ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. 応用音響 研究代表者 山﨑 芳男 (基幹理工学部 表現工学科 教授) 1. 研究課題 本プロジェクトの目標は、人間にとって最も基本的なコミュニケーション手段である音を「あり のまま」収録・再生する技術の開拓である。具体的には音コミュニケーション空間を再構築する際 に必要な空間的かつ時間的な特性を把握する手法の開拓を課題としている。この際、非専門家を含 む多数の人間に音場の特性を正確かつ直感的に理解できるよう、必要な物理量との関係が明快な結 果の視覚化を主眼としている。 2. 主な研究成果 音コミュニケーションを観測・解析する手法として、また円滑な音コミュニケーションを支える 基幹手段として、従来のマイクロホンとは異なる原理や、理論的には知られていながらこれまでそ の忠実な具現化が難しかった方法を用いて、音情報の獲得を実現した。具体的には、シュリーレン 法を用いた音波面の観測、インピーダンスの理論式に忠実に従った形状をもつ折り曲げ音響ホーン の試作、などである。 2.1 シュリーレン法を用いた音波面の観察 シュリーレン法とは密度勾配による光の屈折の変化を可視化する光学観測手法である。密度が高 い方、つまり屈折率が大きい方に曲がる光の性質を使っており、歴史的には流体や弾道実験におけ る衝撃波,飛翔体における翼周りの衝撃の可視化手法として使用され、現在では水中で強力超音波 を可視化する手法として広く用いられている。本プロジェクトでは、まず 10kHz・15kHz・40kHz の正弦波を図-1に示す実験装置を用いて観測した。 図-1 シミュレーション法実験概要図 1/4 ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. 図-2 シュリーレン法実験結果例 各々の周波数の音波面を撮影した画像と、信号処理(各画像データから撮影時間分の加算平均値 を引くことで直流成分を取り除き、発生周波数に適応したバンドパスフィルタを通過)を行った画 像を図-2に示す。シュリーレン法を用いて音波面を観測できることを確認した。 同様にパラメトリックスピーカの可聴音再生波面や、二個のパラメトリックスピーカを用いて交 差する超音波による合成波面においても可視化できることを確認した。本手法を用いることで、パ ラメトリックスピーカ開発時等において、音場を見ながら系の設置・調整が可能とすることが期待 できる。 2.2 折り曲げ音響ホーンの試作 図-3 試作した折り曲げホーン外観(左)と断面形状 2/4 ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. 音響ホーンは音の放射・受取を効率化するデバイスとして古くから用いられてきた。その特性は 形状に大きく左右され、理想的な形状は従来から提案されてきたが、使用音帯域に適するには相応 の大きさ(長さ)が必要であり、また理想的な形状に合わせて実際に制作するのが困難であること などから、近年の音響機器として十分に活用されてはいない。現代では変換効率が低い機器を消費 電力の大きい増幅器で駆動するシステムが一般的に用いられているが、本プロジェクトでは省エネ ルギー、および電気を使用できない状況下での情報伝達の重要性の観点から、災害・緊急時の補聴 手段としての使用等を想定したホーンを試作した。従来、材料や加工の制約から難しかった理論通 りの断面形状を持つ折り曲げホーンを3次元プリンタで試作した(図-3参照)。図-4に受音周 波数特性の測定比較例(ホーン開口端-スピーカ距離 1m)を示す。人の音声を含む周波数帯域に 相当する 500~7000Hz において、長さを短縮した折り曲げホーンがストレートホーンに近い効果、 すなわちホーンが無い状態より 10~20dB 大きい音圧が受音できていることが確認できる。 図-4 試作ホーンの受音周波数特性測定例 3.共同研究者 白井 克彦(放送大学学園 理事長/早稲田大学 名誉教授) 小林 哲則(理工学術院 教授) 誉田 雅彰(スポーツ科学学術院 教授) 菊池 英明(人間科学学術院 教授) 及川 靖広(理工学術院 教授) 米山 正秀(東洋大学 名誉教授) 小野 隆彦(IT 研究機構コミュニケーション科学研究所 客員教授) 池田 雄介(東京電機大学 CREST 研究員) 武岡 成人(静岡理工科大学 講師) 4.研究業績 4.1 学術論文 1) ”Sound reproduction using the photoacoustic effect,” Kaoru Yamabe, Yasuhiro Oikawa, Yoshio Yamasaki, Acoust.Sci.&Tech., Vol.35, No.1, pp.59-61, Jan., 2014. 2)“レーザドプラ振動計を用いた音場測定への境界要素法の逆解析の導入,”矢田部浩平, 及川靖広, 電子情報通信学会論文誌, 基礎・境界ソサイエティ, Vol.J97-A, No.2, pp.104-111, 2014 年 2 月. 3/4 ASTE Vol.A21 (2013) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. 4.2 国際会議 4.2.1. ICA2013(21st International Congress on Acoustics) / POMA(Proceedings of Meetings on Acoustics)Vol.19,Montreal,June, 2013. 1) "Communication aid utilizing bone-conducted sound via teeth by means of mouthpiece form actuator," Mikio Muramatsu, Junko Kurosawa, Yasuhiro Oikawa, Yoshio Yamasaki, 050090. 2) "Extract voice information using high-speed camera," Mariko Akutsu, Yasuhiro Oikawa, Yoshio Yamasaki, 055019. 3) "Wind Noise Reduction using Empirical Mode Decomposition," Kohei Yatabe, Yasuhiro Oikawa, 050090. 4) "Sound Generation using Photoacoustic Effect," Kaoru Yamabe, Yasuhiro Oikawa, Yoshio Yamasaki, 030114. 5) "Design of resonant frequencies of the piezoelectric actuator with integrated components," Jun Kuroda, Yasuharu Onishi, Motoyoshi Komoda, Yasuhiro Oikawa, Yoshio Yamasaki, 030066. 4.2.2. Inter-Noise 2013(The 42nd International Congress and Exposition on Noise Control Engineering), Innsbruck, Sep., 2013. ・ "Numerical sound field analysis considering atmospheric conditions," Satoshi Ogawa, Yasuhiro Oikawa. 4.3 受賞・表彰 ・ 電子情報通信学会 平成 25 年度ヒューマンコミュニケーション賞受賞 「高齢者に適した番組音調整装置の開発 ~ 家庭内で聞きとりやすい受信機を目指して ~」, 小森智康(NHK-ES), 今井篤, 清山信正, 田高礼子(NHK), 都木徹(NHK-ES), 及川靖広, WIT2013-19. ・ 経済産業省 Innovative Technologies2013 採択 「音を中心としたリアルタイム同期システム」, 阿部耕平, 及川靖広, 山﨑芳男. 4.4 学会および社会的活動 ・ 2013 年 4 月 19~21 日(岩手) ,4 月 29 日~5 月 3 日(東京)に、震災復興活動(コネクショ ンズ;大槌町民と英国のアーティストによる不用品から創作されたアート展)へ技術支援を行った。 ・ 2013 年 10 月 15 日に早稲田大学西早稲田キャンパスを会場として、日本音響学会平成 25 年度 第 3 回アコースティックイメージング研究会を開催した。講演件数は 5 件であった。 5.研究活動の課題と展望 本プロジェクトでは前プロジェクト(音空間研究/音響コミュニケーション)において開発した 音および音場の観測記録手法の高度化と、それを駆使した音コミュニケーションの詳細観測・記 録・伝送を目指している。具体的には、音情報を細大洩らさず記録・伝送・再生可能とする機器を、 研究代表者らが提案する高速 1bit 信号処理技術を元に開発し、実環境下における諸特性を把握する。 また音声コミュニケーションの機能性・自然性の観点から、観測した音場の試聴を含む実験による 定量的評価手法を課題としている。 4/4
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