Episode 2

陰性戦隊ハロゲンジャー
2 ∼適応する5人∼
sage
3
目次
第 1 章 問い詰める 5 人
1.1
1.2
1.3
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
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第 2 章 遭遇する 5 人
5
5
6
7
2.1
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9
9
2.2
2.3
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10
11
第 3 章 はめる五人
3.1
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13
13
3.2
3.3
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13
15
第 4 章 控える五人
4.1
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17
17
4.2
4.3
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17
18
5
第 1 章 問い詰める 5 人
1.1
昼休み、誰が言い出すともなく部室に 5 人が集まっていた。いつものことである。古尾蛍子が、
不思議なものを見たかのように切り出した。
「今日の校内新聞・・・」
「「ああ、あれ!」
」
黒留詩織と村崎よう子がハモった。皆ツンデレーエフのことはチェック済みのようだ。外でフッ
トバッグをしていた村崎秀と金井明日太もびっくりして中を覗き込んだ。
「なんだ? 一体」
と、のこのこ部室に入った 2 人。彼らの目にははしゃぐ3人組がいた。彼女らは、誰が持ってき
たのか校内新聞を置いた机を取り囲み、お互いの驚きを確認しあっていたようであった。
入ってきた2人に気づいた古尾は、予想外に騒ぐ詩織とよう子を見て逆に冷静になったのか、淡々
と説明した。
「新任の教師が来る予定が決まったら校内新聞にお知らせが載るだろう、今回はそれにツンデレー
エフがいたんだ。
」
「ああ、それなら見たぞ。
」
と金井。彼はふざけているようで、ちゃんと見るべきところは見ている。
「なんか保健医だっけ? あんなんの手当てはごめんこうむりたいものだ。詳しい挨拶は忘れたけ
ど、なになに・・・?」
皆は該当記事を読み始めた。一度読んだものでも、気の置けない人たちとともに見ると面白さもひ
としおである。感想を言い合う以上に何か伝わっているものがあるのかもしれない。
記事には、当たり障りのない挨拶と、嘘八百のプロフィールが書いてあった。
「大学出たばっかで23歳とかw」
「海外で飛び級して10代とかいっそ100越えてたほうが信憑性があるわ」
普通、現実1 に「体は幼女、頭はババア」など存在しないことは失念しているようである。オタ
クの洗脳の為せる業。
ツンデレーエフに関する妄想を交えた話から、助手との関係にまで話はおよび、彼らの中の彼女は
ひどいことになっていった。
人の注目を惹く物事の影に隠れているところは、得てして見逃されてしまいがちである。それ
が、ただでさえ小さなものならなおさらである。よほどの暇人か、価値観がおかしいものでないと
1 こういう創作世界での「現実」をどう定義するのか、難しいところ。我々の普通と同じで超常世界は隠されているの
か、それともその世界の一般に受け入れられているのか。
第1章
6
問い詰める 5 人
記憶にのこらない。視界にすら入らない。
その校内新聞の中ほどのページ、隅のほうには、ノイズの海に埋もれるように、こう書いてあった。
「韓日海底トンネルの論文募集のお知らせ」
1.2
「おお、前顧問の言っておったとおりだ。皆揃っているな」
幼い声がした。が、その調子は大人を通り過ぎて年寄りじみていた。まるで一部で大人気なロリ
ババアのポイントを突いたような声の持ち主で、彼らの部屋にやってくるような人は1人しかいな
い。
「つ、ツンデレーエフ!」
5人は驚きに満ちた顔を、一斉に部屋の入り口のほうへ向けた。その視線の焦点には、紺のスー
ツ姿のツンデレーエフが不敵な笑みを浮かべ、仁王立ちしていた。小さな体で力いっぱい胸を張っ
ている。背景に集中線か、
「ドンッ」みたいな描き文字が見えたものもいただろう。
まず、金井がツッコミ、もとい口を開いた。
「・・・こども OL?」
1人が切り出せば次々に便乗する。それが集団の原則。
「その体型では脚を出しても色気はないわよ」
「そのサイズのスーツ、よく見つけたな」
やんややんや。
正直予想できたかもしれない一斉攻撃に、ツンデレーエフは少々たじろいだが直ぐに向き直り、無
表情のまま、無言で 5 人の許につかつかと歩み寄った。そして、金井の前に立つと、柔道の試合前
のようににらみ合い、おもむろに・・・
金井に関節技をかけた。
「これはオーダーメイドだ。そして基礎技術はあの白衣と同じだ。だから・・・」
ぎりぎりと力をこめ始めた。金井の顔の苦痛の色が濃くなっていく。
「痛い痛い! ギブギブ! ていうか俺だけじゃねえだろ!」
「性能は全く同じだ!」
皆押し黙った。金井だけが騒いでいる。やはり群集には力が有効なのか。
4 人が静かになったのをみて、ツンデレーエフは金井を解放した。金井は固められていた左肩をお
さえてうずくまっている。
化研のメンバーを見渡して、ツンデレーエフはゆっくりと口を開いた。
「これは、その、新任の挨拶でな、一応ちゃんとした格好でないと・・・。明日からは白衣だ。そ
れはともかく、化研に伝えるコトがいくつかある。まずは・・・」
みなが固唾をのんでツンデレーエフに注目した。一瞬の静寂。ツンデレーエフはゆっくりと、だ
がはっきりとした口調で宣言した。
「私がこの化研の顧問となった。
」
「なんだってーーー!」
1.3.
7
5 人の声がハモった。
1.3
「・・・どういうことでしょうか、ツンデレーエフ・・・先生?」
しばらくの沈黙のあと、黒崎が問うた。
「どうもこうも言ったとおりだ。あとツンデレーエフ先生でいいぞ。これまでは加藤先生が顧問
だったと思うが、テニス部の方に集中したいとのことなので、私が顧問になることになった。
」
確かにこれまでは化研の顧問は化学担当の加藤という先生だった。あだ名がハゲロンというあ
の先生2 である。だが加藤先生はテニス部の顧問も担当していて、化研のほうにはなかなか現れな
かった。しかしそのおかげで化研では好き勝手できたということもある。
「これからは私がしっかり面倒をみてやろう。
」
当たり前といえばそうだが、みなは微妙に渋い顔をしている。
「いえ、保健の仕事は放課後の部活もあって忙しいでしょうし・・・」
きりいほうふ
「大丈夫だ。あの助手も保健の手伝いとしてきている。ちなみにあの助手の名前は桐井豊生 だ。
」
村崎よう子の抵抗も意味をなさないようだ。ツンデレーエフはもはや化研を完全に我が物として
いる。
ツンデレーエフは部室内を見渡した。この学校では、授業で使われるのは新築した化学実験室
で、校舎ができたときからある古い方を化学研究部、略して化研の部室として使わせてもらってい
る。この学校は第二次世界大戦直後に創立した。そのため、薬品庫やドラフト、電圧電流源など大
きな実験器具は年季の入ったものであり、薬品は新旧入り混じっている。高校生の化学知識では使
いこなせ切れていないようだ。そして古びた机や壁、天井や床からは、長年の薬品のにおいが立ち
込めているようだ。そして、ところどころ間違った、むしろ危険な使い方をしていた痕跡も見受け
られる。ツンデレーエフは腐っても化学者、間違いや危険は正したくなる。
彼女は机の上に二つの試薬瓶を置いた。Diethyl ether と pentane であった。
「まず、お前たちは化研なのだから多少の化学知識を身につけろ。まず、pentane がよく減ってい
るようだが、横にマッチがあるから大体の使い方は予測3 できる。やるなとは言わんが気をつけろ。
あと、diethyl ether は酸化されると危険4 だ。せめてもっとしっかり蓋を閉めろ。
」
ツンデレーエフはこれまで 5 人が見たことがないような真剣な面持ちで指摘した。好きなこと
をやれるといっても高校生である。時には知らず知らず地雷を踏んでいた。だが、彼らはやはり経
験不足である。硫酸でズボンに穴が開いたくらいで済んでいる幸運のため、実感がなかった5 。
「なんかすごい怖い顔してる・・・」
位にしか考えていなかった。そんな彼らの心の中を、ツンデレーエフはうすうす気付いていたが、
今はそんなことを教育する場合ではないようだ。なにか言いかけたのをあきらめて、部屋の一角に
2 episode
1 参照
3 腕にかけてマッチの火で引火させてペンタンファイヤーあるいはファイヤーパンチ
4 過酸化物ができて、最悪爆発するらしい
5 高校時代に戻って自分にいろいろ教えてやりたい
第1章
8
問い詰める 5 人
設置されているドラフトに歩み寄った。
「ガラス張りのタイルのドラフトなど久しぶりに見たな。それでももっと掃除したほうがいい
ぞ。・・・ところで金井、さっきいろいろ言ってくれたな。あんなんの診察は受けたくないって
言っていたが、あんなんとは誰のことかな・・・?」
「聞いていたのかツン先生!?」
「ツン先生とはなんだ!」
彼の地獄は始まったばかりだ。
9
第 2 章 遭遇する 5 人
2.1
「そういえば、先生、言いたいことがいくつかあるって・・・」
「そうだ、今からもうひとつ言おう。」
金井にマウントポジションをとっていたツンデレーエフは、黒崎に訊かれて立ち上がった。古尾と
黒留、村崎姉弟は金井とツンデレーエフを遠巻きに囲んでいた。
「ありがとう、黒崎・・・顔がア○パ○マ○にならずに済んだ・・・」
すでに顔の数箇所が赤くなっていた。
軽く息の上がったツンデレーエフはそんな赤井を一瞥すると、部室の前方にある黒板の前に立っ
た。そして咳払いをひとつして、語り始めた。
「ではもうひとつ。ここには前 11 次元にきた奴だけだな。ではその話。」
皆の顔が引きつった。
「これから皆に手伝ってもらうにあたって、メンバーをまとめた呼び名があれば便利だと思ったわ
けだ。『化研』でもいいが少々ダサいかと思ってな、こんなのを考えてきた。
」
ツンデレーエフは CaCO3 と CaSO4 を練り固めた棒1 を手に取ると、黒板にでかでかと書き始めた。
陰性戦隊ハロゲンジャー
「あるいは略してハロゲンジャー、でもいいぞ。メンバーそれぞれに対応するハロゲン元素を割り
当てたのでな。反対意見はないか? なければこれでいこうと思うのだが。」
活性化エネルギーを越えることができず未反応の 5 人を置いてけぼりにして、ツンデレーエフのテ
ンションは単調増加関数のように上がっていた。
ややあって、ようやく反応できた金井は横の村崎よう子にこっそり聞いた。
「・・・どうする? もう太鼓でも持っておくか?」
「私はちょっと恥ずかしいから別のにしたいんだけど・・・」
「別に公表するわけではないんだから何でもいいんじゃ・・・とりあえず明日くらいまでに皆で相
談するって言ってみるのはどうでしょう、金井さん。」
聞きつけた村崎秀もこっそり混ざった。反応熱は他の分子にエネルギーを与え得る。
「いや、俺よりもよう子、言ってくれよ。こういうのは誰が言うのかも重要やって。ほら、村崎よ
う子部長。」
これ以上茶々を入れて技を掛けられては金井としてはたまったものではない。なんとか屁理屈を
言ってさじを投げつけた。
1 チョーク
10
第 2 章 遭遇する 5 人
「仕方がないわね・・・。先生、今度までに皆と相談して決めてこようと思います。
」
「ふむ、そうか・・・分かった。
」
意外と物分りがよかった。だが、これでよく考えて決めないと、これから呼び出されるとき「○
○、集合!」と使われるわけである。赤の他人に聞かれるのではないとはいえ、気に入らないまま
連呼されると気分が悪い。
ツンデレーエフは続けた。
「あ、そうそう、前の顧問の加藤先生が化研に挨拶するってことで・・・そろそろ来るらしい。ちゃ
んと話を聞けよ。
」
そうたしなめるように言いながら黒板の字を消した直後、ハゲロンこと加藤先生が入ってきた。加
藤先生は迷わず黒板のまえ、ツンデレーエフの隣に立つといつもの自信満々の顔で見渡し説教を始
めた。
「えーこの化学研究部の顧問が私からツンデレーエフ先生に代わることはもう聞いたかと思う。こ
れまでは私があまり面倒をみてやれずすまないと思っている。だが」
以下、長くなるので省略する。
2.2
加藤先生は数十分に及ぶ、しかも某テニスプレイヤーに引けをとらぬテンションの演説を終える
と、受験を控える学年でもあるので、激励をかけて部屋を出て行った。ハゲロンが去った後の静寂
をひとしきり愉しんだ後、ツンデレーエフははじめた。
「その、みんな大変だったんだな。それはそうと、今から言うのが今回皆に伝えたいことの最後、
かつ最重要項目であるのでよく聞くように。
」
あらたまった彼女の口調に、さすがの金井ですら気配を察知したのか、部屋の空気は一転張りつめ
た。外の喧騒がどこか遠くに感じるほどに。
「えー、コホン。そこの校内新聞の 3 ページ、左下の記事を見てほしい。」
言われて該当箇所を見た。そこにはあの、韓日トンネル論文募集の記事があった。
「みなはどう思う。
」
五者五様の反応があった。気持ち悪がっているもの。わけが分からずポカンとしているもの。他
の人の顔を伺うもの。何か考え、時々頷くもの。見落としていた自分を悔やむもの。その多様性を
知ってか知らずか、ツンデレーエフは話を続けた。
「気付いたか。それは統○教会の信者獲得のための隠れ蓑だが、実は今回のそれには、かの非局在
帝国が絡んでいる。
」
「な、なんだってー!」
金井は調子を取り戻しつつあるようだ。化研の高温熱浴となるまでもう少し。
古尾が訊いた。
「ということはこの学校に非局在帝国の関係者が居るってコトか?」
「そうだ。
」とツンデレーエフが頷いた。
2.3.
11
「まあこの学校の生徒なら引っかかるお人よしは居ないだろうが、早めに手を打っておくに越した
ことはない。できればひっ捕らえて情報を引き出したいものだ。さて・・・ 」
ツンデレーエフはまた戦わされるのかと怯えている子羊たちを見た。今回、舞台は話の流れから
すると学校である。どこか遠くの街でも恥ずかしいと言うのに、自分たちが在籍する校内でハロゲ
ンジャーとして跋扈するなど正気の沙汰ではない。そんな心配を読み取ってか、鬼顧問は言葉を続
けた。
「どうせ白衣で動き回るだけじゃないか、皆化研の必要なものでも探し回っているくらいにしか思
わないさ。ほら、生物研究部もよく白衣で外に行ってないか? 心配するな、いざというときはま
た異空間に連れて行ってやる。
」
異空間というのは、ナノプシャン2 と戦ったときに、外界に迷惑をかけないようにと作り出した
空間のことである。ただ、学生たちにとってはそれでも納得しがたいものが残る。
「あと化研の部長は誰だ?」
「あ、はい。私です」
村崎よう子が手を挙げた。
「お前か、じゃあハロゲンジャーの隊長も頼む。なあに、化研と活動内容変わらないから問題ない。
では皆に目標を教える。見つけたら隊長か私に言え。
」
目を白黒させるよう子。かわいそうな目で見る友人たち。いや、目立ちたがり屋の金井は若干うら
やましそうでもある。そんな彼らをよそに、ツンデレーエフは黒板に向かった。
2.3
作戦を授けられ、化研の部室を出た化研の連中とツンデレーエフは今、二手に分かれて、校内の
掲示板の近くで張っている。校内には全校生徒向けの掲示板が二つある。そのどちらか、あるいは
両方に非局在の手のものが日韓トンネル論文の紙を貼りに来るだろうと見込み、両方を影から見
張っている。1 つは、古尾、黒留、そして村崎よう子。もう片方は、村崎秀、金井、そしてツンデ
レーエフ。公平なるくじ引きで選ばれた厳正なる結果である。傍から見ると白衣を着た連中がこそ
こそと物陰から掲示板を伺っているわけである。怪しいことこの上ない。実際、部員募集の紙を貼
りに来たどこかのサークルの学生が逃げ出したりもした。
よう子はさすがに心配になってきた。
「ツンデレーエフ先生の作戦だけど・・・本当にうまくいくのかしら。
」
彼女の手には、黒い携帯のようなものが握られている。ツンデレーエフと連絡を取るための無線通
信機だ。量子もつれを形成する二つの素粒子をとばして、その超ヒモの振動に情報を載せていると
いうのが、ツンデレーエフによってなされた説明である。高校生の彼らに、そのツッコミができよ
うはずもない。それに原理はどうであれ、実際に使えられれば問題ない。
栗色の髪をいじりながら、黒留も頷いた。
「本当、来るともかぎらないのにね。
」
「そうだな、しかし金井と秀、ツンデレーエフはどうしているだろうか。子羊をオオカミの群れに
放したようなものだ。
」
2 episode
1 参照
第 2 章 遭遇する 5 人
12
古尾も言うようになった。それぞれが誰を指しているかは、自明であろう3 。
「あの猫科大小と天然と一緒にならなくてよかったな、秀」
「はは・・・」
金井も口が悪い。ツンデレーエフは苦笑いしながら、物陰から掲示板をうかがっていた。こちらは
こちらで、白衣2人組みとスーツの見た目少女の3人組という、いかにも怪しい組み合わせである。
「金井、静かにしろ。いま私たちは目立ったらだめなんだ。
」
「なんで俺だけ・・・あ、ツン先生、あれ!」
「だからツン先生と呼ぶなと言うとろうが・・・ああ、そのようだな」
金井が指差す先には一枚の紙を掲示板に貼ろうとする男の姿があった。ツンデレーエフの周りの空
気がやおら緊張した。だが、秀と金井にはなぜ分かったのかが見当付かなかったようだ。
「よく分かりましたね、先生」
「私の視力は両目とも2. 0ある。やつの貼ろうとしている紙に書いてあることもお見通しよ。さ
あ金井、計画通り絡みにいけ! よう子たちが来るまでだぞ。」
「イー!!」
金井は右手をぴんと挙げた後男に近づき、ツンデレーエフは通信機を手に取りよう子に連絡した。
3 念のため、秀は子羊。
13
第 3 章 はめる五人
3.1
金井はフレンドリーに作った笑顔で話しかけた。
「こんにちは。ちょっとそのチラシが気になって。
」
「あ、これですか! あなたも韓日友好1 に興味がありますか!? それでですね・・・」
金井の任務はよう子組が来るまでの時間稼ぎである。しかしこういう手合いは少し興味を示せばと
にかく喋る。
「韓日トンネルを開通すれば人の流れが生まれ、経済が流れ、文化も交流しお互いがより発展(ry」
金井はもはや作った笑顔で相槌を打つだけである。
賞金についての話になってきた頃、駆けつけてくる複数の足音が聞こえた。そして、直ぐ近くで止
まった直後、ツンデレーエフ、古尾、村崎姉弟が飛び出した!
「そこまでよ! 私たちの学校でわけの分からない活動はしないで下さる!?」
「そのちっこいのはお尋ね者のツンデレーエフ! とすると、お前たちは京都のナノ怪人を倒した
やつら! ならば姿を隠す必要はないな。見せてやろうわが真実の姿を!」
ゴゴゴゴゴゴ
「ちっこいのとはなんだ!」
ツンデレーエフの怒りの音だった。ふくれて文句を言う彼女をよそに、男は踏ん張り全身に力を込
めた。
ゴゴゴゴゴゴ
男の体が膨れ上がっていく! 服が謎の伸縮性を発揮し、学生服を着たナノプシャン怪人となった!
「いかん、先頭になってしまう! フィールド展開!」
ツンデレーエフは無線機をなにやら操作すると、空間に突如巨大フラスコが現れ、そして怪人と 5
人が吸い込まれた。
3.2
よう子は思い出し、気付いた。
「ツンデレーエフ先生、この空間は前回怪人が出したものですか? だとしたらどんな仕組みです
か?」
仕組みを聞かれると答えたくなるのが科学者の常。
1 彼らは何かと日韓ではなく韓日にしたがるようです
第3章
14
はめる五人
「なにを隠そう。前回ナノプシャン星人がこの空間を作っただろう。このときひそかにデータを
取っておいたのだ。そのデータを元に我々の設備でもこの空間を展開できるようにしたのだ。詳細
はいずれ教えてやる。
」
「写輪眼!?」
「このやろう、俺を無視しやがって。これでもくらえ! 共鳴光線!」
例によりジグザグと折れ曲がる光線2 が打ち出された。ツンデレーエフは叫んだ。
「いいな、言ったとおり、ハロゲンビームだ!」
「アイアイサー!」
先頭に立っている金井は右手の指を2本立てて額にあて、その後男に勢いよく向けた。すると螺旋
状のビームに巻かれたまっすぐなビーム・・・ではなくて、普通に相手と同じようなジグザグ光線
が放たれた。そして男の放ったビームに当たり、対消滅した。
「く、共鳴効果をハロゲンの電子吸引効果で打ち消すとは・・・! こうなりゃ食らえ、収束共鳴
光線! 全力全開だ!」
先ほどの共鳴光線とは比較にならないほどの太さと輝きを持つ光線が放たれた。ツンデレーエフが
解説、もとい叫ぶ。
「まずいぞ、あの強度は打ち消すことができるのか・・・攻撃するな、白衣で防御だ!」
「ひらりマント∼」
金井は某炎の四天王3 のように白衣を体に巻きつけ、共鳴光線の直撃を受け止めた。高周波と爆発
音が混ざったようなよく分からない効果音とともに、立ち上がる噴煙。
「やったか!?」
怪人はやってないフラグを立てた。事実やがて煙が晴れてくると、しっかり立ち上がっている金井
の影が浮かび上がってきた。だが・・・
「なんだと・・・アセチレンバーナーの炎ですら熱くないあの白衣に穴を開けた・・・!?」
ツンデレーエフは驚愕した。金井の白衣には、半径 30 cm にわたって、溶かしたような小さな穴
がいくつも開いていたのだ。
「ふふふ、布に届きさえすればポリエチレンの水素を取り除き共鳴鎖を作り、分子間力を弱めて液
体気体としてしまうのだ4 。その様子だともう一発は耐えられまい。くらえ・・・」
そこまでいったところで怪人は急に全身が弛緩し、そして顔からくず折れた。ばたんと倒れたその
後ろには、注射器を構えた黒留が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「おお黒留、うまく入れたか。
」
「ええ、いわれたとおりこの無線機のこのボタンで。
」
おそらく怪人がかかわるであろうから、そうなったときはフラスコ型特殊空間を展開し、注意を金
井らにひきつけた隙に後ろから入ってきた黒留詩織が無力化する。これが今回ツンデレーエフが考
案した作戦である。
怪人はぴくぴく痙攣している。意識はあるようだ。筋弛緩剤は素人が使うと違法です。
「しっかり無力化したようだな。では別室にて取り調べる・・・! 誰か付いてくるか?」
「ちょっと興味あるわね。
」
2 相変わらず空気中で折れ曲がって瞬時に届かないあたり光ではなく何かのビームなのかもしれない。
3 ル○○○テ
4 ポリアセチレンはどうした
3.3.
15
「ここで、金井明日太、別室行き・・・!」
よう子と金井が付いていくこととなった。ツンデレーエフがなにやらもにょもにょつぶやくと、空
間に円形の歪みが現れた。歪みの向こうには、痛そうな器具が並んだ空間が見える。怪人が一段と
大きく痙攣したと思ったら、動かなくなった。しかし発汗が激しくなったようだ。
金井とツンデレーエフに怪人が引きづられ、その後をよう子が付いて、歪みの中へと入っていっ
た。そして歪みが消えると、そこには古尾と黒留、秀が残された。
「・・・金井とツンデレーエフ先生、仲良さそうだな。
」
「まあボケとツッコミがうまくかみ合ってますからね。
」
3.3
「で、先生たちは取調べでしょうか。
」
「ええ、でもなんかちらっと万力とか見えたし、問題がなければいいけど・・・」
「いま気にしても仕方なかろう。それより今のうちに次の文化祭の計画でも話しておかないか。
」
古尾は現実的なのか楽観的なのか。彼女から始まり、あの実験はどうか、あの反応はどうだろうと
いう話が始まった。だが比較的まじめな彼らでも脱線はする。とりあえず手近なハゲロンの話に
移っていった。
10 分も経っただろうか。適当にだべっている 3 人のやや離れたところに、空間の歪みが現れた。
そして 3 人と男が現れた。
「あ、ツンデレーエフ先生、終わりました? ていうか怪人は?」
「ああ、それなりに有用な情報を得られたぞ。怪人なら人間に戻った。さすが怪人、薬の解毒も早
い。」
てかてかつやつやしているツンデレーエフとは対照的に、金井とよう子はげっそりとしている。何
か恐ろしいものでも見たに違いない。
「将来彼の嫁となるものはもっとおぞましいものを見るであろう・・・」
と金井も憔悴している。この様子から、古尾は察したようだ。
「て、体に聞くのって法律的には問題じゃあ・・・」
「いや、別に何もしていないぞ。
」
ツンデレーエフは気にせず飄々と答えた。お前は何を言っているんだという顔で、古尾は聞きなお
した。
「え、あの部屋はいろいろ見えたし、金井もやばいこと言ってるし・・・」
「韓日トンネル論文を募集している団体の真実を教えたらあっさり話したぞ。どうやらだまされて
いたようだ。ついでに組織体系も聞き出せた。金井が言ってるのは薬のせいで変身途中で止まった
ものだろう。アレは少々グロかった」
ここで照れる元怪人。
「いやいや、ちらっと見えた拷問器具は怖かったですけどね、ツンデレーエフ様に真実を教えてい
ただいたお礼にすべてを話しました。
」
彼は振幅が大きすぎる人間のようだ。一方でよう子と金井はいやいやと顔を合わせる。
第3章
16
はめる五人
「あのカルトとオカルトの会談、某雑誌5 を余裕で凌駕する電波ゆんゆんだったな・・・」
「ええ・・・」
進歩しすぎた科学は魔法と区別が付かない。そうなるとかたや元カルト宗教の信者、対してオカル
ト総本山。少々かじったくらいの知識で太刀打ちできるわけがない。この説明には、3 人も深く頷
いた。
「おまえら、何訳分からんこと言っているんだ。部室に帰るぞ。
」
知らぬは本人ばかりなり。
5 ム○、学研パブリッシングと知ってびっくらこいた
17
第 4 章 控える五人
4.1
ところ変わって、ここは謎の基地の中。誰の趣味なのだろうか、広く天井の高い薄暗い部屋に
は床は 6 角形タイルが敷かれ、壁はおろか天井までも六角形模様で埋め尽くされている。深い紺
色を、暗い若草色が縁取り、よく分からない未来感を出していた。そして、その六角形にそって、
謎の煙が取り巻いて広がっているように見えた。そして部屋の中ほどには、6 人ほどが座れる机が
あった。例により六角形である。そこにまさに悪役といった、グレーを基調としたとげとげしいコ
スチュームをまとった男が二人。
「やはり平の戦闘員ではだめなようだな・・・」
「ああ」
「ツンデレーエフ、やつはもっとも厄介だ。必ずつぶしておかなければならん。だが各国での活動
を中断するわけにもいくまい。
」
「ではあいつを使うのはどうだろうか。
」
「ああ、怪人キレートか。電荷が余り非局在化しないからわが帝国では出世できないが、そのト
ラップする能力は侮れない。
」
背後に腕を 6 本持つぽっちゃりした怪人がぬっと現れた。
「それでは行け、怪人キレートよ!」
「はっ」
一礼すると、怪人はすっと消えた。
4.2
ここは化研の部室。金井が疲れきった顔をしていた以外、他の面々は余り消耗していなかったよ
うである。
「あれ、あの怪人はどうしたんですか?」
「ああ、あいつなら助手と一緒に別次元空間におる。で、その怪人から得られた情報だが、奴は小
手調べとして送られてきたようだ。
」
「でも能力としては、前に戦ったナノプシャン星人と同じなんですよね? なんか弱くなった気が
します」
「いや俺はあぶなかったぞ?」
実際に薬を打ち込んだ黒留は、実感として今回はよく効いたように感じたのだろう。これに対し、
ツンデレーエフは答えた。
18
第4章
控える五人
「まあ前回のデータを元に強化したのは、白衣だけでなく武器もだからな。金井が危なかったの
は、1 対 1 だったからだ。まだタイマンはつらいようだな。」
黒留は注射器内の液体をしげしげと眺め、金井は白衣の穴をいぶかしげににらんでいた。
「だが今回は小手調べだ。だからもっと強い怪人が現れるかもしれない。さらに強化しておこう。
金井の白衣も直しておこう。今回はよくやった。では、今回のハロゲンジャーの活動は終わりだ。
引き続き化研の活動に移る。まず薬品の管理について、化学的知識に基づき指導しておく。
」
説教が始まった。彼らは、ハゲロンに負けず劣らずツンデレーエフもこういうときは説教キャラ
なんだと学んだ。
4.3
後日、韓日トンネル論文募集の張り紙の近くには、学校からの注意の張り紙がなされていた。こ
れは、某教会系列がカモの連絡先を集めるために賞金金額で釣っているだけで、賞金を得ることな
どなく、また将来にわたってしつこい勧誘など実害が出る恐れがあるので応募しないように、とい
うことが 12 ポイントの字で A4 の紙 5 枚にわたってびっしりと。
一週間後、両方の張り紙が撤去された。
19
あとがき
こんにちは。sage です。
ハロゲンジャーエピソード2、愉しんでいただけたでしょうか。こんかいは話のつなぎという感じ
でしょうか。さて、今回は 2 話目です。1 話目のようなリメイクとはいかず、1 から書かなければな
りませんでした。でもまあ 3 ヶ月前くらいからはじめていたのでまあなんとかなりました。冬コミ
前に書いたきりですので、設定を忘れてミスりそうになったことが幾度も。相変わらずどこをター
ゲットにしたのかよく分からないネタ構成ですが、せめてニヤニヤしていただければ幸いです。
あれですね、Uus が見つかって名前が付いたら1人増えるのでしょうか。でも先は長そうなの
で、当分は5人で戦隊物らしく。僕としては戦隊物よりはプリ○○ア的な展開にしたいな・・・と。
ちなみに今回新しい怪人も出ずこんなゆるい話になったわけは、一度設定をまとめておきたかった
からと、実際自分の在籍する大学で 4.3 節のような張り紙が出されていたのが、写真に撮る前に撤
去されて悔しかったからです。2 週間くらいで撤去されてしまったようです。もうちょっと出して
てもいいのに K 大学
お察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、ハロゲンにはモデルの先生が居ます。高校時代の
恩師で、決して嫌いなわけではなく、むしろ好きというか尊敬していました。まあ修造的な意味で
鬱陶しいときもありましたが・・・彼がいなければ僕は化学の道には進まなかったでしょう。
あと付録として適当な化学の話か舞台の学校の話を付けたかったけれど、今後出し続けていった
とき、ネタが続く自信がなかったので。いっそ単発ネタで、1 巻だけ出すのもアリかもしれません
が、それに気付いたときには今回は遅すぎました。まあ同時に出している JACS やら JCP やらも
見ていただければと。
突然ですが、twitter を始めました。sage k です。アカウントのある方、よろしくお願いします。
その twitter ですが、有名人を何人かフォローしてみました。すると、幸福実現党と Pope Benedict
からフォローされ返されました。まあ後者は後日外していましたが。ちょっとした恐怖を味わって
いました。
プログラムのほうはすっかりなれて、今は Fortran で MPICH2 で並列化。といってもサブルー
チンを 2、3 種類足して変数に気をつけるだけですが。エディタで emacs を使っていますが、それ
に慣れすぎて Windows でも Ctrl + x,n,b,p,f などをやってしまい、たまにひどい目に遭います。
Linax でこれ編集できたらなあ・・・けど文字コードが違うんだよなあ・・・変換めんどいし。
これからもよろしくお願いします。どうぞ生暖かく見守っていてください。
陰性戦隊ハロゲンジャー
2 ∼適応する5人∼
2010/8/17 発行
著者 sage
サークル 同人定数1999
印刷 kinko’s
1999 HP:http://www.geocities.jp/wjtcx143/
Email:[email protected]
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