研究成果報告書 - KAKEN - 科学研究費助成事業データベース

様式C-19
科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書
平成 24 年 5 月 31 日現在
機関番号:34408
研究種目:若手研究(B)
研究期間:2010~2011
課題番号:22791888
研究課題名(和文) 安定化二酸化塩素配合試作粘膜調整材の評価に関する研究
研究課題名(英文)
Study on evaluation of the trial manufacture tissue conditioners
combined stabilization chlorine dioxide
研究代表者
前田 武志 (MAEDA TAKESHI)
大阪歯科大学・歯学部・助教
研究者番号:00549826
研究成果の概要(和文)
:二酸化塩素は近年、次亜塩素酸や過酸化水素に代わる消毒薬として注
目されている。本研究ではまず、二酸化塩素の基本的性質の検討を行い、その結果冷蔵温度が
最も保管温度として適していることや、MIC が 2ppm、MFC が 4ppm で、抗菌速度も上記の
従来の消毒薬と比較して有意に速い結果となった。さらにコロニー形成法による、バイオフィ
ルムに対する抗菌効果の測定においても、有意に低い濃度で抗菌効果を発揮する結果となった。
研究成果の概要(英文)
:In late years chlorine dioxide attracts attention as disinfectant for
hypochlorous acid and hydrogen peroxide. At first we examined the basic property of
chlorine dioxide in this study. As a result, refrigeration temperature was suitable for
safekeeping of chlorine dioxide most. In addition, the MIC was 2ppm, and the MFC was
4ppm and turned out significantly quicker in the antibacterial speed than the disinfectant
mentioned.
Furthermore, by the colonization method and a metabolism activity assay of the
antibacterial effect on biofilm measured. As a result, it followed that chlorine dioxide
significantly showed an antibacterial effect by low density.
交付決定額
(金額単位:円)
2010 年度
2011 年度
年度
年度
年度
総 計
直接経費
2,100,000
1,000,000
間接経費
630,000
300,000
3,100,000
930,000
合
計
2,730,000
1,300,000
4,030,000
研究分野:医歯薬学
科研費の分科・細目:歯学・補綴系歯学
キーワード:二酸化塩素 ・義歯洗浄剤・カンジダ
1. 研究開始当初の背景
日本は超高齢社会を迎えており、義歯装着
患者は増加傾向にある。義歯装着高齢者の
QOL の向上には義歯を快適に使用し続ける
ことが重要であり、適切な義歯のメインテナ
ンスが必要不可欠である。しかし、Candida
albicans を代表とするデンチャープラーク
は義歯床に容易に付着・増殖し、口腔内に
様々な問題を惹起する。義歯に堆積したデン
チャープラークは義歯床下粘膜に発赤を伴
う義歯性口内炎を発症させ、さらに粘膜から
の出血、灼熱感、疼痛、口臭、不快感、口腔
乾燥などを引き起こす。また、デンチャープ
ラーク中の真菌の誤飲や誤嚥による消化管
や肺の真菌感染症などを引き起こす。そのた
めデンチャープラークのコントロールは非
常に重要な意味を持つ。
デンチャープラークはバイオフィルムの
ひとつで、抗菌剤の抗菌効果を減弱させる仕
組みを持つ。このバイオフィルムを除去する
ための義歯清掃法には、化学的清掃法と機械
的清掃法の 2 つがある。化学的清掃法では主
に義歯洗浄剤が用いられ、機械的清掃法には
義歯用ブラシや超音波洗浄器などが用いら
れ、義歯表面から微生物や着色などを機械的
に除去する。しかし、手作業を必要とする機
械的清掃法は高齢者、特に要介護者や脳卒中
による片麻痺者などは十分に実行すること
が困難である場合も多い。そのため使用方法
が簡便で安全な義歯洗浄剤が必要である。そ
こで、近年その高い消臭効果と除菌効果から
注目されている二酸化塩素を用いて、
Candida albicans に対する抗菌効果の検
討を行った。
2.研究の目的
二酸化塩素の基本的性質および Candida
albicans に対する抗菌効果を測定すること
を目的とする。
3.研究の方法
(1) 二酸化塩素(ClO2)の基本的性質について
① 保存温度の検討
ClO2 の濃度が 1 ppm、5 ppm、10 ppm、50
ppm となるよう、蒸留水で希釈し、50 ml チ
ューブに 10℃(冷蔵温度)、24℃(室温)、40℃
(高温)の各温度で暗室にて 0.5 日、1 日、3 日、
5 日、7 日、14 日、28 日間保存し、各時期に
おける最初の濃度に対する残存濃度の比を
次の式より算出した。
②
抗菌効果の検討
Candida albicans をサブロー液体培地で
24 時間前培養し、対数増殖期のこの菌を遠心
にて集菌、蒸留水で 2 回洗浄後、サブロー液
体培地で懸濁して 106 cells/ml の菌液になる
よう調整した。次いで、CLSI 法に基づいて、
微量液体希釈法により薬剤含有感受性測定
用液体培地を調製した。ClO2 では 128 ppm
から 1 ppm、NaOCl では 512 ppm から 4 ppm、
H2O2 では 8192 ppm から 64 ppm の濃度に
なるよう、サブロー液体培地でそれぞれ順次
2 倍希釈して薬剤含有感受性測定用液体培地
を準備した。これらを 96 穴マイクロプレー
トの 1 穴あたり 0.1 ml ずつ添加し、先に調
製した菌液を 0.005 ml 添加、35 ℃で 24 時
間培養後、目視で混濁が認められない最小の
濃度を MIC とした。MIC を測定後、混濁が
認められた溶液については、この溶液をカン
ジダ GE 寒天培地に接種した。これを 35 ℃
で 24 時間培養、その後に出現するコロニー
の有無を観察し、コロニーの形成が認められ
ない最大の希釈濃度を各抗菌剤の MFC とし
た。
③
抗菌速度の検討
Candida albicans をサブロー液体培地で
24 時間前培養し、対数増殖期のこの菌を遠心
にて集菌、蒸留水で 2 回洗浄後、106 cells/ml
の菌液になるよう 0.15 M NaCl を含む 0.01
M リン酸緩衝液 (PBS)で調整した。次いで、
各抗菌剤が 1 ppm、10 ppm、50 ppm、100
ppm、200 ppm の 5 段階の濃度となるよう、
蒸留水で希釈した。その後、これらの抗菌剤
と菌液を等量混合し、30 秒、60 秒、90 秒、
120 秒間菌を抗菌剤に曝露させて、カンジダ
GE 寒天培地に接種した。これを 37℃で 48
時間培養した後,出現したコロニー数を
CFU(colony forming units)として算出した。
各実験方法をそれぞれ 3 回施行することに
より結果の再現性を確認し、その平均値を求
めた。
(2) Candida albicans バイオフィルムに対す
る抗菌効果
コロニー形成法による Candida
albicans に対する ClO2 の抗菌効果の検討
Candida albicans をサブロー液体培地で
①
24 時間前培養し、対数増殖期のこの菌を遠心
にて集菌、蒸留水で 2 回洗浄後、 ClO2 では
0.5 ppm~2.5 ppm、NaOCl では 10 ppm~60
ppm、H2O2 では 500 ppm~2500 ppm になる
よ う Candida albicans を 懸 濁 し て 106
cells/ml に調整した。調整した時点を曝露開
始とし、室温で 3 時間曝露させた後、カンジ
ダ GE 寒天培地に接種した。これを 37℃で
48 時間培養した後,出現したコロニー数を
CFU として算出した。
② コロニー形成法による Candida
albicans バイオフィルムに対する ClO2 の抗
菌効果の検討
Candida albicans をサブロー液体培地で
24 時間前培養し、対数増殖期のこの菌を遠心
にて集菌,蒸留水で 2 回洗浄後、1%ウシ胎
児血清含有 RPMI 1640 培地中に Candida
albicans を懸濁して 106 cells/ml になるよう
調整し、菌液とした、。これを 96 穴マイクロ
プレートに 100 μl ずつ添加し、37 ℃で 48
時間培養して、マイクロプレート底面にバイ
オフィルムを形成させた、。この培養液を吸引
した後、ClO2 では 1 ppm~7 ppm、NaOCl
では 20 ppm ~120 ppm、H2O2 では 1000
ppm~6000 ppm になるよう調整した抗菌剤
を 100 μl ずつマイクロプレートに添加し、室
温で 3 時間バイオフィルムを抗菌剤に曝露さ
せた。その後、マイクロプレート中の抗菌剤
を吸引して、マイクロプレート内を PBS で 3
回洗浄した。この Candida albicans バイオ
フィルムが形成されたマイクロプレートに
PBS を 200 μl ずつ添加した後、外科用ナイ
フでマイクロプレート底面からバイオフィ
ルムを擦り取って撹拌した、。この PBS 中の
バイオフィルムをカンジダ GE 寒天培地に接
種し、37℃で 48 時間培養後、出現したコロ
ニー数を CFU として算出した。
H2O2 では、いずれの濃度においても CFU に
変化はほとんどなく、120 秒までの間では 0
にはならなかった(図)。
(2) Candida albicans バイオフィルムに対す
る抗菌効果
コロニー形成法による Candida
albicans に対する ClO2 の抗菌効果の検討
①
いずれの抗菌剤においても、濃度が高くな
るにつれて CFU は減少し,
ClO2 では 2 ppm、
NaOCl では 50 ppm、H2O2 では 2000 ppm
で、それぞれ CFU は 0 となった。
コロニー形成法による Candida
albicans バイオフィルムに対する ClO2 の抗
②
4.研究成果
(1) 二酸化塩素(ClO2)の基本的性質について
① 保存温度の検討
保存温度 10 ℃では、1 ppm、5 ppm、10 ppm、
50ppm のすべての濃度において 1 日後に残
存濃度比は約 0.8 となったが、それ以降は安
定していた。保存温度 24 ℃では、すべての
濃度において残存濃度比は時間経過と共に
徐々に減少していき、 28 日後には約 0.5 と
なった。保存温度 40 ℃では、すべての濃度
において 7 日後に残存濃度比はほぼ 0 とな
った 。
② 抗菌効果の検討
MIC は ClO2、NaOCl、H2O2 でそれぞれ 2
ppm、64 ppm、2048 ppm となり、ClO2 は
NaOCl の 1/32、H2O2 の 1/1024 の濃度であ
った(表)。一方、MFC は ClO2 で 4 ppm、
NaOCl で 128 ppm、H2O2 で 8192 ppm であ
り、ClO2 は NaOCl の 1/32、H2O2 の 1/2048
の濃度であった。
菌効果の検討
いずれの抗菌剤においても、濃度が高くな
るにつれて CFU が減少し、
ClO2 では 6 ppm、
NaOCl では 100 ppm、H2O2 では 5000 ppm
で、それぞれ CFU は 0 となった。
以上のことより、二酸化塩素は適切の保管に
より、約 1 カ月で約 80% の残存濃度を示し、
ま た 抗 菌 効 果 に も 優 れ て お り 、 Candida
albicans やそのバイオフィルムに対しても、
次亜塩素酸や過酸化水素よりも低濃度で抗
菌効果を発揮することが示唆された。
5.主な発表論文
〔雑誌論文〕(計 4 件)
① G. Hong, H. Tsuka, T. Maeda, Y.
Akagawa, K. Sasaki: The dynamic
viscoelasticity and water absorption
characteristics of soft acrylic resin
materials containing adipates and
maleate plasticizer. 査 読 有 り Dent
Mater J, 2012;31(1) , 139-149
10.4012/dmj.2011-185
②
③ 抗菌速度の検討
ClO2 では,1 ppm を除く 10 ppm,50 ppm,
100 ppm、200 ppm の各濃度で CFU は 120
秒までに 0 となった。NaOCl では、CFU が
0 となったのは 200 ppm、90 秒であった。
T. Maeda ,G. Hong, S. Sadamori, T.
Hamada,Y.Akagawa: Durability of
peel bond of resilient denture liner to
acrylic denture base resin. 査読有り
J.Prothodont.Res ,2012;56(2) ,136-141
10.1016/j.jpor.2011.05.001
③
G. Hong, T. Maeda, T. Hamada: The
effect of denture adhesive on bite force
until denture dislodgement using a
Gnathometer. 査 読 有 り Int Chin J
Dent, 2010; 10, 41-45.
http://www.kssfp.jp/pdf/ICJD10-3Hon
g41-45.pdf
④
G. Hong, T. Maeda, Y.A. Li, S.
Sadamori, T. Hamada, H. Murata:
Effect of PMMA polymer on the
dynamic viscoelasticity and plasticizer
leachability of tissue conditioner. 査読
有 り Dent Mater J, 2010 ; 29(4),
374-380.
10.4012/dmj.2009-134
〔学会発表〕(計 4 件)
① 前田 武志, 堀 智春, 野村 雄二, 貞森
紳丞, 呉本 晃一, 西崎 宏, 岡崎 定司,
赤川 安正. 歯科用抗菌剤としての二酸
化塩素の基本的性質.日本義歯ケア学会
第 4 回 学術大会 2012,1,28 長崎
②
柄 博紀,洪 光,前田武志,水町 亘,
貞森紳丞,二川浩樹,赤川安正.ポリマ
ー化した可塑剤を用いた耐久性の高い
ティッシュコンディショナーの開発.日
本補綴歯科学会第 120 回記念学術大会
2011,5,21 広島
③
堀 智治,前田武志,野村雄二,貞森紳
丞,岡崎正之,赤川安正:義歯洗浄剤成
分としての二酸化塩素の殺菌効果の検
討 第 56 回日本歯科理工学術講演会,
2010,10,9 岐阜
6.研究組織
(1)研究代表者
前田 武志(MAEDA TAKESHI)
大阪歯科大学・歯学部・助教
研究者番号:00549826
(2)研究分担者
なし
(3)連携研究者
なし