⋮⋮男の人の考える事ってわからないけど、自分の思い通りに行 かないときは落ち込むよね。 ランは苦しそうな顔で外に出ていってしまった。 一体何を悩んでいるんだろう⋮。 271 ﹁どうすれば⋮悩みって解決できるんだろうねぇ。ポチっ、人間っ て大変だよね。﹂ ﹁キューン?﹂ ﹁私ね⋮妖怪の力が覚醒した辺りからなんか気楽になったんだぁ⋮。 悪く言えば考えなし⋮。ねえポチー、私は⋮どうなるんだろ?﹂ ﹁クゥン⋮クォン!﹂ ﹁ん。そうだね。私は⋮私ね⋮。うん。ありがとうポチ。﹂ ﹁キャン♪﹂ そうだね⋮。私は私なんだ⋮ッ!!!!!! ランメイ ﹁ゾクッ⋮⋮藍苺?﹂ 何今の寒気!まさか何か⋮何かあったの!? ********** 272 ﹁ハァ⋮⋮﹂ 情けない。自分が情けなくて泣けてくる⋮。レンは心配してくれ てたのに何で一人になりたいなんて言ったんだろう⋮。 ﹁︵男だった⋮今は女だけど⋮。俺ってどうすれば良いんだ⋮︶﹂ レンは治癒術が使えないから謝った。けど、俺は何も出来ない。 あいつ程器用じゃない。 ﹁俺って⋮レンの器用さに嫉妬してたのかも⋮﹂ あいつは何でもそつなくこなす。俺はいつも足を引っ張っている のに。あいつは気にするなって言うけど、気にする。 まえ 前世は結構何でも出来た方だった。勉強も人並みには出来た。運 動は人より少しは得意だった。けれど今は女、しかもまだ8歳の子 供。何をやっても上手くいかない。 けど、それは俺の努力がまだ足りないからなんだ。それは理解し ている。俺は転生して7年間安全な所で暮らしていた。空気の様な 扱いをされていたけど、同時に誰も命を狙ってきたりしなかった。 けれどレン達は日頃から命を狙われたり、嫌がらせをされたりし てきた。今までどんな事を潜り抜けてきたのかわからないけど、こ んなことで悩んでる事がバカらしく思えてくるほど過酷だったんだ ろうな。 ﹁戻ろう。そんで謝ろう。﹂ 273 もう少ししたら腹を割って話してみよう。偽装結婚だけど、信頼 関係は築きたいし。 [ガサガサガサッ!] ﹁!!﹂ なんだ?レン⋮⋮じゃないな、方向が逆だし。誰だ? [ガサッ!!!] ﹁おお!姫! 無事でいたか⋮。心配していたぞ。小賢しい小娘に 世にも恐ろしい館に閉じ込められましたが、ほれこの通り⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮ッ!!!!﹂ レイシュン 何でコイツがココに居るんだ! あの洋館に閉じ込められている 筈だ。あの洋館はレンと母親の麗春さんの他に開けられる者はいな い筈だ。なのに何故? ﹁⋮⋮と、死人を凪ぎ払い戦っていたところ、何者が私の働きを認 め館より出て姫を連れて行けと言ってきたのだ。さあ姫、この様な 地獄よりも私の館に帰りましょう。そして我が妻に!﹂ コイツは何を言っている? 何者が洋館からコイツを出して俺を 連れて行け言った? 洋館の扉はレンと麗春さん以外開けられない ⋮⋮俺は見捨てられた? 274 ﹁⋮い⋮⋮だ﹂ ﹁姫、さあ私と帰ろう。そして我が妻に⋮﹂ ﹁⋮⋮嫌だ!! 誰がお前なんかと行くか! 俺はココに居る。お 前なんかの妻に誰がなるか。それに俺はもう結婚している。ココか ら絶対に離れない!!﹂ そうだ。俺はココに居るんだ。それにまだ数ヶ月の付き合いだけ ど、あの二人はこんなまどろっこしいやり方はしない。直接出てい けと言うだろう。 コウレン それに、紅蓮はそんな簡単に突き放したりしない。自惚れかも知 れないがあいつはお人好しだ。ほっぽり出すならもっとマシなヤツ に預けるだろう。 ﹁ふん。姫、貴女はどうやら操られているようだ。それとも私の身 を案じて人芝居打っているのか。だが、心配は要らないぞ姫何故な ら⋮⋮⋮﹂ コイツ人の話を聞く気が無いのか。それとも頭が足りないのか⋮ ⋮⋮。両方か。 ﹁俺は正気だ。誰がお前なんかと結婚などするか。それにお前は俺 の叔父だろう。白の国の定められた法では近親婚は禁じられている。 ﹂ ハッキリ言ってもコイツに効果なんか無いだろうが、一応言って おく。しかしこのセリフはかれこれ50回は言っているだろう。時 間稼ぎにはなる。 275 ﹁なんの、貴女は知らないだろうが兄上と貴女は血の繋がらぬ親子。 弟の兄である私とは結婚できるだ。安心しろ。﹂ 誰がそれで安心など出来るからマヌケ。 ﹁元から知ってる。血の繋がり何て関係なくアンタとなんか結婚し たくない。それにさっきも言ったが俺は結婚してるんだよ!﹂ 偽装結婚ではあるけど、黄の国で正式な結婚をしている。誰がな んと言おうとこれは覆せない。 俺はコイツがしつこいからレンが提案した偽装結婚に乗ったんだ。 結婚してしまえばコイツは手出しできない。例え大国白の国の王弟 でも無理だ。 そういえば、レンに偽装結婚に乗った理由を言っていなかった。 レンも言わなかったから言うタイミングが無かったんだ。 ﹁ふん。例え結婚していても、妖怪なんぞ虫けらとの結婚は無効。 さあ⋮観念して私の妻になるのだ!﹂ ﹁絶対嫌だ!!﹂ ﹁致し方ない⋮解らぬのなら⋮﹂ げっ! コッチに近付いて来た。逃げたいけど例え走って逃げて も俺は子供⋮直ぐに捕まるだろう。 ここは目を逸らさずに後ろに下がって⋮⋮ 276 ﹁逃げれると思ったか!﹂ [ガシッ!] ﹁!!!!﹂ ヤバイ!! 腕を掴まれた。子供の俺には振り払えない。例え大 人であっても女の俺に果たして振り払えるか⋮⋮嫌だ!! ﹁離せ!! この下衆が!﹂ ﹁なに、少しの辛抱だ⋮後は私にすがるようになる⋮﹂ 寒気がする。吐き気もする。コイツから感じるのは嫌悪感だけだ。 こんなヤツが居るから⋮⋮身勝手な男が居るから男全員がケダモノ だとか言われるんだ! ﹁離せっての!!﹂ いくら暴れてもびくともしない。嗚呼少しの力が欲しい。コイツ を叩きのめす位は。 [ビリッ!] ﹁!!⋮テメェ!﹂ 服を破かれた。しかも前が見える様に。例えるなら解剖途中のカ エル。まだ無い胸の谷間辺りをなぞる指が気持ち悪い。折れてしま えこんな指。 277 ﹁ほう、何もされてはいないな。姫、妖怪に抱かれれば人には戻れ ぬ。私に感謝しろ。﹂ 見たり触っただけで分かんのかよ! 気持ち悪りぃ。 ﹁⋮⋮ッ! 地獄に堕ちろ!!﹂ お前に抱かれるくらいなら、レンに抱かれた方がマシ!!⋮⋮⋮ ⋮いや、違った⋮何考えてんだよこんな時に! ﹁テメェに抱かれるくらいなら、死んだ方がましだ、くたばれ⋮﹂ ﹁そうだね。くたばんなよ変態⋮⋮﹂ ﹁そうだ。変態⋮⋮ん?﹂ ﹁グフッ⋮⋮⋮ッ!﹂ 声がした。俺でもましてやこの変態でもない。 声のした方を見ようとした。どうやら俺は目を閉じていたらしい。 いつ閉じたのだろう。 コウレン 目を開いて声の主を探す。でもあの声はよく知っている。そうだ。 紅蓮の声だ。 ﹁私の嫁さんに手を出すとは良い度胸だね⋮﹂ やや上の方から聞こえた声は寒々とした声で今まで聞いたことの ない程⋮⋮怒っていた。 278 漸く気付いたが、どうやらレンはあの変態の顔面に蹴りを入れて そのまま乗っている状態のようだ。 変態は上を向いたままの状態でフガフガ何か言っているが別にその ままでも良いと思う。ざまぁ∼。 ﹁ねぇ、何してんの⋮人の嫁さんに対して⋮。覚悟⋮デキテルヨナ ァ?﹂ この状況で声を掛けるべきなのか⋮。いつもは隠している狐耳と 尻尾が現れている。心なしか髪の毛や尻尾の毛が逆立っているよう だ。 ﹁えっと⋮⋮レン?﹂ 俺が呼んだら急にコッチを向いて心配そうな顔をしていたが、直 ぐに険しい顔で固まった。 それも直ぐに心配そうな顔に戻ったが、直ぐ様コッチに飛んできた。 いや、跳んできた。そう、変態の顔面を踏み台にして。 ﹁ぎゃーっちょっと嫁さん? 怪我は? その格好⋮これ着て早く !﹂ 血相を変えて自分の着ていた服の上着を寄越した。そういえば服 を破かれたんだった。 ﹁ん。ありがとう。﹂ ﹁どういたしまして⋮⋮じゃないよ。待っててね今すぐコイツを男 じゃなくするから!﹂ 279 それってアレを切り落とすのか? ﹁汚いからやめろ﹂ ﹁大丈夫! 再起不能にするだけだから。直接触ったりしないよ気 持ち悪い。﹂ ﹁なんだなら良し?﹂ この場にツッコミ要員が居たらすかさずツッコミが、入っていた だろう。﹁いや、そこじゃねーよ!﹂って。 ********* 何で気付かなかったんだろう。ここ最近ランが怪我をよくしてい た事に。不器用でもないのに何かで手を切ったり、何もない所で転 んだり⋮。考えてみれば数えきれない。 だとしたら犯人は誰か。そんなの分かりきっている。仲間内の誰 か。それも私が気付かない程巧妙に罠を仕掛けられる奴。そんな奴 は二人だけ。 一人はマミィこと母さん。でも母さんは除外。理由がない。結婚 280 に対して不満があるならもっと直接言ってくるだろうし。何より可 愛い物好きな母さんはランを着せ替え人形にして楽しんでいる⋮。 アレはマミィの最近の楽しみになっているので無いだろう。何より も物を大事にするマミィが嫌がらせのために食器を欠けさせること 何てしない。ソコ!今貧乏性とか言わない! なら一人に絞られる。犯人は⋮。 ﹁︵今はそんなことどうでもよかったんだ!︶﹂ 全速力で走る。でも何故かランに追い付かない。まさか追い越し た? ﹁匂いはコッチの方角で合っている筈なんだけど⋮﹂ 妖怪の姿︵耳と尻尾︶になり嫁さんの匂いを頼りに探すが、やは り方向は合っている。 ﹁変だな⋮。﹂ こんなことならポチも連れてくれば良かった。二手ならもっと効 率が良いだろう。 ココに居ないポチは母さんを呼んで来てもらうために尋問︵拷問 だったかも︶しているだろうあの牢屋前にお使いに行かせてしまっ た。私では対処出来ない事もあるだろうと思い来てもらうためだっ たのだか⋮⋮。選択を誤ったかな。 ﹁⋮⋮⋮⋮⋮︵気配が無い︶﹂ 281 考え事をしていてふと気づいた。気配が無い。 ﹁︵他の妖怪も、小動物の気配もない⋮︶﹂ この場所はとにかく広い。なので森なんかが割りと家の近くにあ る。そのため動物がそこら辺にいつも一匹位は居るのだ。妖怪達も 夜行性の者も居るので割りと夜でも賑やかだ。 ﹁︵不自然⋮。︶﹂ 気配が無いのは、何かあったと言う事だ。早くにも言ったが、コ コは難攻不落の要塞の様な場所。容易に入ってこれない。切り立っ た崖と四方を囲む森は人を遠避け、張り巡らした罠は強い妖怪さえ 退けるそんな場所。 そんな場所に浸入してきた奴は今まで誰も居ない⋮⋮いや、誰も 家までたどり着けなかった。 不思議に思っていたのだ。あの変態がここまで来れたことに。確 かにあの術師は力量もあるだろうけど、母さんが施した罠を掻い潜 るだけの力量は無い。なら誰が? そこまで考えてはいたが、あり得ないと考えるのをあの時は止め てしまった。でもそれが間違いだった。 ﹁︵あいつは絶対に味方なんて思っていた。︶﹂ けど、よく考えたら奴は今までただ一人しか信用していなかった。 奴は後宮に居る時も常に母さんの影の中に居たらしい。けれど今は この場所を常に監視している。 282 私は母さんの子供だから標的にはならなかったのだろう。あいつ は母さん主上主義者だから。 ﹁早く出てきなよ⋮私が気付かないと思ってた?﹂ ﹃⋮⋮⋮⋮⋮﹄ ﹁それとも、名前を言わないと出てこないつもり?﹂ ﹃⋮⋮⋮﹄ ﹁別にお前がどんな思いで藍苺を標的にしたのかなんて知らないし、 ヤタガラス どうでもいい。けどな、悲しませるなら、命を奪うのなら⋮⋮容赦 はしない。分かったか八咫烏。﹂ ﹃あの小娘は災いを呼ぶ⋮。これも我が主のため﹄ どこからか声が聞こえた。だが姿は見えない。 気にくわない。誰かのためとか言って人殺しや嫌がらせを正当化 する奴は。 ﹁ふ∼ん。それが例え本当でも、果たして母さんは賛同するのかな その考えに。いや、そんなまどろっこしい事は嫌いな性格だよ。な んで私よりも付き合いの長いお前が知らないんだ。意見が有るのな ら言えばいいだろ。﹂ ﹃若、ワタシは何度も申しました。しかし我が主は﹁初めから知っ ていた﹂と、申すばかり。このままでは災いはあなた方に降りかか 283 る事でしょう。﹄ ﹁⋮⋮それだけ? それだけの事で藍苺を傷付けたのか。藍苺は私 達妖怪とは違う。傷の治りは遅いし、力もあまり無い。お前はそん なあいつを傷付けたのか!そんな理由でっ!!﹂ ﹃それにしても、よく気付かれましたな⋮。気配は完全に消してい たはず。﹄ ﹁結界に閉じ込められたら気付くでしょう。こんな完璧な結界なら 尚更ね。私一人だけを結界に閉じ込め、他の生き物は外に出した。 いや、私には感知出来なくした。が、正解かな。完璧主義が裏目に 出たね。早く出せ八咫烏!﹂ ﹃否﹄ ﹁それと、そのエコーがかった声をやめろ。目障り。﹂ ﹃⋮⋮⋮⋮﹄ そう、どちらも嫌だと⋮⋮⋮。 ﹁なら、容赦しないよ。これでも九尾の端くれ⋮他の血も混ざって はいるけど、力業なら得意だ。﹂ ﹃?﹄ 声はないが不思議に思っているようだ。そらそうだよ、今まで1 度もマジ切れは無かったもんね私。 悪いね八咫烏。手加減は出来そうにないよ。 284 ﹁死にたくなかったら自分の身を護ってね。﹂ ﹃!!!﹄ 自分の中にある力を解放する。日頃押さえられていた力は瞬く間 に膨れ上がり、私の周りから﹁ミシミシッ!﹂と、音がし始める。 たぶんそれが八咫烏の張った結界だろう。 ﹁ミシミシッ!﹂という音は﹁ビシッバリッ!﹂えと音が変わっ ていった。今まで1度も解放したことの無い力、たぶん妖力だろう その力をどうして自在に操れるのか解らない。たぶん今身体に流れ ている血が使い方を知っているのかも知れない。本能⋮なのだろう。 ﹃若!そんな事をしては若のお身体に障ります。﹄ ﹁なら、この結界を解け!﹂ ﹃⋮⋮なりません﹄ ﹁あっそう! なら爆発するから気を付けてね★﹂ [バキッ⋮⋮] 音もなく突風が吹く。想像ではもっと大爆音で爆発するとか思っ ていたのにちょっと拍子抜け。 ﹁あれま∼⋮。﹂ 285 周りは半径2メートル程のクレーターが出来ていた。私を中心に してね。 ﹁やっぱり母さん程の力は無いんだね。全力で殺ったのに。八咫烏 は無傷⋮⋮。まだ邪魔するの?﹂ ﹃⋮⋮ッ⋮⋮いえ﹄ ﹁ふ∼ん?そう。ならもう行くから。﹂ こんなことで時間を食った。急がないと! ﹁⋮⋮ん?⋮﹂ 何かが破れた音がした。嫌な予感が倍増⋮。間に合ってよ! ﹁⋮⋮ッ! 地獄に堕ちろ!!﹂ 間違いなく藍苺の声だ。切羽詰まってる声に焦りが出てくる。 ﹁テメェに抱かれるくらいなら、死んだ方がましだ、くたばれ⋮﹂ ⋮⋮抱かれる? あの変態は等々私の琴線に触れたみたいだね。 286 ﹁そうだね。くたばんなよ変態⋮⋮﹂ ﹁そうだ。変態⋮⋮ん?﹂ ﹁グフッ⋮⋮⋮ッ!﹂ 言うが早いか、蹴りが早いか。どちらか自分でも解らない程頭に 血が上っていた。 自分の左足が変態の顔面に食い込む。それだけでも気持ちが悪い。 イライラする。 下世話な話になるけど、変態はしっかり服を着ていた。まだ間違い は起きていないようだ。 ﹁私の嫁さんに手を出すとは良い度胸だね⋮﹂ 自分の口から出る声は私でも冷酷だと思うほど冷たかった。 この変態の声を聞きたくなかったので両足でコイツの顔面を踏み つけながら立っている。よく立ちながら顔面に8歳のガキを乗せら れるね⋮。この変態は身体能力が高いのか? それともただのバカ か⋮。 ﹁ねぇ、何してんの⋮人の嫁さんに対して⋮。覚悟⋮デキテルヨナ ァ?﹂ この状態で変態が喋れないのは確定的だが一応言っておく。怒り で尻尾の毛が逆立っているのが分かる。ホントにこんなに怒るのは 生まれて初めての気がする。どうした私。自分でも驚いている。 287 ﹁えっと⋮⋮レン?﹂ そうだ。こんな変態に構っている場合じゃなかった! 嫁さん大 丈夫⋮⋮⋮⋮?! おいこら待てよ!なんだよ、何で前全開!?。 あの変態ロリコンがぁ∼⋮。それにさっき切った掌は? ﹁ぎゃーっちょっと嫁さん? 怪我は? その格好⋮これ着て早く !﹂ 前全開の嫁さんに自分の上着を渡した。マジ許すまじ変態!! ﹁ん。ありがとう。﹂ ﹁どういたしまして⋮⋮じゃないよ。待っててね今すぐコイツを男 じゃなくするから!﹂ さぁ、地獄の時間だよ∼。ある程度損傷すると機能しなくなるら しいよ⋮。え?何が? それは⋮⋮⋮分かるでしょ? おこな 前世女としてコイツの行いは赦せない。潰せば良いんじゃないか なぁ︵^︳^︶ ﹁汚いからやめろ﹂ 汚い?うん、確かにコイツは汚いね。心が薄汚れてるから。いや、 真っ黒に汚れてるよ。 ﹁大丈夫! 再起不能にするだけだから。直接触ったりしないよ気 288 持ち悪い。﹂ 鈍器で叩きのめしたら、例えば、ハンマーでスタンプしたら良い と思うんだよ。全力でね♪ ﹁なんだなら良し?﹂ よっしゃ、嫁さんからのお許しも出だし、コイツを地獄に叩き落 としなすかね∼。 と、思いきやマミィに頼まれた特殊部隊ヤタガラスが総出で止め に掛かってきたので未遂に終わってしまった⋮!なんだよ止めるな。 え?一応王族だって?知ってるよ。はぁ?余計に悪いって⋮。ハイ ハイ分かりましたよ∼。マミィ?その隣で笑ってたけど何か? ﹁嫁さん、どこか怪我してない?﹂ 289 ﹁ん、大丈夫。そういえば掌の怪我忘れてたけど⋮⋮まだ血が出て たし。﹂ ﹁ちょっ! 止血∼。母さん治癒術かけて!!﹂ ﹁ハイハイ分かりましたよ∼。あら⋮⋮コウちゃん後であの子は〆 ておくから。母さんに任せてくれる?﹂ ﹁良いよ。仕返しはしたから。﹂ ﹁︵仕返し?︶﹂ ﹁⋮もしかしてあの子の頭⋮⋮﹂ ﹁私がやりました♪﹂ 何をしたかって?フフフ、八咫烏の頭をちょっとね。⋮⋮聞きた い? あのね⋮⋮⋮ ﹁︵まさか八咫烏の頭をハゲ頭にするなんてね。よほど怒っていた のね⋮コウちゃん。︶﹂ フフフ⋮。それだけで済んだんだから安いもんでしょ。まぁ、子 妖怪にはバカにされるだろうけどね♪ 今回の事で分かったことは、藍苺に何かあれば私はキレるみたい 290 だということ。 嫁さんに手を出すのなら、私が絞めますからそのつもりで。まぁ、 皆さんはそんなことしませんよね? その後、八咫烏はしっかり頭の事を子妖怪達にも笑われ、あろう ことかヤタガラスの隊員にまで笑われてしまうのだった。 わか そんな出来事のお陰か紅蓮と藍苺にイタズラをるものはいいなく なった。 ひめ 曰く、藍苺に悪意をもって触れるべからず。紅蓮の報復要注意。 そんな教訓が生まれたとか何とか、この事実を紅蓮が知るのはか なり先であった。 291 嫁さんに触れるならそれは死亡フラグと知れ!︵後書き︶ コウレン 紅蓮マジ切れの巻。 段々コウちゃんの性格が捻れて⋮⋮黒く?なりました。ランちゃ んはあんなにウジウジした性格では無かった筈なんだけど⋮⋮。ど うしてこうなった! 292 何かが進展すればそれはフラグ︵前書き︶ お気に入り登録数50件到達だと!! ︵゜゜;︶︵。。;︶ 思わず二度見⋮。皆さんありがとうございます。 いつものごとく、タイトル関係無いです。 293 何かが進展すればそれはフラグ ハロー⋮⋮。ハァ⋮。え?何でため息なんかついてんのかって? 実はさぁ⋮。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ランメイ 嫁さん、藍苺が机に突っ伏して落ち込んでおります。こんな時に 何も言う言葉が見つからない。一人にした方がいい?でもこんな時 はホントに一人にすると暗い考えしか浮かばないと思うんだよ。 コウレン だから、何か話し掛ける事はしないけど近すぎず離れすぎずな場 所に座っております。一応パートナーの紅蓮です。 さて、どうしたことか⋮⋮⋮。待とう。うん、それしか思い付か ないや。情けないけど。下手に慰めたら余計に悪化しそう。 ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ あれ、もしかして寝てるの? ﹁じぃぃ∼⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 294 寝てるのならそれでいいけど、あんな目に遭ったんだから夢見も 悪くなるかも知れない。何よりキッチンのテーブルで寝たりなんか したら、風邪は引くし、身体は痛くなるしでいいこと無い。 ﹁じぃ⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 毛布を持ってきてかけるべきか、部屋まで運んだ方がいいか。で も動かしたら起きるんじゃない? どうしょう⋮⋮。 ﹁じぃ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮﹂ あの変態ロリコンから救出直後はいつも道理に話せていたけど、 晩御飯を食べて母さんがあの二人を尋問⋮⋮拷問してくるって言っ て出ていった辺りから途端に無口になって今この状態です。 やっぱりあんな事があったばかりだから、身体は男の子な私と二 人っきりは気まずいのかな。食事中目も合わせてくれなかった。嫌 われたかな⋮。 ﹁︵触らない方がいいか。なら、毛布だけでも持ってこよう。︶﹂ ﹁⋮⋮﹂ やけに静かすぎるキッチンは、椅子を引きずる音が響く。こんな に静かな事って今まであったかな。 295 ランメイ 起こさないようにしないと。藍苺が気遣われるのが嫌いなことは 分かってはいる。けど、今気遣っているのは何も女だからではない。 男女関係なくあんな目に遇ったら誰だって気遣う。特に女として扱 われるのが嫌いな、中身が二十歳越えてる男性なら尚更ね。 それよりも、ランの心に傷がついていないと良いのだけれど。そ うもいかないだろうね。心の傷って本人が気付かない事もあるし。 ﹁︵きっと、今はそんなに意識しないだろうけど、私だってこのま まの姿って訳にもいかないから⋮⋮。成長したら避けられるよね⋮。 ︶﹂ まぁ、偽装結婚だし。私は中身が女だから藍苺と気持ちも少しは 理解できそうだ。あの変態には二度と近付けないようにしないと⋮ ⋮。 それよりも、今は毛布を持って来ないと⋮。 ﹁︵確か使ってない毛布は⋮⋮︶﹂ ﹁どこ行くんだ⋮﹂ ﹁!!⋮ッビックリした∼⋮寝てたんじゃないの?﹂ ﹁うつ伏せになってただけだ。﹂ ﹁︵紛らわしいな⋮⋮︶﹂ 296 ﹁何でそんなに驚いてんだ?﹂ ﹁そりゃぁ寝てるから起こさないように歩いてたからだよ。あ∼ビ ックリした∼。﹂ ﹁ふーん、ビックリても耳は出ないんだな。﹂ ﹁あ、確かに。﹂ いつも通り⋮⋮かな。その方が心配になるのは私だけなのかな⋮。 ﹁寝てなかったのか∼。でも、うつ伏せになっててよく動いたの気 付いたね⋮。隠密行動は得意な方なのに⋮。やるな嫁さん!﹂ ﹁ハイハイ。ただ単に顔を上げたらレンが動いてたから声掛けただ けなんだけどな。︵視線が痛かったなんて言えないだろ⋮︶﹂ ﹁タイミング良すぎ⋮。﹂ なんだ、タイミングか。 ﹁あのさ⋮﹂ ﹁何?﹂ ﹁⋮⋮俺ってさ⋮女なんだよな﹂ ﹁外見はね。﹂ どうしたのかな。 297 ﹁俺はどっちなのかな。男?女?﹂ ﹁ランはラン。どちらかなんて自分で決めればいい。周りが何と言 おうと、そう決めたなら最後まで貫き通せば良いよ。それは他人が 決める事じゃない。﹂ ﹁この頃自分でもどっちなのか怪しくなってきた⋮。﹂ ﹁なら、もっと悩めばいい。でも、ウジウジしてると駄目だ。暗い 考えしか浮かばないよ。何事もポジティブに⋮⋮なんてね。これは 私の意見だから、必ずしもランの答えじゃないよ。﹂ ﹁レンはどうしてそんなに明るく考えられるんだ。﹂ ふむ。私が明るい? 見た目だけだよ。 ﹁藍苺。見た目に騙されちゃ駄目だよ。いくらポジティブに見えて も。﹂ ﹁レンは⋮何で隠しているんだ。辛くないか?﹂ ﹁そりゃぁもちろん辛いよ⋮。でもね、辛いって顔してももっと辛 くなるだけ。と、私は思うんだ。ほら、よく言うでしょ﹁笑う門に は福来る﹂てさ。たまにはバカみたいに笑って嫌なことを吹き飛ば せば、﹁あぁ何でこんなことで悩んでたんだろ﹂って思えてくるん だよ。﹂ ﹁⋮⋮俺に出来るかな⋮﹂ 298 ﹁知らんよそんなこと。﹂ ﹁お前って慰めるか、毒吐かどっちかにしろよ。﹂ 毒なんか吐いた覚えないんですけど。私毒吐いてた? ﹁毒なんか吐いた?﹂ ﹁吐いてるだろ。ソコは思っていなくても出来るって言えよ。﹂ あぁその事か。 ﹁人の事なのに分かるわけ無いでしょ。それに出来ない事を出来る 何て言っても出来ないものは出来ないよ。努力したら出来るかも知 れないけどね。﹂ ﹁お前って時々キツいよな∼。﹂ 少し笑いながら言うことか? ﹁そお? ⋮⋮⋮⋮ん∼⋮。あのさ﹂ ﹁なんだ?﹂ ﹁私も愚痴って良いかな?﹂ ﹁いいとも? おい言わせるな∼。で?何だよ。愚痴くらい聞くぞ。 ﹂ ﹁実はさぁ∼。最近、てか、妖怪の力が覚醒した辺りから性格に変 299 化があってさ⋮。﹂ ﹁ん?そうか?﹂ そりゃねランに会って直ぐ覚醒したから変化なんて気付かないよ ね。 ﹁何かね∼。前から多少冷たいところはあったって自覚はあったん だけどさ⋮﹂ ﹁自覚はあったのか﹂ ﹁うん。けどね⋮⋮明らかに残酷に、冷酷になった気がするんだよ ね。いや、気がするじゃなくて、実際なってるかな。あの変態を再 起不能にするとか言ってたでしょ?あれね実際に実行しようとして た。﹂ ﹁⋮⋮冗談だと思ってたよ。けど、妖怪達が必死になって止めてた のはその所為だったのか。﹂ ﹁うん、そう。ちょっと殺気に気付いた見たいで⋮⋮。邪魔しなく ていいのに⋮。﹂ あの時はホントに頭に血が上っていた。止められていなかったら 変態は今頃死ぬよりも恐ろしい事になっていた事だろう。フフフフ フ⋮⋮ ﹁男って命よりも大事なんだね。中身女な私には解んなーい♪はは はははは⋮﹂ 300 ﹁⋮⋮⋮︵うん。レンお前の性格変わったよ。︶﹂ ﹁ふうぅ⋮冗談はさておき、私も悩みがいっぱいあるよって話だよ。 誰にも一つや二つ、百や二百あるよ。﹂ ﹁百や二百は無いぞ俺は。でも⋮⋮ありがとう。自分が悩んでるの がバカらしくなってきたよ。﹂ それは良いのか? でも、そうかぁ、体と心が合わないと大変だ よね。幸いなのか私はそんなに違和感が無い。それは女だったから か。違うかな、私の性格が図太かったからだねきっと。 ﹁私たちは同じで反対だね。私は男だけど女で、ランは女だけど男 で⋮⋮。でも、あんまり違和感が無いよね。私たち。﹂ ﹁そうか? 俺は自分に違和感があるけど。女なのに俺って言って るし⋮﹂ ﹁ねぇラン知ってる? 東北地方の方言で、女性でも俺って言って る人居るんだよ。女性でもボクって言ってる人もいるし。その人達 は普通に女性だし、話していても違和感無かったよ。﹂ そう、一人称が何であっても別にいいと思うよ。 ﹁世の中色んな人が居るんだから。﹂ ﹁ん∼⋮。そうだな。﹂ ﹁ホラホラ∼こんな時は前向きに∼ね。逆に考えればいいんだよ。﹂ 301 ﹁例えば?﹂ ﹁ソコは自分で考えてよ。でも、そうだね⋮女でも無いけど、男で も無い。だからどっちの気持ちも少し分かる⋮とか? ん∼違うか ⋮。あぁ、例え男に惚れても身体は女だから⋮⋮とか?﹂ ﹁ふふ、あはは⋮⋮ッ⋮。何で男に惚れる前提何だよ。﹂ 言われてみればそうだね。何でだろう。 ﹁あぁ⋮ならこれは? 身体は女だから女湯に⋮とか?﹂ ﹁はあ!? おいコラ、それはダメだろ。俺をそんなに変態にした いのか。俺の事そんな風に見てたわけ。ふーん⋮。﹂ ヤバァ⋮もしかして墓穴掘った? ﹁いやいや冗談だよ。ゴメンね。どうも男って、前世含めて録なの 居なかったから⋮。偏見だった。﹂ ﹁偏見? お前も苦労してたんだな。﹂ ﹁そうでも無いよ。私みたいなのは結構居るよ。﹂ それでも、前世は男運が無かった。付き合ったことは無くても、 周りに居た男を見ていると中々信じられなかった。勿論そんな人ば いま かりでは無いのは知っていたけど。それでも信用するのは難しかっ た。 むかし ﹁⋮⋮私ね⋮。父親の顔を知らないんだよ。前世も現世もね。蒸発 302 したんだよ前世の父親がね。外人だったらしくてさぁ。私の顔日本 人離れしててよくからかわれた⋮。﹂ ﹁⋮⋮ハーフ?﹂ あか ﹁見た目だけね。私の英語てんで駄目。しかも髪は白いし、目は今 と同じ紅でさ、気味悪がられたよ周りから。おまけに顔まで父親似。 私の顔見てよく泣いてたよ母親。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁何の因果かまた父親に縁がないのか居ないし⋮。⋮⋮⋮って何で こんな話してたんだろう。ゴメン、変な話して。まぁ、言いたかっ たことはね、自分らしくいればいいよってこと。﹂ 肘をつきながら話を聞いていたランは憑き物が落ちたような顔を していた。少しは解決の手助けができればいいけど、これは自分で 決めないといけない。がんばれ! ﹁たまには甘えても良いよ。誰もランが弱虫なんて、言わない。言 わせない。今だけだよ甘えても笑われないのは。大人になったら今 以上に難しく考えちゃうから。﹂ ﹁お前もな。泣いてるところ見たこと無いって聞いたぞ。﹂ マミィに聞いたのかな。私初耳何ですけど。 ﹁考えてみる﹂ ﹁え?︵はい? え?何の事?︶﹂ 303 ﹁甘える云々。まぁ、愚痴とかさ、言いたくなったら聞いてくれ。 俺も聞くから。﹂ ﹁⋮うん。頼りにしてるよ嫁さん。﹂ ﹁ハイハイ、旦那さん。﹂ いつものノリが返ってきた。一先ず安心かな。 でも、この後まさかあんなことになるなんて思ってもいなかった。 これがフラグかって? これは後日談みたいなもんだからフラグ じゃないよ。そう、油断してたんだよ。私達は⋮⋮⋮⋮。 304 305 何かが進展すればそれはフラグ︵後書き︶ ちょっぴり二人の仲が進展したかな? 次回は、まだフラグ回収しません多分⋮。 修正をちょこちょこすると思いますが、話し自体の流れは変わりま せん。 では!m︵.︳.︶m 306 父親との遭遇、フラグはドコ?︵前書き︶ 山なし、落ちなし、意味なし⋮⋮。 どうも、お読みいただきありがとうございます。 間違い等ありましたら修正します。 307 父親との遭遇、フラグはドコ? コウレン はいどうも∼紅蓮です。変態と喧しい女がマミィに拷も⋮尋問さ れて口をわってくれたみたいだよ。 ﹁やかまし女は変態ロリコンに脅されてたのか⋮。だから?﹂ ﹁レン、落ち着け、落ち着け。﹂ 嫌だなぁ。至って落ち着いてるよ嫁さん。でもね、脅されてたか ら今までの事を帳消しになんて出来ないのよ。 ﹁いくら脅されててもあんな公害ロリコンを連れてくるとか嫌がら せとしか思えないでしょ。それに妖怪達に対する態度が気に入らな い。﹂ ﹁そうよね。捕まえるのならまだしも、攻撃もしていない動けない 無抵抗な私の眷属に対して中級の術で攻撃なんて私に対する宣戦布 告よね。﹂ マミィは相当頭にキてるらしく、妖怪の姿になっている。時折耳 が小刻みに動いていた。最近になって気付いたが、この耳を動かす 動作はかなりイラついている証拠なのだ。 ﹁それで、あの変態はどうなったんだ?﹂ ﹁それは私も気になる。﹂ あの変態ロリコン⋮⋮。今度会ったら再起不能じゃ済まさない⋮。 308 ﹁大丈夫。何重にも術を掛けたから。今頃芋虫みたいに床に這いつ くばってるわ。絶対に解け無いから。﹂ それは安心出来るのかな。世の中には絶対になんて無いからね。 元はと言えば私の不注意で招いた事なんだよ。信用しすぎていた。 まさかあの八咫烏があんな行動を起こすとは思わなかった。 今度からはどんな事も想定しないといけないな⋮。 ﹁ねぇ母さん、一つ提案があるんだけど⋮﹂ ﹁⋮⋮もしかして⋮アレ?﹂ ﹁︵まさか⋮アレか?︶﹂ ﹁多分ソレで合ってるよ。あのク・ス・リ♪﹂ ﹁あぁ、あの薬か。︵やっぱりそう来たか⋮︶いいんじゃないか⋮ ⋮人体に影響は⋮⋮うん。⋮﹂ 嫁さんよ。ココは徹底的にしないといけないのだよ。徹底的に、 ね。 ﹁調合の仕方教えて? そうすれば虫除けにもなるし。︵ちょと考 えもあるし。︶﹂ ﹁ん∼⋮。しょうがないわね。コウちゃんなら大丈夫でしょ。﹂ ﹁︵大丈夫かこいつに教えて⋮⋮まぁ良いか。︶﹂ 309 変態にもだけど、今後の虫除けにもなるように改良しようかな。 何て言うの⋮⋮抑制するもの? え? 何がって? そりゃもちろん⋮半数の男は下半身は信用で きないからね♪ ﹁鬱陶しいのが寄ってくるとイラつくしね。﹂ ﹁何がとはあえて言わないぞ。﹂ あはははは⋮。嫁さんよ、男に遠慮は要らんのよ?だって今の君 より力強いんだから。 ﹁あ、そうだ! ねぇ嫁さん、修行しない?﹂ ﹁ん? 藪から棒に何だよ。﹂ ﹁うん。あのさ、嫁さん護身術は一応心得があるみたいだけど、あ の変態みたいなのには太刀打ち出来なかったでしょ? それに日頃 から動きを身に付けてないといざって時動けないしね。どう? 私 と修行する?﹂ これは問いかけじゃなくて提案でもない。1種の脅しだよね。ゴ メンねけどさ⋮。このままだとまた、第二、第三の変態が寄ってく るかもしれない。いつでも私が側に居られるとも限らない。 ﹁コウちゃん⋮でも、ランちゃんは⋮⋮﹂ ﹁やる⋮⋮俺も鍛えたい。強くなりたい。﹂ 310 ﹁言っておいて何だけど。⋮嫁さんは弱いよ。人間だから。﹂ ﹁コウちゃん!﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ これだけは言っておきたいんだよね。 ﹁あのね、別に人間だからなんて、差別ではないよ。区別だから。 でもね、人間、ソレもまだ子供の少女。成長しても腕力がどのくら い上がるかなんて他かが知れてる。それでも途中で投げたさずに続 けるなら⋮。﹂ ﹁⋮⋮俺はそんなに根性無しに見えるか。﹂ ﹁どちっかって言うと負けず嫌いに見えるけど﹂ ﹁そうだ。俺は負けず嫌い何だよ。レン、覚悟してろよいつか泣か す⋮。﹂ ふふふ⋮。泣きたかないけど、楽しみにしてよう。あっ、Mじゃ ないよ私。どっちかって言うとS? ﹁さあ、母さん。調合の仕方教えてよ。早速作るから。﹂ あの薬は何も、虫除けだけに使う訳じゃない。 何に使うかって?それは秘密だよ。 311 ********** そして、あれから2ヶ月が経った。変態と女術師は、王宮からの 使者に連れていかれた。いくら王族でも然るべき裁きを下すと王様 自らの手紙に書いていた。王である証しの国印まで押して。 ランメイ あれから藍苺は少しずつけれど確実に強くなり始めた。けれどま だ2ヶ月やそこらなので自覚するのはまだ遠くの未来だろうね。 飽きもせず、諦めもせず、流石負けず嫌いだと思うよ。その後の 精神も表面上落ち着いてはいる。だけど、毎晩泣くのを堪える声が 私の隣の部屋の藍苺の部屋から微かに聞こえてくる。こんな時はど うしたら良いのだろうか。私がもし、身体も女であったなら夜でも 部屋に言って一言位は声を掛けているのだか⋮⋮今の私の身体は男。 おいそれと部屋に押し掛けたら⋮⋮パニックは起こさないまでも、 嫌な記憶が甦るのでは?と、私が恐いのだ。 312 だから今のところは保留にしている。悪化したのなら母さんに頼 もう。情けないけど、ソレが一番藍苺に負担をかけない。 部屋の壁は通常、人には音が隣の部屋まで届かない。いや、人間 にはかな。私は妖怪のために耳が良い か細い啜り泣きもバッチリ聞こえてしまう。こんな時はこの狐耳が 疎ましい。なにも出来ないのに、啜り泣きを聞き続けるのは⋮⋮辛 いよ。 さて、話を変えようか。白の国の王様の直筆の手紙の話をしよう かな。そう、あの変態ロリコンの弟の王様だよ。 王様は手紙を2通寄越した。母さん宛てと私宛て。母さん宛ては 分かるけど、私宛てに来たときは驚いたよ。﹁二の姫、藍苺の婿殿 へ﹂なんて書いてあった。 とても変態と兄弟には思えなかった。そんな聡明さが滲み出てい た手紙だった。内容は、今回の王族にあるまじき行為の謝罪。どん な処罰を下すか、こちらに対する賠償の内容。これは予想できた。 そして、娘の藍苺を心配する父親の心情が綴られていた。 そこまで読んで藍苺から聞いていた扱いに疑問が浮かんだ。こん なに藍苺を心配しているのに何故あのような扱いをしたのか。私は 藍苺の言っていることは疑っていない。あれは事実だと思うよ。 浮かんだ疑問を抱いたまま、手紙の続きを読むのを再開した。読 むにつれてその疑問は解けた。 曰く、藍苺の母親は王様の腹違いの妹で、その事を世間に明かす 313 ことは出来ないので、側室という立場で周りから遠ざけていた。そ んな時、あのKY陛下のバカが、手を出してしまったと⋮⋮。ホン トにあのKYなにやってんだよ!要らないことばっかしやがって⋮ ⋮。 そして、藍苺が産まれたと⋮。王様は藍苺を空気として扱う事に よって周りの心無い貴族達から守っていたのだ。けれど、そんな理 由が有ろうが無かろうが、そんな態度をされていれば、精神的に辛 いだろう。王様のしたことは結果、藍苺や母親である腹違いの妹を 守った。けれど、そんな中亡くなった母親はどんなに⋮⋮。やめよ う。 話が脱線した。えっと⋮⋮そうそう、王様は最後にこう綴ってい た。﹁藍苺は確かに私の娘ではないが、大切な姪なのだ。こんなこ とを私が言うのも烏滸がましいだろう。だが、どうか、あの子を守 ってほしい﹂と。おいおいお王様がそんなんで良いのかい?威厳が 無いよ。 まぁ⋮うん。頼まれなくてもそのつもりだから。 そしてこうも綴られていた。﹁この事はあの子には内密にしてい て欲しい。私は恨まれている方が良い。今更父娘にはなれぬのだか ら﹂そんな事が綴られていた。 今度手紙を書こうかな。手紙にはこう書こう。 ﹃貴方の事を藍苺は一度も悪く言ったことはありません。それと、 貴方の頼みは聞けません。私は藍苺に嘘はつきたくないのです。け れど、聞かれるまでは保留にしようと思います。﹄ 314 なんて、感じでね。 ﹁レーン! 薪割りのコツ教えてくれよ。﹂ おっと、嫁さんが呼んでるよ。 ﹁はいはーい!今行くから∼。﹂ 狐はイヌ科にしては珍しく単独行動を好む動物だけど、私は単独 行動はちょっと寂しいかな。まだ皆と居たい。けどさ、時機が来れ ば私はここを出ていこう。藍苺には悪いけど、ある程度自分の身を 守れる位強くなってもらわないと連れていけない。 まぁ、私に着いてくるよりここに居たほうが安全なのも確かだし ね。ソレを決めるのは藍苺の強さと藍苺自身。 冷たいようだけど、ここに居ると何か良くない気がしてなら無い。 ﹁薪割りはね⋮⋮斧の重さを利用して⋮⋮後は体重移動がコツ。﹂ ﹁あぁ、なるほど⋮。﹂ ﹁嫁さんはこう言う重い武器の方が相性良いみたいだね。重すぎて 315 も持ち上げられなくて駄目だけど。﹂ 斧を持つ手がプルプル震えてるよ。まだソレを持ち上げるのは早 いよ、年齢的にね。 さぁて、初夏になってきたから仕事が終わったら風呂にでも入ろ っかな∼。ここに来て出来る数少ない贅沢だからね風呂は。 それにしても、手紙に入ってた白紙の紙があったんだけど⋮⋮炙 り出しの手紙だった。内容は驚愕の内容だった⋮⋮⋮⋮⋮。 ********* ﹁はァー⋮︵こんなんで強くなってるのか?︶﹂ レンの修行は基礎体力の強化と無理のない筋力強化、そして充分 316 な睡眠。しかしこれではいつになったら強くなれるのか正直半信半 疑だ。だが、俺よりもレンの方が戦いに関しては上なので大人しく 言われたことを黙々としていた。 ﹁自分の変化に気付くのも修行だよ。﹂ なんて感じで俺が強くなったかは教えてくれない。確かに2ヶ月 やそこらで強くなれるわけがない。そんな時こそ焦りは禁物、日々 精進あるのみ⋮⋮何だが、少し焦りもある。 ﹁︵二人に迷惑をこれ以上掛けるわけにはいかない⋮︶﹂ もう充分お世話になっているのに、日々迷惑をかけ続けるのは気 が引ける。 ﹁⋮⋮よ⋮⋮さん⋮? 嫁さん!﹂ ﹁⋮⋮!⋮えっと、何だ?﹂ ﹁疲れた? 薪割り終わったら風呂に入って休んでも良いよ。この ところずっと修行と畑仕事で疲れたでしょ? 休んでなよ後はやる から。﹂ ﹁大丈夫⋮﹂ ﹁無理は己の為にならず。だよ。体を休めるのも立派な修行です。 休みなさいな。﹂ この頃ますますレンに口で勝てなくなってきた。でも実際その通 317 りなんだろう。疲れてふらふらの状態で修行なんかしたら上達する どころか怪我する。正直に休もう⋮⋮。 ********** ﹁どうしたものかなぁ∼﹂ 風呂に入りながら炙り出しの手紙の内容について考える。正直ど うすれば分からない。 湯船は檜を贅沢に使った檜風呂。これはマミィのこだわりの逸品。 曰く﹁こんな時だからこそ少しの贅沢﹂らしい。よく分からないが この檜風呂の製作は元から賛成だった。 兎に角広いのだこの風呂は。少しの贅沢何てもんじゃない。敷居 の高い旅館の風呂並みに品がある広い風呂なのだ。 ﹁はァー⋮。﹂ 婆臭いと我ながら思うけど、中味は三十路間近なので勘弁して欲 しい。 318 それにしても⋮と、自分の体を改めて見て思う。 こんなに細い子供の腕であんな重たそうな斧をよくもまぁ振れる物 だと感心してしまう。 おっと、そうだった。炙り出しの手紙について考えていたのだっ た。 ﹁︵王様はいったい何がしたいんだよ。︶﹂ 手紙には異母妹である藍苺の母親の出生の秘密に、藍苺の引いた 血筋について事細かに書かれていた。これが世に出れば混乱しか招 かないだろう事をよくもまぁ私に明かしたものだ。 それと、藍苺が黄の国に何故来たのか、何故私を婿に指名してき たのかの詳細。母さんが白の国の王様と盟友なのは女術師の一件で 分かったことだが、まさか最初から母さんが藍苺の事を知っていた とは思わなかった。母さん一言ぐらい言ってよね。 その事を問いただしてみると、﹁コウちゃんの事だから知ってる と思ったのよ♪﹂なんて言ってきた。いや、知らんからねそんなこ と。 それてさ最後にまたこの手紙は爆弾を落としてくれやがった⋮。 ﹃この婚姻は両者が生まれる前から神託により決められていた﹄と な。 おいおい、ここに来てまさかの神託かよ。フラグの代名詞来ちゃ ったよ⋮。 319 ﹁はァー⋮⋮。どうすりゃ良いんだよ∼。﹂ この世界に神なんか居たのかよ。ん、待てよ⋮なら私らをこの世 界に呼んだ奴ってまさかの神? この世界の神は果たして暴君かまたは⋮⋮。 ﹁︵説明もなしに問答無用で転生させる辺りロクな奴では無さそう だな⋮︶﹂ 図らずもこの予想は当たっていたとこの時の私は思いもしなかっ た。 風呂から上がり、麦茶を飲んで一息。牛乳? 私牛乳飲むと吐き ますけど何か? ﹁やっぱり風呂上がりは水分補給しないとね。﹂ ﹁ソコは牛乳だろ﹂ ﹁嫁さんよ、私の牛乳嫌いを知ってて言ってる? 吐いても良いな ら今飲んでみるけど?﹂ ﹁⋮⋮⋮床が汚れるから勘弁してくれ。﹂ 320 牛乳が入ったビンを片手に持って言ってみると多少青ざめた嫁さ んに止められた。ホントにしないからね。 ﹁私だって吐きたく無いよ⋮﹂ あれはどうしようもないのだから仕方ない。 何であんなにダメなんだろう牛乳⋮⋮⋮。 ﹁ふふふ⋮楽しそうね∼。﹂ ﹁あっ、そうだ母さん。﹂ ﹁ん?なぁに?﹂ ﹁ずっと前から気になってたんだけど、父さんってどうなったの? 水晶みたいなのに閉じ込められてたんでしょ?﹂ そうなのだ、あれから父さんに関して一切の話をしていなかった のだ。 ﹁⋮⋮ああ⋮⋮アレね。﹂ あれ、もしかしなくても地雷踏んだか? ﹁⋮ゴメン何でもないです。﹂ ﹁︵目が笑ってない。︶﹂ 321 ﹁クーン⋮︵ガタガタ⋮︶﹂ 大惨事を引き起こしたかな⋮どうしよう∼。 ごめんよ嫁さん、ポチ。 ﹁あのバカ⋮私が浮気したって⋮言いやがったのよ!!!﹂ ﹁﹁︵なんて、命知らずな︶﹂﹂ まだ見ぬ我が父よ、それは命知らずな⋮ ﹁だから、結界の外で待たせているわ!﹂ ﹁え? 外に居るの?﹂ ﹁居たかそんな不審者﹂ 嫁さんよ不審者って⋮⋮確かにそんな奴が家の前に居たら不審者 だね。 ﹁外は外でも敷地の外よ。森の向こうの入り口辺り。﹂ ﹁あぁ、そりゃ見えないね。﹂ ﹁一体いつから⋮﹂ ﹁ここに来てすぐからよ。﹂ ﹁⋮⋮ならあのバカ二人が侵入してくるのも見てないのかな∼﹂ 322 ﹁方向が違ったのよ。多分⋮﹂ 多分そうなんだろう。もしも故意に見逃したのなら⋮⋮⋮無いな。 マミィに嫌われたくないのならそんなことはしないだろう⋮⋮多分。 会ったこともない奴の事なんて知らんし。 ﹁その原因って私の存在?﹂ ﹁違うわ。貴方は歴とした私達の子供のだもの。妖怪ならハッキリ 解るわ。そうじゃなくて、後宮に何年も居た所為よ。﹂ ちょっと安心した。父親なんてどう接して良いか分かんないし⋮、 これで嫌われていたらどうしようかと。 ﹁もう入れてあげたら? 5ヶ月も粘っているなら話くらい聞いて あげたら? 誤解何だから。無視するより、殴り愛で話し合えば良 いよ。何ならさ。﹂ ﹁コウちゃん⋮⋮。そうね、そうしようかな。﹂ 程なくして人生初めての父親との対面となった。 ﹁いや、ちょっと待て、殴り愛って⋮⋮﹂ 嫁さんよ、ソコはツッコミは無しだよ? 323 ﹁レイ! 俺が悪かった!!﹂ 人生初の父親の姿は⋮土下座だった。スゲーよ、ジャンピング土 下座だよ初めて見たよ。地面なんてスゴい抉れてるし⋮。チートの 無駄遣いだね。 レイシュン ついでに説明するとレイってのはマミィの事だよ。麗春から来て るんじゃない? ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁恐いよ嫁さん。母さんの沈黙が痛い。﹂ ﹁我慢だ旦那さん⋮。土下座ってあんなに地面が抉れるものか?﹂ ﹁クーンー?﹂ 恐ろしやマミィの真顔。怒ると途端に表情が無くなっていくよ。 ﹁怒ると真顔なるのはレンに似てるな。流石親子。﹂ ﹁え? そうなの?﹂ ﹁キャン!﹂ ポチまで⋮⋮。 324 ﹁貴方は私の話を全然聞かなかった癖に、今になって⋮⋮。﹂ ﹁本当にすまなかった﹂ ﹁ものの5分程で抱き合ってるなら早く仲直りしてなよ⋮ねぇ?﹂ ﹁どっちも素直じゃないんだろ。﹂ ﹁クーン⋮﹂ ﹁オホン⋮⋮。俺がお前の父親だ⋮。こんなんで良いのかレイ?﹂ ﹁そうね、貴方の間抜けな性格は丸わかりしたわね。﹂ うん。父親だ何だよりも、こんなんで良いのか? まぁね、8年間閉じ込められていて、知らないうちに父親になって たんだからどう接したら良いのか分かんないだろうし⋮。 ﹁えっと⋮⋮。父さん⋮? バカ⋮?﹂ ﹁⋮⋮!!!﹂ ﹁︵爆弾を落とした⋮良いのかレン⋮︶﹂ ﹁そうそうレイも初対面でバカだ何だと⋮⋮、って誰がバカだ! ⋮⋮流石レイの子供。顔は俺に似たのに性格は母親似何だな∼。﹂ ノリは良いのか。いいおもちゃになってたんですね分かります。 マミィのツボにハマったんだね∼。マミィはサドだから。 325 シュリ ランメイ ﹁改めて⋮。父親の朱李だ。よろしくな。﹂ コウレン ﹁私は紅蓮。こっちは嫁さんの藍苺。父さんよろしく。﹂ ランメイ ﹁藍苺です。宜しくお願いします。﹂ ﹁⋮⋮⋮嫁さん? え? レイ⋮今嫁さんって言った? 8歳だろ ?﹂ ﹁あら、王族はもっと前から結婚する人もいるわよ。﹂ ﹁いや、だかなぁ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁︵レン?︶﹂ ﹁あら、ランちゃんはいい子よ﹂ ﹁それは⋮⋮﹂ ﹁ねぇ⋮﹂ ﹁ソレに決めたのは紅蓮自身。私達が口を出すことではないわ。﹂ ﹁だが⋮﹂ ﹁うっさい!!!!﹂ ﹁﹁!!!!!﹂﹂ 326 ﹁やっぱりレンは怒るとこわいなポチ。﹂ ﹁クーン﹂ あれれ∼⋮なんかみんな騒ぐのやめたんだけどどうしたんだろ♪ 事件が起きるまであと少し⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 327 父親との遭遇、フラグはドコ?︵後書き︶ おのれ⋮花粉症にノックダウンな⋮⋮寒気もするので風邪かも知 れません。雲猫’です。 気温差が激しいので体調を崩しました。皆さんも気を付けてくだ さい。 では!m︵.︳.︶m 328 危機到来、姫は生まれ自体がフラグ︵前書き︶ お気に入り登録数が60件を越えていた⋮⋮ σ︵ ̄∇ ̄;︶ え? ⋮⋮⋮⋮マジで!!! 皆様ありがとう。m︵︳︳︶m 329 危機到来、姫は生まれ自体がフラグ コウレン ランメイ ⋮⋮あら、こんちはー⋮。朝から両親のイチャイチャを見せつけ られている紅蓮と嫁さんの藍苺です。 ラブラブな両親を見ていると軽く胸焼けがします。きっと今なら 砂糖だって吐けるよ⋮。 ﹁⋮⋮15歳になったら家を出ようかな⋮。﹂ こんなの何時までも見てたら胃潰瘍になるよ。ポチ、癒しのお前 と同志の嫁さんが頼りだよ。 ﹁⋮⋮⋮﹂ 気になることがもう1つ、嫁さん、もといランの様子がおかしい。 さっきから無言だ。父さんか?父さんが居るから元気ないのか? ﹁︵男性恐怖症?︶﹂ もしそうならここにおいておくのは酷かなぁ。でもなぁ⋮外には 男なんてゴロゴロ居るしな⋮⋮。ここに居たほうが安全だし⋮。 ﹁︵まぁ⋮藍苺本人が決めることだし。︶﹂ あまり考えすぎだろうか。まぁ今は保留だね。 ﹁︵そういえば⋮︶﹂ 330 我が父上の容姿なんだけど⋮⋮。うん。私の顔にそっくり何だよ。 血の繋がりが一目で解るレベル飛び越えてクローンなんじゃないか と思うレベルまで似てるよ。髪の色が違うだけ⋮⋮。将来こうなる のかな∼。ヘタレにはなりたくないな∼。 そんな父さんの見た目の説明でもしますかね。 まず、髪はサラサラストレートの銀髪。目は私と同じ紅、顔は私 をまんま大人にした感じ。服装はどこか仙人みたいなゆったりした 感じの白い服。 これで天パなら、死んだ魚の目の侍になってたよ。目の色が翡翠 の様だったら、最弱のラスボスと言われた片翼のイカ野郎になって た。良かった∼どっちも揃わずにいて。でも、黒いコートに見える ものは着ない方がいいね将来。 そうそう、身長は180ちょいあるね。私も同じ位身長が伸びれ ばいいけど⋮⋮女顔だから身長が高い方が⋮⋮。うん。間違われな いでしょ?あれ、でも将来嫁さんに距離置かれるのは寂しいかも。 ん∼∼⋮うん、保留。 さっきも言ったように、女顔の私と瓜二つだから父さんも女顔。 きっと苦労したことだろう。知らんけど。 ﹁イチャつくなら子供の目の届かない所でしてよ。イラつくから⋮ ⋮⋮ボソッ⋮羨ましいなチクショー⋮﹂ 331 この頃女だったのをたまに忘れる事が増えてきた。元々女らしく は無かったが、いよいよ体に精神が引っ張られて来ている。これは どうにかした方が良いか⋮⋮。﹁え?﹂ ﹁こ、紅蓮俺達は別にイチャついては⋮⋮﹂ ﹁ハイハイ⋮︵バレバレだよ、お二人さん⋮︶﹂ 慌てるくらいならイチャつくなよ。こちとら最近イラついてしょ うがないんだよ∼。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮ラン、大丈夫?﹂ ﹁ん?ランちゃん?﹂ ﹁どうした?﹂ 椅子に座ったまま、俯いて動かない。呼び掛けても返事もない。 これは⋮⋮修行の疲れか? 心配になって肩を揺すってみようかと思った時、ぐらり、と藍苺 の体が傾いた。 一瞬何が起きたか分からなかったが、咄嗟にランを支えた。反射 神経の良さはこのハイスペックな体に感謝だ。 332 ランメイ ﹁藍苺?﹂ ピクリともしない⋮⋮え? 何で? どうして? ﹁ランちゃん! 大変!顔が真っ青⋮⋮紅蓮、ランちゃんの熱は?﹂ ﹁⋮! 熱は⋮⋮熱い! かなり熱があるよ!どうしよう!!﹂ ランメイ 一体いつから熱があったんだろう。こんなに熱が高いなんて⋮⋮ どうして言わなかったの? 負けず嫌いを履き違えないでよ藍苺。 ソレに何で気づけなかったんだ私! それからテキパキと指示を出す母さんに従い藍苺の状態を調べた。 次々と変わる場面をまるで映画を観ているような、自分の知らない 内に変わっていった。気が付くと藍苺はベットに寝かされていた。 ﹁母さん⋮⋮藍苺はどうなってるの?﹂ ﹁解熱剤が効かないのよ⋮、これはただの発熱では無いわ⋮⋮。呪 詛かもしれない。﹂ 呪詛? 呪詛って呪いでしょ。藍苺が呪われる謂われは無いでし 333 ょ。 ﹁呪詛の元を絶たないとどうにも⋮⋮﹂ 助からないの? だってさ、昨日まで何ともなかったのに⋮今の 藍苺は⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮方法は?﹂ ﹁一体どんな条件で掛けられたか解らないとどうにも⋮⋮。それま でどうにかランちゃんの体力を持たせないと⋮﹂ ﹁けれど、この子の体力で持って三日⋮急がないと。﹂ 条件は、なんだろうか。呪詛とは特定の誰かを呪い、時には命を 奪うもの、不幸をもたらすものと千差万別。そして呪詛を掛けるに は殺傷能力に比例して代償も大きいはず。それに条件を付けるとな るともっと複雑らしい。 なら、今回のランの場合は何だろう。病に似た症状で、発熱、意 識の混濁⋮⋮。発症はラン一人。条件は何か? 仮説1、発症条件。これは発動条件とも言えるけど、まぁそれは どうでもいい。条件としては、場所設定する方法と種族、そして血 縁関係での指定。 場所設定はこの際無いだろう。私やランの周りにはいつも妖怪達 がいた。彼らにこの症状は今のところ出ていない。考えられるのは、 種族と血縁関係での指定。この場所にこの条件で当てはまる者はラ ン一人だけ。だが、確かめようが無い。血縁者も人間もここには居 334 ないから。白の王族に対して掛けられたのか、或いは黄の国か。ど ちらかの国の王族が同じ症状が出ていれば⋮⋮⋮ 確かめに行こうか? けど、いくら手薄な警備でも王宮に忍び込 むのは骨が折れそうだ。時間も無いし。 ﹁︵焦るな⋮焦ったらダメだ!︶﹂ 無言で色々考えていた。そんな時、気配でも隠していたのかさっ きまで無言を貫いていた父さんが口を開いた。 ﹁この子が死にそうならお前の力を分け与えればいいだろ紅蓮。﹂ シュリ ﹁朱李! それは⋮⋮﹂ ﹁力を分け与えるって何?﹂ さも当たり前に言われても分からないよ。それになんか厨二臭い よ。 ﹁教えていないのか?﹂ もしや母さんは知ってた? やっぱり教えてくれなかった理由は 厨二臭いからか? ﹁⋮︵だって厨二病みたいで恥ずかしいじゃない⋮︶⋮紅蓮はまだ 妖怪だと自覚してから一年も経ってないのよ。﹂ ﹁うん、そうだね。まだ5ヶ月ちょいだね。ねぇ母さん。何を隠し ているの?﹂ 335 ﹁⋮⋮⋮⋮︵言えない。まさか厨二病みたいで恥ずかしいからなん て口が裂けても言えない⋮︶﹂ 妖怪に関係しているのかな。力を分け与えるって⋮⋮やっぱり厨 二なの? ﹁教えても良いな?﹂ ﹁⋮⋮ええ、これ以外に今は方法がないもの。︵いくら厨二みたい でも、これ以外に方法が無いのだから仕方ないわよ⋮⋮それに⋮⋮ ただ単に忘れていたし⋮︶﹂ 何故母さんが隠していたのか、内容を聞いて理解できた。その方 法は、今後の人生に影響するからだ。けれど、どこか挙動不審だっ た母さんのリアクションからもしかして単に忘れていただけかも⋮。 父さんの説明はこうだ、 曰く、妖怪の血を飲むとその妖怪と同じ寿命と力を手にいれる。 ⋮⋮⋮⋮やっぱり厨二病だった。まぁね、ファンタジーの世界は 殆んどが厨二臭いよそりゃね⋮。 そうそう、名前による使役の説明もしておこうかな。妖怪は親が 名を付けるのでは無く、伴侶がつけるものと、自分よりも強いもの に使役される時に付けるものがある。使役の場合は呼び名でしかな いが、伴侶が付けた名は真名と呼ばれ呼び名よりも効力が強い。 336 ポチの場合は、私が主人でポチが使役している眷属になる。別に お互い制約を交わしたわけでは無いので普通の飼い主とペットみた いな関係に近い。別に私がポチより強いわけでも無いし、ポチが私 よりも強いわけでも無い。けれど、稀に私達みたいな力に関係なく 主従関係を築く者もいるらしい。 ことわり あぁそうそう、これまた厨二臭いけど、呼び名や真名以外に名が あるらしい。それが理の名。もっと良いの無かったのかよ。理って ⋮⋮⋮⋮ 理の名は魂の名前で、例え転生しても魂が消滅しない限りはずっ とその名前らしい。何でも、最初の魂の持ち主の名前らしい。人間 たちは知らないが、妖怪は誰でも真名だけは生まれた時から覚えて いるらしい。 どんな名前よりも優先順位が上のために例え伴侶でも生涯教えな みんな い者もいるらしい。 ﹁︵だから妖怪に名前が無かったのか⋮︶﹂ だから妖怪達の名前が無かったのだ。少し納得した。だが、一つ 疑問がある。 ﹁私、理の名を知らないけど?﹂ そう、知らないのだ。前世の名前は覚えているが、その前からあ った名前なんか覚えてなんかいないよ。 337 ﹁そんな筈は無い。必ず覚えているハズだ。﹂ ﹁貴方の知っている名前よ。今のではない。解るでしょ? 絶対に 他人に教えてはダメよ。よくあるでしょ、名前で操られるなんて物 語でありがち。 でしょ?﹂ ﹁私の⋮⋮覚えている名前?﹂ それって⋮⋮。前世の? ﹁⋮⋮⋮それは今は置いといて、ランに私の血を飲ませれば良いの ? 私の力なんて弱いよ?﹂ 呪詛がどれ程強力なのかは知らないが、果たして弱い妖力の私で 大丈夫だろうか。 人間をやめてこれからの人生を妖怪でもない存在になってしまう。 それでも生きていたいだろうか? 私は藍苺になんて言えばいい? ﹃命を救うにはこれからの人生棄てないといけない。それでも良い なら私と契約してよ!﹄ 338 ⋮⋮⋮ドコの魔法少女だよ。 契約なんて生易しい物じゃないそれよりも厄介なモノだ。何せ強 制的に人間として死ぬ事になるかもしれないのだから。 けれど、どんな事にも抜け道が存在する。それは何か? いわゆる 所謂仮契約みたいなものだ。仕組みはこうだ。 血を飲ませて飲ませた相手が出した条件、誓約を提示して飲んだ 相手がそれを承諾したら契約完了。 抜け道は、飲ませても条件と誓約を提示しない事。これを仮契約 と言おう。その仮契約の利点は、どちらも誓約に縛られず、尚且つ 飲んだ相手は人間として力を手にいれる事が出来る。 なら、仮契約で良いじゃない? 確かにそうだけど。何事もメリ ットがあればデメリットがある。ハイリターンなハイリスク。世の 中そうでしょ? 仮契約の場合、ハイリスクは私に来る。どうやら私は力を半分封 じられる。仮に飲んだ側の藍苺には何かあるかと言うと、特に無い。 と言うかメリットしかない。人間でありながら人並み外れた身体能 力を手に入れるし、私が生きている限り私と同じ長い寿命等⋮⋮妖 怪には損しか無い。 何で妖怪達はこんな不平等な契約をするのか。それは、人間を伴 侶に選んだ場合だからだ。いや、違うか。伴侶と同じ寿命でいたい 339 のだと父さんは言っていた。 前世での妖怪のイメージなんて当てにならないね。私が見てきた 人間よりも伴侶に対しての愛情が深い。けれど、一歩間違えれば重 すぎるだろう。 お人好しの藍苺は全てを知った上で仮契約をしたがるだろうか? 藍苺の事だ、きっと頑として断るだろうね。 例え力を半分封じられても私は構わないけど⋮⋮⋮ん? 私はや っぱり、 ﹁︵前世含めて初恋が全く脈無しし⋮⋮、恋愛運無いなぁ∼私は。︶ ﹂ 気づかなければ良かった、こんなの⋮⋮ ﹁︵ただ辛いだけじゃん︶﹂ 340 例え本契約をしてもこの初恋は成就しないだろう。 ﹁︵だけどね⋮⋮、︶﹂ それならばいっその事隠してしまおうか⋮、死なれるよりはまし なんだよね∼∼⋮うん。私ってバカだなぁ∼∼。 ﹁ねえ、母さん。どうすれば良いか詳しく教えて。それとね、この 事は藍苺には内緒にしておいて。﹂ ホント⋮私って恋に盲目的なだなぁ∼。恋なんてしたこと無かっ たから⋮⋮自覚なんか無かったよ。 ホント⋮⋮私バカだなぁ⋮⋮ 341 ********* ﹁コウちゃん、決心は揺らがない? ホントに良いの?﹂ ⋮嫌いなら、 ﹁うん。母さんも知ってるでしょ? 私って一度決めた事は意地で も貫き通すの。頑固なんだよ私ってさ。⋮⋮ソレに 例え偽装結婚でもしないよ。﹂ ﹁偽装だったのか、そうは見えなかった⋮⋮﹂ ﹁そんなことはヤボでしょ? ⋮ふぅ⋮やっぱり私の子なのね。血 を飲ませた後この薬をランちゃんに嗅がせなさい。気付け薬よ。で もコウちゃん、あなたは絶対に嗅いじゃダメよ。私達には気絶する ほど臭いから。﹂ ﹁なんて物騒な物なんだ。鼻がバカになるねこれ。﹂ おそろしや気付け薬⋮⋮、私の鼻がバカにならないように使う時 は鼻を摘まんでおこう。 でも、あんなに高熱を出しているのに起こしてもいいのかな? 342 ﹁母さん⋮起こしても体に負担はかからないの? それに私の弱い 妖力で大丈夫かな?⋮これで妖力足りなくてダメでしたなんて洒落 になんないよ。﹂ ﹁大丈夫♪ あなたは私と朱李の子なのよ。妖力は並みじゃないわ ♪﹂ そう言って母さんは巾着から宝玉を取り出した。そう、あの四次 元的な巾着だ。取り出した宝玉は今まで見たことがない虹色で、ど んな効果が有るのかさっぱり分からない。 ﹁これはね、触れた者の妖力を計る宝玉なのよ。ちょっと高価だか ら普及してないけど、丁度持っていたから計ってみましょう。﹂ 高価なのになんて持っているのですか御母様? ﹁これは数値でなくて。色の濃さで計る曖昧なものなの。お手本に 私が使ってみるわね。﹂ そう言って先程の宝玉を掌に乗せた。パッと見よく解らないけれ ど、妖力が掌に集まったのを感じだった。すると宝玉は虹色から濃 いモスグリーンに変わり、パッと、赤、水色、黄色、薄茶へと色が 変わっていった。よく見れば段々と色が薄くなっているようだ。 ﹁と、こんな風に属性ごとに自分の適性が高い順に表れるの。色が 濃ければそれだけ妖力が強いのよ。ちなみに色別の属性は、赤系↓ 火、青系↓水、緑色系↓風、茶色系↓地、よ。実際にはもっと種類 が有るけど、基本はこの4つ。﹂ 343 ふむ、4大元素かな。よくゲームとかの属性であるよね。他にも って、光とか闇の事かな。それか木とか雷とかも有りそうだよね、 氷とかさ⋮。 ﹁強い属性は体の一部、特に目や髪の毛なんかに色濃く出ることが 有るのよ。各国の王族がいい例ね。あなたは会ったことが無いけれ ど、赤の国の王族は髪も目も赤よ。王族とか関係なくその属性が強 ければ髪と目が同じ色になるでしょうけど、王族以外で見たことが 無いわ。﹂ ﹁そして、これはもっと重要な事だ。この世界にいる人間は純粋で は無いんだ。必ずどこかで妖怪の血を引いている。人間達はそれを 忘れてしまった。﹂ ﹁︵ナニソレ初耳なんですけど⋮︶﹂ それじゃあぁ、妖怪達を弾圧している人間達は自分達も弾圧しな ければいけなくなるじゃない。もし人間がそれを知ったら⋮⋮⋮き っと信じないね。 ﹁それに、王族なんて妖怪の血が濃いから力も強いのよ。人間達は 自分達が使える力の正体を知らないのよ。勿論、知っている者達も 居るけどね、白の国の国王とか。﹂ ﹁それ故に、王族は一般人よりも頑丈で寿命も長い。まぁ、純粋な 妖怪に比べれば寿命も短いし、体も頑丈では無いだろうが。﹂ ん? 妖怪の寿命が長いとな⋮⋮、初耳なんですけど∼∼! そ れに、それなら藍苺もシャクだけど黄の国と白の国の王族の血を引 いてるわけで、本来なら頑丈なハズ。今回の呪詛はそれほどまでに 344 強力なのか。 私の妖力で打ち勝てるのかますます心配になってきた⋮⋮!! ﹁妖怪の寿命が長いなんて初耳なんですけど母さん。﹂ ﹁言てなかったのかレイ⋮⋮﹂ ﹁あら? 言ってなかった?﹂ ﹁うん。﹂ とぼ 小首を傾げて﹁忘れてた♪﹂なんて自然に惚けていた⋮⋮。とて も8歳の子供の母親には見えない。まだ23歳だけど、16歳と言 われても納得する程若く見える。もしかしてこれって妖怪だから実 年齢よりも若く見えるのかな? 何はともあれ、どうするのかは藍苺次第。人間として死ぬか、私 の妖力で生き残り人間をやめるか⋮⋮。 私は死んで欲しくなんかないよ⋮⋮ 345 私は預かった宝玉を掌に乗せて妖力を集中させた。結果、一応大 丈夫らしい。一番最初の色が透明感の無い白ってのが気に入らなか ったけど、驚いたことに、その後の色が虹色になったのは驚いた。 しかもみんな濃い色。最初は壊れたかと思ったが、母さんの、 ﹃珍しい⋮⋮全部の属性がMAXのレベルなんて! 良かったわね ♪﹄ らしい。ドンだけこの体はハイスペックなんですかね⋮⋮。ちな みに、父さんの結果は⋮⋮ ﹁あら? コウちゃんと同じ虹色ね。やっぱり親子ね∼。﹂ ﹁確かにどの属性も違和感なく使っていたが⋮⋮﹂ やっぱりこのハイスペックは父親似だった。それプラス母さんの ︳︶σ‖ 妖力で相乗効果⋮⋮もうヤダこのハイスペック! 普通が恋しいよ ∼∼。。︵〃︳ それはさて置き、 藍苺はどちらの選択をするのだろう。 もしも、 346 ⋮⋮人間。人生を選んだら ⋮⋮⋮その時はきっと ﹁︵本人の意見を尊重するんだろうなぁ⋮︶﹂ けれど、仮契約は独断でしちゃいます。死なせたくないので。呪 詛を解くまでは教えません。お人好しの藍苺は反対するだろうし。 さてと、早速仮契約をして来よう。 今の段階でよもやあんな事になろうとはその時は思いもしなかっ た。 347 危機到来、姫は生まれ自体がフラグ︵後書き︶ 設定なんて適当です。 348 フラグは無いよ。今回嫁さん克服回です ︵前書き︶ この頃本格的に体調を崩してしまった。投稿速度が落ちますがご 了承ください。 349 フラグは無いよ。今回嫁さん克服回です ランメイ 寝台に横たわる藍苺の姿は物凄く儚げで、目を離すと消えてしま うんじゃないかと錯覚してしまう程衰弱して見えた。これはますま す時間が無いみたいだ。 あまり体に負担をかけたくはない。こんな高熱で精神的にも辛い だろうし、チャンスは一回だけだと思う。 ﹁どっちを選んでも、最後まで見届けるから⋮⋮﹂ 今の言葉は自分で言ったのか? 全くの無意識だ。え? 私って 痛い奴なの? いやいや⋮。今はそんなコトはどうでもいい。きっと私も知らな い内に精神的に参っているのかもしれない。それでもココからが正 念場! 今は目の前の事に集中しよう。たった一度きりのチャンスを無駄 に出来ない。もし、失敗しようものなら、要らぬ負担をかけてしま う。そうなったら一生自分を許せない。 ランメイ 最初から血を飲ませる訳にもいかない。特に体が弱っている今は。 他人の、それも素養が無いかもしれない藍苺にとっては、濃すぎる 妖力は毒でしかない。だから少しずつ、微量に妖力を送り体に馴染 ませないといけない。 350 どうやって妖力を送るのかって? どうやってだと思う? みんなは何が浮かんだ? まさか厭らしい事でも考えた? 残念、やり方は手を繋いで居るだけ。 はい? 誰もそんなこと考えてないと、それは失礼しました。 こんなので大丈夫? 事例があるので問題なし! あの有名なフラグを言うと思った? いくらなんでもしないよ、 嫁さんの命に関わるから。 実はね、妖力って微量だけど手を繋ぐだけで相手に移るらしいよ。 何でも、﹃人から人への妖力の流は、多い方から少ない方へ自然と 意識せずに流れる﹄らしい。だからなにもせずこうして手を繋いで 居るだけ体に私の妖力が馴染むのだ。みんな純粋な人間じゃないか ら多少なり妖力があるらしいしね。 ⋮⋮⋮⋮まぁ⋮あれだ、違う方法もあるにはあるけど⋮。大人用 の⋮⋮その、R指定がね、あるんだよ。キス以上とか⋮⋮⋮ 351 誰がするか!!! ⋮⋮⋮⋮オホンッ⋮⋮その、ね。言ってきた父さんを思いっきり 殴ってしまったんだよ⋮ あはははははははは⋮⋮。 8歳の子供に言う事じゃないよね。私が精神年齢28歳で良かっ たね。そうじゃなきゃ、今頃マミィに絞められてるよ。それとも、 この世界では普通なのか? え? 精神年齢が三十路手前が何を恥ずかしがってるかって? 前世含めて恋愛経験なんな皆無なんだよ! 免疫なんか無いんだよ こちとら。 ⋮⋮⋮あのハイスペックな父親の事だ、きっと思考も普通じゃな い、もっとこう⋮ぶっ飛んだ思考なんだろう⋮。別に父さん嫌いじ ゃないよ。からかうと楽しいだけだから。 ⋮ん?⋮⋮あれ? ﹁こんな時に⋮眠く⋮⋮⋮﹂ 意識が遠退く⋮⋮。まさか失敗したか? 自分でも思っていた以 上に疲れていたのか自分。まさかの不発で副作用か!? そこで意識が完全に途切れた。 352 ******** コウレン 目を開けると、そこは草原だったのです⋮⋮。 どうも、ただ今大混乱中の紅蓮です。 ﹁いや、ドコだよココ⋮⋮。﹂ 見渡す限り草原。昼寝に最適な環境ですね∼∼違うだろ自分! 余裕かまして見えますが、内心混乱しています。 じ、状況確認をしよう、そうしよう。 えっと⋮⋮⋮⋮⋮ 1,嫁さん倒れる 353 ← 2,慌てて看病、高熱にビビる ← 3,僕と契約して魔法少女云々擬きの説明と諸々 ← 4,妖力を馴染ませてからの⋮原因不明の気絶、自覚の無い疲労で 不発の副作用?︵今ココ︶ うん。さっぱり分からん。さっきまでのシリアスドコいったよ。 いや、シリアスなんて無かったな。 ﹁フッ⋮⋮所詮私にはシリアス何ぞ似合わないとな。﹂ 私は﹁シリアスブレイカー﹂の称号を手に入れた! おいおい⋮ ステータスでも上がるのかこれ。 オホンッ⋮⋮⋮え∼と、つまり見知らぬ土地に居るわけですよ。 ﹁それにしても、この草原にチラホラ浮かんでいる鏡の様なのは何 だろ?﹂ 鏡の様なモノを覗き込んでみる。よく見ると何かが映っている。 どうやら鏡ではなく、映像を映すスクリーンのようだ。回りにある 物はみんなそれぞれ違う映像を映していた。 ﹁みんな見覚えの無い⋮⋮⋮いや、これは⋮⋮⋮﹂ よく見ると私が映っていた。音声は無いので内容は分からないが、 誰かと話している。 354 ﹁あれ? これ見覚えがある。﹂ 視点は違うけれどこれは昨日の出来事だった気がする。ランに薪 割りのコツを教えていた時、こんな感じだった。 ランメイ ﹁もしかしてこれって藍苺の記憶?﹂ と言うことは、気を失って精神が藍苺に引っ張られた? でも、 確かこんな風に他人の精神の中に入り込むなんて前例が無いよ。他 人の精神が入り込むなんて、ランに負担が掛からないといいのだけ れど⋮。 どうやら私から見て奥の方に行くほど古い記憶らしい。ココが藍 苺の精神世界だとして、私がココにいるのは色々と不味い。だって、 人に見られたくない記憶は誰だってあるでしょ? 私は勝手に見て嫌われたくないもの。さっさとココから出て行き たいよ。 ﹁とは言え、どうやって戻ればいいのか⋮⋮﹂ こんな時の対処法なんて知らないしね。 ﹁仕方ない。奥に進んでみよう。﹂ 奥に進めば何とかなる⋮⋮と、いいね。無責任だって? 仕方な いでしょ、それしか浮かばないんだから。勿論、なるべく記憶の映 355 像を見ないように進むよ。生憎と人の記憶を覗き見する趣味は無い んでね。 ﹁それにしても、広大な草原だなぁ⋮⋮⋮﹂ 見渡す限り青い空と草原、遠くは地平線らしきもの⋮⋮⋮精神世 界はこんなに広いものなのか。 ********* コウレン 走っても、走っても、追いかけてくる血の繋がらない伯父⋮⋮。 確かにアイツは紅蓮親子にボコボコにされ白の国の国王の使者に引 356 き渡した筈だ。それが何故ここに居るんだ!? ﹁追ってくんなよ!!﹂ 畜生⋮⋮、子供の足だからか、はたまたあちらが速いのか、その 距離はどんどん詰まって行く。 それがとてつもなく恐怖だ。 走れど、走れど、道は終わりがない。人影も全く見えない。それ が恐怖と疲労感を増幅させる。 今思えば、ここ数ヵ月は楽しかった。転生してからあまり良い思 い出が無かったからかは知らないが、とても居心地が良くて⋮⋮。 その所為か孤独感が半端ではない程のし掛かってくる。そう言え ば、レン達と出会ってから独りぼっちになったことなど、就寝や風 呂やトイレを除く時間以外で無かった気がする。俺はそれだけ周り に守られていたのかと2か月前のあの事件以来痛感している。 コウレン 今思えば、もう少しで俺は紅蓮に八つ当たりしていたかもしれ ない。いや、もしかしたらしていたかもしれない⋮⋮⋮。 それにしても、何時までこの夢は続くのか⋮⋮あれ? 夢なのか これは。 ﹁︵そうだ、これは夢なんだ⋮⋮︶﹂ 357 どうりで走っても前に進んでないような背景だったのか。それに いくら走っても疲れない。現実ならもうとっくに疲れている筈だ。 それにしても、この変態はどこまでしつこいのか。良い年して8 歳かガキを追いかけてるなんて⋮⋮。現実は勿論、人の夢の中にま で出てくるなんてマジでウザいな。 ﹁声を出さないのが唯一の救いだな﹂ 先程から一言も喋らないのは不気味ではあるが、あの人の話を聞 かない変態の言い分を延々と聞いている方が精神をガリガリ削られ る。 ﹁さっさと消えろよ!﹂ ﹁そうそう、変態はお帰りくださいな!﹂ ゲシッ! と、良い音を立てて何かが変態を蹴り飛ばした。大体 予想が出来た。 コウレン ﹁夢の中まで助けてくれるのかよ。紅蓮﹂ 俺の夢の中にまで出てくるなんてな。ドンだけお人好しなんだよ ⋮⋮。あれ?この場合俺の夢の中なんだから、俺のあいつに対する ⋮⋮⋮。 ﹁︵俺の中でレンは⋮⋮お助けキャラか?︶﹂ 358 ********* この時はまだ俺自身の感情に気付いていなかった。 ﹁居ない⋮⋮﹂ さっきからかなり歩いたけど、記憶の映像以外に何もない、誰も 居ない。嫁さんは一体どこに居るのか。ん∼∼⋮⋮よし。 ﹁戻ろう。﹂ よく解らないけど、戻った方がいい様な気がしてきた。第六感と でも言うのか知らないが無性に戻りたい。 ﹁ここは勘に従おう。どちらにしても勘以外に手がかり無いし。﹂ 嫌な予感がしているのだけど、まさか嫁さんよ、あの変態ロリコ ンに追いかけられてる夢でも見てるんじゃ? ﹁あのロリコンの事だ、人の夢にも平気で出てきそうで怖い⋮⋮﹂ 359 きっと近からずも、遠からずな事なんだろう。そう囁いているの よ、私のゴーストが⋮⋮。 一度やってみたかったんだよねコレ。 ちなみに、映画版よりもテレビ版の方が好きだった。あの青い多 脚戦車の声が異様に可愛かった。 おっと、話が反れた。あのさ、今初めて気が付いた事があるんだ よ。実はさ、この世界実は結構狭かった。今、思いっきり頭を見え ない壁にぶつけた。⋮⋮⋮精神体だからかすごく痛かった。 鎧とも言えるハイスペックな体が無いのでダイレクトにダメージ が精神に来るみたいだ。 ﹁マジで痛いと声が出ないってホントなんだね⋮⋮イッタァァ⋮⋮。 あっ、タンコブ出来てるわ⋮﹂ にしても、何だって見えない壁が有るんだよ⋮。 ん? この壁⋮⋮微妙に周りの風景とズレてる。 ここだけ本来は壁は無かったのかもしれない。出口だったのだろ うか? なら何で塞がれているのだろう。 何かを閉じ込めた? それとも、私を閉じ込めるため? 360 私という侵入者に対する防衛本能か? どっちにしてもここ以外に手がかり無いし⋮⋮。 この向こうに藍苺が居る気がしてなら無い。壊そうか? でも、壊 したら藍苺にどんな影響があるかも解らないし⋮⋮。 ﹁んー⋮。よし。やっぱり壊してみよう。ここに居て何もしないよ りもマシだしね。でも、慎重にしないと⋮⋮。あれ?でも、慎重に 壊すってどうすれば良いのかな?﹂ 他人の精神世界で力を爆発させる訳にはいかないので、地道に叩 き割る事にした。勿論ココに武器なんて無い。使えるのは自分の拳 だけ。ココでどれ程本来の力が出せるかも解らないが、日頃の修行 の成果を見せる時だ。少しだけだがテンションが上がった。 ﹁⋮⋮︵体の重心を心もち前に⋮⋮拳に妖力を溜めて⋮⋮⋮⋮打つ べし!︶﹂ 打ち出したのは右ストレート。 狙う場所は周りと少し風景がズレてる場所。渾身とまでいかない がそれなりの妖力を拳に集中させたので案外簡単にヒビが入った。 ﹁ピシッ﹂という不吉な音を皮切りにガラガラと壁が崩れていく。 どうやら見えない透明な壁ではなく、壁の向こうにある様に見えた 風景は単なる映像のようだ。壊れた壁の部分は扉の無い入口の様に なっており、何も見えない暗闇が何処までも続いていた。 361 ﹁あー⋮⋮。如何にもって感じの入口なんですけど⋮⋮。うわぁ⋮ 絶対なんかあるよ。﹂ 正直入りたかない。が、何せここ以外外に出る手掛かりが無い。 行くしか無いだろう。 ﹁しゃーないな。女は度胸、男も度胸!﹂ 遠くから誰かの声が微かに聞こえた気がした。あながちこちらで 間違っていなかったのかもしれない。どうやら複数の足音がするの で何かに追いかけられているのかもしれない。 ﹁もしかして藍苺ってお姫様キャラか? 確かにお姫様だけどね。 差し詰私はお助けキャラかな。﹂ きっと本人が聞いたら激怒しそうな事を喋りながら走るペースを 速くした。 遠くの方で藍苺らしき声がする。 ﹁追⋮⋮く⋮⋮⋮よ!!﹂ やれやれ⋮どうやらまた追いかけられているようだ。私の勘は当 362 たっていた。 それならば、急いで助けに行こう。きっと悪夢でも見てるのだろ うか。 人影が見えてきた。出口から遠ざかると中は案外明るかったので 容易に見つけるとこが出来た。 見ると、嫁さんはまたあの変態ロリコンに追いかけられていた。 夢の中にまで出てくるなんてマジでしつこいやつだなぁ。 でもまぁ⋮⋮夢なら手加減なんか要らないよなぁ♪ ﹁さっさと消えろよ!﹂ ﹁そうそう、変態はお帰りくださいな!﹂ 嫁さんの言葉に便乗して一言言いながら変態ロリコンの顔面を蹴 り、ヤツを吹き飛ばした。勿論今だけは手加減してね。 それにしても、この場面デジャヴ何だけど⋮⋮デジャヴで良いん だっけ?それともデジャビュ? いや、どっちでもいいか。 コウレン ﹁お前は夢の中まで助けてくれるのかよ、紅蓮﹂ 363 呼ばれなくても助けますよ∼∼って、ナニソレ私はソコの変態ロ リコンと一緒にしないでよ∼。 ﹁なにさ、その人をストーカーみたいに⋮⋮。﹂ ﹁あぁ、悪い悪い。夢の中の人物に言っても仕方ないよな。﹂ おや? コレはまさか、私も自分の見てる夢だと思ってる? な ら好都合かも。夢だから色々と聞けるかも⋮。 ﹁それにしても、自分の見てる夢だと自覚してるのは驚いたね⋮。 そうそう、速く起きた方が良いよ。何せ嫁さん呪詛を掛けられて高 熱出して寝込んでるんだから。早く起きないと取り返しつかないよ。 ﹂ ﹁呪詛? 何でまた。﹂ ﹁知らないよ、私はね。嫁さん何か心当り無いの?﹂ ﹁ん∼∼、無い。﹂ はぁ⋮手がかり無しか。まぁ嫁さんに心当りが無くても、人は一 方的な恨みで他人を呪うこともあるからね⋮⋮。 ﹁心当りが無いなら仕方ないよな。れよりも、先ずは起きたら? 体に違和感無いの? 凄い熱なんだから。﹂ ﹁別に何ともないけど⋮⋮。それに、どうやって起きれば良いんだ 364 ? 起きたいと思っても無理そうだぞ。﹂ ん∼∼、本人の意思で起きるものでも無いしね本来も。となると ⋮⋮ ﹁︵私が嫁さんの精神世界から脱出して叩き起こさないといけない のか?︶﹂ ﹁いつもどうやって目覚めていたんだろう⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮そんなの時が来れば、じゃないのか? 例えば朝日で目が覚 めるとか。﹂ ﹁今は朝なのか? 昼間なのかも解らないし⋮﹂ ココで今昼近いと教えたら、何で夢の中の人物なのに分かるのか と感付かれる。黙っていよう。 別に言っても良いんだけどね。 ﹁生憎と外のことは解らないよ。﹂ ﹁だよな⋮⋮。ん?﹂ ﹁??⋮⋮⋮あぁ⋮何だ起きたのか⋮⋮。アンタは起きなくても良 いよ。﹂ 誰が起きたか? 変態ロリコンだよ。 365 全く、しつこいな。誤解されてるかもしれないけど、別に人様の 性癖を兎や角言うつもりは微塵もない。だけどね、人に迷惑をかけ るのなら話は別なのよ。この自分勝手な妄想癖のロリコンは許せな い。 大体、嫌がっている相手に結婚を申し込むのなら、相手に誠意を 示さないとダメでしょ。無理矢理なんて言語道断! あの事件の事でヤツもかなりの痛手を受けただろうが、自業自得 さ。不能になっただけで許してやったんだから⋮⋮実際は許してな んか無いけど。 ﹁何なんだよ。あ、もしかして⋮⋮呪詛関係とか? なら話は早い んだけど⋮﹂ 簡単では無いけど、対処の仕方はアドバイスできるしね。 ﹁ラン、今から言うこと良く聞いてね。﹂ ﹁何だよ⋮﹂ ﹁多分なんだけど、呪詛の所為でランは昏睡状態になってるみたい なんだ。昔教わらなかった? 呪詛の対処方。ちょっと思い出して みなよ。﹂ ﹁ん∼∼⋮⋮﹂ ﹁悪いんどけどさ、私って基本的に何も出来ないワケ。だって嫁さ んの夢が作り出した人格なんだし∼。︵実際は本人なんですけど︶﹂ 366 本人が打ち勝ってくれないとダメな気がするんだよね。特にトラ ウマになってるかもしれないこの変態ロリコンを克服しないと次も し会ったら今後も悪夢で魘されるだろうしね。ここはショック療法 ?でもやってみようかないい機会だし。 ﹁確かに母親に﹁心を強く持ちなさい﹂とか言われたような⋮⋮。﹂ ﹁ほー⋮。︵まぁ⋮何事とも気からだからね。あながち間違ってな いかも。︶なら話は早いんじゃない?﹂ ﹁どうすんだよ⋮﹂ 何だかグタグダになってきたぞ⋮。ほぉらぁ∼変態ロリコンが起 き上がって来し⋮。 ﹁四の五の言わずにあの変態ロリコンを伸せば良いだろ。あんなの お前の想像力が産み出した偽物何だから。何もさぁ、一人でどうに かしろなんて言わないから。﹂ ﹁あんなの怖くなんか無い。﹂ ﹁なら何で逃げる。﹂ ﹁それは⋮⋮﹂ ﹁あのさ、くどい様だけど何度でも言うよ。コレは自分自身でどう にかしないとダメなんだよ。﹂ 例え私がどうにかしても根本的な解決にはならない。 367 ﹁それは解ってる﹂ ﹁あのさ、藍苺。藍苺は強くなりたいんだよね? 強さって何も身 体的な事ばかりじゃないんじゃない? いくら腕っぷしが強くても、 精神的に弱かったら意味無いよ。今みたいにさ。﹂ 確かに私は藍苺をどんな時でも助けたいけど、こんな事はまず無 理だ。今回は何故か精神世界に入ることが出来たけど、次はそうも いかないでしょ。 ﹁さっきも言ったけどね、何も一人で倒せなんて言わないから。た だ、逃げないで、あんな変態ロリコンの何処が怖いの?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 泣きそうな顔しても今回はダメだよ。 ﹁ただ逃げて今回も私が助けたでしょ。この悪夢から脱出しないと いけないのに、助けてもらうまで待ってるつもり? 確かにあんな 目に遭ったのは分かるよ。前世含めてあんな目に遭った事無いから ホントのところどんな気持ちか解らないよ。﹂ そう、前世ではそんなことはなかった。顔が良い現世では周りに 守られていたから無かった。それに今は力も強いため余程の事が無 い限り無いだろう。 ﹁⋮⋮⋮どうすらゃいいんだよ⋮⋮﹂ か細い声を絞り出して喋った声は、今まで聞いた中でも一番弱々 しくてとても藍苺が出している声とは思えなかった。 368 ﹁そうだね⋮⋮楽しいことを考えたら?﹂ ﹁⋮⋮はぁ?﹂ なんかスゴくバカにされてる様な顔をされた。ちょっと心外だよ それ。 ﹁ちょっと、人が折角出した提案を⋮⋮って、ヤバ!﹂ 長話のし過ぎで変態ロリコンが完全に起き上がった。もう一度地 面とご対面していてもらおうか。 ﹁ちょっと、待ってて∼⋮⋮どりゃ!!﹂ 飛び蹴りも何のその。遥かに高い場所にある変態ロリコンの顔面 目掛けて蹴りを入れる。ホントにこのハイスペックな体に感謝だね。 今は精神体だけど。 今回は警戒していたか一発の蹴りではぶっ飛ばなかった。もうい っちょオマケで足払いからの急所蹴り。倒れた所に想像も絶する痛 み⋮⋮どやぁ♪ ﹁ちょっと話の途中だからね黙ってて。﹂ 今更ながら、良い子は絶対に真似しないでね。男性にとっては冗 談じゃ無いほど痛いのよコレ。 ﹁お前ホント容赦ないな⋮⋮﹂ 369 ﹁手加減する必要あるの?﹂ ﹁⋮⋮お前な⋮⋮﹂ ﹁あ、良いこと思い付いた♪﹂ フフフフフ⋮⋮。夢ん中何だから王族だ何だと遠慮しなくて良い からね? ﹁伸びてる内に、顔に落書きしちゃおうよ♪﹂ ﹁⋮⋮はぁー⋮お前はホントに⋮突拍子もないな⋮⋮⋮でも、面白 そうだな︵黒笑︶﹂ ニヤリと笑った嫁さんの顔はとっても素敵だった。いやぁ久しぶ りに見たよ心底楽しそうな顔は。 ﹁やっぱり額に肉の文字は捨てがたいよね﹂ ﹁額に馬鹿でも良いんじゃないか?﹂ ﹁それって、馬と鹿に失礼だから﹂ ﹁それもそうか。なら両頬に猫髭は?﹂ ﹁バカっぽく見えるから採用!﹂ どこからか取り出した油性マジックでコレでもか!と言うほど落 書きしていく。何で油性マジックが有るのかなんて言わないでよ、 370 夢の中何だから想像すれば割りと実現できるみたいなんだよ。流石 夢の中世界。 ﹁wwwww⋮⋮﹂ ﹁よ、嫁さん⋮笑いすぎ⋮ふふふ⋮﹂ ダメだ、笑いすぎて腹筋が崩壊寸前だ。嫁さんなんて笑い転げて 声も出ない。ちょっと大丈夫なの? ﹁ハハハ⋮⋮だ大丈夫? 笑いすぎて腹痛いよ⋮wwwww⋮ダメ だ変態を直視出来ない。﹂ どんな惨状か? 見るも無惨なお顔だよ。この変態ロリコン、顔 が良い。例えるならダンディかな。顔だけはね。中身があれじゃ女 性は近寄らないよ。 で、その今の顔何だけどね、額に肉は定番だけど、両頬に猫髭、 目蓋に一昔前の少女マンガのキラキラパッチリな目に、赤の油性マ ジックで唇をタラコ⋮⋮コレだけでも面白いのに嫁さんはまだ描き 続けた。結果なんとも悲惨な⋮⋮爆笑の顔面に早変わり∼。元が良 い分破壊力抜群何だよね。 ﹁あ∼⋮こんなに笑ったの久しぶりだな。夢だけど。﹂ ﹁この頃熱心に修行してたもんねぇ。笑う事って大事だよ、同じく らい泣くことも大事だと思うなぁ、私は。﹂ 笑う事はあっても、他人に弱さを見せることは無いもんね。特に 371 泣くなんて絶対見せないだろうから。 ﹁良く言うじゃない、人に弱さを見せるのは決して悪いことじゃな い、ってさ。まぁ、別に無理して見せなくても良いけど、どこかで 発散しないと感情のバランス崩れるよ。﹂ ﹁言ってることが矛盾してないか?﹂ ﹁うん、そうだね。だからね、泣きたくなったら人知れず泣けば良 いよ。︵実際泣いてるみたいだし。︶﹂ ﹁それは⋮⋮﹂ ﹁夜な夜な部屋で泣いてる? 何ででって顔してるね。忘れたの? 私は藍苺の心が作り出した夢の中の人物だよ。︵本当は本人だけど︶ ﹂ ﹁そっか⋮﹂ ﹁悩みなんかも誰かに相談したらいいよ。意地なんか張らないで。 それでもうまくいってないなら尚更。誰もバカになんかしないよ。 悩みなんて誰でも有るもんなんだから。﹂ そう言って藍苺の顔を見るとさっきよりも驚いた顔をしていた。 そしてどこか吹っ切れた様に見えた。 ﹁もう怖くない?﹂ ﹁あぁ。怖くないな。あんなマヌケ面見たら。﹂ 372 ﹁そっか⋮⋮よかった。﹂ 少しほっとしていたら視界が段々と霞んでいく。どうやら藍苺は 目が覚める様だ。コレで私も帰れるだろう。⋮⋮⋮帰れるよね? ﹁さて、もうお別れの時間だね。きっと夢の中でも会うことは無い だろうね。﹂ ﹁そうか。﹂ ﹁寂しい? 目が覚めたら本物が待ってるでしょ。﹂ ﹁寂しくなんか無い。ただ、お前にまた助けられないように強くな らなきゃなぁ⋮と、思っただけだ。﹂ どうやら嫁さんは本当に吹っ切れたみたいだ。 ﹁またそうやって無理したら台無しなんだからね。程々にね。﹂ 藍苺が何か言い返してきたようだか、視界が霞むと同時に音も聞 き取り辛くなっていたので良く聞こえなかった。 何を言っていたのだろう、少し気になった。 373 ********* ふと目が覚めた。あぁ、自分は今まで夢を見ていたんだな。そし て気付いた。 コウレン ﹁ずっと紅蓮が手を握っていたのか⋮⋮﹂ だからあんな夢を見たんだな。まさか夢にまでレンが出てきて助 けられるなんて。どれ程日頃から助けられてたか分かるよ。 レンは手を握って眠っていた。どのくらい眠っていたのだろう。 どれ程心配をかけたのだろう。今すぐ謝って、お礼も言いたいけど、 何だかまだ体が怠い。きっと夢の中で言っていた呪詛の影響だろう。 頭を撫でたくなった。唐突にだがそう思った。 ﹁︵今までこんな風に他人を想った事なんて無かったな⋮⋮︶﹂ きっと自覚してはいけない気がする。自覚してしまったら⋮⋮⋮ 今は考えるのは止めよう。 ﹁それにしても、良く夢の中まで来れたな⋮⋮﹂ 374 レン本人は隠したかったのかも知れないが、バレバレだったぞ。 でも、 ﹁ありがとな﹂ 本当は上掛けか何か掛けてやりたいけど、生憎と体が動かない。 レンが風邪を引かないといいけどな⋮⋮ そしてまた俺は眠りについた。 375 忍び寄るシナリオ、意外な事実︵前書き︶ いつものごとくタイトルに深い意味は無いです。 どうも、お気に入り登録数70件突破⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮マジで!!︵︵︵︵;゜Д゜︶︶︶ どうもありがとうございますm︵︳︳︶m どどどど、どうしよ⋮⋮嬉しいけど⋮⋮ ええっと⋮皆様ありがとうございます!! 376 忍び寄るシナリオ、意外な事実 コウレン どうも皆様、またまた夢の中からこんにちは⋮。未だ夢の中から 脱け出せていない紅蓮です。 いやぁ∼あれで戻れると思ったんだけど、どうやらそう上手くは いかないようで⋮。 目の前には何と見知ったお顔が⋮⋮、 ﹁大雅、良く聞いて。コレから王室の人たちは呪詛に掛かってしま うの。でも、貴方は大丈夫。だって主人公だもの。貴方が皆を救う のよ。﹂ お久し振りなKY陛下のお気に入り側室、舞子と大雅親子の姿だ った。コレは一体誰の見ている夢なんだ? ﹁でも、母上⋮⋮僕にそんな力は無いです⋮﹂ ﹁そんなこと無い。なんたって貴方は主人公だもの。さぁ、皆を助 ける手懸かりを探してきなさい。﹂ なんの事だ。主人公?大雅が? 確かにあんな愛され体質は主人 公補正だろうけど⋮。今一話が見えない。 ﹁はい、母上。﹂ 377 ﹁大丈夫、皆貴方を信じてくれる。﹂ 少し腑に落ちなさそうな大雅の背を押し部屋から出してしまった。 その時だ、側室舞子の顔付きが変わったのは。 ﹁フフ⋮⋮、コレでシナリオは完璧ね⋮。後は大雅のハーレムエン ドのシナリオに沿えば⋮⋮。﹂ 前に側室舞子は万人受けする愛され主人公と例えた事があった。 けれど、今の彼女の顔は悪女そのもの⋮⋮。いや、悪魔といっても いい。そのくらい悪意に満ちた顔付きだった。 ﹁大雅がハーレムエンドを迎えれば、この世界は全部私の思いのま ま。神様に頼んでトリップした甲斐があったわ⋮⋮。何のためにあ んな女好きの浮気者何かの側室になったのか⋮⋮。でも、本当は紅 蓮の母親になりたかったけど⋮。死亡フラグ満載の子供なんて要ら ないわよ。﹂ 何を言っているコイツは ﹁でも、顔は朱李の方が好みなのよね∼。あ!そうだ、あの小煩い 女が居なくなれば私のモノになるよね♪ うん。そうしよう♪﹂ 誰の事を言っているの? ﹁どうせゲームの世界なんだから、私が楽しめれば良いのよ∼。だ ってこの世界は⋮⋮﹂ 何だろう、聞きたくない⋮聞きたくない!! 378 ﹁私が神様に頼んで好きなゲームの世界を作ってもらったんだから。 産みの親の私がどうしたって私の勝手よねぇ♪﹂ むかし あぁ。コレは前世ミケに面白い小説があるから読んでみてくれと 言われて読んだ小説にコレと似たようなモノがあった。アンチ王道 な物語だった。 それと何だろう⋮今思えば、私の周りの名前はどこか聞き覚えが あった。 確か⋮⋮ ﹁﹃妖怪恋舞﹄ってフリーゲームの世界を自分の思いのまま⋮。配 信元が止めちゃったから続編が無いままなのよね∼。私が続編を作 れば良いなんて♪考えもしなかったな∼。﹂ コウレン そうそう、ミケが仲間内で作ったフリーゲームの登場人物の名前 と一緒なんだよ。しかも、私の名前﹃紅蓮﹄の声を入れたのは前世 の私だ。 あの時はミケに土下座までされて頼み込まれたからやったけど、 演技も何もしたことにい素人に何でさせたのか未だに謎だが。 どうして今まで気づかなかった! 今考えたらヒントはそこらかしこにあった。それに⋮⋮⋮ ﹁あ∼あ、後10年しないと原作に入らないのよね⋮。楽しみなん どけど、まだまだ先なのよね∼。18歳の紅蓮は美人何だけど、最 379 後が気に入らないのよね∼。何であんな弱虫の根暗な女の為に死ん だりするのか∼。ソコも私が助ければ良いのよね♪﹂ ゲームのでの紅蓮という人物は主人公をサポートするキャラで重 ランメイ 要キャラで唯一攻略できない人物だった。いや、もう一人居たな、 藍苺も攻略できなかった筈だ。シナリオとか見せられた時読んだ気 がする。 ﹃妖怪恋舞﹄とは、ミケと他の仲間が作ったフリーゲームで、ミ ケはシナリオとキャラデザを担当していた。無料で配信ていたのの だが、人気になって近々売り出す予定だった筈だ。﹁続編も考えて いるからまた声の出演ヨロシク♪﹂とか言っていたな。 話を戻そう。 ﹁どうせ王になるのは大雅何だから、他の王族は要らないわよ。勿 論陛下も⋮⋮あっ、でも王子達は格好いいから死なない様にしない と⋮⋮。フフ♪まさか私が呪詛をかけてるなんて誰も気が付かない わ。だって私は皆から愛されてるもの♪﹂ 吐き気がしてきた。コレは夢? そうは思えない程やけにリアル だ。不気味に歪む側室舞子の顔とか、屋根裏に忍び込んだ事も無か った大雅親子の部屋も私の想像だけではここまで再現できるだろう か。まさか予知夢?それとも千里眼? どちらにしても、私や藍苺の、そして母さんや父さんの今後を左 右する事だ。 380 ん? ちょっと待てよ⋮。 皆さんは覚えているだろうか。黄の国の王宮を出ていくときに母 は解決できないわ﹂とか、側室舞子に言った一言﹁それ さんが側室舞子に言った言葉。﹁私達は救世主ではないのよ。私達 ではこれ に貴方の掌で踊るつもりは無いから﹂とか言っていた。 もしかして母さんはこの世界の事を知っていた?側室舞子の企み も知っていた? だとしたら、私が何か打開策を考えなくても母さんが色々手を打 っているのでは? けれど、知っていて何もしないのは少々気が重い⋮。 そんなことを考えている内に側室舞子はどこかへ行ってしまった。 そんな事を考えるよりも、今は戻ることを考えよう。しかし、考 えても意味がないのなら今考えをまとめた方がいい場合もある。 わたし ﹁︵そう言えば、紅蓮自身が死亡フラグ満載だって言っていたな。︶ ﹂ 確かにそんなことを口にしていた。 わたし 当時は何の 実は、紅蓮に関するシナリオは全て把握している。何故か? ミケに台本とシナリオを全て暗記させられたからだ。 ために⋮と思ったが、こんな所で役に立ちそうになるとは思わなか った。人生って何が起きるか分からないもんだ。 381 ******* 主が居るであろう部屋のドアを開ける。この体はどうも身体能力 が高い。自分の倍以上あるドアノブをジャンプして前足で開けるな んて朝飯前だ。 ドアを開けると、主と主の番殿が手を繋いだまま眠っていた。主 の番殿は呪詛によって体調を崩していたので、主は看病をしていた。 きっとそのまま眠ってしまったのだろう。 主はわたしの命の恩人だ。現世のみならず、数多くある前世でも 助けてもらった。わたしはその恩返しがしたいと常日頃思っている。 のだが、 ﹁︵犬の姿であり続けるわたしには出来ることが少ない⋮︶﹂ 前世は全て犬だった。今は少々特殊だが犬と大差ない。羽が着い ていることを除けば。 382 なので、主の命を守ろうと盾になってみたが、物凄く哀しまれた ⋮⋮。本当に出来ることが少ない。 ﹁くぉ∼ん︵側で見守るしか出来ないのは辛い︶﹂ それでも、主達が笑顔で居てくれるのなら、犬と大差ないこの姿 も悪くないと思えてきた矢先のこの呪詛⋮⋮。 わたしには呪詛とは何か良くは解らないが、良くないものだと理 解は出来る。それに⋮ ﹁︵この臭いは⋮⋮、あの小うるさい女の臭いだな︶﹂ 何かと主と主の母上に関わろうとしてきた親子の母親の方の臭い だ。 まさか主の番殿はあの女に呪詛を掛けられているのか? 番殿と手を繋いでいる主にどんな悪影響が出るか解らない、ここ は起こすべきだと思い行動を起こした。 383 ******** 何かに顔を舐められている⋮⋮。ポチか。 今まで夢を見た。藍苺の悪夢に入ったと思えば、次は見たことも ない側室舞子達の部屋の夢。一体アレは誰の視点だったのだろうか。 そんなことを考えている間もポチは顔を舐め続けている⋮⋮。 ﹁ちょっ、ポチ! 舐めすぎだから⋮。﹂ シリアスは私に似合わないとお前も言いたいのか? ⋮⋮⋮確か に。 ﹁それにしても、ポチ。起こしてくれてありがとね。夢からやっと 出られたよ。﹂ ﹁キャン♪﹂ 本当にポチはお利口さんだな∼。私って良い犬の縁があるよね。 前世でもチビッて犬を飼っていたけど、凄くお利口さんだった。⋮ ⋮ポチは犬じゃなくて天狼⋮狼なんだけどね。 384 ﹁クゥー⋮ウォン!﹂ ポチの頭をわしゃわしゃしていると、ポチは驚愕の事を告げた。 ﹁!!⋮ポチ⋮お前も解ったのか?﹂ どうやらポチも呪詛を仕掛けた人物が分かったようだ。どうやら 気を失っていた間に私たちを心配したポチが、部屋に入って今まで 感じなかった臭いを嗅ぎ付けた様だ。 何で言ってることが分かるって? 今更ながら私は意思の疎通が出来る。人のように話せないが、言 いたいことは何となく解るのだ。コレはポチが私の眷属だからだ。 まぁ、妖怪って事もあるんだけどね。他の動物とかも狐耳を出して いたら理解できるから。 動物好きな私にはちょっとキツい。 だって可愛いちまっこい小動物がおっさんみたいな事を喋ってい たら⋮⋮ねえ? だから不用意に狐耳は出さないようにしている。夢が大崩壊する からね。 ﹁ポチ∼♪お前は本当に良い子だね∼♪﹂ ポチの毛並みを堪能しながら、藍苺の様子を横目で見る。どうや ら峠は越したみたいだ。でも、 385 ﹁ねぇ⋮ポチ? 嫁さんから妖気がするんですけど⋮⋮私のでもな いよ。﹂ ﹁キャン⋮⋮﹂ え? まだ血も飲ませてないのに、妖怪化してないですか? あ ら、もしかして⋮藍苺の母親の血筋関連ですか? ﹁︵いや、それしかないでしょ⋮︶﹂ でも、コレでよかったのかも知れない。シナリオによっては、藍 苺に血を飲ませて悲惨な末路を辿るルートもあったはず。 ﹁今考えたら、危なかったかも⋮﹂ 二人揃って死んじゃうルートはゴロゴロあったわ。おっかねぇ∼。 ﹁まぁ、いっか。嫁さん回復してるし。考えるのは後にして⋮⋮な んか食べれる物でも作ろうかな♪﹂ ポチに藍苺の様子を見てもらうことにして、私は料理でもしよう と部屋を出る。 386 そう言えば⋮⋮あの﹃妖怪恋舞﹄ってゲームは主人公が男1択だ けど⋮⋮ ﹁性別関係なく恋愛出来るゲームだったよね⋮⋮﹂ 別にR18じゃないけど⋮⋮⋮ヤバイかも⋮⋮ だってさ、あの愛され主人公の鑑な大雅だよ。嫁さんが毒牙に掛 からないか心配です。 だって、アイツなら実の姉でもたらしこみそうじゃん。私の気の 所為か? そう言えばさ、ゲームのシナリオ次第で実の姉や兄とかもたらし こむヤツだよ。ゲームでは攻略不可でも、ここは現実世界。プログ ラムされたゲームの世界とは違う。何が起こるか解らない。 何より、あの大雅に嫁さんを取られるのが気にくわない。取られ る相手が堅実で嫁さんを大事にするヤツなら考えなくもないが、だ が大雅、お前は論外だ!! 387 ハーレム築くヤツに嫁さんは渡さないよ。しかも優柔不断のマザ コン︵多分︶が嫁さんを幸せに出来るものか。 特に性格災厄⋮⋮違った、最悪な側室舞子が母親だってだけでマ イナス点。ヤツが何を仕出かすか解らない以上絶対に渡さない。 嫁さんの事も大事だけど、死亡フラグ満載の人生をどう切り抜く か考えないと⋮⋮ このままだと二人揃ってウボァ⋮⋮オホンッ死亡エンドだよ。 そんな風に考え事をしながら私はキッチンに向かった。嫁さんが 起きたら何か食べさせて熱で落ちた体力を回復させるために。 そんな我が家で変態ロリコンが起こした事件以来⋮⋮いや、それ よりも大騒動が起こるまで後少し⋮⋮⋮⋮私は知るよしも無かった。 388 ﹁クーゥ⋮︵主⋮またそうやってフラグとやらを⋮⋮︶﹂ 389 忍び寄るシナリオ、意外な事実︵後書き︶ 落ちもない⋮⋮どうしよ⋮皆様にお見せするのが恥ずかしいレベ ルだよ⋮⋮ お読みいただきありがとうございます。 390 最近どれがフラグか解らなくなってきた⋮⋮︵前書き︶ 前書きのネタが尽きた⋮⋮。 391 最近どれがフラグか解らなくなってきた⋮⋮ コウレン 鍋をかき混ぜつつこんにちは∼。毎度お馴染み紅蓮です。なんか 古紙回収みたいな出だしだけど、気にしないで。 ただ今嫁さんの為に消化に良いもの作っている最中です。看病は ポチに任せてきたよ。本当にポチはお利口さんだ。今度豚の骨付き 肉でもあげようかな。そうそう、犬に鶏の骨はあげちゃダメだよ。 骨が胃に刺さったりして危ないからね。 にしても、藍苺が呪詛を自力で克服したのは驚いた。血を飲ませ る前に少量の妖力を分けたのが切っ掛けで元々備わっていた力が開 化したんだろう。義理の父である白の国王の手紙に母親の血筋につ いて書いてあった。 曰く、藍苺の母親の母親、つまり祖母は生粋の妖怪で、なんと竜 だった。しかも、黒の国のお姫様⋮⋮嫁さんって引いた血筋は全部 王族ですか⋮ ⋮⋮⋮⋮あぁ⋮フラグの臭いが⋮⋮ そして、なんと黒の国は妖怪の国だとか⋮。迫害されないように 国全体で隠してきたことらしい。まだ理由はあるが、嫁さんに説明 する時にでも話そう。 それにしても王よ、何故私に教える⋮⋮信用しすぎだよ。コレは 期待を裏切れないではないか。 392 ﹁まさかそれも作戦の内か?﹂ だとしても別に驚かないけど。だってあの母さんと盟友何だよ。 ただ者じゃないでしょ。性格とかも。 そう言えば、母さんも転生者だったよね。だったらこの世界はゲ ームの世界と同じだって知っていたのか⋮⋮私は間違いなく知って る気がする。 ちょうど両親共にキッチンに居るので聞いてみよう。父さんも知 っていたのなら、一石二鳥じゃない? ﹁ねえ母さん⋮⋮黄の国の王様と知り合いなんだよね。﹂ ﹁え? ええ、そうよ。どうしたの今更。﹂ ﹁なら、どこまで知っているの?﹂ 8年生きてきて今まで見たとこもないような驚いた顔のマミィ⋮ ⋮。どうして気づいたのかと言いたそうだ。父さんも私を凝視した まま固まった。 ﹁コウちゃん⋮。気が付いたのね。ここがどんな世界か⋮﹂ どんな世界か? ゲームを元に作られた世界。けれど⋮⋮ 393 ﹁前世でゲームとして存在した物語の世界に似た現実でしょ?﹂ どんな世界でも私はこの世界で生きているので現実でしかない。 心のどこかでまだコレは夢なんじゃないかと思っていたが、そろそ ろ現実を受け止める時が来たようだ。 コウレン ﹁⋮⋮そうよ。そして私はそのゲームの﹃紅蓮の母親﹄の声を入れ たの。そして朱李は⋮⋮﹂ コウレン ﹁俺は﹃紅蓮の父親﹄の声とプログラム担当だった。お前と同じく 転生者だ。﹂ 意外な真実発覚。何だか置いてけぼり感が半端ないんですけど⋮。 こんなに転生者が居るなんてね∼。心強いけど。 転生の条件はゲームに関わった人。それも、演じた役に転生して いる。コレは⋮⋮偶然じゃないよね。 コウレン ﹁あのさ⋮実は私も﹃紅蓮﹄の声を演じたんだよね。友達に土下座 されて⋮⋮﹂ え?え?何? なんか二人ともさっきよりも驚いている。あの∼ ∼何ですか? ﹁どうしたの? あ、もしかしてミケと知り合いだった? あの子 土下座なんて日頃してなかったよ。あの時は本当にビックリしたか ら⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮いえ⋮違うの。あなたが﹃紅蓮﹄の声を演じたのね。スゴい 迫真の演技だった。ミケが頑として譲らなかった声の出演だったの。 394 ﹂ なにとぞ ナニソレ初耳⋮⋮。確か﹁フリーゲームだからお金なんて無い。 だからお願いしますベル様!!何卒私めにお力添えを∼﹂なんて土 下座してたけど⋮⋮。ドユコト? ランメイ ﹁そうそう。確か﹃藍苺﹄の声も俺達に内緒にしてたよな。どこの 誰か教えてくれなかったな。スタッフロールどうすんだよって言っ たら⋮﹂ ﹁﹁声の出演は???にしといて♪﹂って言ってたわね。﹂ それってどこの適当に付けた名前だよ。まぁ、本名出されなくて よかったけど。 ﹁配信してから大変だったよ。あの声って誰なの?てさ。俺達も知 らないし、答えようが無かったな。﹂ ﹁そうそう。結局教えてくれなかったのよ。﹂ そっか⋮⋮でもそれって、 ﹁私が公開しないでて言ったからだよそれ。ミケって約束は守る子 だからさ。﹂ 忠実に守ってくれていたのか約束を。 ﹁なんだか急に会いたくなってきた⋮⋮。懐かしいよ。﹂ 395 もうアレから8年も会ってない。ミケと友達になってからこんな に長い時間会わなかったとこが無かったと思う。何だかんだ言って もたった一人の友達と呼べる人だった。 ﹁︵今頃になってホームシックかな。︶﹂ ﹁そう言えば、コウちゃん。ランちゃんは大丈夫?﹂ ﹁血は分けたのか?﹂ そう言えば報告してなかった。つい、うっかりうっかり⋮⋮ ﹁成功したよ。成功したって言えるのか分かんないけど⋮⋮血を飲 ませる前に妖力が開花したみたいで⋮⋮なんか妖力がことの外強く て⋮⋮﹂ ﹁﹁あぁ、やっぱり。﹂﹂ 何ですか⋮やっぱりって。あぁ、アレか妖気を感じますみたいな のか。 二人とも妖気には敏感なんだね。 ﹁ランちゃんの母親は黒龍のハーフだからねぇ。そりゃぁ強いわよ。 下手したら朱李より強いわね♪﹂ ﹁単純な力だけならな。内包している妖力は俺の一族のが上だ。﹂ ﹁⋮⋮⋮あのさ、二人とも⋮私置いてけぼりなんだけど。いい加減 説明してよ。﹂ 396 そんなに面倒ごとに首を突っ込むのは好きじゃないけど、何も知 らないよりもマシでしょ。 それにしても、黒龍? 原作ではない設定だね。だって確か﹃藍 苺﹄は生粋の人間のハズだった。それが原因で﹃紅蓮﹄が死ぬシナ リオが10通りあったね。 私が思うに、きっとこの世界は必ずしも原作と同じとは限らない と思う。現に、﹃紅蓮の母親﹄は後宮で死んだハズだった。そして ﹃紅蓮の父親﹄もこの時期に封印が解けることは無かった。 どれも原作通りではない。意図的に母さんが変えたのだとしても、 黒龍の血脈云々はどうにも出来ないだろう。生まれる前のことだし ⋮⋮。 ﹁黒龍の血脈云々は原作とかなり違うけど何で?﹂ 率直に聞くに限る。 ﹁それはね、この世界はミケが考えた﹃妖怪恋舞﹄の真エンドなの よ。﹂ ﹁はぁ? 真って真実の真?﹂ ﹁そうだよ。あるキャラを連続で100回攻略すると出現する隠し 要素なんだ。﹂ なんじゃそりゃ⋮⋮ 397 ﹁あるキャラって言っても、制限は無いのよ。一人のキャラを一途 に100回攻略するだけ。﹂ ﹁ミケ曰く﹁一途な人にしか見れない本当のエンディング﹂らしい よ。﹂ ﹁100回攻略って⋮⋮随分気の遠くなる条件だね⋮⋮で?﹂ ﹁で? って?﹂ ﹁真エンドの内容だよ﹂ ﹁﹁⋮⋮⋮知らない⋮﹂﹂ どうやらミケはかなりの秘密主義だったようだね。知らなかった なぁ。 ﹁⋮⋮でもプログラム担当だったんでしょ? 知らないの?﹂ ﹁全然⋮⋮何故か覚えてないんだ。こ∼⋮記憶の一部がすっぽり抜 けたみたいで⋮﹂ ﹁そのシナリオを演じた事は覚えているけど、内容まで覚えてない のよ。我ながら情けないわ⋮﹂ 私はシナリオ自体覚えていない。 私は﹃紅蓮﹄のシナリオを思い返してみた。そして思う。 ﹃紅蓮﹄は本当に﹃藍苺﹄を愛していた。自分の命を差し出す程 398 わたし に。行き過ぎた愛情だと誰でも思うだろう。でも、今の紅蓮も、も しかすると同じことを、命を差し出す位の事はするかもしれない⋮ ⋮。 ﹁︵もしかして、私の藍苺に対する気持ちは⋮⋮︶﹂ もしかして⋮⋮、違うと思いたい。だがもし、藍苺に対する気持 ちは、原作のプログラムから多少影響を受けているとすれば? 両親二人も、違うと思いたい。二人は私たちと同じく転生者だ。 そして原作でも夫婦であった。 原作通りに進むための、世界のプログラムなんじゃないか? こ の恋心は偽物? 解らない。生憎と今まで恋なんてしたことがなかった。比べるも のが無いのよ。 もし、もしだよ。私自身が前世﹃ベル﹄と言う記憶を持っただけ の作り物だったら? 全部が偽物だったら? ダメだ⋮⋮、一度ネガティブになるとそんなことしか浮かばない。 ﹁⋮⋮蓮、ど⋮⋮たの?⋮⋮⋮れ⋮⋮!﹂ ﹁ど⋮⋮た⋮⋮こ⋮⋮⋮?﹂ 399 ﹁︵あぁぁぁ⋮⋮考えすぎて頭が⋮⋮グルグル回る⋮⋮頭の中、ぐ ちゃぐちゃだ。︶﹂ 周りから声が聞こえる。大丈夫だよ。ちゃんと聞こえてるから⋮ ⋮でも今は⋮⋮ ﹁︵頭だけじゃなく⋮胸も痛い⋮⋮背中も熱い⋮︶﹂ あぁ⋮⋮何も考えたくない⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!﹂ 聞こえるよ。けどごめん。聞き取れない。余裕ないみたい。 自分が膝をついていた。あれ?いつの間に⋮。体に力が入らない。 情けないわ⋮⋮こんなことじゃ⋮⋮ コウレン ﹁⋮⋮紅蓮!大丈夫か!? ランメイ ﹁!⋮藍苺?﹂ あぁ⋮。やっぱり、やっぱり私は藍苺が好きなんだ⋮。藍苺の声 だけ鮮明に聞こえるよ? わたし 例えプログラムでも、これが今の紅蓮なんだ。 400 ﹁大丈夫か? なんかお前の方が大変そうだな。﹂ ﹁っ⋮。大丈夫だよ。少し目眩がしただけだから。﹂ うん、元気そうで何よりだよ。 ﹁てか、いつ入ってきたの? 気付かなかった。﹂ ﹁ついさっきだよ。﹂ 元気な頃の嫁さんそのまま⋮⋮あれ? ﹁ちょっ、嫁さん⋮目が、目が!﹂ ﹁は? 何のネタだ?﹂ いやいや⋮素でボケないでよ。 なんと驚いたことに、嫁さん⋮藍苺の目が暗めの黄色から漆黒に 変わっていた。そう言えば、髪も青がかっていたのに今では目と同 じく漆黒になっていた。 ﹁鏡で見てみてよ。﹂ ﹁あらあら∼真っ黒になってるわね∼﹂ ﹁日本人でも珍しい真っ黒だな∼﹂ ﹁何で変わってんだよ⋮﹂ 401 ﹁いいな∼黒髪∼憧れるよ⋮。﹂ ﹁いや、他に言うことがあるだろ。﹂ 他に変わった所がないか調べてみると、あれよあれよと、チート な性能になっていた。身体能力とか諸々。 でもさ、これで少しは悩みも解決すんじゃないか? まぁ、その 他に色々問題があるだろうけどね。 おめでとう⋮⋮これで晴れて嫁さんもチート一家の仲間入りだよ♪ じんせい え?嬉しくねーよ⋮⋮。贅沢言いなさんな。バカと鋏は使いよう、 チートと開き直りは必須何だよ妖怪生はね。 ﹁ちょっと待て、俺も妖怪なのか?﹂ ﹁まぁ正確に言えばクォーターだね。﹂ ﹁説明しろよ﹂ ﹁料理終わったらね♪﹂ 402 掛けっぱなしの鍋の様子を見ながら言っておいた。あ∼良かった ∼。鍋焦げてないよ♪ 説明はまた今度ね♪ 403 フラグに対して説明求む︵前書き︶ コウレン 今日も紅蓮は通常運転です。Sではないけど、確信犯ではあるか も。 404 フラグに対して説明求む コウレン あれから色々説明をマミィにしてもらいちょっと疲れました。ど うも、紅蓮です。 嫁さんも晴れてハイスペックなチートの仲間入りをしました。そ んな嫁さんはただ今頭を抱えてブツブツと何か言っています。言い たいことがあるなら言えばいいじゃない⋮⋮ ﹁良かったね、嫁さん。悩みが解決したよ﹂ ﹁﹁﹁おいバカやめろ﹂﹂﹂ あれま、三人とも息ぴったり∼。きっとトリオで漫才できるよ♪ てか、三人ともこのネタ分かんのね。 ﹁サーセン⋮⋮。と、冗談はここまでにして⋮⋮﹂ ﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮﹂﹂﹂ ﹁ご飯食べよ?﹂ ガタガタっという音をたてて三人は椅子から落ちていた。皆さん 芸人みたいですね∼。 ﹁吉〇芸人みたいだね。もしかして某グランプリにでも出るの?﹂ ﹁んな分けないだろ!﹂ 405 ﹁も∼⋮真剣な顔して言うから、何事かと思ったじゃないのよ。﹂ ﹁芸人って⋮そんなグランプリこの世界に無いだろ! それにこん な程度で芸人になんてなれるか!﹂ あ、な∼るほど⋮確かに無いわ。それにしても、父さんよ。キャ ラ変わりすぎだよ。 ﹁いやぁ∼つい﹂ ﹁︵こいつのキャラがどんどん壊れてくな︶﹂ ﹁︵こんな性格だったかしら∼︶﹂ ﹁︵麗春を越えるボケッぷりだな。いや、何かが違う気がするけど ⋮︶﹂ 良かった⋮元気になった。やっぱり藍苺は元気でいてほしい。 ﹁さあ∼晩御飯にしようよ。﹂ ﹁いつの間にか夜になってたんだな。﹂ 朝方から熱出して昏倒してたもんね。起きたらもう夕方だったも んね∼⋮そりゃビックリだ∼。 ﹁でも良くなって良かったわねランちゃん♪﹂ ﹁本当に。会って早々倒れたから、俺が原因かと疑ったよ。良くな って良かった。な?紅蓮。﹂ 406 ﹁本当にね。寿命が縮んだよ⋮。はい♪今日は病み上がりなんだし スープだけね。勿論私達もね♪﹂ ﹁え?﹂ ﹁スープによるわね∼パンはあるの?﹂ ﹁別に遠慮しなくても⋮﹂ ﹁良いの⋮。ちゃんとしたスープだからさ。パン?あるよ∼⋮⋮は い。﹂ 嫁さんに話ながらマミィにパンを渡す。私達もスープオンリーが 納得いかないらしい嫁さんは苦い顔だ。パンも有るけど? マミィはニコニコしながらパンを受け取る。マミィはどんなスー プか知っているから余裕の表情。 父さん? 未だに納得いかねーよって顔で膨れている⋮⋮頬っぺ がね。プクーって⋮。あんた何歳だよ。いい歳したおっさ⋮⋮大人 が、何をむくれてんだよ∼⋮はぁー。 ﹁父さん⋮鶏肉も入ってるから⋮﹂ ﹁⋮あ、いや別に、うん、違うぞ⋮その⋮⋮﹂ ﹁ハイハイ⋮⋮お待ちどー⋮私特製野菜スープ。野菜を潰している から消化に良いよ。体も温まるし。鶏肉も柔らかく煮込んだから食 べれると思うよ。﹂ 407 なんか変に言い訳しようよしてる父さんはこの際無視無視⋮。 スープの具は、ジャガイモ、玉葱、鶏肉そして嫁さんの大ッ嫌い なニンジン。味付けは塩、胡椒︵何故か普通にあったよ︶、コンソ メスープの元︵粉末状のマミィお手製︶と、材料だけならポトフと ほぼ一緒。 でも、完成したら具を鶏肉を鍋から出して野菜を潰す。勿論全部。 潰し終わったら鶏肉を戻して少し煮込むと、私特製野菜スープの出 来上がり♪ コウレン ﹁変に言い訳するから∼。ほら、このスープ美味しいのよ♪﹂ ﹁息子が冷たいよ⋮⋮﹂ あぁ∼あ、き∼こえ∼ない∼。ポチの分は骨を取って冷ましてお く。犬ってガブッ!ってガッツクから火傷するんだよ熱いと。 一応説明しとくけど、スープに玉葱入ってたよね。玉葱って、動 物に食べさせちゃダメだよ。死んじゃうから。けど、ポチは妖怪。 なので平気なのだ。見た目がいくら犬、狼だからって害はないので す。害があったら九尾狐の私はどうなんだよ。 ﹁嫁さん⋮⋮食べなよ♪﹂ ﹁⋮⋮ニンジン⋮﹂ ふふふふ⋮ニンジンを潰してしまえば食べるしか無いだろ!観念 しなさいな♪ 408 ﹁ジャガイモとニンジンが入っているから暖まるわね∼﹂ ﹁意外と食べごたえがある⋮パンおかわり﹂ ﹁⋮⋮藍苺? た・べ・ろ・よ♪﹂ ﹁分かったよ⋮。﹂ こんな時こそ好き嫌いは許さない。いくらハイスペックになって もついさっきまで高熱出してた病人が好き嫌いを許されるわけ無い だろ。 ﹁病み上がりなんだから我儘言わない。﹂ ﹁言ってない﹂ ﹁目が言ってたよ﹂ 観念してスプーンを掴むと不吉な音がした。え?父さん? ﹁︵父さん?︶﹂ ﹁モゴモゴ⋮︵いや、俺じゃない︶﹂ ﹁もぐ︵私でもないわよ︶﹂ ﹁︵⋮⋮⋮嫁さん?︶﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 嫁さんの掴んだスプーンは木製の物で私でも力加減を間違えると 409 ポッキリ⋮⋮。 ﹁ステンレス製のスプーンがあるからそっち使おうね⋮﹂ あは∼⋮チートは戦闘では役立つけど、日常生活では要らぬ長物 なんですね。私も始めは色んな物を壊したっけ⋮⋮。お気に入りの 食器を粉砕した時は落ち込んだな∼ ﹁力加減が難しいな⋮﹂ ﹁力が目覚めた者がぶつかる最初の壁だからな。﹂ ﹁私も父親から貰ったペンダントを壊してしまった時は落ち込んだ わ∼﹂ あ∼。皆そんなもんなんだね。力加減難しいよね。 そんな風に考えていたら﹁メキョ!﹂っとまたもや不吉な音が ⋮⋮ ﹁よ、嫁さん⋮⋮もしかしてホントはぶきっちょ?﹂ ﹁う、うるさい⋮⋮ちょっと、手加減を⋮﹂ あれ? 嫁さんって集中力云々で失敗したと思ったけど、もしか してぶきっちょだっただけだったの? ﹁んー⋮黒龍の血脈は力が強いから制御が難しいらしい。訓練次第 で日常生活は出来るようになるんじゃないか?﹂ 410 クイメイ ﹁そうね、貴梅はそんなに苦労してなかったわよ確かね。﹂ クイメイ?誰すか⋮⋮あ、あぁ∼⋮嫁さんのお母さんだ。 ﹁何で母さんの名前⋮⋮﹂ ﹁嫁さん、この二人は白の国の国王と知り合いなんだよ。多分その 関係で知り合いだったんじゃない?﹂ 父さんの方は知らないけど、きっと知ってるはず。この話の流れ では。 ﹁でも、このままだとランちゃん食べれないわね∼。﹂ おっと、マミィは話を逸らした。 ﹁こんな時、方法は一つしかないな∼﹂ それに父さんも便乗した。完全に嫁さんのお母さんの話を逸らし にかかった! ﹁そうですね♪﹂ そして私もそのノリに乗ってみた。 今気づいたけどさ、母さんもノリがいいけど、父さんも大概だよ ね。 え?方法は何だよ? 411 では、遠慮なく♪ ﹁嫁さん⋮⋮はい♪あーん♪﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ そう、恋人なり夫婦なり、一度はやってみたい、されてみたい? 所謂スプーンを持ってあーんだ。いや、ふざけてないよ。だって これ以上スプーン破壊されたくないもの。 ﹁⋮⋮おい、何の真似だ﹂ お、恐ろしい程低い声ですね。でもね、こっちもこれ以上スプー ンを破壊されると死活問題何だよ? 主に私の勿体無い精神のね。 ﹁なら嫁さん、自分で食べれるの? これ以上スプーン破壊は勘弁 なんだよ。ステンレス製のスプーンは高いんだから。﹂ ﹁う゛﹂ 別に困らせたくはないよ。⋮⋮⋮⋮⋮⋮うん。 ﹁レイ、紅蓮は楽しんでるよな?﹂ ﹁そうかも知れないわね∼﹂ そんなことないよ。ちょっと困った顔が面白いな∼なんて思って ませんよ、ええ。 412 それに、最初にそんな流にしたのはどこの二人だったのかな? ﹁嫌なら訓練しなよ。これからも壊すようならコレ続くからね♪︵ それと、明日のご飯は二人の嫌いな物ね、父さんの好き嫌いなんて 知らないから肉抜きね。︶﹂ ﹁﹁︵な、なんだって!!︶﹂﹂ ﹁マジで言ってんのか⋮⋮何の拷問だよそれ。恥ずかしいだろ!そ れに⋮⋮⋮⋮﹂ 顔を真っ赤にして反論しているランはとっても面白かった。でも、 何だろ。普通好きな子の赤面って﹁可愛いな﹂って思うけど、そう は思わない。何でかな。勿論異性に対しての﹁可愛いな﹂だよ。 あぁ、そうか。私の中身が女だからか。でも、だとしたら何で藍 苺を好きになったんだろう。 やっぱりプログラム? ﹁︵止めよう。キリがない。︶﹂ ﹁⋮⋮⋮だ。っておい、聞いてたか?﹂ おっと、つい考え事をしてしまった。 ﹁つまり、恥ずかしいから止めてくれと⋮。でも、どうやって食べ るの? 今だけでもあーんで食べてよ。﹂ 413 面倒だしさ⋮。なんて後につけると渋々といった感じで頷いてき た。そうそう、こういうのは諦めも肝心なんだよ。 その後、家族で初めてのワイワイ賑やかな晩ご飯だった。すごく 楽しかった。 勿論全部あーんで食べてもらいました♪ 414 フラグに対して説明求む︵後書き︶ 基本的ノリがイイ紅蓮一家。それに巻き込まれる藍苺⋮⋮。そし てそれを温かく見守っているポチ。 そんな嵐の前の静けさ⋮⋮なんて? 415 フラグ回避の方法を誰か教えてください︵前書き︶ 前書きっていつも何を書こうか悩みます。 お気に入り登録ありがとうございます。そしてお読み頂いた方あ りがとうございます。 登録数80件にもうすぐ到達!! もう顔が︵゜︳゜︶になってます。ホントにありがとう!! 416 フラグ回避の方法を誰か教えてください コウレン ハロー⋮。え∼と⋮⋮。こんにちは、こんばんは、おはようござ コウレン います。自分がゲームの死亡フラグのデパートな﹃紅蓮﹄だと気付 いた、紅蓮です。 うん。何でそんなに歯切れが悪いのかって言いたいんどろうけど ね、ちょっとコレには訳があるのよ。 ﹁キュアー⋮⋮︵朝起きたら子狐になってました。︶﹂ もうさ、何なんだよ⋮。まさかあれか、昨日の晩ご飯で嫁さんに あーん、なんてしたから? うん。ごめんなさい。見てるこっちは楽しかったです。いや、そ うじゃなくて⋮ ﹁⋮⋮⋮♪﹂ はい、ただ今嫁さんの膝の上でだらけています。と、言うよりも 離してくれません。ふっ⋮私が嫌がっているのを見抜いたな嫁さん。 ﹁︵可愛い⋮⋮こうしていつも子狐なら良いのに︶﹂ ﹁︵コウちゃん、遊ばれてるわよ⋮︶﹂ ﹁︵微笑ましいな︶﹂ 417 チキショー⋮。私がこんなペットみたいに扱われて喜んでいると でも⋮⋮ ﹁レン、耳の後が痒いのか?﹂ ﹁キュー♪︵あー⋮もうちょと右⋮あぁそこそこ♪︶﹂ はっ!Σ︵゜Д゜︶ おかん⋮じゃなくて、いかん!! ランの耳の後ろカシカシに惑わされていた! やりよるわ嫁さん 恐るべし⋮⋮。 ﹁キュー⋮⋮︵もうちょと右⋮⋮︶﹂ くっ! ダメだ、耳の後ろカシカシが堪らなく⋮⋮はう⋮⋮。 ﹁クーゥ⋮⋮︵も、もうだめ⋮⋮眠い⋮︶﹂ ﹁︵ふわふわのサラサラ⋮⋮︶﹂ も、もう眠っても良いよね? ﹁クア∼⋮ン﹂ おぉポチ、お前も眠いのか? そうかそうか⋮なら一緒に昼寝で 418 も、朝だけど⋮いっ痛い! ﹁キュー!!︵痛いよ!ちょと嫁さん、尻尾はもう少し丁寧に扱っ てよ!結構デリケートなんだから⋮︶﹂ ﹁あ、悪い⋮つい力が入った⋮︵可愛い⋮︶﹂ うううぅぅ⋮⋮。3本有るけど、その内1本は嫁さんの餌食にな っている。て、おいポチ、何で私の尻尾にじゃれてンだよ。止めて ね本気で。 そんな感じで、3本の内2本はただ今必死に逃げてます。ふっ、 同時に操るのって案外簡単だったよ。残りの1本は今の私の感情を コレでもかって程表現してくれてます。 ﹁︵テシテシテシテシテシテシ⋮︶﹂ 私不機嫌ですけど何か?とでも言いたげな我が尻尾さん。ホント に私の尻尾器用だな⋮⋮。 ﹁キュー⋮キュアー⋮︵勘違いされたくないけどさ、誰でもこんな 態度だと思わないでね。︶﹂ イヌ科だからかと言って誰にでも愛想がいいわけ無いでしょ。他 の誰が私に触ろうものなら噛みつきますよ。そう、例え家族であっ ても⋮⋮ね。 419 今の姿の説明をしようかな。 先ずは、大きさ。ん∼⋮さっき子狐って言ったけどね、実際の大 きさは中型犬並みの大きさなんです。子狐って表現をしたのは私が 子供なのと、マミィの狐の姿の時の大きさを思えば子狐かと思った から。マミィの狐姿のは大きいよ⋮⋮どんなに縮めても馬くらい大 きいからね⋮。 縮んでも馬って、最大化したらどんなに大きくなるのか⋮⋮。 え∼と、次は色。毛色は白。耳と尻尾と同じ。以上終わり。 別に説明なんて要らんかったんや∼。 ﹁でも、狐ってホントはコンコン鳴かないって聞いてたけど、こん な鳴き声なんだな⋮。﹂ ﹁キュアーン︵ホントは甲高い声なんだってさ嫁さん。︶﹂ ﹁ん、﹂ えっ? ちょ、ちょっと待って嫁さん。なにしてんの? 今の状況は、 両脇を掴まれて持ち上げる嫁さん ← 420 唖然としている私 ← 向かい合って見つめあい⋮︵今ココ︶ ランメイ いやいやいや⋮。えっ?えっ? どうした藍苺!? そうこうしてる内に嫁さんに抱き付かれた⋮。 へ? 何が起きたの? Why? ﹁︵ふわふわ⋮♪︶﹂ え∼と⋮。うん。きっと嫁さん、まだ熱があるんだ! そうだ、 そうに違いない!! ﹁キュ⋮︵私はぬいぐるみ⋮私はぬいぐるみ⋮︶﹂ 大丈夫、私は今ぬいぐるみなんだ。それに、抱き付かれていても、 前世女だったんだから恥ずかしくなんかない⋮⋮無いったら無い! ⋮⋮ハズ。 ﹁⋮いつもこの姿なら⋮⋮﹂ ちょ、ちょ、ちょっと。このままの姿だと色々不便だから! ﹁キュイー!!︵誰がご飯を作るんですか!︶﹂ コレばっかりは他に任せていられない。嫁さんはぶきっちょで論 外、マミィはちょっと料理は苦手︵お菓子作りは得意。未だにそれ が不思議でなら無い︶⋮⋮誰にも任せておけないでしょ? 421 はい? 父さん? 最初から頭数に入ってないよ。だって母さん 曰く﹁破壊的に⋮いえ、壊滅的に下手﹂らしいよ。封印されるまで どうやって生きてきたんだよ。 ********* 朝起きたらレンが狐になっていた。本人︵狐︶はかなり落ち込ん でいるのか耳がしょげていた⋮。 とても可愛いと思う。 むかし 男で可愛いもの好きは気持ち悪いだろうか? 前世から可愛いも のに目がないんだ。今女だけど⋮⋮。 可愛いものと言っても、そこに人は当てはまらない。動物限定だ。 勿論ただ純粋に見ているのが好きなだけ。日頃は触ったりはしない。 ⋮⋮しないハズだった。 ﹁キュ⋮﹂ 422 ﹁︵可愛い⋮︶﹂ レン なんだか目の前の狐が可愛くてしょうがない。あれ?俺ってこん な性格だったか? そう言えば、前にレンが﹁元の体の持ち主に感情が引っ張られる﹂ とか言っていた。もしかしたらコレもそうなのかもしれない。 それにしても⋮⋮俺のこの体の⋮⋮元の持ち主?は可愛いもの好 きなんだな。 ﹁︵俺の可愛いもの好きよりも凄まじい⋮︶﹂ でも、 ﹁キュアーン︵苦しくなってきたんだけど⋮嫁さん︶﹂ ヤバい⋮⋮可愛い⋮ 特にその困ったような顔と垂れた耳とか⋮⋮ポチも可愛かったけ ど、コレは比じゃないな。 ﹁⋮⋮⋮可愛い⋮⋮⋮﹂ ﹁キュア!?︵はうえ!?︶﹂ あれ? 何でそんなに驚いてんだよ⋮⋮あ! 423 ********* ﹁⋮⋮⋮⋮可愛い⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁キュエ!?︵はうえ!?︶﹂ おいおい⋮ランー。何を血迷った事を言っているのかなぁー? 自分が言ってること分かって言ってるの? ちょっと、ホントにド コか悪いんじゃないの? このあと約一時間程抱き締められたままだった。嫁さんは終始無 言でホントに心配したが、気がすんだらシラフに戻って直ぐ様離し てくれた。 顔が少しの赤かったのは、今後からかうネタにしようかとも思っ たが、私自身、狐の姿でなかったなら、真っ赤になっていたところ を見られただろう。 毛皮が有って良かった⋮⋮。 抱擁から解放されて周りを見ると、いつの間にか両親二人は消え 424 ていた⋮。おまけにポチまで。 助けてよ⋮⋮。 ⋮⋮⋮⋮コホンッ⋮。その後はご飯を食べてただ今必死に逃げて ます。え∼と、ご飯はどうやって食べたか? 犬食いしましたが何 か? 私自身、羞恥心なんか有りませんよ。だって、後宮で物静な疎ま れ王子を演じていたんだから。こんなのそれにそれに比べたら別に 何とも思わない。 普通逆だろ? 私の場合はそうなんです。演じる方が恥ずかしい のですよ。 あ! 何で逃げてるかって? それはね⋮⋮ ﹁ちょっと待て∼!﹂ 425 ﹁い∼や∼だ∼!!﹂ わたし はい、嫁さんから全力で逃げてます。どうしてか? どうやら嫁 さん、狐を風呂に入れたいらしい⋮⋮。抱き締められるのは別に良 いよ。けど、身体中を触られ頭っからお湯を被るのは勘弁な。 それと、お気付きの人もいますが、声、出るようになりました! やろうと思えばできてしまった。 ﹁一応元女なんだけど! 人様に身体中を触られるのは嫌だ∼。﹂ ﹁そう言えば、そうだったな⋮﹂ 忘れないでよ。 えぇい!人の姿に戻れ!! そう思った瞬間⋮ポンッ⋮と不可解な音が⋮⋮ はい、元に戻りました♪ ごめんね嫁さん、私まだ人を辞める気 は無いのよ。例え這いつくばって犬食いをしてもね。 ﹁なんだ、戻ったのか⋮⋮﹂ そんな悲しそうにしてもダメだよ。狐に戻らないからね。それと、 ささやかな復讐としてニンジン多めにしとくから。四日ほどニンジ ンオンパレードね。 426 ﹁⋮⋮で、何で動かないんだ?﹂ 何でって⋮⋮。これ以上動いたら⋮見えるわけよ。何が? アレ だよ。 ﹁嫁さん、服貸して。それか、カーテンでもイイから体を隠せるも の頂戴。﹂ 今の私の状況は⋮、片膝をつきながら両手を地面についてバラン スを取っている。結ってもいない長い髪は⋮、大事な部分を隠して いる。なので動けない。動いたら見える⋮。一応私にも羞恥心はあ るからね。 ランは中身男だからかいいだろう? 実はそうはいかないのだ。 何故なら、私は藍苺を異性としてみている。だからか全裸を見られ るのはとっても恥ずかしいのよ!! 中身男でも、関係無い。恥ずかしいものは恥ずかしい。 嫁さんは﹁そう言えば、レンってあんまり肌出さないよな⋮﹂な んて言いながら何か着れそうな物を探しにいってくれた。何だかん だ言って優しいのだ。 ﹁でも、何であんなに追っかけられたんだろ⋮︵原作の﹃藍苺﹄に しろ、嫁さんにしろ、あんなに可愛いもの好きだったかな?︶﹂ 可愛いもの好きの度をかなり越えていた気もするが、まぁ⋮今は 別にいいだろう。掘り返して地雷踏みたくないし⋮。 427 ほどなくして服を持ってランは戻ってきた。持って来た服は、確 か箪笥の一番上にあったものだ。選んだのではなく、一番上にあっ たものを引っ張り出してきたのだろう。それでも上下色合いの取れ た服を選んできてくれたのはありがたい。 ﹁︵確か隣にピンクの服があった⋮はず︶﹂ 私の趣味じゃないよ。マミィの悪ふざけ。外見が女の子でも、ピ ンクはちょっと⋮⋮⋮精神年齢28にピンクはキツいです。いや、 着てる人はいると思うよ、けどね⋮。私って前世でもあまりピンク は着なかった。てか、着たくなかった。 ﹁⋮⋮俺だって一応好みは把握してるつもりだ。俺もピンクはちょ っとな⋮﹂ ﹁解るその気持ち。でも、ランは性別が女の子でしょ? 私って所 謂﹃男の娘﹄だし。今は違和感ないかもしれなけど、それに慣れて そのまま成長したら⋮⋮ただの女装になるだろ?﹂ ﹁あぁ∼⋮、確かに。ん?でもお前の父親⋮⋮なあ?﹂ ふっ⋮言いたいことは分かってるよ。 ﹁成長しても﹃男の娘﹄って? それって⋮⋮どうすればいいのよ ?﹂ 428 父さんの顔を思い浮かべてみる。⋮どうしよ、女装しても骨太な おなごにしか見えない⋮⋮。これが私の未来なのか? うんうん唸りながら考え事をしていると、不意に変な気配がした。 何だろこのデシャブ⋮⋮嫌な予感しかしないのだけど⋮⋮。 嵐の前の静けさは幕を閉じ、死亡フラグ満載の嵐が到来したのだ。 ﹁ホント、私と嫁さんはついてないよね∼﹂ ﹁は?﹂ ﹁お客さんだよ、藍苺。﹂ ランメイ 生き残らなくちゃ。ねぇ?藍苺。 429 フラグ回避の方法を誰か教えてください︵後書き︶ 花粉症で注意力散漫中⋮誤字脱字あるかもしれません。 430 フラグ回収は命懸け︵前書き︶ ホンの少し流血表現があります。お気をつけください。 ホンの少し何でそんなに気にならないかもしれませんが、念を入 れて。 431 フラグ回収は命懸け コニャニャチワー⋮⋮。どうしよ、ツッコミが居ない⋮。誰かツ ッコミができる人連れてきてよ∼。 コウレン どうも、初っぱなからフザケてます。皆さんお忘れかも知れませ んが主人公紅蓮です。 コウレン またの名を死亡フラグ回収No.1︵原作でね︶の影の立役者?︵ ミケ談︶嫁さまLOVE︵私の感想︶の紅蓮です。 えっと⋮前回はドコで終わったか覚えてる? ﹁メタ発言は控えろよ﹂ オホンッ⋮⋮スミマセン。 ﹁前回のあらすじ⋮朝起きたらレンが狐になっていた。可愛かった ので構い倒したら逃げられて元に戻ってしまった。残念だ。元に戻 俺がピンクの服を持ってきたらどうするつもりだっ ったら⋮素っ裸だったのでレンの箪笥から適当に服を持ってきたら 褒められた。 たのか⋮。他愛ない話をしていると、またしても何者が侵入してき た模様。全くまたしても侵入を許す辺り警備は手薄なのか、はたま た侵入者が手練れなのか、そんな訳で今回は俺達の死亡フラグ回収 回。俺達は回避⋮いや、フラグをへし折れるのか⋮。﹂ ﹁う∼ん⋮。私が話すこと無くなったね。お疲れ様です。﹂ ﹁こんなんで良かったのか?﹂ 432 ﹁大体あってるよ。﹂ そんな訳で、私達はどうするか考え中だ。どうしたものか⋮。 ﹁前みたいに単独行動はやめた方がいい。それに、無闇に相手に近 付かなくてもイイだろう。だって今回は父さんと母さんが居るし。﹂ ﹁なあ⋮⋮言い忘れてたけど、﹂ ﹁はい?﹂ ランメイ ﹁原作で﹃藍苺﹄を演じたの⋮⋮実は俺なんだ⋮﹂ ⋮⋮⋮⋮はい? え? ⋮⋮⋮はあ!? ﹁何を突然変異⋮⋮えっと⋮嫁さん、前世男⋮⋮でしょ?﹂ 声を⋮⋮それも、か細い﹃藍苺﹄の声を男が⋮⋮出来るのか? いやさ、私だって女で男の﹃紅蓮﹄を演じたけどさ⋮⋮それは元 々私の声が女性にしたら低かったのと、何故か男性のような低い声 が出せたからで⋮⋮ ﹁よくその声が出せたね⋮﹂ ﹁変声期が来なかったんだ⋮﹂ あ∼成る程。たまにあるらしいね。 一応説明すると、今、私達の発している声は前世の声と一緒。更 433 に説明すると、今の子供の声は前世の地声に近い。成長すると、も っと低くなるだろう。 ﹁ところで、何で今更その事話したの?﹂ ﹁あぁ、そうだったな。何でだろうな﹂ 本人も分かんないのかい! ﹁ところでさ、ランは朝食食べてないよね。色々あって。私は食べ たよ。﹂↑犬食いで ﹁そうだな。腹へったな⋮。て、おい。今そんな場合じゃないだろ。 ﹂ ﹁ダメだよ嫁さん、腹が減っては戦はできぬ。だよ。ここぞって時 に力でないよ。﹂ 特に女性は朝食を抜いたりすると将来妊娠出来にくくなるとか前 にテレビで言っていた。それだけじゃない。飲み物でも何でも良い から取らないと頭が目覚めない。水でも良いから取ろうね? ﹁健康的な体を作るなら朝御飯は必須だよ。﹂ ﹁それは知ってるけど⋮⋮またアレで食わないといけないだろ⋮。﹂ あぁ、アレね。あーんね。ごめんね嫁さん。ちょっとトラウマ気 434 味になってないかい?どうしよ、悪い事したな⋮⋮。 ﹁いやいや⋮それは嫁さんが力加減をマスターすればいいだけの話 でしょ? ランなら出来る! ガンバ♪﹂ ﹁他人事だと思って⋮⋮﹂ 実際他人事だとだし。コレばっかりは本人のヤル気次第なんだし さ⋮。これ以上どないすればいいのよ⋮。 ﹁にしても⋮⋮誰も居ないな⋮﹂ さっきから誰にも逢わない。今の位置は家の前。何時もなら誰か が来て挨拶していく程必ず誰か居る。しかし今は⋮⋮ ﹁誰もいないね⋮。あ、そうかぁ⋮﹂ ﹁何だよ?﹂ 前にも説明したと思うけど、ここの妖怪たちは基本的に闘う術を 持たない弱い妖怪達だ。 ﹁みんな隠れてるんだよ。侵入者が来たから。もしも闘いになった も邪魔にならないように、自分達が怪我しないように、さ。﹂ ﹁ん? ならこの前もそうだったのか?﹂ あぁ、そういえばランは外に出て見てなかったね。 435 ﹁うん、そうだよ。直ぐに閉じ込めたからね。直に見てないよね。 でもほら、温室の地下室に行くとき、ポチ以外の妖怪に会わなかっ たでしょ? アレって直ぐ様隠れたからだよ。有事の時は私達に構 わず逃げてって言ってるから。﹂ ﹁ふーん⋮。︵そう言えば、誰も居なかったな∼︶﹂ さてはて⋮⋮どうしようかな? ﹁どうする? 家の中に⋮⋮﹂ ゾクッ!! ﹁!!!⋮⋮︵ッ!!⋮悪寒が⋮この嫌な感じ⋮⋮まさか⋮︶﹂ ﹁? どうした? 腕を摩って⋮寒いのか?﹂ 不味いぞ。早く家に入って⋮⋮ ﹁まさかガキだけで居るとはな。探す手間が省けた。﹂ 声のした方を、後ろを振り返るとソコには、王宮位でしか着ない 服装のいかにも貴族の出で立ちをした男が立っていた。そう言えば ね、説明してなかったけどさ、いや、私も外に出るまで知らなかっ たんだけどね。この世界の服装だけど、中華と西洋、東洋色々ごっ ちゃなものだった。現代的な物まで普通にあったよ。 王宮では伝統に則ってあの格好だったらしい。黄の国は中華風の 着物、白の国では日本的な着物だったみたいだよ。嫁さんが言って 436 た。黄の国に来たとき衣装を変えたんだって。 それにしても⋮あ∼あ⋮⋮来ちゃったよ、死亡フラグ。どうしよ、 誤魔化すか? でも、どうやって? 今更意味無いよね。 ﹁︵嫁さん、少しずつ後ろに下がって︶﹂ ﹁︵ちょっと待てよ⋮お前は?︶﹂ ﹁︵ここは一先ず下がっ⋮︶﹂ ﹁棄てられた王子が見棄てられた姫と共に居るとは、コレはコレは ⋮﹂ 一応ランを背に隠す。後から不機嫌なオーラが漂ってくるけど⋮ 無視で。こんな時までプライド高いんだから∼。 ちょっと待てよ、私は別に合ってるかもしれないけど、藍苺は見 棄てれてなんか無いからね。まぁ、国が不利になったら見棄てられ そうだけどね。あの王様⋮⋮結構、良い性格⋮⋮国の事考えてるし ⋮。 あ、見棄てられるかも、割と本気で。 そんな事考えて暇なかったんだ。 ﹁何者だ。ここは私有地、誰の許でここに居る。﹂ ﹁︵おい、今の誰だよレン。お前は一体幾つの顔を持ってるんだよ ⋮︶﹂ 437 幾つって⋮必要な数、状況の数だけだよ。 ⋮⋮⋮って、私ってば、嫁さんの心読んじゃったよ⋮⋮まさか私 も腹黒の仲間入りか!? ﹁︵バカなこと考えてないで、状況を見ろよ!︶﹂ ﹁︵ごめんなさい、ごもっともです。︶﹂ ﹁ふん。許しもなにも、我らはさるお方の命で来たのだ。お前達こ そ図々しいぞ。﹂ さるお方? この貴族さまは分かってんだろうか。例え王族でも人様の、それ も他国の私有地に我が物顔で入るのは不法侵入に当たるんだけど。 それも白の国からしたら、ちょうど良い攻撃材料に⋮⋮。分かって んのかコイツは。 ﹁︵そう言えばコイツ見覚えがあるな⋮⋮!そうだコイツ⋮︶﹂ ﹁︵どうした?︶﹂ コイツ見覚えあると思ったら、くすんだ金髪に、黄土色の目⋮⋮ 宰相のどら息子じゃないか! ﹁宰相のご子息様が如何様でこの場所に来られたのですか。﹂ コイツ、前に後宮に無断で入ってきたお馬鹿じゃないか。 438 説明しよう。︵某アニメ風に︶ タクハク このお馬鹿、貴族で宰相の次男坊、名を倬柏という。底抜けのお 馬鹿である。 今までに色々な騒動を巻き起こし、マミィを口説いたり、他の側 室達に手を出したり⋮と、ホントに馬鹿である。ちなみに、どうし て罰せられていないかと言うと、父親の宰相が全て揉み消している ためである。かく言う私も口説かれたけどね。あの時は﹁コイツマ ジで絞める⋮﹂とか思ったよ全く。 今の説明で解る通り、底抜けのお馬鹿で救いようのない女たらし なのだ。しかも手段を選ばない。 ﹁︵コイツは切り落とした方が良いと前から思っていた。︶﹂ 敢えて何かは言わないけど⋮⋮解るでしょ? ﹁ふん。覚えていたか。なら話は早い、今すぐその命を差し出せ。 さもなくば⋮⋮﹂ ﹁覚えていますとも、私を女子と間違え手込めにしようとなさった のは後にも先にも貴方くらいのものですよ。女子と男子の区別も物 事の分別もつかぬたわけ者⋮⋮そうそういませんから。﹂ ﹁何を⋮いい気になりおって!﹂ ﹁それになんです。不法侵入の次は命を差し出せ? 話が分かりま せんね。もう少し詳しく説明してください。それとも、私の様な幼 439 児にまで力づくの方法しか思い付かないのですかね?﹂ さあ果たしてこのお馬鹿は事の重大さに気付いているのやら⋮。 ﹁ふん。私は黄の国の総意で⋮﹂ 白の国の一応は領土何だけど此所。どんな理由でもその国の了承 無しに他国の者が⋮それも国の総意で来るのなら尚更了承が必要で しょ? 白の王、一応義父様はどんな事でも攻撃のチャンスは見逃さない よ。あの人、愛国者だから。 ﹁総意? それならば国自体が動いていると? ならばその証拠を 持っている筈ですよね。お見せしてもらっても?﹂ ﹁︵レンが真面目にしている⋮。︶﹂ 何だか嬉しくない理由で驚いている嫁さんを華麗にスルーして、 タクハク⋮おバカで良いか。おバカに問いかける。 すると、苦虫噛み潰した様な顔でこちらを睨み付けてきた。ふっ ⋮生憎とそんなチャチな脅しの類いは効きませんから。こちとらア ンタよりも長生きな精神年齢28だぞコラ。ガン飛ばすならもっと 凄んでやれよ。 ﹁∼∼ッ! チッ⋮⋮これだ。﹂ ﹁では、拝見させていただきます。ふむ⋮⋮﹂ 440 おいおい⋮⋮バカなんだなホントに⋮⋮。 したた ﹁コレは本当に国王が認めた物ですか? 王の刻印が微妙に違いま せんか?﹂ 王の刻印とは、王自ら認めた書類や国の定めた重要書類に必ず押 まじな されている証しのこと。それが有ると無いとではまるっきり違う。 そして呪いがかかっている。それがこの書類には無い。 有れば王の許しを持っている事になり、多少の融通も効くだろう。 まぁ、その国にもよるけど。 ﹁何をバカな事を言っている。子供に何が解るか!! それは正真 正銘本物ぞ。﹂ ﹁コレが本物か偽物か気になりますが、そうですね⋮今はここに居 る理由をお話しくださいな。﹂ ﹁くっ⋮⋮仕方ない、良いかよく聞け。黄の国では 奇妙な病が蔓延している。その病は王族、それも直系の者がかかる 厄介なモノなのだ。下賎な民がいくら病で野たれ死のうが構わんの だが、とあるお優しいお方が申したのだ﹁以前後宮に巣くっていた 九尾狐が何か呪詛をかけたのかも知れない﹂とな。﹂ どこかで聞いた様な? ﹁その病の症状は?﹂ ﹁ふん。それお聞いてどうする?﹂ 441 ﹁興味本意と思ってください。﹂ ﹁⋮⋮高熱で体力が奪われる。﹂ ﹁︵それってまさか⋮⋮レンお前⋮︶﹂ ﹁さっき直系と言いましたね。それは実家に帰された姉上⋮いえ、 姫様達や王子様方もかかっているのですか?﹂ ﹁ああそうだ!﹂ 成る程⋮やはり血筋で発動するタイプの呪詛だったのか。しかも 直系だけを狙った⋮⋮。そんな綿密な呪詛誰が出来るだろう⋮⋮。 何か黄の国に怨みを持つ者がかけたのだろうか。どうも私には内部 に犯人が居るような気がしてならない。それに⋮⋮ ﹁︵あの側室舞子が言っていた事⋮気になる︶﹂ あの陛下には消えてもらう云々の事は勿論、世界を支配する等言 っていた⋮。もしも、側室舞子が呪詛をかけたとして、それにメリ ットはあるのか? だってあの呪詛は自分の息子にまで危険が⋮⋮ タイガ ん? ちょっと待てよ。あの夢で大雅はピンピンしてた。ならア レは過去の出来事だったのか?でも、みんなを助けるのは大雅だと か言ってなかったか? ﹁もうひとつお聞きしたい。大雅王子は御無事か?﹂ 442 ﹁︵大雅って確か⋮レンの直ぐ下の弟王子だったな。それがどうし たんだ?︶﹂ ﹁大雅王子? 御無事もなにも、彼一人病にかからず今呪詛を解く ために尽力くださっている。﹂ やっぱり元気なんだ⋮⋮。ならあの夢は現在、或いは近い時間軸 の出来事という可能性もあるってことか。 いや待て、よく思い出してみろ。側室舞子は“大雅は主人公だか ら”や“みんなもうすぐ呪詛にかかる”やらと言っていた。ならア レは呪詛が発動する前⋮⋮⋮しかし、藍苺は皆よりも遠く離れてい。 呪詛がどの程度の速さで届くかなんて分からない。だが、確実にあ の時は呪詛発動前だったのだ。 まぁ、今はどうでもいい⋮⋮先ずは目先の事から。 ﹁さて、この書類は本物かどうかについてですが⋮⋮確める方法が ございます。﹂ ﹁ほう、そんな事を知っているのか⋮子供のお前が?﹂ ﹁︵コイツ⋮イチイチレンの神経を逆撫でしてくるな⋮⋮。レン、 キレるなよ⋮︶﹂ ﹁ええ、簡単な事ですよ⋮⋮。知っていますか? 王の刻印がされ た物は⋮如何なる妨害を防止するために、そして保存のため⋮⋮絶 対に破れないのですよ?﹂ 443 ﹁ふむ、確かに聞いたことがあるな⋮﹂ 書類の端を持た倬柏の前に両手で持ち上げる。 ﹁つまり、こんなことをしても⋮⋮﹂ ﹁︵おいおい!?︶﹂ ﹁お、おい、待て!﹂ 紙を破る時って∼ちょっと楽しいよね♪ ﹁破れはしないんですよ、本物ならね♪﹂ ビリビリ破れていく書類は少し破れにくいが、厚い割には簡単に 破れて⋮この場合千切れていくが正しいかも知れない。現代日本の 紙の製造技術には到底及ばないが、それでも割と丈夫そうな和紙に 似た紙なので、実際はもう少し力が要るだろうが、ハイスペックな 体には薄い紙でしかなあい。 最後まで破れた。さて? どうするのかな倬柏さんよ。コレは偽 物ですよね♪ ﹁おや、破れてしまいましたね。偽物でしたか。柏倬殿?いかがい たします?﹂ ﹁︵悪魔だ、こいつ。マジで悪魔だ! てか俺さっきから一言も喋 ってないぞ⋮︶﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂ 今のコイツを一言で例えるなら⋮茫然自失だね。 444 おい、いい歳した男が情けねぇな倬柏よ。 ﹁だから言ったのですよ倬柏⋮⋮廃王子は一筋縄ではいかないと。 繊細なお顔立ちに似合わず剛胆なんですから。﹂ 倬柏の後から嫌な気配を感じた。おかしい⋮さっきまで何も居な かったはず⋮⋮コイツヤバい。 術かなにかで今まで気配を消していたのか⋮抜かった。 ﹁︵レン、アイツの後ろに⋮︶﹂ ﹁︵ランホントに下がってて⋮ちょっと本気でヤバそうだ。︶﹂ ﹁おや? 幼い夫婦が密談ですか?﹂ 歩いて来るヤツの右手が光った。腕を振りながら歩いて来る。腕 の振りに合わせて何かを投げつけてきた。なりのスピードで銀色の 物体が飛んでくる。 軌道は⋮⋮⋮藍苺! パシッ! ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁!! レン?﹂ ポタッ⋮ポタリッ⋮ 私の右側にいた藍苺にヤツは躊躇いもなくナイフを投げつけてき 445 た。刃の部分しかない特殊なそれを右手で掴む。動体視力は頗る良 いのだ。父親は知らないが、母親よりもこの能力だけは上なのだ。 傷付いたが藍苺に当たらなかったのだから良しとしよう。 それにしても、ヤツは躊躇いもなくナイフを投げつけてきた。そ れを意味するのは⋮⋮ ﹁如何理由を持って妻を傷付けようとする。コレは宣戦布告か? 黄の国から来たのは、侵略者なのですか⋮⋮結構。﹂ 今だ止まらない血は多分ナイフに何か術でも掛かっていたのだろ う。普通の刃物ならザックリ切れはしない。何せ鋼みたいに頑丈な 肌だから。掠り傷は出来るだろうけど、それも直ぐに治る。 ﹁レン血が止まらない⋮﹂ ﹁大丈夫。ラン、気を付けて︵ヤツは子供でも容赦しない。いや、 子供をいたぶるのが好きな人種だ。︶﹂ 一番関わりたくない分類のヤツだ。何より、私を狙わず、藍苺を 攻撃してきた。自分で言うのも何だけど、女顔の私よりも、そりゃ あアイツは私の顔を知っていたのもあるかもしれない。けど、女の 藍苺を意図して狙ったのは⋮⋮気に入らない。 ﹁痛いですか。そうですよね。妖怪でも傷が治りづらい⋮⋮辛いで すか? もっと痛がってください⋮⋮﹂ 予感は的中⋮コイツ加虐趣味の変態だ。 446 それにしても、ヤツも馬鹿である。術を施した物は術を操るもの が見れば誰の術か解るものだ。それも、これほどの強力な術は一発 で判別できる。それを敵に向かって投げるなんて⋮⋮証拠を渡すよ うなもんだよ。お・ば・か・さ・ん♪ だから絶対に離さない。コイツらが逃げてもこのナイフが証拠に なるから。 まぁ⋮此所から逃げられたらだけどね♪ ﹁全く、倬柏。お前はこんな幼児に手こずっているのですか⋮⋮。 ああ⋮そうだ。コレに注目を﹂ 今まで気付かなかった、ヤツの左手に何かを持っていた。なんだ ろう嫌な予感がする。 ﹁この汚ならしい犬なんて⋮⋮どうでしょう。﹂ ﹁⋮⋮クゥ⋮⋮⋮﹂ ﹁兄上⋮何ですかその汚ならしい犬は。﹂ ﹁!!ポチッ!!﹂ ﹁何であんなに⋮ボロボロ⋮﹂ 447 そこにはボロボロのポチの姿が。今までどんなことがあってもそ んなに怪我をしなかったポチが、ボロボロの羽根、ポタポタ落ちて いる水滴は血⋮⋮ あぁ⋮ポチ⋮お前今まで闘っていたんだ。 お前はホントに⋮⋮⋮⋮ッ ﹁⋮⋮なせ⋮﹂ ﹁はい? なんですか。﹂ ﹁レン?﹂ ﹁私の眷属を放せっ、下衆が⋮﹂ 何が沸々と沸き上がってくる。きっとコレは怒り、憤怒の方が正 しいか。それにしても、憤怒が心の中をグルグル回るのと同じ程心 が冷えていく⋮⋮ ﹁放せと言ったのが聞こえんのか。兄弟揃って私の神経を逆撫でし たいとみえる⋮⋮﹃放せ﹄﹂ 448 ああ⋮⋮心がどんどん⋮⋮冷えていく⋮⋮ 449 フラグ回収は命懸け︵後書き︶ コウレン 遂にキレた紅蓮は果たしてどうなるのか。 450 新たな力はフラグの香り︵前書き︶ ランメイ 今回は藍苺視点です。ちょっとシリアスかも。 451 新たな力はフラグの香り コウレン ランメイ 紅蓮がキレた。どうも、一応ヒロインに分類される藍苺です。前 世男だけどな。 ランメイ 原作では根暗だ、卑屈だ、泣き虫だと散々な言われようの﹃藍苺﹄ に転生してはや八年。まさか声を演じたキャラに転生していたなん て露にも思わなかった。⋮⋮まぁ多少卑屈な考えかたをしてると自 覚しては⋮いる。 今思えば色々ヒントはあったのだろう。気が付かなかったなんて とんだ間抜けだな俺。 コウレン そんな根暗な嫌われ姫のキャラ通りに紅蓮と偽装だが結婚をして、 のんびり暮らしていた。まぁ、前から目を付けられてた伯父の変態 ロリコンが襲来したのは嫌な思い出だが。 その事件以来修行をレンと一緒にやったり、畑仕事に、少しだが、 家事の手伝いもしたりと実際はとても充実した日々を送っていた。 レイシュン 白の国に居たときは何もすることがなく毎日が暇で仕方なかった。 シュリ そしてレンの父親・朱李が現れ、レンの母親・麗春と和解した。 それを機に一緒に暮らし始めた。何だか懐かしさが⋮⋮ それにしても、いつ喧嘩をしていたのやら⋮ 452 そんな平和な日々をぶち壊したのは、俺が倒れた事から始まった。 何でも呪詛にかかったらしい。 レンは俺を救うため微量ながら妖力を俺に流したらしい。それと なく後から教えられた。実は血を分け与えて仮契約しようとしたこ とも。後から謝られた。別に気にしてないんだけどな。 その妖力を流がす過程でどうやら精神が俺に引っ張られた様で、 レンは俺の夢に現れた。本人は自分が本物だと隠していたが、バレ バレだった。 悪夢で変態ロリコンに追いかけられていた俺に叱咤。それと、気 絶させた変態の顔に落書き︵それも、どこから出したか油性マジッ クで︶し俺の中にあった変態ロリコンの恐怖心を失笑に塗り替えた。 コウレン ホントに紅蓮には頭が上がらない。世話になりっぱなしだ。 話が長くなった。元に戻そう。 何が言いたかったと言うと、今までレンは怒っていても表情があ った。そしていつも終いには笑っていた。どこか人を馬鹿にした様 な笑顔で相手を挑発、嘲笑、相手を油断させ、敵の弱点を突く、そ んな奴だった。 いつも最後に﹃大丈夫だよ嫁さん♪﹄なんて心配させないように 配慮したり⋮⋮だが、完全に⋮ 453 ﹁︵レンの表情が消えた︶﹂ 多少無表情になることもしばしばあった⋮⋮が、ここまで酷い無 表情は無かった。 本気でヤバい⋮。こんな時下手に声をかけないようにと麗春さん に言われている。それは、レンの受け継いだ血筋の問題なのだ。 コレは紅蓮本人もまだ知らされていない事なのだか、レンの祖父 こんとん は九尾狐だったらしい。コレは別になんの問題もない。祖母の血筋 が問題なのだ。 しきょう きゅうき とうてつ とうこつ 四凶というのを知っているだろうか。それは四体の妖怪、渾沌、 窮奇、饕餮、檮?と言うとんでもなく強力な妖怪の総称なのだが⋮ ⋮。レンの祖母がその四凶のひとつ、窮奇の血を引いているらしい。 そう言えば、中国の⋮⋮古い書物にのっていた気がする。内容は あまり覚えていないが、確か竜の子供だとか、何とか云々⋮⋮ 窮奇、それは虎の体に大きな鳥の翼を持つ大妖怪で、風を司る力 を持つ。更に、怒りに我を忘れることもあるらしい。その血を色濃 く引いているらしい、それも怒り心頭な今のレンはとても危険なの だ。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹃放せ﹄﹂ 454 ﹁⋮⋮⋮ッ!﹂ 声にエフェクトがかかっているのが何よりの証拠らしい。何でも、 風を操る際に声に妖力を乗せて風を操るのでエフェクトがかかって 聞こえるのだとか。 力のある妖怪や術者はその声だけで実行力のある﹁命令﹂で人を 操ることも簡単に出来るようだ。 まさにファンタジーの世界だな。俺にとっては現実だけど。 ﹁﹃放せ!﹄﹂ ﹁あ、兄上、放した方が⋮⋮﹂ ﹁ふ、フフフ⋮⋮残念ですが、この家畜は貴方の眷属ではありませ んよ。今はもうね。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁︵馬鹿だ、本物の馬鹿だ。弟よりもこの兄馬鹿だ。︶﹂ レンの忍耐力を試しているのか? このままでは危ない。コイツ らの命が。 ﹁兄上! 止めましょう、何だかあの目は⋮⋮﹂ ﹁何を言っているのです、この機会ですから授かった力を試してみ ようではないですか。﹂ 455 あぁ⋮コイツは力に酔っているのか。貰った力を試したくて仕方 ない子供なんだな。 ﹁いいですか、この家畜は私の隷属になったのです。さあ﹁家畜﹂ お前が盾にるの⋮﹂ ﹁煩い⋮⋮﹂ ボロボロのポチをまるで物の様に扱っているアイツには怒りしか 湧かない。 ﹁あ、あ、あ、⋮﹂ ﹁どうしたのです倬柏。まぁそこで見ていなさい⋮この家畜にアイ ツらの攻撃の盾になってもらいま⋮﹂ グッタリしたポチを俺たちの方へ投げ飛ばそうとするが、不意に レンの無傷な方の腕、左手をアイツ等にかざす。すると⋮⋮ ヒュッ⋮⋮ボッォ! ﹁熱ッ!!﹂ ﹁ヒッ!﹂ ﹁ポチ!?﹂ 何とレンはポチに向かって火球を放ったのだ。ポチはレンの放っ た火球で燃えている。馬鹿兄はポチを放して手の火傷を確かめてい る。 456 ポチは今だ燃えている。 ﹁レン⋮⋮﹂ 今のレンに果たして理性はどれ程残っているのか。もしかすると、 もう⋮⋮ ﹁貴様∼∼許さぬッ!!﹂ ﹁待って下さい兄上﹂ ﹁煩い! あの化け物ッ⋮殺してくれる!﹂ メキッ⋮ビリッ⋮⋮⋮バサッ!! ぶぁっッと生暖かい風が吹く。 ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ 何とレンの背中に⋮⋮白い翼が生えていた。そういえば、初めて 狐耳と尻尾が生えた時に麗春さんが翼もその内生える的な事を言っ ていた気がする。それに窮奇も翼が生えた虎の姿何だし、翼が生え ても別に不思議じゃないな。 ﹁何と面妖な⋮﹂ ﹁やはり、狙うなら⋮⋮﹂ 何かを呟いていた馬鹿兄は俺を見てニヤリとした。コレは嫌な予 感が⋮⋮ 457 ポチは今だ燃えている。 ﹁フフ⋮⋮死ね!!﹂ ﹁兄上?﹂ ﹁ッ⋮!!﹂ 左側から何が⋮妖気が膨れ上がった様だが、今は目の前の光景が 目から離れない⋮⋮あの馬鹿兄は俺を狙っているようだ、勿論殺す ために。あのさ、お前ら結局何しに此所に来たんだよ。 あぁ⋮俺は死ぬのかな。レンのように何か術を操れるわけでもな し、レンの両親︵父親の朱李さんは知らないけど︶の様に戦闘経験 者でもない。出来るのはちょっとばかし馬鹿力を出せることくらい。 こんな状況で何が出来るのだろうか。 あぁ⋮コイツも火球で攻撃するつもりなのか。痛くなければいい な⋮⋮。痛いのは嫌いだ。死ぬなら痛みが無い方がいい。 早くレンの両親が来ればいいけど、最悪このままではコイツは死 ぬな。あの二人今どこに居るんだろ。もしかしたらコイツが何かし たのか? 火球が目の前に迫ってきた。走馬灯なんて浮かばないけど、目の 前のものが遅くみえるのは本当だったのか⋮⋮⋮。 458 その時俺が見た最後の色は綺麗な白だった。 459 死亡か?フラグか?シリアスか?︵前書き︶ 注意! 最初に鬱な展開があります。そんなの見たくないよって方は遠目に スー⋮と飛ばしてくださって下さい。 460 死亡か?フラグか?シリアスか? 私の嫌いな色⋮⋮⋮ ﹁やーい、真っ白∼。﹂ ﹁気持ち悪いんだよ∼!﹂ 周りの人達より白い肌⋮⋮ ﹁年寄りみたいだ、気味の悪い⋮⋮﹂ ﹁ヤダ、本当に真っ白⋮﹂ 周りの黒より目立つ白い髪⋮⋮ ﹁何あれ⋮血みたいな目。﹂ ﹁気持ち悪い。﹂ 461 血のような赤い目⋮⋮ どれも嫌いな色。どれも嫌われる色。そして私の持つ色。周りと は違う、とても目立つ色。 ﹁コレだから父親の分からない子供は⋮﹂ ﹁お爺さんそんな事を言うもんじゃないですよ⋮﹂ 唯一の家族の母親ともまるで違う外見。自分の全てが嫌で堪らな かった。 ﹁気にしないの⋮⋮コレは個性なのよ。﹂ 私の存在が母親の足枷になっているのが、堪らなく嫌だった。 私の最も嫌な記憶⋮⋮確か8歳の時の記憶。とても寒い冬の季節 だった。その当時はお母さんは私の父親ではない人と結婚していた。 462 その人は私にとってはよく会うおじさんだった。 初めてあったのは⋮⋮⋮5歳くらいの時だったハズ。小さい頃は 色んな所に連れていってくれた。けれど、私が成長するにつれてあ まり会わなくなった。仕事柄移動が多くて家に居ることが無くなっ たから。 私の人生が変化したのは、そのおじさんの実家に住むことになっ た時だった。 一応祖父母になる二人にあった。始終ニコニコしていて⋮⋮正直 気持ち悪かった。我ながら嫌な子供だったものだ。 けれど、酒臭い奴なんて好きになれないよ。昼間から酒飲んでる なんて⋮⋮今まで会ったことない人種だったから戸惑っていたのも ある。 ニコニコしているのは祖父の方。祖母は無表情のまま微動だにし ない。話し掛けると数秒してから﹁何?﹂と返事をするけど、心此 所にあらずのままで、正直どうすればいいのかよくわからなかった。 母親も仕事に行っているので祖母と家で留守番が多くなった。二 人でいる時は話し掛けても普通の受け答えで、楽しかった。トラン プやカルタなんか室内で出来て二人で遊べるもので遊んだりした。 祖母と祖父がはまだ若いので祖父は仕事に行っていた。 463 その時だけは楽しかった。 段々と祖父が家に居ることが多くなってきた。仕事を休むことが 多くなっていき段々と本性も見せ始めた。 学校から帰ると酔い潰れて茶の間で寝ているのがざらになってい った。 ある日だ、酒を飲んで泥酔していた祖父がクダを巻き始めた。祖 母は無表情になっていった。気に入らなかったのか祖父は矛先を私 に向けた。 ﹁何を見ている、生意気なガキがっ!!﹂ テーブルに置いていたガラス製の灰皿が飛んできた。頭に当たっ たがこぶが出来ただけで済んだ。 祖母は目が合ったが知らん顔で黙っていた。 その日を境に祖母は何があっても助けてくれないと幼いながら悟 った。 祖父は母親の前ではまだ猫を被っていたが、とある切っ掛けで化 けの皮を剥いだ。おじさんが、音信不通になり始めたのだ。 464 出張で家に居ることが全く無くなった。祖父はそれを皮切りに色 々と騒ぎ始めた。 休みの日や学校帰りの夕方にテレビを見ていると怒り出すのだ。 ﹁いつもいつもテレビなんか見て、ガキが見るもんじゃない!!﹂ 私が見ていたのは、情報番組やニュース何だが、何が言いたかっ たのだろう? またある時は氷点下の真冬にストーブを付けようとすると、 ﹁お前に使う灯油は無い。付けたかったら金を払え﹂ 小学生に言う台詞なのか? まともな小遣いも貰ったことの無い 私にどうしろと? 言った本人は家の中なのに防寒具を着ていた。ちょっと狡くない か。 だから寒いのも嫌いだ。 母親が居てもイチャモンをつけ始めた。 やれ、何か物が足りなくておかずが一品減ると、 465 ﹁何でおかずが少ない!﹂ ﹁材料が無いから⋮﹂ ﹁ロクな物も作らないで無いだと!﹂ ろくに家にお金を入れない人に言われたくはない。給料を全て酒 代につぎ込んでる祖父は生活費を入れなくなった。おじさんも生活 費を入れなくなった。母親が全て払っていた。それなのにこの仕打 ちは無いだろう。 ﹁電気代が払えない! 一体何につかっている!﹂ ﹁食費分と生活費、それとこの子の学費で手一杯ですよ。水道は何 とかなりますけど、ガス代も何とか⋮⋮けれど電気代は無理です。﹂ ﹁俺に払えってか!? 冗談じゃない。俺はお前たちお荷物を家に 置いてやっているんだ、それくらいお前が払うのは当然だ!﹂ 何も払わずなにもせず、酒ばかり飲んでいるコイツは何がしたい のか分からなかった。 祖母は相変わらず無反応。一度祖母が祖父に怒鳴られていた時、 母が助けに入ることがあった。その時祖母の行動は⋮⋮ 逃げたのだ。私と母が怒鳴られているのに。何事も無かった様に 散歩をしていた。 466 歪んだ家だと思った。こんな所に居たくなかった。 事件が起きたのは、真冬。 この日は休みで朝から雪が降っていた。きっと茶の間はストーブ も焚かずにとても寒いだろう。正直起きたくはない。けれど、起き ないといけない。茶の間に居ると﹁またストーブ焚いてるのか!﹂ と難癖つけたあげくストーブを持ち去っていく。付けていないのに。 なのに居ないと﹁ガキはまだ寝てるのか!﹂と怒鳴りこんでくる。 私は6時には起きているのに⋮ 寝室にもストーブはある。けれど灯油代がかかるので付けない。 母は付けなさいと言うけれど、着替えるだけなんだから要らない。 布団から出て気づく、頭が痛い。鎮痛剤あったかな? 母と同じ寝室なのでさっきまで母が寝ていたであろう布団が畳ん である。母は5時半には起きている。祖父達は5時には起きて朝食 を食べている。そしていつも祖父の怒鳴り声がしているハズだが⋮ ⋮今日はとても静だ。 残り少ない鎮痛剤を持って茶の間に向かうと、変な音がした。茶 の間方だ。 467 ドスッドスッ⋮と、音がする。茶の間を覗くと祖母が座っていた。 そして祖父が立ちながら何かを蹴っていた。母だった。 ﹁う゛あ⋮ぁぁぁ⋮⋮キァァァァァァァァァァァ⋮ぁぁ゛﹂ ﹁煩い! 止めろ!﹂ 頭が痛い⋮頭が痛い⋮頭が痛い!! そこで記憶が抜け落ちている。気がつくと知らないベットの上に 寝ていた。母が心配そうな顔でこちらを見ていた。 それから祖父に会っていない。母はもうあの家には帰らないと言 った。後から知ったことだが、祖父が今までしていた事はほぼ全部 証拠があって警察に捕まったらしい。祖母は捕まりはしなかったが、 正直会いたくない。母はおじさんと離婚して慰謝料を貰った。少し しか貰えなかったと後から聞いた。 それからミケに会ったり、色々あった。 ********** 468 そう、だから白も赤も嫌いな色。 ハァ⋮⋮嫌な事を思い出した。 ポチは今燃えている。私が炎を放ったから。でも勘違いしないで ほしい。私はポチを殺したい訳ではない。 ポチは今あの馬鹿兄に使役されている状態だった。だから奴に命 令されれば私達に攻撃するしかないのだ。例え本人︵狼︶に意思に 沿わなくても。 だから私は炎で守ったのだ。え? 守れてないだろ? ポチをよ く見てよ。 生の生き物がそんなに勢いよく燃えるわけ無いでしょ。 はい? あぁ∼術なら高温で燃え続けるだろう? うん、そうだ ね。なら、もうとっくにポチは燃え尽きてるよ。よく見てよ。動か ないけど燃え尽きて無いでしょ。毛皮も無くなってないし。 私は九尾狐だよ。狐火で守ることなんて造作も無いのよ。なんて ね、血の滲む努力をしたから出来るんですよホントはね。 469 このあとポチをどうするかはもう考えてあるから心配しないで。 ポチは死なないよ。てか、死なせない。 どうやら馬鹿兄は頭に血が登った様だ。かなりの短気だな。そん なんで宰相息子が勤まるのか? 次期宰相候補さん? 弟は馬鹿ではあるけど、兄よりはまだ空気読めるみたい。それな ら本気で兄を止めろよ。半殺しにされてもいいの? ランメイ 馬鹿兄はどうやらまた藍苺を狙うつもりだ。奴の右手に微弱な妖 気が集まり始める。本来なら微弱な妖気では人を攻撃することなど 出来ない。精々軽い火傷が精一杯だろう。 何だろう⋮⋮背中が熱い⋮⋮ メキッ⋮ビリッ⋮バサッ⋮⋮ はははは⋮⋮翼が生えたよ⋮⋮ おっと、話が逸れたね。 けれど奴は火傷では済まない程の術を完成させつつある⋮⋮何か 補助しているものがあるのか? ニヤリと笑う奴は私が気づいてないと思っている様だ。バ・レ・ バ・レ・だ よ。 470 ランメイ 火球を作り出し藍苺に向けて放つ。 マジでコイツは根性ネジ曲がってるね。10歳にも満たない子供 を術で攻撃しようとするなんて。 相手の攻撃の瞬間が攻撃のチャンス。相手は術を放つ瞬間気を抜 く。今回はそこスキを突くことにする。ちょっとばかし幼稚な作戦 だが、場合によってはアイツ等は不利になる。 ﹃︵縛︶﹄ 奴等に捕縛の術をかけて身動きを封じる。ホントはね、もっと早 くにかければ良かったんだけど⋮⋮まだ上手く使えなくて、相手が 動いているとかけられないんだよね。しかも二人同時は更に難しい。 だからに時間がかかってしまった。 藍苺なんてさっきからあんまり喋ってないよ。ごめんね、正直余 裕がないんです。 藍苺に向かって飛んできた火球は思いの外強力で今の私がシール 471 ドを張ったとしても、防ぎきれない。何より時間がない。ごめんね、 藍苺。 前に体を大事にしてとか言ったのに、私が一番大事にしてないよ ね。何より⋮⋮ 自分を盾にすること、本当ゴメン。 背中に新たに生えた翼はどの程度盾になるか分からないけど、藍 苺に直撃を避けられれば良い。翼を越えて来た炎は私の背中に当た るだろう。最悪火の粉が掛からないように、服に燃え移らないよう に狐火で私と藍苺を覆ってしまう。 狐火は温かく感じる程度、もちろん私が攻撃したいときは敵を燃 やすことも出来る。そんな便利な狐火で炎から守る。炎に炎は効か ない。なら、最初から狐火で防げば良いと思うでしょ? でもね、奴の放った火球はちょっと防ぎきれない。 狐火は普通の火よりも高温に出来るけど、高出力の火の玉なんて ね防げない。まして炎は物質ではないので物理的な︵火球は妖気で 物理的な物に変化している様だ。そうでなければ地面に穴なんか空 かないとマミィが言っていた。︶攻撃を防げはしないから。 472 余談だけど、狐火で守っている状態の時に敵ないし他人が狐火に 触れると火傷するよ。 背中に何か大きな岩が当たったような衝撃がきた。どうやら翼は 掠めただけで済んだ様だ。不思議と痛みがなかった。翼で藍苺を包 む。その時初めて自分の翼を見た。真っ白の翼をしていた。まるで 天使⋮⋮黒が良かったのにな。 よく見ると肩に掛かった自分の髪も真っ白になっていた。まるで 前世の色と同じ。 ﹁︵あぁ⋮また嫌いな色になってしまった。︶﹂ 髪の色が変わったのなら、目の色も変わってほしいものだ。赤の ままなら前世と同じになってしまう。それは少し嫌だった。 今の事は全て一瞬の出来事だったが、それが全てスローモーショ ンに見えた。そしてふと、藍苺と目が合った。どこか諦めているよ 473 うな目が驚いているようだった。 後ろで何かが動く気配がしたので、藍苺を抱き締めその上から翼 で包んだ。そしてそして狐火の出力を上げて⋮⋮そこで意識を飛ば してしまった。 ********* ﹁何てこと⋮⋮⋮⋮﹂ シュリ コウレン 突如結界に空いた穴を修復するため朱李と二手に別れて行動して いた。そして家の方角から不穏な気配と暫くしてから紅蓮の凄まじ い妖気を感じた。森全体がざわめく程の妖気⋮⋮やはり紅蓮は普通 474 の妖怪とは違うのか。 ヤタガラス ﹁八咫烏、コウちゃんとランちゃんは無事なの?﹂ 森全体まで見渡す能力を持つ八咫烏に聞くと、 ﹁解りません⋮⋮何かに阻まれて何も見えないのです。﹂ ﹁お力になれなくてすいません﹂と返ってきた。不味いわね、コ ウちゃんも今はそれほど力をコントロール出来ていないのに⋮⋮何 よりも危険なのは侵入者よりも暴走したコウちゃん自身。 ﹁︵ランちゃんにはコウちゃんの受け継いだ力を教えてるけれど⋮ ⋮心配だわ⋮︶﹂ 正直な話、侵入者がどうなろうがどうでも良いの。でも暴走した コウちゃんがランちゃんを傷付ける事が心配なのよ。コウちゃんも 傷付くしランちゃんも傷付く。良いことなんて無いわ。 ﹁八咫烏、朱李は今どこに居るの?﹂ ﹁ここより北東の結界付近に居ます。ん、今移動をし始めました。 方向は⋮⋮若様の居る方角です。﹂ ﹁そう、ありがとう八咫烏。貴方は監視を続けて。﹂ ﹁御意﹂ 475 朱李も気づいた。それもそのはず、先程のコウちゃんの妖気は余 程の馬鹿で無い限り誰でも気がつく程強力だった。森の狂暴な魔物 たちも身を隠す程の⋮⋮ 急いであの子達の所に行かなければ! ********* 原作を知っていたのにあのKY王子⋮⋮今は王か、に捕まり封印 されていた。全く自分が情けない。 漸く生まれた息子の紅蓮と原作通りに結婚していた藍苺と、そし て前世でも恋人だったレイとほのぼの過ごせると思っていたが、侵 入者にぶち壊された。 ﹁少しここの警備は手薄なんじゃ⋮﹂ 476 結界に空いた穴を修復するため二手に別れて、さっき修復を終え た。そしたら今度は紅蓮の妖気が爆発的に増した。これは何かあっ たと今そちらに向かっている最中だ。 どうやら二人は家の近くに居るらしい。そして近くには誰か知ら ない人間が二人居るようだ。差し詰侵入者だろう。 レイから聞いたが、紅蓮は確実にレイの血筋を両方とも引いてい るらしく、おまけに俺の血まで受け継いだ様だ。だが不思議と力の 暴走は今まで無かった。だから今回のこの妖気には驚いている。一 体あの子に何があったのか⋮⋮心配だ。 きっとレイも今頃こちらに向かっていることだろう。俺の方が早 く着きそうだ。 家の前に着いて唖然とした。 侵入者と思われる二人組が蝋人形の様になっていた。どうやら紅 うずくま 蓮に何か捕縛術でも掛けられた様だ。しかし俺が驚いたのは、その 近くに蹲り燃えているポチと、藍苺を庇うようにして倒れている白 い翼を生やした紅蓮がこれまた燃えていたことだ。 477 先ず紅蓮達を確める。すると燃えているのは狐火だと解った。狐 火は対象を燃やすことなく炎から守る事も出来るとレイが言ってい た。どうやら二人にはこれといった命に関わる怪我は無いようだ。 紅蓮は右手に刃の部分しか無いナイフを握り絞めていたが、これ はおもしろい⋮⋮ なんと、このナイフに掛けられた呪いが紅蓮に効いていないのだ。 握り絞めているにも関わらず、傷が治りかけている。 次にポチの様子を見ると、外見はやはり燃えていないが、身体中 に傷があり、翼もボロボロになっていた。しかし、ポチとて妖怪。 この程度なら直ぐに治るだろう。それにしても⋮⋮ じゅ ﹁ポチにヘンテコな呪が掛かっていたようだが⋮⋮解けている⋮﹂ この元の呪は隷属の呪だろう。他人の意に反して操るえげつない 呪だ。きっと紅蓮の狐火の方がこの呪を掛けた奴よりも強かったの だろう。 さて、 ﹁こんな事を仕出かしたんだ、ただで済むとは思っていまいな?﹂ 固まったままの侵入者二人に告げる。どうやら動けないだけで意 478 識ははっきりしているようだ。視線だけこちらを向いている。 目は口ほどにものを言うと言うが、ホントのようだ。こちらを向 いて命乞いでもしているのだろう。 ﹁安心しろ、殺しはしない。そう、殺しは⋮な。﹂ 殺してしまっては面白くない。それにこの二人がどこの誰か突き 止めて⋮⋮ ﹁︵この二人に呪をした者を特定しないと︶﹂ どう見てもポチの隷属の呪を出来るようには見えない。それに結 界に穴を開けることなど到底出来ないだろう。 レイが知ったら⋮⋮ ﹁︵先の変態襲来事件の時の怒り様は⋮︶﹂ あの時は恐ろしかった。久しぶりに見た昔の片鱗がちらついた。 昔の誰かがレイに着けたあだ名は﹁狂乱の乙女﹂だった。厨二で嫌 だと言っていた。 いずれにせよ、コイツらの心配はしないがな。 479 480 死亡か?フラグか?シリアスか?︵後書き︶ 481 反省と言ったら丸刈りフラグでしょ?︵前書き︶ 勢いだけで書いてます。後からちょこちょと修正していくと思い ます。 482 反省と言ったら丸刈りフラグでしょ? ランメイ 目が覚めると⋮⋮嫁さんもとい藍苺の顔がドアップでした。何々 何なの? コウレン どうも、絶賛混乱中な紅蓮です。 ところで、今どんな状況?なして嫁さんが一緒に寝るのですか。 何々、私って夢遊病なのか? いつも別々の部屋ね寝てますよそりゃ。偽装夫婦ですからね。そ れに、私の寝相悪いし⋮⋮。 いやいや、そんな事を言ってる場合じゃないよ。何があった⋮⋮ 状況確認 狐になって元に戻る ← 侵入者襲来 ← わー、コイツ、何時ぞやの勘違いナンパ野郎だ。しかも宰相のど ら息子だし。 ← 証拠? ゴメン破けましたけど何か? 483 ← 兄が登場。コイツは加虐趣味の変態ですねわかります。 ← ポチボロボロ⋮⋮︵多分ここらで私キレたね︶ ← 良くわからんけど、翼生えた ← またもや嫁さんに攻撃を仕掛けてくる ← 捕縛術でカチンコチンのオブジェの完成 ← 嫁さん庇って失神⋮⋮ うん。一先ずあの二人に一言。 ざまぁwwwww そして何気に未だ嫁さんを抱き締めたままの状態。どうしましょ ⋮⋮嫁さんは未だ夢の中。気持ち良さそうに寝てますよ。どうにか してこの場所から移動しないと⋮。それに起きたいし⋮⋮。 最悪、目を覚ました嫁さんに悲鳴をあげられて平手打ちなんか御 免だよ。まぁ嫁さんなら悲鳴と言っても﹁キャー﹂じゃなくて﹁う わ!﹂とかもしかすると﹁!!﹂だけで終わる気がする。嫁さんが ﹁キャー﹂何て言ったらちょっと⋮⋮引きはしないけどね。 484 平手打ちで済めば良いけど⋮⋮。 ﹁嫁さんなら絶対グーで殴るよきっと。﹂ どうにか嫁さんを起こさずに下敷きになっていた腕を抜くことに 成功して、さあいざ起きようとすると⋮⋮髪を一束嫁さんに掴まれ ていた。 正直、起きようとした時に首がガクッてなったのはとても痛かっ た∼。結構な強さで掴まれていた為に手から髪は抜けることなくし っかり掴まれたまま。良く起きなかったね嫁さんに。もしかして寝 汚い? どうしよ⋮⋮服なら脱ぐなり切るなり出来たけど、髪は正直切り たくない。だってベットに落ちたら掃除大変じゃないか。 幸い髪は長いので慎重にベットから降りるとは出来たけど。さて、 485 これからどうしたものか∼。 ﹁ん∼∼⋮⋮ん?﹂ おや?どうやら嫁さん起きそうだ。 そう思いながら床に座りベットに背中を預ける。動ける範囲はこ のぐらいだけ。 ﹁早く起けなくても良いから⋮⋮髪を離してよ⋮﹂ ﹁ん⋮⋮んあ?⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂ あ、起きた。 ﹁おはよう⋮⋮昼だけど⋮⋮⋮ところで⋮﹂ ﹁⋮⋮はい?﹂ ﹁髪、離して?﹂ まだ寝惚けてる嫁さんに言ってみるが⋮⋮理解してる? ﹁髪の毛。嫁さんの右手に掴んでる物だよ。﹂ 486 ﹁⋮⋮⋮あ﹂ 何で髪を掴んでるだよって顔で私顔を見て、掴んでる右手を見て を繰り返すこと三回⋮⋮見過ぎでしょ⋮⋮。 やっと理解した嫁さんが髪を離す。そしたら今度は私に詰め寄っ てきた⋮⋮ホントにどうした? ﹁怪我は!﹂ ﹁はぁ? 怪我?﹂ ﹁右手の傷! 大丈夫なのか!?﹂ 右手の傷?⋮⋮⋮あぁ、ナイフ掴んだ時の傷ね。そう言えば⋮⋮ ﹁治ってるよ。﹂ ﹁さすがチートだな﹂ ﹁チートじゃなくて母さん達が治したって事もあるけど?﹂ ﹁あ、確かに⋮けど、レンはチートだ。安心しろ。﹂ 一体チートな事のどこに安心すればいいんですかね。 ﹁まぁ一先ずリビングに行こうか。状況確認も兼ねて。それにお腹 すいたし。﹂ 487 ︶﹂ ﹁お前ってそういうところ頼もしいよな。︵能天気とも言うけど⋮﹂ ﹁酷いな私が能天気なんて︵・ε・` ﹁うわっ!!!︵゜ロ゜ノ︶ノ﹂ こちらから顔を近づけるのは駄目なんですか。顔を真っ赤にして 後ろに下がる。ちょいと待って、嫁さん。それ以上下がると⋮⋮ ガシッ! ﹁ハイ待って、それ以上下がると落ちるよベットから。﹂ ﹁ふえ?⋮え?⋮⋮⋮⋮あ、うん。ありがと。﹂ いやいや⋮何コレ∼。ラブコメじゃないんですけど⋮⋮何? え? ﹁嫁さん⋮⋮熱でもあるんじゃ⋮まだ休んでた方が良いよ、うん。﹂ 赤いし、顔。 ﹁⋮⋮⋮コレは熱のせいじゃないぞ。﹂ うん。知ってる。恥ずかしいんでしょ。 ﹁えっと⋮⋮コレはなぁ、﹂ ﹁私が女顔だから赤くなった?﹂ ﹁///////﹂ 488 ﹁︵あ、図星︶﹂ 面白いな∼。いやラブコメじゃないんだって。 ﹁ほらほら∼早くリビングに行こうよ。お腹すいた。﹂ 強引に軌道修正してリビングに向かう。私がからかったから脱線 したんだけどね。 フフフ⋮⋮だって嫁さんからかうと面白いんだもん。 リビングに入るとソコは⋮⋮⋮ 489 ﹁修行中の坊さんがズラズラ居るんだけど⋮⋮坊主だけど。﹂ ﹁︵ズラって言いたいのか?坊主だけどズラってか? いや考えす ぎか。︶﹂ 坊主頭の妖怪達が正座して反省中の様だ。マミィが仁王立ちで腕 を組んでいる。顔は⋮⋮般若 コウレン ﹁紅蓮?﹂ ﹁スイマセン、チョウシノリスギマシタ。﹂ おっかない⋮⋮マミィおっかない。 ﹁分かれば良いのよ⋮﹂ マミィお得意のニッコリ笑っていても目だけ笑っていないが炸裂 した。 ﹁流石﹁狂乱の乙女﹂。その名は伊達じゃないな﹂ ﹁やめてちょうだい厨二みたいな呼び名﹂ ﹁﹁狂乱の乙女﹂?﹂ ﹁せめて淑女にすれば良いのに∼。﹂ ﹁そこじゃないぞ紅蓮。でも確かに⋮﹂ ﹁朱李!﹂ ﹁悪い⋮⋮﹂ 490 ﹁で? 何この坊主集団は﹂ ﹁妖怪なのに坊主頭⋮⋮何で?﹂ ここに集まって正座している坊S⋮⋮坊主達は、マミィ直轄の特 殊部隊ヤタガラスの上位隊員の皆様⋮⋮獣の姿の時は子供程しかな い身長が今は人間の姿でいる。リビングは広いが、邪魔でしかない。 ﹁邪魔だよね、獣になった方が良いよ︵その方が可愛いし︶﹂ ﹁︵獣の姿の時は可愛いのか? ならその方が良いな⋮︶﹂ 何より、坊主頭がゾロゾロ正座してるとなんだか⋮⋮邪魔でしか ないホントに。 ﹁ねえ何で坊﹁クァン!!﹂グフッ⋮⋮ちょ、鳩尾に入った⋮⋮﹂ ﹁クオン!キューン、キューン⋮⋮﹂ 頭を鳩尾辺りで刷り刷り⋮⋮正直苦しいですポチよ。 ﹁ゴホッ⋮ポ、ポチ⋮ちょ、ちょっとタンマ⋮ゲホッ⋮⋮ふぅ⋮⋮。 ポチ、大丈夫だったんだね。怪我は?﹂ ﹁お前こそ大丈夫かよレン⋮。ポチ⋮お前も元気そうで良かった。﹂ スゴい勢いで飛んできたポチは、どこも怪我をしていなかった。 翼もボロボロではなく⋮⋮ ﹁ポチ⋮お前は今でもポチのままなんだな?﹂ ﹁キューン⋮クァン!﹂ 491 ﹁お前の狐火が隷属の呪を解いたんだ。俺が着いたときには解けて たよ。﹂ ﹁そうなのよ。あっ、そうそう、あの二人に捕縛術を掛けたのコウ ちゃんでしょ? 良くできてたわ∼。だって私でも解けないのよ∼。 で?﹂ ﹁え?﹂ ﹁スゴいな⋮⋮いつ掛けたんだよ。﹂ ﹁⋮⋮掛けた⋮⋮ような気がする。﹂ ﹁﹁﹁おい!﹂﹂﹂ ﹁きゃん!﹂ いや、必死だったからさあの時は。時間設定何て面倒なこと、そ れも二人同時に掛けなきゃいけなかったから⋮⋮手加減なんてして なかったよ。 ﹁手加減無しだったから最悪死んでたかもね。アイツ等。ちゃんと 生きてる?﹂ ﹁しぶとくね。﹂ ﹁何で手加減しないと死ぬんだ?﹂ ﹁そういえばランは教えてもらってなかったね。あのね⋮⋮﹂ 捕縛術の原理はこうだ。 妖力を自分の声に上乗せして相手の耳から直接脳に命令をしてい 492 る⋮⋮らしい。解明はされてないけど、そうらしい。 ﹁だからキチンと条件を限定しないとただ﹁止まれ﹂では﹁体の動 きを止める﹂のか﹁体の機能を止める﹂のか分からないでしょ? だから頭の中で﹁体の動きを止める﹂と思いながら﹃止まれ﹄って 言わなきゃいけない。要はイメージ。﹂ ﹁なるほど。なら極端な話、﹁水﹂と言いながら﹁炎﹂をイメージ すると⋮⋮どうなるんだ?﹂ ﹁ん⋮⋮どうなるんだろ?やったこと無いから解んない。まだ攻撃 術知らないし。﹂ ﹁それならやってみたこと有るわよ。﹂ ﹁そういえば昔のよく実験してたな。﹂ そんでその実験体になっていたのは父さんですね分かります。き っと火の玉の的になったり、水浸しにあったり、電気ビリビリ⋮⋮ マミィならやりそうで怖い。 ﹁それで結果は?﹂ ﹁それがね⋮⋮どっちもどっち出たのよ。﹂ ﹁﹁はい?﹂﹂ あれ、意外な解答⋮⋮どっちもなんだ⋮⋮。 ﹁何て言うのかしら⋮⋮そうね、水が出てき炎で蒸発したみたいな 493 のよ⋮﹂ ﹁それって複合術なんじゃないの?﹂ ﹁なんかそれっぽいのあったなゲームで﹂ あ∼、あったあったそれっぽいの。﹁熱々の湯気﹂ね。あれって 使いどころ微妙だよね。水と炎はお互いに弱点だけど、水と炎の特 性を両方持ってるからどっちにしても威力半減⋮⋮まぁ敵に全く効 かないわけではないから使えるけど。でもそれなら弱点属性の術を パーッと盛大に使った方がいい気もする。 あ、でも周りに水も炎もごっちゃ混ぜに魔物が居たら⋮⋮いやで も、それならいっそのこと無属性の上位術をぶっ放せば⋮⋮ ﹁レン、それはキリが無いからやめろ﹂ ﹁それもそうだ。﹂ 要は好みだね。使う術は。 ﹁ところで何で皆正座してるの? ヤタガラス上位隊員勢揃いで﹂ ﹁あぁ⋮⋮良いのよ、気にしないで﹂ コウレン ﹁紅蓮ソコは気にするな。﹂ ﹁はい?﹂ 494 レイシュン シュリ ﹁︵気のせいか?麗春さんと朱李さんから黒いオーラ的な物が⋮⋮︶ ﹂ ﹁クゥーン﹂ ん∼∼。何で坊主になってるのかな。ま、いっか。あ、そうだ。 ﹁ねえ、あいつらは?﹂ ﹁え? あいつら?﹂ ﹁ほら、ヤタガラスの下っ端隊員の﹂ ﹁⋮⋮あぁ、アイツ等なら⋮﹂ ﹁﹁﹁﹁﹁若∼!!﹂﹂﹂﹂﹂ ﹁むっ、見切った!﹂ 上から落ちてくるやつらを避けると、そのまま床に次々落ちてき た。 ﹁ふみゅっ!﹂ ﹁うぎゃ!﹂ ﹁ぶふぅっ⋮﹂ ﹁きゅー⋮⋮﹂ ﹁とうっ!﹂ 以上、下っ端達によるトーテムポールの出来るまででした。引っ 掛かると思ってたのか。 495 ﹁若が避けた∼﹂ ﹁重いよ∼﹂ ﹁⋮⋮痛い﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁着地成功。﹂ 弱冠意識ない奴が居るけど⋮⋮大丈夫? ﹁いつも元気ね∼﹂ ﹁賑やか担当なんだな⋮﹂ ﹁トーテムポール⋮だな﹂ ﹁クゥ?﹂ ホントにね。 ﹁で、お前たちの先輩達はどうして坊主になってんだ?﹂ ﹁あ∼、あれね⋮。俺が話すよ。あれは⋮⋮﹂ 要約すると、私たちの近くに居たらしいヤタガラス上位隊員が私 たちを助けないで記録ばかり録っていた為にマミィの琴線に触れて しまい⋮坊主になってしまったらしい。 ﹁ふ∼ん。あの場に居たんだ⋮。気づかなかった。﹂ ﹁ならポチがボロボロになった所も見ていたんだな⋮⋮﹂ ﹁ウゥー⋮﹂ ﹁うん。そゆこと。俺達も助けようとしたんだけど⋮﹂ ﹁邪魔だって﹂ 496 ﹁丁度いいって⋮﹂ ﹁そのまま見てろって﹂ ﹁ミノムシみたいになってたの∼﹂ 詰まり、私たちを助けようとしたが、先輩達にミノムシみたいに 縄でグルグル巻きの逆さ釣りにされてた⋮⋮と? ﹁大体あってるぞ紅蓮。俺が助けたからなそのちびっこ達は。﹂ ﹁詰まり⋮この坊主頭になって正座しているのは自業自得なんだね。 ﹂ ﹁﹁﹁﹁﹁うん。﹂﹂﹂﹂﹂ ﹁﹁自業自得。﹂﹂ ﹁クゥ?﹂ なるほどね∼。でもさ、 ﹁ここに正座してると邪魔だよね。﹂ ﹁︵レン⋮お前のこの辛口は無意識か?無意識なのか!?︶﹂ ﹁確かに⋮﹂ ﹁そうだな。邪魔だな。﹂ 今の一言で⋮なんだか坊主集団が更に小さくなっていく様に見え る。余程反省してるのかな? ﹁︵いや、お前の一言が追い討ちを掛けたんだ︶﹂ 497 そんなことよりも、 ﹁︵そうだな、コイツらには少し⋮⋮な。︶﹂ ﹁あの二人組⋮⋮宰相の息子達だよね。弟の方は私をナンパした奴 だし。長男は何かと問題を起こすって有名なサドだよね?﹂ ﹁そんな話は初耳だ。紅蓮アイツにナンパされたってホントか!? よし、今からちょっと父さんアイツ絞めてくる。﹂ 何故か息巻いている父さん⋮⋮。 ﹁いいよ別に。アレって病気みたいなモンだし。絞めたところでど うにもならないよ。それよりも、弟のタクハクなんかは単なる馬鹿 だから良いけど、問題は兄の⋮⋮名前なんだっけ?⋮⋮いいや、変 態兄で。で、その変態兄は術師の才能何て無いのにポチに隷属の呪 を掛けたことだよ。どうなってんだか⋮⋮﹂ ﹁そうね、それに結界に穴を空けたのは彼等の力では無いわ。だっ てあり得ないもの⋮⋮白の王宮に居る王宮術師でも歯が立たない結 界なのに⋮⋮﹂ ﹁あぁ、それも2つ同時に穴を空けたんだ。相当な力を持ってない と無理だな。﹂ ﹁アイツ等ってどのくらい強いんだ?実際には﹂ ﹁そうだね∼。ポチでも歯が立たないくらい弱い。本来ならね。﹂ ﹁そうね、ポチがボロボロになるなんて本来ならあり得ないもの。 なんたって天狼は妖怪の中でもトップクラスの強さなのよ。それを なんの知識も、力も、努力もしてない貴族のボンボンが勝てる相手 498 ではないわよ。﹂ ﹁同じ土俵にすら乗っていないからな。﹂ 随分な言われようだけど、実際その通りなんだから仕方ない。ポ チの強さは折り紙つきなのだから。 ﹁ポチって可愛いからそんな風には見えないけどな⋮⋮そっか、強 いんだな∼ポチ。﹂ ﹁きゃん♪﹂ ﹁だとしたら∼∼やっぱり誰かがあの二人に力を貸したってことだ よね。﹂ ﹁ええ、それしかないわね。﹂ けど、だとすると⋮⋮、さるお方が黒幕か。 ん?いや待てよ。こんなケース前にもあったぞ。 499 反省と言ったら丸刈りフラグでしょ?︵後書き︶ 書いてる自分でも多少混乱していおります。 500 名探偵が居るならフラグの謎も解いてください︵前書き︶ 謎が謎を⋮⋮呼んでないです。ただ作者の私が混乱しているだけ です。すいませんm︵︳︳︶m 501 名探偵が居るならフラグの謎も解いてください 未だ正座で反省中のヤタガラス上位隊員を背景に、私たちは今回 の襲撃について考えていた。 ﹁ねえ、そう言えば⋮あの変態ロリコンと被害妄想女はどうやって 結界を通ってきたの?﹂ ランメイ あの時は藍苺の事で手一杯でそんなに気にしなかったが、色々と 謎があった。 先ず、アイツ等はどうやって結界抜けて侵入してきたか。だって アイツ等は⋮と言うか、あの被害妄想女は王に手紙を頼まれてここ に来る手筈だった。ソコにあの変態ロリコンがオマケに付いてくる 事に⋮⋮もうこの時点でおかしい。 。けれど、実際に来たのはあの被害妄想女 だって、マミィは王と盟友なのだ。王の手紙ならもっと信頼でき るベテランを選ぶはず もとい女術師。実力派なのは分かるが、些か役不足が否めない。私 の独自の考えだが、マミィは専用の連絡方法を持っているのではな いか? 何より、今まで連絡係が家に来たことなど無かった。 まぁ、私が気づかなかった何て事も有り得るが。 ハヤブサ 伝書鳩等鳥が運んで来るのなら全く気付かないだろうし。私宛に 来た手紙は隼が持ってきたものだった。 502 ﹁そうだった!あの二人⋮⋮特に女術師の方は実力派でも有名なの よ。あの変態ロリコン殿下はあの通り。けどね、色々と問題を起こ して謹慎中だったらしいのよ。しかも、手紙を頼まれてここに来た って言ってたけど、実際王の手紙は無かったのよ。﹂ 王の手紙が無かった? ならなんのために? 他人 ﹁彼女、何らかの暗示を掛けられていた様なの。﹂ 身内 ﹁暗示? 穏やかじゃないね。﹂ ﹁いったい誰が? 国内か、それとも国外?﹂ アイツ ﹁誰か特定できないのか? 白の王なら確実に犯人を特定してるだ ろ﹂ ランメイ うん。あの王様ならしらみ潰しにでも犯人特定するだろうね。何 せ、﹁最愛の妹の娘﹂の嫁さんの一大事だったからね。 ・・ ﹁それが出来なかったのよ。痕跡は跡形もなく⋮⋮どんなに些細な 事も見逃さないあの大賢者でも犯人を特定出来なかったのだから。﹂ ﹁御手上げか⋮﹂ その大賢者がどれ程スゴいか何て知らないけど、私よりも実力者 の両親がそう言っているのだからホントに痕跡が無かったんだろう。 ここで私の仮定を話しておこう。 もしかすると、この﹁妖怪恋舞﹂の世界を元に作られた世界は、 ﹁原作のシナリオ﹂とは必ずしも同じとは限らないのではないか。 503 或いは、同じにしようと﹁世界のプログラム﹂が何処か、或いは誰 かに作用して元の流れにしようとするのではないか。 ﹁原作のシナリオ﹂とは違う未来もあり得るのなら、今の状況は その証拠にもなるはず。何せ、﹁紅蓮の母親﹂は未だ生きている。 それに、原作の中盤で要約封印が解ける﹁紅蓮の父親﹂はもう封印 が解けている。 しかし、もしも﹁世界のプログラム﹂が元の流れに戻そうとする としたら⋮⋮ 父さん そして、気掛かりなのが側室舞子が言っていた﹁神様﹂の存在。 もしこれが舞子の言う、私や朱李を助ける事が出来るなら⋮⋮原作 とは違う未来も有り得る。 だけど、その﹁神様﹂が不安要素だ。もしもただの愉快犯で、自 分が面白ければ良いと言う奴なら⋮⋮ もし、舞子の思い通りの世界を望んでいるのなら⋮⋮ どちらも願い下げだ。 さて、話を戻そうか。 ﹁あのさ、八咫烏が洋館の結界を空けたでしょ。アレって母さんが 許可してたの?﹂ ヤタガラス ﹁いいえ⋮⋮してなかったわ。ねえ八咫烏、貴方どうやって結界空 けたの?﹂ 504 バサバサッ!? ﹃主、わたしは結界を空けてはいません。勿論解いてもいません。﹄ ﹁ならどうやって⋮﹂ ﹃分かりません﹄ 八咫烏⋮⋮また訳のわからない事を言い始めたの? お前は前科 があるから容赦しないよ⋮⋮ ﹁やぁ⋮八咫烏。元気?。それに頭の毛も元に戻り始めたみたいで ⋮⋮。それで? 何か隠してないよね?﹂ ﹁どう言う事だ﹂ ﹁八咫烏⋮貴方何を隠しているの﹂ ﹁︵俺、話についていけない⋮⋮︶﹂ ﹁クーン⋮⋮︵わたしもです︶﹂ おいてけぼりの嫁さんとポチの為に解説を。 先ず、八咫烏の台詞﹁あの小娘は災いを呼ぶ﹂と言う発言。八咫 烏は本来そんな能力は無い。それは母さんに確認は取ってる。八咫 烏の能力は千里眼のみ⋮⋮他にも有るようだが、未来を透視するこ となど出来ない。 ﹁詰まりね、八咫烏が嫁さんの身に起きることも知るはず無いし、 505 洋館の結界を空けられもしない。﹂ 言ってて自分も結構混乱しているのよ。 ﹁あ、そうね⋮⋮私は八咫烏に結界を開く許可を出してないわ。だ から開けられない。けど、何故かランちゃんに何が起きるかまるで 知っているような言い方ね。﹂ ﹁まぁ、単なる憶測でしかないけどね。そこんとこどうなのさ八咫 烏。﹂ ﹃⋮⋮⋮﹄ ﹁そう、またハゲになりたいんだね⋮⋮それとも? 首から上が無 くなっても良いのかな♪﹂ ﹃⋮⋮⋮私が仕えるのは主です。貴方ではない。﹄ ﹁なら母さんに言いなよ。私はその内容は聞かないから。判断は母 さんに任せるよ。それならいいでしょ?﹂ ﹃⋮⋮御意﹄ 全く、変なところで頑固なんだから⋮。 八咫烏は母さんの肩に泊まり耳元で囁く。そして話終わった時、 母さんは頷いた。 ﹁分かったわ。八咫烏はホントに知らないのよ。でも犯人らしき人 物は見たのよ﹂ 506 ﹃主、それ以上は⋮ ﹁いいのよ。それでその人物は⋮⋮⋮﹂ 母さんは一拍おいて静かに告げた。 ﹁私だったのよ﹂ ﹁はい?﹂ うん・・・・・・は? ﹁八咫烏⋮⋮何でそんなことで黙ってたの。﹂ もっとスゴいことだと思ったのに⋮⋮。大したこと無かった。 ﹁なんだか拍子抜けしたな。﹂ ﹁まさかだと思うけど、それで母さんに疑いがかかると本気で思っ たの?﹂ ﹁無い。それは無いだろ。まだ会って日の浅い俺でも分かる。﹂ ﹁キャン!﹂ 507 ﹁﹁﹁そんな性格じゃない。﹂﹂﹂ ﹁クォーーン!﹂ そんなまどろっこしい性格なわけ無いでしょ。マミィだよ。影で グチグチ言う位なら正面切ってガツンと言うお人ですよ八咫烏さん。 ﹁前から思ったけど、八咫烏ってホントに母さんの事信用してるの ?﹂ なんだか疑ってばかりなんじゃ? ﹃私は主が無事ならそれでいいのです。﹄ ﹁分かりやすい解答アリガト。﹂ 詰まりは例え母さんに嫌われても無事なら良い。そんな主贔屓な んだね。 ﹁八咫烏⋮⋮一言言っておくわ。今度私の家族⋮勿論ランちゃんも ね。が、危機的状況になっても見逃すなら⋮⋮貴方の使役関係を解 消するわよ。良いわね。﹂ ﹁ちょっとパピィ⋮マミィが怖いよ﹂ シュリ ﹁︵え、パピィ?パピィて俺の事だよな︶そうだな⋮﹂ ﹁でもソコに惚れたんだな朱李さん。﹂ ﹁そうなんだよ⋮⋮て、おい、なに言わせる﹂ ﹁へー⋮パピィはドMなの? 因みに私はSだから。あ、でも嫁さ ん苛めたりしても楽しくないから安心してね。﹂ 508 ﹁﹁︵果たしてそれは安心できるのか︶﹂﹂ 失礼な⋮ただ単に自分の所為で嫁さんが泣くのは嫌なだけ。だか らと言って誰かに泣かされてるのも嫌いだから。今度誰かに泣かさ れでもしたら⋮⋮さて、どうしようかな♪ ﹁分かった、八咫烏。次は無いわよ。﹂ ﹃ぎ、御意﹄ あの八咫烏が涙ぐんでるし∼。どれ程マミィが怖かったのか。分 かるよその気持ち。私も敵に回したくないもの。 で、 ﹁母さん、そろそろ種明かししても良いんじゃないの? 側室舞子 ⋮の計画とかさ﹂ ﹁﹁!!﹂﹂ 何でそんな事を知っているって顔をしている。両親揃って口が空 いている。クッキーかポテチでも入れたいねその口。 ﹁この前⋮⋮藍苺が呪詛に掛かった時、あの時眠っちゃって。その 時夢にしてはヤケにリアルな夢を見たんだよ。ねえ、アレって八咫 烏の能力で見ていたの?﹂ 例え未来は見えずとも遠くの出来事は見える、それが千里眼とい う能力だ。きっと何らかの偶然で波長が合ってしまい意識が同調し 509 たのかも知れない。 ﹁はぁ⋮⋮コウちゃんには隠し事は出来ないわね。﹂ ﹁誰に似たのやら﹂ ﹁スゴいな⋮俺なんて何がなんだかさっぱりだ。﹂ ﹁いや、ただの当てずっぽですけど?﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁マジ?﹂ ﹁うん。マジ。﹂ ﹁はぁ∼∼。﹂ 根拠なんて名探偵じゃ無いんだから、無いよ。 ﹁ぶっちゃけさ、側室舞子が何らかの外的要因でこの世界にトリッ プしてきたんでしょ。で﹂理由は知らないけど、私達も何らかの要 因、または何者かの所為で転生何てのも有り得るよね⋮。 ﹁誰が?﹂ ﹁⋮⋮神様とか?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 黙り決め込んだ両親。それって肯定だよね。 510 ﹁ねえ、どうなのさ。私達は誰かに無理矢理転生させられたの?﹂ ﹁⋮⋮そうよ。﹂ ﹁はぁ⋮あぁ、そうだな。お前の言った﹁神様﹂の所為だ。﹂ 難しい話になったので簡単に纏めると、 今から23年前、突然転生した母さん達は最初黒の国に居たらし い。初耳だ。そしてここが自分達の作ったゲーム﹁妖怪恋舞﹂の世 界にとても似ている事に気付いた。3歳の時らしい。5歳の頃親の 伝で黄の国の下級貴族の養子になってゲームの世界とどれだけ同じ か確かめていたらしい。 そんな時諸国漫遊と言うなの放浪をしていた白の現在の王様と出 合い三人で意気投合⋮⋮何かしたよねこの三人⋮⋮絶対何かやらか してそう。 図らずもそれが原作と同じか流れになってしまったけどね。皮肉 だ。 てか、父さんと初めから一緒に居たんだね。幼馴染みだった。そ れにしても、黄の国の貴族だったお祖父さんは血の繋がりが無かっ たのか⋮⋮薄々気付いてたけどさ。 そして原作通りに父さん捕まって⋮⋮あの状況になったのか。 ソコで原作と違う動きをする人物が居たんだね。 511 え∼と⋮⋮ ﹁それが側室舞子だった。て、こと?﹂ ﹁そう、彼女明らさまに可笑しな行動をしてたのよ。そりゃ気付く わよ⋮⋮﹂ ﹁怪しいので八咫烏に監視をさせていた。﹂ ﹁ソコで独り言のように﹁神様﹂とか、﹁トリップ﹂とか、そんな 単語が出てきたら黒でしょ?﹂ ﹁もう真っ黒だね。﹂ ﹁︵誰もいなくても独り言で重要なこと喋るなよ⋮⋮︶﹂ 皆半目で呆れ顔だ。 ﹁それでね、どうも﹁神様﹂って一人じゃないのよ。﹂ ﹁は? それって⋮﹂ ﹁俺達は舞子とは違う﹁神様﹂に転生させられたようなんだ。﹂ う∼んまたしても超展開⋮⋮。 512 名探偵が居るならフラグの謎も解いてください︵後書き︶ もっと利口になりたい⋮⋮もう手遅れか⋮⋮ 513 フラグを建てるのは神様の仕業?︵前書き︶ 色々矛盾ごあると思いますが、すいません限界です⋮。 514 フラグを建てるのは神様の仕業? 側室舞子側の﹁神様﹂と私達を転生させた﹁神様﹂は別神だと分 かった。 ﹁けどさ、舞子側の﹁神様﹂が、舞子の思い通りにするためにトリ ップさせたのは良いけど︵良くは無いけど︶、私達を転生させたの は何でだろ。邪魔な私達をわざとらしい転生って事でしょ。﹂ ﹁そうだよな、舞子側の神様が不利になる。てことは、舞子側の神 様と仲違いでもしてるのか?﹂ その仲違いで転生させられたこっちの身としては迷惑極まりない。 てか、迷惑でしかない。 一体何で仲違⋮⋮仲が悪いのか、喧嘩なのか知らないけど、他人 を巻き込むなよ。 ﹁一度ね、夢に誰かが出てたのよ。多分彼がそのどちらかの神様だ ったのよ。﹂ ﹁俺も見たんだ。だが、レイの言う特徴と違うから⋮⋮別の神様だ ったのだろう。﹂ ﹁何か話がまた着いて行けない⋮⋮﹂ ﹁んー、でも嫁さんまだマシだよ。トーテム⋮じゃない、あいつら 寝てるもん、ずいぶん前から。﹂ そう、下っ端隊員達は話に着いてこれなくて眠っていた。正座中 の坊主集団もうとうと⋮しているが、足の痛みで眠りこける程では 無いようだ。 515 ダメだぞ、眠ったらマミィの雷が落ちるやも知れないから。 ﹁静かだと思ったら⋮⋮﹂ ﹁ぐっすりだな。﹂ 丸くなって寝ている姿はとても可愛い。大きめの猫や犬が一ヶ所 に固まって寝ているのはなんとも微笑ましい。 ﹁オホンッ⋮⋮詰まりは今回の襲撃も、前回の襲撃も、側室舞子が 絡んでいる⋮⋮と、言うことでいいの?﹂ ﹁そうね、なんだか幼稚過ぎるけれど⋮⋮その線が一番濃厚ね。﹂ ﹁だが、他に犯人はいるかもしれないな。﹂ ﹁何でその側室はそんな事するんだ? バレたら自分の身が危ない ことは分かるだろ。﹂ ﹁バックに大物が居ると人って有頂天になるものだよ。特に彼女は 大雅のハーレムendを望んでた。その大雅を利用してこの世界の 支配者にでもなるつもりなんじゃないの?﹂ そう言うとランは顔をしかめた。分かるよその気持ち。 ﹁自分の子供を道具にしてるのか?﹂ ﹁今はまだそんなに口出ししてないと思うよ。けど、それもソロソ ロ時間の問題かもね。仕掛けて来たなら尚更⋮⋮﹂ 516 ランメイ きっと側室舞子は原作のシナリオ通りにしつつ、邪魔な者は消す つもりなのかも知れない。 ﹁ん?何でだよ⋮﹂ ﹁よく思い出してみて。﹃藍苺﹄の生い立ち。それにキャラ設定で、 ﹃過去の事件で心に深い傷を負う﹄ってあったでしょ? それに、 私の死亡フラグをへし折る簡単な方法も有るしね。かなり気に入ら ないし、そんな方法望まないけどね。﹂ あんなこっちから方法願い下げだ。 ﹁そして今回の襲撃は﹁九尾狐の呪詛を解く為の討伐﹂だったのか も知れないよ。それにしてはお粗末な討伐隊だけどね。﹂ あの宰相の息子達を寄越したのは、邪魔な者を消すために丁度良 い捨て駒だろう。宰相にとっても頭の痛い息子達だろうから。あの 陰険ジジイならやりかねない。 それに変態兄は幼い子供をいたぶるのが好きなのだ。私や藍苺が 居れば⋮⋮殺されても不思議じゃない。 出来の良い末息子⋮⋮私に言わせれば、3番目の息子が中々の曲 者だと思うけど、3番目はマトモだからなぁ⋮父親の事大ッ嫌いだ からその内家を飛び出すんじゃないか? えっと⋮宰相のジジイが末息子が出来が良いとか自慢してたんだ けどね、実際はジジイに従順なだけなんだよ。アイツが宰相を継い だら本当に国は潰れるよ確実に。 それを見越して奴等を寄越したのなら⋮⋮ 517 私を助けるだなんだ言っていた割りには随分とお粗末な⋮⋮殺さ れても良いと思い直したか? ﹁︵ただ単に忘れていただけの様な気もするけど⋮⋮︶﹂ そんな事を考えている間に話は進む。 ﹁ランちゃん⋮よく聞いてね。﹂ ﹁それに、この世界はゲームじゃない。﹂ ランメイ ﹁何だよ皆改まって⋮⋮﹂ ﹁藍苺⋮⋮⋮私の死亡フラグは、原作のシナリオでは⋮⋮みんな藍 苺繋がりの物なんだ。﹂ 藍苺を庇って死ぬのが半数、その他の藍苺を助けに行って死亡が 3割、残りは二人揃って死亡⋮⋮確かに死亡フラグのデパートだ。 しかも、死亡のレパートリーも豊富にあるので⋮⋮止めよう⋮う ん。 ホントは言うつもりは無かった。けれども秘密にしているのは今 後どんな事態を招くか分からない。最悪知らぬ内に何か良からぬフ ラグを建てかねない。それは回避したい。 ﹁勘違いしないでね、私は誰かの為に命を棄てることなんかしない 518 から。︵それは単なるエゴでしかない︶﹂ 誰かの為に命を投げ棄てるのは、エゴでしかないと私は思う。遺 された者はどんなに哀しいか⋮まだ私には分からない。けれど、そ んな思いを藍苺にさせたくない。だから私は理不尽なシナリオ通り になど死んだりしない。死んでたまるか。 ﹁⋮⋮俺はシナリオをあまり覚えてないんだ。だから教えてくれ。 だから⋮⋮何がなんでも回避しよう紅蓮。﹂ ﹁最初からそのつもり♪﹂ そんな新たな決意表明をしているとちょっと静かにしていた両親 達が⋮というかマミィが、 ﹁二人はいつも通りにしててくれて良いのよ? あの側室舞子は私 が成敗⋮⋮どうにかするから♪﹂ ﹁うん。これはマジギレだな。﹂ ﹁当たり前よ。あの舞子とは怨念⋮⋮いえ、因縁が有るんだから!﹂ ﹁燃えてるね、いつになく⋮⋮﹂ ﹁何かなったなコレは。﹂ まぁ、側室舞子のお陰でその他の側室達は私達親子を総攻撃して いたから⋮⋮も有るのだろう。それとも、私が生まれる前に何かあ ったのだろうか? ﹁あんの性悪⋮⋮私のお茶に毒を盛ったのよ。それもウンッと強い やつ⋮。それも妊娠中によ。なに考えてんのかしら!!﹂ ﹁なんだって! やっぱりあの王宮を消し炭にしていればよかった か⋮⋮﹂ 519 いやいや⋮⋮、もうどっちに突っ込んだら良いのか分かんないか ら。ツッコミ不在なんだから手加減してよ。 いや、違う違う、私までボケてどうするよ。二人とも穏やかじゃ ない事言ってるよ。どうすんだよ。一人でも止められないのに∼∼ ﹁父さん、母さん⋮⋮﹂ ﹁︵そうだ、言ってやれレン!︶﹂ ﹁殺るなら気付かれないように徹底してね♪﹂ ﹁レン⋮⋮お前もか﹂ 無理です。ごめんなさい。この二人止めるなんて無理だからね。 あっ、そうだ。 ﹁八咫烏二人を止めてね♪総動員で。勿論下っ端は除外いね。歯が 立たないから。﹂ ﹃若、我らとて歯が立ちません。﹄ そんな事は知ってるよ。だからね⋮⋮ ﹁ガンバ︵*^ー^︶ノ♪﹂ まさか私が助けるとでも思ったのかい?悪いね、私執念深いから ⋮⋮。 ﹁⋮⋮嫁さんの事で仕出かしたこと⋮⋮まだ許してないから⋮⋮ボ ソ⋮﹂ 520 特に、 ﹁食器なり、仕掛けた縄なり、嫁さんに怪我させたこと⋮⋮知って るからね♪﹂ フフフフ⋮⋮どんな理由でも理不尽な一方的な攻撃は赦しはしな い⋮⋮ ﹁分かった?﹂ ﹃御意⋮⋮﹄ 次やったら⋮⋮ハゲでは済まないよ八咫烏。 ﹁なぁ、今何か言ってなかったか?﹂ ﹁八咫烏に母さん達止めてね⋮って言ってきた。﹂ ﹁ん、そっか⋮。止められるのかアレ。﹂ 坊主集団が母さん達を止めにかかっている⋮⋮しかしチート夫婦、 大勢︵32人︶をものともせずにズンズン進んでいく。このままで は本当に黄の国を壊滅しかねない。 ﹁︵でも、あのまま滅ぶのも⋮⋮いや、国民達が可哀想だな。︶﹂ ﹁︵ソコじゃない⋮⋮いや、あってるのか?︶﹂ ﹁で、俺達が何かしなきゃいけない訳じゃないんだ?﹂ 521 ﹁そうよ。﹂ ﹁なにもしなくても良い﹂ ﹁元から邪魔なんてしないよ。﹂ てか、巻き込まれたくないだけなんだけどね。 ﹁ねえ母さん⋮私さ15歳になったら独立するから。﹂ ﹁﹁え゛?﹂﹂ 両親揃って間抜けなお顔になってますよ∼。 ﹁⋮⋮俺も連れてけよ。﹂ ﹁ある程度強くなったらね。﹂ その一言で眉間に皺を寄せて不機嫌になる嫁さん。ダメだよそん な顔しても、妥協はしません。 ﹁何で⋮﹂ ﹁だって、いつでも一緒に居れる訳じゃないでしょ?﹂ そう言ったら、不貞腐れた顔で納得していた。 ﹁だからね。嫁さんが15歳になるまで待ってるから、それまでに 私も色々準備するから。 実は前から考えていた。こうすれば家族全体が良くなると思うの 522 だ。特に、 ﹁白米をイッパイ食べれるようにしたい!﹂ ﹁﹁﹁!!!﹂﹂﹂ 実は、米がとても高くなった。しかも、醤油は三倍に跳ね上がっ た。味噌は元から無かったし。ここ二ヶ月前から急激に上がってと てもじゃないが毎日米なんて贅沢ができない。コレは由々しき事態 だ。 日本人として20年生きてきたのだから、味覚も日本人が未だに 抜けないのだ。 白米食べたい!味噌!醤油! 卵かけご飯食べたいよ∼∼!! ﹁白米⋮⋮﹂ ﹁卵かけご飯⋮⋮﹂ ﹁味噌汁⋮⋮﹂ とても切実だ。 ﹁だからね、私達で作れば良いと思うのよ。何年かかっても⋮⋮そ の為に私は稼ぎに行きます。﹂ それに、ここに居るから狙われるんだ。もっと手を出せない所に 居れば良いんだよ。 ﹁でもコウちゃん、私達で作るにしても限度か⋮⋮﹂ ﹁あぁ、だった4人で出来るか?﹂ 523 ﹁⋮⋮力仕事はできるけど⋮他はちょっと不安だ。﹂ 何を勘違いしてんだか。なにもたった4人でやろうなんて言って ないよ。 ﹁みんなでやるんだよ。この土地に居るみんなで!﹂ 妖怪達だって美味しいもの大好きなんだから手伝ってくれる奴も かなり居ると思う。 あいつら ﹁みんなに聞いてみれば良いよ。みんな米が好きだからね。﹂ ﹁器用だからな妖怪達 ﹁ん∼∼でもねぇ⋮⋮その為に何れだけお金がかかるか⋮⋮﹂ ﹁ん∼。そんなにやってみたいならやってみれば良い。﹂ そのつもりですから。元から両親任せにするつもりは無いよ。 ﹁お金がかかるかのは想定内。だから母さん、薬の調合を本格的に 教えて下さい。父さん、狩りの仕方を教えて下さい。独りでも仕事 が出来るまでお願いします。﹂ ********* 524 レンが二人に頭を下げている。二人に教えてもらうために。 ﹁︵また俺は置いてけぼりになる︶﹂ 驚いた。そんな事をレンが考えていたなんて知らなかった。それ も、俺はある程度強くないと置いていかれるようだ。 そんなのは嫌だぞ。誰かに負けるのも、誰かに置いていかれるの も。何より、いつまでもおんぶにだっこは嫌だ。 ﹁俺も、闘う術を⋮⋮生き残る術を教えて下さい。﹂ こうして俺とレンは特訓に新たな項目を増やしたのだった。まさ かあれほど血反吐を吐くとは思わなかった⋮⋮。 し実際修業中に吐血してのはみんな驚いたが⋮⋮。 525 ちょっと一息つきましょうか、ねえ嫁さん︵前書き︶ ちょっと説明回。久しぶりのほのぼのかな? 526 ちょっと一息つきましょうか、ねえ嫁さん ランメイ ふぅ⋮⋮。緑茶片手にこんにちは。嫁さんコト藍苺と3時のおや コウレン つを兼ねて休憩しております。周りの状況に置いてけぼりを喰らっ 嫁さんも飽々し ております。一応主人⋮だと良いのかな?な紅蓮です。 ﹁正直もう麦ご飯は嫌だ。﹂ ﹁文句言うなら食べなきゃ良いでしょ。﹂ もう二ヶ月以上マトモに白米を食べていない。 ているようだ。 ﹁まぁ、後⋮⋮数年の辛抱だよ。気長に行こうよ。﹂ ﹁う゛ー。﹂ どうも嫁さんの前世の家は和食中心の生活だったらしくて和風の 料理を作ったらすごく喜んでいた。 ﹁︵正直泣いてたのには引いた⋮⋮︶﹂ 和食中心のなのはその筈、家は古くからある呉服屋らしい。へ∼。 私は着物なんて着たこと無かったからどんなのがあるのかちょっと 気になる⋮⋮。 ほら、着物って高いでしょ。だから成人式もいかなかったんだよ ね。着物きれないから。その日丁度バイト入ってたし。 ﹁気長に⋮⋮。ハァ∼∼⋮無理かも。﹂ 527 ﹁ハハハ⋮ドンマイ︵*^ー^︶ノ﹂ ﹁殴りて∼⋮﹂ とか言いながら殴らないじゃない。お人好し。 ﹁ところでさ、昨日の話は結局どうなったんだ?﹂ ﹁あー⋮。﹂ 分かるよ⋮⋮付いて行けなかったよね。 ﹁うん。まぁ⋮⋮黒幕は側室舞子かその後ろに居る﹁神様﹂で、私 達は他の﹁神様﹂に勝手に転生させられた。母さん達は側室舞子を どうにかするから、私達は勝手にしてて良い。って話だったんだよ。 ﹂ ﹁かなり端折ったな。あ、でも少し理解できた。﹂ ﹁それは良かったよ。私も説明は苦手なんだ。﹂ 教師という仕事は本当に大変なんだね。ごめんね前世の担任⋮⋮ 散々数学を赤点とらないように補習をしてくれて⋮⋮。 ﹁でも何でここから出ていくんだ? ここの方が安全だろ?﹂ ﹁そうでも無いよ。ここは見渡す限り人が居ないからね。何かあっ ても誰も気付かない⋮⋮。﹂ ﹁⋮⋮考えてみたらそうだな。﹂ ﹁でね、相手は少々幼稚な作戦ばかりでしょ?だから、周りに人が 大勢居れば少しは抑止力になれば⋮⋮。ダメでも証拠が残るような 事が必ず有ると思うから、だから大勢人が居る所にいた方が有利か と思ってさ。まぁ⋮言ってる私も幼稚な考えだって分かってるんだ よ。だからね、強くないといけないんだ。﹂ 528 つまりは、標的を二つに分けてちょっとは拡散すればな∼∼あわ よくば、証拠があれば良いなんて楽観的な考えなのだ。 ﹁私ってそんなに頭よくないから⋮⋮体張ってやるしかないんだよ ね。﹂ ﹁うん。そうだな。俺もどちらかと言うと同じだな。﹂ ﹁口より先に手が出るもんね。﹂ 呆れたような顔で見てくる嫁さん。ソコは怒っても良いんだけど ね。 ﹁待ってろよ!絶対に追い付くからな!﹂ ﹁何言ってんの。もうとっくに追い付いてます。私は元々弱いんだ ; ゜Д゜︶だね。ふふふ⋮⋮面白い顔⋮ から⋮。強さは嫁さんの方が上だよ。﹂ 唖然。絵文字なら︵ ⋮。⋮⋮⋮おや? ﹁︵動かない⋮⋮︶ちょっと嫁さん?﹂ ﹁⋮⋮お前な∼⋮ソコはまだ認めるな!⋮⋮やる気が削がれるだろ ⋮⋮ったく⋮////﹂ どうやら照れていただけのようだ。可愛いな∼∼顔が、じゃなく て何て言うの、性格が可愛い。 ﹁でも油断しないでね。傲りは死に直結することもあるからね。﹂ ﹁///⋮⋮そうそう、それだよ。いつもみたいに毒吐かないと調 子が狂うだろ⋮﹂ そんなこと言うから周りから密かに﹁若の嫁なんて、マゾじゃな 529 いとなれないよ﹂なんて言われるんだよ⋮⋮あれ、これって私が貶 されてないか? あいつら⋮⋮今度おやつ抜きにしよう。 ﹁なら今度からどんどん毒吐くから!﹂ ﹁いや、程々にしてくれて⋮﹂ ところで、色んな事が起き過ぎてすっかり忘れていたけど⋮⋮ ﹁ちょいと嫁さん。今の今まで忘れてたんだけどさ、私の背中に翼 が生えたよね? アレって何だったの?起きたら無くなってたし⋮ ⋮﹂ 本当は両親に聞いた方が確実なんだけど、丁度良いから聞いてみ る。 すると﹁お前覚えてたのか﹂とでも言いたげに私を見る。あっ、 何か知ってるなコレ。 さぁ、洗いざらい話してもらいましょうかね。 ・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・ 530 キュウキ 緑茶を飲みつつ話を聞いていた。あ、このゴマクッキー美味しい な⋮また作ろ。 レイシュン ﹁⋮⋮⋮てな訳だ。麗春さんの母親が窮奇の血筋なんだ。ココに来 て直ぐ、お前病み上がりで寝てただろ?あの時に聞いた。﹂ ﹁あ∼、あの頃ね。でも、あの頃寝てなかったけど。漬け物つけた り、おやつ作ったり⋮⋮﹂ ﹁まぁそうだよな⋮⋮。﹂ ポリポリとゴマクッキーを食べる嫁さんは楽しそうだが⋮⋮ ﹁今回のクッキーちょいと固くないか?﹂ ﹁あぁ、ごめんね。キチンと計れないから勘でやってるとどうも出 来にムラができてさ。正確な秤が欲しいよ。﹂ ﹁⋮⋮お菓子って難しいんだな。俺は食べる専門だから今まで考え もしなかった。﹂ お菓子作りは正確さが命なのだ。少しでも分量が違うと失敗する ことも多くなる。この世界で秤とはとてもじゃないが買えるような 品物ではない。それにそれほど正確でもない。 ﹁それより、自分の血筋の事だろ。もっと興味無いのかよ。スゴい 反応が薄いぞ。﹂ ﹁どんな妖怪の血を引いていても自分に変わりなんてないもん。確 かに残酷さは増したかもしれないけど、本質は変わんないんだし。 翼があって便利位にしか思わないよ。厨ニじゃあるまいし⋮。﹂ 531 そう言ったら溜め息を吐かれた。この頃私に対して酷くないか? ﹁はぁ∼∼。心配して損した。﹂ ﹁心配してくれてたの? なら素直にすれば良いじゃん♪︵* ̄∇  ̄*︶﹂ ﹁今のレンの顔マジで殴りたい⋮⋮﹂ も∼、素直じゃないんだから︵≧∇≦︶ ﹁さて、ふざけるのはこの辺にして、嫁さん。豆腐食べたくない?﹂ ﹁食べたいけど⋮⋮世界に存在しないだろ。﹂ ふふふ⋮⋮実は前から試行錯誤していたのだ! ﹁じゃじゃーん♪コレなんだ♪ 取り出したのは器に入っている少し柔らかそうで形が多少崩れて いる白い物体。一見すると固めのヨーグルトに見える。 ﹁醤油は少し少ししか掛けられないけど。今日の朝早くに白の王様 が贈ってきてくれたよ。しかも薄口醤油までくれた。﹂ ﹁それって⋮⋮豆腐⋮だよな。﹂ ﹁形はまだまだだけど。味は豆腐その物だよ。﹂ はい、ッと器とスプーンを渡す。味見は事前にしているので大丈 夫⋮⋮⋮だと良いのだけど。嫁さんはどうも食に煩いところがある からね。きっとお母さんが料理上手だったのだろう。 ﹁はい、醤油。﹂ 532 ﹁ん、⋮⋮デザート感覚だな。﹂ ﹁そうだね。でも見た目に騙されないでね。柔らかくても豆腐だか ら。甘くないよ。﹂ 嫁さん甘党だから。スイーツ大好きだし。私も好きだけど、嫁さ んの甘いものに対する執念はスゴいよ。前世ではスイーツ男子だっ たのね。将来糖尿病にならないように気を付けないと⋮⋮。 ﹁うん。豆腐だな。﹂ ﹁うん。懐かしい味だよ。﹂ ニガリ 豆腐が柔らかい訳は苦汁が足りなかったせいだ。 随分と前に︵多分⋮3ヶ月程前に︶母さんに﹁海水を煮詰めて塩 を作っている所から苦汁貰ってきて♪﹂と言っていたので前からあ ったのだが⋮⋮大豆もあっていざ作ろうとしたら、結構忙しくて中 々着手できずにいた。それにキチンとした分量も知らないので手探 りでやっと豆腐らしくなったのだ。 しかし、まだ固まらないのだ。苦汁を多くすれば固まりはするが ⋮⋮味が悪くなる。今そこで足踏みしている所なのだ。 ﹁︵これ以上和食不足で嫁さんのヤル気が低下すると、修業もはか どらないし⋮⋮︶﹂ 今回は日頃頑張っていた嫁さんに、ご褒美として試作段階だが豆 腐を食べてもらうことにした。 ﹁まだ豆腐として料理に使える段階じゃないから、こんな食べ方し 533 か出来ないんだよね。﹂ ﹁でも、ちゃんと豆腐だ。﹂ 美味しそうに食べてくれて何よりだ。やっぱり誰かに美味しく食 べてもらうのが一番嬉しい。 それにしても⋮⋮ ﹁何気なく木製のスプーン渡したけど、普通に使えてるね。﹂ ﹁あぁ、特訓したからな。︵夜中まで必死になってやってたから⋮︶ けど、まだスプーンしか使えないけどな。﹂ どうやら昨晩隣の部屋から聞こえてきた怪奇音﹁ベキッ﹂やら﹁ バキッ﹂は特訓でもしていた音のようだ。ポチが始終耳を小刻みに 動かしていた。 朝御飯はパンだったので気がつかなかったよ。 流石自他共に認める負けず嫌い。そしてこうと決めたらとことん のめり込むのはスゴいよ。 ん∼∼⋮もしかすると、嫁さんの集中力不足は負けず嫌いでどう にかなるんじゃないか? でも、それが仇になって危ない目に会い そうで怖いな。 ﹁⋮⋮⋮ゴクッ⋮⋮で、今日の晩ごはんは何にすんだ? ﹁ん∼⋮、そうだね∼。大根の炒めものに、雑穀米のご飯だね。﹂ 534 ﹁肉も多少入れてくれると⋮⋮﹂ ﹁︵育ち盛りだもんね⋮︶なら、久しぶりにハンバーグにでもしよ うかな。﹂ 嫁さんの目がキラキラする。でも、悪いけど肉も節約しないとい けないのだよ。 ﹁牛肉は高いから入れられないけど、豚肉まだそんなに高くないし ⋮。でも、繋ぎを物凄く入れるからね。私も嫁さんもよく食べるし、 父さんも入れるとかなりの量食べるから仕方ない。だから肉ッ気が 無くても我慢してね。﹂ ﹁食べれるだけでもありがたいよ。繋ぎって何入れるんだ?﹂ どうやら嫁さん料理したことがあまりなく、簡単な物は作れるが、 ハンバーグとか少し手間のかかる?物は作り方を知らないらしい。 ダメだよ嫁さん。今時男女関係なく料理出来ないと、後々後悔す るからね。 ﹁さてと、ことろでさ。﹂ ﹁ん?﹂ ﹁私、12歳位になったら、家を空けることも有ると思うから、料 理出来るようになってもらうよ。﹂ 食べかけのスプーンを持ちながら固まる嫁さん。よほどショック だったのか? ﹁だからね、ハンバーグの作り方覚えてね♪﹂ ﹁あの二人に任せられないよな⋮⋮﹂ 535 何せお菓子は作れるのに料理になるとてんでダメなマミィと、そ のマミィに壊滅的とまい言われたパピィ。彼等に任せれば地獄しか 待ってない。 ﹁まぁ、基本は出来るんだから大丈夫だって。分からないことがあ れば教えるし⋮。﹂ ﹁凝ったものを作ると必ず失敗する。﹂ ん∼⋮それはちょっと見てみないとなんとも言えないね。 大体料理で失敗する人は﹁基本を知らない﹂か﹁作ったコトもな いのにアレンジする﹂かの何れかが多いと思う。 味覚が可笑しいわけではないのなら、改善は出来るもんだ。 ﹁アレンジせずにレシピ通りに作れば良いんだよ。﹂ ﹁やっぱりそうだよな。﹂ 後は集中力を切らさないことだね。料理中に鍋から目を離したま ま外に出掛けるとか論外だし。 ﹁じゃあ、修業の後で夕飯の仕度手伝ってね。﹂ ﹁ん。分かった。﹂ 536 さてと⋮⋮。私はこのあと母さんに薬の調合のノウハウを教えて もらう予定だ。気合い入れていかないと!! 537 ランメイ 研究室は危険な香り∼タイトルからしてフラグが⋮∼︵前書き︶ コウレン どんどん置いてけぼりにされる紅蓮と藍苺。果たしてどんな事に なるか⋮⋮ 今回は紅蓮しか出ません。 538 研究室は危険な香り∼タイトルからしてフラグが⋮∼ さっき振りです。今私は家より少し遠くの調合室を目指している ところです。 マミィはこの頃﹁チーズが食べたい﹂﹁味噌が懐かしい﹂﹁鰹節 ⋮⋮﹂等と言って言っていたので﹁なら、必要な菌類を見つければ 作れるかもね︵何年掛かるか分からないけど︶﹂なんて言ってしま った私のせいで﹁なら、見つけて見せるわ!﹂なんて言いはじめて 調合室で試行錯誤しているのだ。 さてと、早くも着きました。調合室。何らかの薬品で爆発なりす ると危ないので家から離れたら所にあります。 見た目は洋館に似ているけど、こっちは清潔感のある白を基調に した建物。結構大きい。 こうじきん 実はここで麹菌をマミィは増産しているのだ。そのお陰で漬け物 や、料理の頼もしい味方塩麹等ととても役に立っているのです。日 頃は依頼で薬品を調合している場所なんだけどね。 ﹁母さん∼∼⋮居るよね?﹂ 重たい扉を開けると、事務所の様な場所がある。何でもここで色 々な研究資料を製作したりするらしいが、専ら調合がてらそこらに ある紙にメモするだけで使わないのが現状なんですよ。 539 まぁ、いつもココには居ないんだよね。 それならと、奥に進む。事務所の奥には廊下があり、廊下の両側 ︶の研究室にでも居るのだろ。 には色々部署に別れた研究室がある。 きっと今は細菌類︵食品専門 ﹁他の研究室にはあまり入りたくないし⋮⋮﹂ きっと夜な夜な不気味な音を出しているんじゃない? とても恐 ろしくて近寄りたくはない。 ﹁えっと、細菌類︵食品専門︶は⋮⋮と。あっ、あったあった。﹂ そーっと、本当にそーっと開ける。前にドアを開けて驚いたマミ ィが薬品を落として⋮⋮狐耳が消せなくなって2日間狐耳を出した まま過ごすことになったのだ。それくらいなら良いけど、もっと酷 いことになるとも限らないのでそーっと開けるようにしている。 ﹁母∼さ∼ん。調合を教わりに来たんだけど∼⋮﹂ あれ?母さん居ないなぁ。おかしいなぁ⋮。ココに居ると思った のに⋮⋮。 一端研究室に入る。そう言えば、調合室なのに各部屋は研究室と 言われてるのって何か変じゃない? 母さんが言ってたから私もそのまま言っているんだよね。 540 さて、どうしよう。ココに居ても母さん来るか非常に怪しい。何 かに集中すると時間も忘れるからね。前なんて呼びに行った父さん が薬品を落として⋮⋮龍の姿を解けなくなって大変になった⋮⋮ら しい。私は見てなかったから。 そうそう、父さん白龍だったんだよ。ってことはさ、私も龍なん だよね? 九尾に窮奇って翼が生えた虎、それで白い龍と来たか⋮ ⋮。虎って龍と仲悪くなかった? ほら、虎と龍の絵とか有るじゃ ない。 いや、何でこんなにチートぽい妖怪の血を引いてしまったのか。 いやいや、違うだろ。今は母さんがどこに居るかだよ。このまま だと一日分無駄にする⋮⋮。 こうなったら最後の手段! ﹁狐耳︵+尻尾︶を出せば匂いで居場所が解る♪﹂ そんな何の根拠も無いが取り敢えず狐耳を出してみる。 ﹁⋮⋮⋮★■▽▲〓↑◎■◎☆▽←﹂ 私はあることを見逃していた。そう、ココは色々な薬品を使う研 究室⋮⋮詰まり鼻が良いととてつもなくキツいのだ! ﹁は、鼻の奥がつ∼んとする∼⋮⋮。目に染みる⋮⋮ヤバイ匂いが 分からなくなった⋮⋮﹂ 541 考え無しの自分に涙が出てくる。実際匂いで涙が出てきた。 ﹁まるで病院の匂いを100倍にして嫌な匂いにした感じの匂いだ。 う゛ぅ゛∼﹂ 偉い目にあったものだ。やれやれ⋮。 仕方がないので耳を元に戻し、﹁薬品調合﹂の部屋に行くことに する。ココに居ないならソコしか思い付かない。 案外近くの部屋なのでそんなに歩く必要はない。だが、ココは本 当に入りたくはないのだが⋮⋮仕方ない。覚悟を決めて入ろう。 ドアノブに手をかけると中から何やら音がする。なんだ母さんコ コに居たのか⋮⋮あれ? どうも様子がおかしい⋮⋮。何かをひっきりなしに割る音が今も 続いている。 嫌な予感しかしない。開ければ何かしら起きるだろう、勿論悪い 方に⋮⋮。 と、その時、 542 ズリ、ズリ、っと何かを引きずる音が近づいて来た。待てよ、こ の展開はホラーじゃないか。それにこの建物やけに薄暗い⋮⋮。誰 かの悪戯でランタンの炎でも消えたのかな? それよりも、このズリズリ何かを引きずる音が近づいて来ている 事が問題だ。コソ泥なら別に伸せば良いだけだが、もしも側室舞子 の手先なら⋮⋮ ﹁︵厄介な相手かもしれない⋮︶﹂ ココに来た刺客︵お粗末︶?はどれも失敗しているのだ。今度こ そ手練れなら、今の子供の私なら太刀打ち出来そうもない。いくら 精神年齢28と言っても所詮8歳のガキでしかない。 ﹁︵狐火でどうにかなれば良いけど⋮薬品に引火しないようにする のは大変だし⋮⋮︶﹂ そこで、そこらにある鉄パイプらしきもので武装することにした。 ﹁︵私前衛向きじゃないんだけど⋮︶﹂ どこまで出来るか些か心配ではあるが、ココに私以外居ないのだ から殺るしかない⋮⋮別に殺る必要は無いが。 覚悟を決めてドアを開ける。するとそこには⋮⋮ いたち ﹁鼬?﹂ するとソコには細長いイタチの様な妖怪が棚と壁の間に挟まって 543 いた。薬品の入った瓶は脱け出そうとしたこの妖怪が動いた拍子に 棚が揺れて落ちたのだろう。引きずる音は棚が動く音だったのか。 私に見つかったのに気付いた途端動きを止めて小さな三角の耳が クダギツネ 垂れて怯えていた。三角の耳って事は、イタチじゃないんだね。と すると⋮⋮あ、管狐か。 可哀想なので挟まっている管狐を助けることにする。それにして もどうしてこんな所に挟まっていたのか⋮⋮ふと、管狐の首に輪っ かが付いていたので触ってみると⋮⋮ ﹁﹃バチッ!﹄いッ⋮⋮なんだコレ⋮﹂ ちょっと強い静電気が指先で走った様な感じだった。それまで怯 えてきた管狐は今度は垂れていた耳をピンとして私をジッ⋮と見始 めた。 ﹁お前は何がしたいんだ⋮⋮?﹂ ﹁きゅ?﹂ あらやだ、可愛い⋮⋮じゃなくて、一応可愛くても侵入者。逃げ ないようにしとかないと。 ﹁えっと、﹃私から逃げるなよ﹄分かった?﹂ ﹁きゅ!﹂ うん分かった♪といった感じに頷いた管狐はとても可愛かった。 544 そんなことをお思いながら棚を少しずらして挟まっていた管狐を 助ける。全くどうしてこんな所に挟まっていたの?てか、どうやっ て入ったのか⋮⋮ ﹁きゅ!⋮きゅ∼?﹂ 感覚を抑えて狐耳を出して管狐が何を言っているのか聞いてみる。 可愛い管狐がオッサンみたいに喋らなければ良いけど⋮⋮ ﹁管狐⋮で、良いんだよね?﹂ ﹁はい、そうでしゅ!﹂ どうやらまだ子供の管狐だった。﹁でしゅ﹂って噛んだのか?そ れとも癖なのか? ﹁どうしてこんな所に挟まっていた。それにどうしてココに入って これた?﹂ ﹁きゅ∼⋮それはでしゅね⋮首輪をちゅけた人がココにワタチをほ うり込んだのでしゅ。人間が来たらまたいじめられると思って⋮⋮ 隠れようとしたらはしゃまって⋮⋮きゅ∼⋮⋮しゅぐに出ていきま しゅからいじめないでくだしゃい∼!﹂ ﹁いや、苛めないから⋮⋮。挟まっていた経緯とココに居る理由も 分かったけど⋮⋮誰なの?お前をココに放り込んだのは。﹂ ﹁えっとでしゅね⋮⋮人間の女の人でしゅ。綺麗なお着物に長い髪 の⋮⋮﹂ 545 綺麗な着物なんて貴族でなくても着てることなんてザラに居る。 女性は髪が長いのが一般的だし、短い人の方が少ない。 ﹁他に特徴は?﹂ ﹁きゅきゅ∼⋮あ、そうでしゅた! 小さにゃ男にょ子がいまちた !妖怪でないでしゅけど、何だか力がちゅよい子でしゅた!﹂ ﹁どんな子だった?﹂ 考えてる間の管狐はくねくね細長い体を動かしていた。普通なら 細長いモノがくねくねしていたら気持ち悪いが、いかせん顔が可愛 いので︵子狐的な意味で︶そんなことはなかった。 見た目は頭と前足が狐で他が毛の生えた蛇の様な姿の管狐は普段 自身のお気に入りの管︵竹などの空洞の筒等︶に入っている大人し い妖怪だ。人間が最も使役し易い妖怪としてよく知られている。大 半の術者や見習いは管狐を使役している。 ﹁きゅ∼⋮⋮そうでしゅ!綺麗な黄色いキラキラの髪と同じおめめ でしゅ!﹂ キラキラの黄色⋮⋮コレは黄の国の王室⋮? ﹁そっか⋮それでこの子何歳くらいか解る?﹂ ﹁歳でしゅか⋮⋮おねえしゃんくらいでしゅよ﹂ 私を短い小さな前足で指さす。なるほど、私くらいか⋮⋮おい。 ﹁管狐⋮⋮私は男だぞ。﹂ 546 ﹁嘘でしゅ!⋮こんなに綺麗な男子見たことないでゅよ﹂。 ﹁お・と・こ・だ!﹂ ﹁きゅ∼⋮ごめんなしゃい﹂ 中々信じないので管狐を掴み︵勿論やさしく︶顔を近づけて言う と、目をウルウルさせて納得してくれた。ちょっと罪悪感が半端な い⋮⋮ ﹁︵この管狐の話がホントなら、側室舞子の可能性が濃厚だね︶﹂ 早いとこ母さんを見つけて報告しないと。側室舞子は結界なんて 無視してこの管狐をココに寄越した。それは私達に気付かれずに侵 入できるという事かもしれない。それは本当に危ない。 ﹁その首輪って何のためにつけられたの?まさか使役のため?﹂ 本来管狐は個体差にもよるが、雑用や術者の補助的な役割しか出 来ない。それは本来臆病な性格のためや、弱い分類の妖怪に入るた めと、色々あるが、自分に敵意のない者には友好的なので使役し易 い。なので、首輪なんてつけなくても使役されてくれるのが殆どな のだ。 首輪をつけて無理矢理使役する。それは管狐が嫌がる命令をする ためなのか? 使役とは、あの変態兄がポチにかけたモノとは違い、お互いの利 益、または信頼の基に交わすもの。つまり友達関係と少し似ている。 お互いが信頼しないと成り立たない。 547 それが、首輪をつけて居る。しかも外れないように呪までかけて いる。きっとコレが有る限りこの管狐はその主の命令を聞かなけれ ばいけないのだろう。 ﹁きゅ⋮⋮ぼく⋮気持ちよく寝てたでしゅ⋮そしたら竹じゅちゅを ひっくり返しゃれて⋮⋮寝ぼけてたら首輪をつけられたのでしゅ。 お気に入りの竹じゅちゅも取られちゃいまちた⋮⋮﹂ ぽろぽろと今度は泣き出した管狐は周りをキョロキョロ見て何か を探しているようだった。多分、身を隠す物を探しているのだろう。 気分は宿がないヤドカリ。 ﹁その首輪外してやろうか?﹂ ﹁きゅきゅ⋮無理でしゅ⋮ぼくも取ろうとしたでしゅ⋮⋮でもどん なにがんばっても⋮⋮きゅ∼∼ ﹁まぁ、やってみようか⋮﹂ 首輪に手をかける。先程よりビリビリ感は薄い。コレなら壊せる かも。 ﹁それじゃ、壊すからね。﹂ ﹁きゅ?﹂ 小さな首輪だ。管狐自体細いので大体親指と人差し指で輪程しか ない。真鍮製の様な継ぎ目のない輪っかに指をかける。そして管狐 に負担が掛からないよう一気に引きちぎる。意外に脆かった。まる 548 で鉛を引き千切った様な感じだった。 ﹁意外に脆かったよ。はい、取れたよ。﹂ ﹁きゅー!?ありがとうございましゅ!﹂ またもやくねくねし始める管狐⋮⋮。それにしても、私の腕力が ﹂ またも跳ね上がっていた。これまで何の予兆も無かったので︵嫁さ んみたいにスプーン破壊︶気付かなかった。 ﹁さぁ、お前は自由なんだからどこへでも行きなよ。 私は母さんに事の顛末を知らせないと。ココにもいないなら﹁危 険物専門﹂の部屋に居るのだろう多分。 549 敵にフラグが建ったようです。∼何のフラグかな?∼︵前書き︶ 注意事項 多少の流血表現が含まれます。気分を害する恐れがある方はご注 意ください。温めにはしてるけど⋮⋮ 550 敵にフラグが建ったようです。∼何のフラグかな?∼ 調合室︵研究所だと思う︶で遭遇した三流ホラー紛いの管狐遭遇 騒動も一段落したので、次の目的地﹁危険物専門﹂の部屋に行くた めにただ今移動中。 薬瓶が割れてどんな危険があるか分からないしね。 ⋮⋮なのだが、 ﹁きゅ♪﹂ ﹁どこまで着いてくるの?﹂ ﹁きゅ?﹂ 管狐に懐かれてしまった⋮⋮のだ。 ﹁どうしたもんかねぇ﹂ ﹁きゅー♪﹂ 正直に言うと、自分の後ろを健気についてくる管狐はとても可愛 い⋮⋮のだが。一体どこまでついてくる気なのか⋮可愛いよそりゃ さ。 でも、今まで側室舞子︵推定︶に使役︵無理矢理︶されてたんだ からちょっとは警戒した方が良いよね。 551 ﹁︵まさか敵は私が可愛いもの好きと知って可愛い管狐を送り込ん だとか無いよね?︶﹂ 神様が味方しているなら私の個人情報も知ってるかもしれない⋮ ⋮憂鬱だ。 ﹁きゅ!とってもちゅよい気配がしましゅ⋮﹂ ﹁あぁ、それ母さんだ。﹂ 管狐は臆病なので周りの気配には誰よりも敏感なのだと書物に書 いてあったな。あぁそうか、だから見習い術者の最初のパートナー に向いてるのか。 ﹁一家に一匹⋮⋮﹂ ﹁きゅ?﹂ ちょっと絆されてるかも。コレじゃ敵側の思う壺じゃないか。で も可愛い⋮⋮ ﹁︵管狐ってこの可愛さでも得してるよな⋮︶﹂ きっと女性術者達に大人気だろうね。 ﹁きゅ!∼∼∼﹂ ﹁うぎゃ!﹂ 何かに驚いた管狐はあろう事か私の首をその細長い胴体で締め付 552 けた後首の裾辺りから服の中へ入ってしまった。 ﹁ちょっと管狐、くすぐったいから出てよ﹂ くすぐりはあまり効かない私でも多少はくすぐったいのだ。それ に管狐は蛇の様に鱗ではなく毛皮があるので余計にくすぐったい⋮ ⋮。 ﹁きゅ∼∼⋮⋮﹂ 暫く服の中を動き回っていた管狐はお腹辺りで急に大人しくなっ た。何かに怯えているようだ。 いしゅく きっと母さんの膨大過ぎる妖気にあてられたのだろう。弱い妖怪 達は初対面では必ず畏縮してしまうようだ。なら私は、それほど膨 大過ぎる訳ではないのか⋮⋮可愛いもの︵動物限定︶に怯えられる のは心苦しいからね。 まぁ、母さんに﹁後数年もしたら私達を越える妖力になるわよ♪﹂ ってある意味死刑宣告されたけどね。 ﹁それにしても、管狐って湯タンポ代わりになるかも﹂ 管狐が隠れているお腹辺りがぽかぽかと暖かい。けれど、コレを 夏にされたら堪ったもんじゃ無いけどね。 そんな現実逃避をしていると、前方と後方から膨大な妖気が近づ いてくるのを感じた。コレは⋮前方は母さん、後方は父さんとその 妖気に隠れがちだけどよく知る嫁さんの妖気。どうやら今回の管狐 騒動を感知したらしい。 553 ランメイ 嫁さんこと藍苺は多分父さんの小脇に抱えられて移動しているの だろう。近づいてくる速度が速すぎる。 最初に着くのは恐らく母さんだ。近くに居たみたいだし。 ﹁コウちゃん!怪我は!?﹂ 第一声が﹁怪我は?﹂って、私は怪我をするの限定ですか? 確 かにこの間は掌を負傷したけれど、今回はこの管狐だよ。攻撃され ても傷ひとつ付かないから。 ﹁きゅ⋮⋮﹂ ﹁コウちゃん?まさか何かあったの?﹂ ﹁母さん落ち着いて。﹂ ﹁コレが落ち着いていられますか! いくら結界を強化しても刺客 が送り込まれてくるのよ。そんな時子供が一人で遭遇した何て心配 しない方が可笑しいわ。大丈夫?⋮⋮どこも怪我してないみたいね ∼ふぅ⋮。一先ず安心したわ。﹂ 母さんは私の掌を見たり体のどこかに怪我が無いか一通り確かめ た後やっと落ち着いた。 ﹁母さん、実はね⋮⋮﹂ これまでの事の顛末を話すと、母さんは管狐に出てくるように言 った⋮が、 554 ﹁きゅ⋮⋮﹂ ﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂﹂ なんと、管狐は服︵今日の服装は着物の様な三枚ほど重なった服︶ から頭だけ出してそれ以上出てこないのだ。可愛い⋮⋮ ﹁あらやだ、可愛い⋮⋮﹂ ﹁うん。可愛いよね。﹂ そんな風にマミィと二人で和んでいると⋮⋮ ﹁レイ!また侵入者が来たのか!﹂ ﹁グフッ⋮⋮⋮⋮⋮﹂ 小脇に嫁さんを抱えた父さん後から走ってきてスライディングし ながら止まった。止まった時の衝撃で嫁さんは腹に父さんの腕が食 い込んだのか気を失っている⋮⋮おい。 ﹁どれだけ心配してくれたのかは解るけどさ⋮⋮藍苺をもう少し配 慮してくれてもいいんじゃないの?ねえ?﹂ まだ体は8歳の子供だよ? いくら妖怪並に力が強くなっても、 チートの父さんの馬鹿力に敵わないんだから、ねぇ? ﹁︵手荒に扱ったら⋮⋮いくら父さんでも赦さない⋮⋮⋮︶﹂ 555 ダラダラと冷や汗を垂らす父さんを放っておいて嫁さんを介抱す る。全く父さんの馬鹿力には呆れる。嫁さんもとい、ランは滅多な 事では気絶しない。体が頑丈とかではなく精神的に頑固と言うか⋮ ⋮気が強いと言うか。 ﹁︵負けず嫌い何だから⋮⋮︶﹂ きっとここまで来るまでも気を失いそうになっていたに違いない。 ここまで来ると負けず嫌いも尊敬するよ。 ﹁スマン⋮⋮急いでいたので⋮⋮﹂ ﹁もぅ⋮コウちゃんはランちゃんの事になると容赦無いの知ってる でしょ。﹂ ﹁ぅ⋮⋮本当にすまない。﹂ こんな時マミィは父さんを庇ったりしないのか。慰めてはいるの かあれは。 ﹁分かったから、話を進めててよ。私は嫁さんの様子見てるから。 私に構わず話してて。﹂ どうせ私は後から聞くのが良いだろうし。話に入っていけないか ら。 ﹁ラン、ラン∼。﹂ ﹁ん゛∼∼⋮⋮﹂ やっぱり嫁さんは寝汚いようだ。一旦眠ると中々起きてくれない。 556 朝なんていくら起こしてもこの頃起きてくれない。疲れもあるのだ ろうが、誰かに起こしてもらわないと起きれないのは問題だ。 目覚まし時計を作ってもらうか⋮⋮いつまでも私が起こしに部屋 に入るわけにもいかない。成長すれば、勝手に異性の部屋に入るの は⋮⋮遠慮したい。怖がられたくないしね。 ﹁︵いくら吹っ切れたといっても、やっぱりね⋮⋮︶﹂ 親しき仲にも礼儀あり。それに、朝忙しい時に嫁さんに構ってい る暇は無いのだ。この頃両親揃って朝が遅いので朝ごはんの用意は 私一人でしているしね。 あの二人は今まで、8年間も離ればなれだったから邪魔するつも りは無いのだ。 馬に蹴られたくないしね。 嫁さんを介抱すると言っても、正直何もすることはない。ただ膝 枕をしているしか無いのだ。 ﹁嫁さん。起きないと⋮⋮チュウ⋮しちゃうぞ∼﹂ ﹁うわっ!﹂ 言ってから言うのもなんだけどさ、そこまで嫌がられると傷付く よ。勢いよく起き上がった嫁さんは元々大きかった目をこれでもか 557 ってくらい見開いて﹁お前何言ってんだよ!﹂てな顔でこちらを凝 視している。そんなに目を見開いていると目が落ちそうだよ⋮⋮。 それにしても⋮⋮起きてたの? 反応が速すぎでしょ⋮⋮。 ﹁さっき振り、嫁さん♪﹂ ﹁////⋮⋮俺⋮気絶してたか?﹂ ﹁うん。いきなり止まったから父さんの腕に絞められたんだよ。ア レは無いよね。もう少し配慮してくれても⋮⋮ねぇ?﹂ じと目で父さんの方をもう一度見ると⋮⋮ ﹁︵う、後ろを振り向いたら死ぬ!︶﹂ ﹁︵あらあら⋮⋮︶﹂ ちょうど後ろを向いていたので、その背中をじと目で睨⋮⋮見つ めていると寒さでも感じたのか少し震えていた。寒いならもっと厚 着すれば良いのに。 ﹁違うと思うぞ⋮⋮﹂ ﹁ん? そお?﹂ まぁ、嫁さんもどこも悪くないみたいだからよかった。これでも し何処か悪かったら⋮⋮フフフ。 この子 ﹁︵もう紅蓮恐い︶﹂ ﹁︵全く、昔から何処かヘタレだったのよね⋮︶﹂ 558 冷や汗ダラダラの父親は意識から放り出して、嫁さんに可愛い管 狐を紹介して⋮⋮いや待て。 この管狐本当にもう大丈夫だよね? この子にな何からの呪詛で も仕掛けられてたら洒落になら無いよ。確かめるまでは見せない方 が⋮⋮ ﹁なぁ、レンの胸元から頭だけ出してるヤツ何だ?﹂ もう遅かったようだ。目敏いな嫁さんよ。この可愛いもの好きめ ︵多分動物限定︶。 ﹁この子は管狐。ちょっと訳ありだからあんまり近づかないでね。 呪詛でも仕掛けられてたら洒落になら無いでしょ?﹂ ﹁それならレンの方が危ないだろ!﹂ 私がそう話すと血相を変えて嫁さんがにじり寄ってきた。ちょ、 顔近い! 嫁さんの肌は、シミ一つ無くキメの細かい美白でした。うらやら しい⋮⋮じゃねぇ、羨ましい。 ﹁この子自身は潔白なんだけどね。でも、可能性は0じゃないでし ょ?﹂ ﹁確かに⋮⋮これまでも何度も侵入させれるし⋮﹂ ﹁きゅー⋮⋮﹂ 私の胸元から頭だけ出してる管狐⋮。可愛いが、それが相手の策 略かもしれない。それに、側室舞子はどんどん手段を選ばなくなる かも知れない。 559 一体何がしたいのか⋮⋮。しかし、二度も侵入させているかもし れないのだ。未だに確定した訳でもないけど、限りなく黒にしか思 えないのだ。 はぁ∼⋮一体いつまでこんなに考えればいいんだろ。平和が欲し い。平凡な日常が欲しいよ。 ******** 確かに、頭だけ出している管狐?は可愛いが。 ﹁いくら俺でも分別はつけれるぞ。﹂ ﹁うん、そうだね。﹂ ﹁それに、呪詛云々あるならレンの方が危ない。もっと自分を大事 560 にしろよ!﹂ そう俺が言った時のレンの顔といったら⋮⋮。 まるで﹁え? 嫁さんに言われるなんて⋮⋮﹂てな顔だった。失 礼だな。 レンはいつもドコか他人を庇う傾向にある。もっと自分を大事に してほいし。そう思うのはダメな事だろうか。 確かに俺は闘いなんてレンよりも素人だ。力が強くても、経験が 無い。それは戦力にもならないのは分かりきっている事だ。それで も⋮⋮ ﹁︵自分を庇って怪我されるのは頭にくる︶﹂ まるで、自分はみんなのお荷物の様な感じごしてなら無い。 いや、実際お荷物だろう。こうして心配しかさせられない。力が 有れば⋮⋮いや、違う。 俺が支えられる位に精神的にも肉体的にも強くなれば良いのだ。 その為には少しずつ、確実に強くなっていこう。どんなに掛かって も構わない。 ﹁︵それくらいしか出来ることがない。︶﹂ コウレン だから、紅蓮がおどけた時は笑ってやろう。一緒に居たい⋮⋮ 561 ﹁そう言えば、管狐。首輪何だけどね⋮⋮。﹂ もっと頑張らないと⋮⋮でも、力み過ぎはケガのもとだよな。 ﹁きゅ⋮⋮わからないでしゅ⋮﹂ ﹁そっか⋮⋮﹂ 俺はレン達の話に入らないでひとり物思いに耽っていた。その時 だ。管狐が騒ぎだしたのは。 騒ぎだした管狐はレンの懐こら飛び出し暴れだした。暴れると言 シュリ っても、小さな管狐が暴れても大した被害はないがとても苦しそう なのが気になる。 レイシュン そして、その騒ぎに気が付いた麗春さんと朱李さんがこっちを向 いた時、俺とレンの周りに何か強大な力が現れた。鈍感な俺でも分 かるほどに。 ランメイ ﹁藍苺っ!!﹂ 俺を庇おうとするレン。 あぁ、情けないな。俺はまた、レンに庇われるのか⋮⋮。 全てがスローモーションに流れていく。 562 俺を庇い背から血を流す紅蓮。こちらに来ようとして何かに阻ま れる紅蓮の両親。そして、何処からか飛んできたポチ⋮⋮ 何よりも、紅蓮に傷を負わせたモノに恐怖した。 それは、苦しむ管狐の周りに宙に描かれた魔法陣の様なものから 伸びたら太い獣の腕。その腕は鋭く丈夫な爪が付いている熊の様な 腕だった。 その爪には、恐らく切りつけた紅蓮の血だろう赤いモノが付着し ていた。あの量からしてかなり深い傷を紅蓮は負ったのだろう。 そんな事をこんな時に考えているなんて、自分は正気ではないの かもしれない。あまりにショックが大きすぎてかえって冷静な自分 がいた。 気がつくと紅蓮は俺に力無く垂れ掛かっていた。急に顔から血の 気が引いた。今まで攻撃をされても気を失う事はなかった紅蓮が⋮ ⋮⋮本当に恐ろしくなった。 ﹃俺はまた失うのか?﹄ あぁ、自分の声の幻聴まで聞こえてきた。 ポチは俺と気絶しているのだろう動かない紅蓮の前に立ち、目の 前の恐ろしいナニかを威嚇している。 ふと、横目で麗春さんと朱李さんを見ると未だにこちらには来れ ないようだ。手の込んだ策略だな。けど、これまでもそうだったよ 563 ほころ うに何処か綻びがあるだろう。 探そうとしていた。 だか、それも要らなくなった。 目の前にポチよりも大きな大型犬程の白虎が居たからだ。だがし かし、白虎に翼が生えていたけど。 ******* 背が熱い⋮⋮。けれど、コレは火とかの類いの熱さではない。き っと毒かなんかだろう。 564 管狐の周りに魔法陣が展開される少し前、妙な気配を察知した。 この時母さん達に報告すればよかった。けれど、今そう思っても後 の祭りだ。先人はよくもまぁ、良い言葉を残したものだ。 あの魔法陣は管狐を中心に展開された。アレは召喚陣だろう。確 か本に載っていた筈だ。管狐はやはり利用されていた。 召喚陣とは、読んで字のごとく召喚するための陣だ。ゲームとか でよくある召喚獣なのど様々なモノを呼び寄せるモノだ。今回は魔 獣を呼んだらしい。厄介なヤツを呼んだもんだよ。 今回は少し頭を使ったらしい。如何に優秀な術師でも強固な結界 の中、それも外から中に魔獣を召喚なんぞ出来ない。電波も届かな い所でケータイで電話しようとするようなものだ。 きっと、この召喚の仕方は管狐を中継地点にするために送り込ん だのだろう。それなら、奇襲に適さない管狐を寄越したのも頷ける。 中継地点が有るのなら、比較的難しい召喚も出来るだろう。 結界は謂わば卵の殻。中に入ってしまえば後は楽なんだ。 管狐はこの召喚の為の布石⋮⋮。今までに無い周到さは厄介だ。 それに、この距離なら両親二人は飛んでくるだろう。が、何かに 阻まれているのかこちらに来ない。 本当に厄介だな。何処からか駆けつけてきたポチはまたもや私の 盾になろうとしている。落ち着いてよポチ。そいつはいくらお前で も荷が重いよ。 565 ﹁︵この熱さが毒なら、毒に耐性が全く無いであろう藍苺は人溜ま りも無いかも。︶﹂ どうにかしてこの二人︵一人で+一匹︶を護らないと⋮。誰が居 なくなるのは嫌だから。 さて、どうしようか。何も名案が無い。思い付かない⋮⋮。それ にどんどん意識が遠くなりかける。やれやれ⋮⋮私はよほど毒に縁 があるのか⋮⋮ ﹁レン⋮⋮﹂ あぁ、聞こえてるよ。けど、ごめんね。声が出ないよ⋮⋮。答え たいのに。大丈夫だよって言いたいのに。 また心配をかけてしまう⋮⋮。あぁ、意識が⋮⋮遠く⋮⋮ なんとか意識が遠くのを堪えて魔法陣から伸びる腕を見ようとす る⋮⋮が、案の定体は動かない。 チキショウ⋮⋮ここぞって時に限って役にたてない⋮。 566 背中の熱は増してくる⋮⋮。 ******** ﹁まさか、そう来るとはね⋮⋮﹂ 抜かったわ。まさかこんな手を使ってくるなんて。私も平和呆け したかしら。 いえ、それだけではないわ。私も元々抜けている所があるもの。 単純に詰めが甘かったのよ。 ﹁結界に拒まれて紅蓮達の所まで行けない!﹂ ﹁落ち着け、レイ! それこそ敵の思う壺だ。﹂ そんなの解ってる! けど、子供が⋮⋮自分の不注意で。あの子 達に何かあったら取り返しがつかない。ここはゲームを基に作られ 567 た世界。けれど、現実でもあるのよ。 あの二人は重要キャラ。でも、原作に入る前に死んでしまっても 可笑しくないのよ。 藍苺は厄介事を引き寄せる星の下生まれてしまったのよ。紅蓮は そんな藍苺を必死で護るでしょう? 不安なのよ。だからといって過保護出はないつもりだけど。 おか ﹁おい。紅蓮の様子が可怪しいぞ⋮⋮﹂ ﹁え?﹂ 朱李に言われて紅蓮を見ると、妖気が、それも凄まじく強大な妖 気が溢れてきている⋮⋮コレは不味いわ⋮⋮。 あのこ ﹁朱李っ! 早くこの結界を壊しましょう。じゃないと紅蓮⋮⋮﹂ キュウキ 取り返しがつかなくなる。あの子は私よりも窮奇の血を色濃く引 いているのよ。私では完全に暴走した紅蓮を止めることは出来ない。 情けないわね。親なのに何一つ親らしい事をし てあげていなかったわ⋮。 料理は出来ない︵お菓子は作れる不思議︶し、掃除や洗濯も苦手 ︵出来ることはできる。紅蓮が優秀なだけ︶。後宮に閉じ籠って居 568 た時は予め調理されていた料理を出していた︵城下町の屋台など︶。 出来ることと言えば、薬の調合に妖怪としての強さを武器にした 戦闘位のモノだ。私は子供に誇れる親ではないでしょうね。 そうこうしている内に朱李が結界の一番脆い場所を突いて破る事 に成功したみたいね。考えに耽って手が止まっていたわ。気を付け ないと。朱李に悪いことしたわ⋮⋮。 ﹁行こうレイ!急がないとっ!﹂ ﹁えぇ⋮⋮紅蓮、気をしっかり持って!﹂ 2メートルも離れていない距離だった筈なのに、いつの間にか4 メートル程離れていた。目と鼻の先に二人は居るのにこの距離がも どかしい⋮⋮ どうか紅蓮が傷つきませんように⋮⋮。あの子は優しいから⋮。 紅蓮の様子が可怪しい。ぐったりして藍苺に垂れ掛かっている。 動く気配はない。けれどそれに比例してか妖気が増してきている。 コレは益々油断できないわ。 569 それに今回は召喚獣を出してくるなんて⋮⋮本気なのかしら。結 界は単なるシールドでしかない。入ってしまえば干渉は受けない。 きっと管狐が鍵なのね。あの管狐がアンテナ代わりの役目をおって いたのでしょう。 すっかり紅蓮の妖気にあてられて畏縮している。でも、何故か逃 げもせず紅蓮の周りを飛び回っている⋮⋮なんなのかしら? それにしても、ランちゃんはよく紅蓮の妖気に耐えてるわね。私 や朱李でも背中に冷や汗が出てるくらい圧倒されているのに⋮⋮豪 胆なのか、鈍感なのか⋮⋮どっちもなのね。 朱李も私も紅蓮が暴走したら果たして止められるかしら⋮⋮ フラグにならないわよね?コレは。 旋風が紅蓮の周りで渦巻いて一瞬紅蓮を隠す。すると、白い虎⋮ ⋮白虎が紅蓮の居た場所に現れた。あらまぁ⋮⋮可愛いにゃんこ⋮ ⋮翼があるから窮奇の姿の紅蓮ね。仔猫みたいに可愛いわ♪ ⋮⋮⋮ではなくて、とうとう窮奇の姿になったのね。仔猫の様な 姿でも窮奇であることに代わりは無いわ。あの魔法陣から入ってこ ようとしている魔獣⋮⋮死んだわね。 コウちゃんは仔猫に見えるけど、目だけは猛獣のの様にギラギラ 570 していて可愛さを半減させている。 ﹁朱李、コウちゃん可愛いわ♪﹂ ﹁そんな事言ってる場合か!﹂ 解ってるわよ、そんな事考えてる場合じゃ無いことくらい。けど、 迂闊に近づけないでしょ? ﹁あの魔獣は何処からか喚ばれているんだ?﹂ ﹁コウちゃんに近付けない以上、魔法陣の方を調べた方が良いわね ⋮﹂ 何せ窮奇は仔猫の様に可愛いくても狂暴だわ。あのくらいの魔獣 なんて瞬殺よ。自分はチートたでは無いと日頃から言っているコウ ちゃんだけど、家族の誰よりも強い妖力を秘めているのはコウちゃ ん自身なのよ。気付いてないのは本人だけよ。 本来強い妖力を秘めている子供は体が成長しきるまでフルパワー なんて出せないものなの。それが根底から覆す様な妖気を出すコウ ちゃん⋮⋮これが本気でないなら、一体どれ程まで強いのかしら⋮⋮ ******** 571 体がやけに熱い⋮⋮⋮背中の熱が体が中に回ったのか? なら、 毒が身体中に回ってしまったのか。 気がつくと風が私の周りを取り巻いた。 すると、体の熱が収まっていく⋮⋮風が体温を下げたのか。それ に目線がとても低くなった⋮⋮アレ?私いつの間にか這いつくばっ てたのかな?熱の所為で意識が朦朧としていたから⋮⋮ 大分軽くなった体を召喚中の魔獣を見ようと体の向きを変える⋮ ⋮アレ? ふと、足元⋮⋮手を見ると、猫にしては丈夫そうな足があった。 コレは⋮⋮虎とかライオンの子供の足に似てる。ん? 私の手を見 たんだよ? ⋮⋮⋮⋮あぁ、また私は獣の姿にでもなったのか⋮⋮ 572 それも九尾狐ではない姿に⋮⋮あぁ、藍苺が言っていた窮奇にで もなったのか⋮⋮ ドコか冷静に考えていた。 さっきまで召喚陣から腕しか出ていなかった魔獣が顔も出し始め た⋮⋮あぁ、コイツ藍苺を獲物にしようとしやがってるな⋮⋮イラ つく⋮⋮引き裂いてやろうか⋮⋮ 魔獣は牛と虎が混ざったような⋮⋮キマイラってのかな?そんな 感じの気持ち悪い容貌をしている。その目には狂気しか感じかれな い。見ていて気持ちの良いものではないな。 魔獣の腕がまたもや藍苺に降り下ろされる瞬間、目の前が真っ赤 になった⋮⋮アレは⋮⋮血? 魔獣がもがいている⋮⋮よく見ると腕が片方無くなっている。い つの間に母さん達が仕掛けたのか⋮⋮それとも嫁さんが本気でも出 したか?ポチが噛み千切ったか? ポチャリ⋮⋮ボタボタッ⋮⋮ 私の近くでそんな音がした。ん? ドサッグチャ! そんな音もした。足元には音の正体が転がっていた。魔獣の腕だ。 573 噛み千切ったのは私だった。 口の中によく知っている血の味がした。前世ではよく鼻血を出し て口の中が血だらけになったものだ。だが、この血は多少苦い⋮⋮ 気持ち悪い。 ﹃グア゛ァァァ⋮!﹄ 漸く魔獣が何があったか理解したようだ。目標を嫁さんから私に 移し、こちらを恐ろしげな目で睨んでいた。 ﹃そうだ、此方を見ろ⋮⋮﹄ 私の口から出た言葉は﹁グルルルゥ⋮⋮﹂としか聞こえないだろ う、唸る様な声だった。 ﹃グアァァァ!﹄ 残りいっぽんになった腕で魔獣は襲いかかってくる。完全に私に ロックオンしてようだ。それならこっちのものだ。魔獣は頭に血で も上がったのか単調に腕を降り下ろす攻撃しかしない。しかも召喚 が途中で止まってしまったのか、上半身だけで未だに召喚陣から出 られないようだ。 コレはチャンスなので、魔獣の喉笛にに噛みついた。どんな生き 物でも、息をするものだ。窒息させれば殺せる⋮⋮そんな事を冷静 に考える自分はやはりドコか冷酷になっているのだろうか。 574 けど、こんな状況でそんな事も言っていられない。魔獣を倒して しまおう。両親に頼りきっていてもダメなんだ。 魔獣の喉笛辺りは流石魔獣という程硬く中々牙が深く刺さらず手 こずった⋮⋮と、思うだろう? 現実は、容易く肉を抉り喉笛を噛みきってしまった⋮⋮。魔獣は 声を発せずに静かに横たわった。死んだのだろう。私はとても容易 く生き物の命を奪ったのだ⋮⋮。 周りが静かだ⋮⋮。両親も藍苺もポチも誰も声をかけない。私が 恐ろしいの?大丈夫だよ。私ちゃんと正気だから。 ﹃ねぇ、コイツどうしたらいい?﹄ 伝わるか分からないけど、聞いてみる。 ﹁⋮⋮レン⋮正気だよな?﹂ ﹃そうだよ。ちゃんと正気だから。﹄ 最初に答えてくれたのは嫁さんだった。それで最初は心配そうな 顔でいたけど、正気だと答えると安堵した顔をしていた。本当に嫁 さんって顔に表情が出やすくなったよね。 ﹁ごめんなさいねコウちゃん。魔獣を任せてしまって。でも召喚陣 の出元は分かったから。﹂ ﹁紅蓮⋮⋮よくやった。と、言っておこうか。怪我はないか?﹂ 575 こちらも安堵した顔をしていた両親。そうか、召喚の出元を調べ ていたのか。通りで動かないと思ったよ。 ﹁クゥ∼﹂ ﹃ポチも⋮⋮ありがとね。今回は怪我しなくて良かったよ。﹄ ﹁キャン!﹂ はち切れんばかりに尻尾を振るポチ。お前も何処からか飛んでき たのか、御苦労様。 ふと、視線を感じた⋮⋮。 ﹁きゅ⋮⋮﹂ 少し離れた所で管狐がしょんぼりしていた。今回管狐は利用され ただけ、落ち込むことは無い。こんな身知らずの場所に放り込まれ て、召喚に利用されたのはさぞ居心地が悪いだろう、心細いだろう。 こんな時は悪い方にしか考えなれなくなっている事だろうね。 ﹃管狐。こっちおいで。﹄ ﹁きゅ⋮⋮食べないでくだしゃい⋮⋮ボクは美味しくないでしゅ∼﹂ いや、食べないよ。私が食べるのはちゃんと調理済みの物と果物 位だよ。管狐なんてパクっとしないから⋮⋮。あぁそうか、この虎 の姿︵窮奇︶だからか。 576 ﹃食べたりしないし、お前をどうこうしたりしないからおいで。﹄ ﹁きゅ∼⋮﹂ 渋々⋮といった感じでこちらに来た管狐。さっきまでのすばしっ こい管狐は何処に行ったのか⋮⋮。 不謹慎だがしょんぼりしている管狐はとっても可愛い⋮⋮。 ﹁何あれ可愛い⋮⋮﹂ ﹁確かに可愛いな﹂ 父さんよ。そこは﹁レイ︵マミィ︶の方が可愛い﹂位言ってあげ なよ。 ﹁︵可愛い⋮⋮。︶﹂ 横に居た嫁さんは、私に近づいてきた管狐とのツーショットに悶 えている。そう言えば私ってまだ窮奇の姿だったね。 ﹃ねぇ母さん。水鏡出してくれない? ちょっと大き目のヤツ﹄ ﹁良いわよ♪﹂ ノリノリなマミィありがとう。一メートル弱の水鏡を出してくれ たので自分の姿をじっくり見る。 ﹃確かに可愛いかも。小虎何だけどどうやって噛このみ千切ったの ?アイツの喉笛。口それにの周り血だらけで可愛さ半減してるよ。﹄ 577 そんな事を言うと嫁さんが私の口の周りをハンカチで拭き始めた。 ちょっと待ってよ嫁さん。そのハンカチ洗濯しても落ちないよ⋮⋮ 血は落ちにくいんだよ。最悪染みになっちゃうよ⋮⋮。 拭いてくれるのは嬉しいけどさ。 拭いている間もキラキラした目で見ていた嫁さんは、拭き終ると またも抱きつかれました⋮⋮。 可愛い物好きなんだから⋮⋮はぁ⋮⋮。 578 敵にフラグが建ったようです。∼何のフラグかな?∼︵後書き︶ 投稿し忘れておりました⋮⋮。 ナンテコッタ︵ノ︳<。︶ 579 尻尾を掴んだので反撃するようです∼敵の皆様ご覚悟を∼︵前書き︶ ほのぼの?夕食風景の筈が、どうしてこうなった。 580 尻尾を掴んだので反撃するようです∼敵の皆様ご覚悟を∼ コウレン 何事もなく人の姿に戻りました。2度目なんで慣れましたよ。 ﹁嫁さん、タマネギ刻める?﹂ ﹁それくらい出来るぞ。﹂ ﹁それなら微塵切りヨロシク。﹂ ランメイ 予告通りハンバーグを作っていることろです。どうも、紅蓮です。 嫁さんもとい藍苺と一緒に台所に立って微塵切りを嫁さんに任せ、 私は肉をミンチにしております。一見スプラッタですが、ミンチに してくれる肉屋なんてありませんから。自分でしないとダメなんで すよね。 父さんが機械に強そうだし、ミンチにする機械⋮⋮アレってなん て名前だってけ?⋮まぁいいや、作ってくれないかな∼。 地道に包丁二刀流でメッタ切りにしてます。これって本当に効率 悪いんだよね。スジとか残ってたりして⋮⋮はぁ∼⋮。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁鼻を摘まんでやると目にシミないんだよ。何か鼻に詰めたら?﹂ ﹁目にシミるのに鼻を摘まむのか?﹂ ﹁鼻からとある物質が入って涙が出るんだって。﹂ ﹁もう少し早く言ってくれよ⋮⋮﹂ すまんな嫁さん。忘れていたのさ。 それても健気に微塵切りを続ける嫁さんは尊敬します。そんなと 581 ころで負けず嫌い発揮しなくても良いのにね。 ﹁さてと⋮⋮ミンチは粗方終った。﹂ ﹁こっちも終った。⋮⋮で、材料は何なんだ?﹂ ﹁知らないんだっけ? なら、今回で覚えてね。﹂ ﹁善処する。﹂ と、言いながらもメモ帳を用意している辺り本気で覚えようとし ているようだ。良いことだね♪ ﹁基本的な材料は、ミンチ︵豚でも牛でも、合挽きでも良し︶タマ ネギ、卵、牛乳︵入れなくても良し︶、繋ぎのパン粉。味付けに塩、 コショウ、ナツメグ⋮⋮位かな。﹂ ﹁ふんふん⋮⋮﹂ メモメモ⋮と、言った感じでマメにメモ帳に書いていく。 余談なんだけど、ナツメグ、コショウなんかの香辛料は薬として 普通にあったよ。 ﹁さて、先ずはミンチをこねる。柔らかくなるまでね。﹂ ﹁なんか、スジが残ってるぞ⋮⋮﹂ ﹁丁寧にやっても残るんだよ。そんな所は取ってね。さて、次は﹂ このミンチをこねるって、凍ってるミンチを解凍してこねるとス ッゴい冷たくて手がかじかむよね。私なんて霜焼けみたいになって 痒くなってたよ前世で。 ﹁次は何なんだ?﹂ ﹁あぁ、ごめんちょっと明後日にトリップしてた。えっとね、次は 582 卵と牛乳、それと、微塵切りのタマネギを入れる。﹂ ﹁⋮⋮ミンチ触ったからメモ出来ない⋮⋮﹂ 確かにね。しょうがない、私がメモしとこう。 ﹁メモっとくよ。⋮⋮⋮⋮と、入れた?﹂ ﹁入れた。﹂ ﹁じゃあまたこねて。後、これも繋ぎに⋮⋮﹂ ﹁おいおい⋮入れすぎだろうパン粉⋮⋮﹂ 嫁さんの言葉は無視してパン粉をこれでもかッて位入れる。しょ うがないじゃないか∼、皆して食べるんだから。多少︵多少じゃな い by嫁さん︶肉ッ気が無くても仕方ないのだ我慢しろ。 ﹁牛乳は少しでいいよ⋮⋮入れすぎるとベタベタになるからね。﹂ ﹁︵パン粉入れたらぼそぼそになるんじゃ?︶﹂ ﹁タマネギが嫌いならミキサーで牛乳と一緒に細かくしちゃっても いいよ。でもやるならパン粉もっと入れないとね♪﹂ ﹁肉が跡形もない⋮⋮﹂ ミキサー無いけどね。本当にほしいな調理器具諸々⋮⋮。今度本 気で両親に依頼しようかな。 まぁ、肉の方はもう少しの辛抱だよ。私達が強くなりさえすれば の話だけどね。 今度狩りの仕方を習うし、毛皮とか、素材とか売れるようになっ たら食べ物も豊富になるよ。 自分で生き物を殺すのは本当は怖いけど、やらないと生きてけな 583 い。腹を括らなきゃ。 にしても、野菜とか果実は有り余ってるのに⋮⋮あ、なら売れば いいんじゃ? けど、元々取引がある所は無理だろなぁ⋮⋮。上手 くいかないもんだよ。 ﹁味付けは、塩、コショウ、ナツメグで。満遍なく混ぜたら一人分 を掌で空気を抜く。こうやって⋮﹂ 一人分のミンチを掌で上下に振るようにして叩いてミンチの中の 空気を抜く。 ﹁それで、後は小判型に形を整えて⋮⋮心持ち中心部を凹ませて、 熱したフライパンで焼く。勿論油を引いてね。﹂ ﹁ソコは誰でも分かるって⋮⋮﹂ ﹁一応ね、一応。さて、ここで豆知識。このハンバーグの真ん中に 小さな⋮三センチ弱の氷を入れて焼くと中まで火が通りやすいよ。﹂ ﹁何で?﹂ ﹁よくは知らないけど、中の氷が蒸発する時の熱で火の通りが良く なるんじゃない?﹂ ﹁ふ∼ん﹂ ぶきっちょな嫁さんにはちょっと無理かもね。 ﹁さて、フライパンも熱くなったし、ハンバーグを入れてね。くっ 付け過ぎると引っくり返すとき大変だから無理せずに2∼3個にし ときなよ。﹂ ﹁ふんふん⋮⋮﹂ 584 相変わらずメモっとく嫁さん。メモするのもいいけど、フライパ ンも見ようね。見ないことには覚えられないよ。 ﹁百聞は一見にしかず。﹂ ﹁⋮⋮分かってるよ。﹂ ﹁料理中に目を離すと怪我のもとだよ。失敗もするし⋮⋮︵特に嫁 さんはおっちょこちょいだし︶﹂ 今更ながら、嫁さんに料理を任せても果たして大丈夫なのか?不 安になってきた⋮⋮ ﹁⋮⋮えっと、ハンバーグをフライパンに敷いたら、フライパンに 蓋をしてそうだな∼ちょこちょこ様子見て判断して。焦げ目が着い てきたら引っくり返してね。﹂ ﹁曖昧だな⋮⋮良いのかそんなんで﹂ ﹁料理は時に臨機応変に対応しないと。特に、焼き目は経験と勘だ よ。﹂ 実際そんなもんで作ってるのだから仕方ないじゃないか。 男性が料理をするとそりゃもうキッチリレシピ通りに作るって聞 いたけど、嫁さんもそのタイプになるのかな? レシピ通りに作った方が正しいのくらい分かってるんだよ世の主 婦は⋮⋮けどね、毎日作ってるとそこまで力入れてたら疲れるわけ なんよ⋮⋮。 性格にもよるけどさ。 585 ﹁⋮⋮⋮未だか?﹂ ﹁まだ。﹂ このフライパンに乗せている蓋は硝子の様に透明なので水滴が無 ければとってもよく見える優れもの⋮⋮。この世界での話だけどね。 ガラス製の蓋はザラにあったしね前世で。 フライパンも硝子の蓋もみんな母さんお手製の物なので武器並に 強固なんだよ。てか、コレはもう武器にカテゴリされるよ。器用な もんだよね、こんなの作れるなんてさ。薬も調合出来て、武具も作 れる。料理は出来ないけど⋮⋮ ﹁まだ?﹂ ﹁もう少し。﹂ それにしても嫁さんせっかちだね。お腹でも空いてるの? ﹁もう少し焼き目が付いたら引っくり返して。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ フライパンの中身をガン見である。そんなに見ても早く火が通る 訳じゃないんだからね⋮⋮。 ﹁もういいよ⋮﹂ ﹁良し任せろ!﹂ ノリノリでフライ返しを手にして蓋を開ける。そんなに楽しそう で何よりだよ。料理を楽しむのも上達への道になるんだしね。見た 586 目、味、作る過程全てを楽しんでこそ料理の醍醐味だと私は思うの よ。 ﹁その行きだよ。料理は楽しむのも。例え失敗してもそれも含めて 楽しもうよ。失敗は成功の布石なんだから。﹂ ﹁俺ってそんなに楽しそうに見えたか?﹂ ﹁そりゃもう、キラッキラの目で楽しんでた。﹂ 初めて親と料理をしている子供みたいに楽しんでた。 ﹁そんなことより、ほら。ハンバーグ焦げるよ。﹂ ﹁うわぁっ、焦げる焦げる!﹂ 今日の出来事を引きずって無くて何よりだよ。少し心配してたか ら。あの後管狐に掛かっていた呪は母さんが確り解除したのでもう 利用される事はないはず。そしてなんだか私は懐かれた⋮⋮。 まぁ良いけどね。補助してくれるみたいだし。 ﹁焼き終わったら、次はソース。ソースは簡単にケチャップと中濃 ソースをハンバーグを焼いたフライパンで作る。﹂ ﹁油とかそのままでいいのかよ。﹂ ﹁折角少ない肉の旨みがなくなってもいいのならね。どーぞ拭いて ∼﹂ ﹁⋮⋮勿体無いな。﹂ よほど肉に餓えてるね嫁さんよ。後、米にもね。 587 ﹁にしても、ケチャップとソースどうして有るんだよ。﹂ ﹁作った。﹂ ﹁簡単に言ったな⋮⋮﹂ 豆腐と同じく今まで試行錯誤していたのだ。とは言え、ケチャッ プはまだ少々水っぽいし、ソースは単品では前世のよりも少し違う 味だ。まだまだ改善点が多い。 何よりも、作るのが面倒なのが難点何だよ。本当日本って何でも 有ったんだね。便利な世界だったよ。 ﹁どの位入れればいいんだ?﹂ ﹁ソース多めでケチャップ少なめかな。﹂ 簡単デミグラスソース風⋮⋮なのかな。まぁ、そこまで贅沢は言 わせないから。言わないよね? 前世の貧乏が少しは役にたてば良いけどね⋮⋮。 あ、今度はおからでも入れよっかな。余ってたし。体に良いし。 食物繊維たっぷりで。 588 ﹁今日はハンバーグか。懐かしいな♪﹂ ﹁今日のハンバーグは何を入れたの?﹂ ﹁ん?どういう事だレイ?﹂ マミィは前にハンバーグの繋ぎをいっぱい入れるとこを話してい たのを思い出したのだろう。 ﹁繋ぎのパン粉がドッサリ入ってるよ。肉が跡形もないかもね。嫌 なら食べなくても良いよ。私が代わりに食べるから。﹂ ﹁︵鬼だ⋮⋮︶﹂ ﹁食べます。食べさせてください!﹂ ﹁︵ヘタレねぇ⋮⋮︶﹂ 言っておいて何だけど、そこまで言わなくても良いのに⋮⋮。父 よ威厳は何処に置いてきた。 ﹁確かに肉ッ気は無いけど旨いよ。﹂ ﹁ありがとう嫁さん。けど、コレは嫁さんが作ったんだから。私に 言わせてよ。初めてにしては上手くいったね♪﹂ そう言えば嫁さんは少し顔を赤くしていた。照れているのだろう。 多分嫁さんは誉めて伸ばし、たまにムチがいいようだ。天狗にな ったら容赦なく鼻っ柱を折ってやろう。 所で⋮⋮ ﹁管狐ッて何を食べるの?﹂ 589 ﹁管狐は精霊みたいなものだから何も食べなくても平気なのよ。空 気中の魔素を取り込んで生きているから。﹂ ﹁前から聞きたかったんだけど、魔素って何なの? 魔物は動物が 魔素を取り込みすぎで凶暴になったんだよね。なら、魔獣は何なの ?﹂ ﹁それ、俺も気になってた。﹂ ﹁そうね、簡単に言うと、魔素を取り込みすぎで凶暴になった動物 が魔物。妖怪は魔素に耐性のある種族。魔獣は魔物から生まれた上 位種って所かしら。人型の妖怪以外の動物の姿の妖怪と魔獣の一般 的な境界線は﹁人に対して協力的﹂な者を妖怪、魔物よりも凶暴な 者を魔獣と呼ぶのよ。けれど、妖怪は妖力があるのに対して、魔物 や魔獣は妖力を持たないの。代わりに魔力を持っているわ。まぁ、 一般人から見たら妖怪も魔獣も見分けがつかないでしょうね。妖力 を感じられないから。﹂ 本では読んでいたが、そんなに曖昧なんだなぁ。なら、妖怪って ⋮⋮⋮ ﹁妖怪って、実は元を辿れば動物が進化?変化したものなの?﹂ ﹁いいえ違うわ。元からいた種族よ。ゲームの設定上はね。﹂ ﹁ゲームの設定上は﹁妖怪﹂と﹁動物﹂は別物だ。何処までがゲー ムと同じか解らないがな。﹂ ﹁魔獣の中にポチ見たいな天狼に似た奴が居たら判別出来るのかな ?﹂ ﹁理性が有るか無いか?﹂ ﹁それなら凶暴な天狼がいたら魔獣に分類されないの?﹂ 590 ﹁う∼⋮ん。それは難しいわね。﹂ ﹁設定上魔獣は召喚されるものだからな。﹁人が立ち入らない魔境﹂ から召喚されると言う設定だったし。﹂ ﹁それと、魔素って何?﹂ ﹁魔素は昔、世界に蔓延した毒素なのよ。それで純粋な人間は死滅 したって設定だった。﹂ ﹁だからこの世界に純粋な人間はいない。﹂ うん。それは前に聞いたよ。でも魔素って毒素だったのか⋮⋮。 ん? ﹁管狐は魔素何て吸収しても大丈夫なの?毒素なんでしょ。﹂ ﹁妖怪には効かないのよ。﹂ またもや頭が混乱してきた⋮⋮。 ﹁もう良いです。頭が混乱してパンク寸前なんで。﹂ ﹁俺も⋮⋮理解できない⋮⋮﹂ ﹁つまりは今の人間は魔素に対して耐性が有るから大して心配ない って事よ。﹂ ﹁それに、魔物や魔獣にも理性が多少有るって事だ。無闇に刺激し なければ彼方もなにもしない。﹂ あぁ、動物とそこまで変わらないのか。ちょっと安心。 591 正し、腹を空かせた魔物は見境がないからなぁ。直ぐに襲ってく るし⋮⋮。あ、コレは本の知識です。 レイシュン ﹁所でさ、あの召喚事件はどうすんの?尻尾掴んだなら。﹂ ﹁︵絶対何かする。麗春さんなら絶対何かする。︶﹂ ﹁⋮⋮その事なんだけどね。ちょっと皆で白の王宮に行くからね♪﹂ ﹁⋮⋮やるのか?﹂ 楽しそうに告げるマミィとは対照的にパピィは真っ青だ。そんな に恐ろしげな事をするのかマミィよ。それとも白の王宮に行きたく ないのかパピィよ⋮⋮前者だな多分。 ﹁何しに?白の王宮に行くのは構わないけど、何で白の王宮?そし て何で私らも数に入ってるの?﹂ ﹁留守番でも良くないか?足手まといになるし⋮﹂ ﹁そんなの簡単よ。国王が二人に会いたがってるの♪﹂ ﹁それと、今回の目撃者でもあるしな。﹂ 何だかそれだけでは無いような気もするが、気のせいであってく れ⋮⋮無いだろうね。 ﹁何よりも、今何故か舞子親子が白の王宮に滞在してるのよ。﹂ 592 ﹁それって今回の魔獣召喚事件に関係してる?﹂ ﹁大有りだな。﹂ ﹁そうよ。大有りよ。﹂ ﹁何せ今回の召喚者の位置が白の王宮だったからな。﹂ 驚愕の真実! 何ですかそれは。白の王も敵⋮⋮は無いな。そん なことしてもメリットが無い。 ﹁白の王宮に居るって⋮⋮なら、白の王は⋮⋮﹂ ﹁﹁﹁それは無い﹂﹂﹂ 両親とハモった。ですよね∼。白の王は国に対するメリットの計 算位出来るよね∼。 ﹁けど、召喚者が王宮に居たなら⋮﹂ ﹁それは無いよ。だって白の王様何のメリットも無いもん。嫁さん、 お父さんの事今回は信用してあげて。出来なくてもいいから、疑わ ないであげて。﹂ じゃないと、それ知ったら拗ねるかもよ。 ﹁黄の国の王宮まで行くのは面倒だから、白の王宮に滞在中にケリ を付けるわ。もうアッタマキタシ⋮⋮﹂ ﹁︵恐っ!!︶﹂ ﹁︵︵︵︵︵︵︵・・;︶﹂ 593 マミィは﹁積年のウラミツラミ⋮⋮フフフフフ﹂なんてホラーな 事をぶつぶつ言い出した。オッカナイです御母様。嫁さんは真っ青 になって多少震えている⋮⋮気の毒だ。 ポチは今日のハンバーグに使った豚肉に付いてた骨を咥えて私の 後ろに避難した。そしたら嫁さんまで私の後ろに避難してきた。そ して管狐はまたも懐に隠れた⋮⋮もう所定地になりつつある。 おいおい⋮私は盾ですかそうですか。確かにマミィ怖いけど、何 も君らに対してなにもしてないでしょ。 ﹁レイ、今は料理を食べよう。紅蓮達が折角作ったんだ、暖かいう ちに食べよう。﹂ ﹁⋮⋮⋮それもそうね。アイツ等の為に冷めてしまうなんて勿体な いものね。﹂ ﹁︵父さん、今回は見直した。尊敬します。︶﹂ ﹁︵流石夫。⋮⋮待てよ、このままだと俺もレンがキレたら止めに 入らないといけないのか⋮⋮不安だ。︶﹂ ﹁︵主、あなたも時々こうなりますよ。︶﹂ ﹁︵こわいでしゅ∼。ココの皆しゃんこわいでしゅー!!︶﹂ そんな父さんに対しての考えを改めて︵ちゃんと最初から尊敬し ます︶いると、後ろの一人と二匹は何やら失礼な事を考えているよ うだ。失礼な。 ﹁後ろに避難したクセに⋮⋮失礼な。﹂ ﹁⋮⋮何も言ってないぞ。﹂ ﹁くぅーん﹂ 594 ﹁きゅきゅ!﹂ ふ∼ん⋮⋮嫁さんその間は何ですかね。まぁ良いけどさ。 その後何事もなく夕食を食べ終え、白の王宮に行く事について説 明をしてもらった。 何でも、白の王様直々に招待状が来たので、家族一同ご招待に預 かる事にした。なんとご丁寧にポチまで。それと管狐も私の眷属と して連れていく事になった。 嫁さんにとって久し振りの帰郷になる。とは言っても、まだ一年 も経ってないけどね。 ﹁約5ヶ月ぶりの帰郷だね。﹂ ﹁故郷って言ってもそんなに懐かしくないな⋮部屋に閉じ籠ってた し。﹂ ﹁でも、庭とか出てたでしょ? あの変態ロリコンと会ったこと有 るならさ⋮﹂ それとも奴は後宮に忍び込んだか? いや、それは無いか。そもそも白の国に後宮は無い。 ﹁そりゃ庭は出た事は有るけど。あまり部屋から出るのはいい顔さ 595 れなかったし。そもそも母親は歓迎されてない側室だったし⋮⋮皆 白い目で見てたよ。﹂ なにそれ、白の王様の態度とかは聞いてたけど、使用人の態度は 聞いてなかったよ。 王様の態度を深読みせずにそのまま鵜呑みにした使用人達がそん な態度とったのか? 王様も多少詰めが甘いね。人の事言えないけど。 ﹁レン達みたいに命の危機はなかったからまだ良い方なんだろう。 王妃の方も会ったことはなかったけど、何かされた訳でもないし。﹂ どこか冷めた、諦めた様な顔で語る嫁さんは恨みこそしないもの の、何の感情もいだいて無いようだ。 ﹁恨んでない?王様達の事﹂ ﹁別に、ただ⋮⋮﹂ ﹁ただ?﹂ ﹁これからも口出ししないなら別に良い。﹂ コレは何だか一悶着有りそうだな∼。 ﹁所で、管狐の名前どうすんだ?﹂ ﹁それは次回ね。﹂ 596 597 尻尾を掴んだので反撃するようです∼敵の皆様ご覚悟を∼︵後書き︶ パン粉云々は実話です。肉が無いとき︵買い忘れなど︶にパン粉 を大量に入れて量を増やします。 我が家はマーブルコートのフライパンなのど比較的くっつき辛い フライパンを使用しているため、油を敷かなくても焼けます。けど、 油を敷いた方が美味しいと思うので家は油敷いてます。 きっとマミィの作ったフライパンなのでくっつき辛い加工を施し ているのでしょう。多分ね。 では、ここまで読んで頂きありがとうございました。 598 荷造りしながらお喋りするのって楽しいよね︵前書き︶ いつも読んでくださっている方々、そして今回初だぜ!な方もあ りがとうございます。 この物語もいよいよ佳境?になるのかな? けれど、まだもう少し先なんですごめんなさい。 599 荷造りしながらお喋りするのって楽しいよね 急遽決まった白の王宮への滞在に必要な荷物を用意することにし た。急な外出の為に常に用意していた物が漸く役に立つ時が来た。 ﹁それなんだよ。﹂ ﹁こんな時が来ると思って、前から用意していたんだよ。お泊まり セット!﹂ 何だよそれ、とでも言いたげな嫁さんをスルーして一応説明をす る。 中身は、タオル、歯磨きセット、石鹸、着替えに、その他諸々⋮ ⋮。どんな時でも有ったら役に立つ物が入っております。 何せ歯磨きと言っても、この世界では歯ブラシが粗悪⋮と言った ら失礼だけど、前世での歯ブラシに比べると⋮⋮とてもブラシが硬 くて痛いのだ。歯茎が血が出ないのが不思議なくらい。歯磨き粉も 塩だけでは物足りないのでマミィお手製の者を持っていく。どうや って作ったのか⋮⋮。 そしてタオル。コレは吸水性が良いので重宝するのだよ。持っと いて損はない。タオル地の布はこの世界でまだ無いからね。 石鹸もマミィお手製の物。これってとても肌に良いのだ。髪だっ て洗える。スゴいね。でも嫁さんはちゃんとシャープとリンスを持 っていってね。髪がエライ事になるから。 着替えは絶対必要でしょ?彼方が用意してくれてても⋮⋮気に入 600 らなかったら着れるように持っていく。 ﹁ざっとこんなもんだよ。﹂ ﹁このポーチ凄いな⋮⋮﹂ ﹁四次元的な何かです。﹂ これまたマミィ特製のウエストポーチなのです。どんな仕掛けな のかさっぱりですよね∼。 ﹁はい、コレは嫁さんの分ね。﹂ ﹁俺にもそのウエストポーチ有るのか﹂ ﹁母さんからの贈り物だって♪﹂ ﹁後で御礼言おう⋮⋮﹂ そりゃ嫁さんの分も有るでしょ。自分の荷物は自分で詰めてね⋮ ⋮出来るよね? ﹁荷造り自分で出来るよね?﹂ ﹁そりゃ出来るだろ。﹂ 侵害だと言いながら荷造りを始めた嫁さん。私の用意したお泊ま りセット︵着替えは除く︶をキチンとポーチに入れて部屋を出てい く。あっ、言ってなかったけど、ココは私の部屋です。 さて、ポチの分の荷物も詰めておこう。四次元的なポーチはどん なに詰めても限度がない。まさにブラックホールだ。ココに生き物 が入ると⋮⋮どうなるか解らないので試したくはないね。 ちなみに、マミィが持っている巾着と同じ様に大きさも関係無く 601 入ります。ホントにどうなってんのコレ? ﹁ポチ、おやつも持っていくからね。﹂ ﹁クゥ∼♪﹂ ただ今ポチは私のベットで寝っ転がっています。勿論足元の方に ⋮⋮偉いなお前は。真ん中に寝ない辺り主人想いだよね。でも、ソ ロソロ毛替えの時期だからブラッシングしたり洗ったりしたいな⋮⋮ ﹁キャウ!!﹂ お風呂嫌いなポチはこの話題になると⋮⋮逃げます。今も部屋の 隅っこで小っちゃくなって震えてる。それでも暴れるずに洗われて いるのはホントにお利口さんだよね♪ 親バカだって?それって誉 め言葉♪ ﹁明日は荷造りやら何やらの準備で修行休みだから、洗おうねポチ。 ﹂ ﹁く∼ん⋮⋮﹂ ﹁お出かけするなら綺麗な方が良いよ。もし﹁ヤダ何あの犬⋮⋮中 半端に毛が抜けて⋮⋮﹂とか言われたら腹立つでしょ?﹂ ﹁クゥ∼﹂ どうやらポチもそんなことは言われたくないのか観念した様だ。 でも実際のところポチは毎日濡れタオルで軽く拭いているのでそん なに汚れてはいない。臭いだってしない。それでも洗うのは中途半 端に残っている冬毛を綺麗に取りたいからだ。少しでも綺麗に見て もらいたい。だって自慢の愛犬︵狼︶なんですから。 602 ﹁所で、何時までそれ続けるの?﹂ ﹁きゅ⋮⋮﹂ 管狐は何か狭いところにでも入っていないと落ち着かないのか部 屋の色んな隙間に入っては出ていくの繰り返しをしていた。 どうやら中々気に入る場所が無いようだ。 ソウ ﹁奏おいで。﹂ ﹁きゅ♪ 何でしゅか?ご主人﹂ 管狐に名前をつけせ正式に眷属になりました。名前は奏。名前も つけたことだし、後は奏が気に入る筒を見つけるだけ。なんどけど ⋮⋮ ﹁何か良い住みかは見つかった?﹂ ﹁きゅ∼。ダメでしゅ⋮⋮﹂ ﹁ダメか⋮⋮﹂ 気に入った住みかがないと落ち浮かないらしい。けれどコレは地 道に探すしかない。 ﹁きゅ。それまではご主人の服にお邪魔しましゅ♪﹂ ﹁⋮⋮夏までには見つけないとね⋮⋮﹂ 炎天下の中管狐を服の中に入れているのは⋮⋮自殺行為だと思う。 カイロや湯タンポを持ち歩くようなもんだよ。 603 ﹁主、管狐は自分の姿よりも狭い場所を好みます。なので、母上殿 より頂いた薬入れ等気に入るのでは?﹂ ﹁あぁ∼、アレね、アレ。そう言えばアレなら持ち運びに便利だし、 小さいから首に掛けてても邪魔にならないね⋮⋮でもポチ?あの薬 入れちょっと小さすぎない?﹂ ポチが提案した薬入れは長さ6センチ、太さちょっと太めのボー ルペン程しかない。それを見るからに質量オーバーな管狐が入ると は思えない。頭さえはいらないよ。 ﹁∼でも、物は試しに⋮⋮奏コレに入れる?﹂ ﹁きゅ∼♪ちょうど良さそうな筒でしゅ♪﹂ そう言って入ってしまった⋮⋮。質量保存の法則どこいった! え?コレ入るの? ﹁主、管狐は元々実体を持ちません。大きくもなれますが小さくも なれます。なれる大きさに限度は有りませんから。﹂ ﹁詳しいねポチ⋮⋮でもね、それをもっと早く言ってほしかったよ。 ﹂ ﹁ワタシも忘れていました。﹂ ﹁きゅきゅ♪﹂ ﹁なら何で棚の隙間に挟まっていたの?隙間よりも細くなれば出れ たでしょ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮わしゅれてたでしゅ⋮⋮きゅ⋮﹂ 管狐もとい奏はドジっ子のようだ。ちなみに、管狐には性別はな い。ある日突然増えるのだ。精霊みたいに自然のエネルギーが集ま った生き物?らしい。詳しくは知られていない。本人︵狐︶も分か らないようだ。 604 気に入った住みかが見つかってご機嫌の様だ。奏が楽しそうで何 よりです。それにペンダントタイプだから首に掛けていよう。無く したら大変だしね。 ﹁さて、嫁さんの荷造りの様子を見て今日は寝よっかな⋮⋮﹂ 大丈夫って言ってたけど、大丈夫だよね。無限に入るポーチだし、 よほどの事がない限り⋮⋮。 心配なので突撃隣の荷造り!何てね。さて、ふざけてないで早く 確かめよう。そんでさっさと眠ろう。朝早いし⋮⋮ いくら夫婦︵偽装︶でも、礼儀はなくてはならない。なので必ず ノックはします。 コンコン⋮⋮ ﹁嫁さん? 荷造り進んでる?﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁返事がない⋮ただの空き部屋の様だ。⋮じゃなくて!﹂ まさか寝ちゃったの?それでも良いけど、支度をしてからにして ね。明日行くって訳じゃないけど、色々忙しくなるんだから、出来 るうちにしとかないと困るのは自分なんだよ! 605 ﹁入るよ∼。﹂ しょうがないので、入ってみる。すると⋮ ﹁︵︳︳︶..zzZZ﹂ ﹁︵・д・︶ノ﹂ 寝てるし⋮⋮ホントに寝てるし! え、10分も経ってないよ、私の部屋出ていったの。何々∼貴方 はどこぞのあやとりと射的が得意な眼鏡の少年ですか?お休み十秒 ですか? てか、ベットにたどり着けけはしたけどベットに入る前に力尽き たのね。ベットに顔を埋めて寝ちゃってるよ⋮⋮。 ﹁︵日頃あんなスプラッタ何て見たことなかったもんね⋮⋮疲れた んだろうな⋮︶﹂ 今日の事がトラウマにならないことを祈ろう。 ランメイ 確かに私は藍苺に精神的に強くなってと言ったけれど、別に強く なくても良いのだ。ただ強くなりたい、強くならなきゃ、立ち向か わなきゃ、って気持ちを持って欲しかったから。 人は弱くても生きていける。何のために私達が居るんだ。助け合 うためでしょ? ﹃今度は絶対先に逝ったりしないからね﹄ 606 あれ? 私何か言ったかな?疲れてるのかな。 ベットに倒れ込んで寝ている藍苺をキチンとベット寝かせて布団 を掛ける。 この頃寝顔にまで表情が出て来た様で見てると楽しい。この間何 て朝起こしに行ったら﹁アンコはつぶ餡がいい﹂とか寝惚けて言っ てたし⋮⋮。コレは食い意地がはってるだけかな⋮⋮。 ﹁ホントに可愛いな⋮⋮﹂ 本人が聞いたら怒るだろうね。顔がじゃないよ。仕草とか表情が あどけなくて可愛いって意味だよ。 この気持ちよさげに眠っている顔を見てるとこっちまで眠くなっ てきた⋮⋮ ﹁じゃぁ、おやすみ⋮藍苺。﹂ 明日もきっと寝坊するだろうと、ちょっと失礼な事を考えて部屋 を出ようとする。ふと、さっき渡したポーチがベットの脇に置いて ある。一応着替えやら何やらを入れようとしたのだろう、よく見る と周りに衣類が散らばっていた。 ﹁やっぱり苦手なんだ⋮⋮﹂ 整理整頓が苦手だろうとは思っていたが、どうも突発的な事には 弱いらしい。箪笥の整理は出来るのに、荷造りは出来ないなんて⋮ 607 ⋮制限は無いのだから無造作に入れる手もあったろうに⋮。 ﹁一応、考えてみたのかな⋮⋮﹂ 流石負けず嫌い⋮⋮ここまで悩んででもやろうとしたのか⋮。寝 ちゃったけど。 ﹁もしも、私が居なくなったらどうするのかな?﹂ 何時かは居なくなる。遅かれ早かれ⋮⋮。ただ遠くに行くだけな ら会えもするが、もし⋮私が死んでしまったら? 藍苺には生きていて欲しい。ゲームのシナリオでは私よりも少な 私 いが死亡することが全キャラ中ワースト2だからね。勿論ワースト 1は紅蓮だ。 私 シナリオの中に紅蓮の後を追って死んでしまう物があった。私が 死にさえしなければ良いのだが、もし、無茶をして私が死んでしま ったら⋮⋮。 そう考えると切りがない。止めよう。ネガティブ過ぎる。 今後の課題は、嫁さんが一人でも生きていけるように鍛えること。 勿論精神的にもね♪ ﹁でも、今回だけは荷造りやっておくから。﹂ 608 連日起こる何やかんやで疲れているだろう⋮⋮。白の王宮を出る まで深窓の姫君だったもんね。騒がしいことになれてないよね。 おやすみ⋮⋮。 ﹁けど、下着だけは自分で入れてよね⋮﹂ 私は人様の下着をこれまた人様の箪笥から出したり致しません。 ソコまでやったらオカンになっちゃうしね。 609 荷造りしながらお喋りするのって楽しいよね︵後書き︶ 実は紅蓮と藍苺には意外な接点が⋮⋮気づいている方もいると思 います。結構あからさまだし⋮⋮うん。ねえ?↑︵知らねえよ!︶ そして、管狐の名前を決めました⋮⋮。といっても、かなり前に 公募した名前をつけさせていただきました。この名前を考えてくれ た方ありがとうございます。m︵︳︳︶m それではありがとうございました。 610 空を飛ぶ事は何も楽しい事ばかりではない︵前書き︶ チートの子はチート⋮⋮。だけど、中身も伴わないと活かすこと なんて出来ないですよね⋮⋮ 611 空を飛ぶ事は何も楽しい事ばかりではない どうも、ただ今ポチのお風呂タイムです。泡で黒い毛並みが見え ません。モコモコの泡だらけなポチはというと⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮﹂ 耳と尻尾が垂れてて可愛い⋮。ではなくて、嫌いなお風呂で減な りしています。翼は汚れに強いので洗わずにそのまま、毛並みだけ をワッシャワッシャと洗います。普通の犬ならば、体をぶるぶるさ せて其処らに泡や水を飛ばしますが、ソコはお利口なポチ。じっと しています。 ﹁ポチ痒いところは?﹂ ﹁クゥ∼︵ありません、だから早く終わってください⋮︶﹂ おっと、そうだった。すまんポチ。 ﹁よし。後は流すから目瞑ってて⋮⋮﹂ 桶に溜めていたぬるま湯を耳に入らないように慎重に、けど、素 早く洗い流す。後はシャワーで洗い流せば良いけど、頭だけは耳に 入るとポチが嫌がるから丁寧に桶で洗い流す。 シャワーはどうしてあるのか? 勿論マミィお手製ですが何か? ﹁嫁さん、ポチ上がるからタオルお願い!﹂ ﹁分かった。﹂ 612 ランメイ 洗うのは私の担当。ポチを拭くのは嫁さんもとい藍苺の担当。可 愛い物好きの嫁さんがポチを拭くという名の構い倒しが出来るので 若干楽しそうに待っていた。ポチ、ガンバ! ﹁クゥ∼⋮﹂ ﹁翼は拭かなくていいのか?﹂ ﹁きゃん。﹂ ﹁そっか、乾いてるもんな♪﹂ スゴい楽しそう。うん、楽しそうにしてるのは良いんだけどね⋮⋮ ﹁嫁さん、上がりたいんだけど⋮⋮退いてくれない?﹂ ﹁﹁あ﹂キャウ﹂ ポチまで忘れてたの? 別に良いんだよ。このまま出ていっても。 けど、恥ずかしがるの嫁さんの方だからね⋮⋮だから、 ﹁脱衣場じゃなくて、リビングの方で拭いてね。私湯冷めするから。 ﹂ ﹁わ、悪い﹂ ﹁それとも、このまま上がって良いの?﹂ ﹁ダメだ!﹂ お気づきかもかも知れませんが、ポチを洗う次いでに私もお風呂 に入っています。だってお風呂好きなんだもん。朝風呂は脳卒中と か心筋梗塞とか何とかに悪いとか聞くけど、毎日じゃないし良いか な?と思ってさ。 にしても嫁さんよ。前世男だったろ、今さら見ても恥ずかしくと も何ともないんじゃなかったのか? 613 私? 私は裸見られるの恥ずかしいよ。だって嫁さんをちゃんと 異性って認識してるから。それにしても、私って何なんだろ? 前世男でも、今は女の嫁さん。その嫁さんに惚れた前世女で、今 は男の私。百合なのか? でも、顔つきが好みだとかと違うし⋮⋮。精神的には異性だけど、 身体的にも異性。けど、逆転している。 ホントに前途多難な恋だな⋮⋮。脈も無さそうだし。 嫁さんとポチが脱衣場から出ていったので扉を開けて浴室から出 る。肩に貼り付いた髪の毛を払い除けてタオルを体に巻く。吸水性 の良いタオルは直ぐに肌の水分を取り除く。さっき待っているつい でに髪を洗ったので素早く拭く⋮⋮だろう。普通なら。 けれど、その方法だとかなり時間が掛かる。ココに来た当初、腰 まであった髪は腰よりも長くなり膝まで伸びた。お陰で手入れが大 変だ。 なら、何で伸ばすのか? コレには理由がある。髪って高く売れ るのだ。けど、別に売らないよ。それよりも使い道が結構あるから ね。 614 お洒落で伸ばし続けている訳じゃないって言いたかったのさ。そ れに白い髪なんて誰が欲しがるの? まぁ、手入れが大変だって言ったけど、この髪はなにもしなくて もサラサラのまま。別に特別な手入れしてないしね。石鹸で洗って るし⋮⋮、洗うのが一苦労なだけ。 そう言えば、髪が一時期白くなったけど、次の日には元の薄藤色 に戻っていた。よかったよ、白の髪は前と同じであんまし好きじゃ ないから。目も元の紅に戻ってたしね。コレは戻っても微妙。 えっと⋮話を戻そうか。なんだった?あぁ、そうだった。髪をど うやって簡単に乾かすかだね。ドライヤーって手もあるけど︵勿論 マミィ印︶もっと簡単な方法がある。私限定だけど。 どんな方法かって? 簡単。 ﹁乾け﹂ コレだけ。ね?簡単でしょ? ホントに簡単なんだって。中級術師位ならできると思うよ。皆難 しく考えすぎなんだよ。 でも、実際やるとミイラになってしまうらしいよ。怖いね∼∼。 それに、長ったらしい呪文を長々と言わないと発動できないとか⋮ ⋮。 マミィも父さんも出来るようだけど、もう少し言葉を足すみたい 615 だよ。例えばマミィの場合﹃髪を傷つけず乾かせ﹄だったね。父さ んは少し長い﹃髪を適度に痛めず乾かせ﹄とかだったよ。 一般的な場合はどうなんかって?何か厨二みたいな呪文で﹃我が お髪を∼∼﹄とか結構長くて設定が細かい。マミィ曰く、﹁長いだ けで便利でもないし、コストが掛かる不要の長物﹂らしい。何とも な言い方だ。でも、実際にホントらしい。何より恥ずかしいよ。 思うんだけどね。純粋な妖怪と人間︵妖怪の血を引いているがご く薄い者達︶は術を使う感覚が違うのだと思うよ。何て言うのかな ∼。妖怪が使う術は妖術って言われてるけど、本を正せば人間の使 う術と同じなんだよ。 唯違うのは⋮⋮人間は理論的な感じで、妖怪は直感的な物かな? 言葉で表現するのが難しいなぁ。 まぁ、力の使い方を本能的に知っているのが妖怪で、理論的な考 えで誰かに教えを請うのが人間ってトコ何じゃないの? レイシュン ﹁レン、いつまで入ってんだよ∼∼。今日は麗春さんに頼まれた薬 草類を取りに行くんだろ。早く用意して行こう。﹂ ﹁あ、そうだった。ゴメンゴメン。今行くから∼﹂ そうだったよ。母さんに頼まれた薬草類を森まで取ってこないと いけないんだった。 616 この都度、森に行くことが解禁されました。前までは危なかった けど、今度から保護者︵上位の妖怪︶と一緒なら良いとお使いがて ら森の探索︵と、いう名の遊び︶に今日は行ってきます。 そうひ うてん メンバーは、私、嫁さん、父さん、ポチ、奏︵管狐︶に女術師捜 索の時にお世話になった走飛の子供、新たな私の眷属、兎天です。 名前の由来は、ウサギのロップイヤーみたいに頭に二つの飾り羽ね が付いていて、しかも真っ白なので兎天とつけました。この子が可 愛いんだわコレが。 大きさはまだ白鳥サイズだけど、人一人は運べる程力が有るので、 兎天の脚に掴まって森まで降ります。 ここで問題です。この中で飛べない者は誰でしょう。⋮⋮⋮⋮そ う、嫁さんです。 ポチも奏も、コレは多分父さんも飛べます。⋮⋮⋮問題なのが私 なんですよね。 どうやら今回、私は飛べないといけない訳なんですよ。落ちたら 痛いじゃ済まない⋮⋮﹁貴方なら掠り傷一つ付きゃしないわよ b yマミィ﹂ キュウキ なので今回紐無しバンジーに挑戦しないといけないのだ。窮奇は 翼が有るので勿論飛べるし、龍だって飛べる。飛べないのは九尾だ け。 最悪飛べなくても死にはしない﹁怪我したら治してあげるわよ byマミィ﹂⋮⋮おい。 617 死んだらどうすんだよ。﹁チートの血を引いてるから大丈夫だ、 問題ない。byパピィ﹂変なフラグ建てんじゃねえよ!メシ抜きに すんぞ! オホンッ⋮⋮さて、そんな訳で急いで着替えて脱衣場から出る。 この無駄に広い家のリビングに向かう。リビングに入るとしっかり 乾いたポチとホクホク顔の嫁さんがポチをブラッシングしなら寛い でいた。 備え付けのソファに父さんと母さんが座りながら今日の予定につ いて話し合っていた。 ﹁ゴメンゴメン。長風呂になっちゃった。﹂ ﹁いや、良いよ。ポチのブラッシングもちょうど終わったし。﹂ ポチはすっかり綺麗になっていた。別に普段汚いわけじゃないよ。 今回は少し丁寧に洗ったし、嫁さんがこれまた丁寧にブラッシング したから艶が普段の倍になったんだよ。 ﹁良かったねポチ。きっと今なら雌にモテモテだよ。﹂ ﹁クゥ∼⋮⋮﹂ ﹂ それは困るとでも言いたげにポチは耳がしょげている。 ﹁ポチのやつどうして落ち込んでんだ? ﹁ポチってね、群れに馴染めなかったんだよ。こんなにお利口さん で可愛いのに!﹂ 618 ﹁なん⋮⋮だと。﹂ そのモトネタ分かるよ。なんだかノリノリだね。 ﹁こんなにお利口なのに群れに馴染めなかった?﹂ ﹁うん。毛色が違うからね。﹂ 獣というのは自分と周りにの変化に敏感なモノだ。ポチの群れは 皆灰色だった。全身真っ黒のポチはそれはそれは目だってしまうの だ。 ﹁でもね、群れはポチを見捨てた訳じゃないんだよ。﹂ ﹁群れに追い出されたとかじゃ無いんだな。﹂ ﹁うん。でも、ポチは馴染めなかったから。だから母さんに託され たんだよ。群れの外に出れば同じで色の一族と出会えるかも知れな いから。﹂ ポチ本人︵狼︶は独りで旅にでも出ようかと考えていた様だが、 群れの中間や両親に説得されて母さんの元で大人になるまで居る予 定だった。けれど、私の眷属になりたいと言い出して⋮⋮今に至る。 ﹁成る程な⋮⋮なら今は嫁候補を探しているのか?﹂ ﹁ちょっと違うみたい。本人︵狼︶は気にしてないみたいだよ。嫁 さん候補。﹂ ﹁クゥ∼﹂ そうですよとポチは言いながら寝そべった。 ﹁話は終わったかしら?﹂ 619 いつの間にか話し合いを終わらせた両親が此方を見ながら話しか けてきた。タイミングを計っていたのかな? ﹁うん。そっちも終わったみたいだね。で、今日の予定は?﹂ ﹁昨日お願いした通りよ。このメモに書いてある薬草を取ってきて ちょうだい。今日はそれで終わり。明日は王宮に行くからあとは準 備をしましょう。﹂ もう、自分の分は終わりましたけど? ﹁きっとコウちゃんは終わってるだろうから休んでて良いわよ。﹂ ﹁了解です。﹂ ﹁もう終わったのか⋮⋮早いな。﹂ ﹁俺も大体終わってた。︵朝起きたら衣類やら何やら詰め終わって た。下着はまだだった様だけど。︶﹂ ﹁⋮⋮﹂ 気づいてるよね嫁さん。私がやっておきました∼下着はまだだけ ど。 シュリ ﹁なら今日の予定については以上ね。朱李皆をお願いね。﹂ ﹁あぁ。﹂ ﹁それと、コウちゃんは頑張って飛んでね♪﹂ ﹁期待しないで待っててね⋮⋮ハァ∼﹂ ﹁大丈夫なのか?﹂ ﹁ノーコメント⋮⋮﹂ 620 ﹁大丈夫でしゅ!ボクとセンパイでたしゅけましゅ!﹂ 首から下げた薬入れから頭を出した奏は自信ありげに宣言した。 センパイってポチの事だよね。 ﹁そん時は宜しく⋮﹂ ﹁きゅ♪﹂ ﹁クゥ∼⋮﹂ マミィの不吉な行ってらっしゃい♪を軽く返して皆で下の森まで 行ってきます∼∼⋮⋮あぁ、複雑骨折だけは勘弁だな⋮⋮ ﹁なぁレン、お前顔真っ青だぞ。﹂ ﹁でしょうね! 今から紐無しバンジーしろって言われりゃぁ、そ ら青くもなるよ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮悪い。﹂ 別に責めてないからね嫁さん。誤解だよ。だからそんな落ち込ま ないでよ∼⋮気が滅入るから。 621 ﹁嫁さんは兎天から手を離さないようにね。私は大丈夫だから。頑 丈さは親譲りだしね。﹂ ﹁う?うん。﹂ ﹁兎天、頼んだよ﹂ ﹁キュルルル♪﹂ コウレン ﹁心配するな紅蓮。落ちたら地面につく前に助ける。﹂ そう言って父さんは龍の姿をとった。霧で姿が一瞬見えなくなっ たかと思ったら次の瞬間には白龍の姿になっていた。龍とは竜とは 違うみたい。 一般的な竜は西洋のドラゴンのような姿をしている。それに対し て龍は蛇に手足と鬣を付けた東洋の龍の姿をしている。 ワイバーンもいる。妖怪ではなく魔獣だけどね。呼び名は飛竜。 竜と言ってはいるが実際は蜥蜴等の爬虫類が魔物化したモノが魔獣 になったと言われていて、正確には竜ではないらしい。姿は某モン スターをハントするゲームの空の王者に似ている。絵でしか見たこ とないけど、アレよりも線が細い感じかな。正に蜥蜴。 ﹁父さんが初めて格好いいと思った。﹂ ﹁そうか? 格好いいか♪﹂ ﹁︵格好いいの前に付いてる言葉が妙に刺があるな。︶﹂ ﹁で、父さんは助けるから私にここから⋮⋮崖から飛び降りてみろ と? 自殺しろってかい?﹂ ﹁高所恐怖症か?﹂ 622 ﹁普通の一般人なら怖いに決まってんだろ!﹂ マジでメシ抜きにすんぞ⋮⋮。ニッコリ笑いながら私を見るな。 龍の姿で笑ってるか何て分かんないけど、分かる。絶対笑ってる。 口の端がヒクついてるもん。 ﹁ふ、フフフフ⋮⋮いいよ、やってやらぁ⋮⋮飛べば良いんだろ⋮ ⋮そん代わり親父はメシ抜きな。﹂ ﹁︵誰だ!!︶﹂ ﹁あ、あぁ分かった⋮⋮いや、違う。メシ抜きは勘弁してくれ。﹂ 何言ってんだ。男に二言は無いだろ? 是と答えたなら貫けよ。 例えそれがツイ言ってしまった事でもよぉ⋮⋮フフフフフ⋮⋮ ﹁レン、無理すんなよ︵壊れた⋮レンが壊れた⋮︶﹂ ﹁大丈夫。例え飛べなくても父さんが地面とクッションになって身 を呈して助けてくれるって言ってたから。﹂ 言ってないけど。いったもん勝ちだコンニャロー。 ﹁︵もう、レンをからかうのは止めよう⋮⋮レイよりも容赦無い⋮︶ ﹂ もう、覚悟を決めよう。腹ぁ括って飛び降りてやらぁ。ん? そ う言えば人の姿で翼だけ出せんじゃないか? 見た目的に天使見た いで厨二ぽっくなるけど知ったことか。もう知らん。 出掛けにマミィが﹁服を脱がなくても人の姿に戻る時、意識すれ 623 ば服を着た状態で戻れるわよ♪﹂初耳∼∼。もっと早く聞きたかっ たよ。 後、翼を出す場合人の姿の時は服を破らずに出すのは結構難しい らしくマミィは成功した試しが無いらしい。昨日荷造りしたポーチ を今日も持ち歩いているので、着替えの準備はバッチシだ。失敗前 提だ。 ﹁紅蓮、何も翼が無ければ飛べないわけではないぞ。白龍の血を引 いているからな。意識すれば飛べないこともない。﹂ ﹁何で翼が無くても飛べるの?﹂ ﹁他の竜は翼が有るから飛べんのは分かるけど⋮⋮﹂ ﹁詳しくは知らん。これも妖力か何かだろ。﹂ 妖怪ってね、自分の力がどんな理論でこうなるのか知らないのが 殆どなんだってさ。まぁ⋮そうだよね。私も尻尾の動かしかたなん てどうやってるのか意識してないしね⋮。 尻尾や耳を出す要領で翼を出す⋮⋮。意外に簡単でちょっと拍子 抜けしたのは秘密だ。 ﹁案外簡単に出したな⋮﹂ ﹁翼を出せたのは良いんだけどね、果たして飛べるか⋮⋮﹂ 翼が有っても飛べるか?と聞かれると飛べるわけないでしょ。鳥 だって、巣立ち前に巣の中でイメージトレーニングしてるって言う し。今まで﹁飛ぶ﹂なんて事を考えたこともなかった私が翼が生え たから直ぐに飛べるわけがない。 624 ﹁︵それを両親は﹁一先ずやってみろ﹂なんて言うんだから︶﹂ いくら丈夫でも、怖いものは怖い。二人は自分達もチートだから 私も同じ位チートと思っているのだろう。確かに普通ではないのは 自覚しているよ。でもね、チートもレベルってモノがあるんだよき っと。 二人は文句無しの完全チート。対して私は上位クラスなら何とか 追い付けるかな?程のチート?と言いたくなるほどの力しかない。 おまけに覚悟もそんなに強くない。理不尽なフラグをへし折る事 は躍起になってするが、他のことに関しては食糧確保以外に特に目 標もない。そして何度も言うが、まだ8歳だぞ私。精神年齢もうす まぁ、やるだけやってみろ!﹂ ぐ三十路だけどさぁ。 ﹁ 等と声をかけて励ましていると思っていた父は、あろう事か飛べ るかも分からない私の背中を押して崖から突き落とした。正に連獅 子⋮⋮って違うだろ! あんた龍だろ獅子じゃないだろ!8歳の息 子崖から落とすなよ! ﹁レンッ!!﹂ 嫁さんの焦った声が届いてきた。兎天に掴まり嫁さも下降してく る。それに続いてポチが急降下して私の横まで来た。成る程、急降 下の時は翼を少し畳んで落ちるのか⋮⋮いや、今はそれよりも私が 飛ばないと! 625 ﹁︵体を捻って体勢を立て直さないと⋮︶﹂ まったく、落とすなら正面向いたときに落とせよな。空中で体勢 を立て直すの結構しんどいんだぞ⋮⋮ 何とか体を捻り飛ぶ体勢に持っていく事ができた。こうなりゃ自 棄だ。翼をがばぁっと広げる感じて広げる。お? コレは一応速度 が落ちたかな? ﹁主、羽ばたいてください。﹂ ﹁羽ばたくってどうやんのポチさん!?﹂ ﹁背中に集中して力を入れる⋮⋮で良いんでしたか?﹂ いや、私に聞かれてもねぇ⋮⋮こっちが聞きたいよポチ。でもま ぁ⋮この速度ならどうにか着地しても軽傷で済みそうだ。 ﹁レン、大丈夫か!?﹂ ﹁あぁ⋮嫁さん。危ないからちょっと離れててね。﹂ ﹁いや、今お前が一番危ない。﹂ ちょっと荒業で着地の衝撃を和らげようかと模索していた。ほら、 よくファンタジーで魔法を使って爆風で落下スピードを落としたり するの有るでしょ? アレやってみます。 一発勝負何で皆退いてね♪ ﹁ストップ! ちょっとまて紅蓮!﹂ ﹁アーアーキ∼コ∼エ∼ナイ∼∼︵笑︶﹂ ﹁︵こいつマジで殺る気だ⋮⋮︶﹂ 626 ﹁兎天もう少し離れてね。ポチ、パス!﹂ ﹁キュイ!﹂ ﹁クォン!﹂ 今の合図で兎天はかなり離れた。ポチに投げて渡したのは奏が入 っている薬入れだ。何かあると大変だからポチに持っていて貰おう。 ﹁よっしゃ、派手にいっきまーす♪﹂ 落下中の私の真下は岩だらけのゴツゴツした岩場。術をぶっ放し ても多少大丈夫だろう。 ﹁炎かな? ﹃爆ぜろ﹄!!﹂ コウレン 地面から後、三メーター弱。岩場に向かい爆発系の妖術を発動さ せる。コレは﹁紅蓮﹂の使う術だ。私自身はこのゲームをしたこと がないので知らなかったが、母さんが教えてくれた。炎属性の爆破 系で2番目に強い術らしい。そんな危険な術を8歳の子供に教える のもどうかと思うけど⋮⋮私が同じ転生者だと知っているから敢え て教えてくれたのかも知れない。 何で危険な爆発系の、それも炎属性の妖術を選んだか説明しまし ょう。 私の主属性は3つ、光、炎、風。つまり、私に炎は全く効きませ ん。それどころか逆に回復します。コレはゲーム設定で決まってい るとか。逆に弱点属性には倍にダメージ食らいます。 あ、余談なんだけどね。私の弱点は闇だけです。コレは母さんが 教えてくれた。ほら、妖力を調べる宝珠使ったときレインボーな色 627 になったでしょ私。 あか 最初は真っ白、その次は紅と色が出たでしょ? アレが主属性だ ったみたい。白は覚えているけど、正直紅とか覚えてない。 あぁ、そうだ、話を戻そうね。爆風で落下スピードが落ちて尚且 つ翼に爆風が当たって地面との衝突は緩和された。熱風のおかげて ピンピンしている。きっと体力ゲージは満タンだ。 両腕をついている状態で着地した。若干腕やら足やら痛いが直ぐ に痛みも引いた。 ドサッ! ﹁レン無理しすぎだ!! なに考えてる。爆風で落下スピードを落 とすなんて⋮⋮﹂ 何を仰いますか嫁さんよ。何の説明もなしに落とす父の方が危険 だよ。それに準備もなしに降りてきた嫁さんも危ないからね。兎天 だって限界があるんだから⋮⋮。 いざって時の行動には気を付けてよ。 え?父さんどうしたか?さぁ∼。何処かに吹っ飛ばされでもした んじゃないの?物凄い爆風だったし⋮⋮意外に近い位置に居たしね。 628 629 空を飛ぶ事は何も楽しい事ばかりではない︵後書き︶ 飛ばせるために崖から突き落とす暴挙に出たパピィ⋮⋮やりすぎ ですよね。 紅蓮は自分がチートだとあまり意識していません。自覚もしてま せんねアレは⋮。 630 気を抜くな、危険は直ぐソコまで迫ってる︵前書き︶ コウレン ネガティブモードな紅蓮ですか、これが最後になります。この後 は絶対ネガティブにしない。だってシリアスなんて私にかけません もん。 ︵ノ︳<。︶ 631 気を抜くな、危険は直ぐソコまで迫ってる コウレン 何とか不時着した扱いが酷いと思う主人公の紅蓮です。マジで落 としやがった父さんは葉っぱを全身に付けた状態で茂みから出てき た。 ﹁何処行ってたんだよ。子供の一大事に。こちとら爆風で何とか不 時着したんですけど⋮﹂ ﹁⋮⋮︵いや、ぶっ飛ばしたのお前じゃん︶﹂ ランメイ 嫁さんの藍苺が呆れた顔で此方を見ていた。ふっ⋮⋮意外に怖か ったんだよ?紐無しバンジーって。 ﹁いきなりの突風でぶっ飛ばされてな⋮⋮︵一切の躊躇いもなく俺 を吹き飛ばしたぞ紅蓮のやつ⋮︶﹂ 父さんを吹っ飛ばしたのは自覚している。飛ばせる為に突き落と したって理解してるけど、それとこれとは話が違うのだよ。頭で理 解できても、ムカつくのはムカつくのだ。 ﹁そりゃゴメンね? チートじゃないんで力の制御が出来なくて♪﹂ ﹁いや、お前充分チートだから。﹂ いーの。チートなのは私の才能じゃなくて親から受け継いだダケ なんから。中身の私は普通な神経なんです。 ﹁︵あの精神力で普通な訳無い﹁何か言ったかい?嫁さん﹂⋮いや、 何も。﹂ 632 ﹁︵あの非常時に冷静に妖術を発動するのは並みの精神じゃ無理だ ろ︶﹂ 二人とも失礼だね。至って普通なんだって。本人が普通だって言 ってんだから⋮ ﹁私は普通。お・わ・か・り?﹂ ﹁﹁了解しました﹂﹂ 素直でよろしい。さて、 ﹁父さん、いい加減体に付いた葉っぱ取りなよ。情けないから。﹂ シュリ 朱李は1000のダメージを受けた!効果は抜群だ! そんな感 じに衝撃を受けているみたいだ。ちょっと悪いことしたか? ﹁︵エグい⋮⋮︶﹂ ﹁言い過ぎ﹂ ﹁クゥ﹂[コクリ] ﹁え?そう? ゴメンね父さん。﹂ ﹁いや、本当の事だしな⋮⋮うん。﹂ 情けないからorzはやめてくれない? 格好いい父さんを見た いのよ私はね。何せ⋮⋮ ﹁︵考えてみたら、父親と過ごすのはホントに初めてだからね⋮⋮︶ 633 ﹂ 前世も義理の父親は居たけれど、いつも事務的で余所の父親達と は違いよそよそしかった。一時期父親と思ったKY陛下は論外だ。 とは言え、父さんは今まで約8年も封印されていたのだから戸惑 いもあるのだろうけど。正直私はどう接したら良いのか解らない。 色々言い訳しているが、ココを出ていきたい理由は、兄弟が出来 たら私はどう接したら良いか解らないからだ。小さな子供が少々苦 手なのもある。 小さな子供は壊れやすくて⋮⋮そして純粋で⋮真っ新で、私なん かが触って良いのか戸惑うのだ。と言うか触れない。怖くて。 だから、生まれる前⋮⋮は無理かもしれない。が、親子水入らず で過ごさせてあげたい。私では、前世の記憶を持っている私では子 供らしくするのは端から無理だから。 勿論、弟、妹が生まれたら嬉しいよ。甘やかしたりお世話したり ⋮⋮でも、育てるのは無理。 誰かが言っていた。育った環境でその人間の本質は決まるって⋮。 なら私は前世の記憶を持っている私では⋮⋮。ロクデモナイ大人に なるのかな? お母さんが悪い訳じゃない。あのおじさんが全て悪い訳じゃない のも知ってる。けど、あの⋮あの義祖父は⋮⋮ムショから出てきた ヤツは⋮⋮ 634 ホントにロクデモナイヤツだった。あんなのの側で育った私は⋮ ⋮人を育てる資格は⋮⋮有っても私は出来ない⋮⋮。だから前世で も恋愛や結婚は諦めていた。 ﹁レン?どうした?﹂ ﹁え? あ⋮なんだっけ?﹂ ﹁どうしたレン。やっぱりさっきので何処か痛めたか?﹂ ﹁いや、何でもないよ。ちょっとボーッとしてただけ。﹂ いけない⋮⋮考えに耽っていた。ココは家じゃない。危険な森の 中なんだ、気を引き締めないと。嫁さんにいつも注意してるのに自 分が疎か何て笑われる。 ﹁えっと、何だっけ? あ、母さんからのお使いだっけ⋮⋮えっと ⋮⋮﹂ ﹁メモは朱李さんが持ってたハズ﹂ ﹁あぁ、これだな︵随分な慌てようだな紅蓮⋮︶﹂ ﹁父さんが持ってたのか。何だ無くしたかと思ったよ⋮⋮﹂ ﹁︵珍しいな⋮⋮紅蓮が忘れるなんて︶﹂ 私だって抜けてる所がいっぱい有りますよ。現に私は色んな事を 今まで見落としてきたのだから。 635 それに私は、 ﹁︵この八年間も、前世の20年間も私は成長何かしてないんだよ ね精神的。︶﹂ 側室舞子の事を幼稚だ何だと言いながら、自分が誰より幼稚なん だ。 ﹁ホントに大丈夫か?﹂ ﹁うん。ちょっと気持ちを切り替えないとね⋮﹂ はぁ⋮⋮何か考えることがネガティブになっていく。何だろ。 ﹁気分が悪いなら家に帰っても良いぞ?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁レン?﹂ ﹁︵このままじゃ足手まといになる⋮⋮︶ゴメン、ちょっと調子悪 いから帰るよ。父さん達はこのまま探索続けて⋮⋮﹂ ﹁俺も一旦戻ろうか?﹂ ﹁ううん。自分で帰るよ。でも、兎天に上まで上げてもらうけど⋮﹂ ﹁無理すんなよ?﹂ はははは⋮⋮藍苺に言われたらお終いだね。こんな時って何して も上手くいかないよね⋮⋮。 ⋮⋮⋮やっぱり私変だ。いくらなんでもコレはネガティブ過ぎや しないか? 636 ﹁︵何だろ。ポジティブな考えが出来ない⋮?︶﹂ 何かややこしい事態になりそうだなぁ⋮⋮ ﹁兎天お願いね。﹂ ﹁キュイ⋮⋮キュ?﹂ ﹁大丈夫だよ。﹂ ﹁ホントに大丈夫か?﹂ ﹁うん。ポチと奏は嫁さんに着いてってね。薬入れは嫁さんが持っ ててね。﹂ ﹁レンが持ってる方が良いだろ?﹂ ﹁管狐だから探索とか得意そうだし、何より住みかが近くに無いと ソワソワして落ち着かないと思うから嫁さんが持ってて。﹂ 未だ腑に落ちない二人を半ば無視して兎天に捕まって上昇し始め る。あ、嫁さんが見捨てられた子犬見たにな顔になってる⋮⋮。い やね、ちょっと、嫁さんや? そんな顔しないでよ⋮罪悪感ハンパ ナイ⋮。 637 頂上到着⋮⋮。頂上じゃないけど。兎天にお礼を言って父さん達 の所に行ってもらおうとしたけれど、兎天は﹁イヤイヤ﹂と言った 感じで離れない。私のお腹辺りでグリグリ頭を擦り付けて甘えてき ます⋮⋮可愛い♪ 兎天はまだ親離れしたばかりだからか甘えん坊 だ。ちなにみメス。 そんな兎天の特技はなんと、私の影に隠れるとこ⋮⋮なんの事か 分かんない? えっとね、影の中に溶け込んで影と一体化してしま うって事なんだよ。この説明で分かる? 走るのも早い、飛ぶのも早い、どちらも長く飛べるし走れる。そ して影に隠れて何処でも一緒に居れる⋮⋮便利だね。 そんな感じにある種の現実逃避をしていると兎天が慌てて私の影 に隠れた。何事かと思って周りの気配を探ろうとすると、周りの風 景がグニャリと歪んだ。 ﹁︵ほら見ろ、私はここぞって時に注意力散漫何だよ⋮⋮︶﹂ 一瞬の内に私はココから消えていた。 638 気を抜くな、危険は直ぐソコまで迫ってる︵後書き︶ ここまでお読みいただきありがとうございます。 m︵。︳。︶m ではまた! ソウ ⋮⋮⋮⋮の前に、前回新妖怪が仲間になりました。名前は管狐の奏 の名前を貰った方からいただきました。本当に助かりました。あり がとうございます。m︵︳︳︶m 639 裏側の事情∼マミィは今日も通常運転です∼︵前書き︶ レイシュン 暴走気味な麗春さんでお送りします。 お読みいただきありがとうございます。 640 裏側の事情∼マミィは今日も通常運転です∼ コウレン この﹁ゲームを基に作られた世界﹂に転生して早23年。それも、 あまり出番の無い﹁紅蓮の母親﹂のポジションに転生。しかも前世 で恋人だった彼氏は﹁紅蓮の父親﹂ポジションで転生。 転生の共通点は、声の出演者であるとこ。それも自分が演じた役 に転生している。コレは最初偶然だと思った。でも、違ったのよ⋮ ⋮。 アレは紅蓮が生まれて直ぐの事。私は夢で自称神様に会った。何 事かと思ったわ。いきなり﹃君たちを転生させたのは理由がある﹄ とか言い出すんだもの。殴りたくなったわ。﹁何トチ狂ったこと抜 かすか!﹂って、胸ぐら掴んでシャッフルしちゃたわ♪ 話を戻しましょうね。その自称神様は青ざめた顔で﹃とある策略 を阻んでほしい﹄とか言い出すのよ。引っ叩いてやったわ。自分勝 手も大概にしてほしいわね。大体、16年間も放ったらかしにしと いたくせに、朱李が封印されてコウちゃんが生まれたらひょっこり 出てきたのよ。﹁遅いんだよ!﹂ってエルボー喰らわせちゃった。 咳き込む自称神様の言うことにゃ﹃横暴な一人の神が勝手に世界 を作って好き勝手している。困っているので手伝ってくれ﹄と言っ たの。 そう、﹃手伝ってくれ﹄と言ったのよ。手伝うって辞書で調べて 641 みなさい。﹁他人の仕事を助け一緒に働く。﹂よ。この説明で分か るわね? ﹁アンタ全然手助けしてないじゃないのよ。ただ見てるだけ。それ で此方はテンテコ舞いよ。﹂ ﹃いや、すいません⋮⋮でもねワシもそんなに世界に干渉出来んの よ⋮⋮﹄ ﹁だったら最初っから﹃手伝ってくれ﹄何て言わなきゃ良いでしょ。 ﹂ 確かに家を建てる時に便利な能力を貰ったけど⋮⋮、それとこれ とは話が別よ。 只今夢の中で自称神様と会話中。正座して言い訳をしているこの どっから見ても仙人見たいな外見の長い白髭がトレードマークなお 爺ちゃん。彼が自称神様。こんな姿のお爺ちゃんが神なんて⋮⋮夢 が崩壊するわね。ダメね神様の外見に夢を持っては。 ﹃すまんがの、お嬢ちゃんの考えとることは筒抜けなんじゃがの∼﹄ ﹁知ってます最初から。﹂ 知ってて言っているんですよ。嫌味でね。 しかも、私や朱李、そしてコウちゃんやランちゃんをその演じた 役に転生させた理由が﹃知らん人間よりも知ってる人間の方が何か と都合が良さそうだから﹄ですって⋮⋮テメェも舞子側の神と同じ レベルだろうが!! 何その理不尽な理由は。 642 それにコウちゃんとランちゃんの記憶まで弄ったみたいだし⋮⋮ ホントにコイツ絞めてやろうか⋮⋮ さくじつ ﹃うむ⋮⋮。所でのぉ、昨日の魔獣召喚事件じゃがの。アレはどう も囮らしいのぉ。﹄ 髭を弄りながら話す自称神はさっきとは打って変わって、真剣な 面持ちで話始めた。 ﹃どうやら﹁彼方側﹂は何としても紅蓮を率いれたい様じゃな。最 近は手段を選ばなくなってきておる。﹄ ﹁そうね。まるでコウちゃんの身の安全を全く考えないような作戦 ばかりね。それともコウちゃんがこのくらいで死にはしないとでも 高を括ってるのかしら?﹂ ﹃さぁのぉ。ワシにはとんと分からんのぉ。それに﹁あ奴﹂は彼女 を陰で動かして遊んでいるとしか考えられんのぉ。﹄ ﹁傍迷惑ね。それにしても、ランちゃんが呪詛に掛かった時も何も 言わなかったわね⋮⋮﹂ ダラダラ汗を流す自称神。威厳なんて端から無い。 ﹃あの時は仕方なかったのじゃよ。藍苺には自力で呪詛を跳ね返さ ねばならんかったのじゃ。その力も備わっておったし⋮﹄ ﹁なら今まで有った襲撃は皆感知していたのね。それでいて結界に 643 穴が空いても黙っていたわけ?﹂ ﹃ワシが助けてもよかったのじゃがの、助けてしまっては成長しな いじゃろ。﹄ さも、当たり前。﹁ワシ良いこと言った﹂とドヤ顔しそうになっ たので自称神にアイアンクローをかましてしまった。 ﹃う、ぅぅぅ⋮⋮。いくら神でも痛いのじゃよ⋮﹄ ﹁いくらなんでも、ランちゃんの貞操の危機を回避させなかったの が悪いのよ。﹂ ﹃じゃか、紅蓮が間に合ったじゃろ﹄ あれが間に合った? ﹁服を割かれて、肌蹴させられて、あまつさえ体を触られたのよ! しかも嫌いなヤツに⋮⋮女性にとってどれ程苦痛か⋮⋮アンタ一 度女になってみなさいよ。嫌でも理解できるから。﹂ 私の剣幕に押され気味の自称神はションボリして言い訳を始めた。 そのどれも言い訳にもならない戯れ言だった。 ﹁その話はいつかコウちゃんに言えばいいわ。︵絶対許しはしない でしょうね︶﹂ ﹃⋮⋮︵ありゃ⋮ワシに死亡フラグが建ってしもうた!﹄⋮むむ? いかんの⋮⋮﹁奴等﹂とうとう強行手段にでおったわ! 644 ﹁!!⋮⋮まさか!﹂ ﹃うむ。紅蓮が朱李等と離れた時を狙ったのかのぉ。それに紅蓮は 本調子では無かったしのぉ⋮[グァシッ]ぬぁ!﹄ 聞き捨てならない事を聞いたわね⋮⋮紅蓮が何だって!? ﹁コウちゃんが何だって!? 本調子じゃ無い? 朝は至って元気 だったわよ。何があったの!﹂ 胸ぐら掴んで自称神を揺する。嫌でも吐いてもらうわよ⋮⋮物理 的な﹁吐く﹂は遠慮したいけど。 ﹃言う、言うから揺するでない!⋮⋮紅蓮は﹁彼女ら﹂が仕掛けた 呪詛に掛かっておるのじゃ。﹄ ﹁呪詛!? 朝にはそんな気配は無かった⋮﹂ ﹃それも、当たり前じゃよ。掛けられたのは家を出た後じゃ。朱李 には気付かれん様に巧妙に隠しとったからの⋮⋮お前さんなら見破 れたかも知れんが。﹄ ﹁それでコウちゃんは無事なの?﹂ ﹃うむ。ピンピンしとるぞ。どうやらあまり効いてないようじゃ。 流石はお前さんと朱李の子じゃな。精神的な強さが半端ではないの ぉ。じゃが、どうやら呪詛の影響でネガティブになりかけておる。﹄ ﹁それで、﹁彼方側﹂はどう仕掛けてきたの? 早く教えて。急い で助けに⋮⋮﹂ 645 こんな時には焦ってはダメね。自称神様から出来るだけ情報を探 り出さないと⋮ ﹃そう急ぐて無い。大丈夫じゃよ。紅蓮は転送されただけじゃ。命 の心配は無いぞ。﹄ ﹁⋮それって拐われたって事じゃないのよ! この似非神! 命が あったら大丈夫な訳じゃないのよ! もう少し人の心を理解する勉 強でもしなさいよ!﹂ ﹃いやの、大丈夫じゃよ。[グァシッィィ]イダダダダ⋮⋮﹄ ﹁何処がどう大丈夫なのか説明してみなさいよ!﹂ アイアンクローをかけながら問いかける。すると自称神改め似非 神は ﹃転送された場所は白の王宮じゃ。心配いらん。直ぐ様白の王より 言伝てが届くハズじゃ∼。頼むからこの手を離してくれんか? ワ シャ死なんが痛いものは痛いのじゃよ⋮⋮﹄ 仕方なく離す。私だって暴力的なことは好みじゃない。 ﹁気になることが有るのだけど。﹂ ﹃何じゃ?﹄ ﹁どうしてコウちゃんは朱李達から離れたの?﹂ 646 コウちゃんはよほどの事が無い限り無謀な行動はしない。そのコ ウちゃんがどうして森の中で単独行動何かしてたの? 呪詛に掛か ってネガティブになっていたのなら尚更無謀な行動はしないハズ⋮⋮ ﹃うむ。どうも呪詛によるネガティブな考えが離れぬので、体調が 悪いと思ったのじゃろう。足手まといになるやも知れんと家に帰る ところじゃった様じゃな。﹄ コウちゃんの思慮深さが仇となったのかしら。 ﹁もうひとつ気になることが有るわ。﹂ ﹃何じゃ?﹄ ﹁どうしてコウちゃんとランちゃんにはあなたの存在を隠す必要が 有るのよ。それに二人の﹁真エンド﹂に関する記憶まで封じて。お 陰で二人にあなたを知らないし、﹁真エンド﹂の何用も知らないと 朱李と二人で嘘をつくはめになったわよ。﹂ ﹃いずれ分かるじゃろ。それに秘密を知っているのは極僅かでいい じゃろうて。﹄ それはそうかもしれないが、何も知らないと後で大変な事にでも 為ったらどうするきなのよ。コレは現実に起きてることなのよ。リ セットしてやり直すなんて出来ない。ゲームじゃないのよ! ﹃良く考えるのじゃ、白の王とて愚かではない。お前さん等を怒ら せれば国がどうなるか分かっておるだろ。それに友じゃろう? 無 下な扱いはせんよ。それにの、コレは好機じゃて。﹄ 647 ﹁子供のピンチをチャンスと思える親がどこに行ってのよ。﹂ もしも、もしもよ? コウちゃんの身に何かあれば⋮⋮私は理性 を保っていれるかしら? ﹃気を確り持つのじゃよ。このゲームは﹁あ奴﹂がワシ等に持ち掛 けたものじゃ。﹄ ﹁私達は駒じゃない。﹂ ﹃そんな事は百も承知じゃよ。ワシが言いたいのは、﹁あ奴﹂は彼 女、﹃舞子﹄の事を自分が操作する駒としか思うておらんと言うこ とじゃよ。﹄ 私は今一この似非神が信用できない。自分は駒とは思っていない と言いながらも、指図するだけ。﹁彼方側﹂の神は色々手助けして るようだけど、この似非神はあまり役にたたない助言ばかり。 私達を助けるのではなく、自分達の問題を解決するために私達に 接触してきたと始めっから言えばいいのに。その方が此方もやり易 い。 ﹁あなた達の争いなんて知らないわ。けどね、私達を巻き込むなら それ相応の対価を払って。﹂ ﹃うむ。そのつもりじゃよ。何を望む?﹄ ﹁まだよ。この事が片付いたら決まるわ。勿論人数分叶えてもらう わよ。﹂ 648 ﹃仕方ないのぉ⋮⋮出血大サービスじゃぞ﹄ アンタの出血何て要らないわよ。けど、これで少しは⋮⋮心が晴 れるかしら? ﹁望みの限度は?﹂ ﹃うむ⋮⋮基本⋮無い。何でも﹄い。じゃが、誰かの命に関わるこ とはダメじゃぞ 誰がそんな願いを⋮⋮あ、それでコイツら神様を一掃出来たのに ⋮⋮抜かったわッ! ﹃︵あ、危なかった⋮⋮︶﹄ 私の心を常に読んでいる似非神は心底ほっとした表情で胸を撫で 下ろした。 ﹁さて、﹁真エンド﹂の為にあの作戦を始動しますか。﹂ ﹃今回はワシの加護も皆に付けておこう。気を付けよ。﹁あ奴﹂は 自分の楽しみの為なら誰でも犠牲にする。ワシに何か聞きたい事が 有れば何時ものように呼んどくれ。ではの。﹄ 失敗は許されない。私達の平穏のため今から側室舞子に宣戦布告 をするのだから。 それでも、コウちゃんが心配ね⋮⋮。本調子では無いのが一番心 配よ。それに、この事でランちゃんの闘志に火が付きそうだけど⋮ 649 ⋮大丈夫かしら? ********* ﹁きゅ!!﹂ ﹁うわっ!? 何だ?﹂ レンから預かっていた管狐の奏が住みかにしている薬入れから奏 が飛び出して驚く。いつ見ても質量が違うだろ⋮⋮。じゃなくて、 何だ? 今まで大人しかったのに⋮⋮ ﹁きゅ!きゅきゅ⋮⋮﹂ ﹁グゥゥゥ⋮⋮﹂ 奏がポチに何やら話しているようだが、生憎俺には理解できない。 レンなら何を話しているか理解できただろうが。 ﹁どうした?﹂ 二匹の異変に気付いた朱李さんが薬草を掴みながら此方にやって 650 来た。 ﹁分からない⋮⋮急に奏が飛び出してきて⋮﹂ ﹁きゅ!!きゅーー!!﹂ ﹁クォン!グゥゥゥ⋮﹂ 今度は二匹は朱李さんに話し掛けているように鳴いた。俺も分か るようになりたいと以前レンに言ったら﹃夢を壊したくないなら止 めときな﹄と言われてしまったので、きっと無理に理解できるよう にはしないだろう。 ﹁!!﹂ どうやら朱李さんには二匹の言葉が理解できたようだ。流石はレ ンの父親。チートの血は大半が朱李の物だと麗春さんは言っていた。 俺から見れば二人 とも凄まじいチートだと思う。 何か有ったのは確実だな。何があったのか⋮⋮まさか、レン? ﹁レンに何かあったのか!?﹂ ﹁きゅんきゅん!﹂ コクコクと頷く奏が家の方角⋮で、あってると思う⋮⋮を向く。 多分その方角で何か起きたのか。 ポチはレンに何かあれば飛び出して行くだろう。けど、未だ俺の 隣に居る。きっとレンに俺の側に居ろって言われたから迂闊に離れ られないのだろう。それに奏まで此方に居る⋮⋮レンに付いている のは兎天だけだ。 651 兎天がどれ程強いか何て知らないが、心配だ。 ﹁レンに何か有ったようだ。戻ろう。﹂ ﹁やっぱりレンに何かあったのか⋮⋮﹂ 朱李さんは急いで持っていた薬草をしまい、俺を小脇に抱えた。 またこれか⋮⋮どうかこの前のような気絶何て事にはなりませんよ うに⋮⋮ ﹁少し急ぐぞ!﹂ あぁ⋮どうやらまた俺は気絶する運命にあるようだ。何てこった ⋮⋮ 奏は俺の首に掛けた薬入れに入り、ポチは朱李さんに追尾してく る。このスピードに付いてくるなんて、ポチもチートか? 俺は呑気な事を考え、どうにか吐き気と気絶と闘っていた。 心の何処かでレンなら無事だろうと思っていた。実際そうだった 様だかな。全く、仕掛けるにしても、もう少し考えてほしいものだ。 652 653 裏側の事情∼マミィは今日も通常運転です∼︵後書き︶ あの神様はこれからチョクチョク出てくるかもしれませんが、名 前は出てこないと思います。 654 妖生︵人生︶初の孤立∼やって来ました白の王宮∼︵前書き︶ タイトルでネタバレしてますね。でも、隠すほど出もないですか。 皆様ありがとうございます。m︵︳︳︶m 655 妖生︵人生︶初の孤立∼やって来ました白の王宮∼ 目を開けるとソコは⋮⋮絢爛豪華な部屋でした。 ﹁︵じゃないよね。何ですかここは⋮⋮︶﹂ あまりの状況の変化に開けた目蓋をまた閉じてしまった。現実逃 避したい時だって有るんだよ⋮⋮。 何者かに誘拐でもされたか? いや、違うな。正しくは、﹁何者 かに移動させられた﹂が正しそうだね。最後の記憶は景色が歪んで いたし⋮⋮何らかの術で転送⋮⋮あり得そう。 どうやらあのあと気絶していたらしい私は知らない一室のベット で寝かされていた。 ウテン ﹁︵そうだ。兎天に状況を聞いてみよう。︶﹂ 確か気を失う前に︱︱正確にはここに飛ばされる前︱︱兎天が私 の影に入っていたハズ。たとえ私が気絶していても、兎天には何の 影響も無いハズ。 ﹁︵兎天⋮⋮話せる?︶﹂ ﹁︵はい主様︶﹂ どうやら大丈夫な様だ。兎天にはこのまま影に隠れた状態でいて 656 もらおう。その方が何かと安全だから。 影に入った状態の時は声に出さなくても意思の疎通が出来るので 便利だ。同時に周囲の索敵とかも出来ちゃう ﹁︵見つかったらどうなるか分からないから、このまま隠れてて。︶ ﹂ ﹁︵了解⋮︶﹂ ソウ お気づきになられましたか? 兎天って年の割りに大人びて居る んです。これでも一番年下何です。⋮⋮⋮勿論、管狐の奏よりも年 下です。 まぁ、奏はちょっと特殊なタイプ何だけどね。 と、そんなことよりも心配事が有るのだ。それは家族のことだ。 ﹁︵大丈夫だろうか⋮⋮︶﹂ 皆も何かしら襲撃を受けているのか⋮⋮ではない。そんな事であ の両親が手こずりはしない。私がこんな状況になってしまったから マジギレして家を全壊⋮⋮もないだろう。感情のコントロール何て お手のものだろうし。そんな事ではないのだ心配事は。 では、何が心配何か⋮⋮料理だ。 ﹁︵こんなことなら、ヤタガラスのメンバーの一人位に料理教えと くんだったな⋮⋮いや、ダメか。︶﹂ 657 ヤタガラスのメンバーも戦闘や隠密は得意でも生活の基本はてん でダメなんだった。 敵も考えたな、私が居ないとマトモな食事が出来ないと知って私 を拐ったか⋮⋮無いな。 別に両親が心配な訳ではない。あの二人ならそこらに有る木の実 ランメイ や温室なんかで育てた作物何かを生でバリバリ食べるだろうから。 問題は嫁さんもとい藍苺の方だ。嫁さんは生で野菜を食べられない。 ニンジンは生何て論外だし。葉もの野菜︵菜っ葉︶何てレタスとキ ャベツ位しか食べれないし⋮⋮良くてトマトとキュウリかな。トマ トはそのまま食べれるし、キュウリは味噌付けて⋮⋮味噌無いから ダメか。 でも、パンは作り置きしてるから何とかなるか⋮⋮? ﹁︵主様⋮ご自分の心配をなさってください︶﹂ ﹁︵いや、そうなんだけどね。何か心配事がそっちに逸れるんだよ ね⋮︶﹂ そんなんだから﹁オカン﹂何て影で言われるんだよ。8歳でオカ ンってやめてよね。それに今は男なんだからオカンは無いでしょ。 ﹁︵それにしても、こんな状況の時ってどうすれば良いんだろ。︶﹂ 前世の記憶持ちでもこんな事には何の役にもたたない⋮⋮。まぁ、 現実なんだし当たり前か。物語のように上手くは行かないか。ここ は暫く状況が掴めるまでじっとして寝たふりをしていよう。 658 コンコン⋮ 今後の事を考えていると控え目なノックの音がした。黄の国では ノックの習慣が無かったが、ここはその習慣が有るのか⋮⋮。 黄の国ではノックの習慣が無かったので、入室の際は声で言うの が一般的だ。KY陛下は入るぞの一声も無しに部屋に入って来たけ ど⋮⋮それは﹁陛下﹂だから許されてたのかもね。まぁ、どうであ れ失礼な事には代わり無いけど。 ガチャリ⋮ ドアの開く音がした。 ﹁失礼します。﹂ うん。失礼する前に確認しようね。ドア開けるのは確認してから の方がいいよ。何て目を閉じたまま思っても仕方ないか。 ﹁未だお目覚めに為らない様です。﹂ ﹁そうか。お前達は暫し席を外せ。﹂ ﹁﹁かしこまりまして⋮﹂﹂ どうやら、多人数入ってきたみたいだけど、男性が一人残ったみ たい。何だろ? コウレン ﹁さて、寝たふりはもう良いぞ。紅蓮。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂︵無反応︶ 659 ビ、ビ、ビックリした! 何でバレてんだよ。 ﹁︵ん? まさか本当に気絶しているのか?︶﹂ どうしよ、敵なのか何なのか見分け︵見えてないけど︶つかない よ⋮⋮。どうする? ﹁︵⋮⋮マジで気絶してるのか? 俺は独りで喋っていたのか⋮⋮ 何て痛い奴だ⋮︶﹂ ⋮⋮何かずっと無言何だけど⋮⋮兎天さんヘルプ! ﹁︵⋮⋮あ、主様、何やらこの者さっきから頭を抱えだしましたよ ⋮⋮何なんでしょ?︶﹂ ﹁︵兎天、ここは関わらない方が良い! でも何か動きが有ったら 教えてね!︶﹂ ﹁︵はい主様。︶﹂ まさか、コイツ変態か? いや、違うな。変態ならとっくに襲い 掛かってきてるよ。多分。 ﹁頼むから起きてくれ。俺が朱李達にどやされる⋮⋮﹂ そう言うお前は誰デスカ? 私の父親の名前知ってるなんて誰だ ろ。 ﹁︵主様。どうやらこの方は白の王の様です。外に居る護衛がそう 言っていました。︶﹂ 660 ﹁︵そうか。兎天︶もう少し情報が欲しいから少し周りから情報を 集めてきて︶﹂ ﹁︵御意︶﹂ ちょっと待って兎天。八咫烏の真似何てしなくて良いからね。あ んな石頭にならないでよ。なったら私は兎天のご両親︵兎天はあの レイシュン 時の走飛の末娘です。︶に顔向け出来ないからね? シュリ ﹁︵ヤバイ⋮⋮朱李も怒らせたら怖いが、麗春はもっと恐ろしい⋮ ⋮あ、俺死んだわ⋮︶﹂ ⋮⋮⋮沈黙が怖い。兎天が居なくなったので、目の前で何が起き ているのか分からない。目を開けても良いのだか、面倒だから正直 開けたくない。 推定白の王様は黙りのまま⋮⋮。せて、本当にどうしたものか⋮ ⋮。何より何で私はここに居るんだろう。あれか?側室舞子親子が 白の王宮に滞在してるからココに飛ばされたのか? なんとも雑な⋮⋮。自分に不利になる事ばかりしてるよね。ソロ ソロ︵実際手遅れ︶キレるマミィの報復が恐いです。 ん?でも待てよ⋮。側室舞子が此処に私を飛ばしたのなら、何で 白の王様が今側に居るんですか?側室舞子は居ないみたいだし⋮⋮。 ﹁︵あぁ∼分かんない⋮⋮何なんだよ⋮︶﹂ ﹁スマン⋮⋮﹂ え?何々何なの?さっきまで黙り続けてた白の王︵推定︶がいき 661 なり謝った。これは何に対してのスマン? 私に対してのスマン? マミィ達対してのスマン? それとも、 他の誰か? ﹁︵謝るなら、キチンと指定して言って欲しいよ。話が理解できな いから︶﹂ 手紙で予想した人物とはちょっと違う印象を受けたな⋮⋮。口下 手なのか? あれならさぞ誤解されやすいだろうね。 にしても、目の前に居るであろう人物は白の王様⋮⋮なんだろう。 変態では無いだろうから襲われる心配は一応無くなった⋮か? それはそれとして、私がもしも普通の子供ならどうするんだか。 もしも、﹁誘拐犯!!﹂何て騒がれでもしたら、いくら王様でも 白い目で見られること掛け合い⋮⋮じゃね? 今、私が飛び起きてそんな事を言い出したり、口が滑った⋮何て 事だって有るかもよ。そう考えると、やっぱりこのまま寝たふりし てる方が都合が良いかも⋮。 母さん達乗り込んで来ないよね? 何か王宮の片隅を消し炭にし そうなんだけど⋮。嫁さん独りでは止められないだろうしね⋮⋮ま さか嫁さんも乗り気になってたりして。 ﹁︵うわ∼、片隅で収まらない事態になりそ∼。︶﹂︵棒読み︶+ 662 ︵無表情︶ ははッ⋮⋮マジ洒落になんねぇ⋮⋮。 両方の立場を考えると、やはりこのまま寝たふりをしている事が 良いと結論付けて寝たふりを続行することにした。 あぁーでも、出来るだけ早く来てほしいかも。側室舞子正直言っ て会いたくないし⋮⋮。 ﹁︵スマンね王様︵推定︶。でもマミィに言い訳位ならしておくか ら。︶﹂ 条件として側室舞子親子を私に近付けない事。けど、伝えられな いからどうなるのかな? そんな事を考えているとノックの音がした。 ﹁陛下、王妃様も彼の者に御会いしたいとの事⋮﹂ 今度の人は入っては来ないようだ。そうそう。人様のお部屋に入 るときは、御伺いをたててから入ろうね。それが最低限のマナーだ よ。侍女とか女官ならちゃん身に付けようね損は無いから。 ﹁⋮⋮良いだろう。入れ。﹂ 663 ドアを開けて入って来たのは多人数⋮⋮多分王妃様と御付きの女 官かな? 多分最初に入ってきたのが王妃様だと思う。だって普通 の足音だったし。それにしても、さっきの女官達は少々荒っぽい足 音だったけど、王妃様の後ろに付いてる人達足音がやけに静か。こ の女官達はお淑やかなのか忍かボディーガード兼女官なのか⋮まぁ 良いや。 ﹁さて、紅蓮の様子はどうかしら?﹂ ﹁未だ眠っている。﹂ ﹁⋮⋮本当に?﹂ ﹁!!!﹂︵無反応+無表情︶ 恐ろしい⋮⋮︵︵︵︵;゜Д゜︶︶︶ 何なのこの夫婦。勘が良いにも程があるでしょ! どうもこの二人は私の事を知っている様だ。まぁ、母さん経由で 知ってても不思議じゃないけど。勘なのか宛ずっぽなのか⋮見事に 私の寿命を縮めてくれやがりましたよ⋮⋮。 ﹁スマンが王妃だけ残って後は下がってくれ。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 多分御付きの人達はお辞儀して出ていったみたいだ。本当にさっ きの女官達より静かだな⋮。 664 ﹁さぁ、起きてくれ。こんな茶番は終わらせよう。﹂ ﹁︵すいません⋮⋮恐くて開けたくないんですけど⋮︶﹂ ﹁本当に慎重ね⋮⋮流石麗春の子供ね。﹂ ﹁︵いえ、ただ単にビビってるだけですから︶﹂ どうも両方の子供とあってチートと誤解されているみたいだけど、 私は一般的だ。誰がなんと言おうと、中身は平凡なんだよ。 ﹁⋮⋮仕方ないわね⋮⋮。なら、これは王妃の戯れ言だと思って聞 き流してちょうだい。﹂ ﹁︵イヤイヤイヤ⋮王妃の戯れ言って洒落になんないからね? ダ メでしょ戯れ言何て何処の馬の骨とも知らないガキに話しちゃ⋮⋮ って、止めんか!白の王!︶﹂ 白の王は王妃の戯れ言を止めもせずに黙ったままで聞き手に回っ ていた。 不本意だけど、一応事の顛末を理解できた。 曰く、 何の報せも無くいきなり押し掛けてきた側室舞子親子。実は、親 665 子だけでなく、仕えていた女官数十名と、なんと、三人の兄上達ま で連れてきたという。 正直、王宮に入れたくは無かったが、兄王子達の疲労が見るも無 惨⋮⋮見ていられない程憔悴し切っていたので仕方無く客人として 迎え入れたという。 どうやら、黄の国の謎の病から逃げてきたと主張しているが、母 さん経由で呪詛と知っていた白の王は﹁その病、我が国に移る心配 は無いのか?﹂と聞いたところ、﹁あの病は﹁黄の国の王族﹂しか 掛かりません﹂何て言ったらしい。 もうそれ自分犯人ですって言ってるようなもんじゃん。何で﹁黄 の国の王族﹂だけって断言できんですか? 同じ様に白の国の王族 には移らないって断言できないでしょ? 王族は一般人とは違う。寿命、年の取り方、備わっている力。そ して、掛かる病。 王族は一般人よりも妖怪の血が濃いから病気何かも妖怪よりにな る。例えば、一般人が風邪を引いても純粋な妖怪には移らない。逆 に妖怪が掛かる病は一般人にも移る。そして妖怪から移った病は一 般人にとっては脅威だ。 それを考えると、あの病は不自然。それに、側室舞子達の行動は 白の国に病を持ち込む事になるかもしれないのでとっても危険な行 為だ。 まぁ、検疫何て存在しない世界だし、病原菌は国境何て関係無い から広がるときは広がるだろう。 666 えっと⋮⋮それで、一応様子見と言うことで、側室舞子達の行動 は白の王の配下に監視させている。しかも、先日の召喚は﹁紅蓮を 心配して⋮﹂何てどうでも良い言い訳をしてる。何が心配してだよ。 故知とらめでたく羽付の虎にクラスチェンジしましたよ。チートの 血が騒いでましたよ。暴走してても可笑しくなかったんだからな! ⋮⋮オホンッ⋮⋮。そして、今回の誘拐事件は﹁紅蓮の周りで不 吉な影が⋮﹂らしい。 ⋮⋮⋮ふう⋮⋮。 何が、不吉な影が⋮だ。テメェが私に呪詛を掛けたからネガティ ブなゲート開きそうになったからだよ!そりゃ。あ、呪詛云々は側 室舞子を見張って居た間者の皆さんが確認してくれた様です。あり がとうございます。そしてご丁寧に記録用宝珠にキチンと記録して くれてました♪ もう彼ら間者の皆さんに足を向けて眠れません。 いつか御礼を言いたい。 で、私が此処に居ることはもう母さん達に報せてある様です。あ りがとう。本当にありがとう。 うん。何かもう寝たふり止めようかな。御礼を言いたいしさ。 今まで、家族以外で親身になってくれた人なんて居なかったから、 ちょっとだけ王と名の付くものに対しての考えを改めます。 667 ﹁︵王族の中にもいい人って居るんだn﹁紅蓮はまだ起きないの! ?﹂⋮⋮おい。︶﹂ ひとが折角考えを改めているときに乱入してきたのは⋮⋮今一番 会いたくない側室舞子親子+兄王子達︵兄王子達は別に会いたくな いわけではない︶ 何でわかったかって? ついさっき兎天が急いで舞子親子が此方 に向かっているって教えに帰ってきたんだよ。偉いでしょ、うちの 兎天は。 ﹁誰も入室の許可は出していないぞ。﹂ そうだ、言ってやれ白の王様!!此処はあんたの土俵だ! でも、 あんまり派手にやるとマミィの出る幕無いからホドホドにね? ﹁すみません陛下! 押しきられてしまいました⋮⋮﹂ 部屋の外に居た側仕え達は部屋の外で土下座している。主の許し 無く部屋に入って来ないのは決まりか何かなのかな? 多分だけど、外に居た人達を押し退けて入ってきたんだろうね。 兎天が小声で﹁あの側仕え達は身を呈して最後まで立ち塞がりまし た。﹂って報告してくれた。良い部下持ったね白の王様。 けれど、不手際が有ったなら処罰されないといけない場合も有る んだよね⋮⋮複雑だな⋮。 668 ﹁そんなことより紅蓮はまだ目を冷まさないの?﹂ ⋮⋮⋮そんなこと? アンタの所為で罪もないのに罰せられる人 が居るんだぞ。なんとも思わないの? それとも、そんなこともし らないのか? ﹁紅蓮は見ての通りまだ目覚めぬ。あまり騒がしくするでない。﹂ 白の王はやんわりと、でも低い声で言い放つ。さっきまでの王妃 とのやり取りでちょっと尻に敷かれるかな?と思ったが、ちゃんと 威厳があるんだね。まぁ、王様だから有るよね。 ﹁舞子様。此処に居る方は眠っておられます。少しお声を小さくし てください。﹂ 見えてないが、丁寧に話す裏側で﹁煩い﹂と冷たい目で睨んでい るように錯覚してしまう。理解した。王妃様はマミィと同じ怒らせ てはいけない人種だ。 ﹁けど、誰も看病してないみたいだから⋮私が紅蓮の看病をします。 ﹂ ﹁客人にその様な事をさせるわけにはいかぬ。それに皆紅蓮の看病 はしておるぞ︵屋根裏に5人ほど⋮︶﹂ ﹁えぇ、皆紅蓮の様子を逐一見ております。︵間者兼女官に︶﹂ 669 何か王様と王妃様の心の声が聞こえてきたような⋮⋮。兎天曰く、 屋根裏に5人ほど見張りが居るみたい。準備は万端ですか。 ﹁けどね、私なら治癒術を掛けられるわ!﹂ 皆黙りこんでしまった⋮⋮。ちょっともう少し頑張ってよ!! え?ダメなの? チッ⋮仕方ない。 ﹁いえ、もう起きました。なので看病は要りません。﹂ もう寝たふりを止めるしか無いじゃないか。さて、どうなるのか な⋮⋮ハァ∼ あ、⋮⋮⋮兄上達よ。すまんな。すっかり空気になっちゃって⋮ ⋮忘れてたよ。 670 妖生︵人生︶初の孤立∼やって来ました白の王宮∼︵後書き︶ 紅蓮は面倒な事は極力避けたいと思っています。 けれど、巻き込まれるのが主人公なのだ。スマン紅蓮。 671 対決か? 廃棄︵元︶王子と逃げ出した︵?︶側室+α︵前書き︶ 別に対決ではありませんので悪しからず。 皆様お読みいただきありがとうございます♪ 672 対決か? 廃棄︵元︶王子と逃げ出した︵?︶側室+α コウレン 仕方がないので、寝たふりを止めた⋮⋮が、早くも後悔していま す。主役を誰かに変わってほしい紅蓮です。 ただ今側室舞子親子+兄王子達と対面しております。とは言え、 兄王子達のは空気と化し会話に一切入ってきません。えぇ、彼らは 空気を読んで大人しくしております。お利口さんですね♪ ついでにイガグリ︵大雅のこと︶お前は喋らなくていい。このま ま静かにしててくれ。 ﹁良かった∼∼。大変だったのよ。紅蓮がピンチだったから急いで 此処に呼んだの♪﹂ さも、﹁私、貴方の為に頑張りました♪﹂な言い方に脱帽⋮⋮。 何で遠くの場所の状況を、それも黄の国の側室様が知っているんで すか?不自然でしょ⋮⋮。気づきなさいよ。 ﹁それは⋮⋮、︵余計なことを仕出かしてくれて︶どうも。所で⋮ 私は自分の住まいに居た筈なのですが⋮何処なのでしょう?﹂ 一応質問をしておく。私は気絶していた事になっているんだし。 その問い掛けに答えようとした白の王を遮り頼んでもいないのに、 自分の国でもないのに説明を始めた。 ﹁此処はね白の国の王宮何だよ。色々危なかったから紅蓮を此処に 呼んだの。危ないわよ!あんな危ない森の中で独りで居るなんて!﹂ 673 ﹁もう!﹂何て頬を膨らませて怒り出した。テメェは栗鼠ですか ? イヤイヤ、栗鼠に失礼だった。ぶりっ子は歳を考えてください。 貴女は一児の母でしょ。 ・ おい。アンタは年功序列もマトモに理解できないのか? 白の王 は王なんだぞ。一介の、それも他国から押し掛けてきた側室が王の 話を遮っちゃダメだろ。 気付いてますか∼? 貴方は国に喧嘩売ってるようなもんだよ。 ほぉ∼ら、アンタの後ろに居る側仕え何て自国の王が蔑ろにされた と怒ってるよ。後ろ、後ろだよ! ﹁と言うことは、貴方が⋮⋮﹂ ランメイ 白の王に向かい佇まいを正す。何たって白の王にして、嫁さんの お父さん! はい、そこ! ﹁藍苺の父親黄の国KY陛下だろ﹂っ て思った人! あんなのは父親とは認めません。遠路はるばる来た 嫁さんに何の労いも無かったんだから。理由は他にも有るけど⋮⋮。 レイシュン 何はともあれ、白の王に礼儀を尽くす。まぁ、寝たふりがバレて るからあんまし意味無いかも。 シュリ ﹁御初に御目にかかります。朱李を父に、麗春母に持ちます、紅蓮 に御座います。御前にこの様な姿で居ます事、急に御前に姿を曝す 事を御許しください。﹂ 来ている着物︵肌着に着る薄い白い着物︶の裾を纏め、正座をし ながら両手をベットに突いてひれ伏す。これが相手に示す最高級の 礼儀だ。ベットの上に居るために少し不安定だが仕方無い。 674 クリ ハ ﹁︵流石は二人の子⋮礼儀は知っているな︶うむ。俺は白の王、狛 李だ。姿なら致し方無い面を上げよ。寧ろそなたは病み上がり。ゆ っくりと養生するがよい。﹂ 王に頭を上げる許可を貰ったのでゆっくり頭を上げる。 ﹁そうですよ。いきなりの転送術での移動です。さぞ体に負担が掛 かったでしょう。暫く休みなさい。﹂ 所々刺が有る王妃様は舞子を見てから此方を向き微笑む⋮⋮。う ん。怒らせないのが得策だな。 ﹁はい、畏れ入ります。王様と王妃様の御気遣い痛み入ります。﹂ 王からの﹁安静にしていろ﹂宣言で、部屋から他の人を追い出す 権利を取得しました。これで素直に出てってくれるなら良いんどけ ど⋮⋮ ﹁紅蓮? 私の事忘れちゃった?﹂ おどけて見せた様な感じの声で私に話し掛けてくる側室舞子。イ ガグリでも黙ってるのに⋮⋮。 ﹁舞子様ですね。覚えております。﹂ 正直、無視しても良かったけど、母さん達に泥は塗りたくない。 ﹁あれから元気にしてた?﹂ 675 ﹁はい。後宮を出て如何に自分が小さく、井の中の蛙だったかを思 い知りました。 これは実際の感想だ。いやぁ⋮世の中は広いね。 ﹁紅蓮、今晩は慎ましやかな晩餐を共にせぬか?我が家族と﹁あら ♪それなら私達もお邪魔します!﹂⋮⋮﹂ ジトリ⋮⋮そんな目で王は側室舞子を睨む。それを何を勘違いし たか頬を染める側室舞子⋮⋮アンタは此処に何しに来たんだよ。男 漁りに来たんなら国に帰れよ。 ﹁⋮⋮陛下、今日は残業だと聞きましたが?﹂ 怒りで怒鳴りそうにでもなったのか、王妃様が助け船を出す。い くら自国の王でも他国の客人に怒鳴れば一大事だ。 ﹁あぁ⋮そう言えはそうだったな。感謝する。忘れる所であった。﹂ ﹁いいえ、貴方の予定を記憶することも私の仕事ですよ。﹂ 何とも私の両手に負けず劣らずのラブラブっぷりだ。これは砂糖 を吐くな。 ﹁スマン。今日は晩餐は無理のようだ。﹂ ﹁いえ、お気になさらず。﹂ 私としては嬉しい限りだよ。晩餐何て堅っ苦しそうだし。部屋で 独りで食べたい気分なんです。 676 ﹁それなら私達と食べましょうよ紅蓮。﹂ 質問をではなく決定事項の様に勝手に決めつけてくる⋮⋮アンタ は見合いを勧めてくるお節介な近所のオバチャンか!! ﹁いえ、私は部屋で独りで頂きたいと思います。何だか少し疲れま した。﹂ どうだ、これぞ﹁アンタの無茶でこちとら疲れてんだよ﹂作戦! ! ネーミンズセンス?知らんな。 ﹁そぉお⋮⋮積もる話もあったのになぁ∼。﹂ 此方には積もる恨みは有るんですけどね。 ﹁またの機会にでも。﹂ できれば二人っきりは嫌ですね。 ﹁さぁ、紅蓮は病み上がりなのですよ。この辺で皆さんお暇しまし ょう。陛下?﹂ ﹁うむ。さて、紅蓮。話は明日にしよう。今日はもう休め。﹂ ドア側に陣取っていた側室舞子の女官達を出ていくように促し、 王妃様が出ていこうとする。側室舞子はまだ此処に居たいようだが、 白の王に退室するように言われ渋々出ていくことにしたようだ。イ ガグリは母の舞子にくっ付いて一緒に出ていった。 最後に兄王子達は未だ残っていた。何だろ⋮、こっち見て何か言 いたげだ。 677 ﹁⋮⋮紅蓮。後で話がある。﹂ 一番上の兄王子がそう言って出ていった。それに続き後の二人の 兄王子も出ていった。何だったんだよ。 てか、女官達よ。イガグリが大切なのは分かるが、兄王子達の方 が立場が上なんだよ。誰も兄王子達に気を配らず帰るってどうよ? ﹁︵未だに白の王が残っているお陰で猫被りを解けない⋮⋮︶﹂ 何か良い忘れたことでも有るのか? 猫被りも疲れるのでさっさ と出てって欲しいが⋮⋮一応王様なので無下にもできない。 ﹁紅蓮よ、いつまで猫を被り続ける。﹂ ⋮⋮おっと、バレてらぁ。まぁバレてるよねそりゃさぁ。 ﹁手紙を交わして以来ですね。初めまして御義父様。﹂ ﹁堅苦しい言葉使いはしなくていい。俺も息苦しいのは真っ平だ。﹂ お、意外にフランクだ。手紙でも最初の文面だけ真面目くさった 文章だったけど、途中から結構普通な感じだったし。へー、白の王 ってこんな性格だったんだ⋮⋮意外。 ﹁客人にはあぁ言ったが、私的な夕飯に招待するぞ。独りで食べて も旨くないだろ。﹂ ﹁いえ、御気遣い無く⋮。正直赤の他人と食事はあまり好きではな 678 いので。﹂ これは本当。家族なら良いけれど、どうも他人が居るところでの 食事は緊張でもするのか落ち着かないのだ。味もあまり感じなくな るほど⋮⋮。 ﹁そうか、だが話があるからな。来てもらうぞ。﹂ ﹁それなら仕方ありませんね。﹂ 必要性が有るなら断ったりしない。てか、断れないでしょ、これ は。白の王何て﹁ニタリ﹂と笑ってしてやったりな顔してるし⋮⋮。 そんなところは嫁さんに似てるよ。⋮⋮伯父さん何だから似てても 不思議じゃないな。 ランメイ ﹁⋮⋮所で、⋮⋮藍苺は元気か?﹂ 来たよ、この質問。怖いね、お義父様って。世の婿はこんな重圧 を背負っているのね。 笑ってはいるけど、威圧感がビシビシ当たって来るよ⋮。 実は前日の召喚事件の事やこれまで有った騒動はマミィ経由で全 て耳に入っております。この白の王はどうやら私に﹁嫁も守れない のか?﹂と詰って来るようです⋮⋮。 なので正直に言います。 ﹁表面上は元気にしております。けど、﹂ 679 ﹁ほぉ⋮表面上は、か。けど、何だ?﹂ コワッ!! 般若!般若が居るよ!!︵︵︵︵︵︵︵・・;︶ 終わった⋮⋮私、終わったわ⋮⋮。ゴメンよ嫁さん。先に逝く不 甲斐ない旦那でゴメンね! ﹁⋮⋮その、召喚事件の際、魔獣を藍苺の目の前で仕留めてしまい ⋮⋮。日頃血に慣れていないので食欲が多少落ちたようです。﹂ あの日の夕食はハンバーグの予定だったが、その事があったので 変更しようとしたが、嫁さんに﹁ハンバーグ以外却下﹂と押しきら れてしまった。 ハンバーグは残さず食べたが、何処かスッキリしない表情だった。 白の王宮に行くことになったのも原因かも知れないが。どうも嫁さ んは白の王宮が嫌なのか何なのか⋮⋮イヤなんだろう。本人は絶対 否定するだろうけど。 まったく、強情なんだから。 その日の朝は食欲不振気味なようで、パンを何時もの半分しか食 べなかった。 でもあれって、食欲不振じゃなくて、久し振りの肉で消化不良で も起こしてたのかも⋮⋮。 まぁ、どっちにしても具合は﹁絶好調﹂とは言えなかった。 680 私はこの時知らなかった。嫁さんが珍しく早起きして小腹が空い たから作り置きしていたクッキーを摘まみ食いしてお腹いっぱいで 何時もの量を食べなかったなんて⋮⋮心配して損したよ。 ﹁⋮⋮︵朱李の手紙に﹁紅蓮が益々チート染みてきた。俺達を越え るのも時間の問題だぜヽ︵ ̄▽ ̄︶ノ﹂って書いてたな⋮。って事 は、紅蓮を怒らせれば白の国崩壊!!︵︵︵︵︵︵︵・・;︶ なんとしてもそれは回避しないと!︶⋮⋮つまり、敵の所為で藍苺 は少し体調が思わしくないのか。﹂ ⋮⋮あれ? 何か相手が良いように解釈してくれた。ラッキーな のか? まぁ、このままこの話題を話していると墓穴掘りそうで怖 いし良いか。 そんなこんな⋮⋮で、ただ今王妃様の専属侍女︵この国では最近 は女官ではなく侍女と言うらしい。︶達に着せ替え人形になってい ます⋮⋮。 どうやら私は着せ替え人形の運命から逃れられないようです⋮。 母さん達は明日以降来るらしいので大人しく待っていましょう。 ストレスで胃に穴が開きそうだけどね。 681 ﹁やっぱり御髪に合わせてこの色に⋮﹂ ﹁いいえ、こちらの色が⋮﹂ ﹁お着物はこちらを!﹂ ﹁いいえ!こっちの方がお似合い!﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 女って恐い。何で他人を着飾るのが好きなんだろ。確かに嫁さん を着せ替えてるのを見るのは面白いけど、自分がされるのは嫌だ。 ﹁貴女たち、紅蓮様が戸惑っています。控えなさい。それに、御召 しよりも先に為さることが有るでしょう?﹂ ﹁まぁ!﹂ ﹁そうでしたわ。﹂ ﹁私たちとしたことが⋮﹂ ﹁すっかり忘れておりました⋮﹂ ﹁﹁﹁﹁湯浴みで御座いますね!?﹂﹂﹂﹂ キラキラした、いや、ギラギラした眼差しで鼻息も若干荒く先ど まで召し物を着せ替える事に熱中していた侍女4人組は、待ってま した♪と言わんばかりに獲物を見つめる⋮。勿論獲物は私の事。 湯浴みってお風呂の事だよね? まさか湯殿までついてくる気じ ゃ⋮⋮ ﹁では、隅々まで⋮﹂ ﹁磨きに磨きをかけて!﹂ ﹁腕によりを掛けて!﹂ 682 ﹁紅蓮様を着飾りま⋮﹂ ﹁いえ、湯浴みは独りで入ります。召し物も自分で決めるので結構 です。﹂ ﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮Σ︵´□`;︶﹂﹂﹂﹂ 誰が、赤の他人に着せ替え人形にされるかってんだ。それに、裸 は誰かに見せたくもない。こちとら一般庶民な育ちなんだよ。お風 呂も服も自分で出来ます。 ﹁紅蓮様を悩ませるものではありませんよ。では紅蓮様、此方を御 使いください。湯浴みに使われる物を揃えてあります。﹂ ﹁御気遣い痛み入ります⋮﹂ ケイショウ この他の侍女達を諌めてくれているのは筆頭侍女の啓璋さん。穏 やかで、けれど部下の暴走をやんわりと止めたり、先の事を考えて にょかん 色々用意してくれたりと、とても良い侍女の鑑の様な人。これまで の筆頭侍女のイメージを良い意味で塗り替えたお人だ。見た感じで は中年に差し掛かった当たりの働き盛りの年齢かな。 白の国って良い人材が大勢居るんだね⋮。良い王や良い国は、良 い人材が集まりやすいのかな? 違うかも。ただ単に黄の国では媚びを売ってる方が生き残れるの だろうね。かなり腐敗しているからあの国。 683 どこか不服?残念そうな顔の侍女四人組をバックに筆頭侍女の啓 璋さんに湯殿に案内してもらっている所です。黄の国の後宮も広か ったが、ここは後宮ではなく、王宮なので比べ物にならないほど広 い。もしかしたら黄の国の王宮よりも広いかも。 ﹁何か珍しい物でも有りますか?﹂ ﹁はい。王宮をじっくり見たことは無かったので⋮⋮。こんなに広 くてよく皆さん迷いませんね。﹂ 当たり障りのなわ話題を出しておく。 言えない。もしもの事があったら何処から出ていけば良いか道順 を探ってました⋮何て言えない。 ﹁年に4∼5人は行方不明になっています。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ え? これって脅し?﹁此処で不審な動きをすれば行方知れずに なるぞ﹂って脅しなんですか!? ヤバい、白の国ヤバい。恐い。早く家に帰って嫁さんとのほほん したい。 ﹁⋮⋮︵一人この様な見知らぬ場所に連れてこられたと言うのにこ の子供は何故これ程冷静でいられるのだろう︶﹂ 684 何だか雲行きが怪しくなってきたかも⋮⋮。早く来てくれマミィ 達! 対人関係が苦手な私にはストレスがマッハなんです。 ﹁⋮⋮︵何て話を続ければ良いんだろ︶﹂ ﹁︵本当にこの子はあの二人の子供なんですね︶﹂ あ゛ぁ゛∼何か有りそうでコ∼ワ∼イ∼よ∼⋮ハァ⋮。バカやっ てないで何か策でも考えていないと⋮、いつまたあの側室舞子が何 か仕出かすか分からないし⋮。 考えていても仕方ないと半ば諦めていると湯殿に着いたようだ。 中を啓璋さんは確かめてから﹁どうぞ﹂と勧める。何でも、王子︵ 嫁さんの兄︶が湯殿に入った時に湯浴みをしていた側室舞子とバッ タリ遭遇しそうになって大変だったらしい。 元々客人様に部屋に備え付けの湯殿が有るので王族専用の湯殿に 王族以外が入っている事がない︵入っている時は出口で侍女や護衛 が見張っているからバッタリ何て無いとのこと︶ので起きたハプニ ングだった。 それにしても、他国の王族専用の湯殿に入るなんて厚かましいの でわ? 知らなかったじゃ済まないだろう、普通は。そんな私が案 内されたのは⋮⋮ ﹁何故王族専用の湯殿に?﹂ ﹁陛下のご配慮です。紅蓮様が御一人で湯浴みなさる方が良いと、 685 お母上より便りが届いておりますから。﹂ ﹁母が⋮⋮︵配慮はナイスなんだけど、だからって、王族専用の湯 殿じゃなくてもいいじゃん!︶﹂ 私としては、部屋に備え付けてある風呂場で充分なんです。豪華 な湯殿何て落ち着かないし、余計に疲れるよ。 ﹁︵何せ中身は庶民なんですから!︶﹂ チキショー⋮、何でもいいから構わないで⋮⋮ハァ∼。 啓璋さんに﹁ごゆっくりなさいませ﹂何て見送られて湯殿に。気 分は﹁いざ、戦場に出陣だ!﹂な感じに気合いを入れる。だって、 気を抜きすぎて備品とか壊したら弁償できないもん! 服を脱いで湯殿に入ると⋮⋮ ﹁うわぁ⋮⋮⋮﹂ 今の顔を顔文字で表すと︵°Д°︶だ。驚きすぎると人って本当 に口が開きっぱなしになるんだね。 家の風呂場も広めに作ったから広いけど、此処に比べると小ぢん まりして見える。比べるのも烏滸がましいか。 床は一面大理石。石の種類は見分けつかないから御影石かも。黒 686 と赤の粒と白の石に散りばめられた感じの床。水捌けが良いのか決 して滑らない⋮⋮良いなぁ⋮何の石か後で聞いてみよ。いつか家の 風呂場にも欲しいな。この前嫁さんコケたし⋮⋮あの時の悲鳴った ら⋮⋮凄まじく痛そうだった。 先ずは体を洗う。普通は何処から洗うんだろ。私は首から右腕を 先に洗うね。他は割愛⋮⋮ねぇ。 おっと、寝汗欠いたから髪も洗おう。昔なら体を洗う前に洗うん だけど、今は石鹸で洗っているからどっちが先でも良いんだよね⋮ 楽だ。シャンプーは別にいいんだけど、リンスが肌に残るとぬるぬ るして気持ち悪いからね∼。 ウテン ﹁ここの石鹸肌に合うか分からないな⋮︵兎天私のポーチから石鹸 持ってきて︶﹂ ﹁︵御意⋮⋮主様、私はポーチから物を取り出せません。ポーチだ けもって参ります。︶﹂ ﹁そうだった。︵ゴメンね。じゃあ、宜しく︶﹂ 兎天がポーチを持ってくる間にお湯を桶で汲んで掛ける。蛇口何 て物は無いので、お湯が流れている浴槽︵浴槽とは別のお湯を汲む 専用か?︶から汲む。ちょっと熱めだけど私には良い湯加減。 妖怪と自覚してから︵力が目覚めてから︶火傷する程熱いモノで も全く熱くないのだ。お陰で舌を火傷することも無くなった。九尾 が炎の属性だからかも知れないね。 687 ﹁︵主様ー! 誰が湯殿の端に居ます!︶﹂ ﹁え゛︵兎天⋮⋮本当に?︶﹂ ﹁︵はい。先輩が言っていたイガグリですよ︶﹂ タイガ イガグリって私が大雅に付けたあだ名じゃん。先輩ってポチの事 か?後輩に何教えてんだよ⋮⋮。皆元気かな⋮⋮? 兎天からポーチを受け取り中から石鹸を取り出す。実はこのポー チは持ち主以外に使えないようになっております。防犯のためにね。 安全上の為でもある。盗人が死んだら罪を償えなくなるでしょ? ﹁︵兎天、イガグリ︵もう定着しつつある︶の行動を監視して。︶﹂ ﹁︵はい!︶﹂ 気合い十分の兎天を見送り、私は石鹸を泡立てる。母さんの作る 石鹸は泡立ちも良いので簡単に泡立つ。海藻から取り出したか何だ かの海綿体? よく知らないけど、乾燥しているスポンジをお湯に 浸けて柔らかくなるのを少し待つ。これって乾燥してると堅いのに 不思議だよね。 水分で元通りになった白いぷるぷるのスポンジ。そのスポンジに 泡を乗せて首を洗う⋮⋮。 ﹁⋮⋮︵な∼んか視線が⋮⋮︶﹂ 何だろ、後ろから視線を感じる⋮⋮? ﹁︵兎天! 私の後ろになにかいない?︶﹂ 自分が振り返るのが恐いので兎天に確認してもらうことにする。 688 バカ だってコワイじゃん。風呂に入ってる時に後ろから視線を感じるん だよ? 今男だけど顔だけは女に見える現状⋮⋮間違いを起こす奴 が居るとも限らないでしょ? ﹁︵主様⋮⋮イガグリが湯煙に隠れて主様を見ております。これは 視姦ですよ!おのれ!イガグリ∼!!︶﹂ 落ち着け、兎天さんや。なんだイガグリか。 689 対決か? 廃棄︵元︶王子と逃げ出した︵?︶側室+α︵後書き︶ ハクリ どうした白の王!? そんな内心キャラ崩壊している狛李さん。 よようやっと名前が出ました。このお方は皆さんに思われているほ ど恐いお一人ではありません。嫁に尻に敷かれるのです︵笑︶ 啓璋さんのお名前は募集した名前を使わせて頂きました♪ コウレン さて、紅蓮ですが、始終無表情です。ポーカーフェイスなんです ね。 ・∇・︶ それでは皆さんにありがとうございました。 それではまた︵ 690 その頃実家では⋮⋮⋮︵前書き︶ ランメイ 藍苺達の様子です。 691 その頃実家では⋮⋮⋮ レンが連れ去られ約5時間経時間がった。昼食はレンが作り置き していたパンを保存食のジャムや最近力を入れ始めたウィンナーや らハムやらで何とか凌いだ。日頃どれ程食事をレンに頼ってきたか 分かる。旨い料理は食べ慣れると舌が肥える。味気ない物だと物足 りない。 ﹁︵俺って⋮確実に餌付けされてる?︶﹂ このままだとレン離れ出来ない⋮⋮、する必要あるのか?↑[餌 付け効果] ﹁ごめんなさいね、私の料理の腕ではハムサンドが関の山なのよ⋮ マヨネーズも無いし⋮⋮﹂ ﹁俺なんてもっと酷い有り様になるぞ。まだマシだぞ。﹂ ﹁⋮⋮︵これは失敗覚悟で俺が料理するしかないのか?︶﹂ 俺も料理は苦手だが、材料を切ったりはレンの手伝いでやって来 たんだ。問題は味付けなんだよなぁ。 ﹁コウちゃんが作り置きしていたパン生地が冷凍庫に有ったから、 余裕で持つわよ。パンだけならね。でもやっぱりおかずも欲しいわ コウレン よね⋮⋮贅沢は望んじゃダメかしら。﹂ ﹁紅蓮がいつも率先してらっていたからな。もっと日頃から感謝し 692 なければいけないな。しかし⋮⋮ハムまで作っていたなんてな。﹂ ﹁凄いわよね∼。私には無理だわ。﹂ ﹁ホントにレンは料理に関しても頭が上がらない⋮⋮﹂ ﹁ホントに⋮﹂ ﹁すっかり餌付けされてしまったな⋮⋮﹂ ﹁そうね⋮⋮ハムとウィンナー⋮⋮美味しかった。﹂ やっぱりみんな餌付けされてるの自覚してたんだな。しかも、後 少ししたら他の燻製にも挑戦するとか言ってたな。⋮⋮楽しみだな ⋮⋮じゃないだろ! ﹁食べ物も大切だけど、レンはホントに大丈夫なのか?﹂ ﹁それなら、確認を取れたわ。コウちゃんは今、白の王宮に居るの よ。明日の昼頃に行くわ。 ﹁白の王は旧友だ、心配ない。﹂ ケイショウ ﹁けど、早速側室舞子が接触しようとしているみたい。筆頭侍女の 啓璋が阻んでいるから大丈夫。﹂ ﹁それって⋮側室舞子の目的って⋮⋮﹂ ﹁紅蓮が目的だ﹂﹁紅蓮が目的ね﹂ やっぱりそうなのか。 693 ﹁どう言う訳かアチラは紅蓮にご執心らしい。ショタもいいところ だ。自分の息子と同い年の子供に何を考えているのか⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮ゲーム感覚が抜けてないのよ。この世界をゲームと同じ、﹁ 自分の思いのまま⋮﹂何て考えているのね、きっと。﹂ ﹁迷惑だ⋮﹂ ゲームって⋮⋮、8年もこの世界で生きてきて未だにゲームと思 ってるなんて。自分の息子まで生んで、どうしてそんな風に思える のだろう? タイガ ﹁大雅王子が可哀想とは思わないけど、道を踏み外さない事を祈る わ。﹂ まぁ、操り人形に成るかは本人次第だが⋮⋮﹂ ﹁このまま母親の舞子の操り人形に成り下がるなら哀れでしかない な。 大雅王子とは話もしたことが無いのでよく知らないが、いつも母 親にくっ付いて居るとレンに聞いた。 そう言えば、側室舞子はレンが毒を飲んだ宴でずっとレンを見て いた。もしかしたら⋮⋮ コウレン ﹁︵ゲームの﹁紅蓮﹂がお気に入りだったのか?︶﹂ だとしても、側室舞子のやってきた事はレンが命を落としても不 思議じゃ無い事ばかりだ。原作通りに進からそれまでレンは死なな いとでも思っているのか? 694 それにしても、今夜はシチューだったハズなのに⋮⋮、チキショ ー⋮⋮許さねぇ⋮側室舞子の奴。 何の気なしにウェストポーチに手を入れた。確かレンに貰ったク ッキーの残りを仕舞ったハズ⋮⋮ん? ﹁なんだコレ?﹂ 出てきたのは入れた覚えの無いかなり大きな包が三個⋮⋮ ﹁あら?どうしたのランちゃん。﹂ ﹁ん?どうした?﹂ ﹁こんなの入れた覚え無いんどけど⋮⋮﹂ ﹁﹁??﹂﹂ 1つを開けてみると⋮⋮ ﹁肉まん!!﹂ ﹁﹁!!!﹂﹂ 695 布を取ると大きな笹の葉に包まれた肉まんが入っていた。作りた ての蒸したての肉まんがほこほこ湯気をたてていた。 ﹁ポーチから出来立ての肉まんが出てきた。﹂ 入れた覚えの無い肉まんに朱李さん達と唖然となった。すると麗 春さんが、 ﹁あら? 包みに紙が⋮⋮⋮コウちゃんからの手紙?﹂ ﹁何て書いてあるんだ?﹂ 俺が入れた覚えの無い肉まんを入れられるのはレン以外にいない。 しかも、肉まんを貰ったら入れるより即食べる。それにしても、ポ ーチは昨夜貰ったのに何で未だに温かいんだよ。コレもポーチの性 能か? ﹁何々⋮⋮﹃もしもの為に入れておきます。ポーチの中は時間の経 過が無いと聞いたので肉まんと餡まんを入れておきます。熱々なの で火傷しないように注意して食べてください。紅蓮より。﹄だって。 コウちゃん⋮⋮ホントに出来た子ね∼。﹂ ﹁ホントにな∼⋮﹂ ﹁︵預言者か?レンのやつ︶﹂ レンの気遣いで味付けのマトモな食事を取るとこが出来る。しか も、肉まんやら餡まんの他に乾パン︵らしきもの。食べたら水分が ⋮⋮︶、おからクッキー︵コレも口の中の水分が⋮︶、パン各種、 696 ジャム、ハム等の燻製類︵もう作ってたのか!?︶、タマゴサンド ︵マヨネーズをいつ作った?︶、他にも竹筒の水筒︵水入り、お茶 入り︶ 数十本⋮⋮何処にピクニックに行く気だ? でもホントに助かった⋮⋮ありがとうレン!! その頃紅蓮は⋮⋮ ﹁︵髪を洗っているけど⋮⋮イガグリの視線が刺さる⋮⋮何時まで ソコに居るつもりなんだよ!︶﹂ 湯殿でイガグリの視線にイラつていた。 ﹁︵ここに飛ばされなきゃ、今頃秘密裏に試行錯誤していたマヨネ ーズとか、豚の腸詰め︵ソーセージ︶何かを作っていたのに⋮⋮︶﹂ ﹁︵あ、そう言えば、嫁さんのポーチに食料入れておいたんだった 697 !⋮⋮でも何も言ってない⋮気付いたかな?︶﹂ 入れたは良いが、言い忘れていた紅蓮であった⋮⋮。 そしてもう一度実家では⋮⋮ ﹁あれ?﹂ 何か紙切れがまだ入ってた⋮⋮。 ﹁何々⋮﹃家には野菜が豊富にあるので、サラダでも良いので野菜 を食べること!﹄追伸、冷蔵庫にドレッシングを入れときました。 使ってください。﹄⋮⋮オカンか?﹂ 言われた通り冷蔵庫にはフレンチドレッシング、ゴマダレ、シソ ドレッシング⋮等など、キチンと入っていた。 ﹁︵生野菜嫌いなんだけど⋮⋮︶﹂ ここまでされると食べないと悪い気がしてくる。仕方がない、腹 698 を括って食べよう。 やっぱり餌付けされている藍苺だった。 699 その頃実家では⋮⋮⋮︵後書き︶ 胃袋を紅蓮にガッチリ掴まれている皆さんでした。そして非常時 の時のために忍ばせておいた食料ですが、紅蓮痛恨のミス⋮⋮藍苺 に言い忘れていました。 700 偽弟の視線が怖いです⋮⋮何て言うとでも思ったか!︵前書き︶ 連日投稿ならず。どうもすいませんでした。 出直ししていたら軽く二日過ぎてたよ︵°Д°︶ ⋮⋮オホンッ⋮え∼、お読み頂いている方々に感謝です。何とお 気に入り登録数⋮100人になりました♪ ドンドンパフパフ♪ Σ︵´□`;︶ ひゃ、百人!! マジですか? きっとこれから減るのでしょう⋮⋮でしょ? これからも多少後ろ向きな自信で何とか完結までがんばります。 701 偽弟の視線が怖いです⋮⋮何て言うとでも思ったか! ・・・・ コウレン は∼い、どうも皆様こんにちは∼⋮。白の王宮、湯殿よりお届け します。側室舞子にいきなり、いきなり連れてられた紅蓮です。い や∼、結婚して初だね、こんなに離れている時間が長いのは⋮。 ﹁ふっ⋮︵現実逃避はここまでにしよう⋮﹂ ウテン 髪を洗い、イガグリからの若干引く様な執拗な視線を無視して髪 を洗っていた。そんな時でも兎天は始終イガグリの方を睨んでいた。 ﹁︵おのれ∼。イガグリめ、コソコソと隠れて主様視姦しおって⋮ ⋮もう我慢なりません!叩きのめして地獄に⋮︶﹂ ﹁︵落ち着いて兎天。何も視姦してる訳じゃないと思うけど⋮⋮、 てか視姦なんてどこで覚えてきたの?︶﹂ 兎天のイライラがMAXだ。私のイライラもMAXになりそうだ けど。まぁ⋮⋮イガグリが何でここに居るのか疑問だけど、一先ず 様子見でしょうね。 頭に付いた泡を流す。シャンプーと違って泡切れが良い。この世 界に有るシャンプーはマミィ特製石鹸よりも髪がゴワゴワになる。 嫁さんが使おうものなら⋮⋮酷い有り様になる。リンスの類いも有 るのだが⋮⋮椿油?のようなもので撫で付ける様に纏める位しか効 果が無いものだったり⋮⋮。 702 まぁ、だから嫁さんに会ったとき髪質が悪かったのは、シャンプ ーやリンスが合わなかっただけってのもあったのだ。だから今の嫁 さんの髪は当時よりも纏まっているよ。この頃は一まとめにしても 箒みたいにならないから。 ここだけの話だけど、実は嫁さんの髪をブローするのは私の仕事 なんです。嫁さん本人がやると変に癖が付いて⋮⋮うん。だから私 がやってます。それでも嫁さんは一人でやろうとして何度もトライ するから癖を戻すのに私の苦労が増すんだけどね。 ⋮⋮⋮今はそんな事言ってる場合じゃないんだ。 ﹁︵イガグリが此処に居るとして、何で啓璋さんは気が付かなかっ た?︶﹂ しっかり確認した筈だ。それとも見えなかったのか? 確かに湯 煙は凄いけど、それなら尚更よく確認をするだろう。あの人仕事に 手を抜かないタイプみたいだし。それとも、⋮⋮敵? けど、王妃様が信頼をおいてるから筆頭侍女に就いているのでは ? それともやはりこの国でも貴族の権力争いの駒として与えられ た役職なのか? ﹁︵まぁ、どーでも良い。︶﹂ リラックスタイムの風呂を台無しにしているイガグリの視線はイ 703 ラつくが、それならイガグリ本人に話を聞くまで⋮。 ﹁︵兎天、引き続き周囲の監視をお願い。︶﹂ ﹁︵はい!︶﹂ さてさて、どうやって聞き出そうかな? ﹁何時までソコに居るつもりなんだ?﹂ ﹁!!!﹂ ﹁出て来い。それとも、多少熱い湯を掛けられたいか?﹂ ﹁⋮⋮兄上、お久しぶりです﹂ お久しぶりですって、ついさっき会ったばかりだろ。それとも話 をしなかったからお久しぶりですなの? ﹁さっき会ったばかりだろ。大雅王子。﹂ ﹁あの⋮⋮兄上⋮﹂ ﹁なんだ?﹂ ﹁女性だったのですか?﹂ ﹁・・・・・・はぁ!?﹂ 704 何を言い出すイガグリよ。どっからどう見ても男だろ⋮⋮体は。 下に付いてるぞ。そこからじゃ見えんのか? ﹁だっ、だって⋮線が細い⋮⋮﹂ 余計なお世話だイガグリ。お前だって子供なんだから細いだろ。 私もまだ8歳。細くて当たり前だ。 まぁ、父さんを見ていると﹁あれ?私﹂大人になっても細い⋮? 何て思ってもいたけどさ。それをイガグリに指摘されたくない。 ﹁8歳の子供は肥満体型以外はみんなこんなものだ。そう言う大雅 王子も細いだろ。﹂ ﹁それも⋮⋮そうなんでしょうか?﹂ そう言う事にしとけ。湯煙の中から漸く出てくる気になったイガ グリは此方にゆっくり歩いてきた。 しかしどうも腑に落ちない。どうしてこいつが此処に居るんだよ。 ﹁筆頭侍女より、此処は誰も居ない筈だ。何故此処に居る?﹂ ﹁それは⋮⋮少し一人になりたかったので。﹂ ﹁ふーん。だからと言って無断で人様の湯浴みを覗くのは⋮⋮不躾 だな。﹂ ﹁ごめんなさい。﹂ 705 ゴメンで済むか。私で良かったものの、コレがもし王妃様や姫だ ったりしたらどうすんだよ。どこぞのギャルゲーみたいなラッキー スケベは許されないんだぞ。分かってんのか? 事の重大さに。 ﹁今後絶対に此処には来るな。罰せられるのはお前の周りの大人だ ぞ。自分の行動には責任を持て。﹂ ﹁⋮⋮はい⋮⋮でも、僕は、﹂ ﹁は、なんだ?﹂ ﹁皆、僕が王子だから使えてくれるんだ⋮⋮だから﹂ なんだ、そんな事か。 ﹁当たり前だ。﹂ ﹁え?﹂ かしず ﹁当たり前だ、と言ったんだ。お前が王子だから皆お前に傅いてい る。﹂ 逆に聞きたい。王子としてではなく何か人に誇れる事を、人に頼 りにされると事をしてきたのか? 人は様々だ。権力に屈する者、それを利用する権力者、権力者に 屈せず我を通す者。自分よりも主を立てる者。 706 王の様に人を束ねる者に必要な者は⋮⋮全てだろうね。皆が己れ の我を通そうとすれば国は成り立たない。逆にそんな人が一人も居 なかったらスカスカな国になるだろう? 反対派が居るから良い国 が出来るんだよ? そんな訳で、イガグリがこのまま王太子になるのなら、ゆくゆく は王だ。しっかり今から地盤を築いてほしいものだ。 ﹁兄上! どうか僕の相談役になってください!﹂ ﹁断る。﹂ イガグリよ。此処は湯殿だぞ。分かるか? そう、今私は素っ裸 だぞ。何時までも湯に浸からないでいると寒いだろ!! ﹁で? そんな事で服を着たまま湯殿にいたのか⋮⋮﹂ ﹁はい⋮⋮ごめんなさい﹂ ﹁どうでも良いが、湯槽に浸かりたいんだか⋮?﹂ そろそろ冷えてきそうだ。寒さはホントに嫌いだな。 707 ********* 久々に紅蓮兄上にお会いできた。何時も僕の事を遠目にしか見て いない近づきもしない三人の兄上達。そんな兄上達とは違いよく会 う事が多かった紅蓮兄上。母上と居る時に会う事が多かった様な気 もするけど。 そんな紅蓮兄上が避難してきた白の王宮にやって来た。母上が﹁ てれぽーと﹂なる術で呼び寄せたらしい。兄上の母上は承知してい なかったようで、手紙が母上に届いた。手紙の封を開けると﹁うち まじな の子を誘拐するなんて良い度胸ね。首洗って待ってなさい!﹂と声 を届ける呪いをかけた手紙だった。母上は始終青い顔をしていたの で、余程怖かったのかな? 白の王に直ぐに紅蓮兄上の部屋から出されたが、一番上の兄上が 紅蓮兄上の部屋に最後まで残っていた。何か話されたのだろうか? 母上と兄上達と共に白の王を頼りこの王宮に身を寄せているけれ ど、父上を置いて来るなんて母上は何を考えているのだろう。日に 日に弱っていく父上は僕が呪詛を解く方法を試しても解けなかった。 兄上達は解けたのに⋮⋮何でだろう? また呪詛が兄上達や僕に伝染しない為に国を出ると言った母上に 抵抗もせず着いてきた。会ったことも無いけれど、姉上や妹弟達は 無事だうか? 708 ﹁どうしたの? 浮かない顔で。私に言ってごらん♪﹂ ﹁母上⋮紅蓮兄上に会いたいのです。﹂ そう、母上に告げると何とはなしに﹁なら大丈夫。私がやってあ げる♪﹂と、言ったので頼んでみた。そして母上の得意な﹁てれぽ ーと﹂で飛ばされたのは⋮⋮ ﹁何故湯殿なんでしょう?﹂ 母上は﹁声を出さないと大雅は誰にも気付かれないようにしたか ら。紅蓮が来たら声をかけると良いよ♪﹂と言っていた。 筆頭侍女の女の人が湯殿に入ってきた。何だか周りをしきりに見 渡して出ていった。暫くすると紅蓮兄上が入ってきた。紅蓮兄上は どこか浮世離れ?して見える。暫く見つめながら話し掛ける機会を 伺っていると、紅蓮兄上に見つかってしまった。 ﹁︵どうして紅蓮兄上は怒っているのだろう?︶﹂ 折角会えたのに⋮。そう言えば、母上が白の王子とこの湯殿で﹁ バッタリを狙ったの♪﹂何て言っていた。白の国側は何故か批難し てきたけどどうしてだろ? 紅蓮兄上は髪を洗っていたので濡れた髪が顔や肩に張り付いてい る。それをたまに鬱陶しげに払う仕草が何だか女性の様でちょっと ドキドキした。僕はどうしたんだろう⋮⋮ 709 そんな事を考えていると、紅蓮兄上が寒いので湯槽に浸かりたい と言った。そう言えば、紅蓮兄上は長いこと裸のままだった。僕が 答えるよりも早く湯槽に歩いていってしまった⋮⋮どうしてこんな に怒っているの? ******** あ゛ぁぁぁ⋮⋮折角の豪華な風呂が台無しだ。何でこんなリラッ クスタイムの風呂に居るんですかイガグリのクセに⋮⋮。 半ば無視して湯槽に浸かった。いやぁ⋮やっぱり風呂は良いもん だね。命の洗濯って誰かが言ってなかった? 湯槽はとっても広か った。そして細かい細工が施されていて見ていて飽きない。 まじな それにこの湯殿はじっくり見るとそこらかしこに呪いが掛けられ まじな ている。湯を汲む為、始終お湯が流れる溝?︵細長い湯槽?︶には 浄化と循環の呪いを。床に使われている石材には浄化と除湿、それ から保温の呪い。そして湯槽には浄化、循環、保温、回復力補助の 710 呪いを掛けている。何とも至れり尽くせりな。流石は大国白の国。 細かいところまで⋮⋮ん? ﹁︵何だろ⋮⋮歪な感じがする。︶﹂ 何と説明すれば良いのだろう。ん∼、マンガとか、アニメ何でも 良いから見ているとする。よく見ると、場面ごとにキャラの描かれ 方が違ったり、画風が違ったりすることない? あれって背景はア シスタントさんが描いていたりするでしょ? 私が感じたのはそれを⋮何て言うのかな⋮歪で嫌な感じにした感 じ。言葉では難しいけど、直感的なものかな。 絵って個性が出るでしょ? あれと同じように術や呪いって個性 が出るんだよ。何で気付いたか? まじな この風呂に掛けられた呪いは、家の風呂に掛けられた呪いと同じ なんだよ。しかも、多分掛けた人も同じだね。 そんな日頃見てきた呪いがここでは妙にある一ヶ所だけ歪んでい るんだ。ソコは何処か? イガグリがいた場所だよ。 ﹁︵兎天、イガグリがいた場所を調べて。残留した気配が残ってな 711 いか調べて。︶﹂ ﹁︵でも、調べ無くても分かりますよ。イガグリの母親の仕業です って!︶﹂ まぁ、そうなんだけど、一応確認をしたいからね。渋る兎天をな だめて確認を頼んだ。嫌がっているけど頼まれると調べてくれる辺 り素直な子だよね兎天って。 ﹁︵さて、無視していたけど、そろそろ話をするか。︶⋮で? な んだっけ?﹂ ﹁⋮⋮⋮え?﹂ ﹁話の続きだ。大雅、この事がバレれば大変だぞ。お前は他国の王 子だ。そんなこの国に迷惑覚悟でお前は何で私に会いに来たんだ?﹂ ﹁だから、紅蓮兄上に僕の相談役に⋮﹂ ﹁何故だ? もっとマトモで適任者が居るだろ。何も私で無くても いい。﹂ 例えば、宰相の息子の中にマトモなヤツも居るよ。宰相の父親と 仲悪いけど。彼は見方につければ何より強いと思うよ。 ﹁誰も僕を見てはくれません。誰も僕を理解してくれません。紅蓮 兄上なら!﹂ たわ ﹁戯け。甘ったれた事をぬかすな。誰も理解してくれません? お 前は誰を心の底から理解しようとしたのか? お前は私が今の状況 712 をどう思っていると思うんだ?﹂ こんな所に訳も分からず此処に飛ばされ、家族と嫁さんと離され、 漸くリラックスできると思ったらイガグリに邪魔されたコこの気持 ち⋮分かるのか? ﹁紅蓮兄上の事? 心細いのですね。﹂ ﹁いいや、家族と妻と離された事は怒りしか浮かばない。それに、 漸く権力争いから遠退けたというのに⋮⋮で? お前は知っている のか?私が此処に飛ばされた理由を。﹂ 話している最中に兎天から報告があった。やはり側室舞子の残留 した気配が残っていた。 ﹁勿論知っています。紅蓮兄上は森の中で一人で居るので危ないと 母上が⋮⋮﹂ ﹁お前はホントにそれだけだと思っているのか?﹂ ﹁違うのですか?﹂ 湯槽の中で伸びをする⋮⋮。良い湯なんだけどな⋮。こんな話を していなければ⋮⋮ ﹁私はな、家に帰る途中だった。しかもそれほど遠くない距離のな。 森だってあの辺は庭みたいなものだ。危険なんてない。私からした ら、何の理由もなく連れてこられたとしか思えない。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 713 黙りですか? ﹁紅蓮兄上は母上のしたことは間違いだと思うのですか?﹂ ﹁さてね。お前はどう思っているんだ?﹂ ﹁質問に答えてください。﹂ 少し気分でも害した様に私を睨み付けるイガグリ。そんな気弱な 睨みじゃ怖くないよ。 ﹁答えてどうする? お前は人の意見に流されやすいだろ。ここで 私が意見を言ったらお前は私の意見流される。だから人に聞かずに 自分でも考えてみろ。人に質問するなら自分で考えてからにしろ。﹂ ﹁⋮⋮⋮僕は﹂ 今まであまり自分で考えてこなかったのか? なら、今からそのツケを払わないとね。 ﹁僕は間違っていないと⋮⋮﹂ ﹁それは何故?﹂ ﹁え?⋮⋮えっと⋮⋮母上はお優しいです。だから、﹂ ﹁優しいから間違ってない⋮⋮ねぇ⋮。間違いかそうでないかには そんな事関係ない。一から考えてみるんだな。話は終わりだ。さっ さと帰れ。人に見つかれば、お前の周りの者が罰を受けるんだぞ。﹂ 714 ﹁⋮⋮はい。﹂ 意気消沈⋮⋮そんな感じを体で表現しながら湯殿から出ていくイ ガグリ。ホントになにしに来たんだよ。もしや、イガグリは久し振 りに会ったことに喜んでほしかったのか? はっ︵嘲笑︶お前の周 りにいるおべっか使い共やハーレム予備軍と一緒にすんなよ。コチ トラ曲に曲がった性格なんでね。人とは違う方向を向きたくなるん だよね♪ ﹁あっ、髪の毛垂らしたまま湯槽に入っちゃったよ⋮⋮まぁ、いっ か。温泉じゃないし⋮貸し切り状態だし⋮⋮多分﹂ 温泉は髪を痛めるものもあるって聞いたような?違ったっけ? 垂れた髪を耳にかける。長いとホント邪魔だな⋮⋮ ちょっとイガグリに対してキツ過ぎたかと思いながらも漸く訪れ たリラックスタイムを堪能していた私だった。⋮⋮⋮ちょっと無責 任かな? 715 偽弟の視線が怖いです⋮⋮何て言うとでも思ったか!︵後書き︶ はい。基本、放置主義な紅蓮でした。彼︵彼女︶は一般人です。 スペックはチートですが中身は一般と思い込んでいる一般︵笑︶な んです。そしてドライなんですよ。 それでは、次回に∼ヽ︵ ̄▽ ̄︶ノ 716 暇な時には⋮⋮調合に限る?︵前書き︶ 今回は短めで御座います。 お読みいただきありがとう御座います。 717 暇な時には⋮⋮調合に限る? コウレン さてさて、風呂上がりのホカホカな紅蓮でございます。本当なら 湯上がり早々侍女達に身体中拭かれたり服を着せられたり、傅かれ るけれど、みんな断ったので、自分で着る。よくもまぁ貴族や王族 はそんな恥ずかしい事が出来るよね。慣れって怖いね。きっと産ま れたときからそうだから不思議でも恥ずかしくもないんだろうね。 ﹁私には無理だな。﹂ 恥ずかしくて死ねるよ。 今着ようとしているのは着物の⋮⋮何て言うのかな? 着流し? っていうのかな? 浴衣みたいに薄くないし⋮。家でも普段着として来ていたけど⋮ ⋮やっぱり王宮だからズボンはダメなんですか? まぁ⋮郷に入れば郷に従えって言うし、そんなに不満はない。 普段は緑系統の色を着ている。周りが緑だらけだらかね。特に外 に出て作業するときは緑だね。その次は⋮⋮青系統かな。暖色系は あまり着た覚えが無いなぁ。 用意された着物がこれなら、晩餐の時はもっと着飾るんだろうね。 さっきの侍女達によって⋮⋮憂鬱だ。 718 ﹁男物じゃ⋮⋮ない。﹂ え? 着流しじゃなくて、振り袖みたいな柄の着物だった。着流 しって、羽織、袴をつけない男性のくだけた和装って嫁さんが言っ てたよ。 男性用の着物がこんなに華やかな花柄︵桜と月︶の⋮⋮でも、地 は藍色⋮⋮子供用ってこんな感じなの? ﹁着物の良し悪しはよくわからない⋮⋮﹂ センスってなんだっけ? いや、でも、帯は男物⋮⋮かな? ケイショウ 考えるのを放棄して用意された着物を着て脱衣所を出ると、ずっ と待っていた筆頭侍女の啓璋さん。さっきイガグリが出ていったこ とを報告するだろうね。 ウェストポーチは兎天に預けている。影のなかに収納してくれて いるのだ。着物の上からつけると変だからね。晩餐では問答無用で 着飾んだろうし、外されるよりは、兎天に預けている方が安全だし ね。 ﹁紅蓮様お湯加減はいかがでした?﹂ ﹁はい。気持ちのよいものでした。けれど、次の人はもう少し温め 719 にしておくと良いでしょうね。﹂ まじな 実際あんなのに浸かったら軽い火傷だよ。歪に歪んでいた呪いは どうやらお湯の温度を上げる効果があったようだ。これで湯殿の管 理を任されている人が罰せられないと良いのだけど⋮⋮ そんな事を言ったら、案の定啓璋さんは眉を一瞬潜めてそれは後 程報告しておきますと、一言いってから、﹁それでは晩餐までお召 し物を決めておきましょう﹂と言っていつの間にか揃っていたさっ きの侍女四人組に連行される私だった。 かんざし 連れてこられたのはさっきの衣装部屋。侍女四人組にこの着物は ?とか、この簪等は?なんか言われてるけど、 ﹁どれも女性の物でしょう⋮⋮特に簪は そう、みんな女物なのだ。着物は振り袖︵しかもピンクに赤など︶ に簪⋮⋮遊んでるよね? ﹁紅蓮様なら似合います!﹂ ﹁その絹のようなお髪はこの簪が似合います!﹂ ﹁女物でも大丈夫です!﹂ ﹁そのお顔立ちならば敵無しです!﹂ 720 ﹁自分で決めます。﹂ ﹁﹁﹁﹁そ、そんなぁ⋮Σ︵´□`;︶﹂﹂﹂﹂ ﹁あなた達、仕事と私情を混ぜるのではありません。紅蓮様がそう 仰るのなら、それに従いなさい。﹂ ﹁何より、私的な晩餐に派手に着飾るのはどうかと⋮⋮﹂ ﹁それもそうですね。さて、紅蓮様。どの様な着物に致しますか?﹂ こんな状況を打開するには、啓璋さんを味方につけるのが一番ら しい。今回は味方に出来た。よかった⋮⋮︵;・∀・︶ ﹁ん∼⋮⋮着物は青を基調にしたものが良いです。髪はこのまま何 時ものように結ぶので取り立てて飾りは要りません。﹂ ショボーン⋮としている侍女四人組を尻目に次々決めていく私と 啓璋さん。落ち込んでいるけど、仕事はきちんとする派なのか言わ れた物はきちっと用意していく侍女四人組であった。 私が決めた着物は、藍色の無地の着物。今さらだけど、私の好き ランメイ な色は青だ。どっちかって言うと紺に近い深い青が好きだね。そう 言えば、嫁さん⋮藍苺の髪の色は黒に近い紺色だよね⋮⋮あら? 私って無意識にこの色選んでた? ﹁さて、紅蓮様。晩餐の用意が出来次第御呼び致しますので、こち らでお待ちください。﹂ 721 おっと、考え事してたら話が進んでいた。 ﹁この部屋で待っていればいいのですね。﹂ ﹁はい。それではまた御呼び致します。﹂ ﹁﹁﹁﹁それでは紅蓮様また来ますね♪﹂﹂﹂﹂ あんたら侍女四人組は来なくて良いです。どっと疲れるから⋮⋮ ︵−︳−;︶ さて、今は夕方の何時辺りかな? 兎天からポーチを受け取り懐 中時計を取り出す。勿論これもメイドインマミィ。そして時間を確 認する。どうやら今は4時半過ぎ。晩餐はいつ頃なのかな? 今更だが、この世界に正確な時計は無い。あって日時計と線香を 使った時計位しかない。でも、それで大体あっているからスゴいよ ね⋮⋮じゃなくて、この世界での世間一般の晩御飯時は6時∼7時 辺りまでだ。地方や季節にもよるけれど、大体そんな時間だね。ま ぁ、だから晩餐まで一時間ちょいあるんだよ。 ﹁暇ですね∼﹂ ﹁︵主様⋮⋮もう少し気を引き締めてください!︶﹂ ここ 兎天の言いたいことも分かるけど、白の国ではあまり冷遇もされ 私 てないし、何より母さん達を怒らせたくはないだろうし⋮⋮盟友同 士何だから無下にはしないって。 マミィ さながら﹁虎の威を借る狐﹂ならぬ﹁窮奇の威を借る九尾の子供﹂ 722 だ。 なんとも⋮⋮まんまじゃん。マミィも九尾だけど、私よりも格が 上だ。 ﹃話が脱線してますよ﹄ ヤタガラス 影から頭だけ出して言う。どうも影から頭だけだ出した状態の時 はエコーがかかって聞こえるだよね。これを聞くと八咫烏のエコー がかった声を思い出すよ⋮⋮あいつがまた何か仕出かさないことを 祈っている。 ﹃私はアレほど可笑しくないですよ。﹄ ﹁いや、ゴメンね。︵てか、アレって︶﹂ 容赦ないね兎天さん⋮⋮。やっぱり他から見ても八咫烏って可笑 しいのか? ﹃アレは母も父も関わってはいけないと言われています﹄ ﹁そうですか。﹂ だそうだ。 723 さてと、一時間ほど何をして時間を潰そうか⋮⋮確かポーチの中 に作りかけの呪符⋮⋮は、昨日作り終わったんだ⋮⋮じゃあ、アレ を作りますかね⋮⋮ さじ ﹁∼∼♪えっと⋮⋮簡易式鍋︵簡易コンロ付き︶と、薬草類に⋮材 料諸々⋮かき混ぜるための匙⋮♪﹂ ﹃︵主様⋮⋮楽しそうですね︶﹄ このコンロ付鍋は、見た目は魔女のかき混ぜてるアノ鍋そっくり。 私の狐火で火力を調節するからコンロは要らないんだけど、一応付 けている。 ﹁さて、作りますかね♪﹂ 待機しているこの部屋にあった丁度良さげなテーブルに材料を広 げて準備完了。 ﹁先ずは∼∼水を鍋に入れて∼温め⋮♪﹂ 狐火で火力を調節。便利だな狐火。水はもしものために予め目一 杯竹筒の水筒に入れている。その水を鍋に注ぐ。 ﹁月見草∼を一枚♪∼∼半時計回り♪﹂ 実は月見草を粉末状にした物を今は使っている。この月見草は色 が出るのだが⋮⋮決められた色が出るのが大体葉っぱ一枚分なんだ よ。だからそんな風に覚えているんだよね。大体薄緑の色だね。 ﹁ヤモリの尻尾三本∼∼♪えっ⋮これ入れんの?入れんだよ∼♪﹂ 724 歌にツッコミは無しの方向でお願いします。 ﹁マムシの毒二滴∼⋮⋮これ大丈夫か? 大丈夫だ、熱処理したか ら∼♪﹂ 大体の毒って熱に弱いよ。例外もあるけど。アルコールに弱いの もあるけど⋮⋮。 ﹁粉末温泉の素∼♪何だよそれ?⋮⋮いいからかき混ぜる♪﹂ マミィの特製ですね、分かります。 ﹁∼後は透明にな∼るまでかき混ぜろ♪﹂ ここからが正念場。妖力を込めて全力でかき混ぜる。人の作る薬 と私達親子が作る薬は違う。妖力を込めているので効き目が桁違い に高い。副作用は無い。何故か知らないけど、副作用が無いのだ。 副作用は無いが、根拠が無いので売ったりしない。何があるか分 からないから。訴えられたり恨まれるのは嫌だからね。だから、マ ミィは誓約書を書かせてからしか薬を渡さない。 さて、今必死でかき混ぜるが、言うほど必死ではない。だってス ペックが無駄にチートなもんで疲れないのだ。今なら結構な距離を 全力疾走してもうっすら汗をかくだけかも。 鍋の中の色が消えてきた。そろそろかな? 725 ﹁色が消えたら∼強火で一気に♪﹂ 中の薬の量を水分を蒸発させて半分に減らす。これで成分を凝縮 すると、で仕上がり。ね?簡単でしょ? ﹁後は瓶に詰めて⋮⋮はい、出来上がり♪﹂ 今作っていたのは万能薬。この万能薬で私は命を取り留めました。 そう、あの酒に入っていた毒を打ち消した薬です。や∼、でもまさ か材料がアレとか、アレって知ったとき吐きたくなったよ。 ⋮⋮⋮嘘だ。別に吐きそうになってないです。何でこの材料が毒 に対して効くのか全く分からない。何がどの様に作用して解毒する のかサッパリだ。多分加えた妖力が何らなの効果をもたらすじゃな いのか? ご都合です。 KY陛下と変態ロリコンに飲ませたアノ薬を教えてもらう時に一 緒に教わったのだ。 余談なんどけど、ゲームとかで万能薬とか珍しい回復アイテムっ てあまったことない? 持っていればいつか使うと思って売らなか ったりして。それで結局最後まで使わないんだよね。 そんな倹約⋮もとい貧乏性な私は手持ちに万能薬があるにも関わ らずまた作ってしまったのだ。もしかしたら晩餐で使うことになる かも知れないし。 何も命を狙われるのは私だけではないから⋮⋮ね。 726 ﹁︵毒が効かない私よりもこの国の王族の皆様が危ないし⋮⋮。晩 餐なんてものは毒殺の宝庫だしね。 ︶﹂ 万全の態勢で望みたいじゃない? 何より、私は毒が効かない。 何かあって王族に被害があったとして無事な私だけなのは犯人にさ れるとも限らない。そんなの御免だから。まぁ、両親の知り合いっ て事もあるし、何かあったら助けますよ一応ね。 ﹁︵専属の医者がいるから無用かも知れないけど。あって困るもの でもないし、﹂ 何より暇を潰せて、待ち時間で出来る簡単な薬を作っただけなん だけどね、ホントは。 さて、作り終わったし後片付けして少し身だしなみでもチェック しようかな? ﹃︵お父さん、お母さん⋮⋮今日も紅蓮様は我が道を行くです。﹄ そんな兎天の独り言を聞かずにせっせと後片付けをして、鏡の前 で身だしなみでもチェックしていた紅蓮だった。 ﹁あれ? 組み紐が嫁さんの藍色だ⋮⋮間違えて使ってたな∼﹂ 727 朝に慌てて自分の組み紐と藍苺の組み紐を間違えていた。まぁ、 後で返そう⋮⋮。 728 暇な時には⋮⋮調合に限る?︵後書き︶ 材料は適当です。 729 次世代チートを舐めんなよ?︵前書き︶ どうも皆さま、お読みいただきありがとうございます。 評価も頂いて⋮⋮感極まって鼻水が⋮⋮スミマセン鼻炎持ちなん で⋮。 コウレン 今回は紅蓮が多少吹っ切れます。 730 次世代チートを舐めんなよ? コウレン ウテン 万能薬を作り後片付けも終わり身仕度も終えました。紅蓮です。 万能薬が入った瓶を片手に﹁フフフ⋮﹂とノリで笑ったら兎天に引 かれました⋮⋮。マッドな科学者じゃないからね。 ﹁何もそこまで引かなくても⋮⋮﹂ ﹃すいません主様⋮⋮﹄ いや、マッドに見えたのが悪かったんだよ。そんなどうでもいい やり取りをしていると人の気配がしたので兎天は影に隠れた。兎天 が影に隠れて少しすると突然ドアが開いた。 ﹁紅蓮様、お待たせいたしました。用意が整いましたので⋮⋮﹂ おや? 啓璋さんではないのか? 忙しいのかな? どうやら今 回は啓璋さんは来ない様だ。まぁ、筆頭侍女なのだから忙しいだろ う。けどこれ何か⋮⋮⋮ ﹁︵怪しい︵;¬︳¬︶︶﹂ 何も言わずに入ってくるなんてまるで黄の国の礼儀を知らない女 官みたいだね。 兎天にはちょっとだけ黙ってもらい様子を見ることにした。 ﹁あの⋮⋮紅蓮⋮様?﹂ 731 戸惑いぎみに問い掛けてきた侍女。どうしたもんかな⋮⋮ ﹁先程の侍女の方ではないのですね﹂ ﹁はい。先程の者は雑務が有りますので。﹂ 怪しい⋮。カマをかけてみようかな。 ﹁雑務と言うのは衣装部屋の整理ですね。私の衣装を出す時にかな りバタバタしたようですから⋮﹂ ﹁はい。あの者達の仕事ですから。﹂ ﹁確か⋮あの三人は衣装担当でしたね﹂ ﹁ええ、それがなにか?﹂ ﹁けれど、もう一人は何の担当だったのでしょう?﹂ ﹁同じ衣装担当です。﹂ ふ∼ん。そうですか⋮⋮。 ﹁よく知っているのですね。女官と言うのはその様な事まで記憶な さっているのですか?﹂ ﹁はい。仕事ですから。仕事の取り次ぎは常にしております。﹂ ﹁スゴいですね。私のところに来た侍女の人数まで把握しているの ですね。﹂ 732 ﹁ええ、そうです。﹂ ﹁なら、先程侍女の方に頼んだモノは持ってきてくれましたか?﹂ ﹁⋮⋮はい。聞いております。後程お持ちします。﹂ ﹁そうですか⋮。﹂ 勿論侍女さん達には何も頼んでない。この人は今嘘をつきました。 けれど、まだただの言い訳の嘘だ。何の証拠にもならない。 ﹁そう言えば、啓璋さんはどちらの担当なのでしょう? 衣装にと てもお詳しですよね。﹂ ﹁その者も衣装担当の者です。﹂ はい。引っ掛かった⋮⋮。まさかこれで引っ掛かるとは正直思わ なかった。 ﹁貴女は女官なんですよね?﹂ ﹁⋮⋮そうですが?﹂ はい。これも引っ掛かった♪ あ、説明するとこの白の国では女 官って秘書官のような所謂事務官職の女性の事を言うんだって。だ からメイドみたいな事をするのは侍女と呼ぶんだよ。 だからこの人は白の国の侍女じゃない。勿論こんな所にいる時点 で女官でもない。何よりも、侍女ならば自分の上司の筆頭侍女の名 733 前を知らないなんてあり得ない。 ﹁可笑しいですね⋮⋮。先程の侍女達は王妃付の方々。王妃様のお 側に居るならまだしも、衣装部屋の整理など今の時間にするのです か?﹂ 王妃付の侍女が私の世話をすること事態が異例なんだけど。まぁ、 王妃付の侍女でも王妃様の身の回りだけでなく、雑用もするだろう けど何もこの忙しいだろう時間帯にすることではないらしい。この 情報は兎天が聞いてきたものだ。 ﹁!!!﹂ ﹁それに御自分の直属の上司の御名前も知らないと⋮⋮。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 頭の良くない私でも分かる。どうしてこれでバレないとでも思っ たのか。 ﹁女官は男女平等な白の国では立派な文官職ですよ。ワザワザ私の ようなただの子供の世話などする暇は有りません。御忙しいと聞き ましたよ。﹂ 勿論侍女も立派なお仕事ですよ。そこんところ悪しからず。 ﹁⋮⋮⋮﹂ 黙り続ける偽侍女。言い訳もせずただ立っているだけでどこか目 が虚ろだ。変。兎に角変だよこの人。 734 ﹁貴女はどちら様ですか?﹂ ﹁⋮⋮だ。﹂ 嫌な予感 ﹁お前がいなければ!!﹂ いきなり取り乱した女官は懐から小太刀を取り出した。おそらく 護身用の物だろう。乱暴に鞘から抜き出すと小太刀を両手で掴んだ まま刃を私に向ける。 あぁ⋮これは⋮⋮刺されるな⋮ 濁った目をこちらに向けて何事かブツブツ言いながらこちらを睨 む。今まで武器を向けられた中で一番嫌な感じがした。あの馬鹿兄 弟や魔獣よりも嫌な感じ。てか、私は何でこんなに冷静なんだろ。 普通刃物を向けられれば取り乱すよね? ﹁お前が⋮お前さえいなければっ!!﹂ 同じ様な言葉を延々と呟く女官はジリジリとこちらに近づいてく る。 ﹁︵主様!︶﹂ ﹁︵大丈夫。兎天はじっとしてて︶﹂ 735 納得してない兎天を無視して壊れたラジオみたいにブツブツと同 じ言葉を繰り返す女官を見据える。 呑気に観察してる場合じゃないけど、一応ね。ふむ⋮⋮目が虚ろ、 言動も可笑しい⋮足元はしっかりしているけど、唇は紫色になって、 顔は青白い。暗示にでもかかっているのか? 女官はジリジリと近づいてくるので、私も距離を取る。気分はレ スリング⋮⋮やったことないけど。後ろだけでなく横にも移動する のがコツだね。後ろに下がっても壁際に追い詰められるだけ。 睨み合いは結構続いた。しかしノックの音に中断された。バット タイミングとはこの事だ。 ﹁紅蓮様、晩餐の用意が整いました。⋮⋮?紅蓮様?﹂ 気を抜くわけにはいかないので返事もできない。しかし返事が無 いので不審に思うだろう。私が侍女なら取る行動は⋮⋮ドアを開け る! ﹁紅蓮様失礼致します!!﹂ 私の位置はドアから少し離れている。女官の方が近い。位置取り をミスった⋮⋮。 ﹁開けるな!!﹂ 今の声で異常な事態を確信した啓璋さんはドアを開ける。効き目 は無いだろうが叫ばずにはいられなかった。女官がドアを見ている。 このままだと⋮⋮筆頭侍女は刺される! 736 ﹁兎天!隙を作れ!﹂ ﹃御意!﹄ 兎天に隙を作ってもらい私は啓璋さん達がドアを開けるのを阻止 するために走り出す。が、 ﹁なっ!﹂ あと一歩で間に合わなかった。子供の足では無理があった。仕方 ないので女官の様子見にそちらを向くと、兎天が床から頭だけ出し て女官の裾を引っ張ったり、足を突いて足止めしていた。 ﹁すいません。今立て込んでいるので外に出てください!﹂ ﹁お客様を差し置いて出るわけにはいきません!﹂ そう言う啓璋さんの後ろには同じ意見だと顔に出している侍女四 人組の姿もあった。その心意気は合格だけど⋮。 ﹁はっきり言って邪魔なんです!﹂ ﹁﹁﹁﹁!!!﹂﹂﹂﹂ ﹁紅蓮様後ろ!!﹂ ﹃主様!!﹄ 一瞬侍女さん達の方を向いていた為に反応が遅れた。急いで振り 向くと女官が恐ろしい形相でそこまで迫っていた⋮⋮ 737 ドスッ⋮⋮ そんな音が静かな部屋にやけに響いた。 刺されたのか? 痛みが無いけど? ポタ⋮⋮ポタッポタ⋮⋮ボタボタッ ランメイ じわじわ痛みが伝わってきた。痛む位置は腹⋮⋮あぁ⋮藍苺達に 心配させちゃうよ⋮⋮死亡フラグ何処で建てたんだろ⋮⋮てか死亡 フラグ回収⋮⋮ 738 何て言うとでも思ったか!! ﹁⋮⋮ッ⋮⋮痛いなぁ⋮﹂ ﹁!!﹂ 未だに正気じゃない女官の腕を掴んだまま腹に刺さった小太刀を 引き抜く。やれやれ⋮痛いなぁ。そして掴んだ腕を締め上げて小太 刀を奪う。これで女官の危険度は一気に下がった。武器を持たない ならそんなに大それた事はできない。 ﹁⋮⋮⋮!紅蓮様!!﹂ 暫くフリーズしていた啓璋さんが現実に戻ってきた。私の姿を見 て取り乱す寸前を何とか抑えて私の身を案じる。 妖怪じゃなかったら即死だった。いやホントに。ハイスペックな チート性能な体の出来で良かったよ。死なずにすだ。 ﹁早く手当てを⋮﹂ ﹁お気遣いなく⋮もう粗方治りました。﹂ 女だった前世を考えれば⋮⋮こんな痛み⋮痛いけど⋮⋮我慢は出 来る。でもね、痛いのは嫌いなんだよ!! 739 ﹁そんなはずは⋮⋮!!!﹂ 塞がり始めた傷を見たのか驚いている。もう血も止まった。痛み も引いてきた。けれど、体の傷は消えても破れた箇所や血で汚れた 着物はもう使い物にならないだろう。結構ちが出たようだ。そこら 辺血だらけだ。 ﹁妖怪なので⋮⋮﹂ 妖怪が平等に扱われる白の国でも畏怖の存在と思っている者は結 構多い。だからこの人たちはどう思っても私は構わない。どうせ、 怖がるのだろう? ﹁すいません。着物をダメにしてしまいました。それと、誰か縄か 何かありません? この人を縛っておかないと⋮﹂ ﹁は、はい、直ちにもって参ります!︵・ー・︶ゝ゛﹂ ﹁私は代わりの置物⋮じゃなくてお着物を!︵・・;︶︶︶﹂ ﹁わ、私は⋮⋮兵を呼んで参ります!Σ︵´□`;︶﹂ ﹁えっと⋮なら私は事の事態を陛下に報告してきます︵・︳・︶ゝ ゛﹂ ﹁貴女達⋮⋮もう少し冷静になってからお行きなさい。転びますよ。 ﹂ ⋮⋮⋮女性はそんなに柔じゃなかった。特に彼女達は。流石は王 妃付の侍女。その役職は伊達ではないのか。 ﹁さて、紅蓮様。治ったのは分かりますが、一応は手当てを致しま す。﹂ 740 ニッコリ笑って﹁断るわけないよな?﹂な目で見てくる啓璋さん。 母さんと一緒の笑みに従うしかなかった⋮⋮。 ﹃ですから⋮⋮ぐすっ⋮言ったのです⋮⋮もう少し⋮ずずっ⋮⋮ご 自愛くださいと!﹄ やむを得ず無視してしまった兎天が泣きながら私の鳩尾辺りにす りすり⋮⋮正直苦しいが泣いているので仕方なく のままにして頭を撫でている。まだまだ兎天は子供なのだ。生後半 年⋮⋮まだ赤ん坊と言ってもいい歳なのだ。これで親離れするなん て⋮⋮少し早いんでは? ﹁あの、紅蓮様? こちらの⋮⋮鳥は何方でしょう?﹂ おっと、私としたことが、兎天を隠していた意味がなくなってし まった。 ﹁この子は私の眷属なんです。﹂ ﹃ぐすっ⋮主様の眷属です。﹄ ﹁まぁ、そうでしたか。これはご丁寧に。﹂ 啓璋さんは兎天に対しても礼儀を忘れない。まさに侍女の鑑。お 見それしました。 ﹁さて、紅蓮様。ご説明していただいても宜しいですね?﹂ 741 キタ!キタよ。難しいんだけどこれ。 ﹁私にも詳しくは⋮⋮ですが、この方がこの国の侍女ではなく、女 官であることまでは⋮分かっていますが。﹂ ﹁女官⋮⋮ですか?﹂ ﹁はい。女官と言ってもこの国の女官のような文官職ではないです よ。この女官は侍女職の女官何です。﹂ この国に他国の女官が居るとすると、側室舞子に付いてきた黄の 国の女官しか居ないはず。それとも、潜入でもしていた間者かとも 思ったけど⋮⋮。 ﹁︵間者にしてはお粗末過ぎだよね⋮︶﹂ ﹁⋮⋮これは陛下に報告しておきます。⋮⋮それにしても、災難で 御座いましたね。﹂ ﹁⋮⋮そうですね。でも慣れてしまいました。﹂ そりゃ慣れもするよ。小さな︵今も8歳だから小さいけど︶時か ら命狙われてたら慣れもする。近くに必ず母さんが居たから助かっ てきたけど、ここには誰も守ってはくれない。 兎天の言う通り気を引き締めないと。 それよりも、こんなの所に嫁さんが来るのは⋮⋮心配だ。 742 ﹁では紅蓮様。お着替えが終わり次第晩餐の席へ案内致します。そ の前にこの方をどうにか致しませんと⋮⋮﹂ ﹁分かりました。ほら、いつまで泣いているんだ? ソロソロ着替 えたいし、あの人捕まえないと⋮ね?離して?﹂ ﹃はい。ぐすっ⋮﹄ 未だ泣いていた兎天を引き離して持ってきてもらった縄で女官を 縛っておかないと⋮。未だに兵士は来ない。職務怠慢ではないだろ か?まぁ、人様の国の事にけちつける気なんか全くございませんよ。 ﹁さて、⋮⋮大人しくは⋮⋮してくれないですよね。﹂ 未だ私を睨む女官。今までずっと大人しくしていたが、こちらが 動けば彼方も動くかもしれない。けど、私チート2世ですよ。え? なんだそれ? 親がチートだから子供のチートの事だよ。今後使う 気なんか無いけど。てか、お前自分はチートじゃないとか言ってな かったっけ? あぁ、何かもういいや∼なんて思ってさ。吹っ切れ ました。 ﹁ぐああぁぁぁ!!﹂ 奇妙な奇声をあげながらこちらに女官が襲いかかってきた。顔色 が悪いからホラーなビジュアルになっている。 ﹁兎天!﹂ ﹃任せてください!﹄ 743 影から完全に出て女官にタックルをかました兎天。ナイス兎天! ﹁ちょっと失礼﹂ ﹁グェ﹂ バランスを崩した女官に足払いをかまし、倒れた女官の腕を掴ん で後ろに捻る。チートですから大人よりも力が強いです。簡単に捕 縛しました。術を使っても良かったんだけど⋮⋮何か気が乗らなか った。気分です。 ﹁︵容赦無いですね︶﹂﹁﹁﹁容赦無いです紅蓮様﹂﹂﹂ 啓璋さんと侍女四人組︵兵士を呼びに行った人は未だ帰らず︶の 失礼な感想はムシムシ。こうしなきゃ危ないでしょ? 持ってきてもらった縄で女官を拘束しておく。やれやれやっとこ の血だらけぼろぼろの着物を着替えることが出来るよ⋮⋮ ⋮⋮そのあと、侍女さん達に傷跡を確認の為にと着物をひん剥か れたのは苦い思い出だ。勿論変なことをしようとしていた侍女の企 みは私と啓璋さんの雷で阻むことが出来た。ハァ⋮⋮何か闘いより me!! も疲れた⋮⋮これから晩餐に行かないと行けないなんて⋮⋮憂鬱だ よ嫁さん!!Help!Help 744 その頃実家では⋮⋮ ﹁はっ!﹂ ﹁どうしたのランちゃん?﹂ ﹁あ、いや何でもないです。﹂ 誰かに呼ばれたような⋮⋮気のせいか? ﹁さっきも急に大声出したりしていたな。ホントにどうした?﹂ ﹁そうよ、何処が悪いのかも⋮⋮疲れとかもあるかもね⋮﹂ 何だか妙に落ち着かない。これが俗に言う虫の知らせか?レンに 何かあったのか!? ﹁︵ま、どうせあいつなら軽く乗り越えるだろう⋮︶﹂ 俺は別に心配で仕方ない訳じゃない⋮⋮絶対違うからな!! っ て、誰に話かけてんだろ俺⋮⋮ 745 微妙に届いていた⋮⋮なんだ、コイツツンデレか? 746 次世代チートを舐めんなよ?︵後書き︶ はい。紅蓮さんはテレパシーを取得⋮⋮出来ません。⋮⋮⋮はは は⋮⋮はい。スミマセン。 えっと、紅蓮の性格は曲がりに曲がってひねくれています。けど、 変なところで素直ってか⋮⋮なんなんでしょうね?産みの親の自分 もわからなくなってきました⋮⋮ははは⋮⋮駄目ですね。 あと紅蓮は頭はあまり良くありません。勘とか根拠の無いことで 鋭かったりします。でも一応考えてもいるんです。めんどくなって 途中で放棄しがちなんですがね⋮⋮。 ではまたm︵︳︳︶m 747 晩餐は危険な香り?︵前書き︶ 白の王様一家キャラ破壊⋮⋮の巻? お読みくださった皆さまありがとうございます。 748 晩餐は危険な香り? コウレン 侍女四人組︵漸く兵士を連れて戻ってきた︶に着物をひん剥かれ 悪ふざけを啓璋さんの雷で事なきを得た紅蓮で御座います。ハァ⋮ 今から晩餐に行くんだけど、正直疲れております。勿論侍女四人組 のお陰で御座います。 ﹁無理矢理ひん剥かれたのは初めてですよ⋮⋮﹂ ランメイ ﹁まぁ、紅蓮様はご結婚されているではないですか!﹂︵ワクワク︶ ﹁そうです。藍苺様とアンナコトヤ﹂︵ドキドキ︶ ﹁ソンナコトヤ、コンナコトモ⋮⋮しているのでしょ?﹂︵ニヤニ ヤ︶ ﹁キャー♪紅蓮様ダ・イ・タ・ンで、御座いますね﹂︵ワイワイ︶ ﹁8歳の子供に何をさせているんですか⋮妄想は結構ですけど、私 を無断で使わないでください。あと妻もダメです。﹂ ﹁﹁﹁﹁キャー♪独占欲♪︵≧▽≦︶﹂﹂﹂﹂ ﹁貴女達⋮妄想はその辺にしておきなさい⋮⋮﹂ 何処の世界でも女性は変わらないものなんだね⋮⋮ハァ⋮⋮。 ただいま長い長い廊下を移動中で御座います。勿論あの女官は兵 士にパスしました。独房に入れられるのでは? まぁ、また何かあるといけないので王の許可なく面会は出来ない ようにしているらしい。あと、王達家族は私をかなり心配している ようで、食べずに待っているとか⋮⋮スミマセン⋮⋮帰っても良い 749 ですか? だってそんな時に悠然と入っていくなんて出来ないよ。そんな度 胸ありませんって。 ⋮⋮けど、やっぱり訓練と実戦は違うね。あんなに攻撃食らうな んて⋮⋮やっぱり私は前衛向きじゃないんだね。今後は長所を伸ば しつつ、短所も改善していかないと⋮。やっぱり嫁さんとは違う特 訓メニューにしないとダメだね。仲良しこよしじゃ強くはなれない か⋮やっぱり。 ﹁紅蓮様、本当にもうお加減はよろしいのですか? 傷痕が残って おりますよ。﹂ あやかし そう、やはり傷痕が残った。あの小太刀には﹁妖殺し﹂の呪がか かっていた。治りが極端に遅いのはそのためだ。しかも、この﹁妖 殺し﹂の呪はあの宰相のバカ息子達の兄の方が持っていたナイフに 掛けられていたものよりもずっと強力なモノだった。並の妖怪なら 死んでいた。 本当に両親から受け継いだ妖力の高さには感謝します。でもこの 傷あと数日は治らないね⋮⋮嫁さん達には内緒にしとこ。だって心 配するし。 ﹁あの小太刀には強力な呪いが施されていました。その所為で治り が極端に遅いのです。命に別状は無いので大丈夫ですよ。﹂ ﹁本当に妖怪なんですね⋮﹂ 750 ﹁人間にしか見えませんよ?﹂ ﹁可愛い子供にしか見えません!﹂ ﹁もしや、お姿を変えているのですか?﹂ ﹁貴女達もいい加減になさい﹂ 物怖じしない侍女四人組。啓璋さんがたしなめるも効果はあまり ない。それにしても珍しい。妖怪がここまで怖がられないのは。人 間達は恐怖の対象として妖怪を見ていることがザラなのに⋮⋮ ﹁⋮⋮怖くはないのですか?﹂ ﹁﹁﹁﹁可愛いは正義です!!﹂﹂﹂﹂︵ドヤァ︶ ここまで言い切るとはいっそ清々しいよ。前世の友達ミケと気が 合うだろう。そういやミケ、元気にしてるかな⋮⋮最後にあったの は⋮⋮あれ?いつだった? まぁ、いいか。にしても、ここまで怖がらない人間は嫁さん以来 だね。 ﹁さぁ、話もそこまでになさい。食堂に着きましたよ。では紅蓮様、 どうぞ後ゆるりと⋮﹂ ﹁﹁﹁﹁行ってらっしゃいませ﹂﹂﹂﹂ 大きな扉の前に着いて早々啓璋さん達侍女の皆さんはお辞儀をし て送り出す。何もそこまでにしなくてもって思うんどけど、それも 仕事の内なんだろう。けれど、中身は傅かれるのに慣れていない日 本人です。反射的にしてしまうのです。 751 ﹁ご丁寧にどうも。ではいって参ります。ここまでありがとうござ います。﹂ 日本人は反射的にお辞儀を返してしますと思うんですよ。私だけ ですかね? そんなお辞儀を返した私に侍女の皆さんはポカーンとした顔で呆 けている。するとやはり立ち直りが早い啓璋さんが、 わたくし ﹁私どもは侍女で御座います。紅蓮様は私どもにその様に礼をせず とも⋮﹂ ・・・ ランメイ やはりこの侍女の鑑、啓璋さんは納得いかないようで⋮⋮けどね、 私は今はただの紅蓮なんです。嫁さん⋮藍苺がお姫様だったのは分 かるけど、その旦那の私はただの一般人なんですから。 ﹁私はもう一般人ですよ。客人として扱われなければ、貴女方の方 が地位が高い。﹂ そう、王宮に勤める者は総じて貴族の出だ。侍女よりもっとした の下女や下働きのものを除けば貴族だらけ。王妃付なら尚の事貴族 の地位も上だろう。 ﹁それに何より、貴女方が私を妖怪と知っても嫌な顔をせずに接し てくれました。そのお礼も含めてです。﹂ たとえ腹の底では妖怪を嫌っていたとしても、顔に出さずにいて くれたのは感謝している。それは本当だ。 妖怪に向けられる悪意ある眼差しは恐ろしかった。あの黄の国脱 752 出の時の私や母さんが妖怪と露見した時の周りの人間達の眼差しは ⋮⋮怖かった。嫁さんは気づいてなかったようだが、気付かなくて 正解だった。まるで汚物を見るような目だった⋮⋮ だから表面上でも普通に接してくれるのはありがたいのだ。 ﹁では、これで。﹂ もう一度お辞儀をして食堂へと入っていく。またもポカーンとし ている侍女の皆さんはハッと我にかえったのかこちらにお辞儀を返 してきた。 うん。やっぱり教育が行き届いているんだね。 そしてやって来ました⋮⋮晩餐に。重たい空気が立ち込めた、こ こは天外魔境か伏魔殿ですか? それとも、どこぞの瘴気立ち込め る地下に封じられた魔界ですかね? こんな空気で食事なんか出来ないよ? こんな雰囲気で世間話なんてふらないだろうと高をくくっていた 私。 ﹁して紅蓮、怪我の具合はどうだ?﹂ 753 見事に打ち砕いてくれました王、悪い方に。 ﹁妖怪なのでもうすでに治りました。﹂ 傷痕がまだ残っているなんて言いませんよ。マミィに報告される からね。 ﹁そうか、で? 詳細を教えてはくれないのか?﹂︵訳、お前の知 っていることを教えろ︶ はい来た、長くなる話題。詳細を教えろって言われても、私自身 そこまで詳しくは知らない。それに、メンド⋮⋮説明って苦手なん だよね。 ⋮⋮面倒って思った瞬間王妃様の背後から黒い靄が︱︱オーラと も言う︱︱︱が、立ち込めました。目の錯覚だと思いたいですね∼。 ﹁あなた、先ずは皆の自己紹介からでしょ?﹂ 思わぬ助け船⋮⋮王妃様ありがとう。今のうちに考えを纏めてお こう。 ハクリ ﹁ん、それもそうか。俺の事は先に名乗っていたが、一応もう一度 名乗っておこう。俺の名は狛李だ。︵今自己紹介しとかないと俺の 名前は忘れられる⋮︶﹂ そう言えば容姿を説明してなかったよね。白の国と付くから王族 の皆さん髪が白っぽいです。どっちかって言うと、銀色だけどね。 私の前世の髪の色の方が白だった。目は髪よりも銀色。王様は髪を 754 伸ばすのが通例なのかかなり長い髪だ。キリッとした目鼻立ちの中 々の強面なナイスガイ?だ。 威厳たっぷりに白の王狛李様が自己紹介した。それに続き⋮⋮ ギョクヨウ ﹁一応王妃をしています。玉葉です。良くある名前だから覚えやす いでしょ?﹂ 王妃様はマミィと同じで外見だけで年齢が判別できない。きっと あと何十年たっても変わらず若々しいのだろう。ミルクティーの様 な色の癖のない髪に水色の澄んだ目の理系?美人さん。 朗らかにそう言った王妃玉葉様。玉葉って名前はそんなにありふ れた名前なのか⋮⋮知らなかった。 ⋮⋮いやいや、それよりも一応王妃をしてますって⋮⋮まぁ、私 には関係のない話だね⋮触らぬ神に何とやらだし∼。 ハクト ﹁⋮俺は第一王子の狛斗だ。⋮⋮︵ギロッ︶﹂ 現在進行形で睨んでくるのは、第一王子で長男の狛斗王子だ。最 初ハクトって聞いたとき白い兎が跳び跳ねてるイメージがわいたの は秘密だ。 見た目は髪と目は父親似だけど、顔の作りは母親にの目付きの悪 い理系?美形⋮⋮もう少し眉間の皺を減らせばモテるよ。いや、も うモテているだろうね。 てか、何故に睨まれているのでしょうか? やっぱりあれか? 妹の婿のクセに晩飯に遅れてきたのが気に入らないのか? まぁ、 755 晩飯お預けでいたんだし、怒るのも無理ないかも。 ﹁︵ホントにコイツ男子なのか⋮?︶﹂↑︵見つめているだけ︶ スズヒナ ﹁お初にお目にかかります。一の姫、鈴雛です。﹂ 長女の一姫は両親の良いところをミックスしてある将来期待の美 人さん。私は何とも思わないけど、さぞさモテるだろうね。銀色に 見えるほどの薄い水色の目、と白に近い銀髪だ。どちらかと言うと 父親似⋮⋮兄の第一王子と同じく見られております。 ﹁︵睨まれてはいないけど、何か視線が刺さる⋮︶﹂ ﹁︵⋮本当に女子に見えますね⋮⋮︶﹂ 視線が四方から刺さる⋮⋮悪意がある訳じゃないみたいだけど、 正直勘弁してください。 ﹁そしてこの一番のチビは⋮﹂ 王様の膝の上に持ち上げられた小さな子供⋮⋮多分一番下の⋮ ハクジュ ﹁柏樹です義兄上。﹂ 元気一杯のオチビさんは王様をそのまま縮めた様な程似ている。 生き写し並みに似ている。けれど子供特有の明るさがあるのと強面 が抜けてるので王様に似ていると判断するのが一瞬遅れた。大雅と はまた違った元気のいい子供だ。 ﹁これ柏樹、はしゃぐのは良いですが行儀を忘れてはいけませんよ﹂ 756 鶴の一声ならぬ王妃様の一声でオチビさんは大人しくなったが、 キラッキラした眼差しでこちらを見ている。やめてくれ⋮そのキラ ッキラした顔で見ないでくれ⋮⋮眩しいから。 ﹁皆さまご丁寧にどうもありがとうございます。私は紅蓮にござい ます。以後お見知りおきを。﹂ こちらも名乗るとポカーンと⋮⋮何なんだろこのポカーンっての は流行ってンのか? みんなしてその顔をされると私がドコかで何か間違えたんじゃな いかと思ってしまうだろ。あれ?私の自己紹介どっか可笑しかった か? えっと、気を取り直して白の王家の皆さんの年齢でも見ていこう かね⋮⋮白の王様は大体30代前半辺り出はないだろうか。一番上 の王子がたしか14歳だったはず⋮⋮なら最低でもそれくらい。王 妃様もそれくらいなのだろう。もっと若く見えるけど⋮⋮。第一王 子が14歳で、一姫が二つ下の12歳で、一番のチビは⋮いや、第 二王子が、5歳のはずだ。そうだよね、5歳ならあれぐらいやんち ゃなんだよね⋮⋮。 前世含めて子供らしくない子供だッたな⋮⋮ごめんよお母さん⋮ 可愛いげのない子供で⋮。 レイシュン ﹁しっかりしているのね。柏樹と3歳程しか離れていないのに⋮。 麗春の躾が行き届いているのね⋮⋮﹂ いえいえ王妃様、確かにマミィの躾は厳しいですが、元が成人し 757 ているから多少の落ち着きもあるんですよ。子供なんて元気一杯で 良いのですよ。私みたいに落ち着いているのは不自然何ですからね。 シュリ ﹁子供の頃の朱李と麗春を思い出すな⋮。二人もドコか大人びてい た。﹂ そりゃ王様、二人とも当時の精神年齢二十歳越えてますからね。 大人びているんじゃなくて大人なんですよ中身が。初対面が何歳だ ったか知らないけど⋮⋮。 ﹁そうですね。紅蓮は父親似ですね。髪の色はお母さん似ですけど。 ﹂ ﹁うむ。いい具合に似たな。当時も初めは女子と間違えた程だ。﹂ 父さんに似ている私も女顔ですね、分かります。大きなお世話じ ゃ! あ、でもこの二人私の両親と顔馴染みなんだよね⋮⋮恥ずか しいエピソードとか知ってるなら是非とも教えてもらいたいな、父 さん限定で。え?母さんの話は聞かないのか? 命が惜しいから聞 かないよ。 ﹁黄の国でも女子に間違えられる事が多くありました。迫られたこ とも幾ばか⋮⋮お恥ずかしい。﹂ ﹁︵な、何だと! 誰だ!誰なんだ!俺の義息子に手を出したヤツ は!!︶﹂ ﹁︵まぁ、流石は朱李さんの子、魔性の色香でもあるのでしょうか ね?︶﹂ ﹁︵え? ⋮⋮男にか!男に迫られたのか!?︶﹂ ﹁︵あらまっ! これは美味しい話ですわ♪ 早速あの方にもお教 えしないと。腐腐腐腐⋮︶﹂ 758 ゾゾゾ⋮⋮何か嫌な予感がビシビシ伝わってくるんだけど⋮⋮何 だろ、何処かに腐女子でも居るのかな?って感覚だよ。あれだ、ミ ケが私を餌にして書いてたBL本のネタ探しの時の感覚だよ⋮⋮何 処だ何処に居るんだ!? ﹁それは大変でしたね⋮﹂ ﹁えぇまぁ⋮⋮母が撃退しておりましたから被害は有りませんでし たが⋮︵私自身も反撃したけどな︶﹂ 実際に有ったのはあの宰相のバカ息子の弟の方が2∼3回ちょっ かいを出してきた時だけなんだけど。そもそも後宮は男子禁制の場 所、入ってくるバカはあのバカ息子位だ。 それよりも煩かったのは暗殺者の方なんだけど⋮⋮まぁ、後半は マミィの仕掛けた罠に嵌まってお陀仏になってたから実害はない。 それよりも気になるのは、嫁さん⋮藍苺の処遇だ。ホントにこの 人達は冷遇してたのか?って事だ。どうもおかしい⋮⋮。だってさ、 筆頭侍女の啓璋さんはあの﹁仕事は徹底的に﹂って感じで厳しいと ころはあるとは思うけど、そんな事するようには思えない。 この王様一家も藍苺親子の立場を悪くしないために冷遇措置をし ていたとしても、嫁さんが里帰りするのを躊躇うほど嫌がる何て思 うのか? 何か有りそうなんだよね⋮⋮。頭良くないし、人の気持ちになっ て考えるのも正直得意ではない。 759 まぁ、頭が良くないなりの方法は有るけどね。 ﹁ところで、先の騒ぎの事を聞きたい。紅蓮、何があったのだ?﹂ あ、話が戻った⋮⋮ ﹁はい、全てを把握してはいませんが、私の知る事をお話いたしま す。あの時私は⋮⋮﹂ さっき起きた騒動の説明をした。勿論全てを。女官がブツブツ唱 えていた私が居なければという言葉など。彼女は何か私に怨みでも 有ったのか? だとしたら、黄の国の後宮での事だろう。接点はそれくらいしか ない。でも彼女に見覚えなんか無いんだけどな⋮⋮。 ﹁後宮で会ったことは無いのか?﹂ ﹁いえ、私は覚えが有りません。大雅王子の側に控えて居たのなら 彼方は覚えていても不思議では有りませんが⋮⋮、何せ大雅王子に 仕えている女官の数は多く私は把握してはいませんので。﹂ ﹁そんなに多いのですか?﹂ 珍しげに一姫が質問する。どれ位の数が普通かなんて知らないの で何と答えたらいいのか⋮⋮ ﹁何時も何人か入れ替わっていたと思いますよ。顔は覚えていませ んから何とも言えませんが、顔ぶれが違うのは分かりました。﹂ 760 ﹁そんなに連れているのか⋮⋮面倒だな﹂ その通りですよ第一王子。あんなのに付きまとわれたら目立ちま くるから大変だ。で、その後他の側室様達には嫌み言われるんだよ ⋮⋮迷惑だったわ∼ ﹁ふん∼⋮⋮どうやらあの国の女官は仕事をサボるのが普通のよう だな⋮⋮マトモなのは追い出されたか?﹂ あ、母さんが昔言ってたね﹁マトモな人間は、追い出されるか逃 げ出すかのどちらかだ﹂って。そうか、マトモな人は居なくなった からか⋮⋮今更気づいたよ。 ﹁ねぇねぇヾ︵・ω・︶﹂ いつの間にか私の横に歩いてきてた第二王子が私の袖を引っ張り ながら話して来た⋮⋮いつの間に⋮ ﹁ならどうやってご飯食べてたの?﹂ ﹁﹁﹁!!!﹂﹂﹂ 今の第二王子の一言で王様一家の皆さまが固まった。まるで雷に でも撃たれたかのように。ねぇ、やっぱい流行ってるの?リアクシ ョンするの。 ﹁そうだ、どうやって生きていたのだ!﹂ ﹁麗春は料理出来ないでしょ?どうやって食べていたの? まさか “あの”料理を食べたの!?﹂ ﹁え?麗春さんは料理できないの?初耳⋮じゃない!何だその待遇 761 は!﹂ ﹁何て事!冷遇されていた王子と冷遇されていたと勘違いしている 姫が結婚!!あの子に花嫁修業させておくんだったわ!抜かったわ ⋮⋮あ、でもこのシチュエーションも萌えるかしら⋮⋮不器用な姫 が一生懸命料理を作る⋮⋮いえ、それならいっそもっとお金を持た せればよかった!!﹂ ⋮⋮⋮何やら取り乱しております、はて⋮⋮何だろうこの状況は。 王様は髪を取り乱し発狂寸前、王妃様は青い顔で仰り、第一王子 は天然?を発症させ、一番キャラ崩壊している一姫は、多分腐の付 くお姫様なようで妄想と萌えと後悔をしているようです。まさに混 沌。 にしても、第一王子と面識有ったのマミィ⋮? ﹁︵早く終わりたい⋮⋮前菜もまだ来てないのに疲れた⋮⋮︶﹂ そう、まだ前菜も運ばれていないのだ。王家一家が取り乱し始め た辺りから隣部屋⋮⋮多分厨房から料理を運んで来る部屋かな⋮そ こからバタバタ動く人の気配が⋮⋮どうした? まさか取り乱した 王様一家に何かあったのかと思って兵でも呼びにいったのか? 私がヘンテコな方向に勘違いをしていると、その部屋から料理が 運ばれてきた。前菜にしては多い気が⋮⋮ 身なりの良い感じの初老の男性が王様に近付いて何やら耳打ちす るの。 ﹁⋮⋮う、うむ。すまん。さ、さて紅蓮。遅くなったが飯にしよう。 762 沢山食べろよ。﹂ 動揺から立ち直りぎみの王様が何とか話をもとにもとした。テー ブルに並べられた前菜は⋮⋮⋮ ﹁︵これ、前菜って量じゃない⋮︶﹂ 明らかに量が多い。テーブルを埋め尽くさん限りの量なんですが ⋮⋮え?これで前菜? それとも前菜とか主菜とか無くてこれ全部 で一食分?にしても多すぎます。私の周りだけ多すぎです。勿体な いのでそんなに要りません⋮⋮。 ﹁⋮⋮︵;・ω・︶﹂ ﹁どうした紅蓮?﹂ ﹁沢山食べて良いのよ﹂ ﹁沢山食べよろ。お前細いんだからな﹂ ﹁一杯食べて良いのよ!﹂ ﹁いっぱい食べるの!﹂ ﹁⋮⋮多すぎます。﹂ ﹁﹁﹁⋮⋮あ、Σ︵゜Д゜︶﹂﹂﹂ ﹁にゅ?︵。・x・︶﹂ この国はコント集団か何かですか? ﹁それもそうね⋮。でもこの際だから遠慮せず食べて? 残ったも のは後で皆が食べますから。﹂ 763 よく聞く﹁後でスタッフが美味しく頂きます﹂ですか。なら遠慮 せず⋮⋮あんまり食欲無いな⋮⋮食べるけと⋮勿体ないし。 落ち着きを漸く取り戻しマトモに戻った王様一家と色々差し障り の無い会話しながら遅くなった夕食を食べる。⋮⋮⋮嫁さん達ちゃ んと食べているかな? 王様一家の晩餐だけあって出てくるものはどれも高級品の食材ば かり⋮⋮これを買うのに家の家計はどのくらい火の車になるだろう ⋮⋮これなら我が家の一週間分浮くだろうな⋮⋮どれか売れないか? ⋮⋮我ながら守銭奴過ぎたな。パクって売らないよ? ﹁あまり食が進んでませんね?﹂ ﹁⋮すいません。家族が心配で⋮⋮あの!⋮⋮お願いが有るのです が⋮⋮﹂ ﹁何だ?聞けるものなら良いぞ。﹂ ホントはしたくないけど⋮⋮ね。 ﹁厨房と食材を少しお借り出来ないでしょうか? 厨房がダメなら 食材だけで良いので⋮﹂ おいそれとどこの馬の骨とも分からないガキに白の最重要の厨房 に入らせはしないだろう。 ﹁良いぞ。好きに使え。﹂ 764 ﹁⋮やはりだめですよ⋮⋮は?︵・。・︶﹂ ﹁良いぞ、と言った。好きに使え。﹂ ﹁私が言うのも何ですが、厨房は要と言っても良い場所です。私を 入れても良いのですか?﹂ そんな要の場所に誰でも入れれば毒なんか盛られたら終わりだ。 ⋮⋮そう言えば毒味っていつしているんだろう。 ﹁お前はそんなことしないさ。これは確信だ。王何てやっていると そんな事も大体見抜ける。﹂ らしい⋮⋮そういうもんなのか。 そんな話や嫁さんの進境報告など話し晩餐は終わった。その後に厨 房に行きちょっと食材を拝借した。厨房の感想は、流石は王宮の厨 房。備えてある食材や調味料が豊富でした。粗方用を済ませて厨房 を出る頃には10時を越えていた。夜更かしし過ぎた。 今日は遅いし眠いのでこのまま寝よう。いやぁ⋮何とも濃い一日 でしたよ。今日は良い夢見れそうにないな、色んな事が多過ぎて⋮⋮ 明日の昼頃に嫁さん達が来るので、朝御飯も別々⋮⋮無事を祈り ます嫁さん。 ﹁野菜は残さず食べたかな?﹂ 765 そんな事を思いながら眠りについた。ハァ⋮ホント疲れた⋮⋮ 766 晩餐は危険な香り?︵後書き︶ どうしてこうなった! すみません勝手にキャラが暴走しました。 コウレン えっと⋮あまり描写してませんが紅蓮は始終無表情と言うか、ポ ーカーフェイスのままです。時折愛想笑いもしていますが、表情は 家族以外には無表情が多いです。基本的に表情豊かなのは家族の前 だけです。 それと、若干人間恐怖症な気があります。若干ですよ。これは前 世も多少影響しているのではないかと思います。 767 夢って一日の情報を整理しているから見るらしい。︵前書き︶ お待たせしました。書き立てホヤホヤです。なので誤字脱字等有 るかもしれませんが、温かい目で見てください。 768 夢って一日の情報を整理しているから見るらしい。 目の前が眩しくて見えない。誰だろカーテン開けたヤツ⋮⋮ん? 目の前に誰かいる? ﹁もう∼⋮聞いてますか∼?ベル!こんな大事な日に寝惚けてるの ?シャキッとしないと⋮⋮折角の新な門出なんだから。折角のお化 粧がくずれないように∼⋮って、また寝ないでよ?﹂ マシンガントークをしているのはミケ? 何でミケが白の国に居 るんだろ? いや、ここは白の国なのか? ﹁ほぉら、水でも飲んでシャキッと⋮⋮﹂ ﹁別に眠くなんか無いよ。ただちょっとボーッとしてただけ⋮﹂ ﹁そお? 結婚式なんだからね?﹂ 結婚式?誰の?ミケの? てか、ミケ?少し化粧が濃くなったね ⋮⋮。あれ、ミケって化粧するんだね⋮⋮ん? 声が出ない⋮⋮さっき私が喋ってたのに今は喋れない!? ﹁でも良かったよ⋮ベルってば、一生独身かと思ったもの⋮あいつ を紹介して正解だったわね。今のあんたスゴく幸せそうだも⋮。あ ゛ぁぁぁ⋮私も結婚したい!⋮⋮でも相手居ない⋮⋮﹂ 私の結婚式? ⋮⋮⋮そうか、これは夢だ。現実じゃない。単な る夢。でも何だろ⋮⋮この光景何か懐かしい⋮? 769 場面がガラリと変わった。やっぱり夢なんだな⋮⋮。どうも場面 は教会⋮⋮アレだ、永遠を誓うアレだ。てか、相手は誰だ? ﹁汝、病めるときも⋮⋮﹂ でも誰な 神父らしき人がお馴染みの誓いの言葉を言っている。私が被って いるベールが邪魔で相手の顔が見えない⋮⋮誰だろ。 ﹁⋮⋮⋮誓いますか?﹂ ﹁﹁誓います﹂﹂ 誓った声は私と⋮⋮何だろ⋮聞いたことが⋮⋮ある? んだ⋮⋮ 場面はどんどん進みブーケトスまで進んでいた。お馴染みの花嫁 がブーケ投げるアレだ。人によって︵国か?︶違うもの投げるらし いけど私は詳しく知らない。体が私の言うことを効かないけどこれ って夢だからか? 爆笑映像とか映ってるホームビデオとかで悲惨な目に合うブーケ だが、今回は上手く投げることが出来たようだ。後を向いて投げる のって難しくないか?場所によってファンが回ってたり、天井低く てぶつかったり⋮⋮ないか? おや? ブーケ取ったのは一番後ろに居た女み見たい。こう言う 770 ブーケトスって取るきない人の方が取ったりするんだよね⋮⋮物語 ではの話だけど。 あら? ブーケ取った女性が母さんに似ている⋮⋮隣にいるのは 父さん?まさに夢の共演か?夢だけに⋮⋮一人で喋ってるの虚しい ⋮⋮嫁さんや夢の中だけでも出てきておくれ∼ ﹁投げすぎだろ⋮⋮﹂ ﹁全力で投げろって言ったのジンじゃないか∼﹂ ﹁いや、アレは投げ過ぎだ﹂ ジン⋮⋮懐かしい名前⋮⋮とても大切な⋮⋮ ⋮⋮それにしても、このジンって人⋮何か似てるんだよな⋮誰に だ? またも景色が変わる。やれやれ⋮夢だからってこんなに目まぐる しく変わると酔うって。変わった場所はごく普通の家⋮あ、何か走 ってでもいるのかバタバタ足音が聞こえてくる。 ﹁コラ、家の中で走り回らない!﹂ ﹁え∼⋮だって外雨だも∼ん。﹂ ﹁走りたい気持ちもわかるけど⋮⋮⋮でもダメ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮?﹂ 771 子供?⋮⋮私の!? マジかよ⋮ そこで意識が遠くなる⋮⋮多分夢から覚めるんだろう。現実で朝 にでもなったか、あるいは何かあったか⋮⋮ ﹃︵主様、何者かが部屋の前に来ております︶﹄ ﹁ん?﹂ パチリ、と目を覚ますと兎天の声がした。どうやら何者かが部屋 の前に来ていてその気配で起きたらしい。どうも転生してからこの 体は気配に敏感で妖怪として目覚める前にも暗殺者や侵入者何かの 気配で起きることが多々あった。意外に繊細な神経なのか。それと もチート過ぎるのか⋮⋮ま、今はどうでもいいか。 ﹁︵兎天、相手の数は?﹂ ﹃︵3人です﹄ やれやれ⋮⋮ここに来ても侵入者に悩まされるのか⋮⋮、さて誰 772 かな? ******* コウレン 紅蓮が居るであろう部屋の前まで来た。ここまで誰にも見つかっ ては居ないだろう⋮⋮多分。何よりも早く紅蓮に会わなければ! ﹁兄上⋮大丈夫でしょうか? こんな夜更けに⋮﹂ ﹁今しかないだろ。明日には帰るかも知れないんだ。﹂ ﹁けど確かに気が引けるな⋮﹂ そんな事言っていられない。もうあの女にバレずに紅蓮に会うに はこれしかないのだ。白の国側に知られてもこの際良い。 ﹁鍵は掛かっているな⋮⋮﹂ ﹁当たり前ですよ。他国に来て不用心なのはあの親子くらいのもの ですって。﹂ ﹁確かにそうだな⋮⋮兄上どうする?﹂ 773 鍵は仕方ないので術でこじ開けることにした。すまない白の王、 紅蓮。 鍵をこじ開け部屋の中に入ると、客室にしては地味な調度品が並 んでいた。だが、目を凝らして見ると何れも高級な物だと分かる。 そう言えば紅蓮達が去ったあと、彼等が使っていた部屋に行ってみ たのだが、とても側室が居るような部屋ではなかった。アレは狭す ぎる。 暗い中紅蓮を探していると寝台で眠っているだろう紅蓮を見つけ る。厳密には布団が膨らんでいるのでそうだと判断しただけだか。 弟たちに目配せして寝台に近付く。やはり寝台に寝ていたのは紅 蓮だった。弟たちが近付いてくるのを見計らって紅蓮に手をかけた。 勿論揺すって起こすためにだ。 手を掛けた瞬間何が起こったか分からなかった。気がついたら私 は小刀を首に据えられ下敷きになっていた。私を見下ろすのは闇に 浮かぶ紅の双眼であった⋮⋮。 ﹁何者だ。誰の許しを得てこの部屋に入ってきた。﹂ やはり私たちの予想は当たっていた。紅蓮は⋮⋮私たちの国を救 えるほどの力を持っているのではないかと⋮⋮。 774 ******* 寝込みを襲われたので返り討ちにしようと護身用の小刀で応戦し たら義兄上だった︵黄の国の方︶。 なんすかね⋮⋮。他に居た二人の義兄上達も周りにいるがその二 人は兎天に足止めされているだろう。 ﹁義兄上⋮⋮夜這いなら他に行ってください。﹂ ﹁ち、違うぞ紅蓮!﹂ 素早く否定した一番上の兄は必死に誤解を解こうとしているが、 そんなの知ったこっちゃねぇ⋮ ﹁それも3人で夜這いなど⋮⋮いけませんよ兄上達。相手に了承は 取っているんですか?他国でその様なことをするとは⋮⋮﹂ ﹁だから違うと言っているだろ!﹂ 額に筋でも浮かぶ程顔を真っ赤にしている。だが、どんなに怒ろ うとも今の状態じゃただ笑えるだけだ。 ﹁ふぅ⋮⋮それで? 何の用です?こんな夜更けに⋮﹂ 懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。どうやら深夜1時 775 を回っていた。やれやれ┘︵−。ー;︶┐ チラリと他の二人の兄上達を見ると⋮⋮ ﹁兄上⋮⋮何だか白い化け物がウネウネ動いているんですけど⋮⋮﹂ ﹁ん゛∼∼ん゛ーーーー!!﹂ ﹁ん゛ーーーー!!﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹃主様が蹴った布団を被ってしまったのですよ﹄ ﹁あ、そうかぁ⋮⋮で?ご用件は何ですか? こんな夜更けに起き ていると美容に悪いんですよ⋮⋮肌が荒れたらどうしてくれるんで すか?﹂ ﹁そこなのか?言うとこはそこなのか?﹂ ﹁﹁ん゛ーーーー!!﹂﹂ ライキ 何だろ、晩餐も混沌としていたけど、これも何だか混沌としてな いか? キサイ キシュン 最初から捕縛していたので大人しかった一番上の兄上雷輝こと、 ライちゃん。二番目の輝采ことサイちゃんと三番目の輝駿ことシュ ンちゃん二人はいきなり布団が飛んできたからかプチパニックにな っていたので殴って︵勿論手加減しましたよ?︶落ち着きを取り戻 776 してもらった。そして只今兄上達は正座中です。 ﹁で? どうかしたんですか?﹂ ﹁⋮⋮紅蓮!力を貸してくれ!﹂ ﹁嫌です。﹂ ﹁このところ黄の国では不穏な⋮⋮え?﹂ ﹁紅蓮!事は急を要するんだ!﹂ ﹁知りません。お帰りください。﹂ 面倒ごとは要らん。私の行動理由は嫁さんの死亡フラグのへし折 りだ。他の事に時間を割く程余裕がない。それにしても⋮⋮ ﹁今ごろ気づいたのか⋮⋮﹂ ﹁紅蓮?﹂ ﹁お前は知っていたのか!?﹂ ﹁何で今まで黙っていた!﹂ ﹁アンタ等が何に焦っているのか何て知らないが、あの国は元から 可笑しかっただろ。それを今更言われてもねぇ⋮⋮﹂ ﹁元から?﹂ ﹁可笑しいのはここ最近だ﹂ ﹁紅蓮、教えてくれ!頼む⋮⋮﹂ 全く、手のかかる兄上達だよ。まぁ、気付かないのも無理ないか。 777 それが当たり前だったのだから。 ﹁貴族達の腐敗、陛下の精神状態に物価の急激な上昇⋮⋮他にも国 には変化はあったんじゃないの?﹂ ﹁そんな事は誰も⋮﹂ ﹁誰も言いやしない。何せ自分に都合の良いことばかりアンタ等に 教えてきたんだから⋮⋮腐った貴族共が教える訳ないだろ。﹂ 王子というのは、いや、王族というのは滅多に城から出ない。だ から下々の事など知らずに要ることなどザラだ。例外も有るには有 るだろうが、それは異例だろう。 ﹁だけど、白の国に来る途中で物乞いがやけに多かったのはその所 為か⋮?﹂ ﹁それだけじゃないぞシュンちゃん。﹂ ﹁﹁﹁シュンちゃん!?﹂﹂﹂ おや、つい本音が出た。まぁ、良いや。さっきからもう猫被って ないし。 ﹁物乞いはまだ良い方だ。白の国に入国する時に見なかった? 難 民が大勢白の国に押し掛けている。このままでは黄の国は自滅する ね。﹂ ﹁!! じ自滅⋮⋮?﹂ ﹁⋮⋮﹂ 778 ﹁私たちに何が出来るのでしょう⋮⋮﹂ おやおや⋮⋮そんなのとは起こらないとでも思っていたのか⋮⋮。 次世代の王族の教育がなってないな。予想外な事が起きても対処出 来るように教育しないとダメだろうに。 ﹁私はそんなに頭は良くない。けど、これは誰でも分かることだ。 ﹁黄の国はこのままでは民草が居なくなる。そうなれば自滅するだ けだ。﹂これが近隣諸国の見解だろうって事は皆知っている。﹂ ﹁そんなにか?﹂ 無能な王が立て続けに即位したもんだから国は荒れに荒れている。 あ、そうそう。あのKY陛下の父親も王としてはダメダメだったっ てさ。これ結構有名な話なんだって。 ﹁気付かない方が珍しい。青の国の王は﹁手を下さなくても放って おけば勝手に自滅する﹂って言ってるし、赤の国は﹁知らん、勝手 に滅びろ﹂何て溢してたって噂だよ。﹂ これはホント。実際街に降りたことは無いけど、兎天に集めても らった情報にあった。やはり王宮というのは情報の宝庫だ。 ﹁私よりも地位も血筋も有るお三方がなにもできないのに私に何が 出来るんだ?﹂ ﹁地位も血筋も有っても意味はない。力が必要なんだ!﹂ はぁ⋮⋮。バカの一つ覚えが⋮⋮ 779 ﹁力で解決できるなら、白の国に助力願いなさい。私に頼むなどお 門違いも甚だしい。﹂ ﹁自国の事に他国を干渉させるのは⋮!﹂ ﹁これは内密にせねばならない。﹂ ﹁紅蓮頼みます。力を貸してください。﹂ ・・ どうしたもんか⋮。あの兄上達が土下座している。あの兄上達が、 だ。面倒ごとは要らないんだってば。 ﹁私はもう黄の国の者ではないんだけど?⋮⋮ふぅ⋮⋮話だけは聞 こうか⋮⋮﹂ ﹁紅蓮!!﹂ 勘違いされたくないので釘を打っておく。 ﹁勘違いしないでください。私は協力するとは言っていません。嘘 を語ってみなさい⋮⋮黄の国よりも兄上達が先に亡びますよ﹂ ﹁⋮⋮分かった︵紅蓮、本当に容赦ないな︶﹂ ﹁は、はい︵頭良くないと言っている割りにはそうは思えない⋮⋮︶ ﹂ ﹁あ、ああ︵てか、紅蓮言葉使いが荒れてなかったか?︶﹂ やけに素直だな⋮⋮あ、そうか。私は有ることに気付いた。そう だよ、コイツらまだ年端もいかないガキじゃないか。 ﹁︵兄上達もイガグリもまだ十やそこらの子供なんだよな⋮⋮今の 780 私と同じ位の見た目だから勘違いしていたなぁ⋮⋮⋮︶﹂ そうだよ、コイツらまだまだ子供なんだよな。そりゃ、王子とし て教育されていたから見た目よりも大人びている言動でも実際は母 親に甘えて⋮⋮いたいのかは知らないが、何も出来ない子供何だよ な⋮ ﹁︵それなら多少は協力するか?⋮⋮でも嫁さんに影響が有るなら ⋮⋮︶﹂ ﹁紅蓮?﹂ ﹁あぁ、話を続けて﹂ それなら、イガグリにああ言ったのは不味かったかな⋮⋮でもア イツとは極力関わりたくないしな⋮ あ゛ぁ、もう。基本私は何かに頭使うのは得意じゃないんだっ てば! どうすりゃいいんだよ⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮と、言う訳なんだ。﹂ ライちゃんの話によるとこうだ。 曰く、 ・陛下並びに、兄上達以外の王族︵直系︶が謎の病に倒れ今も床 に臥せっている。 781 ・しかも、王族では無い者も謎の病に倒れその半数が死亡してい るという。城下の街にしかその病は広がっていない。また、病に倒 れ者は全てが子供︵15歳未満 ・兄上達は一度病に倒れだが、イガグリの謎の力︵詳細不明︶に より回復。しかしイガグリの謎の力では他の者を助けることは出来 ないらしい。︵側室舞子談︶ ・側室舞子が何らかの事を知っているらしい。それによりイガグ リに王子として株を上げる為に動いているのでは︵ライちゃん談︶ ・側室迷子曰く、呪詛による病と言われている︵本人は断定して いる︶ ・呪詛を掛けたと疑いをかけられ兄上達の母親達は幽閉されひど い扱いを受けている︵衣食住はしっかり確保されてはいるが、環境 が悪くていつ病気になるとも分からないらしい︶ ・回復した兄上達とイガグリを伴い国内は危ないと言いいきなり 白の国に誘拐した。︵サイちゃん談︶勿論陛下の許可なく⋮⋮︵陛 下はここ一ヶ月程前から目を覚まさなくなっている⋮︶ ・そして、一週間前に白の国に到着。今に至る⋮⋮ ﹁成る程⋮⋮で? アンタ等は何がしたいの?﹂ ﹁母親達の無実を証明する。﹂ 無実ね⋮⋮。でもねぇ、アンタらの母親達は私に何度も暗殺者を 782 送り込んできたんだけどね⋮⋮私に助ける義理なんかどこに有るん だか。 まぁ、それでも、側室舞子の事に気づいたのはエライと思うよ。 何せアンタ等の父親KY陛下は気が付いてないからね⋮⋮それとも 気付かぬフリでもしているのか⋮? ﹁その心意気は大変結構⋮⋮けど、それは私にどんなに義理があっ て頼んでいるの? こちとら7年間暗殺者送り込まれていたんだけ ど?﹂ ﹁⋮⋮それは﹂ ﹁後継者争いには付き物だ。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 確かにそうだな。付き物だろうさ。けどね⋮⋮ ﹁それは私に何の関係が有るんだ。巻き込まれるこっちの見にもな ってみろ。何度も殺されかけた。母さんが居なけりゃとっくに死ん でた。﹂ まぁ、こっちも中身は大人だ。割りきってはいたけど、それは仕 方なく、半ば諦めだ。 ﹁すまん⋮⋮﹂ ﹁謝るな。アンタ等に謝られたところで何も変わらない。お前らが 送り込んで来た刺客共を始末した数が無くなる訳でもない。アンタ 等の母親達がした事だろうが、それを知っていた時点で同罪だ。﹂ 783 勿論、守ろうとして手を下したのは母さんだが、それを知ってい る私も同罪だ。直接手を下さなくても私の手は血塗れているんだ。 ﹁まぁ、この話は後でいいか。て? 具体的にどうしたいんだ?﹂ ﹁⋮⋮具体的に⋮⋮﹂ ﹁どうすれば母親達の無罪を証明できるのだろう⋮﹂ ﹁⋮⋮良い案がないんだ。﹂ ﹁んー⋮⋮、ちょっとまて、アンタ等は何が理由で側室舞子を疑っ ているんだ?証拠は?﹂ ﹁﹁﹁聞いたんだ。﹂﹂﹂ 声を揃えて言った。こんな時は仲がいいんだね。 ﹁何を?﹂ ﹁側室舞子の独り言だ。﹂ ﹁あまりに大きい独り言だったので⋮﹂ ﹁隣の部屋から筒抜けだった。﹂ ﹁﹁﹁何より紅蓮を召喚したこと自体が可笑しい⋮⋮﹂﹂﹂ ふぅん⋮⋮まぁ、それもそうだな⋮⋮。 ・・ ﹁そこまで言うなら、私の母に言えばいい。私よりも力になってく れるかも、かも知れない。﹂ 784 側室舞子の事は母さんがケリを着けると言っていたんだから私が 首を突っ込むよりも良いだろう。母さんの獲物を横取りしたくない し、何より面倒だしね。 にしても、城下の街でも呪詛が蔓延はしていなくとも影響がある なんて⋮⋮あ、そうか。 ﹁︵あのKY陛下のヤツ城下の女にも手を出していたんだった⋮⋮︶ ﹂ 病に倒れた者は皆私生児だろう。全く、子供の身にもなれよ。 ﹁何人亡くなった?その病で。﹂ ﹁⋮ん⋮約20人は亡くなった。大半が幼児だった。大体⋮三歳前 後の年齢だ。﹂ 成る程⋮⋮。体力も無い子供なら一溜まりも無いだろうね。嫁さ んも意識が飛ぶほどだ、熱も酷かった⋮⋮。何てこった、側室舞子 は殺した者も知らないのだろうか? そう言えば、母さんが側室舞子に陛下 ヤツ浮気してるから城下に子供がいっぱい居るとか言ってたな⋮⋮ あれってこの呪詛事件が起こることを知っていて発言したのかな⋮ だとしたら、側室舞子は殺した事を知っている? それとも、直接手を下していないと高を括っている? ならそれ こそ達が悪いね。 785 はぁ⋮⋮この頃暗い話題ばかりだ。もっと明るい話題とか無いの かな? 例えば、希少な可愛い動物の赤ちゃんが生まれた∼とか。 あぁ、こんな時は嫁さんに会いたい⋮⋮。明日になれば会えるん だけど、正直ここには来てほしくない。何か絶対に起きそうだから。 てか、母さんが来る時点で何か起こす、母さんが。 ﹁紅蓮の母上が来るのか?﹂ ﹁迎えには来るんじゃない?﹂ ﹁なぁ紅蓮⋮⋮﹂ ﹁何か?﹂ ﹁お前は⋮⋮その﹂ ﹁猫を被っていたのですか?﹂ ﹁あぁ、⋮⋮当たり前です。波風立てたくなかったので⋮⋮でも今 はどうでもいいので、アンタ等に敬語何か使いません。﹂ 使ってるって?これは癖だよ。 786 夢って一日の情報を整理しているから見るらしい。︵後書き︶ ここまで読んだ方なら﹃彼﹄が誰か分かるでしょう。あの人です。 でも、紅蓮さんとっても鈍いので⋮⋮いつ気付くかな? 変なと ころで鈍感なんですよ∼。 787 消えた記憶⋮⋮︵前書き︶ いつもお読み頂きありがとうございます。 788 消えた記憶⋮⋮ コウレン ドモドモ⋮⋮兄上達に囲まれております。ちょっとばかし不機嫌 な紅蓮で御座います。 前回のあらすじ、兄上達が夜這いを仕掛けてきたので返り討ち、 事情を聞いたら力を貸してくれとな⋮⋮知ったことか!⋮⋮と思い ながらも﹁コイツら年端もいかないガキ何だよな⋮﹂と思いながら 話を聞く私であった。以上。 大体こんなもんだ。ちぃとばかし端折り過ぎたがまぁ、いいか。 ﹁それで、いつまでここに居るつもりなんです。邪魔です、睡眠妨 害です。さっさとどっか行きやがれ。﹂ ﹁紅蓮⋮ドンドン言葉使いが荒れてないか?﹂ ﹁これが地です。分かったな、とっとと帰れよ。﹂ ﹁⋮⋮正直帰りたくないんだ。﹂ ﹁﹁コクコク⋮﹂﹂ はぁ⋮⋮また厄介ごとの香りが⋮⋮ ﹁一応聞くけど、何で?﹂ ﹁大雅に着いている女官達が少しな⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮嫌がらせを受けていると?﹂ 789 ﹁⋮⋮⋮﹂ あぁ、⋮まぁ、そうだろうね。駄目な方向で大雅主上主義だから ねあの女官達は。贔屓の枠を軽く飛び越えてるからね⋮⋮。それに 兄上達の盾に成る母親や味方の女官達も居ない。格好の餌食だわな。 キシュン ﹁まぁ、当たり前の事態だね。因果応報とはこの事か⋮﹂ キサイ ﹁私などはまだ良い⋮⋮輝采や輝駿はあからさまに嫌がらせを受け ライキ ている。﹂ ﹁いえ、雷輝兄上の方が陰湿な嫌がらせを受けています。﹂ ﹁俺等はまだ良い方さ﹂ なにこの麗しき兄弟愛⋮またの名を傷の舐め愛⋮⋮。お互いの不 幸談義何か聞きたかないよ。 ﹁だからといって此処に居られるのも迷惑です⋮⋮と、言いたいん どけどね⋮⋮。後味悪いし∼。﹂ 追い出すのは簡単だけどね。そうすると飯が不味くなる。それで なくても晩餐に出された料理は味がしなかった⋮⋮只今絶賛嫁さん シックだ。今なら嫁さんに抱きついて充電したいよ。ホントにはし ないけどさ。嫌われるから。 ﹁とは言え、同じ寝台で寝たくはないし⋮⋮﹂ ﹁私達は床で寝ても良い!﹂ ﹁お願いします、彼処には戻りたくないのです。﹂ ﹁頼む紅蓮!﹂ 790 とか言われてもねぇ⋮。仮にも王子を床に寝かせるなんてね⋮。 事が知れれば一大事⋮⋮駄目だな。 ﹁兄上達はどうぞこの寝台で寝てください。私は床で寝ますから。﹂ ﹁だ、駄目だ!﹂ ﹁私達が床で寝る。﹂ ﹁紅蓮はこの部屋の主だろ。﹂ 仮のね。でも宇座無座王子達を床で寝させる訳にもいかないのだ よ。シャクだけど。⋮⋮でも、そうだね⋮⋮ ﹁そうです。私が白の王よりこの部屋を賜りました︵仮のね︶なの で、この部屋の主は今は私です。従いたくないのなら出ていってく ださい。﹂ 最終手段﹁言うこと聞かないなら出ていって♪﹂を発動。効果は 抜群だ! そんな感じで黙った兄上達をベットに放り込んで私は部 屋の隅の壁に背中を預けた。 ﹁︵全く世話のかかる⋮⋮子供は苦手だ︶﹂ 極力関わりたくない。苦手意識って言うか⋮何だろ。うん。分か らん。まぁいいでしょ。 まじな 今の季節に何も掛けずに寝るのは少々寒いかと思ったが、どうも この部屋には﹁気温固定﹂の呪いでも掛けているのか暖かいままだ。 暖房要らずで環境に良いな⋮⋮。 791 明日には身体中痛くなっているだろうが、そこはチートスペック な体、問題なく眠れます。 ﹁紅蓮⋮⋮本当に床で寝るのか?﹂ ﹁静にしてください。眠れません。それにその寝台は柔らかすぎて 逆に寝づらいのも有りますし⋮⋮寝れればどこでも良いんです。実 際、多くの者達は固い地面に寝ることだって有りますよ。﹂ コレはホントにある。家がない、泊まるところが無いなんてザラ にあるらしい。旅人はそんなの日常茶飯事。それに貧しい家庭は地 べたに藁を敷いて上にシーツを掛けて簡易ベットがあるが、そんな のはマシだと思うような場所で寝ている人も多い。難民とかは手厚 い保護を受けられれば良いが⋮⋮国によっては配給が有るだけマシ 何て扱いをされることもある。だから恵まれた環境に日々感謝しな よ⋮⋮って寝てる? キュウキ 兄上達が居なければ九尾か窮奇の姿になって寝れるのに⋮⋮獣の 姿で寝れば多少は楽なんだが⋮⋮まぁ、居なければそもそもベット を占領されずに済んでいるんだけど。 余程疲れていたのか兄上達はスヤスヤ眠り始めていた。疲れも貯 まっていたのだろうね。知らない土地に無理矢理連れてこられたの に、女官達の仕打ちはあるしで⋮⋮盾もなく3人で支えあいながら 今日まで過ごしてきたんだろうか? 同情はするけど、だからといって共感はしない。自業自得とまで はいかずとも⋮⋮ね。 792 命を救うためにやって来たことは誉められる事ではない。結果的 に救えはしたが、一歩間違えば冤罪何かで死んでいたよ、追放され た王子や姫たち、それに母親の側室たちもね。 今でも悲惨な目にあっている者も居んだろう。何せ後宮から追放 されるのは、貴族にとって屈辱的な事だからね。 まぁ、私に出来ることは何も無いんだけどさ⋮⋮ ﹁散々な1日だった⋮⋮もう日付跨いでるけどさ。﹂ ﹃お疲れ様です主様。﹄ 次目を覚ましたら今度こそ朝だろう⋮⋮後何時間眠れるのだろう か?あ、そうだ。 ﹁見ているのなら、兄上達の事を報告してくださいね。私は誘拐犯 にはなりたくないで。お願いしますよ。﹂ ウテン 気配を必死に隠している屋根裏の間者に伝えておく。きっと白の 王に報告してくれるだろう。ホントは直接兎天にでもしてもらうの が筋かも知れないけど、余さまの城を、それも王の寝室においそれ と入らせる訳にもいかないでしょ? そんな感じで2度目の眠りについた。今度また起こしたヤツ⋮⋮ 絞める! 793 ******** 此処は白の王の寝室。そこには王と王妃が間者の報告を聞いてい た。 ﹁そうか、紅蓮の所に⋮⋮な。分かった、お前達は引き続き護衛を ⋮⋮ん何だ?⋮⋮⋮あぁ、そうだな、掛け布団でも掛けてやりたい ところだが、気配に敏感だ、そのままにしておく方が良いだろう。﹂ 黄の国の王子三人が部屋から抜け出したと報告を受けて多少は警 戒したものの⋮どうやら紅蓮に会いに行ったようで安心した。一先 ずは。 ﹁陛下⋮あの王子達は側室舞子の連れてきた女官達の待遇を嫌がっ ていたわ。それに何か思うこともあったのかも知れなくて、紅蓮の 所に行ったのよ。﹂ ﹁それは何となく予想はしていた。が、内容がな⋮⋮﹂ ﹁紅蓮はあなたに言えと突っぱねたわね。でも結局話を聞いてあげ るのは、両親と同じでお人好しね。何だか将来が心配だわ⋮⋮何か に巻き込まれそうで。﹂ ﹁まぁ、彼方から何か頼み事があるのなら聞いてやらない訳ではな いが、それよりも⋮⋮﹂ 794 ﹁ええ、それよりも⋮⋮﹂ ﹁﹁まさか国一番の間者の気配に気付くなんて⋮﹂﹂ ・・ ﹁流石はあの二人の子供ね。﹂ ﹁そうだな⋮⋮明日、俺は死ぬかもしれんな⋮⋮﹂ ﹁そうね、朱李さんならまだ話を聞いてくれるでしょうが、麗春さ んは怒り心頭でしょうね∼。﹂ やれやれ、明日は嵐が来そうだ⋮いや、確実に来るな。 ********* 795 グッド⋮じゃないけど、モーニング∼。床で寝るのはやっぱりキ ツいです。そんな事はお構い無し、まぁ、構うなって言ったのは私 なんだけど⋮兄上達は未だベットでスヤスヤ眠っている。落書きで もしたいが、しないでおこう。 さて、朝の日課になっているストレッチでもしますかね。継続は 力なり、の精神で毎日ストレッチをしている。体がまだ子供なので キツめのトレーニングはそんなにしない。代わりに柔軟性を損なわ ないために欠かさずしているのだ。嫁さんは体が堅いのか開脚が苦 手だ。子供の内からアレは大変だからと口説き伏せてストレッチさ せています。 体が堅いと怪我しやすいからね。 ﹁さてと、日課終わり。おはよう兎天。﹂ ﹃ふぇ?⋮おはようごじゃいます⋮﹄ まだ寝惚けている兎天をそっとしといて懐から懐中時計を取りだ し時間を確認。 ﹁5時半か⋮﹂ いつもなら三十分前に起きるのだが、夕べは要らぬ訪問者が来た ので寝坊した。いつも早いのだから別に構わないのだが。どうも私 は日の出とともに起きてしまう癖があるのだ。嫁さんに言わせれば ﹁それは最早特技だろ﹂らしい。確かにそうだね。 796 さて⋮何をして暇を潰そうか⋮⋮。いつもの朝は朝御飯の仕度と か⋮⋮最近は食べ物の試作品何か作ってたんだけどな⋮⋮。此処で は何にも出来ない。ただ暇なだけ。 少し散歩でもしようかな。王宮の庭何て日頃見れないし、何より 今作りたいモノに良いアイディアが浮かぶかもしれないし⋮ね。 ﹁うん。そうしよう。﹂ 思い立ったが吉日。確かに安全上無闇に外に出るもんじゃない。 けど、間者が着いているんだし、暇だし⋮ねぇ? 大丈夫、ちゃんと言っていくから。間者人に。 ﹁庭を散歩するから。着いてくるなら兄上達にも護衛つけてよ?﹂ 聞いてるか何て知ったこっちゃねぇ。勝手に行きますご免なさい ⋮。いや、謝んなら行くなよって思うでしょ? でもね⋮⋮ ﹁暇で暇でしょうがないんだもん。暇がどれだけ辛いか⋮⋮﹂ 何を隠そう黄の国の後宮では何もすることが無かった。なので何 か出来ること⋮所謂暇潰しを日々探していたのだ。まぁ、やらなけ ればいけないことはいっぱい有ったよ。身を守る術とか身に付けた り⋮⋮。 でも、そんな事を延々とやり続けても進歩しないって思うんだよ 私は。息抜きついでに後宮の抜け穴見付けた時は焦った⋮⋮。何で あんな小さな部屋に脱出用の抜け道なんか有ったんだろ⋮⋮。 797 あぁ⋮⋮よくある﹁冷遇された側室の部屋は元々物置で、その物 置は脱出用の抜け穴を隠すためのフェイク﹂何て事でもあったのか もね。もう関係ないけどさ。 ﹁おー⋮⋮流石は王宮の庭。スゴいとしか言葉が出ない。﹂ スゴすぎて言葉が出ない何てことあるんだね。私の拙い表現力で は言い表せない⋮⋮無理して例えるなら⋮⋮何だろ、常春の庭?な んじゃそら⋮自分でも何言ってるか分からん。それくらいスゴいん だよ。 ﹁︵嫁さんにも見せたいな⋮⋮︶﹂ 今日の昼辺りに来るって言ってたけど、この庭を見る暇が果たし てあるのか⋮⋮。 私は心配だ。父さん母さんの事はあまり心配してない。だって二 人ともチートで強いもの。心配する事が素直に出来ない。それに比 べて嫁さんは私よりも実戦なれしていない。心配でならない。ポチ と奏がついているから心配は減るけど、やっぱり心配です。 ﹁うわぁ⋮⋮綺麗な花だな⋮桃かな?﹂ 大きな木に沢山の薄桃色の花が咲いている。桜に似ているけど、 しだ やっぱり違う。久し振りに桜を見たいなぁ。他にも色いな木々が花 をつけている。桃に梅、杏に垂れ桃⋮⋮色も其々違う。だが、やは り桜は見当たらない。 この世界には残念なことに桜が存在しない。桃や芝桜はあるのに、 798 桜自体が無いなんて⋮⋮ちょっとショックだったりする。花で桜が 一番好きなんだけどな⋮⋮ ﹁似ているけど⋮⋮少し違う。﹂ 実際存在しないのかは分からない。何処かに自生しているかも知 れないけど、誰も桜を見たことが無い。花が咲いている所を見てい ないだけかも知れないけどさ。 いつか自分で桜を見つけてみたい⋮⋮。何てね。 ﹁⋮⋮⋮ホント、手入れが行き届いているな⋮。﹂ お母さん︵前世の︶はよく庭に花を植えていたなぁ⋮それをアイ ツは無惨に抜いたりしてたんだ⋮⋮。ってそんな事は今思い出さな くていい。折角の素敵な庭何だから。 ﹁ん?﹂ 何か嫌な気配が⋮⋮何か最近感じた事あるヤツだな⋮⋮ ﹁ハァ⋮⋮﹂ 居ましたよ、ヤツが。誰かって?名前なんだっけ?えーっと⋮⋮ ・・ ロリコン変態⋮⋮しか思い出せない⋮⋮あはははは。そう、嫁さん の伯父さんだよ。運悪く私の私の嫁さんに手出そうと したが為にメデタク不能になってしまった︵こいつに対してだけだ よそんな感情を持ってるの。結構デリケートな問題だよね。︶ヤツ。 三十路は当に超えている顔だけはダンディーなおっさんだ。全く、 799 この世界は美形が多いんだ⋮⋮。まぁ、私が女でも好みじゃないけ ど。 不謹慎?私は家族の誰よりも冷酷ですけど何か? ﹁む、何奴﹂ 何ともどんよーりな空気を纏っている変態こ声を掛けてみる。か なり精神的に参ってるのかも知れないし⋮⋮自分でやっておいて無 責任だ?そんなの知ってます。嫁さんの苦痛が少しでも和らいだら ⋮何て思いもあるけど、一番は再犯を防ぐためだ。反省してるなら 解けるヒントをあげようと思っていたんだよね。まぁ、白の王直々 に頼まれたことでもあるんだけどね。え?どっちが? 勿論両方だ よ。不能にするのと、昨日の晩餐でヒントをあげてくれって言われ ちゃったんだよ。 けれど、私の目から見て反省しているなら⋮ね。 ﹁お久し振りです。いかがお過ごしですか? まぁ、見れば何とな く予想はつきますけど。﹂ ﹁⋮何をするにも意欲が湧かん⋮⋮一体どうなっているんだ⋮?﹂ まぁ、去勢されれば大人しくはなるわな。実際は切ってないけど、 同じ事だろう。 ﹁性に対する欲を無くすと人格が大人しく、或いは鬱になるとも言 われておりますね。﹂ 800 ﹁⋮⋮お前はそれを知っていて⋮⋮﹂ ﹁えぇ。知っていましたよ、勿論。﹂ この変態にはKY陛下に投与した減欲剤とは少し違う効果を着け たのだ。KY陛下には﹁本気で相手を愛し思いやる心﹂を持った時。 この変態には﹁異性に対しての思いやりの心﹂を持った時に解ける ようにしている。原理は解らないが、ちゃんと対策もしてある。も しもその条件で解けない場合は私が許可したら解けるようにしてあ る。KY陛下の場合は母さんに執行権がある。 ﹁あぁ、後多少太りますね。一つの大事な欲が押さえられるわけで すから。食欲に片寄るんですよ。﹂ 余談だけど、食欲と性欲は密接な繋がりがあるとか⋮⋮詳しくは 知らん。 ﹁⋮⋮道理で食欲が増した訳だ。﹂ ﹁反省されていますか?﹂ まぁ、この問いで本音を言うか何て解らないが、一応聞いてみる。 白の王に頼まれたんだし、無下には出来ない。 ﹁反省か⋮⋮後悔はしていない。﹂ ﹁⋮⋮我が妻に対してのあの態度についてお聞きしても?﹂ ﹁態度?⋮⋮あぁ、そうだな。アレは今思えばやりすぎであったな。 だが、止められなかったのだ。﹂ 801 んー⋮⋮反省しているのか今一分からん。だが、あの時よりも大 人しく、自分で考えているのだけは変わっているのか? うな ﹁妻はとても心に傷を負いました。今でもたまに魘されてされてお りますよ。﹂ ﹁そうか⋮⋮﹂ まだ油断できない。こう言う犯罪は少々特殊な問題だし、正直私 には荷が重い。だけど嫁さんに関わる問題でもあるから⋮⋮。 ﹁質問を変えます。落ち着きましたか?﹂ ﹁は?﹂ ﹁何もせずとも、ジッとしていられますか?﹂ ﹁? あぁ、まぁ、そうだな。前よりもジッとしていられるな。庭 をこうして眺めるのも久し振りだな。﹂ ふぅーん⋮。そうか。 ﹁人に親切にしてみては?﹂ ﹁何だ唐突に⋮⋮﹂ ﹁いえ、別に。けれども、小さな親切大きなお世話⋮⋮と言うのも 有りますが⋮⋮まぁ、少しは人を慮って見てもいいのではないです か?﹂ 802 ﹁⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮等と言ってみましたが、私こそ大きなお世話でしたね。では 私はこれで。引き続きこのまま素敵な庭を眺めててください。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 何だろ、何も言わないとそれはそれで気味が悪いな。かなり変化 があって不気味だ。でもヒントをあげるのは果たしたのでさっさと 退散する。 今度気が乗らないけど嫁さんに聞いてみよう。あの変態が改心し ても嫁さんが許してなかったら解きはしない。だって私は許してな いから。男脳じゃないので執念深いのよ私はね。 でも、嫁さんはいつか許すんだろうな⋮⋮。優しいってか、お人 好しってか⋮⋮まぁ、そこも含めて嫁さん何だけどさ。釈然としな い⋮⋮。 だから、もう少しこの変態には苦しんでもらおう。鬼?悪魔? それって誉め言葉♪ 私は自分のためにウサ晴らしをしているのだ。嫁さんの為にじゃ ない。悪魔で⋮違った、あくまで、自分のためにあの変態をあの状 態にしているんだ。 私は立場で人に呪い何て掛けない。自分のエゴで掛けます。コレ 私の信念の一つね。 803 ﹃主様!!何処に行っていたのですか⋮。少し焦りましたよ。お姿 が見えなくて⋮⋮﹄ ありゃりゃ∼⋮やっぱり寝惚けていた兎天であった。ホントに朝 が弱いんだから⋮⋮ そうだ。嫁さんちゃんと起きれるかな? ﹁日頃私が起こしていたのが仇にならなければ良いけど⋮⋮﹂ 日頃起こされていると癖がついて中々起きてくれなくなるんだよ ね⋮⋮無意識に甘えてさ⋮⋮そうそう、親子揃って寝坊した∼何て 何回やってんだもんね⋮⋮あの二人⋮⋮え? 誰の事? ﹃全く、親子揃って寝坊するなんて⋮⋮私はちゃんと起こしました。 ﹄ ﹃ごめんなさい⋮﹄ ﹃悪い⋮⋮つい布団が暖かくて⋮﹄ ﹃それで会社に遅刻したらダメでしょ。ホラ、まだ間に合うから仕 度して!﹄ ﹃はーい。﹄ ﹃ハイは短く一回で!﹄ ﹃ハイ。﹄ 804 ﹃二人とも気を付けてよ⋮⋮⋮⋮﹄ 懐かしい⋮⋮とても懐かしくて⋮⋮大切な⋮⋮悲しい⋮⋮思い出 ⋮? ﹃⋮⋮あ⋮⋮ま⋮⋮⋮ある⋮﹄ そうだ。アレは私の⋮⋮家族だ。私には母親以外にも家族がいた !! ﹃主様!!﹄ ﹁っ!!⋮⋮ハァ⋮⋮っ何だ今の﹂ ﹃お加減が優れないのですか?顔色が真っ青ですよ!﹄ あぁ、何てこと⋮⋮私には母親以外にも家族がいた。それも結婚 して子供が居た。何で今まで忘れてた?何で自分が二十歳の時の記 憶しか持っていないんだ?何で?何で?何で!? 私の⋮⋮私の本当の年齢は⋮⋮私が﹃私﹄であった時の年齢は⋮ 29歳⋮本当は29歳だ! 今朝の夢は空想何かじゃない。本当の記憶だ。彼処に居た母さん と父さんはミケの知り合いで呼んだんだ! 私は二人を前から⋮前 世から知っていた。でもなんで二人は教えてくれなかった? あ、 私だとしらないから? でも、続編で顔合わせしたよ。私が﹃紅蓮﹄ の声を演じたの知っているはず⋮⋮黙っていたのか⋮? 805 なら、続編の内容は?⋮⋮思い出せない⋮⋮まだ完全に思い出し ていないのか⋮⋮でも、 なら何で忘れていた? それに二人は? 無事なのか!?私は⋮ ⋮大事な家族を⋮⋮ 私はあの子を⋮⋮⋮ 置いてきてしまった⋮⋮? 806 807 消えた記憶⋮⋮︵後書き︶ 何の進展もなしに兄上達をスルー?して漸く迎えに来る日、当日 になりました。漸くですよ奥さん︵誰だよ︶ さて、紅蓮さんの好きな花はさくらなんですね。コレは後々出て くるかも⋮⋮知れませんね︵笑︶ さてさて⋮⋮再登場の白の王様の実の兄貴⋮名前なんだっけ? あ、丈勇でしたっけ?でてきましたね。彼は紅蓮の例の薬で⋮⋮う ん。大人しくなっていました。もうすっかりと⋮⋮反省しているな ら解けるようにはなっているんですが、再犯防止策として﹁とある 事﹂も呪いをかけています。紅蓮の意思で発動する代物何ですが⋮⋮ 紅蓮は容赦ありませんね。 そして新事実、実は前世の記憶では二十歳前までの記憶しか無か った状態だった。本当は29歳でした。って事は、精神年齢⋮⋮3 7?⋮⋮しかも子持ち⋮⋮。ここからどうなるのかな? では、また︵^︳^︶/ 808 面倒事は要りません︵前書き︶ お読みいただきありがとうございます。m︵︳︳︶m 809 面倒事は要りません コウレン ハローハロー⋮⋮。未だ前世の記憶が曖昧な紅蓮だよ。 ⋮⋮うん。分からん。 もうね、あれだわ。考えるの今だけ放棄する。考えすぎってのも 大変だし、何より疲れる、面倒⋮⋮うん。 王宮の庭を散歩して、変態︵改心?︶がいた。そんでなんやかん やあって、記憶が少し戻って⋮で、考えるの放棄⋮今ここだ。 何か気分も優れないから部屋に帰ろう。兄上達まだ寝てると思う けど、仕方ない。本当は兄上達が出ていくのを見計らって帰ろうか と思ったんだけどさ⋮⋮仕方ないよ。 で、戻ってきました∼借りてる部屋。未だ兄上達は夢の中⋮。只 今の時刻もうすぐ6時⋮⋮まだ起きないだろうさ。夜更かししたん だからね。 何して暇を潰そうか⋮⋮確か朝食は7時頃、それまでの一時間は 何をしていよう⋮⋮あ、そうだ、アレを作ろう。 ﹃主様? 糸を取り出してどうするのです?﹄ ﹁ん?ん∼∼、ちょっと嫁さんにあげようと思っていたんだよね∼ プロミスリング﹂ 810 ﹃ぷろみ⋮⋮ん?﹄ 片仮名に弱い兎天を後目に材料を用意する。プロミスリングと聞 いてピンとこない人はミサンガと聞けば納得するんじゃないかな? ランメイ 刺繍糸で作る帯状の組み紐の一種だ。コレを私は嫁さん、藍苺に プレゼントしようかと思っているのだ。まぁ、アレだ、貢ぎ物だ。 まじな ただし、普通のプロミスリングではない。色んな事を考慮した呪 いを施した立派な防具だ。けど、見た目単なるアクセサリー⋮⋮き っと相手は見くびるだろう。それに、 まじな ﹁︵嫁さんに悪意をもって近づく輩は容赦しねぇ⋮⋮︶﹂ ﹃︵あ、主様⋮⋮︶﹄ のろ どんな呪い⋮⋮いやいや⋮呪いを掛けようかな。それに柄もどう しようかな? ﹁ん∼⋮先ずは作ってみよう。柄はそれから考えよう。﹂ 先ずは勘を取り戻すために作ってみよう。何個か作って出来が良 いのをプレゼントすればいいか。今は暇を潰すのが目的だし。 家に帰ったら何を作ろうかな⋮⋮味噌が有ればシソ巻きでも作る んだけどな∼⋮アレって市販のは辛いんだよね。お母さんの作るシ ソ巻きは甘めで美味しかった。あんまり食べなかったけどね、私シ ソ苦手だったし⋮⋮。でもフト、食べたくなる味なんだよね∼素朴 でさ。 食べ物の話してたらお腹減ってきた⋮⋮。でも間食はしない。太 811 るとかじゃなくて、単に面倒なだけ。 さてさて、プロミスリング作りますかね∼。今回は菱形模様にし ようかな? 菱形模様の方が斜めにの模様の表巻きよりも簡単なん だよね⋮⋮形を保つのが。私的に何だけどね。基本よりこっちの方 が慣れているってのもあるんだろうけどさ。 、ここの世界に前の世界に有ったような刺繍糸は無いんだよね⋮ ⋮。だからちょっととある妖怪から糸を拝借しているんだよね⋮⋮ ん? 何の妖怪だって?⋮⋮⋮⋮蚕の妖怪です。蜘蛛の妖怪からも 貰うけど、今回はシルクです。 ふぅ⋮⋮大体一本、腕に一巻きする長さ︵個人差もあるけどさ︶ を作るのは一時間ミッチリやれば出来ることは出来る。飽きるんだ よね、同じ事しているとさ。 みんなは早いって言ってたよ。嫁さん何て﹁機械かよ⋮﹂って呆 れていたし。 失礼な⋮⋮。人間では無いけど、歴とした﹁人﹂だよ。まぁ、か らかって言ったのは分かってるから何も言わなかったけど。 に、してもさぁ。母さん達はいったいどう側室舞子と決着着ける 気なんだろ⋮⋮全然思いつかないんだけど。頭良くない私にはサッ パリだよ。 まぁね、母さん達の事だから多少強引な手をとるだろうとは思う んだけど⋮⋮具体的な事となるとサッパリ浮かんでこないんだよね。 母さんが決着着けるって言っているんだから着くとは思うけどさ、 812 何かそれで全てが解決するとは思わないんだよね∼。 それよりも、あの呪いをどうにかしないと。このまま続けばもっ と死者が出る。それにしても、他の者達は呪いが発症してから何日 間症状が出ているんだろ⋮⋮嫁さんは半日で改善したけれど、人に よっては何週間⋮酷い者は何ヵ月か前から症状が出ていた者も居る のではないか? う゛ん゛∼∼⋮。私は聖人ではないけど、コレは同情する。マジ でフザケンナ⋮だろう。 考えなからも手は動かしていた。なかなかの出来だ。コレなら嫁 さんのプレゼント候補に出来るかな⋮⋮いや、辞めとこ。だって、 さっき考えながら作ってたし、何より内容がプレゼントを作る感情 じゃなかった。こんなの貰ったら嫌だろう? ﹁まぁ、暇潰しにはなった。﹂ ﹃すぴー⋮⋮すぴー⋮﹄ 兎天はまたも眠くなったのか私の背中に頭を預けて眠っていた。 後ろに居るので撫でられない⋮⋮。 に、してもホントに兎天は朝に弱いんだね。つい最近まで雛鳥と して早起きなんかしたことなかったから慣れていないんだろうけど。 何しろ兎天は私の眷属になったのがつい昨日の事なのだ。眷属に 813 なる前にも会ったことはあった。けど、私せ生活基準に合わせるの は大変だろう。まだ子供だしね。 にん ﹁本鳥はもう一人前って言ってるけど⋮⋮﹂ 私から見たら必死に背伸びしている様に見える。何だか微笑まし くてさ。可愛いんだよね∼妹分みたいな感じに。 さてと、そろそろ終わりして片付けよう。兄上達もそろそろ起き るだろう。何より⋮⋮方向転換して兎天を撫でたいじゃない? ﹁スイマセン紅蓮さま⋮⋮コレはいったいどう言う状況でしょう?﹂ ﹁寝台を占領されたので、床で寝てました。﹂ ﹁いえ、そうではなく⋮⋮何故彼らがここに?﹂ ﹁懐かしく思い、訪ねてきたのでしょう。ですが夜も遅かったので 寝台を貸しました。﹂ ﹃︵実際には貸たのではなく押し付けたの方がしっくり来ますよね 814 ⋮⋮最終的には放り投げましたし⋮⋮︶﹄ うん。兎っ天∼♪余計なことは言わないの∼。分かった? ﹃︵イエッサー⋮⋮︶﹄ 只今の時刻、7時。状況は混乱。そんなステータスが見えるだろ う啓璋さん、こちらこそご免なさい。こんな状況予想していなかっ たでしょう? こんな状況、それは言わずもなが、人の寝台で寝ている兄上達の 事だ。私を起こしに来たのに黄の国の王子達が私の部屋にいるのだ。 そりゃ驚くし混乱もするよね。 ﹁⋮そうですか。でもおかしいですね⋮⋮毎朝黄の国から来た女官 に確認を取るんですが⋮⋮﹂ あ∼⋮そりゃイガグリ贔屓な女官達だからね。忘れているか、故 意なのか知らないけど職務怠慢だよね。 ﹁あの国の女官は贔屓で差が出ますから。兄上達を贔屓していた者 達は国に残ってしまったのでしょう。﹂ まぁ、あんな状況になってまで着いてきてくれる者は何人いるか 疑うけどね。何せ母親達がもう力を振るえないのだから⋮⋮。 ﹁そうですか⋮⋮ならば、朝餉はご一緒でも良いでしょうか?﹂ ﹁それは兄上達の意見を聞いてください。﹂ 815 ホントは嫌だけど、変に断ったら後が大変だろうし。でも内心は 静かに朝食をとりたい。そうだ、嫁さん達の朝御飯大丈夫かな⋮⋮ あのメンバーだと果てしなく不安だ。やっぱり誰か料理出来る人で も雇った方が⋮イヤイヤ、何かと有りそうだからそれは無しだな。 やっぱり誰かに料理出来るようになってもらうしかないか⋮⋮。 ﹁えっと⋮兄上達を起こしてもらっていいですか? 私は身支度致 しますので。﹂ ﹁分かりました。ですが、お髪は私が結いますよ?﹂ 普通の王族は髪も結ってもらうし、服も用意してもらって、着さ せてもらうのが普通なんだろう。 ﹁いえ、いつも自分でしているので大丈夫ですよ。それよりも、三 人も起こすのは大変でしょう、どうかお気遣いなく。﹂ そう断りを入れて用意された着物を着る。今日は⋮⋮藍色一色の 着物だ。昨日のよりも少し濃いめの色で、嫁さんが着たら似合うだ ろう。あ∼⋮嫁さんに早く会いたい。そんで、ご飯作って食べさせ たい。嫁さんって作った料理を美味しそうに食べてくれるから作り 甲斐があるんだよね。笑顔も見たくなるからまた美味しい料理を作 ろうって思えるんだよ⋮⋮。早く昼になって嫁さん来ないかな⋮⋮ 鏡を見ながら身嗜みを整える。昨夜は途中から壁に背中を預けて 寝たから変に癖が着いていた。けれど手櫛で整えると直ぐにいつも の真っ直ぐな髪に戻った。ふぅ、簡単で良かった。嫁さんなら一時 間鏡と睨めっこになるとこだったよ。 そう言えばさ、嫁さんの組み紐と間違えて藍色の組み紐で髪結っ 816 てたんだよね∼。て、事は嫁さんが私の組み紐︵紅︶を使っている のか? いや、その前に⋮嫁さんちゃんと爆発ヘアーを押さえられ ているのかな? 毎日のブローは大切なんだよアレは。ぶきっちょ な嫁さんが果たしてブロー出来るかな⋮⋮不安だ。イヤイヤ⋮いつ かは自分で出来るようにならなきゃいけないからコレは良い練習に なるのでは⋮⋮爆発してないことを祈ろう⋮︵´・ω・`︶ ﹁紅蓮、昨夜はすまなかった。いきなり押しかけて⋮﹂ ﹁悪かったな⋮﹂ ﹁スイマセンでした紅蓮⋮﹂ え? なにこれ、何でそんなに素直なの?てか、いつ起きてきた し⋮⋮。 ﹁いえ、積もる話もありましたからね。﹂ 適当に流す。王は間者経由で話の内容は知っていると思うが、一 介の侍女の啓璋さんには言わなくてもいい事だ。 ﹁殿下方、今後はこの様な事はお控えください。何かあってからで は遅いのですよ。ご自愛ください。見張りは常に居りますが、万が 一の事もあります。﹂ 何かあったら国際問題に発展するだろうし⋮⋮何より、黄の国の 宰相は悪知恵がはたらくので厄介だしね。付け入る好きなんか相手 に与えた日には⋮⋮ ﹁スイマセン啓璋さん、兄上達も反省しております。今後はこの様 817 な事はしないでしょう。﹂ もしも今後この様な事があったら庇わない。てか、別に庇ってい るわけではない。このまま本当の事を話せば、厄介この上無いから だ。朝っぱらから変態ロリコンもとい、王の兄には遭遇したのでも うお腹一杯だ。面倒も厄介もお昼に遭遇すると思うので朝方はもう 要らない。 ﹁分かりました。今後はお気をつけください。では、朝餉は陛下達 とご一緒にお取りになることになりますので、食堂の方にご案内致 します。﹂ 食堂に行くまで兄上達は借りてきた猫状態になっていた。そんな に緊張するもんかな⋮⋮いや、悪知恵が私も最初は緊張したもんだ しね。つい昨日の事だけど。 ﹁ところで啓璋さん。昨日の四人組はいないんですね⋮⋮静かです。 ﹂ ﹁あの者達は⋮⋮﹂ 啓璋さんの回想入りますよ∼ 818 ﹃さぁ!待ちに待った紅蓮様の寝起きをご覧になれるわよ!!\︵ ^o^︶/﹄ 〃▽〃︶﹄ ﹃はい!どんな可愛らしいお顔なんでしょう♪グ腐腐腐腐⋮︵ノ´ ∀`*︶﹄ ﹃何者も寝顔が一番可愛いものですからね∼︵ ﹃さぁ、私たちの萌を堪能いたしましょう!︵≧∇≦︶﹄ ﹃﹃﹃もちろんよ!︵*^o^︶/\︵^−^*︶﹄﹄﹄ ﹃貴女達は今日はお休みです。︵こんな状態で連れていくわけには いかない⋮⋮︶ ﹃﹃﹃﹃そ、そんな!!Σ︵´□`;︶﹄﹄﹄﹄ 以上回想終了。 ﹁⋮⋮いつもお疲れ様です。﹂ ﹁いえ、いつもの事ですから。﹂ ﹁︵え?それでいいのか!?︶﹂ 819 ﹁︵じょ、女性って怖い⋮⋮︶﹂ ﹁︵⋮紅蓮⋮⋮頑張れよ︶﹂ アハハハ⋮⋮四人組よ、自重しろよ。仕事はしてるけど視線が気 になったのはその所為か⋮⋮ 嫁さんに気を付ける様に言っておこう。嫁さんの可愛さにセクハ ラ何かしそうだし、あんな風なかしましさはきっと苦手なんじゃな いかな⋮⋮笑って流せない位不器用でもあるし⋮⋮ それに何だろ⋮⋮藍苺を独り占めしたい⋮⋮そんな気持ちが確か に心の何処かにある。そんなんじゃダメなのは分かってる。原作で の死亡原因の大半は﹃藍苺のこ孤独の所為だ。﹃紅蓮﹄しか彼女に は親しい人は居なかった。だから、彼女は﹃紅蓮﹄の死に耐えられ なかった。 だから、藍苺には私以外の親しい友人を作るのは死亡フラグのへ し折りに繋がるので万々歳なんだ。ちょっと寂しいけど⋮⋮ 藍苺が生きていけるのなら私は笑っていよう。 上の空で食堂までの道を歩いた。気が付けば到着していた。どう 820 やらまたも私の悪い癖が出ていた様だ。私も無警戒で呑気なモノだ。 この癖を直さないと⋮⋮ ちなみに、ここ、白の国では朝食は必ず家族で取るのが日課らし い。王族にしては珍しい。 普通の王族は軽めの朝食を各自部屋で食べるのが一般的らしい。 ﹁おはよう紅蓮。良く眠れたか?﹂ ﹁おはよう御座います、白の王様。﹂ ﹁うむ。昨夜の事は聞いた。黄の国の王子よ、これからは気を付け よ﹂ ﹁﹁はい⋮⋮﹂﹂ ﹁すみませんでした。﹂ 食堂に入って早々白の王に挨拶された。無難に返したが、良く眠 れた云々にはノータッチだ。どうせ知っているだろうし、蒸し返す とまた面倒になるから。 食堂の大きなテーブルには白の王族の皆さん、それに側室舞子と イガグリ、それに見たことの無い緑の髪と目の少女が座っていた。 側室舞子ご居るのは何となく予想はていたけど、誰だろこの子。私 より1∼2歳年下に見える。多分6∼7歳だと思う。 821 それにしても側室舞子はちゃんと兄上達の面倒を見ていないのだ ろう。勝手に、半ば強引過ぎに連れてきたのに朝部屋から居なくな っているのに心配はしないのか? 心の底から心配では無くとも、ここは白の国。他人の目は気にな る。心配なフリでもするはずだ。なのにしない。もしかしたら、様 子を離れたところから見ることが出来るようにしているのだろうか⋮ 確か、私が一人で危ないとかそんな理由で召喚したよね⋮⋮コレ はいつも監視されていると思ってもいいのかな? ﹁まぁ、何はともあれ⋮朝餉にしよう。さぁ席に﹂ 私が案内された席は側室舞子から一番遠い⋮⋮何故か王子︵白の 国︶と兄上︵雷ちゃん︶に挟まれた席だった。 822 面倒事は要りません︵後書き︶ 何が起きるかな? 823 王位?んなもん要らねぇよ︵前書き︶ お読みいただきありがとうございます。 824 王位?んなもん要らねぇよ コウレン 変な雰囲気漂う朝餉の席からお送りします、この頃自分はサブ主 人公だと思う紅蓮です。 見知らぬ緑の少女が向かいに座りガン見されております。私の両 側には白の王側に白の王子、舞子側には黄の国の王子︵兄上達︶が、 緑の少女両側には一姫と末っ子王子⋮⋮なんだこの席順と位置は。 ﹁紅蓮⋮この者は私の遠い縁者の娘だ。﹂ 白の王が緑の少女を紹介する。何だか一悶着ありそうな不穏気だ な⋮⋮ 緑の少女がニコリと微笑む⋮⋮何だろ何かあるなこの子。 ﹁紅蓮よ、折り入って頼みがある⋮﹂ うぁー⋮厄介事の気配。白の王よ、あんたは何がしたいのだ? ﹁陛下、先ずは自己紹介からでしょ?﹂ ﹁ん? そうだな、忘れていた。この娘はマオと言う。マオ、先ほ ど話した紅蓮だ。﹂ ﹁お初に御目にかかります。マオと申します。﹂ 深々と頭を下げた少女マオは何度もこちらを見ては微笑む⋮⋮ 825 ﹁そして彼方に居るのが客人の黄の国の王子達だ。﹂ ﹁お見知りおきを﹂ 兄上達に向かいまた頭を下げた。しかし視線は直ぐにこちらに戻 る⋮⋮何なんだよ。 ﹁して、紅蓮。話しと言うのはな⋮⋮このマオと婚約してほしいの だ﹂ ﹁お断り致します。﹂ 間を置かずに拒否した。やっぱりロクな事じゃなかった。私の中 で白の王の株は大暴落だ。 自分の娘婿に新しい婚約者を紹介する何て何考えてんだか分から ない。何か秘策でも有るのか知らないが、私と嫁さんを巻き込まな いでくれ⋮ ﹁紅蓮⋮コレは大事な事なのだ。﹂ ﹁王、私はお断りしました。﹂ ﹁︵何が始まったんだ?︶﹂﹁︵分からない⋮︶﹂﹁︵紅蓮は即答 でしたね⋮︶﹂ 兄上達が顔を見合わせてヒソヒソと話している。側室舞子は驚愕 の表情を、浮かべている。緑の少女マオはジッとこちらを見ている。 ﹁⋮⋮﹂ 826 表情はさっきとは変わり無表情になっていた。王妃や王子達は黙 ったままこちらをうかがっている。 ﹁これが命令でも聞かぬのか?﹂ ﹁藍苺を疎かにするくらいならば⋮⋮﹂ こちとら嫁さんだけで充分だ。別に大変とかじゃなくて、この少 女は面倒事の塊だ。そんなのと縁を繋げてみろ、大変この上無いだ ろ。それに⋮⋮ ﹁何故、彼の者と婚約せねばならないのですか? 私は一介の子供 です。如何に彼の国で王子として育ったと言っても、王族とは縁も ゆかりも有りません。﹂ ランメイ 実際あるのは両親だ。それと、嫁さんコト藍苺だ。けれど、嫁さ んは黄の国のに来た時点で王位やら王族としての縁を切られた。厳 密には、元王族の嫁さんにしか面識がない。 ﹁お前は俺の盟友の子だ。気にかけて何が悪い。お前の為にこの婚 約はするべきだ。聞いたぞ、食料事情があまり宜しくない様だな。 藍苺にも旨いものを食べさせたいだろう⋮⋮この婚約でそれが叶う ぞ。﹂ 確かに、その条件は喉から手が出るほど美味しい話だ。⋮⋮けれ ど⋮⋮⋮ 827 ﹁そして貴方は何が目的何ですか? ハッキリ仰ってください。ま どろっこしいのは嫌いです。﹂ だんだんと頭に血が上ってきたのが分かる。怒りで我を忘れない ように掌を爪で傷付け正気を保った。 ﹁お前ならば悪くはしないだろう。何も家に置けとは言わぬ。マオ は実家に置いておけばいい⋮⋮気に入れば別宅に囲えばいい。﹂ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹁どうだ? お前に良い条件ばかりだろう⋮﹂ ﹁お断りします。﹂ ﹁⋮⋮強情だな﹂ 腕組みしながら呆れ顔でこちらを見る白の王。何処かバカにして いるような⋮⋮楽しんでいるような感じだ。気に食わない⋮ ﹁紅蓮、何も今すぐに結婚しろとは誰も言っていませんよ。ただ婚 約⋮⋮﹂ ﹁私はの婚約自体が藍苺に対する裏切りだと思います。何より誰も 助けは求めていません。元よりあなた方には何も頼む気は端から有 りません。﹂ 王妃も加わり諭すように話す。けれど話を飲む気は無い。白の王 828 に頼むくらいなら、自分が身を粉にして養った方が良い。最も、白 の王には貸しを作りたくない。何か危ない気がする。 ﹁藍苺を助けたいのなら藍苺だけを助ければよろしい⋮⋮私は結構 です。白の王、貴方は何を企んでおいでか。﹂ 何を考えているのか分からない表情でこちらを見つめる白の王。 なにゆえ ホントに不気味だからやめてほしい⋮ ﹂ ﹁紅蓮様⋮⋮何故婚約を断るのです。貴方にも得が有ります。それ に⋮⋮ 緑の少女が会話に加わってきた。髪の毛先が少しカールしている 位で後は比較的真っ直ぐな髪ツインテールにしている。改めて見る と母さんよりも薄いパステルカラーの黄緑だ。目も同じ。 ﹁貴方は耐えられますか? 周りに婚約したのに婚約者が寄り付か ないと陰口を叩かれても。﹂ ﹁それは﹂ 反撃の隙を与えないため、矢継ぎ早に続ける。 ﹁私は貴女に二度と会いたくありません。藍苺を不安にさせるくら いならば、あなた方の意図などとどうでも良いです。﹂ ﹁⋮⋮ふぅ⋮⋮紅蓮、実はな⋮お前に次世代を担ってもらいたいの だ。﹂ いやはや⋮話が派手に飛んだな。何を言うかと思えば⋮⋮くだら 829 ない⋮⋮私にとっては。 ﹁マオでもいいが、俺の娘でも良い。王位を継ぐもよし、次の王に 仕えるもよし⋮⋮お前を⋮﹂ ﹁ちょうど良い駒が有るので確保しておきたい? 買い被りすぎで す。それに⋮⋮誰がそんな話を飲むと思った。私をバカにするな!﹂ アッタマ来た!! さっきから黙って⋮はい無いけど、聞いてり ゃ、﹁特だ﹂﹁為になる﹂だ、うっさいんだよ!! ﹁怒ることはない。紅蓮よ、藍苺は気にしないだろう⋮⋮お前達は 政略結婚をしたんだ。何も気にすることはない﹂ 確かにそうだ。政略結婚だった。けど、それとこれと、私の心の 中は違う。 ﹁藍苺の為に人生を無駄にするな。お前には⋮﹂ ﹁誰が藍苺の為に怒っていると言った? 誰が藍苺の為に断ったと 言った? 私は自分の心で決めた。誰かの為になんて言い訳で決め たりしない。いつも自分の為に選んで来た。婚約を断ったのも自分 が不愉快になるからだ。協力を断ったのも自分に何かしらの負担が 有ると思ったからだ。今まで数ヵ月間一緒に暮らしていたのだって 藍苺が望んだからだけじゃない⋮⋮私がそう望んだから⋮だから、﹂ 自分でも何を言いたいのさっぱりだが、勢いが止まらない。口を 閉じれない。無礼なことは分かっている。でも、止めることが出来 ない。気のせいか目の前が赤くなっているように感じだ。 830 ﹁⋮⋮私たちに構うな! 本人に了承も無しに勝手に出したくせに、 後からうだうだ抜かすな! 今後またそんな事を言えば⋮⋮如何に 白の王でも容赦しない。﹂ そう、私が自分の心で、自分の為に選んだ。選択した。誰かに否 定されるのが嫌いだ。自分の人生くらい自分の為に選ぶ⋮⋮勿論藍 苺も自分で選んでもらう。その事に不満は⋮⋮多少⋮かなりあるが 否定はしない。 ﹁俺を脅すか⋮⋮面白い。ならば、藍苺の命が無いと言えばどうす る?﹂ ﹁その時は⋮確実に貴方の命を消します⋮⋮たとえどんなに掛かろ うとも⋮⋮ね。﹂ 脅しだが、脅しで終わるつもりはない⋮⋮本当にそうなったら⋮ キュウキ ⋮実行するだろう。私は最近自分の怒りを抑えるのが難しくなって きた。そう窮奇の姿になった頃から。 私が脅しをかけた辺りから沈黙が続く。兄上達や王族一家と側室 舞子親子も先ほどから黙ったままだ。今更ながら気が付いたが、尻 尾と耳が出ていた。怒りに我を忘れない様に掌にたてていた爪が皮 膚を破って血が出ている⋮⋮痛みがない。 ああ、コレは頭に血がのぼり過ぎたな。アドレナリンが出過ぎて 痛みも感じなくなってるよ。 ﹁ふふふ⋮⋮﹂ 831 ﹁アハハハハ⋮⋮wwwww﹂ いきなし笑い始めた王と王妃。王何てツボにでもハマったか呼吸 困難になりかけている。誰か酸素ボンベでも持ってきてやって。 ﹁父上?母上まで⋮﹂ ﹁さっきからなんだったの?﹂ ﹁喧嘩してたの?﹂ 王子と一姫が困惑ぎみで見つめていた。私も困惑している。もし かして⋮⋮試された? ﹁ホラね、紅蓮は強情で、一途だって言ったじゃない♪﹂ ﹁俺達の子だからな!﹂ 今の声は⋮⋮ そう考えた時、物凄い勢いで私に突撃してきた物体が﹁ドスッ﹂ と音をたててぶつかってきた。そして物体から生えた?腕で私を締 め上げる⋮⋮ ﹁ぐっ⋮⋮ちょっ、タンマ⋮⋮く苦しい⋮⋮﹂ ﹁メキメキ﹂と音をたてて締め上げるのは、言わずもなが嫁さん でした。そうだよね。私に突撃して締め上げてダメージ与えられる 程の怪力は嫁さん以外居ないよね⋮⋮ちょっ、マジでタンマ! 832 ﹁よ、嫁さん⋮⋮ギブギブ!折れるから!肋骨折れるから!!﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ え∼、無視ですか嫁さん。メキメキいってますよ?私の肋骨⋮⋮ 折れても良いの⋮⋮? ﹁ランちゃん、コウちゃんの肋骨が折れそうだからもうその辺にし た方が良いわよ。﹂ ﹁気絶するぞ紅蓮のやつ⋮⋮肋骨は折れると他の骨より痛いんだよ ⋮⋮﹂ やんわりと言わずにもっと必死になって言ってほしいよ。てか、 父さん、経験アリかい!? ﹁⋮⋮たか?⋮⋮⋮⋮⋮れ⋮﹂ ﹁ちょっ、ホントに力緩めてっ!苦しくて喋れないから。ね?落ち 着こう嫁さん!﹂ ようやっと力が緩んできた⋮⋮はぁ∼苦しかったー。 私の肋骨は何とか無事だった。だが未だに私を締め上げる嫁さん は何かを言っているようだが、声が震えているのか何なのか様子が おかしい⋮⋮ ﹁どうしたの嫁さん。そう言えばご飯ちゃんと食べた? うっかり しててさ、ポーチに食料入れてたの言い忘れちやって⋮⋮﹂ ﹁そんな事よりお前は大丈夫か!﹂ 833 うんまぁ⋮⋮嫁さんの突進からの締め上げコンボが無ければもっ と無事だったよ。無いけど。 ﹁うん大丈夫。そんな事より⋮⋮嫁さん?﹂ 身長差が数センチしか無いので私の肩辺りに顔を埋めていた嫁さ んは漸く顔をあげてこちらを見た。すると目は少しだけ潤んで見え た⋮⋮泣くほどお腹空いてたのか?それに⋮⋮⋮ ﹁ちゃんと寝てないでしょ? 寝不足で目の下に隈出来てるよ。﹂ そうなのだ、1日しか離れていなかったのにもう隈が出来ている なんて⋮⋮どうした? ﹁ホントに大丈夫か? 腹刺されたって聞いたぞっ⋮⋮ホントに大 丈夫何だな?﹂ あれま、バレてら⋮⋮。情報源は白の王か?まぁ、どちらにして も⋮⋮ ﹁大丈夫だから、嫁さんちょっと離してね⋮しなきゃいけない事が あるから⋮ね?﹂ 渋々といった感じて腕を離さす嫁さん。すかさず自分の爪で傷付 けた右手を隠す。バレたらまた締め上げられそうだし。 ﹁白の王、事情をお聞きしたいのですが先ずはお詫びを⋮⋮御前に 在るまじき御無礼⋮誠に申し訳ありませんでした。﹂ どうしよ⋮⋮コレって極刑モノだよ。試されていたと言ってもの 834 い言い方は無かったよね⋮無礼だったよね⋮⋮後悔ってホントに後 からどうにも出来ない。一旦頭に血が上ると制御効かなくて困る。 元々熱し易い性格でもあったので尚更大変だよ。日頃カルシウム をとらないと⋮⋮牛乳以外で。 ﹁いい、こちらが騙したのだ。だが⋮⋮あそこまで怒るとはな、流 石二人の子だ。﹂ ﹁だから言ったでしょう、コウちゃんは一途なのよ。︵本人たちが 気付いてないだけで⋮︶﹂ ﹁二人の子供だものね。︵笑︶ 頑固は麗春さん、一途なのは朱李 さんかしらね∼﹂ 世間話のように話す母さんと王妃それと王。父さんはこちらに歩 いて来て⋮⋮ ﹁大丈夫か? 怪我は治っているんだろうが⋮⋮﹂ ﹁大丈夫だよ。治ったから。﹂ 崖から突き落とした人の台詞とは思えないとは今は言わないでお こう。 ﹁レイは少しも心配していないように見えるが、あれでかなり取り 乱していたんだぞ。あいつは隠れて感情を見せないからな⋮﹂ ふぅーん⋮⋮母さんってそうだったんだ⋮⋮。いつも笑っていて 835 堂々としているから⋮⋮知らなかった。 ﹁知らなかった⋮⋮昨日も冷静見えたけど﹂ 人知れず⋮⋮か。 にしても⋮⋮嫁さん? ﹁裾が伸びるんだけど⋮⋮離して?﹂ ﹁ヤダ﹂ ﹁少しで良いから⋮一旦離そうよ﹂ ﹁ダメだ﹂ ﹁ふらついてるし一先ず椅子に座って⋮ね。﹂ ﹁お前は手を放すと直ぐにどっかに逝くからダメだ﹂ ちょっと⋮⋮逝くって、漢字が違うからね? 縁起出もないから やめてね。 836 再会したが⋮⋮︵前書き︶ ランメイ お読みいただきありがとうございます。 コウレン さて、やっと再会した紅蓮と藍苺、そして朱李と麗春達。白の王 の試練?をクリアしたのも束の間、漸く麗春が側室舞子を追い詰め るのか⋮⋮な? 837 再会したが⋮⋮ コウレン 嫁さんと再会できた︵たったの半日だけど︶自分は脇役と悟って いる紅蓮で御座います。 唐突だが、心配なことがある。そう、嫁さんの精神状態だ。たっ たの半日離れただけでコレだ⋮⋮ちぃっとばかし病んでいる気がし ないでもない⋮⋮ホントにどうした? ﹁ねえ⋮嫁さん? 寝てないでしょ? 何時間寝たの?﹂ ﹁⋮⋮⋮分かんない。夢見が悪くてあんまし寝てない⋮⋮﹂ コレは⋮⋮いったいどんな夢を見たんだろ⋮。大丈夫だよね? 嫁さん、大丈夫だよね? ﹁眠かったら寝たら? ほらぁ∼こんなに隈作って⋮⋮顔色も心な しか悪いし⋮⋮あ、朝御飯食べた? てか、お昼頃に来るって聞い てたんだけど⋮早く会えて嬉しいけど。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮うん、・・・・・︵−︳−︶zzz﹂ ﹁ちょっ!・・・・寝てる⋮⋮﹂ 嫁さんは立ったままウトウトし始め寝てしまった。立ったまま寝 るのは器用だな⋮うん。 ﹁ランちゃん、あまり寝ていないのよ。ちなみに、私達は朝御飯ま だよ。﹂ ﹁藍苺があの様子だったから、コレはヤバイと思ってな。飛んでき たんだ﹂ 838 文字通り飛んで来たんですね、分かります。 嫁さんの傾きそうで傾かない体を支える。倒れたら怪我するし、 やっと寝れたのなら起こしたくない。けれど⋮⋮もしもコレからも 睡眠障害やら精神状態が不安定になるなら容易に側を離れられない。 ホントに私が居なくて精神バランスを崩したのかは分からないが、 何があるのだろう。にしても、夢見が悪かったと言っていたが、ど んな悪夢だったのだろう。知りたいけど、本人に聞くのも憚られる し⋮⋮⋮保留にするしかないな。無理に聞いて悪化させたくないし ね。 ・・・・ ﹁さて、藍苺は寝かせてやってくれ紅蓮。他の者は朝餉としよう。 積もる話も有るしな⋮⋮﹂ 白の王に藍苺を寝かせる様に言われた。最初からそのつもりだ。 ニヤリ⋮と笑う白の王と真剣な顔になった両親二人の表情からど うやら反撃開始の様だ。それなら、と思いポーチから有るものを取 り出した。 ﹁母さんコレ、渡しておく。﹂ ﹁コレは?﹂ 白い布に包まれたコレ⋮⋮私が刺された小太刀だ。コレがどんな、 証拠になるかも分からないけれど、何かの役に立つかもしれないの で渡しておく。 839 ﹁紅蓮それは何だ?﹂ ﹁⋮⋮コレ⋮⋮小太刀? え? まさか⋮⋮コウちゃんが刺された 小太刀ね?﹂ ・・・ ﹁そう。そりゃもうブスリッ!と景気よく刺さったよ。普通の小太 刀なのに⋮⋮さ。﹂ 前も言ったでしょ? 私達力がある程度強い妖怪は普通の刃物で は掠り傷1つ着かない。なのにこの小太刀はそれはもう景気よく刺 さった。 ﹁そう、コレが⋮⋮許すまじ、女官⋮⋮コウちゃんが許しても私は 許さないわ⋮⋮﹂ ﹁どうどう、落ち着けレイ⋮﹂ ﹁話を戻しても良いか?﹂ 少しウンザリ、そして諦め顔で白の王が話し掛けてきた⋮⋮ゴメ ンナサイ白の王⋮⋮スッカリ忘れていました。クスクス笑う王妃様 に、呆れ顔の兄上達と王子達と一姫それに緑髪の少女⋮⋮唖然顔が ; ゜Д゜︶ 未だに続く側室舞子親子がちょっと面白い。 顔文字にするとコレだ↓︵ ﹁それが件の刃物か⋮⋮さて⋮⋮王子達は席を外してもらおうか。 狛斗、鈴雛、柏樹と王子達を連れて別室で朝餉を取れ。俺達は少し 話がある。﹂ 狛斗王子と一姫の行動は早かった。一姫が直ぐ様柏樹王子を抱っ 840 こして緑の髪の少女を伴い扉に向かう、狛斗王子は兄上達を別室に 案内する様だ。そして王妃様は⋮⋮ ﹁舞子様はお話があるのでお残りください。大雅王子は兄上君達と 御一緒に朝餉をお取りになっていてください。﹂ 気のせいか王妃の目が光った。席を立とうとした側室舞子を侍女 達に指示を出していた王妃は、﹁てめぇ、逃がさねぇ﹂みたいな感 じてギラリって感じに光った目で笑いながら言った。絶対光ったよ。 ﹁紅蓮兄上は?﹂ イガグリが話し掛けてくる⋮⋮コイツは母親と離れるのに慣れて いない。けれど、兄上達の様に周り敵だらけな状況でも無いので寂 しくはないだだろう。女官達がチヤホヤしてくれるんだし。 けれど⋮コイツはまだ8歳の子供なんだ。多少はオブラートに包 んで言わないと⋮⋮そう言えば、昨今のオブラートって味が付いて んだね⋮⋮私の子供の時なんて味も素っ気もないただのぺらい四角 形だったよ。途中から三角の筒状になったけど⋮⋮不味かった⋮⋮ しかも、オブラート以外にもゼリーで包んで飲むのも有るんだって ? 時代も進歩したもんだな⋮⋮うん、関係ないか。 ﹁私は藍苺を寝かせる。起きた時の事を考えると側にいた方が良い ので藍苺に着いています。﹂ ﹁そうですか⋮⋮﹂ ﹁イ⋮⋮大雅、狛斗王子達と共に朝餉を食べていなさい。私に遠慮 するな。﹂︵訳、早く行けよ、こちとら早く嫁さんをベットに寝か 841 せてやりたいんだよ。︶ ﹁はい﹂ しょぼーん⋮といった感じて兄上達の後に着いていく。とても寂 しそうだが、私の優先順位は嫁さん1択なのだ。すまんなイガグリ。 ﹁じゃあ母さん父さん、嫁さんを寝かせてくるね。白の王、失礼し ます。﹂ そう言って食堂を退室する。勿論嫁さんをお姫様だっこで運んで います♪ おんぶよりも楽なんだもん。下ろすときに起きたりした ら嫌だし⋮ね? 横目で見たら側室舞子の顔が蒼白だった。 食堂を出ると啓璋さんと侍女四人組が待ち構えていた。 ﹁紅蓮様、申し訳無いのですが新に御部屋をご用意するには御時間 が掛かってしまいます。御部屋の用意が出来るまで、恐縮ですが紅 蓮様のお部屋で御休みください。﹂ そっか⋮お昼頃に来るって聞いてたからね⋮⋮最終的な事はまだ 842 だったのか。でもベットに寝かせるだけだから別に構わない。それ に、夜まで寝てる訳でもないから別に問題はない。 それにしても、仕事人間な彼女︵私の勝手な判断︶が用意出来て ない⋮⋮何か⋮⋮ね。 ﹁構いませんよ。両親が早くに来すぎたのですから。﹂ ﹁いえ、私共の不手際です。紅蓮様がご使用している部屋は既に清 掃は終わっております。﹂ 仕事が早いのか、私達が長い時間食堂に居たのか知らないが私の 部屋は掃除が終わっているらしい 別段汚したりしてないから直ぐに終わるだろう。⋮⋮⋮⋮兄上達が 涎でもベットに付けてない限りは⋮。 部屋に入りベットに向かう、けれど何だか嫌な予感に襲われる⋮ ⋮私はこの嫌な予感は信用している。何せ何度も危機を報せてくれ る頼もしい危機回避のお供だ。 何やら嫌な予感はベットに有るようだ。いったん嫁さんを備え付 けのソファーに寝かせる。啓璋さんと侍女四人組は何事かと見てく るが、ゴメンね今は無視させて。 それに、兄上達が寝てたベットに嫁さんを寝かすのも何か癪にさ わるし⋮⋮。 古来よりベットなど寝る場所は暗殺に使われてきた。曰く、毒蛇 やら毒虫をベットに忍ばせておく。曰く、毒の香をベット脇に置い ておく⋮等などバリエーション豊かだ。 843 そんな暗殺のデパートなベットから嫌な予感がするなんて⋮⋮何 か有るでしょ? ﹁啓璋さん、1つ聞きたいのですが﹂ ﹁何で御座いましょう?﹂ ﹁そちらの侍女達は⋮⋮どうして青ざめているのですか?﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 侍女達はみんな先程から一言も話さない。私が藍苺を横抱き︵お 姫様だっこ︶をしたにも関わらずに。きっといつもの彼女等なら何 かしらテンションが上がっているところだ。なのに⋮⋮どうして青 ざめて一言も喋らず、顔色も皆さん悪い。 何より⋮⋮仕事熱心な啓璋さんが急な時間変更で部屋が準備中な のが腑に落ちない。 啓璋さん達ならば、前日の内に全てやり終えているだろう⋮⋮と、 思う。コレは単なる私の想像でしかない。つまりは憶測⋮⋮さてど うしたものか⋮⋮ 844 再会したが⋮⋮︵後書き︶ はい。ここまでお読みいただきありがとうございます。 ついに側室舞子と麗春のガチンコ対決⋮⋮だと思うのですが、紅 蓮は即座に退場しました。悪魔で脇役⋮⋮いえ、あくまで脇役です から。主人公格はイガグリもとい大雅や麗春達なのです。でも、こ の話は紅蓮が主人公ですので⋮⋮かなり端折ってしまいます。 次回は、とょっと気になる嫁さんこと、藍苺の寝不足の理由でも 書きます⋮⋮てか、もう書いてます。いつぐらいに投稿しようかな? では、また。m︵︳︳︶m 845 断片的な︵前書き︶ お読みいただきありがとうございます。 今回のお話は⋮⋮ちょっと暗いです。 846 断片的な 懐かしい記憶⋮⋮ ﹁酷いよね∼私の第1印象が﹁御菓子の人﹂何て⋮⋮女心云々以前 に人として見てないよね?﹂ ﹁悪い。ミケが持ってきたゴマ饅頭が美味しかったから⋮ついな。﹂ ああ、コレは⋮⋮そうだ、大事な人との思い出だ。この時は俺が 初対面で﹁御菓子の人﹂って失礼な事を本人の前で言ったことを思 い出して笑っていた記憶だ。どうして今まで忘れていたんだ? ﹁あの時は私も意地になってたしねぇ⋮どっちもどっちだったよね。 ﹂ ﹁そうだな。﹁そんな捻りの無い呼び名しか思い付かないの?﹂っ て言われるなんて思わなかった⋮﹂ ﹁あはは⋮⋮ゴメンね、あの時は私も大人気なかった。 そうそう、ベルのやつ大の男嫌いだったもんな⋮よくもまぁ俺と ⋮⋮ ﹁でも、あの時ジンと結婚するなんて思いもしなかった。一生する 気何てなかったし。よく私の男嫌いを克服させたよね∼。人生は何 があるか分からないね。﹂ ﹁⋮⋮大変だったよ。俺も恋愛初心者だったし、何より異性と付き 合ったこともなかった。﹂ ﹁ミケのおかげかねぇ⋮⋮﹂ ﹁そんなこと本人に言うなよ調子に乗る。﹂ ﹁フォローできない⋮﹂ 847 結婚⋮⋮そうだな、結婚していた。ベル⋮⋮俺は⋮あいつを置い てきたのか? ﹁そうそう、ミケがこの間言ってたんだけど、またゲームのキャラ の声やらないかって言ってた。﹂ ﹁まさか、受けてないよな?﹂ ﹁あんなの2回で充分。2回目だって渋々受けたんだし⋮⋮﹃紅蓮﹄ だけで充分だよ。﹂ 紅蓮?⋮⋮ベルが⋮⋮演じた⋮⋮? ﹁俺も渋々だったし、今度なんて絶対受けない。あんな高い声なん てもう出ないしな。﹂ ﹁あの当時は声変わりしてなかったもんね⋮⋮随分と遅い声変わり だよ。﹂ ﹁漸く男らしい声に⋮⋮﹂ ﹁はなってないね。ちょっと高めだし⋮⋮でも好きだよその声。女 声でも男声でもない声で。でも、そんなにその声が気に入らない?﹂ ﹁気に入らない。女みたいだって散々言われてきたからな。﹂ そうだ、あの女みたいな、でも低い声が嫌いだった。 ﹁アルト声で良い声だけどね∼。本人が嫌ってるなら仕方ないけど。 ﹂ ベルはいつもあの声を誉めていた。 ﹁男の声は嫌な記憶しか無いからね⋮⋮その声だと安心する。勿論 声だけじゃないからね。﹂ 848 ﹁⋮⋮⋮ホントに?﹂ ﹁うん。ホントに。﹂ 最初は険悪な仲だったけど、いつからか打ち解けて、恋人になっ て、結婚した。別にドラマみたいな人生じゃなくごく普通の人生だ った。喧嘩も人一倍したし、同じ数仲直りもした。ホントに普通の ⋮⋮普通の夫婦だった。なのに⋮⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮出血も激しく⋮⋮亡くなりました⋮。﹂ 医者らしき白衣の人物が話している。 亡くなった? 誰が? ﹁お子さんも⋮﹂ 近所のおばさん達が話している。 ﹁奥さん⋮まだ若いのにね⋮﹂ ﹁まだ30歳だって⋮⋮お子さんも8歳なのに⋮﹂ ﹁旦那さんも大変ね⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ああぁ⋮そうだよ、死んだ⋮死んだんだよ。置いていかれたのは 俺の方だ。 849 ベルは死んだ。原因不明の多重事故によって。大勢の犠牲者が出 た酷い⋮酷い事故だった。あいつは⋮ベルは死んだ⋮⋮俺を迎えに 来る途中で子供も一緒だった。子供を⋮⋮庇いながら⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮﹂ 置いていかれた、誰も居ない。幸せだった生活は一気に地獄にな った。誰も居ない家、誰も居ない食卓⋮⋮誰も居ない⋮⋮⋮誰も⋮⋮ 俺は⋮⋮一時は自殺も考えた。けど、ベルに﹁馬鹿なことするな !﹂って言われる様な気がして止めたんだ。一時は脱け殻同然にな ったが、何とか空元気でも立ち直ったことにした。二人の分まで生 きようとした⋮⋮なら、俺は⋮⋮何で死んだんだ? ﹁!!!⋮⋮⋮っ⋮⋮はぁ⋮はぁ⋮﹂ 夢⋮⋮か。やけにリアルな⋮ホントに夢か? 850 窓から外を見るとまだ真っ暗だ。けれども夢の所為でもう寝る気 にもなれなかった。 ﹁レン⋮⋮⋮﹂ 間違えて使っていたレンの紅い組み紐を握りながら出た名前。 ﹃お前はまた俺を置いていくのか?﹄ 何処からか聞こえた声は前世の自分の声にも聞こえた⋮⋮⋮⋮ ﹃今日未明、〇〇〇市内の〇〇〇〇さん宅にて火災があり全焼しま した。焼け跡からは身元不明の遺体が見つかり、現在連絡の取れな いの家主の〇〇さんのものではないかと現在身元確認をしています。 また、火災は放火と見て現在調査を⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄ 851 ﹃⋮⋮⋮⋮続いてのニュースです。⋮〇〇日に起きた火災で見つか った遺体が家主の〇〇さんのものと断定されました。また、警察は 放火と殺人の疑いで、住所不定無職の〇〇〇〇〇を放火と殺人の疑 いで逮捕しました。なお、⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄ ﹃⋮⋮⋮にしても、怖いですね∼〇〇日に起きた放火殺人。あれは 逆怨みの犯行でしたからね。﹄ ﹃本当ね。奥さんの義理の? 血の繋がっていない⋮祖父の犯行だ なんて⋮⋮〇〇さんどう思います?﹄ ﹃それは恐いですよ⋮⋮〇〇さんも奥さん亡くしたばかりで⋮⋮金 銭的なトラブルらしいですよ⋮⋮﹄ 852 853 断片的な︵後書き︶ はい。これが再会時の藍苺の寝不足の理由です。 854 暗殺はベットの中に潜む⋮⋮って、捻りがないなぁ︵前書き︶ お読みいただきありがとうございます。 今回は本編に戻ります。 855 暗殺はベットの中に潜む⋮⋮って、捻りがないなぁ コウレン ただいま絶賛啓璋さん達を凝視しております紅蓮です。何とも怪 しい彼女等は真っ青になっています。私に睨まれているからじゃな いよ。その前から顔色は悪かったよ? ﹁どうなんですか?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 口を動かしてはいるが声が出ないとでも言うのだろうか、声を出 さずに口パクで何かを言っている様だ。何だろう⋮⋮えっと⋮⋮し、 ん、だい、に、刺客⋮アリ、き、け、ん⋮⋮寝台に刺客アリ危険⋮⋮ 何か事情があって喋れず、仕方なく私達をこの部屋に誘導した⋮ と、こんな感じなのか? ベットに刺客何て芸が無いね。どんだけ使い古るされた手だよ。 まぁ、それだけに油断して引っ掛かりやすいんだけどね。 ⋮⋮⋮あ、なるほどね⋮⋮解ったよ刺客の正体。掛け布団は薄い からシルエットが浮き彫りになっている。 ﹁まぁ、良いです。それよりも早く藍苺を寝かせましょう。﹂ 勿論嫁さんをこのままベットに寝かせるなんてことはしません。 856 先ずは刺客にはご退席願いましょう。 もう季節は初夏になるのでそれほど厚めではない掛け布団を剥ぐ ⋮⋮すると⋮ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮うわぁ⋮﹂ でっかい蛇が眠っていた⋮⋮⋮アレ? 刺客じゃないの? 刺客 だよね⋮寝てんだけど⋮⋮ ﹁どうしたもんか⋮⋮﹂ トグロを巻かずダラリと伸びて寝ている黒い蛇。その図体はアナ コンダの様に巨大で重そうだ。下手したら嫁さんや私よりも重いだ ろう。この太い胴体で絞められたら人たまりもない。てか、確実に アナコンダよりも大きい。 ﹁︵もしかしたら⋮⋮コイツ、奏と同じ様に服従の類いの呪詛でも 掛けられたのか? でも従う気無い?︶﹂ だったら良いのだが、いや良くもないか。もしもコレで目を覚ま したら暴れる⋮何て事になるのも⋮⋮あり得るよね。 ﹃スー⋮スー⋮﹄ ホントにスヤスヤ眠っている。今なら掴んでも起きないか? イ ヤでも⋮それでも目を覚まして暴れたら私以外に被害が出るし⋮⋮ 857 私は別に蛇が嫌いではない。蛇なんて見慣れている。前世では家 の前、道路、田んぼ、庭と蛇何てどこにでもいた。蝮やヤマカガシ と毒蛇も結構居たしね。1メートル程の青大将何てざらに居たし。 蛇ってね、鳴くんだよ? まぁ、鳴くって言っても、声を出さず に掠れた様な﹁シュー﹂みたいな﹁キュー﹂って鳴くんだよ。言葉 では表現できないけど⋮⋮一度ね聞いたこと有るんだよ。 あれは前世の話なんだけどさ⋮⋮ どこの罰当たりか知らないけどね、蛇を袋に入れて道路のド真ん 中に置いてたヤツがいたんだよ。ガサガサ動く⋮⋮飼料が入ってい たのかな⋮紙の袋でね、中のモノが出ないように頑丈に縛ってた。 そん時の季節は夏だった。道路なんてアスファルトじゃない? それに袋に閉じ込められて暑かったろうね⋮⋮で、私はその袋を開 けることにした。 最初はあまりに動くから牛蛙でも子供が入れて悪戯でもしてたの かと思ったんだ。だって、猫とか犬なら鳴くでしょ? 袋から動い た時のガサガサ音しかしなかったからそう思ったんだよ。 でね、牛蛙なら暑いだろうし、道路のド真ん中で開けても車に轢 かれるだろうと思って近くの水辺あたりで開けることにしたんだ。 私もその時は10歳前後で多少は力もあったんだ。引き摺って水辺 まで移動していると袋の中から﹁きゅー⋮⋮きゅー⋮﹂って掠れた 鳴き声が聞こえて⋮もしかして牛蛙ってこんな声も出るのかな?っ てそん時は思ったんだ。 858 そうそう、青大将ってね、独特の臭いがするんだよ。何て言うの かな⋮⋮虫臭い? ん∼∼、表現できない。兎に角独特の臭いがす るんだよ。それで袋を開けようとしたらその臭いがしたんだ。 ﹃あっ!﹄ 中から出てきたのは大きな青大将でね⋮⋮弱々しく中から出てき たよ。よっぽど暑かったのか暴れ続けていたのか、へとへとになっ ていた。 多分なんだけど、その蛇は鶏か何かの卵を丸飲みして動けなくな って捕まったんだと思う。田舎だからね、鶏飼っているところは結 構あったし。鶏小屋に入って卵を丸飲みしたは良いが、鶏の飼い主 に見つかって袋に閉じ込めらたんだろうね。 コレも憶測だけど、この蛇は何処かに離してこようとして、何ら かのアクシデントで軽トラの荷台からでも落ちたんじゃないかな? 田舎だったのが幸いして車に轢かれることなく無事だったのだろ う。車の通りが少ない道だったから。 私の住んでいた地方では︵全国的かも知れないが、よくわからな い︶家の守り神として青大将は殺してはいけないと言われている。 だから私の隣の家のおばあちゃんはよく蛇を遠くの山に放しにいっ ていた。 まぁ、蛇は執念深いと言われているからおいそれと悪戯なんか仕 掛けないだろう。 で、その蛇は涼しそうな草の中に帰っていきました。めでたし。 859 と、そんなことがあった。懐かしいな。 いや、どこの額に稲妻の傷を持つ少年だよ⋮⋮あ、前世も目が紅 かったから闇の帝王か? 無い、それは無い。だって声聞こえなかったし。 とまぁ、懐かしむのはこの辺にして、どうしようかな。蛇って人 間に悪戯されたり虐められたりすると人間に攻撃的になるって聞い たし⋮⋮そっとしておくのが一番か? ﹁︵こっちには兎天も居るし、嫁さんの首には奏の入った薬入れが ある。それにポチも側に控えているし⋮⋮︶﹂ ポチは静かに嫁さんの横たわるソファーの横に鎮座していた。お 前はホントに気配を無くして居るのが上手いな。時々気付かない時 があるほどだ。 えっと、黒い大蛇をどうするかって話だったよね。ん∼∼⋮そっ としておくことにする。触らぬ大蛇に祟りなしだ。特に気持ちよく スヤスヤ眠っているのを起こすのは忍びない⋮⋮この子自身は嫌な 気配ではない。ただ、さっきの嫌な予感は、そのまま嫁さんをベッ トに寝かせていたら⋮⋮確かに的中することになったんだろう。っ 860 て事にしておく。 それにしても、啓璋さん達の様子が変だ。大蛇を見たら取り乱し もするだろうけど、何か変だ。 ﹁紅蓮様⋮あの蛇を⋮⋮﹂ 何かを言いたいのだけど、何かに邪魔されて喋れない⋮⋮でも、 あの蛇をどうするのさ⋮⋮奏みたいに首輪で行動を制限されている わけでもないし、ただ寝てるだけ⋮⋮手はあるけど、暴れられたら ⋮⋮ちょいと面倒だし。 ﹁ねぇポチ⋮⋮あの大蛇何なんだろうね⋮﹂ ﹃主、あの蛇は何かの媒介にされているようです。﹄ ﹁媒介?﹂ ﹃そうだな、奏よ。﹄ ﹃きゅー⋮⋮そうでしゅ⋮あの蛇さんもボクと同じでしゅ。﹄ 久々の登場のポチと奏。何だろう、半日しか離れていないのにス ッゴク久し振りに感じるよ。 奏は蛇が横たわるベットに近付いて小さな前足で蛇の頭辺りを指 差す⋮⋮可愛い♪ じゃなくて、その指差した頭を見ると⋮⋮何やら赤黒い何かで書 かれたのか模様が刻まれていた⋮。 861 ﹁コレは⋮⋮服従の紋章? でも、知ってるモノと違う⋮⋮﹂ ﹃主様!﹄ 兎天の緊張した叫びに我に返る。蛇が目を覚まして頭を持ち上げ る様にうごいたのだ。奏は慌てて蛇から距離を取り私の懐に隠れる ⋮⋮奏よ、お前の住みかの薬入れに逃げるんだろ普通は⋮⋮ ﹃主⋮⋮この者は本来は敵ではありません。﹄ ポチが大蛇を見て答える。面識でもあるのか⋮? 今更だけど、﹃﹄このカッコの時は人間には分からない言葉では 話しています。なので、周りからは﹁ウォン﹂とか﹁きゅー﹂しか 聞こえませんので悪しからず⋮⋮って何メタいこと言っていんだろ 私。 ﹃大蛇⋮⋮お前はこの御方に牙を剥くのか?﹄ ﹁ちょいとポチさん⋮⋮何の事やら私は着いていけないよ⋮⋮﹂ ﹃別に、牙を剥く気は⋮無い⋮⋮恩もあるし﹄ 益々分からないよ。訳が分からないよ∼。大蛇は敵意はないと答 えた。⋮⋮⋮ん、いやいやちょっとマテ、大蛇の話している言葉が 分かるんですけど⋮⋮え?何々? 赤い目だと無条件で蛇語がわか るんですか!? 私は闇の帝王じゃないんだけど⋮⋮中盤辺りであ の人顔が蛇っぽくなるんだよね⋮⋮私はなりたくないよ? ﹃主様、現実に戻って来てください﹄ ﹁あ、うん、ごめん。ちょっとショッキングな事が信じられなくて 862 ⋮ハハハ⋮﹂ ﹃きゅ?﹄ ちょっと現実逃避をしていたら兎天に現実に戻された。奏は相変 わらず私の懐から顔を出していた。もう所定位置になっている。 ﹁奏、お前は藍苺に着いていて。何かあったら守ってね?﹂ ﹃きゅ? わかりました!﹄ 嫁さんに着いていてもらい、準備万端⋮⋮とまではいかないけど、 未だに話しているポチと大蛇に話しかけることにする。 ﹁えっと⋮ポチ? 話は進んでる?﹂ ﹃主、この者はあの烙印によって呪詛の媒介になっております。﹄ ﹁ん? 穏やかじゃ無いね⋮⋮何の媒介なの?﹂ ﹃ソコの⋮⋮侍女達の口封じの為⋮⋮私は⋮望んでいない⋮﹄ どうやらポチの予想通り媒介にされていたようだ。しかも話によ ると、攻撃的になる様に呪詛を掛けられていたのだが、必死なって 抗っていたら疲れはてベットで眠っていたらしい。⋮⋮ちょっぴり 呑気な大蛇だった。 侍女達の口封じを目的としているため殺傷能力は低いが、長時間 掛けられていると精神衛生上宜しくないので早速取り払う事にした。 ﹁とは言え、力業になるけど勘弁してね。繊細な事は苦手⋮ってか、 難しいからアレ。ちょっと痛いかも知れないけど我慢してね。﹂ ﹃この忌々しい呪詛が消えるなら⋮⋮構わない⋮⋮﹄ 863 ﹃主、念のために侍女達を眠らせておいた方が良い﹄ それもそうだ。如何に口封じされてるだけとは言え、呪詛の支配 下にあるのだから多少暴れるかも知れない。ここは彼女達の安全の ため眠っていてもおう。 そこで役に立つ薬を紹介しよう。ここで取り出したるは、睡眠花 と言う花から取った香。コレは単なる睡眠薬⋮⋮私達妖怪︵ある程 度力があるもの︶には良い香りにしか感じないが、弱い妖怪や人間 には効果絶大、スヤスヤ眠ることになる。本来の使い方はこの香を 薄めた物を蝋燭等に混ぜて安眠アイテムにする物だ。 しかし私の持っているこの香は原液の物だ。少し嗅いだだけで眠 りこける。体に害がない物だが、強力なため取り扱い注意だ。転倒 して怪我とかするからね。 ﹁コレでよし。﹂ 侍女達を眠らせて壁際に移動させる。そこらの床に転がせておけ ば邪魔になる。 ﹃手際が⋮⋮良いな⋮⋮本当に子供か?⋮⋮﹄ ﹃大蛇よ、我が主にはお前の常識は通用しない。﹄ どういう意味だコラ。その言葉は両親達に言ってやれ。私よりも 常識が通用しないから。 864 ﹃どうやって呪詛を消すのですか主様?﹄ ﹃黙って見ているのだ兎天。力業とて力加減を間違えれば終わりだ ぞ。﹄ ﹃⋮⋮そうなのか?﹄ ちょっ、プレッシャーかけないで! ﹃しかし案ずるな大蛇よ。主は意図も簡単にやってのける。﹄ ポチ∼∼お前は私にプレッシャーを掛けてそんなに楽しいかそう なのか!? ポチのかけるプレッシャーを無視して呪詛の解除に専念する。 簡単に説明すると、私の狐火で焼くだけ⋮⋮そう、焼くだけの簡 単なお仕事です。火加減さえ間違わなければね。どうやら私の狐火 は強力で、呪詛の類いでも焼ききってしまうらしい︵マミィ談︶ 私の狐火便利説が私の中で確定しつつある。まぁ、狐火の他にも 能力が有るけど⋮⋮ ﹁おっと、コレはまだ早い。﹂ ﹃主様? 何を仰っているのですか?﹄ ﹁いや、何でもないよ。ただの悪ノリだから気にしないで。﹂ しっかりと人差し指を口に当てて言いましたとも。 さてと、では早速取り払いましょうかね。 ﹃一つ⋮条件が⋮ある。﹄ 865 ﹁うん、もっと早くに言おうね。で? 条件って何? 叶えられる 範囲なら良いけど。﹂ ﹃俺を⋮⋮眷属にしてくれ⋮⋮それが条件だ。﹄ ﹁え? でも、お前はポチと同等な程強いだろ。何も私の眷属にな らなくても⋮⋮﹂ ﹃確かに⋮⋮俺は並よりは幾分強いだろう⋮⋮だが、興味がある。 ⋮⋮それが理由じゃ⋮ダメか?﹄ 興味があるって、そんな理由で良いのだろうか。 ﹃お前は⋮⋮面白い。⋮⋮今後⋮どの様な事を⋮⋮していくのか⋮ ⋮見てみたい。恩もあるしな。﹄ よくわからないけど、そんなことなら別に良いか。 ﹁こっちも条件が有るけど良い?﹂ ﹃呑めるものなら⋮⋮﹄ ﹁嫁さん⋮藍苺を護ること。それだけ守ってくれるなら⋮﹂ ﹃⋮⋮護ることには慣れていないが⋮⋮お安いご用だ⋮⋮だが、女 子は俺の姿を怖がるだろう⋮⋮﹄ ﹁人って慣れるもんだよ。﹂ 866 ⋮⋮とは言え、嫁さんが大の蛇嫌いなら大丈夫とは言えないだろ うけど⋮⋮庭で蛇がこんにちわ♪した時驚いてはいたけど怖がって はいなかったし⋮⋮大丈夫だよね? ﹁嫌いならごめんね嫁さん⋮﹂ ⋮⋮これだけは我慢してね? 何だか良いやつみたいだよ? ﹁じゃぁ⋮今からやるから⋮動かないでよ、間違って火加減出来な くなったら大変だからね?﹂ ﹃分かった⋮⋮﹄ 大蛇の額に手を当てる⋮⋮こいつ本当に大きいな⋮⋮子供の私の 掌よりもちょっと大きい。さっきはアナコンダみたいって言ったけ どさ⋮⋮私の太股より胴体は太いよ⋮⋮ ﹁こんなに成長するの大変だろうね⋮⋮﹂ ﹃コレでもまだ1歳なんだが⋮⋮﹄ はい? ⋮⋮⋮コレで1歳?⋮⋮ならコレで10歳とか20歳に なったら⋮⋮ドンだけデカくなるの? それともコレで成長は打ち 止めか? 2メートルはある。 ﹃主、大蛇の平均10歳前後で4メートルから5メートルです。1 歳でこの大きさなら成長すれば軽く越えるでしょう。﹄ うん。もっと大きくなると⋮⋮流石歩く妖怪図鑑、ポチぺディア ⋮⋮これからもお世話になります。 867 ちなみに、この世界の単位は前世と同じだ。長さの単位はセンチ メートル、重さはキログラム、水はデシリットル。文字も片仮名、 平仮名、漢字。アルファベットが無いだけで文法もほぼ同じだ。 いつ説明しようかと思って忘れていた。国によっては漢字だけで なく片仮名の名前や地名何かもあるようだ。あまり詳しくは知らな いので詳しくはまたの機会に。 ﹃きゅー⋮ボクの時と違いましゅ⋮﹄ そりゃそうだ。首輪と直接付けられた紋章とでは解き方も違う。 首輪は破壊するだけでわりかし簡単に解除できる。コレでも危険が 全く無いとは言えないけどさ。それに引き換え、紋章を直接付けら れた場合は、最悪削ぎ落とすしかないときがある。火傷とか何かし ら紋章を崩す必要がある。 私が母さんから借りた文献には紋章自体が傷を癒して紋章を修復 してしまう厄介な物もあるとか⋮⋮恐ろしい⋮⋮今回の大蛇か掛け られた呪詛は紋章を破壊するだけで解けるか分からないので呪詛自 体を焼いてしまう事にする。 ﹁模範解答じゃないから、凄く強引な手だしね。﹂ ﹃そうだったんでしゅか∼⋮大蛇さんには悪いでしゅけど、ボクの 時は首輪でよかったでしゅ⋮⋮だってボクは毛皮だから⋮燃えちゃ うでしゅ!!﹄ ﹃大変だな⋮⋮毛皮があるのは⋮⋮﹄ 868 ﹁脱皮も大変そうだけどね。﹂ ﹃そうだな。失敗すると大変だ⋮⋮⋮﹄ そんな事をのほほんと話ながら意識を集中する。奏は嫁さんの周 りをフヨフヨ漂っている。兎天は侍女達を見張っている、もしもの 時のためだ。ポチは黙って私の横に座り大蛇を見つめている。 ふぅ∼⋮燃やすのは紋章の表面の鱗と呪詛だけ⋮⋮鱗が一時的に 無くなるから防御面はがた落ちだろうけど⋮⋮しょうがないよね。 869 暗殺はベットの中に潜む⋮⋮って、捻りがないなぁ︵後書き︶ 新たに大蛇君︵仮︶が仲間になった! どうも、彼の名前は以降出てきます。でわでわまた。m︵︳︳︶ m 870 一難去ったか?また一難︵前書き︶ いつもお読みいただいている方々ありがとうございます。そして 新規に読んでくれた方々もありがとうございます。m︵︳︳︶m 今回のサブタイは増えたペットと嫁さんとの食事風景⋮⋮かな。 871 一難去ったか?また一難 紋章が無くなってオマケに鱗が無くなってちょっとばかしツルツ ル∼⋮になった大蛇君。ゴメンね、鱗ごと消さないとダメだったの だ⋮⋮うん。 コウレン どうも、無事に大蛇に掛けられた呪詛を取り除いた、今非常に精 神的に疲れた紅蓮です。はー∼疲れた⋮⋮。 ﹁コレでもう呪詛の影響は無いよ。他に何かされていなければ⋮ね。 ﹂ ﹃あぁ、嫌な気配が消えた⋮⋮﹄ ﹃言っただろう大蛇よ。主は卒なくこなすと。何せご両親の良いと こ取りとご生母様が言っておられた。﹄ いや、初耳∼。ねぇ、ポチさんよ、お前さんはいったい他にどん なことを知っているんだい? ﹃主様は何でも出来るのですか!?﹄ ﹁何でもできるわけ無いでしょ!﹂ ﹃きゅー⋮できないでしゅか?﹄ ﹁だから出来ないって!!﹂ 全くもう⋮私は何でもできる万能タイプじゃないのよ! 私は天 才でもない、強いて言うなら努力でどうこうしているって感じだ。 嫁さんがこの短期間で着実に私を追い越していく⋮⋮。それは元々 私が戦闘タイプじゃないから⋮。 872 今までどうにか敵を撃退出来たのは、たんに私が今までに訓練を していたから。母さんがしておけと言ってたから。勿論私もそう思 ったから闘う術を身に付けてきた。けど、 やっぱり、才能が有るのと無いのでは全く違うって気付いた。嫁 さん⋮藍苺は、私が強いと思っている。そりゃそうさ、だって嫁さ んはごく最近まで戦闘とか縁遠い所に居たんだし。私は親から受け 継いだチートの上に胡座をかいているだけ。 育ちをそれを苦にせずドンドン強くなっていく藍苺が羨ましい。 全然進歩しないと愚痴を言うのはまだ余裕があるから。本人は気づ いてないけどね。それに、自信を持ったときが一番危ないから、嫁 さん自身が弱いままだと思っているならそのままにしておこうと思 う。 そして純粋に嬉しい。普通なら妬みとかあると思う。けど、不思 議なことに⋮嬉しいんだよ⋮。 だから、藍苺に出来ない事を私が埋めていこうと思うんだ。その 為に、一足先に一人立ちするんだよ⋮。 勿論これも藍苺為じゃない。自分のエゴ。自己満足のため。 ﹃これにしても⋮⋮いったい誰なんですか大蛇さんに呪詛を掛けた 873 のは⋮﹄ ﹃そうだな、誰か分かるか大蛇よ。﹄ ﹃舞子⋮⋮と言っていたな。遠くから⋮⋮あれは扉の向こうから言 ったのだろう⋮⋮確かに言っていたな﹃舞子様﹄と。﹄ おっと、また精神を別世界に飛ばしかけた。流石兎っ天! 私が 聞くより早く大蛇に聞いてくれたよ。できる子だよ。コレはきっと 主人がしっかりしてないから眷属がしっかりしているんだな! え? そこは開き直るな? 事実でしょ。 ﹁やっぱりあの人か⋮⋮﹂ 何が理由だ? 私の命? それとも単なる嫌がらせ??⋮それは 私にか、藍苺か?どっちなんだよ。 そんな事を考えていても切りがないと早々に考えを打ちきり、侍 女の皆さんの様子を見る。薬が効いているのかスヤスヤ眠ったまま だ。薬が切れるまでそっとしておこう。それより、嫁さんの事が気 掛かりだ。 一日やそこらであんなに寝不足で隈が出来るなんて⋮⋮また呪詛 の影響でも受けているのか⋮⋮まぁ、何にしろ起きたら名にか食べ させないと⋮⋮その為に昨日調理場を借りたんだから。 ﹁いったい何れだけ心配させたんだろう⋮⋮﹂ 寝ているソファーに近付き寝顔を見つめる。まつげ長いな⋮⋮。 874 それに、どうして私は初対面で直ぐに藍苺を信用したのだろう⋮ ⋮。今思えば、似ていたんだ。 ﹁︵写真で見た小さい頃の⋮⋮ジンに似ていたんだ⋮⋮︶﹂ 昔は女の子みたい⋮何てからかわれたと言っていたし、藍苺は彼 にとても似ていた⋮⋮。 もしかしてミケはジンの小さい頃を﹃藍苺﹄のモデルにしたのか も。それくらい似ていた。 ん?⋮⋮いや、ちょっと待って。藍苺は前世が男で、﹃藍苺﹄の 声を担当した。その位声が高かった⋮⋮ジンも出会った当時は声変 わりしていなかった⋮⋮? 二十歳で声変わりしていないって、希 に有るし⋮⋮? 偶然か? もしかして⋮⋮ジンは藍苺? じゃあ⋮ジンは死んだのか? 子 供⋮⋮シュウは? と言うより⋮⋮私は⋮⋮ 私は何で死んだんだ⋮⋮ 875 ﹃あ⋮⋮様⋮⋮⋮様⋮⋮⋮⋮主様!!﹄ ﹁!!!﹂ まただ⋮⋮前世を思い出そうとすると意識が飛びそうになる。で も、思い出した。子供の名前はシュウ⋮⋮私は⋮⋮シュウと一緒に 何処かに行こうとしていたんだ。けど、それから先が思い出せない。 きっと私自身が拒んでいるんだ。それほど嫌な記憶なのか⋮⋮。そ れでも思い出したい。 ⋮⋮違うな。本当はもう分かっているんだ。私はその途中で死ん だことも、シュウもその時一緒に⋮⋮⋮ ﹁恨んでいるのかな⋮⋮﹂ ﹃⋮⋮主?﹄ 記憶が有るなら恨まれても仕方ないよね。まだ藍苺がジンだと確 定していないけど、もしそうなら⋮⋮ 黙って⋮⋮いるしかない? 今までの関係が崩れるから?⋮⋮⋮ 知らないことも幸せって言うよね⋮⋮。 言って私が楽になるだろう。けど、藍苺は? 何が﹁自分のエゴのため﹂だよ⋮⋮しっかり藍苺の事も考えに入 れてんじゃんか⋮⋮。 876 もぅあぁぁ⋮やめやめ。考えるのやめ。放棄する。今は放棄する。 もっとゆっくり出来るときに考えよう。藍苺に聞かれたら正直に答 えよう。でも、それまでは考えよう。私ってホントに弱虫だ。 ﹁ん⋮⋮⋮ん? れ?﹂ ﹁やっと起きたの? おそよう嫁さん。朝御飯食べなよ?用意した から。﹂ テーブルに広げた料理を嫁さんはガン見している。ドンだけ腹へ ってんだよ⋮⋮。 ﹁遠慮せず食べなよ。私も朝御飯食いっぱぐれたから一緒に食べる し。﹂ ﹁⋮⋮俺⋮寝てたのか?﹂ 未だボーとする嫁さんに水差しからコップに水をあけながら答え る。よほど精神的にキテたみたいだ。余程緊張していたのか気を失 うように眠ったようで記憶が無いようだ。 ﹁相当眠かったみたいだね⋮はい水。﹂ 877 ﹁ん、ありがとう。⋮⋮はぁ⋮⋮で?﹂ ﹁ん?﹂ ﹁傷、ホントに大丈夫なんだよな?﹂ ﹁疑り深いね⋮⋮何なら見せようか?﹂ 実際治ったと言っても傷痕が残っている。見せたくはないが信じ ないのなら見せるしかない。⋮⋮まぁそんな事を言ったら嫁さんの 反応がどうなるか何て予想がつくけど⋮⋮ ﹁おまっ⋮バッカ! な、何で見なきゃいけないんだよ!﹂ ﹁え? だって信じないの嫁さんじゃんかぁ。なら見せるしかない でしょ? それに、精神的に男でしょ⋮私の裸なんか見ても何とも ないんでしょ?﹂ ﹁気分の問題だ!!︵だから昔から慎みを持てと言ってるだろう!︶ ﹂ 真っ赤になって必至になっている嫁さんを見ていると、何だかと っても久しぶりに感じだ。私も⋮寂しかったのか⋮⋮。 にしても、面白いくらい慌てている⋮⋮。 ﹁さあさあ、そんな事は後にして。朝御飯食べようよ。﹂ ﹁お前なぁ⋮まぁいっか。⋮今日の朝御飯は⋮⋮サラダにポタージ ュ⋮ハムと卵のサンドイッチか⋮⋮サラダ多くないか⋮⋮﹂ そうなのだ、たぶんそうであろうきっと嫁さんはあまり食べてい なかった野菜の盛り合わせ。嫁さんが食べやすいように葉野菜は蒸 して温野菜に、フレンチドレッシングをかけた。ポタージュはコー ンではなく普通のポタージュ。コーンポタージュはコーンが無かっ 878 たし手間が掛かる。ハムと卵のサンドイッチはポーチに入れていた ハムとマヨネーズで作った。ハムのサンドイッチにはキューリを卵 のサンドイッチにはキャベツを一緒に挟んだ。 ﹁食べてないでしょ? や・さ・い?お見通しだよ♪﹂ ﹁ぐっ⋮⋮何で分かったんだ⋮⋮﹂ フフフフ⋮⋮そりゃ⋮⋮いつも野菜と睨み合いしてればねぇ? 私の目の届かない所では食べないだろうさ。 ﹁まぁ、これも試練だと思って食べなよ。野菜は蒸してあるから食 べやすいよ⋮⋮︵まぁそれは嫌いじゃない私から見ての感想だけど︶ ﹂ ﹁いただきます﹂と言い恐る恐る箸をサラダに近づけ蒸しレタス を摘まむ⋮⋮いや、レタスは食べれるでしょ嫁さん。 そんなでも渋々食べてくれるのは嬉いけどね。 サラダを何とか食べ終わった嫁さん。実は私とのとある約束事が 有る。 私との食事での約束事 その1、﹁いただきます﹂﹁ごちそうさま﹂は必ず言うこと。こ れって大切だよね。育ちが良いみたいだし、コレは言われなくても やっている。 その2、嫌いなもの︵野菜︶は最初︵の方︶に食べる。コレは私 879 が見ていないとたまに残すから。もしも残したり証拠隠滅を図った りしたら⋮次の日の料理は野菜特盛にすると言っている。 その3、腹八分目以上食べなくてもよし。お腹一杯なら無理して 食べることない。 等々⋮ 一応言っておくけど、吐きそうになる程嫌いな物は無理に食べさ せない。私も牛乳がダメだからね。それと、豆腐の白和え⋮⋮甘い 豆腐が何故か苦手だ。この二つは食べた瞬間吐きたくなる。何故か は知らない。 にしても、食べ物の好みも同じなんだね。変わらないんだね⋮⋮ 日本食が好きで、甘いお菓子に目がなくて⋮⋮ニンジンと癖の強い 野菜がダメ何てね⋮ そうだ、私が藍苺と初対面の時、何か安心したんだ。これって前 世も関係あるのかな?少なからず。 ﹁モグモグ⋮⋮﹂ ﹁そんなに急いで食べると⋮⋮﹂ ﹁ムグ⋮!!﹂ ﹁言わんこっちゃない⋮⋮はい水。﹂ ﹁んぐっ⋮⋮ふぅ∼助かった。﹂ 美味しそうに食べているのを見るのはホントに楽しい。そうそう、 ポタージュにはある秘密が⋮⋮ 880 ﹁そのポタージュ美味しい?﹂ ﹁うん、旨い。﹂ フフ⋮⋮嫁さんよ、その特製ポタージュにはね、⋮⋮ニンジンが 入っているのだよ⋮⋮気付かんかね? フフフフ⋮⋮悪戯が成功し た気分だ。 粗方食べ終えた嫁さんにお茶を渡し一言。 ﹁それで、周りはスルー何だね﹂ ﹁は?﹂ え、何が?といった感じの顔をする嫁さん。周りだよ周り。不自 然でしょ⋮⋮壁際に寄り掛かったまま眠っている侍女達、興味津々 に料理を見詰める大蛇と私の眷属達⋮⋮不自然でしょ⋮? ﹁⋮⋮⋮何だこの状況⋮﹂ ﹁そうだね。混沌とまではいかないけど⋮⋮あ、そうそう、この大 蛇君は新しい眷属だからね。怖がらないでやってね。気は良いやつ だから。﹂ ﹃ちなみに、名はまだ無い﹄ ﹁ノリが良いのか?﹂ ﹁いや、知らなかった。さっきまでは物静かな感じだったよ。﹂ ﹃主よ、大蛇は恐がられぬ様にと頑張っているのだ。﹄ ﹁そ、そうなの⋮?﹂ 881 思わず声が裏返った。何か違う方向に行ってるよ大蛇君。 ﹁ポチ何だって?﹂ ﹁嫁さんに恐がられない様にしているんだって⋮﹂ ﹁何んか違う⋮⋮﹂ ﹁しぃー、言っちゃダメ﹂ 本人︵蛇︶はスゴく真面目にやってるみたいだからね。そっとし といてやろうよ⋮⋮実際は面白いからが半分何だけどね。 ﹃掴みはバッチしでしゅよ♪﹄ ﹃そ、そうか?﹄ ﹃︵違う⋮何か違う⋮主様、ボケ属性と言う者が増えました⋮⋮︶﹄ どうしよう⋮⋮眷属達がボケに偏りかけている⋮⋮大丈夫だろう か⋮⋮ははは⋮⋮ ﹁っ⋮えっ⋮と、そう言えば嫁さんに渡したポーチに食料入れてた の言い忘れてたけど⋮⋮﹂ ﹁ああ、アレなら気付いたよ。サンキュ、アレで助かった。それに しても、よくマヨネーズとかハムとか作れたな⋮⋮﹂ ﹁アレね。材料さえ揃えば何とか⋮後は根性とヤル気だけあれば案 外出来たよ。﹂ マヨネーズは酢と卵と油があれば試行錯誤してれば出来なくもな い︵かなり掛かったが︶。ハムは肉とチップ︵木屑とか︶燻製を燻 す容器さえあれば⋮⋮何度も失敗したが出来た。何度肉をダメにし たか⋮⋮。勿論食卓に出す者は使っていない。食べれない、食べる には的さない物を試験的に使い、ある程度感覚が掴めた時初めて食 882 べれる部位を使った。だって失敗は仕方ないが、肉は勿体ないもん。 あ、勿論失敗作も私が美味しく⋮⋮はなかったのが多かったが食 べました。 ﹁ホントに作ったんだな⋮﹂ ﹁この世界、有るものと無いものがムラがあるんだよね⋮⋮何でこ んなのがあるの?ってのがあったり⋮。だから結構作れるよ? 全 く無いもの有るけど⋮⋮チーズとかヨーグルトとか納豆⋮は藁が有 れば⋮⋮作れるかな⋮味噌は無いけど醤油があるなんてね⋮⋮︵流 石ゲームを基準に作られた世界。色々と穴だらけ。︶﹂ ﹁で?﹂ ﹁はい?﹂ ﹁⋮⋮側室舞子だよ。どうなった?﹂ ﹁知らない。大人以外外に出されたから。﹂ ﹁⋮⋮俺も気絶したし?﹂ ﹁ん?まぁ、それがなくても出されてたと思うよ。﹂ 心配顔でこちらを見る嫁さんに一応フォローしておく。でもそれ はホントに問答無用で外に出されたから。白の王は私や藍苺が前世 の記憶があるとは知らないのかもしれない。何だか対応が子供相手 な気がする。 ﹁どうなるんだろうな⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮母さんが決着着けるって言っていたんだし、なるようになる ⋮しか言えないね。﹂ 883 母さんの獲物は横取りしない。コレは小さい頃から決めていた事 だ。獲物って何かって? フフ⋮そりゃ⋮⋮敵の事だよ。 ﹁ま、ここで呼ばれるまで待とう。︵侍女達がああなら⋮⋮城中の 人々はどうなっているかな⋮⋮︶﹂ 私なら、大蛇の様な呪詛を込めた紋章をばら蒔く。そして城中を 手中に納めるだろうね。その方が楽だから。如何に強くても操られ た人間を倒すのには時間が掛かる。無意識にでも手加減したりする ケイ から。私も頭は宜しくないからこんな事しか思い付かない。はぁ⋮ もう少しお利口になりたいよ⋮⋮ ギョク ﹁レン、あの人達はどうしたんだ?﹂ ショウ ﹁彼女達は侍女の皆さんだよ。簪の玉が白瑪瑙の人が筆頭侍女の啓 璋さん。他の三人は王妃付きのハイテンションな侍女四人組。名前 は知らない。︵面識無いのかな?︶﹂ この国の⋮⋮いや、この世界では女官や侍女の位の見分けかたは 簪の玉と着物の色の組み合わせ。その国の色を多く身に付けている 人が位が高く、簪にその国の色の玉を身に付けていると長、つまり 筆頭侍女の証しなんだそうだ。王妃付きの四人組は幾重にも着重ね た着物に白の着物が他の侍女よりも圧倒的に多かった。 ちなみに、啓璋さんは簪の白瑪瑙以外、着物は四人組よりも白の が少ない。それは生まれが四人組よりも下だからだろう。仕事熱心 な啓璋さんは生まれを物ともせず出世したのだろうか? 嫁さんには事のあらましを噛み砕いて話した。 884 ﹁なるほどな⋮だからその大蛇の額⋮やけにスベスベ⋮⋮いや悪い。 脱皮したら治るよ⋮⋮︵多分︶﹂ ﹁︵いま心の中で多分って言った。︶仕方なかったんだよ⋮⋮うん。 ﹂ ﹃別に気にしていない⋮⋮そう気にしないで良い﹄ 良いやつだな大蛇。君の名前は何にしようかな⋮⋮ ﹁なら迂闊に部屋から出れないな⋮﹂ ﹁何かあったら母さんの方から連絡あるよ。それにもしもの時は兎 天が居るしね♪﹂ ﹃はい!お任せください!﹄ 元気よく片腕︵翼だが︶答を上げてえた兎天 を見て二人で微笑む。和やかな雰囲気になった。こう、可愛いもの を見ていると和むよね∼。 ﹁さて、朝御飯も済んだことだし、片付けよう。﹂ ﹁これみんないつ用意したんだよ⋮﹂ ﹁昨夜にちょっと調理場借りたんだよ。食材もね♪﹂ ﹁ちゃっかりしてる⋮⋮﹂ ﹁そんなことないよ⋮この借りをいつ返そうかと思ってるよ⋮⋮ま ぁ気長に考えても良いみたい。あ、そうだ!﹂ 思い出してポーチを探る。確かここに入れておいた⋮ハズ⋮ ﹁あったあった⋮ハイこれ。﹂ ﹁ん?何の包みだ?⋮⋮おにぎり!?﹂ ﹁そう、すっかりご無沙汰なおにぎりだよお米だよ。城は良いね、 885 米が安く手に入って⋮⋮相場の3割安い。しかも、古古米だからも っと安い。日本でも古米とか古古米とか余ってるからもしかしたら ⋮と思って王に聞いてみたら、フフ⋮今度からお米が食べれるよ♪ 週1に雑穀米はやるけどね。﹂ え?違う? それを聞いた嫁さんは︵゜ロ゜︶な顔で唖然としていた。分かる よ⋮私が強かだからそれに呆れているんでしょ? ﹁まさかそんな手があるとは⋮思わなかった。﹂ 何が? あぁ∼、白の国で古米が余ってるのが不思議だって? そんなの簡単だよ。 ﹁白の国って豊かだからみんな新米を食べたがる。日本でも同じた ったでしょ? まぁ、実際余ってたのは国が備蓄している米が余っ てたって話だし、日本の米業者で余ってたかは知らないけどさ⋮⋮ でも、新米を食べたがる傾向はあったでしょ?﹂ ﹁まぁ確かに新米を食べたい。でもそんなに余るもんなのか?﹂ んー。コレはちょいと難しい話になりそうだね。私もあまり詳し くはない。でもさ、毎年決まった量を、れもかなりのり量を備蓄す るんだし、同じ量の古古米が毎年出る。そんで⋮⋮何だっけ⋮⋮え ーと、生産に消費が追い付いてないんだ。うん。かなり端折ったけ ど、こんな感じだ、多分。 ﹁そもそもここ最近大きな飢餓も無いし、戦もない。備蓄は余って いるハズって思ったんだ。確率はそんなに高くなかったけど⋮当た ってよかった。﹂ ﹁よくそんなこと思い付くな⋮﹂ ﹁スゴいでしょ♪ まぁね、伊達にワイドショーとかニュース見て 886 たわけじゃないし。﹂ お昼頃頃のニュースって結構ためになる。それにテレビって結構 使える情報があるよ。薫製の作り方とか、干物の作り方とか、チー ズの作り方とか⋮⋮あ、思い出した。チーズに必要な酵素は偶蹄目 の牛や山羊等の胃袋から取れるんだ⋮⋮確か⋮第四胃袋⋮だったか な? しかも、子牛の胃から取れるんだよね⋮⋮カビでも代用出来 るって聞いたけど⋮詳しくなんて知らない。はぁ⋮チーズは諦めよ うそうしよう。生産性が悪いし。 ﹁なあレン、安いって⋮⋮買ったのか?﹂ ﹁ポケットマネーで買えたよ。他にちょいとあげたりしたけど。﹂ 家の近くに生える珍しい野草とか薬草何かをね。蓄財も立派な主 婦︵主夫︶のたしなみだよ。勿論無理のないものだけね。 ﹁ポケットマネー⋮って、自分の金で買っても良いのか?﹂ ﹁今の私の趣味は料理だからね。別に気にしていない。あっても宝 の持ち腐れだし、ここぞって時に使わないと。﹂ そのここぞって時が今だっただけだ。後悔なんてしていない。古 古米を半年分買っても本来の1/3にも満たない程安い。処分に困 るなら、安く売りたいが、自国では誰も買ってはくれない。少数は 買ってはくれるが︵その一人が私︶。他国に売りたいが、各国の王 が待ったをかけた。自分の国の米が売れなくなるからだ。特に黄の 国では貴族以外は安くて安全、古古米でも良いと言った国民達で溢 れている。と、こんなもんだ。理由はまだ有るそうだけど、殆ど覚 えていない。 ﹁豊かなのも大変だな⋮﹂ 887 ﹁うん。でもね、古古米よりも古くなった物は飼料として使われて いるんだって。それに難民も増えてきたから⋮⋮そろそろ古古米が 無くなるかもね。﹂ ﹁それって⋮⋮危ないんじゃないか? ﹁いや、それが全然⋮⋮古米の方が圧倒的に多いから⋮⋮﹂ ﹁は?︵・︳・︶﹂ ﹁豊作だったんだって⋮その年。だから例年の数倍取れたらしいよ ⋮⋮﹂ ﹁︵・︳・︶⋮⋮⋮なら何で米が高くなるんだよ。﹂ そう、腑に落ちないのはそこなんだよ! 例年よりも米が豊作⋮⋮なのに去年は⋮⋮不作⋮とまでは行かな いけど、獲れる量はガクンと減った。当たり前だけど。前の年が獲 れすぎたんだ。そんで、皆さん新米好き⋮⋮例年よりも多い古米達 は早々に飼料に⋮⋮勿体ない! ﹁古米だって食べれんだよ! 薫りが飛んでる? そんなの本当に 分かって食べてるの!? 日頃ご飯かっ込んで食べてない? もっ と食べ物を大切にしようよ。ねえ?﹂ ﹁そ、そうだな⋮⋮︵何かのスイッチ入ったな︶﹂ 牛肉が高くなったのだって、どこぞの貴族様が﹁あの品種の牛を 王に献上する。立派な牛を育てた者には褒美を遣わす⋮﹂何て言っ た所為で皆さん育ちの遅い、デリケートな牛を手塩にかけて育てた もんだから⋮⋮ええ、えぇ⋮高くなりましたとも。 目玉が飛び出るほどにね! 牛肉は日頃食べないから良いけど。 豚までくるとはね⋮⋮ははは⋮養豚農家の皆さんが豚から牛にチェ ンジしたのには驚いたよ。ねえ?豚を育てるのに誇りは無かったの 888 か? 鶏はその余波を受けなかったから良かったものの⋮⋮はぁ⋮家庭 は火の車寸前だったよ。何せ⋮⋮豚肉好きだからね⋮うちの家族。 ﹁鞍替えするなら後の事も考えてほしいよね⋮﹂ ﹁あぁ。元々のサイクルを崩す何て思わなかったんだな。何処か片 方に片寄るとバランスが一気に崩れるからな。﹂ まぁ、牛に心血注いだ結果、貴族様のお眼鏡に叶わず普通に売ら れた牛達は美味しいけど⋮高いと庶民に不評だったよ。元が取れな くて農場を傾けた者も居たとか。それでも頑固一徹に普通の育てか たをして普通の値段で売った者はいつもより売れたとか⋮⋮普通が 一番だね。いつも通りにしていることもライト必要な時もあるんだ ね。 ﹁でも、ウィンナーとか材料の肉はどうしたんだ?﹂ ﹁火加減が分からないから最初に鶏肉とか、豚の色んな部位を使っ たんだよ。日頃食べない所とか。豚の小腸とか白の国では食べない からね。﹂ 実質タダの部位とか使ったのだ。小腸何て食べないしね。ハムは 大変だった。纏まった肉を使うから遣り繰りが大変だったよ。食卓 に出すか迷った。 あ、外に出れないからみんなマミィに頼みましたよ。感ずいては いたけど、ここまで出来ているのは知らなかったんじゃない? ﹁よくやるよ⋮⋮﹂ 889 ﹁趣味だからね。﹂ ﹃ふむ⋮⋮いつもこんな雰囲気なのか?﹄ ﹃ああ、いつもあの通りだな。﹄ ﹃主様は、奥様にゾッコン︵死語だよそれ︶なんです。﹄ ﹃いつも﹁らぶらぶ﹂でしゅ∼﹄ 会話に入ってこないと思ったら⋮⋮ ﹁ほら、ご飯あげるからおいで⋮︵恥ずかしいでしょ⋮⋮もう︶﹂ ﹃ご飯!﹄ ﹃僕もくだしゃい♪﹄ ﹃ご飯とは⋮⋮何が出てくるのだ?﹄ ﹃肉だろう⋮⋮主、私は朝方自分で捕りました。他の者にやってく ださい。﹄ 外で獲物を捕ってくる事が多いポチは時々こんな事を言う。お利 口さんなのは分かるけど、眷属にまで食料事情を心配されるのは⋮ ⋮主として恥ずかしいやら、情けないやら⋮⋮ ﹁不甲斐ない主でごめんよ⋮⋮﹂ ﹃いえ、そうではなく⋮⋮散歩のついでに済ませただけ、主が気に することではない。﹄ ﹁︵外見可愛くてもやっぱり狼何だな︶﹂ ﹃私は燻した肉が良いです♪﹄ ﹃燻す⋮⋮とは何だ?﹄ ﹃きゅ∼、僕もよくわからないでしゅ⋮﹄ 兎天の両親にはよく燻した肉︵味がない物︶をお裾分けしていた から兎天も食べていたのな? 890 ﹃大蛇よ、燻すとは一定の温度と煙で肉を焼くことだ。詳しくは知 らんが、燻すと旨味が恐縮されて旨いぞ。﹄ ﹃何と!⋮⋮ならば是非食べたい⋮⋮︵じぃ∼︶﹄ ﹃両親から貰ったときは感動してそこら中を走り回ったほどです! ⋮︵じぃ∼︶﹄ ﹃僕は本来は何も食べなくても良いんでしゅ⋮⋮︵じぃ∼︶﹄ ﹃だが、アレは食べて損はない⋮⋮︵チラッ︶﹄ ﹁︵餌付けされてるぞ⋮⋮俺もか。︶﹂ いやぁ⋮⋮薫製に失敗した物はあげてないけど試作段階の成功し たやつはポチとか兎天の両親とか肉食系の妖怪にとょこちょこあげ てたし⋮⋮でも、血が滴る生肉の方が良いんじゃないの?って聞い たら⋮⋮ ﹃﹃﹃両方美味しいです!﹄﹄﹄ ⋮⋮らしい。 見た目鶏肉のジャーキーだ。ペット用の物も前世で売ってた気が する。 ﹁みんなの分有るから⋮⋮奏は食べても大丈夫なの?それに蛇って 生肉以外食べても大丈夫なの?﹂ ﹃きゅ? 大丈夫でしゅよ? 森にしゅんで居た時も木の実を食べ たこともありましゅし﹄ ﹃俺達の種族は普通の蛇から魔物に成った種族だ⋮⋮魔物は基本雑 食だ⋮⋮問題はない。﹄ 891 へー。大蛇って魔物なんだ⋮⋮でも、魔物と言うよりは⋮⋮魔獣 ではないか? ﹁あ、大蛇の名前思い付いた!﹂ ヨルム ﹁ん?何て名前にするんだ?﹂ ﹁⋮⋮夜夢何て良いんじゃない?﹂ ヨルム ﹃夜夢⋮⋮何やら懐かしい⋮⋮俺の名は夜夢だ。﹄ ﹃︵主⋮⋮あなたは⋮⋮何処かで覚えているのですね⋮︶﹄ 夜夢ってば、その名前が懐かしい何て、もしかして昔誰かに使役 されてたのかな? ﹁なあレン⋮⋮俺にその薫製貸してくれ⋮⋮その、俺から手渡した い⋮⋮︵ウキウキ︶﹂ どうやら嫁さんの動物好きが発動したようだ。でも自分の手であ げたいならどうぞ♪と、嫁さんに薫製をみんな渡した。ポチ達は尻 尾が有るものはパタパタ⋮目はキラキラして嫁さんの周りに集まっ た。 微笑ましい光景が広がる。嫁さんは蛇の夜夢に臆することなく餌 をあげている。楽しそうで何よりだ⋮⋮ ﹁楽しそうだなぁ⋮⋮﹂ こんな状況下でこんな事をしているのは変だろう。けど、嫁さん 892 の精神状況を考えると少しでもリラックスしてもらいたい。何だか 過保護すぎでダメだな⋮⋮これからは嫁さん離れしないと⋮⋮ そんなことを考えていたときそれは起きた。 ﹁ゾクッ⋮⋮︵何だ? コレは⋮⋮妖力!!︶﹂ ﹃若様! 御気お付けください、側室側が!!﹄ いきなり現れた母さんの眷属、ヤタガラスの隊員は叫ぶ。その言 葉を言い終わる前に藍苺に手を伸ばした⋮⋮⋮が、 ﹁あ⋮⋮⋮⋮﹂ 手が届くあと少しの所で藍苺は消えた⋮⋮周りに居た眷属達も一 緒に。 ﹁間に合わなかった!!﹂ 大きな音を立てて開いた扉から母さんが入ってきた。何が起きた の?⋮⋮藍苺はどこにいるの? ﹃お前の意見を聞こう﹄ 遠くでやけに響く聞き覚えの無い男の声が聞こえた。 893 894 一難去ったか?また一難︵後書き︶ ヨルム 大蛇君の名前が決まりました。夜夢です。夢にしようか無にしよ うか迷いましたが、夜夢にしました。 895 誰の思惑か︵前書き︶ お読みいただき感謝感謝です。m︵︳︳︶m 今回は謎の声と対峙⋮⋮ 896 誰の思惑か 白⋮⋮真っ白⋮⋮⋮私の一番嫌いな色。 髪の色⋮⋮肌の色⋮⋮生まれた場所がよくなかったのか⋮⋮私の 嫌いな色⋮⋮あ、でも、今は違うか。肌はそこまで白くない。日焼 けもしないけど。 ﹁ここ何処よ⋮⋮⋮てか⋮⋮誰?﹂ 一面真っ白な部屋のこれまた真っ白な椅子に座る白い髪の長髪の 男性が居た。目まで白い。ホントに白づくしで目がチカチカしてき た。 ﹃神に向かいそんな事を言うか⋮⋮ふ、度胸が有るのか⋮⋮﹄ ﹁え?⋮⋮髪?それとも紙?﹂ ﹃神だ馬鹿者。うつけか?それとも道化のふりか?﹄ さっきまで白の国の一室に居たのに⋮いつの間に移動したんだ? いや、それよりも⋮⋮コイツ誰だよ⋮神だって? ハッ! ﹃お前今あからさまに私を馬鹿にしただろう﹄ ﹁うん。﹂ ﹃⋮⋮⋮﹄ 897 正直に答えたら黙りだ。何がしたいのよ⋮⋮分かってるよ⋮私が 悪いってさ⋮⋮ ﹃自覚があったのだな⋮﹄ ﹁何でも良いから本題を言いなよ。こっちは早く嫁さんを探さない といけないんだから。速攻で終わらせたいんだよ。﹂ ﹃ふん。昔から変わらんな⋮⋮分かった。では早速本題だ。私は一 応神々を最高神亡き後束ねる者だ。私は今非常に困っている。﹄ ﹁他の神々が言うこと聞かないとか?﹂ そんな訳けないか⋮⋮ ﹃全くもってその通り。﹄ ⋮⋮⋮そうか、神々も十人十色なわけだ⋮⋮何か大変そう⋮⋮コ イツも苦労してんだな。胃穴でもそその内空くんじゃないか? ﹃オホンッ⋮⋮話の続きだ、この神々が色々な世界でやりたい放 題で困っていた。﹄ ・・ 困っていた⋮⋮ねぇ、いたって事は過去形か? ﹃そうだな、過去形だ。ある一人を除いては⋮な。﹄ ﹁その事に何の関係⋮⋮⋮側室舞子のバックに居る神様?﹂ 898 ﹃そうだ、あの者だ。しかし、とある神があの愚か者と賭けをした。 ﹄ 嫌な予感⋮⋮賭けをしたって私らの事が関係しているんでしょ、 どうせ。 ﹃分かっているなら話が早い。今から少し前、お前達の両親に追い 詰められたあの側室が手も足も出ない状態に追い込まれてな⋮⋮王 手をかける所まで行ったのだが⋮少し邪魔が入ってな。﹄ その邪魔をしたのか⋮⋮アンタが愚か者と言う神様なんでしょ。 ん?ちょっと待てよ、なら嫁さんを何処かに拐ったのは⋮⋮ ﹃その愚か者だ。奴は決め事を破った。﹁我々神が直接手を出すこ とは禁止﹂だったのだかな。﹄ それって、ルール違反だよね⋮⋮で?何でアンタが出てきたのさ。 ﹃それは簡単だ。決まりを守らぬのなら審判者からペナルティが有 るのだ。﹄ さっきまでカタカナ使わなかったのにいきなり使うなよ⋮⋮てか アンタ⋮⋮私の心の中読むなよ⋮ ﹃お前が口に出さないからだ。で、話を戻すぞ。﹄ アイアイサー⋮ ﹃投げ槍だな⋮真面目にやらんか。お前の嫁を助ける手立てを授け よう。﹄ 899 それって私に何らかの副作用でも有るんじゃない? そんなのイ ヤだよ。 ﹃そろそろ声に出さんか⋮⋮副作用はない。だが、賭けだ。﹄ アンタら賭け事が好きだね。神様ってのはよっぽど暇なんだね。 口で喋るより早いし良いじゃん、めんどくさい。 ﹃⋮⋮オホンッ⋮さて、賭けの内容だか⋮﹄ スルーかよオイ。目が泳いでるぞ⋮⋮ ﹃藍苺の場所まで案内してやる。だが、我らは基本人に手を直接貸 すことが出来ない。﹄ そりゃそうでしょ。神様がホイホイと手を貸したら面倒事が増え るだろ⋮⋮ ﹃ふぅ⋮⋮お前のように考える者がもう少し多ければな⋮⋮﹄ ハイハイ⋮⋮ほら、本題に戻りなよ。 ﹃ん。それでな、お前は試練を受けなければならない。﹄ ﹁神様ってのは試練が好きなの?﹂ 大体の神様ってのは試練を人間に課せる。それで合格したものは 良いが、失格になったものはそら恐ろしい末路を辿る者もいる。 900 白い髪の神様は腕組みし、威厳たっぷりな面持ちでこう言った。 ﹃試練が終わるまではお前に私の加護をつけよう⋮⋮だが、もし⋮ ⋮失敗すれば⋮⋮﹄ ﹁藍苺の命はないとか止めてよね。﹂ 白い髪の神様はとても侵害だ、といった顔で私を見ると⋮ ﹃私を暇潰しで人間を弄ぶ神と一緒にしないでくれ。まぁ⋮昔は無 慈悲だったかもしれない。が、神も幾分は学ぶ事もある。お前達の ようにな。﹄ は? 私達が何なんだよ。ごめん、もう少し噛み砕いて話してく れない?私の頭はそんなに良くないんだから。 そう言うと白い髪の神様⋮⋮面倒だから白神でいいや、その白神 が呆れた様な目でこちらを見る。 ﹃お前は⋮⋮いや、その話は追々話す。それより試練だ。﹄ 追々ってのは今度また会うって事だよね⋮⋮面倒だから嫌なんだ けど⋮⋮ ﹃そう言うな。こちらも暇なんだ付き合え、暇潰しに。﹄ ﹁オイ、今のが本音だよな?﹂ 白神は﹁フフン︵ニヤリ︶﹂と笑いながら明後日の方向を向く。 それって肯定だよね? 901 ﹃︵しかし⋮白神か、久方ぶりに聞く名だな︶﹄ 何か考えているような白神だが、私も時間が惜しい、早く話を終 えたい。 ﹃それもそうだな、何時までも時間を潰すのは得策ではないな⋮⋮ だが安心しろ、この空間は時間は流れていない。元の場所の時間は 止まっている。﹄ で?説明続けて。 ﹃そんなに複雑なものでもない。至極単純だ。本物を見抜け。それ だけだ。﹄ 詰まり、本物の藍苺を見つければ良いわけだ。嫁さんを見分けて 当たれば⋮⋮ ﹃お前に私の加護を永久的に与えよう。﹄ ﹁要らない。﹂ ﹃少しは悩まんか!﹄ だって加護とか面倒事の素だよね。国から狙われたり⋮権力者に 狙われたり⋮⋮逆恨みされたり⋮良い事無さそう⋮⋮ ﹃⋮⋮確かに⋮⋮古来より加護を授けた者は極めて短命か波乱万丈 な人生であったな⋮⋮﹄ 902 顎に手を当て考え込む白神。オイ⋮良いこと無いだろそれ。みん な迷惑がってたよきっと。 ﹁そんなの要らないから嫁さんを探しに行かせてよ。相手神なんだ ろ? 早くしないと何かあったらどうすんの? その神が幼女趣味 ならさぁ!?﹂ ﹃まぁ⋮⋮それは無いから安心しろ。あ奴は年上好きだ。﹄ 神にも色々あんだね⋮⋮ ﹃そうだな⋮⋮さて、そのあ奴だが、試練のあいだ邪魔をしてくる だろう。直接的な攻撃は私の加護で効かぬ⋮⋮があの愚か者は人の 弱味を握る事は得意だ⋮⋮気を付けよ。﹄ ふぅーん⋮⋮なら私なんて一溜まりも無いでしょ。だって私は⋮⋮ ﹁劣等感の塊の私に太刀打ちなんか出来やしないよ。人選ミスだね。 私は今まで誰にも本心を晒したことなんか無い、ずるいやつなんだ よ⋮⋮藍苺にも⋮⋮前世のジンにも⋮⋮自分に不利なことは分厚い 面の皮で隠してた。それが!⋮⋮それが神様に何て勝てないよ⋮⋮﹂ 何時も隠していた。どんなに親しい友人にも旦那のジンにも⋮⋮ 転生した藍苺にも⋮⋮人の事は偉そうにアドバイスする癖に⋮自分 の事は棚にあげて⋮ いくせいそう ﹃そうだな。だが、それほど正直な人間がそんなに居るか? 私は 何年何億と永い時を幾星霜見てきた。そんな正直な人間は極希にし か居なかったぞ。﹄ 903 そう? でもさ⋮ ﹃ふっ、弱気とは⋮⋮それでは藍苺は死ぬぞ。なにしろお前達の言 うフラグとやらが建ったぞ。それも死亡フラグとやらがな。良いの か?﹄ 呆然となった。死ぬ?また?ジン⋮違う、藍苺が死ぬ? また私 は⋮守れない⋮ 違う、守れないとか守るとか関係無い。絶対に死なせない。私の 目の黒い内は。 ﹃あまり悩まないんだな⋮﹄ ﹁悩んでどうする。悩んで解決するなら私は何年も悩むよ。けどさ、 この問題は解決しない。解決しないどころか、最悪な結末になる。 そんなの私は嫌だ。﹂ その様子を見ていた白神は少し考えるような素振りをしてからこ う言った。 ﹃フラグとやらをへし折るのだな﹄ 何処か楽しそうに聞いてくる白神に少しイラッ☆ときたが、何と かスルーする。 ﹃良いだろう⋮⋮試練を見事乗り越えたなら加護以外にお前に贈り 物をしよう。そんなに嫌がるな、それほど正直な顔をするな。心配 するな、狙われるようなことはしない。それよりも、役に立つだろ う⋮﹄ 904 自信満々に述べた白神はフフンとまた腕組みした。 ﹁⋮⋮まぁその事は後で話すとして、色々聞きたいんだけど﹂ ﹃何だ? 時間は良いのか? 如何に止まっているにしても、焦り は無いのか?﹄ 確かにその意見は最もだ。でも今は不思議と落ち着いている。落 ち着きて居ないといけない。 ﹃で、聞きたい事とは?﹄ ﹁母さん側の神と側室舞子側の神について少し。それと⋮⋮何で私 達だったか。﹂ 質問内容を言うと白神は真面目な顔になり⋮ ﹃話せるところまでならな。先ず、何故お前達なのか⋮⋮それは簡 単だ。この世界を創る時にちょうど良さそうな魂が無かったからだ。 愚か者は声を吹き込み、重要人物のモデルにもなった魂だからな、 丁度良かったと言っていたな⋮⋮私が気付いた時には⋮⋮あの事故 が起きていた。﹄ ﹁なら、あの事故は⋮⋮その愚か者が起こしたの?﹂ ﹃一概には言えないが、そうと言っても良いだろう。恨むか?奴や 私を﹄ 恨むか?何て聞かれて﹁うん﹂と言えるわけ無い。それに恨んで 905 いるかと聞かれると⋮正直分からない。 ﹁分からない。多分ちゃんと理解できていないから⋮⋮でも、もう ひとつ聞きたい。﹂ ﹃何だ?﹄ 断片的な記憶を取り戻してから気になっていた⋮⋮ ﹁子供は⋮⋮シュウはどうなったの?﹂ 勿論死んでしまったことは分かっている。 ﹃あの事故で死んだ者は割り振られた世界に転生している。もうお 前の知る子供は⋮⋮﹄ 居ない⋮⋮と。やっぱりそうか。 ﹃だが、お前を案じていた。最後までな。良い息子を持ったな。﹄ 私には勿体ない良い子だったよ。そうか、恨まれてなかったのか ⋮⋮シュウ⋮ ﹃︵親の情とは⋮⋮興味深いモノだな︶﹄ ﹁⋮⋮⋮それで?﹂ ﹃ん、ああ、麗春側の神は少し抜けているお人好しだ。側室側の神 は狡猾⋮⋮だが考えが今一足りない所がある。衝動的な行動が多い な。﹄ 906 ﹁ああ、確かに⋮⋮今までの騒動は側室舞子が仕掛けていたにして も、今回の嫁さん拉致を自分でした辺り⋮⋮考えない所は有るみた いだね⋮⋮ 頭脳派じゃない私に言われたら終わりだろ⋮⋮ねぇ? ﹃︵言う程お前は頭は悪くない⋮⋮だろ?︶﹄ ふんふん⋮⋮さてさてどうしたものか⋮⋮ ﹃それにしても、記憶が戻っているのだな⋮ジンの事も思い出して いるのか⋮⋮﹄ ジンが藍苺として転生しているなら、死んでしまったのだろう? ﹃ん。そうだ。さぁ、話は粗方終わった。助けに行くがよい。気を つけてな。﹄ 神がそんなに人間味があって良いのかよ。それじゃぁ損するよ⋮⋮ ﹃お前に心配されるほど耄碌してないわ⋮⋮さぁ、行け!﹄ 白い部屋が霞んで行く⋮⋮まるで⋮⋮ダメだ言葉に出来ない。そ うそう⋮⋮白神よ、私は別に他人の白は嫌いじゃない。自分の白が 嫌いだった⋮少し違うか、好きになれなかった。ただそれだけ何だ⋮ けどさ⋮ 907 ﹃何だ?﹄ 白い壁は目が可笑しくなるから優しい薄いパステルグリーンとか にした方が良いよ。てか次までにはしておいて⋮⋮ ﹃神に向かって模様替えしろと⋮⋮全くお前は変わらんな⋮⋮﹄ そんな事を白神が言っていたなど私は知るよしもなかった。 908 誰の思惑か︵後書き︶ 次回か投稿は遅くなります。m︵︳︳︶m 909 真の反撃開始!∼先ずは翔ぶ事から∼︵前書き︶ 反撃と言ってますが、まだできません。 お待たせしました。待っていてくれる方がいるか不明ですが。 910 真の反撃開始!∼先ずは翔ぶ事から∼ 私が藍苺を嫁さんと呼ぶ理由⋮⋮それは始めは自分へ自覚を持た せるため⋮あの森に移り住んでからは、人間嫌いの妖怪たちに手を 出させないための牽制。そして今は⋮⋮ 無性に愛しくて⋮⋮自分のもんだって言いたくて 嫉妬心から⋮⋮ ********** コウレン どうも、ただ今現実に戻って参りました。今から嫁さんこと藍苺 を救出に行きたいと思います。一応藍苺の旦那の紅蓮です。 戻って来たのですが⋮⋮どういう訳か時間が止まっております⋮ ⋮オイ、白神さんよ⋮どうなってんのよ? ﹃済まん、言い忘れた、私の声は他には聞こえないからな。私が藍 911 苺の場所までナビゲートする。﹄ 不安要素しか無いのだけれど、大丈夫なの? ﹃大丈夫だ、問題ない。﹄ それって最大の失敗フラグか死亡フラグだよ。時間戻してくれる 大天使様は居ないんだから⋮ ﹃それも問題ない。私が憑いている﹄ 漢字が嫌なんだけど⋮⋮霊的な何かに憑かれてるみたいで。 ﹃霊的な何かではなく神的な神が憑いているのだ。安心しろ。﹄ だからそれが安心できない要素何だってば⋮⋮。 今話しているのは白神と勝手に呼んでいる真っ白な神様だ。人の 心の中の声に勝手に反応してくれるので一人でブツブツ話している なんて事にならないのが唯一の救いかも知れない。そんな白神が嫁 さんの所までナビゲートしてくれるらしい⋮⋮これも加護のオプシ ョンに入っているなら今後絶対に遠慮したい。 ﹃さて、時間を元に戻そう。分かっているとは思うが、お前の母親 や神には私の存在は感知出来ない。お前は決して話してはならん。﹄ 分かった。てか、そう言う事はもっと早く言っておいてよ。もし も言ってしまっていたらどうすんだよ。 直接頭に入ってくる声が真剣さを増す。 912 ﹃心配ない、お前は秘密主義だ。おいそれと他人に話したりはしな いだろう。何よりそうならない為に時間を止めたのだ。﹄ ハイハイ⋮⋮スゴいですね∼。 ﹃お前は本当に神を崇めたりしないな⋮⋮﹄ あんたにはまだ恩が無いし、何処か隠している節が有るからね。 そんな奴を慮る心の広さは残念ながら私には有りません。 きっと感情が見えたなら呆れ果てた顔をしていることだろう。そ んな感情が伝わってきた気がした。 ﹃では戻すぞ。﹄ 止まっていた絵の様な景色は一斉に動きだし、何処か色褪せた様 な周りは色を取り戻した。さっきまで違和感があったが⋮⋮音が一 切無かったからか⋮。 ﹁間に合わなかった⋮⋮﹂ ﹁紅蓮!無事か?﹂ 私が意識を失って白い壁の部屋に拉致られ少し前の台詞を母さん が喋った。そのすぐ後に父さんが部屋に飛び込んできた。どうやら 拉致られるのは私だと思っていたらしい。 ﹁藍苺が拐われた。私の眷属達と一緒に。﹂ 913 変なタイムラグがあるけど、冷静に状況を伝える。もしこれがあ の後直ぐの事ならこれ程冷静ではいられなかった。この点だけは白 神に感謝だな。 ﹃そうか、それは良かったな。﹄ 良かったから、早く藍苺の所に案内してよ。 ﹃それならその姿では無理だな。龍の姿にでもなれ。さすれば飛べ るだろう。何よりお前の一族は何者よりも速いぞ。﹄ 初耳∼。へぇ∼そうなんだ。白龍ってのは速いのか⋮⋮。確かに 父さんはスピード狂の気が有るけど⋮⋮あれってそのせい? ﹃白龍は大人しい龍だが⋮⋮その気がある。﹄ ほうほう。で? 私さ⋮⋮龍の姿にはなったことが無いんですけ ど⋮⋮窮奇じゃダメ?飛べるよ窮奇。 ﹃確かに奇窮は空を翔べるが⋮⋮何より速さが足りない。﹄ 白神よ、お前もしかしてそのネタがやりたいだけだろ⋮⋮。 ﹃ち、違う。偶々だ! ⋮⋮しかし、速さが足りないのは事実。奇 窮も妖怪の中では速い⋮⋮が、白龍に比べれば⋮幾分遅い。何より ⋮⋮﹄ 2度同じネタをやるのは鉄板ネタだけだぞ。 914 ﹃話の腰を折るでない! オホンッ⋮何よりな⋮白の国では白龍は 幸福の象徴なのだ。拝む者は居るが、恐れるものはあまりいない。 奇窮は恐怖の対象だ。おいそれと姿を見せれば混乱するぞ。﹄ あぁ、そう言えばそうか。奇窮は恐ろしい妖怪って言われてるも んな⋮⋮。でもさ、どうやって龍の姿にはなるのかさっぱり何だけ ど⋮⋮ ﹃んー⋮。どうもお前は我が強すぎるようだな。自分の姿と認識せ ねば認めないのか⋮⋮﹄ 我が強すぎるのは自覚してるけど⋮⋮もしかして、だから人の姿 には直ぐに戻れたのか? ﹃で、あろうな。だが、今はその事を吟味している場合ではないぞ。 そなたが藍苺の所まで行かねばならんのだ。何がなんでも龍になれ。 ﹄ ヘイヘイ⋮⋮とは言え⋮う∼ん⋮⋮龍の姿ねぇ? イメージは父さんがなった東洋の龍⋮⋮翼はなく、長い体と長い 二本の髭⋮⋮鱗に覆われ⋮馬の様な鬣が尻尾の先まで続いて⋮⋮後 は⋮そうだ、先が枝分かれした短い角があった⋮⋮⋮ 目を瞑ってイメージする。こんなことで出来るのか不安だが⋮⋮ これ以外出来ることがない。無駄かもしれないが⋮やるしかない。 ﹁コウちゃん?どうしたの⋮何処か具合でも悪いの?﹂ ﹁ん?⋮⋮レイ、少しそっとしておこう⋮⋮何かするつもりだ。﹂ 915 ﹁でも、それなら危ないわ⋮⋮まさか、﹂ ﹁そう、そのまさかだ。﹂ 両親二人が何事か話しているがこの際無視だ。 ﹁状況は!?﹂ ﹁しー⋮⋮静かに⋮﹂ ﹁な、何だ?﹂ 白の王まで部屋に来たようだが、知らん⋮無視だ、無視。 必死にイメージし続けた。すると⋮何だが周りがやけに⋮眩しい ⋮目を瞑っているのに眩しい⋮ ﹃ほぉ⋮⋮出来るではないか。﹄ は? 白神の言葉に疑問を浮かべると周りも何だが騒がしくなっ た。 ﹁コウちゃん⋮⋮あなた⋮﹂ ﹁朱李の子だ⋮白龍だとは思ったが⋮まさかな⋮﹂ ﹁真の白龍か⋮⋮流石俺の子だ。﹂ は?え?はぁ? 真の白龍? イヤイヤイヤ⋮え?なんのことだ よ⋮⋮ そう思い、閉じていた目を開けると⋮⋮いつの間にか床に這いつ くばっていた⋮⋮四本足で⋮ 916 ﹃説明すると、真っ白な白龍は本来中々居ないからな⋮⋮白の国の 紋章になっているほどだ、国の象徴なのだよ。﹄ へ∼それは知らなかった。あ、手紙に龍の刻印があったけど⋮⋮ あれか⋮なるほど。 白神の説明通り私の姿は真っ白な龍になっていた。本来白龍と言 うのは銀色の鱗に銀の鬣らしい⋮⋮どうも私は白い色に縁があるら しい。 ﹃さぁ、与太話などしている暇は無いぞ、両親には後で言えばいい。 今は急げ!﹄ ハイハイ⋮⋮それもそうだね。早く藍苺を救出しないと⋮⋮嫁さ んの事だから抵抗して怪我とかしてないか心配だし⋮⋮ ﹃あの負けん気はあり得るな⋮⋮全くお前たちは本当に変わらんな ⋮⋮さぁ、早よう行け!﹄ ﹃︵言われなくても⋮︶父さん、母さん、ちょっと嫁さん取り返し に行ってくるから⋮⋮じゃ!﹄ 何か言われる前に全力で駆け出した。頭の中で白神が﹃窓を開け たからソコから出ろ﹄とナビゲートしたのでそれに従う。翔べるが 分からないが⋮⋮一か八かの賭けに出る。男も度胸女も度胸だ!! ﹁﹁え?ちょっ!!﹂﹂ 917 ﹁翔んだ⋮⋮﹂ 慌てる両親の声と驚きながら呟いた白の王の声が鮮明に聞こえた。 ﹃どうだ? 翔んだ感想は?﹄ ﹃平衡感覚が可笑しくなったら終わりだね﹄ ﹃もう少し夢の有ることを言えんのか?﹄ あぁ、⋮⋮無理だな。生憎とそんな豊かな感性持ち合わせてない わ。何せ⋮⋮ ﹃石頭で、現実主義者で、冷徹・冷酷・無慈悲。情緒を楽しむ感性 のない面白味のない人って言われたことあるし⋮⋮﹄ 昔のことだが、自分でも﹁あぁそうかもね﹂と思える節がある。 実際冷酷なのは自覚している。 ﹃それはキチンとそなたを見たものが言った事か? 他人の言葉に 耳を傾けることは良いことだが、時には真に受けない事も必要だぞ。 ﹄ お、白神にしては良い事言うじゃん。でもそれ昔言われたから⋮ ⋮ジンに。 918 ﹃そうか、そなたを真に理解しようとした者が居たか。﹄ はい、ただ今上空⋮⋮何メートルだろ⋮⋮兎に角高い所を翔んで おります。最初は九尾、次に窮奇と来て、最終的には白龍になった 紅蓮です。 え?何?2回目だって⋮⋮うん、仕様です。 高い所から見下ろすのは、家の有る森の断崖以外これが初めてか もしれない。中々に気持ちの良いもの⋮⋮な訳ないだろ⋮⋮怖いよ ⋮⋮スッンゴク⋮怖い。 下を見ると賑やかな街が見える。これが初めての外出になるのか ⋮⋮出来ることなら街に降りて色々見たいが⋮⋮今は嫁さん優先。 おや? 下が騒がしくなった。 ﹃当たり前だ⋮戯け⋮⋮国の象徴が空を翔んでいるのだ。驚くだろ う普通。﹄ あぁ、そうだね。何かとっても視力が上がった目で観察すると、 子供は指差してはしゃいでるし、店番でもしているオッサンは口を 半開きにしてぽかーん状態だし、お年寄りは手を合わせて拝んでい る⋮⋮何だが申し訳なくなってきた⋮あ、オッサンが転けた⋮⋮上 向いて歩くからだよ⋮⋮ ﹃人は面白い者だな⋮﹄ でもさ⋮今思えば、私って子供だろ?窮奇の姿になっても空飛ぶ 子猫にしか見えないよきっと。 919 ﹃確かに⋮⋮だが、やはり速さがな⋮⋮﹄ それとさ、私は父さんの白龍の姿を想像したんだけど⋮⋮二本の 角が小さい。父さんの角はもうちょっと長かったけど⋮それに髭も 短いし⋮⋮鬣がやけに長いし⋮⋮邪魔。 ﹃そう言うな、優美だぞ。ほれ、今進行方向に転送陣を展開させる。 それを潜れ。﹄ 転送陣⋮⋮おいちょっと待てや、それならどんな姿でも良いだろ。 オイ。 ﹃そうもいかぬ。猛スピードで駆け、今から有るであろう魔獣達の 妨害を突破することも試練の一つだ。﹄ ⋮⋮やっぱりか⋮⋮楽すぎると思ったんだよ⋮ ﹃まぁ、全方向のシューティングゲームだと思えば良い⋮﹄ ゲームと違ってこっちは残機が無いんだけど!てか、ゲームじゃ ねーし!!私の命を何だお思ってる白神!!!︵*`Д´︶ノ!!! ﹃案ずるな⋮⋮当たらなければどうと言うことはない⋮⋮多分﹄ ﹃お前今多分っつたな?言ったな! てか、ネタで会話すんなよ! !﹄ この白神の奴⋮多分っつだぞ⋮オイ。 920 ﹃そら、敵のお見えだ。確り避けよ。﹄ 言われなくても避けるっての。 白神の言う通り進行方向に⋮⋮つまり、転送陣の周りに5匹程ワ イバーン⋮⋮飛竜が此方を睨みながら警戒している。オイ、転送陣 展開するならもつもっとましな場所に出してよ⋮⋮ つまりは⋮この飛竜達を掻い潜って転送陣にたどり着かないとい けない⋮と? ﹃うむ。因みに⋮後三回程そんなのが続くぞ?﹄ ﹃ぎぁゃ!!︵あぁ?何つった今!?︶ おっと、ついカッとして言葉を忘れたよ。気のせいか前方の飛竜 達が怯んでいるように見えたけどきっと気のせいだ。 ﹃⋮⋮︵確実にお前の雄叫びで怯んでいたぞ⋮︶﹄ 正面突破するしかないので飛行速度を上げる。今更ながら翼も無 いのにどうやって翔んでいるんだろ⋮⋮ねえ白神、何で翔べんの? ﹃白龍の様な翼を持たぬ龍は角より魔素を取り込み翔ぶのだ。風の 力を使い翔ぶものも居るが、そなたは前者だ。因みに白龍は角より 取り込んだ魔素により鱗や爪をより強硬にする。﹄ ふう∼ん⋮たから? 921 ﹃傷なぞつかん。﹄ 傷はつかなくても、衝撃までは防げないでしょ。硬ければ尚更な んじゃ? そうは言っても突破しなけりゃ始まらない。いつまでもこんなと ころで油売ってたって嫁さんの所に行けるわけでもなし⋮ てかさ、下に街が有るのに大丈夫なのか?下に被害が出たらどう すんだよ。 ﹃案ずるな、敵側も街に被害は出したくない様だ、次元を変えて召 喚したようだな。どんなに暴れても街に被害は出ないぞ。﹄ ﹃それは嬉しいやら悲しいやら⋮⋮でも間違いなく私に喧嘩売って るよね?﹄ ﹃⋮⋮そうだな︵こんなに喧嘩早い奴だったか?︶﹄ 威嚇の意味を込め私は前者の飛竜達に吼えた。相手も完全に戦闘 態勢入ったようだ。私も本気にならないと⋮ そう思うと爪が伸び、鱗は逆立ち、鬣は風に逆らい波打ち始めた。 とは言え、闘う訳ではない。飛竜達を出し抜いて転送陣に飛び込む だけ。とは言え、飛竜とデッドレースをするのだ、万全で望まない と。最悪戦闘だってあり得る。 922 嫁さん。ちょっと考えて行動してね⋮⋮もし、怪我でもしてたら ⋮⋮その誘拐犯もとい、側室側の神様⋮⋮抹殺したくなるから⋮⋮ ね? ﹁ん?⋮⋮今何か言ったか?﹂ ﹁クウ?﹂﹁きゅ?﹂﹁キュエ?﹂﹁⋮⋮?﹂ 923 真の反撃開始!∼先ずは翔ぶ事から∼︵後書き︶ 紅蓮は龍の姿になるを覚えた! 924 真の反撃開始!∼突撃は計画的に∼︵前書き︶ 紅蓮、チート度が更に上がる⋮の巻き 925 真の反撃開始!∼突撃は計画的に∼ 側室側の神様よ、もし嫁さんが怪我でもしてたら⋮⋮分かるよな? ******** 今から少し前の事⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ︱︱︱︱白の王宮・食堂︱︱︱︱︱ ﹁漸く決着をつけましょう⋮ね?舞子ちゃん﹂ ﹁⋮⋮何でアンタはいつもいつも私の邪魔ばかりするのよ!﹂ 紅蓮達が部屋を出て少し経つ。ここは白の王宮の食堂⋮⋮と言う よりは、豪華なレストランの様に見える。側室舞子と麗春が睨み合 っている。とは言え、睨んでいるのは側室舞子の方だが。 926 今までの猫被りをやめたようだな。まぁ、やめようがやめまいが 俺にはどうでも良いが。それよりも心配なのは、側室側の神が何か 仕掛けてこないか⋮⋮と言うことだ。奴なら絶対何か仕掛けてくる。 何せ⋮⋮知り合いを殺したのだから⋮⋮ ﹁証拠は揃っているのよ⋮⋮もう止めましょう⋮悪戯に人の命を奪 う何て。⋮⋮私は疲れたわ。何年間こんな事続けるの?もう貴女が こんな事を始めて⋮もう8年経つのよ?﹂ ﹁だから何? 私のやりたいようにして何が悪いのよ。この世界は 私の為に創られた世界なのよ。私のしたいようにして何が悪いのよ。 ﹂ アンタバカじゃないの?とでも言いたげなバカにした、見下した 表情の側室舞子に呆れる。こんな場所でそんな顔をしても良いのか ?白の王も居るんだぞ⋮⋮ どうせ、頭に血が上って見えてないんだろ。お前はいつもそうだ った。小さい頃から⋮⋮ ﹁アンタが悪いのよ! 私の欲しいものを全部取るんだもの、私も 幸せが欲しいのよ!!﹂ この子⋮⋮と言うには今は俺と同い年程だが、昔⋮前世では俺よ り10歳は年下だった。昔から何処か我が儘で手がつけられない程 だったが、この世界で余計に拍車がかかったようだ。8年間もちや ほやされればそうもなるか⋮⋮ 927 俺とどういう関係かって? 俺の姪っ子だったんだよ。俺の姉の 子。一人っ子でしかも両親には初孫だったから、かなりチヤホヤさ れてた。 ﹁私から⋮⋮奪ったアンタが全部悪いのよ!!﹂ ﹁何が悪いのよ。言ってみなさい。前世の事は何となく分かるけど ⋮⋮今回は何なのよ。﹂ 前世の事は⋮⋮俺に関係しているんだろう。何せ⋮ベッタリ俺に 懐いてたからな。しかし、それが異性として見られていた何て思い もしなかった。俺にとっては何時までも姪でしかないのに⋮⋮よう は、レイに嫉妬しているだけだ。 事の発端はレイ⋮前世の名前は伏せよう。で、レイと結婚の報告 に実家に帰ったのが始まりなんだろう。 あれは⋮⋮何年前だろう。覚えていないが、前世の事。 両親に結婚報告しに実家に帰ると姪の舞子が居た。多分母親にで も俺が実家に帰ると聞いたのだろう。扉を開けると待ち構えていた のか抱きついてきた⋮⋮ ﹃朱里ちゃん久しぶり!?﹄ 928 ﹃久しぶり。そして離してくれ﹄ その後の場の空気といったら⋮⋮修羅場とはあんなのを言うのだ と知った。レイと舞子の間で火花が飛び散っていた。朱里は俺の名 前だ。ミケの奴⋮⋮漢字だけ変えて読みはそのままつけたんだよ。 その時俺はどうしていたか? 呑気に茶を飲んでいたが? 俺は 舞子を姪として思っていない。それに、礼儀を忘れて客であるレイ を目の敵にしているのは気にさわるが、レイが﹁私の喧嘩に首を出 さないでね?﹂と言ってきたので、迂闊に止めることができないの だ。どうせ俺はヘタレだよ。 まぁ、舞子が暴走し始めた辺りで止めたけどな。レイに軽く睨ま れたけど、ソコはホラ、 ﹃︵叔父の威厳とかあるだろ?︶﹄ まぁ、そんな事があっても無事︵?︶に両親に挨拶を出来たので 良かった⋮⋮その時は。 俺は何だかんだで、家族に対して冷めていたのかもしれない⋮⋮ もう少し家族と接していたら、舞子の暴走も防げた⋮⋮かもな。 転生している時点で俺達二人が死んだのは予想がつくだろう。そ う、殺されたんだよ。 929 “狂った姪にな” ******* 四方から来る攻撃を何とか避けつつ転送陣に近付く事に成功しつ つある、紅蓮です。それにしてもしつこいな⋮⋮靴の裏に付いたガ ムよりしつこい。 ﹃しつこい奴はモテないよ⋮⋮﹄ ﹃確かに⋮だが野生ではしつこさが⋮⋮﹄ 930 ハイハイ⋮⋮そんな事はいいんだよ。それよりも⋮⋮ ﹃転送陣は潜るだけでいいんだよね?﹄ ﹃うむ。潜るだけで次のポイントに着く。﹄ こんな呑気な会話をしているが飛竜達の攻撃は止まず⋮むしろ悪 化している。 蛇の様な靭やかな身体のお陰で捻ったり、軌道をずらしたりで攻 撃を避けている。あまり意識せず攻撃を避けているあたりこの身体 は本当にチートだと思う。しかし⋮⋮敵の弾幕が厚すぎて中々に転 送陣を潜る事ができずにいる。一番厄介なのは転送陣の前に鎮座︵ 飛んでいるので座っているわけではない︶する人一倍デカイ飛竜が 邪魔だ。 ﹃邪魔⋮﹄ イライラする。そう言えば、龍の姿になっても備わった能力を使 えるんだよね? 姿が変わろうとも私自身何だから⋮⋮どうなの白 神? ﹃使えぬ筈はない。何を使うのだ?﹄ 何を使うって⋮⋮⋮勿論攻撃+突撃ですけど何か? ﹃⋮⋮⋮あの一番大きな飛竜にか? 無茶ではないか?﹄ へ∼⋮さっきは大丈夫だとか抜かしてた奴はどこの白い神だった かな∼。 931 ﹃⋮⋮⋮﹄ まぁアレだ。敵の弾幕を回避するのにも飽きた。それに嫁さんに 早く会いたいし♪ ﹃︵嫁バカ⋮︶﹄ 何か言ったか? ﹃⋮⋮⋮﹄ 黙らせた白神を放置して作戦Bに移行する。ちなみに作戦Aは正 規ルート。対して作戦Bは﹁邪魔なモノは爆発あるいは排除して進 む﹂だ。別名デルタ方式である。え?何だそれ? あぁ、そうだね 知らないよね⋮⋮デルタ方式ってのはね、私が勝手にそう呼んでる だけ。とあるゲームのデルタチームがあまりにも⋮⋮破壊的? 道 がなけりゃ壊して進め的な考えを私は勝手にそう呼んでるだけなの だ。 ちなみに、隊長がそんな考えでチーム全体もそんな感じ。しかも 父親までデルタ方式採用してるし⋮⋮はははっ 現実逃避はここまでにして、あの邪魔な巨大な飛竜を駆逐せねば。 ﹃折角だし⋮⋮﹄ 932 そう、折角なんだから日頃使わなかった属性を使おう。炎は使用 頻度が高いけど、他ってあんまし使わなかったからね⋮⋮お披露目 も兼ねて行ってみますか♪ ﹃︵嫌な予感が⋮︶﹄ 体内に備わる器官は妖怪と人間とでは若干違う。私の場合、九尾 は獣耳と尻尾を自在に出せること⋮⋮しかも、人の耳と瞬時に入れ 換える事も出来る。窮奇は翼と多分耳と尻尾。確認できてないので 尻尾も耳は保留⋮⋮ちなみに九尾の主属性は炎と樹、窮奇は風と地 だ。見事に水系統が無いよ。 属性の云々はまたいつか改めて説明するよ。 えっと⋮そうそう、今の私の姿の龍の説明をしたかったんだよ。 九尾、窮奇と、人の姿の時に特徴が姿に出る。が、龍の姿は特徴が 出ないのだ。父さんに確めたから事実なんだよ。角が生えるとか、 馬の様な耳が生えるとか⋮⋮何もない。 それって何か変化あんの?って言いたいでしょ? 有るのよそれが。九尾と窮奇とか狐と虎でしょ。耳を出していれ ば鼻は数十倍良くなるし、耳も同じくらい良くなる。尻尾は⋮⋮何 か意味あるのか今のところ不明だけどね。 窮奇何か翼があるから空を飛べる⋮⋮まだあの翼で飛んだことな いけど⋮⋮ 933 まぁ⋮アレだよ、何が言いたいのか⋮と言うとね、白龍の能力な んだけど⋮⋮バリバリの攻撃向きの能力何です。生活に全く必要に なりません。無用の長物ですね。 ﹃いや、アレはアレで使えるのでは?﹄ こんな文明が中途半端な生活水準の世界で要らないっての! ⋮⋮⋮⋮さて、無駄話何か辞めにして、本日の⋮⋮いや、人生初 の特攻⋮⋮ ﹃雷でも落としますか♪﹄ ハハハハハ⋮⋮⋮うん。もう自棄だ。ここまで来ると逸そ誉めた いよ? 炎に風に地に樹⋮⋮それに雷に光だよ⋮⋮主人公フラグじ ゃね? 要らないよそんなに⋮⋮ ﹃先祖から受け継いだ力だ⋮⋮文句言うな。﹄ 誰かの悪意を感じるよ? 半ば⋮⋮いや、完全に自棄になって雷を四方に散らばって囲む飛 竜達に浴びせる。雷を簡単に操れるのは、私の頭に生える小さな二 本の角のお陰だ。これが有るから白龍初心者︵一時間未満︶の私で も操れるのだ。自然とどう操るのか知っているのは本能だろう。 934 ﹃しかしな⋮⋮一番厄介なのは⋮﹄ そうだろう⋮⋮他の比較的小さめ︵一番デカイのに比べればの話。 十分大きい︶の飛竜は雷のショックで墜落していったが、大きいの は残っている。雷の電圧が低かったか、鱗に阻まれたのか、単純に 雷耐性があったのか知らんが、ピンピンして転送陣の前で飛んでい た⋮⋮チッ! まぁね、一筋縄でどうにかなるとは思ってなかったよ。中ボスっ てのはしつこいからね⋮⋮ ﹃こんな時には、︻エネミー・サーチ︼を使え﹄ いや、これゲームじゃないから、現実だから。ゲーム脳はお帰り ください⋮⋮って、今の現状に着いていける辺り私も十分毒されて るな。 ﹃その︻エネミー・サーチ︼とやらはどうやったらいいんだよ? ゲームと違って技一覧開くわけにもいかないでしょ?﹄ ゲームの様に技名を選択して簡単に発動するわけでもなし⋮⋮私 が使った爆発系の術だって、何度もイメージを考えて固めて何度も 失敗して完成させた。それを今この短期間でやれと⋮⋮喧嘩売って んのか? ﹃ソコは⋮⋮私の加護のお陰で出来るようになるだろう⋮⋮︵多分︶ ﹄ 935 今、絶対多分って付けただろ。ま、使えたら別にいいんだけど。 で?いつも通りにイメージさえあれば使えるの? ﹃う、うむ。いつも通りで発動するだろう。﹄ 全く、要らぬ手間を掛けさせやがって⋮⋮こっちは早く嫁さんの 所に行きたいのに! ﹃それが敵の作戦だろう⋮﹄ てかさ、︻エネミー・サーチ︼って、どっちかって言うと、索敵 のイメージ何だけど⋮⋮敵の弱点知りたいなら﹁ライ〇ラ﹂とか﹁ インス〇クト〇イ﹂とかじゃないか? ﹃何故今更伏せ字? 最後のは二つも伏せて分からんぞ?﹄ 昨今規制がキツくなったからね 伏せとかないと⋮さ。 ﹃ふむ⋮⋮厳しくなったものだな⋮⋮﹄ 技名的には︻分析︼でも良さそうだね。 ﹃短くも分かりやすいな⋮採用。﹄ 採用って、神が採用すると使えるようになるとか? ﹃別にそんな事はない。使用者のイメージが一番重要だ。﹄ 長話しにまたなってるし⋮⋮えぇい!こうなりゃ自棄だ。あので っかい飛竜に︻分析︼!! 936 イメージはさっきの2つ。HPとMP、それと弱点に種族の解説 何かが目の前に出てきた⋮⋮ゲーム仕様ですか。 ー︻分析︼発動ー ︻飛竜︵地︶︼ HP499990/500000 MP100/250 日頃は大地をその頑丈な脚と尾で蹂躙する飛竜。翼は前肢が翼に 進化したもの。元は大地を歩く巨大な蜥蜴、その為長時間の飛行は 苦手。しかし個体によっては長時間の飛行も可能。頑丈な鱗を纏い とても狂暴。色によって主属性が変わる適応能力に優れた魔物。 鱗の脆い顎の裏が弱点⋮⋮だが攻撃は届かない事が多い。 主属性 地、風 弱点 打撃、氷 ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ 分かりやすい⋮⋮か? ﹃ホレ、弱点も分かったのだから⋮﹄ 937 地と風なら氷が弱点になるの? 打撃って鱗が固いから? 顎の 裏って⋮⋮攻撃が届かないって⋮⋮ ﹃それはな⋮⋮今の状況での弱点を教えてくれる親切機能だ。今飛 んでいるだろう? 後は知らんが﹄ あ、あぁ∼。なるほどね⋮⋮そりゃ親切だわ。じゃ、遠慮なく。 私はデカイ飛竜の翼に集中的に凍らせた。え?お前何で氷属性の 技を使えんだよ? あ、それはね、別に主属性じゃない属性でも誰 でも使えるんだよね。まぁ⋮暴走の危険があるから使わないだけで ⋮⋮え?私は暴走しないのか? 前に言ったじゃない。私は闇属性しか弱点属性が無いって⋮⋮主 属性じゃなくて、副属性に氷が申し訳程度に有るのですよ。だから 翼とか一部分位なら凍らせる事も出来るのです。全体を凍らせる事 も出来るけど、それは私の身に何が起こるか分からないのでしませ ん。身の程を知らない驕りは身の破滅だからね。 ﹃何故翼の一部分だけなんだ?﹄ ほら、飛竜を見てみなよ白神。翼の動きが鈍くなってるよ。元は 蜥蜴、変温動物である爬虫類でしょ? 進化しても多少は効果あん じゃない? ﹃ふむ⋮⋮﹄ 938 で、さっき白神も言っただろ、飛んでいるってさ。私達白龍と違 って翼を羽ばたかせて飛んでいるだろう? 私が父さんに崖から突 き落とされた時、必死に羽ばたこうとしたんだけど⋮⋮タイミング とかリズム感ってスゴく大事って分かったんだよね。それでさ、羽 ばたきのリズムを崩したら少しは慌てるかと思ってさ⋮⋮元々飛ぶ のは得意じゃないみたいだし。 案の定デカイ飛竜はドンドン高度を下げていった⋮⋮何だか可愛 そうでもあるけど、同情してたらなにもできない。今は考えるのは 後にしようと思った。 ﹃邪魔も無くなった⋮⋮転送陣へ急げ!﹄ ﹃言われなくとも!﹄ 転送陣に飛び込むと、景色が一瞬て変わった。 どうやら洞窟内の様な場所に出た。もう少しマトモな場所に出来 なかったのか? ﹃すまん⋮⋮奴に阻まれた。次は返り討ちにしよう。﹄ どうやらあちら側に邪魔されて違う場所に出た様だ。何て言うタ イムロスだ⋮。場所が離れすぎていないと良いけど⋮⋮どうなのさ 白神? 939 ﹃そんなに離れてはいない。仕方無い⋮試練云々言っても要られな いな。咎は後で私が受けよう⋮⋮直接奴の根城まで飛ばすぞ!﹄ え?ちょっとまて! そう言った私の声は白神に届かず問答無用 でまた飛ばされた。根城って何処だよ⋮⋮ 940 真の反撃開始!∼突撃は計画的に∼︵後書き︶ 属性云々は後程機会があれば⋮ ε=ε=┓︵・︳・︶┗ 941 その頃囚われの姫は⋮⋮⋮︵前書き︶ 藍苺が拐われてから色々とありました。そんな時の藍苺視点です。 942 その頃囚われの姫は⋮⋮⋮ 折角のレンとの再会とポチや他の眷属達と楽しいふれあい⋮⋮モ フモフタイムを堪能していたが、いきなり知らない場所に眷属達と 飛ばされたレンこと、紅蓮の一応嫁の藍苺だ。中身は男何だけどな。 前世の記憶的には。 見知らぬ場所に眷属達と閉じ込められている。が、何故かみんな 影に潜んでしまった。ポチだけでも居ればモフれるのに⋮⋮いや、 今考えるのは違うだろ。どうやってここから脱出するかだ。巷で流 行っていた脱出ゲームと違いヒントも何も無い⋮⋮こんな所から果 たして出れるのか? ﹁どうしたもんかな⋮⋮﹂ ﹁クウ∼﹂ しかも極めつけにポチ達と意思の疎通は一方的だ。俺の言葉は理 解してくれるが、ポチ達の言葉︵鳴き声︶は理解出来ない。レンな ら言葉を理解出来たのにな⋮⋮やっぱり妖怪の血が薄い俺には動物 の言葉を理解することは出来ないのか⋮? そう言えばレンのやつ﹁夢を壊したくなかったら知らない方が身 のためだよ﹂何て言ってたな⋮⋮そんなことよりも! ﹁なぁ⋮どうすればいいんだ?﹂ ﹁きゃん?﹂ 943 俺の影から頭だけだして頭を傾げたポチ。可愛いけどビシュアル 的に仔犬の生首状態は薄暗い牢獄には不気味だ。薄暗い牢獄じゃな くても不気味だ。 そう、俺は牢獄に閉じ込められていた。どうすっかなぁ⋮⋮チー トなら色んな手で脱出出来るだろうけど⋮⋮いや待てよ、俺ってパ ワーだけはチート並みだったよな? ﹁きゃん!﹂︵いけません!ここから無闇に出ては怪我をします。︶ 牢屋と言えばお馴染みの鉄格子で遮られた部屋だ。その鉄格子を 力業で壊せないかと思い鉄格子に手をかけると⋮⋮ポチが強く吠え た。どうやら﹁ダメだ﹂と言っている様だ。 良く考えてみれば俺って何の力も無いんだ。あるのは力のみ。そ れでここに飛ばした誘拐犯とばったり遭遇したら⋮⋮対処出来るか ?俺に⋮⋮ けど、囚われのお姫様何て柄じゃない。ん∼∼⋮⋮どうしたもん かなぁ。 自惚れかもしれないけどあいつは⋮レンはきっと助けに来るだろ う。ホント自惚れだよな。でもホントに来るだろうなぁ。変な事だ けど確信している。 ﹁悪いなポチ。ジッとして助けを待ってるのは性に合わないんだよ 944 ⋮⋮特に、レンが助けに来るかも知れない時は⋮⋮絶対俺をダシに 脅されるだろ? そんな事は無いかもしれない⋮けど、﹂ ﹁クゥー⋮⋮きゃん﹂︵ならば、その様に。我らは貴女に着いてい きます。︶ 何だか⋮⋮背中を押されているように見えた。ポチが何か喋った とたん他の眷属達も影から出てきた。勿論首だけでなく体全体だ。 ﹁きゅー﹂︵ボクもお供しましゅ!︶ 薬入れに入っていた奏は薬入れから出てきて俺の周りをフヨフヨ 浮かんで元気よく鳴いた。他の兎天と夜夢は静に⋮⋮多分頷いてい た。個性って出るんだな。 牢屋を出るのは割りと簡単だった。鉄格子を思いっきり引っ張れ ば簡単に壊れた。パワーチート万歳! ﹃なぁ、天狼よ。﹄ ﹃何だ大蛇。﹄ ﹃良いのか? この様に勝手に行動しては⋮⋮主殿が迎えに来たと き困らぬか?﹄ ﹃⋮⋮ここに置いておくのも心配だ﹄ 牢屋はかなりの数部屋が有るようで⋮⋮ここは何処かの城だろう。 こんなに牢屋が有るなんて人々を纏める者が住んでいるか、拷問好 945 きの変態が住んでいるかくらいだろう。前者であってほしい。 ざっと見20程の牢屋が道の両端にズラリとあるよくある︵か?︶ 牢屋だ。俺はさっきから何度牢屋って言ったのか?まぁそんな事は どうでもいいか。 兎天が先導してくれるお陰で誰かに遭遇することは先ずないだろ う。多分⋮⋮ ﹃大丈夫なのでしょうか⋮⋮主様と無事再会出来るといいのですが。 ﹄ ﹃きゅ? このままだとできないでしゅか?﹄ ﹃出来ないこともないと思いますが⋮⋮迷子になったらその場を動 くなと、両親は言っていました。﹄ ﹃今回は迷子ではなく誘拐だ。一刻も早く奴らの魔の手より遠ざけ る事も重要だ⋮⋮と思う。﹄ ﹃せ、先輩まで不安にさせないでください!﹄ にしても、牢屋に看守が一人も居ないなんておかしい⋮⋮ここは 無人の廃墟か何かなのか? 廃墟と言えば⋮⋮幽霊⋮⋮居ないかな⋮⋮幽霊♪ あ、何かワクワクしてきた♪ 946 ﹃⋮⋮奥方の様子がおかしくないか?﹄ ﹃この前主が言っていたぞ、﹁ほらー好き﹂と。ほらーとは何だ?﹄ ﹃﹃︵何だろう⋮︶﹄﹄﹃なんなんでしゅか?﹄ 歩いて直ぐに上の階に上がる扉を見つけた。半開きの扉から階段 が見えている。上に上がる階段で間違いないだろう。 ﹁牢屋に誰も居なくても、上には居るよな⋮⋮﹂ 敵もか弱い⋮⋮見た目の俺が鉄格子を壊してまで逃げるとは思っ てないのだろう。にしても、相手側の神は何をしたいんだ? 俺が パワーはチートなのは知っていないのか? ﹁なぁ、上に誰か居るか見てきてくれ⋮⋮頼む。﹂ ﹁︵コク︶﹂ 鳴かずに頷くにとどめた兎天は影に潜み偵察に行った。レンの言 う通りお利口さんだな。 暫くしなくとも兎天は直ぐに帰ってきた。帰ってくるなり俺の袖 を嘴で咥えてグイグイ引っ張り始めた。どうやら早く来いと言いた いみたいだ。 ﹁分かった、分かった。﹂ 俺もまだ体は子供、八歳のガキだ。兎天も小さいが俺も小さい。 袖を咥え引っ張っていても歩ける。 947 他のポチと夜夢は、今は影に潜み後から着いてくるようだ。階段 を上がる。そんなに長くない階段だった。扉があるのでそっと開け て周りを警戒する。気分は敵地に忍び込んだ某諜報員だ。段ボール 好きな蛇のやつ。それか⋮⋮何だろ⋮⋮気分はそんか感じだ。結構 気楽な自分に笑いが込み上げる。 ﹁︵見た感じ誰も居ないな⋮⋮︶﹂ ホントに廃墟⋮⋮というわけではないみたいだ。赤い絨毯が敷い てある⋮⋮絨毯の端は鮮やかな黄色に縁取られている⋮⋮ ﹁確か⋮⋮﹂ レンが言っていた。国は自らの国の色を城や邸中にその国の色を 散りばめるらしい⋮⋮特に絨毯やカーテンは国の色が必ず入ってい る⋮⋮らしい。他国の色は極力使わないようにするとのことだ。ど うやらこの建物は黄の国なのか。それとも、黄の国に属している誰 かの館⋮か。 ﹁︵どうする⋮⋮何処かの部屋に隠れるか?︶﹂ それが得策かもしれない。俺は頭はそんな回る方じゃないし。ふ ぅ⋮⋮亀の甲より年の功とか言うけど、それは俺には当てはまらな いようだ。無駄に生きてきた訳じゃ無いんだけどな⋮⋮前世の記憶 なんて役に立たないもんだ。 ﹁なぁみんな、俺のお願い聞いてくれるか?﹂ ﹁︵コクリ︶﹂ 948 みんな頷いてくれた。ありがとう⋮⋮ ﹁ありがとな。兎天と夜夢は何処か人気の無い安全な部屋を見つけ てくれ⋮ポチと奏はこのまま俺の周りを警戒してくれ⋮⋮じゃぁ⋮ 解散。﹂ ﹃任された﹄ ﹃御意﹄ ﹃はい、行ってきます。﹄ ﹃警戒しましゅ!﹄ 兎天と夜夢が一斉に駆け出した。勿論影に潜みながら。どうやら 兎天だけじゃなくみんな︵奏は未確認︶影に潜む事が出来る様だ。 ﹁︵あれ? レンは兎天の特技って言ってなかったか?︶﹂ 疑問を考えている時間はなかった。兎天と夜夢は直ぐに帰ってき た。仕事が早いな⋮⋮ さっきのように袖を引っ張られ近くの部屋に入る。夜夢が先に部 屋に入り警戒する⋮トラップでも無いか警戒しているのか⋮⋮スゴ いな。俺には出来ない芸当だな。 ﹃主殿の大切な御方⋮⋮何かあってはいけない。罠は回避せねば⋮ ⋮﹄ 949 ﹃しかしな、大蛇よ。主は我らが傷付くのをとても嫌うのだ。あま り無茶はするな。﹄ ﹃肝に命じよう⋮﹄ トラップの類いはなかった。ホントにここは何処なんだ? 何て 言うか部屋の感想は﹁成金趣味﹂の一言で説明できるだろう。金ぴ か⋮キラキラ通り越してギラギラな宝石類⋮⋮目が痛い。 ﹃きゅ!め、目が痛いでしゅ⋮これは罠でしゅか!?﹄ ﹃奏先輩、これは人間達の一種の﹁成金趣味﹂と言うものですよ。 これが奴らの収集癖の様なものでキラキラが大好きなんですよ。﹄ ﹃そうなんでしゅか!⋮⋮カラスしゃんと同じでしゅね⋮⋮ボク、 前にカラスしゃん達にいじめられたでしゅ⋮⋮その﹁成金趣味﹂し ゃんも怖いでしゅか?﹄ ﹃ん∼。どうでしょうね。両親が長様︵麗春︶に聞いた事によると、 動物の剥製を飾るのも趣味見たいですよ。﹄ ﹃ボクも捕まったら⋮⋮﹄ ﹃管狐は剥製に出来んだろ⋮⋮我らの方が危ういぞ﹄ ﹃ん。蛇の革は優れた素材らしいな⋮⋮気を付けよう﹄ このギラギラな内装の部屋じゃホラーな展開は期待出来ないな⋮ ⋮違うな⋮うん。違う。そうじゃなくて⋮これからどうしようか? ﹁それこそ、下手に動けない⋮⋮﹂ ・・・・そうだ。ポチ達に周りを探ってもらえるだろうか⋮⋮モ 950 ノは試しに⋮ ﹁なぁ⋮⋮お願いもう一個聞いてくれるか?﹂ ﹁キャウ?﹂︵何でしょう?︶ ﹁⋮⋮⋮?﹂︵お願いと言わず、命令してもいいのだか?︶ ﹁クェ?﹂︵お願いとは何でしょう奥方様?︶ ﹁きゅ?﹂︵何でしゅ?︶ これは⋮⋮聞いてくれるって事で良いのだろうか? まぁ試しに な、試しに⋮ ﹁周りを探ってもらえるか? 何かレン達の助けになるかもしれな い⋮⋮可能性は低いけど⋮﹂ 言ってみるもんだ。俺を話を聞くとポチが小さく一鳴きして奏以 外の眷属達は散り散りに駆けていった。俺のお願い聞いてくれるの は単に俺がレンの妻︵一応︶だからだ。ホントにあいつには感謝し きれない。 ﹃管狐は奥方の側で待機⋮後の者は影に潜み偵察。では解散。﹄ ﹃あぁ、了解だ。﹄ ﹃はい。了解しました。﹄ ﹃僕はまたおるしゅばんでしゅ⋮⋮﹄ ﹃留守番はとても重要だ。奥方の警護だ。﹄ 951 ********* その頃、白の国の王宮一室 ﹁もっと警戒すべきだったわ。﹂ 私は何度間違うの!! ﹁レイ、紅蓮が向かった。大丈夫だあの子は誰と誰の子だ? 俺達 の子だろ?﹂ 朱李の言葉を真に受けられない⋮⋮現に私は近くに居たのにラン ちゃん達の危機に気づけなかった⋮何度も!! ﹁彼方も⋮人質は無下に扱わない。藍苺は無事だ。そう思え⋮⋮今 だけは。﹂ 私はそこまで器用じゃないなよ、白の王の貴方のようには考えら れないのよ。朱李も、それは分かっているわ。コウちゃんだもの、 そんじょそこら魔物には負けないでしょう⋮⋮けど 952 ﹁相手は神よ、いくらコウちゃんでも⋮⋮まだ勝てるか⋮⋮﹂ あの子⋮舞子と決着を着けるのに8年以上かかってしまった。も しもう少し早く決着を着けていたら⋮⋮ ﹁俺があの時捕まってさえいなければ⋮な﹂ 確かに。結果的にはそうだけど⋮、そんな風には思いたくない。 だってあの時は私も油断していたから⋮⋮ ﹁それなら私も同罪よ﹂ ﹁そして俺もな。他国の事と手だししなかった俺にも非は有るだろ う。何もお前達だけの所為ではないさ。だろ?﹂ ・・・・ふふふ⋮誰よりも変わらないのは王である貴方のようね。 朱李と顔を合わせて笑ってしまったわ。さて、こんな所でくよくよ していられない。 ﹁ふぅ⋮⋮さて、あの子⋮舞子が何処に隠れているか⋮藍苺と紅蓮 の行き先を特定しなくちゃ。後悔は後でするわ。八咫烏!﹂ ﹃ここに﹄ 何も無いところから突然現れた八咫烏に紅蓮や藍苺の場所を探さ せる。それに他の眷属達にも探してもらう。こう言うときは人海戦 術が有利。総勢80人近い眷属達はこう言う時に役に立つわ⋮⋮ホ ントは危ない目に会わせたくは無いのだけど、あの二人の事だもの ⋮⋮手段は選ぶ時間がない。 953 ﹁ん?﹂ 白の王の彼が雇っている間者が屋根裏から降りてきた。流石白の 王に仕えている者ね。存在感がはっきりしない人ね。それに心音が 常に一定なんてホントに人なのかしら⋮⋮サイボーグなんて落ちじ ゃ無いわよね? ﹁ん、分かった。引き続き監視と調査を続けろ。﹂ 何か分かったのかしら? ﹁何か分かったのか?狛李。﹂ ﹁あぁ、⋮⋮街の上空を白龍が翔んでいる時五体の飛竜が突如現れ 白龍に倒されたらしい⋮⋮︵流石二人の子供⋮⋮恐るべし。︶﹂ ︱こんな会話があったとさ⋮︱ ******** 954 ポチ達が周囲の探索に出ていって少し経った。すると⋮ ガチャリ⋮⋮ 扉が開いた音がした。振り返ると紅蓮部屋に入ってきた⋮⋮ ﹁藍苺!助けに来たよ。も∼、捕まるなんて⋮⋮心配したよ⋮﹂ 歩いて来る紅蓮に違和感がある。しかし俺は黙って見つめていた ⋮⋮実は動けなくなっていた。何かしらの術にでも掛かったのか!? ﹁ホントに⋮⋮邪魔なんだよ⋮﹂ 目を見開いた⋮⋮浴びせられた言葉にではなく・・・・・自分の 腹から飛び出した⋮違うか、突き刺さっている⋮ナイフを見て驚い たんだ。 俺は紅蓮に腹を刺された⋮⋮ ﹁お前が居なければ、前世でも私は死なずに済んだんだよ⋮⋮全部 お前の所為だよ⋮⋮ずっと恨んでたんだ。いつ殺そうかと機会を伺 955 ってた⋮⋮邪魔な奴等も居ない今、絶好の機会だったよ⋮⋮ふふふ ⋮ふはははは⋮⋮ハハハハハ⋮﹂ 俺を紅蓮が、ベルが怨んでた?俺が居たから死んだ⋮⋮⋮⋮俺が ⋮⋮ ﹃きゅ!! 放すでしゅ!!﹄ ﹁煩いんだよ⋮⋮雑魚の分際で!﹂ ﹃きゅえ!!⋮⋮⋮⋮⋮﹄ ﹁ハッ⋮⋮弱いな⋮﹂ 奏? 紅蓮⋮⋮何で奏を切ったんだよ⋮⋮お前の眷属だろ! そ れに⋮⋮お前刀何で持ってたのか⋮? 意識が⋮⋮遠退いている? あぁ、こんなに痛いもんなんだな⋮ ⋮腹を刺されるのって⋮⋮切り傷って痛いな⋮⋮うぅ⋮⋮あいつは ⋮レンは⋮いつもこんな痛みを我慢していたんだな⋮⋮助けられて ばっかの俺を⋮⋮恨んでいても⋮⋮恨まれても仕方ないよな⋮⋮恨 まれても⋮? 956 恨んでいるのに俺を何で助けてたんだろ⋮⋮ 俺が最後に見た紅蓮はあいつに似合わない歪んだ笑みで此方を見 ていた⋮⋮あ、レンの目と少し違うな⋮⋮⋮・・・・・・・︱︱︱ ︱︱︱︱︱︱ 957 フラグ回収︵前書き︶ 不吉な終わり方をした前回。藍苺の運命や如何に! 958 フラグ回収 主の大切な御方のためこの城を隈無く捜索することになった⋮⋮ が、どうやらここは⋮⋮ ﹃黄の国の王宮ではないか⋮⋮﹄ この臭い⋮忘れもしない。5年以上いた場所なのだから。それに しては人が見当たらない。それに⋮この臭い⋮⋮何かの薬品⋮いや、 香か? そんな匂いが微かに匂う⋮⋮人では気付かぬ程度だろう。 それと本のわずか妖気も漂ってくる⋮⋮ 主の御生母様の話では黄の国は一応機能しているはずであった⋮ ⋮では何故人が見当たらない。 ﹃先輩! あまり良くない気配が⋮⋮﹄ ﹃む、⋮⋮この気配⋮⋮側室か? ﹃どうした天狼⋮⋮何かの分かったのか?﹄ ﹃奥方の部屋の方向から側室舞子の気配を感じたのだ⋮⋮急ぎ戻ろ う⋮﹄ 何故か知らないが⋮⋮主の言う﹁虫の知らせ﹂と言うものなのか ⋮戻らねばならないとそう直感した。不思議なものだ。これは主に 何か危険が迫った時有ることなのだが⋮⋮どうやら今回は奥方にも 対応しているのだろうか⋮⋮主経由で不安感が伝わってきたのやも 知れん。主と眷属は密接な絆で繋がっているものだ。そんな主から 伝わってくる今の感情は﹁不安﹂﹁哀しみ﹂﹁怒り﹂の感情が混ざ 959 りあった複雑な感情だった。 ﹃奥方には奏が着いている⋮が、元々戦闘には向かぬ⋮我らの内の 誰かが残るべきだった⋮クッ⋮﹄ ﹃後悔は後ですればいい。今は部屋にいち早く戻ることが先決だ﹄ ﹃そうです。この事は何も先輩だけの事では無いんです。﹄ 考えるのは後ですればいい⋮⋮確かにそうだな。今は部屋に戻る ことだけを考えよう。 ﹃部屋に⋮居ない⋮⋮﹄ ﹃奥方様が居ない⋮⋮何処に!?﹄ ﹃奏も一緒に居ないのか⋮何処に連れ去られたか⋮⋮抜かった⋮﹄ あと一歩⋮だったのか不明だが、我らは間に合わなかった。なん と言うことか⋮⋮こうしてはいられぬ、早急に探さねば! ********* 960 ﹃や、やっと着いた⋮⋮ハァ∼﹄ ﹃ん、一時間か⋮⋮及第点だな。﹄ 偉そうに⋮⋮あ、神だから偉いのか⋮⋮ハッ⋮ まぁいいや。そんなことより⋮⋮嫁さんだよ藍苺だよ! ﹃ここ⋮⋮黄の国の王宮じゃん⋮⋮相変わらず悪趣味な成金趣味だ ね∼黄色と金色は違うんだって⋮﹄ ﹃うむ、それに品というのは金色の物を集めるだけではない⋮⋮こ れでは宝を集める邪竜ではないか⋮⋮カラスもアリか﹄ これと一緒にされるのはどっちも嫌がると思うよ。それより、嫁 さんの所に案内してくれるんでしょ? 急ごう⋮⋮さっきから胸騒 ぎが⋮⋮ ﹃⋮⋮⋮⋮⋮﹄ ん?どうかした? オーイ⋮⋮? ﹃⋮今はどうやら城中の人間は眠らされているようだ。そのままの 姿で彷徨いても問題ない。こっちだ﹄ ﹃⋮⋮⋮⋮そっちって⋮⋮謁見の間でしょ? 目的地ってソコ?﹄ 961 ﹃ああ、そうだ。さぁ早く﹄ 無駄に長い廊下を歩き謁見の間に向かう⋮⋮ここを出ていくとき この廊下を通ったな⋮藍苺と一緒に。まだ一年も経って居ないのに 戻ってくるとは思わなかった。龍の姿で翔んでいんのであの時より も早く着いたのだろう。扉を開けるため人の姿に戻る。荷物は辛う じてポーチを持ってきたので服はあった。持ってきてよかった⋮⋮ 悪趣味な内装はキレた母さんに破壊されただろうに、キチンと元 に戻っていた。そして私や嫁さんに飛んできた木片となった扉も元 通りになっていた。重たい扉を開けるとそこには⋮⋮ ﹁藍苺が⋮⋮大勢⋮⋮﹂ 氷の様なものに閉じ込められた藍苺らしき大勢の人が居た。多分 王宮に居た人達だろう。全員藍苺の姿にされている⋮⋮私がそう見 えるだけかも知れないが。ねえ、これが試練なの? これって試練 にしては王道じゃない?こんなんで良いのか?てか、白神はどっち に賭けてんの? ﹃この中に藍苺が一人だけ、この中から当てるのだ。﹄ ﹁⋮⋮⋮﹂ 偉そうに言う。この中からって何人いると思ってんだか。300 人は優に居るぞ。簡単に言ってくれるよ⋮白神の奴⋮⋮⋮なんてね 962 ﹁ソロソロ正体バラしたら? さっき入れ替わったのは気づいてる から⋮⋮側室側の神様﹂ ﹃⋮⋮⋮チッ⋮なんだ面白くない⋮⋮お前勘が良すぎるな。まぁい い。それよりも、早く助けなくて良いのか?愛しの妻を助けに来た んだろ? だったらさっさと見つけろよ⋮⋮出来たらの話だけどな ⋮ハハハハハッ﹄ ハァ⋮煩い奴だな。こんなことなら引っ掛かってるふりしとけば 良かったかも。こんなに煩いなんて思わなかったし⋮。え? 何で 気付いたか?そんなの簡単。頭の中に直接響く音と部屋のなかで響 く音って違うでしょ? え?それも分からない? ごめんごめん⋮頭の中に直接響く何で 早々無いよね。近くと遠くで響く音って違うでしょ?それだよ。気 付いたのはそれだけじゃないけど。もう一つは、私の心の声を聞き 取れてない事。まぁこれは勘なんだけどさ。 ズラリと並べられた藍苺とその他大勢の入った水晶か氷の棺?は 広い謁見の間を埋め尽くしている。綺麗に整列しているので一人一 人順番に見ていく。 8歳の私達は子供だ。当たり前だがまだ身長は低い。ここに閉じ 込められた人の殆んどが城の住人なら大体は大人だろう。が、閉じ 込められた大勢の藍苺モドキはみんな本物と同じ身長に見える⋮⋮ 光の屈折か術でそう見えるのか分からないが、見た目はそっくりだ ⋮⋮ 963 ﹁質問なんだけど⋮⋮﹂ ﹃なんだ⋮面白くない事なら聞くなよ﹄ お前の面白くない事とか知らんよ。 ﹁この国の陛下はどうした? 他のみんなは生きてるの? ﹂ 一応⋮ね、一応。目覚めが悪くなるだろ、助けなかったら。 ﹃ふん。生きてはいる⋮がお前が間違えれば⋮⋮死ぬ。どうだ、お 前にとっては目障りな者が一斉に居なくなるぞ⋮⋮俺に感謝しろよ﹄ ハッ! いい迷惑だよ。目障りなら自分でどうにかするっての。 他人にしてもらおうと思ってない。 ﹁⋮⋮で? 本物の藍苺を当てれば良いんでしょ。﹂ 全く。どこまで王道なんだよ。捻りのない奴だな⋮⋮あ、これは 白神が考えた試練だったっけ⋮⋮すまん白神。お前はこのキチガイ 神よりましだ。 一人一人見ていくと、全然似ていない者も多くいた。手抜きか? 私が﹁違うな﹂と呟くとその水晶が消えて中の人物が出てきた⋮ ⋮あ、宰相の息子︵変態︶じゃん⋮息してるか⋮⋮チッ⋮ ⋮⋮私が違うと口に出して言えば術が解けるようだ。偽者ならば ⋮⋮だろうが。 964 そうと分かれば、と次々術を解いていく。術が解けると筆頭女官 に宰相⋮⋮オマケに兄上達の母親達⋮⋮それに宰相の息子その二︵ 女好き︶もいた。 あ、説明してなかったけど、あの襲撃してきた宰相のどら息子達。 アイツ等ね⋮⋮白の王に突き出したんだけど⋮⋮白の王は﹁コイツ ら置いといても邪魔だし⋮のし付けて送り返そう、そうしよう。﹂ みたいな感じで黄の国に嫌味付きで送ったんだって⋮⋮だからここ に居るのも分かるけどさ⋮⋮城に出入り禁止にならなかったのか⋮ 甘いな。 今の今まで忘れてたよ。どら息子共。記憶の彼方に。 次々と解けていくぶん邪魔になってきた人々を避けつつ残る二人 に絞りこんだ。そこで少し迷っている。実は⋮⋮ ﹁︵奏が入っている薬入れをもった藍苺と藍苺にしか見えない藍苺 がいる。どっちだろ?︶﹂ はっきり言おう、サッパリ分からん。元々自信なんか無いのだけ ど、試練を受けるとしか言えなかったのだ。だって、自分一人では 嫁さんを取り戻す何て出来なかったのだし⋮⋮ダメだな。 ﹃早く選べ。死ぬぞその二人﹄ うっさいっての⋮⋮こっちは真剣に悩んでんだから黙ってて。 965 そう言えば解けて人の中にKY陛下が居なかったな⋮⋮この二人 顔色悪いけど、もしかして片方は意識が戻らなくなったとか言って たKY陛下か? ん? てことは⋮⋮嫁さんも何処か体調が悪い? ﹃アハハハハ⋮⋮クフフハ⋮⋮気付いたぁ? そうだよ、か弱いか 弱い藍苺は後一時間もしない内に死ぬんだよ⋮アハハハハッ⋮⋮勿 論本物を当てても死ぬけどねぇ∼。とんだ手間だよね⋮アハハハハ⋮ ⋮⋮⋮死ぬ⋮⋮本物を当てても⋮⋮ ﹃アハハハ⋮⋮そんな可哀想な紅蓮君に嬉しいお知らせでーす♪ 俺と賭けで勝てたら助けてやっても良いよぉ∼クフフ⋮⋮﹄ ﹁⋮⋮⋮﹂ 頭が芯こら冷えていく⋮⋮あの時と同じだ。けどね⋮⋮こんな時 にキレる訳にはいかないんだよ。 ﹁やってやらぁ⋮⋮さっさと条件を言えよ﹂ そう言うと奴は姿を現した。どうも何処かで見た顔だ。他人のそ ら似か? どうやらご機嫌斜めのようだ。気に入らないと言った顔で睨んで くる。 966 ﹃チッ⋮なんだよ∼全然慌てないなんてツマンネー。オマエ他人な んかどうでもいいんだな。﹄ ﹁で? 条件を言えよ﹂ ﹁ホントにツマンネー﹂と言ってだらける奴は上に向かって話始 める。気でも狂ったか? ﹃オーイ⋮⋮石頭とジジィ出てこいよ。紅蓮君が決着着けてくれる ってよぉ﹄ ﹃お主はまた巻き込んだのか!﹄ 仙人みたいなじいさんが現れて奴に突っかかる。まぁ、このじい さんが母さん側の神様何だろう。続いて静かに白神が現れた。こち らは苦虫を噛み潰した顔+眉間に皺を寄せていた。 ﹃どういうつもりだ。﹄ ﹃何って、決着着かないんだからこの子に着けてもらえば良いじゃ ん。面白いしぃ♪﹄ ﹃お前は⋮⋮この!﹄ ﹁あーッと、悪いんどけど、早くしてくれない?こっちは命かかっ てんだから。喧嘩は後にしてよ。﹂ 母さん側の神様なキレ始めたので止めることにする。こっちは急 いでるんだ。 967 ﹃ほぉーら紅蓮君が怒っちゃったよ。﹄ 苛つく、マジ苛つく⋮⋮コイツホントに側に居たくない。 ﹃⋮⋮⋮良いのか? コイツは神経捻じ曲がっているぞ。どんな事 を言われるか⋮﹄ ﹁そうだね。でも、私はただの人。神が仕掛けた呪い何かにはどう 対処していいか解らない。白神だっておいそれと人を助けられない んでしょ?﹂ だとしたら、奴を利用するしか私には思い付かない。それに、悪 化しないようにしないと⋮⋮私には正直荷が重い。 ﹃そうそう。本人がそう言っていだから良いの良いのぉ∼。さて、 条件だけど∼俺が決めても良いよね。﹄ ﹃調子に乗るな!お前さんは⋮⋮﹄ ﹁⋮⋮早くしろ﹂ いい加減にしろよ⋮⋮な? ﹃暫し待て、我らの声を聞き取れてない様にする。その内に本物を 決めろ。﹄ 白神がそう言うと彼等の声が一切聞こえなくなった。するとさっ きまで騒がしかったのが嘘のように謁見の間は静まり返った。奴が どれだけ煩かったかよくわかるな。さて、早く本物を特定しないと ⋮⋮ 968 ********* ﹃⋮⋮えっと⋮⋮なら、条件は﹁命を捧げる﹂何てどう? 人なん て自分の命をポイッとあげるなんて出来ないでしょ。﹄ ﹃⋮⋮むむ⋮不本意だが⋮⋮仕方無い。ワシは⋮⋮悩むと思うぞ。 どちらも早々には選べんよ。﹄ ﹃この賭けは私も参加しよう。私は直ぐに是と答えるに賭ける。﹄ ﹃へー。随分と入れ込んでるね⋮⋮何?あの子そんなに病んでるの ?﹄ フム⋮⋮病んでいるとは少し違うな。あれは⋮依存とも取れるが ⋮⋮どうなのかは本人にも分からんのではないだろうか。 ﹃勿論⋮紅蓮が藍苺を見つける事が大前提だけど⋮⋮見つけられる かな♪﹄ ﹃ぬ、お主⋮⋮何か小細工をしたな⋮﹄ 969 ﹃あったり前じゃん♪ 勝てればいいんだよ、賭けなんてさ。﹄ その意見には同感だ。 ﹃彼方が差し出すものは命⋮⋮ならばオマエも何か差し出さねばな。 ﹄ ﹃じゃぁ⋮⋮﹄ ﹃何を勘違いしている。オマエに決定権はないぞ。条件を決めたの だからな。次は私だ。良いな二人とも。﹄ 途端に不機嫌を露にする戯け者は私に食って掛かる。やれやれ⋮ また子供だ。 ﹃何でさ! 俺が決めても良いじゃん。﹄ ﹃公平な賭けでなければならぬ。条件は良い。だが、お前は失って もなんとも思わぬモノではダメだ。だから私がお前の一番嫌なこと を決める。﹄ 文句は言わせん。そう締め括ると納得いかない顔で頷いた。 ﹃勝負が着いてから条件を言おう。さて、紅蓮が藍苺を見つけたら しい。声を戻すぞ。﹄ 970 ********* 奏の入った薬入れを持っていたのが陛下だった。勿論間違えずに 本物を当てたよ。決め手は髪を結っている組み紐の色。本物は私の 組み紐を使っているから⋮⋮と、勘。てか、勘が大部分を占めてた けどね。 ﹁藍苺⋮⋮体温が低い⋮⋮﹂ 何か呪詛でも賭けられているのだろうか。それしかないか。それ も強力な⋮⋮ ﹃無事見つけたな﹄ 白神達の相談も終わったようだ。藍苺の冷たい体を抱き起こし少 しでも体温が戻るようにポーチから着物を取りだし藍苺の身体に巻 き付ける。効果は期待できないが、何もしないのは何より私の気が 済まなかった。 ﹃なーんだ、見つけちゃったのか⋮ツマンネー。﹄ ﹃お主⋮ホンに捻じ曲がっておるのぉ⋮⋮﹄ 971 決まったのなら早く条件を言えっての。どうせ、えげつない条件 を言うのだろ? ﹃条件はねぇ⋮⋮紅蓮君の命だよ。命を俺に差し出すなら藍苺を助 けてあげる。どお?やっぱり嫌でしょ!?さあさあ悩みな﹁良いよ。 命だけで助かるなら﹂は?﹄ また、先に逝く事になるけど、後悔は⋮⋮しない。しないように する。ホントは生きたい⋮けどね、 ﹁見捨てて生き永らえるよりずっとマシ。﹂ ﹃はぁ?本気かよ⋮⋮え? いや、ほら⋮死ぬんだよ! オマエそ れで良いのかよ!﹄ ﹁⋮⋮⋮神の癖に約束を違えるのか?﹂ ﹃⋮⋮⋮⋮チッ﹄ ﹃決まりだな。紅蓮、後悔はないな?﹄ ﹁今のところは﹂ ﹃さて、条件をクリアしたのだから藍苺や他のものに掛けた呪詛を 解け﹄ ﹃えー⋮面倒⋮⋮その他大勢は別に簡単だけど∼藍苺はちょっとば かし複雑なんだよねぇ⋮俺って掛けるの専門だし。解き方なんて知 らない。﹄ 972 は? その時の事をあまり覚えていない。気が付けば側室側の神の頭を 掴み床に叩きつけていた。 ﹃グベッ⋮⋮﹄ 奴はとても石頭だったようで床の大理石は粉々になり奴の血が流 れていた。 ﹁もういっぺん言ってみな⋮⋮その飾りの頭を握り潰すぞ⋮⋮﹂ 白神や仙人の様な神に抑えられ落ち着きを取り戻したが、起き上 がった奴は未だ悪びれた様子がない⋮⋮もういっぺん床とご対面す るか? ﹃バカ者! お前はさっさと他の者の呪詛を解け! 藍苺の方は我 らで何とかする。これは借りにしとくぞ。分かったな!﹄ ﹃う゛∼∼﹄ 私よりすごい剣幕で白神が奴に怒鳴り付ける。頭を抱えた奴は渋 々動き出す。⋮⋮そんなことより藍苺は⋮⋮⋮助かるよね? 少し 弱気になる。 ことわり ﹃儂等の面倒ごとに巻き込んだ者を見捨てるようなことはせんよ。 儂とて神じゃ、多少理に触れ咎を受けるともな﹄ ﹃安心しろ、奴の呪詛は私の力で解ける⋮⋮が、心を闇に囚われた としたら⋮⋮そなたが迎えに行けば良い。誰の力も借りず出来たこ 973 とだ。今回は二人も神が味方⋮失敗などないぞ。安心しろ。﹄ ホントに? ﹃あぁ。﹄ ⋮⋮助かるなら。どんなこともする。でも、悪事はしないけどね。 ﹃減らず口を叩ける元気が有るなら大丈夫だな。﹄ 少し微笑んだ白神が、だが⋮と話を切り出す。なんただろう⋮⋮ 嫌な予感がひしひしとするんですが。仙人の様な神は少し困り顔で こちらをみている。だからなんだよ⋮⋮ ﹃実はな⋮⋮⋮⋮⋮なんだ。﹄ ﹁へー⋮⋮懲りてないと?﹂ 両神は﹃うん﹄とハモりながら頷いた。最後まで厄介な⋮。 ﹃奴の事は任せておけ⋮⋮しかし気を付けろ。全て防げるわけでは ない。﹄ ﹁まぁ、良いよ。選り好みなんて出来ないんだし。﹂ 何処か投げやりな考えだったと自分でも分かる。真剣な顔で白神 が私の頭に掌を翳す⋮⋮すると私は眠りに落ちた。 974 ******** シラガミ ﹃白神や。ホンに良かったのか?お主が咎を受けるなら儂が受ける べきじゃよ。儂らが始めた事⋮⋮主は審判者なだけじゃろ。﹄ ハイロウシン 私より随分と年上の外見をしている神・灰老神は う私に話しかける。確かに今回の事は私には直接的な関係は無いだ ろう。 ﹃傍観者の間違いだろ。私は⋮⋮﹄ ﹃昔の家族が心配なんでしょ∼∼うわー⋮美しき家族愛だねぇ∼⋮ ⋮オェ∼﹄ キドウジ 私が人間で言う青年期であるなら灰老は老年期、そしてこの事件 の騒動の発端である少年期の姿の神・黄童子。コイツは少々⋮⋮い や、かなりお騒がせのトラブルメーカーだ。今回の件もコイツが言 い出した。 ﹃お主が言えた義理かの? お主の執着心は誰よりも根深いじゃろ ⋮。特に彼女の事になると見境が⋮﹄ 975 ﹃うっさいよ⋮ジジィ!! アンタに何が分かる。﹄ 灰老の言葉に過剰に反応した黄童子。コイツは彼女に未だに未練 があるからな。彼も大変だ、記憶を無くしてなお、執念深く恨んで いるのだから。 ﹃そんなことよりも、黄童子⋮⋮お前はペナルティーを科す⋮⋮お 前は︱︱︱︱︱︱﹄ もう二度と、コイツの好きにはさせんよ⋮⋮だから⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ⋮⋮ ︱︱︱︱︱︱︱現世では長生きしてくれ︱︱︱︱︱ ︱︱︱︱︱︱︱︱︱母上、父上⋮⋮⋮⋮ 976 脱出∼僅かな時間∼︵前書き︶ まさかの投稿し忘れ⋮⋮すいませんでたm︵︳︳︶m これで終わりまで⋮⋮後数話⋮。この間お付き合いいただけると 幸いです。 977 脱出∼僅かな時間∼ ︱︱︱︱何度も何度も⋮何度も同じ事を、私は繰り返してきた。ま た私は繰り返すのだろう。自分でもよくもまぁ懲りないな︱︱︱︱ ︱︱︱ さぁ、ここからが正念場だ。2度目の藍苺の夢の中に白神の力を 借りてやって来た。しかし⋮⋮ ﹁前も変な場所だったけど・・今回は物悲しい⋮より、何か殺伐と して前より酷くなってないか?﹂ 前に来たときは大きな姿見の様な映像を写し出していた⋮多分記 憶何だろう⋮⋮それが数多くある草原の様な場所だった。が、 ﹁姿見が割れて砂嵐になってる⋮⋮﹂ さながら壊れたテレビだ。それに草原の草が枯れている⋮⋮これ 978 は藍苺の心に何があったのだろうか? 心が荒れているのかな? だとしたらどうやって助けたら良いの だろ・・・私は気の利いた事など言えるほど器用じゃない。藍苺を 余計に傷付けたらどうしょう⋮⋮⋮⋮ 考えているとふと見ると数多くある記憶の映像の中で不自然に真 っ黒な姿見を見つけた。それは直感だった。ここに藍苺がいる。そ う分かった。もしかしたら白神が何かしたのかもしれない⋮⋮ 私はその真っ黒な姿見を覗いた。 ﹁何処まで見ても⋮真っ黒⋮⋮﹂ 底が見えない。近付いたらもう少し見えるかと思い手を触れて近 付く⋮⋮すると ﹁うわ⋮⋮ナニコレ⋮⋮表面がぷよぷよ⋮⋮気持ち悪⋮⋮ん?﹂ どうもこの真っ黒な姿見は何かぷよぷよしたモノで覆われている ようで、この真っ黒が姿見が移すモノでは無いようだ。手触りは弾 力性が強い⋮⋮そうスライム⋮⋮黒い砂鉄を混ぜたスライムのよう だ。 指先で触ると震え、掌で触ると硬くなる⋮⋮片栗を溶かした水溶 液のようだ。面積が大きいと反発力が増し、接触面積が少ないと柔 らかい⋮⋮これなら刃物で容易く斬れるだろう。直ぐに元に戻るだ ろうが。スライム何て斬撃は効かないと相場が決まっている。だが ⋮⋮ 979 ﹁中に入る時間はあるかも﹂ 中に入りさえすれば良いのだ。手遅れになる前に藍苺の所に行か なければ⋮ ﹁物理的な攻撃は効かないと思った方がいいか⋮あ、なら狐火はど うだろう﹂ 狐火なら誤って姿見まで傷付けたりはしない。出来るかも知れな い。けれども、ここは藍苺の心の中、何が悪影響を及ぼすか分から ない。尊重に行動しないと。 ﹁慎重に、燃やすのはこの邪魔なスライムだけ。⋮⋮スライムだけ。 ﹂ 実際これがスライムかなんてどうでもいい。早く、早く行かない と!! ﹃狐火!!﹄ スライムってこの世界にもいるけど、こんな真っ黒な奴は聞いた 事ないな⋮⋮あの側室側の神がどっか別の世界から連れてきたのだ ろうか?それとも、神の力で造ったか⋮⋮まぁ、そんなの関係なく 燃やすだけだ。 弱点属性が炎だったのか、単に術に弱かったのか分からないが、 スライム︵らしきもの︶はみるみる溶けていった。すると姿見には 藍苺と思しき人が誰かと対峙していた。 980 ******** 目を覚ますとそこは暗い場所だった。周りは何もない⋮⋮周りに 目を凝らしていると前方から歩いてくる人影がある。体を起こしそ の人影を見つめた。 どんどん近付く人影は暗がりでも分かる程ボンヤリと周りが明る い。近付く人影は紅蓮だった。 漸く会えた⋮⋮そう思い声を掛けようとする。が、声が出ない。 さっきまで動けた身体も動かなくなっていた。 ﹁︵これは悪い夢か?︶﹂ そう思いたい。何故なら⋮⋮紅蓮は俺を⋮⋮憎しみの籠った目で 俺を睨んでいたからだ。 ﹃オマエさえいなければ⋮⋮私はイマゴロ⋮⋮タノシク⋮あの子と クラシテイタ⋮⋮オマエの所為だ﹄ 981 今の言葉にさっきの出来事が呼び起こされる⋮⋮ あぁ、そうだ。俺は⋮⋮紅蓮に刺されたんだ⋮⋮恨まれていた⋮⋮ その考えが頭を支配する。もう愛情など無いだろう⋮⋮恨まれて いたのだから。 けれど、心の片隅で﹃本当にそう思うのか?﹄と問い掛けてくる 自分が居た。きっとこれは俺の願望何だろう。 ﹃オマエが⋮いなければ⋮⋮いなければ⋮⋮﹄ 壊れたラジオの様に繰り返す⋮⋮これは夢何だろう。けど、本当 に恨まれて⋮⋮⋮ ﹃そう思う? 私はそう思っていたら構ったりしないよ。﹄ ホントにそうか? 高い場所から突き落とす方が効果的だろ? その為に優しくするのも⋮⋮ ﹃手の込んだ復讐だね⋮⋮﹄ とても俺には効果的だろ。現に夢にまで見ているんだから。 ﹃本当に⋮⋮恨まれていると思うの?﹄ 982 違うのか? ﹃確かめれば良いでしょ。聞いてみれば?﹄ ⋮⋮⋮⋮ ﹃怖いんでしょ?﹄ ⋮⋮⋮あぁ、怖い。怖くて仕方ない。嫌われたくない⋮⋮ ﹃なら、尚更聞かないと⋮⋮昔の私に教えてくれたのは⋮⋮君でし ょ?﹄ ⋮⋮? ﹁憎い⋮憎い⋮ニクイ⋮ニクイニクイニクイニクイ⋮﹂ 紅蓮の姿が歪み新たな姿をとった⋮⋮ベルの姿になっていた。事 故当時の姿だろう⋮⋮頭から血を流し、両腕で子供を抱えた姿だっ た。子供の顔は見えないが、シュウの姿だろう。 ﹁オマエの所為だ⋮ニクイ⋮オマエの⋮﹂ 確かベルの死因は出血多量の凍死⋮⋮あの時の季節は真冬だった。 雪は降っていなかったが、氷点下だったはずだ。息子のシュウを抱 きしめ体温が失われないように⋮⋮横転した車の中で息絶えていた。 シュウはベルの決死の行動も虚しく凍死だった。 983 ﹃ホントに⋮⋮恨まれていると思う? い?﹄ 惑わす? アレの姿に惑わされてな ﹃君の知っている彼女⋮⋮今は彼か。その彼等が君を恨んでいると ⋮⋮本気で思うの?﹄ 現に本人が、 ﹃それは本当に本人? 君の知っているベルってそんな人? 現に あの事故は君も彼等の所為でもないよ。﹄ じゃぁ誰の所為だよ。 ﹃運がなかった。私はそう思う。そう思うことにした。そうしない と前に進めないから。﹄ けど、 ﹃けど、は無し。それに、よく周りを見て。よくアレを見て。ホン トに君の知っている彼女と子供なの?﹄ 問い掛けてくる声はどうやら俺の心の声とかではない様だ。何か の意思が俺に話しかけてくるようだ。誰なんだ? ﹃ホラホラ、集中! よく見れば分かること⋮⋮﹄ ︱︱︱よく見れば分かることってあるじゃん♪︱︱︱ 984 ︱︱︱例えば?︱︱︱︱ ︱︱︱石像の後ろに本当の仕掛けが隠れてたり︱︱︱ ベルみたいなこと言うんだな。 ﹃誰でも言うことだよ﹄ ︱︱︱誰でも言うって︱︱︱︱ ⋮⋮ふっ⋮⋮ ﹃ん?何?どうかしたの?﹄ ⋮⋮いや、しかし周りを見ろって⋮⋮身体動かないのにどうやっ て見るんだよ。 ﹃首も動かないの?﹄ 動かないな⋮⋮ ﹃感覚は? 地面に突いた腕が痛いとか⋮?﹄ そう言えば、手が冷たい⋮⋮ ﹃そっか⋮⋮﹄ そんな事を聞いてどうするんだ? そう思っていると手の甲に温 985 かい何が触れた。なんだ? 何もないのに⋮⋮ ロクロ ﹃名付けて、幽霊作戦! 轆轤じゃないけど⋮⋮﹄ ⋮⋮⋮おまえ⋮⋮レン? ﹃漸く気付いてくれた♪ そうだよ。今直ぐ隣に居るんだよ。嫁さ んの目に見えないだけで。﹄ 何だよそれ。 ﹃後ね、嫁さんを刺したとか⋮私じゃないよ。そんな事をするなら 自分の腹を掻っ捌くから。﹄ するなそんなこと。⋮⋮違うんだな。 ﹃うん。さて、もう起きる時間だよ。いつまでもお寝坊さんなんだ から⋮⋮変わらないね⋮﹄ 1つ聞きたい。お前は⋮俺を恨んでいるか? ﹃⋮⋮私はね⋮⋮自分を恨んでた。何であの日出掛けよう何て思っ たのか自問自答した。だから、ジンを︱藍苺を恨んでなんかないよ。 アレは私が勝手に迎えに行ったんだから。﹄ ⋮⋮そうか。 ﹃ホラ、もう現実に帰ろ。悩むのはそれからにしよう。ここに居る とジメジメネガティブまっしぐらなんだから⋮ね?﹄ 986 ⋮⋮あぁ、⋮⋮記憶⋮⋮ ﹃ん?﹄ 記憶が有るんだな。お前も。 ﹃まだほんの少しだけどね。まだ8年ちょいの記憶が無いけど⋮⋮ それはおいおい。﹄ ⋮⋮⋮帰るか。 ﹃うん。⋮⋮っと、その前に。このグロテスクな私をどうにかしな いと⋮﹄ なぁ、今横に居るんだよな? ﹃居るよ。何なら手を繋ごうか?﹄ 俺はガキかよ⋮⋮あぁ、そうしよう。それから、 ﹃ん?何?﹄ アレは大丈夫だ。何せ⋮⋮俺の夢だからなここは。 ベルもといレンの力は偉大だ。さっきまでの不安感が綺麗に無く なった。この悪夢も呪詛と同じだ。気を確り持てばいい。強気で、 例えさっきの声がレン本人では無くても、それで俺は勇気が湧いた。 それでいい。 987 我ながら単純に出来ているな俺って。 ********* 光が集まって形を作り出す。姿見から出てくる時体が消し飛んだ のだろうか? 厳密には精神体なんだけど。手を繋いでいた嫁さん は直ぐ隣に居た。勿論手を繋いだままで。 ﹁おかえり。まだ厳密には現実にじゃないけど。﹂ ﹁⋮⋮ただいま﹂ 少しどけ憑き物が取れた顔の嫁さんに少し安堵する。けれど、こ れで終わった訳ではない。これから現実に戻らなければいけないの だ。 ﹁ここからが骨だよ⋮⋮何本折ることになるのか⋮﹂ ﹁なぁ、俺が捕まっていた間に事態は進展したか?﹂ 私は話すことにした。白神に精神世界であったこと。その白神に 黄の国までナビゲートしてもらったこと。そして賭けの事。賭けの 内容も。 988 私は現実に戻ったら死ぬことになる。どのくらい猶予が有るか分 からない。でも、諦める気はない。この紅蓮としての人生がダメで も⋮⋮来世にまた意地でも生まれてきてやる! ﹁⋮⋮勝手に⋮決めたのか﹂ ﹁私の命だもんの。勝手じゃない。﹂ ﹁勝手だろ!!﹂ 確かに今回の事は勝手にしたことだ。嫁さんの非難も分かる。自 分が嫁さんの立場なら怒るだろう普通。でも、そうしないと藍苺は 死んでいた。全く、神様ってのはロクなのがいないよ。 ﹁私は⋮⋮謝らない。﹂ ﹁⋮⋮だろうな。少し頭が冷えてきた。俺がおまえの立場ならそう した⋮⋮と思う。﹂ ﹁⋮⋮そう言って﹁俺の所為だ﹂は無しね。じゃないと成仏出来な いからさ⋮ね?﹂ 無理にでも明るくしてみる。最後くらい明るく居たい。 ﹁歩こう⋮⋮多分こっちだ。﹂ 藍苺に手を引かれ歩き始める。ここは藍苺の精神世界、本人であ る藍苺なら出口を何となくではあるが感じるのだろうか? 終始無言で歩く。前方には眩しい光が集まっている様に見えた。 アレが出口か⋮⋮ 989 ﹁猶予は?﹂ 嫁さんがか細い声で聞く。俯いているので顔が見えない。それに この声を聞くと不安になる。独りにしても大丈夫なのか。けれど私 はそんな不安を押し潰して無理に笑う。こんな時こそ笑顔だ。 ﹁分からない。けど、直ぐに死ぬ訳じゃないと思う。二∼三日位は 猶予が有るんじゃないかな?﹂ ﹁怖くないのか?﹂ ﹁不思議なことにね⋮⋮けど、心配事が有る﹂ ﹁ん?﹂ ﹁嫁さん達ご飯ちゃんと作れるかな?って。﹂ 少し戯けて聞いてみると、手を引いて数歩前を歩いている嫁さん が僅かにコケた。ナイスリアクション。足を止めてこちらをジト見 している嫁さん。ホラホラ⋮そんな顔してると、 ﹁みよーん♪﹂ ﹁⋮⋮⋮︵怒︶﹂ 嫁さんの頬っぺを両端摘まんでビヨーンと引っ張る。シリアスは もう許さん。叩き割ってやる。 ﹁お前な∼﹂ ﹁うわっ!?﹂ お返しとばかりに私の頭をグシャグシャにする。だが、ストパー をナメるべからず⋮⋮いや、私の髪だけか? 例えグシャグシャに されても頭を少し振るだけで直ぐ様直るのだよ。 990 ﹁おまえの髪が憎いな⋮⋮﹂ ﹁生まれつきなんだから仕方ないでしょ。でも、私的にはそのツン ツンヘアーも憧れるよ? ユルフワなウェーブもちょっと良いな∼ って思うし。﹂ 最後くらい笑いたい。そんな私のワガママに付き合ってくれてご め⋮⋮ううん、ありあがと。 図らずも死亡フラグ⋮だったのか? まぁ、回収してしまった⋮ ⋮かな。理不尽ではあるけど⋮⋮二人とも死ぬ訳じゃ⋮⋮はぁ⋮⋮ 藍苺⋮⋮ わず 残された時間は後僅かか⋮⋮⋮⋮? 991 脱出∼僅かな時間∼︵後書き︶ 紅蓮に残された時間は本当に僅か⋮⋮。暫しシリアスが続きます が、ちょいちょい笑える場面を入れていきたいです。 992 シリアスはお断り︵前書き︶ ちょっとだけ笑を入れたかったが⋮⋮不発。 993 シリアスはお断り 藍苺の精神世界に行き、無事嫁さんこと藍苺と脱出を成功し目を 開けるとソコは修羅場でした。 何を言っているのか分からないだろうが、私も分からない。浮気 のバレた夫婦喧嘩何てちゃっちくなる様な光景だ。そんな光景が私 と私が抱き抱えていた嫁さんの目の前で繰り広げられている。特に ⋮母さんが暴れている。 ﹁何がなんやら⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮戻ってきたら現実が修羅場でした⋮﹂ 洒落になんないよ。脱出時の少しあったシリアスはどこいった? まぁ、私もシリアスはお断り何だけど⋮⋮いったいどうした。 謁見の間に集まっていた大勢の人・ヒト・人! ここ 確かに謁見の間には大勢の人が水晶に閉じ込められた状態で居た。 いさ その中にはKY陛下や兄上達の母親達、女官に文官と武官等この城 に仕えていた人達。それに加えてご乱心状態のマミィとそれを諫め るパピィ⋮⋮そう言えばこの呼び方久し振りな気がする。 上記のメンバーと白神と老人︵神︶と側室側の神︵少年︶が居た。 そして、白の王族一家に緑の少女⋮それと側室舞子。白神と老人は 我関せずを決め込み、側室舞子と神︵少年︶は怒り心頭なマミィに 994 睨まれて青ざめている。うん、これが混沌か。 ﹁戻ってこい、レン。現実を見ないと。﹂ ﹁あははは⋮⋮見たくない⋮⋮ダメ?﹂ お前も現実を見ろよ⋮そう言われた気がした。分かりましたよ∼。 見ればいいんでしょ、見れば⋮。ついでにマミィを止めれば良いん でしょ? ﹁母さん⋮。﹂ そう言えば未だに藍苺を抱き抱えたままだ。何だろう⋮⋮マミィ に声を掛ける前に放せばよかった⋮⋮恥ずかしい!!︵*/□\*︶ ﹁︵どどどどどうしよう!!︶﹂︵無表情︶ ﹁︵なにしてンだよ⋮︶﹂︵呆れ顔︶ ﹁コウちゃん!!︵。ノ>д<︶ノ﹂︵猛ダッシュ+抱き付き︶ ﹁レイ⋮⋮もういいのかコイツら﹂ ちょっと残念そうなパピィ⋮⋮え?パピィ⋮⋮止める側じゃなか ったの?ホントはヘタレ腹黒なの? 何か色々有りすぎて固まっていた私と嫁さんはマミィに纏めて抱 きしめられている。 ﹁﹁⋮⋮⋮⋮︵汗︶﹂﹂ 995 ﹁心配したのよ!!︵ ノД`︶﹂ 訂正しよう。勢いあまり首を締められいる。現在進行形で。チー ト家族のマミィだ。力一杯抱きしめられれば普通なら一瞬であの世 行きだ。折角嫁さんを命賭けて助けたのに⋮⋮あぁ、私の命は無駄 に終わるのか? ﹁レイィッ! 死ぬ!紅蓮達死ぬって!!Σ︵ ̄ロ ̄lll︶﹂ ﹁︵゜ロ゜︶!﹂ どうやら今日はギャグ週間なのかもしれない。両親揃ってハジケ ている⋮⋮何? ハジケリストにでも転職するの? ﹁︵帰ってこいベル⋮⋮︶﹂ ﹁ゲッソリしてるけど、大丈夫?嫁さん﹂ ﹁あ?⋮⋮あ、あぁ⋮⋮︵・・;︶﹂ ﹁母さん⋮落ち着いてよ?﹂ パピィの一声で我に帰ったマミィは締めていた腕を離し私達二人 の姿をしきりに確めて大丈夫か確認している。ここまで慌てたマミ ィは早々見たことないかも。かなり心配を掛けた⋮⋮それに、賭け のことを言わなければ⋮⋮ ﹁母さん、あのね⋮⋮﹂ ﹁神達と賭けをしたのは似非神に聞いたわ。おバカさん⋮⋮﹂ 悲しそうに笑う母さんには土下座して謝りたくなる。第一子が私 で色々損をしただろう。可愛げ何てもの無かったから。 996 それより似非神って誰? ﹁何もお前だけ背負わなくてもよかったんだぞ。脅せば良かったん だ。﹂ 仮にも神を脅せる程肝は据わってなかったなぁ⋮⋮父さんや、貴 方はそれが出来るのか?ヘタレで。 ﹁紅蓮⋮⋮藍苺の命を救ったこと⋮感謝する。すまんな⋮⋮王とて ただの人。なにもしてやれん。﹂ ﹁紅蓮⋮藍苺⋮⋮気を確り持ちなさい。荒波は越えれば後は静かに なるものよ。きっと⋮⋮⋮﹂ みんなのいる前で賭けの話をしたのかな。みんな哀れむ様にこち らを見ていた。止めてよね。 ﹁暗い空気は嫌いなんだ。それと哀れまれるのも嫌い。﹂ ﹁そう⋮。﹂ 母さんは落ち込みぎみに呟く。いつになくしおらしく調子が狂う。 あ、そうだ! ﹁ただいま。﹂ ﹁︵まだ言ってなかったな⋮︶ただいま。﹂ ﹁⋮⋮おかえり!﹂ 母さんが感極まってまたも抱きついてきた。勿論まだ抱き付いて いた嫁さんも一緒に⋮⋮今度はちゃんと手加減しているのが救いだ 997 ね。 今 昔 母さんを皮切りに父さんが頭を撫でてきた。父親に頭を撫でられ たのは現世も前世も初めてだ。ちょっと感動する⋮。 その後続々と謁見の間に居た人達が集まってきた。何と兄上達ま で居たのだ。それに、 ﹁お初に御目にかかります。﹂ 見たことないこの人⋮⋮実は⋮⋮ ﹁え、黒の国の大使⋮⋮え?﹂ 驚いた。黒の国だよ⋮他国嫌いの秘密主義の国から大使が来てい る何て⋮⋮それも黄の国くんだりまで来るなんて前代未聞だ。どう した黒の国⋮⋮ 何でも今回の事は黒の国には筒抜けで、以前から交流のあった白 の国に滞在していた大使に見届けるように現黒の王から仰せつかっ ているらしい。お疲れ様です。 それに、藍苺の祖母は黒の国の姫だ。そうすると藍苺も黒の国の 王族に該当するらしく、様子をこまめに聞いていた。そして、今回 の事件⋮⋮黄の国の真意をついでに聞いてこい⋮⋮とも言われてい た様だ。大使ご笑顔︵腹黒︶で答えていた。流石黒の国の大使⋮⋮ 腹の黒いこと黒いこと⋮⋮⋮ 黒の王の関心は私にもあったらしく、色んな情報を集めてたとか ⋮⋮プライバシーは無いんですか? 998 食べ物の好みとか趣味とか⋮スリーサイズを大使に聞かれたとき は危機感を感じたよ。大使になにさせてンの黒の王。 ﹁ハァ⋮⋮疲れた⋮⋮﹂ ﹁あぁ、⋮⋮まさかあんな騒ぎになるなんてな。﹂ ﹁ホントだよ⋮⋮疲れた∼﹂ あの後は大変だった。黒の国の大使から始まり兄上達やイガグリ、 兄上達や白の王族一家⋮⋮何故か側室舞子が平謝り⋮⋮どうした? 今私と嫁さんの二人だけだ。一足先に家に戻ってきた。母さんと 父さんはあの後黄の国の混乱を治める為兄上達に協力するらしい。 側室舞子は改心はしていなくとも︵未だに少し反抗的︶国が傾くの は本意じゃない。国を建て直すのに賛成とか。私や嫁さんが意識を 飛ばしている内に色々あったらしい。 白の国も微力だが協力するらしくその為に白の国自ら赴いた⋮⋮ のではなく、久々の外出を大臣達を押し退け脅し、もぎ取ってきた。 家族分も。 999 疲れた事もあり先に帰ってきたのだ。何より⋮⋮ ﹁︵3日⋮⋮後︶﹂ 私に残された時間。たったの3日しかない。白神に帰り際告げら れた。まぁ⋮⋮予想より短くもなく長くもなく。余命3日の宣告か。 ﹁ねぇ嫁さん、何食べたい?﹂ ﹁ん?⋮ん∼∼あ、シチュー⋮と、ハンバーグ、オムレツ、オムラ イス、唐揚げ、後は⋮⋮﹂ おいおい⋮⋮3日で全部作れるかなぁ⋮⋮ ﹁スゴい一杯だね。﹂ ﹁ダメか?﹂ ﹁ふふふ⋮⋮んーん。作るよ。﹂ 自分は後3日で死ぬのに何処か心は穏やかだ。不思議だよね⋮⋮ 嫁さんはどんなに⋮⋮悲しんでいるかな? ﹁あ、それとさ⋮⋮卵焼き⋮甘いやつ﹂ ﹁好きだね、あの甘いやつ。糖尿病には気を付けてね?あと、野菜 も食べる事。﹂ ﹁やっぱり?﹂ ちぇっバレたか⋮何て呟く嫁さん。それはどこか無理に明るく振 藍苺 る舞っている様に見えた。実際そんうなんだろうなぁ。私は⋮⋮ま た、ジンを独り置いていくのか⋮⋮ 1000 その日は疲れもあって早くに眠る事にした。そしたら嫁さんった ら﹁一緒にねてもいいか?﹂って聞いてくるんだよ⋮⋮。私が﹁何 する気?﹂と聞くと﹁べ、別にヤマシい事なんか⋮⋮﹂ってさ。テ ンパっちゃって⋮⋮可愛い。 それでご希望通り一緒に寝ましたよ。手を繋いでね♪ 朝起きた ら嫁さんに抱き締められていたのは⋮⋮。 嫁さんには秘密ね♪ 1001 シリアスはお断り︵後書き︶ 麗春達の事は追々書きます。 1002 別れ︵前書き︶ 不吉なタイトル⋮⋮ 1003 別れ ただいまの時間午前4時。私の今日の朝はいつもより早めだ。両 親はここ3日間帰ってこない。そう、私の死に目には会えない。私 ヒト が無理を言って頼んだことだ。私は弱い部分を他人には見せられな い弱い人間なのだ。自分の死に目は誰にも見せたくない。一人を除 いては。 ﹁んー⋮⋮ふぅ⋮⋮まだ暗いなぁ。﹂ 午前4時なのだからまだ暗いだろう。五月を少し過ぎた今の季節 は漸く昼が長くなり始めたばかりだ。 ﹁お早うポチ⋮﹂ ﹃主⋮⋮お早うございます。﹄ 早いためポチ以外の眷属は夜無以外寝ているだろう。そうそう、 ポチ達は城の中に居たんだって。色んなところをウロウロしている ところに母さん達に遭遇してあの謁見の間にも居たんだよ。姿を見 せなかったのはあの場に居た人間達を驚かせないためだったんだっ て。ずっと影に隠れていたらしい。それに、何故かみんな兎天の様 に影に潜む事が出来るようになっていた。どうも私の妖力が上がっ たとか何とか⋮その影響で新しい能力に目覚めたらしい。 そして薬入れに入っていた奏は多少怪我をしていたけれど、今は ピンピンしている。嫁さんを守ろうとして返り討ちにあったことを 悔しがっていた。奏よ、お前は攻撃向きじゃ無いんだから仕方ない よ。そう落ち込むな。 1004 兎天は自分特有の影に潜む能力を仲間が身に付けた事で喜んでい た。どうもその力を使う妖怪が周りに居なくて寂しかったようだ。 普通なら自分の能力とダブって嫉妬しないかな? 兎天は出来た子 だよ。 夜無は両親と初対面の時敵と勘違いされて攻撃こそされなかった が、少々落ち込んでいた。理由を聞いてみると、落ち込んでいた理 由が﹁私を助けられない﹂とのことだった。たったの数時間しか仕 えていない主に⋮⋮おっと嬉しくてつい涙が⋮⋮ ﹃⋮⋮皆、貴方の代わりに命を差し出しても良いと⋮⋮言っており ます。勿論私も。﹄ ﹁これは私が決めたことだよ。﹂ ポチはいつまでも納得いかないようで何度も自分を代わりに⋮何 て言ってくる。一番長い付き合いのコイツは私と似て頑固だ。 けれど、自分の意見を私に無理に押し付けてこない。だから進言 してるに止めている。皆には悪いことした。 1005 嫁さんの好物を作るため今日は早起きした。たったの一日家を空 けただけで何日も空けた気がする。 ﹁さてと⋮準備しますかね♪﹂ これが最後になる。することは山ほどある。遺して逝くのだから 準備をしないと。 手始めに始めた事は色んな事をメモに書くこと。そして要所要所 に貼っておく。そうすると﹁アレは何処にしまってた?﹂﹁アレっ てどうやって作るの?﹂とか知ることが出来るでしょ? 実は前々 からそんなメモは書いていた。薄々こうなるんじゃないかと思って いたから。今書く事はそんなに多くない。後は貼るだけ。 次に、と言うかと同時進行ですることは台所用や家の重要な場所 の整理整頓。綺麗にしておけば母さんや父さんは綺麗に使うだろう。 案外きれい好きだから。ちょっと失礼だったかな? 次は温室にいる妖怪達や警備の妖怪達に挨拶すること。特に人間 嫌いの奴らに。嫁さんになんかしたら化けて出てやるぞ位は言って おく。私の執念は根深いよ? さて。ここまで掛かった時間は約二時間。ただいまの時刻六時間。 色々と手間取ったけど、何とか間に合いそう。朝御飯は何にしよう かな⋮⋮ 1006 ︱︱現在 7:00 藍苺・寝室︱︱ ﹁おーきーろ! 耳元で叫んでも起きません。すると旦那さんはカ ーテンを開けることにしました。﹂ 何をしているかって?嫁さんを起こしに来たのよ。全く、何時ま でたってもお寝坊さんなんだから∼∼。 カーテンを開けて朝日を部屋に取り込む事にする。ヒトってのな 目を閉じていても目蓋越しに光が当たると自然と目が覚めるもんだ。 人に揺すられて起こされるより自然に起きる方が目覚めもスッキリ だとか。それでもたまに寝過ごすのが嫁さんクオリティ⋮⋮何て寝 汚い⋮⋮睡眠に貪欲だ。 シャーっと音を立ててカーテンを開けると清々しい朝日と家の裏 手にある森の木々、空を飛ぶ小鳥の囀ずり⋮⋮いい朝だ。が! ﹁スー⋮⋮スー⋮⋮むにゃむにゃ⋮﹂ 全く起きない。 1007 ﹁おーい。嫁さん?起きないのー?﹂ ﹁スー⋮⋮むにゃむにゃ⋮スー﹂ 気持ちよさげに眠ったままだ。ふぅ⋮こうなれば奥の手だ。 ﹁嫁さん?⋮⋮⋮⋮起きないと∼∼チューしちゃうゾ♪﹂ ﹁!!!!︵ガバッ!!﹂ 勢いよく起きてくれました。ふぅ一仕事終えたよふぃ∼。︵ ̄ー  ̄︶ ・∇・︶﹂ ﹁︵バクッバクッバクッ!﹂︵心臓に悪かった様です︶ ﹁おっはよ∼。あれ?どうした?︵ ﹁⋮⋮⋮⋮︵・︳・︶﹂︵思考停止チュー︶ あれ?ホントにどうした? 寝惚けてる? も∼可愛いなぁ。あ、 でもこれ言っちゃダメね。嫁さんに可愛いなとか綺麗とか禁句です。 言ったらイジケます。それが可愛い何て言われてた何て嫁さんは思 いも知らなかっただろうね。 何かの行進曲の替え歌よろしく朝起きてご飯作って、嫁さん起こ し、寝惚けた嫁さんを無事に洗面台まで誘導してキッチンのテーブ ルに料理を準備する。嫁さん何処かに頭ぶつけないか若干心配だが、 そこまでドジじゃないので放おっておく。 今から私離れをしないと。 1008 洗面台からゴキャ⋮何て音がしたが⋮⋮何でも無かったようだ。 嫁さんは椅子に座り⋮⋮アレ? ﹁嫁さん? 何時もと場所が違うよ?﹂ ﹁⋮⋮︵ボー︶﹂︵何処か心が遠くに行っている︶ どうやらまだ寝惚けてる様で、私の直ぐ隣に椅子を持ってきて座 った。ん⋮⋮こーれはー? ﹁近すぎない?﹂ ﹁いや、別に。﹂ 訂正しよう。嫁さんはもうすっかり目が覚める。確信犯だ、ボー っとしてた理由は知らないが、完全に起きている。隣に椅子を持っ て来たのも自覚してやっている。どうしたんだ? ﹁︵まぁ良いか︶今日の朝食は、ご飯︵白米。件の古米︶鮭の塩焼 チューしん き、漬物、卵焼き︵リクエストの甘いやつ︶ホウレン草と人参の白 和え⋮⋮と、和食中心にしました。﹂ ﹁今、チュー⋮⋮いや、何でもない。⋮⋮この卵焼き⋮﹂ からかい甲斐がある。さっきのチューしちゃうゾ♪の一件でチュ ーと言う言葉に過剰反応している所が面白い。 ﹁今晩はシチューにしようと思うんだけど?﹂ ﹁︵また、チュー⋮⋮わざとか?︶後、角煮も食べたい⋮⋮﹂ 角煮って⋮豚の角煮かな? 食いしん坊だな⋮⋮糖尿病以前に肥 満にならないか心配だ。私が居なくても大丈夫だろうか⋮⋮心配だ が、死に行く私にはメモを残すことしか出来そうにない。後は嫁さ 1009 んの一人立ちを草葉の陰から見守るとしよう。 ﹁いただきます﹂ ﹁いただきます。﹂ 勢いよく食べ始めた嫁さん。けれど食べ散らかす何て事はしない。 前世も思ったけど、育ちがいいと言うか、親にキッチリ躾けられた からだと言っていたっけ⋮⋮。義母さんはのほほん∼としているの に何か逆らえないオーラを纏っていたお人だ。躾も厳しかったのか も知れない。けれど、私の子育てにあまり口出ししてこなかった。 アドバイスや間違いの指摘はあったけど。嫁姑の仲は結構良好だっ た。義父さんは頑固一徹の昔のお父さん⋮と言った感じの人だった ⋮⋮が、本質は心配性の子煩悩だった。一時期、誤解から父子の仲 が悪くなったが、義兄と義母さんのお陰で和解した。どちらかと言 うと、ジンの性格は義父さん譲りだ。顔は義母さん譲りだけれど。 ﹁ニンジン⋮⋮ホウレン草⋮﹂ 約束通り先に野菜を食べている⋮。頑張れ、ホウレン草と人参の 白和えはもう少しで無くなるぞ! 無事に白和えを食べ終えた嫁さんは鮭の塩焼きに取り掛かった。 鮭は骨が大きく本数も少な目なので食べやすい。私はおにぎりの具 は鮭が一番好きだ。二番目はツナマヨだ。 ﹁なぁ﹂ 1010 ﹁ん?﹂ 嫁さんが鮭の身を解しながら話し掛ける。 ﹁後、3日しか無いのか⋮⋮ホントに﹂ ﹁うん。白神がそう言ってた。﹂ それに何となくではあるが、自分の体が何かに蝕まれている感覚 が有るのだ。痛みは無い。けれど、脱力感や何時もより疲れやすく なっている。 ﹁痛みとか無いのか?﹂ ﹁ちょっと疲れやすくなっているけど、痛みとかは無いよ。何時も がチート過ぎたんだよ。﹂ 8歳が大人も持ち上げるのに苦労する斧を使って薪割りしてたコ ト事態可笑しいのだから。今、この体は普通に近付いているのかも しれない、普通の8歳児に。 ﹁⋮⋮⋮旨いよ⋮この卵焼き﹂ ﹁ありがと﹂ 気まずい⋮⋮そんな時は⋮ ﹁そんなに暗い顔してると⋮⋮チューするヨ♪﹂ ガタガダって音をたてて椅子から落ちた。 それでこそ?嫁さんだよ。体を張ってボケに反応してくれるそこ にし痺れはしないけど、憧れるかも⋮⋮少し。 1011 ・ω・︶﹂ ﹂ ﹁も∼、冗談だよ。それにしても⋮昨夜一緒に寝ようとか言ってき たのにねぇ∼。嫁さんてば積極的ぃ? ﹁キショッ!!﹂ ﹁⋮⋮ん? 今何て言ったかな?︵# ﹁⋮いえ、ナンデモアリマセン︵︵︵・・;︶﹂ そんな感じに朝食を終えた。色々な事を話した。前世の時の思い で、現世での出来事、気付いたこと、笑えた出来事。色々あった。 たったの8年⋮⋮されど8年。今思えば思い出が一杯ある。やって みたい事もある。⋮⋮⋮悔いなんて一杯ある。 ふと、思っていたことを作業を止めて嫁さんに話す。 ﹁ねぇ⋮⋮この結婚、無効にしても良いよ。藍苺には一人で生きて いかなくても⋮⋮﹂ ﹁嫌だね!﹂ 私とは違う作業をしていた嫁さんは手を止めてこちらにヅカヅカ 近づいてきて私の肩をガシッと掴む。掴んで自分の方に向かせ向か い合わせになる。 1012 ﹁無効に何かするわけないだろ。お前は⋮⋮﹂ 苦しそうな顔で言葉を絞り出す様に紡ぐ。 ﹁お前は俺を置いて逝くんだ。だから、指図は受けない。未練タラ タラで成仏出来ずに俺の周りをウロウロしてればいいんだ!!﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ あぁ⋮確かに。未練タラタラで成仏出来ずに嫁さんの周りをウロ ウロしてる私が容易に想像できる。料理に失敗しそうになって手伝 おうとして何も出来ないとか、悪い虫に目をつけられた嫁さんを守 ろうとして相手を金縛りに遭わせたり⋮⋮そうしようかな? ﹁冗談じゃないぞ。﹂ ﹁うん。金縛り程度に抑えるよ?﹂ 呪い殺しても良いんだけど、それじゃぁ嫁さんが敬遠されそうで 嫌だし。 ^∀^︶﹂ ﹁⋮⋮お前の考えはぶっ飛び過ぎて⋮⋮︵−︳−;︶﹂ ﹁あれ?違った?︵ ﹁俺が言ってるのは離婚の話だ!!︵#`皿´︶﹂ 離婚問題は嫁さんに押し切られそのままにすることになった。ま、 私も無効にされるのはホントは嫌だしね。8歳で未亡人になるなん て⋮⋮気ぃ付けてね?悪い虫が変死しないように⋮⋮ね? ﹁お前⋮⋮恐ぇよ。﹂ 1013 その日のお昼はオムライスを食べた。私は半熟の卵が嫌いなので 作るのは薄焼き卵を被せたオムライスだ。半熟ふわふわはどうも好 きになれない。オムレツなら良いんだけど⋮⋮何でだろ? ﹁オムライスとかオムレツって、ケチャップで文字とか文字絵を描 くたくならない?﹂ ﹁俺は絵心無いから別に﹂ ﹁私だって絵心無いよ。﹂ 他愛ない会話がとても大切なものに感じる。 時間は無情にも刻一刻と過ぎてゆく。 “これが幸せなんだね” ********* 1014 余命3日を宣告されて2日が過ぎた。レンの体調はここ2日でか なりの早さで変わった。 ﹁辛いのか?﹂ ﹁いや、まぁ⋮少し怠いかな⋮﹂ 何時も忙しなく働いているレンが時折ボーっとしていることが増 えた。ボーっとしてはハッと気が付くを繰り返している。一体どん な病状何だろう。 あの神が俺に掛けた呪詛は徐々に体を蝕む病のようなモノらしい。 どうすることも出来ないのが歯痒い。代わりたい位だ。だが、俺の 身代わりになったのだ。⋮⋮⋮悔しいが何も出来ない。 出来ることは、何時ものように接することだけ。 ﹁∼♪∼♪∼∼∼♪ と、こんなもんかな?﹂ ﹁午前中から何作ってんだ?﹂ ﹁フフ⋮⋮じゃーん♪ はい、プレゼント。﹂ レンが差し出したモノは⋮⋮ミサンガ? ﹁これって⋮ミサンガ?﹂ ﹁そ、ミサンガ。プロミスリングとも言う。前から作ろうと思って たんだよ⋮⋮間に合った⋮⋮﹂ 1015 間に合った⋮⋮か。その言葉がやけに重たい。 ミサンガを受けとりよく見る。結構複雑な模様だ。ミサンガって 斜め模様とかよく見るけど⋮⋮こんな模様も出来たんだな。 ﹁花模様?﹂ ﹁斜め模様の応用の菱模様のこれまた応用。紐の色と結び方を変え るだけでこんなのも作れるのだ♪﹂ 高がミサンガ、然れどミサンガ。何事も奥が深いな。 ﹁ホントは紅と蒼でハート模様にしてお揃い⋮⋮とか考えたんだけ ど⋮⋮流石にハートは嫌がるかなぁと、思ってさ。結局この模様に なった。色が明るくないから蛇の模様に見えるでしょ? これなら 恥ずかしがらないかなぁ⋮⋮どお?﹂ ﹁言われないと花模様に見えないな。﹂ 簡単に花模様と言ったが、これは色んな形が組合わさっている。 半円、菱型、花模様⋮⋮よく作ったもんだ。俺には到底出来ないだ ろう。 ﹁あ、それと。昨日出来た組み紐⋮⋮これもあげる。使わないし⋮ ⋮﹂ ﹁ありがと︵使えない⋮⋮の間違いだろ⋮⋮︶﹂ 昨日まで話をしながら作っていた組み紐だ。髪を結ぶのに使おう ⋮⋮ちゃんと結べるかな⋮⋮ 貰った組み紐は全部で6本。四色の色が捻れているものが細いの 1016 と太いの2本。2色が三つ編みの様に編まれている角八組みと菱模 様、鱗模様、花模様が各1本。これは前から作っていた物も合わせ てらしい。 色も派手さがない落ち着いた色ばかり。中でも赤と青が多い。気 を使ってくれたのか⋮⋮ とうとう余命宣告日を迎えた。レンの目に覇気が無くなった。元 々そんなに覇気は無かったが、目に見えて明らかに元気を無くして いる。もう時間後無いのか⋮⋮ 辛いだろうに、俺がリクエストした料理を作り続けている。何で も﹁もう夜まで持つか分からない﹂らしい。⋮⋮ホントに何も出来 ないのか⋮⋮ッ⋮ ﹁ヨーメさん♪ 棚からお皿取って?﹂ ﹁ん⋮どれ?﹂ ﹁えっとねぇ∼⋮左の一番奥の大きい皿﹂ ﹁あぁ、これか﹂ 1017 今日の晩飯は唐揚げと空芯菜と鶏肉の炒め物。最後の晩餐にして は質素過ぎやしないか?とレンに言われたが、俺は凝った物や洋食 むかし よりも普通のものが好きなんだ。特に、家庭の味ってのが。レンは ⋮ベルは前世、自分は凝った物は作れないと、言っていた。俺はそ んなあいつの作る料理が好きなんだ。今も。 ﹁味噌汁⋮味噌無いしな⋮⋮﹂ ﹁無いものは仕方ないだろ?﹂ ﹁そうだけど。﹂ そう言いながら料理する姿はホントに何時も通りで、レンが今に も死ぬかも知れないなんて見えない。これは本当に現実なのか? そんなことを考えていると、あることに気が付いた。キッチンの 至る所にメモが貼ってある。レンしか目が行っていなかったのか今 の今まで気が付かなかった。 ﹁⋮⋮︵調味料は上の戸棚の右側﹂ 全て俺達に残すメッセージだった。何処に何があるか。料理の分 かりやすいレシピまであった。 置いて逝く側も、置いて逝かれる側も、心配なんだよな。 1018 ******** さぁ⋮⋮やり残した事は⋮晩ご飯を嫁さんに食べてもらうことだ け。メモも⋮もう書くことは無い。ポチ達に挨拶も済ませた。ポチ 達眷属には嫁さんの事を頼んだ。皆承知してくれた。気を使って嫁 コンシンツァイ トンツァイ さんと二人っきりにしてくれた。ホントに⋮⋮ありがとう。 クウシンサイ ﹁空芯菜ってヨウサイ、空芯菜や通菜って言うんだけど⋮⋮日本で は空芯菜って言うんだって。花が朝顔見たいな花でさ⋮⋮白に薄い 藤色の線が入ってるんだよ。﹂ ﹁へー。朝顔の仲間なのか?﹂ ﹁⋮⋮ん⋮えっと⋮朝顔じゃなくて、ヒルガオ科サツマイモ属⋮⋮ だったかな。水が好きで、水田に植えてもいいんだって⋮⋮。家で は夕方に、暑ければ朝と夕方に水をたっぷりあげてる。黒土よりも 粘土質の土の方が良いよ。水捌けが良いよりも悪い方があってるみ たい。⋮⋮まぁ、限度が有るけど。﹂ ヤバイ⋮⋮息が⋮喋る程に息が上がる⋮。 ﹁⋮⋮ん、旨いよ。茎が竹の子みたいだな。﹂ ﹁不思議な歯ごたえでしょ? 葉っぱは癖も無いし、食べやすい。 それに、ホウレン草に⋮負けない程鉄分とか栄養素も豊富⋮⋮嫁さ んには強い⋮味方だね。﹂ 1019 あぁ、ダメだな⋮⋮情けない。心配させるだけさせて⋮藍苺を残 して逝くんだ。助けたんじゃない、置き去りにするんだ。 ﹁辛いか?﹂ ﹁疲れた⋮かな。﹂ ﹁この3日張り切って料理してたしな﹂ 明るく⋮振る舞ってくれる嫁さんには感謝してもしきれない。 しおこうじ ﹁唐揚げも旨いよ。﹂ ﹁塩麹を入れたんだ。柔らかくなるし⋮⋮後、本の少し蜂蜜も⋮⋮ 隠し味に⋮﹂ 後もう少し⋮⋮まだ少し⋮⋮ ﹁味噌汁作れないからかき卵汁にしたよ⋮⋮これなら出汁と醤油と お酒で作れるし⋮⋮﹂ ﹁ん⋮⋮旨い⋮⋮﹂ 目が霞んできた。そろそろ本格的にヤバイ⋮⋮ ガタッと音をたてて嫁さんが直ぐ近くまで椅子をもってきた。そ のまま直ぐ近くに座りまた食べ始める。 ﹁スンッ⋮⋮旨い⋮⋮﹂ ﹁うん。﹂ 体の力が抜けてくる⋮⋮⋮。終に支えられなくなった体を藍苺が 腕を伸ばし支える。そのまま藍苺の肩に寄りかかり⋮⋮⋮動けなく 1020 なった。 ﹁また、卵焼き⋮⋮ッ⋮⋮作ったんだな⋮﹂ ﹁うん、﹂ ﹁甘いやつ⋮⋮だな﹂ ﹁うん﹂ だって、大好物だし⋮⋮一番⋮⋮最初に作った料理だもん⋮⋮ ﹁今日は⋮⋮ッ⋮少し⋮しょっぱいな﹂ ﹁うん。塩⋮⋮入れすぎた⋮⋮かも﹂ 付き合って初めての頃⋮⋮熱だしたジンが唯一食べたものが甘い 卵焼きだしね⋮⋮ッ⋮⋮⋮⋮よく、具合悪い時に食べれたよね⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮ 、⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁旨いよ⋮⋮⋮⋮ッ⋮⋮スンッ⋮ッ⋮﹂ ﹁うん ⋮⋮⋮⋮⋮・・・・・・ありがとう。 ﹁⋮⋮ッ⋮レン?﹂ そこで私は動かなくなった⋮⋮⋮・・・ ・ ・︱︱︱︱︱︱︱ 1021 ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ 1022 別れ︵後書き︶ ・・・・ ついに紅蓮は動けなくなりました。動けなくですよ皆さん。 1023 フラグ?知らねぇなぁ︵前書き︶ タイトルに深い意味はありません。 読んでいただいている方々に感謝します。m︵︳︳︶m 1024 フラグ?知らねぇなぁ “本当にこれで良いのか?” ゜ やけに響く声に耳を傾ける⋮⋮と言っても、耳なんて無いんだけ どさ。てか、体自体無いしね。 “本当にこの結末で良いのか?” 良いも悪いも⋮⋮これしか選択肢が無かったんだけど?︵# Д゜︶ “それもそうか⋮” てか、そのやけに響く声止めれ。何?何のゲームのネタ? “今回はネタではない” そう。﹁死んでしまうとは情けない⋮﹂とか有名じゃね? で? 話を早く終らせたいんだけど⋮⋮ ﹃まぁ、焦るな。時間はたっぷりある。﹄ 1025 いきなり姿を現したら白神に驚いた。ビックリしたな⋮⋮出てく るなら出てくると事前に言え。あるはずの無い心臓が跳ねたわ。 ﹃まあ、それは気のせいだな。で、﹄ ん?で? 何なのさ。私は草葉の陰から嫁さん達を見守らなけき ゃいけないんだから。 ﹃子供が親より先に死ぬとどうなるか知っているか?﹄ ん? ・・・あぁ、あれだろ。川原で石を家族の数積み上げて、 終わらないと成仏出来ないってやつ。しかも、見張ってる鬼に折角 積み上げた石を崩されるんだよね⋮⋮何も、死にたくて死んだ訳じ ゃないのね⋮⋮子供達は⋮⋮場合によっては親に捨てられたり、殺 されたり⋮⋮理不尽な目にあったかも知れないのに、死んでも理不 尽な目に遇わなきゃいけないなんてさ⋮⋮理不尽だよね。 ﹃自分の事は棚に上げるのか?﹄ まっさかぁ⋮⋮。私は自分の意思で死を選んだ。例えそれが“選 ばされた”ものだとしても。石積み上げなきゃいけないなら、積み 上げてやらぁ⋮⋮ ﹃積み上げても崩されるだけでもか?﹄ ⋮⋮鬼って倒せないかな? 1026 ﹃⋮⋮⋮物騒なことを平気で言うな⋮⋮無いこともないが。﹄ 出来るんかい!ヾ︵・д・;︶ で、何か用があって来たんでしょ?またこんな所に呼び出して⋮ ⋮あ、壁紙がペパーミントグリーンになってる⋮⋮でも少し薄くな いか?白が強い⋮⋮ ﹃これでも一生懸命緑のペンキを塗ったのだぞ﹄ へー⋮は刷毛とペンキの缶片手にペタペタ地道にやってたの⋮⋮ 神なんだからもっとパパッと出来なかったの? ﹃出来れば苦労してない。﹄ ⋮⋮⋮で? 用件は? ﹃実は賭けをした﹄ ⋮⋮誰と? ﹃藍苺だ。﹄ はぁ!? ちょっ、何を賭けたんだよ。変なことしてないだろう な! 1027 ﹃失敬な⋮⋮まぁ、お前が神不振になってあるのも致し方ないか⋮ ⋮。賭けの内容は⋮︱︱︱︱︱﹄ その内容を知った瞬間無性に藍苺に会いたくなった。も∼、嫁さ んってば命知らず⋮人のこと言えないけど。 ******* ﹃賭けをしないか?﹄ 唐突に掛けられた声に耳を貸そうとも思わなかった。何も見たく もないし、聞きたくもない、全てが灰色に見えた。 ﹃絶望するのも分かるが、いつまでし続けるつもりだ?﹄ レンが話していた白神と言う奴が話し続ける⋮⋮聞きたくない。 1028 ﹃話しは全て最後まで聞け。紅蓮はまだ死んではいない⋮⋮仮死状 態になっているだけだ。 ﹁例え仮死状態でも、死ぬことに変わりないだろ。﹂ 顔をベットに埋めて呟く⋮⋮例え今は仮死状態でも、手の施しよ うがなければ同じことだろ⋮⋮ 顔を上げてベットに横たわるレンを見る。苦しまずに眠っている ようにしか見えない。 ﹃ふぅ⋮⋮紅蓮はお前がこうなることを心配していたのだ。よく聞 け⋮紅蓮は死にはせん。今は眠っているだけだ。﹄ ﹁⋮⋮⋮ホントに⋮⋮本当か!?﹂ ﹃神は気紛れだが嘘は吐かない。私はな。﹄ 腕組みしながらベットまで近付いてくる。 ﹃実は⋮⋮︱︱賭けの対象はお前だ。内容は伏せる⋮⋮が、一つだ けヒントだ⋮⋮運命に抗え⋮それだけだ。﹄ この言葉に思うことがある。 ﹁⋮⋮⋮厨二病か?﹂ ﹃物語と言うものは総じて厨二な設定ばかりだ! 仕方なかろう⋮ ⋮私とてこんな言葉を言いたくはないぞ⋮⋮﹄ 1029 その割りには楽しそうに見えるが。 ﹃オホッン⋮⋮お前が心を強くもてば⋮⋮﹄ つまりは⋮⋮辛抱強く待ってろと? ﹃まぁ⋮そんなところか﹄ レンが助かるのなら⋮⋮待つなんてお安いご用⋮⋮何だが⋮⋮い つまで待てば良いのか聞く前に白神は消えてしまった。神出鬼没な 奴だな。 ******* それって⋮⋮賭けと言うより、アドバイスじゃね?︵; ̄Д ̄︶? 1030 ﹃まぁ⋮⋮そうかもしれんな﹄ そうとしか⋮⋮いや、いいか。で? まだ何か用があんの? ﹃お前には助ける代わりにあることを手伝って貰う。﹄ ほうほう⋮⋮で、内容は? ﹃世界の調節だ。﹄ ⋮⋮⋮厨二くせぇ⋮⋮で、具体的には? ﹃ふむ、話が早くて助かる。お前が目を覚ますまでの間⋮⋮仮に今 ヤツ まで居た世界を現世としよう。その現世時間で約2週間はお前は目 覚められない。その様にしなければならなかったのだ。黄童子の呪 詛は思いの外しつこくてな⋮⋮完全に解くまで2週間掛かるのだ。﹄ ふむふむ⋮⋮しつこいなんて性格出るもんなの? 何て言うか⋮ 迷惑だね。 ﹃全くだ。でだ、その2週間の間お前は異世界で私の手伝いをして もらう。それがお前の払う対価だ。﹄ 藍苺にとした賭けは何のため? ﹃あれは自殺防止と暴走防止のためだ。あの者は闇に堕ちればちと 厄介なのだ。目覚も悪いしな。﹄ 闇に堕ちる⋮⋮それは防止してくれてありがとう。初めて白神に 純粋に感謝したよ。 1031 ﹃そうか﹄ うん。で、それってどのくらい掛かるの? 世界を調節とか時間 掛かりそう。一年やそこらで終るか? ﹃何十年も掛かるな。早くて数年、長くて数十年⋮⋮それを何回も ⋮⋮な。﹄ はい? それじゃダメじゃん。藍苺の所に帰ってきても皆居るか ⋮⋮それより、私の体自体持つの? ﹃そこは⋮私の力で時間を調節すればよい。キチンと2週間後に調 節すれば。﹄ ⋮⋮⋮⋮︵´Д`︶ ﹃何だその顔文字は﹄ あ、いやだってさ⋮⋮今私体無いじゃん? だからこうして表現 しないとダメかなって思って。分かりやすいでしょ。 ﹃⋮⋮まぁ⋮⋮そう⋮だな? して、さっきの顔は何か不満でもあ る顔だな﹄ あ、分かる? いやね⋮何か言ってることが皆厨二くせぇなぁ⋮ ⋮って思って。何か背中がむず痒くなってきてさぁ。どうにかなん ないの? ﹃バカ者。ファンタジーとは皆総じて厨二臭い物だ。我慢しろ。﹄ 1032 えー∼︵# ̄З ̄︶ やだ。 ﹃⋮⋮⋮︵怒︶﹄ こうして私は白神のお手伝い⋮もとい、使いっパシリとなって色 んな世界を廻ることになったとさ。白神の人使いの荒らさと言った ら⋮⋮ハァ⋮⋮ まあ、その話しはまた別の機会に⋮⋮気が向いたらね。 待っててね嫁さん! 私足掻きに足掻きまくって必ず帰るからね ♪⋮⋮⋮それまでの2週間浮気しちゃダメだよ♪ 1033 フラグ?知らねぇなぁ︵後書き︶ 後少しで終ります。 1034 再会︵前書き︶ 漸く再会。藍苺視点。 1035 再会 あの事件から今日で18日が経つ。レンが仮死状態になり眠り続 けて丁度2週間⋮⋮未だに目覚める気配がない。元から白かった肌 は病的に白く、綺麗な薄藤色の髪は艶を無くしていた。何も摂らず 痩せ細ると思われた身体は元のままを保ち続けた。 レンが仮死状態になったあの日、何処から聞き付けたかレンの両 親の麗春さんと朱李さんは直ぐ様飛んできた⋮⋮壁を破壊して。 その当時の俺は周りに目を向ける程の余裕もなく只々⋮レンを見 詰めて呆然としていた。いつの間にかポチ達も集まりレンに黙祷を 捧げていた。正直黙祷か沈黙か区別はつかなかったが。 そしてふと先程現れた白い神の言葉を思い出した。仮死状態⋮⋮ そう、まだレンは死んではいない。 レンが話した通り白神は麗春さ ﹁死んで無いんだ⋮⋮レンは死んでない。﹂ ﹁ランちゃん?﹂ ﹁藍苺?﹂ 俺は白神が現れた事を話した。 んと側室側の双方の神のお目付け役⋮審判の役割をしていたようだ。 立場は白神の方が上何だろうか⋮⋮ ﹁そう、ちょっと待って。似非神に聞いてくるわ﹂ 1036 ﹁此方から呼べるのか?﹂ ﹁決着は着いたけど、まだ此方との縁は切れてないのよ。﹂ ﹁似非神⋮⋮て、なんだろ?﹂ その後の行動は迅速だった。麗春さん曰く似非神⋮もとい、灰老 神に事情を聞き︵脅しとも言う︶、側室側の神にも事情を聞き︵こ れまた脅し︶、目の前に姿を現したら白神に呪詛の言葉ともとれる 暴言を吐いた⋮⋮暴走している。 それを聞き付けた白の王や王妃、朱李さん達に宥められ落ち着い た麗春さん。その次の行動は、今までの自分の行動を改め始めた。 そして ﹁ランちゃん。私達はコウちゃん離れをしないといけないの。私達 はコウちゃんに今まで甘えてきた。確かに私は守ることもしてきた つもりよ⋮⋮つもりだったのよ。コウちゃんが聞き分けが良くって 甘えていたのよ、私は。家事も全部一身に受け持ってくれてた⋮⋮ 言葉で言うのは難しいけれど、甘えすぎていたのよ。知らず知らず の内に私はコウちゃんに負担をかけていた。自分の事しか考えずに 行動していたのよ。舞子の事を言えないわ⋮⋮︵本当に私はダメな 母親ね︶﹂ 麗春さんの事は正直分からないが、俺もレンに負担をかけていた のは薄々気がついていた。漸く母以外で甘えられる存在に浮かれす ぎていたのかも知らない。レンは優しい⋮⋮だから俺を拒まない⋮ ⋮何処かでそう、甘えていた。 1037 その日から俺はレンの仕事であった家事をし始めた。失敗が多い が、レンの真似をして何とか出来た。レンは俺と同じくらい疲れて いたのに毎日こんな大変な事をしていたのかと、今更感心した。 前世で俺はベルに先立たれたが、こんな事を思う暇なく死んだ様 だ。記憶が曖昧で一概にもそうとは言えないが。だが、時が経てば 必ずそう思っただろう。 正直白神の言った事は分からないが、今出来ることをしよう。そ してレンが起きるまで待っていよう。今の俺にはそれしか出来ない から。 そして、2週間が経った⋮⋮ 今日は簡単な野菜炒めにしよう。昨日は肉じゃがを焦がした⋮⋮ 今日は少し疲れた。 そう思い俺はとある場所に足を向ける。その場合は白神から贈ら れた現世とは隔絶された空間に存在する。そこはこの世界には無い 1038 草木が、花々が咲き乱れ、澄んだ湖の上に柱で支えされた日本家屋 ⋮⋮平安時代の戸が無い建物に似た邸にレンは今居る。元は別の神 む の持ち物だった様だが、今は居ないのでレンに贈ることにしたとか。 かし ここには以前レンが見たいとボヤいていた桜の木がある。桜は前 世から好きだと言っていた花だ。その見たくて仕方なかった桜がそ こには沢山咲き乱れている。神の所有していた庭だからか決して散 ることの無い桜だとか。その神もさぞ桜が好きだったのかもしれな い。 桜の他にも果樹が多くある。林檎、梨、洋梨、さくらんぼ、桃⋮ ⋮まだまだ有りそうだ。何せとてつもなく広いから。 早くこの満開の桜をレンにも見せたい。今日までの2週間起きる 気配は微塵もなかった。それでも、俺は起きるまで待つつもりだ。 白神から贈られて直ぐに白神の進言でここの邸にレンを移した。 れとき許可を貰った者だけ。人 ここなら誰も入ってこれないからだ。入る事が出来るのは俺とレン ⋮それとレンの眷属であるポチ達 そんな場所にレンと一緒に寝泊まりしている。ぶっちゃけ が巡らせた結界とは違い神が創った空間に侵入することは不可能に 近い。 ると俺の部屋が只今使用不可なためだ。理由は壁を破壊して飛んで きた麗春さん達の所為だと明記しておこう。ぶっちゃけとばっちり だ。 ﹁︵レンが作ったおにぎりでも食べるかな⋮︶﹂ 白の国で手渡されたおにぎりは未だに食べていなかった。麗春さ 1039 んお手製ポーチのお陰で腐らずに取っておけたのだ。この際庭を見 ながら食べるのも良いだろう。 庭には緑の木々の中に数本桜の木が纏まって植わっている。その 場合だけ見ると一面桜の木に見える。寝台に横たわるレンの様子を 見に寝室に行く途中に壁の無い渡り廊下を歩く⋮⋮すると ﹁ん?﹂ 俺と護衛してくれているポチ達以外に今この場所に居るものは居 ない。更に限定すれば、人の姿をした者は俺だけだ。白神がここに 居なければ。 ポチが威嚇していない⋮⋮敵ではないな。それに白神ならもっと 背も高い、それに真っ白だ。 もと 見知った薄藤色の髪、散り続けるのに花が無くならない不思議な 桜の木々の下に佇む人影⋮⋮間違いでないなら⋮⋮ 何も話すことなく、声を掛けることもなく走り出す俺。人影まで 後少し。 邸に上がっていたので裸足だが気にしない。俺が会いたかった人 影の正体も裸足だ。上を見上げ舞い散る花弁を見ているのだろう⋮ ⋮ここからでは表情は見えない。 藍苺として生まれて一番の速さで走ったのではないだろうか。後 少しで人影に正体に辿り着く瞬間、人影の正体が振り向いた。確信 1040 した。 ﹁レン!﹂ ガバッっと人影の正体、紅蓮に抱き付く。漸く⋮⋮漸く起きたん だ。 レンは驚いた顔でこちらを見るて俺だと確認すると優しい笑顔で 言った。 ﹁ただいま⋮藍苺﹂ あぁ⋮⋮おかえり、紅蓮っ!! 1041 再会︵後書き︶ 今日は2話連続投稿ですよ奥さん!︵誰だよ︶ 1042 エピローグ的な何か︵前書き︶ 紅蓮視点の再会 1043 エピローグ的な何か ようやっと戻って来たら見知らぬ部屋で寝ていた。しかも周りに は誰もいない⋮⋮あれま、見棄てられた? ﹁でも、嫁さんの匂いはするし⋮⋮﹂ 今居ないだけなのだろうか。あ、匂いとか変態臭い事言ったけど、 私、狐だし、虎でもあるし⋮⋮基本獣的な考えなんですよ。だから 変態とか言わないでね? さて、部屋を出てみよう。扉を開けて出てみると⋮⋮ ﹁うわぁ⋮⋮﹂ 広間⋮⋮かな、まるで湖に浮かんでいるように建てられた建物の 様だ。何て言うのかな⋮⋮屋根がある清水寺+崖ではなく湖な感じ。 うん。私の説明では無理があるな。 そんな感じの建物の様だ。建築様式は平安次代辺りの建物に似て いる。でも平安次代の建物に扉は無いんだろうけど⋮⋮基本御簾で 遮られているだけだって聞いたし。 長い異世界旅行は殺伐とした事も多かった為、こんな綺麗な景色 を見る暇はあまり無かった。早く帰りたくて自棄になって周りを見 なかった所為もあるけど。 1044 ここにはポチ達の気配もする。この2週間でポチ達と縁が切れて ないと良いけど・・・大丈夫だと信じたい。 手摺りから身を乗り出して湖を眺めていると、懐かしい匂いがし た。これは・・・桜? ずっと見たかった桜の匂い。長い異世界の旅でも似たような花は あったが桜は結局無かった。それが、この世界に戻ってきて有るな んて⋮⋮白神のやつ何かしたのか? 気になる桜の匂いに引かれて見覚えの無い邸をさ迷う⋮⋮やけに 広い邸だ。私が眠る前こんな邸は無かったハズだ。いくらハイスペ ックものスッゴいチートの母さんでもたったの2週間でこんな邸を 作れるだろうか⋮⋮アレ?出来るかも⋮⋮ハハハ⋮⋮ 何はともあれ、外に出られる所を見つけよう。 ﹁確かここを真っ直ぐ行った先に吹き抜けの渡り廊下があったはず ⋮⋮ソコから外に出られる。﹂ ⋮⋮⋮⋮何で知っているのだろう。いや、邸とか造りは何処も大 体一緒だろう⋮多分。 邸の造りを何故か知っていることはさておき、庭に出るため渡り 廊下に足を向ける。どうやらここは戦闘等想定されずに創られた訳 では無いようだ。何だかえげつない⋮⋮罠がところ狭し⋮とはいか 1045 ないが、かなり仕掛けられている。が、 ﹁罠が外されている⋮⋮なんで?﹂ こんなときナビの白神が居ないと不便だ。旅では居たくなくても 四六時中一緒だった。 まぁ良いか。罠にハマる心配をしなくていいし。本来侵入者を捕 らえる仕掛けが取っ払われた庭に出る。何故か罠を仕掛けてある場 所が分かるため﹁あぁここのも罠が外されている﹂等と思いながら 桜の匂いを追う。何とも不思議な事だ。 そして私はたどり着いた。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 何処か懐かしさがある桜の大木だ。何十年、下手すへば百年その 場所に鎮座していたのだろう桜の木が花を散らさずに其所にあった。 周りの桜は少しずつ散っているが、この大木だけは全く散る気配が ない。それに懐かしい⋮⋮なんで? 暫く大木の根元で桜の木々を見上げていた。すると後ろから熱烈 な視線を感じた。これは・・・・ 誰かが走ってくる気配がする。私は何処か確信を持って後ろを振 り返る。すると⋮ ﹁︵ほら、やっぱり︶﹂ 1046 ﹁レン!﹂ ガバッと突進しながら抱き付いてきた藍苺を抱き止める。少しふ らついたが何とか受け止めることに成功した。2週間眠り続けて多 少は体が鈍っていた様だ。 涙でぐしゃぐしゃになっている顔驚きながらも、 ﹁ただいま藍苺﹂ やっぱり帰ってきたときはこの言葉でしょ? ほらほら∼泣かないで∼。日頃泣かない嫁さんが泣くとどうして 良いか分からなくなるからね∼。あぁあぁ⋮目を擦らない⋮⋮ 心配かけてごめんね、藍苺 その後、藍苺と一緒に桜の木下でくつろいだ。ポチ達も嫁さんの 側に居た様であの後飛び付いてきた。 1047 ﹁そっか⋮⋮この庭昔は神様の所有地?だったんだ⋮。だから誰も いないのか⋮⋮隔絶されているんだっけ?﹂ ﹁あぁ、白神の言葉が正しければ。今のところ俺とポチ達以外入っ てきてないな。﹂ 嫁さんにとっては2週間ぶり、私には何十年⋮⋮だったんだか分 からない程昔ぶりの再会だ。ポチが持ってきた私のポーチから作り おきした肉まんを取り出して即席お花見をしようかな。 ﹁それで、私が寝てた間に何かあった?﹂ ﹁はむ⋮⋮むぐ⋮⋮もぐもぐ⋮⋮うんぐ⋮⋮﹂ 肉まんに勢いよくかぶり付いて頬袋を一杯にして頬張っている。 さながらハムスター⋮⋮可愛い♪ ﹁⋮⋮うん。急がなくてもいいから。ゆっくり食べてよ。﹂ ﹁むぐむぐ⋮⋮んぐ!!﹂ ﹁!!だからゆっくり食べてよ!はい水っ!﹂ ﹁ゴクゴク⋮⋮ぷはっ⋮⋮あ∼苦しかった⋮⋮﹂ 長いこと見てなかった嫁さんの食い意地の悪さに苦笑い。だけど それが久しぶりで、ずっと見たかった嫁さんにホッとする。あぁ⋮ 幸せなんだね⋮⋮ ジョウユウ ﹁実は、側室側の神様⋮あ、そいつ黄童子って名前何だけど、そい つが場を盛り上げるためとか言って丈勇︵白の王の兄にして藍苺の 1048 伯父︶とかミン︵喧しい女術師︶、黄の国の宰相のどら息子どもと KY陛下と舞子に感情を煽る様な術を掛けたんだってさ﹂ キドウジ なにその迷惑な術。ソイツ黄童子じゃなくて危︵険︶童子の間違 えじゃないの? それから話を聞くと結構ちょくちょく妨害工作をしていたようで 嫁さんの母親にKY陛下をけしかけたのも黄童子だった。理由は黄 童子曰く﹁だって物語通りにならないでしょ﹂らしい。は?って思 ったよ。アレだよ、黄童子は底無し沼にゆっくり沈んでいけば良い よ。今なら50キロの重りもおませするから。沈んでくれないかな ぁ⋮⋮ それと、丈勇さん︵ホントは呼びたくない︶なんどけど、生まれ た時から黄童子の術に掛かっていたらしくて⋮⋮一番の被害者だっ た。嫁さんにそう聞かされて慌てて不能の呪いを解こうかと思った ら﹁まだ完全に術が解けた訳では無いからまだ保険として掛けたま まにしておいてくれ⋮﹂らしい。ホントに同一人物か疑いたくなる。 KY陛下はマトモになるのか心配だが、完全に正気には戻った様 だ。だが、あのKYっプリは健在。未だに母さんにアタックしては 父さんに返り討ちにあっているとか。舞子も前よりは性格が軟化し たらしいが⋮⋮私は自分の目で見ないと信じない。KY陛下を支え るより自分で天下とる方が良い⋮何て言っているらしい。まぁ、前 よりもマシにはなっているようだ。それよりは父さんと舞子が親戚 ってのに私は驚いたよ。前世の話だけど。 煩い女術師のミンはアレから左遷された。自分から申し出たらし 1049 い。何か思うことでもあったんじゃないか? さ宰相のどら息子の馬鹿二人はマトモに⋮⋮はなっているようだ一 応。弟は脳筋の古典的な体力馬鹿なのはまだ良いが、兄のサディス トの方は⋮⋮うん。元がマトモでないのだから仕方ないよ。その二 人は今、兄弟で一番のマトモな弟にコキ使われているとか。ザマァ。 白の王達も忙しそうに黄の国の復興に尽力している。王子は幼い ながらも派遣する人材を集め、一姫は物資を集め、弟王子は⋮⋮笑 顔を振り撒いている。王妃は他国の動きに目を光らせ笑顔で牽制し、 王は⋮⋮王妃の尻に敷かれている。いつも通りだそうだ。 そして一番の驚きは⋮⋮緑の髪の少女⋮⋮実は⋮⋮ ﹁ミケだったなんて⋮⋮﹂ ﹁俺も聞いたときは驚いたよ⋮﹂ 世界って案外狭いのね⋮⋮ そうそう、私達の運命は予め決まっていたんだって。藍苺は子供 の時に死んでしまう何て未来だったそうな。ふざけんなの一言に尽 きる。 そんな神に決められた死亡フラグを私はへし折った⋮⋮うん。よ くやった、私。 1050 そんなわけで⋮⋮フラグ?知らないなぁ⋮⋮何てね。 ︱おわり︱ 1051 エピローグ的な何か︵後書き︶ 一応この物語はおしまいです。⋮⋮⋮が、番外編的な話はちょこ ちょこ書きたいと思います。 それでは、これまでお読みいただきありがとうございました。m ︵︳︳︶m 1052 黄の国では⋮⋮︵前書き︶ 紅蓮が2週間眠っている間に起きた出来事の短編集⋮⋮お目汚し になるかもしれませんが、読んでいただければ幸いです。 1053 黄の国では⋮⋮ 紅蓮が2週間の眠りについて今日で一週間。私も漸く落ち着いた わ⋮⋮。一週間前は取り乱してマトモに自分の考えも言葉に出来な かったほど⋮⋮私もまだまだね。 ﹁麗春様、これはどちらに?﹂ ﹁それは無用の長物。売り払って国を立て直す資金にでもしましょ う。そんな金ぴかの成金趣味は下品だわ⋮⋮あ、待って、そっちは 国宝級の宝物よ宝物庫にしまっておいて。﹂ ﹁この薄汚い花瓶がですか?﹂ ﹁それは初代黄の王が王妃に贈った物の一つよ。薄汚く見えるのは 古いからよ。その花瓶自体の価値は無いけど、国宝であることは変 わらないのよ。﹂ ﹁一つと言うことは⋮⋮まだあるのですか?﹂ ﹁えぇ、確か⋮⋮王妃に贈られたのは全部で四つ。首飾りと指輪、 それから腕輪とそのお皿見たいな花瓶よ。﹂ 今私は黄の国で国を立て直す手伝いをしているところ。そして今 城の至るところから装飾品をかき集めて趣味の悪い物と国宝級の宝 物を別けているところ。 花瓶が国宝級の宝物と知っているのはそれがゲームのサブシナリ 1054 オに出てくるキーアイテム、初代王妃の遺品だから。ゲームではこ れら四つの内花瓶を除いた三つが盗まれそれを一番の好感度の高い キャラ︵性別関係無し︶と二人で見つけるというなんともお約束な 恋愛パートなのだ。 実は汚いと言われるこの花瓶⋮⋮一番のお宝なのだ。見た目に騙 されることなかれ。これは千里の彼方まで見通す水鏡なのだ。そし て嘘を見破る事も出来る優れもの。なのだが⋮⋮ ﹁︵この水鏡が曲者なのよね⋮⋮︶﹂ この花瓶⋮改め水鏡は人を選ぶ。複数のキャラに満遍なく好感度 を上げていると言うことを聞かない。水鏡の映す場所に三つの王妃 の遺品が有るのだが⋮⋮パートナーになったキャラが僅差で選ばれ た場合、合計10回は違う場合を映す。そう、この水鏡は浮気者を 嫌うのだ。 何でもこの水鏡は初代王妃の浮気防止でもあったらしく、間違え て映るのなら浮気していると証明する。これとは別に初代王妃が初 代王に首飾りを贈った⋮⋮勿論浮気防止の物。似た者同士だったの ね⋮⋮歴史上はどちらも浮気はしなかったようね。 ﹁︵長い時の中でこの水鏡の能力は忘れ去られた。でもそれは良い ことなのかも知れないわ。︶﹂ 強すぎる力は争いを生む。この水鏡は水を注がなければただの薄 汚い花瓶にしか見えない。このまま宝物庫に埋もれてたままの方が 良いわ。 1055 疫病神 にしても、その王の首飾りを首輪代わりにでも付けとけば良いん じゃないの?後で舞子に提案してみましょう。あの子、黄童子に掛 けられた術が解けてから多少素直になったのよね⋮⋮。まだツンケ ンしているけど、反省は多少しているのよ? 自分の行いを反省して罪を背負っていくなら、私は⋮⋮多目に見 ましょう。私だって鬼じゃないわ。狐と虎なのよ? ﹁これくらいで良いでしょう。﹂ 粗方分別を終え朱李の所に戻りましょうか。 ******** この数年後その水鏡がシナリオ通りの騒動を起こすのはまた別の 話。 1056 俺は今、絶賛睨まれている。誰に? ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 黄の国の王、KY王子⋮改めKY王⋮⋮は言いづらいか、ならK Y陛下だな。そのKY陛下に四六時中睨まれているのだ。未だに横 恋慕男なのかコイツは⋮⋮ コイツとの確執︵彼方の一方的な︶は俺とレイが15の時。本当 ハクリ にゲームと同じなのか確かめるためレイと幼馴染みの白の王と黄の 国に潜入した。白の王、狛李は無理矢理付いてきただけだが⋮⋮ ﹁⋮⋮チッ﹂ 何なんだ⋮⋮人の顔を見るなり舌打ちとは⋮⋮喧嘩売ってんのか ? 受けてたつぞ? ﹁なんだ。さっきから⋮⋮喧嘩売ってんのか?﹂ 1057 ﹁⋮⋮ふんっ!﹂ 何なんだよ⋮⋮。俺よりも年上の筈なのにこれじゃ子供だろ⋮⋮ 子供?⋮⋮あ、 ﹁お前⋮⋮レイの事で嫉妬か見苦しいぞ。﹂ ﹁五月蝿い! お前が居なければ⋮⋮﹂ 居ても居なくてもレイはウジウジ横恋慕男は嫌いだぞ。男顔負け の男らしさを発揮することもある程男前な奴だからなレイは。何よ り⋮⋮ ﹁俺とレイは結婚しているんだ。もういい加減にしろ。何時までイ ジケているんだ?﹂ ﹁チッ⋮︵誰が⋮⋮言えない⋮⋮初恋が女と間違えてコイツだなん て⋮⋮︶﹂ ﹁あ∼⋮⋮レイ早く来ないかな⋮⋮︵コイツといると何だか寒気が ⋮⋮風邪か?︶﹂ KY陛下の仕事を監視して仕事をサボらないようにしている。が、 何だか寒気がする。風邪何か引いてる暇は無いんだ。後でレイに風 邪薬でも貰おう。 1058 あぁ⋮レイ⋮⋮早く会いたい⋮⋮コイツの視線でストレスがマッ ハなんだよ。後でレイに胃薬も貰おう⋮⋮。ハァ⋮⋮でもこれも紅 蓮や藍苺が今後苦労しないためだ⋮⋮うん。父親として頑張ろう! ﹁⋮⋮⋮﹂ って、おいっ ﹁逃げ出すとは良い度胸だなぁ⋮⋮コイツも追加な?﹂ 俺が物思いに耽っているとKY陛下は逃げ出そうとしていた。仕 事を投げ出して逃げる奴には⋮⋮仕事追加の刑だ。有り難く思え。 これがレイなら⋮⋮止めよう。恐ろしくて考えたくもない。 ﹁クソッ⋮⋮﹂ ﹁良いから仕事しろ。次逃げ出そうとしたら⋮⋮山を倍にするぞ。﹂ 脅しではない。この王の仕事部屋にあるドデカイ机に山が二つ⋮ ⋮天井まで届きそうな山が二つもある。今までサボっていた分なん だ、何時まで逃げても無くなりゃしないっての⋮⋮いい加減にしろ。 ﹁︵まさかコイツは俺とレイの二人っきりの時間を縮めるのが目的 か?︶﹂ 1059 ﹁︵これはどうすれば良いんだ? こんな難しい事分からん⋮⋮あ ぁ⋮⋮仕事が片付かんっ⋮⋮!︶﹂ ハァ⋮⋮これは何時まで掛かるんだ? これが終わる頃にはまた 次の仕事が来るんだぞ。もうコイツは王をやめた方が⋮⋮ダメか。 コイツの後継者はまだ十代前半⋮⋮あまりに幼すぎる。何時また前 宰相の様に王を傀儡にする奴が出てくるとも分からないしな⋮⋮チ ッ、KY陛下ちゃんとしろよ⋮⋮ ﹁難しい⋮⋮﹂ ﹁︵コイツホントに王に向いてなかったな⋮︶﹂ ま、このまま行けば後数年後コイツの長男の第一王子が王位を継 ぐだろう。第一王子は優秀だからな。あの子の母親は注意が必要だ が。 ﹁ほれ、後少しだ。徹夜でやれば明日には半分になるだろ﹂ ﹁半分だと!? それしか!﹂ ﹁ハイハイ、口よりも手を動かせ。俺だって書類整理しているんだ ぞ? これもお前が一人でやるならそうすればいいだろ。ん?﹂ ﹁ぐっ⋮⋮⋮﹂ 1060 ここは地獄の書類処理場⋮⋮今日もKY陛下は逃げようとしなが ら白龍の化身に睨まれながら仕事をしている。今日も黄の国は平和 だ。 ﹁ところで、側室達の件だが⋮⋮子供達の継承権を破棄させて家に 帰すぞ。年金を組むからお前の自己財産を全部使うからな。それで も足りないから白の王にお前借金しろよ。大臣達にはレイが話を通 した。お前借金王な。﹂ ﹁はぁ!? ちょっ、ちょっと待て!﹂ ﹁いやもう話通した。なに、お前は腐っても王族だ。一般人より二 倍は長生き何だから小さな内職でもチマチマやってれば⋮⋮返せる んじゃないか?⋮⋮多分︵ボソッ﹂ ﹁⋮⋮いくらだ⋮⋮﹂ ﹁ん∼∼国家予算の半分かな?﹂ ﹁はぁ!?⋮⋮︵バタッ﹂ あまりの事に気を失った様だ。別にこの額は誇張ではない。ホン トはもう少し有るかも知れない。何せコイツは手を出した女性が多 いのだ。側室だけじゃなく、城下の御手付きになった女性達にも割 り当てているのだからそりゃ多い。 1061 まさに身から出た錆びとはこの事だな。ざまぁ⋮⋮とは軽く言え んな今回は。 舞子が仕掛けた呪詛の所為で亡くなったKY陛下の私生児達は全 員で20人⋮⋮全て乳幼児から3歳未満の子供だった。舞子は20 人を殺してしまったのだ。子供を無くした母親達には慰謝料と口止 めを含めた金を渡した。怒り狂っていた者も多かったが、俺とレイ でKY陛下をコキ使うと説得することで何とか⋮⋮和解したことに しておく。女って恐ろしい⋮⋮特に子を亡くした母親はその倍恐ろ しい。 ふぅ⋮⋮舞子はこの罪を死ぬまで背負う事になるだろう。それは 仕方ないことだ。自分のした事は責任を持たなければいけないのだ から。 さて、KY陛下の私生児達は亡くなった者を除けば全員で50人 ⋮⋮分かっただけでも。手を出した女性全員が妊娠したわけでは無 いのだから⋮⋮それを考えると﹁マジでお前馬鹿だろ﹂とKY陛下 の前でポロっと本音が出たご愛嬌だろ。 そんな訳で、子供が居る手を出した女性達に年金を組む事にした のだ。が、 ﹁︵やっぱり、貴族には多い額出さないと納得しなかったんだよ⋮ ⋮︶﹂ 1062 コイツ KY陛下が側室達に贅沢我が儘し放題にさせていた所為でもある のだ。自分で自分の首を絞めたんだよ。 それにしても、金銭で今のところ許すって言ってるんだからまだ 良い方だろ。女は恐ぇーぞ⋮⋮これで済むならまだ良いって。後々 何をしてくるか分からないが⋮⋮ 気絶したKY陛下を叩き起こす。仕事をさせなければならない。 休憩は充分していたのだから今度はキリキリ働け。国のために。 あぁ∼レイに会いたい⋮⋮癒しが欲しい⋮⋮。そしてお前はさっ さと起きて仕事しろ。 ******* ﹁紅蓮⋮⋮大丈夫でしょうか?﹂ ﹁⋮⋮⋮分からん﹂ 1063 ﹁このまま⋮⋮何て無いですよね?﹂ ﹁⋮⋮そうならないように願うしか無い。﹂ 紅蓮が眠いついて早一週間が過ぎようとしている。目覚める兆し は無いらしい。直接会いに行けないので詳しくは知らない。 黄の国は変わりつつある。勿論良い方向に。なのだろう。 浮浪者は白の王により贈られた物資により炊き出しを配られてい る。テントや毛布も一緒に贈られて来たので雨風を凌げるだろう。 キサイ キシュン 王宮の腐敗した貴族達は膿を絞り出すがごとく出された。私の母 の生家もその対象になった。麒采と輝駿の母親の生家も対象になっ たいた。この国の貴族の大半が対象になった。金に物言わせ幅をき かせていた者は爵位を下げられ財産を半分程取り押さえられた。裏 で悪どい事をしていた貴族は罪を暴かれ捕らえられた。勿論爵位も 領地も財産も取り潰しとなった。 私達は母親の生家という後ろ楯を無くした。だが、母親達は私達 の母親と言うことで今後一切、政治に関わることを禁止され、私達 と縁を切る事で何処か田舎で隠居する程の額の年金を受け取りさっ さと行ってしまった。私達は母親に見捨てられたのだ。いや、まだ その方が良い。実際は売られたのだ。 ﹁兄上⋮⋮﹂ 1064 ﹁泣くな輝駿⋮⋮泣いたら惨めだ﹂ ﹁母上は⋮⋮っ⋮⋮僕を捨てたのでしょうか?﹂ 誰も﹁そうだ﹂とは本当の事でも言えない。いや、言いたくない のだ。それにしても、輝駿のやつ普段の私という一人称が僕になっ ているぞ。 それだけ輝駿には大打撃だったのだ。私とて悲しい⋮⋮麒采は先 程から涙を堪えながら輝駿の話を聞いている。そんな麒采はふと話 しだした。 ライキ ﹁なぁ、このまま序列に従えば、雷輝兄上が王になるんだよな?﹂ ﹁⋮⋮⋮どうだろうな﹂ ﹁雷輝兄上?﹂ 正直、父上を見ていると王はなりたくない。それに自信もない。 麒采はどう思いこの話を切り出したんだろうか? ﹁もしそうなら、俺は雷輝兄上を補佐する。絶対に父上のような間 違いをさせないように⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮そうですね。僕もお手伝いします。僕は王位には興味ないの で﹂ その提案に輝駿も乗ってくる。どうしたものか⋮⋮ ﹁そうだなぁ⋮⋮そうだ。私でなくとも王位についた者を補佐しよ 1065 う。勿論私も努力する。が、何事も適材適所がある。最も王位に適 した者が居なければ⋮⋮それも良いな。﹂ それから三人で未来の事を語った。父上の様に側室は絶対に持た ない。後に王位を父上から継いだ私が最初に兄弟達で決めた約束で あった。私に万が一跡継ぎが居なければ兄弟達の子供に引き継がせ る⋮⋮と、いつか権力争いを引き起こす約束をした。 後にこの約束は紅蓮を悩ませる事件の発端になるとは私達はまだ 知らなかった。 ******** ボクの母上は紅蓮兄上の母上と喧嘩した。 1066 何でも、紅蓮兄上の父上が好きだったのに紅蓮兄上の母上に紅蓮 兄上の父上を取られたのが悔しいのだと泣きながら叫んでいた。ボ クの父上ではなく、紅蓮兄上の父上だ。 ボクの両親は何処か可笑しいように感じていた。父上はボクに色 んな物をくれる⋮⋮けど、頭を撫でて貰ったことも、遊んで貰った ことも無い。白の国に行った時、王宮ので見た白の王と王子達の頭 を撫でていた。その時は驚いた。誰もボクの頭を撫でてくれたこと なんて無い。ボクの行儀が悪くても誰もボクを叱ってくれない⋮⋮ 白の王子達はちゃんと怒られているのに⋮⋮ボクは気付いた。誰も ボク自身を見てくれていない。 紅蓮兄上の両親はこの黄の国を建て直すため働いている。その為 ボク達側にいた人達は半分以上いなくなった。別にそれは大したこ とではないと思う。だってボクを見てくれないから。 その点紅蓮兄上はボクの事をちゃんと怒ってくれた。ボクを見て くれた⋮⋮でも紅蓮兄上は眠ったまま起きない。 紅蓮兄上は目覚める事無く眠り続けている。藍苺姉上はきっと心 細いだろう。何で紅蓮兄上の両親は一人にさせるのだろう⋮⋮ボク なら一人にはさせない。でも、ボクにはその場所まで行く手段がな い。ボクに力が有れば⋮⋮藍苺姉上の側に居るのに⋮⋮ ボクなら藍苺姉上を寂しくさせない⋮⋮一人にしない。悲しませ ない。 そうだよ。藍苺姉上はボクが側にいれば良いんだ。ボクが強くな 1067 れば、飛んでいける程の力が有れば⋮⋮藍苺姉上を幸せにできる。 紅蓮兄上ではなく⋮ボクが!! そうと決まれば即行動しよう。先ず手始めに⋮⋮飛んでいける程 の力が有る者を味方につけよう⋮⋮⋮⋮ その時のボクはとても簡単で単純な事だと思っていた。そして後 から気付くのだった。これが初恋であったと。 初恋とボクが気づくまで後数年。 紅蓮兄上と恋敵になるまで後⋮⋮⋮ 1068 黄の国では⋮⋮︵後書き︶ 大雅の様子がおかしいのよ⋮⋮ 次の話は白の国の話です。 1069 その頃白の国では⋮⋮⋮︵前書き︶ タイトル通り白の国での出来事。時間軸は紅蓮が目覚める1週間 前辺りです。 1070 その頃白の国では⋮⋮⋮ ふぅ⋮⋮黄の国の建て直しに助力して一週間が経つ。未だ膿は出 しきれていないのが現状か⋮。長年の腐敗はかなり根深く根を下ろ していたようだ。 ﹁これは一年やそこらじゃ無理だな⋮﹂ ﹁それでやらないよりはマシでしょ?﹂ 妻で王妃の玉葉が緑茶を湯飲みに注ぐ。長年の付き合いで濃い目 のお茶が苦手と知っている玉葉は自分は濃い目のお茶が好きにも関 わらずいつも薄目に淹れてくれる。日頃は冷たいのに些細なところ で優しい⋮⋮いつも優しければ⋮⋮ ﹁狛李? 何か言った?﹂ ﹁⋮いや、何も。﹂ この通り、直ぐに優しさは鳴りを潜めてしまう。根は優しいこと は理解している⋮⋮のだが、いかせん分かりづらい優しさなもので、 見落としがちだ。 ﹁狛李、極小数の口傘のないもの達が貴方が黄の国を掌握するのだ と宣っていますよ⋮⋮怪しかったので間者に調べさせたところ、裏 で他国と繋がっていました。﹂ ﹁何処の国だ?﹂ ﹁黄の国の取り潰された上級貴族数名と⋮⋮﹂ 1071 ﹁何だ?勿体ぶって﹂ さ ﹁黄の国上級貴族数名と、我が国の大臣二人と茶の国王族との繋が りがあった事が判明しました。﹂ 此方も色々ありそうな予感だな。 さ 茶の国とは黄の国と我が国、白の国と双方の国に挟まれている小 国だ。小麦と反物が盛んな国で戦いとは無縁な平和な国だ。表向き は。 平和を愛した歴代の王により白の国とは友好関係を築いてきた。 何よりあの国の反物は洗礼され美しく、下手な品より安い。大国と 言われる我が国の後ろに隠れがちだが、軍事は割とキチンとしてい る。戦争はここ100年程していない為、軍は専ら災害時の救援や 行事の催し何かに駆り出される事が多い。だが、王が代替わりした ここ数年はどうもキナ臭い。王を継いだのは第一王子だったハズ。 彼は御年18歳、父親の王が病で亡くなり、第三王子と共に白の国 に留学中、父親の訃報を聞き国に帰ったハズ⋮⋮未だに白の国に留 学中の第三王子は終に帰らずこの国に残った。 ﹁ん、⋮⋮未だに我が国に留学中の第三王子から話を聞こうか?﹂ ﹁一応此方の方でも事情は聞きましたが⋮⋮白の王自らの質問には 先の質問より話すことが増えるかも知れませんね。﹂ そうと決まれば、聞いてみよう。俺は玉葉を伴い茶の国第三王子 のいる王立大学院まで足を運ぶことにした。 1072 この国で唯一の王宮にある大学に足を踏み入れる。この王立大学 院は王族や貴族、小数ではあるが庶民でも門を叩くことを許されて いる。が、狭き門だ。十数年前に学問や武術、呪術に優れた者以外 でも学ぶことを志す者や家の事情で入ることが出来ない者に中学院 からの推薦で授業料を免除する制度を導入した。これにより幅広い 分野の逸材を育成出来るだろう。 ﹁久し振りですね⋮⋮この建物に入るのは﹂ ﹁かれこれ⋮⋮十数年振りだな。﹂ 何を隠そう、その制度を導入した年に入学したのが俺と玉葉なの だ。俺は王族として、玉葉は中学院の推薦で。その頃は玉葉にかな りいびられた⋮⋮。王族と言うだけで入学した負い目もあり、玉葉 に負けぬように勉強をしていたが、勝てた試しがない。当時から才 色兼備で鳴らしていた玉葉に勝てるわけが無かったが⋮⋮。 ﹁通達は既にしています。﹂ ﹁何処に居るんだ?﹂ ﹁会議室に呼んであります。﹂ 会議室は様々な用途で使われているが、今日は何処も使っていな いようだ⋮⋮もしや、俺の所為で使えなかっただけかもしれないが な。 1073 ﹁お久し振りです。白の王。﹂ さて、事情聴取をしようか。 ******* 最近妙な視線を感じる。そう、黄の国から王子達が来た辺りから だ。何だ? ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 訝しりながら周りを見渡す。文官や侍女達しか居ない⋮⋮気のせ いか? 気のせいとこの時はそう思うことにした。この頃は白の国もごた 1074 ごたしている。いつ他国が何か仕掛けてくるとも限らない⋮⋮警戒 するに越したことはない。 ﹁︵気のせい⋮⋮そうだ、疲れはているのか︶﹂ 後々この事があることの前触れとはツユにも思わなかった。恐ろ しや恐ろしや⋮⋮ ﹁危なかった⋮⋮気付かれたかと思った。﹂ その事件が起きるまであと少し。 ******* 1075 私は激怒した! 私達の努力の結晶ネタ帳が何者かによって焼却 されたのだ。これは私たちとある趣向の愛好家にとって大問題だ! ﹁皆さんに集まって貰ったのは他でもありません⋮⋮私たちの教典 とも言えるネタ帳が何者かによって焼却されました!﹂ 集まった侍女達からどよめきが漏れる。これは再犯を防ぐため、 基より私たちのウサ晴ら⋮⋮ゲフンゲフン⋮⋮努力の結晶を葬られ た恨み辛み⋮⋮何より、 ﹁まだ何処にも書き写していないネタをパーにされた怨み⋮⋮許さ れません!﹂ ﹁そうですわ!﹂ ﹁私たちの楽しみを⋮⋮ッ!﹂ ﹁何としても犯人を捕まえなければ⋮溜飲が収まりませんわ!﹂ ﹁それだけではありません! ここ最近のネタを、紅蓮のネタをパ ーにされた⋮⋮この上ない悔しさ⋮ッ﹂ ﹁私達が提供した話もありましたのに⋮﹂ ﹁そうですわ!あの人はとても子供に見えぬ⋮⋮いえ、男子にも見 えぬ容姿⋮⋮まさにネタの宝庫﹂ ﹁それだけではありません。黄の国の王子の上の三人は夜中紅蓮様 のお部屋に忍び込みましたのよ!結局何もありませんでしたが。﹂ 1076 ムムム⋮⋮惜しいことをしたわッ! それに大雅王子も紅蓮に御 執心らしいし︵かまってもらいたいだけ︶、部屋に忍び込んで来た 兄王子達を子供ながら撃退して取り押さえた⋮⋮、何より! 王族 として育ったにも関わらず、血も繋がらないという理由で国を出奔 した何て⋮⋮ネタに最適じゃない!? もうネタにするしかないじ ゃない!!? 血の繋がらない兄弟、棄てられた王子、寝込みを襲う︵別に襲っ てはいない︶、兄弟三つ巴⋮⋮、既婚者、そして義理の兄! 薄い 本を書かずしてどうしろと! ﹁でも、おかしいのよ⋮⋮ネタ帳は厳重に保管していた筈⋮⋮なの に今回簡単に葬られた何て⋮⋮一体犯人はどんな手を使ったのかし ら⋮⋮﹂ ﹁その事なのですが⋮⋮呪術に優れた者ならば簡単に葬る事も可能 ではないでしょうか?﹂ ﹁だとしたら⋮⋮まさか賢者と讃えられた老師様?﹂ ﹁老師様はそんなことに無関心でしょ⋮⋮きっとネタ帳に書かれた くない誰かですよ。﹂ ふむふむ⋮⋮だとしたら⋮⋮お父様は有り得ないわ。鈍感なお父 様はこの私達の活動に気付いていない⋮⋮何より、お母様が許さな い。お母様も私達の仲間なんだから。 だとすると、この王宮にいる王族は私を含め後8人⋮⋮両親は論 外、弟の柏樹はそんなこと出来ないし理解できない⋮ハズ。伯父様 は事件以来出家する勢い⋮⋮只今瞑想中。お父様の叔父、大叔父様 1077 は力は強いが私の術を破るほど強くない。何より、勝手に部屋に入 るなんて事はしない紳士。その大叔父様の息子は旅行中⋮⋮何より 皆この活動に気付いていない⋮⋮まさか! 一人だけ居るわ⋮⋮この活動を知っている人物⋮⋮そう、 ﹁お兄様だわ⋮⋮﹂ ﹁﹁﹁え!?!Σ︵ ̄□ ̄;︶﹂﹂﹂ そうよ、この前黄の国の王子達とお兄様の薄い本を描いていたこ とがバレて⋮⋮口止めしたんだったわ⋮⋮抜かったわ!! そうと分かれば、証拠を掴まなければ⋮⋮。私が手始めにたこと は⋮⋮おお兄様の尾行。何か怪しければ尻尾も掴める⋮⋮ハズ。 と、言うわけで、 ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁︵フフフ⋮⋮姿を認識しなくなる術を掛けたんですもの⋮⋮いく らお兄様でも私を視認できませんよ♪︶﹂ ただいま尾行中⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮⋮?﹂ 1078 ﹁!?!!︵びっくー! な、ナニナニナニ!!お兄様私の気配に 気がついているの!?︶﹂ 周りに居る侍女や文官は全然気がついてないないのに⋮⋮恐るべ し我が兄!⋮⋮でも、ネタ確保のために前尾行した時は全然反応が なかったハズだけど⋮⋮何で? あまりの私の気配に気がついているかの様な反応に尾行を断念⋮ ⋮が、私は諦めん! ﹁︵ネタ帳の怨み⋮⋮それに新なネタ確保のため!︶﹂ そして再度尾行再開を決意した。 さぁ、私達の趣味の為、息抜きの為この事件を見事解決して見せ るわ!!ι︵`ロ´︶ノ 1079 ******** この頃鈴雛姫が暴走している⋮⋮半分以上私の所為でもある⋮⋮ さて、どうしましょう。 事の発端は彼女達が書いている薄い本のネタ帳の焼失にある。ま さか⋮ま・さ・か・! あの二人に触手を伸ばすなんて⋮⋮やるわ ね⋮⋮じゃない、私は同じ間違いを犯しはしない! ﹁先ずはどうしましょう?﹂ マオリン ﹁猫鈴様⋮⋮何をお考えで? 駄目ですよ、祖国に迷惑を掛けるの は⋮⋮何より白の国は我が祖国唯一の友好国。ご迷惑をかけるもの ではありません。﹂ ﹁分かってる。けど、弊害が出てるじゃない。狛斗王子をストーキ ングしてるわよ鈴雛姫⋮⋮あれはほっといて良いの?﹂ 私の所為なのだがそこは棚にあげておく。私と一緒に黒の国から 来た二番目の兄⋮何だけど、今は一外交官として接している。はっ きり言ってどうでもいいのだが⋮⋮いつも通りでも良いじゃない、 公でも無いんだし⋮⋮正直ウザいわよ⋮⋮ 1080 ﹁それに様付けしないでよ⋮⋮お兄様なのに敬語なんて⋮堅っ苦し いわ。それに端から見たら10歳未満の子供に⋮それも妹に敬語な んて⋮⋮﹂ そそっかしくおっちょこちょいでお人好しなこの兄に外交官とし て仕事が出来るのか不安だが⋮⋮今はその事は良いのよ。それより ⋮⋮ ﹁被害の収拾をつけないと! 何よりあの猪突猛進な鈴雛姫のスト ーキングをやめさせないと⋮⋮やっぱり私がやったって言った方が 良いよね?﹂ 事情を説明すれば⋮⋮どうかしら? ﹁一の姫は猪突猛進の様ですよ。果たして冷静でいてくれるでしょ うか?﹂ ﹁う゛∼∼、でも、いつまで黙ってたってどうしようもないわよ⋮ ⋮やっぱり私がやったって言ってくるわ!﹂ そうよ、正直に言った方が良いわよ。でもでも⋮やっぱり怒るわ よね⋮絶交何て言われたら落ち込むわ⋮⋮でも仕方ないわよね。 ﹁お兄様!私、謝ってきます!!﹂ 1081 ﹁⋮あまり事を大きくするようなことはしないでくださいよ。﹂ わかっていますって。 それから私は鈴雛姫の足取りを辿った。兄王子をストーキングし ているハズだから兄王子の足取りを辿れば良いと思っていたのだが ⋮⋮ ﹁︵何て完璧なストーキング⋮⋮いえ、スニーキングと言った方が あってる⋮⋮︶﹂ まるで歴戦の諜報員⋮⋮段ボールを愛する蛇の様な完璧なスニー キング⋮⋮鈴雛姫⋮貴女は諜報員に向いてるわ。って、違う違う︵ ヾ︵´・ω・`︶ ﹁︵姿が見えないなら⋮⋮餌さを仕掛ければ⋮︶﹂ この場合、鈴雛姫に取って置きの餌さは⋮⋮“アレ”ね。 でもどうやって見えるようにチラつかせようかしら? 明らさま でも警戒される⋮⋮隠しすぎても⋮⋮ダメ⋮⋮ん∼∼∼⋮⋮あ! ﹁︵有るじゃない♪鈴雛姫が見逃さない人物が。︶﹂ 道端にコンタクトが落ちていても、小さいから気付かない⋮でし ょ? でもある一点に集中して見ていたら⋮⋮気付かない?え?気 1082 づかねぇーよ?⋮⋮大丈夫、鈴雛姫はガン見してるから気付くわよ ⋮⋮多分⋮やってみないと! ﹁︵作戦名・目の前に餌さ作戦!︶﹂ 説明しよう! 目の前に餌さ作戦とは、狛斗王子をストーキングする鈴雛姫を自 分のところまで自主的に来させる作戦だ。作戦はこうだ、まだ視認 出来る狛斗王子に話し掛け、鈴雛姫の好きそうな話題︵BL的なネ タ︶つまりは餌さをチラつかせて誘き出す⋮⋮多分成功するだろう 作戦だ。 何より今はネタに餓えているだろうから︵ネタ帳が焼失したから︶ 食い付いて来ること必至。 と言うわけで⋮⋮! 狛斗王子に話し掛ける。 ﹁あの、狛斗王子。鈴雛姫様をお見掛けしませんでした?﹂ ﹁妹ですか?⋮⋮いえ、見ていません。この頃は大人しくしている ようで⋮⋮何か企んでいなければ良いのだが⋮⋮﹂ 1083 ﹁︵多分貴方の後ろでストーキングしてますよ⋮何て言えない︶そ うですか⋮⋮お会いしたらお伝えください。﹁面白いお話が御座い ます﹂と。﹂ ﹁ああ、わかった。確かに伝えよう。﹂ ﹁では、ご機嫌よう。﹂ 良し、後は餌に掛かるのを待つだけよ。さあさあ⋮⋮掛かりなさ い⋮⋮ 腐 む? 後ろから同志の気配が!! ﹁お待ちになって。マオちゃん!!︵>︳<”︶﹂ ⋮⋮⋮掛かったぜΨ︵ ̄∇ ̄︶Ψ ﹁探したわよ⋮⋮ちょっと別室で話しましょ?ね?﹂ ﹁え? え、えぇ⋮⋮マオちゃん?﹂ 別室に連れ込み︵何か危なく聞こえる⋮︶鈴雛姫を尋問する。 ﹁鈴雛姫、あの二人はネタにしてはダメ⋮鬼門よ。﹂ 1084 ﹁けれど、アレほどのネタはそう無いわよ? そんなにダメなの?﹂ ええ、ダメなのよ。昔だって大変な目にあったのに⋮⋮今では黒 龍に九尾、窮寄、白龍よ! あんなチートな二人をネタにしたら⋮ ⋮明日の朝日は拝めるかしら⋮⋮ムリね。特にベル⋮⋮いえ、紅蓮 はジン⋮⋮じゃなく藍苺LOVE何だから、藍苺が嫌がることはし たら終わりよ。ね?だからやめましょ? ﹁マオちゃん⋮⋮私達はどんな障害が有ろうとも成し遂げなければ いけないのよ!﹂ ﹁それも命あっての物種よ。ダメったらダメ。それに本人達が嫌が ってるのならするもんじゃないわ!私は昔そう学んだのよ⋮⋮危な く友達を失うところだった!﹂ そう、明らさまに人物が特定できる様なネタはダメなのよ。あの 二人だってネタとしてのエピソードの提供なら良いけど、ご本人と してはNGなのよ!名前、顔出しNGなの。 ﹁ご本人として描いたらダメよ。話として違う人物達に使うなら良 いけど、でも本人と分かるのはダメよ。﹂ 私の趣味として描いた門外不出の薄い本が何故かベルの目に入っ てしまった時の修羅場⋮⋮もう思い出したくない。 何度も言うけど、ダメよ⋮⋮白の王様が試した時なんて鳥肌が立 って血の気も失せたわよ。アレとまた対峙しなきゃいけないなんて ゴメンだわ。何としてもこの友人でもあるお姫様を止めなくちゃ! 1085 ﹁さっきから話を聞いていると、私達のオアシスネタ帳を焼却した のはマオちゃんなの?﹂ ﹁そうよ。あの二人も私にとっては掛け替えの無い友達なのよ⋮⋮ その二人が嫌がるなら、貴女を止めるのは当たり前でしょ。﹂ 何より、このお姫様に起こるであろう二人の報復が怖い。 ﹁二人だって個人が頭の中でだけ妄想するなら口出ししないわよ⋮ ⋮けど、本になって皆に見られるなら⋮⋮白の国が壊滅するかもね。 ﹂ 止めるためなら話を盛る⋮⋮あながち間違えじゃない気がするの はこの際ムシムシ⋮⋮。 ﹁貴女の自己中な行いで国が揺らぐかも知れない⋮⋮それでもやる の?﹂ ﹁⋮⋮いいえ⋮⋮辞めますわ。だって、私の所為で国が壊滅何てあ ってはいけませんもの⋮⋮でも、自分の中で妄想は辞めませんわ。 だって夢がありますもの!それに、同性同士の恋愛も良いですけど、 純愛も好きですの!この事を題材にして恋愛小説を書きますわ!!﹂ ﹁あ、う、うん。︵どうしよ、何か変なスイッチ入ったかも⋮⋮テ ヘッ︶﹂ 変なスイッチが入った鈴雛姫を遠い目で見る私はさぞや変に見え 1086 ただろう。元々は私が著者である薄い本︵BL的なヤツ︶を侍女達 が間違えて読ませてしまったのが運の尽き⋮⋮それ以来僅か12歳 にしてBL、百合が大好物の腐女子にクラスチェンジ、元は清楚可 憐なお姫様だったのに⋮⋮どうしてこうなった⋮⋮私は6歳何だけ ど⋮⋮ハハハ⋮⋮ 実は私が慌てる理由はもう一つある。実は紅蓮達宛に急いで出し たが、結局手違いで4日遅れで着いた手紙に自分はミケだと暴露し たのだが⋮⋮返ってきた返事には﹁遅い﹂﹁今更﹂﹁だが許す﹂と 羅列が長々と続き、最後に﹁追伸、俺とレン︵ベル︶どちからでも 薄い本にしたら⋮⋮殺す﹂と、血文字らしき文字で釘を刺してきた。 血の気がサーっと無くなったわよ⋮⋮ジン⋮⋮アンタベル以外には 鬼畜だったわよね⋮⋮本当変わってないわ∼。 だから、こんなにも焦っているのよ、わかった? ******* 1087 厄介な事になったわ。 ﹁では、そなた達にその様な思惑は無いと?﹂ ﹁はい。確かに今我が国はごたついています。ですが、兄も私もそ の様な大それた事、致しません。何より、わが国民達が赦さない。﹂ 毅然とした態度で李の鋭い疑いの眼差しに立ち向かう茶の国第三 王子。いえ、今では王弟かしら。確か今年で19歳⋮⋮若さゆえの 勢いかしら。机の下に隠している手は握り締められ震えている⋮⋮ やはり白の王である狛李の威圧に圧倒されている⋮⋮中身はヘタレ なくせに顔だけは威厳たっぷり何だから⋮⋮ 茶の国は何代も昔に飢饉で食糧難になった際、白の国が援助した。 それを国民達は未だに覚えている。とても義理堅い国民性だ。 まぁ⋮⋮王族達がどうであれ、こちらに牙を向けるのであれば⋮ ⋮こちらの喉元に届く前に敵の喉元を噛み砕かねば。それが⋮⋮私、 白の王妃たる私の仕事。狛李はあんな威厳たっぷりな顔なのに何処 か抜けて⋮⋮優しい所がある所為か、ここぞと言うところで⋮⋮ダ メなのよ。私がしっかり悪役に徹しないと。 1088 それが私に出来る事何だもの。それが優しい王に足りなかったも の。私が補えるなら⋮⋮それが私の幸せ。 こんな状況で上の空になっていた私の頭上から気配がした。配下 の者の様だが何か慌てているような気配だ⋮⋮あら? この子は最 近仲間入りした新人君ね、⋮⋮何かしら⋮⋮ ﹁御前を失礼いたします﹂ ﹁!!!﹂ 第三王子が驚いたが狛李はノーリアクション⋮⋮アレは驚きすぎ て動けなかったパターンね。この異国言葉はこの使い方であってる かしら?麗春さんはこんな使い方だったハズだけど⋮⋮いえいえ、 今はこの子がどうして慌てているかよ! ﹁どうしました? 何かあったのですか?﹂ ﹁⋮⋮どうした。﹂ ふぅ⋮どうやら時間稼ぎの甲斐あって現実に戻ってこれたみたい ね。さて、何事なのかしら? 茶の王子に聞かせる訳にはいかないので狛李に近付きソッと耳打 ちする。 1089 ﹁実は⋮賊と思わしき者が侵入して来まして⋮⋮長により取り抑え られ、或いは廃除致しました。そのご報告と指示を﹂ ﹁うむ⋮⋮すまんが話はまた後日聞くとしよう。手間を取らせたな。 ﹂ どうやら戻らねばならない事態の様だ。全く、次から次へと問題 が起こる⋮⋮何かの陰謀かしら? ﹁いえ、白の王もご多忙なのは承知しております。﹂ ﹁気遣い痛み入る。ではな。﹂ ﹁要らぬ手間をかけさせましたね。﹂ 少し狛李に手を引かれ退室する。どうしたのかしら? 僅かに手 が汗ばんで緊張しているのが丸分かりだわ。誰か欠損が出たのかし ら⋮⋮またこの優しい王は心を痛めるのね⋮⋮嫌だわ⋮⋮狛李を嫌 な思いにする世界も他国の王も⋮⋮そしてそれを客観的に冷静に見 ている私も。 ﹁どうしたの?﹂ ﹁早く王宮に帰ろう⋮⋮話はそれからだ。﹂ はぁ⋮⋮こうやって直ぐに話さないのは事態が悪い時なのよ⋮⋮ やはり事態は悪いのね。 1090 誰もこの人を悲しませる事は赦さない。例え、そう、狛李自身は 許しても、私は蛇の化身なのよ⋮⋮執念深さは猫より根深いの。覚 悟しなさい⋮⋮死より辛い思いをさせてあげるわ⋮⋮フフフ 一番怪しいのは一度も姿を公に現さない第二王子当りかしら。で も、明らさまに怪しいのは犯人じゃ無いのよね⋮⋮まあ、調べれば 分かることよ。 ﹁なあ⋮⋮何を考えているのだ?﹂ ﹁あら、決まっているでしょ⋮⋮フフフ﹂ ﹁⋮⋮⋮あ、ああ⋮⋮うん。﹂ そんなに怯えないでよ。楽しいじゃない♪ 1091 その頃白の国では⋮⋮⋮︵後書き︶ 次回、藍苺暴走します。 1092 嫁さんよ⋮⋮︵前書き︶ 紅蓮が帰ってきて二日程経っております。 1093 嫁さんよ⋮⋮ 帰ってこれたよ。我が家に。 ﹁︵ん∼⋮⋮そうだよ帰ってこれたんだ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮♪﹂ 嬉しいよ、だって下手したらウン千年の長い長∼い時間を旅して きたんだから⋮⋮精神は疲れはてましたよ⋮⋮はぁ⋮ ﹁︵それで何が言いたいのかと言うとさ⋮⋮︶﹂ ﹁⋮⋮⋮♪﹂ モフリスト︵嫁さん︶に捕まっております。もふられまくりです。 特にお腹辺りを⋮⋮⋮ ﹁キューーン︵や∼め∼て∼お腹はこちょばゆい∼∼︶﹂ ﹁あぁ∼⋮⋮もふもふ♪﹂ 体をガッチリ捕まえられ嫁さんの膝にお座り状態でもふられてい る。逃げられない。 1094 もう、嫁さんは止められない止まらない。どこぞのお菓子のキャ ッチフレーズの様だ。 事の顛末はこうだ。久々に戻ってこれたまだ八歳の紅蓮の体⋮⋮ ちと固くなっていた⋮⋮死後硬直?何て言ったら嫁さんに﹁縁にで もないだろ!﹂と頭を叩かれた。正直ごめんなさい。 で、異世界で色々あったことをこの体でも試してみようと思った のだ。ストレッチ感覚で。 試しに九尾にでもなってみようと思い、なってみたところ⋮⋮別 に普通に出来た。白龍の時も簡単に出来たが、長い異世界旅行で学 んだ事を踏まえるともっと楽に出来た。単純に慣れかも知れないが。 これまた異世界で身につけた術で水鏡を出して全身をチェックす る。これといって記憶にある姿と変わりなし⋮⋮。それでも感覚的 にはかなり昔の事なので嫁さんに確認でもしてもらおうと話し掛け たのが運の尽き⋮⋮この様だ。 ﹁キュワーン!︵ちょ、それはセクハラだ! やめないと⋮⋮野菜 尽くしにするよ!︶﹂ ﹁⋮⋮♪﹂ ﹁キューイ⋮⋮︵ダメだ、話聞いてない⋮⋮︶﹂ 暴れても︵傷つけないように細心の注意をして︶叫んでも︵大声 出しすぎるとパトロール中の誰かが飛んでくるので出せない⋮︶ダ メだ。別にもふられるのは嫌じゃないよ⋮⋮でもね⋮⋮限度ってあ 1095 るでしょ? 未だに私をもふもふしている嫁さんは止まらない。頭から耳、顔 の周りから背中へともふもふしまくる嫁さん。私も前世やポチでや ったよ⋮⋮顔ビヨーンとか、耳を少し触ってみたり、尻尾クルクル 巻いたり⋮⋮それを考えると⋮⋮ゴメンね⋮⋮こんなにも反応に困 ることだったのね。いや、でもね⋮⋮嫁さんよ、これは無いのだと 思うのだよ⋮⋮顔を私のお腹に埋めるのは⋮⋮さ。 ﹁キュワーン⋮⋮キューーン!!︵お腹がこそばゆい!!そして何 より恥ずかしい!!︶Σ︵T▽T;︶﹂ ﹁もふもふ♪﹂ ちきしょー⋮⋮ここぞという所で強引でわが道を行くだよね?前 世でもそうだったよね?ちょっと強引な所があったけど⋮⋮こんな にも可愛いもの好き︵動物限定︶だったっけ? まぁ⋮それはおいといて⋮⋮ はぁーダメだこりゃ⋮⋮。気がすむまで待つしかないか⋮⋮。あ、 私何で今まで喋らなかったんだろう⋮⋮癖か? ジンの時、ロールキャベツ男子だったよね?初めてなのにやけに ⋮⋮ハハハ⋮⋮ハァ∼ 1096 ******** 久し振りのレンの狐姿を見て我慢ができなくなった。フワフワサ ラサラの毛並みにうっとりする。ポチの毛並みは硬めでサラサラだ がやはりれレンの毛並みには敵わない。奏の毛並みはフワフワだが 腰がなく猫っ毛過ぎて⋮⋮レンの毛並みのが好み。兎天は羽根だし、 夜無は鱗⋮⋮理想のもふもふに飢えていた。 一応言い訳を言っておくと、別にレンに毎日毛並みをもふる催促 なんかしたことはない。けど、前に堪能した毛並みが今まで忘れら れなかった⋮⋮。レンが眠っていた2週間、その事はすっかり忘れ ていたが、戻ってきたレンが小狐の姿で現れてたかが外れた⋮⋮俺 も驚いている。ハズ⋮。 ﹁キューーン⋮﹂ ﹁⋮⋮ん?何だ?﹂ ﹁キュワーン?﹂ ﹁ん?⋮⋮どうしたレン﹂ 1097 ﹁キュイーー!!﹂ ﹁悪い。分からない⋮⋮﹂ 今まで不機嫌に揺れていた尻尾一本と緊張でもしているのか微動 だに動かなかった他の尻尾も二本もだらんと力が抜け、耳はへしょ ん⋮としょげてしまった。落ち込んだ様だ。 そんな姿も可愛いと思う。 元々俺は小さい時から可愛いもの好きだった。容姿も相まって親 ⋮特に母親が俺に与える小物類は可愛い猫やら犬やらが主だった。 それが小学生にもなって続いた。俺はそれが別に普通だと思ってい た。まぁ⋮それが原因で学校ではよくからかわれた。 からかわれつつも気にせずにいた。けど、可愛い小物とかは卒業 したぞ。何より、俺が好きなのは可愛い動物⋮“動物”なんだよ。 それに生きたヤツ。マンガのキャラはダメ。生きてる子猫とか子犬 生きてる動物限定。だから小5になる頃には母親の趣味じゃなく自 分の趣味で部屋のものを替えた。少し落ち込んでいた母親は父親に 任せた。 そんな調子で中学、高校と色恋なんてせず灰色じみた、それでも 友達とバカやったり楽しい青春を過ごした。母親は﹁きっと貴方の 好きになる人は小さくて守ってあげたくなるような女性ね♪﹂とか 言っていた。これはどうかと考えた。 俺は確かに小さい動物は好きだ。小さくなくても目が可愛いとか 1098 思うこともあるが⋮⋮動物限定だ。それに、そんな人間要るか? だからって猫耳が好きかと言われても⋮⋮疑問だ。そういう趣味の 人を否定する事はしない。個人の自由だ。けど、その猫耳が好きか と言われても、やっぱい﹁何で付けるんだ?何の意味がある?﹂何 て返してしまうだろう。実際友人の同級生の男に言ってしまい﹁お 前⋮⋮枯れてないか?﹂と言い返された。枯れてる枯れてないの事 は反論できない。実際俺の初恋は二十歳になってやっと来た⋮⋮ 案の定好きになった女性は、ベルの事な。で、ベルはお世辞にも 可愛いとか守りたいとか思い浮かべるような女性じゃない。どちら かと言うと守ってもらいたい、男らしいがピッタリだ。 ん? 何で自分の妻を貶すんだ? 誰が貶してるかよ。誉めてん だよ。俺だって憧れてるんだぞ、男らしいさってのに。でも、自分 の容姿じゃ無理ってことは分かってた。それにさ⋮⋮ “初めて外見で判断しなかったのが嬉しかった” そう、何より、女みたいな顔を見て何のリアクションもしなかっ たのは初めてだったんだ。好奇でもなく悪意や言われもない嫌味で も無かった。 なのに俺は初対面で﹁お菓子の人﹂何て言ったもんだから⋮⋮喧 嘩になった。﹁何だコイツ⋮⋮﹂って顔してた。うん。だから始め は男友達みたいなそうじゃないような曖昧な友情から始まったんだ よなぁ⋮⋮俺は一目惚れに近いけど。 1099 まぁ、後から考えたら、ベルは気になる事以外無関心だから俺の 事は何とも思ってなかった、って気付いた時は少々⋮⋮いや、かな り落ち込んだ。 で、俺は早い段階で﹁これは恋か?﹂何て自覚したのでベルにア タックしていたのだが⋮⋮回りくどいのは気づいてもらえず、直球 ド真ん中で告白したら驚かれた⋮⋮いつのまに友情から恋愛感情に 変わったんだ?ってさ。 付き合う前から部屋でゲームしたり手作りのお菓子や料理何か作 って貰ったけど、それを友人の一人に言ったら⋮﹁おまっ⋮⋮それ って付き合ってるだろ⋮⋮﹂呆れ顔で言われたぞ⋮⋮そうなんだろ たうか? うん。まぁ⋮⋮なんだ。結婚する前から俺の可愛いもの好きはあ ったわけで⋮⋮うん。 ﹁ギュイー⋮⋮﹂ 再度レンの腹辺りをこちょぐる。面白い具合に反応を見せるのも 楽しい。 ﹁ふっ⋮⋮悪い。ついな、つい。﹂ ﹁ギュイー! キューーン!!﹂ 1100 何て言ってるか分からないが怒られた。そして仕返しに肉球パン チを貰った。 でも、幸せだな♪ ﹁ギュイー⋮︵だからM疑惑が浮上するんだよ︶﹂ それにベルだって可愛いところは結構あったんだぞ♪ ﹁レン、次は窮寄な?﹂ ﹁ギュエーー!︵勘弁してよー!︶﹂ さて、虎ってどんな手触りだろ♪この前はあまり触れなかったか らな♪ ******** 1101 悲願が叶った。自分の悲願ではない。主殿の奥方である藍苺様の 悲願だ。当初はとても落ち込んでいたが、それも一日程⋮⋮その後 の1週間と数日は何かに取り憑かれたかのように主殿が遺された覚 書を見て食事を作っては失敗していた。掃除や洗濯も失敗しながら 何とか身に付けようと続けていた。 我らも白き神より主殿が2週間眠り続けると聞いた。長くもなく、 短くもない時間だが、奥方にはいつ目覚めるとは教えてはならない と口止めされた。我らは唯見守るだけ⋮⋮それしか許されない。我 らの声は届かないがな。 主殿のご両親はどうやら後から聞いたらしい⋮⋮どうして神は奥 方だけに教えないのだろうか? フム⋮⋮これは試練なのだろうか ?蛇には分からない。 ﹃⋮⋮暖かいですね∼﹄ ﹃ウム、絶好の昼寝日和だ﹄ ﹃眠いですね⋮⋮﹄ ﹃蛇の自分には眠くて仕方ない⋮﹄ ﹃爬虫類は変温動物ですからね⋮⋮寒いと動けないのですか?﹄ ﹃普通の蛇ならばそうだが⋮⋮ある程度ならば動ける。が、やはり 動きは鈍る。﹄ ﹃きゅー⋮⋮僕は眠いです∼﹄ 1102 今我らは主殿より仰せつかった南瓜の天日干しの見張りをしてい る。正直こんなに大人数は必要ないのだが⋮⋮夫婦水入らずもいう のも良いだろうと我らはここに集まった。 主殿が目覚めて直ぐにご実家に帰って来た。その目覚めた主殿が 始めにし始めた事は、料理を作ることだった。初日は主殿一人で作 ったが、次の日からお二人で台所に立ち兎天曰く﹁らぶらぶ﹂らし い。 ﹁らぶらぶ﹂とは何だ? と、目覚めて二日⋮⋮色々あった。そして我らはのんびりと南瓜 を見張っている。何故南瓜如きを見張る必要があるのか? 有るの だ。この主殿曰く﹁箱庭﹂には食いしん坊の子猿妖怪が出没すると 聞いた。そんな手癖の悪い子猿でも我らが居れば盗まぬらしい。⋮ ⋮自分の顔は恐ろしいのは分かっている。 ﹃それにしても、何故南瓜を天日干しするのだ?煮付けにするのだ ろ?﹄ ﹃あ、私も気になりました。煮るのに何故天日干しするのですか?﹄ ﹃ふむ、主に聞いたのだが⋮⋮天日干しすると南瓜がホクホクにな って旨いらしい。水分が程よく抜けて良いのだそうだ。﹄ ﹃きゅ?水分があるとべちゃべちゃになるでしゅか?﹄ ﹃ああ、主はホクホクな南瓜が好きなのだ。﹄ 1103 なるほど、料理とは奥が深いのだな⋮⋮。蛇の自分には分からぬ 事だ。だが、少し興味も湧く⋮⋮いつか試してみたいものだ。 ﹃⋮⋮しかし、干しすぎてもいかんのだろ?﹄ ﹃ウム、確かにそうだな⋮⋮どれ、主に如何程か聞くとしよう。﹄ ﹃ん?﹄ ﹃どうしました?夜無さん﹄ ﹃兎天⋮⋮何か気配がしないか?﹄ ﹃きゅ?⋮⋮あ!﹄ ﹃どうした奏。何か分かったか?﹄ 首をかしげた後周りをグルッと一周して何かに気がついたようだ。 大蛇の自分にはとある能力が有るのだが⋮⋮まだ言わずとも良いだ ろう。 この程度の気配、主殿が見逃す筈はない。どれ、新に身につけた 影に潜み様子を見てこよう。仲間のなかで自分が一番隠密に向いて いる。何せ蛇だからな。 それにしても、たまに奥方が﹁蛇って旨いのか?﹂と言ってくる のだが⋮⋮蛇の自分に聞かれても共食いをした事は生憎無いので答 えようがないのだが⋮⋮それに言葉も通じぬし。 その後も、﹁蛇と言えば⋮段ボール﹂と、よく分からぬことを言 っているのだ。人という者はよく分からぬな⋮⋮ 1104 ******* 王妃様からの命で王子様と姫様方をこの地にお連れすることにな った。それに・・・ ﹁舞子さま、足元にお気をつけください﹂ ﹁あ、はい⋮⋮﹂ やけにしおらしくなった舞子さまはご子息様を伴い白の国に来た。 そして私達は諸事情により麗春様と朱李様の御自宅に招かれること となった。 私はその共として王子様と姫様方をお世話するため王妃様より命 じられたのだ。白の国は今とても危険だと王妃や陛下が判断なさっ たのだろう。 1105 揉め事が解決した今、舞子さまは敵対していないと、私は聞いた ⋮が、王家に仕える侍女としてはそこまで信用できない。よく用心 しなければ⋮⋮ ﹁姫様方、大丈夫ですか?﹂ ﹁ええ、私もマオちゃんも大丈夫よ。﹂ ﹁はい、大丈夫です。﹂ ﹁ご免なさいね、用心のために私や家族以外の者が一緒の場合ここ に飛ぶようになっているのよ。﹂ 今私達が居るこの場所は洞穴の様な場所。どうやら何か防犯上の 理由で、ここに飛ばされたようだ。麗春様が朗らかに伝え、奥の暗 い方へ歩き始めた。周りも薄暗いが⋮⋮向かう方が暗い⋮⋮見えて いるのだろうか? 私は術には精通していないので何とも言えないが、転送陣という 代物らしく、王宮や街のどこかに予め設定しておくとその場所に自 動で移動できる便利な術らしい。白の国にも数ヶ所有るらしく、今 回は臨時の転送陣で来たとのこと。その他の転送陣とは違い今回の 物は一時的な使い捨て、今回限りのようだ。麗春様、抜かりありま せんね。 紅蓮様のお目覚めの知らせが来たときの陛下ならびに王妃様のお 慶びようは何とも凄かった。ここ最近物騒になっていた王宮内も少 し和らいだ⋮⋮が、危ない事に変わりなく、御二人は麗春様に御子 1106 様方を一時的に避難させるように頼んだのだ。麗春様は兼ねてから 会いたいとごねていた大雅王子としおらしくなってしまった舞子さ まを伴いこの都度ご帰郷することとなった。黄の国には朱李様が残 られ王を監視する事になった。 ﹁紅蓮兄上は目覚めたのですよね?﹂ ﹁ええ、そう手紙には書いてあったわ。とても嬉しそうで、所々脱 字が目立つほど﹂ 藍苺様はどうやら歓喜なさるとお慌てに為る方のようだ。実は私 は筆頭侍女になってからまだ日が浅く、半年程しか経っていないの だ。しかも、藍苺様が国を出た少し後になったので直接的な面識は 無いのだ。操られた時微かに残る記憶では儚げなお姿だった⋮⋮此 度の事をどれ程お心を痛めているのか⋮⋮ ﹁あ、﹂ 何事か思い出したのか声をあげる麗春様。一体どうしたのだろう か? ﹁⋮⋮コウちゃんとランちゃんにまだ了解取ってなかった⋮⋮﹂ ﹁それは⋮⋮大丈夫なのですか?麗春さん﹂ ﹁だ、大丈夫⋮⋮?﹂ ﹁麗春さん⋮⋮昔からオッチョコチョイ何だから⋮⋮﹂ 1107 そうなのかしら⋮私が知っている麗春様は完全無欠に近いお方だ と思っていたわ。今まではわからなかった部分が見えておもしろい ⋮いえいえ、今はその様な事を考えている時では無いのだ。 ﹁どうしようかしら⋮⋮あら?﹂ 何か可笑しな所でもあったのかある一点を見ながら麗春様は何や ら小さく二三話していた。すると⋮⋮ ﹁!!﹂ 私は見てしまった⋮⋮、あれは確かあの時⋮⋮操られた時にみた 黒い大蛇!! 私は驚いて麗春様を見ると⋮⋮ ﹁大丈夫⋮⋮﹂ そう言って頷いた。どうやら敵ではない様だ、安心した。そうか、 妖しというのはこのように見えぬ場合もあるのか⋮⋮今までより用 心せねば。 ﹁コウちゃんの“お友達”が居たから言伝を頼んだわ。さぁ、行き ましょ。﹂ 1108 ﹁お友達ですか⋮⋮︵あの大蛇が?︶﹂ ﹁まぁ⋮暗くて私は見えませんでしたわ⋮﹂ ﹁妖怪ね。きっと夜目が効くのね﹂ ﹁紅蓮はそんなことも出来るの?﹂ ﹁紅蓮兄上⋮⋮すごいですね﹂ 末恐ろしい御子様です。流石は御二人の御子。将来が楽しみです ね⋮⋮。願わくば白の国が彼らの尾を踏まなければ良いのですが⋮ ⋮王族の皆様は御心配ありません。問題は分別を弁えぬ貴族たち⋮ ⋮彼らが尾を踏む⋮充分にあり得ることなのです。 それに、朱李様は白龍⋮⋮王家の象徴でもあります。そんな方の 逆鱗に触れることも恐ろしいですが、麗春様も妖狐・九尾にして、 恐ろしき大妖・窮寄でもあるのです⋮⋮怒らせれば国の一つや二つ 一日も持ちませんよ。あの御二人が平和主義で本当に良かった。 それを考えれば、この大雅王子の行動も注意が必要かも知れませ ん。この王子⋮⋮何やら嫌な予感が致します⋮⋮。紅蓮様もとても 穏やかな人柄⋮ですが、やはり九尾に窮寄、極めつけは白龍と、怒 らせては危うい血を引いています。やはり私はが用心せねば⋮⋮ 1109 嫁さんよ⋮⋮︵後書き︶ 実はこの物語 紅蓮と藍苺のほのぼの?でした。最後は筆頭侍女さんでした。そ れと、大蛇の夜夢も語っていましたね。 さて、番外編も何だかキナ臭くなってきました。 りの続きをいつ投稿しようか悩んでおります。まだ、番外編も終わ っていないのに⋮⋮ダメですよね。もう書いてしまいましたが。 それでは、お目汚しになってしまった方もいましょう。そんな方 は﹁なろう﹂の偉大な先人様方の作品をお読みいただいて口直しを お薦めします。 自分の作品は息抜きのために書いたものです。なので先人様方の 作品をより良く読むためのスパイスになれば良いと勝手に思ってお ります。 それでは長々と語ってしまいました。それではこれにてお開きと します。では、また。m︵︳︳︶m 1110 暗雲立ち込め︵前書き︶ いつもお読み頂いた方々、今ここまで読んだぜ!って方、今試し に読んでみた、な方々もありがとうございます。 ここで注意です。芋虫⋮⋮な表現が出てきます。苦手な方はダッ シュでUターンしてください。 1111 暗雲立ち込め 窮寄の姿︱︱ぶっちゃけ翼が生えた仔猫︵白地に黒の縞︶だ︱︱ を堪能していた嫁さん。だが、その至福の一時は夜無のある報告に より終わりを告げた。 シリアスに言っているが、夜無にもふられ中の私の姿を見られた のは恥ずかしかった。 ﹁そうだね⋮⋮先ずは南瓜を仕舞わないと⋮﹂ ﹁現実に戻ってこい。悪かったって⋮⋮な?﹂ ⋮⋮了解しました⋮⋮現実に戻ります。 ﹁で? 母さんが舞子に大雅に白の王子に姫とマオ連れてくるって ? ⋮⋮何があったのか?﹂ ﹁だろうな⋮⋮王族連れてくるなんて、よっぽどの事だな。﹂ 絶っ対厄介事だろ。フラグの匂いがぷんぷんするわぁ⋮⋮あれだ な、白の国の王宮で何かあったんだよ。じゃなけりゃ王子様何てこ んなド田舎何かに来るかっての∼。はぁ⋮ま、一応おもてなししな いと⋮⋮ 1112 ﹁でさ、誰と誰が来てたの?詳しく教えて?﹂ ﹃⋮⋮主殿の母上、側室舞子、大雅王子、白の姫とマオ殿、ずっと 空気の第一王子に、兄王子に負ぶられて寝ている末王子、そして筆 頭侍女とおぼしき女性﹁うん、大勢だね。﹂ ﹁大勢なのか⋮⋮﹂ うわぁ⋮⋮何かわかんないけど、うわぁ⋮⋮ 王妃か白の王は何を考えているんだか⋮⋮筆頭侍女の啓璋さん連 れてきたらどうすんのよ。それだけ周りが、危なかったのか? そんな疑問は無い頭で考えても無駄。さっさと諸々の準備に取り 掛かろう。 ﹁うん。じゃぁ⋮準備しないとね。嫁さんは乾かしていた南瓜キッ チンに置いといて、夜無は母さんに﹁準備してる﹂って言伝て頼ん だ。ポチはここに残っているヤタガラスの皆にその事伝えて﹁絶対 手を出すな﹂って伝えて。兎天は嫁さんの手伝い。奏は⋮⋮﹂ ﹃きゅ?何でしゅか?﹄ まん丸お目々を更にまん丸にしながら首を傾げる⋮⋮可愛い♪ ﹁奏は責任重大だよ⋮⋮温室に行って野菜を持ってくるように皆に 伝えて。私が朝頼んだ量を倍にしてって言っといてね?覚えた?﹂ ﹃きゅ!わかりました!﹄ 1113 小さな前足を挙げて返事をする。他の眷属達も集まり目があうと 頷く。皆ホントにお利口だな。 ﹁じゃ、皆頼んだよ!﹂ ﹃﹃御意﹄﹄﹃分かりました!﹄﹃きゅ!﹄ ﹁あ、そうそう、嫁さんこれ持っててね﹂ ﹁ん?﹂ パシッと投げた薬入れを嫁さんが受け取る。奏が住みかにしてい る薬入れだ。目が覚めたら私が持っていたのでまた嫁さんに渡す。 ﹁これ奏のだろ⋮⋮良いのか?﹂ ﹁持っといてよ⋮⋮嫁さんちょっと危なっかしいから。﹂ 何かあれば役に立つだろう。もうあんな事にはさせない。前とは 違いその薬入れにはある仕掛けを施した。まぁ⋮保険だ。備えあれ ば嬉しいな⋮⋮違う違う!⋮備えあれば憂いなし!これだよ。最初 のは変な電波拾っちゃったよ⋮⋮ さぁ、気を取り直して⋮⋮準備、始めますか! 1114 ******** ついに来た。ここが朱李さんや麗春さんの家か⋮⋮何だか見たこ ともない様式だ。いや、何処かで見たような⋮⋮あ、そうか、何処 か異国の絵で見たことがある。あれは何処の絵だったのだろう。思 い出せない⋮⋮ ﹁お兄様、どうかしましたの?﹂ ﹁⋮いや、見たことのない建物だと思ってな⋮⋮﹂ この頃前以上に可笑しな行動が増えてきた妹だが、此度の事があ るため大人しい⋮⋮俺としてはいつまたあの暴走を起こすか気が気 でない。 ﹁そうでしょうね、この様式はとある国で見られる物です⋮⋮何処 なのかは分かりませんが︵私にはセレブの豪邸にしか見えないわよ︶ ﹂ マオ殿がこの建物の説明をする。やはり何処か異国の建物だそう だ。我が白の国は、他国の文化を吸収することに寛容な国だ。素晴 らしい事は取り入れる、危険な文化は為るべく広めない⋮⋮それが 白の国を大国のまま今日まで繁栄させてきた。 1115 ﹁さあ、此方ですよ。あら?﹂ ﹃⋮⋮⋮⋮﹄ ﹁そう、ありがとう。﹂ ﹁あの、麗春様いかが致しました?﹂ ﹁コウちゃんの“お友達”がコウちゃんがおもてなしを準備してい ますって教えてくれたのよ。﹂ ﹁おもてなし⋮⋮ですか?﹂ 麗春さんの言う紅蓮の“お友達”とはやはり眷属の事だろう。ま だ8歳だと言うのにもう眷属を従えている⋮⋮俺もオチオチしてい られないな。 それにても、どの様にその眷属は移動して言葉を話しているのか ⋮⋮やはりそこは妖怪故なのだろうか⋮⋮。 大きな⋮⋮城に比べればどんな建物も小さいだろう。これは大き い建物だ。その建物︱︱麗春さん達の家にはいる。 扉を開けると⋮⋮ ﹁遠路遥々よくいらっゃいました。白の国の王子様に姫様方⋮⋮そ 1116 れに黄の国より王子方も⋮⋮﹂ 扉を開けると紅蓮が膝をつき三つ指揃えていた。我が国ではその 様な例をするのは王と対面する時くらいだ。やりすぎではないか? ﹁ただいまコウちゃん。手紙通り元気そうで安心したわ。直ぐに帰 ってこなくてゴメンね﹂ ﹁いえ、お忙しかったのでしょ?﹂ ﹁もぉ、そんな他人行儀はやめてよ⋮⋮今はここに居る全員お忍び よ。普通に接してちょうだい。﹂ ﹁分かりました。﹂ 久々の親子の対面なのにこれで良いのか?特に紅蓮は九死に一生 だったのだろ? ﹁さあ、居間にどうぞ。﹂ そう言い紅蓮は俺達を居間に案内し始めた。この家が土足厳禁な 事に驚きつつ居間に入る俺達だった。 ﹁︵それにしても、マオ殿や舞子殿は何の違和感なく受け入れてい たな⋮⋮︶﹂ 1117 ******* ﹁ふぅ⋮⋮﹂ 疲れる⋮⋮。他人に気を使うのは本当に疲れる。全く、折角両親 が忙しいからと言って作ってくれた嫁さんとの二人っきりの時間を ⋮⋮許すマジ、元凶ども。 ﹁レン、レン!それ、そんなに切って⋮⋮全部食べるのか?﹂ ﹁うおっと⋮⋮あはっ?ついうっかり∼、はぁ∼﹂ ﹁︵疲れてんな⋮⋮︶﹂ あぁ⋮⋮考えもせず食材切ってたよ。疲れてんのかなぁ⋮⋮ 客人達には母さんがついてもてなしている。私はお茶とお茶請け 出してさっさとキッチンに避難した。だってイガグリが睨んでくる 1118 んですもん。イラつくよ⋮⋮何で睨むんだ?本当に解らん。 ﹁今日の献立は⋮⋮南瓜の煮付けと、何だ?﹂ ﹁ん?あ、あぁ⋮今日の献立は南瓜の煮付けに、じゃがいもとベー コンの炒め物、竹の子の餃子に、南瓜のスープ、温野菜のサラダか な。﹂ ﹁⋮⋮ちなみにサラダの野菜のチョイスは?﹂ ⋮⋮ホントに野菜嫌いだな。 ちなみにサラダに使う野菜はレタスとブロッコリー、ニンジン、 キュウリだ。しかもキュウリ以外皆蒸す。その方が嫁さんは食べや すいと言って食べてくれる。これは前世から変わっていない。 ﹁まだ、ま・だ・!蒸した野菜は食べれる。﹂ ﹁うんうん、好き嫌いせず誰しも食べることは良いことだよ。﹂ ﹁⋮⋮悪かったな、野菜嫌いで︵ ̄へ ̄︶﹂ そうやってちょっとからかうだけでいじけるのが可愛いって言わ れるんだよ?気付きなよ、散々私には鈍いとか言って。結構嫌がら せ受けてたんだよ?知らないうちに居なくなったけど⋮⋮ そうそう、前世で私がジンと結婚したのが気に食わなかったどこ ぞのお嬢さん方が陰湿な嫌がらせをしてくさりやがった⋮⋮オホン ッ⋮⋮えっと、嫌がらせをしてきたんだよ。定番の画ビョウトラッ プ、家の前に仔猫、大量の虫ギフト、階段バンジー︵紐無し︶、何 1119 故か盗撮︵着替え中のブラ一枚︶、いやぁ⋮⋮色々されましたね。 結婚しても大学には最後まで行きましたよ。勿体無いし。 画ビョウは大学生だったから靴に⋮⋮何てのは無かったけど、数 分目を離した隙に教科書に仕込まれた時は⋮⋮相手の知能を疑った よ。だって、モロ分かりなんだもん。教科書一面に画ビョウ刺して ればそりゃ分かるでしょ、触らずとも。あ、画ビョウもあったけど、 カッターの刃もあったね。それもモロ分かりで、丁度いいカッター の刃の補充になったよ。教科書にただ挟むだけって⋮⋮ねえ? 勿論、その犯人は目撃者の証言によりシバキ⋮⋮いや、反省して 弁償してもらったよ教科書。 それと家の前に仔猫、あれは正気を疑った。まだ臍の緒が取れて いない生まれたてのホヤホヤ⋮⋮親猫に祟られるだろうね犯人。で、 放置なんて出来ないので、大学生サボって動物病院。その子達が可 愛いの何の⋮⋮三毛猫とグレーの虎猫と赤虎のクリクリお目めの⋮ ⋮いやぁ⋮可愛かった。その子達は生まれたばかりで寒空の下何時 間か放置されていたのでちょっと風邪を拗らせ何週間か病院の御世 話になっていたけど、無事退院して我が家の子になった。ジンが溺 愛してたよ。 で、犯人は根性と気迫と脅し⋮聴き込みで判明。ソイツもシバキ ⋮オホンッ⋮反省してもらい、治療費を貰った。フッ⋮子供に手を 出す奴は許さねぇ⋮⋮ゲホン⋮⋮ 大量の虫ギフトは別に何ともなかった。実はあれジンが開けちゃ って⋮⋮青い顔してたよ。田舎モンを舐めちゃいかんね。虫何て何 処にでも居るんだよ。台所、トイレは当たり前。草の繁みに蛇が居 1120 るなんて日常茶飯事、虫ごときで驚いてたら生きてけねぇよ。ちな みに虫の種類は芋虫⋮⋮それもアゲハの幼虫。都会じゃあまり見か けない黄アゲハの幼虫だったのだよ。皆黄アゲハの幼虫見たことあ る?私よく見てた。蜜柑とか山椒の葉によく居るよ。後、セリとか ニンジンの葉にも付くね。農家には害虫扱いされるのよ。 で、その黄アゲハの幼虫何だけど、見た目はあの緑の目ん玉模様 の芋虫じゃなくて、黄色と黒の縞模様の見た目的にはお世辞にも綺 麗とは⋮⋮言えんな。見た目蛾の幼虫だもの。でも、そんな事私関 係ない。見慣れてるし。それで、それをジンに言うと、 ﹁へ∼⋮これが⋮⋮﹂ ﹁もっと小さかったら違う色してんだよ。生まれたては確か鳥の糞 に擬態して茶色いんだよ。﹂ ﹁へ∼⋮これがこの色になるのか⋮⋮﹂ ﹁そ、この前にも違う色してたかも知れないけど、ソコまで詳しく ない。よく見るあの緑の目ん玉模様はナミアゲハ⋮⋮だったかな?﹂ ﹁ちょっと見てみたい⋮﹂ と、言うから⋮⋮調べましたよ。その幼虫の餌を。箱一杯に詰め とくことも可愛そうなので段ボール数個に数匹入れて、幼虫が餌に していそうな蜜柑の葉、山椒の葉、セリの葉、ニンジンの葉とあら ゆる可能性の有るものを試してみて、ニンジンの葉であることを突 き止めましたよ。 そして、蛹になった蝶は見事黄アゲハでした。 蛹から出てくる前に、蝶を放す環境を探した。温室があるとある 1121 お宅で⋮⋮実はミケの家何だけど、ソコに放して貰った。蜜柑の木 が多くあって花も豊富、この世代はココに放して後の世代は自然に 還すことになった。生態系を崩さず、農家の居ない山奥を見つけて 放してくれるとの事だ。有り難やミケのお父さん。太っ腹! ちなみに⋮⋮このギフトをくれた送り主にはアゲハ群れを見る私 とジンのツーショット︵ミケ撮影︶を贈った。これはミケの提案。 効果は抜群だった。その子発狂して白い目で見られてた。自爆だな。 最後の階段バンジー︵紐無し︶は右手首の骨にヒビが入った⋮⋮ 一番被害が大きかった。一ヶ月は右手が使用不可で苦労⋮⋮はあま りしていない。強いて言えば⋮⋮ズボンとか服を着替えるときジン の手を借りることになった事くらいかな?私左も使えるし。 受け身って大切だね。中3の時授業で柔道とっといて良かった。 強くないけど受け身はとれたから。 犯人は御礼参り⋮⋮殴り込み⋮ゲホン⋮⋮まぁ⋮行こうかと思っ たら、いつの間にか平謝りされて不完全燃焼だったよ。何があった ?青い顔して⋮⋮ホントに。 ﹁おい、トリップすんなよ。戻ってこい。﹂ ﹁うぁえ?何だっけ?何の話だった?﹂ ﹁相当疲れてんな∼﹂ 1122 はっはっは∼⋮⋮そりゃね。昔の事思い出してたら何かどっと疲 れたよ。何だよこの疲労感は。 1123 暗雲立ち込め︵後書き︶ 伊達に嫌がらせを小さい頃からされてませんよ、なベルさんもと い紅蓮でした。最後が語られなかった盗撮写真はジンさんによって 葬られました。犯人と共に⋮⋮。犯罪は犯しておりませんよ。 アゲハの話はベルさんの記憶は曖昧なので適当です。間違ってい るのでご注意下さい。 1124 洒落た料理は出来ません︵前書き︶ 1125 洒落た料理は出来ません どうも、皆様。紅蓮で御座います。今日は我が家の晩の献立を紹 介したいと思います。ですが生憎と洒落た物は作れません。だって ただの主婦だっだのですからね。 ﹁この大量のジャガイモどうすんだよ﹂ ﹁使い道はあるから良いよ。明日のおかずにでも使うし。﹂ さて、今日は南瓜の煮付けを作ります。  ̄ー ̄︶﹂ ︶﹂ ﹁甘いのが好きだな⋮甘い南瓜の煮付け⋮︵ ﹁はいはい、分かってるから。︵>д< 先ずは南瓜を切る⋮⋮今日はもう切ってある。南瓜をホクホクに したいなら切った南瓜を天日干しすると水分が蒸発して少しホクホ クになるよ。大体⋮⋮二時間位は干しとくと良いかも。目安は解ら ん。外に出しとくのがイヤッって人は冷蔵庫に入れとくと良いかも ね。目安は自分で確かめてくれ。私は解らん。適当だ。 ﹁お前⋮それでいいのかよ﹂ ﹁これで良いのだ。大体の事は適当でも出来る。お菓子はダメだけ ど。それに、失敗を参考にしてアレンジしているんだから大丈夫。 体に染み付いてるから感覚が。﹂ ﹁俺みたいに初っぱなからアレンジしてないから⋮か?﹂ ﹁うん。大体の失敗は作った事ないのに勝手にアレンジするからだ よ。﹂ ﹁未熟者がアレンジすると悲惨だよな﹂ 1126 ﹁そうだね⋮⋮料理名と見た目を知らないパターンが有るけど、分 からないなら分からないならと認めることも大事だよ。﹂ 認めることは料理に限らず大切だけどね。さてさて、南瓜だけど、 適当な大きさにカット、皮は堅いから所々薄く削っとくと良いよ。 後は長年の勘で味付けして煮込む。レシピが知りたいならググって ね。その方が確実だから。で、煮込んで柔らかくなったら⋮⋮汁を 半以上捨てる。そしてまた焦げないように煮込む。ホントはキチン としたレシピがあるんだろうけど、これが我が家の南瓜の煮付けで す。 ﹁材料は南瓜と醤油、酒、砂糖、塩。で良いのか?﹂ ﹁家のはね。﹂ ﹁ホクホクにするポイントは?﹂ ﹁切った南瓜を天日干しすること、ある程度柔らかくなったら汁を 捨てて粉吹き芋見たいに水分を蒸発させること。﹂ ﹁フムフム⋮⋮あ、レシピ帳に書いてるな﹂ 私が残したレシピ帳に書いていることを確認する嫁さん。結構分 厚いそれはまるで魔術書の様に見えた。 ﹁注意点があるとすれば⋮﹂ ﹁“焦げ付かないようにする、汁を心持ち濃い目にする。”だな。﹂ ﹁そ、汁を捨てるし、味が染みるまで掛かるからね。まぁ、私のレ シピ参考にするのはあまりお薦めしないな。﹂ ﹁俺はお前の味付け好きだけど⋮どうしてもその味が出せない。﹂ そりゃそうだろう。レシピだけじゃその味は出せない。事細かく 1127 書かれたレシピなら再現出来るだろうけど、私の料理は分量が曖昧 だ。それは全て料理を教わったのが母親だからだろう。教わったと 言っても、目で見て覚えたと言う方が正しい。だから最初は必ず失 敗する。 ﹁ん、背中を見て育つってやつだな。﹂ ﹁そうだね、あるいは盗むに近いかも。﹂ そうそう、人によってはと、言うよりも私の方が珍しいのかな。 醤油は入れないのもあるのです。 ﹁で、このジャガイモは?﹂ ﹁はいはいジャガイモね、﹂ ジャガイモは千切りにしてフライパンで炒める。少し炒めたら少 量の水を入れてベーコンを入れ今度は煮る。醤油、塩、胡椒、コン ソメスープの素で味付けして煮込んで完成。 ﹁フムフム⋮⋮コツは?﹂ ﹁特になし⋮⋮あ、ちゃんと火が通ったか味見してね。﹂ ﹁⋮⋮次は?﹂ 次は⋮⋮⋮む。食材を出していなかったな⋮ 冷蔵庫を開けて材料を取り出そうとする。が、 1128 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁おい、どうした?何処か悪いのか?休むか?﹂ ﹁ん?いや、ちょっとね。材料が⋮⋮無い。﹂ ヤバイな⋮⋮てか、竹の子の何処行った!?確かココに仕舞って た筈なのに⋮⋮Why? え?ホントに何処? ﹁犯人は誰だ?﹂ ﹁どの材料が無いんだよ?﹂ ﹁竹の子が無くなってる⋮⋮茹でたのを水を入れた器に入れてたの に⋮⋮Why?﹂ 無ければ無いで仕方無い。プラン変更。餃子も止めよう。餃子の 皮も無くなってる⋮⋮誰だよ⋮⋮。しまいには作りおきしていた南 瓜のペーストまで無い。南瓜のスープは無理だな。今から作るのめ んどいし。 こんな時は簡単なポテトサラダを作ろう。スープはマミィ特製イ ンスタント︵スープ自体は紅蓮作︶で良いや。サラダ何だけど、食 べごたえあるし、今日はこれで乗り切ろう⋮⋮。後、申し訳程度に 豚バラの大根おろしのダレで冷しゃぶ風のおかずも出そう。あぁ⋮ 貴重な豚バラ⋮仕方無いか。 そうと決まれば冷蔵庫から食材を取り出す。おろしダレは作りお きしている。マヨネーズも。作りおきしといて良かった⋮⋮。あ、 1129 この冷蔵庫は説明したか忘れたけど、母さんが作りました。どんな 仕掛けか時間が止まっている様だ。物が腐らないのだ。ポーチと同 じ作りなのか?今度どんな作りなのか聞こう。 嫁さんにニンジンをイチョウ切りをしてもらう。とても嫌そうだ が、私は妥協しない。ポテトサラダにニンジンを入れると色が映え るんだよ。ニンジン切ったらを茹でてもらい、私はジャガイモを茹 でるため鍋を火にかける。ジャガイモを茹でている間にキュウリを 輪切りにする。魚肉ソーセージを本来は入れるのだが⋮⋮無いので 無し。 切りながら思う。この世界はホントに有るものと無いものの差が 有りすぎる。私達が日頃食べていた野菜は品種改良を施されたのが 殆どだ。なのにこの世界には当たり前のように存在する。ホントに どうなってんだか。まぁ、有るならいいんだけど。考えるのが面倒 になってきたので意識を料理に集中することにした。 料理に集中して二人とも無口になっていた。その甲斐あったか順 inマミィ︶を溶かして出すことにした。手抜 調に料理が出来ていった。南瓜のスープは急遽家に有ったポタージ ュの素︵Made きだ。認めよう。 ﹁終わった∼!﹂ ﹁お疲れ∼。時間には間に合った。口にあ合うか解らないけど。﹂ 日頃豪華な物を食べている人達に素朴な料理が合うか解らない。 1130 でも合わなければ合わなくてもいい。一口も手をつけずに残すなら カチンと来るけど。 料理に対する皆の反応は面白かった。 ﹁これは⋮⋮⋮﹂ 見たことのない料理に困惑する筆頭侍女。 ﹁なんと言う料理名なんだ?﹂ 食べたいのかウズウズしながら質問する兄王子。 ﹁ポテトサラダですわ。﹂ あっさり答えるミケ改めマオ嬢 ﹁ぽてと?⋮さらだ?﹂ まだ眠そうながら食べ物の匂いで起きた弟王子。 ﹁美味しそうですね♪﹂ 早く食べましょう⋮と言う口より雄弁な目線で語りかけてくる一 姫。 1131 ﹁⋮⋮⋮これって⋮﹂ 驚き言葉が出ない側室舞子。 ﹁⋮⋮⋮﹂ 何故か始終無言の不気味なイガグリ⋮⋮どうした? 今この家を仕切るのは母さんだ。父さんが居ても仕切るのは母さ んだが。なので今、母さんの一言で食事を始めることが出来る。イ ガグリと舞子は知らないが、他のメンバーは貴族だ。躾がキチンと されているので手を出さない。家長が言わないと食べられない。そ れが我が家のルール。頂きますを言わないと食べられない。 皆揃ってがルールなのだ。誰か︱この場合料理を作っている私︱ が、席を立っているときは待っている。そして今、私は皆にお茶を 注いでいる。母さんの趣味で作った茶畑で採れた正真正銘自家製の 緑茶だ。その他にも玄米茶、ほうじ茶、紅茶、ウーロン茶、抹茶⋮ ⋮考え付くお茶を作っている。茶摘みは専ら猿妖怪達の仕事だ。 ﹁粗茶ですが⋮⋮﹂ ﹁先程も貰いました。とても美味しいお茶ですね。﹂ ﹁此処で作られているのでしょ?さっき麗春さんに聞きました。﹂ 美味しいのは当たり前だ。母さんは灰老神に協力する報酬に創作 チートを貰っていたのだから。そうじゃなければ、この家も建てら 1132 れない。異世界を旅している時白神に色々聞いた。 母さんが創作チートでよかった。ホントに助かったよ。でも何で 料理は壊滅的なんだろ⋮⋮等価交換で料理スキルは犠牲になったの か? ﹁コウちゃんの作るの南瓜の煮付け、美味しいのよ。﹂ ﹁何だか⋮⋮黒っぽい⋮?﹂ 側室舞子が南瓜の煮付けに対してそう言った。なるほど、舞子の 家も醤油を入れない派何だね。父さんと同じか⋮⋮私の家が珍しい のか? ﹁えぇ、醤油が入っていますから。﹂ ﹁塩っぱいの?﹂ ﹁いえ、甘いですよ。醤油を入れるのは我が家の味ですから。﹂ それから母さんの﹁頂きます﹂を合図にで皆食べ始めた。結構好 評だったのがポテトサラダ。マヨネーズが皆好きなようだ。油だし ね⋮⋮やっぱり油は皆結構好きなんだね。これは食べ過ぎに注意し ないと。 南瓜の煮付けは嫁さんが殆どだ食べた。いや、皆も食べたよ。け ど、嫁さんは三回ほどおかわりしたんだよ⋮⋮今度から砂糖少な目 1133 にしよっと。 ジャガイモの炒め物は皆恐々と食べていた。見たことない食材だ と思ったみたい。この世界でジャガイモを炒める事は無いからね⋮ ⋮正体がジャガイモだと分かると箸もよく進んだ。現金だなみんな。 ﹁あ゛ぁぁぁぁ⋮⋮⋮疲れた∼﹂ ホントに疲れた。来客って気を使うから疲れが倍何だよね。 食事の後の後片付けを終えお湯に浸かって一日の疲れを取る。 湯船に浸かりながら肩を回して緊張していた筋肉を解す。僅か8 歳にして肩凝りになるとは⋮⋮私は結構なビビりだと再確認する。 虚無を張るのは慣れっこだ。もう既にそれが普通になってしまった。 ﹁はぁーー⋮⋮⋮﹂ バシャッっと顔にお湯をかけて⋮⋮何となく湯船に沈んでみる。 1134 ⋮⋮⋮この体はお湯のなかでも目を開けていられるのが凄いと唐突 に思った。前世ではアレルギー性で目が弱くとても水の中で目を開 けてなどいられなかった。水質も関係があったのかも知れない。こ の世界には水道水は存在しないから⋮⋮。 ﹁︵それにしても⋮⋮何だってあの人たちはココに来たんだろ⋮⋮ もっと安全な場所は無かったのかな?︶﹂ なんと言っても、彼等は王族なのだ。ただの金持ちとは違う。な のに母さんを頼るなんてよっぽどのことか? ﹁︵それとも⋮⋮相手に反撃するのに邪魔だったとか?︶﹂ 可能性としてはあり得そうだ。弱点になりそうな子供を一時的に 遠ざける⋮⋮何処がどう有効なのか解らないが、そう白の王が決断 したのだから何かしらメリットが有るのだろう⋮⋮あるのか? それにしても⋮⋮今まで息止めてるけど⋮⋮全然苦しくない。今 まで長く息を止めていたことがなかった⋮筈なので知らなかったが ⋮⋮どこまでこの体はチートなのだろう。 ﹁ぷはっ⋮⋮よくわからん⋮どっちもわからん。﹂ 頭の悪い私にも説明してほしいもんだが、聞いてしまうと巻き込 まれるだろうし⋮⋮あっちから言わない限り聞かないことにしよう。 私は自分の身と嫁さん、それとポチ達眷属を守る立場なんだ。無理 1135 に面倒ごとに自ら首を突っ込むことはない⋮⋮もう既に手遅れだろ うけど。 今更どうこうして遅いのでその事は思考の奥に押し込んで、明日 の献立を考える。 ﹁あ、そう言えば、肉がもう無いんだった⋮⋮仕方無い、明日狩っ てこよう。﹂ 明日の事を呑気に考えながら湯船から上がった。 お風呂から上がり麦茶を飲む。お風呂上がりの水分補給は大切だ。 冷蔵庫から出した麦茶を入れた容器をしまいリビングに向かう。私 は一番最後にお風呂に入ったのでもう皆振り当てられた部屋に引っ 込んでいた。ここ二日程私から離れなかった嫁さんが珍しくリビン グに居ない。お風呂上がりはいつもここで待っている。眷属達もい ない。多分私の部屋に居るんだろう。 そう思い母さんがしたであろう戸締まりを再度確認して私も自室 にむかった。 ﹁で?﹂ 1136 ﹁ん?﹂ ﹁⋮⋮⋮嫁さん⋮⋮今日も?﹂ ﹁うん。﹂ ﹁そうですか﹂ 自室の扉を開けると嫁さんが枕抱えて待っていた。今日も?と言 っている通り、目覚めてからずっとこんな感じだ。余程藍苺の心に ・ε・︶﹂ 傷を付けてしまったんだろう⋮⋮ホントに⋮⋮ ﹁変なことしないでよ∼︵ ﹁誰がするか!俺は幼児趣味じゃない!︵*`Д´︶ノ!!!﹂  ̄▽ ̄︶﹂ ﹁その言い方だとある程度成長したら襲うって意味? ちょっと私 距離起きたくなってきた⋮︵ ﹁は、はぁ?何でそうなる!?えちょっ、明らさまに避けるな!悲 しくなるから!!Σ︵ ̄□ ̄;︶﹂ 確かに嫁さんの心に傷を付けたのは認める。けど、からかうのは 譲れない。微妙な加減をしているので大丈夫だろう多分。でも、あ る程度成長したらホントに襲うかもしれない⋮⋮何せ、前世ではロ ールキャベツ男子だったのだ。侮ると痛い目に遭うだろう絶対に。 なので話をここでずらす。深追いは危険だ。 ﹁そう言えば、王子達味の好み庶民的だったね。私の作るの料理っ て普通の家庭料理だし。それとも我慢して食べてたのかな?﹂ 1137 強引でも逸らせば余程のことがない限り追求してこない事は知っ ている。なので多少強引に逸らしてしまおう。そう思い逸らす為の 話題に夕食の事を話すことにした。すると嫁さんは︵; ̄Д ̄︶? な顔で此方を見てくる。この顔は失礼じゃないか? ﹁あれだけお代わりしてるのに我慢して食べてル訳ないだろ。レン は昔から自分に自信がないな。自信持てよ。お前の料理は美味しい って。﹂ 少し恥ずかしくなったので適当に流した⋮⋮筈なんだが、嫁さん のニヤニヤが止まらない。これが因果応報か⋮⋮ 少し頬が熱かったのは秘密だ。 1138 謝罪は要らん︵前書き︶ 賛否両論、舞子関連の話題です。 ちょっと紅蓮が辛口です。 1139 謝罪は要らん ニヤニヤ顔の嫁さんの攻撃を避けつつじゃれているとコンコン⋮ とドアをノックする音かした。どうやら誰か訪ねてきたみたいだ。 はて、誰だろ。 ﹁誰?﹂ ﹁私よ紅蓮。話があるの。入ってもいい?﹂ 母さんが訪ねてきた様だ。何か話でもあるのだろう。夕食後は色 々あって話をする機会がなかった。 ﹁母さん入れても良い?﹂ ﹁ここはレンの部屋だろ。好きにしろよ。﹂ 嫁さんの許可も貰ったのでドアを開けることにする。それに、ど うやら母さん以外にも居るようだし。 ﹁大勢でどうしたの?﹂ ﹁あら、気が付いた?﹂ ガチャリとドアを開けると母さんがマオと舞子を連れて立ってい た。これは大変だ⋮⋮前世関係で話が有るのかな? 1140 ﹁どうぞ、狭いところだけど﹂ ﹁そんなことないわよ。私が広めに作ったんだから︵笑︶﹂ ﹁挨拶みたいなもんだよ。﹂ ﹁ふふふ、分かってるわよ♪ あら、ランちゃんここに居たのね♪ ごめんなさいねお邪魔して⋮﹂ ﹁別に邪魔じゃない。﹂ ﹁そんな所で立ち話してないで早く部屋に入りなよ。﹂ ﹁おじゃまします♪﹂ ﹁お邪魔します⋮﹂ ﹁それじゃお邪魔するわ﹂ 話があるのはどうやら舞子の様だ。話をする前に床に直に座らせ るわけにもいかないので座布団を出して座るように勧める。客人二 人は母さんの隣の両側に座り私と嫁さんと向かい合った。 ﹁コウちゃんの部屋を訪ねたのは舞子の事についてと、私の事よ。﹂ ﹁後、私の事もね♪﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 1141 ふむ、話には聞いていたけど、凄い変わりようだね舞子。私は正 気に戻った!ってヤツかね? ﹁その⋮⋮⋮ごめんなさい!!﹂ 今まで黙っていた舞子がいきなり謝ってきた。 ﹁⋮⋮それはどういう意味の謝罪?私に?それとも藍苺に?﹂ どうして謝罪しているのか、その理由も無しに謝られても⋮⋮正 直心に響かない。私って冷酷・冷徹・残酷って言われてるからね⋮⋮ ﹁︵ココウちゃん、容赦ないわね⋮︶﹂ ﹁︵う、うわぁ⋮怒ってる⋮⋮凄く怒っていらっしゃる⋮⋮︶﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁あの⋮⋮﹂ 母さんは少し呆れ気味、マオは知らん多分唖然何じゃない?嫁さ んは無表情で無言。舞子はしどろもどろで戸惑っている。そんな謝 罪で許されるとでも思っていたのか? ﹁どんな事をして、相手が傷付いたか理解して、自分はどうするべ 1142 きか。今後どうするかを話して謝罪しないと相手には伝わらないこ ともあるよ。それに、私に謝罪してるの?藍苺にしてるの?﹂ ﹁あ、⋮⋮⋮っ⋮﹂ ﹁泣けば済むモンじゃないでしょ。それに私達に謝るより他に謝ら ないといけないんじゃないの?﹂ ﹁う、でも﹂ 私が言いたいのは⋮⋮子供を無くした母親には謝ったのかってこ と。多分直接は謝って無いと思う。私なら絶対に許せないから。地 獄の果てまで追い掛けて殺すだろうね。 ﹁でも?﹂ ﹁許してくれないよ⋮⋮っ﹂ それってさ⋮⋮ ﹁それって、私達なら許してくれると思ったの?﹂ 母さんが許した手前私も⋮⋮仕方ないから許す。でも、それは私 だから。自分で勝手に嫁さんの呪詛を肩代わりしただけ。私の命に 関わる被害はそれだけ。それに、実際は黄童子の仕業だったし。 1143 でも、藍苺は実際に舞子の掛けた呪詛で死にかけた。嫁さんが自 分で破ったらから良かったものの⋮⋮実際、黄の王の庶子が呪詛で 亡くなっている。 だから、母親の立場ではホントはこう言いたい。﹁それでもアン タは母親か?﹂と。 ﹁私に謝っても無駄。もっと謝らないといけない人が居るでしょ。﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁コウちゃん⋮⋮﹂ ﹁ねえ、母さんが子供を殺されたら⋮どうする?﹂ 酷い質問だと思う。けど、これでヘコたれるなら他に謝るなんて 無理でしょ? ﹁そうねぇ⋮殺すわ。犯人を。﹂ その一言に舞子は肩を震わせた。いくら変な術に掛かっていたと しても、それは知らない人から見れば関係ない。 ﹁⋮⋮﹂ 1144 ﹁藍苺は?どうする?﹂ ﹁確かに子供を殺されたらそうしたくなるな。でも今回の謝罪はど うでもいい。﹂ 割りと簡単に答えた。そうだろうと思ってたよ。あんまり頓着し ないからね自分の事は。 ﹁勘違いするな。赦すじゃない。どうでもいいんだ。﹂ これは⋮⋮赦さないより質が悪い。いくら謝っても関心がない⋮ ⋮私なら辛いよ。 ﹁まぁ、どうともしないから勝手にしろよ。﹂ ﹁当事者の藍苺が良いなら私はもう何も言わない。だから、﹂ ここは釘を刺しておく。 ﹁これ以上私達に関わるな。またこんな事があれば⋮⋮﹂ 殺す。口には出さないが私の言いたいことは伝わったようだ。と ても青い顔をしている。 ﹁分かった?﹂ ﹁は、はい。分かりました!﹂ 1145 よし。この話はこれで終わりだ。 ﹁なら、この話は終わりだね。﹂ 終わったことはさっさと忘れる。それが生きてく上で大切だ。な ので話題を変えようとする。 ﹁え?﹂ ﹁そうね。じゃ、私の話よ。﹂ 戸惑う舞子を置き去りにドンドン話を違う方に変える。思い空気 を変えるため母さんも協力的だ。 ﹁ドウゾドウゾ∼﹂ ﹁あ、私お菓子持ってきたのよ♪﹂ マオ嬢も乗って来た。締めは頼んだよ。 ﹁この時間に食べるのか?太るぞ﹂ ﹁ふーん、そんなこと言って自分だって食べてたじゃん♪﹂ よし。空気はほのぼのに変わった⋮⋮筈。 マオ嬢の持ってきたお菓子をポリポリ食べながら母さんの話に耳 を傾ける。ちなみにお菓子は芋けんぴだ。 1146 ﹁では、オッホン⋮⋮私は朱李と一緒に死んだの。あまり覚えてな いけど⋮⋮でも一緒だったのは覚えているのよ。それで、今の私に 産まれたの。私の実家は黒の国の貴族。でも私って末っ子で⋮⋮誰 も私を見てなかった。﹂ うむむ⋮。母さんの生い立ちはシリアスだ。 ﹁でも、何故か朱李も近所に住んでいて⋮⋮5歳の時出会ったのよ。 その時は⋮⋮嬉しかった。けど、それと同じくらい悲しかったわ。 朱李まで死んでしまったってことでしょ?﹂ 確かに⋮⋮私もジンが亡くなり藍苺として転生したと分かった時 は複雑だった。また会えて嬉しい半面、ジンには長生きしてほしか った。 ﹁その時はね、似非神とはまだ面識はなかったのよ。でも朱李が﹁ ここは私達とミケが作ったゲームの世界なんだ﹂って言い出したの。 始めは⋮⋮信じなかったわ。転生したのだけでも信じられないのに、 ゲームの世界に居るだなんて⋮⋮でも、私も朱李も名前に聞き覚え があった。﹂ ﹁それでまたどうして黄の国何かに行ったの?﹂ 母さんは苦笑いをしてポツリと言った。 ﹁心の何処かでこれは夢だって思ってたの。黄の国に行ったのもゲ ームとは違うって思いたかったからなのよ⋮⋮でも、謂れのないこ 1147 とで朱李は弁解の余地なく⋮⋮封印されたわ。そして私は朱李を盾 に取られて後宮に。その後はあなたが知っている通りよ。﹂ ﹁前から思ってたんだ。何で取り返さずに後宮に残っていたんだ?﹂ 嫁さんが私も疑問に思っていた事を聞いた。母さん程の妖怪なら、 取り戻すなんてわけないだろう。 ﹁そうねぇ⋮、あの陛下からなら簡単に取れるでしょうね。けど、 あの時は⋮黄色い悪魔に邪魔されてたのよ。﹂ 黄色い悪魔とは黄童子の事だよね? 1148 謝罪は要らん︵後書き︶ ただ謝られても自分が何に対して怒っているのか、何が悪かった のか言われないと、或は理解せずに謝られても⋮⋮ピンと来ない紅 蓮でした。 私も頭がこんがらがっている。︵;´д`︶ 1149 やっぱり通常運転なマミィです︵前書き︶ 紅蓮の母親麗春さんの生い立ちをちょこっと。 皆様お読みいただき感謝しますm︵︳︳︶m 1150 やっぱり通常運転なマミィです どうなっているの!?力が半分も使えない!? 朱李を閉じ込めた水晶を盾にされるが、ただ捕まるわけがない。 だが、何故か妖力が何かに封じられている違和感を感じた。まさか、 この女ったらしにこれ程の芸当出来ない筈。誰の仕業かしら。 ﹁コイツがどうなっても良いのか?﹂ 気色悪いニヤケ顔で朱李が封じ込められた水晶をこれ見よがしと チラつかせ私を脅す。 ﹁お前がどうしても後宮に入るならコレを砕かないでやる⋮⋮どう する?﹂ まさか、朱李が、チートなら私より上の朱李が意図も簡単に封じ られるなんて。それにさっきから力が出せない! 力が出せるなら こんな馬鹿、朱李曰くKY殿下何かぶっ飛ばすのに。 ﹁︵今は我慢⋮⋮我慢よ私!!︶﹂ ニヤケ顔を直さないKY殿下は黙っている私の手を掴みグイグイ 1151 引っ張って歩き出す。何勝手に手を掴んでるのよ気持ち悪い! ﹁︵しおらしいな︶﹂ ﹁︵気安く触んじゃねーわよ!︶﹂ ホントにコイツいつか絞める。絶対絞める!! そして、私は後宮に入ることになった。 しかも、名で縛られ身動き取れなくされて。でも、こんなおバカ さんに私を縛る事なんて出来ないのには気がついてなかったみたい ね。何処までも詰めが甘い。それに、麗春は本来の私の名前じゃな いから。 お養父さんには悪いことをしたわ。その8年間私の事で苦労させ てしまったから⋮⋮ 1152 ﹁そしてあなたが生まれのよ。コウちゃん。﹂ 何て言うか⋮⋮予想通りのお馬鹿なKY陛下だったね。てか、そ の時から母さんの怒りを買っていたのか⋮⋮8年間も良く我慢して たね母さん。 チョコチョコウサ晴らしもしてたけど、バレない程度に。 ﹁で、私の部屋に入ろうとして私の眷属達に返り討ちにあってたの よ。﹂ 馬鹿である。KY陛下は真の馬鹿である。父さんが封印されてい る水晶を盾に取られても母さんが全てに従うことは無い。8年間親 子として接してきた私には何となく分かる。絶対母さんは従わない。 水晶を壊すと言えば﹁ならテメェの命も無い﹂とか本気で言いそう。 てか、絶対言う。 ﹁あ、だからKY陛下は私が産まれてから来ないのか。﹂ ﹁えぇ。﹁来たらテメェの命は無い﹂って言ったら来なくなったわ ♪﹂ 流石である。 1153 ﹁流石私の母親。出来ればもう少しトラウマに成る程痛め付けてれ ば良かったのに⋮⋮﹂ ﹁さらっと怖いこと言うなよお前⋮⋮﹂ だって、そうしとけば毒で苦しまなくても良かったもん。あ、あ の件はまだ完全に許してないよ。 ﹁まぁ、今アイツ不能だから清々してるけどな。﹂ 嫁さんの言っていることも大概である。 ﹁そうね♪ざまぁ∼よね♪﹂ ﹁︵こ、怖い。私はこんな人達を敵に回してたの?︶﹂ さっきよりも一層青ざめた舞子と目が合うが⋮直ぐに逸らされる。 あ、もしかしてさっきの事がトラウマになってる? ﹁それで私は後宮で朱李奪還の機会を伺っていたのよ。コウちゃん は手のかからない子だったから助かったわ。﹂ 昔を懐かしむ母さんは遠い目で窓の外を見つめた。私が生まれて もう8年も経ったんだ。早いもんだね⋮⋮私的には異世界旅行も含 めるとエライ年月が経ったように感じる。 1154 ﹁あなたが生まれてすぐの頃⋮⋮似非神⋮もとい、灰老神が私に接 触してきたの⋮⋮ 疲れたのかグッスリ眠ったコウちゃんを腕に抱き、ぷにぷにのほ っぺたを触っていると、不意に何処かから視線を感じたの。 最初は﹁また側室共が刺客でも差し向けてきたか?﹂と思ったん だけどね⋮⋮不自然に周りの音が消えたの。それに周りの色も無く なって白黒になっていて⋮⋮まるで私だけが時間が動いているよう だった。あ、コウちゃんもちゃんと動いてたわよ? ﹁な、何?﹂ ﹃すまんの∼。ちょいと知り合いの上位神に時を止めてもらったの じゃ。お主に話があってな⋮⋮﹄ 私は幽霊を見たと思ったのよ。だって、天井からすり抜けてゆっ 1155 くり降りてきたのよ。しかも、始終浮かんだままで。 完全に不審者確定よね? ﹁オッホン!⋮⋮ワシ、お主の考えてることが分かるからの?ワシ は断じて不審者ではない。ちぃとばかし厄介事を持ってきたんじゃ ⋮﹂ 私は⋮⋮枕をぶん投げた。不審者に。 ﹁ブァフゥッ!!﹂ 綺麗に不審者の顔面にヒット。舐めんじゃないわよ。こっちは1 0歳頃からチンピラと渡り合ってきたのよ。こんな不審者に遅れは とらない。外見が老人だったから枕で済んだけど⋮⋮そうじゃなか ったらトラウマ植え付けてたわよ! ﹁すまん⋮⋮じゃからもう投げんでくれんか?﹂ 情けない顔で言うもんだから仕方なくやめたの。今思えばもっと 投げとけばよかったわ。 ﹁︱︱︱︱︱︱︱と、言うことなんじゃ。﹂ 1156 ﹁じゃあ、私や朱李を転生させたのは貴方なの?﹂ ﹁う、うむ。﹂ ﹁しかも、この子⋮紅蓮は同じ転生者で、ゲームで紅蓮を演じたベ ルさんなのね?﹂ ﹁そ、そうじゃ⋮﹂ 灰老神と名乗った神の胸ぐらを掴んで問い詰める。青い顔でポツ リポツリと話す灰老神は驚愕の真実を話した。ベルさんが亡くなっ た⋮?なら⋮⋮もしかして⋮⋮ジンさんも? ﹁その賭けの相手は⋮⋮ベルさんを殺したの⋮⋮?﹂ ﹁間接的にな⋮⋮。ワシはそんなことしとらんよ。死んでしまった お主らを人格をそのままの転生させたのじゃ⋮⋮賭けをしとる時点 で同じじゃがの⋮﹂ どこか自傷気味に話すのは構わないけど︵ちょっと罪悪感があっ たけど︶、私はベルさんが紅蓮に転生しているなら、藍苺は⋮⋮⋮ ﹁まさかじゃよ。あやつめ、似た魂が見つからないからと地球の魂 を無断で死なせ、この世界に転生させよった! 下手すれば人格破 綻になったかもしれんぞ。﹂ 1157 そして、ジンさんが藍苺に転生したのを知った。 ﹁そんなことがね⋮⋮﹂ポリポリ⋮ ﹁︵麗春さんの前世って誰だ?まだ記憶が万全じゃないのか⋮⋮︶﹂ モグモグ⋮⋮ ﹁えぇ。それにあなた達の亡くなり方は惨いから⋮⋮記憶を封じた らしいの。でもそれが外れ掛かってるって言ってたわ。コウちゃん に限っては完全に解けてるしね。﹂ ﹁うん。目が覚めたら解けてた。︵ホントは旅の途中で何だけど⋮︶ ﹂ この事はもう少し黙ってよう。何となく⋮⋮ね。 ﹁それで、コウちゃんがある程度大きくなって一人にしても大丈夫 1158 かなって思える年齢になってから後宮を抜け出して色々暗躍してた って訳。動けない時期は眷属の皆に食料品とか持って来てもらって たのよ。﹂ ﹁え?後宮で出るでしょ?﹂ ﹁舞ちゃん、女の戦場で出される料理何て毒その物の様な物よ?食 べるのは自殺行為。特に渡りの無い側室なのに陛下に気に入られて いるならね。﹂ ﹁そうそう。毒を盛る何て日常茶飯事、酷いときは連日刺客のフル コースだよ。特に昼も夜も関係なく来るからね⋮⋮人気ながない場 所だから尚更⋮⋮﹂ ﹁凄まじい生活だな。自分がどれ程恵まれてるのか分かるよ。﹂ ﹁そ、そんなに?⋮⋮知らなかった。そりゃ、私だって⋮その。虐 めはあるだろうなって思ってた。けど、やっぱりここは私の居た世 界じゃないんだね。﹂ 舞子は今頃自覚したようだ。あの様なぬるま湯に浸かってるよう な場所に居たらそりゃ分からないだろうね。皆守ってたから。 ﹁あのさ﹂ ﹁は、はい!﹂ 私に話しかけられビックリしながら返事をする。まるで居眠りを 指摘されて驚いた様に見えて笑えた。 1159 ﹁ずっと謎だったんだけど⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮はい。﹂ ﹁あのKY陛下のどこがいいの?﹂ 舞子以外の全員がコケた。おい、大事なことだろ?え?違う?⋮ ⋮︵;・ω・︶ ﹁ど、どこって⋮⋮何処だろ?﹂ 今度は私を含めコケた。コントでもしてるのか?私達は。 ﹁好きじゃないのに側室自らなったの?﹂ ﹁物好きだな﹂ ﹁当時の事はあまり覚えてないのよね⋮⋮何であんな女たらし選ん だんだろ⋮⋮?﹂ ﹁この話題あまり面白くないから次行きましょ、次。﹂ ﹁麗春さん⋮⋮︵面白くないって⋮⋮変わってないなぁ︶﹂ 実際にKY陛下の話題など面白くないって。母さんの言ってるこ とも分かるよ。 1160 やっぱり通常運転なマミィです︵後書き︶ 麗春はKY殿下に﹁死の宣言﹂! KY殿下は﹁死の宣言﹂が掛かった!カウント9 麗春はKY殿下に﹁脅す﹂! KY殿下に麗春の﹁脅す﹂! 効果は抜群だ! KY殿下は﹁脅す﹂で怯えて動けない。カウント8 刺客からの妨害、ポチが10のダメージ。あまり効果はないよう だ。 麗春の怒りのボルテージが上がった! 紅蓮の怒りのボルテージも上がった! 麗春は﹁怒りの一言﹂!麗春の怒りのボルテージが上がった! 援護攻撃!紅蓮の﹁あなたは誰ですか?﹂! 豆腐メンタルのKY陛下に1000の大ダメージ!! 1161 KY陛下は落ち込んで反撃できない。 麗春は﹁我慢﹂! 怒りと闘志が上がった! 紅蓮は﹁我慢﹂! 怒りと闘志が上がった! ポチは尻尾を振った。紅蓮の心が癒された! KY陛下は紅蓮に﹁邪魔物は要らぬ﹂!死の宣言カウント7 紅蓮に死の宣言カウント5 皆の怒りのボルテージが上がった!︵笑︶ 麗春は﹁万能薬﹂を使った。紅蓮の死のカウントが消えた。 麗春の怒りは臨界点になった!麗春は﹁返してもらうわよ!﹂を 発動!KY陛下に精神的に5000の大ダメージ!! マゾ 援護攻撃!コンボ発動!紅蓮と藍苺の﹁この人加虐趣味?﹂!! 効果は抜群だ! 麗春の﹁堪忍袋の緒が切れた!﹂発動! KY陛下の死の宣言が カウント1になった! 1162 援護、紅蓮の﹁違う方法﹂!事態は悪化した! 麗春は﹁怪しい薬︵危険︶﹂! KY陛下は﹁怪しい薬︵危険︶﹂を飲んだ。不能になった。効果 は抜群だ! KY陛下は100000の大ダメージ⋮⋮ライフはゼロになった。 目の前が真っ暗になった。 大体こんな感じ。だと思います。m︵︳︳︶m 1163 混乱には音爆弾︵前書き︶ 1164 混乱には音爆弾 舞子の謝罪からはじまり母さんの生い立ちを聞き、その他にも色 々話した。嫁さんは始終居心地悪そうにマオ嬢が持ってきたいもけ んぴ︵何故チョイスが芋けんぴ?︶をポリポリモグモグ食べ続けて いた。 その後は母さんの生い立ちからマオ嬢の生い立ちに話は変わった。 マオ嬢こと、ミケはかなり前から内に秘めていた謝罪を始めた。 ﹁私ね⋮⋮知ってたの。皆が違う世界に逝ってしまうこと⋮⋮ある 日夢に真っ白な人が出てきてね、ベルとジンにそっくりな人達が⋮ ⋮死んでいく夢だったの。その真っ白な人がこう言ったのよ﹁これ は未来に必ず起きることだ。この世界でないどこかで⋮﹂。色んな 結末の⋮⋮んな夢を三ヶ月見続けたのよ。ホントに気が滅入るって の。﹂ 少しあきれ気味に話すミケ⋮⋮マオ嬢は話し続ける。三ヶ月も同 じ夢を見続けるなんて⋮⋮気が滅入るよね。 でも、それって⋮⋮ゲーム作る前のことなの? ﹁その夢を見るようになって⋮⋮その時かな。真っ白な人が今度は 1165 こう言ったんだ﹁物語として描けば良いのではないか?﹂何てね。 だから、夢のせいで苛々してたし気晴らしに書いたの。それが何で かゲームにしようって話しになって。﹂ その真っ白な人って思い当たる節が⋮⋮ ﹁アレは、﹁ゲームとしての妖怪恋舞﹂は⋮⋮夢で見た未来の出来 事なのよ。だから、本当の⋮本当の主人公は紅蓮と藍苺なの。詰ま り⋮⋮ベルとジン。あなた達の事。﹂ ⋮⋮⋮は? 頭が真っ白になった。 ﹁⋮⋮それって⋮⋮あのマオちゃん?﹂ ﹁舞子ちゃん⋮⋮私ね⋮⋮﹁妖怪恋舞﹂のシナリオとキャラ構成担 ゜Д゜︶﹂ 当なんだ。詰まり⋮⋮原作者?﹂ ﹁⋮⋮︵ 舞子は固まった。反応がない。手を目の前で振ってみても反応な し⋮⋮ただの屍のようだ。 1166 ﹁⋮⋮ダイジョウブ?﹂ ﹁⋮⋮ただの屍状態だな︵何で片言?︶﹂ ﹁カミングアウトしすぎたかしら?﹂ ﹁大丈夫よ。⋮⋮多分﹂ 何秒か停止していたが、取り乱し少し髪を振り乱し私達の顔を一 人一人見始めた舞子⋮⋮まるで赤ベコみたいに振っている。やり過 ぎてクラクラし始めた。まぁ当たり前だ。 ﹁え?、え?う?え?﹂ 混乱は続くようだ。それに焦れた母さんが何やら腰につけた巾着 から取り出す⋮⋮おっとぉ∼こーれーはー!! ﹁嫁さん耳塞いで!﹂ ﹁!!!﹂ ﹁えぇ!!﹂ 自分の耳を急いで塞ぎながら嫁さんに塞ぐ様に促す。慌てている のが分かったのか言われて直ぐに嫁さんは耳を塞いだ。マオ嬢は混 乱して出遅れたようだ。御愁傷様です。南無南無⋮⋮ 1167 ﹁舞子ちゃん?いい加減に現実に戻りなさい♪﹂ 取り出した卵程のボール。これは音を録音する宝珠⋮⋮そう、あ の時︵紅蓮毒殺騒動︶に役に立った録画用宝珠の録音専用版。しか も凄まじい音量・音域まで収録可能な優れもの。詰まりは、何度も 使える音爆弾︵無制限︶なのだ。怪鳥さんも猫みたいで俊敏な竜も 笛吹鳥も失神レベル。尚且つ並みの魔物なら失神する。もしかした ら耳のいい魔獣でも失神するかも。 ﹁フフフフ♪♪﹂ キィィィィィ⋮⋮⋮ きっと耳を塞がなかったらそんな音がしただろう。実際に聞いた しさ。アレはね⋮⋮耳が拒否する音だよ。耳が失神した。 ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮︵バタッ﹂ 何とか耐えたマオ嬢と耐えられず倒れた舞子。やはり妖怪と人間 の違いがあるのだろう。 ﹁ちょっと⋮⋮今のは⋮今のは無いよ?⋮⋮⋮︵グラッ﹂ 1168 ﹁ごめんなさい♪ツイねツイ♪﹂ ﹁程々にしたのは分かるけど、舞子はこの世界で唯一の人間なんだ から⋮⋮黄童子の加護があるから今は普通にしてるけど、か弱いこ ; ゜Д゜︶﹂ とには変わりないんだし⋮⋮もう少し考えようね?⋮⋮ね?﹂ ﹁︵ ﹁︵︵︵︵;゜Д゜︶︶︶﹂ ﹁はぁ∼︵ーー;︶﹂ 上から母さん、マオ嬢、嫁さんの順だ。何だよみんなして。私の 顔を何かついてる?何でそんなに怯えてるのよ。嫁さんに至っては 呆れてるし? ﹁その顔は納得いかないけど⋮⋮何よりも嫁さんに何かあったら二 人でも許さないから⋮⋮ね?﹂ 更に顔を青くした二人だった。何故か嫁さんだけは赤くなってい た。風邪かな? 1169 混乱には音爆弾︵後書き︶ 昨日の敵は今日の友。我が家の紅蓮は弱っている子をいつまでも ネチネチ攻撃しません。言いたい事いってスッキリしたら忘れます。 サッパリした性格です。と、言うよりも、 ただ単に怨むのが面倒なので余程の事を相手が仕出かさない限り は怨みません。 ⋮⋮⋮もしも、度を越す事を仕出かしたら⋮⋮⋮さて、どうなる のでしょうかね? 1170 仲が良いのか悪いのか︵前書き︶ 美人が無表情で怒ると恐い。 1171 仲が良いのか悪いのか 音爆弾︵無制限︶の威力で失神した舞子。何とか耐えたマオ嬢と 楽に回避した私と嫁さんは舞子が失神しているこの機会に話してお きたいことを話すことにした。 ﹁母さん、いくら結界で防音していても不用意にしないでね? 私 は丈夫だからいいけど、藍苺は危ないんだから。今度からはやめて ね?﹂ ﹁え、えぇ⋮⋮ごめんなさい。﹂ ﹁えっと⋮⋮久しぶり⋮⋮ベル?ジン?﹂ ちょっと申し訳なさそうな心許ない風に話しかけるマオ嬢もとい ミケ。私や嫁さんは面影があるのに対し、ミケは面影が全く無い。 元々私や嫁さんは前世の姿をモデルにしたので似ていて当たり前だ が、どうもマオ嬢という存在はミケは関与していない存在の様だ。 ﹁久しぶり。全く面影が無いから気が付かなかったよ。黙ってるな んて⋮⋮意地が悪いよ。﹂ ﹁ツインテールに緑髪なんてどこのボカロだよ。狙ってんのか?﹂ ﹁はぁ?なんてそうなんのよ!? アンタこそベルの後ろに隠れて 本当に女の子見たいじゃない。﹂ ﹁あぁ?誰がレンの後ろに隠れてるって?⋮多少後ろに居ることが 1172 多いだけだっつの!﹂ また始まった。毎度毎度顔を会わせる都度口喧嘩を始めるこの二 人。初対面の時はそれが仲がよく見えたので付き合ってると早とち りして二人に本気で怒られた記憶がある。本人達曰く﹁同族嫌悪﹂ 何だそうだ。従兄弟ってこんなにも似てるもんなんだね。 ﹁大体俺の顔を勝手に女顔にしたのはそっちだろ!﹂ ﹁ちゃんと忠実に再現したでしょ!元からよその女顔は!女の子だ ったんだから!﹂ ﹁お前の夢で見た顔って結局何だったんだよ。﹂ ﹁私だって知らないよ。こっちが聞きたいっての!﹂ ﹁ハイハイ、もうその辺にしなさい。ミケ、あんたもいい加減にす る! 嫁さん⋮⋮おやつ抜きにするよ。﹂ ﹁﹁はい、すみませんでした。﹂﹂ 素直なんだか何なんだか⋮⋮ホントにコイツら何がしたいんだよ ⋮⋮ハァ∼。︵ー。ー#︶ ﹁そうそう、母さん、皆が植える野菜とか果樹をどうするか聞きた いってさ。明日にでも聞きにいってね。それと、母さんが言ってい 1173 たチーズの事だけど⋮⋮﹂ 言おうとしたが思い出せなかった。何せ感覚的には何十年も昔の 事だ、記憶が怪しい。仕方なくとある本を出すことにした。 ﹁﹁﹁!!!﹂﹂﹂ 音もなく掌に現れたこの本は﹁記憶と知識の書﹂と言い、記憶が 曖昧になる時を旅する私に記憶と知識を記録される様にした特別な 本だ。見た目は何故か白龍の革の表紙で、厚さはゲーム攻略本のナ ンタラマニアとかコンプリートガイド何かに匹敵する厚さ。見た目 モロ魔術書⋮⋮まぁ、あながち間違いでもない。魔術の知識も入っ てるし。 重たくもないが、何となく宙に浮かせてページをパラパラ捲る。 さて、チーズの知識は何処だったかな? ﹁え∼と、あ、これこれ。凝固酵素は偶蹄目の哺乳期間の牛や山羊、 羊等の第四の胃袋・ギアラにあるんだって。取り出すためには一々 家畜を絞めないといけないのがネックだね。しかも子供⋮⋮﹂ 空気がどんより⋮⋮。母さんも最初は、頭に?を生やしていたけ ど家畜を絞める辺りから﹁︵´・ω・`︶﹂になって黙ってしまっ た。ミケも﹁︵・︳・︶﹂な顔に⋮⋮嫁さんに至っは﹁︵´;ω; `︶﹂ になってた。正直すまん皆。 ﹁︱︱しかし、効率の悪さからケカビから作る方法が一般的。だっ 1174 てさ。﹂ ﹁よ、よかった∼。﹂ ﹁作るためとはいえ⋮⋮前世でそんな事が行われた上のチーズだっ たなんて思った⋮⋮ホントに良かった∼。﹂ ﹁チーズのために⋮⋮子牛が犠牲に⋮⋮食えねぇ⋮⋮食えねぇよ。﹂ ⋮⋮現実に戻ってこれないのが一人。嫁さんや、戻っておいでよ。 ﹁カビから作れるから。さっき言ったのは昔の話だよ。殆どは違う からね?﹂ ﹁⋮⋮極稀に有るんだろ?﹂ ﹁⋮⋮値段がお高いのはそうかも⋮⋮でも高いチーズは食べたこと 無いでしょ?︵レアチーズケーキの高いのは奮発して買ったことあ るけど⋮⋮︶﹂ 微妙に納得して立ち直った嫁さん。前世でケチって高級な物なん てあんまし食べなかったからなぁ⋮⋮ちょっと申し訳ない。もっと 奮発しておけば良かったかな⋮⋮。 ﹁えっと⋮コウちゃん?その話は後でじっくり聞くから、今日はも う休みましょ? 舞子も気絶したままだし⋮。﹂ ﹁そうね。麗春さん、明日色んな所を案内してもらってもいいです 1175 か?お手伝いしますんで。 ﹁えぇ、勿論良いわよ。コウちゃん達はどうする?﹂ 色んな所を案内するのは構わないけど、私にはやらなければいけ ない事がある。そう、肉の確保だ!! ﹁ごめん、明日は色々やることがあるんだ。嫁さんも母さん達と一 緒に行ったら?ちょっと連れていけない所に行くから。﹂ ﹁何があるんだよ⋮⋮﹂ ﹁食糧の調達。主に肉類と木の実﹂ ﹁一人は危ないだろ!また、拐われたら⋮⋮﹂ ﹁そうね、一人は危ないわ。﹂ ﹁今はマイちゃんと対立していないから誘拐は無いだろうけど⋮⋮ 魔物がいるよ?大丈夫なの?﹂ 確かに弱冠8歳の私には荷が重いだろう。しかし、 ﹁何も2週間ただ眠ってただけじゃないんだよ?大丈夫。狩りには 慣れてるから。﹂ 異世界では自分で捕って、皮剥いで、血抜きして食べてた。そり ゃ何千回もね。だから慣れてしまった。最初はあんなに嫌だったの に⋮⋮慣れって恐ろしいよホント。 ﹁眠ってただけじゃ⋮⋮ない?﹂ 1176 ﹁いったい何があったのよ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 嫁さん以外は驚き嫁さん本人は暗い顔でジッと見詰めてくる⋮⋮。 居た堪れなくなって記憶と知識の書に関心を向けようとする。 ﹁だからこの本が手元に有るんだよ。﹂ 軽々と持てる重さに見えない本をパタパタ扇ぐように動かし戯け てみる。嫁さんはあまり変化無い。 母さんもどこか不穏な空気を感じたのだろう。舞子を担ぎミケを 連れて早々に退室していった。残されたのは未だに暗い顔でジッと 見詰めてくる嫁さんと私だけ⋮⋮これは一波乱有りそうな予感⋮⋮ 1177 涙は最強の武器︵前書き︶ タイトル通り泣きます。 お読みくださった皆様に感謝を。m︵︳︳︶m 1178 涙は最強の武器 早々に退室していった母さん達。ポチ達も今は部屋の中には居な い。シーンと静まり返った部屋はさっきまでの喧騒がまるで嘘のよ うだ。嫁さんは相変わらずジッと見詰めてくる。アレは言いたい事 をグッと堪えてる時の顔だ⋮⋮これは喧嘩に発展しそうな予感。 取り合えず話しかけようとする。 ﹁嫁さん?﹂ ﹁俺は⋮⋮⋮⋮か?﹂ ﹁ん?﹂ これは喧嘩よりも嫁さんの感情が爆発する予兆だわこれ。嫁さん 昔から溜めに溜めて爆発するタイプだから、ずっとストレスが溜ま って今とうとう爆発するみたい。 そっか⋮⋮そうだよね。散々心配かけて、悲しませて⋮⋮なにや ってんだよ私。嫁さん悲しませてどうすんだよ。たった2週間、さ れど2週間。白神はどれ位私が眠り続けるか嫁さんには言わなかっ たらしいから⋮⋮尚更だよね。 はぁ⋮⋮笑っていて欲しいのに⋮⋮逆に悲しませたり、心配させ たり⋮⋮なにやってんだよホント。 ﹁俺は⋮⋮そんなに頼りないか!?﹂ 1179 ﹁⋮⋮そんなこと無い。﹂ ﹁お前はズルい。今男だからと何かにつけ俺を守ろうとしてお前は 自分の事を省みない。それでいつも俺がどれだけ⋮どれだけ心配し てると思ってる?記憶が曖昧だった時は俺に注がれた毒入りの酒を 一気飲みして危なく死ぬところだった。次は黄の国からの刺客を一 人で相手してるし、魔獣を仕留めた⋮ちょっと目を離した隙に拐わ れるし、単身黄の国まで乗り込んで俺の呪詛肩代わりするし⋮⋮確 かに結果的に助かった⋮⋮けど!もし死んでたら⋮⋮またお前は俺 を一人にするところだったんだぞ!死んだら⋮どうしてたんだよ! なぁ?また俺を一人にするのか?あんな思いはもうごめんだ⋮⋮ウ グッ⋮グズッ⋮⋮うっ⋮⋮スンッ⋮⋮﹂ 言いたい事を吐き出して終いには泣き出してしまった。ど、どう すればいいの? ﹁え、えっと⋮⋮﹂ ﹁グェッ⋮⋮うぅっ⋮⋮スンッ﹂ 泣いている女の子に何も出来ない男の気持ちが分かってしまった ⋮⋮複雑⋮⋮。 ﹁ねぇ⋮藍苺?﹂ ﹁グズッ⋮⋮見んなよ⋮⋮ウグッ﹂ どうしよも無いので抱き締めてみる。子供は心臓の鼓動を聞くと 1180 落ち着くから。中身はもういい年した男だけど⋮⋮今は良いよね? 抱きしめて藍苺の背中をポンポンと叩いてみる⋮⋮扱いが赤ん坊 のそれと同じだ⋮⋮後で怒るかな?それでも今は泣き顔を見られた くないからか私の胸に顔を埋めて泣いている。 ジンの頃から泣いたのを見たのは数回だけ。しかも声を大にして 泣いたところは見たことがない。そして今も必死に嗚咽を堪えなが ら声を出さない様に泣いている。 確かに私も子供の頃からあまり泣かない子供だった。だからかな ⋮⋮泣くって事が苦手で、声を出して泣けない辛さが分かるのかも しれない。人は声を出して泣くことによってストレスを発散すると いう。ということは藍苺はまだちゃんとストレスを発散出来ていな いかもしれない。なら、一度思いっ切り泣かせてしまおうか? ﹁︵考えが危ないだろ⋮私よ。︶﹂ 嫌われるのは必至なので止める。まぁ、泣き止むまで様子を見よ う。 ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ 泣きつかれてボーッとしている藍苺を未だに抱き締め続けている。 嗚咽を堪えてる声は消えているが⋮⋮涙がまだ止まらない様だ。脱 水症状にがならないか心配だ。私の夜着は涙でびっしょり濡れてし 1181 まっていた。着替えたいな。 泣き出してから一時間近く経っている。そろそろ本気で脱水症状 が怖い。幸いポーチはいつも肌身離さず持ち歩いているので手元に あった。そのポーチから竹で出来た水筒を取り出す。 ﹁藍苺?喉乾いたでしょ?水飲んだ方がいいよ。﹂ ﹁⋮⋮ん﹂ そう言って水筒を渡すと素直に受け取り水を飲み始めた。相当疲 れたのだろう。目に覇気がない。水を飲んでいる間も私の寝間着に している着物を水筒を持っている手の反対の手で掴んだまま離さな い。 ﹁⋮⋮ゴグッ⋮ゴグッ⋮⋮⋮疲れた﹂ ﹁そりゃ疲れるって。﹂ 声を出さない様に泣くのって結構疲れるんだよ。シュンもよくそ うやって泣き疲れて眠ってたもの。やっぱり親子だね⋮⋮そんなと ころもそっくりだね。 ﹁あ゛ぁ゛∼⋮⋮何でか喉イテー⋮﹂ ﹁泣いたら痛くなるもんだよ。﹂ ﹁ここまで泣いたの久々だ。﹂ 1182 恥ずかしそうに目を擦ってこっちを見ている。しかし、未だ着物 を掴んだまま離さない⋮⋮あの∼、嫁さん?そろそろ離してくれま せんか? ﹁ねぇ嫁さん?そろそろ離してくれない?﹂ ﹁ヤダ﹂ ﹁⋮⋮そうですか。﹂ 即答で拒否られた。もうこの体勢で寝るしかないのかな⋮⋮別に いいけど。 ﹁ん∼⋮⋮もう遅いし寝よっか?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 声をかけど返事がない⋮⋮おや?と思い見てみると⋮⋮ ﹁グッスリ寝てる⋮⋮﹂ もう∼⋮マイペースなんだから∼。スヤスヤ眠る嫁さんはやっぱ り着物を掴んだまま⋮⋮ふぅ⋮⋮ やはりこのまま寝るしかないようだ。 1183 ふと、あることに気づく。 ﹁嫁さん髪解いない⋮⋮取っちゃえ♪﹂ 日頃バサバサと奔放で纏まらない髪が今一応収まっているのは日 頃の努力の賜物だ。朝起きればブローして纏めさせ、使っているシ ャンプーは特別な癖ッ毛用の嫁さん専用。その甲斐あってか最初よ は改善してきた。喜ばしいことだが、この髪⋮⋮油断できない。怠 ると直ぐに前の髪質に元通り⋮⋮になるのだ。例の2週間で少し元 に戻りかけていた。 ﹁そう言えば⋮⋮この組み紐私のだったね⋮﹂ 誘拐事件の朝に二人とも間違えて使っていたものだ。そのまま返 さずに使っていたのか⋮⋮ この際だから戻しておこう。以前と同じように私は紅の紐、嫁さ んは青い紐に。 掴んで離さない嫁さんと一緒に横にならながら明日のことを考え ながら眠りについた⋮⋮ あぁ、明日は⋮⋮お昼もぶっ通しで狩りをしようかな⋮⋮なら、 皆にはサンドウィッチでも作ろっかなぁ⋮⋮嫁さんが好きなタマゴ 1184 サンドとハムとキュウリのサンドウィッチも作ろっか⋮⋮⋮⋮⋮ 1185 一日の始まり︵前書き︶ サブタイ、主夫の朝。 お読みくださった方々に感謝します。 1186 一日の始まり 朝起きて、パンをトーストしてスープとジャムとバターを出して ウインナーを焼いて水にさらしてた野菜を木製のボールに盛りつけ サラダにする。 それが私の最初の仕事だ。だが、今日は先にすることがあるので 先にそちらを済ませようと思う。 今日はお昼のサンドウィッチも作っておく。朝から主婦は忙しい ⋮⋮あ、主婦じゃなくて主夫だね今は。まぁ主婦か主夫の違いなん て今はどうでもいいか。 お昼は狩りで手一杯なので皆の分のお弁当を作る必要がある。総 勢7人のサンドウィッチを作るのは骨だ。半数以上が子供なのは勘 定に入れてはいるが嫁さんは大人顔負けによく食べる。母さんも細 いのによく食べる⋮⋮妖怪は皆総じて大食いだ。王族の皆さんも結 構食べていた⋮⋮て、事は、王子達は普通よりも食べるだろう。か なり作っておこう。 ﹁ふぅ⋮⋮こんなもんでいいか⋮⋮?﹂ キッチンに設置してある大きなテーブルにはちょっと大きな山が 出来ていた。勿論その山の正体はサンドウィッチだ。大食いが居る 1187 からい言うのは分かるが、少々作りすぎだ⋮⋮と、思うだろう。 実はこれには訳がある。実は⋮⋮ ︱︱黄の国・王宮にて︱︱ ﹃は?﹄ 俺はKY陛下と四六時中一緒に居たのに⋮⋮俺を置いて こんな奴 ﹃だから、私だけ帰るわ﹄ ﹃俺は? くの?︵´・ω・`︶﹄ ﹃ちょっとまて、それはどういう意味だ﹄ ﹃煩い痴れ者が。お前に発言件などない。さっさとその手を動かし て書類に判を押せ。﹄ ﹃ね?コイツ貴方が見てないと直ぐにサボるでしょ?だから見てて ほしいのよ。じゃないとまた国が傾くわよ。ね?﹄ ﹃︵´;ω;`︶﹄ そして母さんの﹃ね?お願い♪﹄で父さんは折れたのだった⋮⋮ そしてそんな可哀想な父さんにサンドウィッチでも作ろうと思っ 1188 たのだった。 憐れ、父さんは黄の国に置いてけぼりにされたのだった。KY陛 下の子守して⋮⋮尊い犠牲になったのだ!生きてるけど。 この山のようなサンドウィッチの半分は父さんの分なのだ。私も かなりの大食漢だけど父さんは数倍食べる。なのでこの量なのだ。 ね?我が家の食事上が逼迫した訳が分かるでしょ? 私含めて大 食い揃いな我が家はかなりの食費がかかるのです。それをどうにか 遣り繰りしていたが、もうそろそろ限界なのです。 そこで!そ・こ・で・!! 私自身が狩りの解禁をしようと思い 立った訳ですよ。異世界で嫌でも培った知識、ここで使わずしてい つ使う。⋮⋮⋮⋮⋮⋮言わんよ? 今流行りのあの言葉は言わんよ? で、だ。客人も居ることだし、この食費や諸々の出費は各国に請 求するとして、私達の分はどうにかしていかないといけない。白の 王には頼らない。借りを作るのが怖いから。 生き物の命を取るのは気がひけるが、生きていくためにはそうも 言っていられない。所詮この世は弱肉強食な世なんだ。前世がぬる ま湯過ぎたのだ。ただそれだけ。この世界では当たり前の事なんだ。 1189 それを母さんや父さんやポチが代わりにしてくれていただけ⋮⋮も うおんぶに抱っこは卒業しよう。 自分に出来ること⋮⋮少しでも⋮両親の負担になら無いようにや っていこう。 一先ずこのサンドウィッチの山を蜜蝋でコーティングした様な特 殊な紙に包んでおこう⋮⋮⋮ あ、勿論これもメイドインマミィです。 さてさて⋮⋮⋮私が起きてサンドウィッチを作り出したのが午前 5時⋮⋮何だかんだしてて只今の時刻午前7時⋮⋮誰も起きて来な い。何だ?皆朝寝坊か?嫁さんは分かる。いつもの事だ。が、他は どうした? ﹁⋮⋮⋮誰も来ない⋮⋮﹂ それどころか、ポチ達も起きてこない⋮⋮Why? 1190 ∼それから暫く∼ ﹁コケコッコーー⋮⋮⋮コケコッ⋮⋮コケッ⋮コッコッコッコ⋮⋮ コケーコッコッコ⋮﹂ 遠くの養鶏場から雄鶏の鳴き声が聞こえてきた。多分気分よく鳴 いていたのに他の雄鶏に喧嘩でも吹っ掛けられたんだろうね⋮⋮何 か喧嘩始めたみたい。 ﹁⋮⋮︵・︳・︶﹂ あれから少し経ち⋮⋮只今の時刻7時半⋮⋮未だ誰も来ない。 ソウ ウテン ヨルム 待てども待てども⋮⋮誰も来ない。これは可怪しい⋮⋮何かあっ たのか? リル ﹁璃瑠、奏、兎天、夜夢!!﹂ こんな時は呼んでみる。眷属と主は絆・縁で繋がっている。呼べ ば眷属は呼ばれていると分かるらしい。それが眠っていても⋮⋮ ﹁まぁ、信頼関係が無いと呼んでも来ないけど⋮⋮﹂ 1191 そこまで眷属との関係が悪い主は強制的に眷属にした奴くらいだ けどね。 ﹃主⋮⋮クァ∼、⋮⋮すみません⋮何故か眠いのです。寝過ごしま した。﹄ ﹃すみません主様⋮⋮寝坊しました⋮⋮zzZZ⋮﹄ ﹃夜行性の為とは言え寝過ごすとは⋮⋮不覚⋮⋮﹄ しかし、奏がまだ来ない。おや?と思ったが暫くすると⋮⋮ドカ ッ⋮ゴツンッと痛そうな音がどんどん近づいてきた。多分⋮奏が寝 惚けぶつかりながら此方に来ている音だと思う。 ﹃きゅ∼⋮⋮ご主人様⋮⋮何でしゅか?⋮⋮⋮﹄ フラフラフヨフヨ浮かびながら此方に漂って近づいて来る奏はま だまだ寝惚けている。あんなにぶつかりながらまだ寝惚けているな んて⋮⋮誰かさんに似てる。影に入って来ればぶつからなかったん じゃない? リル ﹃して、主。先程私の名を呼んでいたのは如何した?﹄ ﹁あ、何時もみたいにポチって呼んだ方がいい?﹂ そちら ﹃いえ、ポチの名前は効力はありません。呼ぶ場合は璃瑠と呼んで ください。﹄ ﹁うん。ごめんね⋮⋮最初は私の力不足で名前呼べなくて⋮⋮今は 1192 もう大丈夫何だけど⋮⋮癖でついポチって言っちゃうんだよね⋮﹂ 癖ってのは中々抜けないものだよね。妖怪の力が目覚めて数ヵ月 経つけど未だにポチと呼びつつけていた。力ある者が眷属の名を呼 ぶと主から眷属に力が流れるのだが⋮⋮強すぎれば当然眷属に負担 がかかり、最悪の場合暴れだす。最初の頃にそんな事があったのだ。 ﹃いえ、主から貰った名であることには変わりありません。どちら も私の名です。﹄ ﹁お前ってばホントにお利口さだよね∼﹂ 抱きついてスリスリしたい。頭をわっしゃわっしゃなで回したい よ。 ﹃それで、一体どうしたのだ?ふぁー⋮⋮失礼した。﹄ 夜夢が大きく口を開けて欠伸して聞いてきた。あ、忘れるところ だった。 ﹁そうそう。ちょっと兎天と夜夢に御使いして貰おうと思って⋮⋮ えっと、ちょっと待ってね。﹂ ﹃御使いですか?⋮⋮た、大役ですね!﹄ ﹃落ち着け⋮⋮だが確かに大役だな。して、誰宛だ?﹄ ﹃ふむ、恐らくは⋮⋮父上辺りではないか?﹄ ﹃きゅ?⋮⋮とてもいい匂いでしゅ⋮⋮﹄ 1193 兎天と夜夢に頼むのは父さんへのサンドウィッチ。それと、何だ かキナ臭いので手紙もつけて。 ﹁さて、⋮⋮⋮⋮と、これでよし!じゃぁ兎天、夜夢。これを黄の 国に居る父さんに届けてね。あぁ、朝御飯食べていってからね?﹂ ﹃きゅ♪ボクパンの耳がいいでしゅ!﹄ ﹃私は⋮⋮その肉の腸詰め⋮⋮がいいです!﹄ ﹃自分は⋮⋮余り物でいい。﹄ ﹃獲って来ますゆえ⋮⋮私は﹄ 奏以外遠慮がちだ。だが、仮にも私の眷属。私は新米だが主だ。 詰まりは上司と部下の関係だ。それなのに食費の心配をさせるなん て⋮⋮ダメだ。 ﹁奏はパンの耳でいいの?﹂ ﹃きゅ!パンの耳でいいでしゅ!﹄ ﹁じゃ、パンの耳とオマケにウインナーも付けとくね。璃瑠と兎天 と夜夢はウインナーと肉の燻製ね。﹂ 勿論皆に上げる食糧は一応塩分控えめで香辛料無しの物。人間が 食べても平気だからと言って動物が食べるとダメなものは極力避け ている。妖怪だから大丈夫だろうけど、子供のうちはまだ弱い器官 もあるらしいので、気を付けているのだ。特に塩分は。ポチは妖怪 の力も強く体も丈夫だが、他のメンバー⋮⋮特に兎天は消化器系が 未だ弱いらしく親御さんに﹁肉以外は極力避けてください﹂と言わ 1194 れている。その為、皆も兎天の薄味に付き合っているのだ。 ﹁あ、ウインナーも食べるのは異論は認めんよ﹂ ﹃けれどある⋮⋮いえ、主、いただきます。﹄ ﹃ありがとうございます主。︵主の顔が⋮⋮︶﹄ ﹃忝ない。︵一瞬虎に睨まれた様に感じた⋮︶﹄ うんうん。素直で宜しい。 ﹁それにしても⋮⋮誰も起きてこないんだよね⋮⋮皆して寝坊って ⋮⋮︵どう見ても怪しい︶﹂ ﹃モグモグ⋮⋮主、食事が終わりしだい御母上を起こしてきましょ うか?﹄ ﹃きゅきゅ⋮ボクたちお仕事がないでしゅからちょうどいいでしゅ ね♪﹄ ﹃ならば私達は御使いに早々に行きましょう夜夢さん。﹄ ﹃そうだな⋮⋮この荷は食べ物の様だし、早めに届けてしまおう。﹄ ﹁ありがとね。じゃぁ母さんを頼むよポチ。兎天と夜夢は無理せず 自分のペースで御使い宜しく。気を付けてよ?奏は私と一緒に嫁さ ん起こしに行くよ?﹂ ﹃御意﹄﹃任せてください!﹄﹃ん。﹄﹃きゅ!﹄ 元気よく返事をする皆であった。ホントに皆可愛いわ⋮⋮ 1195 ︱︱只今の時刻7時50分程︱︱ はい!私は今嫁さんの部屋⋮⋮ではなく 私の部屋の前に来ております。昨日は私の部屋で寝てたからね嫁さ ん。よっぽど寂しかったのか? えー⋮⋮、ドアを開けますと⋮⋮そりゃもうグッスリと未だに夢 のならでございますよ?もういい加減に起きてほしいのですが⋮⋮ 今のところ起きる気配なし。 ここで最初にすることは、カーテンを開けることです。人は目蓋 からでも光を感じるので朝日を浴びると自然と目を覚ますそうです。 それにそうやって起きるのはとても清々しく起きれると言われてい ます。実際私は明るいと夜でも起きてしまうので強ち間違いでもな いようです。 シャー⋮と、カーテンを勢いよく開け音も大分大きいですが、嫁 さんはこんな音では決して起きません。私の部屋にある窓は日が当 たりやすい位置にベットを置いてあるので光はバッチリ顔に当たり ます。それでも眩しがり布団で顔を隠してしまいます。 1196 ホントに寝汚いよ?嫁さん。 布団に潜って居るとき、ここで耳を澄ますとたまに寝言が聞こえ ます。大半はお菓子関係か食べ物関連の寝言です。今日は何の寝言 かな? ﹁⋮⋮っ⋮⋮ん⋮⋮⋮クゥ⋮⋮カモメ⋮⋮⋮玉子﹂ ⋮⋮⋮うん、これは多分お菓子の商品名を言っていたと推測する。 確かそんなお菓子がお気に入りだった筈だ。 さあ、お遊びはここまで。客人よりも寝ていることは嫁さんが許 しても我が家の主夫は許しません。と、言う訳で⋮⋮ ﹁右手にお玉を、左手にフライパンを⋮⋮死者をも目覚める騒音⋮ ⋮必殺⋮⋮死者の目覚め!!﹂ ガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!! 皆様お馴染み?の寝坊助に最適な迷惑行為スレスレ︵やったらダ メだよ?︶の目覚まし﹁死者の目覚め﹂。どんなお寝坊さんでもた ちまち目を覚ます。聞いた話では村中まで響かせる猛者も居るとか。 本家はこれでモンスターも倒すのですよ奥様方。 1197 ﹁うわっ!!!︵ドスッン﹂ この目覚ましはかなりの前からやっているのだけど、未だに嫁さ んはベットから落ちる程驚く⋮⋮やりはじめて早数ヵ月⋮⋮いい加 減一人で起きるか、慣れるかしてくれないかなぁ。 1198 一日の始まり︵後書き︶ 哀れな朱李は黄の国に子守りとして置き去りにされたのだった。 そして知ってる人は知っているアノ技。紅蓮は初めはノリでやっ たのですが意外にも効果があったのでそのまま続けてやっています。 近所が居ない場所だから出来る技ですよね。それでも起きてこな い人達も居ますが⋮⋮ 1199 朝の大仕事︵前書き︶ 紅蓮と藍苺の毎朝の風景ですね。 お読み下さった皆様に感謝をm︵︳︳︶m 1200 朝の大仕事 ランメイ 驚いた拍子に落ちてぶつけた頭を摩りながらジト目でこちらを見 る嫁さんこと、藍苺。いい加減に自分で起きてほしいものである。 そうすれば驚いて飛び起きる事も無いだろうし。 ﹁何で毎度⋮⋮フライパンを叩いて起こすんだよ⋮⋮﹂ ﹁何でって⋮起きないんだもん。他に起きれるなら教えてほしい位 だよ。フライパンとお玉が一番効果があるし。それとも自分で起き てくれるならそれが良いんだけど?﹂ ﹁⋮⋮起こしてください、お願いします。﹂ 何でか素直に起こしてくれ宣言された。自分で起きる気は無いら しい⋮⋮おい。起きろよ、自分で。てか、よく寝惚けながら⋮⋮い や、寝惚けてるからこそ言ってるのか。 ﹁さて、起きたことだし⋮⋮身嗜みを整えないとね?﹂ ﹁う゛ぅ゛∼﹂ 目を擦り眠そうに返事をする。この状態の時は何言っても無駄だ。 半分も聞いてない。これも昔っからの変な癖だ。私はあなたのオカ ンじゃないんだけどね⋮⋮。ちなみに藍苺は自身の母親にはこんな 風にしたりしなかった今も昔も。小さい頃から確りしてた⋮⋮様だ し。私にだけ⋮⋮なのは、嬉しい⋮が、正直複雑だ。 1201 ﹁はいはい⋮⋮顔洗ってこようね?﹂ ﹁ん∼∼。﹂ ﹁ほら、前見て。目を開けて歩いて⋮⋮歩いたまま寝な∼い。﹂ 子供を世話しているみたいに感じるのは決して気のせいなんかじ ゃない。こんなに子供っぽいのは朝だけだ。決して家にいる間ダメ ンズではない。あ、今は女の子か。 む?何やら嫁さんが柱に激突しそうな予感がする。予定変更。急 遽部屋で顔をあらってもらうことにしよう。幸い私の部屋には洗面 器と水が入った水差しが置いてある。もう、今日はそれで妥協しよ う、そうしよう。 ﹁藍苺⋮⋮ほら、この洗面器で顔洗お?洗面台まで行かなくて良い から⋮⋮﹂ ﹁んん∼∼﹂ 水差しの水を洗面器に注ぐ。この家の建つ場所は常春な環境なの で水が冷たすぎる事は無いだろう。寝惚けた頭にはちょうどいい刺 激になるだろう。 ポチに起こされ母さんはもう起きただろうか?今この家で起きて いる異変はきっと白の国で起きていることに関係しているのだろう。 母さんには色々と聞き出さないといけないな⋮⋮。 1202 ﹁うぅぅ゛⋮⋮冷たい﹂ ﹁目が覚めて丁度良いじゃない。ほら、水飲んでシャキッと目を冷 ましてよ。﹂ ﹁ん。﹂ 受け取った水で始めに口をすすぐ。歯磨きは目をしっかり覚まし てからしてもらおう。 朝起きて水を飲むのはとても大事だと母が言っていた。水を飲む ことで内蔵が目覚め目も覚めるらしい⋮⋮確かに昔からやっていた ︳︶σ‖﹂ からか私は朝の目覚めはバッチリだ。母に感謝だ。 ﹁⋮⋮⋮⋮。。︵〃︳ ﹁どうしたの?﹂ 顔を洗い終わり、渡したコップの水を飲んだ嫁さんは何故か目を 会わせてくれず、壁に向かって何か落ち込んでいた⋮⋮。 ﹁ね?どうしたの?﹂ ﹁いや⋮⋮えっと⋮⋮⋮恥ずかしい?﹂ ﹁へ?﹂ ﹁だから!、は、恥ずかしいんだよ⋮⋮泣き顔見られて⋮さ。﹂ 何年夫婦でいたと思っているんだ。8年だよ8年。色んな物を見 てきましたとも。お茶目な所やちょっと子供っぽいところ、恥ずか しい失敗何かも嫌と言うほど見せたし、見たよ。 1203 それを今更恥ずかしがられても⋮⋮かえってこっちが恥ずかしく なってくるよ。 ﹁⋮⋮まぁ、恥ずかしがってないで、部屋に行って着替えてきなよ。 その後髪結ってあげるから。﹂ ﹁お、おう。ρ︵・・、︶﹂ 直ぐ様部屋を出て隣の藍苺の自室に行った。相当恥ずかしかった 様だ。だから、8年も色んな所を見てきたんだって⋮⋮ホントに今 更よ? 可愛いなぁもう⋮⋮⋮⋮ 着替えを終えて戻ってきた嫁さんを各部屋に備え付けられている 鏡台に座らせ髪を解く。癖が強いのは主に前髪付近。重力に逆らい つつ好き勝手に跳ねていた髪は前よりは纏まりを見せている。が、 気を抜けばたちまち元通りになってしまうだろう。それに、髪とい うのは湿気に弱い。根気よく髪にドライヤーを当てながら解かし少 しでも纏まるように癖をつけるのだ。 これがもう、一苦労だ何の⋮⋮まぁ私が好きでやってることなん だけどね。 ﹁ん∼。ストパーに憧れるな⋮⋮﹂ 1204 ﹁そお?真っ直ぐ過ぎても変化なくて地味だよ?多少の癖があった 方が個性が出て良いと思うけど。﹂ ﹁それは癖っ毛じゃないからそう思うだけだ。﹂ ﹁それ分かる気がする。自分とは違う事って憧れるよね?﹂ ﹁まぁ⋮確かに。⋮⋮って、イテテテテテテテ⋮⋮﹂ 今日は髪がよく絡む⋮⋮どうやら今日の嫁さんの御髪はご機嫌斜 めな様だ。どうしてもダメな場合は⋮⋮ ﹁椿油でもつける? 少し位ならべたつかないと思うけど⋮⋮ホン トに心持ちちょっぴり⋮﹂ ﹁髪洗った時、泡立ちが悪いからやめとく。﹂ 油ってシャンプーの泡立ちが悪くなるよね?だから癖っ毛だけど 整髪料の類いは昔っからつけたがらない。それに今は紐で髪を結っ ているので紐が汚れるのが嫌だそうだ。少しだからそんなに汚れな いと思うけど⋮⋮。 ﹁分かった。さ、前向いて。髪結うから。﹂ ﹁ん。⋮⋮今日は上に結うのか?﹂ ﹁そ。で、私は下に結ってます♪逆にしてみました。﹂ ﹁⋮⋮何か、髪が逆立ってるぞ?﹂ 嫁さんの髪は長さがバラバラなので上に結うと結った付近の短い 髪が逆立ってしまうのだが⋮⋮それも個性だと思えば良いんでない か? 前髪も纏まらず鳥の巣状態になっている。 1205 ﹁それも今だけだよ。全部の髪が同じ長さに延びたらもう少し纏ま るからさ。前髪は無理だけど。﹂ ﹁ん∼∼。そうかなぁ⋮。前髪は諦めてる。﹂ それでも大人しくしているので髪型に不満はないのだろう。そう だ。明日は嫁さんの髪を密編みにしてみよう。たまには良いよね? 結ぶ紐は藍色⋮と言ってもどちらかと言うと明るい紺色の紐を使 う。私が間違えて使っていたあの紐だ。今の今まで忘れていたあの 紐ですよ。漸く嫁さんに返せる。 ﹁はい、終わり。﹂ ﹁⋮⋮紐が違う⋮⋮﹂ ﹁あの騒動前に間違えて使っていたからね⋮⋮あれから2週間も経 つのに気が付かなかったからさ。今日変えといた。﹂ ﹁⋮ふぅーん⋮⋮︵別に気にしなくても良いのに⋮︶﹂ それにしても⋮⋮黒っぽい色に青系の色はあまり映えない⋮⋮や っぱり黒には赤系の色が似合うよね。実際の藍苺の髪は紺色に近い 黒だけど。 ﹁なぁ⋮﹂ ﹁ん?何?﹂ 1206 私に向かい合い真剣な顔で話始めた。 ﹁なぁ⋮⋮二人の時はベルって呼んで良いか?﹂ 思わぬ言葉にちょっと驚く。 ﹁もう違うってのも分かってはいる。けど、俺の人格は未だに“ジ ン”なんだ。お前は“紅蓮”だけど、俺には“ベル”としか思えな い。今を否定しないが、前も否定したくない。その、何て言ったら 良いのかよく分かんないけど⋮⋮たまにはジンって呼んでくれない か?俺もベルって呼びたい⋮⋮ダメか?﹂ ⋮⋮あぁ⋮⋮やっぱり悩んでいただね。この問題は一概にコレっ て正解が無いから難しいよね。 私も少し悩んでいたのだ。いつも“嫁さん” と呼んではいるが、心のどこかで“ジン”と呼びたかった。けど、 ここでは私は“紅蓮”でジンは“藍苺”だ。だから⋮⋮ ﹁⋮⋮二人っきりの時だけならね。そうそう、この名前ね⋮誰かに 言ったらダメだよ。操られたりするかもしれないから。大事な名前 だから⋮⋮私の名前を言っても良いのは“ジン”だけだよ。だから、 私にも名前を言っても良いと許して。﹂ ﹁当たり前だろ“ベル”。﹂ 1207 前世の名前を呼ばれると何だか嬉しくなる。あぁ、私の前世は決 して夢の出来事ではないと実感できる。この頃は記憶と知識の書を 見ないと前世の記憶があやふやになってきたのだ⋮⋮。だが、こう して名前を呼ばれると⋮⋮私という存在が確かにあの場所に存在し ていたとどこか安心できるのだ。 ﹁それとさ⋮⋮﹂ ﹁ん?﹂ ﹁血の契約⋮⋮俺としてくれ。﹂ 驚きだ。まさかジンからそう告げられるとは思わなかった。 ﹁え?⋮⋮えっと⋮り、理由は?﹂ コレまた真剣な顔でこう言った。 ﹁どちらも操られないため⋮⋮それに、俺は嫉妬が強いって知って るだろ?﹂ ﹁そーですね⋮⋮︵ヤバ、何か、火がついてるよ⋮⋮誰だよジンに 火をつけたやつ!!︶﹂ ﹁なぁ? するよな?﹂ 勿論拒否権なんて無いからな♪と釘を刺してくるジンに若干冷や 汗が出る。ま、まぁ⋮ジンなら良いかな⋮⋮いや、でもそうなると 1208 死亡フラグが建ちそうで恐い⋮⋮う゛∼∼ん⋮⋮ ﹁そうすると死亡フラグが⋮⋮﹂ ﹁あ、そんなのもあったな⋮⋮でも、知ってるし回避出来るだろ?﹂ ﹁うん。二人共知ってるし⋮⋮ん∼∼﹂ ﹁そもそも、フラグ何て関係無いだろ。へし折れば良い。フラグは へし折るか投げるか爆発するもんだろ。﹂ イヤイヤイヤ⋮⋮それってとあるゲームのネタだろ。ヤバイ、ジ ンまで白神みたいになってきた⋮。 ﹁それに、俺もベルも良い具合にチートだし、早々死なないし死な せない。お前は俺より先に死ぬなんて許さない。俺の後しか許さな い。﹂ ﹁ねえ、ジンさん?今変なフラグ建てなかった?﹂ ﹁知るか。﹂ 何だか昔の性格に戻ってきた様だ。頼もしいやら不安やら⋮⋮。 ﹁元々さ、ベルはあの呪詛で死ぬ筈だったんだろ?詳しいことは聞 いてないけど⋮⋮白神が気を利かせて死を回避できた。なら、白神 をフラグ回避に役立てれば良いだろ。使えるもんは使え。﹂ 罰当たりな発言ではあるが一理ある。私達は巻き込まれた身だ。 神々に責任があると言えば半数以上ある。とは言え、白神自身に責 1209 任は無いと言えば⋮⋮無いのだろうが、連帯責任というものがある。 異世界では御世話になったが、やはり死亡フラグを回避する事は別 だろうな⋮⋮よし。 ﹁そうだね⋮⋮うん。ちょっと考えとくよ。﹂ ﹁あぁ。一人で抱え込んでも良いことなんて無い。昔もイヤと言う ほど実感しただろ?﹂ ﹁⋮⋮何のこと?﹂ ﹁嫌がらせ。受けてただろ。⋮⋮俺に言えば良いのに⋮⋮まぁ、一 人で撃退してたけど⋮⋮ストーカー被害にあってるのに何で黙って たんだよ⋮⋮﹂ ん?はて⋮⋮ストーカー被害とな。心当たりが無いのだけど? ﹁お前⋮⋮気付いてなかったのか?盗撮は立派なストーカーだろ。﹂ ﹁盗撮⋮⋮?﹂ ﹁着替え中の写真送られてきただろ?アレだよ。送り主は同じサー クルの男だったぞ。︵絞めといたから何もなかったから良いものの︶ ﹂ 盗撮⋮⋮あぁ!下着一枚の写真か⋮⋮え?アレって嫌がらせじゃ なかったの? そう言えばアレは知らぬ内に解決していた。確かジンがどうにか したとか何とか⋮⋮。 1210 ﹁黙っていたのによく知ってたね⋮⋮﹂ ﹁あの写真、手紙付で俺宛に来てたぞ。﹁お前の奥さんは貰った。 彼女は元々俺のものだ。﹂的な事が書いてあったぞ。﹂ ﹁うわぁ⋮⋮なにその気持ち悪い手紙。﹂ ﹁大丈夫だ。絞めといたから。﹂ なるほど。なら良いか。それに昔の話だ。 協力してもらう 話し合いで死亡フラグ云々は白神に脅す事に勝手に決めた。後で 白神に聞いてみよう。あいつ、私を加護しているせいで呼んだら来 るようになってしまったのだ。ま、便利な機能だと納得してしまお う。 さてと、身嗜みも整えたし、リビングに行きましょうかね∼∼。 1211 朝の大仕事︵後書き︶ 藍苺は前世から寝坊助です。前世では目覚ましを一分毎に鳴らし ていました︵笑︶ 1212 親の心子知らず、子の心親知らず︵前書き︶ 親の心は子供には分からないが、子供の心も親にはわからない。 なら、親でもあった紅蓮は⋮⋮⋮どちら? 1213 親の心子知らず、子の心親知らず コウレン 只今リビングにいます。どうも、ゲームの世界に勝手に転生させ ランメイ られれた主婦コト只今8歳の主夫、紅蓮です。そして隣に座ってい るのが同じく転生させられた旦那コト、現在嫁さんな藍苺でござい ます。 さて、先程も言った通り只今リビングにてソファーに座り寛いで おります。朝御飯は母さんが来てから食べようと思います。客人達 ?⋮⋮あぁ、彼等は疲れているのか起きてこないので先に済ませる 事にしました。それに諸々の話を母さんから聞かないといけないの でその方が好都合かと、思うしね。 ﹁お早う、母さん。﹂ ﹁ご免なさい⋮⋮ふぁ∼∼。何だか無性に眠かったのよ⋮⋮﹂ ﹁そうみたいだね。父さんが居ないのに寝坊なんて珍しいよ。はい、 コレ飲んで眠気覚まして。﹂ ポチを伴いリビングにやって来た母さんはとても眠そうだった。 父さんが居る時は寝坊なんてよくあったけど⋮⋮え?何でかって? 察してくれ。 そんな眠そうな母さんには私特製眠気覚まし﹁薄荷入りのハーブ ティー︵最早薄荷only︶﹂を渡す。それを一気に飲み干した母 1214 さんは男顔負けだと思う。よく飲めるね。私なら二口無いと無理だ よ。あ、寝惚けてるから出来るのかな? ﹁☆※★@%※¥℃←﹂ ﹁︵鬼だ⋮⋮親に笑顔で劇物渡すなんて⋮⋮︶﹂ 案の定、母さんは声になら無い叫びをあげている。すかさず中和 するため普通の紅茶︵温め︶を渡す。妖怪でも味覚は人間と一緒な のだと呑気に納得していた。 ﹁⋮⋮ッ⋮⋮こ、コウちゃん⋮⋮朝っぱらからキツいわね⋮⋮でも、 お陰でスッキリ目が覚めたわ。全く、お茶目さん♪﹂ ﹁効いたでしょ? 私も少しの間味覚がおかしくなったよ。嫁さん も使う?どんなに眠くても永遠の眠りでも起こす程だよ⋮⋮朝弱い 嫁さんでも一発で起きるよ?﹂ ﹁慎んで辞退します。︵あんな通常の薄荷エキスを何千倍に凝縮し た劇物を飲んでよく許せるよな⋮⋮やっぱ妖怪と人間は味覚が違う のか?︶﹂ 何故か何も飲んでいないのに青い顔で即答する嫁さんと嫁さんに 青い顔をさせた元凶を飲んだのに優雅に紅茶を飲む母さんが正反対 で笑えた。嫁さんにはコレより薄いのを飲ませたことがあったのだ が⋮⋮結果はさっきの母さんよりも凄いリアクションが見れた。と 言うことは、人間と妖怪は必ずしも味覚まで一緒とは限らないのか 1215 も知れない。 リル ﹁璃琉ご苦労様。﹂ ﹃他の者達は未だに寝入っています。﹄ ﹁何かあったのか?︵リル?リルってポチの事か?︶﹂ ﹁うん、その事なんだけどね⋮﹂ お願いを無事達成したポチコト、璃琉にお礼をし、現在の客人達 の状況を聞くとやはり誰も起きてない様だ。嫁さんもリビングに来 てから疑問に思っていたのだが、母さんに説明してもらおうと母さ んが起きてくるまで待っていたのだ。 私も何が起きているのかよくわからない。憶測でモノを考えても 仕方ないので、手っ取り早く真相を知っているであろう母さんに説 明して欲しくて目線を母さんに向けた。 ﹁⋮⋮⋮分かっているわよ。何故彼等をここに連れてきたのか? それに今の我が家で起きている状況を聞きたいのでしょ? ちゃん と説明するわ。﹂ そう言って残りの紅茶を一飲みしてポツリポツリと話始めた。 1216 粗方話を聞き終え、頭の中の情報を整理していた。全く、折角戻 って来れたのにまだ私は平穏に暮らせないのか⋮⋮ハァ∼。 ﹁詰まり⋮⋮白の国で国家転覆を企んでいる貴族達が居て、危険だ からここに避難させた⋮⋮と、言うこと?﹂ ﹁えぇ。それに今回の事は白の国の貴族だけじゃないのよ。﹂ ﹁周りの国の貴族が勝手に手を貸している状況か?﹂ ﹁それか、各国の王位に届かない王族達の関与も否定できないね。 特に中途半端な地位にいる奴は“今の王”さえ居なければ自分が王 位に就いていたとか本気で思っている厄介な奴も居るだろうし。﹂ ﹁ええ、そうなのよ。現時点では白の国、黒の国は白だと判明して はいるのよ。黄の国も今は膿を出し切った状態だし、居たとしても まだ警戒して鳴りを潜めているか国外に逃げているでしょうしね⋮ ⋮。だとすると、﹂ ﹁周りの国々はどうもキナ臭い?﹂ ﹁そう。どの国も内情は一枚岩ではないから。どうも一概にそうと は言えないのよ。﹂ 1217 ﹁⋮⋮それでこの我が家の状況は何処かの国の手先の仕業と思って も良いんだよね?﹂ ﹁ここは結界が張ってあるんだろ? 入ってこれるのか?﹂ ﹁残念なことに、入ってこなくても私の気を反らす事は出来るのよ ⋮⋮今回のあの眠気⋮⋮アレは力のある妖怪でも効くと言われてい る特殊な香よ。一般人がおいそれと手に出来る物では無いわ。﹂ 妖怪にも効く睡眠作用のある香⋮⋮。多分元々は不眠に悩む妖怪 でも効く様に作られたか、或いは強力な妖怪を弱体化させるために 作られたのだろう。そういう物は高価と決まっている。そんな高価 な物を用意できる⋮⋮敵は限られる。でも、寄りによって香か。厄 介だ。 ﹁でも、侵入者がどうやって俺達にその香の匂いを嗅がせたんだ? 誰も侵入してないんだろ?﹂ ﹁誰も侵入していないわ。私が香の香りで寝入るまではね。﹂ そこまで話すと母さんは私に﹁説明よろしく﹂と目線を送ってき た。仕方ない、説明しますよ。 ﹁嫁さんは結界がどんな役割か何処まで知ってる?﹂ ﹁ん?⋮⋮えーッと⋮外敵から指定された場所を遮断して守んだろ ?﹂ ﹁そ。でもね、そんな結界にも弱点があるんだよ。﹂ 1218 ﹁ん?﹂ ﹁嫁さんは外で普通の鳥を見たことある?﹂ ﹁そりゃあるよ。そこらに居るだろ。﹂ ﹁うん。敵意の無い動物や人は難なく越えてこれるんだよ。自由に ね。しかも、それは生き物にしか通用しない⋮⋮ならもし、何十羽 の鳥の背中に時限式で蓋の開く入れ物に強力な睡眠作用のある香を 入れて飛ばしたら⋮⋮どうなると思う?﹂ コレは本当に物量作戦だ。コレ以外にももっと効率の良い方法が あるかもしれない。でも、今重要なの﹁可能性が有るか無いか﹂だ。 私の思い付く作戦はとても幼稚だ。だが、私でも思い付くのだ。コ レが天才軍師なら⋮⋮⋮あぁ∼頭が混乱する。ヤダヤダ⋮⋮頭使う の得意じゃないんだよ私は。 ﹁結界は何も知らない鳥達を難なく通す、それと物もね普通なら上 手くは行かない。一応操られた生き物も退ける対象になっているか ら何処1ヶ所に集まるなんて事は出来ないから。けど、ここら一帯 は、特にこの家の建っている土地はとても豊かで天敵もあまりいな い。それを知っているここらの鳥達は家の周辺に集まってくる。そ して運良く家の周りに集まった鳥達に取り付けた香が入った蓋が開 けば⋮⋮母さんは⋮⋮その時の侵入に気が付かない。﹂ これが出来るのは家の内情を知っているのだろう。一体どこから 情報が漏れたのやら。ん?待てよ⋮⋮我が家を知っている人なんて 限られているんじゃないか? ん∼∼⋮⋮ダメだこれ以上思い付かない。もっと賢い頭が欲しが った。 1219 にしても、単純な物量作戦ほど厄介なものはないと思う。母さん の話によると、その香は無臭らしく、空気中に散布された物に気が 付くことは至難の技だそうだ。 それにしても、何故母さんに効いた香は私には効かなかったのだ ろうか?その事がとても気になる⋮⋮。 まぁ、それはそれとして⋮⋮ ﹁いくら母さんにバレずに結界内に侵入してもまだこの近くには寄 って来ないよ。まだバレる危険があるから。﹂ ﹁ん?⋮⋮あ、気配に敏感なお前と麗春さんが気付くから?﹂ ﹁そうね⋮⋮。下の大森林からここに上がって来るまで結構な時間 が掛かるでしょうね。おいそれと術は使えないもの。中に入ってし まえば後から何でも策が練れる⋮⋮敵はゆっくり近づいてくるわね ︵焦りがなかったらの話だけど︶。でもあちら側の誤算はコウちゃ んに香が効かず、異変に気づいてしまったことね。多分あちら側は その事に気が付いていない。﹂ そう。あちら側に気が付かれていない。ならば、コレはチャンス だ。 ﹁そう。だからちょっとあちら側を捕まえないとね。人様の家に土 足で踏み込んできたんだ⋮⋮捕まっても文句は言えない。それに、 何時までも他人が家にいたら落ち着かないし。﹂ ﹁お前なぁ⋮⋮建前って無いのかよ。﹂ ﹁自分に素直であれ。だよ。﹂ 1220 ﹁⋮⋮任せても良いの?コウちゃんもタダでは済まないかもしれな いわよ? 私は⋮⋮もうあなた達二人を巻き込みたくない。また、 あの時のようになってほしくない。﹂ 少なからずあの出来事は母さんにもダメージを残していたようだ。 私は前世の記憶を持っている⋮⋮だから、母さんの本当の子供とは 違うのだと邪推していた節が私にはあった。けど、本当は⋮⋮私を 子供として見ていてくれたのかもしれない⋮⋮だとしたら、私はど れ程親不孝なのだろう。 ﹁⋮母さんには悪いけど今回はそうも言っていられないでしょ? 私にやらせて。その方が被害が軽いから。﹂ ﹁レン。お前⋮⋮﹂ ﹁藍苺、今回は信じて待ってて。ううん、今回も信じて待ってて、 おねがいだから。もし、藍苺が独断で行動したら怒り心頭でニンジ ンとピーマンケーキを作るかもしれない。﹂ ﹁⋮⋮分かった。orz﹂ ﹁⋮⋮説得は⋮⋮無理そうね。﹂ ﹁分かる?﹂ ちょっとだけ拍子抜けした。もう少し説得に粘ると思ったのだ。 ﹁だって、コウちゃん一度こうって決めたら梃子でも動かないもの。 八年間母親やってたのよ? 何も仮初めの親子をしてたわけじゃな 1221 いわ。あなたは私の最初の子⋮⋮我が子よ。そんな我が子の性格は 知ってるわよ⋮⋮誰よりも頑固なこともね。﹂ ﹁⋮⋮母さんには隠し事が出来ないね。﹂ ﹁分かる気がする⋮⋮俺も母親には考えが筒抜けな節があった。そ れに、子供の考えていることって何となく分かるよな?﹂ ﹁そうだね⋮⋮私達も昔は親だった。そっか⋮⋮うん。﹂ ﹁伊達に母親じゃないのよ。良い親とは言えないけどね。親らしい ことは何もしてあげられなかったし。﹂ そんなことはない。この世界に何も知らずに生まれ落ちてどんな に心強かったか⋮⋮。嫁さんには悪いけど、周りに理解者が居なけ れば私は前世よりも捻くれただろう。暗殺者からも幾度となく助け て貰った。感謝は有れど怨みは全く無い。母さんは⋮⋮二人目の本 当の母親だ。 ﹁私こそ⋮⋮子供らしくない子供で可愛くなかったでしょ?﹂ ﹁それは人格が既に形成されてたからな⋮⋮子供らしくないのは当 たり前だろ。お前のせいじゃない。﹂ ﹁ランちゃんの言う通り。それに、あの状況で普通の子なら私は⋮ ⋮守れたか分からないわ。育児ノイローゼになっていたかも知れな い。感謝してるの、だってあなたは全然手のかからない子だったか ら⋮⋮私が自由に動けたのもあなたのお陰。︵それでも少しは頼っ てほしいのが親心よね⋮︶﹂ 1222 そんなありがとうの応酬は一先ず置いておき、作戦を練るとこに する。実はもう既に作戦を考えていたのだ。 ﹁︱︱︱で︱︱︱︱︱にするから宜しく。﹂ ﹁あんまり気乗りしないな。﹂ ﹁そうね。出来ることなら私が⋮⋮﹂ ﹁ダメ。母さんは警戒されるよ。今ここに居る中で相手側にとって 要注意人物だからね。﹂ ﹁∼∼∼ハァ⋮俺に力が有ればな⋮⋮﹂ 何を言っている。パワーならこの中で随一だろうに⋮⋮人には向 き不向きがあるのだよ嫁さんや。そう落ち込みなさんな。 さて、作戦もたて終わったし、後は二人に任せて私は“狩り”に 出掛けますかね♪ さぁて、どんな獲物がかかるかな? 1223 1224 親の心子知らず、子の心親知らず︵後書き︶ 書きながら毎度混乱しております。 あれ?ここってどう書こうと思ってたっけ?何て事が数回ありま して⋮⋮コレでいいのか? 皆様、読んでくれてありがとうございます。 1225 楽しい楽しい狩りの時間︵前書き︶ ノリノリな紅蓮の狩りです。少しの流血表現アリ、苦手な人はU ターン推奨。 今回は三話連続投稿です。この話が最初です。お間違えの無いよ うに。 1226 楽しい楽しい狩りの時間 さぁて⋮やって参りました、念願の肉確保⋮⋮狩りの時間ですよ ♪皆様。 と、その前にちょっと説明をします。この世界には元の世界では 考えられないような事が幾つも存在しています。その一番分かりや すい例はこの家の建っている土地です。 何故かって? そりゃぁ⋮⋮ここの高さが問題なんです。理屈で は到底説明できません。富士山程高いのです⋮⋮皆さん富士山の山 頂辺りの風景をご存じですかね? ある程度の高さを越えると木は 生えていないのです。てか、生えません。限界高度があるそうです よ。 なのでこの家の周りの鬱蒼と繁った森はあり得ないコトなのです よ。⋮⋮何で私敬語何だろ⋮⋮戻そう。何か違和感が⋮⋮うん、戻 そう。 えっと? あ、そうそう⋮⋮あり得ない事の話だった。 さっきの話の通りこの世界では理屈では到底説明出来ない事が幾 つも存在する。で、私の家の周りの森はあり得ないのだ。この世界 でそれが普通なのだと思っていたけど実際はこの場所が特別何だそ うだ。何でも魔素が余所よりも集まり易くその集まった濃密度の魔 1227 素を吸収することでこんな高い場所でも森が繁るのだとか⋮⋮by マミィ その所為で周りに棲む魔物は強力になり、魔物から魔獣にランク アップするモノが多い。私達妖怪や人間も少なからず影響が有るが、 1ヶ月以上いない限り大丈夫⋮⋮⋮あ、私達?大丈夫。慣れたから。 一年間ここに居ればなにもしなくても力が増幅する。勿論、この 危険な場所で一年も生きていられたらの話だが。 さて、今回は肉確保の為に家が建つ高いテーブルマウンテンの様 な広大な出っ張り通称“季節の箱庭”からそのかなり下に広がる大 森林に降りて狩りをしようと思うのだ。ほら、父さんに崖から突き 落とされたエピソードの時に行った所だよ。結局あまり行けなかっ たけど⋮⋮。 ちょっとここで補足ね。家の建つ場所“季節の箱庭”って言うん だけど、まさにファンタジーだ。なにしろ春夏秋冬が場所毎に分け られているのだから。夏のエリアは何時も夏の気候で、冬のエリア は年中雪景色。秋のエリアは何時も木の実を実らせている。家の建 つ春のエリアは温暖で花が咲き乱れている。そんな感じに季節が別 れている。そんな不思議な場所なのだ。それにこの場所、クドイ様 だが高所だ、なので虫が居ない⋮⋮なら農業に響く⋮⋮のだがソコ は母さん。蜂妖怪と共存して解決している。ハチミツも貰ってるし ⋮刺されることもないし⋮⋮私には良いこと尽くめだ。まぁ、私が 白神に貰った“白き箱庭”でもハチミツは採れるし事足りるんどけ どね。ソコは母さんにも内緒だ。 1228 それにお湯の沸点も低いし⋮⋮けど、それは家の中では普通にな るようにしているから別に代わり無いけど。 まぁ、それはそれとして。 その場所からかなり下に広がる大森林は見渡す限り森が続き季節 トンプク がきちんと巡る。今は大体初夏辺り。今の季節ならブタ型の魔物が 活発らしく肥えているとか⋮⋮ターゲットはそのブタ型の豚腹と言 う魔物に決定だ。が、果たして私だけ狩れるか⋮⋮殺ってみよう。 と、その前に⋮⋮ ︵白神⋮⋮ちょっと聞きたいことがあるんだけど。︶ ﹃ん?なんだ?今丁度ニ〇ニ〇動画を見ていたのだが⋮﹄ ︵⋮⋮ちなみにどんなの?︶ ﹃ゆっくり実況だ。今はホラーモノを見ている。﹄ あぁ∼。アレは面白いよね。神様が某笑顔動画を見ているのには ノーコメントだ。てか、もう慣れた。異世界旅行でいやと言うほど 聞いたしね。てか、ちゃんとアカウントもとってる何て⋮⋮どうや ってとったんだか⋮⋮これぞ神のみぞ知る。神の味噌汁ではないか らね?︵変換で何度も神の味噌汁と何故か出てきた。いや、キチン と神のみぞ知るって打ってたよ?︶ ﹃人間の知り合いに頼んでちゃんと登録したぞ。﹄ ︵へー。で、だ。︶ 1229 話を戻し、事の顛末を話すと、 ︵︱︱︱︱︱てな訳で。︶ ﹃フムフム⋮⋮コバエが五月蝿いとな⋮⋮チッ⋮折角二人が幸せに なるようにしていたというのに⋮⋮コバエごときが生意気な⋮⋮捻 り潰し⋮ゴホン⋮⋮そうだな、どうにかせねばな。﹄ 今のキャラ崩壊は聞かなかったことにしよう。 ﹃そうしてくれ。さて、ならば私も手を貸そう。何より暇だしな。 世界に影響がない位には手を貸せる。何より暇だからな。﹄ ︵助かるよ⋮⋮正直言うとさ、侵入者を殺す事は出来ても黒幕を引 き摺り出すことはできそうに無いから⋮⋮︶ ﹃それだけでも十分に思うが⋮⋮まだ8歳だろう。﹄ ︵そうだけど⋮⋮中身は三十路間近のオバサンだし、異世界分を入 れると婆さん通り越してミイラだし⋮⋮コレくらいはしないとさ、 母さん達も今のところ手出し出来ない様だし⋮⋮︶ ﹃だろうな。でなければ家にあの者を 連れては来なかっただろう⋮⋮舞子達はちと事情が違うようだかな ⋮⋮彼女を許したのか?﹄ 唐突に聞いてくる白神。私は嘘をつく気は無いので正直に答えた。 ︵異世界に居るときにも聞いたよね。⋮⋮舞子が自分からこの世界 1230 キドウジ に行きたい⋮何て言ってなかった様だし? 全部、黄童子が用意し てから彼女を誘った⋮⋮なら、私を殺したのは黄童子。彼女がした 事は後宮での事と、藍苺に掛けた呪詛と不法侵入位⋮⋮私が直接恨 む事なんて無いよ。︶ 何よりそんなことまで恨む暇はない。年を取ると要らないことに 暇を費やす事はしたくないのだ。だからしない。それが私の考えだ。 ﹃ちとお人好しな気もするが、本人が良いと言っているのだからな、 良いのだろ。﹄ ︵うん。ま、今度何かしたら⋮⋮実力行使するけどね♪︶ ﹃⋮⋮⋮⋮︵恐怖︶﹄ さてさて⋮、狩りを始めよう。 キュウキ 先ずは窮奇、虎の姿になる。翼は邪魔なので肩胛骨の下に収納し ている。こんなことも出来たのか⋮⋮何となくやってみたら出来た のだ。 ﹃何事もやってみるもんだな﹄ ︵だね。︶ そして次は⋮⋮臭いで獲物を追跡する。小虎が地面をフンフンと 嗅いでいる姿は可愛いだろうが、私は今真剣だ。嫁さんがここに居 れば問答無用で抱き締め狩りどころではなかった⋮⋮だから置いて 1231 きたのもある。 生憎と今の私の姿は白地に黒いシマシマの森では悪目立ちする格 好だ。だが、九尾はもっと白く目立つし、白龍は獲物が気配に気付 いて逃げてしまう⋮⋮。なので、気配を消せる、黒いシマシマのお 陰で多少カモフラージュ出来ている︵ハズ︶の窮奇が一番マシなの だ。この姿でも気配は強く小物は逃げていくが⋮⋮ その所為である程度の大物でなければ狩れないのだ⋮⋮面倒だ。 チート過ぎるのも考えものだな。 なら人の姿で狩れば?と思うだろう。私も始めは思ったよ。けど、 どうも人の姿は弱く見えるので襲われやすいのだ。 ﹃む?⋮⋮豚腹という魔物が前方に居るぞ。﹄ ︵うん。今視認した。︶ 異世界で培った獣の狩りの仕方、今発揮せずにいつするか。 私は茂みに身を隠し息を堪え全神経を気配を隠すことに集中した。 獲物は私には気付いていない⋮⋮獲物︱︱豚腹は豚が魔物化したモ ノだ。なので外見は猪に近いが猪よりも温厚だ⋮⋮が、攻撃されれ ば凶暴化する。注意すべきは豚には無い猪の様な立派な牙と頑丈な 鼻と頭だ。突進から繰り出される鼻スタンプと頭突きは岩をも砕く ⋮⋮鼻が頑丈なのは何となく分かるが⋮⋮何も頭まで固くならなく 1232 ても良かったのに⋮⋮柔らかい頭を守るため鼻が頑丈になったのな ら分かる。なのに、頭まで頑丈何て⋮⋮母さん著者の魔物・魔獣図 鑑が無ければ悩んだところだ。 ﹃ほお⋮⋮今度その図鑑見せてくれ。﹄ ︵今度ね今度。今狩りしてるんだから静かにしてよ、集中出来ない ⋮。︶ ﹃すまん﹄ 豚腹は呑気に草を食みながらのんびりしている⋮⋮捕食者たる私 がいるとも知らずに。ま、やつの方が体格が良いのは否めないが。 それでも狩らなければいけない。散々心配を掛けた嫁さんと母さ んに少しでも美味しいものを食べさせたい⋮⋮。それに今は男だ。 家族の為に狩りをするのは当たり前だ。男じゃなくても狩りをする けどさ。 獲物の様子を窺いながら観察する。獲物の脚は強靭だが瞬発力が あまりなく、ある程度の助走をつけて突進しないといけないと図鑑 に書いていた。と、なると⋮⋮ ︵うん。狭ければ突進も出来ない。あの鼻と頭で頭突きしても威力 は半減する。︶ 丁度よく窮奇は地属性を持っている。岩で獲物を囲み動きを鈍く 1233 しよう。とは言え、ヤツもバカではない。豚は本来とても賢い。魔 物となってもその知性は無くなっていないだろう。魔物としては下 級だがこの大森林で棲息しているのだ、何かしらの理由がある。力 も無く知恵も無い者はここでは生きていけない。 どうしたものか⋮⋮無闇に飛び出していっても逃げられるか突進 されるか⋮⋮。 ︵そうだ。あの手を使おう。︶ 豚腹の弱点は食への探求心だと図鑑に書いていた。詰まり、美味 しい食べ物に対して目がない。まぁ、食い意地が悪いということだ。 そこで私はとある物を用意していた⋮⋮キノコだ。別に某配管工 の赤い白のドット模様ではなく、どちらかと言えばモンスターをハ ントするゲームの方だ。あれだ、特産のキノコだ。苔が生えた豚モ ンスターに何故か生えてる事があるキノコだ。あれのモンスターよ りはこちらの豚腹の方が倍近くでかいが。ちなみに、ヤツは私より より一回り以上でかい。私はゴールデンレトリバー並みの大きさだ ⋮⋮アレ?私少しでかくなってないか?まぁ、いいか。豚は本来と てもでかくなる生き物だ。大型犬よりも遥かにでかく⋮⋮勝てるか ?コレ。 でだ。キノコを獲物の近くに転がす⋮⋮鼻が良いのに私には気が 付かない豚腹は転がしたキノコに気が付いたのか頻りに鼻をクンク ンしている。どうもヤツは目があまり良くないらしい⋮⋮目の前の 1234 キノコに目では気が付かない様だ。 臭いで在りかを感知した獲物はそちらをドスドス⋮と歩みを進め る。しめた! ︵掛かったな⋮⋮︶ ﹃︵獣の姿で悪どく笑うと凶暴性が増すな︶﹄ 獲物が進む場所、キノコを転がした所にはワナを仕掛けた。私が 発動させることによって獲物はソコに岩によって閉じ込められる仕 組みだ。 ﹁ゴフゴフ⋮⋮ガサガサ﹂ 良くない目の所為で中々キノコにあり付けない豚腹は下に積もっ た落ち葉に鼻を付けて探し始める。そしてワナの場所まで来た。 ︵今だ!!岩よ塞げ!︶ 地面から頑丈な岩を出現させて獲物の周りを囲む。しかしヤツは 猪の様に高く跳ぶことが出来ずパニックを起こす。頻りに後ろに下 がり邪魔なので岩を得意の突進で廃除しようとするが下がるほどの 距離はなく身動きも取れない。まさに万事休す。いくら食い意地の 悪い豚腹でもこんな事態ではキノコへの興味もなくしたか探してい たキノコを踏んでいた。 ここで透かさず白龍になる。人の姿では他の魔物に襲われる危険 1235 があるからね。この大森林ではおいそれと一人の時、人の姿にはな れない。今回は雷撃でケリをつけることにする。だが、獣の姿は術 を使うときには属性を左右されやすく、雷属性と相性の悪い地属性 持ちの窮奇では半減するのだ、威力が。なのでその使う属性毎に姿 を変える必要があるのだ。フルパワーの場合は。 直接獲物の喉笛に噛みつけば良いのだが、今回は時間を短縮した いし、口の周りを紅くするのも得策ではない。何よりまだ最大の狩 りが終わっていないのだ。 いくらデカくても何の耐性も持たない豚腹は雷撃に撃たれ地に伏 した。何とも呆気ない最後だった。 ﹃有難う⋮⋮お前の命は確かに貰うよ﹄ 貰い受ける命に感謝を。狩るものが狩られるものに対しての最大 限の感謝だ。まぁ、狩られる側からしたらいい迷惑だか。私の気が おさまる。 解体するために手頃な大きさの結界を張る。この時大く頑丈そう な木の近くで張るのがお勧めだ。こうすれば人の姿でもこの大森林 で行動できる。解体は無防備になるため結界は欠かせない。帰って 解体するのも出来るが、何分この獲物は重い。いくら私がチートで もコイツを担いで崖を登るのは骨だ。 1236 なのでここで解体していまう。 このデカさでもポーチに入れられることは出来るが⋮⋮何か気分 的に嫌だ。勿論解体した肉はちゃんと専用の袋に入れてからポーチ に入れるよ? ﹁ふぅ⋮⋮この瞬間が一番嫌いだ。﹂ ﹃ならばせねば⋮⋮とも言ってられんな。﹄ 獲物の腹を裂き、臓物を取り出す。食べれるものは何でも食べる。 内臓はレバーからハツ、私はあまり食べないがポチや兎天が食べる 胃や大腸⋮⋮たまにモツ鍋にして食べるけど。ソーセージには使え ない︵使えない部分︶小腸やその他の臓器は持ち帰る。何度も言う が、私達はあまり食べない。ポチや兎天が食べるのだ。後、たまに 母さんが実験に使うとかで持っていくのを見た⋮⋮。 ﹃⋮⋮⋮何があったのだ﹄ ﹁知らん。世の中知らない方がいいこともある。﹂ ﹃⋮⋮⋮﹄ 頑丈そうな木の枝に獲物を吊るす。十分に血抜きするためだ。吊 るす前に頭を落としておく事も忘れずに。 しな 獲物を吊るした枝が撓るが折れない。頑丈な枝だ。辺り一面に血 の臭いが充満する。とても心地のいいものではない。寧ろ嫌いな臭 1237 いだ。とても慣れることは出来ない。 落とした頭は母さんが使うそうなのでそのまま持ち帰る。頭は耳 と鼻︱︱は固くて無理か、食べるところはあまり無いので正直に母 さんに渡す。その他の部位は食べれるものは食べる。脚は豚足だ、 蒸して塩胡椒をふって食べても良し、骨はスープの出汁に、後、ポ チのおやつにも。 捨てるところ何てあまり無いのだ。感謝だ感謝。これでいくらか 家計が楽になります豚腹様、有難う。 一先ず臭いも遮断する結界の中に獲った獲物を吊るし、次の獲物 を狩りに向かおう。大食な家族は辛いよ。⋮⋮ふぅ⋮⋮ 1238 キチガイと病んでる奴はお断りだ。︵前書き︶ 三話連続投稿。これは二番目ですよ。お間違えの無いように。 別名イガグリの暴走。 1239 キチガイと病んでる奴はお断りだ。 うぇー⋮⋮あ、どうも。大食の家族を養うため目標数獲物を狩っ ておりました、紅蓮です。 いやぁ⋮⋮疲れた。狩っては吊るした場所に引き摺っての繰返し ⋮⋮それを5回続けて漸く捌き終わりましたよ。でもこれで一週間 は持つね。収穫は豚腹5頭、雉を4羽。この体での狩りにしては中 々の大漁だ。満足。 ﹁ふぅ⋮⋮血の臭いが充満してると⋮⋮ヤバイし⋮⋮﹃浄化﹄﹂ 血の臭いは強い魔物を呼ぶ。すると厄介なので臭いと血を﹃浄化﹄ の術を使い消す。 この浄化の術は比較的簡単な術で術師なら誰でも使える初歩的な 術なのです。用途としては部屋の掃除とか、ハウスダストやアレル ギー︵主に犬猫の毛など︶、他にもカビや空気中の埃、そして臭い を取り除き正常にしてくれる何とも花粉症に悩んでいる人には涎も のな術です。ま、このハイスペックな体には花粉症やアレルギー何 て関係無いのですけどね⋮。専ら消臭に使っています。後は母さん が風呂場やトイレ︵水洗︶とかに予め掛けている事もある。ほら、 白の国の大浴場に掛けてあったアレです。 1240 ﹃大漁だな。ん?⋮⋮ソロソロ奴等が動き出す様だ。家の近くまで 送ろう。﹄ ﹁あ、そうしてくれるなら願ったり叶ったりだよ。じゃ、よろしく。 そうそう、丁度奴等から見て家から出てきた様に見せてね。﹂ ありがたいことに白神が家の近くまで送ってくれるそうだ。手間 が省けた。ま、元々お願いする予定だったのだけどさ。さて、作戦 開始と行きますかね? 解体した肉はポーチにしまう。これで手ぶらだ。敵もまさか私が 今まで狩りをしていたとは思うまい⋮。嫁さん達は今頃どうしてい るのかな? ******** 早々と狩りに出掛けていった紅蓮を見送り朝御飯に手をつける。 少し前までは朝御飯はパン1択だったが、これからは米も出すと言 っていた。白の王から買った米だ。だが、多分麦ご飯だろうな。後 は玄米とか⋮⋮晩御飯なら白米で出てくるだろうが、朝は高確率で 1241 出てこないだろう。ま、仕方が無いのだ。俺達はよく食べるから。 俺は不満はない。 それに、ベルが居るならそれだけで幸せだし。 ﹁ん∼⋮、凝固剤にはカビを使うと良いのね⋮⋮何の種類なのかし ら⋮⋮調べないと⋮ウフフフ⋮腕がなるわ♪﹂ ﹁︵チーズが出来れば⋮スイーツの幅も広がるよな⋮ちょっと楽し みだ。︶﹂ 朝食を食べ終え優雅に紅茶を飲んでいるが目がランランと光⋮⋮ アレだ、マッドなサイエンストが面白い実験にワクワクしてる目だ。 無闇に話しかければ⋮⋮ダメだ。これ以上考えてはダメだ。 麗春さんの様子は気になるが気にしたら敗けだと思う。負けとい うか⋮⋮うん。負けだ。 今日の朝御飯の献立はトースト3枚、ウインナー10本、サラダ ︵1人分ずつ︶、昨日の残り物数点だ。 ﹁モグモグ⋮︵サラダを一人ずつ分けている辺り俺の行動は読めて るってことか⋮⋮︶﹂ ﹁この紅茶を飲み終わったら皆を起こして来るから食器の片付けお 1242 願いねランちゃん?﹂ ﹁分かった。﹂ 漸くいつも通りに戻った麗春さんに少し安堵する。暫くああだっ たらどうしようかと思ったが、杞憂でよかった。 麗春さんの申し出は俺にとっては好都合だ。実際のところあまり 人前で食べるのは好きではない⋮⋮。それに、食器の後片付けに時 間を取られる俺からしたら顔を会わせずに済む。特にイガグリは昨 日ガン見されたので正直会いたくない。 ﹁ふぅ⋮⋮ご馳走さま⋮⋮﹂ ﹁美味しかったわね。ご馳走さま。さて、起こしにいってくるわね。 ﹂ そう言ってキッチンから出ていく麗春さん。リビングにはもう客 人達の朝食は並べられている。本当に起こしてくるだけだ。やるこ となんて無いに等しい。 俺は最近慣れてきた食器の片付けを開始する。これは結構な労働 だと思う。日頃任せっきりだったが自分でやってみると大変さが分 かる。レンが目を覚める時にはすっかり俺の仕事になっていた。ま ぁ、たったの二人分何てそこまで苦じゃないけどな。 1243 だが注意することがある。まず、油汚れは水では落ちない。麗春 さんお手製の食器用スポンジと洗剤で汚れは落ちるが、洗い流す時 どうしても水だと油のヌメリが残るのだ。これは最初知らなかった。 だからレンはいつもお湯で洗い流していたのか⋮と納得した。知ら ずにいたのが恥ずかしい。後は手が荒れる事だな。荒れにくい洗剤 でも荒れるものは荒れる。汚れも落ちると言うことは手の油も取れ る⋮⋮すると荒れる。当たり前なんだが⋮⋮地味に手荒れは堪える。 主婦って凄いんだな⋮⋮。 さて、話は変わり、この家は麗春さんが建てたらしい。それを知 った時﹁凄い﹂の一言しか出なかった。蛇口を捻れば綺麗な水が出 るしお湯も出る。冷蔵庫やIH式コンロにドライヤー等の家電⋮⋮ 全て麗春さんお手製。流石にレンも脱帽していたぞ。どうやって作 ったのか未だに謎だけど、とても快適に暮らせている。 あれ? 話が脱線してるな⋮⋮何の話だった? あぁ∼。食器を洗っていたんだっけか? そうそう、うん。実は な、食器洗い機も麗春さん作ったんだ。けど、レンはそれを使わな い。何故か、﹁食器くらい自分で洗う﹂がポリシーらしい⋮⋮俺に 言わせれば、レンはいつも端っこに置いてある食器洗い機の存在を 忘れているだけだと思うぞ。 ま、俺も人のこと言えないけど。思い出す前に洗い始めちゃった し⋮⋮。 ﹁ふぅ⋮⋮﹂ 1244 何故かため息が出る。どうもリビングに客人達がやって来た様だ。 静かだったキッチンにまで話し声が聞こえてくる。ぶっちゃけ俺は 家に他人が居るのは落ち着かない。てか、嫌だ。ある程度面識が無 いと話したくはない⋮⋮そんな事は無理なのは分かっている。話し 昔 掛けられれば喋るし、最低限話はする。が、他愛ない話を自分から ふる何て事はしない。面倒だったから⋮⋮。例外は、前世ベルにア プローチした時くらいだなぁ⋮⋮やぁ⋮懐かしいな。 あの時は自分でもびっくりする程積極的だったからなぁ。恋は人 を変えるってホントなんだな。出会った時から何か不思議に感じた 感情が恋だと気付いた時は二十歳で漸く初恋だと思ったよ。晩生だ よな、俺もベルも。ベルも初恋が俺だったのがどれ程嬉しかったか ⋮⋮ゴホン⋮⋮あー⋮話が逸れた。 何回話し逸れんだよ俺⋮⋮で?何の話だった? あぁ∼、俺が話し下手な話だったっけ。ま、俺が自分らしく話せ るのは後にも先にもベル⋮⋮レンだけだってことだだあ、ミケは家 族みたいなもんだから論外な。から、麗春さんには悪いが俺は客人 達には関わる積もりは全くない。 空気読め?フッ⋮⋮嫌だね。厄介事は要らねぇんだよ。生意気? 誉め言葉と取っておく。協調性が足りない?元からだよ。直す気は 今のところない。 ﹁何故貴女が食器など洗っているんですか?﹂ 1245 ﹁!!!!﹂ うぉい!!ビビった∼、マジでビビったぞ。顔の表情筋動かなか ったが内心Σ︵゜Д゜︶な顔だ。何ぞ用があるんだよイガグリよ。 ︵焦っています︶ タイガ シンクに向かい食器を濯いでいると急に後から声を掛けられた。 振り返ると一番二人きりで会いたくないイガグリこと大雅王子が居 ゜ た。何のようで主婦︵主夫︶の聖地・台所に無断で入ってきた小僧。 そしてなんだ、俺が食器洗ってたら不味いのかよ。あ?︵# Д゜︶ ﹁何の用でしょう?︵我慢我慢⋮⋮︶﹂ ﹁藍苺さん。貴女はどうして下女の仕事をしているのですか?兄上 達はそんな事を貴女にさせているのですか?これではただの下働き だ。貴女はそんな事は似合わない。﹂ は? 何を言っているんだこのガキは。俺が食器洗ってたらダメ なのかよ。てか、その言い方は縁の下の力持ちの下働きさん達に失 礼だろ。何様だコイツ⋮⋮あ、王子様か。⋮⋮ダメだコイツ、再教 育しないと。レンが黄の国の王似にて女にだらしなくならないか心 配してる節があったが、高位の身分に生まれた者にありがちな傲慢 さが浮き彫りになってきたんじゃないか? ﹁やっぱり紅蓮兄上では貴女を幸せには出来ない。貴女が望むなら 僕は⋮⋮﹂ 1246 は?⋮はぁ?? 何言ってんだコイツ。湧いたか?頭湧いたか?。 ⋮⋮ん?これは俺が冷遇されてると思ってる?シンデレラみたいに ⋮⋮で、自分なら助けてあげられると思っる? ⋮⋮⋮うぁ∼、無 いわぁ⋮⋮ヒーロー気取りか?⋮⋮迷惑だぁ⋮⋮うん。ここは否定 しよう。 ﹁何を勘違いしているのか分かりませんが、如何に王子でも人様の 家庭を勝手に誤解しないでください。はっきり言って迷惑です。失 せろ小僧。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ⋮⋮⋮やってしまった。 丁寧に誤解を説こうと思っていたのに、つい本音が⋮⋮アハハ⋮ ⋮ハァ∼。 あれ?⋮⋮無反応なんだが? ﹁⋮⋮だ。﹂ ﹁は?︵何だよコイツ⋮⋮︶﹂ 様子がおかしい⋮⋮アレだ、白の国で侍女が操られた時と同じだ。 1247 目は虚ろで覇気がなくボンヤリしてる。異様で気持ち悪い。 ﹁貴女はここに居てはいけない⋮⋮僕が幸せにします。紅蓮兄上よ りもずっと⋮⋮幸せに出来る。﹂ ﹁迷惑だ。回れ右して帰れ。いい迷惑だ。﹂ このまま言われ放題なのも癪だ。レンよりもずっと幸せに出来る だって? バカにすんなよ。レンに幸せにして貰おうなんて思っち ゃいないんだよ俺は。逆に俺がレンを幸せにしたいんだよ。それに な、幸せってもんはしてもらうモノでもない。ましてや自分だけ幸 せになっても虚しいだけなんだよ。 それを押し付けようなんて⋮⋮余計なお世話だ。一昨日来やがれ、 小僧。 ﹁僕なら貴女にそんな事はさせない。寂しくさせない⋮⋮決して目 を離したりしない⋮⋮誰の目にも見せないように部屋に置いておき ます。貧しい思いをさせたりはしない⋮⋮﹂ 何か⋮⋮ホントに気持ち悪い⋮⋮あ!アレか?今流行りかは知ら んが、ヤンデレか? いや、ヤンデルか? ま、どっちでも同じだ。 俺からしたらどちらも迷惑極まりない事だ。 ﹁一方的な幸せの押し売りは遠慮する。幸せってのは他人が決める ことじゃない。お前に勝手に決められるのは虫酸が走る。自分の幸 せは自分で作るもんだ。自分で決めるものだ⋮⋮お前に言われる筋 合いはない。とっとと失せろ!!﹂ 1248 あ、⋮⋮王子相手に言っちゃったよ⋮⋮ま、良いか?嫌でも⋮⋮ レン達に迷惑かけるかも⋮⋮ ﹁何で⋮⋮ナンデ⋮ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ ⋮⋮ダレモボクヲミトメテクレナイノ?﹂ ﹁⋮⋮⋮︵ぎえぇ∼∼狂ってる∼∼。トチ狂ってる∼。︶﹂ えー⋮只今の状況を実況すると⋮⋮俺に自分の考えを否定された ので癇癪起こしてトチ狂った。以上実況終わり。 何もアイツの考えを完全否定した訳じゃないけどな。自分の幸せ は他人の幸せとは限らないって言いたかったんだけど⋮⋮火に油ど ころかガソリン注いだみたいだ。昔から言葉が足りないとか言われ ていたが⋮⋮俺ってそんなに言葉足りないか? ﹁ナンデナンデナンデナンデナンデナンデ⋮⋮﹂ イガグリは壊れたラジオよろしくブツブツ同じ言葉を呟いている。 ホラーな展開か?フッ⋮⋮コレはホラーとは程遠い。ホラーではな いな。ホラーな展開等とは断じて認めんぞ? 気味が悪いのはあるけど⋮⋮何だろうな⋮⋮ちょっと滑稽で笑え る?フッ⋮⋮あ、そう思ったら何か笑えてきた。 1249 だってさ、ずっと同じ言葉を何度も繰り返してるんだぞ?真顔で。 ﹁ボクヲミトメテヨ⋮⋮ボクヲミトメテ⋮⋮﹂ 気が狂ったイガグリは俺に掴み掛かろうと手を前につき出して襲 い掛かろうとしていた。アレだ、ゾンビとかが人に襲い掛かるポー ズだ。お?ここだけはホラーか? 何て関係無い事を何故か冷静に考えている自分が不思議だ。つい この前までは気が小さかったのに⋮⋮アレだろう。ここ1週間辺り で前世の記憶をかなり思い出した所為かな? そんな結論を勝手に出していた。ゾンビよろしく掴み掛かろうと しているイガグリはすぐソコまで迫っていた。が、それは以外な事 で阻止された。 ﹃きゅう∼∼!!﹄ ﹁ウグッ⋮ッ⋮グァ⋮⋮﹂ ソウ 薬入れから勢いよく飛び出した管狐・奏によって阻止された。イ ガグリの首を奏がその細長い胴体によって絞められることによって。 1250 大物を釣るには大きな餌が必要だ︵前書き︶ 三話連続投稿最後の話です。 1251 大物を釣るには大きな餌が必要だ 俺はどうすれば良いだろうか、このような場合は⋮⋮。 ランメイ あ、どうも。紅蓮の妻︵不本意︶のちょっと根暗と呼ばれる︵ゲ ームでの事︶藍苺だ。前世は男で同じく前世は女だった紅蓮の旦那 だ。今は妻だけどな。現在二人とも8歳の子供。最近まで前世の事 を大半忘れていたが、あの﹁魔の2週間﹂騒動︵命名俺︶の間に大 方の記憶を取り戻した。細かい記憶はまだ戻らないが⋮⋮。 レンは⋮⋮イヤ、ベルは俺にとって大切な存在だ。勿論前世で息 子だったシュウも大切だ⋮⋮天秤に掛けるなんて出来はしない。だ が、あの子はもう俺達の子供では無くなってしまった⋮⋮喪失感と いうのはいつまでたっても消えないものなんだな⋮⋮。俺もベルも 未だにシュウの事は忘れられないでいる。特にベルは未だにシュウ の事を気に病んでいる。自分の所為で死なせたと思っているから。 あいつは昔から本音を隠すのが上手い。そりゃあ人をおちょくっ て遊ぶほどSっ気があるが、人並みに弱い部分もあるんだよ。いく らあの2週間で何か成長する事があったとしても⋮⋮そうそう人っ てもんは強くなれはしない特に精神的なモノは。分かるんだよ⋮⋮ 俺も弱いから。 さて、話が変な方向になったが戻そう。今の状況は、レンの眷属 の管狐の奏がイガグリの首を絞めている。危険な状況だ。 俺はどうするべきか⋮⋮。イガグリは一応は黄の国の王子だ。こ 1252 こで死ねば外交問題に発展するか?そうすると白の国にも迷惑がか かる⋮⋮だろうか?白の国も一応は俺の故郷だし、それだけは回避 したいが⋮⋮コイツがまた暴れでもしたら面倒だし。え?酷いだろ ? ハッ︵嘲笑︶自分の身を守ることの方が優先だろ。それに、い くら奏でも絞める力に手加減はしているだろ。 ﹃きゅきゅ!! ご主人さゃまの大切な人に触るなでしゅ!!﹄ ﹁グァ⋮グッ!⋮ウ゛ゥ⋮⋮﹂ 奏が何と言っているか俺には分からないが、俺に近付くな的な事 を言っているのだろう。レンの眷属は皆総じて主思いだから、その 妻という位置にいる俺も保護対象になるのだろう。特に奏は黄の国 に俺が連れ去られレンに化けた黄童子に刺された事を気にしていた。 二度と同じ過ちはしないと意気込んでいるのかも知れない。が、や はり首を締めるのは不味いだろ。 ﹁奏⋮⋮首はやめてくれ。出来れば胴体に巻き付いて腕の自由を奪 うくらいが良いと思うぞ。じゃないとソイツ死んじまう。事を大き くさせたくない。頼むよ、奏。﹂ ﹃きゅう∼∼⋮仕方ないでしゅ。頼まれてしまいまちたし⋮⋮きゅ う⋮﹄ 仕方ないと言わんばかりに首を緩めた。俺はイガグリの背後に回 り両腕を拘束して奏が胴体に巻き付き易いようにした。そして首か 1253 ら胴体に移動して巻き付いて拘束する。管狐の体は一体どうなって いるんだろうか?伸縮性が驚異的だぞ。イガグリは確かに子供だ。 その子供の胴体だからといって何重にも巻き付く何て驚きだ。本当 にどうなってんだ? ﹃きゅ!大人しくお縄にちゅくでしゅ!!ご主人さゃまのけんじょ く︵眷属︶になってから力には負けないでしゅよ!﹄ ﹁︵何て言っているのか気になる⋮⋮あ、この事麗春さんにいった 方が良いよな⋮⋮︶﹂ 呑気にそう考えながらキッチンから出てリビングに向かう。それ にしてもイガグリは一体どうしたのだろう⋮⋮ここに充満する魔素 にでも当てられたか? リビングに続くドアを開けようとした。しかし、ドアノブに手が かかる前にドアが開き報告しようとしていた麗春が目の前に立って いた。ナイスタイミング?それとも俺は遅いと言うべきなのか? ﹁ランちゃん!!﹂ ﹁ナンデスカ麗春サン?﹂ 自分でも驚くほど片言になっていたのには突っ込みは無しで。結 構驚いていたのだ。 1254 ﹁⋮⋮⋮大丈夫そうね?︵な、何で片言?︶﹂ 思いの他勢いよく開けられたのだろうドアから衝撃波でも出てい たのだろうか?後ろを振り向くとイガグリが巻き付いた奏ごと倒れ ていた⋮⋮衝撃波何て感じなかったのだか?それとも奏に絞められ た影響が今頃来たのか? 遅いなぁおい。 ﹁⋮⋮奏ちゃん⋮⋮何で大雅王子に巻き付いているの?﹂ ﹁?︵イガグリが暴走したから来たんじゃ無いのか?︶どうかした のデスカ?﹂ 未だに片言が出てしまった。 ﹁あ!そうよ! ちょっと奴らが動き出した気配がしたの。リビン グに来て。一ヶ所に固まっている方が守りやすいの。﹂ なんだ、奴らが動き出したから防衛の為に俺︵とイガグリ︶を呼 びに来たのか⋮⋮。まさかホントにイガグリの異常さに気がついて ないのか?まさかなぁ⋮⋮え?マジで? ﹁あの⋮⋮麗春サン?イガグリ⋮⋮じゃない、大雅王子の様子がお かしいんですけど⋮⋮﹂ 俺はイガグリの異常性を有りのまま話した。病んでる所とか、自 1255 分なら俺を幸せに出来るとか多少ナルシストが入ってる様に見えた 事とか⋮⋮ ﹁え?⋮⋮あぁ⋮⋮アレね、遺伝ね。舞子もダメ陛下も思い込みが 激しいのよ⋮⋮そんな血をダブルで引いたら⋮⋮ほ、ほら、多少∼ ⋮そんなところがあるんじゃないかしら?︵多分それって魔素の影 響かも⋮⋮この子そんなに耐性無かったの?︶﹂ ﹁迷惑だな。心底︵そんなの知らねぇよ。原作の主人公だか何だか 知らねぇけど、俺とレンを巻き込むなってんだ!︶﹂ 原作がどうとかかなり神経質になっているレンや麗春さん達には 悪いけど、言いたいことはコイツに言った方が良いと思うぞ。レン から聞いた原作主人公の性格は、世間知らず・無知・能天気・暑苦 しい程の正義感⋮⋮らしいぞ。能天気と暑苦しい程の正義感は性格 だ、仕方ないと言えるが、世間知らずに無知は無いだろう。 思うんだけど、主人公のコイツを更正すれば多少どうにかなるん じゃないか? レン達は﹁主人公が変に知恵をつけて勝手に動くのは予想できな い﹂﹁変なところで正義感振りかざされると目障り︵レン︶﹂等な ど⋮⋮フラグ回避に必死だ。特にレンは本音が出るほど必死だ。 ﹁大雅王子は私が運ぶわ。舞子も心配してたのよ。急に居なくなる から⋮⋮。でもまさかランちゃんの所に来てそんなことを言うなん てね⋮⋮︵原作でも主人公は藍苺に横恋慕だったものね⋮⋮。コウ ちゃんが大雅王子を快く思っていないのも分かるわ︶﹂ 1256 ﹁本当にビックリした。﹂ 麗春さんに担ぎ上げられているイガグリはとても滑稽だった。あ んな細腕でよく様に持ち上げられると感心しながらリビングに向か った。 ******* ﹃ホレ、お前の言う通り﹁お前が家から出るよに見える﹂細工をし たぞ。その扉から入ればよい。﹄ 白神の言う扉は森のなかに突如出現した。白い扉が森のなかにポ ツリと浮かんでいるように見える。まるで青い真ん丸頭のネコ型ロ ボットの秘密道具のど〇でも〇アみたいだ。色違いの。 ﹁ありがとう。さて、さっさと帰ってお邪魔虫は退散してもらわな いと⋮⋮ ﹃そのお邪魔虫はあの王子達も入っている様な口振りだな﹄ 1257 実際その通りだろう。あと数日はのんびり嫁さんと過ごしたかっ た。二人っきりで⋮⋮二人っきりで!! ﹃大事なことだから二度言ったのだな。﹄ ゜Д゜︶﹂⋮⋮⋮ ︵ちょっと、心を読んでいいのは、この︵︶内だけって決めただろ。 人権侵害だ。︶ ﹃いや、︵︶の中って⋮⋮メタいな∼。﹁︵# いや、すまん。﹄ ふぅ⋮⋮気をとり直して。さて、狩りも予定より早く終わったし とっとと家に帰ろっと。 ﹃昼頃まで掛からず終わったな﹄ そうなのである。思いの外早く終わった。コレで大物も簡単に釣 れれば良いのだけど⋮⋮ そうもいかないのが現実だ。 扉を開けて入る。他から見たら私が丁度玄関から出てきた様に見 えるだろう。 見慣れた玄関前の庭⋮⋮気候が年中常春のおかげで花壇の花はい つも咲き乱れている。それにこの場所は春以外に咲く花以外でも咲 1258 くのでとても見ごたえがある。特に今咲いている花は夾竹桃⋮⋮花 言葉は⋮⋮ どこからか火薬の臭いがした。それと金属の擦れる臭いと音⋮⋮ 乾いた発砲音⋮⋮そして ﹁⋮⋮ッ⋮!!﹂ 頭に感じた激痛に私は意識を飛ばした。 1259 大物を釣るには大きな餌が必要だ︵後書き︶ どうなる紅蓮。 帰ってきてもこんなのばっかでごめんよ紅蓮。 花の名前に間違いがあったので訂正しました。﹁沈丁花﹂× ﹁ 夾竹桃﹂○ 1260 夾竹桃の花言葉︵前書き︶ なんだかスランプに陥りそうな雲猫’です。 す⋮⋮。︵T︳T︶ ていきます。 ま、無い物ねだりしても仕方ないの 先人様達の作品を読むと自信を無くしま あぁ⋮あんな才能が欲しい。 ですがね。 m︵︳︳︶m お読みくださった方々に感謝しながら精進し 上達するかはおいといて⋮⋮ 1261 夾竹桃の花言葉 妙な胸騒ぎがする。俺は麗春さんに伴われリビングに来ていた。 リビングに入るとお馴染みのメンバー、客人達が神妙な顔付きで各 々ソファに座っていた。 麗春さんがイガグリを担いで連れてきたことには皆驚いていたが、 さして驚いた風もなかった。そりゃチートだと分かってるもんな。 妖怪だし、そのくらい普通なのかも知れない。 イガグリを舞子の隣に下ろし、自分は舞子も舞子の隣に腰を下ろ した。 ﹁ふぅ。それじゃ、今の状況を説明するわね。﹂ 麗春さんのその言葉で皆の顔が更に強ばる。果たして麗春さんは どこまで言うつもりなのだろうか。 ﹁始めに、今日は家でゆっくりしてもらうわ。何せ此処はとても高 い場所に在るの。体をならさないととても歩き回るなんて無理よ。﹂ ﹁此処はそんなに高地なのですか?﹂ 最もな質問だ。前にレンから聞いた話では 此処はとても高く、俺達にわかり訳す言えば富士山の山頂付近と同 1262 じ高さに匹敵する。それに加えて魔素の濃度も高く、それに体が慣 れないと最悪死んでしまう。特に人間の血が濃い筆頭侍女さんは辛 いだろう。舞子は神の加護で何ともないだろうが、王族の血を引い ていても、母親が純粋な人間のためどうなるか分からないイガグリ も要注意だ。 ん?もしかしてイガグリの奴は魔素に酔ったのか?だからあんな 変な事になったのか⋮⋮? まぁ、それは別にどうでもいいか。 ﹁︱︱︱という訳なのよ。息をするのも辛い、オマケに魔素の濃度 は高い。こんな場所に有るの。だから油断はダメよ。分かった?﹂ ﹁麗春さんには悪いですけど⋮⋮よくこの様な場所に住まいを建て ましたね⋮⋮何か理由でもおありですか?﹂ ﹁確かに⋮⋮この様な場所に建てる理由でもなければ⋮⋮﹂ ﹁ただ単に誰も来ないからよ。﹂ ﹁⋮⋮そ、そうでしたか。﹂ ﹁ま、まぁ、そうなんですの?﹂ ﹁︵そんなだろうと思ったよ⋮。流石麗春さん。昔と変わらずマイ ペースねぇ。︶﹂ ﹁あの⋮⋮﹂ 筆頭侍女さんが何か聞きたそうに声をかけてきた⋮⋮大方イガグ 1263 リの事でも聞きたいのだろう。それかこれからの事だろうさ。 ﹁何でしょう啓璋さん?﹂ ﹁はい。その⋮⋮大雅王子のその状態も気になりますが⋮⋮紅蓮様 はどうしたのでしょう?﹂ ⋮⋮⋮あ。そちらの方でしたか。 ﹁なるほど⋮⋮紅蓮様は畑に⋮⋮﹂ ﹁畑というものを一私一度見てみたかったのです⋮⋮今度見せてく ださいませ?﹂ ﹁これ、鈴雛。麗春さん達を困らせるな⋮﹂ アレからまたも説明をして納得してもらった。レンは畑に収穫に 行ったことにしている。狩りのついでに囮になって敵を釣りに行っ た何て言えないだろ? 麗春さんとマオ達は話に花を咲かせている。ソコに舞子と鈴雛姫、 それに啓璋さんか加わり更に花が咲いている。そんな女性の輪に入 るなんて出来そうもない⋮⋮と言うよりしないだろう狛斗王子は蚊 帳の外。何故かナチュラルに入ってる柏樹王子は別にして、俺と狛 斗王子は気絶しているイガグリは静かにしていた。 1264 狛斗王子は手持ち無沙汰で周りを見渡している。俺はそんな客人 に何か話しかけるべきだろう。が、俺は今そこまで気がまわらなか った。 ﹁︵嫌な予感がする。レンのやつ⋮⋮大丈夫だろうか⋮⋮︶﹂ いっかく 頬杖をつきながら窓から見える広い花壇の一郭に植えてある色と りどりの花を咲かせている木を見詰めた。 その木はまだ背が低くい。黄色とピンクと白の花を咲かせていた。 レンの話ではその花は毒を持つらしく、花言葉は危険⋮⋮その花の 名は夾竹桃と言うらしい。 花壇の夾竹桃は濃い目のピンクはあるが赤は無いはずだが、俺は まさか⋮いや、大丈夫だ。でも。そんな言葉 この時全ての花が赤く見えた⋮⋮。そう、まるで血のような毒々し い赤に⋮⋮ 胸騒ぎが増した。 が堂々巡りしていた。回りの音も聞こえない⋮⋮いや、聞きたくな いだけかも。 レン⋮⋮信じてるからな。頼むから怪我しないでくれよ。 麗春さんの声が聞こえた。﹁︱︱︱︱まさか!﹂。やめてくれ! 1265 ! 俺の不安を煽らないでくれ!! ******** 私にとってこの場所一帯がテリトリーだ。特にこの家の建つ場所 は常に神経が通っているように手に取るように分かるわ。誰が何処 に居るか何て直ぐに分かる。ランちゃんの居るキッチンに大雅王子 が向かった時はちょっとテンパったわ。コウちゃんからは﹁なるべ く嫁さんに近づけないで、特に二人っきりはご法度!﹂何て言われ てたから⋮⋮ホントに焦った⋮⋮。そしてキッチンに入った時も驚 いた。 何せ大雅王子が管狐の奏ちゃんに捕縛されてたんだもの⋮⋮。多 分コウちゃんに頼まれた奏ちゃんが行動したのね⋮⋮大方コウちゃ んかランちゃんの琴線に触れる様な何かを言ったのね。管狐は感情 にも敏感だから⋮⋮何かを感じ取って行動したと思うの。 そしてキッチンからリビングに移り、皆一ヶ所に集まりって私は 1266 防衛しなければいけない。コウちゃんは敵を釣りに自らを餌にする でしょう。私にとって弱味は子供⋮⋮そう。コウちゃんが私にとっ ての弱点。 勿論、朱李も弱点になるわね。彼を捕まえることが出来ればだけ ど。それにコウちゃんも一筋縄ではいかないわ。特に、あの2週間 ハイロウジン の眠りから目覚めたあの子は⋮⋮私の目から見ても前とは違ってい るのが分かった。灰老神曰く﹁永い、とてつもなく永い時を旅して きたのじゃ。﹂らしい。 そのお陰か益々一筋縄ではいかなくなっているのよ? 親として ホントに淋しいわ⋮⋮でも、その成長も微笑ましい⋮それに流石私 と朱李の子よね! ﹁紅蓮様は作物の収穫をなさるのですか?お一人では大変では?﹂ ﹁そうですわね⋮⋮。﹂ ﹁もしかして、紅蓮さんも力持ちなのですか!?﹂ ﹁そうかも知れない。麗春さんは力持ちだしね。﹂ ﹁そうね。コウちゃんは力持ちだけど、ちゃんとあちらにも働き手 は居るのよ。コウちゃん一人じゃないわ。﹂ ランちゃんと狛斗王子以外︵イガグリも︶の客人は紅蓮の話題で 花が咲いている。特に普段主達より後ろで待機していることが多い 啓璋さんは珍しく話に加わっていた。そして鈴雛姫は紅蓮の話題に 興味があるのかランちゃんとの事を聞きたがっていたがソコは良識 があったのか深くまでは聞かなかった。 1267 気が付けばもうすぐお昼時⋮⋮どうも長く話していた様だ。狛斗 王子は手持ち無沙汰で周りを見渡している。もてなす側として失礼 なことをしてしまったわ⋮⋮。でも、ま、彼の性格では私たちの話 に加わっても居心地が悪いでしょうけどね。 ランちゃんはずっと窓の外、花壇を見つめている。その花壇には コウちゃんが植えた夾竹桃の花が見事に咲いていた。あの花は毒が あるのだが、ここに咲くモノは何故か通常のものより強めの毒性を 持っている。多分魔素の影響ね。私の研究課題でもあるのよ。 私達九尾一族は植物とは愛称がいい。なので代々薬を調合するこ とに長けている。ガーデニングも得意な一族なのよ。 そんな白、黄色、ピンクの花が咲き乱れた花壇は見事だと思うわ。 コウちゃんのお母さん⋮⋮前世の母親がとても夾竹桃が好きだった らしくて⋮⋮。花が好きだった母親の影響で植えてみたくなったと か言っていたわ。やっぱりまだ前世の⋮⋮ ﹁ッ⋮⋮な、︵何?︶﹂ ズキリ⋮と痛んだ米神を押さえる。これは⋮⋮⋮まさか!! ﹁まさか⋮⋮コウちゃん!?﹂ ふと、目に入った夾竹桃の花弁がやけに赤く見えた気がした⋮⋮。 1268 1269 夾竹桃の花言葉︵後書き︶ ごめんよ紅蓮よ。君の出番来るのかな? ︵おい。︶ てか、君生きてるの? 1270 暗殺者君の受難︵前書き︶ 少々血流表現があります。ご注意ください。 皆様に感謝します。読んでくれてありがとうございます。m︵︳ ︳︶m 1271 暗殺者君の受難 俺は今、依頼された仕事を着実にこなしている。それはわ分かっ ている。だが、不安感が拭えない。珍しいこともあるもんだ。 俺の一族は植物とは相性がいい。そして炎とは相性が悪い。だか ら今回の仕事は正直受けたくなかった。目標は炎と樹の属性を持つ 悪名高い九尾一族だ。炎は相性が最悪だし、樹属性なら俺の術を見 破る可能性もある⋮⋮他にも属性を持ってはいるが対抗出来るほど でもない。ホントに勘弁だな。それに依頼人が厄介だ⋮⋮そう簡単 に断れなかった。一族の中でも腕の立つ俺に仕事を押し付けるのは 分かる。だが、奴等は厄介払いしたくてこの仕事を俺に押し付けて きた。全く、誰のおかげで今まで温かい飯と寝床が貰えたと思って んのかね。自分達は何もせず自宅警備してるなんて⋮⋮ハッ⋮アホ らし。 そして確実に一匹の獲物を仕留めた。目標の息子だそうだ。未だ 8歳。いや、仕留めたから享年8歳と言うべきか。⋮⋮あぁ⋮⋮胸 糞ワリィ仕事だよ。 薄藤色の髪を血で赤く染め上げ、今は閉じてしまった目と同じ色。 男だかまだ子供である所為か女のように見えてしまう。それに、死 んでいるのにまるで安らかに眠っている様にしか見えない。いや、 心臓は確かに止まっている。たまにいるのだ、頭を撃っても動き続 ける化け物じみた妖怪が。心臓を撃っても死なないやつもいたしな。 そんな事があったから俺は仕留めたあとに確認をする。だからこ 1272 いつは今ただの死体だ。 ﹁惨いことさせるぜ⋮⋮まだ子供なのにな⋮⋮はぁ⋮⋮この仕事辞 めてぇ﹂ 何もしたくてしてる訳じゃない。一族の決まりだ。宿命とでも言 っておこうか? 一族の奴等はそう言っている。俺にとっては﹁馬 鹿馬鹿しい﹂の一言だがな ﹁そんな事なら辞めたら?﹂ ハッ︵嘲笑︶全くだな!! ******** 麗春さんが異変に気付いてから誰も声を出さない。いや、出せな いのだ。 1273 緊張が場の空気を凍らせる。嫌な空気だな⋮⋮とても好きにはな れない。俺は何も出来ないだろ。だが、静かに冷静で居ることは出 来そうだ。悲しいが俺にはそれしか出来ない。 ﹁ッ⋮⋮ごめんなさい皆!﹂ バシュン⋮とでもいうような音がしたと思えば俺以外が意識を飛 ばした。狛斗王子なんか思いっきり机に頭をぶつけていた。ドンマ イ。 今のは何か術でもかけたのだろう。俺に効かなかったのが不思議 だが⋮⋮机に頭をぶつけるよりもマシか。 ﹁効かなかったのね⋮⋮ランちゃん。﹂ ﹁俺にもかけたの?﹂ ﹁えぇ。⋮⋮でも効かなかった。何故かしら?﹂ それは俺も聞きたい。何故だろうか。 ﹁︵ランちゃんには見せたくないのよ⋮⋮血の臭いが濃い⋮⋮これ はどちらかが重傷を負った。もしもそれがコウちゃんなら⋮⋮︶﹂ 1274 何か言いたげな顔で見つめてくる麗春さん 黙ったまま何かを考えているようだ。 ﹁何かあったんだろ?﹂ ﹁えぇ。けど、見たくないモノを見るかもしれないわよ?﹂ ﹁それは分かってる⋮⋮でもいつまでも目を反らしたままではいけ ないだろ? それに、﹂ 流石にレン一人に何もかも任せっきりじゃ俺が気が済まない。 ﹁⋮⋮⋮︵ランちゃん⋮⋮あなた⋮⋮コウちゃんと妖力が混在して いるのね⋮⋮まさか⋮⋮︶﹂ 急いで異変のあった場所に向かう。と、言っても俺は麗春さんの 後ろを着いていくだけだが。ポチは俺の前を歩き、奏は後ろを漂う。 どうやら兎天と夜夢はレンに着いているのだろう。ここには居ない。 いや、朝から居なかったような気もするが⋮⋮。いやいや、今は異 1275 変の事に集中しよう。 ﹁異変があったのは玄関前よ⋮⋮リビングの窓からは死角になって 見えないけど。確かに変なのが居た気配が微弱だけどあったのよ。 それに極僅かに硝煙の臭いもしたわ⋮⋮微かに銃声も⋮⋮ね。敵は サプレッサー この世界でオあり得ないーバーテクノロジーを持っているのかも知 れないわ。例えば銃とかね。それに消音機構の技術も⋮⋮。厄介だ わ⋮⋮。﹂ この世界はマオ⋮⋮いや、ミケが考えたヘンテコな中華や和風の 混雑する世界をモデルにしてる。何処までがゲームと同じかは知ら ないが、この世界の技術力は拳銃を作れるほど進んではいない。精 々火薬や大砲がある程度。とても携帯できる銃は作れないはずだ⋮ ⋮ハズなんだ。 だが、何事にも例外はある。では、それはどんなものだろうか? ※ケース1、天才の出現※ これは一番あり得そう⋮⋮か? まぁ、その天才が一代で作り上 げたなら凄いけど⋮⋮絶対にあり得ない訳でもない。何代もの年月 を掛ければいつかは完成するのかも知れない。だが精度はどれ程上 げられるかは未知数⋮⋮。 ※ケース2、異世界との接触※ 1276 無いとも言えないケース。特に破天荒な疫病神の黄童子が居る時 点であり得そうだ。余計な知識を誰かに渡すなんて奴が自重すると は⋮⋮考えられない。 ※ケース3、転生者の関与※ 俺的にはこれが一番あり得そうだと思うケース。そんで、神に転 生の特典で何かしらの能力で銃火器何かを作った。そしてソイツが 敵に回るなら⋮⋮そうなるとかなり厄介。 ま、どれも厄介な事この上無いけどさ。 だが、ケース3の場合は色々とヤバイだろう。レン達はチートだ がそれが戦闘でどれ程有利なのか俺は知らない。いくらチートでも 敵もチートで相性が悪ければ、最悪負ける⋮⋮つまりは死んでしま う。 俺も確かにチートの分類だろう。だが、俺の能力はパワー系に偏 っていると思うのだ。一度試しに術を使おうとしてみたがウンとも スンとも言わなかった。俺にはそちらの才能は無いらしい。つまり は脳筋チートだ。接近戦タイプ、だから銃撃戦には向かない⋮⋮て か、蜂の巣になる。 1277 ⋮⋮それに俺には実践経験が無い。それはかなりのハンデになる。 戦い方を知らないのだから。 そして何より⋮⋮俺にはレンの様に怪我が瞬時に治る程の治癒力 は無い。純粋な妖怪と混血との違いだな。俺には3分の1程しか妖 怪の血が通っていない。婆さんが妖怪だったらしいし。 一撃を与えられれば何とかなるだろうけど、攻撃が届かないなら どうにもならない。そうだろう? それに、俺が躊躇なく攻撃出来ればの話だ。俺は⋮⋮そこまで割 りきれない。 考え事をしていると玄関に着いていた。そこまでの距離でもない ので直ぐに着く。 実は今、不思議に思っていることがある。それはポチと奏の態度 だ。どちらもただ静かに玄関の方を見据えている。レンが怪我なり していればこの二匹は気付くだろう。鼻が利くし、何より眷属だ。 不思議だが主と眷属は繋がりがあるらしい。その眷属の二匹がレン の有事に慌てないなんて⋮⋮変じゃないか? ﹁︵やっぱりレンは無事なんだろう⋮⋮か?︶﹂ 不安がるな⋮⋮けれど、敵にそれを悟られるな。でもこんな時⋮ 1278 ⋮冷静でいるのは変なのか?なら、少し慌ててた方が敵から見たら 自然なのか? ん∼⋮⋮この場合、レンは無事だと考えて︵多少不安だが︶俺は 一芝居打たなけりゃならんのだろうか? 敵に悟られぬ様にしない といけないのだろうか? ﹁外に誰かいるわ⋮⋮ランちゃん物影に隠れて﹂ ﹁⋮⋮︵物影って⋮⋮玄関にはそんなに隠れる場所なんて無いだろ うに⋮⋮あ、あったよ⋮︶﹂ ま、子供一人隠れられる位だが⋮⋮いや、ガタイがそれほど大き くなければドアの両端に隠れられるスペースは有るのだけど⋮⋮。 このスペースを見たとき﹁︵なんの為にあるんだろ⋮⋮設計ミスか ?︶﹂な何て思ってた。もしかするとこの為に敢えて作ったのかも しれない。 ﹁このスペース、設計ミスだけど役に立って良かったわ♪﹂ 設計ミスだった。 気をとりなおして半開きのドアの端から麗春さんが外を覗く。俺 の場所は丁度蝶番の方なので見えない。だが、花壇はよく見えた。 1279 それに、 ﹁︵血?︶﹂ ドアす直ぐ下⋮⋮その床に⋮⋮鮮やかすぎる赤⋮⋮これはまだ新 しいのだろうか⋮⋮血? チ? ﹁あ、あ、あ、あ、アアアア゛ァ゛⋮⋮﹂ ﹁ランちゃん!!﹂ 俺はまた失うのか?喪う喪ううしなううしなううしなう⋮⋮マタ ベルヲウシナウノカ? 嫌だ嫌だいやだイヤだイヤダ!! もう、一人ぼっちはイヤだ⋮⋮ 1280 ******** 仕留めた獲物を小脇に抱えて一緒に侵入してきた仲間︵俺も奴等 もそうは思ってないがな︶の元に戻ることにした。ちょっと野暮用 も出来たことだしな。 そしたら一風変わった家の玄関辺りから嫌に冷たい冷気が立ち込 めてきた⋮⋮それに凄く恐ろしい殺気も。本能的にヤバイと思った。 これはさっさと逃げよう。本能がヤバイと言っている。 逃げようと思い足に力を入れる⋮⋮丁重に扱わなけりゃいけない 荷物も有るわけだし慎重に、だが素早く逃げなければ。足には自信 がある。五メートル程なら軽く跳べる。幸い今回の仕事では足を怪 我することは無かったが。それにこの辺は高い木々が多くある。木 の枝に跳び移ってしまえばこっちのもんだ。 ターゲット 玄関か隠れていたのは多分目標だろう。息子を仕留められれば怒 らない親はいない⋮⋮いい親だな⋮⋮俺もそんな親が欲しかったよ。 1281 二度目だってのに⋮⋮ホント俺って親運が無いなぁ⋮⋮。 ターゲット 俺の仕事はあの目標を仕留める事だが、気付かれたなら作戦変更。 スナイプ アラート 逃げるが勝ち。悪名高い九尾一族の姫は一筋縄ではいかない⋮⋮俺 の得意な遠距離射撃も警戒状態なら防ぐんじゃないか? 何せ悪名 高い九尾一族だからな。どこが悪名高いのかは知らないけどさ。 でも、そんな悪名高い一族に害をなした⋮⋮俺の一族も終わりか も知れない。ま、それも因果応報だろう。血塗られすぎた一族なん だ。俺達﹁暗殺一族﹂だからな。 それにしても⋮⋮この殺気⋮⋮本当に只者じゃないな九尾一族っ てのは。殺気と冷気に気が付いて直ぐに高めの木の枝に跳び乗った から難を逃れたが⋮⋮見ろよ⋮⋮一面氷だぜ?⋮⋮どうなってんだ よ⋮⋮これを暗殺しなけりゃいけないなんてどんな拷問だよ。それ にもう一人居るようだけど⋮⋮なんだろ?混乱でもしてるのか?殺 気が無いぞ? とか言いつつも、さっさと退散する。そして今更ながら気がつい たが⋮⋮九尾ってのは炎と樹が主属性だろ?⋮⋮副属性でもここま で⋮⋮出来るもんなのか? いやだってよ、俺は高い木の上にいるんだぞ? この高さまで冷 気がバンバン来るぞ!? こんなにも離れているのに冷気で体の芯 まで凍えそうだ。俺が跳び移ってきた木何て凍りついてら⋮⋮もう ちょっと遅ければ俺も氷の彫像になってたわ⋮⋮恐ろしや九尾一族。 1282 ﹃違う⋮⋮あれは九尾じゃない⋮⋮﹄ へぇ∼そうなのか? アハハハハ⋮⋮まだ他にも強敵が居るのかよ⋮⋮勘弁してくださ いお願いします。︵︵︵︵︵︵︵・・;︶ 1283 暗殺者君の受難︵後書き︶ 暗殺者君はこれからが本当の受難の日々です︵笑︶ 連れ去られた紅蓮︵遺体?︶果たして紅蓮の運命や如何に!? 1284 一網打尽は骨が折れる︵前書き︶ 大暴れの巻⋮⋮。誰がとはあえて言わない。 1285 一網打尽は骨が折れる 不思議なこの土地で比較的開けた森のなか⋮⋮ある集団が誰かを 待ち構えていた。どうやらイライラしながら待っている。 ﹁奴はまだか!!﹂ ﹁確かに遅い⋮⋮﹂ ﹁これ以上遅ければ長が黙ってはいないぞ﹂ ﹁ハッ⋮⋮どうせ奴の所為にすれば良いさ。あのノロマ⋮⋮いつま で掛かっているんだ。﹂ 散々な言われように私は唖然とした。コイツら仕事舐めてるな。 暗殺集団ならそれらしくしてろよ⋮⋮仕事の時くらい。 ﹁今戻った⋮⋮﹂ 一人の若い⋮⋮15歳程の男が愚痴を言い合う集団に近付き話し 掛けた。仲間のようだ。 ﹁遅いんだよ⋮⋮どれだけ時間掛けんだ!﹂ ﹁腹へったからさっさと帰るぞ﹂ ﹁終わったんだろうな? ん?その小脇に抱えてんのは何だ?⋮⋮ 目標の子供か?﹂ ﹁テメェも漸く俺らに気を利かせたのか?﹂ 1286 ﹁へぇ∼コリャ別嬪だな。﹂ 小脇に抱えている子供の顔を近付いてわざわざ確かめる悪趣味集 団。右から長身中肉の中年、低身長のポッチャリ、中背痩躯 目付きの悪い中年。 悪趣味集団はどうやら若い男が連れてきた獲物︵遺体︶を献上す るために連れてきたと思っているようだ。やれやれ⋮⋮人の趣味に はあまり非難しない方だが⋮⋮それはダメだろうそれは。それが許 されるのは二次元だけだ。いや、主要もそんなに⋮⋮知らんが、私 はそんなのイヤだな⋮⋮うん。何より倫理的にアウトだろ。 ﹁いつ聞いても気持ちのワリィ趣味だな。生きてる人間に相手にさ れないからって⋮⋮死体にそんなことしているなんて⋮⋮いつか怨 みに身を滅ぼすぜ。倫理的にどうなんだよ。相当恨まれてるぞアン タ等。﹂ ﹁あ゛ぁ゛? お前年輩にその口の聞き方は何だ!﹂ ﹁誰のお陰で生きていられると思ってんだ!ああ?﹂ ﹁テメェの親がテメェを棄てて俺ら一族が育ててやったってのにそ の言いぐさは何だ!!﹂ 親切の押し売りは単なる自己満足⋮⋮ ﹁あ、その事だけど⋮⋮俺ってアンタ等に忠誠誓ってるわけでも無 いんで⋮⋮一族辞めます♪﹂ 1287 ﹁﹁﹁はぁ??﹂﹂﹂ 後輩に辞めます宣言されて驚くマヌケ集団は開いた口が塞がらな いようだ。そのまま顎が外れてしまえばいいのに⋮⋮。それにして もこの若い暗殺者⋮⋮ノリノリである。 ﹁テメェ⋮⋮一族に背くなんてどういう事かわかってんだろうな⋮﹂ ﹁テメェの命はねぇーんだぞ!﹂ ﹁そもそも、テメェみてぇな疫病神なんかどこに行っても厄介者扱 いが関の山だろ。それを⋮⋮﹂ そろそろジットしてるのも飽きたし⋮⋮動こうかな? ﹃まぁ、アンタらの所に居るよりもマシだと思うけど?﹄ ﹁あ、それは言えてら⋮。さっすがボス∼。もっと言ってやれ!﹂ 水を得た魚の様に生き生きしている若い男、もとい、今回の協力 者⋮⋮名前は知らん。私の眉間に鉛弾をプレゼントしてくさりやが った野郎⋮⋮暗殺者君だ。 今回彼には色々と協力してもらうつもりだ⋮⋮バリバリジャンジ ャン馬車馬の如く働いてもらうのでそのつもりで。なに?人権侵害 だ?人の眉間に容赦なく鉛弾をプレゼントしてくる輩に人権はない。 はい、どうも皆様⋮⋮私、頭を撃ち抜かれてもどこぞの半魔の赤 いコートの男よろしくピンピンしております。最近︱特に目覚めて 1288 から︱チートに磨きが掛かってきた九尾狐に窮奇に白龍の血を引く 紅蓮です。おやぁ?私が死んだと思いました? ﹁貴様!!⋮⋮死んでたんじゃ⋮⋮﹂ ﹁テメェ!⋮仕留め損ねたな!!﹂ ﹁チッ!役立たずが!﹂ ﹃散々な言われようだけどさ、こいつの一撃は確かに私を仕留めた よ⋮⋮私が死ななかっただけで。﹄ 愉快なマヌケ集団は遅い動作で今更各々武器を取り出した。遅い、 亀より遅い。亀の方が危険察知能力は高いぞ! ﹁確かに俺の狙撃で眉間を撃ち抜いたぞ。それに心臓も止まってた ⋮⋮ま、見ての通り生きてっけどな。﹂ ﹁テメェ!この穀潰しが!!﹂ ﹃それをお前らが言うな! 役立たず?テメェ等に言えた義理か? ずっと年下のこいつに仕事全部押し付けてお前らはなにもせず高 みの見物⋮⋮テメェ等の方が穀潰しだろ。あと、そのみったくない 面をこっちに寄越すな!気持ち悪い!!﹄ 睨みながら言い放つ。若干眉間から血が流れているけど⋮⋮そろ そろ治そうかな? するとマヌケ集団は⋮⋮ ﹁⋮ひっ!⋮⋮﹂ ﹁ば、化け物っ!﹂ 1289 ﹁く、来んな来んな!!﹂ 愉快なマヌケ集団は面白いほど腰を抜かして慌て始めた⋮。フハ ハハハ⋮⋮愉快や愉快⋮⋮あ、逃げようとして転けてる⋮⋮ぶふふ ふ⋮⋮ダサァ⋮ ﹃何だ? 暗殺集団なんだろう? こんな見た目で怖いか??⋮⋮ フフフフフフ⋮⋮﹄ ﹁あぁ⋮⋮あのさ⋮⋮愉快なのは分かるけど⋮⋮そのビジュアルは ヤバイって。例えるなら⋮⋮かなり綺麗なゾンビ? いや、すいま せん。お願いですからその顔でこっち見ないで∼⋮﹂ 大概な言われようである。まだ生きているぞ私は。失礼な⋮⋮た だ眉間の弾丸が貫通した傷痕から血がドバドバ出てるだけだろ。そ れと、未だに抱えられているので髪がサ〇子さん状態なのも原因か? リビングデッド しかも血を流し少々貧血気味で肌の色が真っ白だ⋮⋮まるで本当 ネールハンマーで に歩く屍だろう。うん、ジンなら絶対に﹁どっかにハンドガンかロ ケランかバールの様な何か︵撲殺用︶ないか? も、火掻き棒でも⋮⋮⋮﹂とか冗談半分で言いそう。ホラー好きだ から。私は断じて死人でもゾンビでもましてやエイリアンでも無い からな? 中々死なないけど⋮⋮違うぞ!! ﹁さ・て・と⋮⋮どうするボス。コイツら縄でグルグル巻きにしと 1290 いたけど⋮⋮ここに転がしといてもいくね?﹂ ﹃別に良いけど、次の日になったら血の跡しか残ってないかもよ? コイツらがどうなろうが別に良いけどさ。﹄ 比較的安全だけど、やはりここは森のド真ん中だ。無防備⋮⋮そ れも身動きできない獲物が転がってれば⋮⋮大人しい奴等も黙って はいない。食い殺され跡しか残らないだろう。奴等は森の掃除屋だ から。それに私の血の臭いが少なからず付いている。もうダメだな。 救いようがない。 ﹃この土地の主の息子だからね私は。そんな息子の血の臭いを付け てればタダじゃ済まないだろうね。﹄ ﹁へー。慕われてんのなお前の母ちゃん。﹂ ﹃慕われてるのもあるけど、何より強い者に従うからね⋮⋮コイツ らが母さんよりも強ければ⋮⋮襲われないだろうけどね。﹄ ﹁無理だな。コイツら俺より弱いし﹂ ﹃だよね∼。今現在こんな見事に負けてるし。絶望的だよね⋮⋮南 無南無⋮⋮﹄ ﹁だよな∼。俺もボスには負けるしな⋮⋮南無南無⋮⋮﹂ ﹃﹁⋮⋮⋮アハハハハ⋮⋮﹂﹄ ﹃勿論アンタも侵入者なんだから⋮⋮ね?﹄ ﹁アハハ⋮⋮助けてくださいお願いします。﹂ ふっ⋮⋮しょうがないな∼。下僕なら考えないでもないよ? 1291 ﹁しょ、しょっぱい⋮⋮﹂ さてと、さあさあ馬車馬君、キミの一族の場所に連れてけ。あ、 場所だけ教えてくれれば後はこっちで移動できるから。ん?どうや って?⋮⋮それは企業秘密だよ。 ﹁泣いていいっすか?﹂ ﹃泣くなら後にしてね♪﹄ ﹁︵T−T︶﹂ あ、そうそう。この粗大ごみ︵愉快なマヌケ集団︶は家に持ち帰 ってね。邪魔だから。 ﹁了解ですボス。︵容赦ねぇー⋮︶﹂ さあさあ⋮⋮暗殺者集団に殴り込みに行こうかな。そんで、依頼 した黒幕を教えてもらわないと∼。口を割らなかったら?⋮⋮さて、 皆様にお教え出来るような事は無いかと⋮⋮フフフフ⋮⋮ 1292 こうして、とある国に根を下ろしていた暗殺者集団は一夜にして 壊滅したのだった。まぁ、一夜何て言ったけど、実際は昼間なんだ よね⋮⋮言葉のあやだよ。 伸びをしつつ廃墟と化した建物を見渡す⋮⋮別に好きで壊した訳 ではない。不可抗力だよ。いきなり襲ってくるから仕方無く⋮し・ か・た・な・く・!応戦しただけだし∼。⋮⋮いや、自分でもやり 過ぎたとは思っているよ? ﹁あー⋮⋮ん∼∼⋮⋮と。いやぁ⋮勘を取り戻す良い運動になった よ。ハハハハ∼。﹂ ﹁そうですかそうですか⋮⋮。壊滅した村で高笑いしないでくださ いよ⋮⋮おっかねぇから。﹂ いや、スマンスマン。何かこんな時は高笑いするのがセオリーか な?と思ってな。ま、壊滅と言っても誰も死んでないし、皆五体満 足だよ? ﹁そのナリでドンだけ怪力なんだよ⋮⋮一族の手練れが一発KOな んて⋮⋮さっすがボス。そこに痺れる憧れる∼∼︵棒読み︶﹂ そんなわけで、私は見事暗殺者の壊滅と黒幕の情報を得ることが 出来ましたとさ。 1293 それと、馬車馬君コト、暗殺者君と暗殺者集団の協力を手に入れ ましたトサ♪ フフフ⋮⋮今に見てろよ黒幕共⋮⋮捕まえる為とは言え、嫁さん に心配を掛けさせたコト⋮⋮許さんからね⋮⋮フフフ⋮⋮ 1294 一網打尽は骨が折れる︵後書き︶ この話のサブタイは﹁暗殺者君の受難その二﹂でした。 ちなみに、暗殺者君は妖怪です。ある理由から親に捨てれました。 そんで、暗殺者集団が拾い育てる⋮⋮と、言ってもマトモな育て方 はしていません。その話もどこかでちょっといれようと思います。 1295 俺の家族は皆チートだ。︵前書き︶ 紅蓮の父、朱李視点でお届けします。 1296 俺の家族は皆チートだ。 俺は感激していた。いや、涙していた。 ﹁う、うっ⋮⋮麗春に置いていかれて絶望していたが、息子から手 作りの朝御飯が届くなんて⋮⋮流石俺の息子!!﹂ ﹃な、泣いている⋮⋮どうしましょう夜夢さん。朱李様泣いてしま われましたよ?﹄ ﹃そっとしておこう⋮⋮それだけこの場所に残ったのが辛かったの だろう。﹄ 馬鹿のお守りの為に残らざるを得なかった俺としてはまさに砂漠 のオアシス⋮⋮あぁ涙が止まらない。ありがとう紅蓮。そして紅蓮 の眷属達よ。ここまで運んできてくれて感謝する。あ、この牛肉お 駄賃にやるよ。ん?自分達だけじゃ悪いって?良いの良いの⋮。あ、 そこまで言うんだったら⋮⋮はい、牛肉いっぱい持ってって♪ ん ?あぁ⋮大丈夫だ。これは俺が馬鹿のお守りで貰った物だから。紅 蓮達と食べてくれ。え?俺は良いのか? ふっ⋮⋮コイツと食べると⋮⋮味気無いんだよ。だから皆で食べ てくれ。客人も居て大変だろ?食費とか。何?紅蓮が狩りをしてく るとな⋮⋮そうか、うんうん⋮⋮大きくなってな⋮⋮あぁ⋮これは 嬉し涙だ気にしないでくれ。 1297 ﹁ん?なんだそれは。﹂ チッ! 役立たずが話しかけてくるな。俺は今至福の時を⋮⋮ ﹁見たことのない麺麭だな。どれ、食べて⋮⋮﹂ あろう事か馬鹿は俺の息子手作りのサンドウィッチに手を出そう とした。 ﹁知れものが!! 馬鹿にやるモノは無い!その汚い手で触ろうと するなー!!︵*`Д´︶ノ!!!﹂ ﹁グブッ⋮⋮﹂ 俺のサンドウィッチを食べるなど千年早いわ。食いたかったら仕 事しろ。 ﹁そうだな⋮⋮この仕事を全て終えたら一切れならくれてやろう。 ま、この書類の山を俺が食べ終わるまで終えればの話だが。﹂ 積み上げられた書類の山は二つ⋮⋮ま、お前の能力じゃ無理だわ な。 ﹁そ、それは無理だろ⋮⋮一切れくらいくれても良かろうが!﹂ ﹁じゃかしいわ!! お前が今まで遊んで暮らして溜めていた仕事 だ。怨むなら過去の自分を怨め。﹂ 1298 全く。お前が見張っていなければ仕事をせぬから俺がここに残ら されたのだぞ。それに昨日まで俺はお前の仕事の半分を手伝ってい たのだ⋮⋮これくらいの仕返し、まだ許されるだろ。 ﹁ん?なんだ⋮⋮︵手紙?︶﹂ ﹁俺は誰にも心配されないのか⋮⋮orz﹂ 仕事が滞る事は心配してるぞ皆。ま、舞子辺りは同情してたぞ? 一ミリ程なら。 俺がコイツに対する心境は姪っ子のダメな旦那を見ている様な感 じだ。実際そんな感じだよな⋮⋮ と、そうだ、手紙手紙⋮⋮。タマゴサンドにかぶり付きながら一 緒に同封されていた手紙を広げ読み始める。馬鹿は始終﹁俺にもく れー﹂等言っているが無視だ。タマゴサンドうめぇ♪ 何々⋮⋮ ∼∼∼∼前略、父上様。黄の国では如何お過ごしでしょうか。私は 漸く眠りから覚めこの様に何の変わりもなく動けています。そちら の食べ物や水は体に合うでしょうか? 父上のお体が丈夫なのは重 々承知しておりますが、何分気苦労の絶えぬ職場と聞きます。お体 の方は大丈夫でしょうか?僭越ながら少しばかりの食事を眷属達に 運ばせました。お口に合うと宜しいのですが。季節も移り変わり初 1299 夏を迎えております。季節の変わり目に体調など崩さぬようにご自 愛ください。処で、話は変わりますが、我が家では少々厄介な事態 になっております。母上の体調が宜しくないのです。食欲はあるの ですが、何時にも増して注意力が散漫して今朝も中々起きて来ない のです。これは私の個人的な見立てでは有りますが⋮⋮やや子を身 籠られているのやも知れません。なので父上にはお早い帰宅をお願 いしたいのです。お忙しいのは重々承知しておりますが、我が家の 周りには刺客の影が見え隠れしております。どうも私一人では対処 しきれません。父上、我が家に危機が迫っています。どうか一刻も 早いご帰還を願います。草々⋮⋮ ∼∼∼ な、何て堅苦しい手紙⋮⋮いやいや、そこじゃない。え?やや子 ?子供!?麗春そんな事一言も言ってないぞ!え?刺客!?!? ﹁こうしては居られん!﹂ ﹁は?﹂ ﹁おい、さっさと仕事を片付けろ。一大事だ!!我が家の一大事だ ーー!!!⋮⋮ゲホゲホ⋮﹂ ﹃これが俗に言う﹁爆弾発言﹂何ですね⋮⋮主様は何と手紙に書か れたのでしょう?﹄ ﹃あれほど慌てるのだ⋮⋮余程の事だろう。﹄ 1300 代2子誕生か? いやいや、刺客の方が心配だ。いやいや、子供 も麗春の体調も心配だが、あぁ∼全部が心配だ!! ﹁さっさと仕事を片付けろ∼!!じゃないと俺はこの国を滅ぼすぞ ⋮⋮わかってんのか?あぁ?﹂ ﹁す、スミマセン⋮⋮何分多すぎて首が回りません。﹂ それはお前の努力が足りないからだ!! 燃え尽きても良いから 昼までに終わらせろ。じゃなきゃ⋮⋮ ﹁黒焦げになりたくなければ⋮⋮総員キリキリ働け !!﹂ この馬鹿だけじゃない。実際に働かない部下も悪い!! こうな りゃ自棄だ! この根性ふにゃふにゃの腑抜け共に日本のサラリー マンの底力見せてやらぁ⋮⋮ハッハッハッハッハ⋮⋮ ﹁そこ!﹂ ﹁ヒィィ⋮⋮﹂ 肥に肥えた腹の文官に活を入れる。食い物を食べながら、ボロボ ロ溢しながら仕事をするなど言語道断。仕事なめとんのか!? 1301 ﹁書類にボロボロ食べ物を溢すな! 食べたいなら仕事が終わって から食べろ!書類が汚れるわ! それとそこの!﹂ ﹁はひぃぃ⋮﹂ 次は少し痩せた生真面目そうな文官。コイツ真面目なのは分かる が⋮⋮要点を書かずにべらべらと矢鱈長い報告書を書く⋮⋮要点を 書いてくれ。 ﹁要点を書いて出来るだけ短くまとめろ。長すぎて何が言いたいの か分かりづらい。﹂ ﹁は、はい⋮⋮﹂ ﹁落ち込むことはない。これから直せれば良い。だが⋮⋮おい、そ このー!﹂ ﹁何ですか∼?﹂ この世界にもいたかやる気のない若者⋮⋮何をするために職場に 来た。やる気がないなら帰れ。てか、男の前とか以前に化粧を仕事 中の机でするのはどうかと思うぞ。正直引く。化粧は見えないとこ ろでしなさい。それと、そんなに時間が経っていないのに化粧は崩 れんぞ? 気にしすぎだ。 ﹁やる気がないなら帰れ。仕事が出来ないのはソイツの能力。まだ 許されるだろう。だが、お前のようにタダ何もせず髪を解かしてい るならさっさと帰れ。クビだ。違う部署に行け。﹂ 1302 ﹁だって∼やる事がないんですよ∼。私貴族出身何で、こんなこと したことないですし∼﹂ ならなんでここに来た。 ﹁ここなら∼未来の旦那様見つけられるかなぁ∼って思いましたか ら∼。﹂ 頭が痛い。仕事が出来ないなら教えて育てるのか上司の仕事だが、 端からやる気の無い奴はどうしようもない。ま、やる気を引き出し てやるのも上司の仕事か? ﹁ある程度仕事が出来る女は家の事を取り仕切る能力があると見ら れ引く手数多だろうな⋮⋮﹂ ﹁本当ですか? ん∼∼なら頑張ってみようかな?﹂ 良かった⋮⋮コイツが単純でノリが良いやつで。さて、肝心の馬 鹿の進み具合は⋮⋮ ﹁う゛う゛ぅ゛∼∼。﹂ ﹁お前に期待した俺がバカだった。﹂ 全く進んでいなかった。 1303 俺は紅蓮から届いたサンドウィッチを麗春作のウエストポーチ︵ 巾着タイプ︶に詰め込み自分の分の仕事を始める。⋮⋮⋮不本意だ がコイツらにもやろう⋮⋮少なめに⋮⋮仕事が終わったらご褒美に でもやろう。 キチンとやれば⋮⋮やれば⋮⋮な? 待ってろ麗春、紅蓮。仕事が終わり次第直ぐに行くからなーー! !! 我が家があるであろう方角を見つめ誓い仕事に取り掛かかった。 目標・書類の山を半分にする!! さぁ、根性見せやがれ野郎共!! 仕事もあと少しとなった昼頃に事態は急変した。 1304 ﹁へ⋮陛下!!﹂ ﹁なんだ⋮⋮﹂ 走るの厳禁な廊下を爆走してきた文官⋮⋮見かけによらずアクテ ィブだな。その文官が慌てて駆け込んできた。まさか国の一大事か ?だが悪いが俺の家族も一大事だ。お前らでどうにかしてくれよ? ﹁我が国に拠点を置いていた⋮⋮ゲボッ⋮⋮暗殺集団が壊滅したと 報せが入りました⋮⋮ゲボッ!﹂ ﹁⋮⋮暗殺集団?﹂ な、何だって!!⋮⋮⋮な、雰囲気だが正直知らんかった。なに ?その厨二臭い集団。壊滅?誰の怒りを買ったのだか⋮⋮ それよりも、廊下を走って来た文官よ、君はもう少し落ち着いて も良いと思うぞ?水要るか? ﹁いったい誰の仕業なんだ?﹂ ﹁そ、それが陛下⋮⋮真っ白な白龍、しかも子供の様です⋮⋮﹂ ん!?真っ白な白龍?子供?ん????︵;・ω・︶ 1305 ﹁炎を操り、人の姿であっても小さな身にはあり得ないほどの怪力 で手練れ達を放り投げたようです。﹂ ま、まさかな⋮⋮まさか⋮⋮ハハハハハ⋮⋮は。いや、でも、紅 蓮は龍の姿は真っ白だし?白龍は本来銀色だし?⋮⋮⋮紅蓮? 紅蓮!!!!! せめてお父さんが帰るまで待っててくれても良 いんではないか!! こうしちゃいられん! 仕事はコイツらに任せて俺は帰る!!国 なんか知ったことか!!無責任? ハッ︵嘲笑︶ 家族を守れなくて何が国だ!⋮⋮それにもとはと言 えばこの馬鹿が仕事を怠ったからだろ。俺がコイツに手を貸す義理 なんて無いぞ。 ﹁お、おい!どこに⋮⋮﹂ ﹁うるさい!俺は帰る!!﹂ ﹁﹁﹁えっ!!﹂﹂﹂ バカ ﹁俺が帰るのは一時的だ。明日には戻る。それまでに終わっていな ければ、そこの陛下を吊るす。分かったな?﹂ 白龍の姿になって窓から飛び出した。待ってろ麗春⋮⋮今帰る! 1306 ! そして紅蓮、今すぐ帰ってきなさい。心配だから!!︵。>д <︶ そんな俺を見送る奴等は唖然として見ているしか出来なかったと か⋮⋮正直すまん、文官達よ⋮⋮は? お前は論外だ馬鹿者。さっ さと仕事を片付けろ。 1307 KY陛下は只今とてつもない借金 俺の家族は皆チートだ。︵後書き︶ 以上朱李さんの受難でした。 をしております。ですが、あの書類整理はタダ働き同然で王引退後 でも働く予定です。返済にどれ程掛かるかは未定です。 1308 一度傷付いた心は癒えることなく痛み続ける︵前書き︶ 今回はポチとマオの視点でお送りします。 1309 一度傷付いた心は癒えることなく痛み続ける 厄介な事態になってしまった⋮⋮。藍苺様が玄関先にあった血溜 まりを見て取り乱し家を飛び出してしまった。麗春様も追いかけよ うとなさったが、家に客人達を置いておく事にもいかないので私達 だけで追いかけている。 ﹃奏!お前は藍苺様の着けている薬入れに入れ!お前の能力なら出 来る筈だ。私は走り追いかける。﹄ ﹃きゅぅ∼。わかりました!!﹄ ヒュルヒュルと藍苺様の着けている薬入れに入っていく奏に走っ て追いかける私。すいません主⋮⋮私では藍苺様の暴走を止める事 は叶いません。 ﹃駄目です。主は生きております。ここで御待ちください!!﹄ ﹁⋮⋮⋮ッ!⋮⋮﹂ 目と髪の色を真っ黒に変化させ、その真っ黒な目を見開き涙を流 し、真っ黒な髪を振り乱しながら疾走する藍苺様は私の声も届いて いない。恐らく頭にある事柄は主・紅蓮様のコトだけなのだろう。 あの様な今生の別れを、聞けば二度も経験なさっている⋮⋮。ア レから未だ2週間⋮⋮それだけでは心の傷は癒えない。 1310 主も、﹁このまま何もなく穏やかに過ごしたい﹂と申されていた。 そんなささやかなお二人の幸せを妨害するなど、許さない⋮。 だが、私の力のなんと小さいことか。お二人の幸せを守るとこが 出来ないなど⋮⋮これでは前と同じではないか! どうして⋮⋮昔 よりも力が有るのに守るとこが出来ない。主⋮⋮ご無事なのな分か ります、絆で繋がっていますから。 けど、出来ればお早くお戻りください。このままでは藍苺様おお 心が⋮⋮壊れてしまいます。 どうか主、帰ってきてください!! ﹃藍苺様!その先は大森林に繋がる崖です。止まってください!!﹄ 走りながら声をかけても届かない⋮⋮とてももどかしい。 それよりも気にかかるのは、藍苺様の走るの速度だ。白龍の一族 なら如何に人の姿でも速さが尋常では無い速さが出せるだろう。だ が、藍苺様の今の速度は何だ? 私は確かに白龍には劣る⋮⋮が、妖怪の中では速い種族だ。それ が追い付くことが精一杯だ⋮⋮。暴走とはここまで予測できない事 を起こすのか?はたまたその速さは元々の素質なのか⋮⋮わからな い。 1311 まと それに藍苺様の纏う冷気の妖気で近付くことが出来ない。容易に 近付けずその為止めることが物理的には無理なのだ。私も氷属性で はあるのだが⋮⋮妖気の密度⋮⋮強さが桁違いだ。こんな時管狐の 奏の様に妖気を無視して通り抜けられる能力が欲しかった。無い物 ねだりしても仕方無いが。 ﹃主⋮⋮お戻りください。このままでは藍苺様が⋮⋮﹄ どうか、どうか主⋮⋮ リル ︵何があった璃瑠?︶ ﹃︵あ、主!!︶﹄ あぁ⋮⋮やっと通じた⋮⋮ ﹃︵お戻りください主!藍苺様が主の血を玄関で見てから暴走して います。私達では止められません!どうか主⋮⋮お戻りください。︶ ﹄ ︵⋮⋮⋮︶ ﹃主!?﹄ ︵⋮⋮璃瑠⋮私は今戻れない。︶ ﹃︵主!!藍苺様が!!︶﹄ 何てことだ⋮⋮主は藍苺様を見捨てるのか? 1312 ︵見捨てるなんてとんでもない!? 今は騒動の元凶の所に向かっ ているんだ。二時間以内に戻る。璃瑠はそれまで⋮⋮︶ 失礼しました、主。あなたの藍苺様に対する情の深さを見誤りま した。その情の深さは深海よりも深く⋮⋮ ︵璃瑠⋮⋮恥ずかしいからやめてね?︶ ﹃︵はい、すみません主。それで⋮藍苺様をどうするのですか? 私共には止められませんよ?︶﹄ 本人 お二人 ︵うん。それは聞いたよ。大丈夫。この事は藍苺と検討してたから 対策はバッチしだよ。︶ 知らぬ間に藍苺様の暴走対策を考えていたのですか? は抜け目無いですね。流石です。 ︵抜け目無いとか言われた⋮⋮ま、良いけどさ。今藍苺を停止させ るから⋮⋮悪いけど家まで連れて帰って。制限を解くから。頼んだ よ璃瑠︶ それっきり主の声がしなくなった。 暫くすると藍苺様の走る速度が徐々に落ちていきそして完全に止 まった。これで藍苺様が崖から飛び降りる等と言う事態は回避され た。しかしこれから私は意識を失われた藍苺様を家に連れて帰らね ばならないのだ。 1313 ﹃うむ⋮⋮﹄ 制限を解除され本来の大きさになったが⋮⋮どう連れていけばい いのだろう? 引きずって行くのも忍びない。ならば私の背に乗せ ていこうか。 私は本来主よりも大きい。大型犬の中でも大きい分類だろう。未 だに私は幼いが、父が大きかったのだ、私も幼くして子供なら楽に 運べる程大きい。運のは造作もない、だが⋮⋮ ﹃安定感が⋮⋮﹄ 私が走ると藍苺様は背から落ちるだろう。お怪我をさせるわけに もいかない、何より背に私一人では乗せられない。協力者が居なけ れば⋮⋮ ﹃奏⋮⋮手伝ってくれ。藍苺様を私の背に乗せて家に帰らねばなら ない。一人では無理だ。乗せて固定してくれ。﹄ ﹃きゅきゅきゅ♪ わかりましゅた! でも、藍苺しゃま落ち着い てよかったでしゅね。﹄ ﹃ああ、本当にな。﹄ 一時はどうなるかと思ったが、暴走が止まり本当に良かった。主 は如何にして止めたのかは気になるが、私は一介の眷属。そこまで 首は突っ込みはしない。 私は伏せの体勢になり奏が藍苺様を持ち上げ私の背に乗せる。あ の小さな体の何処にそんな力があるのか不思議だ。藍苺様を乗せて 1314 奏は私共々体に巻き付き固定した。これで余程の事さえなければ落 ちないだろう。落ちそうになれば奏が教えてくれる。 心配しているだろう主の母君麗春様も待っているだろう。事態も 事態だ。異変に気が付いた主の父君も帰ってくるだろう。私達は急 ぎ家路についた。 ******** 私の見た夢はどれも悲惨な最後を迎える者達の末路だった。親友 にそっくりな彼と従弟にそっくりな彼女は運命に抗い続けた。けれ ど、どの結末も二人が幸せにはならなかった。まるで⋮⋮“何かに ”邪魔されているような⋮⋮そんな事さえ思えた。 その夢を小説として書いたのは本当に気紛れで、まさかそれが元 で仲間内でゲームを作ることになるとは私も思わなかった。 ゲームを作る事になって他にも夢を見始めた。これはまだ誰にも 1315 言ってない事。 それは白い髪の長い女性が白い髪の男の子と花畑で遊んでいる夢。 私はそれを第三者視点⋮⋮まるでスクリーンで映画でも見ているよ うに見ていた。そこにはもう一人黒髪の男性が笑ながら二人を見守 っていた。大きな桜の木が綺麗な花を咲かせていたのが印象的だっ た。それに後ろには大きな屋敷があった。もしかして庭かな? 何故か私にはこの人達が直ぐに家族だと分かった。あ、でも見れ ば分かるかな? 最初はそこで終わる。でも2回目からは続きがあった⋮⋮幸せそ うな家族を襲う悲劇が。 見るも無惨な花が散った花畑、傷つき血べっとりとついた花の無 い桜の木、焼け落ちそうな屋敷、そして、 ︵うっ!!⋮⋮︶ 見るも無惨な⋮⋮子供を庇ったのか子供に覆い被さる女性が背中 からおびただしい血を流している。それに寄り添うように男性も倒 れていた。 私には分かった。彼らが子供を庇い死んだのだと。 夢はいつもそこで終わる。けれど、それから2日ほどその夢が続 1316 いた。小説にした夢だけでもかなりストレスが溜まった、なのにこ の夢はそのどれよりも悲しく、残酷な夢だ。初めの幸せな家族を見 ていると余計に⋮⋮ そして三日目⋮⋮夢に出てきた子供が成長した姿の真っ白な男性 が夢に現れた。 ﹃お前が見た夢は実際に起り得る事だ。いや、違う時間軸で起きた 事だ。最後のはちと、違うが、な。﹄ その真っ白な男性が語り出す。私の意見なんてお構いなしに。こ っちは夢の所為で寝不足で頭が四六時中ボーッとしてるってのに⋮⋮ ﹃調子が悪いのはすまない。だが、お前にはやってもらわなければ ならないのだ。何としても。﹄ その真っ白男が言うことはこうだ。 ・私の見た夢は、なんと親友ベルと従弟のジンの身に確実に起こる ことだと言うこと。︵正確には違う時間軸で起きた事らしい︶ ・それにより確実に今から数年後に二人は死んでしまうこと。それ は避けることが出来ない理不尽な未来。 ・しかし真っ白男は今までの最悪な結末だけは回避したいらしい。 それには私の協力が必要。 1317 ・何処ぞのバカな神様がこれから私が仲間内で作るゲームの設定値 をそのまま世界に被せるとかなんとか⋮⋮よく分からないけど、バ カがバカな事をしようとしてるって事らしい。 結論、真っ白男は未来を見るとこが出来る神で﹁時間と次元と空 間﹂を司るとかなんとか。直属の部下ではないけど、バカな神がし たことの尻拭いをするために私に接触。ベル達が死ぬのは止められ ない︵何でかは知らないがまたバカが何か弄ったらしい︶ので、私 達が作るゲーム自体に何からの救済処置を施せばハッピーエンドに 出来るのでは?と思ったので私に接触したらしい。 つまりは⋮⋮ ﹁私が二人の幸せな結末を決めちゃっていいの?﹂ ﹃具体的なモノでなくてもいい。ただ、二人が生き残り、人並みの 幸せがあれば。だが、その結末は隠してくれ。バカに気付かれては 面倒だ。その結末にするための難易度は上げておいてくれ。﹄ そんな訳で私はあのゲームに﹁真エンド﹂を急遽追加した。出現 条件は﹁一人のキャラを100回連続で攻略﹂にした。これなら酔 狂な人以外は達成出来ないでしょ? さて、そろそろ起きないと。麗春さんの掛けた術に掛かるフリを していたけど、どうやら可笑しな事態になっているみたいだし。 1318 カラス 耳を澄ますと獣の吼える声と烏の鳴き声が聞こえた。やけに烏の 鳴き声が耳障りだった。 1319 一度傷付いた心は癒えることなく痛み続ける︵後書き︶ マオは大体の事を知ってます。でも、それは誰にも言っていませ ん。 1320 怒り爆発︵前書き︶ 連続投稿です。ここは最初ですので気を付けてください。 1321 怒り爆発 昼間だと言うのに薄暗い部屋に一人の恰幅のよすぎる男が椅子に 座りブツブツと頭を抱えながら、何かに怯えていた。頭は数ヵ月前 よりも神が抜け落ちより禿げていた。何か気苦労でもあったのだろ う。 実際、黄の国で行われた大々的な粛清でこの恰幅のよい男も財産 を半分押収、爵位の降格により今までの生活は失われた。 別にそれだけならここまで疲労していない⋮⋮かな? ま、なん の苦労もしてなかったこの男は落ちた生活には合わなかったのかも 知れない。 だが、この男は逆鱗に触れた。それも二度も。 一度目は九尾の姫の息子を誤り死なせるところだったこと。それ に何より、その妻の藍苺を殺そうとしたこと。 そして二度目は⋮⋮はーい、今ここですよ∼。 ﹃自分のしでかした事に今更罪悪感で落ち込まれてもねぇ⋮⋮﹄ 誰も居ないと分かっているから見えない声に怯えるモノでしょ? 人間ってのは。特に小心者はさ。 ﹁ひぃっ!!﹂ 1322 ホレ、この通り⋮⋮ ﹃赦すなんて言葉⋮⋮﹄ ﹁た、助けっ⋮⋮﹂ ﹃生憎と私の辞書にはのって無いんだよねぇ。﹄ いきなり影から伸びてきた腕に驚き椅子から落ちた男は助けを求 めて出口である扉に近付こうとする。が、暗殺者君に遮られた。 ﹃腰でも抜けたか?﹄ ﹁そりゃこんな薄暗い部屋で突然声を掛けられたらびっくりします って。︵あ∼、何が楽しくてこんなオッサン拘束せにゃならんのか ⋮⋮どうせなら可愛い女の子が良いよ∼︶﹂ 要らん事を考えていようとも流石は腐っても暗殺者、禿のオッサ ンを拘束して直ぐに口を塞いだ。しかもご丁寧に首筋に短剣を当て て。でもそれ、そのオッサンには見えないよ?ほら、恰幅が良すぎ て顎辺りの肉で見えてない。脅すなら見える位置に当てようね? ﹁了解ボス﹂ そう言うと短剣の位置を鼻先にした。うん。それなら見えるね。 1323 ﹃喋れば殺す、動けば殺す、私の質問に答えなければ殺す。嘘をつ けば殺す、お前は聴かれたことを正直に答えろ。﹄ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹃返事はしなくていい。嘘か真かはお前の目を見なくとも分かる。﹄ ﹁︵横暴だ⋮⋮味方で良かった。決断した俺、よくやった。︶﹂ 喋るな、動くなと言ってあるので固まった男の後から見えない位 置で質問する。そうすればこの小者のオッサンは不安感を煽れる⋮ ⋮筈。 ﹃まず1つ⋮⋮どうして白の国のゴタゴタに関与した?﹄ ﹁⋮⋮ッ⋮﹂ ﹃あぁ、本当の事を話すなら喋ってもいいぞ。ただし⋮⋮﹄ 残り少ない髪を手に持つナイフで数束切る⋮⋮すると男は青ざめ た。あ、先の方じゃなくて根本の方から⋮⋮ね?血は出てないよ? ﹃正直に答えろ⋮⋮次は右耳の耳朶が無くなるぞ。﹄ ﹁ひぃぃぃぃ⋮⋮はっ、話す!話すから助けてくれ!!﹂ こんなにも小心者なら最初から欲など出さなければいいのにね。 あぁ∼ヤダヤダ。私は弱い者虐めとか嫌いなんどけどねぇ。虐める 敵 戦友 戦 ならある程度の強くて虐め甲斐のある奴が良いのだけど⋮⋮ま、遊 友 び相手は選べ無いけど、遊び仲間は選びたいよね⋮⋮今回の遊び仲 1324 間は暗殺者君という名の下僕だけど、いい仕事してくれるから助か るけど。 ﹁わ、私は、元の生活に戻りたかった。だから、奴等の提案に⋮乗 っただけだ。私は暗殺一族に話を持っていっただけなんだ!﹂ つまりは、単なる仲介役。下っ端の下っ端⋮⋮あぁ∼もしかして 無駄足? ﹃蜥蜴の尻尾切りか? でも、もう少し叩けば少しの埃は出るかな ?﹄ ﹁どうでしょ? 俺にはこのオッサン、ただの小者にしか見えない ですよ? こんな奴が黒幕の情報持ってっスかね?﹂ 何事もやってみようじゃないか。こちとら二度も命脅かされてる んだし?二度もコイツに。それに嫌な予感もするしで⋮⋮早く家に 帰りたいのよ。詰まりは鬱憤溜まり放題なのだよ。 ﹃毒を妻に飲ませようとしたり、私達に刺客を送り込むなんて⋮⋮ 余程死にたいようだからね。多少いたぶっても⋮⋮﹄ ﹁あ、俺って尋問得意なんでやってみます? コイツ死なない程度 に痛め付ければ吐きますよ。弱そうだし︵メンタルとか絶対豆腐だ よ。てかボス、俺より年下なのにもう結婚してるとか⋮リア充かぁ ⋮⋮良いなぁ⋮⋮ハァ∼︶﹂ とか、暗殺者君が張り切っているので任せてみる。私はと言うと 1325 ⋮⋮ ﹃⋮⋮⋮るじ⋮⋮主!⋮⋮﹄ ︵⋮⋮⋮ッ⋮⋮ポチ?⋮⋮いや、璃瑠か?︶ 頭に痛みと声が響く。これは主人と眷属の間にあるテレパシーみ たいなもの。例えて言うなら﹁便利連絡網﹂かな。出来るのは知っ てたけど、こんなにも皆から離れるなんて無かったからしたことな かった。ちょっと調節が必要だね。痛いのは嫌だし。 ︵⋮⋮⋮うっ!!⋮⋮ッ⋮と、これでいいかな。 結構適当にやってみたがなんとか痛みなしに出来るようになった。 良かった。痛いのは嫌だもん。 ︵どうしたの?︶ ︵主! 藍苺様が⋮⋮︶ ん?何? 私の声が届いてない? 適当にし過ぎたか? もう少 し調節が必要なようだ。やはり難しい。 ︵璃瑠? リ∼ルさん? ダメか⋮⋮︶ 1326 仕方ないのでポチもとい璃瑠の視界を覗かせてもらう。これぞま さに視界ジャックだな。それにしても⋮⋮ ﹃︵やっぱり心の傷は本人には解らないモノなのか⋮⋮︶﹄ 覗いた視界には髪はバサバサ、目は涙を流し、何かに駆り立てら れた様に我武者羅に走る藍苺の姿だった。見ていて心が痛む⋮⋮そ れに妖気を纏っていては璃瑠も近づけない、何よりこのままでは妖 力が尽きて藍苺の命が危ない。 どれ程本人が乗り越えようとしてもなかなかどうして⋮難しいモ ノなのだろう。私は藍苺にトラウマを植え付けてしまったのだ。だ が、藍苺とてそれは自分でも薄々気がついていた。 だから、私達は手を打っていたのだ。こうなるのを予想して。 ︵璃瑠?⋮⋮璃瑠!?︶ ︵主⋮⋮お戻りください。このままでは藍苺様が⋮⋮︶ 悲痛な璃瑠の声が大きくなる。覗いて見た視界からも切羽詰まっ ているのが分かる。基本冷静な璃瑠が慌てている⋮⋮ リル ︵何があった璃瑠?︶ ︵あ、主!!︶ あぁ⋮⋮やっと通じた⋮⋮ 1327 ︵お戻りください主!藍苺様が主の血を玄関で見てから暴走してい ます。私達では止められません!どうか主⋮⋮お戻りください。︶ 玄関で眉間を撃ち抜かれたので多少は血が飛び散ったとは思って いたが⋮⋮そうか、見てしまったのか⋮⋮ ︵⋮⋮⋮︶ 帰りたい。帰りたいよ。璃瑠の視界を覗いた時、見えた藍苺の悲 痛な姿が今でも目に焼き付いている。正直帰りたい。﹁私生きてる から﹂って言って抱き締めたい。けど ︵主!?︶ ︵⋮⋮璃瑠⋮私は今戻れない。︶ ︵主!!藍苺様が!!︶ 璃瑠から直接見捨てるのかと非難の感情が流れてくる。そんなわ け無いだろ!! ︵見捨てるなんてとんでもない!! 今は騒動の元凶の所に向かっ ているんだ。二時間以内に戻る。璃瑠はそれまで⋮⋮︶ 璃瑠から今度は謝罪と藍苺への愛情深さを称賛する感情が流れて きた。恥ずかしい⋮⋮純粋な称賛は恥ずかしい以外の何モノでもな い。やめてよ⋮⋮ハズイから︵照︶ ︵璃瑠⋮⋮恥ずかしいからやめてね?︶ 1328 ︵はい、すみません主。それで⋮藍苺様をどうするのですか? 私 共には止められませんよ?︶ 本人 ︵うん。それは聞いたよ。大丈夫。この事は藍苺と検討してたから 対策はバッチしだよ。︶ 今度は目抜けないと思われた⋮⋮ちょいと璃瑠さん?君は素直に 感情を流しすぎですよ? ︵抜け目無いとか言われた⋮⋮ま、良いけどさ。今藍苺を停止させ るから⋮⋮悪いけど家まで連れて帰って。制限を解くから。頼んだ よ璃瑠︶ コール 璃瑠に止めた後の藍苺を託して一旦連絡網を切る。そして次は藍 苺に呼び掛けるするが、通信不能⋮⋮やはり暴走している時は無理 か。 実は今朝、藍苺と血の契約を交わしたのだ。お互いが何者かに操 られたり、今回の藍苺の様に暴走したりしたら止められるように⋮ ⋮と。ま、急ぎだったからごく簡単にお互いの血を少量飲んだだけ で未だに繋がりは弱いけど⋮⋮。血を、妖力を共有した事によって 多少はお互いに干渉しあ得る。ま、不器用な藍苺には私に干渉する のは無理だろうけど。そこは修行して可能にしてもらわないとさ。 コール いくら呼び出ししても応答が無いので、最終手段。本当はしたく はないが、仕方ない。 今から藍苺にするのは﹁脳内ジャック﹂。詰まりは勝手に操るこ 1329 とになる。理屈は知らんが、どうにも人には必ず精神には防御壁が 存在しているようだ。脳内ジャックはその防御壁を抉じ開け侵入し、 精神を乗っ取る事だ。ある程度の繋がりが無いと出来ないので安心 して。読者様にはしないから。 ﹁ボス、ボス? メタ発言は控えろって作者がいってたよ?﹂ ヘイヘイ⋮。暗殺者君はキリキリ働いてそのオッサンから情報引 き出してよ。いくら声をあげさせても良いから。どうせ、ここら一 boss︵マジでおッかねぇこの人⋮⋮︶﹂ 帯は侵入不可の結界を張り巡らせたから。あ、勿論防音もバッチし。 ﹁yes えっと? 何処まで話したかな? そうそう脳内ジャック。私は ジャックじゃなくてハックって言ってたけど、この際どっちでもい いよね。 ん?藍苺ほったらかして語ってて良いのか? 安心してよ、とっくの昔に暴走止めたから。嫁さんの事は最優先 なんだから。当たり前でしょ。 そうそう、脳内ジャックに必要な繋がりは、血の共有。詰まりは 血の繋がった家族とか、私と嫁さんの様な血の契約を交わした間柄。 それと、一方的にされた血の契約︵仮︶とかな。他にも条件はあり そうだけどこれくらいかな。今は通信網は私からの一方通行だけど、 1330 嫁さんにも出来るようになってくれないかなぁ∼ それにしても、嫁さんは氷属性か⋮⋮私とは相性が悪いね。どち らが強いとか弱いとかは属性では決まらないけど、相性は悪いね。 炎は氷を溶かし、氷は溶けた水で炎を消す。相反する属性だからね。 水と油みたいに。 ま、異世界での経験上属性云々も大事だけど、最終的に潜在能力 と日頃の努力が一番の勝利の決め手になるんだけどね。大事だよ、 日頃の努力は。だから、潜在能力が高くて努力家ならそれは凄い厄 介な敵になるんだよ。 特に、日頃から不器用な嫁さんは持ち前の負けず嫌いで確実に化 けるだろうね。単純に氷属性だけなら追い越すよきっと。私の狐火 が負ける日が遠からず来ることだろう。ちょっと楽しみだったりし て。嫁さんの持つ属性は氷と闇⋮⋮たったの二つ。極めるなら数が 少ない方が楽だからね。変に多く持つ私よりは楽だ。要らないほど 属性を持ってるからね∼私は。 暗殺者君が私を小脇に抱えて連れ去ろうとしたとき、あの時の殺 気と妖気には目を見張った。私も体の芯まで凍るかと思ったし。私 に直接向けられた殺気じゃなかったとはいえ、尋常じゃない殺気だ った。ホントに嫁さんは化けるよ。この暴走で妖力のリミッターが 外れてないと良いのだけど⋮⋮きっと外れてるだろうね。そうなる と制御が難しくなりそうだけど⋮最悪何かで封印すれば良いか。 それにしても、血の契約で色々な事が共有出来るが⋮⋮今回のは 1331 もうしたくはないね。何て言うのかな⋮⋮勝手に人を操ったりする のは何だか心が痛む。 私は暴走しない様に精神を鍛えとかないと。 情けないオッサンの悲鳴を聞き流しながら決意する私だった。 ﹃で?聞き出せたの?﹄ ﹁はい、もうバッチシ♪⋮⋮で、このオッサンどうします?﹂ ﹃仕方ないから白龍になってちょっと王宮の方に捨ててくるよ。ポ イッとさ。﹄ ﹁いいんスかね?﹂ ﹃ノシ付けとくから良いんじゃないの?﹄ ︱︱黄の国・王宮にて︱︱ ﹁おい!あれは白龍だよな!?﹂ ﹁朱李様にしては白すぎるぞ?﹂ ﹁いやその前に小さいだろ!!﹂ ﹁さっき朱李様飛び出していったよ。息子の紅蓮様に呼び戻された らしいよ。﹂ ﹁あ、何か掴んでる⋮⋮﹂ 1332 ﹁ギャー⋮⋮︵チーン⋮⋮︶﹂ ﹁⋮⋮⋮なんだ!?﹂ ﹁何か陛下の声に似てた様な?﹂ ﹁あ、何かさっきの白龍が陛下の上にオッサン落としたらしいぞ?﹂ ﹁なんだそりゃ⋮⋮﹂ ﹁それに、手紙が張り付けてあったらしい⋮﹂ ﹁内容は?﹂ ﹁そこにいた女性文官によると⋮⋮﹂ “今度私達親子を国内のゴタゴタに巻き込めば今度はこうなる。追 伸、この男は白の国のゴタゴタに関与していた。早急に調べること。 コイツが暗殺者集団との仲介役だった。今後この様な事が無いよう にしてくれ。次は無い” ﹁︱︱らしいぞ。﹂ ﹁へぇー﹂ ﹁おまけに尾で陛下を叩いたらしい⋮⋮﹂ ﹁へぇー。陛下嫌われてんなぁ﹂ ﹁嫌われてんのは当たり前だろ。﹂ ﹁てか、あれって⋮⋮紅蓮様じゃないか?﹂ ﹁あ、確かに。言われてみれば⋮﹂ ﹁紅蓮様もここに居たときは陛下嫌いで有名だったからな。﹂ ﹁麗春様もよく後宮から抜け出して食糧やら何やらを買いに行って たしなぁ⋮⋮﹂ ﹁いつも気づかぬふりして見逃してたなぁ﹂ ﹁懐かしいなぁ⋮⋮まだ数ヵ月しか経ってないけどな。﹂ ﹁そう言えば、あの落とされたオッサン、前に紅蓮様に毒飲ませた 奴に似てなかったか?﹂ ﹁あぁ、だから容赦なかったのか?﹂ 1333 ﹁嫌われてんなぁ、陛下も嫌われてるけど。﹂ ﹁むしろ、嫌われてない方が可笑しい﹂ ﹁﹁﹁﹁だよなぁ∼﹂﹂﹂﹂ ︱︱以上、兵士たちの感想と紅蓮のポイ捨てでした。︱︱ 1334 怒り爆発︵後書き︶ まだまだ続きますよ。 1335 怒り爆発その二︱貴族に牽制します?︱︵前書き︶ 連続投稿二回目。 1336 怒り爆発その二︱貴族に牽制します?︱ いやぁ⋮⋮疲れました。出るわ出るわ⋮⋮白の国も腐ってる所は あるものだな。歴史が古い分腐ってる根も深い。捕まえた黒幕共は およそ30人程。末端まで遡れば何十倍も多いだろうね。そこは白 の王に任せるよ。掛かった時間は一時間。白神に転送してもらわな かったら一体どれ程掛かったのやら。 あぁ⋮⋮疲れた。暗殺者君が居なければもっと掛かったよ⋮⋮。 白神と暗殺者君の協力が両方とも無ければ⋮⋮うぁ∼∼考えたくな い。 ﹁お疲れっスね⋮⋮ダイショブスか?﹂ ﹃ダイショバナイ⋮⋮﹄ 暗殺者君は私の顔を心配そうに覗き込んでくる。皆は言葉は正し く使おうね?紅蓮との約束だよ?⋮⋮⋮って、何やってんだよ私は ⋮⋮ヤベェ⋮疲れすぎたか? ﹃いやさぁ⋮⋮体はピンピンしてるよ? 何か精神的に疲れたとい うか⋮家に残してきた嫁さんが心配なんだよ⋮⋮ハァ⋮⋮﹄ 白龍の姿で溜め息を吐くと下を向いたためか床が少し焦げた。溜 め息でこれなら⋮⋮白龍恐るべし。 私達の後ろに山積みになっている芋虫共⋮もとい、諸悪の根元共。 1337 今は縄でぐるぐる巻きにしているので貴族とはとても見えない。老 いも若きも⋮⋮とはよく言ったもんで、年齢もバラバラの奴等だっ た。そうだ。コイツらを黒焦げに⋮⋮はやりすぎが。後が面倒だし ね。 ﹃何が悲しくてこんなオッサン共を縄で縛らにゃならんのだ⋮⋮?﹄ ﹁ボス、気をしっかり持って! 目が死にかけてるぅぅぅ!!﹂ ははっ⋮⋮やるなら嫁さんにしたいよ? いや、しないけどさ。 ﹁やっぱドSっスね。﹂ ﹃おぉ、言ったな⋮⋮今なら丁度龍の姿だし?コブラツイストなら ぬ﹁ドラゴンツイスト﹂してやるぞ?勿論全力で。﹄ ﹁それってただの締め付けでしょ⋮⋮勘弁してくださいお願いしま す色々な物︵内蔵的な意味︶が出るんで勘弁してくださいm︵︳︳︶ m﹂ ま、確かに単なる締め付けか。フム⋮⋮ ﹃しかし暗殺者君よ、⋮⋮君は私の周りに居ないツッコミ要員だな ⋮⋮よし。お前は我が眷属のツッコミ要員に採用しよう。﹄ ﹁え? それって⋮⋮拒﹃否権は無いよ。人の眉間に鉛弾プレゼン トするなんて⋮⋮ねえ?﹄はい。﹂ ﹃ま、アレだ。罪人として捕まりたかったら⋮⋮止めないけど?﹄ ﹁何処までも着いていきます。︵T−T︶﹂ ﹃解れば宜しい。﹄ 丁度下僕が欲しかったんだよね。あぁ、別に虐めるとかじゃない 1338 よ? 欲しかったのは従僕?ん∼あ、従者かな? ほら、私の眷属 人型は居ないでしょ?だから雑用係が欲しかったのだ。 みんな働き者だけど、人型の方が良い時も有るでしょ? まぁ、本音はコイツが持っている知識を他に漏洩させないためっ てのが強いんだけどさ。だってコイツは自分自身で銃を作れるんだ からね⋮⋮危ないだろ? さて、後はコイツら芋虫共を白の王宮にポイッちょして帰ろう。 嫁さん成分が不足しているから抱きついて補給しよう。変態だ?夫 婦だから良いの。それだけだし。まだキスさえしてないんだよ? ⋮⋮⋮ま、嫁さんが寝惚けてしてきたのはノーカウントで。それに 前世でも夫婦だったし。 これ以上夫婦にはならない。私は男だし、機能するとは思えない。 ⋮⋮何より⋮⋮私は⋮⋮もう親にはならない。いや、なれない。 ﹁ボス?﹂ ﹃何でもない﹄ 1339 おっと、脳内トリップしてたよ。この芋虫共を白の王宮にポイッ ちょしないといけないんだっけ。巣穴から芋虫共を引っ張り出すの も大変だった。一人一人違う場所に居たからね∼。まとまって居た 奴等もいたけど⋮⋮各自バラバラに縛ってるからこのままだと運び 辛いよね⋮⋮それに運べるか不安だ、いくらチートでもコイツらを 運ぶの無理だろ。 ﹃何かこ∼⋮風呂敷に包むと小さく出来るとか、そんな能力無いの ?暗殺者君?﹄ ﹁そんな便利な能力あったら暗殺稼業何てしてませんって。てか、 その能力って漫画で無かったっけ?﹂ ふぅ∼。無いか。なら白神にでも頼もうかな? どうせ某笑顔動 画でも見てるんだろうし。 ︵白神∼∼。︶ ﹃⋮⋮⋮ん? あぁ⋮呼んだか?﹄ ︵呼んだ呼んだ。あのさ、黒幕共捕まえたらか白の王宮の運びたい んだよね。それで、手伝って?︶ 帰ってきた返事は即答でOKだった。暇なんだな神様ってのも。 異世界でも常に会話してたしな。たまに夢の中で某笑顔動画見せて もらったし。 ﹃⋮⋮⋮これで全部か?﹄ ︵末端までは見つけるのめんどいから。どうせ白の王が芋づる方式 で捕まえてくれるよ。︶ ﹃要は丸投げか。﹄ 1340 ︵ま、それは私の仕事じゃない。それに王にも華を持たせないとね。 これだけでも私はやり過ぎたのだし?︶ 実際は白の王に関係した事件なのだ。全部を私がしてしまっては 王族の沽券は丸潰れだろう? ま、それは建前で、本音は面倒だからだけどね。 ﹁ボス?ボーとして大丈夫っスか? 何か何処か遠い所見てました よ?﹂ ﹃現実逃避だから気にしないで。﹄ ﹁そっスか?︵現実逃避って、余計気になるって︶﹂ ﹃そいつが新しい眷属か?﹄ ︵そ、名前はつけてないけど。それに何処かのバカが関与してるみ たいだし⋮⋮そこんところちゃんとシバいといてよ? ﹃あぁ。シバき倒しておく。それよりも、﹄ 白神は気になる切り方をした。どうしたのだろう? ﹃藍苺には気を付けろ。﹄ ︵藍苺の何処に?︶ ﹃黒龍は元来気の荒い一族だ。今では黒の国の王に君臨しているが、 あのバカ この世界が出来た当初は手のつけられない暴君であった。その血は 未だに消えていない。黄童子が世界に介入しなければ今も恐怖の対 象であっただろう。﹄ 1341 元の何の手を加えていなかったこの世界は今とは違い殺伐として いたらしい。妖怪は殺戮を繰り返し争い、人間はそれに怯え、魔物 や魔獣は居ない為妖怪の標的に人間が⋮⋮。そんな世界だった。 黄童子のしたことは結果的に妖怪達の理性を誘発させ、大多数の 人間を死に至らしめたが人間と妖怪の共存の切っ掛けを作ったこと になる。 そ、前に説明した突如この世界に充満した魔素、それは黄童子が この世界に介入し、魔力の源になる魔素を世界に充満させた為。そ れにより動物は魔物になった。 しかし、黄童子はバカをやらかした。魔素が強すぎたのだ。 植物は死に絶え、動物は魔物になり凶暴化。勿論食べ物は無くな り餓えで大勢亡くなった。勿論魔素による直接的な死もあったが、 餓えで亡くなった数の方が圧倒的に上だ。その為、黄童子の予想よ り多くが死んでしまった。 神ってのは多少の犠牲も厭わないらしい。白神はそうでもないが、 どれだけ死のうがお構い無し⋮⋮どうせ後何年もすれば増えるだろ う?と、高をくくっていた。バカだな。 それで、事態を重く見た灰老神が世界に介入した。どうにか魔物 達に魔素を吸収させて濃度を調節し、難を逃れた。これが元で魔物 の上位種魔獣が生まれた。灰老神の助力で何とか立て直した世界は 国を作るのだけど⋮⋮それが黒の国と白の国だ。その話はまた今度 ね。説明終わり。 1342 んで、今回の件﹁有り得ない技術の持ち込み﹂何だけど⋮⋮。 この暗殺者君はやはり黄童子の犠牲者だった。 いきなり﹁暇だからお前を転生させるから。あ、勿論チートにし とくよ。どんなチートかはランダムだから知らないけどね︵笑︶ ま、死なない程度に俺を楽しませてよ。じゃ。﹂等と言って勝手に 殺して勝手に転生させた。マジでアイツ絞めとこう。 まぁ、この話も後でね。 ︵藍苺が黒龍の血を引いてるのは知ってるよ。それがどう気を付け るのさ?︶ ﹃藍苺の暴走だ。お前も見たのだろ?あの暗殺者が退散する時に地 面や木々が凍りついたのを。アレは藍苺の暴走だ。﹄ ︵あ、やっぱり?︶ やっぱりあの殺気は藍苺のものだったのか。アレは母さんの眷属 の誰がかと思いたかった。でもやはり藍苺だったとは⋮⋮ ﹃ふぅむ⋮⋮そうか、血の契りを交わしたか。今の状態では妖気を 判別するのは難しいのかもな。互い血を飲み、妖力が混ざると馴染 まぬうちは互いの妖力を感知出来ぬこともあるそうだ。﹄ ︵へぇ⋮⋮︶ ﹃あまり知られていないからな。それでだ。﹄ 1343 白神の話に驚愕した。何と藍苺は先祖帰りでほぼ純粋な黒龍と変 わらないと。何てことだ。それならもし、この先また暴走でもした ら⋮⋮。 ﹃今回はお前が止めた。だが、それは不完全な力の目覚めだからだ。 もし、本当に本気の暴走だったら⋮⋮﹄ “世界は半分崩壊する” 何てこと。本当に、何てことだよ。私が怪我をしたり、何らかの 事に巻き込まれたり、命の危機に陥ったりすればまた藍苺は暴走す るらしい。ならば・・・・ ︵私は世界の為にも、何より藍苺の心を守るためにも、︶ ﹃死ねないじゃないか⋮⋮。﹄ ﹁ボス?﹂ 死ねない。死ぬつもりは勿論ない。けど、私は動けないのだ。何 があっても⋮⋮自分の事を第一に考えないといけない何て⋮⋮。私 には藍苺を守ることは出来ないのか⋮⋮? これも、因果応報か⋮⋮ 1344 私は、大切な人を守ったつもりになっていた。分かったつもりだ ったのに、分かってなどいなかった。大切な人の心をそこまでボロ ボロにしてしまったのだ。 ﹃私って⋮⋮自分勝手だなぁ﹄ ﹁⋮⋮︵一体どうしたんだボス?︶﹂ ﹃違うぞ、お前は守りたかっただけだ。結果的に傷付けたが、お前 があの時決断しなければ最悪の結果になっていた。藍苺の死という 形でな。﹄ けれど、私はまた藍苺に心配をかけた。わざと頭を撃たれて捕ま った⋮⋮血を残したのは失敗だった。⋮⋮⋮本当はここで﹁撃たれ ない様にすれば⋮﹂何て言わなきゃいけないんだろうけどさ、私は ヒネくれてて、頭も悪いから⋮⋮自分を囮にする以外思い付かなか った。慣れないことはするもんじゃないね。 ﹃お前は家族が傷付かないようにそうしたのだろ? 私は仕方のな いことだと思うぞ。お前達二人に必要なのは話し合いだな。帰った ら存分に話し合え。誰も邪魔しない場所があるのだからな。﹄ ︵白神がくれた﹁白き箱庭﹂か。うん。そうだね⋮⋮帰ったら∼∼ って、何フラグ建てさせようとするんだよ。え?︶ ﹃いや、すまん。別にそんなつもりは無かった。﹄ 白神がオホンッ⋮とわざと咳をして話をもとに戻す。それから私 に﹁無茶を控えるように﹂と言って一旦話を切る。また動画鑑賞で もするのだろう。今白神が気に入っているのはゲーム実況だったか ⋮⋮ 1345 それにしても、設定が中二満載だな。私は自分のチートだけでお 腹一杯だよ。 白神が展開させた転送陣に芋虫共を放り投げ、私も白龍の姿で入 る。暗殺者君はここで待っていてもらう。勿論逃げれない様に白神 が見張っている。もう、逃げる気もないだろうけど。 転送陣が繋いだ場所は多分白の王宮の謁見の間。入ったことは無 くとも分かる。 ﹃︵だって見るからに⋮⋮︶﹄ 王が座る豪奢な玉座に座る王、その周りに家臣や貴族達。勿論王 の隣に王妃が座っている。しかも私の周りには既に異変を感じ取っ た兵士達が各々武器を持ち私の動向を窺っている。黄の国の武官達 とは大違いだ。流石長い歴史を持つ大国。兵の練度は桁違い。一歩 でも動けば剣山か針鼠だね私が。 しかし、その兵士達の関心は私だけではない。私が踏んづけてい る芋虫共も武器を向ける対象だ。だって異様で怪しいもの。 ﹃話がある。白の王よ。﹄ ここは“妖怪・白龍”として 態度で話そう。いつもの調子ではナメられる。本当は礼を尽くさな 1346 いといけないのだけど、あえてしない。後で手紙で謝っておこう。 ﹁⋮⋮我が国の守護・白龍が子よ、我が王宮の謁見の間に何の用か ?︵え?な、何?まさかうちの子達が何かしたのか?や、ヤバイ⋮ ;∀;︶︶﹂ 藍苺の事で何かあったなら容赦無いって朱李のやつ言ってたし⋮⋮ ︵ 白の王は私の茶番に乗ってくれるようだ。みんなに気づかれぬよ うにウィンクしてくれた。王妃も小さな声で﹁思う存分やってしま いなさい♪﹂と言った。私って耳が良いから聞こえたよ。王妃の“ やってしまいなさい”が“殺ってしまいなさい”に聞こえたのは空 耳だと思いたい。 そなた ﹃白の王よ。我が一族に其方等の厄介事にあまり我らを巻き込むな。 我が住みかに刺客が送り込まれてきた。王子等は無事だが、我が妻 が心を痛めた⋮⋮﹄ ﹁皆無事なのか?︵ギャァァ⋮⋮ドンピシャァァァ︶﹂ ﹁︵落ち着きなさいな狛李!︶﹂ ﹃皆無事だ﹄ 暴走したことは伏せる。それと今後の藍苺の危険性についても。 だって、彼は父親の前に王だ。国を脅かす存在は⋮⋮この話はやめ よう。 龍は本来とても家族思いな種族だ。龍じゃなくても家族に危機が 1347 迫れば誰だって怒るだろうけど。ここは全面的に﹁私の家族に何か あったらどう責任とんだ?﹂と思わせておく。何より恐怖心を抱か せておかないと。 ﹃我が“家族”に危害が及ばぬ為、その刺客を取り押さえた。聞け ば、この国の貴族が黒幕とな⋮⋮白の王よ、如何様にするつもりだ ?﹄ みんなわ私に視線を向けているので王の少し面白そうに笑った口 元は誰も見ていなかった。 ﹁なんと。では、その縛られている者達は我が国の貴族達か?︵つ まり﹁どう責任取るんだよワレ﹂という意味なのか?︶﹂ こやつ ﹃そうだ。此奴等が首謀者共だ。この国に蔓延る根を腐らせる害虫 だ。然るべき処分をするのだろ? でなければ⋮⋮﹄ ﹁勿論だ。その首謀者共は我々王族に牙を向いた。不満を対話でな く、武力という形でな。もうコイツ等には日の目は拝ませぬ。他に も叩けば埃が出るやも知れんしな。協力感謝する。︵ちゃんと罰し ないと俺が黒焦げですね分かりますぅっ︵恐怖︶︶﹂ 良し、ポイッちょ成功。後は⋮⋮釘でも指しとこうかな。貴族連 中に。 ﹃勘違いするな。確かに我が両親はお前達の友だ。我もお前達が何 もしなければ何もせぬ。しかし、お前達が我々に命令し、従属を望 むなら滅びると知れ。我らは最良の友にして最悪の敵だ。努々︵ゆ めゆめ︶忘れるな。﹄ 1348 ﹁心得ておるよ。︵尻尾を踏めば八つ裂きですね分かりました!!︶ ﹂ 白の王に言っんじゃないよ、周りの貴族連中に言ったんだよ。父 さんと長い付き合いだし、知ってるでしょ? 釘も刺したしそろそろ暇しようかねぇ。あ、そうそう。 ﹃我ら龍にその様な刃物は効かぬぞ? 我らの牙や爪よりも柔い物 でどうして我が鱗が傷つく? 龍を甘く見ない方がいい。逆鱗に触 れれば終わりぞ?﹄ ﹁それもそうだな。皆武器を退け。いつまで敵と見ているつもりだ。 ︵ギャァァ⋮解除するの忘れてたぁぁ⋮⋮怒ってないよね?ないよ ね?︶﹂ 龍の皆さんは沸点がとても低いらしいよ?実際あったこと無いけ ど。まぁ、気長な人もいるけど、炎龍なんかは凄まじいらしいし。 そんな物騒な物を向けるだけで怒るよ? 芋虫共をポイッちょしたので帰ります。さて、帰りは“白き箱庭 ”経由で帰ろっかな。その方が早いし。最初からそうすれば良いと 思うだろ?けどね、これってその場所に行った事がないと行けない のよ。不便だけど、そこは仕方ないよね。元々移動用じゃないから ね。 1349 謁見の間に大きな窓があるのでそこから帰ります。お邪魔しまし たの意味を込めてひと鳴きして出る。いやぁ⋮謁見の間って広くて 音が響く造りなのね⋮ひと鳴きが響く響く。バインドボイスならそ こらの硝子全部割れてたね。今度からは気を付けないと。 優雅に見えるらしい白龍の飛ぶ姿を見た国民達はまたも面白いこ とに。コケたり、あんぐり口を開けたり、お茶を溢したり⋮⋮あ、 あのおっさん手に持った果物落としてる⋮⋮もう売り物にならない だろうね。 何も大勢の面前を翔びたい訳じゃない。白神が﹁城下町の上空に 転送陣出しとくからな﹂何て言ったからだ。決して私はナルシスト ではない。見られるのは正直嫌いだ。けれど、色んな意味を込めて わざと人目につくように飛んでいます。 さて、暗殺者君を拾って家に帰りましょうかね。 む?⋮⋮⋮何やら嫌な予感が⋮⋮⋮ 1350 1351 怒り爆発その三︱敵は身内にあり!︱︵前書き︶ 連続投稿三回目⋮⋮。皆さん暗がりでの閲覧や長時間の画面を見 るのは目にかなりの疲労をもたらします。明るくして見る、ブルー ライト対策の眼鏡を着用する、適度な休憩をとってお読みください。 目は悪くなると治りませんよ? 1352 怒り爆発その三︱敵は身内にあり!︱ 暗殺者君を拾い、白き箱庭経由で帰ろうと思っている紅蓮です。 芋虫共をポイッちょ︵丸投げ︶して暗殺者君を待たせている森に 転送陣で帰ってきました。 そう、芋虫共を集めていた場所は森だったのですよ。広くて見付 からない場所が森しか無かったせいです。白き箱庭に入れればもっ と簡単なんだけど、入れたくないので却下した。 ﹁あの∼ボス? ここからどうやって帰るんスか?﹂ ﹃ちょっまってね⋮⋮﹄ 体の力を抜き息を吐く。吐きながら体を縮める様なイメージで人 の姿に戻る。 ﹁⋮⋮⋮ふぅ⋮⋮﹂ この時が一番疲れる。何故なら、膨大な妖力を小さな子供の体に 納めなせればならないからだ。別に日頃はそんなこともないのだが、 一度大きな器に慣れてしまうと小さな器は窮屈に感じてしまうのだ。 ﹁不思議っスよね⋮⋮何で人の姿と獣の姿になれるんだろ?﹂ ﹁それが妖怪クオリティーだよ暗殺者君。﹂ ﹁なんか、ワトソン君みたいな言い方っスね。てか、何でもアリな 1353 一族ッスね、九尾って。﹂ まぁ、言われてみればそうですね? ﹁そんな暗殺者君も立派な妖怪だろ。しかも純粋な。﹂ ﹁純粋でもピンキリッスよ。ボスみたく眉間に銃弾受けても死なな いなんて頑丈さ無いんで。しかも能力も微妙⋮⋮チートなのは銃を 造り出せる能力くらいっスね∼。主属性も樹しか持ってないし⋮⋮﹂ ﹁そうだよね。狐なのに炎属性が主属性じゃないのは珍しいよ。﹂ 暗殺者君は何で知ってんの?と行った感じで驚き間抜け面を披露 している。ちなみに、暗殺者君が狐だと分かったのは臭いだ。鼻が いいのだ、直ぐに分かる。 ﹁鼻がいいのは両親譲りなんだ。でもさ、副属性には炎あるでしょ ?﹂ ﹁まぁ、銃発射時の火薬代わりにはなりますね∼。でもそれくらい ッスよ。火種位しか役にたたないんで、その所為で親に見放されま したけど。﹂ それは酷な事を聞いてしまった。てか、その親一族からの偏見に 耐えられなかったのか? 狐妖怪は皆、炎属性が主属性なのが当たり前。私や母さんの様に 炎と樹が主属性なのが珍しいのだ。大体は主属性が炎で副属性が樹 が一般的。それを考えると狐妖怪で主属性が樹なのは希。それで母 さんが気づかない程の高度な睡魔香を使えたのか。作ったのかな? あ、睡魔香ってのは家の周りに撒かれた妖怪でも眠ってしまう睡 眠効果のある香だよ。忘れているかもしれないから一応説明したよ。 1354 ﹁そう言えば、暗殺者君何歳?私は知ってるだろうけど8歳。享年 8歳になるところだったけどさ。2回も。﹂ ﹁うっ。⋮⋮本当にあの時はすいませんでした。えっと⋮⋮今年で 14ッス。ちゃんと数えてないから多分なんスけどね。﹂ ほうほう。14歳とな。中々若かった。それにしては大人びて⋮ ⋮あ、転生者なら不思議でもないか 。 ﹁さて、無駄話もこの辺にして家に帰るよ。﹂ ﹁⋮⋮えっと⋮⋮その、﹂ ﹁ん?何かな?﹂ 気まずそうな暗殺者君はもじもじと何か言いたげにしていた。な んだよ、私は早く帰って嫁さんを抱きし⋮⋮ゲフンッ⋮⋮様子を見 ないとだね⋮⋮ ﹁その、俺の立場ってなんなんスか? やっぱり奴隷?﹂ ﹁は?﹂ 驚いた。純粋に驚いた。え?私が君を奴隷にするように見えるの かい?てか、白の国も黄の国も奴隷は禁止されてるよ? まぁ、闇 市なんかでは未だに奴隷とか取引されてるとか聞いたことあるけど ⋮⋮私はそんな法を犯す事はしません。てか、この世界の奴隷とい うのはね、元々賃金を払わない代わりにその奴隷達を大切にしてい たのよ?そりゃぁ人権とかは無いに等しいけど、君が思うほどこの 世界の奴隷制度は恐ろしくない。いや、恐ろしく無かったと言った ところか。 1355 まぁ、今では自由何て無いけどね。 その昔この世界に在した奴隷制度。元々は孤児達を育て社会に出 ても恥ずかしくない様に教育し、世に巣立たせていたのがそもそも の始まり。それがいつしか、重い罪を犯した者に辛い仕事をさせる ことになり、戦争孤児を金銭目的で売り買いする様になってしまっ た。最近では戦争が無いので口減らしの為に親が子を売ったり、誘 拐されたりと⋮⋮まぁ、皆が知る奴隷制度に成りつつはある。 ﹁へぇ⋮⋮この世界の歴史って結構奥が深いッスね。﹂ ﹁だろ。で、君の処遇だけど。私の眷属として連れて帰る。名前は まだ考えてないけど。眷属の知識は?﹂ ﹁弱いものが強いものに仕える⋮⋮くらいしか知らないッスね。﹂ そこからか。まぁ、知らないのなら仕方ない。説明しますか。 ﹁︱︱︱︱︱︱っとまぁ、こんなもんかな。私と眷属の間には絆が あって、最近力が増したから使えるようになった便利連絡網で遠く に居ても会話が出来るって事。けどね、その便利連絡網は結構一方 通行な事があるから。例えば私が君と便利連絡網で話している時、 ﹁そう言えば昨日合ったあの子可愛かったなぁ∼﹂何て知られたく もない事まで私には聞こえるけど、君には私の﹁嫁さんが私の毛並 みをわしゃわしゃして話づらいなぁ﹂何て心の声は聞こえない。常 に私に優先権があるみたいなんだ。﹂ ﹁うぁ∼。聞かれたくない事も聞かれるんスか?︵︶てか、わしゃ 1356 わしゃって⋮?﹂ ﹁まぁそうだね。けどね、私も人の心の声何か聞きたくないのよ?﹂ ﹁デスヨネ∼﹂ ﹁ま、要は眷属は家族と一緒。ようこそ、我が家族に♪﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮︵゜.゜︶﹂ え?何かなその顔は∼。おい?え?ちょ、こんな森のなかでフリ ーズしないでよー! 何がそんなに驚いたのかフリーズしたままの暗殺者君をズルズル 引きずって白き箱庭の扉に入ったのでした。ふぅ⋮⋮君って結構な 重量だね。あ、暗器やら銃やらの重さねこれ。 只今白き箱庭の庭からお送りします。 ﹁だーーーぁ⋮⋮重い!!ちょっ、いつまでフリーズしてんだよ!﹂ ベシッっとスナップをややキツめに叩き暗殺者君の口から出た魂 を注入⋮⋮闘魂注入ならぬ魂魄注入だ。ホントに勘弁してほしい。 8歳の体にコイツの持っている武器の重さは堪える。いくらチート でも疲れはあるのだよ?それに私はちょっとばかしお疲れだ。 ﹁ふぇ?⋮⋮え、\︵゜ロ\︶︵/ロ゜︶/﹂ 1357 不思議な舞を踊り始めたぞ? 私が襟口を掴んで引っ張っていた ために首を釣りぎみだが、大丈夫だろうか? 危ないと思い放すと そのまま頭をぶつけた様だ。大丈夫? ﹁え?なんなんスかココ。え?桜何てこの世界に無かったはず⋮?﹂ ﹁ここは白き箱庭⋮⋮私のもう一つの家だ。﹂ 庭の大きな桜の大木に驚く暗殺者君。この世界のには桜無いから ね⋮驚いたのは分かるけど、何で受け身取れないの?それで良く暗 殺者してたね。緊急時にそれじゃぁ死ぬよ? ﹁あ!﹂ ﹁な、なんスか!?何かやらかしましたか俺!?﹂ ﹁いや、君の名前を思い付いたのだ。喜べ、君は今日から八雲だ!﹂ ﹁⋮⋮⋮何で?何で八雲?﹂ ﹁何となく浮かんだ。﹂ 名前なんて閃きだ。閃いたらそれで良いでしょ? ﹁私ってネーミングセンス無いからねぇ。先輩眷属にポチって読ん でるやついるけど?ん?チビって名前にしようか?﹂ ヤクモ ﹁いえ、八雲で結構です。うわー嬉しいなぁ︵棒読み︶﹂ エメラルド 緋色の髪を少し乱し土下座している暗殺者君改め八雲。あ、そう そう、八雲は緋色の髪に緑柱石の目をした今時の若者⋮⋮かな? 主属性が炎じゃないのに髪が赤系は珍しいね。母さんも緑系統の色 だけど八雲の色は深い緑。 1358 外見に関係のない名前になったがいいだろう。そう言えば名前を 聞いてなかったな。 ﹁そう言えば本来の名前は?前世の名前じゃなくて。﹂ ﹁名前ッスか?ないッスよそんなん。その前に捨てられましたから。 あの暗殺集落じゃ名前なんか呼ばれなかったし。﹂ おぉーう⋮⋮またもヘビィーな話題を踏んじまったぜ。ってなん だよこのキャラ⋮⋮。 ふむ、なら。はからずも名付け親?になったのかわたし? ﹁ところで、ココすごいッスね⋮⋮でっかい屋敷もあるし⋮⋮平安 貴族ッスね?﹂ ﹁私は貴族じゃないよ。それにココは貰い物だし。﹂ ﹁⋮⋮貰い物って、その人ドンだけ太っ腹なんスか。﹂ ﹁まぁ、神だよ。八雲とは違う神だけどさ。﹂ へ∼俺の神と違ってマトモなんスね。っと言って口を閉じた。そ れ以降全く話さなくなったのを見て自分に対する理不尽さでも考え ているのだろうか? と、そんなことを考えていると直ぐに屋敷に着いた。まぁ、そん なに距離は無いので当たり前だが。 1359 ﹁ほらほら、ココからは土足厳禁、靴脱いでね。﹂ ﹁あぁ∼裸足で歩くの懐かしい∼。日本人はやっぱり裸足ッスね家 のなかは。﹂ だよねぇ。一日中窮屈な靴を穿いてると蒸れるよね。後宮では始 終靴を穿いてたから違和感が半端無かった。裸足万歳。フローリン グは冬は寒いけど。 ﹃あ、主様ぁぁ!!!!﹄ ﹁ギャァァー!!!﹂ ⋮⋮⋮⋮・・・ ﹃主様!お帰りなさいー!﹄ ﹃主、少々厄介なことに⋮⋮﹄ ﹃ご主人しゃま?この人誰でしゅか?﹄ ﹃主!大変なのです。﹄ 急に飛び出してきた兎天に蹴飛ばされ踏まれた八雲。哀れみなり。 お使いに出ていた兎天と夜夢は戻ってきていた。影に潜んでいると 移動が速いらしい。 ﹁落ち着け、落ち着け!!何なの?一体どうした?﹂ ﹃実は⋮⋮﹄ 1360 ﹃キュゥゥ⋮⋮お家に入れてもらえなかったでしゅ⋮⋮﹄ ん?何ぞな? ﹃実はあの後家に帰りました。ですが⋮⋮﹄ ∼回想入ります∼ 私と奏は無事に藍苺様を家に連れて帰りました。しかし⋮⋮ ﹃お前達、ココより中には入るな。その疫病神なぞ、入れる訳には いかぬ。﹄ ヤタガラス 偉そうにふんぞり返った八咫烏が玄関で待ち構えて居たのです。 ﹃我らは藍苺様を休ませたい。入れてはくれまいか?﹄ ﹃ならぬ。﹄ ﹃どうしてでしゅか?﹄ 1361 ﹃如何に麗春様のご子息の伴侶とて、入れる訳にはいかぬ。その疫 病神の所為で麗春様のお加減が宜しくないのだ。さっさと立ち去れ !﹄ と、なんともな言い草で追い返されました。一戦交えようかとも 思いましたが、藍苺様も近くに居ましたし、どれ程鼻持ちならぬ相 手でも主である紅蓮様のお母上の眷属。傷つけるのもどうかと思い ⋮⋮ ﹃仕方がない⋮⋮別の場所で休ませよう。﹄ ﹃キュゥゥ⋮ご主人しゃまとっても怒りましゅね。﹄ ﹃そうだな。︵今度は八咫烏も禿げ頭では済まんな︶﹄ と言うわけで、我らは藍苺様をこの白き箱庭に運んだのです。 ∼回想終わり∼ ﹁成る程ねぇ⋮⋮﹂ ﹁何か、俺が引いた引き金の所為で⋮⋮すいません。﹂ ﹃主、この者は?﹄ 1362 ポチに事の次第を聞き、八雲は項垂れた。まぁ、反省をしている ようだし、これ以上は責めたりしないから安心しなよ。 ポチも八雲に興味が行ったのか正体を聞いてくる。 ﹁こいつは新しい眷属の八雲。八雲、こいつらが私の眷属。自己紹 介は嫁さんの所でしようか。その方が手間が省けるし。﹂ ﹃⋮⋮眷属なのですか⋮⋮分かりました。藍苺様はこちらで休んで います。もう目が覚めることでしょう。﹄ 今皆で話していた場所は玄関。藍苺は多分一番奥の部屋かな。そ しんがり の一番奥の部屋に向かう。案内役のポチを先頭に鶯張りの廊下を歩 く。殿兎天と夜夢。夜夢は単純に歩みが遅いためだと思うけど。一 列ではないが何だがRPGのキャラクターの様で少し笑った。 ﹁すごいッスね⋮⋮何か迷いそう⋮﹂ ﹃迷うでしゅか?通り抜ければ大丈夫でしゅよ?﹄ ﹁俺にそんな凄い特技ないッスよ。﹂ かなり広いけれどそれほど入り組んではいない為それほど迷うこ とはない⋮⋮と、思う。方向音痴でなければね。 ﹁ココッスか?平安みたいな建物に扉って似合わない⋮⋮﹂ それは私もおもうよ。 1363 嫁さんが休んでいる部屋にたどり着いた。扉は青に縁取された洒 落た?扉だ。ちなみに私の部屋はその隣の紅く縁取された扉だ。中 には嫁さんの部屋と繋がる扉がある。どうも前の持ち主は夫婦だっ たみたいだ。子供部屋やしきものまであった。 ノックをして一応声をかける。親しき仲にもなんとやら ﹁藍苺?入るよ?﹂ 返事が無いのでまだ寝ているのかと思い開けるのを躊躇う。だっ て八雲男だし⋮眠っている嫁さん見せたくない。嫉妬?そうですけ どなにか? その悩みも数秒で終わった。 バタンッ⋮と音をたてて開いたら扉から飛び出してきた黒に近い 紺色と二つの金を溶かした様な目が眼前まで迫っていた。 ガバァァっと抱きつかれてミシミシ締め上げる腕は私よりも華奢 ⋮⋮嫁さんや?嫁さんの中で私を締め上げるのが流行ってるの? ﹁ボスよりちょっと大きい少女がボスを締め上げてる⋮⋮﹂ ﹃案ずるな、あれが日常だ﹄ ﹃いつもの事です﹄ ﹃いつもだな﹄ ﹃いつもでしゅ∼﹄ 1364 そうか、端から見るといつも私は締め上げられてるのか。 ﹁嫁さん?苦しいよ⋮⋮肋骨にヒビが入るよ⋮嫁さん?﹂ ﹁⋮⋮⋮レン?本物だよな?﹂ ﹁ただいま。﹂ ﹁本物だな?本物だよな?﹂ ﹁私の偽物が居たら八つ裂きだよ?﹂ ﹁ぶ、物騒ッス⋮﹂ ﹃仕方ない﹄ ﹃﹃ないない﹄﹄ ﹃うむ﹄ ﹁⋮⋮俺、この職場でやっていけるかな?﹂ 落ち着かない嫁さんの背中をポンポンしながら居間で寛ぐ。親睦 会の様なものでもしようかと思い作りおきしたお菓子を出して緑茶 を啜っている。 勿論今この瞬間も嫁さんは抱きついている。絞めるのは止めてく れたからよかったけど。 ランメイ ﹁さてと、はい、注目。この緋色の髪の今時の若者が今回眷属に加 わる八雲だ。八雲、私の隣に居るのが嫁さんの藍苺。私の嫁だから boss﹂ 手ぇ出したら絞めるからそのつもりで。﹂ ﹁yes リル ﹁で、天狼の璃瑠。いつもはポチって呼んでる。一番の古株だ。何 1365 ソウ かあったら相談するといい。結構面倒見が良いから。管狐の奏。こ ヒソウ ウテン れでも一番の年上。いつもは嫁さんの下げてる薬入れに入って護衛 してる。飛走の兎天。一番の末っ子。末っ子だけど人を乗せて走っ ヨルム たり飛んだり出来るほどの力持ちの種族だから今後に期待してる。 確りしてるし頼りになるよ。大蛇の夜夢。何があっても落ち着いて いる。蛇だけど寒くても動ける。でも、暖かいのが好きだからもし かしたら寝床に潜り込んでるかも知れないけどそこは勘弁してあげ てね。﹂ ﹁あ、どうも、えっと⋮八雲です。特技は暗殺と隠密。この度はお 騒がせしました。ホントにすいません。﹂ 土下座しそうな勢いの八雲を見詰める嫁さん。その目は見定めよ うとしているのか容赦ない睨みを⋮⋮は無いか。ただ、じぃーっと 見ている。 そんな風に嫁さんに見詰められている八雲は針のむしろ状態なの か冷や汗タラタラだ。誤解してる。嫁さんは昔から興味があるもの はじぃーっと見る癖があるのだよ?別に邪な考えはこれっぽっちも 無いよ?多分だけど。 ﹁まぁ、それは私も許したし置いといて⋮⋮﹂ 話題は八雲の事に移る。やれ、部屋は空きがあるか?やれ、布団 が無いかも⋮⋮ちなみに常備している物は只今客人達が使っていま す。 ﹁そんな、いいッスよ⋮⋮布団が無くても屋根さえあればどこでも 1366 寝れるんで。 ﹁私の眷属ならキチンとした生活をしてもらわないと⋮⋮私はそん なに不甲斐ない主にしたいの?﹂ ﹁諦めな、レンは一度言い出したら梃子でも動かない。それに、色 々あったんだろ?なら、今からでも少しくらい贅沢したってバチな んか当たらりゃしないって。﹂ ﹁嫁さんの言う通り! それとも、私に﹁命令﹂させる気?﹂ そう言うと涙目で頷き始めた。首がガクガクいうほどに⋮⋮そこ まで怖がらなくとも⋮⋮ ﹁うぅぅ⋮⋮︵ココまで親切にされたの前世以来だよ∼∼∼︶﹂ ﹃泣くな泣くな⋮⋮主は優しいぞ。﹄ ﹃まだ泣いてませんよ夜夢さん。﹄ ﹃だが泣きそうなだな⋮﹄ ﹃泣きたいときは大声で泣くのが一番でしゅよ?﹄ 同僚達とも打ち解けるもの早そうなので安心した。けど、さっき 兎天に蹴飛ばされ踏まれたよね⋮⋮ま、お互い忘れているようだし 良いか。 ﹁さて、家に帰って晩ご飯作らないと⋮⋮さ、家に帰るよ。﹂ ﹃あ、主⋮⋮その﹄ ﹁大丈夫だよポチ。あんな烏は焼き鳥にしてやるから♪﹂ ﹃﹃それはやりすぎです﹄﹄ ﹃焼き鳥は塩ダレが良いな。﹄ ﹃僕は普通のタレも好きでしゅ!﹄ ﹁成る程ねぇ⋮⋮ボケとツッコミが半々⋮⋮俺ってツッコミを期待 1367 されてるの?﹂ ﹁頑張れレンのツッコミ役﹂ ﹁今のボケてないからね?﹂ さぁてと、嫁さんを門前払いしたバカラス︵バカ+烏︶を焼き鳥 にしなければ⋮⋮先ずは羽を毟って⋮⋮フフフフフフ⋮⋮ 覚悟しやがれバカラス。例え母さんの眷属だとて容赦しないから ね♪ 1368 閑話 白龍を研究するとある学者の独り言︵前書き︶ 何てこった。もう一つ投稿するのを忘れていた。 でも、この話は閑話なので直接的な繋がりはないので読まなくて も大丈夫です。m︵︳︳︶m 1369 閑話 白龍を研究するとある学者の独り言 私は学者だ。名前は⋮⋮名乗るほどの者でもない。私は子供の頃 から白龍に憧れていた。そして大人になった今、白龍の研究、生態 を調査することに心血を注いでいる。子供の頃の夢を私は叶えたの だ。 ここで一つ白龍と白の国との関わりを話そう。 白龍とは、昔から白の国の象徴だった。国が出来る前、初代白の 王が白龍の化身であったことから象徴となり、白龍の一族とも交流 があったのだろう。文献にも数多くの白龍に関する記載があった。 長い白の国の歴史の中に白龍が姿を表す時は国の一大事である事 が多い。それ故はじめの頃は“不吉の象徴”とまで言われ恐れられ た。 しかし、白龍が現れると不思議とその一大事が解決するのだ。そ れに気が付いた人々は口々にこう言った。“平和と正義の象徴”と。 しかし、本来の白龍達は、﹁巻き込まれて仕方無く﹂と言ってい ることだろう。我々白の国の王族が巻き込んでしまい仕方無く力を 貸していたに過ぎないのだから。 そうだった、私はこれでも王族の出だった。今は捨ててしまった が今でも王族とは多少の交流はあるが。 おっと、話を戻さねば⋮⋮ 1370 そんな若干お人好しな白龍一族だが、何故か白の国と交流を止め ようとはしない。我々はそれに甘えているだけなのだ。そして今回 の事件は黒の国に次ぐ長い歴史の白の国でも三本の指に入る程の騒 動になった。 この話は後世にまで語り継がれるだろう。“真っ白い白龍の逆鱗 ”として。 簡単に纏めたので記載しておこう。 しきれき 色暦二○○八年六の月三の日、白の国より王子と姫、白の王・狛 李の盟友、九尾の狐姫のもとに身を寄せる。同年同月同日、黄の国 より最後の側室・舞子の方、息子・大雅王子を連れ狐姫のもとに身 を寄せる。この策で国賊は容易に手を出せなくなった。 同年同月、四の日。しかし、九尾の狐姫の体調思わしくなく、国 賊の放った刺客の侵入を許してしまう。息子・白き白龍にして白き 九尾、異変に気づき、我が身を囮とし、母親と妻から遠ざけた。 息子・白き白龍は後の従者となる暗殺者を味方につけ、黄の国古 くから存在した暗殺者集団を壊滅させた。 その集団が明かした仲介人を懲らしめ、当時の黄の王に“始末を つけろ”と咎める。 1371 同年同月同日。息子・白き白龍は後の従者と共に白の国に根付く 悪しき膿を一網打尽とする。およそ三十人の王家の分流であった。 全て捕らえ白の王宮にこれを届け、静かに住みかに帰った。黄の国 で起きた壊滅と王への叱咤から二時間程の出来事であった。 その後、無事に帰ってきた王子と姫達は後にこう言った。﹁白龍 の一族は我らの友であり、決して盾でも矛でもない。﹂﹁わたくし 達が判断を誤れば彼等は容易に見捨てましょう﹂と。 そして白の王は後にこう言った。﹁彼等は容易に我らの喉元を噛 み切るだろう。しかし、何もせぬなら彼等も何もせぬ。逆鱗に触れ るのは触った者のみだ。﹂﹁彼等は我々の最良の友だ。だが、気に 障れば最悪の敵となる。逆鱗に触れるべからず。﹂と。 後に人々はこう言った。 “白龍に関わるべからず。九尾の狐姫と白龍の化身の息子は怒らせ るべからず” “その妻にも触れるべからず。” “龍はとても嫉妬深い” “そして何より⋮⋮” “家族思いだ” 1372 “白の国で悪事するべからず” “見張っているぞ” “どこに白龍の家族が居るかは分からないからな” “命が欲しいもの白の国で悪事するべからず。出来ればどの国でも するべからず” “世界各地に家族がいるかもしれないぞ” ︱︱︱︱と。 確かに白龍は龍だ。気が荒いのは仕方のないことだ。しかし、龍 の中でも最も温厚で人と共存することに積極的なのも白龍なのだ。 我々が馬鹿をしなければ良き隣人、友人として付き合っていける。 だが、他国はそうもいかないのだろう。何せ、国によっては未だ に妖怪を排除しようとしているのだから。確かに我々とは違う。だ が、違うのは仕方のないことだ、当たり前のことだ。そうは思わな いのだから不思議だ。凝り固まった他国の上層部が馬鹿をしないこ とを切に願おう。 “温厚は白龍は時として他の龍よりも手に負えない”から︱︱︱︱︱ 1373 1374 閑話 白龍を研究するとある学者の独り言︵後書き︶ お読みいただきありがとうございます。 えっと、次回ちょっと急展開?になりますが生暖かい目で見てく れると嬉しいです。期待しないでください。ホントに期待しないで m︵︳︳︶m 1375 怒りは静に揺れる炎のように1︵前書き︶ お読みいただきありがとうございます。皆様に感謝します。m︵ ︳︳︶m 今回ちょっと紅蓮が攻撃的になってます。 1376 怒りは静に揺れる炎のように1 私は怒っている。どれ程怒っているかと聞かれたら﹁ストレス発 散に森林破壊する勢い﹂と答えるだろう。或いは﹁敵を禁呪で吹っ 飛ばしたい﹂とも言える。あぁそうそう、私、禁呪も異世界で覚え てきたからご心配なく。 キジ ﹁今夜は焼き鳥だよ。勿論、雉肉でするから安心して?﹂ 皆の顔はどこか冷や汗を流していた。どうしたの?焼き鳥嫌い? あ、兎天は鶏肉に抵抗はない。だって猛禽類だって鳥だけど、小型 の鳥も食べるしなんの問題もない。自然界では弱肉強食が当たり前 なのだから。 ﹁今日は大漁だったよ。豚︵豚腹と言う魔物︶と雉も仕留めたし。 これで一週間は持つ。いや、持たせる。﹂ ﹁下の大森林に豚なんかいたのか?﹂ ﹁︵居ない、豚腹って魔物なら居るけど⋮⋮まさかそれ!?︶﹂ 何だが八雲が青ざめた顔でこちらを見てくるのでニッコリと笑っ ておく。すると益々青ざめた⋮⋮ホントにどうしたよ八雲や。 ﹁︵ヤバイ⋮⋮ホントに魔物の肉だ⋮⋮食えるのか?食えるもの出 てくるのか?!︶﹂ 1377 挙動不審な八雲は置いといて、屋敷の居間に扉を出現させる。何 だが便利な〇こ〇もドアの様だが色は違うし、どこでも行けるわけ ではないので違うと言いたい。原理自体違うだろうし? それに繋げる場所は実際に行った場所、指定してある扉がある場 所等々結構面倒。まぁ∼指定しておけば他国の王宮だろうが警備が 厳重な場所だろうがどこでも行けるのは否定しない。これは母さん 達にも秘密だ。バレそうだけどね。 ﹁繋いだ場所は私の部屋。さぁ帰って母さんの様子も見ないと。︵ 妊娠の兆候があるからね⋮⋮眠かったのもその所為なんじゃないか ?︶﹂ だとしたらなんと間の悪い。別に弟ないし妹の間が悪い訳ではな い。あの芋虫⋮⋮黒幕共が悪いのだ。こんなときに⋮⋮相手にとっ ては好都合だったかも知れないが私が居てぶち壊した。ザマァ♪ オッホン⋮⋮。えぇと、母さん大丈夫だよね?結構心配なんだけ ど⋮⋮八咫烏達気が立ってるみたいだし︵特殊部隊ヤタガラスがパ ニクってるのか八咫烏がそうなのかは分からないが︶ ﹁さ、帰ろ﹂ ﹁そう言えば、お昼前食べてない⋮⋮﹂ ﹁ならお腹空いてるでしょ?皆も。﹂ ﹃きゅ∼∼。お腹がしゅきました。﹄ ﹃焼き鳥⋮⋮じゅるり⋮⋮﹄ ﹃焼き鳥⋮⋮ゴクリ⋮⋮﹄ ﹃そう言えば、朝以降何も口にしていなかった。 ﹁⋮⋮︵えっと、八咫烏って奴が焼き鳥になって出てこなければな 1378 んでも良いや。︶﹂ 各々腹の虫が鳴っているので早く帰って絞めて夕食の準備をしな ければ⋮⋮ ガチャリと音をたてて開けたドアの向こうの景色はよく見た自分 の部屋。大勢では色々とかさ張るのでポチ以外は影に潜んでもらっ ている。八雲はまだ出来ないのでそのまま後ろから着いてくる。 八雲が影に隠れる事が出来るようになるかは分からない。今後に 期待だね。出来なくてもそれはそれで仕方ないよ。会得に何が必要 かはよくわかっていない。ポチ達も分からないそうだ。 自分の部屋から出で廊下を歩いていると⋮⋮バカラスの気配がし たのでさったと母さんの居るリビングに入ってしまおう。それだけ でも私たちに有利になる。それと、もう一つの気配は父さんかな? 母さんと一緒にリビングに居るみたい。バカラスは玄関で私を待ち 伏せでもしてたのだろう。 当てが外れたなバカラスよ。 ﹁ただいま母さん。︵黒幕共の︶“収穫”が終わったから帰ってき たよ。父さんもお帰り。﹂ ﹁お帰りなさい紅蓮。お疲れ様。ランちゃんもお帰りなさい。﹂ 1379 ﹁ただいま。それとお帰り。紅蓮、藍苺、怪我は?﹂ 母さんがソファーに座り優雅に紅茶を飲んでいた。父さんはその 隣で甲斐甲斐しく毛布なり紅茶のおかわり等母さんを世話している。 若干母さんがウザがっているのはスルーしよう。そうしよう。 ﹁﹁無いよ﹂﹂ 父さんの問に答えたら嫁さんと二人でハモった。私の場合“治っ た”だけどさ。嫁さんは怪我もなくて良かった。後で小言を言われ るだろうけど⋮⋮ま、無事だったから良かった? ﹁お疲れ様。紅蓮。藍苺、貴女どこに言ってたかと思ったら紅蓮の 手伝いに行っていましたのね?お疲れ様でした。疲れていませんか ?﹂ イガグリ 鈴雛姫が労う。鈴雛姫の他に狛斗王子と柏樹王子、舞子に何故か 真っ赤な顔の大雅がリビングに居た。そしてマオもといミケも居た が、何故かニコニコ笑っていた⋮⋮不吉な予感が⋮ そう言えば筆頭女官さんはどこに行ったのかな?リビングには居 なかった。 そしてイガグリよ、どうしてお前顔が赤いんだ?魔素にでも酔っ て風邪気味か?ま、それは置いといて、 1380 ﹁母さんが倒れたと八咫烏に聞きました。大丈夫ですか?﹂ ﹁大丈夫よ。ちょっと立ち眩みしただけ。だからランちゃんそんな 顔しないでね﹂ ﹁⋮⋮はい﹂ ﹁⋮⋮さて、話を聞こうか?ココには当事者達が集まっている事だ しな。﹂ ﹁そうね。コウちゃんも素に戻っても良いわよ?﹂ 状況報告をしろと言うわけですね父上︵笑︶。母上もまどろっこ しいこの猫被りを止めろと。了解しました。 でも、王子達や舞子達に知られても良いのかな? 説明に若干時間が掛かったので割愛。その時の皆︵家族以外︶の 顔が思いの外面白かったことは記載しておこう。 狛斗王子は自分より小さい私が黒幕を一網打尽にしたことに驚き ﹁怪我をしたらどうするんだ!﹂と心配しながら驚いていた。もし かするとお人好しなのかもしれない。 鈴雛姫は﹁まぁ⋮⋮凄いですね⋮﹂とのほほんと笑っていた⋮⋮ 結構肝が据わっている様だ。将来母親の王妃様の様な女性になるこ とだろう。伴侶の人⋮⋮ガンバ! 舞子とイガグリの親子は始終話についていけないようだった。理 1381 解力が無いのか、話がブッ飛び過ぎてついてこれないのか⋮⋮どち らかと言えば後者かな? いつも通り通常運転の末っ子柏樹王子は少し眠そうに目を擦って いるので半分寝ているのだろう。お昼寝してないのかな?けど、今 寝ちゃうと夜眠れくなるよ? 人 筆頭女官さんは魔素に酔って寝てます。看病は母さんの眷属︵八 咫烏なんて目じゃない程温厚でいい妖怪︶がついてるそうです。 ﹁と、こんなことがありまして⋮⋮﹂ ﹁怪我したのか⋮⋮﹂ ジト目で八雲を見る父さんの目は危ない人に見えた。まるで今に ヒナ も飛び掛かりそうな猛獣の様な。なので悪いけど大人しくしてもら う為、私は⋮⋮ ﹁ちょ!!﹂ ﹁まぁ⋮⋮スゴい♪﹂ ﹁お見事?﹂ ﹁そこじゃないと思うぞ、雛⋮⋮﹂ ﹁ふみゅ∼∼︵寝ぼけ︶﹂ ﹁こ、紅蓮!?﹂ 1382 ﹁父さんごめんね?八雲は私の眷属になったから、手出ししないで ね? ね?﹂ ﹁⋮は、⋮⋮⋮⋮⋮はい﹂ 猛獣になって八雲を八つ裂きにしそうな父さんを檻に閉じ込めま した。こんな魔法が異世界にはごまんとありました。 鉄の檻に炎属性付きの檻、その他の属性付きの檻にもっと頑丈な 物質で作ることも可能ですよ奥さん ま、専ら銃とか弓ばかり使ってここぞって時以外使ってなかった けどね。まさか自分の父に使う日が来ようとはねぇ⋮⋮ この檻に入れば私の許可なく出れません。まぁ、力が私よりも上 なら容易に壊せるけど。それにこの檻のデザインには結構凝ってい る。普通の格子状の物ではなく、鉄の檻には歯車を細かくあしらっ て私が魔力︵妖力とほぼ同じ扱い︶を纏っているとその歯車が回る というこだわり。他にも炎属性付きなら赤い焔の歯車が周り、風な ら風車、樹は蔦と葉、水は水車と結構他は適当なデザインにだが一 応はこだわっていると言っておく。 今父さんが入っている檻はある程度頑丈な鋼の檻。だが、チート な父さんには役不足だろう。でもいいのだ。驚いて少しでも落ち着 きを取り戻してくれるなら⋮⋮ ちなみに一番頑丈な檻はオリハルコンだ。私の想像上では一番強 いと思う金属だからなんけど⋮⋮他にも強そうな金属って有ったっ け? 勿論物理的にも魔法︵妖気・妖力︶にも強く設定してるよ。 1383 ﹁え∼と⋮⋮こ、紅蓮さん?あの、出してくれますか?﹂ ﹁﹁︵えっ!だれ?︶﹂﹂ ﹁コクリッ⋮⋮︵居眠り中︶﹂ ﹁︵何で敬語?ボスの父親だよね?一家の大黒柱だよ⋮⋮ね?え? 違うの?︶﹂ 出してくれと父さんは腰が低めの態度で懇願する。だが、私は知 っているのだよ?父さん。 出したら一気に八雲に飛び掛かるつもりなんでしょ?まだ目から 殺気が抜けきれてないし、纏った妖気がビシビシ痛いよ? ﹁まだ殺気だった父さんを出すわけにはいかないよ。父さんも言っ てたでしょ、﹁強者は弱者を守るのも﹂だって。父さんに比べたら 八雲がどんなに頑張っても敵わない。檻から出すなんてそんな自分 の眷属を危険にさらす真似はしないでしょ?ちょっと頭冷やしてね。 ﹂ ﹁レ、レン⋮⋮︵スゴい⋮⋮何だよあの技⋮⋮逆らわないようにし よう︶﹂ ﹁⋮⋮そうね。眷属は家族だものね⋮⋮コウちゃんの眷属なら私達 の家族も同じよね。ねぇ朱李、今回のことは水に流しましょう。こ のままなら家族崩壊よ? 幸い私達誰も死ななかったわ⋮⋮それに、 巻き込んだのは私達大人。私達こそ広い心を持たなくちゃ⋮⋮ね?﹂ ﹁うぐぅぅぅ⋮﹂ 1384 母さんに説得されて少し落ち着いてきた様だけどね、私は出しま せんからね? だからそんな顔で見てもダメだよ父さん。 ﹁ね?朱李?﹂ ﹁⋮⋮仕方ない。確かに巻き込んだのは俺たちだしな⋮⋮奴は気に 入らないが⋮⋮玄関にあった血溜まりの件はまだ許してないぞ。﹁ 父さん﹂﹁朱李﹂⋮⋮⋮分かってる。﹂ 恨めしそうな目で八雲を見る父さん。八雲はその殺気と妖気で冷 や汗をかいている。ま、それはさもありなん⋮⋮仕方ないよ。子供 の命狙われた親としては殺したい気持ちは分からないでもない。 でも、その為だけに人殺しをしてほしくもない。自分の手を散々 汚してきた私が言う台詞でもないから言わないが。父さんや母さん にはあまりそういう事をしてもらいたくない。そんな風に自分勝手 に考える自分に辟易しながら檻を解放しようか考えていると⋮⋮ ﹁やはり今回の事は我々王族を狙ったのか?﹂ 漸く?復活した狛斗王子が疑問を口にする。皆の前で説明したと 言ってもそこまで詳しくは話していない。この件は母さん達に任せ た。所謂丸投げだ。だって面倒いし、晩飯の支度もあるしで忙しい もん。正直言って今スゴく疲れてます。2週間眠り続けた体は鈍り きって動かしづらいし、何より目覚める直前まで大人の体だった為 に多少のズレがあるみたいなのだ。 1385 手足が思っていた長さより短くて物を掴もうとして掠めたり、無 理に動こうとして転けたり⋮⋮動きづらいことこの上無い。いきな り手足が短くなったらみんなもそうなるよ? ま、その話は置いといて。皆さんお待ちかね?のあの話題に突入 ですよ。え?何の話題だって? そりゃ⋮勿論⋮⋮⋮焼き鳥にしてもいいかだよ♪︵意味深︶ ﹁ねぇ母さん。今日の夕食は焼き鳥にしても良いかな?﹂ ビシリっ、そんな音でも出そうなリアクションで固まった嫁さん と八雲。何だよ二人とも⋮⋮八咫烏を焼き鳥にするなんて信じてた の? 本当にしたりしないよ⋮⋮だって大して肉付きは良くないし 美味しそうに無いから⋮⋮食べないよ? ま、その事はそこに隠れているバカラスには知らせなくても良い よ⋮⋮ねぇ? ﹁焼き鳥? 私は塩ダレが良いわ⋮⋮ん?どうしたのあなた達﹂ ﹁レイ⋮⋮︵違う、紅蓮の言ってる意味が違うと思うぞ。決して味 1386 付けの事を聞いたのではなくレイの後ろに隠れている八咫烏にお灸 を据える為にだなぁ⋮⋮︶﹂ ﹁⋮⋮︵ヤバイ⋮レンの奴本気でやりかねない⋮⋮変なところで実 行力が有るからなぁ⋮⋮大丈夫だよな?︶﹂ ﹁⋮⋮は、ははは⋮︵あぁ⋮⋮容赦ない。この子容赦無いわ⋮⋮あ ははは⋮⋮俺の上司って誰だっけ?⋮⋮この子だった∼!⋮⋮やっ てける自信ないぞ俺︶﹂ キュウキ どうせ二人とも失礼な事を考えているのだろう。ねぇ二人とも⋮ ⋮私そこまで悪魔じゃないよ。獰猛な窮奇の血が騒ぐけど。でも血 に流されはしないよ?ちょっと楽しいけどね♪ 母さんの後ろに隠れている八咫烏に視線を向けると大袈裟に小さ な肩?をビクリとさせて体が少し膨らんだ。鳥でも威嚇する時膨ら むもんなんだね∼。猫ならよく見たけど鳥ってあんまり見たこと無 いからなぁ⋮⋮TVで相手によって細くなったり膨らんだりするフ クロウなら見たことあるけどさ⋮。 自分より強 なんだっけ?そのフクロウ⋮⋮ポポちゃん?ポクちゃん?名前忘 れたけど、自分より弱い相手には体を大きく見せて、 い相手にはひゅーっと細くなってた。劇的に変わりすぎで同じフク ロウだと言われないと分からないよ。 まぁ、八咫烏はあれよりは膨らんでないけど、これって私よりも 自分は上だって思われてる? 私がナメられてるからポチや嫁さん がナメられてる? 1387 へぇ∼∼。そう。そうなのかぁ∼⋮⋮。ふぅ∼∼∼ん。フフフフ フフフフ⋮⋮。 ﹁やぁ、八咫烏。さっきは嫁さんやポチが世話になったね?⋮ちょ っと後で話が有るから台所に来てよ⋮⋮出来れば自分で羽を毟って くれてると助かるかな?フフフフフ⋮⋮ね?﹂ 私の顔はいつも無表情らしい。意識しないと﹁目が笑ってなくて 怖い﹂とか﹁顔が整ってて余計に怖い﹂とか﹁人形が立ってるみた いで不気味﹂などよく前世でも言われてきたが⋮⋮私は普通だ。普 通だから⋮⋮ね? 白すぎる肌と目の色がダメなのだ。ほら、やっぱり目が赤いとそ んな風に見えるんだよ。特に愛想もなかったから余計にさぁ。前世 でも散々気持ち悪い、気味悪いなんて言われたし。 ﹁あら?どうしたの⋮⋮八咫烏?⋮⋮⋮まさかまた何かしたの?﹂ どうしたもこうしたも無いよ母さん。私が何があったか簡単に説 明すると母さんは始終笑顔で八咫烏を見つめていた。無言の威圧感 ⋮⋮目が、目が笑ってないよマミィ⋮⋮。まいいっか。八咫烏だし。 ﹁八咫烏? 貴方には口を酸っぱく言ったわよね?コウちゃんやラ ンちゃんに意地悪しないって⋮⋮。ねぇ?八咫烏?﹂ ﹃しかし⋮この場の秩序を乱したのは紛れもない事実。麗春様もお 加減が悪い。私は然るべき事をしただけです。﹄ 1388 ﹁⋮⋮ふぅ⋮⋮つまり、貴方は反省も後悔もしていないのね?﹂ ﹃はい。していません。﹄ していません。なんて言っているけど目が若干泳いでいるよ八咫 烏。しっかし、ここまで開き直られると怒りを通り越して殺気が沸 くよ? 気になる嫁さんの表情は﹁コイツまたやらかしたのか⋮﹂といっ た呆れた表情だ。でもね嫁さん?あなたは怒っても良いのよ? だ って家に帰ろうとして門前払いされたんだからさ。 どうも嫁さんは八咫烏をあまり気にしていない様だ。てか、眼差 しが生暖かいのは事によってはバカにするよりもバカにしている様 な気もしないではないが⋮⋮。多分、八咫烏ごときどうでもいいの だろう。うあぁ⋮⋮それってバカにするよりもキツいわぁ。 ﹁八咫烏。貴方にはケジメをつけてもらわないと皆にケジメがつか ないわ。だから貴方には白の王宮で白の王達の護衛を命じます。﹂ ﹃!!!!!﹄ あ∼あ。八咫烏にとって最大の罰だね。母さん主上主義の八咫烏 は今の命令には従うけど、母さんから離れるのは不本意だろう。私 だって嫁さんから離れるのは辛いよ?寂しいしね。けど、だから大 切な嫁さんに敵視している奴を容認できない。家に居なければ別に 敵視されてても良い。けど、家に居るなら容認できない。いつ、私 の見えないところで攻撃してくるかも分からない奴を家に置いとけ ないでしょ? 1389 私はソコまで懐が深い訳でも、善人でもない。どちらかと言えば、 自分勝手な偽善者で、虎の威を借る狐だ。嫁さんが一番の最優先で、 その為には手段を選んだりしない。 別に八咫烏が憎いわけでも無いけど、今後誰かを手引きして嫁さ んに害を与えるかも知れない奴は側にいてもらいたくない。八雲? ⋮⋮あぁ。そうだね。でもね、八雲は自分で墓穴掘るなんてしない と思うから大丈夫。嘘も下手だし。 ﹁わかった?八咫烏?⋮⋮貴方は私の許しがあるまで白の王達を護 衛して。前にも言ったでしょ?貴方のランちゃんに対する行いは容 認できないと。直ちに考えを改めなさいと。それでも貴方は反省し ていないのね。﹂ ﹁八咫烏⋮⋮お前はやりすぎだ。﹂ ﹃貴方に⋮⋮8年間眠っていた貴方には言われたくありません。麗 春様を守ってきたのは我ら眷属。貴方に兎や角言われる⋮﹂ ﹁それはお前も言えないだろ。本当の母さんの眷属なら、家庭崩壊 を招くような事をしたらダメだろ。お前が考えるほど母さんは弱く ないよ。守ってきたのは分かるけど、気持ちを汲み取って行動して きたと胸はって言えるの?﹂ ﹃子供風情が知った口を利くな!!﹄ ﹁子供だ大人だ、関係ないんだよこの問題は。お前は母さんの気持 ちを汲み取って来たのかって聞いてんだよ。確かに今回の件は母さ んに負担を掛けた。でもそれは母さんも容認していた。私が傷付き、 1390 藍苺が暴走する危険も少なからず知っていた。予想していた⋮⋮け ど、まさか家に入れるのをお前が拒否したのは予想してなかった。 ちょっと信用し過ぎたよ。﹂ 兎天を眷属にする時に母さんに言われた事があった。﹁眷属は家 族や友、仲間なのよ﹂と。私もそうだと思っていた。 でも、八咫烏は違ったようだ。母さんが唯一の主。母さん以外は 敵か他人だと、行動で示していた。私や嫁さんでも容認できないの に今度は白の王族や舞子親子がゾロゾロと家にやって来たので八咫 烏も苛々していたのだろうか? 露骨な嫌がらせを私に仕掛けてきた。そう、冷蔵庫の食材を隠し てしまったのだ。あれは八咫烏の仕業だった。勿論隠すだけでなく 食べたのだろう。結構な量が消えていたので協力者も居たのかも知 れない。知らずに片棒を担がせたとも考えられる。 ﹁私は母さんや父さんに眷属は家族と同じだと言われた。けど、お 前は違ったんだな八咫烏。﹂ ﹃若よ。貴方は幼い、だから解らぬのです。家族と言うのは建て前、 本当に大切なのは主ただ一人だと。貴方の眷属も同じ。貴方に命じ られ仕方なく彼女の命令にしたがっているだけ。﹄ ﹁⋮⋮だから?﹂ ﹃なに?﹄ 1391 ﹁私は嫁さんを﹁守れ﹂とは言ったけど。命令を聞けとは言ったこ と無いよ。﹂ ﹃藍苺様は我らに命令することなど少ない。大半が﹁お願い﹂だ。﹄ 信じられないと言いたげな八咫烏は異様なものを見るように私を 見つめていた。 そう言えば舞子とイガグリはずっと喋ってないけど話についてき てる? 1392 怒りは静に揺れる炎のように1︵後書き︶ 攻撃的になっているのには理由があります。それは次の次で明か されると思います。 では︵^^︶/ 1393 怒りは静に揺れる炎のように2︵前書き︶ 後半に血流表現あり。注意してください。 どうやら八咫烏は罰を受けるみたいですよ? 読んでくれる皆さんに感謝します。 1394 怒りは静に揺れる炎のように2 くちばし 唖然⋮⋮八咫烏の表情は鳥ながら豊かだった。兎天も表情は豊か だが、コイツの表情は真っ黒な羽で普段は分からない。嘴が笑いを 誘うほど開いているせいだろう。 ﹃八咫烏よ。主は我らに藍苺様を﹁守れ﹂としか命じてはいない。 それに主は我らに滅多に命令などしない。﹄ ポチ⋮⋮璃瑠が八咫烏に反論する。さっきまで私の影に潜んでい たのにいつの間にやら出てきていた。うん。正直嬉しい。主冥利に つきる? ﹃どちらかと言えば﹁お願い﹂の方が多いですね。自分で出来るこ とはご自分でしてしまう人ですから。﹄ ﹃きゅ。そうでしゅ。御主人様は僕達に命令しないでしゅ。それに 藍苺様も僕達にはお願いしか言いません!﹄ 兎天と奏も出てきた。そうだったっけ?私は命令してたような⋮ ⋮してなかったような⋮⋮ あ、でも、藍苺を守れ、は言った気がする。 ﹃どちらかと言えば、“自分達が好きでが従っている”だな。自分 はまさに押し掛け眷属だった。﹄ 1395 しなやかな体をくねらせ大蛇の夜夢はそう言った。確かに夜夢は 自分から眷属になりたいと言ったけど、押し掛けには感じなかった よ? ﹁俺は日が浅くてなんとも言えないけど、子供だからとかこの人に は当てはまらないよ。だって大人達が手こずらせていた事を簡単に 解決したんだ。﹂ 青ざめた顔は少し戻ってきた八雲が夜夢に続く。 ﹁何より、ここに侵入してきた身としては此処の警備体制の方がお 粗末だった。俺は一応精鋭だけど他のずぶの素人に毛が生えた程の 奴等が簡単に侵入できる方が問題だろ。いくら強力な結界でも綻び はあるんだ、この家の周り以外は手薄で普通に歩いていても見つか りもしない。﹂ ふぅやれやれ⋮⋮そんな感じのジェスチャーで一旦話を切った。 八雲⋮⋮お前普通に話せたんだなぁ。私はッスがいつまでも抜けな いのかと思ってたよ。今度から普通に話せって言っとこう。 ﹁お陰で俺はボスの眉間をぶち抜いちまった。まぁ、それは俺が悪 いし、罠に掛ける為にわざと撃たれたんだし⋮⋮あぁ∼何であの時 撃ったんだろ⋮⋮過去に行けるなら俺は自分を暗殺したい⋮⋮﹂ 話が脱線し始めた。それに藍苺と父さんが殺気だつ⋮⋮ちょっと 我慢しようね二人とも。 ﹁オホッン⋮⋮えーっと⋮⋮死んだフリをしたボスを運ぶ時も玄関 1396 にいた麗春さん?と藍苺⋮様だけで“誰も追いかけて来なかった” “追いかける素振りさえしなかった”。アンタ近くで見てたのにな。 他のは慌てたり、でも我慢するようにじっとしてた。けど、アンタ の気配だけは始終落ち着いていただろ。俺って気配には敏感なんだ。 弱いからな。﹂ あ、やっぱり気づいてた? あの時⋮⋮死んだフリをした私を八 雲が運ぶ時、実は母さんの眷属達が監視していた。他の眷属は始終 ハラハラしていただろう。彼等は私にお菓子を貰っていた。だから 私に何かあるともうお菓子を貰えなくなる。彼等は私を信用しきっ てはいない。けれども邪険にはしない。ギブアンドテイク、私はお 菓子をあげる、彼等は私を母さんの子供として一応認める。 そここから信用って勝ち取る物でしょ? 何も最初から信頼も信 用も無いのだから。私はここ数ヵ月の間お菓子あげ続けた。彼らも 私を信用してきた⋮⋮ま、嫁さんも同じように子妖怪と遊んだり、 大人の妖怪達と畑を耕したりしてきた。 漸く認めてもらえてきた⋮⋮と、思っていたんだが⋮⋮。どうも 八咫烏とは波長が合わない。多分どちらかが出ていかないと行けな いのだろう。 そんなことを考えている間にも八雲の話は続いた。 ﹁アンタ、撃たれたのを見ても何とも思ってなかった。平然として 眺めてた。アンタの同僚達は動揺してたのに⋮⋮ソコまで心閉ざせ るのか?凄いな⋮⋮俺はなりたくないけど。﹂ 1397 天井を眺めて溜め息を一つ。暗殺稼業をしていたのなら思うこと もあるのだろう。 ﹁俺は暗殺の技術を叩き込まれた。そうしないと殺されるから。け ど、自分の命が掛かっていても、他人の命を奪う時、必ず躊躇する。 引き金を引いても罪悪感で気分が悪くなる。それって人として普通 なんだろ?⋮⋮ソコまで心殺して⋮⋮主守りたいのか? それで主 が幸せだと本気で思ってる?だとしたらアンタの頭相当おめでたい ね。アンタの主も人の親だろ。息子が死んだら悲しむだろ⋮⋮嫌っ ていない、それも一緒に暮らしてる娘が帰ってこなかったら心配す るだろ⋮⋮気付けよ、お前が皆の足並み崩してる事を。この部屋に 入って直ぐの麗春さんの気配は﹁心配でしかたない。でも落ち着か ないと⋮﹂てな感じだった。それなのに、聞けば、追い返した⋮⋮ なぁ、何がしたいんだよ⋮⋮俺にはさっぱり分からない。﹂ 八雲がよく喋る。鬱憤が溜まっていたのかなんなのか⋮⋮。それ にしても、意外な八雲の特技気配に敏感。それも、気配だけで心ま で読み取る程。それがどれ程の精度かは不明だが、何かと重宝する かも知れない。 さっきの八雲の母さんの気配から読み取った感情を話した時、母 さん表情は﹁どうして分かったの?﹂だった。何処まで読み取れる か分からないが本当みたいだ。 だが、私にもそんな嘘発見機みたいな能力はある。八雲の能力は 嫁さんに宛てることを視野に入れておこう。藍苺は昔から何処か抜 けてて⋮⋮人の嘘を見抜けない所がある。だから疑心暗鬼になりが ちだった。 1398 ⋮⋮おっと、話が反れた。 ﹁八咫烏﹂ ﹃⋮⋮⋮﹄ 私は話しかけた。これ以上王子方に醜態を曝すのはやめた方が良 いでしょ? それに、八咫烏は始終八雲を睨んでいる。ここは私が八雲から視 線を離さないといけないでしょ。私が始めたことなんだから。 ﹁何も永久に帰ってくるなって言われてる訳じゃないんだから⋮⋮。 ﹂ ﹃貴方には何も分からない﹄ ﹁当たり前でしょ。八咫烏には人の心が読めるの?私の考えがわか るの? 何当たり前の事を聞いてるの。それにさ、私はどうせ出て いくからその内帰ってこれるけど⋮⋮もし、妹弟に対して何かした ら⋮⋮今度こそその首は胴と完全におさらば⋮⋮だからね?﹂ 忘れもしない、八咫烏がしてきた嫁さんに対する些細で、姑息で、 意地の悪い嫌がらせの数々を。私は知っている。覚えているのだ。 それを踏まえると生まれてくる兄弟が心配だ。 あれ?⋮⋮⋮⋮なんか変⋮⋮? 1399 ﹁さて、話は終わったから私は晩御飯の用意でもしてくるよ。﹂ じゃ!っと手をあげてキッチンに向かう私を王子方が見つめた。 どうも猫を被っていたのに驚いたようだ。これが素なんだよ。仕方 ないでしょ?それと、ミケ、アンタはその笑いを堪えた顔をどうに かしなさいよ⋮⋮笑いたけりゃ笑え。 言いたいことを言ったのでさっさと退散。さぁーて料理しないと なぁ∼。 それにしても⋮⋮何か体が変に怠い⋮⋮気がぁ⋮⋮する? ******** ﹁俺は何時まで檻に入っていなければ行けないんだ?﹂ ﹁あら、朱李⋮⋮まだ閉じ込められていたの?﹂ ﹁あぁ。紅蓮のやつ、俺の事はすっかり忘れていたようだ⋮⋮俺っ て父親として見られてない?﹂ 1400 ﹁そんなことは⋮⋮ないと思うけど⋮多分﹂ 朱李さんを檻に入れたまま残していった紅蓮を俺は追った。料理 を作るのだからキッチンに向かったんだろう⋮⋮キッチンについた ら朱李さんの事を言っておこう。もう出ても新入りに危害は加えな いだろうから。 気付けば八雲以外の眷属達はリビングには居なかった。奏は早く も俺の持つ薬入れに入ってしまっていたし、ポチや兎天もいつの間 にか居なくなっていた。レンの所に居るのだろうか? キッチンはリビングから直ぐの場所に⋮⋮実は無い。近いとは言 えないが遠いとも言えないけど。 それでも、日本でよく見た⋮⋮ダイニングキッチンとは違い、壁 を隔てている。どうも、麗春さんが意図的に離したらしいが⋮⋮紅 蓮曰く﹁爆発するから﹂らしい。料理で爆発するなんてどんな料理 だよ。 キッチンに入ると忙しそうに料理をしているかと思われたレンは・ ・・・ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮﹂ ドスッ!メキョッ!バキッ!!グシャッ⋮⋮っと、音だけは何と 1401 もグロテスクな想像を掻き立てる音を発てていた。 一応言っておくが、ここは我が家のリビングであって、決してホ ラーゲームではない。俺はホラーが好きだが、家がホラーは勘弁だ。 しかも、無言で包丁を持って肉をブッた斬っている。それも無表 情で⋮⋮やべぇぇ⋮⋮ホラーゲームよりも恐い。 絶え間無く響くグロテスクな音は未だ続く。子供が見たら泣き出 す。俺も正直泣きたい。心の奥底にある“藍苺”の部分は既に号泣 ものだ。感情が引っ張られぎみの今、泣きたい⋮切実に。 勢いよく振り降ろされる包丁は武器としても優秀で⋮⋮とてもよ こんごうじゅ く斬れる。そんな包丁の斬撃を受け止める生板は木材の中でも特別 頑丈な金剛樹と呼ばれる歴とした武器防具に用いる素材だ。それも 目玉が飛び出るほどの高価な。 この家はそんな色々な高価で頑丈な素材をこれでもかって程使っ ている。レンを始め、俺や麗春さん達は皆怪力持ちだ。家に使う素 材や家具も頑丈でないと直ぐに壊す恐れがあるもんな⋮⋮。 ちなみに、俺が折った箸はどれも金剛樹製の高価な物だった⋮⋮ 本当にごめんなレン。 つまり、この家はその全てが宝の山なのだ。売れば⋮⋮遊んで暮 らせる程の。それだけに維持費がバカになら無い。これも我が家の 家計を圧迫するレンの悩みのタネなのだ。俺が早く大きくなって働 かないと。 そんな訳で、今俺はドアを開いたまま目の前の光景から現実逃避 1402 をしているのだった。 ﹁︵声かけられねぇ⋮︶﹂ 実は俺の方からは見えないのだが俺の第六感は無表情で包丁を振 り下ろしていると囁いている。力一杯⋮そりゃもう流し台が凹むん じゃないかと思うほどに。そろそろ止めないとそうなりかねない。 ここはベルの旦那、現在レンの嫁として止めなければ! ﹁レン⋮⋮﹂ 呼び掛けた、呼び掛けたまではよかった。問題はそれからだ。 ﹁⋮⋮⋮︵ギロリ︶﹂ ﹁⋮⋮⋮︵︵︵︵︵゜゜;︶﹂ あろうことかレンは包丁を持って振り返った。さながら包丁を研 いでいた山姥⋮⋮或いは人の肉を貪り食っていたゾンビが主人公に 気付いて振り返ったシーン⋮⋮オマケに頬には返り血がご丁寧にも 付いていた。本当にホラーですね分かります。 ﹁⋮⋮︵ジィィ︶﹂ ﹁⋮⋮⋮えっと⋮﹂ 若干紅い目が猫科の猛獣見たいに縦の瞳孔に見えるのは気のせい だろうか?しかもこれまた包丁をちらつかせる様にして⋮⋮包丁に 1403 は肉からついたら血と思われる紅い物がちらほらと付いていて、刀 身も曇りぎみに鈍く光っていた。多分肉の脂だと思う。 嫁 あれ?俺ってレンの旦那だよな?何か⋮⋮⋮睨まれてないか? 1404 怒りは静に揺れる炎のように2︵後書き︶ 壊れた紅蓮はヤンデレ化しました︵未遂?︶。 すまん藍苺⋮⋮次回どうにかするよ⋮⋮多分。 1405 ホラーは二次元だけにしてくれ︵前書き︶ 胃が痛い⋮⋮すいません。体調を完全に崩しました。あぁ⋮⋮更 新速度が遅くなる⋮⋮ごめんなさい。m︵︳︳︶m 今回藍苺視点です。 紅蓮はどうなるのでしょうか。 1406 ホラーは二次元だけにしてくれ 扉を開けるとレンが包丁を手に持ち肉をブッた斬っていた。 ご丁寧にも包丁には血を滴らせ、頬には返り血を付けて振り返っ た、ホラーシーンを再現していた。しかも、若干紅い目が猫科の猛 獣見たいに縦の瞳孔になり、光って見えた。 ﹁えっと⋮⋮料理手伝う⋮⋮ぞ?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ジィィっと見つめてきたので俺もジィィっと見つめた。決して睨 んでいる訳じゃない。俺もレンも見ていただけだ。 そして暫く間を置いてから⋮⋮ ﹁あ、あぁ⋮⋮嫁さん? っ⋮⋮ごめん、ちょっとここら辺からイ ガグリの臭いがしたもんだからちょっと気が立ってた⋮ごめん。﹂ ﹁あぁ⋮そうか、ここに居たからなぁ﹂ 確かにイガグリ︱︱大雅王子はこのキッチンに来た。しかし⋮⋮ 臭いか。臭いを嗅ぎ付けるあたり、ソコはやっぱり獣的なんだなぁ ⋮。顔が恐く見えたのは返り血の所為かな? ﹁魔素に酔っておかしくなってた。奏が巻き付いて捕縛したけど⋮﹂ ﹁へぇ∼⋮⋮⋮奏には嫁さんに変な事しようとしたら容赦なく捕縛 しろって⋮⋮言ってたけど⋮⋮ま・さ・か、まさか本当にするとは 1407 ねぇ∼。﹂ 近くに近寄ろうとした俺は、 ﹁ドスッ!!﹂ と包丁を生板に叩き付けて目が据わったレンに足が止まった。恐 怖が俺を止めたのだ。 今の光景はホラーな肉屋だろう。あれ?そんなゲーム無かったっ け?あ、違うか、あれは⋮⋮庭師の大男が料理を作ってる映像だっ たっけ? あははは⋮⋮ ﹁あのイガグリ⋮⋮どうしてくれようかぁ⋮⋮﹂ ニヤリ⋮⋮。と笑い始めたレンが無性に恐い。目が少し見開いた 所もまた恐い。いつもの﹁フフフフ⋮﹂な笑でも綺麗な顔では恐怖 が増す。なのに今回は⋮⋮無言のニヤリだ。ダメだ。俺のSAN値 はガリガリ削られていく。 赤の他人のなら別に怖くない。だが、最も親しい相手がこうなる と恐い。本当に恐い。SAN値直葬だ。もうやめて、俺のSAN値 はもうゼロに近いよ!! ﹁お、落ち着け、落ち着けレン。﹂ ﹁なぁに?嫁さん?﹂ ニッコリ。さっきとは裏腹にとても綺麗な笑顔で答えた。だが、 1408 さっきのニヤリを見てからだと、恐怖を煽る事しかない。考えても 見てくれよ、自分の伴侶、恋人が包丁を片手に目を見開いてニヤリ と笑っている。しかも、包丁には血が付着して頬にも返り血⋮⋮恐 い以外に何があるのだ? この世界の原作はいつからヤンデレになった。確かどのルートも レンはヤンデレにはならなかったぞ。俺は危ないようなルートもあ ったが、まぁそれは置いておこう。 要人でもあ にしても、これは不味い。レンが元に戻らないと料理は出来ない、 俺は発狂寸前、どうでも良いのだが一応客人で他国の るイガグリの命が無い。てか、どうしてさっきまで普通にしていた のに発狂してるんだよ⋮⋮本当に何でだよ!! ﹁⋮⋮⋮ガスッ!﹂ 一度生板の方に向き直り包丁なの刃先を生板に突き刺した。益々 おかしい⋮⋮料理道具は丁寧に扱うレンがソコまでするなんて⋮⋮ それだけじゃない。レンは⋮⋮いや、ベルの時も包丁と生板は丁 寧に扱っていた。常々﹁料理道具は魂が宿るんだって。私が使って も大した料理は作れないけど、丁寧に扱っていたら少しは料理が美 味しくなるかも♪﹂と言っていたくらいだ。こんな風に扱うなんて あり得ない。 それに、ベルが使うと長持ちするのだ。ケータイとかも。言わな きゃ平気で3年以上使っている事もあった。ケータイ最長記録は5 年だった。それも俺が買い換え時期だろ?と言ったから換えたので 1409 あって、言わなければもっと延びただろう。 おっと、話が脱線した。つまりは本当にレンらしからぬ行動だっ て事を言いたかったんだ。 それと心なしか顔色が若干赤い? 熱でも有るのだろうか? レンが包丁を手放した今がチャンス。そう思い近付いて手を取っ た。案の定レンの手は冷え症ではないのでいつも温かい。だが、今 はとても熱かった。 ﹁レンお前!⋮熱がっ!﹂ 慌ててデコに手を当てて熱を確かめた。もう恐いとかどうとか頭 から吹っ飛んでいた。 ﹁熱っ!!﹂ ﹁⋮ひんやりして気持ちぃ⋮⋮﹂ ふにゃり⋮そんな風に笑うと額に当てた俺の手を自分の手で掴ん で抑えた。俺の手は冷え症なのかそう言う体質なのか冷たい。やは り熱がある所為で気持ちがよかったのだろうか? ﹁そんなことより⋮⋮レン、休んでろよ。後はどうにかするから。 無茶したんだ、な?休んでろよ。﹂ こうしちゃいられない。麗春さんと朱李さんに言わなければ⋮⋮。 1410 そう言えば、朱李さんまだ檻の中だったな。もしかして熱の所為で 忘れてたのかも。注意力散漫になってたんだよな? ベルが熱を出したのは両手で数えるほど⋮⋮今のように高熱だっ た事などわずか三回⋮⋮その時の行動は⋮⋮ ﹁アハハハハハハハハ⋮⋮ハァ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮︵テンションが変に上がるんだよなぁ︶﹂ ベルは一年に一回は熱を出した。ミケは﹁鬼の撹乱﹂とか言って いた。高熱が出るのは数年に一回のペース。子供の頃はもっと出た とか。大人になって多少は改善したと本人は言っていた。小さい頃 のベルはとても痩せていて⋮病弱なのは明白だった。体力の無い子 供が何度も高熱を出すのは大変だっただろう。ホントに生きててく れて良かった。 っと、脱線、脱線。 フラフラして来たレンを支える。おいおい、どんだけ具合悪かっ たんだよ⋮⋮。あぁぁぁ∼、暴走した俺のバカ!!レンの方が重症 じゃないかよ!熱でおかしくなってたレンに恐怖してた俺のバカ! 本当俺ってバカぁ!!! 頼むから大事にはならないでくれ!!! 1411 ﹁もう大丈夫よ。﹂ ﹁気を失ってもこの檻は解けないのか⋮⋮凄いな!?﹂ ﹁檻の中から言われても⋮⋮﹂ 檻の中から朱李さんは気を失ったレンを心配そうに見ながらレン に閉じ込められた檻を誉めた。 あのあと気を失ったレンを担いでリビングに戻ると八雲と話して いた麗春と不本意だけど心意に聞いていた朱李さん、未だに話につ いてけない王子達とニヤニヤ笑うネタでも考えてるマオ嬢ことミケ は完全に聞き手にまわっている。 てか、レンの檻って本当にスゴいんだなぁ。 ﹁ボス、大丈夫ですか?﹂ ﹁大丈夫。妖怪でも疲れは溜まるものよ。ただ慣れないことをした から疲れたのよ。八雲くんから聞いたらかなり無理したみたいだし。 何より、皆忘れているようだけど、紅蓮はまだほんの8歳よ。体が 追い付かなかったのよ。﹂ 1412 ﹁﹁﹁﹁︵そう言えば8歳だ︶わ︶ですわ︶﹂﹂﹂﹂ あ、今狛斗王子、鈴雛姫、舞子と八雲が同じ事を考えてたな。ど うせ、今更8歳の子供だって気が付いたんだろ? 中身三十路手前だからなぁ⋮⋮俺もそうだけど元々が子供っぽい からそうでも無いんじゃないか? ま、そんなことは置いといて⋮⋮レンが過労で高熱をだしてダウ ンした。一時はどうなるかと思ったが、頭を永久氷石と呼ばれる溶 けない特殊な氷で冷やしている。 厄介なことにレンの一族皆、薬の類いは効かないのだ。毒が効か ない代わりなのだそうだ。 黄の国で飲まされた毒は特別なモノで唯一らしいが、その分作る のも、買うのも値も張るので早々無いらしい。あ、それと。毒消し が効くのはあくまで毒の効果を打ち消す為であって、薬が体に直接 効いている訳ではないので論外だとか。よくわからないなぁ。 それにしても、妖怪って体が頑丈過ぎるのか高熱の度が遥かに違 う。今レンの体温は50度⋮⋮そう。もう死んでても不思議じゃな い。いや、人間なら死んでる。40度でもヤバイのにそれを大きく 上回ってしまっている。 俺はもうハラハラしっぱなしだ。さっきも言ったように、レンに は解熱剤が効かないのだ。だから地道に冷やすしかない。もどかし い⋮⋮ 1413 うな 苦しそうな息、熱で真っ赤な顔、下がらない熱に魘されて汗だく なレンは見ていても苦しい。これ位では死なないらしいが、逸れで も心配なのは変わらない。 ベルの時はどうしてたっけ⋮⋮ ﹁コウちゃんは今まで熱も出したことが無かったのよ⋮⋮こんな時 はどうすれば⋮⋮。先ずは何か食べさせないと⋮⋮それよりも水か しら?﹂ 本当に情けない親よねと、落ち込みぎみポツリと呟いた。そう言 えばレンが﹁私の様な子供だと親が育たないから﹂とか言ってたな ぁ。もしかしてこの類いの事か? まあ、確かに俺も手探りの子育てだったし。いくら親の助けがあ っても何時も助けがあるわけじゃ無かったし⋮⋮。自分の判断で子 供の命が危うくなるかを別ける事もある。責任重大だ。 そんな親に必要な経験が麗春さんや朱李さんには無いのだ。レン や俺は赤ん坊の頃から自我があって面倒もあまり掛けない。そんな 手の掛からない子供では親は育たない。子育ては親育て、子供がチ ートで頑丈過ぎるのも考えものだな。 ﹁︵俺が熱を出しても食べられたのはベルが作った甘い玉子焼きと 洋梨と桃の缶詰めだな⋮︶﹂ 1414 今考えたら熱があって食欲が無いって時に良くもまぁ玉子焼き食 べれるよなぁ。桃缶とかは分かるけどさ。 でも、今ココに桃缶は無い。てか、缶詰め自体がない。あ、でも 桃とか洋梨とかフルーツ類は“白き箱庭”に実ってた⋮⋮取ってこ ようか? ﹁仕方ない、自力で出るか⋮⋮っ!!!⋮⋮⋮? ・・・出れない﹂ ﹁あら、スゴいわね。朱李の力でも出れないなんて⋮⋮もしかして コウちゃん最強何じゃない? ってそれよりもコウちゃんの熱を⋮ ⋮﹂ 俺の隣で繰り広げられるコントを無視してレンにしなければいけ ないことを必死で考えた。けど結局、桃と洋梨を取りに行く位しか 思い付かなかった。 ﹁︵今の俺に出来ることは、簡単に夕食を作って、“白き箱庭”か ら果物を取ってくる位だ。あ、でも、夕食を作るのは大役か?︶﹂ 考えても仕方がないので夕食の支度をしようか。その後果物を取 りに行く。レンはココで麗春さん達が見ててくれるだろう。よし。 さ、支度支度⋮⋮ ん?王子達はどうしたかって? 大人しくしてるぞ? 話につい てけなくて静なだけだろうけどさ。 1415 そこで俺はふと、気が付いた。 あの俺のSAN値をガリガリ削った場所に一人で行くのか⋮⋮? 肉と血が散乱?している場所に? ちょ、誰か、誰かついてきてくれ∼。あ、奏?薬入れから出てき てくれ、頼むからぁぁ∼。 結局レンの眷属達は出てこなかったので、ただ一人居た八雲につ いてきてもらうことになった。あれ、気まずい⋮⋮選択ミスしたな、 俺。 1416 ホラーは二次元だけにしてくれ︵後書き︶ 紅蓮は熱で可笑しくなっていたというオチ。 朱李さんは檻の中で一夜を明かすことになりましたとさ⋮⋮哀れ に思ったマミィが部屋に檻ごと運んであげました。 ドンマイ! 1417 力の代償︵前書き︶ 何だか胃の調子が一向に良くならない⋮⋮ お読みいただいた皆様に感謝します。ありがとうございます。m ︵︳︳︶m 1418 力の代償 昔々、まだ国も無い時代。その頃季節など無く、単純な昼と夜し か無い頃のこと。あるところに大きな大きな黒い龍が居りました。 黒い龍は自分の持つ膨大な力と破壊衝動に翻弄され何時も独りぼ っちで居ました。誰も黒い龍に近付きません。皆、恐がり、命の危 険があるからでした。 そんなある日、一匹の美しい白い龍がやって来たました。白い龍 の美しさに黒い龍は釘付けになりましたが直ぐ様目線を外しました。 黒い龍は恐る恐る話しかけました。 ﹃自分の側に居ると命に関わる。さっさと遠く離れろ﹄ 白い龍は黒い龍より一回り程小さくても果敢に黒い龍の鼻先まで 自らの鼻先を近づけてこういいました。 ﹃どうして?﹄ 黒い龍は訝しげに答えました。 ﹃皆、知っている。俺は乱暴者だ。側に居ると死んでしまう。﹄ ﹃?﹄ 1419 黒い龍の言葉に白い龍は首を傾げました。 ﹃もしかして、私は迷惑?﹄ ﹃⋮⋮近すぎなのは⋮少しな﹄ お互いの鼻先が近すぎだと黒い龍が言うと素直に顔を離す白い龍 に疑問が湧きます。 ﹃︵一体何なんだ?︶﹄ 白い龍は目をパチパチして黒い龍を見つめました。黒い龍は居心 地悪そうにして顔を反らしますが白い龍は楽しそうに尻尾をふりま した。何だか楽しそうにしています。 ﹃何がそんなに楽しいんだ?﹄ ﹃何でだろ? 分からないけど楽しい。﹄ 黒い龍はその言葉に無性に苛々して言いました。 ﹃俺はお前が鬱陶しい。﹄ 1420 ﹃そうなの?ごめんなさい。﹄ 白い龍はあまり意に介していない様に答えたので黒い龍は少し苛 々して自分の尻尾を思いっきり白い龍にぶつけてしまいました。 力の強い黒い龍の本気の尻尾ままともに受けて白い龍は吹き飛ん でしまいます。 その日白い龍は黒い龍の前には戻って来ませんでした。 しかし、その次の日。白い龍はひょっこり戻ってきました。黒い 龍は訝しりこう聞きました。 ﹃どうして戻ってきた。また吹き飛ばされたいのか?﹄ ﹃吹き飛ばされたくはないよ。けど、﹄ 白い龍は陶器の様に真っ白な瞳でこう答えました。 ﹃羨ましかったから。﹄ ﹃は?俺が? 殺戮の化身の俺が羨ましい?﹄ 1421 黒い龍は何の冗談かと思いました。その様子に白い龍はこう続け ました。 ﹃貴方の色は何者にも染まらない黒。私の様な鼻先から尻尾の先ま で色の無い白ではないから。すぐに薄汚れる白と違う、黒い色が羨 ましかった。 ﹃白も立派な色だろう﹄ ﹃そうかな? 私は貴方の様に力もない。他の龍からはバカにされ る。﹄ ︵なんと言うことだろう。この白い龍は本気で羨ましがっている。 黒い色が羨ましい?破壊衝動に悩まされる俺が羨ましかった? 力 など要らない。邪魔なだけだ。︶ 黒い龍は初めて狼狽えました。この様な時にどうすれば良いのか 分からないのです。他人との付き合いをしてこなかった、出来なか った黒い龍にはなんと答えれば良いのか分かりません。 何も言わず黙りしてしまった黒い龍の側で首を傾げながら見つめ ていた白い龍はその後飽きもせず黒い龍の側に居ました。 明くる日も明くる日も⋮⋮長い長い時間共に過ごしました。 そしていつの間にか番となり幸せに暮らしましたとさ⋮⋮ 1422 ﹃まぁ、これが一般的に語り継がれる黒龍と白龍の話だな。﹄ ﹁へ∼。かなりざっくり端折ってるよね。多分だけど。﹂ ﹃あぁ。実際は吹き飛ばされて戻ってきた辺りに二人の戦いがあっ たのだが⋮⋮。ちなみに三日三晩戦い決着が付かず、友情が芽生え、 愛情に変わったのだ。黒龍は殺意からどうして愛情に変わったのだ ? そこがよくわからん。﹄ ﹁人の心ってのは不可解な所があるからね。黒龍も心は人と変わら なかったってことじゃないの?﹂ ﹃ふむ。心とは面白いものだな。﹄ ﹁そうだね。私としては何でこの話を持ってきたのかについての説 明が欲しいけど?﹂ まぁ、それもだけど、何でまた私は白い部屋に居るのかな?白神 さんよ。 ココはどうも白神に呼ばれる場所。私は白い部屋と読んでいるが、 前よりも目に痛いほどの白は無くなりつつある。落ち着いた薄緑の 1423 カーテンと何故かいつの間にか増えた白木のテーブルと椅子、白神 が用意したと思わしき薫りよい紅茶が入ったカップとお茶請けのク ッキー⋮⋮ うん。なんなんだろ? ﹃うむ。下手をすると初代黒龍の様に殺戮衝動で心が壊れると言い たかったのだ。結構危なかったのだそ。強制的にお前の意識を落と した。俗に言うヤンデレ化するところだったぞ。﹄ ﹁えぇっ!!マジでーー!!?﹂ ヤンデレだって!? ﹃マジだ。藍苺が物凄く怖がっていたぞ。半泣きと言っても良いほ どに⋮﹄ ﹁⋮⋮⋮原因は?﹂ ﹃うむ。さっきも言ったが力の使いすぎだ。その紅蓮の体は未だに 未熟だ⋮⋮永い時を旅して手入れた力は膨大過ぎる。その力を持つ だけでも負担があったのだ。それを使えば⋮⋮精神に異常をきたす と教えた筈だったか⋮⋮忘れていたのか?﹄ ﹁忘れていた訳じゃない。調子に乗ったのもあるけど⋮⋮ソコまで 1424 重大視してなかった。そうか、私は殺戮マシンになるところだった のか?﹂ ﹃まぁ、そうだな。その前にお前の両親が止めただろうがな。﹄ うっそーん⋮。ヤバかったのか。今度からは極力力を使わないよ うにしよう。体が成長するまでは。 ﹃ついでに言うなら、今のお前の体は高熱で意識不明だ。かなり心 配しているぞ。普通なら死んでいる程の熱だからな。﹄ ﹁マジか?﹂ ﹃マジだ﹄ 私のバカ! もう心配掛けないようにするって決めてたのにっ! ! 何だってこうも上手くいかないのだろう。 ﹃ま、力を使うのは13歳を過ぎた頃からにしろ。本当はもう少し 先の方が良いのだろうがそうも言ってられんのだろ?﹄ その通りだ。私はさっさと独立しないといけない。あの家には居 たくない訳じゃないけど、私が居ると結構問題が多いから。今回の 件で私を認めきれていない者達も騒ぎ出すだろうし、八咫烏も何時 までも母さんから離しておくのは可哀想だし。 1425 さっさと距離をおいた方が良かったのかな⋮⋮。私ってさ⋮⋮ ことごと ﹁私って⋮⋮元々家族運とか無かったのかな? 悉く離れる事にな るよね。縁が無いのかなぁ⋮⋮﹂ ﹃そんなことはないが⋮⋮そうだ、お前が建てたと言うフラグの事 だが⋮﹄ ﹁何さ?﹂ ﹃先ず、忘却と不憫、死別に⋮⋮諸々だな。﹄ ﹁うわ∼。﹂ 思った以上に厳しい現実だな。ただ、忘却は何となく分かる。前 世の記憶が曖昧だからさ。不憫ってのは⋮⋮どうだろ。あまり不憫 だとは思わないのだが? 生活も安定してるし⋮⋮不憫ではないよ ね? 死別ってのも分かる。何かと私は死に近いような気がする。あの 事件もそうだし⋮⋮ ﹃元々フラグと言うのは神が決めることだ。だが、それではあまり にも不憫だからな。何処かに報せるヒントを出すのだ。だから人は 自分の行動や言動が“フラグを建てた”と思うのだろう。﹄ つまり、自分の行動や言動はそれとなく報せてくれているって事 1426 でいいの? バカ ﹃そうだな。そう言っても差し支えない。が、あの黄童子は面白が って非道なフラグを建てるからな⋮⋮お前のフラグの大半はそうだ。 ﹄ バカ チッ⋮⋮あの黄童子の所為で私は死ぬとこだったのか。まぁ、知 ってたけど。 ﹃やけにアッサリだな。もっと怒り狂ってもいいのだぞ?﹄ まあ、確かにそうなんだけどさ⋮⋮アイツに使う余力が勿体ない と言うか、恨むにしてもエネルギーが必要だからね。勿体ないでし ょ? ﹃⋮⋮否定はしない。﹄ で?私は何時までココに居ればいいのさ? 何だか疲れたのか喋 んのも億劫になってきたよ。 あ、そう言えば体が高熱出してるんだっけ? その所為かな? ﹃うむ、そうだ。これからは力を使うなよ。全くとは言えないだろ うが、なるべく使うな。使う都度お前の精神が崩壊するぞ。それこ そヤンデレ化して藍苺に害をなすやも知れんしな。分かったか?﹄ 1427 精神崩壊何て御免だから使わないよ。それに藍苺に害を加えるか もしれないなら尚更ね。 あ、そうだ。 ﹃ん?何だ?﹄ フラグの事だけどさ、回避に手を貸してくれないかな? どうも 私ってここぞって時に抜けてたりするからさ⋮⋮神が何処まで出来 るかは知らないけど⋮⋮ダメかな? ﹃元々歪められた命だ。手を貸すのは大丈夫だ。寧ろ手を貸して貰 うのはこちらの方だ。お前には色んな世界を調節する手伝いをさせ たからな。誰も文句は言わんさ。⋮⋮⋮言えば神の座から引きずり 下ろしてやるわ⋮⋮﹄ 思いの外黒かった白神に若干引きつつ、了承を貰えたことにひと 安心した。もう、先に死んで悲しませたりはしたくない。今度こそ 人生全うして大往生したい。 ﹁今度こそ看取る側になりたい。私が死ぬのは藍苺が人生全うして からって決めたからね。﹂ 1428 ﹃そのいきだ。それに⋮⋮そうだな、お前の寿命は藍苺よりも遥か に長い。全うするなら自然とそうなるな。だが、﹄れは一人で居る 事の方が辛いとも言えるぞ。 永い時を旅して分かった事がある。それは容易に死ね無いのは苦 しみが永く続く事と同じだと言うこと。逢いたい人と逢えずに一人 で生きるのはとても辛い事も。 正直寿命は永くなくても良い。けれど私は⋮⋮⋮ ﹁それが自ら命を投げ出そうとした代償何でしょ?﹂ ﹃⋮⋮あぁ。お前が助ける為とは言え、自ら投げたした事は良いと は言えんからな。我々もよもや命を容易く投げ出すとは思わなかっ たからな。﹄ ﹁大切な人を助ける為に自分の命を差し出すなんて⋮⋮本当はバカ な事何でしょ?けど、それしか浮かばなかった。チートでも神様の 呪詛には太刀打出来ないからね。﹂ ﹃人とは本当に面白い﹄ ﹁そうだね。人ってそんなバカな事も平気で出来る生き物なんだよ。 お利口な頭が有る分“生きることへの執着”よりも“自分の意地や 執着、理性”だけで行動できるからね⋮⋮。まぁ、人にもよるけど。 ﹂ 1429 ﹃⋮⋮⋮さて、そろそろ現実に帰れ。﹄ しみじみと何かを語っていたが、白神が話を切った。私だって帰 れるなら帰ってるけどね。どうやって帰るんだよこの場所から。 ﹃あぁ、すまんすまん。目を瞑れば帰れるぞ。⋮⋮紅蓮。﹄ あぁ、何だ。そんなに簡単なことだったのか。 ﹁ん?何?﹂ やけに真剣な顔で呼び止めた。どうした?力の事なら分かってる よ。13歳になるまで使いませんって。 ﹃ま、それもそうなのだが、それだけじゃない。⋮⋮ただな、﹄ 歯切れの悪い。どうした? ﹃今あの世界に存在する黒龍と白龍は⋮どちらの血も引いている。 さっき話しただろう。つまりは、完全な妖怪のお前も少なからず暴 走の可能性があるのだ。黒龍の血は消えぬ。﹄ ⋮⋮ふむ。つまり? 1430 ﹃藍苺の暴走で黒龍の血を触発されるなよ。危なければ二人には制 御装置的なモノを贈ろう。﹄ そう言うのは危なくなる前に贈ろうよ。前もってさぁ。その方が 安全じゃないの? それに今母さん身重だし、父さんそういうの作 れるか分からないし? 出来るだけ早くください。てか、くれ。 それもそうか⋮と何処か抜けてる白神は﹃出来たら届ける﹄と言 って手を振った。 言われた通りに目を閉じれば何かに引き寄せられる様に私の意識 はブラックアウトした。 1431 力の代償︵後書き︶ 終わりが見えない⋮⋮何処で止めれば⋮⋮いやいや⋮⋮書きたい ことが有りすぎて中々終われない。 ですが、この白の国のゴタゴタが終息して王子達が帰ったら終わ りです。多分、何話かまとめて投稿します。あまり間隔が空きすぎ ると私も話を覚えていないという罠⋮⋮ どうしよう。ボケてきたかもしれない。 1432 目を開けるとソコは?︵前書き︶ ちょっとシリアス気味。 お読み下さりありがとうございます。m︵︳︳︶m 1433 目を開けるとソコは? 瞼を開けようとする、しかし思いの外重い瞼だ。白神が言ってい たように熱の所為で怠いのかもしれない。だが開けないとどうにも ならないので開けると⋮⋮ ﹁え?﹂ ﹁⋮⋮⋮?﹂ 嫁さんこと、藍苺が鼻先まで近づいていた。顔がドアップである。 何?寝込みを襲いに来たか? そう言えば前世では朝だと言うの に襲いかかって来たこともあったな⋮⋮朝だから止めて欲しかった が⋮⋮いやぁ∼若かったなぁ∼。 ﹁おい、何か誤解してないか?﹂ ﹁え?寝込みを襲いに来たんじゃ無いの?﹂ ﹁襲っ⋮⋮誰が熱だした奴を襲うかよ! 熱を測ってたんだよ⋮⋮ デコ合わせてさ⋮。﹂ フムフム⋮⋮ただ熱を測ってただけとな。しかし、嫁さんよ。そ の言いぐさだと熱を出してなかったら襲ってたの?って事になるよ ? ま、今は女の子だからそんなことはないが⋮⋮無いよね?無い って⋮⋮⋮ナイナイ⋮⋮よね? 1434 ま、まぁ、それは置いといて⋮⋮。今何時だろう。 ﹁えっと、お早う?かな? わたし今までどの位寝てた?﹂ ﹁⋮⋮六時間は寝てた。今、夜の9時だ。野菜のスープ⋮レンが作 るより旨くないかも知れないけど⋮⋮食べれなかったら果物あるぞ ?桃とか洋梨⋮⋮林檎と梨も。俺でも皮くらいは剥けるからな。﹂ ⋮⋮ちょっと不謹慎だけど、こういう時のジンは嬉しい。ま、何 時もだって優しいけど、張り切っているところが⋮可愛いでしょ? でも、本人には言わない。だって可愛いって言うと怒るからね。 私にはそんなところも可愛いけどね♪ ﹁じゃスープ貰うよ。﹂ ﹁お前のレシピ通に作ったし、味見もしたけど同じ味には出来なか った。口に合わなかったら無理すんなよ?﹂ ﹁味見したんでしょ?なら大丈夫だよ。それに味ってのは人それぞ れ⋮⋮同じ味にはなかなか出来ないものだよ。﹂ 自信なせげに言って盆に乗せてサイドテーブルに置いていたスー プの入った器とコップと水差しをベットに設置した長テーブルの上 に置く。スープは私が前に作った野菜を潰したスープだった。湯気 がたち、時間帯からして温めなおしたのかな? それに水差しがあ るのは助かる⋮⋮汗をかいて喉がカラカラだから。 お風呂も入りたいなぁ⋮⋮汗でベタベタだし。 1435 スープは美味しそうな匂いで食欲をそそった。嫁さん、料理作れ るようになったじゃない。これで私が居なくても⋮⋮うん。大丈夫 そうだね。 そんな先の事を考えながら渡された木のスプーンで野菜のスープ を一口⋮⋮うん、なかなか美味しい。冗談とかお世辞抜きで。 最低でもこれで私が出稼ぎ?に出ても飢え死には無いだろう。母 さんは料理をすれば爆発、或いは壊滅的⋮⋮。父さんは⋮⋮不安だ し。家でわたし以外誰も料理が出来ないからね∼。今は嫁さんが出 来るから安心なんだ。 ⋮⋮⋮もう少しレパートリーを増やしたら、私も出稼ぎを視野に 入れて行動しないと。 高熱が出たと言っていたが、今の体調は至って快調だ。寝汗はか いているけど、きっと言われなければ気が付かなかったと思う。 ﹁スープ熱くないか? ちと火にかけすぎて煮立ってたからさ。ま だ起きないと思って⋮⋮冷めてちょうど良いかと思ったんだが⋮⋮ ホントに熱くないのか?﹂ ﹁ん?いや、ちょうど良いけど? なら試しにあーん⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮は、恥ずかしいだろッ!︵///︳///︶﹂ 顔を真っ赤にしているぞ嫁さん。でもさ、前世でそっちがあーん 1436 してきたよね?私も恥ずかしかったのだぞ?同じ目にあってもらお うそうしよう。 顔を赤く染めてワタワタししていた嫁さんを堪能してスープを平 らげた。食欲があった私は、イスに座り、イジケつつ皮を剥いてく れた真っ赤な林檎を食べつつ⋮⋮私は話を切り出した。 ﹁ジン、よく聞いてね。﹂ ﹁ん?﹂ 未だに梨の皮も剥こうとしていた手を止めて藍苺︱︱ジンはこち らを向いた。 ﹁私の血を見て暴走したでしょ?﹂ ﹁⋮⋮⋮あぁ。不思議と意識はあるんだ。あまり覚えてないけど。﹂ 頬を人差し指でぽりぽりと掻いた。ジンが気まずいときにする仕 草だ。 ﹁アレは私の不手際だった。ごめんね。﹂ ﹁俺にも責任はある。自分の心なのに⋮⋮ホント、俺って弱いな⋮﹂ 未だに手に持っていた剥きかけの梨を何も置いてない皿に置く。 そして腕を組んだ⋮⋮これも考えるときによくする癖だね。 1437 ﹁今回の事で俺も考えた⋮⋮精神的に強くならないとな⋮⋮けど、 どうもお前の⋮“死”に対して平常ではいられないんだ。﹂ そう言って組んだ腕を解き、今度は手を組んで顎を乗せ肘を膝に ついた。 そのままジンは話を続ける。 ﹁前世でのお前の“死”を思い出してから⋮⋮凄く怖いんだ⋮⋮ま た一人になるんじゃないかって。幸せな日常を知ってる分、置いて いかれた時の絶望は⋮⋮計り知れなかった。もう居ないと分かって ⋮⋮一人で家に居るのは⋮⋮寂しくておかしくなりそうだった!⋮ ⋮今、漸くお前に⋮⋮ベルに逢えた。でも、また喪うのがどうしよ うもなく怖かった⋮⋮。﹂ 悲痛な叫び⋮⋮静かに語るジンは、とても脆く見えた。膝を抱え、 自らの腕で体を抱きしめ⋮⋮一人で耐えていた。 そうか、ジンは一人になったのだ。前世の記憶を取り戻し、トラ ウマまで⋮⋮⋮ “私にジンを闇から救うことはできるのか?” どうだろう。ジンは心が弱っている。弱い私に助けるなんて出 来るのか? 1438 直ぐに答えられないが、答は否⋮⋮かな?今のところ。 私は自分に自信がない。自分に自信がない者に人を助けるなど出 来るのか? 私は無理だと思う。人を助ける者は何かしら強さを持 っている。それが身体的か精神的かの違いだ。 私には⋮⋮確かに今の体は身体的に強い、むしろチートだ。だが、 だからと言って助けられるのか? ﹁ジン⋮⋮正直言ってね、私はあなたを甘やかしてたのかもしれな い。そして白の王達も。﹂ 私は“藍苺”に降りかかる災難を払うことしか見ていなかった。 それでは閉じ込めているのと一緒だ。何事も経験がものを言う。最 悪命の危険は排除するとして、ジンには立ち直ってもらわないとい けない。 ﹁私は、ジンにかかる火の粉は全て払おうとしてた。けど、それじ ゃダメなんだよね。私は⋮⋮一応身を守ったり、感情をコントロー ルしたり出来る。けどね、何も始めから出来てた訳じゃないのを忘 れてたよ。﹂ ﹁レン?﹂ ﹁私は10歳になったらこの家を出ていくよ。世間ではそれ位でも 奉公に出てるから働けるし⋮⋮何より、私がそばに居るとジンが育 たない。何かにつけ助けたくて仕方なくなるし⋮⋮だから、﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 1439 ﹁別居﹂その一言が頭をよぎった。別に仲違いしてるわけでもな い。本当は離れなくなんてない。 でも︱︱︱︱ ﹁いつまでも甘えてたら、甘えさせたら⋮⋮成長できない。お互い に。﹂ ﹁それは⋮⋮別居か?﹂ ﹁単損赴任⋮⋮の方が近いかも。後は出稼ぎ?﹂ おどけてみる。けれどジンは笑わない。当たり前か。 私は構わず話続けた。 ﹁それともうひとつ。原作のシナリオの事で話がある。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 話をしながらジンの顔を見れば睨まれた。美形が怒ると怖いって ホントだ。 ﹁⋮話は⋮⋮私達が起こした“イレギュラー”に対して世界がどう 動くか?って事なんだけど。﹂ 1440 ﹁⋮⋮“イレギュラー”に対してどう動くか?﹂ 一応話は聞いてくれるようだ。 ﹁そう。もう原作のシナリオからは外れつつある。父さんの早すぎ る解放、母さんの白の王との繋がり、黄の国の改革⋮⋮まだ有るけ ど、まぁこんなとこか。あぁ、それと⋮⋮私達の早い結婚と王宮か らの離脱も有るね。﹂ ﹁⋮⋮そう⋮だな。元々のシナリオなら、“紅蓮”と“藍苺”の婚 姻は12歳当たり何じゃないか?何も言われてなかったけど、あま イガグリ りにも早すぎる。麗春さんと朱李さんは転生者だからシナリオ通に は動かない。物語としては主人公が腐敗した自国を憂いて動き出す はずだし⋮⋮手を貸す紅蓮が居ないなら⋮⋮どうなるんだ?﹂ ジンの言う通りどうなるのだろう? そう言えば﹁妖怪恋舞﹂のストーリーを話してなかったね。忘れ てたのは秘密だよ? ﹁妖怪恋舞﹂はミケと父さんや他の何名かで作ったフリーゲーム。 しかし、フリーゲームの域を超えた出来だとコアな人たちからは言 われていた。 キャラクターデザイン、シナリオをミケが担当、プログラム構成 1441 を父さんを中心に数人で作られた。ちなみにメンバーは皆さんサー クルのメンバーだ。何て名前のサークルか忘れたけど。 綺麗で魅力的な美形キャラのイラスト、綺麗すぎる背景と3Dの 操作キャラ、フリーゲームの域を超えた操作性⋮⋮趣味でどうして ここまで作れるのか⋮⋮ バトルでもよりリアルにと、色々評判になった⋮⋮らしい。私の 周りではそんな話は聞かなかった。 特に驚いたのは声だろう。当時のフリーゲームと言えば、平面、 キャラはポリゴン、声は所々あるかないか。しかし、ミケ達は完全 フルボイスで作ってしまった⋮⋮。 とは言え、フリーゲーム、それも趣味での制作だ、プロの声優に 頼めるわけもない⋮⋮筈なんだけど⋮⋮何故か一人プロが混じって いたらしい。そのプロの人、まさかミケに脅されてなかったよね? まあ、遊び心があったか、何かしらメンバーと接点があったんじ ゃない? えっと⋮⋮そうそう、声を担当した人たちは一人を除き全員が素 人。重要キャラからモブまで総勢100人以上⋮⋮とても手が回ら ない。お陰で私まで駆り出させる始末⋮⋮中には一人15役を演じ た猛者までいる。もう一度言おう、皆さん素人です。 私はミケのごり押しを粘って退け一人だけに絞った。ま、最初は 断ったのに結局演じるはめになったのは言うまでもないね。 1442 ま、素人って言っても、役者の卵とか必ずも素人って訳でもない 気がするけどね。 ストーリーは世界を壊滅させようとする魔王を倒すと言う一見簡 単な善悪ではあるが⋮⋮ネタバレしてしまうと、仲間が魔王化する こともあるのだ。もう一度言おう“仲間が魔王化することもあるの だ” つまりは⋮⋮プレーヤーの選択次第で誰が魔王になるか分からな いのだ。いくら好感度が高いキャラでも一つ選択を誤れば魔王にな ってしまうし、魔王を説得出来るが、そこでも間違えば魔王を倒し ても世界的にはハッピーエンドでも主人公的にはバットエンドさえ ありえる。ミケよ、どうしてそうしたのだ? 詳しそうに語ったが私は未プレイだ。ソフトは貰ったがやる気は しなかった。だって、仮にも演じた役、紅蓮が魔王になるパターン が多いんですもの⋮⋮そう、ゲームシステム上私が⋮紅蓮が魔王に なる事が圧倒的に多いのだ。その次は藍苺らしいけど。 説明は後日もっと詳しくするとして⋮⋮ 何だろ⋮⋮すごくシリアル⋮じゃない、シリアスな展開になって きた。ダメだ、シリアスは耐えられない。 ﹁まぁ∼、うん。なるようになる⋮⋮かな。死亡フラグと魔王フラ グを折るだけで他は様子見だね。どちらにしろ、ここは現実世界だ 1443 し、何が起こるかなんて分かりはしない。私達の選択で死ななかっ た人が⋮⋮死ぬ事も有るだろうし。﹂ ﹁そうだな。ここは現実だからな。﹂ 私達だって何もこの世界がゲームの世界だとはもう思っていない。 私達は最初から現実だと思ってたけどね。 ﹁現実でどう選択するかによって誰が亡くなるのは心苦しいけど、 それが私達の命に関わるなら他人を気にしていられない。勿論助け られるなら努力はするけど。けれど、私達はそれほど万能ではない。 ﹂ ﹁助けられるか、出来ないか⋮⋮俺達はまた選択するのか⋮⋮。で も、それは現実でも当たり前のことだよな。心苦しいけど。﹂ 助けられる人間と出来ない人間。私達にそんなの選ぶ権利は無い。 けれど、どちらか片方しか助けられ無いなら⋮⋮助かる確率か高い 方を選ぶ⋮⋮のだろうか? はぁ∼、こうして私達はどんどん泥沼 に嵌まっていくのか? ﹁ま、今考えてもどうしようもないのかな?﹂ ﹁うん。だな。﹂ 話は一先ず終わった⋮⋮と思う。 一段落ついたので嫁さんは桃を手に取り剥き始める⋮⋮が、軟ら かい桃は剥きづらいのか、果汁が滴り落ちる。 1444 ﹁桃を剥くのはコツがいるからね⋮⋮切れないナイフなら剥きづら いよ。ほら、貸してみな?﹂ ﹁⋮⋮結局、レンが剥くことになるのか⋮⋮﹂ 桃を剥くときは林檎の様には剥けない。軟らかいので少しナイフ を入れたら皮を引っ張る様に剥くと良い。どちらからと言えば蜜柑 の皮を剥くのに似てあるかな。 剥き終わった桃を種から削ぐ様に切り離していく。桃は種が大き いし、実も軟らかく林檎の様には切れない⋮⋮缶詰めの桃はどうや って取っているのかとても気になる。 器に入れて嫁さんの前に差し出す。 そうだ、今度桃と洋梨と林檎でコンポートでも作ろう。バターも あるし、パイでも作ろうかな。嫁さんもアップルパイが好きだし、 私も食べたいし。うん、そうしよう。 ﹁桃って切りづらいよな⋮⋮軟らかいし﹂ 小さめのフォークで桃を刺して口に運びながら嫁さんはポツリと 言った。 そうだね、ぶきっきょな嫁さんには難しいかもね。特に、力加減 が下手だから。 1445 ﹁でも、前より色々出来るようになったじゃない。﹂ ﹁⋮⋮そ⋮うかな?﹂ やや照れぎみの嫁さんの顔を見ながら明日のことを考える。うん、 おやつはアップルパイで決まり。献立何が良いかな? と、その前に、粗方食べ終えたらお風呂に入ろうと心の端で考え ていた私だった。 1446 目を開けるとソコは?︵後書き︶ 多少胃の調子も戻って参りましたので再開します。m︵︳︳︶m 今後ともよろしくお願いします。 1447 悩み事は湯船で︵前書き︶ 紅蓮の誰得お風呂タイム。とは言いつつそんな描写はあまり無い。 前回の話から数時間が経過してます。 読んでくださいます皆様に感謝をm︵︳︳︶m 1448 悩み事は湯船で 寝汗でベタついた体を洗いサッパリしてから湯槽に浸かる。風呂 は一日の疲れを取る結構重要なものだ。リラックス効果もある。 ﹁やっぱりお風呂は欠かせない。﹂ 広い湯槽で伸びをしながら今日一日の出来事を思い出す。色んな 事が有りすぎる一日だった。問題点が多くあった⋮⋮ 先ず始めは八雲の存在だろう。 八雲の持つ物を作り出す能力はこの世界にも少なからずは存在す る。所謂錬金術だ。でも、その能力や八雲が使うほど危険ではない。 危険なのは“八雲の持つ武器の知識”だ。その事は後で説明しよう。 作り出す能力︱︱錬金術は、作る物の構造や構成物質を予め知っ ておく必要がある。分解・理解・再構築、物質保存の法則など科学 的だ。私にはあまり理解できない。魔法のように見えて科学技術の ため科学的な専門知識が無いと出来ない。 まぁ、魔・妖両方の術でも物を作り出す事は出来る。錬金術は魔 力・妖力が無い者でも使える、知識と努力をすれば小さな物なら誰 でも出来るだろう。ただし、集中力をかなり消耗するだろうから全 ての人が出来るとは限らないけど。 1449 そうそう、魔力と妖力は同じ力だよ。人間達は自分達の持つ力は 魔力だと思っているけど、元々妖怪の血が少なからず入っているか ら同じなんだよ。違いと言えば、力の貯蔵量と生産量が圧倒的に妖 怪の方が多いくらいの違いだよ。 昔、妖怪を悪だと訴えた国で人間と妖怪を全く違うモノと言いた かった王が区別したのが始まりだとか言われてるけど、定かじゃな いね。 っと、八雲の話だった。 八雲はその分解・理解・再構築の理解をすっ飛ばして再構築して しまうのだ。驚異だ。しかも、作る物の知識が不充分でも出来てし まうチートっぷりなのだ。 例えば、銃があるとする。銃を作るなら内部構造や他にも色々な 知識が必要だ。けれど八雲は銃の見た目だけで完璧に近く作れるの だ。凄いな。しかも、武器だけじゃなく色んな物も作れるらしい。 説明している私が頭がパンクしそうだ。 と、まぁ。そんな訳で、八雲を野放しにしておくのは危険だと思 った訳よ。だからと言って白の王に保護してもらっても、何処ぞの 馬鹿が悪用するかわからないから私の目の届く所に置いたわけです。 本音は﹁便利そうだから。皿とか物が壊れた時役に立ちそう﹂だ からなんどけどね♪ 1450 ﹁ふぅ⋮⋮それにしても、結構距離があったのにドア開けた瞬間、 正確に眉間を撃ち抜く何て⋮⋮腕は良いよな⋮⋮﹂ 撃ち抜かれて空いたであろう眉間を人差し指で触れる。塞がって いるのは知っているが、この体で初めて受けた致命傷になり得た傷 だ。どうもちゃんと塞がっているのか心配になる。脳は損傷してい ないか?とか、ちょっと不安だ。生きているから大丈夫何だろうけ ど、後から後遺症が出たらヤダし。 脳の損傷で性格が豹変したりもするって聞いたし⋮⋮大丈夫だよ ね? 暴力夫にはなりたくないよ。 触れてみてもそんなことは分からないので触っても意味なんて無 い。なのに何度も確める辺り私は器が小さいのだろう。 ﹁ん∼∼っと、⋮⋮それよりも白の王がどう出るかが心配だなぁ﹂ また伸びをしてポツリとこぼす。 母さん達経由で話は伝わるだろうけど、メンツを潰した事にもな りそうで正直怖い。あの時は結構頭に血がのぼっていたから考えな しに動いてたけど、心配だ。白の王はどう出るのだろう。 1451 ﹁良くて何らかのペナルティ、悪くて打ち首⋮⋮いやぁ⋮打ち首は 無い。てか、あってほしくない。﹂ 打ち首は洒落になんねぇわ。でも、白の王の事だ。何らかの無理 難題な無茶ぶりを要求してくるかも。例えば⋮⋮ダメだ、思い付き たくない。 やめよう、今日は疲れた。何せ強行軍だったし、つい二時間前ま で高熱で寝込んでいたのだら。けポチや兎天達が一時的に影から出 てこれなくなるほど重傷だったのだし、今日はもう寝よう。 ﹁︵にしても、藍苺の暴走は本気でどうにかしないと⋮︶﹂ お湯に顔を半分浸かりぶくぶくと遊びながら考えた。 正直、世界がどうなろうがどうでも良い。私は残忍で冷酷で容赦 ない性格なのだから。家族の中でも一番の性格破綻者なのだから。 藍苺や家族が助かればそれで良いとさえ思っている。だからと言っ て誰かを陥れようとか思ってはいないよ。 ただ、守れるのは目の届く範囲、手の届く範囲しか無理だし、守 るにしても生憎と腕は二本しかない。藍苺と家族を守るだけで手一 杯だ。 とか言いつつ、私が守らなくても母さん達は自分で身を守るだろ うけど。今は身を守る術が無い藍苺だけを守るだけ。それもいつか はお役御免になるだろう。 1452 ﹁って、なに考えてんだろ⋮⋮疲れてるとき考えるとろくな事が無 いよな∼﹂ お湯から顔を出して湯槽の縁に顎を乗せる。もしかしたら私逆上 せたかな? ふと、自分の腕を見て思う。何だか前より細くなって⋮⋮はない か。伸びたのか?身長はまだそこまで伸びていない。 さて、どうしようか? 今はそこまで男女の違いは無い。けれど、 子供の成長は早い。その内藍苺の身長を越すだろう。 異世界でも男であったことは多い。けれど、どの世界でも異性を 見てもなんとも思わなかった。それであらぬ疑いを掛けられたけど。 藍苺 けど、それは愛しい異性が居なかったから。この世界では⋮⋮ど うなるのだろう? 私は⋮⋮ ﹁⋮⋮って、何考え始めたよ私。ヤメヤメ∼。どうせなってからじ ゃ分からないんだし!﹂ 考えるのは止めにした。今は考えても仕方か無い⋮⋮仕方か無い 1453 んだ。 今は原作通りに進むか、私達にどんな影響があるのかの方が心配 だし。嫁さんの暴走は白神が何とかするらしいので一先ず良しとし よう。 あの話のあと嫁さんと随分話をした。シナリオ通りなのか分から ないので大人しくしている事に話は落ち着いた。まぁ、大半は無茶 な私を諌める言葉だったが。 唐突だが、ただいまの時間午前2時。丑三つ時。虫も眠る時間帯。 虫とは言えここ“季節の箱庭”に生息するのは全て魔物か妖怪のみ。 その為普通では聴けない綺麗な虫の音を聴けるのが利点かな。 さて、もう皆寝ている時間帯まで嫁さんと話し合っていたために、 母さん達と話すことも出来なかった。明日にでも迷惑かけたことを 謝ろう。 お風呂から上がり、冷蔵庫の麦茶をコップに注いで一気に飲み干 す。風呂上がりは水分補給が大切だよ。皆もちゃんと水分取ろうね ?紅蓮との約束だよ? ﹁夜中のテンションは変だな⋮⋮何いってんだか。﹂ 寝よう、ホントもう寝よう。 1454 ・・・ 部屋に戻ると、お約束かのように嫁さんが私のベットで寝ていた。 昔から何かあると人の寝床を占領してたよね∼。大体が真ん中に寝 るもんだから私は寝返りでベットから落ちるんだよ⋮⋮。わかって んのかこいつ⋮⋮わざとなら後で四の字固めでもしてやろうかな。 嫁さんは寝相が悪い。昔から真ん中で大の字になって眠る⋮⋮け ど、今日はどうやら違った。手足を伸ばすことなく体を丸めて寝て いる。こう言う時は大抵嫌なことがあった時だけだ。これは本人も 知らない事。会社で嫌なことがあっても何も言わないけど、この寝 相でバレバレだった。 ﹁︵頑固で見栄っ張りでプライド高くて、私にはあまり弱さを見せ たくなくても、寝相は素直なんだよね♪︶﹂ 今日一日の出来事は藍苺にとっては嫌な事だろう。聞いた話では 包丁を持った私が怖かった様だし、トラウマにならないと良いなぁ。 嫁さんを少し端にずらして自分もベットに入る。そしてふと、思 った。私は後何回こうして二人で寝られるのだろう。思春期を迎え ればどんなに嫁さんが一緒に寝ようとしても追い返す気でいる。間 違いはあってはいけない。 私はもう、親にはならない。⋮⋮なれない。なりたくない⋮⋮ま た間違えるのが怖い。⋮⋮もうシュウの様に亡くしたくない。 1455 何より⋮⋮人の命を奪ってきた私が⋮⋮親になれる気がしない。 異世界でどれ程の人の命を奪ったか⋮⋮まだ、嫁さんには話してい ない。 だから!⋮⋮勝手だけど親にはならない。私にはなれるとは⋮⋮ 思えないのだ。 大人になれば藍苺を遠ざけるかも知れない。勝手なかんがえだろ う。 終わりの無い考えをグルグルと考えながら私は眠りについた⋮⋮。 ******** ﹁漸く眠ったか⋮⋮﹂ 1456 白い部屋に薄緑のカーテンが風ではためく、その部屋に一つだけ あるテーブルに二人座り一人は床に正座している。 喋った真っ白い髪の長い男性は目を瞑りながら言った。彼にはど の様な場所でも自由に見ることが出来るのだ。その能力で紅蓮をサ ポートしていた。 一方もう一人は灰色の老人。紅蓮の母親達に色々な助言とお節介 をやいている。正座しているのは黄色の髪の子供だ。 ﹁全く、お前は何処まで迷惑をばら蒔くのだ。危うく紅蓮は死にか け、藍苺は世界を破壊しかけたぞ。お前は懲りてないのか?﹂ ﹁だっ、だってあのガキは随分と前に⋮⋮﹂ ﹁前だろうが今だろうがお前のしたことは変わらんよ。我らの掟を わらし 何度も破っておるぞ。ワシはもうお前を庇えんわ。のう、黄童子や ?お主は何がしたいんじゃ?見た目は童じゃが中身まで分別の無い 童になってしもうたか?﹂ ﹁灰老も私ももう庇えんぞ。堪忍して自分のやってきた事を洗いざ らい吐いたらどうだ? 多目に見るのはこれで最後だぞ?﹂ ﹁ワシらが庇えるのももう最後だじゃ。他の神々がお前に何も言わ ないのはワシや白神がお前を庇ってるお蔭じゃぞ。その後ろ楯が無 ければ⋮⋮袋叩き、或いは消されるやも知れんのじゃぞ? お主と てそれは嫌じゃろ。﹂ 1457 年上の神二人に諭され、正座中の黄童子は頭を垂れて頷いた。そ の姿は前までの態度など何処に行ったのか物凄く大人しい。実は黄 童子、つい最近まで他の神々にお説教されていて、先程漸く解放さ れたのだ。その時間およそ二週間弱。ノンストップでのお説教であ った。 ﹁お前の前任の神と同じ轍を踏む気か? 同じ様にはなって欲しく など無いのだぞ。仲間を喪うのも、家族を喪うのも、もう懲り懲り だ。﹂ ﹁お主の両親じゃな⋮⋮あれは痛ましい出来事じゃった。﹂ ﹁⋮⋮それって二柱の神の事だよね?﹂ ﹁ウム、そうじゃ。白神の両親は最高神の位に位置していた二柱の 神じゃよ。じゃが⋮⋮﹂ ﹁私が童の頃に殺された。お前の前任の神によってな。﹂ ﹁⋮⋮﹂ バツの悪そうな顔で白神から顔を反らす黄童子はふと、思った。 ﹁ん?でも待ってよ⋮⋮大罪を犯した神が死ぬ事はあっても、普通 ならそうそう殺せないもんでしょ?何で死んだのさ?﹂ 1458 ﹁⋮⋮厳密には死んではいない。神々には魂の器が無い。我々は純 粋な魂の塊⋮⋮神が大罪を犯した場合に与えられる“死”は魂の消 滅を意味する。それは知っているな?﹂ ﹁俺らにとっては常識だし、それ。﹂ 腕組みしながら白神は遠くを見つめ言葉を続けた。 ﹁神には役目がある。大罪を犯し消滅した時、新に後任の神を選ぶ ことが出来るのだ。しかし⋮⋮﹂ ﹁しかし?⋮⋮あ、﹂ 思い出した。そんな間抜け面をさらしている黄童子に苦笑いして 白神は続ける。 ﹁その二柱の神⋮⋮私の両親の後任は未だに決まらない⋮⋮いや、 “決められない”が正解か。﹂ 今まであまり口を挟まなかった灰老神が白神の話を継いで語る。 ﹁お主にはこの意味が分かるじゃろ。﹂ 1459 ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁二柱の神は、魂を切り刻まれ飛び散った⋮⋮。しかし、大半が集 まり、後もう少しで完全に戻るだろう。﹂ 嫌なことを聞いてしまった。変だと思っていた。黄童子にはあの 何処にでも居そうな“二人”を白神が丁寧に助けるなど不思議でな らなかった。何より、自分は世界に干渉し過ぎて怒られたのに白神 は平然と誰にも叱られずに“二人”に干渉しているなんて⋮⋮不公 平だと。 しかし、それが理由なら⋮⋮神々は賛成するだろう。何より、誰 も二柱にはなれないから⋮⋮。 1460 悩み事は湯船で︵後書き︶ 二人は誰でしょう⋮⋮。 1461 マジでダァーイする五秒前︵前書き︶ このネタ気付いた人は果たしているのだろうか⋮⋮ 皆さん読んでくださりありがとうございます。 タイトルのダァーイはdie︵死・死す︶です。このネタ分かる かなぁ⋮⋮。 1462 マジでダァーイする五秒前 眠った⋮⋮そう、眠ったハズなんだ。なのに⋮⋮ ﹁何で⋮⋮お前らが居んだよーーーーー!!!﹂ はぁ? Why? もしかしてまたか?またなのか? ﹃いや、すまんな。力を封じる呪具が完成したのでな⋮⋮報告でも ⋮とな?﹄ ﹃頼んどいて叫ばなくても良いよね∼。苛つくし。﹄ ﹃疲れたのじゃろ。すまんな紅蓮よ。﹄ 白神と灰老神は謝ったので許す。だが、黄童子。お前はダメだ。 謝れ。割りと本気に地面に頭付けて土下座しろ土下座。八雲達に。 ﹁で? それだけの為に呼んだ訳じゃ無いでしょ?﹂ 夢の中に出てくるときは大抵何か有るときだ。無い時もあったに 1463 はあったが。 ﹃あ、あぁ⋮⋮実はな、紅蓮⋮⋮クラウドを覚えているな?﹄ ﹁あったり前だろ。長い付き合いだったから覚えているよ。⋮で? そのクラウドがどうしたのさ?﹂ クラウドとは異世界旅行で最初の世界であった頼もしい仲間だ。 最後の別れから感覚的には経っていない。何せつい数週間前だから。 ちなみに、正式名称はクラウド・キャットだ。 ﹃そのクラウドだが⋮⋮⋮生まれたのだ。この世界に。﹄ ﹃え?マジで!!﹄ ︽マジです︾﹃マジだ﹄ 声が重なった。懐かしさのある機械合成された音声⋮⋮出はなく なっていた。そうか、機械じゃなくなったから当たり前か。 ﹃クラウドについては﹃異世界を旅する⋮略﹄に出てくるキャラじ ゃ。多分その内作者がアップするじゃろう。あまり期待せんでくれ るとありがたいのぉ﹄ ﹃実はもうプロローグ的なのはアップしてるけどね。検索から外し 1464 てるだけでさ。﹄ メタ発言している外野は無視して懐かしい仲間と戯れる。とは言 え、声は聞こえど姿は見えず。探せど探せど⋮⋮見えない。旅の癒 し、プリティーフェイスは何処!? あ、良い忘れていたけど、クラウドは猫をモデルにした補助用自 立思考プログラムだよ。ん?ツンツン頭? 青狸?ど青狸はロボだ から、れも違うからね。四次元なポケット何て着いてないし、大剣 振り回して女装が似合う人でも無いよ。骨太な女子ちゃうよ? ﹁何処にいるのクラウド?﹂ ﹃この空間には居ない。お前の体がある次元に居るからな。声だけ だ。﹄ ﹁ほうほうぅ⋮⋮で、どんな外見になったの?人型?猫型? 私は 断然猫型希望で!﹂ 勿論どんな姿でも構わないけどさ。 ︽お久しぶりですマスター。今あなたがいる家の前に居ます。︾ 言い方がメリーさんの様ですねクラウドさんや。てか、家の前で 待ってないで違うところで寝てなよ。あ、 1465 掃除 ﹁家の外は夜中スライム達が徘徊してるから気を付けてね。雑食だ けど肉の方が好きから何でも手当たり次第食べるから気を付けて。 ⋮⋮家の屋根辺りにとか花壇に居ると襲ってこないから⋮⋮﹂ ﹃ちと、物騒だな⋮⋮﹄ ︽あぁ⋮⋮あの不定形の魔物はスライムでしたか。マスターの配下 ですか?すみません、一匹程乾燥させてしまいました⋮⋮ちなみに 私は猫妖怪ですよ。猫又です。︾ え?マジで猫又? 尻尾二本? あ、ねえ、後で肉球ぷにぷにさ せてもらおう。 ﹃自前が有るだろうに﹄ ﹁白神は自分の指を触って嬉しいのか? 因みに、スライム達は配 下でも何でもないよ。私達に無害だから排除しないだけ。森の掃除 屋だからね。﹂ 雨の日とかに増殖したりするから狩って決まった数に調節してる んだよね。かなり前にとある魔物の一部を使って湿布を作ってるっ て言ったけど、はい。材料はスライムです。 害は無いよ。スライムのあのゼリー状の部位は本体のコアがない とただのゼリーだからね。色々な用途で役に立ちます。 ﹃スライム⋮⋮それを肌に貼るの?⋮⋮⋮うぇ∼気持ち悪い。﹄ ﹃効くのかのぅ?ワシも腰が痛うての。今度ワシにも湿布を分けと くれんか?﹄ 1466 嫌そうな顔の黄童子をまるっと無視して灰老神に頷いた。良いよ ね、のほほんとしている老人は。何か、人の善さとおっちょこちょ いな雰囲気が沁み出してくるね。湿布ならなんぼでもあげるよ。 でも、神様でも腰痛持ちは居るんだね。ちょっと親近感が湧くよ。 ︽ではマスター、私は屋根の上で一眠りしています。幸いここは暖 かいので凍えることは無さそうですし。ここに来た初めは雪山でし たよ⋮⋮不思議な場所ですね。︾ 湿布のことを語っている内にクラウドは眠いのか早々に話を切り 寝るようだ。さっさと寝たのか返事がない⋮⋮マイペースなクラウ ドさんは生まれ変わろうと変わっていなかった。 ﹃さて、お前ももう眠れ。疲れているのだろ?呪具は枕元に置いて おく。おやすみ。﹄ ﹁ん?悪いね⋮⋮ありがとう白神。今度クッキーでも食べにおいで よ。あ、明日はアップルパイでも作るから食べに来たら?﹂ 涼しそうな顔に似合わず?甘い物好きな白神におやつのお裾分け でもしようかな。お礼の意味も込めて。 1467 ﹃ん、⋮⋮貰おう。﹄ ﹃そんな顔で甘い物好きなんだ∼。﹄ ﹃顔や性別は関係無いじゃろ。ワシとて好きじゃよ甘味。﹄ ﹃え∼。いい年してぇ⋮⋮﹄ ﹁そう。“大人”な黄童子は要らないんだね、分かったよ。灰老神 もどうぞ?多目に作っとくよ。﹂ 甘味をバカにする者にあげるほど心優しくも広くも無いんです私 は。 ちょこっと焦る黄いガキは無視してふたりの神と話を続けた。家 にはまだ客人の王族達がいるので白き箱庭に来るようにと言ってお いた。黄童子は始終何か言いたげにこちらを見ていたが、自分から 話す気が無いのなら放っとく。変な意地はらずに一言食べたい、頂 戴って、言えば良いのにね。 あ、白神と灰老神は気にしなくていいから。ん?どうせなら帰っ てから来る? 分かった。その方がこっちも助かるし⋮⋮ それにしても、まるで若い頃のジンが見せた様な意地のはりかた だった。や∼⋮若かった∼。ジンには﹁意地はって食べない方が損 してる﹂って言ったら、﹁男が甘い物好きなのはみっともないだろ ?﹂と言っていたので、﹁他人の目を意識し過ぎると生きてけない よ。私を見なよ。こんな外見で人目を集めるよ?大半が気味が悪い 1468 とか小声で言ってるし。それに比べたら小さい悩みでしょ?﹂と言 ったな。 若干あれが原因でたかが外れて、お菓子お菓子っ⋮て、暴走しか けたけど、それも良い思い出になったよ。 ﹃意地をはらずに言えば良いじゃろ。紅蓮とて鬼ではないぞ。ほれ、 ﹄ ﹃う、うるさい!﹄ ﹁ねえ、いつもあんな感じなの?﹂ ﹃ああ、大体はあんな感じだな。だが、神々の長い説教で多少丸く ⋮⋮なったのか?﹄ いや、こっちが聞きたいよ。 ﹃大体、あんな奴が作った食べ物なんて食べたくないね。何が入っ てるか分かったもんじゃない。材料だってそこら辺に落ちてる物で も使ってんで⋮⋮﹄ ﹃︵ああ、馬鹿者⋮⋮死んだな︶﹄ ﹃︵⋮紅蓮の後ろに般若と鬼がおるのぉ⋮︶﹄ 聞き捨てならないことを聞いた気がするが、気のせいか? 私が 1469 食べ物に異物でも混入させるとでも? ハッ︵嘲笑︶ テメェの為にそんな勿体ないことするかよ。食材が勿体ないわッ! それに、材料がそこらに落ちてる⋮⋮だって? うちの妖怪たちが汗水垂らして育てた麦や果実が“そこらに落ち てる”だぁぁ? ふ、フフフフフフフフ⋮⋮ ちょーと⋮⋮キレたかなぁ∼。ちょいと面かしてよ黄色のガキ。 おばさん話と言う名のヤキ入れてやるから⋮⋮ね? ﹃え?いや、え!?ちょ!⋮⋮放せーーーーー!!!⋮⋮⋮﹄ うちのやつらを悪く言う奴は⋮⋮フフフ⋮ね? 1470 その後、黄童子の姿を見たものは誰もいなかった。by白神 ﹃か、勝手に⋮⋮殺すなよ⋮⋮︵バタッ︶﹄ 1471 マジでダァーイする五秒前︵後書き︶ 神様はそう死なないので大丈夫でしょう︵笑︶ 1472 もふもふは正義!︵前書き︶ これか毎日投稿しようぜ⋮⋮ と、いうことで明日から毎日投稿いたします。 ところで、この元ネタは見たこと無いです。 1473 もふもふは正義! 夜も開けおはようございます。 どうも、ヤンデレ化?しそうだった紅蓮です。只今嫁さんの膝の 上で固定されています。 ん?羨ましいなコノヤロウ? 狐の姿で抱き締めと言う名の締め付けをされるのが良いのなら代 わっても良いよ?⋮⋮あ、やっぱダメだ。野郎共に嫁さんの柔らか い膝の上を堪能させたくない!! ﹁ふわふわだな。しかも尻尾が二本も増えてふわふわが増したな♪﹂ ﹃きゅーん!!︵いや、嫁さん。周りの目を気にしてね?︶﹄ 周りの目と言っても現在午前6時半、リビングに居るのはポチだ けだけどね。夜夢は散歩で、兎天はまだ夢の中⋮⋮奏は嫁さんの付 けている薬入れの中だし、八雲は別行動してるし。 それでも恥ずかしいと言われれば⋮⋮恥ずかしい。 ﹁今夜はその姿で寝て良いか?﹂ ﹃キュウゥゥゥ⋮⋮キュ︵良いけど締め付けが厳しいからちょーと 1474 ⋮⋮イヤ。︶﹄ これである。もふリストと化した嫁さんは始終私の毛皮を堪能し ている。 終いには顔を自他ともに認める上質の毛皮に埋めている。この姿 で森を彷徨けば間違いなくその毛皮目的で狩られる。そう簡単に狩 られりゃしないけど。 今日の朝は数週間ぶりの家族勢揃い。あの事件以来初である。父 さんは母さんの妊娠で黄の国での仕事を八咫烏に任せて家に残るら しい。勿論一度戻るみたいだけどね。心配なのは分かるけどあまり 構いすぎるとうざがられるよ? 唐突だがこんな姿になっているのには理由があって⋮⋮。その、 一言で言えば﹁病み上がりなんだから大人しくしていなさい﹂なの だ。 物凄い高熱で倒れたから心配なのは分かるけど、心配し過ぎなの だ。起きたら既にこの子狐の姿になっていた。どうやら母さんが何 かしたようだ。お陰様で嫁さんに渡そうとしていた白神から貰った 呪具を渡し損ねた。ま、今日明日どうこうなる訳じゃないからいい のだけども。 心配事がもうひとつ⋮⋮ 1475 ふるい ﹁え∼と、小麦にベーキングパウダーを入れて篩にかけて⋮⋮﹂ 私が遺したレシピ帳を片手に嫁さんが何かを作ろうとしている。 未だに私を抱き上げているので料理に着手してはいないが⋮⋮ちょ っぴり心配だ。 レシピ帳は常に持ち歩いている嫁さん。どうも私が寝ていた間は 意味もなく読みふけっていたとか︵奏情報︶。今もレシピ帳をパラ パラとめくり何かを探して読み始めた。 ﹁卵、牛乳⋮⋮と、⋮⋮えっと⋮⋮バターを溶かして⋮⋮フライパ ン⋮⋮﹂ あ、何を作りたいか分かったよ。ホットケーキを作るつもりだね。 今は朝の6時半。朝御飯を用意を始める時間だしね。 こんな姿では料理は無理だし⋮⋮嫁さんの腕に我が家の今日の朝 食がかかっている。どうか、失敗しませんように⋮⋮。あ、それと 嫁さん。毛のある動物はキッチンで料理を手伝えないよ?そうだよ、 つまりは今の私は役立たずだってことだよ。 ﹃キュウゥゥゥン︵だから私を片手に料理始めようとしないで∼︶﹄ 1476 自慢の毛並みが焦げる⋮⋮そういえば私、火が効かないんだった。 なんだ焦げないなら安心⋮⋮できるか! ﹃キュ?キュウゥゥゥ⋮⋮︵だからね?私を放してよ。毛が入った ら台無しでしょ?︶﹄ 毛替えの犬並に抜けないけど、神経質な人も居るかもしれないよ ?それに、ほら。一応王族の皆さんに出す物だし⋮⋮動物はキッチ ンに入れない方が良いでしょ?ね? ﹁ずっとこうしていたい⋮⋮﹂ 抱き締めれながらそう言われると弱いの知ってて言ってるでしょ。 ベル時代もよくその台詞で朝から襲われ⋮ゲフンゲフン⋮⋮うん、 若かったねお互い。 ﹁何処にも行くなよ?目を放すと直ぐに何処かに行こうとするから ⋮﹂ ﹃キュ、キュウゥ∼⋮︵はいはい、分かったから朝御飯作ろうね∼︶ ﹄ なかなか離そうとしない嫁さんのほっぺに前足をテシテシ⋮⋮ど うだ、肉球スタンプの感触は。これでも離さないなら今度は爪をた てるよ? 1477 ﹁はぁ⋮⋮面倒だ。﹂ ﹃キュ!キュキュウゥ︵私もお腹が空いたから早めに作って欲しい んどけど。︶﹄ ﹁ホットケーキ作るの面倒⋮⋮﹂ ﹃キュウゥゥゥン︵嫁さんが作るホットケーキ楽しみだなぁ︶﹄ ﹁⋮⋮作るか。﹂ 決して言葉が通じている訳ではない。何となくのニュアンスで何 となく何言ってるか分かるだけだ。 何だかんだいって長い付き合いだからねジンとは。⋮⋮あれ?異 世界分の時間を入れると⋮⋮白神とクラウドの方が遥かに長い付き 合いだね。 ま、それはそれとして。 ﹁えっと⋮⋮あまり混ぜすぎるとふんわりいかないのか⋮⋮フライ パンにバターを敷いて⋮⋮﹂ ﹃キュ!キュキュウゥ!︵ちょいと待ってよ嫁さんや。熱したフラ イパンに直はダメって教えたじゃない。濡れた布巾の上にフライパ ンを乗せてから生地を敷くんだよ!布巾をちゃんと用意して!︶﹄ 1478 ちゃんとレシピ帳に注意点として書いた筈なんどけど⋮⋮さては 読んでないな嫁さん! ホットケーキを焦がす大体の理由は、熱々に熱したフライパンに 直ぐに生地を敷くせいだ。中まで火が通る前に表面だけ一気に焼け るから焦げるんだよ。だから濡れた布巾にフライパンを乗せて生地 を敷くと上手く焼けるよ。 ﹁おっと、そうだった。危ない危ない⋮﹂ そう言って濡らした布巾を用意した。うん、そうそう。あ、嫁さ んは返しが下手だからあまり大きくしない方が良いよ。その分数が 多くなるけど⋮⋮仕方ないよ。 今嫁さんが出してきたフライパンはそれほど大きくは無いけれど、 不器用なので小さめにするように指示する。勿論言葉は通じていな い。けれど何となく通じた様だ。レシピ帳にも書いてあるし。 ﹁⋮⋮⋮と、小さめに⋮⋮下手とか、不器用とかレンはどんだけ俺 を不器用扱い⋮⋮いや、ホントに不器用だった。﹂ ﹃キュ⋮︵ドンマイ︶﹄ ﹁てか、ソコまで予知してる辺り⋮⋮いや、何でもない﹂ 1479 日頃からそそっかしい所があったからだよ嫁さん。 ﹃クアァァァ∼⋮⋮﹄ 朝はいつも目覚めスッキリなのに今日は矢鱈と眠気が抜けない。 大きな欠伸をしながら嫁さんの危なっかしいクッキングをキッチン ふるい のハシッコに備え付けてある小さめのソファで丸くなりながら見て いる。あ、篩は上の棚に入ってるよ。 そうそう。全部用意してから作りはじめようね。その方が楽だよ ⋮⋮主に散らかさないために。 それにしても⋮⋮あの白神達に呼ばれた後、不思議な夢を見た。 何故か私ではない私がジンではないジンと夫婦で、時代が⋮⋮何 時代だろ?江戸よりは前だと思う。その私達ではない私達が⋮⋮死 んでいく様を見ていた、三人称視点で。私は流行り病で早死にして 子供は⋮⋮多分猫の妖怪に殺され⋮⋮ジンはあらぬ疑いで打ち首⋮ ⋮悲惨な夢だった。 そう。夢見がとても悪かったのだ。 不思議なのはその続き。夢は続き、私は現代の日本で普通の人間 1480 に生まれ変わっていたこと。しかも同じく生まれ変わっていたジン と再会してハッピーエンドだったこと。 私の見る夢は大体がバットエンドなのにこの夢だけはハッピーエ ンドだった。それが少し不思議だったのだ。 いや、不思議と言うよりもシャクだったのかも知れない。 前世では悲惨な最期だったのだから⋮⋮もしかして、前世では悲 惨でも今生ではハッピーエンドになれるよって、提示しているのか な? それなら願ったりだよ。シュンも今の人生を図太く逞しく生きて いるし。 ﹁なあ、バターってどうやって溶かすんだ?電子レンジ無いぞ?﹂ ﹃キュ⋮︵そういえばそうだった⋮︶﹄ なんたる痛恨のミス。だが、安心してくれ嫁さん。手はあるのだ。 ﹃キュッ⋮⋮キュフ⋮︵よっこいせ⋮⋮やれやれ⋮中身はおばさん だな私⋮︶﹄ 愚痴を言いながら嫁さんの前まで近づき 1481 ﹃キュッ!︵八雲、椅子︶﹄ ﹁了解ボス⋮﹂ 先程帰って来て屋根裏待機していた八雲に椅子を要求する。だっ てキッチンはこの姿では届かないし。 てか、八雲よ。お前はどこぞの忍だよ。ま、いいか。 八雲が用意してくれた椅子に乗り木材製のボールの中に入ってい るバターをジィーー⋮と見つめ念じる。 ﹃キィューー︵溶けろバターー︶﹄ するとどうでしょう。固まっていたバターはみるみる溶けていく ではありませんか。 私に電子レンジなど不要なのです。電気代がかからなくて現代で は重宝したかも⋮⋮いや、かえって電子機器を破壊したかもしれな いぞ。 他にも方法はあるだろうけど、今の姿ではこれが精一杯。早く戻 らないかな∼。 ﹁おおぉ⋮スゲー。それも術か何かなのか?﹂ 1482 ﹃キュ?キュー⋮⋮︵術かな?どちらと言えば⋮⋮そうかな⋮⋮︶﹄ 便利だかそれでは進歩しない。この世界もそうだ。医療は治癒術 で治すから医療や薬学か進歩しない。機械技術もそうだ。一方が便 利すぎるともう一方は見向きもされない⋮⋮もしも、便利な方が全 く使えなくなったらどうするのだろうか? ﹃クァァァァ⋮⋮。︵ま、私がどうの言おうがどうにもならないけ どさ︶﹄ どうでもいいことを考えながら た大きな欠伸をしていると⋮⋮ ﹁ふぁぁ⋮⋮ん。レン、お前の欠伸かうつったぞ。まぁ、変な夢を 見た所為でちゃんと寝た気がしないのもあるけどな。﹂ ほほぅ⋮⋮嫁さんも?珍しいね⋮⋮もしかして同じ夢を見てたり して⋮⋮ないか。 でもさ、今一番言いたいことがあるんだよね⋮⋮ ﹃キュン!キュキュー!︵嫁さん!卵、卵いれ忘れてるぅぅ!︶﹄ ﹁あ、いっけね。忘れてた。﹂ 1483 あぁぁ⋮⋮不安だ。家を空けるのが不安だ。 そんな調子だったがなんとか朝食のホットケーキを人数分作り終 えた。 うん。焦げなくて良かったね嫁さん。 ﹃キュ⋮⋮キュキューン!︵ホットケーキには⋮⋮バターと蜂蜜か メープルシロップだよね。私はメープルシロップが良いよ♪︶﹄ ﹁そっか。レンはメープルかぁ。俺は蜂蜜のが好きだな。⋮⋮てか、 蜂蜜は分かるけど、いつの間にメープル作ってんだよ⋮⋮何処にも 楓の木は一本も見当たらないぞ⋮⋮まぁ、良いけどさ。﹂ はい、メープルシロップは冬エリアに行って採取してきました。 それも何日もかけて少しずつ貯めて、煮込んで少ししか作れなかっ た貴重なものなのだ。他にもやりたいことがあったからあまり力を いれていなかったけど、白き箱庭があるからもう少し力を入れてみ るのもいいかも。 1484 ちなみに、我が家の砂糖は何故かあるサトウキビとビーツ︵砂糖 が採れる大根︶があるので困っていない。売れば⋮⋮かなりの儲け になるだろうが、諸々面倒なので考えていない。 下請け業者とか何かと揉めそうなので。 基本自分達だけで消費するし、その消費量も半端無いし⋮⋮うん。 ダメだな。 基本我が家のホットケーキは大きめサイズの20センチで3段重 ね。量もそれなりに多い。けれどそれおもペロリと食べてしまうの が我が家なのですよ奥さん。マジで家の家計は火の車だ。 今回の来客は本当に辛い。主に私のメンタルと家計が。ホットケ ーキ作るだけでも普通の食費の2倍以上なんだから⋮⋮はぁ⋮⋮。 あ、何か愚痴になっていた。止めよう、キリがない。 で、嫁さんが作ったホットケーキは厚めでとても美味しそうだ、 小さいけど⋮⋮。 熱々のホットケーキにバターを塗ると溶けて⋮⋮美味しさか増す。 味は大丈夫だろうか? 1485 まぁ、入れて不味くなるものは無かったから大丈夫? フリじゃ 無いよ? ﹁フゥ⋮⋮終わり!!﹂ リビングに人数分のホットケーキを置いて満足げに頷く。うんう ん。上出来だよ。 ﹃キュン!︵後は皆が起きてくるだけだね!︶﹄ ﹁皆起きてこないな。今⋮⋮7時か。もうすぐか﹂ ﹁皆あの後結構遅くまで起きてたッスよ。あぁ⋮そうだ。朱李さん の檻⋮⋮まだ消えてないんで出してあげてほしいッス⋮⋮もう睨ま れたくないんで⋮﹂ 八雲が屋根裏の板をカパリと開けて提案した。皆そんなに遅くま で起きてたの?風呂に入った時は誰も居なかった⋮⋮。 それに、父さんを閉じ込めた檻⋮⋮まだ消えてなかったのか⋮⋮ ヤベッ⋮⋮後で謝っとこ。すまん父さん。バタバタしていてスッカ リ忘れてました。 1486 それから皆起きてきた。昨日体調を崩して寝込んでいた筆頭女官 さんも居た。どうでも良いけどイガクリも元気そうだ。⋮⋮⋮チッ 八雲に言われ父さんが入った檻を消しておいた。起きてきた母さ んを甲斐甲斐しく父さんが付き従っていた⋮⋮正直ウザそうだ。 八雲はポチ達の分のを白き箱庭に運んで貰った。八雲は良いのだ けど⋮⋮その、動物と一緒の食事は嫌って人も居るわけで⋮⋮悪い けれど別々にしている。本当は私もいない方が良いのかも知れない けど⋮⋮今狐だし、嫌な顔されたらキッチンの片隅で食べよっかな。 ﹁あら♪今日はランちゃんが作ってくれたの?スゴいじゃない。と っても美味しそう♪ 私が作るとどうしてか爆発するか消し炭にな るのよね∼。何でかしら?﹂ ﹁⋮⋮それは、料理は火力が命!とか言って術で作ろうとするから だな。﹂ へぇ⋮⋮母さんは料理を戦闘と勘違いでもしているのかな? ﹁﹁︵それは、果たして料理なの?︶﹂﹂ 若干呆れ気味なマオ嬢と筆頭女官さん。母さんの料理はどこぞの 1487 コック長より過激だよ。主に火加減的な意味で。粉塵爆破も無いの に爆発するからね。 ﹁あらコウちゃん♪可愛い姿ね♪﹂ ﹃キューン!︵戻してよ母さん!︶﹄ ﹁そう?でも可愛いから暫くはそのままでいたら?﹂ ﹁それは俺も賛成⋮⋮﹂ ﹃キュ⋮キューン!!︵う、嫁さんの裏切り者ぉぉ!!︶﹄ ﹁まぁ⋮可愛い⋮⋮あれが噂に聞く獣化かしら?﹂ ﹁姫様⋮⋮あの様な可愛らしい姿でも紅蓮様ですよ。男性に可愛い は禁句です。﹂ ﹁︵貴女も言ってますよ⋮⋮︶﹂ ﹁これ、あまり言ってやるな雛。﹂ 別に中身はおばさんだし、何とも思いませんよ?けど、可愛いと か聞きなれてないもんで⋮⋮ちょっと恥ずかしい。 ﹁あ、狐さん!﹂ ﹁これ柏樹!紅蓮に対してそれはダメだ。﹂ 1488 終いには末っ子王子が私を撫でようと近づいてくる。ふっ、私は 犬じゃ無いのだよ。誰にでも尻尾を振ると思ってもらっちゃ困るな。 私の頭を撫でようとした末っ子王子の手をプイッも避ける。しか し、末っ子王子、諦めない。今度は尻尾掴もうとした。生意気な! 尻尾は動物にとって比較的弱い部分だ。簡単に触られたりはしな い。嫁さんもそれを知っているからあまり触らない。触るときは一 言聞いてから触る。 末っ子王子の魔の手から尻尾を避けた。しかし追ってくる。イラ ッとした。だから俺は悪くねぇ⋮⋮と言いたい。ぞこぞの親善大使 様よろしく言いたい。このネタわかる人がどれ程いるのか分からん が、言いたい。 ﹃グゥゥ⋮⋮グァ!︵尻尾に⋮⋮触んじゃねえぇぇ!︶﹄ ビシッ⋮⋮えぇ、叩きましたよ前足で。末っ子王子の手を。だが、 安心してくれ手加減はした。しなければ末っ子王子の手はこの世か ら消えている。 ﹁ふぇ⋮⋮う、うわぁぁぁぁん!!﹂ ﹁あら⋮まぁ⋮⋮﹂ ﹁今のは柏樹が悪い。皆が止め、紅蓮も嫌がっていたのに触ろうと するからだ。﹂ ﹁︵容赦ないわねぇ。でも分かるわその気持ち。私も柏樹王子の前 では獣化出来ないもの⋮⋮あれが嫌で。︶﹂ 1489 マオ嬢が﹁分かる、分かるわぁその気持ち﹂と同意している顔で 頷いていた。いや、止めろよ。ミケあんた、一応止めなよフリでも いいから。 ﹁ダメですよ柏樹王子。私の一族も朱李の一族も伴侶以外が触れる のを嫌がりますから。特に尻尾はダメですよ。﹂ マミィ⋮⋮注意が遅いよ。でもその話私も初耳なんですけど⋮⋮ ま、いいか。 その後、恙無く食事を始めた。私は人の姿に戻ることなく始終ニ コニコした嫁さんに食べさせて貰った。嫁さんが楽しそうで何より です。 あ、何故か父さんと八雲が意気投合していた。私が倒れている間 に何があったよ? 1490 もふもふは正義!︵後書き︶ 狐って小さい頃ら人の手で育てられると犬のように懐きます。と ても可愛らしいそうですよ。 しかし、野生の狐は病気を持っていることもあるので触るなと言 われていますね⋮⋮。 1491 サヨウナラ⋮⋮え?まだ帰らない?︵前書き︶ 注意!! 極度の虫嫌い、または足の無い生き物が苦手な方は︵ミミズ等︶ 戻ってください。気分を悪くする恐れがあります。 また、想像力豊かな方は食べ物を食べる、食べたすぐ後、今から すぐ食べる等⋮⋮お控えなさることをおすすめします。 ちょっと、私も気持ち悪くなったので注意しました。︵・・;︶ 1492 サヨウナラ⋮⋮え?まだ帰らない? 何とか朝食を食べ終え、只今嫁さんの膝の上からお送りします。 もう獣状態の時はこの位置が定位置になりつつあります。ま、他に 邪魔されず嫁さんとイチャイチャ⋮⋮ゲフン⋮ゲフン⋮⋮誰にでも ちょっかいを出されずに居れるのでもう諦めている。 ﹃キュ⋮︵あ、耳の後ろが⋮⋮痒い⋮︶﹄ ﹁︵可愛い⋮⋮︶﹂ 私が痒いと鳴くと掻いてくれる辺り私達は以心伝心なのかもしれ ない。あ、もうちょい右ね。 こうしていると嫁さんが癒させれているらしい。うん、分かるよ その気持ち。猫とか犬とか、ふれあってると無条件で癒されるよね ⋮⋮動物が嫌いじゃなければ。 ﹁仲が良いのですね∼︵腐腐腐︶﹂ ﹁︵ゾクゥ⋮⋮今、ゾクゥってきた!︶﹂ ﹃キュ⋮︵あれ?鈴雛姫から腐女子の匂いが⋮⋮あれ?︶﹄ 私の第六感的な何が私に﹁もうこれ以上関わるな﹂と言っている。 その声に従うのは本能だと思う。ネタにされるし。 1493 ﹁雛姫⋮⋮︵ヤバイ、猫が剥がれかかってる︶﹂ 変な第六感が働いた私に母さんが話しかけてきた。何だろう? ﹁ふふふ⋮⋮戻りたい?コウちゃん。﹂ 戻れるなら戻りたいよ。そう思っていると舞子とイガクリが呟い た。 ﹁戻れるの?﹂ ﹁⋮⋮兄上⋮⋮無能?﹂ あ? ﹁﹁︵あ、ヤバイ︶﹂﹂ ﹁︵地雷踏んだぞ大雅王子︶﹂ ﹁大雅!そんな事言ってはいけません!﹂ ﹁!⋮⋮はい、母上。でも本当の事です。﹂ あ゛ぁッ? ﹁⋮⋮⋮︵なんだこのカギ⋮⋮あぁ⋮何かこう∼ブリザガとかぶっ 飛ばしたい!︶﹂ ⋮⋮⋮私よりも嫁さんの方が怒り心頭だった。お陰で頭が冷えて きた。 1494 ﹁ボス⋮⋮コイツ⋮ピチュンさせていいっすか?﹂ ﹃キュ⋮キュキュー︵はっ、言わせておけ。それに売られた喧嘩は 自分で買う。覚悟しやがれよイガクリが!︶﹄ ﹁さすがボス!⋮⋮ん?でもその姿でどうすんですか?﹂ コソッと八雲と話していると何やら母さんが動き出した。どうし たのだろう? てか八雲。ピチュン⋮⋮てのは死んだ時の音だよね?つまりは銃 で射つの?⋮⋮国際問題になるからやめてね。 そのまま私の前︵嫁さんの膝の上に居ます︶に来て一言。 ﹁命に関わる事はしないでね?﹂ ﹁︵全面的にそこじゃ無い⋮⋮が、我が子を貶されるのは⋮⋮頭に くるな。殺れ、いや、やってしまえ。︶﹂ それはつまり、命に別状が無い限り許すってことですよね? 了 解ですマミィ、パピィ。 後ろで舞子に怒られているイガクリは腑に落ちない顔をしていた。 何故怒られたが分かっていないのだろうか? 少しばかりイガクリの将来が心配になった。 1495 ﹁いい大雅。確かに私も今まで甘やかしていた。けど、私は漸く親 として大雅と接しないといけないと教えて貰ったの⋮⋮麗春さんに ね。﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁酷い母親だった。だから私も貴方も一緒に成長しましょう? 前 みたいに接しなくても良いわ。でも、貴方に嫌われようと⋮道理に 反しているなら正すわ。さっきの発言はダメよ。﹂ 何だか王道の成長シナリオみたいな展開を繰り広げている。あぁ ⋮私には出来ない。あそこまで純粋じゃないしね。 私は関わりたくないので嫁さんの膝の上で狸寝入りでもしようと 思う。 狐なのに狸寝入り⋮⋮これいかに。 あ、関係ないね。 ⋮⋮それと、子供を叱るときは何が悪いのか呈示してやったり、 答えを考えさせるのも必要だよ。子供は一から教えないといけない から⋮⋮シュウは大人を見て学んでいた様だけど⋮⋮本当にあの子 私の子供にしては優秀だったわ⋮⋮ジンの血かな? 1496 それにしても、母さんは舞子に何をしたのだろう。変に性格が改 善?している⋮⋮まさか洗脳⋮⋮は無いよね? ま、まぁいいか。これでイガクリの誰も自身を見てくれないとい う杞憂も少しは無くなるのかな? この親子が共に成長することを心から祈るよ。私と嫁さんの保全 の為にね。 親子の和解?シーンを終えて話は白の王から届いた手紙の話にな った。あれま。いつの間に来たのか王からの手紙よ。朝に来たのか な? ﹁白の王かの手紙にはもう帰ってきても良いと書いてあったわ。明 日の朝一でお迎え来るそうよ。﹂ ﹁紅蓮の件で反逆者を一掃した様だしな。お手柄だな紅蓮。﹂ ﹃キュゥ⋮︵あれはその場の勢い⋮⋮︶﹄ お手柄というより、私は力を見せた事で反逆者の疑いを掛けられ ないか心配だ。出る杭は打たれる。力ある者は恐れられ、また煙た がれる。平和なご時世ならなおのこと。 1497 もしもあらぬ疑いを掛けられたら⋮⋮白き箱庭に籠城してやる。 誰も侵入できない難攻不落の場所だからね。 ⋮⋮ま、まぁ⋮⋮白の王もそこまで冷酷じゃないと思うし⋮⋮多 分⋮⋮きっと大丈夫? ﹁この度は本当に世話になりました。我が国の問題に巻き込み申し 訳ない。紅蓮も、すまなかった。我ら王族がしなければならぬこと をさてた。何よりこの場所を危険にさらした。本当にすまぬ。そし わたくし てありがとう。心より感謝を。﹂ かしず ﹁私からも感謝を。城では味わえない貴重な生活を体験できました。 ほんの少しでしたが、傅く者が居ないのもたまには良いものですね。 何だか新鮮な体験でしたわ♪﹂ 何だかサヨナラする場面に言いそうな台詞をいい始めた。ちょっ と気が早すぎる気もするのは私だけか? ﹁ぼくも面白かったよ。⋮⋮⋮さっきは泣いちゃったけど。﹂ チラリと此方を見て話すのは柏樹王子だ。どうした、無闇に獣に 触るなという教訓が効いたか? ﹁ふふふ⋮。先程の事は良い教訓となりましたね、柏樹王子。王宮 では出来ない体験ですからね。﹂ 1498 そうですね筆頭女官さん⋮⋮すいませんお名前何でしたっけ? 記憶が遠すぎて思い出せない。 でも、彼女の言う通り王宮では王族に牙をむく獣は居ないだろう から出来ない体験だろうね。 ﹁皆さんサヨナラの言葉はまだ早いわよ。後一日はあるのだから。 さて、今日の仕事をしないとね。コウちゃん、元の姿に戻れるから 服を着てきてね。仕事は半分私と朱李でやるから分担を決めましょ う。﹂ サラッと言ったマミィをジト目で見ると華やかな笑みで反された ⋮⋮逆らうなですねわかりました。 服を着てくるために嫁さんの膝から降りると ﹁もう戻るのか?﹂ と、悲しそうに聞いてくるので、 ﹃キュー!!︵どうやってこの姿で仕事するの!!︶﹄ と、返すと。あろうことかこう返した。 1499 ﹁癒し﹂ 即答だった。⋮⋮⋮嫁さんや、君は何を目指しているの? やっ ぱりボケ担当なの? 私もボケ側だからツッコミはないよ? リビングから廊下に出て自分の部屋に向かう。ん?ドアはどうや って開けるのか? 家は大変丈夫な木材で出来ている。私が少し爪 を立てただけでは傷なんか付きゃしない。ドアノブはレバー式の⋮ ⋮何て言うんだっけ?⋮⋮ま、いいか。 ほら、犬とかでも開けるのたまにいるでしょ? ドアノブは回す タイプじゃないから簡単に開くし。この姿でも楽に行き来出来るの ですよ。 ﹃ま、器用な尻尾を使えば人間みたいに粗方出来るんだけどね。﹄ 私の尻尾はそんじょそこらの尻尾とは訳が違う。例えるなら像の 鼻並みに器用なんです。 え? 今、喋ってなかったかって? 1500 ⋮⋮狐の姿の時喋べれないなんて一言もいってないですよ? ﹁さあ∼収穫よ収穫ッ♪﹂ ﹁身重なんだから重いものを持つな!﹂ えっと⋮、服を着てリビングに戻ると母さんが張り切っていた。 多分野菜畑の収穫でもするのだろう。丁度今は⋮⋮早生の枝豆を収 穫出来たかな? もうすぐ6月。 だがここの気候は相変わらず春。温室栽培で色々な作物を作れる。 だが、季節に合っているものを食べたいと思うのは変だろうか? まあ、それは置いといて。王子達が⋮⋮ ﹁畑仕事なんて始めてですわ♪﹂ ﹁何事も経験だな。﹂ ﹁何するの?﹂ 1501 ﹁野菜を収穫するようですよ柏樹王子。﹂ ワクワクしながら準備していた。え?するの?別にいいけど⋮⋮ 泣き言言わないでよ? 筆頭女官さんも、汚れることを考えるとそ の服装は⋮⋮汚れて泣きを見るよ?洗濯して泥汚れは落ちないよ? この後、落ちない泥に泣きを見る筆頭侍女さんがいたとかいない とか⋮⋮ 準備万端な白の王子達とは裏腹に舞子親子はあまり乗り気ではな い。まぁ⋮⋮その反応が普通なのだ。 ﹁畑仕事なんていつ以来かな?︵小学校の体験授業以来だなぁ︶﹂ ﹁汚れるの、嫌だなぁ⋮⋮そういう仕事は農民がするんじゃないの ?﹂ 恨み言を言いそうなのであえて私は何も言わないでおいた。 始終嫁さんはイガクリを無視していたが、何があったよ⋮⋮。あ、 八雲も汚れてもいい服装で手伝ってくれるらしい。 ﹁俺畑仕事なんて始めてなんて色々教えてくださいボス!﹂ 何処か楽しそうだな八雲。聞けば暗殺以外の仕事は始めてで楽し みとか。前世では学生でバイト以外したことがなかったとか。それ にしても、殺伐とした生活をしているとこういった平和的な日常に 憧れるらしい。分かるよその気持ち。異世界でもそう思ったもの。 1502 ちなみに私と嫁さんは汚れてもいい仕事着です。 そんなこんなで着きました我が家の広大な温室⋮⋮。広大も広大、 どの位かと聞かれると困るほど大きい。前に来た時よりも拡大して いるのだよ。 何て言うのかな⋮⋮増築しました。うん。 いくつもの硝子︵の様に見える魔物の鱗を加工したものせ製の温 室が連なって建っている様は壮観だ。環境破壊というなかれ。これ も私達が生きるために必要な食料を確保する為だ。 ﹁ここまで大きいとは⋮⋮﹂ ﹁つい最近まではこの1/10程しか無かったけどね。母さんが達 が作ったんだ。お陰で野菜に困ることはないよ。﹂ ﹁なるほど⋮⋮だから食卓に並ぶ料理は野菜が多かったのですわね。 ここは街からも遠いですから、食料を確保するのも大変そうですわ。 ﹂ 1503 ﹁ここで出された野菜は柏樹も嫌がらず食べていたな⋮⋮野菜特有 の苦味やえぐ味が無かった。気候が良かったのだろうか?﹂ あぁ⋮⋮確かに巷で売られている野菜は未だに苦味と渋味とえぐ 味が強いもんね。あれじゃ∼子供は食べたがらないのも頷ける。正 直私も進んでは食べたくない。 確か野菜は品種改良もあるが、土の成分にも味が左右されるとお 母さんが言っていた⋮⋮家庭菜園が趣味の母は色んな本や田舎のお ばちゃん達に教えてもらっていた。 母の話では、窒素や硝酸塩等か苦すぎる野菜の原因だと言ってい た。しかも、硝酸塩⋮⋮有毒だ。更に、硝酸塩⋮⋮肥料に少なから ず入ってあることがある⋮⋮らしい。硝酸塩が多量に入っている野 菜は赤ん坊が食べれば食中毒を起こして最悪⋮⋮死んでしまう。あ、 これはシュウが赤ん坊の時口を酸っぱくして言われた事だから良く 覚えている。 特に見た目大きめの見栄えが良い物はもしかすると⋮⋮栄養過多 で窒素多めなのかも知れない。菜っ葉や根野菜が苦かったら可能性 アリ。 先ず、野菜や果物は自分で食べて苦すぎたら決して食べさせない。 勿論元々苦い者は除く︵ゴーヤとか︶。スーパーに売っているもの は多分大丈夫だろう。出荷する時に検査をしているはずだから⋮⋮ ちなみに私は確めた。 1504 ここで一つ注意。母乳を与えている場合、母親が食べた物がその まま赤ん坊に与える事になるのでお奨めしません。母乳って不味い と赤ん坊も飲まないよ。もしも赤ん坊が母乳を飲まない時は食生活 や献立を振り返ってみるのをお奨めします。 塩っけが強すぎると美味しくないから飲まないのですよ。産んで からも自分の食生活には気を付けましょう。紅蓮からのお願いでし た。 何してるんだろ、私。 話を戻そう。勿論、日本では差ほど問題ではないかも知れない。 だが、ここは異世界で、しかも検査など殆どされていない。てか、 出来る技術が無い。 所詮信じられるのは己のみなのだ。 そうそう、レタスは酸性の土を嫌うので石灰を撒いてあげると苦 味を抑えられる⋮⋮はず。現に家のレタスは苦くない。それと、レ タスは日光が強いとダメだからあまり日差しが強い所はお奨めしな い。出来れば日差しを避けるビニールでも使うと良いんじゃないか な? ⋮⋮たが、何故改良されてもいない筈なのに日本でお馴染みのレ タスがあるのだろう⋮⋮気にしたら敗けなんだろうきっと。 1505 ま、何が言いたかったのかと言うと、野菜は育てるのがかなり大 変で、手間が掛かるから皆は好き嫌いせず食べようねって事⋮⋮⋮ だったっけ? うん、まぁ、それでいっか。 そして力を入れているのが土の改善だ。これは私の浅知恵でどう にか手探りでやってきた。腐葉土を作るため秋エリアで落ち葉を集 もみ めて袋に容れて放置していたり、母さんに頼んで貝殻を集めて貰い 砕いて撒いたり⋮⋮籾殻でくん炭を作って撒いたり。みんな母から の情報だ。 どうすれば酸性の土を弱酸性やアルカリ性よりに出来るのか。ど の野菜がどの土質にあっているのかとか。野菜によって性質が色々 あるので大変だ。 それと、家は有機栽培です。農薬は怖くて使えない。だってさ、 虫を殺す薬だよ⋮⋮それを人が食べても⋮ねえ? 直ぐには死なな いだろうけど、いつかはガタが来るよね。パセリなんかは怖くて食 べたくなかった。使っている農薬が根から吸収して葉に溜まるタイ プでさ、それを食べた虫は⋮⋮ねえ、これって本当に食べて大丈夫? 言い出したらきりがない。 ﹁これが⋮⋮豆の花ですの? この様な花でしたのね∼。形は藤に 1506 似ていますわ。 ﹁豆科の植物だからな。﹂ ﹁豆の鞘に細かい毛が生えてる!﹂ ﹁柏樹王子⋮⋮触りすぎは鮮度が落ちます。それに、ここの主の許 可なく触ってはいけませんよ。﹂ ﹁ごめんなさい⋮⋮﹂ ﹁豆って鞘?に入ってるの?﹂ ﹁そうよ大雅。私も見るのは久し振りよ。これって枝豆ですか?﹂ ﹁みたいね。この季節に生るなんて⋮⋮早生?﹂ ﹁ええ、そうよ。この種類は早生なのよ。それにしても柏樹王子は 好奇心旺盛ですね。﹂ うね ﹁子供は無邪気が一番だ︵ま、その脱い無邪気が一番恐ろしい時も あるけどな︶﹂ ﹁そうねぇ∼。さあ、この畝一本全て抜いてください。今夜の食卓 に乗りますよ。﹂ はしゃぐ王子達に母さんや父さん、筆頭女官さんが見守る。あ、 言わないといけないことが⋮⋮ ﹁引っこ抜いたら根に付いた土や根を戻して。﹂ ﹁土は⋮分かりますが⋮⋮根⋮もですか?﹂ 母さんと父さん達以外がキョトンとした。まぁ、そう思うだろう。 何せ、根など残せば邪魔になると思うから。 1507 ﹁はい、根に所々ついているコブには土に良い物がありますから。﹂ 枝豆︱︱大豆の根には根粒菌と呼ばれる土に良い菌が集まってい るのだ。それは豆の後に植える作物を助ける作用が有るとか。これ も母情報。 ﹁それにしても⋮⋮あちらの畝とこちらの豆は種類が違いますの? こちらは緑ですのに⋮⋮﹂ ﹁確かに。あちらは何だか枯れているようにも見えるな。﹂ ﹁ん゛ん゛∼∼。抜けないッ!﹂ ﹁柏樹王子。もっと腰を入れなければ抜けませんよ。﹂ 疑問を口にする王子と姫そっちのけで柏樹王子と筆頭女官さんは 楽しそうに豆を収穫している。楽しそうで何より。 王子達が言った疑問。答えは簡単に枯れて見える畝の豆は大豆と して収穫するから。今収穫している枝豆は大豆の若い豆だからだ。 でも、そうか。この世界では枝豆はまだ食べられていないのか⋮ ⋮勿体ない。美味しいのに⋮⋮。 ﹁何事も楽しむのは大切だが、あの調子じゃ畝一本終わる頃にはヘ トヘトになってるな。﹂ 1508 ﹁だね。誰かさんもそうだったからね。﹂ ﹁⋮⋮悪かったな⋮⋮調子にのって﹂ ﹁いやいや、都会育ちには仕方無いよ。私みたいに田舎育ちじゃな いと経験は早々無いしね。﹂ 学校で農業体験はあったかもしれないが、あれは面倒な事を省い た簡単な仕事を体験しているに過ぎない。本当の農業は手間は掛か る、天気には左右される⋮⋮努力が実らないこともある。とても大 変な仕事だ。 プランターで育てる家庭菜園とは訳が違う。何ヘクタールあるか も分からないような広大な畑を機械なしで耕し、種を蒔き、自分達 で収穫する⋮⋮。本当に文明が発展していない世界では大変だ。 ﹁八雲、そんなに張り切ってると直ぐにバテるよ。﹂ ﹁久しぶりの枝豆がかってんス。気合いも入りますって!﹂ ﹁ま、落ち着け。俺みたいにバテんぞ﹂ ミミズ ﹁まぁ、これが蚯蚓ですのね?﹂ ﹁きゃーーー!! こっちに寄越さないでッ!!﹂ ﹁何あれ!母上!あれ気持ち悪い!!﹂ ﹁これ、雛!! 放しなさい。今すぐ放しなさい!﹂ ﹁あ、兄上⋮⋮姉上指で摘まんじゃって⋮⋮る。﹂ ﹁ひっ姫様! お、落ち着いて、蚯蚓を放してくださいまし!﹂ 1509 ﹁流石王妃似の鈴雛姫⋮。肝っ玉がスゴいのね。﹂ ﹁肝心するところは⋮⋮まあ、いいか。でも、ホントに良く指で摘 まめるわね∼。私は無理だわ。﹂ 騒がしいと思っていたら、鈴雛姫が蚯蚓を摘まんでいた。スゴい な、女性はあの外見で嫌がるのにね。それを指で摘まんじゃって⋮ ⋮ハハッ。スゴいな、嫁さんでも出来ないよ。 ん?私? 農業には蚯蚓は必要不可欠。何とも思いません。触っ た後は手を洗うけどね。 ﹁蚯蚓は土を良くしますから戻してやってください。間違っても殺 さないでくださいね。この土地は蚯蚓も貴重な戦力⋮⋮無下に扱わ ないでくださいね?﹂ ﹁⋮まぁ、御免なさい。私ったら⋮⋮﹂ 自然豊かとはいえ、少しでも土を豊かにしておきたい。何時どん な事が起こるか分からないこの土地では何でも備えておきたい。 ﹁俺、あの姫さんみたいに蚯蚓鷲掴み出来ねぇ⋮⋮。﹂ ﹁しなくていい、しなくて。﹂ ﹁あれを真似するのは何年掛かるか⋮⋮﹂ 1510 ﹁変なプライド出さなくていいから。﹂ ﹁︵お、男らしい︶﹂ ﹁朱李⋮憧れなくていいから⋮⋮﹂ 家の男連中は変なプライドを刺激されたようだ。アホらし。虫が ダメな男なんてそこいらに居るだろ⋮⋮貴族連中に限られるけど。 元の世界でもざらに居たでしょうに。 ちなみに、私は百足の様に足が10本以上の虫が嫌いだ。蛞蝓も 嫌いだが、蝸牛は何ともない。触ろうとは思わないけど。ゴッキー も別に平気だ。 見つけた場所が台所ならスリッパやハエ叩き、何固いもので叩い てしまう。勿論、潰さない様に手加減もしている。 そんな私にジンは﹁勇者⋮﹂何てボソッと言っていたが、何でそ んなに怖がるんだよ⋮⋮スズメバチでもないのにね。⋮⋮確かに見 た目はねぇ⋮ 賑やか過ぎる枝豆の収穫は働き手が9人も居るので何時もより早 めに終わりそうだ。後の二人、イガクリと柏樹王子はここでは数に は入れてない。ちょっと遊んだり、弱腰で働き手とは言えないから。 さあ、今日のお昼は奮発して五穀米のオニギリだよ。さあさあ、 1511 頑張ってね! 1512 サヨウナラ⋮⋮え?まだ帰らない?︵後書き︶ 小さい頃にミミズを鷲掴みして周りにドン引きされた雲猫’でご ざいます。 ケイショウ あの後、鈴雛姫は侍女の啓璋さんに丁寧に、念入りに洗われまし た。 1513 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 前編︵前書き︶ ちょっと紅蓮がキレます。 お読み頂きありがとうございます。 1514 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 前編 収穫を終え手を洗い、当初より早めの昼御飯に りついていた私達。今日のお昼はちょっと奮発してオニギリだ。 ﹁炊いたお米を固めた物⋮⋮ですか?﹂ ﹁これが握り飯か。初めて見た。﹂ ﹁ですが⋮⋮何が入っているのですか?白くないですね⋮⋮﹂ そうか、王族や貴族ではオニギリは見たことは無いだろう。白米 しか見たことがないだろうし、あったとしても玄米が関の山。 ﹁これは五穀米です。白米以外に四つの穀物を混ぜて炊いた物です よ。﹂ ﹁︵あっ、お母さんが健康食品にハマってた時に出てきた⋮⋮︶﹂ ﹁これ、食べれるの?﹂ イガクリの言葉は無視。誰が食べれない物を出すかってんだ。そ れでも黄の国の国民にとっては贅沢何だぞ!! 何せ、お粥にして 食べているからね⋮それも汁ばっかの味気ないおかゆ⋮⋮それでも マシな情況だ。食べ物が有るだけマシなんだから。 イガクリの疑問何てなんのその⋮⋮一人静かにしていると思った ら柏樹王子は黙々とオニギリを食べていた。それも美味しそうに頬 袋をパンパンにして⋮⋮⋮この子、将来大物になるな⋮⋮ 1515 ﹁とても体に良いんですって。﹂ ﹁玄米は癖がある匂いだが、食べなれると旨いぞ。﹂ ﹁とはいえ、白米は高いですからね。私達には手が届きません。﹂ 言葉に﹁王族並みの食事は期待するな﹂と意味を込めた。家は王 族でも、貴族でもない。確かに母さんや父さんの生家は貴族だった。 嫁さんも華やかな暮らしとはいえなくとも王族だった。 しかし、今は単なる一般人。贅沢なんか出来ないし、しない。家 の素材は高級でも、それは私達のチート性能の所為で仕方なく特別 頑丈な素材を使っているにすぎない。 唯一の贅沢は広い風呂や私の作るお菓子くらいだ。それでも贅沢 何だぞ。 ﹁私も五穀米⋮始めようかな⋮⋮﹂ ﹁母上⋮⋮僕はいつものご飯が良いです。﹂ ﹁あくまで私の健康に関してよ大雅。私も健康に気を使わないと⋮ ⋮︵この年で老け顔は不味いもの︶﹂ ﹁大雅王子、そんなこと言わずに。美味しいですわよ、このご飯。﹂ ﹁歯応えがあるぶん食べご耐えがあるな。塩加減も丁度良い。﹂ ﹁んぐんぐ⋮⋮﹂ ﹁柏樹王子⋮⋮急がずとも握り飯は逃げませんよ。﹂ ﹁この黒っぽいお米は⋮⋮まさか、黒米?﹂ 1516 お、マオ嬢目敏い。そう、我が家の五穀米には古代米の黒米が入 っているのだ。 皮肉にも前世の日本では白米よりも高価な黒米。しかし、この世 界では白米にも劣る米として家畜のエサや農家でしか食べられてい ないのだ。 あまり量を取れないのに加え非常に弱く、人気の無い米なのだ。 体にも良いのに⋮⋮本当に皮肉だ。 我が家で密かに始めた稲作は未だに実ってはいないが、後数年す れば食べていけるようにしたい。黒米に加え、餅米も作りたいが⋮ ⋮今はそこまで需要が無いので手は出していない。でも、いつかは ⋮⋮うん。頑張ろう。 かしま 一人今後の事を考えていると⋮⋮まぁなんと言うか。女性が3人 たむろ 居ると姦しいとは良く言ったものだ。今は四人居るが︵私と嫁さん 除く︶何ともお喋りだ。まるで日向で屯する雀の様にお喋りだ。 話の内容は、やれ﹁美容に良い﹂、やれ﹁健康的﹂等など⋮⋮う ん。ついていけない。 ちなみに、五穀とは言っているが実際は麦と黒米以外は米だ。玄 米と発芽玄米、それに白米。 1517 厳密には五穀じゃないのだ。 あわ ひえ とうもろこし 始めに﹁ちょっと奮発して﹂と言ったでしょ? 本当の家の五穀 米は粟、稗、麦、玉蜀黍の粉、少しの白米。これが我が家の五穀米 なのだ。 家計がもっと火の車になればその中から米が消え、もっと悪化す れば麦が消える。 本当に結構切羽つまっているのだ。口には出せないが今回の来客 は本当に困る。唯一の救いは白の王が米と食費を工面してくれる事 だ。あぁ、それから光熱費が掛からないのも救いだね。 さてさて⋮⋮今夜の食卓はどうしよう。肉は当分困らない⋮⋮が、 他の食材はどうしたものか。小妖怪達にかき集めて貰うわけにもい かない。彼らも自分達の食い扶持だけで手一杯なんだから。 考えてみると⋮⋮我が家の家計の情況の何と悪いことか。まるで 私の前世の幼少期の様な⋮⋮思い出したくもない。 うん。今日は晩御飯だけでも奮発しよう。肉の量を増やそう。ど うせ明日には帰るのだから、自分へのご褒美と言うことで⋮⋮うん。 そうしよう。 おかずは私の好きなものを作ろう。何が良いかな⋮⋮大根の葉の 1518 炒めものと醤油で甘く煮た鶏肉⋮⋮味噌があったら大根の味噌汁に するのになぁ⋮⋮味噌も作らないと。 何で醤油はあるのに味噌が無いんだか⋮⋮。 ﹁⋮⋮ン⋮⋮⋮⋮レン!﹂ ﹁んえ?﹂ おっと⋮⋮考え事をし過ぎた。呼ばれていたのに気がつかないと は⋮⋮私もまだまだだな。 ﹁疲れたのか?﹂ ﹁まさか⋮⋮と、言いたいけど。正直精神的に疲れた⋮⋮﹂ ﹁昔から騒がしいのは嫌いだからな∼﹂ そうなのだ。私の性格上、こうも騒がしいのは苦手なのだ。元々 人付き合いが苦手な私にはキツい。 それを知っている嫁さんとマオ嬢は心配そうに見ていた。と、言 ってもマオ嬢は見ているだけ。私と嫁さんは会話の輪から離れて座 っているので話しかけるにはこっちまで来ないといけないからだ。 ﹁昨日の今日だからなぁ。無理すんなよ?﹂ ﹁嫁さん、客人が帰ったら休めるから今は⋮⋮休めないでしょ?﹂ ﹁うん、まぁ⋮⋮けど、倒れるのはもう勘弁だぞ。肝が冷えるのは 1519 もうごめんだ。なぁ八雲?﹂ ﹁そうっスよ。みんな冷や汗モンッスよ。あぁ怖かった。︵何が怖 いって⋮⋮惨劇でもあったのかスプラッタなキッチンが怖かった⋮ ⋮。︶﹂ 青ざめ気味の八雲⋮⋮どうしたのだろう。 そんな風に話をしながら昼御飯を食べ終え、また収穫作業に戻る。 話ながらの作業はのんびりだが、皆手を止めずに動いている。時折 嫁さんをボーッと見ているイガクリを除いては。 ﹁何か見られてないか?﹂ ん∼∼⋮・・あ、肉じゃが食べたい。﹂ ﹁⋮⋮無視しようね。それより今日のおかずは何が良い?﹂ ﹁ん? ﹁丁度材料があるらそれに決まりだね。﹂ ﹁やった♪﹂ ﹁ハハハ⋮⋮なんだろ⋮⋮スゴく爆発しそうな程甘い雰囲気は⋮⋮ 何か虚しい⋮⋮﹂ そんな八雲を尻目に漸く訪れた平穏な日常に和んでいる私と嫁さ んであった。ま、どうせ仮初めの平穏だろうけどね。 客人が帰るまでは⋮⋮ね。 1520 収穫が一段落したので私と嫁さんと八雲は夕食の準備の為、一足 先に帰ることにした。何せ人数が多いと作る量も半端無いのだ。 さて、所変わって只今キッチン。冷蔵庫の前で材料を確認して思 考中⋮⋮ ﹁献立は⋮肉じゃが、大根の葉の炒めもの、あ、ピーマンがあるか ら⋮⋮何?二人とも⋮⋮お残しは⋮⋮赦さねぇぞ♪ さて、ん∼∼ ⋮豚肉も有ることだし無難にピーマンの肉詰めにしようかね。ふむ、 後は⋮⋮さっき思い付いた鶏の煮物と、そうだなぁ⋮⋮早めに獲れ た茄子で焼きナス⋮⋮おや、味噌がないな⋮⋮仕方無い。焼きナス は諦めて醤油で炒めて鰹節をかけよう。うん。そうしよう。﹂ そして嫁さんと八雲の手伝いもあって難なく作ることができた。 量が尋常じゃないのだこれが。 いつの間にか畑から帰ってきた母さん達は畑仕事の汚れを落とし てリビングで寛いでいた。疲れたのか柏樹王子はもうお眠だ。 前菜ではないが収穫した枝豆を茹でたので先に出した。我が家の 枝豆はしっかり茹でて塩をまぶして完成だ。ポイントはサヤの中に ある固い部分が豆を食べるときに一緒に出てこないくらい⋮⋮茹で 1521 すぎるとあれが一緒に取れて食べにくいのだ。 ﹁⋮⋮豆をこの様にして食べるのも良いものだな。﹂ ﹁大豆は若いうちはこの様な味がしますのね。私ったら食べ過ぎて しまいますわ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮コクッ⋮⋮美味しい﹂ ﹁まぁ柏樹王子⋮⋮食べながら船を漕いでは危のう御座いますよ。﹂ 食べ過ぎを心配する姫に味が気に入ったのかぱくぱく食べ続ける 王子、末っ子柏樹王子はコクッと船を漕ぎながら食べている。テー ブルに頭をぶつけやしないかと心配顔の筆頭侍女さんは食べながら 見守っている。 ﹁お兄様にお土産としてもっていきたいわ。あの人お酒が好きだか ら。︵どうせやけ酒してると思うし⋮⋮︶﹂ ﹁あら、それならどうぞお持ちくださいな。どうせ白の王にも献上 しますから。﹂ ﹁酒の肴にうってつけだからな。俺も酒が欲しくなる⋮⋮﹂ ﹁あら、未成年が殆んどだから遠慮しているの?﹂ ﹁妊娠中の妊婦の前で自分だけ飲むのも味気ないだろ。それに、何 だか悪い気がしてな﹂ ﹁まぁ、気遣いありがとう朱李♪﹂ ﹁雰囲気が甘いわ⋮⋮砂糖吐きそう⋮⋮﹂ 兄にお土産としてもって行きたいと言うマオ嬢とイチャつき始め る両親⋮⋮マオ嬢は両親から目を反らし一人黙々と食べることに専 1522 念するようだ。 それが妥当だよ。 お土産なら枝豆はどんどん持っていっても構わない。だって、大 豆は大量に採れる。需要があるので母さんも大量に作るのだ。新し く始めた豆腐にちょっと手を出してみた納豆⋮⋮はまだ食べられな い。えっと⋮⋮そうそう、大豆って丈夫で痩せた土地でも育つから 重宝するのだ。ホントに助かってるよ。大豆様様。 さあさあ、ご飯が出来たよ。おかずを置くからテーブルに広げて る何か色んな物を片付けて! ﹁どうぞ、湯豆腐です。暖まりますよ。﹂ ﹁今日は湯豆腐?﹂ ﹁紅蓮が作る湯豆腐は具が多く入っているから食べご耐えがあって 良いな♪﹂ 土壇場で追加した湯豆腐。何故か無償に豆腐が食べたくなった。 冷奴でも良かったのだけど、母さんは身重なので体を冷やしすぎる のはダメかと思ったので湯豆腐にした。 実は⋮⋮この豆腐。白の王に特許出願しました。 不思議なことに白の国には特許制度が存在するのだ。多分父さん か母さん経由で白の王に伝わったのかも知れない。比較的新しい制 1523 度ではあるけれど、制度の浸透化は進んでいて国外にも権利を主張 できるのだ。流石は大国、白の国である。 でだ、母さんや父さんから白の王に特許出願してもらったのだ。 子供だからね私。権利は私にあるけれど、出願は大人にしか出来な いのでやってもらった。他にも諸々出願してみた。それは後で説明 しよう。手数料は白の王に献上することで手を打ってもらった。あ の人結構いい人だよね。 ﹁真っ白⋮⋮杏仁の様に甘くは無いのね⋮⋮﹂ ﹁舌触りが良いな⋮⋮うん。﹂ ﹁あっつ⋮⋮でもおいひい⋮⋮﹂ ﹁あら、柏樹。そんなに熱い⋮⋮っ、確かに熱いですわね⋮⋮皆さ ん熱くないのですか?﹂ ﹁熱いぞ﹂ ﹁熱いわよ﹂ ﹁アッツい!﹂ ﹁フゥー⋮フゥー⋮⋮っ、熱い﹂ ﹁⋮⋮⋮フガフゴ⋮⋮ハフ⋮⋮ング﹂ ﹁そんなに熱い?﹂ ﹁猫舌の俺には無理だ。﹂ 1524 ﹁どうしよボス、俺も猫舌なんすけど﹂? ガッツき気味のイガクリは熱さなど何のその。手作り豆腐は柔ら かいのでスプーンで掬いながら熱そうに皆さん食べている。冷める まで待てば良いのに⋮⋮何だかんだ言って皆さん食い意地がはって いますね⋮⋮。おかわりする?どうぞどうぞ。 まだ全部のおかずを置く前に早くも湯豆腐は無くなりそうです。 ﹁湯豆腐⋮⋮﹂ ﹁俺の⋮⋮残ってるかなぁ⋮⋮﹂ ピーマンの肉詰めを乗せたお皿を運んできた嫁さんと肉じゃがを 持ってきた八雲は無くなっていく湯豆腐を切なそうに眺めていた。 早くお皿置こうね。心配しなくても予め私達の分は別に取ってある から⋮⋮ ﹁よ、良かったッス⋮⋮懐かしの味が食べれないのかと⋮⋮グズッ ⋮⋮﹂ ﹁あいつら⋮⋮一人6丁位食ってるぞ⋮⋮﹂ 粗方湯豆腐をお腹に収めた皆さんは新たなターゲット⋮⋮ピーマ ンの肉詰めと肉じゃがと茄子の炒め物に視線を集中させた。 1525 とはいえ、お子様の柏樹王子とイガクリは難色を示していた。残 すなよ? ﹁これは⋮⋮ジャガイモの煮物?﹂ ﹁大きな唐辛子?それに、茄子ですか?まだ季節ではないはず⋮⋮﹂ ﹁大きいしまだ緑⋮⋮唐辛子じゃないのか?﹂ ﹁辛くありませんか? お恥ずかしながら私、辛いものが苦手でご ざいまして⋮⋮﹂ ﹁大丈夫ですよ。これは我が家で育てたピーマンと言う野菜なんで す。苦味は有りますが辛くはありませんよ。とても体に良いんです。 それとこちらの芋は肉じゃがです。豚肉とジャガイモを煮たもので す。﹂ ﹁ピーマンの肉詰めと肉じゃがかぁ⋮⋮今日は奮発したな紅蓮。︵ ヤベェ⋮ピーマン嫌いなんだけどなぁ⋮。いや、でも、ここで残し たら⋮⋮紅蓮にどやされる。腹をくくれ俺!︶﹂ ﹁僕は苦いなら⋮⋮﹂ ﹁た、大雅!﹂ 逃げ道は残したりしない。 ﹁子供のうちは苦いのは苦手な者が多いですが、大人になればなれ ますよ。さぁ、残さず食べてください。お腹は空いているのでしょ ?﹂ にっこり笑って逃げ道を塞ぐ。怒られるより居心地が悪いだろう ∼。 1526 皆さんはピーマンの名前が英語ではないのはご存じだろうか? 実は和名がピーマンなのです。由来はフランス語だとかなんとか⋮ ⋮詳しくは知らん。皆ググってみてね♪ と、さぁ、次々運んでこよう⋮⋮。 ほら、途端に落胆しないでさっさと仕事終わらせて私達も食べよ う? 私と嫁さん、八雲で次々運ぶ皿の数はかなりの数だ。こんな時、 母さんの眷属達に手伝ってもらえば良かった⋮⋮ダメか。私、八咫 烏の一見以来折り合いが⋮⋮うん、ギクシャクしているのだ。別に 仲が悪い訳じゃないよ⋮⋮その、ねえ⋮⋮避けられてます。皆に。 お陰で兎天も居心地が悪そうだ。そうだよね⋮⋮親がそっちがは だからね⋮⋮うん、ハハハ⋮⋮ハァ∼。 ⋮⋮⋮ん?あぁ、献立は宣言通り肉じゃが、大根の葉の炒めもの、 ピーマンの肉詰め、肉じゃが、茄子の炒め物︵醤油で炒めて鰹節を まぶした︶鶏の煮物と新たに加えた湯豆腐にホコホコの蒸したての 肉まんとゴマ餡まん。どうせ足りないので冷凍していたパン種を解 凍して焼きましたよ⋮⋮あぁ、食料がどんどん消えていく⋮⋮ハァ ⋮⋮ 1527 そして漸く私達3人は食卓につくことが出来たのだった。 自分達の分を別けといて本当に良かった⋮⋮半分以上無くなって たよ⋮⋮コイツらの胃袋は宇宙かブラックホールか? 自分の食欲を棚にあげ心の中で毒づいていると、またもイガクリ が駄々をこね始めた⋮⋮ ﹁苦いのはいらない!食べたくないものを食べるのは嫌だ!どうし て王宮でも野菜ばかり出すの!!ここに居るときもそうだ。﹂ ﹁食べてからでも遅くないよ⋮⋮ねぇ大雅⋮﹂ ﹁苦いと分かっていて食べたくないっ!!﹂ ﹁大雅⋮⋮﹂ ﹁苦いけど⋮モグモグ⋮⋮ボクも食べてるよ⋮モグモグ⋮⋮鼻を摘 まむと⋮⋮ングッ⋮⋮食べれるよ?﹂ イガクリよりも小さな柏樹王子が頬袋にものを貯めながら説得し ていた。ほれみろ⋮⋮お前よりも年下の子に言われて悔しくなのか? あ、でも、口に食べ物を入れて喋っちゃ駄目だよ柏樹王子。行儀 悪いからやめなさい。 ⋮⋮それにしても、今の言葉にプッツンしそうだよおばさん。 1528 ﹁柏樹王子、ものを口に入れている時は喋ってはいけませんよ。行 儀が悪いですから⋮⋮それと、大雅!⋮⋮いい加減になさい。嫌い なものがあるのは結構です。が、残すことは許しません。食卓では 私が掟です。我が家の敷居を跨いだのなら従いなさい。それとも⋮ ⋮食べたくないのなら⋮⋮良いですよ食べなくとも。しかし、我慢 している人にそれでは示しがつきませんから⋮⋮貴方はご飯を食べ なくて宜しい⋮⋮文句があるなら口でなさい。睨んでも私には効き ませんよ。さぁ、言ってごらんなさい。﹂ ﹁⋮⋮⋮ッ⋮⋮﹂ ﹁貴方は王族としての義務を何も果たしていない⋮⋮貴方は何も私 に命令する資格もない。どうです?何か言えますか?﹂ ﹁ごめんなさい⋮⋮私が甘やかしたから⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ﹁確かに⋮⋮けれども行動したのは大雅自身だ。自分の身分は行動 に責任があることを知るべきだ。大雅⋮⋮一つ聞きたい⋮⋮後宮で も食べたくないものは食べなかったのか?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁コウちゃん⋮⋮﹂ ﹁母さん⋮⋮これは大雅自身には必要な事だよ。知らなかったでは 済まされない。﹂ ﹁だが紅蓮⋮⋮まだ子供﹂ 1529 ﹁ならば何時になればいいのですか? すみませんが少し黙ってい てください。この豆腐の様に柔い根性を叩き直さないといけないの ですから。﹂ ﹁キレた⋮⋮︵ヤバ︶﹂ ﹁まぁ⋮⋮﹂ ﹁︵これが噂に聞く龍の逆鱗⋮⋮なのか?︶﹂ ﹁こ、怖いよ、﹂ ﹁あら、あら。﹂ ﹁ちょっ、ボスってば激おこ⋮⋮何だっけ?﹂ ﹁⋮⋮⋮プンプン⋮丸?﹂ ﹁ちょっとそこの二人も静かにしててね?﹂ ﹁﹁はい!﹂﹂ 頭に血が上りすぎないように⋮⋮は出来ないか。そんなに簡単に 操れるなら激怒など端からしない。 ﹁大雅、良く聞け。今お前の国、黄の国では貧困がかなり進んで周 りの⋮⋮赤や青や茶の国からは見捨てられている。実際、白の王の ご意向で持っているようなものだ。そんな切羽詰まっている状況で、 贅沢な生活をするのは結構。王族とは常にある程度の見栄を張らな いといけない⋮⋮他の国からバカにされるからな。だが、民が汗水 流して育てた作物を嫌いだ、食べたくないと一口も口に入れないの は、王族失格だ。王族とは民の血税で生活できるのだ。つまりは生 かしてもらっているのだ。国を良くし、民が安寧出来る国を作るか らそんな生活を送れるのだぞ⋮⋮それなのに⋮お前はどうだ?﹂ 1530 ﹁ぼ、僕は⋮﹂ ﹁親の地位に胡座をかき、自分を認めてくれないと駄々をこね、我 が儘を他人の家でも言い⋮⋮その果て、駄々をこね親に恥をかかせ ている。確かにお前は両親から甘やかされ、周りにもちやほやされ てきた。だが、もうその環境は無い。黄の国は立て直しの為に溜ま りに溜まった膿を出している。お前を甘やかす者はもういない。成 長する時が来たぞ。﹂ ﹁⋮そ、それと野菜となんの関係があるん⋮ですか?﹂ ﹁大いにある。黄の国で作られる作物の半数が青菜等の野菜だ。国 民はお前達王族に献上するだろう。自分の食い扶持を減らしてでも ⋮⋮。それをお前は食べもせず捨てるのか? 何も全て食べろとは 言わない。一口でも食べて農夫達に感謝するのが大切なんだ。そう していれば、要らぬゴタゴタは若干減るだろう。もし、お前が一口 も食べずに捨てていると知れば、農夫達は自分達の誇りを傷つけら れたと思うだろう。﹂ 何も税で集められるのは米だけではない。特に稲作が盛んではな い黄の国では違うもので補わないといけない。葉物野菜が多く採れ ると言っても農業は盛んではない。昔は白の国から買っていた程だ ⋮⋮自国の野菜には見向きもしなかった。 これではダメだと動きだいたのが今の大臣⋮⋮前に話したことが あると思うけど、前宰相の出来の良い反りがあわない息子なんです。 やっぱり有能だった。 自国の自給率をあげる事を考え内政を整えているところらしい⋮ 1531 ⋮ここに居る私にはさっぱりわかりませんけど。 ﹁つまり、お前は民の面子をたてないといけない。今は分からずと も、何時か納得出来る時が来ると思う。見栄を張れ⋮⋮王族は如何 な弱点も見せるな。他国に弱味を見せるな。どんな辛くとも人前で 泣くな。誰かのために涙を見せるな。泣きたいなら一人で泣け。白 の国は寛大だが、赤や青は何時でも黄の国の領土を狙っているかも 知れない。どんな理由でも喧嘩を吹っ掛けてくるやも知れない。﹂ ま、黄の国の荒れ果てた土地が欲しいかと言われたら⋮“面倒な 土地は要らない”だろうけど。それはイガクリは知らないから別に 良いだろう。 あぁぁぁ⋮⋮日頃使わない頭を使って何か疲れてきた⋮⋮何が言 いたいのか分からなくなってきた⋮⋮歳かな? ま、あれだわ。周りの人達の苦労を水の泡にしたくないなら、大 人しくして波風たてず、尚且つ好き嫌いせず食べろよって事なんだ よ。 分かったかい?イガクリ風情が私の料理を残すなら始めから食べ なくて良いからね。 お分かり? ﹁コクコク⋮⋮⋮⋮﹂ 1532 ﹁あ、何かお土産にあった赤ベコみたいだ⋮⋮﹂ ﹁あれって福島のお土産物ッスよね?俺修学旅行は会津若松だった んスよ。懐かしいなぁ⋮⋮﹂ ﹁二人ともマトモな会話する気ないなら黙っててね?さっきも言っ たよね私?﹂ ﹁﹁コクコク⋮⋮﹂﹂ フザケ気味の嫁さんと八雲が赤ベコと化したところで、話も長く なったから後半に続くよ⋮⋮ え?メタ発言?良いの良いの。作者の声を代言してるだけだから。 1533 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 前編︵後書き︶ おかずは適当ですので悪しからず。彩りもあまり考えてません。 1534 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 中編︵前書き︶ 紅蓮ぶちギレ編。 とはいえ、キレる所がちょいとずれてるような⋮⋮ お読み下さってありがとうございます。m︵︳︳︶m 1535 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 中編 一応断っておこう。今から私の愚痴を言います。母さん、父さん ⋮⋮ごめんね。もう私の堪忍袋の織が切れた⋮⋮。キレた織が更に 細切れの跡形もない程にキレました⋮⋮鬱憤が溜まってます。 ﹁大雅⋮⋮ここでハッキリしておこう。私は昔ッからお前のことは 嫌いだ。お前は周りは自分を見ていないと白の国で言ったな⋮⋮お 前はどうなんだ? お前は私の何を見ていた。他の兄達を見ていた か? どんな目でお前達を見ていた⋮⋮私は鬱陶しく見ていたぞ。 風当たりが強いのにお前が話し掛けてくるものだから更に悪くなる ⋮⋮。お前に何かあれば全てが私の所為になったこともある。正直 ⋮⋮邪魔でしかなかった。﹂ 皆が何も言わない。リビングは賑やかな食卓から一転⋮⋮お通夜 の様なしんみりしている。少し心苦しいが、私の心の平穏のが大事 だ。そう、私はとっても利己的な奴なのだ。 ﹁お前は私達があの場にいた理由も理解できたのか? ぞうせ誰も 説明していなかっただろう⋮⋮。私の母は父を封じられた水晶を盾 に取られ、仕方無くあの場に留まっていたに過ぎない。つまり、居 たくもないのに居なければならず、尚且つ、理不尽な仕打ちで苛立 っていたんだ。勿論、黄の王とは何の血の繋がりもない。お前の父 親の息の掛っていない者にでも聞いてみろ。お前の父親の数々の諸 1536 行が分かるぞ⋮⋮﹂ 一度大きく息を吐き心を落ち着ける。そしてもう一度息を吸い続 けた。 ﹁お前の周りはお前を見ては居なかった⋮⋮けれど、同じ程お前は 周りを見ていなかった。因果応報⋮⋮お前は周りの者に何も言う権 利はない。勿論、私にも。﹂ シナリオ何て知ったこっちゃねぇ⋮⋮。ここは現実だ。イガクリ も存在している一人の人間だ⋮⋮それ故に、苛立ちが募る⋮⋮。 ﹁私はお前を特別扱いしない。それはお前が嫌いだからだ⋮⋮。私 は金輪際お前にも、黄の国にも関わりたくない。私からも関わらな いからお前も私には関わるな。﹂ さて、本当はもう少し言い足りないがこの辺にしておこう。イガ クリとてまだ8歳のガキ⋮⋮ちと言いすぎた感が否めないが⋮⋮後 悔はない。 ﹁さぁ、早く食べてしまいましょう皆さん。私も疲れました。片付 けを早く終え休みたいので⋮⋮だからと言って残さないように⋮⋮ もしも食べれないのなら明日の朝御飯に出しますから⋮⋮ね?﹂ お残しは許しません。そのつもりで。 1537 そんな意味を込めてニッコリ笑うと皆の顔が青ざめた⋮⋮そんな に私の顔はヤバイ見た目なのか?この頃人の顔を青ざめることしか してないぞ。 冷静になって考えてみると⋮⋮私はイガクリに嫉妬していたのか もしれない。 上っ面だけの家族でも⋮⋮幸せそうな両親に憧れていた。それは 本当だろう⋮⋮ ちょっと、大人気なかったな。 私って⋮⋮家族運、全く無いからね⋮⋮ 前世でも恵まれなかったし、今も⋮⋮仲は悪くないけど、最近ま で会ったこと無かったし。 自分で家族を作っても⋮⋮死別⋮⋮つくづくついてないよね⋮⋮。 何か今日はもう何もする気が起きない。食器を食器洗い機に押し 込んで寝てしまおう。久し振りにシュウのことを思い出してしまっ た。あの子はもう新しい人生を逞しく生きている⋮⋮親の私の方が 1538 執着しているなんて⋮⋮笑える⋮⋮ハァ⋮⋮ ********* レンの様子が変だ。あいつは人を傷つける様なことは決して言わ ない。言ったとしても、それは相手を諌める為であって、故意に傷 つけるためではない。余程我が儘を言うイガクリが腹に据えかねた のか、虫の居所が悪かったかなのだろう。 食べ終わった食器を食器洗い機に押し込んで、早々に部屋に引っ 込んでしまった。多分あのまま寝てしまったのだろう。 ﹁大雅王子、あの子の母親として謝っておきますね。けれど、あの 子の気持ちも汲んでください。﹂ 麗春さんがイガクリに向かい話始めた。 1539 ﹁お恥ずかしながら、私は後宮ではお荷物⋮⋮女官も誰一人として 味方ではありませんでした。日々の食事も後宮の外⋮⋮城下に下り て自ら調達していました。その所為で、初めの内は満足に食べれま せんでした。生まれて直ぐの紅蓮を置いていく訳にもいかず、けれ ど連れていく訳にもいかず⋮⋮あの子にはひもじい思いをさせまし た。だからでしょう⋮⋮あの子は食べ物を粗末にするのは許せない のですよ⋮⋮ひもじさを知っているから⋮⋮﹂ そうか、レンの過去はそんなことがあったのか⋮⋮俺は何も知ら ないんだな。 ﹁それに、気疲れもあったのでしょうね。本当にごめんなさいね。﹂ ﹁いつも感情を制御しているのだが⋮⋮麗春の言う通り疲れていた のだろう。龍は元来気の荒い性格だ。それは我々白龍も同じ。まぁ、 それを理由にするのは烏滸がましいかも知れんがな。﹂ ふざけた自分が恥ずかしい。あの時はどうしてもシリアスな雰囲 気になれなかったのだ。シリアスは当分は要らない。 イガクリは明日レンに謝る事にしたらしい。けれど、本当に心か ら謝る気があるのだろうか⋮⋮野菜残してるぞ⋮⋮肉は食ってるの に⋮⋮ 俺はしっかりとイガクリが残した野菜を纏めて一つの皿に盛り付 けて冷蔵庫にしまったのだった。 俺も料理を手伝ったのだ。それを一口も食べないで残すのはやっ 1540 ぱり頭にくるだろ。 俺も野菜は嫌いだけど、一口は必ず食べる様にしている。ホント は食べたくないけど、レンが俺に気を使って工夫しているのは知っ てるから。だから俺は食べるのだ。 あぁ、明日レンのやつ雷落とさないと良いのだけど⋮⋮ 1541 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 中編︵後書き︶ 我慢の限界を超えました。幼少期の端折った部分で食料には困っ た時期がありました。とはいえほんの少しです。 前世でも子供の頃はそんなに食べれませんでした。なので残すと 激怒します。 ジンさんも過去に怒られました。 本人は嫌いと言っていますが、心底嫌っているわけではありませ ん。ホントに心底嫌いなら目にもとめません。 紅蓮曰く﹁歳を取ると無駄なことに時間を割くのが億劫になる﹂ らしいです。 まだまだ若いよ君⋮⋮。 1542 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 後編︵前書き︶ 嫌いなものは吐かなければ食べれると小さい頃に言われて育った 雲猫’です。 食わず嫌いはダメだと思うのですよ。本当にダメだったならそれ でいいのですけど⋮⋮一口食べてみようよ⋮⋮と、小さい子を見て いて思いました。 細かくして飲み込んでしまえば同じですよ、腹にはいれば⋮⋮。 私これで食べれるようにしました。 でも、こんなこと今したら虐待になるんでしょうかね⋮⋮ 皆さんも気を付けてください。 1543 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 後編 漸く騒がしい一日から解放された。やはり私は人付き合いは合わ ない様だ。それを実感した。 これで良くもまぁ前世で近所付き合いやママ友と交流出来たもの だ。不思議でなら無い。 シュウの為と割りきっていたのだろうか⋮?でもそれはもわから ない。 シュウ⋮⋮あの子は今はもう立派な青年になった。彼女とはうま くいっているだろうか? あの子は私と似ていて素直じゃないから なぁ⋮⋮悲しませてないと良いけど⋮。 着ていた着物を脱ぎながら考えているとあることに気づいた。 ﹁あっ! 解れてる⋮⋮﹂ 早いとこ解れを直さないとどんどん解れて酷いことに⋮⋮。 からびつ そうは思ったものの、今日はもう何もする気にならないので唐櫃 の上に置いておくことにした。明日やろう⋮⋮と。 1544 出しておいた肌着に袖を通して帯を結ぶ。その上にもう一枚白い 薄手の着物を着ていつも寝ている。よく時代劇で寝るときに着てい る白い着物と思ってくれると助かる。 本当はパジャマ代わりに半袖短パンが良いのだけど⋮⋮嫁さんに 不評なのだ⋮⋮。 何でも、﹁体を冷やすのはダメ﹂らしい。まぁ一理あるのでその 助言に従っているのどけど。 寝床はベットなのに着物を着て寝る⋮⋮何だか違和感が凄いが、 中華風の文化では寝台と呼ばれる固めのベットの様なものだったの で⋮⋮いいのかな別に。 まあ、細かい事を気にしたら色々と負けな気がする。 本当はお風呂に入ってゆっくりしたい⋮⋮けど、そこは客人の方 が優先。そこまで図太くない⋮⋮ハズ。ま、ぶっちゃけ疲れて動き たくないだけなんどけどね♪ ﹁はぁ⋮⋮何かどっと疲れた。﹂ 1545 多分、力を使った代償の様なものもあるのかもしれない。大きな 力って不便だ。8歳の子供には過ぎたる力だったわけだ。 ﹁そういえば⋮⋮クラウドのやつどこ行ったんだろ。﹂ クラウドは朝になっても何処にも居なかった。森の掃除担当、ス ライム達には食べられてないだろうし⋮⋮何処に行ったんだろう⋮ ⋮そういえば⋮⋮夜夢がまだ帰ってきていないが⋮⋮散歩にしては 長いよな? 考え事をまだしていたかったのだが、目蓋を閉じると直ぐ様睡魔 に負けてしまった私だった。 ふと、目がパッチリ覚めた。多分朝の6時あたり。何時ものよう に嫁さんに羽交い締めにされていた⋮⋮昨夜も潜り込んで来たのね ⋮⋮将来夜這いには気を付けよう。 遠慮無しに締め付けてくる嫁さんの腕を解き起き上がる。朝の日 差しがまだ差し込まない時間なので私の部屋の窓は明るいが眩しく はない。丁度藍苺が起きる時間が一番眩しい。今日はカーテンを開 1546 けっ放しにして一人で起きてもらおう。 私は朝風呂でも入ってこよう。寝汗はかいてると思うから。あん なに羽交い締めにされれば。若干が悲鳴をあげているし⋮⋮お風呂 に入りたい。 それにしても⋮⋮一体いつ潜り込んできた? 所変わってここはお風呂場⋮⋮ 湯船に浸かり一息⋮⋮あぁ⋮⋮お風呂って最高!! ﹃主、お話が、﹄ お湯で塗れた床に影が浮かぶ⋮⋮どういう原理だろあの影⋮⋮ ﹁おはようポチ⋮⋮昨日はどっか行ってたの?皆も留守みたいだっ たし⋮⋮奏と八雲以外は。﹂ ﹃はい、夜夢や兎天と共に⋮⋮大森林の方に言って参りました。﹄ ﹁何か気になることでもあった?﹂ 珍しい⋮⋮ポチが無断で大森林に降りるなんて⋮⋮そういえば夜 1547 夢も昨日は帰ってこなかったし⋮⋮緊急の事かな? ﹃不審な者をチラリと見つけたのですが⋮⋮結局見つけられず⋮⋮ 昨晩は帰ってこない夜夢を探して居ました。﹄ ﹁夜夢が帰ってかなかったもんね。で?夜夢は無事なの?﹂ 眷属の死は主には感知できる。怪我を負っても分かるのだ。何も ないのは知っているが、聞きたくなった。 ﹃怪我もなく無事です。戦闘など無かったので。不審な“猫”は透 明になったかのように消えてしまったので。﹄ ⋮⋮⋮ヤバイ。それってクラウドの事だよね?事だよね!? そうだった。みんなには教えてなかったよ。 大丈夫だよねクラウドさん。 ︽マ∼ス∼タ∼⋮⋮︾ ﹁⋮⋮⋮⋮ブクブク⋮.。o○﹂ ﹃主?﹄ 1548 何だか意味もなく顔をお湯に沈めた。 頭にクラウドの声が響く⋮⋮合成音声の私にはお馴染みの声だ。 若干オドロオドロしい⋮⋮ごめんね? でも、あれ?夢では合成音 声じゃなかったよね? それにしてもどうしたよ⋮⋮ ︽うぅぅ⋮⋮朝になってから大蛇に見つかり逃げましたよ⋮。敵意 は無くとも子猫の私なんか一呑みですし⋮。大森林に墜ちるし⋮⋮ もう踏んだり蹴ったりでした。︾ ︵大丈夫だったの?墜ちたって⋮⋮それから大蛇は私の眷属の夜夢 だよ多分。昨夜帰ってこなかったから心配したけど⋮⋮そっか、ク ラウドと朝に遭遇してたのか。︶ ︽えぇ⋮⋮大変でした。それとマスター。彼らには私の存在を言わ ないでくれますか?︾ ﹃主⋮⋮﹄ ﹁ん? ごめんごめん。その消えた猫の事だけど、危険か無いなら 気にしなくても言いと思うよ。大森林は危ないからあんまり深入り しないようにね。﹂ ﹃なんだか府に落ちませんが⋮⋮分かりました。皆に知らせてきま す。﹄ ごめん⋮⋮頃合いを見て話すから今は勘弁してねポチ。ちょっと 込み入った事情があってさ⋮⋮。 ︽話さなくても良いので?私が言ったからですが⋮⋮︾ ︵今はまだ⋮⋮ね︶ 1549 話終わるとポチは影に溶け込み姿を消した。本当にその能力便利 だね⋮⋮。もしかしたら私も⋮⋮いや、力は使えないんだった。危 ない危ない。知的好奇心で危うく大惨事になるとこだった。 ︽好奇心猫を殺す⋮⋮ですね。︾ ︵クラウドには冗談じゃないよね。さて、出てきなよ。ここには誰 もいない。︶ 出てくるように言うと蜃気楼やら光の屈折やら、そんな現象で現 れたかのように姿を現したクラウド。本人︵猫︶が言っていた様に 子猫の姿で可愛かった。 瞳は綺麗な深いマリンブルー、毛並みは短毛の灰色⋮⋮所謂ロシ アンブルーだ。しかし、尻尾は付け根から二本生えており妖怪だと 一目で分かるだろう。 スラリとした脚に長めの尻尾、鼻筋も通っておりまさに美子猫だ。 これがマンチカンなら破壊力は更に上がるのだけど⋮⋮ ︽マスターの言うマンチカンと言う種類にはなりたくありません。 あれは人間のエゴですよ。猫とは本来身体能力が高い生き物です。 小さな体で狩人と呼ばれるほど俊敏で⋮⋮。だから決してあの様に 短い手足ではダメなのです! 可愛さだけで生きてはいけません!︾ 例えで言っただけなのだけど⋮⋮なにこの地雷踏んだ感は⋮⋮。 マンチカンに何か恨みでもあるのか? 1550 ︽可愛いだけで⋮⋮可愛いだけで!!!︾ ︵ちょっと⋮⋮落ち着けクラさん。充分可愛いから。マンチカンは 可愛いけど、普通の猫は優美なんだよ、優雅なんだよ。張り合う場 所が違うのよ。だから気落ちしないの。︶ ちょっと引き気味にフォローしてみるが、未だに憤慨している。 触らぬ神になんとやら⋮⋮。 ︽しかし、ありがとうございますマスター。彼らに姿を見せるのは 憚られるので助かりました。︾ ︵それで、どうしたのさ。︶ クラウドから話を聞くと生まれが原因らしい。クラウド曰く“生 まれかたがあり得ない”らしく、普通は差別の対象になるとか。そ の為今まで隠れて生きてきたとか。因みに今は約3歳⋮⋮。 けどね、私の眷属達はそんなこと気にしないよ、きっと。八雲も 受け入れた位だし、生まれで決めつけるような彼らじゃないよ。 ︽有り体に言えば⋮⋮死んだ母猫から産まれましたから。歪な存在 なんです。一般的には不吉の対象です。︾ ︵不吉の対象ねぇ。何か実害があったりするの?︶ ︽いえ、生まれが歪なだけですね。後は属性に闇が付くくらいです かね。︾ さっきまでの憤慨していたのはなかったかのように態度を改め真 面目に話始めた。切り替えが早いね相変わらず。 1551 ︽因みに、正反対の属性は惹かれますから⋮。闇の属性の私は光属 性のマスターに惹かれますね。恋愛対象ではありませんのであしか らず。私、馬には蹴られたくないので。︾ ︵そんなこと異世界でも言っていたね。︶ 可愛らしい子猫の姿で頷くクラウド。お風呂場のタイルに溜まっ ている水を嫌なのかしきりに前足を振って水気を飛ばしている。そ んな姿が癒される。ポチも仕草が可愛いけれど猫と犬の違いはある からね⋮⋮。あぁ可愛い⋮⋮嫁さんが見たら即構い倒す⋮⋮あ、何 か嫉妬心がメラメラと。 そうなったら窮奇の姿で子猫みたいに振る舞ってやる!⋮⋮子供 だから見た目子猫だし、大きいけど。 ︽マスターに粉をかけて馬に蹴られた輩は大勢見ましたから。︾ ︵嫁さん一筋を貫いたからね。︶ 忘れもしない、異世界での受難⋮⋮。何であんなに変な輩が群が ってきたのか今でも分からない。 何処から涌いたのかと周りに松明を置こうかと錯乱した程だ。暗 い場所は明るくしようとして変な目で見られたよ⋮⋮。その時はハ マったゲームのやり過ぎたと思ったよ⋮⋮ハハハ⋮⋮ 白神か?白神の所為か? ︽マスター。そろそろ上がらないと逆上せますよ。私は透明になっ て外に居ますから。︾ 1552 ︵透明になっても気配は消えないんじゃない?見つかるかもよ?家 はチート勢揃いだし⋮︶ あどけない子猫が振り返りニタリ⋮と笑った。可愛いのに不気味 でもあった。 ︽生まれたときから私には存在を隠す能力が備わっていました。で なければ今頃ここには居ません。︾ ︵⋮⋮そう。聞いて悪かったね。︶ ︽いえ、マスターに悪気が無いのは分かっていますから。︾ そう言って透明になった。光学迷彩とかうっすら視認出来るよう なタイプじゃなく、本当に存在を隠してしまったようだ。凄いなク ラウド。妖怪は結構何でもありだね。 ﹁さて、そろそろ上がろっかなぁ⋮⋮﹂ 少々長風呂し過ぎた。早く上がって朝食の仕度をしないと⋮⋮。 それが私の仕事だし。 1553 それから暫くして⋮⋮バタバタとキッチンに入ってきた。誰がっ て⋮⋮嫁さんが。 髪も整えていないので髪を整えてくるように言うとさっさと戻っ ていった。何がしたかったの嫁さん。まさか私の姿が見ないから不 安で探しに来たとか?私離れしようね? そんなに依存しきってた ら大変だからね。 ホラホラ⋮⋮髪がハネ放題だよ。黒チョ〇ボって言われるよ。そ れにホラ⋮⋮ヨダレ⋮⋮ちゃんと顔洗って来てよね? そんなことを考えながらも手は止めない。早く用意しないと皆が 起きてきてしまうからだ。今日は客人達が帰るのだ。早めに起きて 仕度をするだろうから。 冷蔵庫を開けると、予想していた通りに昨日の残りの野菜が入っ ていた。嫁さんの字で“イガグリ食べ残し”とご丁寧にも書いてあ った。その他は残り物はなかった。みんな食べたのか⋮⋮スゴい食 いっぷりだ。作り甲斐があった筈だ。 確かに昨日は私も言い過ぎだ。だが後悔はしていない。反省は⋮ ⋮少ししているけど。 だが、だからと言って残すのを容認するかは別問題だ。食べるま で許さない。一口でも食べて本当に食べれないなら、仕方がない。 私も牛乳は吐くから⋮⋮けど、食わず嫌いはダメだ。 だから、一口食べれば許そうと思うのだ。一口食べてダメなら、 1554 仕方がない。敬意を見せたならご褒美にデザートの洋梨のゼリーを 出そう。 勿論、食べなければ⋮⋮イガグリだけ無しだ。男を見せろイガグ リ! ここが正念場だ! 因みに、ゼリーに使ったゼラチンはマミィが作りました。動物性 ではなく海草から採りました。動物性は臭いがちょっと気になった ので⋮⋮没収になったのです。 さて、嫁さんも身なりを整えて来たので、テーブルに並べましょ うか。 そのすぐあとに八雲が朝のジョギングから帰ってきた。日課のよ うだ。お疲れ様でした。 汗をかいたのでお風呂に入ってくるように言い付け、テーブルに 料理を並べ終わり只今午前7時。風呂上がりほかほかの八雲も手伝 いに加わった。 そして、7時半を過ぎた辺りで起きてきた客人達。予測したほど 早くはなかった。お疲れだったのだろう。畑仕事は大変だし。 ﹁おはようございます皆様。今日もいい天気ですね。﹂ 1555 ﹁おはようございます鈴雛姫。﹂ ﹁おはようございます。﹂ ﹁おはようございます⋮﹂ ﹁まだ眠い⋮⋮﹂ ﹁これ、柏樹、挨拶をしなさい。おはよう。少し起きるのが遅くな ってしまった。すまない。﹂ ﹁ん∼⋮おはようございます⋮⋮﹂ 朗かにリビングに入ってきた鈴雛と未だに朝がダメな柏樹王子と キチンと起きている狛斗王子。筆頭侍女さんは控えめに後から挨拶 をしてきた。何だろう⋮⋮みんな笑顔が固い⋮⋮私の所為か? 昨 日の事が後を引いてるのか? ﹁お、おはようございます。ほら、大雅も⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮ぉはようございます⋮⋮。﹂ 王子達と同じ様に若干ひきつり気味に挨拶してきた舞子親子。イ ガグリは最初から最後まで消え入りそうな声だった。そんなに私が 怖いか。 ﹁おはようございます。﹂ 始終母親の後ろで隠れて私を避けていた。 ﹁おはようみんな。﹂ ﹁おはよう。﹂ ﹁﹁﹁﹁おはようございます﹂﹂﹂﹂ 1556 ﹁おはよう父さん母さん。﹂ ﹁おはようございます﹂ ﹁おはようございます⋮﹂ やっぱり一番遅かったのは両親二人だった。母さんは無理して起 きてこなくても良いのだよ? 朝のつわりは一番辛いからね。何も 胃に入ってなくとも吐き気が止まらない事もあるからさ。 ﹁起きてきて大丈夫?﹂ ﹁えぇ、病気では無いのだから大丈夫よ。﹂ もう、コウちゃんも朱李も心配性ね。と、母さんは苦笑いをして いた。多分起きてくるまでに父さんと押し問答していたのだろう。 母さん、男ってのは妻が妊娠していると苛つく程世話を焼きたがる のだよ。個人差あれど、大体はそんな感じになるのだよ。ジンもそ うだった。鬱陶しい程に構ってきたり世話を焼きたがる。そして要 らぬ制限をかけるのだ。 やれ、動きすぎだ、働きすぎだ。やれ、薄着しすぎだ、暖かくし ろ⋮⋮食べろ何の⋮⋮何も二人分食べる訳じゃないのにね。医者の 指示に従っているんだから⋮⋮はぁ⋮⋮。 終いには、くしゃみしただけで病院に連れていこうとしたしね。 初産だから神経質になるのも分かるけど、構われ過ぎると逆にスト レスが溜まるって義母さんに怒られていたよ。 1557 ⋮⋮なんだか懐かしい。 ﹁心配なんだ。初産は立ち会えなかったし。杞憂だと分かっていて も、居ても立っても居られないんだ。龍は心配性だからな。﹂ ﹁あら、朱李⋮⋮それじゃまるで龍全てがそうと言っている様じゃ ないの。﹂ ﹁実際そうだぞ。俺の父親も母親が弟を身籠っていた時は⋮⋮今の 俺とそう変わらないぞ。﹂ あぁ∼。確かに今なら分かるかも。嫁さんに何かあると気が狂い そうになるとか⋮⋮心当たりがありすぎる。 仲間思いってか家族思いだからねぇ龍は。それが身重の伴侶なら、 心配性になるのも頷ける⋮⋮かな。 てか、父さんの実家の家族構成全然知らないなぁ⋮⋮母さんは末 っ子だってのは知ってるけど。あまり詳しくは知らない。 ﹁心配しないでとは言わないわ⋮⋮けど、し過ぎないでね?﹂ ﹁心がける⋮⋮。﹂ ﹁王子方も将来この様に過敏になりすぎないように。妊婦にとって かえって気疲れしますよ。ねえ藍苺?﹂ ﹁⋮⋮⋮うん。︵見に覚えがありすぎる⋮⋮︶﹂ ﹁八雲も将来気を付けろよ。構いすぎるとキレるよ?﹂ ﹁yes boss⋮︵子供の言う台詞じゃないと思います!︶﹂ 1558 今日の朝のメニューは母さんの事を考え野菜と果物多目にしてみ た。臭いの強いものは除いた。つりが酷いときは何も塗ってないト ーストか塩っ気の無いクラッカーがおすすめ。 考えてみれば、昨日のメニューはかなりキツかったかも⋮⋮とは 思ったものの、何ともなさそうな母さんに安心した。つわりは酷く ない方の様だ。 私は空きっ腹と寝起きが酷かった。 ﹁今日の献立は、食パンのトースト︵バター無し︶ポタージュ、サ ラダとデザートに洋梨のゼリーです。トーストにはバターやジャム を好きに塗ってください。蜂蜜もありますよ。﹂ ﹁朝はこのくらい軽めが良いですわね⋮⋮王宮ではもっと重たいで すから⋮⋮少々胃が⋮⋮﹂ ﹁そうだったのですか!? 早めに言ってください姫様。我々も姫 様に無理はさせとうございませんよ。﹂ ﹁折角作ってくださるから⋮⋮悪いと思ったの。﹂ ﹁姫様に無理をさせる方が駄目にございます。今度からはもう少し 軽めの朝食にします。﹂ ﹁そうか、女性には我が王宮の朝食は重いのか。﹂ ﹁姉上、無理しちゃ駄目だよ?﹂ ﹁ふふふ⋮⋮わかっていますよ。﹂ ﹁うん、確かに王宮で出される食事って味付けが濃いから胃に負担 1559 が掛かるよね⋮⋮。私も軽めの物にしてもらおうかな。﹂ ﹁まぁ、マオ様もですか? これは失礼しました。帰り次第改善さ せます。﹂ そう言えば、重かった⋮⋮王宮の料理。 ﹁私は朝は果汁しか飲まないから、ちょっとこれでもお腹一杯⋮⋮ でも、何だかお腹が空いてきた。恥ずかしい⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮僕の⋮野菜ばっか⋮⋮﹂ 気付いたなイガグリよ。そうだ、そのお前の前に鎮座する野菜は 昨夜お前が残した野菜達だ。食べない限りはデザートは無いぞ。 そう言えば⋮⋮トーストとかデザートとか言葉は通じているのか ? 質問とか聞かないのだけど⋮⋮ニュアンスで大体通じたのか? ま、いいけどね。 ﹁大雅、それは昨日お前が残した野菜達だ。食べなければ洋梨のゼ リーは無い。﹂ ﹁﹁︵う、後ろに鬼が見える!?︶﹂﹂ 1560 青ざめているイガグリなど無視してとびきり嫌味を込めてニッコ リと笑う。するとどうだろう⋮⋮箸を野菜に向け始めた⋮⋮が、寸 での所で箸は止まる。さっさと食えって。 それと藍苺と八雲。怯えた様に私を見ないでよ。 心なしか私の後ろを見いてるけど⋮⋮あ、妖気が少し漏れてたか な?フフフフフ⋮⋮ ﹁一口食べて吐くのなら免状しましょう。私も鬼ではありませんの で。しかし⋮⋮欺こうとは思わないでください。窮奇の血が流れる 私に嘘は通じませんよ。﹂ 窮奇は正直者には死を与え、嘘つきには褒美を与えると言われて いる。つまりは、嘘つきか正直者か分かるのだ。私に嘘は通じない。 勿論、同じ窮奇には効かないので母さんが嘘をついても分からな い。嘘か真か分からない時は、その者は窮奇の血が流れると言う証 拠にもなる⋮⋮⋮多分。私にもよく分からないのだ。 ﹁嘘つけないのはその所為か⋮⋮﹂ ﹁窮奇って⋮⋮あの?え?知らなかった。最強じゃないっスか。﹂ ﹁そうね、私達窮奇の血が流れてるから。嘘は見抜けるわね。﹂ ﹁窮奇でなくとも見抜ける血筋だぞ。白龍も真を知り、偽りを見抜 く。勘に近いが、それでも精度は上だな。窮奇ほど正確とは言えん がな。﹂ 1561 ﹁なるほど⋮︵最早チート家族⋮⋮両親がチートなら子供もチート か。ま、私が予め考えていた設定なんだけどね⋮⋮大体は⋮︶﹂ ﹁窮奇については知りませんでしたが、白龍は我が国の象徴。色々 な言い伝えの中にその様な文面がありましたわ。﹂ ﹁“その者、白き龍は真を知り、偽りを見抜く。その力で国を導い た”だな。我々もその血をごく薄くではあるが引いている。直感的 なものは確かにあるな。﹂ ﹁そうなの?﹂ ﹁確か古い書物が書庫にありましたよ柏樹王子。王族の方にも研究 なさっている方がいましたし。今度お話を聞いてみては?﹂ 筆頭侍女さんの言葉にそう言えば⋮⋮と何か思い当たる節がある 狛斗王子と鈴雛姫。ちょっと興味がありそうな柏樹王子は国に帰っ たら聞こうかな、と言っていた。 そして、未だに野菜と睨めっこ中のイガグリと見守る舞子は⋮⋮ ﹁ほら大雅。謝るならちゃんと敬意を見せないと。一口でも食べて ⋮⋮ね?﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ 私の顔をチラリと見ては野菜の乗った皿を交互に見ている。だか ら、一口食えって言ってんだよ。私の顔を見てもダメだって。 ﹁あの、紅蓮兄上⋮⋮昨日は⋮⋮﹂ 1562 ﹁謝るつもりなら結構ですよ。一口も食べないなら許す気は無いの で。﹂ ﹁⋮⋮何故⋮⋮?﹂ イガグリは私に謝ろうとしだが、私は食べないなら許さないと釘 を刺した。それで食べなくてもいいと思ったら大間違い。私はお前 の周りにいた甘やかしてくれる女官じゃ無いんだぞ。 甘ったれるな。このくらい⋮⋮我慢ってものを覚えなさい。 ﹁何で⋮僕を苛めるのですか?﹂ ﹁甘やかすだけが愛情じゃないぞ。私はお前が嫌いだが、黄の国の 民は嫌いじゃない。お前はそのまま成長して王にでもなられたら迷 惑を被るのは民だからな。それは可哀想だと思った。お前がこのま ま成長すれば絶対に我が儘で国を悪い方に導きかねない⋮⋮。お前 は我慢を覚えろ。﹂ ﹁理不尽です⋮⋮﹂ ﹁理不尽?それがどうした。お前が理不尽だと言うなら、一生懸命 働いてもお前の我が儘で振り回される民の方が理不尽だ。王子だか らと周りに甘やかしてくれてきただろうが、我が家では単なるガキ。 何でも許されると思うなよ糞ガキ。﹂ 1563 ﹁!!!!﹂ 何だか変な顔で固まったイガグリ⋮⋮。口を半開きにしているの で近くまで近づきピーマン︵肉詰めなのに肉は無い︶を箸でつまみ、 イガグリの顎をみぎてで掴んだ。あ、私は左利きだよ。箸は左に持 ってます。ホントは両利きなんだけどね。 掴んだイガグリの顎をを自分の向きに向けグイッと押して口を開 けさせた。チートの握力に勝てると思うなよ糞ガキ。さっさと開け んか馬鹿者。 そして抉じ開けた口にピーマン︵予め小さく切ってあった︶を放 り込む。そして口を素早く箸を置いた左手と右手で閉じさせる。そ して用意周到に用意していた温めのお茶でいつでも流し込める様に 右手にスタンバイ。 ﹁★▽▼←Σ!〓∈→+﹀!!!﹂ ﹁はいはーい。お茶で飲み込もうね∼。飲み込んだらあまーいお菓 子が待ってるよ∼。﹂ ﹁∼∼∼∼⋮⋮⋮ゴックン⋮⋮ハァハァ⋮⋮﹂ ピーマンを飲み込んでゲンナリしたイガグリの頭を撫でながら良 くできたと誉める。誉めるのは子供には大事だ。 ﹁食べれたな∼偉い偉い。そんなに不味かったか?﹂ 1564 ﹁⋮⋮味なんて分かりませんでした。﹂ ﹁どうしても食べれなかったら細かくして飲み込んでしまえばいい。 いきなりやったのはお前が聞いても逃げ出すと思ったからだ。 周りのドン引きな空気はムシムシ。 ﹁子供の内は誰だって好き嫌いはあるぞ。それとどう折り合いをつ けるかが重要なんだよ。味あわずに飲み込んでしまえ。慣れたら少 し噛んでみてダメなら仕方ない。私の経験から意見するなら、嫌い なものは先に食べてしまえ。好きな物で口直しすればいくらかまし だぞ。﹂ ﹁⋮⋮はい﹂ こくりと頷いた。言っても聞かない子供には時には実力行使も必 要だ。勿論、手加減しないと子供の正確に悪影響を与えかねない。 だから、ちゃんと飲み込めたら誉める、ご褒美を与える。 悪いことは叱り、良い行いをすれば誉める。そうやって善悪を教 え向上心を上げてあげるのも周りの大人の責任だと思う。親が出来 ないなら周りがしないといけない。勿論、親がするならもっと効率 がいいだろう。子供にとってどんな親でも親なのだ。 行きすぎた躾は虐待だけど、加減を間違えなければそれは子供に は必要なことだと私は思う。 悪いことをして親に叩かれて子供は痛みをしる。友達と喧嘩をし 1565 て手加減をしる。今日では子供を叩くのは良くない。直ぐに虐待だ と言われる世の中だ。しかし、大半の親はキチンと手加減をして叩 いている。世間は過敏すぎると思う。 殴りあいの喧嘩をして駄目。小さい子なら必ず喧嘩をしたり取っ 組み合いにならなかっただろうか? 子供は相手に何をすれば痛いかを身をもって知るのだ。噛みつい たら痛い、だから人にはしてはいけない。小さい子はそうやって善 悪を覚えていく。 掠り傷は子供の成長の証しなのだ。 おっと⋮⋮話がずれたね。 今回は強引な手を使ってけれど、ちゃんと加減をしたよ。はきそ うになったら吐き出せる様にボールも用意していたし。ピーマン自 体も味がしないように加工してたし。 今後、食べれたと言う記憶がイガグリの記憶に残っていれば、自 信も付くんじゃないの? そこら辺は親である舞子に任せるよ。父親?なにそれ美味しいの ︵^q^︶ アイツには無理でしょ。好き嫌い激しそうだし。 1566 ﹁大雅、好き嫌いは惨めだぞ。大人になっても好き嫌いしてると哀 れな目で見られて⋮⋮。恥ずかしいことこの上ない。人前では嫌い でも平気な顔で食べろよ。弱味を見せるな。﹂ ﹁はい、兄上!﹂ 何だか変にキラキラしい目で見られているけど、気にしない⋮。 イガグリに犬の尻尾と耳が見えそうだけど気にしない。 ﹁ああいう手もあるのね⋮⋮﹂ ﹁ん∼∼昔その手で親に無理矢理食べさせられたな⋮⋮。結局食わ ず嫌いなだけで食べても何ともなかった記憶が⋮⋮﹂ ﹁見た目に反して不味くない物は結構あるからな。﹂ ﹁僕もね、青物嫌いだけど、食べると平気だったよ♪﹂ ﹁そうですわね。私も小さい頃は人参が苦手でしたわ。﹂ ﹁皆、少なからず嫌いなものはありますから。﹂ ﹁実は私も玉葱が嫌いなのよ。火を通せば食べれないこともないけ ど、生は絶対に駄目。﹂ ﹁あら、マオ。貴女も? 私も玉葱が嫌いなのよ。でも、単品でな いなら何とか食べれるわ。自分で作り始めたら食べれるようになっ た野菜が結構あったのよ。﹂ ﹁実は俺もピーマンは苦手だな。肉詰めは食べれるが。﹂ 1567 ﹁俺も野菜は嫌いだ。けど、作って貰ったレンに悪いから残さず食 べてる。 ﹁そうだったんスか? 確かに野菜を先に食べてましたけど⋮⋮そ れって嫌いだったからなんスね。﹂ ﹁そう。藍苺は野菜嫌いだからね。それでも食べているんだよ。﹂ そしてこう付け足した。﹁女の子が我慢して食べているのに、男 のお前は食べないと駄々をこねるのか?﹂ってね。何が効果があっ たのか黙々と食べ始めたイガグリ⋮⋮。なんと単純な奴だ。将来誰 かに言いくるめられて騙されそうで心配になるよ。 ま、扱いやすくて助かるけどね♪ 1568 サヨナラ⋮出来ればもう来ないでください 後編︵後書き︶ 誉めるのも必要ですが、厳しさも親には必要だと思います。加減 がありますけどね。 さて、後三話程で終わります。後もう少しなのでお付き合いいた だければ幸いです。m︵︳︳︶m 1569 サヨナラ⋮⋮したいのになかなか帰ってくれない︵前書き︶ 新キャラと新たな問題にキレる紅蓮⋮⋮キレてばかりだね⋮⋮。 1570 サヨナラ⋮⋮したいのになかなか帰ってくれない 全てとは言えないけれど、粗方野菜を食べたイガグリ含めみんな に用意していた洋梨のゼリーを振る舞う。冷たくしているけれどこ れくらいは母さんにも良いだろう。 何もアイス2リットルカップを完食するわけじゃないんだし? いやぁ∼⋮昔妊娠してるときアイス食べたくて仕方なかったのよ ∼。食べ過ぎでお腹下したらダメだし⋮⋮控えたよ。その他にも林 檎が食べたくなったり⋮⋮桃とか洋梨とか⋮⋮全部甘いもんじゃん。 その所為か、遺伝なのかシュウは甘いもの大好きな男の子になり ましたよ。 閑話休題 さて、みんなの反応は如何に⋮⋮ ﹁まぁ、なんでしょう⋮⋮透明な⋮⋮あら、ぷるぷるしていますわ ♪﹂ ﹁洋梨が中に入っているのか?⋮⋮何で出来ているんだ?﹂ ﹁冷たくて甘くて美味し∼♪﹂ 1571 ﹁食べたことの無い食感です⋮⋮。﹂ ﹁これがゼリー⋮⋮﹂ ﹁美味しい⋮⋮︵懐かしの食感!!︶﹂ ﹁美味しい♪︵あぁ∼懐かしのベルのスイーツ♪ 出来ればいつで も食べたい!⋮⋮⋮ジンめ、いつも食べれるなんて⋮⋮羨ましいな チクショー︶﹂ ﹁夏の暑い日にはうってつけですね。作り方を知りたいです紅蓮様。 ﹂ ﹁実は紅蓮が作ったこの甘味、白の国の特許制度で特許を申請して います。今日、お帰りになるのですから陛下にお聞きになってくだ さい。﹂ ﹁他にも申請しているらしいな紅蓮?﹂ お、掴みはまあまあ⋮かな。 ﹁はい、申請しているものは王宮に運びますのでお目にかかるかも 知れませんよ? と、言いますか、お帰りになる皆様に持っていっ て貰う事になっていますから、白の王にお渡しください。﹂ 申請するのは肉の腸詰め︵ソーセージ︶、燻製の製法、果実の瓶 詰め︵ジャムのこと︶、さっきのゼリー、クッキー︵プレーンとゴ マ、後から増えるので諸々ひっくるめて︶、その他お菓子や料理の 数々⋮⋮。欲張りすぎだといえるだろう⋮⋮けれど、私に何が出来 るだろう他に⋮⋮これくらいしか思い付かなかった。まだ子供の私 にはこのくらいしか出来ないのだ。遠慮なんかしていられない。 1572 使用料は高額にはしないから勘弁してください。 王族や貴族からはぶんどるかもしれないけど。 まぁ、王子達に渡すのはゼリーとソーセージだけなんだけどね。 だって多いと持っていけないだろうから⋮⋮。母さんが一度、白の 国に顔を出す次いでに王子達を送って行くことになったらしい。王 子達が次いでって⋮⋮とも思ったが彼等は何とも思ってなかった。 心の広いこって⋮。 で、母さんに預けました。説明も母さんがしてくれるらしい。何 でも、言質取るとか足元見られたら大変とか⋮⋮頑張れ白の王。母 さんは本気だ。 実際のところは白の王には何の思惑も無いだろうけど。あの人が 結構ノリが良くて、小心者だって知ったし。いい人だよ。問題は周 りの貴族だね。 後から﹁それは我が家に伝わる⋮⋮﹂とか言われたら嫌だからそ の防止もかねてみたいだよ。 とまぁ⋮⋮特許取るとかいっているけど、日本の制度とはちょっ と違うかもね。日本の方はよく知らないけど、白の国では国に4割、 権利者に残りの6割入る仕組みだ。結構多いと思う。 1573 とはいえ、使用料が発生するのは商売をする事限定なのであまり 入っては来ないだろう。 使用料発生条件は至って簡単。売り物にするかしないかだ。家で 作って人にあげたり自分達で食べたりは使用料発生はない。レシピ を教えるだけでも使用料発生はない。だが、そこに金銭が絡めば発 生する。 例えば、レシピを載せた本。これには使用料が発生する。家で作 っても誰かに売ったら、それも使用料が発生する。 金が絡むか絡まないかで決まるのだ。不正は許されない。そこは 大国、高度な魔術を用いて使用料発生の有無を知らせるのだ。スゴ いな魔術⋮⋮テクノロジーもビックリ。 ま、例外もあるけどね。例外は、子供の商売を体験する行事とか は無しだね。後は結構あるんどけどここでは省く。 それに何年たっても無効にはならないしね。白の国は妖怪も多い から下手に設定出来ないんだって。 ﹁では国に帰ったら楽しみにしておりますわ♪﹂ 鈴雛姫は朗らかに言いまたゼリーを優雅に食べ始めた⋮⋮やっぱ り生まれや育ちの違いって出るもんだね。私には逆立ちしても無理 だわ。 1574 その他の皆さんは黙々と黙って食べていた。そんなに旨いか?そ うか、そうか。それはよかった。 食べ終えた食器を洗いながら今後の事を考えていた。 私には先見の明などない。これからの事は本当に行き当たりばっ たりだ。それで嫁さんや眷属達を養わなければいけない。もしこの 事を話せば嫁さんは自棄になって無理をし始めるだろう。現に今も 無理をし始めそうだ。 閑話休題 母さんが言うことでは午前10時辺りに迎えが来るらしい。しか も白の国は⋮⋮迎えが⋮⋮ ﹁︵元ロリコン変態が来るなんて⋮⋮︶﹂ よほど白の国は私に喧嘩を売りたいのだろうか。心を入れ換えた ︵黄童子の暗示が解けた︶とはいえ、被害者の前に連れてくるなん て⋮⋮なに考えてやがるあの野郎共⋮⋮おっと失礼。言葉が乱れた ね。 1575 白の王も奴の事はとても気にかけている様で⋮⋮昔は普通の兄だ ったんだとさ。藍苺が生まれてからおかしくなった様だ。まぁ、ご 愁傷さまなんだけど⋮⋮出来れば嫁さんに会わせたくない。だって、 私でも失礼だが会いたくないよ。 弱さを見せないだろう嫁さんは気丈に振る舞うだろうけど⋮⋮ま た悪夢に魘されやしないかと心配になるのだよ。大丈夫かなぁ⋮⋮ ⋮⋮⋮心配しても仕方ないか。折り合いをつけるのは嫁さんなん だし。私は見守ろう。それしか出来ないのだから⋮⋮。 そして白の国、黄の国、双方からの迎えが到着した。 ﹁皆様お待たせいたしました。この都度は私の妹がお世話になりま した。﹂ 小綺麗な格好のザ・平凡の青年が挨拶してきた。白の国からの迎 えの一団と一緒に来たマオ嬢の兄だってさ。 多分顔立ちは良い方なんだろうけど⋮⋮雰囲気が普通の人って感 1576 じに見せているんだよ。貴族や王族にはいないタイプだから何だか 好感が持てそうな人だ。外交官にはもしかしたらそんなところが合 っているのかも知れない。 けど、気のせいかキナ臭い⋮⋮ マオ嬢は兄が来たことに驚いているようだった。来ることは予想 していなかったのだろう。マオ嬢の兄は妹と話を終わらせこちらに 歩いてきた。 とう ﹁紅蓮様、お久しぶりでございます。白の王より報せがありまして ⋮⋮実はあなた様に燈の氏を贈る事に相成りました。﹂ ⋮⋮⋮は? ﹁詳しくはこちらの手紙に記載されております。どうぞ。﹂ そうやって手渡された手紙を恐る恐る読んでみる⋮⋮するとそこ には⋮⋮ ﹁⋮⋮⋮⋮︵怒︶﹂ 小難しい言葉で綴られた手紙には要約すると﹁今回のこと︵芋づ るに犯人確保︶で褒美として氏をやるから国に貢献しろ﹂だった。 氏とは名字のことだ。誰でも持っているわけではない。その昔、 功績を認められた一族にだけ許されている物なのだ。ちなみに、普 1577 通の民の中にもたまに氏がある者が居るが、先祖が賜ったりして受 け継いで来たからだ。貴族でも持っているのは上級位だ。爵位で言 えば伯爵辺りから。 子爵や男爵が持っていることは希だ。 ちなみに白の国の王族は白。黄の国なら黄、とその国の字を名乗 る。その他、一族特有の属性を賜る事もあるらしいです。火なら火 が入る漢字をあてる。 ﹁どう⋮⋮いう事ですか?﹂ ﹁貴方の功績を称えて⋮⋮﹂ ﹁腹の探りあいは嫌いなんですよ。何故、黒の国の外交官が白の王 の手紙を持っているのですか? それに、功績を称えてなどと⋮⋮ もうろく 私に首輪をつけたいのが見え見えです。私が本気で喜ぶとは思って いないでしょ? それとも⋮⋮そんなことも分からぬほど、耄碌尽 きましたか?﹂ 後ろでガヤガヤ煩い外野は無視だ。 ﹁⋮⋮⋮ふぅ⋮⋮やはり上手くはいきませんよね。貴方は本当に子 供らしくない。﹂ ﹁猫被りは止めてさっさと用件をどうぞ。﹂ 1578 平凡過ぎるのだこの外交官。平凡という皮を被っていたのだ。 ﹁端的かつ直球に申しますと⋮⋮黒の王は貴方のような稀有な血が 欲しいのですよ。家臣に。﹂ 猫を被るのを止めた外交官は目を細めうっすらと笑った⋮⋮黒い なコイツ。真っ黒だぞきっと。 ﹁なるほど、だから貴方のような外交官が他国で人材漁りをしてい るのですか。ご苦労様です。﹂ ﹁それが仕事ですから。﹂ さらっと言いやがったぞコイツ。やっぱり腹の中まで真っ黒だ。 関わりたくないタイプだ。 ﹁失礼ですが、私には過ぎたる褒美です。辞退します。﹂ ﹁⋮⋮それは⋮⋮我が国と白の国を侮辱なさるおつもりか?﹂ ﹁まさか、滅相もない。﹂ こうやって圧力をかけてくる辺り本気なのだろうか? 他だ単に 力のある者に首輪をつけたいだけなのか⋮⋮ちょっとわからない。 しかし⋮⋮大国の威信とやらちらつかせるなんてままだまだ経験 が浅いのではないか?この外交官。 1579 話術をもう少し学んだ方がいい。 それと、威圧したいならもっと凄みと威圧感が無いと意味無いよ。 鈍感になってる私の心は動きゃしない。 何より私のように圧力を掛けられると反発したくなる質の対処も ダメだねこれじゃ⋮⋮ただ反発を強めるだけだよ。 ﹁私が断ると何か不都合がおありですか?たかが8歳の子供には過 ぎたる褒美を辞退しただけですよ。それとも⋮⋮大国はよほど人材 不足なのですか?﹂ ﹁︵レン、言い過ぎ⋮⋮︶﹂ ﹁お前のところそんなに無能しか居ないのか?子供を脅すくらい﹂ と言ったも同然。引き攣った笑顔を張り付けた外交官は少々青ざめ ぎみ⋮⋮ちょっと本当に私って人の顔色を悪くしてばっかだよ最近。 どうするのかな?白の王子達の前でここまで言われたらどう出る のかな? 私今、とても危ない橋を渡ってると自覚していますよ? ただ、 アドレナリンがドバドバ出ているので今だけは平然としてます。き っと後から後悔するほど落ち込んだりするでしょうね。 1580 ﹁そのくらいにしてはどうですかな?外交官殿﹂ ここで思わぬ助け船が。未だに驚きで固まっていた両親︵ちょっ と頼りないよ二人とも⋮︶を差し置いて助けに入ったのは⋮⋮元ロ リコン変態⋮⋮すまん本名忘れました。王兄殿下だった。 そもそも ﹁抑我々は感謝を述べねばならない立場だろうに。黒の王たっての 希望を優先させた我が国にも落ち度はあるが⋮⋮誠に申し訳ない紅 蓮。﹂ ﹁俺からも謝罪を⋮⋮父が早まった⋮⋮すまない。﹂ ﹁すみません紅蓮。私から父に言っておきますわ。﹂ ﹁よくわからないけど⋮⋮父上がご免なさい。﹂ ﹁私からも謝罪を⋮⋮しかし、一体何を考えておいでなのでしょう ⋮⋮﹂ 王兄殿下の謝罪を皮切りに王子達が謝りだした。いや、今回は王 子達は関係ないから謝らなくていいよ⋮⋮まぁ、そうしないといけ ないのも分かるから止めないけど。 ﹁我が国と対立なさるおつもりですか?﹂ ﹁お兄様⋮⋮いい加減にしてください。ここは白の国、私たちの国 では有りませんよ。恥をかくのならもうお止めになさった方がいい です。それに、私は圧力をかけることは許しませんよ。﹂ うん、出てくると思ったよ。後ろでワタワタして慌てている舞子 親子は自分達にはあまり関係の無いことだから口出し出来ずに黙っ てるけど、マオ嬢⋮⋮ミケなら反論してくると思ったよ。 1581 いつもそうだったよね。私が小学生の頃あらぬ疑いを掛けられた ときも、誰も助けてくれなかったのに、転校してきて日が浅いのに 助けてくれた⋮⋮本当に変わってないんだね。 ﹁そもそも紅蓮殿の父上、朱李様は大公爵の跡取り⋮⋮それを駆け 陛下 落ち同然で女狐⋮⋮失礼、今の奥方と国外逃亡なさったのですよ。 元々黒の王の妹君と婚約なさっていたのです。その血筋を我が国に 返すのは義務です。﹂ 両親にそんな過去が⋮⋮もっと聞きたいけど、今それどころじゃ ないか。 ﹁まぁ∼、お兄様。その様な非現実的な事を仰るなんて⋮⋮。それ に、外交官ともあろうお兄様がその様に差別的な事を連想させるよ うな事を。未々未熟ですわよ。殿下方がいらっしゃる場で⋮⋮それ でも我が国の外交官ですの?﹂ ﹁⋮⋮⋮︵なあレン、ミケってあんなに饒舌だったか?︶﹂ ﹁︵どっちかっていわれると⋮⋮嫌味で敵を負かす方だったよ。︶﹂ ﹁︵そうだけど⋮⋮あんなにネジ曲がってたか?︶﹂ ﹁︵環境がそうさせたんだよ環境が。︶﹂ ﹁︵な、なるほど⋮⋮貴族って怖いな︶﹂ 本当に。貴族ってのは水鳥と似ている。見た目は優雅に水辺で浮 かんでいる水鳥も水面下では必死に水掻きで水を掻いているのだ。 1582 上っ面はニコニコしていても、腹の探りあいや嫌味の応酬⋮⋮怖 っ。 ﹁その口ぶりですと、まるで藍苺様は相応しくないと言っています わよ。それに、陛下のお考えも見え見えですわ。紅蓮様にご自分の 姫を嫁がせるおつもりなんでしょ?﹂ うぇ∼。マジでか∼。嫌だわ、それ。全力で拒否するわ。 私は嫁さん一筋! 異世界でもそうしてきた。絶対曲げる気はな い!! 追い詰められたらその姫殺すかも知れないくらい一筋です。 ﹁元々白龍の性格をご存知の筈です。彼等は何者にも縛られたくな いのです。ただ一人、伴侶を除いて。﹂ そうそう。白龍は一途なんだよ。一度伴侶を決めると死んでも愛 し続けます。他になんて目が向きません。例え伴侶を亡くしても再 婚はしない。一人寂しく思い出を振り返りながら生きていきます。 そんな生き物なのです。 哀れな生き物なんです白龍ってのは。 ﹁⋮⋮﹂ ﹁何でしたら、お兄様の実らぬ初恋をここで披露しても良いのです 1583 よ?﹂ ﹁ちょっ!!!﹂ ⋮⋮ミケはスゴい爆弾を投下した。へぇ⋮⋮それは是非とも聞き たいですね∼。 ﹁待て待てぇ!! 何でその話になるんだ妹よ。﹂ ﹁それは、野暮な事をしようとするお兄様がいけないのよ。夫婦で ある二人を引きはなそうとすんなんて⋮⋮お兄様の初恋の方に言い ふらしてしまいそうだわ⋮﹂ 冷や汗をかきだした哀れな片想い男⋮⋮もとい外交官は四苦八苦 して妹であるミケを説得し始めた。そりゃぁ∼初恋の相手に言いふ らす何て⋮⋮傷口に塩を刷り込んで無理矢理塞いだよりも痛そうだ。 恐ろしやミケ。 ﹁まさか両親が関わってないわよね⋮⋮あぁどうしよう朱李⋮⋮﹂ ﹁大丈夫だ。何かあれば俺が⋮⋮﹂ ﹁それなら私を止めてね? 両親でも容赦なく叩き潰すかも知れな いから⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮あ、あぁ⋮⋮︵︵︵︵︵゜゜;︶﹂ 母さん達は祖国の家族の事を違う方向で心配していた。女って怖 い⋮⋮あ、私も女⋮⋮じゃないわ今。 1584 ﹁フフフフ⋮⋮分かってもらえましたかお兄様♪﹂ ﹁分かったから言うなよ!絶対に言うなよ!!﹂ ﹁必死ですね⋮⋮﹂ ﹁レン、あまり構ってやるな。男ってのは惚れた相手にカッコ悪い ところは見せたくないもんだ。﹂ ﹁女だってそうでしょ?﹂ この話は一次的にだがおいておくことになった。しかし、藍苺の 様子を見ていて少し安心した。何ともないようだ⋮⋮。隠れもしな いし、無理に強気でもない。 その後、少々怒り気味の母さんを心配している︵白の王の安否的 な意味で︶父さんは仕事の引き継ぎも兼ねて黄の国まで舞子親子を 送りに出ていった。何度も母さんに﹁暴れないでくれ﹂と言って。 どうせお昼までには帰ってこれないだろうから、仕事頑張れの意 味を込めておにぎりを渡した⋮⋮何故か泣かれた⋮⋮何なんだ父さ んよ。 そして去り際イガグリが﹁好き嫌いを直します﹂とキラキラした 目で言ってきたので。一言 1585 ﹁私に甘えるな。親に甘えろ。﹂ と、いっておいた。だって、私に懐かれたら親として舞子の立場 が無いだろう。え?父親?知らんな。 舞子には﹁良いことをしたら誉めて、悪いことをしたらキチンと 叱ってよ。子供は親の行動を見て育つ。父親が不甲斐ないから母親 のアンタが頑張らないといけないよ。﹂と、言っておいた。 すると⋮⋮ ﹁分かったわ。見ていてね、大雅を立派な王子に育てて見せるわ! !﹂ ⋮⋮⋮もしかしてワンコ属性は母親譲りなのか?本当にどうした よ。 まあ、それはいいとして、母さん達白の国の皆様も父さん達より 遅れて家を出た。その時、筆頭侍女・啓璋さんにあるものを託した ⋮⋮。託したというよりあげたと言うのが正解だが。 あげた物は組み紐だ。私がせっせと作っていたあの組み紐ですよ。 侍女ってのは王宮の最先端に敏感だ。これを侍女を纏める啓璋さん につけてもらえば、少しでも流行り⋮⋮⋮セコいが特許を持ってい る私にお金が入ってくるとふんでいる⋮⋮本当にセコいな我ながら。 どの様に使うかは彼女に任せてある。だって、お洒落には疎いか ら⋮⋮前世でも何度ミケに呆れられたことか⋮⋮ 1586 ﹁この様な珍しい物を⋮⋮ありがとうございます。﹂ ﹁いえ、此方にも色々と考えがあるので。ですがくれぐれも、他の ものに渡さないように。解かれでもすれば此方は大損ですから︵作 り方的な意味で︶。﹂ ﹁承知しました。皆にも教えておきます。﹂ 渡したのは淡い色の紐だけ。濃いものは白の国の王宮で付けづら いだろうから。他国の色は特にね。 ほら、この世界は色の名前が国に使われてるでしょ? ﹁︵未婚の男性が装飾品を異性に贈るのは求婚の意味があるから憚 られるけど、私は嫁さんと結婚してるから、単なる友好の証しの贈 り物位にしかならないんだよね。よかった。︶﹂ この世界は本当に面倒だ。 ﹁まぁ、その紐は藍苺が髪を結っている紐ですわね。綺麗に編んで あって⋮⋮私も欲しいですわ⋮⋮あら、ご免なさい⋮⋮私ったらは したない⋮⋮﹂ 1587 流石は流行を先行くお姫様。お洒落には敏感ですか。私から贈る のは少々憚られるので啓璋さんから贈られた事にしてもらう。その 方が体裁も保てるし、身元もバレない⋮⋮よね? ﹁⋮⋮そうねぇ⋮⋮こ薄桃色の紐にします。﹂ そう言って手に取ったのは私の渾身の出来の組み紐だ。あ、全部 いい出来だよ。その中でもよかったんだよ。色は例えるなら桜色。 全ての糸が蚕さん達から貰った上質な絹糸。その色は1本1本若干 濃さが違い、綺麗なグラデーションになっている。 いろかいこ 糸を貰う蚕さん達は色蚕と呼ばれる魔獣から妖怪にランクアップ した蚕妖怪だ。彼等はとても大きく、大人の蛾になると二メートル は超すとても大きな妖怪だ。採れる糸の量も半端ではないが、色鮮 やかな色彩は見ていて綺麗だ。 糸の太さには個人差︵個体差と言わないのは敬意を示して人とし て見ているから︶があり、ロープの様に太いものから、縫い糸の様 に細いものまで何でもござれ。強度も下手な防具よりも丈夫。しか も、彼らの食べたい葉や果実、花を渡せば繭になる前でも好きな細 さの糸をくれるのだ。色蚕さまさまです。 そんな色蚕さんに白き箱庭に咲き誇る桜の花弁をあげてみた。す ると、綺麗な桜色の糸を出してくれたのだ。色にも個人差があり桜 を気に入ってくれた蚕さん達が各々違った色の糸を出したのだ。 しかし、本来この世界に存在しない桜の味はあまり好みではない 蚕さん達が多かった。きっと量産は出来ないだろう。色の似たよう な物はあるものの⋮⋮桜程綺麗な色は出なかった。 1588 ま、始めから組み紐を量産する気は更々ないけどね。作るの大変 だし、多すぎれば価値は下がるもんだ。程ほどに、ね。 ﹁それは珍しい色の糸を使い作った物です。もうその色は出せない でしょう。一点物です。﹂ まぁ、この世界では殆どが一点物なんですけどね。 女性は一点物とか、限定品に弱い。 ﹁あら!なら私ではなく貰った貴女が持つべき物を⋮⋮ご免なさい ⋮⋮違う物に⋮⋮﹂ ﹁姫様、良いのですよ。私にはその色は若すぎます。こちらの落ち 着いた若草色の方がいいのですよ。﹂ ﹁言い方を間違えましたね。差し上げた物は全て一点物です。誤解 を招きすみませんでした。﹂ 同じ色を出したくとも、その糸を出してくれた蚕さん達はもう大 人の蛾になってしまったのだ⋮⋮。 だから、間違いなく一点物です。 1589 事情を話して解決した。良かった。自分のあげたもので問題にな るのは心苦しいからね。 ﹁⋮⋮⋮女性はその様な物が好きなのか⋮⋮﹂ ちょっと離れた場所からぼそりと零れた一言は高性能な私の耳に はしっかり届いていた。声の主は外交官だった。そうか、片想いの 君に贈りたいの? でも、あげません。味方じゃないしぃ⋮⋮味方に引き込めたら⋮ ⋮とは思うけど、そこは腐っても外交官。そんな手には⋮⋮ ﹁考えを改めるのなら、彼も譲ってくれるかも知れませんよお兄様 ?﹂ ﹁ムムムゥ⋮⋮﹂ おや?ミケは味方に引き込む気なのか?でも、無理だと思うけど なぁ⋮⋮ ﹁しかし、それは父上に特許申請して審査を通った物だな⋮⋮。確 か、量産は出来ないのでかなりの値段が付く筈だぞ。国外に出回る のは当分先になるのだったな⋮⋮。﹂ ﹁お目が高いですね狛斗王子。あれは糸から手間をかけて作られる のですよ。それに、紅蓮以外に編めないのです︵私も編めるけど⋮ ⋮売り物にするほど上手くないのよねぇ︶。この組み紐ともう一つ は一足先に申請していたのです。﹂ 1590 説明をありがとう母さん。それよりも出かける準備は出来たの? 母さんの説明通り、一足先に組み紐とミサンガ等の工芸品?は申 請を先にしていたのだ。あまり作れないけど、それなりに売れそう です。作り方も申請受理されてます。 ﹁あら、それなら今しか機会がかありませんねぇ。それに、作る数 も限られている⋮⋮そうそう我が国、黒の国には入ってきませんね ぇ⋮⋮お兄様?﹂ ミケの一押しで折れた外交官は結局お買い上げしていった⋮⋮そ れでいいのか外交官。 少し黒の国の将来が心配になった今日この頃。 1591 サヨナラ⋮⋮したいのになかなか帰ってくれない︵後書き︶ キレてばかりの紅蓮ですが、結構小心者だと思っている節があり ます。 実態は図太いおばさんです。ホントに図太いです。 さて、こんな長々と続いた小説も後二話で終わります。それまで お付き合いいただければ幸いです。 1592 ようやく訪れた日常︵前書き︶ 投稿予約に失敗⋮⋮まさかの失敗⋮⋮どうもすみませんでした! m︵︳︳︶m 1593 ようやく訪れた日常 騒がしい奴等がようやく帰った⋮⋮。結局外交官は何がしたかっ たのか⋮⋮女性への贈り物を貰っていっただけのような気がしてな らない。 白の王には手紙で早速抗議した。白の国に出発する前に母さんが ⋮⋮ ﹁大丈夫よ紅蓮。白の王にはアレが何れだけ無謀かをしっかり言い 聞かせてくるから。﹂ ﹁私も微力だけど説得してみるわ。狙い目は王妃様ね。﹂ ﹁お母さまが知っていたならきっと許しはしませんでしたわ。﹂ ﹁無謀とわかっていることを許さないだろうしな。﹂ ﹁うにゅ?︵・x・︶?﹂ ﹁⋮⋮陛下も何か思うことがあったのでしょうか⋮⋮この様な事は 陛下らしくありませんし⋮⋮﹂ 子供にそこまで言われる陛下って、ヘタレなのだろうか? 顔は 強面なのに⋮⋮ てか、柏樹王子理解できてないよ。 皆さんの口ぶりから白の王は無謀な賭けはしないタイプのようだ。 手紙では分からないこともあるし、気が付かなかった。 ちなみに、啓璋さんは王妃に任命された云々⋮⋮なので王妃に忠 誠を誓ってるとか⋮⋮ 1594 ﹁⋮⋮誰かに唆されたと?﹂ ﹁そんな玉かよ⋮⋮あんまり知らないけど、母上⋮⋮母は﹁陛下は 無謀じゃない﹂と言ってたぞ。まぁ、会ったこともないからホント かどうかなんて知らなかったけど⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮あの、氏があるってそんなにすごいことなんっスか? よく 分からないんですけど⋮⋮﹂ 八雲は﹁俺って世間に疎くて⋮⋮﹂と申し訳なさそうに続けた。 まぁ、田舎辺りまで浸透ていない事もあるからね、氏の有無の理由。 先にも説明した通り、氏は王から賜るものだ。貴族でも上位のも の、何か大きな事を成し遂げた者や功績を称え贈られる者だ。最近 ではあまり居ないらしい。 没落した貴族がそのまま名乗り続けたりもするので平民にも結構 いる。氏を賜ると貴族になる事もあるからね⋮⋮子爵になるものも いたらしい。 しかし、氏を賜らず貴族になるものも多くいた事から下級貴族に は氏を持つものが圧倒的に少ない。実はその昔、金で爵位を売りさ ばいていた輩が居た所為で爆発的に増えたと言う裏話があるのだが。 国はその事を隠したがる。国と言うか貴族達が、だけどね。 ﹁つまり、ボスは貴族になれるってこと? 何か言っちゃぁ悪いっ スけど、迷惑な⋮⋮あ、スンマセン⋮⋮﹂ 1595 ﹁いや、父上も見誤ったのだ。従者殿が気にすることではない。本 当の事だ。﹂ ﹁ドモ⋮⋮︵あ、この王子心広い⋮⋮顔は歳よりも怖そうに見える けど︶﹂ ﹁後で抗議します。母や父ならまだしも、差し置いて私が賜るのは おかしい。︵面倒事も御免だし︶なんのために藍苺を王位から遠ざ けのか⋮⋮︵何か考えがあるなら、包み隠さず言えば⋮⋮多少協力 したのに。︶﹂ 隠し事をされて交渉されるのは嫌いだ。例えそれが交渉の常套手 段だとしても。相手に敬意が見られないと疑わしくて仕方ない。そ うです私は小者なんですから。 と、まぁ、去り際に﹁父上にお灸を据えておきます﹂と笑いなが ら言った鈴雛姫は王妃様そっくりであった。白の王、ご武運を。 そしてようやく、我が家に日常が戻ってきた。 ﹁氏なんて要らないっての。偉い人にはそれが分からんのです。全 く傍迷惑なぁ∼。﹂ ﹁何考えてんだろ白の王は。文通してる割りにはレンの性格把握し てないんじゃないか?﹂ ﹁手紙のやり取りでは腹の探りあいだからね。﹂ 所詮は上っ面だけの付き合いだったと言うことなのかもしれない。 1596 トウ まぁ、王様ってのは二枚舌なのは当たり前なのだろう。そうじゃな きゃ大国は治められない。 ともしび ﹁にしても⋮⋮賜った氏が﹁燈﹂何て字を貰うなんてね⋮⋮﹂ ﹁光を灯す燈から来てるんだろ?しかも、火が入ってる。火と光を 体現してるお前にピッタリ?﹂ まあ、白の王も私が窮寄だとは言い触らしたくないのだろう。そ れに多く知られているのが母さんと父さんのポピュラーな炎と光だ ったのかも。 実際の主属性は光、雷、炎、樹、風、地だ。しかも副属性は闇以 外⋮⋮とんだチートっぷりだ。 ﹁どの属性でも当てはまっちゃいそうだけどね。﹂ ﹁何考えてんだか、白の王。﹂ ﹁二人とも⋮⋮そんな不敬罪で捕まるようなこと言ってもいいんス か?仮にも王でしょ?﹂ 八雲の物言いも十分失礼だけどね。 今何をしているかも言うと、おからでクッキーを作っている。今 日焼く訳じゃないよ。明日の分の仕込み。 今日のおやつはアップルパイ。パイ生地はもう冷蔵庫で眠ってる から後は林檎のコンポートを乗せて包んで焼くだけ。今作っている おからクッキーは極限までおからが入っているのでしっかり凍らせ 1597 て固めないとボロボロと切るときに崩れるのだ。だから明日の分を 今作っているのだ。 ふるい 嫁さんこと、藍苺は横で小麦粉を篩にかけている。この作業は最 低でも三回はしないとサクッとしたクッキーにならない。多分今二 回目だろう。 八雲は常温にしてあったバターを練っている。八雲の能力﹁何で も想像︵無機物限定︶で作れる錬金術?﹂を駆使して泡立て器をつ くってもらったのではかどる。それに男の方が力があるので固めの バターを泡立てるのもお手のものだろう。 ﹁キツい⋮⋮バターをクリーム状にするのってこんなに疲れるのか ⋮⋮腕が痛い⋮⋮﹂ ノД`︶﹂ ﹁滑らかになったら砂糖を三回に分けて混ぜる。ほら、まだまだ混 ぜ続ける!﹂ ﹁鬼ィィィ!!︵ バターを白くなるまで混ぜ続けるのは骨だろう。お菓子作りは女 ノД`︶⋮﹂ 子力じゃねぇ、腕力が付くんだよ。 ﹁うぅぅぅ⋮⋮︵ ﹁全部入れて馴染んできたら次は溶き卵を二回に分けて入れる。こ れで少しは混ぜやすくなったでしょ?﹂ ﹁そうですけど⋮⋮﹂ 粉を篩ながら嫁さんが横から一言。 1598 ﹁量が増えるから対して変わらないけどな。﹂ ﹁⋮⋮ですよね∼。﹂ ﹁いつの間に仲良くなってたの? 嫉妬してもいい?﹂ ﹁はあ?﹂ ﹁ボスの奥さんだから接しているのであって、前世含め彼女居ない 歴=年齢+αな俺がそんな大胆なことできるわけ無いでしょ⋮⋮あ、 自分で言ってが涙ぁ⋮⋮︵T︳T︶﹂ ﹁⋮⋮⋮や、何かごめん。﹂ ﹁リア充でごめん。﹂ ﹁慰める気無いですよね!?﹂ うん。無いね。 ﹁ハッキリ頷かれたっ!!Σ︵゜Д゜︶﹂ だって、楽しそうにしてるのが悪いよ。人の嫁さんとさぁ⋮⋮︵ ・ε・︶ ﹁そんなことよりさっさとバターをかき混ぜろよ。こっちの準備は 出来てんだから。﹂ 粉をふるい終わり、おから︵何らかの術かなにかで加工されたお からパウダー。勿論メイドイン・マミィ︶も用意し終わった嫁さん が痺れを切らしていた。よっぽどおやつを早く食べたいらしい。 1599 私の進んでいない手元のパイ皿を見ながらジト目で見つめてきた。 本当にお菓子こ事となると大人気ない。はいはい、睨まなくてもア ップルパイは直ぐに焼きますよ。次いでに洋梨もゼリーの残りがあ るからパイにておこう。 因みに、今日のお昼はミートパイです。米より小麦の方が我が家 の自給率が高いからね。当分は晩御飯以外で米は出さない。客人達 に食いつくされたからね⋮⋮︵ー。ー#︶ そう告げると嫁さんが﹁アイツら、もう来んな﹂と愚痴っていた のは仕方ないと思う。日本人はやっぱり米だよね。 ﹁皆さん大食いだったっスからねぇ⋮⋮﹂ ﹁家の食卓には大打撃だったよ。最悪白き箱庭の果物で食い繋ぐっ て手も考えてるんだからね。何かあったら商品は法外な値段で売り 付けてやる。﹂ けっ! ひもじい思いをしたことがない奴ってひもじい連中の気 持ちは分からないからね。食い物はあって当然、何て思ってたんだ ろうさ。諸国漫遊︵と言う名の放浪︶だって、自分で稼いでた訳じ ゃないそうだし、本当の貧しさは分かってないんだよ。王族よりか はマシな両親だって⋮⋮分かっているかは怪しい。母さんも後宮で 冷遇去れていたときは感じたかもしれないけど、いざって時は眷属 経由で白の王や家族を頼れた。 ﹁戻ってこいレン。豆腐は王族のお気に入りになってるから、足元 見て値段をつり上げて⋮⋮﹂ ﹁なるほど⋮⋮次いでにソーセージも料金を⋮⋮⋮﹂ 1600 ﹁黒っ!!腹の中まで真っ黒っス!!︵゜ロ゜;ノ︶ノ﹂ 八雲よ、これも生きるためだ。米だけは未だに自給できないんだ ぞ。米が食いたいだろう? ﹁食べたいっス。米なんてかれこれもう15年も食ってなかったス。 ﹂ とかなんとか、如何にして米を確保するかを、あーでもないこー りも早く作業は終わった。 でもないと話し合いながら私はパイを作り続けた。その甲斐あって 途中手を止めていた嫁さんと八雲 私よりも遅いなんて⋮⋮ちゃんと働いてよ二人とも。二人が話し 込んでた間にパイを作り終えてオーブンに火をいれ終わったのよ? 因みに、このオーブン。石窯です。遠赤外線効果?なのか知らな いが、電気で動くオーブンよりも美味しく焼ける。温度調節が難し いと思うだろう。 でも、そこはファンタジーな世界︵てか、マミィクオリティ︶、 高温の熱を放出する宝珠と調節する術式で作りました環境にもエコ なオーブンです。半永久的に使えるってのも魅力だよね。 火事防止機能もついているので︵主に母さん用︶安全性もバッチ リですよ。 1601 前世でこんなの欲しかったなぁ⋮⋮ ﹁それにしても、大雅王子に対してちょっと厳しくなかったッスか ? 子供の頃ってあのくらい嫌いなものも多いッスよ?﹂ ﹁甘いな八雲。レンはな、自分にもあのくらい厳しいぞ。何せ、嫌 いなレバーを若干涙目になりながらも子供の手前食べるほどの⋮⋮﹂ ﹁なっ、涙目にって⋮⋮⋮﹂ ﹁水で飲み込んで涙目になってたぞ。﹂ あ∼⋮⋮シュウが好き嫌いしないように我慢して食べたときのこ とね⋮⋮レバーはダメなんだよ。けど、吐く程じゃ無いから⋮⋮え え、我慢しましたよ。 それにしても、よく覚えてたね。私は早く忘れたい事だったから すっかり忘れてたよ。 ﹁もう良いかなぁ⋮⋮﹂ ﹁あぶねっ!﹂ ﹁ちょ、何してるんすか!火傷しますって!!﹂ 私が石窯オーブンに手を入れると驚いて腕を掴まれ引き戻された。 八雲は兎も角、私の特性を知ってるる藍苺が驚くのは⋮⋮よもや忘 れていたな嫁さん。 ﹁熱とか炎は耐性があるから効かないし、回復するから⋮⋮そんな に心配しなくとて⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮そうだった⋮⋮け?﹂ 1602 ﹁なん⋮⋮だと⋮⋮﹂ 忘れてたな嫁さんよ。 ﹁俺悪い悪い。忘れてた。自分が火がダメなもんだから⋮⋮ついな。 ﹂ ﹁俺も復属性で火は持ってッスけど、そんなチート性能無いッスよ。 流石チート。﹂ 自分のことは棚にあげている八雲であった。嫁さんはどうも火が 嫌いみたい。何かトラウマでもあるらしい⋮⋮ そんな話をしつつ、作業を続ける私であった。 ********* ﹃やれやれ、ようやっと落ち着いたか。﹄ 1603 ﹃あの者たちの行く末は見ものだな。﹄ ﹃白神よ、懐かしいだろう。あの光景は。﹄ ﹃もう手に入らぬものを見詰めているとは⋮⋮難儀な奴だ。﹄ ﹃なんとでもいえ。﹄ 色とりどりの神々が集うこの場所に白神は中央に置かれた水鏡を 覗き込みながら答えた。正直この自分よりも年上な神々が少々にが てなのだ。話し掛けられてもあまり相手にしたくはない。 ﹃あの小僧の位置にお前が居たのだな⋮⋮﹄ ﹃本当に白神は両親贔屓だな。﹄ ﹃所で⋮⋮あの“あっぷるぱい”と言う食べ物⋮⋮我らにも分けろ﹄ ﹃断る。貴様らにやるほど量は多くない。欲しいのならそなた達の 崇拝者にでも催促すればいい。﹄ 数多いる奴らの崇拝者からふんだくれば良いだろうに⋮⋮。 ﹃⋮⋮⋮お前、俺たちには容赦ないよな。﹄ ﹃労る謂れも無いだろう﹄ ﹃﹃﹃﹃⋮⋮⋮﹄﹄﹄﹄ 1604 ﹃本当に容赦ないよなぁ﹄ 煩い者共を無視して楽しそうにおやつを作る三人を見詰めた。あ の中に、昔自分も居たのだな。もう、とうの昔の事だが⋮⋮神であ る私にも人にも遠い遠い昔の事だ。 “私には昨日のことの様に今も忘れられない” どうか、彼らに⋮⋮平穏な日常を⋮⋮叶わぬことでも⋮⋮どうか。 叶いもしないことを願い、私は未だに見つめ続けた。 この後、彼らに待ち受ける苦難も乗り越えて欲しいと願いながら ⋮⋮ 1605 後日談∼エピローグ∼︵前書き︶ 毎日午前0時に投稿すると言ったな⋮⋮あれは嘘だ。現に昨日⋮ ⋮いや、何でもない。 とうとう完結ですよ皆さま。 1606 後日談∼エピローグ∼ 家に残っている家族は嫁さんと私しか居ないので︵眷属除く︶昼 飯は白き箱庭で食べることになった。ついでなので白神達も誘って のお昼だ。 ﹃食べる量が減るのにいいのか?﹄ ﹁神様の癖に細かいこと気にするのな。別に大丈夫だよ。米が無く なるなら問題だけど、小麦は大量にあるから。︵むしろ余ってる︶﹂ ﹃すまんのぉ紅蓮。﹄ すまなそうにしている灰老神の後ろに隠れた黄童子が居心地悪そ うにいた。 黄童子は私に絞められた後、謝ったので許した。だから今回も一 緒に呼んだのだ。 ﹃きっ、来てやったんだからな⋮⋮!﹄ お前はどこぞのツンデレか。なんだこいつ⋮⋮ジョブチェンジで もしたのツンデレに? ﹃反省して少しは丸くなったのじゃよ⋮⋮少し﹄ 1607 ﹁ホントかよ⋮⋮﹂ ﹃まぁ、疑うのも分かるが。﹄ ﹁⋮⋮⋮すいませんボス、話についていけません。﹂ おっと、八雲は白神達を知らないのだった⋮⋮ん? 八雲を転生 させたのは黄童子だよね⋮⋮顔を知らないのか? ﹃俺の顔に見覚え無いの?﹄ ﹁誰っスか?﹂ ﹃﹃⋮⋮⋮﹄﹄ ﹃お前を転生させた神じゃないのか?﹄ ﹁八雲、覚えてないとか?﹂ ﹁もしかしてさ、忘れた?﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮そう言えば⋮⋮こんな子供だったような⋮⋮すいません、 生きてくのに夢中で忘れました。﹂ や、八雲。お前はどんどけ辛い人生を⋮⋮ ﹁ほ、ほら、このミートパイ旨いぞ!レンが作る料理は旨いからた 1608 らふく食えよ!﹂ ﹁アップルパイもいっぱい食べな。﹂ ﹃そうだな。神は食べずとも死なん。遠慮せず食べろ﹄ ﹃大変じゃったろうに。﹄ ﹃悪かった⋮⋮すいません。﹄ 各々食べ物を八雲に勧め灰老神は涙し、黄童子は謝った。明日は 雨が降るだろう。主に黄童子の所為で。 ﹁そんなに気を使われても⋮⋮﹂ 変な方向に進みつつあるお昼ご飯は、けれど和やかな時間だった。 私達はこれから来るだろう不吉な足音を知らずにいた。 この話はまだ序章に過ぎなったのだ。 ﹁だからそんなに食べれませんって!!︵。>д<︶﹂ 1609 ﹁大丈夫だ!俺でもペロッと食える!︵ ̄ー ̄︶﹂ ﹁得意気に言われても食べれませんって!︵T▽T︶﹂ ﹁がんばれー⋮⋮けっ!嫁さんと楽しそうに⋮︵・ε・` ﹁ボス!︵゜ロ゜;ノ︶ノ﹂ ﹃楽しそうだのぉ⋮﹄ ﹃あれは⋮⋮楽しそうなの?﹄ ﹃平和だな。﹄ ﹃主の作った燻製がこれだぞ夜夢。﹄ ﹃美味しいですよ夜夢さん。﹄ ﹃美味しいでしゅ!﹄ ﹃そんなに旨いのか⋮⋮!!!﹄ ︶﹂ ﹃楽しそうですね⋮⋮。私はこうして眺めているだけで幸せですよ マスター⋮⋮ふぁぁ∼⋮⋮ここは猫じゃらしも有りますし⋮⋮良い 場所ですね∼。眠くなってきました∼⋮⋮zzzZ﹄ 1610 皆が和んでいる。こんな瞬間が何よりもたいせつだ。 出来ればこの平穏がいつまでも続けばいいと思った。 無理なんだろうけどさ。 ︱︱序章・完︱︱ 1611 後日談∼エピローグ∼︵後書き︶ 完結ですが、物語り的には続きますが⋮⋮ 時間が進んでます。ネタバレすると8年経ってます。 今後ともお読みいただければ幸いですm︵︳︳︶m 1612 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n6481bn/ フラグ?知らないなぁ… 2014年8月6日20時55分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 1613
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