オーストラリア自閉症早期療育エビデンス・レビュー(2006) - つみきの会

オーストラリア自閉症早期療育エビデンス・レビュー
ジャクリーン・M.A.ロバーツ,
マーゴット・プライア 著
井上雅彦 監訳
つみきの会翻訳委員会 訳
Roberts, J. M. A., & Prior, M. (2006). A review of the research to identify the most effective models of
practice in early intervention of children with autism spectrum disorders. Australian Government
Department of Health and Ageing, Australia.
Tsumiki no Kai acknowledges that this publication is owned by the Commonwealth of Australia.
つみきの会は、この出版物がオーストラリア政府によって所有されていることを認める。
C Commonwealth of Australia 2005
○
Translation into Japanese and publication was licensed to Tsumiki no Kai by Commonwealth of
Australia in 2007.
This work is copyright. Apart from any use as permitted under the Copyright Act 1968, no part may
be reproduced by any process without prior written permission from the Commonwealth. Requests
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A Review of the Research to Identify the Most Effective Models of Practice in Early
Intervention for Children with Autism Spectrum Disorders
Jacqueline M. A. Roberts
The University of Sydney
Margot Prior
The University of Melbourne
July 2006
This report was funded by the Australian Government Department of Health and Ageing
この報告書はオーストラリア保健・高齢化省の助成により作成された
このレビューはオーストラリア保健・高齢化省の委嘱を受け、ジャクリーン・ロバーツ博士とマ
ーゴット・プライア教授が、デイビッド・トレンバス氏の補助を受けて作成したものである。
謝
辞
このレビューは、ニューサウスウェールズ州障害者高齢者在宅ケア省(DADHC)の委嘱を受け、
シドニー大学発達障害研究センター(CDDS)が 2004 年に作成した報告書に修正加筆したもので
ある。
このレビューを作成するにあたり、以下の方々には特にお世話になった。ここに感謝を申し述べ
たい。まず調査アシスタントのデイビッド・トレンバス氏にはこのレビューのあらゆる面につい
てお手伝いを頂いた。ナタリー・シローブ博士には生物学的介入の箇所で、サラ・マクダーモッ
トさんには疫学関係の箇所で援助を頂いた。ロジャー・ブラックモア博士、デブ・キーン助教授、
ジュディ・ブリューワー・フィッシャーさん、ヴァル・ジルさん、ジェニー・ボットさんには、
参考文献のリスト作りに協力して頂いた。各州の自閉症協会や州教育省も様々な情報を提供して
頂いた。
最後に多くの情報とヒントを頂いたパースにおける自閉症関連の専門家の皆さんに、そしてアン
ケートに協力して頂いたサービス・プロバイダーの皆さんに感謝したい。
このレビューはジャクリーン・ロバーツ博士とマーゴット・プライア教授が、デイビット・トレ
ンバス氏の補助を受け、オーストラリア保健・高齢化省のために作成した。
断り書き
オーストラリア保健・高齢化省はこのレビューの作成を財政的に支援した。このレビューが正確
かつ発行時点で最新のものであるようあらゆる努力が払われたが、同省はいかなる誤り、省略、
不正確さに対しても責任を負わない。
著者らによって表明された見解は、必ずしも同省の見解やオーストラリア政府の政策を反映する
ものではない。
i
監訳者のことば
この数年、発達障害者支援法や特別支援教育の実施など我々の周囲はめまぐるしく動き
ました。発達障害者支援法はLDやADHD、高機能自閉症のある人々を地域全体で支え
る必要性を示した画期的な法律です。今年からの見直しの時期にあたり、我々は本当に有
効で必要な支援は何かを議論していく時期にさしかかっています。
国際的に見ると自閉症に関するABAに関連する研究やアプローチは膨大であり、様々
なエビデンスに関する研究からも、自閉症へのアプローチについては現時点で最も有力な
科学的かつ効果的な技術を提供していると考えられます。
我が国のABA研究は必ずしも個々の研究レベルで欧米に劣るとは思いませんが、大規
模な実証研究が困難な状況は大きな課題となっています。また当事者や家族が応用行動分
析に基づく療育サービスの提供を希望しても提供機関や専門家が少なく、数少ないNPO
や大学の個人研究室レベルでのサービス提供に留まっているのが現状です。福祉や教育に
限らず、我が国では研究で得られた効果的なアプローチを効率的に現場へおろしていくこ
とがまだ困難な状況にあります。
本レポートの内容を再検討し、当事者のニーズをベースに研究や行政施策が一体となっ
て効果的な支援の仕組みや体制を構築することが求められるように思います。
2008 年 7 月
井上雅彦
鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座
masahiko-inoue.com
ii
訳者まえがき
自閉症・広汎性発達障害に関しては、今日、数多くの治療・教育法(以下、まとめて「療育法」と呼ぶ)
が併存しており、その数はますます増えつつある。
しかしそれらの療育法が、障害児やその家族が抱える様々な困難を軽減する上で、果たして本当に効果
があるのか、仮に効果があるとして、複数の療育法には効果の面でどのような優劣があるのか、といっ
た問題を、臨床データに基づいて客観的に検討しよう、という動きは、わが国ではこれまで乏しかった
ように思われる。
しかし欧米先進諸国では、1990 年代初頭に医学界に起こった「エビデンス・ベースド・メディスン
(EBM)」という考え方が障害児療育界にも波及し、本書付録Bに見るように、2000 年前後から、相次
いで自閉症早期療育の効果に関するエビデンスの包括的レビューが発表されるようになった。
本書はそのうちの一つ、オーストラリア保健・高齢化省の委嘱に基づいて、同国の高名な専門家 2 人が
2006 年に作成したエビデンス・レビュー “A Review of the Research to Identify the Most Effective
Models of Practice in Early Intervention for Children with Autism Spectrum Disorders”の翻訳であ
る(直訳すれば「自閉症スペクトラム障害児に対する早期介入の最も効果的な治療モデルを特定するた
めの調査研究レビュー」となろうか)。原典は下記のサイトで見ることができる。
http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/mental-pubs-r-autrev
原典の末尾には、オーストラリア国内で利用可能な自閉症早期療育のサービス提供者に関する詳しい情
報が掲載されているが、この部分は日本の読者には重要性が薄いと判断し、訳出を省略した。それ以外
は全訳である。
ところで本書がテーマとする自閉症療育の効果に関する「エビデンス(証拠)」とはどういう意味なの
か、一般の読者のために簡単に説明しておきたい。
例えばある新しい療育法が外国から導入されたとする。その療育法を紹介する本を読むと、重度の自閉
症児がその療育を受けたことによって流暢に言葉が話せるようになったり、健常児と見分けの付かない
ほどにまで障害が軽減した、という例が複数紹介されているとしよう。しかもその本には、著名な大学
教授の推薦の言葉が添えてあったとすると、それを読んだ親たちは、その療育法に著しい改善効果があ
ると信じ、ぜひその療育法をわが子にも試してみたいものだ、と思いがちである。
しかしエビデンス、という点から見ると、実はその本に紹介されている改善例だけでは、ほとんど無価
値に等しい。なぜなら著者が数多くの症例(その大部分は全く改善しなかったかも知れない)の中から
目立った改善例だけを選び出すことは容易であるし、その少数の改善例ですら、その療育法のゆえに改
善したとは限らないからである。その子どもたちは同時に別の療育を受けていたかも知れないし、もし
かしたら成長とともに自然に改善していったのかもしれない。
権威者の推薦の言葉(expert opinion)はエビデンスの乏しい領域では大いに参考にされるべきだが、
エビデンスとしての価値はやはり低い。権威者といえども、個人的な選好や判断の偏りから自由ではな
いからである。
それに対して、例えばあらかじめ被験者として選ばれた十数名の自閉症児に対して、事前に何らかのテ
ストを施してから、特定の療育を施し、一定期間経過後に同一のテストを行ってその変化を比較したと
ころ、平均して顕著な改善が認められた、というのであれば、エビデンスとして一定の価値がある。被
iii
験者集団をあらかじめ固定して、事前にテストを行なってから介入を実施することで、研究者にとって
都合のよい改善例だけを選び出す可能性(「選択バイアス」という)が排除されるからである。このよ
うな研究は「前向き」の研究デザインと呼ばれ、結果が分かってから過去に遡ってその対象児の療育歴
や療育前の状態を調べる「後ろ向き」の研究デザインに比べても、エビデンスとしての価値が高いとさ
れる。
しかしこれで十分か、と言えばそうではない。なぜなら、先ほども述べたように、その被験児たちが示
した改善は、自然の発達によるものかも知れない。またその介入の時期に被験者の多くに影響を与えた、
何か別の要因(例えば新薬の登場)が潜んでいるかも知れない(結果に影響を及ぼしうる、そのような
隠れた別の要因のことを「交絡因子」と呼ぶ)。
それらの疑いを払拭するためには、介入群とは別に対照群を用意することが必要である。例えば介入群
として選ばれた、通常 10∼20 名程度の自閉症児に対して、ほぼ同じ条件(年齢、発達指数など)を持
った別の 10∼20 名程度の自閉症児を対照群とする。あらかじめ両群に同一の検査をいくつか行った後、
介入群には特定の療育法を施し、対照群には施さない。療育開始から一定期間を経て、両群を再テスト
し、介入群の方が統計上有意に(つまり両群の平均値にそのような差が偶然に生じる確率が 5%以下で
ある)高い改善率を示した、となると、介入群のみの研究と比較して、エビデンスとしてはるかに高い
価値がある。
このような対照群を用意した研究を「比較試験」と呼ぶが、それでもまだエビデンスとして十分とは言
えない。介入群と対照群の条件をある程度揃えたとしても、やはり介入群の方に予期せぬ別の要因が作
用する可能性を排除できないからである。例えば介入群はA市、対照群はB市の療育施設から選ばれた
とすると、両群の差は介入群に施された療育の結果ではなく、A市の療育体制が施設・人員ともにB市
を上回っていたことによるのかも知れない。
この疑いを払拭するためには、あらかじめ被験者として集めた数十名の自閉症児を、ランダム(無作為)
に二群に分けて、一方を介入群とし、他方を対照群とすればよい。これが通常エビデンスとして最も価
値が高いとされる「ランダム化比較試験(RCT)」である。医学の分野では、新薬の有効性を判定する
ために、このランダム化比較試験が要求されることが通例である。
さらに最も厳格な医学実験デザインでは、ランダム化に加えて、被験者のうちの誰が実薬を投与され、
誰が偽薬(プラセボ)を投与されるのかを、被験者だけでなく、投与する医師にも知らせない「二重盲
検」という手続が取られる。「プラセボ効果」と言って、たとえ偽薬であっても「薬を投与された」と
いう認識だけで、患者はある程度の割合で回復を示すものだからである。これを「ランダム化二重盲検
比較試験」と呼ぶ。
このように治療的介入の効果に関する研究報告には、しばしばその介入以外の様々な要因が紛れ込み、
効果を過大に見せたり、時には全く効果のない介入をも効果があるように見せかけてしまうことがある。
介入効果に関するエビデンスとは、そのような研究結果をゆがめる様々な要因(これを「バイアス」と
総称する)をできるだけ排除した研究デザインによって得られた、効果に関する客観的な証拠となる情
報、ということができるだろう。
西洋医学が今日、人々の間で信頼を勝ち得ているのは、早くからランダム化比較試験に代表される厳格
な実験手続によって、信頼性の高いエビデンスを積み重ねてきたからである。それに対して、障害児療
育の世界では、従来、エビデンスの重要性に関する認識が乏しく、現場の知識や権威者のお墨付き、せ
いぜい症例報告だけで十分、とされてきた嫌いがある。そのため、ちょうど漢方薬のように、効果のあ
iv
る療育と効果の疑わしい療育とが併存、乱立し、ユーザーである障害児の保護者は、どの療育を選んで
よいのか、全く分からない混乱状態におかれている。わが国の自閉症児療育ができるだけ早くこの状態
を脱却し、各療育法がエビデンスを競うことで、本当に効果のある療育法が子どもたちとその家族に提
供されるようになってほしい。これが本書を翻訳したわれわれの願いである。
本書を紐解くと、わが国にも知られている様々な療育法が、有効性に関するある程度のエビデンスがあ
るもの、エビデンスが存在しないもの、効果がないことや有害であることにエビデンスが存在するもの、
の 3 種類に分けられることが分かる。
もとより現時点でエビデンスがないことは、その療育法に効果がないことを必ずしも意味しない。エビ
デンスを得るためには大変な時間と労力がかかるものであり、新しい療育法の中には、効果があっても
それを証明する時間や余力がまだないものも含まれているだろうからである。しかしエビデンスに関す
る情報は、自閉症児の保護者がわが子の療育法を選択する上で、大いに参考となるだろう。また自治体
が貴重な予算を投じて地域の自閉症児とその家族に早期療育の機会を提供するにあたっては、基本的に
エビデンスがない療育法よりもエビデンスのある療育法を優先することが求められるはずである。
われわれの属する「NPO法人つみきの会」は、本書にも登場する応用行動分析(ABA)に基づく自閉
症早期療育に取り組む親と療育関係者の集まりである。
われわれが本書の翻訳を思い立った直接のきっかけは、2007 年の春に、オーストラリア在住経験のあ
る一会員が「オーストラリアで最近このようなレビューが作られた」と情報を提供してくれたことにあ
る。同会の代表を務める私(藤坂)は以前からこの問題に関心があったので、これをよい機会と考え、
つみきの会の会員有志に分担翻訳を呼びかけた。するとすぐに英語に比較的自信のある十数名のメンバ
ーが集まった。このメンバーが下訳を作り、それをもとに私がどの章にもかなり筆を入れて、完成訳と
した。章によっては私が完全に訳し直したところもあるので、個々のメンバーの担当章は明記していな
い。なお薬物療法に関する第 3 章は、当会ゲスト会員の専門医に用語をチェックして頂いた。
さらに私の大学院時代の恩師である現鳥取大学大学院医学系研究科教授の井上雅彦先生に完成稿を持
ち込み、全体に目を通して修正すべき点を指摘して頂いた。井上先生は、お忙しい中、院生と本書の輪
読会を催し、数ヶ月かけて翻訳を詳細に検討して下さった。この場を借りて、感謝の言葉を申し述べた
い。これらの作業に思いの外時間がかかり、作業を始めてから 1 年以上経った 2008 年夏に、ようやく
完成にこぎ着けた次第である。
翻訳を担当したのは、私の他、以下のメンバーである。安宅翠、阿部道雄、上村裕章、大山茂之、小山
ありさ、杉坂美紀、杉原みどり、出口静江、橋本一成、松田千恵子、山崎かおる。彼らの協力なしには、
この翻訳は実現しなかった。ここにこれら諸氏に感謝の意を申し述べたい。
2008 年夏
NPO法人つみきの会代表・臨床心理士
藤坂龍司
v
目
次
謝辞
監訳者のことば
訳者まえがき
1.全体の概要
p.1
前置き
自閉症スペクトラム障害の定義
自閉症スペクトラム障害児への様々な治療法の概観
効果的なプログラムの共通項
様々な介入の費用便益
2.序論
p.9
前置き
著者の紹介
はじめに
自閉症スペクトラム障害の定義
自閉症児への介入を見直すにあたって考慮すべき事項
3.生物学的介入
p.16
薬物療法
薬剤の種類
まとめ
4.補完代替医療(CAM)
p.21
食餌療法
キレーション
イースト過剰増殖
消化酵素
セクレチン
三種混合ワクチンの不接種
ビタミンB6とマグネシウム
頭蓋オステオパシー
5.精神力動的介入
はじめに
精神力動的介入の例
まとめ
p.25
6.教育的介入−概観−
p.27
7.行動的介入
p.29
はじめに
定義
行動的介入の実例
行動的介入の研究エビデンス
行動的介入の研究で言及された考慮すべき事柄と限界
特定のスキルを標的とした行動的介入
行動的介入に関する研究エビデンスの要約
行動的介入における最近の展開
8.発達的介入
p.45
発達的対人関係・語用論モデル(DSP)
グリーンスパンの DIR/フロアタイム
反応的教育法
対人関係発達指導法(RDI)
9.療育的介入
p.49
コミュニケーションに焦点を当てた介入
視覚的方略と視覚的ヒントを用いた指導法
手話
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)
ソーシャル・ストーリー
会話補助装置
ファシリテーティッド・コミュニケーションズ
機能的コミュニケーション訓練(FCT)
10.感覚運動的介入
p.54
聴覚統合訓練
感覚統合療法
ドーマン・デラカート法
11.複合的介入
サーツモデル
TEACCH
デンバーモデル
LEAP
p.57
12.その他の介入
p.61
生活療法/武蔵野東学園
オプションアプローチ(サンライズ・プログラム)
音楽療法
SPELL
キャンプヒル運動
ミラー法
13.家族支援
p.64
はじめに
家族支援の例
家族支援の評価
まとめ
14.様々な介入の費用便益
p.69
15.自閉症児のための教育的介入の比較評価
p.70
効果的介入の主要な要素
個人差
16.自閉症児の教育的配置
p.73
はじめに
用語の定義
統合教育と特殊教育サービス
自閉症児の教育
生徒や教師にとって自閉症に固有の困難とは何か
自閉症を持つ生徒の統合教育モデルの開発に向けて
まとめ
参考文献
p.80
付録
A 文献レビュー検索方略
B レビューとガイドライン
p.93
p.95
1.全体の概要
はじめに
本レビューの目的は、自閉症幼児の処遇と治療に関する研究文献を精査して、最も効果的な処遇
モデルを見いだすことである。本レビューは、オーストラリア保健・高齢化省の委嘱を受け、シ
ドニー大学のジャクリーン・ロバーツ及びメルボルン大学のマーゴット・プライアが、デイビッ
ド・トレンバスの援助を受けて作成した。
自閉症スペクトラム障害の定義
自閉症は生涯にわたる原因不明の神経学的障害である。自閉症の診断基準は、社会的相互作用の
障害、コミュニケーションの障害、思考と行動における柔軟性の欠如、という三つ組の障害に基
づいている。
自閉性障害のスペクトラムの中には、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、小児崩
壊性障害、特定不能な広汎性発達障害(PDD-NOS)(非定型自閉症とも言われる)が含まれる。
IQ が正常域にある自閉症者は、高機能自閉症(HFA)と呼ばれる。
自閉症スペクトラム障害(以下、本レビューでは単に「自閉症(autism)」と呼ぶ)の診断は、
生育歴、フォーマルなアセスメントおよび行動観察に基づいてなされる。その結果として、自閉
症のアセスメント及び診断には、専門家によってある程度のずれが生じる。従来報告された自閉
症の発生率は、1 万人につき 4 人未満から、1 万人につき 100 人以上まで開きがある。このばら
つきの原因としては、自閉症の定義を厳格に捉えるか否かの違い、専門家の間でも自閉症診断の
技量に差があること、などが考えられる。しかしながらオーストラリア政府諸機関によって報告
された確定診断数(正確に診断された子どもの数)の増加及び福祉ニーズの恒常的な増加は、人
口の全般的な成長ペースを上回っている。
自閉症スペクトラム障害児への様々な治療法の概観
現在、数多くの治療法が自閉症児に対して用いられている。それらの大部分は、次の諸点につい
てさらなる研究が必要である。(a)どのタイプの子どもたちに対して最も効果があるのか、(b)それ
らの治療法の利用を促す最も効果的な方略、(c)その治療法を受けることによって子どもの全般的
な適応機能が促進される度合い。以下は、このレビューで確認された各治療法の研究エビデンス
の概要である。
-1-
1.生物学的介入
薬物療法
現在のところ、自閉症の中核的特性に対する医学的治療法は存在しない。ただし自閉症の諸症状
や、不安や ADHD などの自閉症に併発する障害を治療するため、及び並行して進められる他の介
入から子どもが利益を得られる可能性を高めるために、薬物療法を用いる試みは行われている。
以下の薬物は、自閉症者に対して一定の有効性が実証されている。ただしその効果及び副作用は
注意深くモニターする必要がある。神経弛緩薬(Neuroleptics)/抗精神病薬(Antipsychotics)、
リ ス ペ リ ド ン (Risperidone) 、 選 択 的 セ ロ ト ニ ン 再 取 り 込 み 阻 害 剤 ( SSRIs )、 抗 鬱 剤
(Antidepressants)、興奮剤(Stimulants)、抗けいれん剤。
以下の薬物は自閉症児や青年期の自閉症者に対して効果がないか、有害であることが実証されて
いる。ナルトレキソン、セクレチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)。
2.補完代替医療
ここには食餌療法(カゼイン・グルテン除去ダイエット)
、抗イースト療法、キレーション、セク
レチン、三種混合ワクチンの不接種、ビタミン B6 などのビタミン剤及び栄養サプリメントが含
まれる。これらの療法の有効性を支持するエビデンスはわずかであり、多くのエビデンスがセク
レチンや三種混合ワクチンの不接種などについて、効果がないことを示している。これらの療法
の中には、潜在的リスクが顕著なものもある。
3.精神力動的介入
精神力動的介入は、自閉症は情緒的な損傷の結果であり、たいていは両親、特に母親との緊密な
絆(愛着)を形成できなかったために生じる、との前提に立つ。精神力動的介入は今日ではほと
んど用いられない。なぜなら自閉症は情緒的障害ではなく、発達的かつ認知的な障害であるとの
知見を支持する強力なエビデンスがあり、精神力動的療法の有効性を支持する実証的エビデンス
がほとんどないからである。
4.教育的介入
(1)行動的介入
行動的介入は、学習理論に基づくオペラント学習技術を主要な介入アプローチとする療法である
(Francis,2005)
。応用行動分析(ABA)は、標的行動を増加、減少、維持、般化させるために、
オペラント学習技術を系統的かつ測定可能な方法で適用するアプローチである。ディスクリー
ト・トライアル・トレーニング(discrete trial training, DTT)は ABA プログラムでしばしば用
いられる教育方法であり、教えようとするスキルを小さく不連続な(discrete)ステップに分解し、
それらを少しずつ教えていくことを特徴とする。
-2-
ロヴァース・プログラム
集中的行動介入(intensive behavioral intervention, IBI)あるいは早期集中行動介入(early
intensive behavioral intervention, EIBI)は、集中的かつ包括的な行動療法を指す一般的名称で
ある。あるプログラムがどの程度集中的かは、子どもが一週間に受ける治療の時間数の多さや、
訓練、カリキュラム、評価、プランニング、コーディネーションがどの程度集中的か、に係って
いる。
ロヴァース・プログラム、別名「幼児自閉症プロジェクト(Young Autism Project)」は、著名で
広く模倣されている先駆的な集中的行動介入プログラムである。このプログラムは、治療の前期
段階においてディスクリート・トライアル・トレーニングを集中的かつ広範囲に用いるところに
特徴がある。
現代型応用行動分析
近年改良を加えられた行動療法は、しばしば「現代型 ABA プログラム(contemporary ABA
Program)」と呼ばれる。例えば、現在その多くは、健常の子どもの発達、特に社会性やコミュニ
ケーションの発達に関する知見を取り入れている。また視覚的情報の処理能力が比較的強く、聴
覚情報の処理の弱さを補うことができる、といった自閉症の特性を考慮に入れている。現代型
ABA プログラムには、ピボタル・レスポンス・トレーニング(Pivotal Response Training, PRT)、
自然言語パラダイム(Natural Language Paradigm, NLP)、機会利用型指導法(Incidental
Teaching)などがある。
行動療法が自閉症児に改善をもたらすこと、それが実証的研究によってよく確かめられているこ
と、に関しては広汎な合意がある。行動療法は有効性に関する厳密な科学的審査を受けているが、
行動療法以外の治療法で、同じレベルの科学的審査を受けているものはほとんどない。しかしな
がら行動療法の特定のアプローチに関しては、まだ議論が続いているし、方法論上の懸念や、研
究結果をどう解釈するかに関する意見の対立がある。議論が続いているのは、(a)行動療法によっ
て自閉症児を回復に導くことができる、という主張の是非、(b)一部の療育プロバイダーが他の一
切の方法を排除して ABA 及び DTT のみを用いることを推奨していることの是非、(c)治療の集中
度がすべての子どもと家族に適しているとはいえないのではないか、という懸念、に関してであ
る。
(2)発達的介入
発達的ないし関係的介入(Developmental or relationship based interventions)は、他者と積極
的で意味のある関係を築く子どもの能力に焦点を当てている。これらのプログラムの目標は、注
意力や他者との関わり、多様な感情、論理的な思考などを促進することにある。発達的療法は、
ノーマライズ療法(normalized intervention)とも呼ばれる。今のところ、発達的療法が自閉症
児にとって有効であるということを示すエビデンスはほとんど存在しない。発達的療法に関する
諸研究は、予備実験の段階であったり、評価の独立性を欠いていたり、方法論上の欠陥によって
知見が限定されていたりする。これらの療法の有効性を確認するには、さらなるリサーチが必要
である。これらの療育プログラムの個々の側面、例えば社会性、コミュニケーション、認知、子
-3-
育てなどへの効果についての研究は、肯定的な結果を示している。
「発達的対人関係・語用論モデル(the Developmental Social-Pragmatic Model)
」は自発的なコ
ミュニケーションを重視し、子どもの興味や関心を尊重し、たとえ実用的なものでなくても、子
どもがすでに持っているコミュニケーションの手段を出発点とする。また日常の活動や出来事を
題材にして、子どものコミュニケーション能力を育てる。DSP モデルと現代型 ABA との違いは、
前者が通常の言語発達の道筋を重視し、ディスクリート・トライアルで子どもの反応を引き出す
ことをあまり重視しないところにある。DSP モデルは、他者との自然なやりとりにうまく参加で
きることを評価のポイントとし、日常生活のなかでコミュニケーション能力を高めることを、よ
り強調する。
フロア・タイム(DIR)
フ ロ ア ・ タ イ ム ( Floor Time ) あ る い は 「 発 達 、 個 人 差 、 関 係 性 モ デ ル ( Developmental
Individual-Difference Relationship-Based Model)
」(DIR)は、自閉症児その他の発達障害児に
対する発達的な早期療育法である。このプログラムでは、刺激の少ない環境で子ども主導の関わ
り活動を行う。このアプローチの提唱者によれば、大人が子どものリードに従う関わり遊びを通
じて、子どもの外界へ関わりたいという気持ちを育てることができる。
反応的教育法(RT)
反応的教育法は、現代の児童発達理論に依拠する、親介在型のプログラムである。親がより反応
的に子どもと関われるようになるよう、親を援助する。
対人関係発達指導法(RDI)
対人関係発達指導法(Relationship Development Intervention)は健常児の社会性発達プロセス
に依拠したアプローチである。RDI の目標は、自閉症児が他者との関わりにもっと動機付けと関
心を持つようにすることにある。そのために RDI は,子どもが他者との関わりをもっと楽しみ、
もっと関わりが上手になるように、様々な活動やコーチングを行う。
(3)療育的介入
コミュニケーションに関する援助法
自閉症児に対しては、コミュニケーションに関する様々な援助法が広く用いられている。これら
は単独で用いられることもあれば、包括的なプログラムの一部に組み込まれることもある。これ
らの援助法に関するリサーチがいくつかあり、そのあるものは肯定的、あるものは否定的な結果
を示している。いくつかのコミュニケーション援助法に関して、肯定的な結果が報告されている
が、大規模で包括的な、よく統制された研究はまだ存在しない。
視覚的援助法
視覚的援助法(visual strategies and visually cued instruction)は子どもの表出的及び受容的な
コミュニケーションを容易にするため、そして子どもの学習や情報処理を助け、子どもに物理的
-4-
社会的な環境を生き抜く能力を身に付けさせるために、広く用いられている。
手話
手話(Manual Signing)は長い間、自閉症児と意思疎通を図るために用いられてきた。しかしな
がら、手話を教えられることによって、子どもたちがどのような追加的メリットを得ているのか
を評価するには、さらなるリサーチが必要である。またどのタイプの子どもたちが手話の使用に
よってメリットを得やすいのか、に関するリサーチもまだ不足している。
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)は、ほしい物を示す絵、シンボル、写真、
あるいは実物をやりとりすることで、他者と意思疎通を図ることを教えるプログラムである。
PECS の目的には、子どもの行動を引き出す刺激となる物を見つけること、及び複数の絵カード
を組み合わせて簡単な質問に答えることを教えること、が含まれる。PECS は高度に構造化され
たプログラムで、機能的なコミュニケーションを達成するため、刺激、反応、報酬という行動原
則を利用している。
ソーシャル・ストーリー
ソーシャル・ストーリーは、自閉症児に社会的状況を説明したり、自閉症児が社会的手がかりに
適切に反応することを学習することを助ける目的で、キャロル・グレイ(Gray & Grand,1993)
によって開発された。
会話補助装置
会話補助装置(Speech Generating Devices, SGDs)は、自閉症児の表出的及び受容的コミュニ
ケーションを補助するために、特に自閉症児の理解を助け、シンボル学習を促進し、大人や他の
子どもとの交流を増加させ、欲求やニーズを他者に伝えるために用いられている。
ファシリテーティッド・コミュニケーション(FC)
FC の提唱者は、自閉症は主として運動障害であって、自発的な運動が困難であり、それが言語の
表出を阻んでいる、と主張する。そこで FC は手を取って指さしの形を作ってやり、手を添えて
何かを指ささせる。今のところ、FC が自閉症児に安定した、役に立つ、あるいは自発的なコミュ
ニケーションをもたらす、というエビデンスはない。
機能的コミュニケーション訓練(FCT)
FCT は、自閉症児の問題行動に含まれている「メッセージ」を、拡大代替コミュニケーション
(Augmentative and Alternative Communication, AAC)によって伝えることを、行動的に訓練
する。FCT は自閉症児に一つかそれ以上の機能的なメッセージを伝えることを教え、それによっ
て問題行動に代わる積極的な行動を可能にする。FCT は今日、自閉症児の問題行動に対処するた
めの選択肢の一つと考えられている。
(4)感覚運動的介入
-5-
自閉症には特有の感覚上の問題がある、という理解が広まると共に、それらの感覚上の問題が自
閉症者にもたらすインパクトを緩和するために環境を調整する介入に対する関心も高まっている。
自閉症の感覚上の特性とはいかなるもので、どの程度の広がりを持つのか、それらに対処するた
めにどのような介入が有効なのか、に関しては、まだ十分な研究がなされていない。
聴覚統合訓練(AIT)
聴覚統合訓練(Auditory integration training)は自閉症者に聴覚の歪みや過敏性、感覚処理過程
の異常があり、それらが自閉症者に不快と混乱をもたらしているとの仮説に立ち、それらに対処
することを目的とする。目下のところ、聴覚統合訓練は実験的なものと見なされるべきであり、
その有効性を支持する研究エビデンスはほとんど存在しない。
感覚統合
感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)は、内耳前庭、触覚、体内感覚受容器(proprioceptor)
などに刺激を与えることで、脳の感覚処理能力を改善させることを目的とする。今日の研究は、
感覚統合が自閉症、発達遅滞、精神遅滞にとって有効な療法であることを支持していない。また
子どもの行動やスキルの改善を示した数少ない研究は、感覚統合がそれらの改善をもたらす独立
変数であることを示すに至っていない。
(5)複合的介入
サーツモデル
サーツモデルは、対人コミュニケーション、情動コントロール、交流型支援(Transactional
Support)に焦点を当てる。このプログラムのねらいは、個々の子どもの問題に合わせた高度に
個別化されたアプローチによって、自閉症児の中核的障害に直に働きかけることである。サーツ
は一つの療育法と言うよりは、サービス提供の一つのモデルであり、まだ独立した研究によって
その効果を確かめられていない。
TEACCH
TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication Handicapped
Children)は視覚的情報、構造、予測性を提供することによって、自閉症者を子どもから成人まで
サポートすることを目指した「生涯(whole life)
」アプローチである。少数の研究が、TEACCH
プログラムを受けた子どもたちに改善がもたらされたことを示している。しかしながら今後さら
に、このプログラムの短期的及び長期的な効果を測定するために、独立した研究者による、より
大規模で系統立った、統制群を用意した研究が行なわれる必要がある。
LEAP(Learning Experiences-An Alternative Program for Preschoolers and Parents)
LEAP は自閉症児と健常児の両方のための包括的なプリスクール事業である。LEAP はプリスク
ールにおける統合保育と、親のための行動スキルトレーニングから成る。このプログラムは行動
分析の側面も持つが、主として発達論的アプローチである。現在、長期的な結果に関する評価が
-6-
行なわれているが、効果を確かめるためには、独立した研究者による評価が必要である。
(6)その他の介入
その他の介入には、武蔵野東学園/生活療法、オプションメソッド、音楽療法、SPELL、キャン
ベル、ミラー法などがある。これらのプログラムの結果を評価する研究エビデンスは、ほとんど
存在しない。
(7)家族支援
自閉症児の家族を支援するために、数多くのプログラムが開発されている。これらの支援には、
親に自閉症の性質や自閉症児の学習スタイルについて教えること、子どもの学習を助けるために、
親を教育し、援助の方略を教えること、家族が自分たちのサポートネットワークを打ち立てる援
助をすること、他のサービスやサポートプログラムに関する情報を提供すること、などがある。
家族支援プログラムでは、セラピストや専門家は、子どもに直接関わるのではなく、親や兄弟、
その他の重要な他者に関わる。家族支援プログラムに関する少数の研究は、自閉症児とその家族
の両方によい結果を生んだことを示している。しかしながら、これらの結果を再現し、拡張して
いくために、さらなる研究、特に大規模な統制された研究が必要である。家庭支援教育プログラ
ムのうち、ヘルプ!プログラムと「アーリーバード」プログラムは、いずれもイギリスにおいて
全英自閉症協会が開発し、運営している。
家族向けプラス思考的行動支援(Family-centred Positive Behavior Support, PBS)
家族向け PBS は、子どもの問題行動に対処するため、親と専門家が系統的かつ共同的なスタンス
で取り組む。家族向け PBS のプログラムには、(a)問題行動に取って代わるスキルを教え、増加
させるための方略、(b)問題の発生を未然に防ぐための方略、(c)問題が発生した時にそれに対処す
るための方略、(d)改善の度合いをモニターするための方略、が含まれる。
ヘイネンプログラム(モア・ザン・ワーズ)
「モア・ザン・ワーズ(More than Words)」はプリスクール期の自閉症児の親を対象とする集中
的トレーニングプログラムである。このプログラムは、社会・語用論・発達モデルの理論枠組み
に立脚し、行動主義的プログラムと自然主義的子ども中心プログラムとの折衷を強調する。すな
わち ABA プログラムに見られるように、様々な行動を小さなステップに分解するし、自然主義的
アプローチのように、言語を機能的に用いる機会を重視する。治療結果の予備的研究は、このプ
ログラムが子どもと家族に、一定の改善をもたらしたことを示している。このプログラムをより
包括的に評価するためには、さらなる研究が必要である。
効果的なプログラムの共通項
研究文献をレビューした結果、効果的なプログラムは、その哲学的志向が異なるにも関わらず、
-7-
共通の構成要素を持つ傾向があることがわかった。すなわち効果的なプログラムは、
・注意、コンプライアンス、模倣、言語、社会的スキルに焦点を当てた、自閉症に特化したカ
リキュラムを提供している。
・高度に支援的な教育環境に対する子供のニーズに応えている。
・新たに獲得したスキルの般化を促進するための特別な方略を有している。
・予測可能性や定まった日課に対する子供のニーズに配慮している。
・問題行動に対処するため、機能的なコミュニケーションを育てようとしている。
・プリスクールから学校への移行を援助している。
・家族は療育に関わる専門家によって支援され、かつ専門家と対等な立場で協力し合う。
研究文献で繰り返し確かめられているのは、特定の療育プログラムに対する反応は、子どもによ
って違う、ということである。従って、どの自閉症児とその家族にも適合するような、万能のプ
ログラムは存在しない、ということを確認することが重要である。しかしながら、個々の子ども
の長所と短所に適合し、家族環境をも考慮に入れたものである限り、早期の集中的な、家族指向
の療育プログラムが、顕著な短期的及び長期的な改善をもたらす、ということを示唆するエビデ
ンスが存在する。
様々な介入の費用便益
目下のところ、治療プログラムの費用便益を療育費用、療育期間、療育による短期的な利益及び
長期的な利益の面で分析した研究は報告されていない。報告されているのは、特定の療育プログ
ラムの目的、対象年齢、療育期間、療育費用、その療育がどのように費用を賄われるのか、など
に関する叙述に過ぎない。オーストラリアにおいてサービス提供者が提示した療育費用に関する
情報は、表6に記載されている(訳注:表は省略した)
。
-8-
2.序 論
前置き
この報告書は、自閉症児のための早期介入サービスのレビューの結果と提言を示すものである。このレビ
ューは 2005 年 6 月 16 日にキャンベラの国会議事堂で開催された全国自閉症フォーラムが起動力となっ
ている。フォーラムは自閉症児とその療育者のニーズと課題を特定し、議論することを目的にオーストラリ
ア保健・高齢化省が開催したものである。フォーラムに集まったのは政府代表者だけでなく、オーストラリ
ア各地の自閉症スペクトラムに関与するグループの代表者たちで、全国レベルで自閉症に対する療育の
改善を推進することで合意し、フォーラムは終了した。
フォーラムを受けて、保健・高齢化省政務次官クリストファー・ペイン氏は、自閉症児の早期介入サービス
に最良の療育基準を定めるための研究プロジェクトとその関連事業に、総額 5 万ドルを投じることを決定
した。 ジャクリーン・ロバーツ博士とマーゴット・プライア教授がこの研究調査を実施すること、また、親や
専門家、そして政府関連機関(自閉症児のためのエビデンスに基づく訓練プログラムを評価し、またそれ
を受ける機会を提供する機関)のために国の適切なガイドラインを作成することを契約した。エビデンスに
基づく治療ガイドラインは自閉症の分野では特に重要である。と言うのもこの分野では様々な治療法(中
にはかなり普及はしているものの、それらの有効性について科学的根拠に欠けるものもある)の有効性を
めぐってかなりの論争が行なわれてきたからである。親や専門家は、成功を主張する治療法、特に治療
者が自閉症児を「治した」、あるいは治ると断言しているような治療法を検討するのに役立つ情報を必要と
している。これらの介入は子どもに有益かも知れないが、逆に無効であるか、さらには有害でさえあるかも
知れない。これらの主張に対処する研究が必要とされている。少数の治療プログラムについてはその有
効性を支持するある程度のエビデンスがある。しかしほとんどの治療法は適切に評価されておらず、中に
は全く評価されていないものもある。したがって、親や専門家が、自閉症児への介入について決断を下す
際に、それぞれの治療法の有効性について慎重に鑑定する必要がある。このレビューの他に、他国でも
自閉症児の治療法に関する研究についてのレビューが行われている。付録 B にそれらの一覧を載せて
いる。
自閉症に対する治療や介入の結果として、「回復」や「治癒」が生じるという、確かな証拠はない。しかしな
がら、適切な介入の下で、自閉症児が成長を続け、生活にとって有用な行動を学び続ける、ということは
明らかであり、エビデンスによってよく裏付けられている。
-9-
著者の紹介
ジャクリーン・ロバーツ氏、名誉文学士、教員免許、応用科学学士(言語病理学)、博士
シドニー大学の研究員であり、自閉症スペクトラムを専門とするコンサルタント。ニューサウスウェールズ州
自閉症協会(現在の「オーストラリア自閉症スペクトラム(ASPECT)」)で、教師、言語聴覚士、学校長、そし
て協会が提供する専門的サービスに全体的な責任を負うサービス責任者として、20 年間務めた。講師ま
たは教師として、オーストラリアだけでなく海外でも、自閉症に特化したプログラムとともに、特殊教育や言
語病理学における一般的訓練について幅広く講義してきた。シドニーにあるマッコーリー大学で言語学
博士号を得ている。シドニー大学教育・社会福祉学部早期介入センターの研究者であり、大学院生のス
ーパーバイザーでもある。また、シドニー大学保健科学部大学院発達障害研究科で自閉症の講座を担
当している。マッコーリー大学の国語・言語学部、及び特別支援教育センター(MUSEC)で名誉職を保持
している。
マーゴット・プライア教授、オーストラリア二等勲士、文学士、博士、オーストラリア社会科学アカデミー会
員
メルボルン大学心理学教授。モナッシュ大学、ラ・トローブ大学、メルボルン大学で、自閉症、学習障害、
行為・情緒障害の子どもの理解と援助に焦点をあてて、家族と児童発達の分野で講義、臨床、研究を行
ってきた。1994 年から 2002 年の間、メルボルン国立子ども病院で教授兼心理所長を務めた。「幼年期か
ら青年期までの道のり(Pathways from Infancy to Adolescence)」「特異的学習障害の理解(Understanding
Specific Learning Difficulties ) 」 「 多 動 性 障 害 − 診 断 と 対 処 − ( Hyperactivity: Diagnosis and
Management)」「アスペルガー症候群における学習と行動の問題(Learning and Behavior Problems in
Asperger Syndrome)」など、7冊の書籍の執筆と編集を手がけ、200 件以上もの学術論文を発表している。
自閉症スペクトラムのエキスパートとして国際的な評判を得ている。「オーストラリア人気質プロジェクト」と
題して、20 年間に渡ってオーストラリア児童を縦断的に研究してきた。ヴィクトリア子育てセンターと国立
子ども病院学習障害センターの創設者。オーストラリアユネスコ国内委員会の社会科学代表。近年、心理
学への多大な貢献を賞してオーストラリア心理学会賞を受賞した。
調査アシスタント:デイビッド・トレンバス、応用科学修士、応用科学学士(言語病理学)
現在、シドニー大学でコミュニケーションと恒久的障害についての講師兼研究員。オーストラリア自閉症ス
ペクトラム(ASPECT)加齢障害・在宅介護局及びシドニー大学コミュニケーション障害治療研究クリニック
で言語聴覚士として勤務してきた。就学前の自閉症児に対して、ピア(友達)を介した自然的教育と会話
補助装置についての効果を検証した研究で、2005 年に修士を取得した。自閉症、拡大代替コミュニケー
ション(AAC)や他の恒久的障害の分野に研究的興味を持っている。
- 10 -
はじめに
近年、自閉症スペクトラム障害の「流行」が示唆されている。その理由は、低年齢で診断を受ける子どもた
ちが多くなったことや、アスペルガー症候群と診断される子どもたちが増加してきたことで顕著にその患者
数の増加が見られるからである。このますます大集団化する子どもたちは極めて特殊な援助を必要として
おり、特に社会へのより効果的な統合と生涯を通じての自立能力向上に資するスキル習得のために有益
な早期介入が必要である。自閉症児に特に重要な分野は、社会性とコミュニケーション能力の発達、問
題行動の予防と治療、そして実社会に参加することを可能にする適応能力の発達である。
自閉症児を持つ家族への支援ニーズもまた、懸案事項である。家族が診断・評価を経験する上で手助け
となる戦略を同定すること、そして、利用可能な治療情報を提供する最も効果的な方法を見出すことが求
められている。包括的なサービス提供は、家族内での個人の特殊なニーズを認め、社会への家族の参加
を促進する戦略を含む、家族に焦点を当てた療法を必要としている。
世界各国の主要な論文や調査プロジェクトに関する本レビューは、以下の情報を提供する。
・
自閉症スペクトラム障害の定義
・
早期介入を強調するさまざまな治療介入モデルを支持するエビデンスの比較、例えば、集中的行動
介入、自然主義的な戦略、折衷的な療法、親教育プログラムなど
・
介入の集中度、期間、短期結果と長期効用の観点における介入のコスト・ベネフィット
・
診断・評価(情報提供を含む)時の家族支援における最良の実践モデルを支持するエビデンス
・
自閉症スペクトラム障害の子どもと青年を持つ家族が体験するであろうストレスを軽減し、地域活動へ
の参加を促進するための包括的援助の性質についての概観
・
自閉症児の教育上の配置
・
この論文が発表された時点での、オーストラリアの州・特別地域で入手できる自閉症プログラムの調
査結果(訳注:この部分は省略した)
自閉症スペクトラム障害の定義
自閉症は原因不明の生涯にわたる神経発達障害である(Volkmar,1998)。病態生理学の観点から、自閉
症は皮質性あるいは皮質下性のある程度の脳機能障害によって引き起こされることが一般的に認められ
ている。脳の先天異常を示す位置は未だに特定されていない(Bristol et al.,1996) が、過去10年の間、
遺伝子が関与するという証拠が増えている。自閉症の診断基準は、1940年代にレオ・カナー(Kanner,
1943)によって自閉症が発見されて以来、数十年、比較的安定している。ラター(Rutter, 1996)は「自閉症
の診断基準には大多数の意見の一致があり、診断分類としての自閉症の妥当性には一貫した根拠があ
る」と示唆している。
現在、用いられている診断体系には主に2つのものがある。それらは共通して、社会的相互作用の障害、
コミュニケーションの障害、そして思考と行動の柔軟性の欠如という三つ組の障害を基礎に据えている。
- 11 -
その診断体系とは、米国精神医学会による「精神疾患に関する診断と統計マニュアル(第4版)」(DSMⅣ)(1994)と、世界保健機関(WHO)による「国際疾病分類(第10版)」(ICD-10)(1992)である。「自閉症」と
いう用語は「自閉症スペクトラム障害(ASD)(Wing, 1996)と同義に扱われ、DSM-Ⅳでは広汎性発達障
害(PDD)の範疇に入る。自閉症スペクトラムは異なった診断規準を持つ多くの病態を対象としているが、
三つ組の機能障害に起因する発達上の困難を共通して持つことで一致している。自閉症スペクトラム障
害またはDSM-Ⅳで定義された広汎性発達障害は、次のものを含む。
・
自閉性障害(古典的またはカナータイプ自閉症とも言われる。知的及び言語的に正常域にある自閉
性障害者を高機能自閉症(HFA)とも呼ぶ)
・
アスペルガー症候群(アスペルガー障害としても知られる)。アスペルガー症候群(AS)とHFAを区別す
ることの妥当性について、かなりの議論がある。最近の研究では、どの重要な特徴に基づいても、確
実に区別することが不可能であると示唆されている。Wing(1996)はHFAとアスペルガー症候群とは、
相違点より類似点の方が多く、それらを教育上異なって扱うことは、根拠もないし、有益でもない、と
主張している。
・
レット症候群
・
小児崩壊性障害
・
特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)。非定型自閉症とも言われる。
自閉症スペクトラム障害の診断は、三つ組をなす以下の3領域における行動観察に基づく。
・
社会的行動
・
コミュニケーション行動
・
反復的または儀式的行動と変化への抵抗
自閉症の存在を正確に示す生理学に基づいた確定的な検査は存在しない。また、ある特定の行動によ
って自閉症と確定的に診断されることもない。診断は、三つ組で説明されるそれぞれの特徴の行動観察
とともに、自閉症の早期徴候を示す生育歴を基礎に置く。
発生率と有病率:自閉症はどれくらい一般的か。
自閉症の有病率や発生率は、研究者やサービス提供者の間で論争の争点となり続けている。有病率
(prevalence rate)はある特定の地域に住む、特定の年齢層の自閉症者数を意味する。出生有病率(birth
prevalence)はある地域で特定の条件を持って生まれた出生児数を意味する。ダウン症の出生有病率を
明らかにすることが可能であるからといって、同じ方法で自閉症の出生有病率を明らかにするのは困難で
ある(Williams,2003)。なぜなら自閉症の生物学的マーカーは今まで明らかになっていないからである。
発生数(incidence)は特定人口の中で新たに診断された患者数を意味する。発生率(incidence rate)もまた、
自閉症については調査が難しい。と言うのも研究者によって基準が様々であるからである。例えば、アス
ペルガー症候群を含む調査は自閉性障害のみを調べたものに比べて発生率は高くなる可能性がある。
研究文献によって報告されている、自閉症の推定有病率にはかなりの幅がある。包括的な見直しを行っ
た英国医学研究審議会(Medical Research Council, MRC)(2001)は、自閉症スペクトラム障害は 8 歳未
満の子ども 1 万人のうちおよそ 60 人に発現すると見ている。MRC によるこれらの率は Chakrabarti and
Fombonne(2005)によって裏付けられた。最近の国際研究では平均有病率を 175 人に 1 人としている
(Insel,2006)。MRC レビューの著者たちは、文献やメディアで報告される率の違いは、諸研究間の方法
- 12 -
上の相違、診断方法の変化、専門家や一般市民の間での自閉症への関心の高まりなどの諸要因の結果
と見ている。障害の有病率が実際に増加しているのかどうか、そしてもし増加しているのなら、すでに述べ
た要因はその増加を説明するに足るものかどうか、明らかでない(Prior, 2003 参照)。Fombonne(2003)に
よると、自閉症者の 70%前後が知的障害を併せ持ち、男性により多く発現する(男女比 4.3:1)。
現在のところ、自閉症と自閉症スペクトラム障害を単独で引き起こす要因は知られていない。ほとんどの
専門家は、発達途上の脳に影響を及ぼす様々な病因の結果、自閉症状が現れると見ている(Gillberg &
Peeters, 1999)。自閉症には遺伝的要素があること(Medical Research Council,2001)は既知のことだが、
そのメカニズムはまだ解明されていない。遺伝的な罹患性と環境的な要因がどのように関わっているのか
も知られていない。
自閉症児への介入を見直すにあたって考慮すべき事項
文化的認識
介入の結果について議論する際には、自閉症についての文化的認識の持つ影響力を考慮する必要が
ある。それぞれの障害は社会にそれぞれ異なった受け止め方をされる。異なった文化は、所与の障害に
異なった定義を与え、異なった関わり方をする。ある障害とその障害特性の社会的定義は、特定の介入
に影響を与えるかも知れないし、違った社会の信念と価値感を反映するかも知れない。例えばオーストラ
リア社会では、個人が表すアイコンタクトの量と型式は、その人と文化的背景を反映することが多い。多く
の自閉症児にみられるアイコンタクトの欠如やアイコンタクトの質の異常は、ある家庭には文化的に適応
すると見なされるかも知れないが、別の家庭には文化的に不適応と見なされるだろう。自閉症についての
一つの見解は、自閉症を正常な生物学的変異(進化上の利点と同時に欠点も併せ持つだろう変異)の特
徴と考える(Jordan, 2001)。多くの自閉症の大人たちが、彼らの社会生活に非自閉症的な、彼らの言葉に
よると「神経学的に正常な」基準、態度、判断を押し付けることの正当性に疑問を呈している。
多元的枠組みの必要性
自閉症は定義、診断、教育そしてケアの点において多くの異なる専門領域にまたがる。したがって多元
的な取り組みが最善である(Jordan, 2001)。自閉症児の評価と介入を考えるとき、我々の自閉症の理解は
生態学的概念に基づくことが必要不可欠である。専門家は異なる分野に従事する者を巻き込む多元的
な枠組みを導入する必要があり、介入の戦略は親、教師、友達、自閉症者そして他の専門家を包括しな
ければならない。
介入と治療計画を立てる全ての試みは、科学、信念、文化、そして子どもや家族の個別のニーズ
の間の隔たりを埋める必要性を常に留意しながら、専門家と家族との間に密接な協力関係を築く
ことを含むべきである(Schulman, Zimin, & Mishori,2001,p233)。
個人差
自閉症スペクトラムの範囲の広さと症状の個人差は重要な問題である。Jordan(2001)は、自閉症は人の
考え、感情、理解や行動の行方に広範囲な影響を及ぼすが、その影響は均一ではないと述べている。自
閉症が幅広い年齢層と能力差を含んでおり、しばしば顕著な自閉症児の個人差を反映すると考えると、
- 13 -
ある単一の介入が全ての子どもや家族に適応することはありそうにない。
「治癒」および「回復」の主張
自閉症は生涯にわたる広範囲な発達上の障害ではあるが、自閉症に治癒をもたらすと主張する治療プロ
グラムは存在する。Howlin(1998)は、そういうプログラムとして抱っこ療法、オプションアプローチまたはサ
ンライズプログラム、聴覚統合療法やファシリテーティッド・コミュニケーションなどを挙げている。それらの
療法やそれらに関連する主張は、公表された証言、インターネット記事、逸話的な説明や調査研究など
の題材にはなっているものの、適切な調査研究によって裏付けられたものはない(Howlin, 1998)。親に
利用可能な治療法が数多くあり、その提唱者によって様々な主張がなされているにも関わらず、これらの
治療プログラムの結果を評価する科学的に確かな研究は、不足している。
親に与える負担
近年、自閉症への介入方法、特に幼児を対象とするものは非常に多い。そしてそれらの中には治癒や回
復について根拠のない主張を伴っているものもある。これらの介入はしばしば金銭面や時間の面で非常
に高コストである。それに加えて両親はできるだけ早期に集中的な介入を施すことに、多大なプレッシャ
ーを感じている。それはもし彼らが正しい早期介入を子どもに十分に提供してこなかったと考えている場
合には、罪の意識を伴う。
成果を評価するにあたっての内在的な課題
プログラムの主張と実証的に裏付けられたされた結果との間に隔たりが生じるのは、優良な科学的基準は
厳密な実験的手法に基づいており、治療群と非治療群とを無作為に割り当て、それぞれの変数(ある特
定の介入評価以外に結果に作用する可能性のある変数)を厳重に統制しているからである。ある介入の
効果についての説得力のある証拠を示すためには、多くの科学的基準が満たされなければならない。し
かしながら、介入プログラムはいつもそのような基準を満たせるとは限らない。例えば、被験者を治療群あ
るいは比較検討される非治療群に無作為に割り振ることは、実現不可能なだけでなく、違法である可能
性もある。また、治療を施す人間(教師など)と子どもとの関係のような複雑な変数は簡単には統制し得な
い。しかし介入を評価する調査なしには、好成績の主張は立証されることはできない。介入の結果を評価
するために、科学的に厳密な調査研究を組み立てることは、困難であるとしても可能である。しっかりした
調査基準がどの程度満たされているか(特に異なる調査者によって研究結果が再現されているか)は、そ
の結果を信頼できるかどうかの指標になる。残念ながら自閉症の分野では、介入の主張を立証するため
に使用される証拠の選択と解釈に重要な誤りを含む傾向にある。あるいは事例によっては、「甚だしい曲
解あるいは証拠の無視」をもって主張がなされているものもある(Schopler, Yirmiya, Shulman & Marcus,
2001, p13)。
歴史的に、自閉症児とその家族にとっての治療状況は、数十年もの間、有効性を支持する実証的な証拠
のないまま行われてきた心理療法によって曇らされてきた。今日、家族は一連の介入(それは評価されて
おらず、自閉症児を害するリスクすらある)に多大な時間と資金を費やしている。例えばファシリテーティッ
ド・コミュニケーションの研究では、ファシリテイターの存在が子どもをより受身的にし、コミュニケーションを
自発する可能性をより低くしている、という事実を明らかにしている。さらに、米国の数多くの学校や学校
区では、広範囲な教育課程を犠牲にしてファシリテーティッド・コミュニケーションへ資源を集中させること
- 14 -
が行われた。そして子どもは「ファシリテートされて」書いたとされるすばらしいタイプ原稿に基づいて普通
クラスに移され、子どもには非現実的な期待が与えられ、その結果、関係者全員に多大なストレスをもたら
した(Howlin, 1997)。わずかな証拠しかなく、潜在的なリスクも存在するため推奨できない生物学的治療
や自然療法による治療も同じことである(Perry & Condillac, 2003)。これらにはビタミンB6やマグネシウム
を相当量投与するものも含む。この治療結果のレビューで、Pfeiffer, Norton and Shott(1995)は、5%の治
験者に感覚性ニューロパシー、頭痛、うつ、嘔吐、光過敏性の副作用が現われたと報告している。
介入の結果を評価する調査者にとっての重要な課題は、それらの結果報告で被験者の自閉症スペクトラ
ム障害の性質の叙述が千差万別であったり、正確さを欠いていること、そして結果を測定するテストがまた
多様であるため、異なる治療の比較を困難なものにしていることである。このレビューで取り組まれる課題
は、入手できる調査エビデンスを要約し、そのエビデンスがどの程度健全なものであるかを考慮すること
にあり、さらに可能であればそれらのエビデンスがどの程度、オーストラリアで自閉症児とその家族が利用
可能なプログラムに関連するかを示唆することにある。このレビューの焦点は、自閉症の幼児とその家族
のための「早期介入」についてである。それは自閉症児の治療と処遇に関する研究がどこまで行われてき
たか、についての理解を促進し、家族と専門家に知識を与えるためにより健全な実証的研究が必要であ
ることに注意を喚起することを目的とする。
介入の分類
一連の利用可能な自閉症への介入は広範囲に及んでおり、異なる著者によるいくつかの異なった方法
での分類がある。Mesibov, Adams & Klinger(1997)は、介入方法を3つの主要グループに分類している。
・
生物学的
・
精神力動的、そして
・
教育的
このレビューでは、生物学的、精神力動的治療を簡潔に取り扱い、教育的介入に焦点を合わせる。教育
的介入が我々の主要な報告対象ではあるが、精神力動的、生物学的方法に関する調査のレビューも含
まれる。なぜなら、家族は二つ以上の方法を、しばしば同時に追求する傾向にあるからである。例えばオ
ーストラリアの多くの子どもたちが、教育的プログラムに登録されていると同時にまた、一つあるいはそれ
以上の生物学的介入(薬物治療、食事療法、あるいは重金属中毒に対する治療など)を受けている。多く
のしばしば高価な、時には子どもに侵襲性のある治療選択肢に、特にそれら介入の効能についての科学
的証拠が見出せないままで直面する家族のジレンマについて留意することが重要である。
教育的介入はスキル(技能)の発達と対人関係の発達に焦点を合わせた介入である。それらは、スキル
発達に焦点を合わせている行動的介入、対人関係の発達に焦点を合わせた発達的介入、コミュニケー
ションあるいは感覚運動(これらのプログラムは通常、他のプログラムと併用で実施される)などの特定の
領域に焦点を合わせた療法的介入、親が子どものスキルおよび対人関係の発達を促すことを可能にする
ことに焦点を合わせた家族的介入、あるいは上記の一つまたはそれ以上を組み合わせた複合的介入に
分類できる。
- 15 -
3.生物学的介入
薬物療法
自閉症者への介入の主役は、依然としてコミュニケーションと行動的戦略を取り入れた個別教育だが、薬
物療法もまた、不安症や鬱(うつ)、多動といった自閉症の併発症状やその他の行動問題のコントロール
に一定の役割を果たしうる。生物学的介入には 2 つのアプローチがある(Gringas, 2000)。そのひとつは、
「万能薬的アプローチ」と呼ばれるもので、自閉症を引き起こす単一の生物学的原因がある、という前提
に基づき、自閉症の中心をなす社会性の障害に効果をもたらすものとして主張されることが多い。「奇跡
の治療」と称されるそうした主張はあとを絶たないが、そうした主張が科学的に裏付けられたケースはこれ
までのところ存在しない。最近の例としては、セクレチンが挙げられる(Ian Dempsey & Foreman, 2001)。
セクレチン投与はその経済的負担にも拘わらず、子どものために薬を確保しようとする親の熱意によって
大ブームとなったが、ランダム化比較試験(randomized control trial)はどれも、プラセボを超える有効性を
示せなかった(Williams, Wray, & Wheeler, 2005)。
もうひとつは、「処方薬的アプローチ」と呼ばれるものである。このアプローチは、個人の医学的、発達的・
介入的、および精神・社会的ニーズについて包括的なアセスメントを行う。療育への反応や改善を阻害す
る可能性のある行動上の問題を特定し、その後で、それらに対して薬物療法が効果を発揮できるかどうか
を考えていく。このアプローチにおいては、薬物が、自閉症の主要な社会的特徴に働きかける訳ではな
いことが強調されている。薬物投与の目指すゴールは、自閉症者が自律的に教育および心理学的・社会
的介入に取り組めるよう、その阻害要因となっている問題行動を軽減(必ずしも根絶ではない)することに
おかれる。薬物投与の対象となる問題行動には、ADHD 患者に見られるような注意欠如や多動、さらに
は、儀礼的・強迫的行動、自傷、睡眠障害などが含まれる(Gringas, 2000)。
自閉症者への薬物投与の基本原則は次のようなものである。
·
ベースラインの測定と、標的となる症状の同定が行われていること
·
薬物投与の前、中、後に慎重なモニタリングがなされること
·
最少量の投与から始め、必要がある場合には、徐々に増量すること(ゆっくり始め、ゆっくり進め)
·
適切なインフォームド・コンセントが実施されること
·
特定の薬物の投与のやり方を、介助者と相談すること
残念ながら、上記の基本原則が守られていないという報告が、多くの自閉症患者の子どもを持つ家族か
らなされている。彼らの共通の懸念は、薬物投与の代替策や補完的な非医学的介入が検討されないこと、
及び継続的な経過観察の欠如である。こうしたケースはとくに、オーストラリアの大都市圏外に住む家族
に見られる。
なお、今日現在において、自閉症者(子ども・大人ともに)向けの特定効能を公認された薬物は存在して
- 16 -
いない(Silove, 2003)(訳注:2006 年 10 月にアメリカのFDAがリスペリドンを自閉症小児の自傷や攻撃行
動の治療に使うことを承認している)。
小児精神薬理学研究機関ネットワーク (RUPP)
アメリカ国立精神衛生研究所は、1997 年、5 つの自閉症治療専門の大学付属医療センターに資金提供
し、それらをリンクした RUPP 自閉症ネットワーク を創設した(King & Bostic, 2006)。RUPP ネットワークは、
自閉症治療に広く用いられている、もしくはその薬効を期待されている薬物について、その安全性と効能
を調査することを目的としており、これまでのところ、リスペリドンとメチルフェニデートをその調査研究対象
に選択している。リスペリドンに関する初期の比較試験(controlled trial)において、その対象行為・症状は、
社会不適応性、常同行動、攻撃性、自傷、破壊行為とされた。RUPP の行ったリスペリドンの比較試験の
結果は 2002 年に公表された。それは、将来、自閉症者の行動障害に対して、リスペリドンが処方される端
緒になるかも知れない(訳注:上記のとおり 2006 年に米国FDAによって使用が承認された)。McCracken,
McGough, Shah (2002)は、リスペリドンによって、攻撃性、多動、癇癪(かんしゃく)といった行為・症状が
すべて改善されたと結論づけている。ただし、その副作用として、体重、心拍数、血圧、疲労感、眠気、め
まい、よだれの増加が挙げられている。錐体外路系症状の判定(例えば、震え)においては、ブラインド比
較対照試験を行ったグループ間で有意な差は見られなかったが、錐体外路系副作用の可能性を最小に
するための予防措置として、リスペリドン投与を中止する場合には投与量をゆっくりと減らすことが提言さ
れている。
RUPP ネットワークは先ごろ、2 番目の大規模な比較試験であるところの、広汎性発達障害(PDD)および
注意欠陥多動性障害(ADHD)の特性を併せ持っている子どもを対象とした、メチルフェニデートに関す
る比較試験を完了させている。その初期報告においては、薬効は一部に認められるものの、すでに報告
されている ADHD のみの特性をもつ子どもに対する有効率よりも低いことが指摘されている(King &
Bostic, 2006)。
RUPP ネットワークでは、薬物投与と行動療法の組み合わせに関する追加的な調査も進行させている。
自閉症先端研究・治療 (STAART) ネットワーク
2000 年児童保健法の制定以後、米国議会は新たな自閉症研究ネットワークの創設を命じる法律を制定
している。これによって、米国内の 5 つの研究機関が自閉症先端研究・治療 (STAART) ネットワークプ
ログラムを実践に移している。幾つかの STAART のサイトによれば、薬物療法の対象行為・症状は、子ど
もの自閉症患者の常同行動、情緒・不安障害となっている。現在、シタロプラム(抗鬱剤)、フルオキセチ
ン(抗鬱剤)のそれぞれについての研究が並行的に進められている。
薬剤の種類
興奮剤(例:メチルフェニデート、商標名 リタリン)
興奮剤は注意欠如や多動の改善に最も効果の高い薬物であり、自閉症スペクトラム障害患者への投与
は増加傾向にある。しかしながら、最大 1/3 程度の患者は興奮剤に特異的反応を示すことがあって、多動、
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常同行動、情動不安や運動チックなどの症状がむしろ憎悪する場合がある(Di Martine, Melis &
Cianchetti, 2004)。
定型抗精神病薬
定型抗精神病薬は統合失調症の治療薬として開発されたものである。このカテゴリーには、ハロペリドー
ルやフルフェナジン、トランキライザーといった薬物が含まれる。これらの薬物は実証的に、自閉症児のあ
らゆる行動機能をゆるやかに改善するのに効果があるものとされるが、一方で、筋肉硬化(ジストニア)、
静止不能(アカシジア)、不随意運動(ジスキネジア)などの錐体外路運動系への顕著な副作用もある。長
期間の投与は、治療不能な遅発性ジストニアの発生させる可能性を高める為、推奨されない。投与を中
止する場合もジスキネジアを生じさせないよう、時間をかけて徐々に投与量を減らすべきである。
非定型抗精神病薬
非定型抗精神病薬は、上記のような定型抗精神病薬がもたらす錐体外路系への副作用を最小化するこ
とを目標に、最近 20 年間に開発されたものである。このカテゴリーには、クロザピン、リスペリドン、オラン
ザピン、ジプラシドン、クエチアピンといった薬物が含まれる。これらの薬物は、定型抗精神病薬に比較し
て、錐体外路系への副作用は小さい。子どもに対するリスペリドンの臨床比較対象試験の概略について
は、前述の RUPP が行った試験結果を参照されたい。成人の自閉症患者に対する臨床比較試験におい
ても、常同行動、攻撃性、癇癪、不安症といった症状のいくらかの減少が報告されている。ただし、言語
や社会行動における改善は確認されていない。同様の結果はオランザピン、クエチアピン、ジプラシドン
の非盲検試験でも得られている(King & Bostic, 2006)。 また、5 人の子どもの広汎性発達障害患者に対
してアリピプラゾールを投与したところ、すべての項目に関して効果が確認され、また体重増加の副作用
は低いと考えられるという最新の研究結果も報告されている(Stigler, Posey, & McDougle, 2004)。
選択的セロトニン再取り込み阻害剤
このカテゴリーに属する薬物は抗鬱剤として開発され、強迫性障害や不安障害に有効であると認められ
ている。セロトニン再取り込み阻害剤には、三環系抗鬱剤の塩酸クロミプラミン、混合抗鬱剤のヴェンラフ
ァキシン、そして選択的セロトニン再取り込み阻害剤であるフルオキセチン、サートラリン、パロキセチン、
フルヴォクサミンそしてシタロプラムなどが含まれる。自閉症の深刻な症状を軽減させるセロトニン再取り
込み阻害剤の効用は、自閉症患者の多くに見られるセロトニン異常と、脳内セロトニン合成のパターン変
化に関連付けられるものと考えられている。Mesibov, et.al. (1997)は、クロミプラミンが、てんかんの発作閾
値を降下させる可能性があるとして、投与には充分な注意が必要であるとの考えを示している。
子どもおよび未成年者に対するフルオキセチンの効能の比較試験においては、子どもの広汎性発達障
害(PDD)患者の常同行動の減少に効果があったとする結果がもたらされている(Hollander, Phillips, &
Chaplin, 2005)。一方、子どものPDD患者を対象とするフルヴォキサミンの比較試験においては、かなり
効果が限局されただけでなく、顕著な行動活性化の副作用が認められた(Martin, Koenig, & Anderson,
2003)。 数人の研究者が、自身の臨床経験上、行動活性化が認められ、同時に躁状態誘発の懸念もあ
ると報告している。
サートラリン、シタロプラム、エスチタロプラム、ミルタザピンに関する非盲検試験では広汎性発達障害
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(PDD)を持つ子どもに対して、不安障害、攻撃性、儀式的行動、こだわりなどの症状の改善が報告され
ている。稀ではあるが、選択的セロトニン再取り込み阻害剤を投与された自閉症スペクトラム患者に、錐体
外路系副作用がみられたとする報告もある(McDougle, Kresch & Posey, 2000)。
GABA 作動性薬
ベンゾジアゼピンは自閉症患者の行動障害を悪化させる可能性があることがよく知られている(Marrosu,
Marrosu & Rachel, 1987)。広範性発達障害を持つ子どもおよび未成年者に対して行われたトピラメイトに
関する遡及調査においては、注意欠陥・多動性障害に関して顕著な改善が見られた。ただし、2 人の患
者に認知能力低下が報告されており、比較試験でこの懸念が払拭されることが待たれている。
グルタミン酸作動性薬
グルタミン酸の放出を調節する働きを持つラモトリジンについては比較試験が行われている(Belsito, Law,
Kirk, Landa, & Zimmerman, 2001)。 しかし、偽薬との比較で有意な改善は報告されていない。D-サイク
ロセリンに関する単盲検による実験的研究では、10 人の子どもに対して8週間、D-サイクロセリンを投与し
たところ、引きこもりや過敏性に関して顕著な改善を見ている(Posey, Kem, & Swiezy, 2004)。 アマンタジ
ンの比較試験は、限定的な有効性しか報告されていない(King, Wright, & Handen, 2001)。
ノルアドレナリン作動性薬
アトモキセチンの自閉症スペクトラム患者への投与に関する研究結果はこれまでのところ公表されていな
い。塩酸クロニジンに関する二つの二重盲検比較試験では、自閉症スペクトラム患者に対して、多動、攻
撃性、癇癪の症状改善への有効性が報告されている。クロニジンの副作用としては、眠気、耐性発現(訳
注: 投与量を徐々に増やさなければ同様の効果が得られなくなること)、投薬中止の際の高血圧クリー
ゼのリスクなどがある(Fankhauser, Karamanchi, & German, 1992)。
コリン作動性薬
リヴァスチグミンに関する、3∼12 歳の自閉症スペクトル障害を持つ被験者 32 人に対する 12 週間の非盲
検試験では、自発的会話および全体的な自閉症の行動障害の改善が報告されている(King & Bostic,
2006)。 ドネペジル(コリンエステラーゼ阻害薬のひとつ)の遡及試験においては、癇癪と多動に対する
効果が報告されているが、反復的な独り言や無気力に関しては無効であることが報告されている(Hardan
& Handen, 2002)。
ベータ遮断薬
ベータ遮断薬が自閉症患者の不安症や攻撃性を減じる効果については、まだ十分研究が行われていな
いが、アテノロールやプロプラノールは、すでに自閉症患者の不安症を和らげる目的で一部で使用され
ている(Mesibov, 1998)。
オピオイド作動性薬
ナルトレキソン
ナルトレキソンはオピオイド拮抗薬である。自傷行為の際に体内に放出されることが仮定されるオピオイド
を抑制することによって、自閉症の症状を軽減することに効果があるのではないか、と考えられている。
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Sikich (2001)の示唆によれば、ナルトレキソンが自閉症の子どもの多動、衝動性のある程度の改善に有
効かも知れない、というかなり一貫したエビデンスがある。しかし他方で、研究結果の再現実験の信頼性
には問題があり、成人に対する効果は明確でなかったり、時には否定的なものである。Perry and
Condillac (2003)は、ナルトレキソンの有効性は実証されていないと示唆している。
抗けいれん薬
てんかんは、自閉症患者の 3 割にみられ、主に思春期に発症する(Mesibov, 1997)。自閉症状を持つて
んかん罹患者にも、その他のてんかん罹患者と同じように抗けいれん薬が投与されている。情緒安定剤
であるヴァルプロエイトは米国国立精神衛生研究所の主宰で治験が進められている。また、同じく情緒安
定剤のカルバラマゼピン(テグレトール)は、てんかん罹患者でない自閉症患者で、とくに強い攻撃性の
改善に用いられている(Mesibov, 1998)。
まとめ
これまでに述べられてきた薬物の大部分について、長期的な効果と副作用の可能性をアセスメントする
ために十分な調査結果が不足していることに注意すべきである。過去の比較試験での被験者の数も、試
験結果を一般化するには総じて十分とは言えない。より多くの被験者を用いた追試が喫緊の課題であ
る。
薬物療法は、自閉症者の生活の質や進歩を損なう諸症状の治療に、時折一定の役割を果たしうる。薬物
によって最も効果が得られやすい症状には、多動、衝動性、攻撃性、不安症、自傷、強迫行動などがある。
しかし、自閉症の中核的な特性に有効な生物学的治療は、今のところ報告されていない。定型及び非定
型の抗精神病薬は、自閉症の多くの症状に対して最も有効性を実証された薬物だと考えられる。しかし、
その潜在的副作用については極めて懸念が多く、長期投与に関しては否定的にならざるを得ない。
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4.補完代替医療 (CAM)
補完代替医療(CAM)とは、Panel of definition and description (1995)によれば、「支配的な医療システム
の外にあるすべての保健・医療システム、その様式および実践、それに付随する理論・信念を含む広範
囲にわたる治療手段」と定義されている。また、American Academy of Paediatrics (2001)によれば、「治療
の有効性に関する基準として、無作為比較臨床試験あるいは生医学界のコンセンサスのいずれをも満た
さない治療方法」とされている。
補完代替医療について、Levy & Hyman (2005)は次にように述べている。 「小児発達治療において、自
閉症スペクトラム障害の子どもに関する治療手法の選択ほど多くの論争のある分野はない。補完代替医
療は、自閉症の個別症状に対処するのではなく、自閉症を引き起こす根源に対処するものと理解されて
いるため、人気が高い。科学・医学界に受け入れられるような特定の生医学的原因が、自閉症に関して
未だ特定されていないことが、現在の神経科学の科学的理解と相容れない多数の仮説の増殖を許して
いる。」
Levy & Hyman (2002)は、非伝統的(non-traditional)治療法の安全性と有効性についてのレビューで、そ
うした治療法を以下の 4 つに分類している。
1. 未実証だが無害な生物学的治療で、広く用いられているが、理論的根拠はないもの
2. 未実証だが無害な生物学的治療で、なんらかの理論的根拠を持つもの
3. 未実証で、有害な可能性のある生物学的治療
4. 生物学的治療ではないもの
最初の範疇には、B6とマグネシウムなどのビタミンサプリメント療法、胃腸薬療法、抗真菌剤療法が、第
二の範疇には、グルテン・カゼイン・フリー・ダイエット、ビタミン C 療法やセクレチン療法が、第三の範疇に
は、キレーション、免疫グロブリン療法、ビタミン A や抗生物質、抗ウィルス剤およびアルカリ塩の大量投
与、予防摂取の差し控えが含まれる。第四には、聴覚統合訓練、インタラクティブメトロノーム、頭蓋マッサ
ージ、ファシリテーテッド・コミュニケーションが含まれる。
伝統的手法による治療的介入は主として、自閉症者に特徴的な症状や行動に焦点をあてており、「奇跡
の治癒」を約束するのではなく、漸進的なアプローチをとる。自閉症児の親にとって、自由に宣伝されてい
る治療・介入法に関する情報の氾濫に関して、批判的な評価を行うことはとても困難なことである。親たち
によれば、インターネットは、治療法に関する最大の情報源であり、セミナー、本、他の親からの口コミ情
報がこれに次ぐ。また、これらの情報源は、しばしば裏付けの取れないたくさんの情報を提示しており、親
が自分たちで評価しなければならない。
このことは、信頼できる客観的情報やエビデンスによる評価、そしてこれらの情報に通じた保健・医療機関
が必要であることを示している。Levy & Hyman (2005)は、家族や臨床家が自閉症児の治療法を決めると
きには、市場ではなく、エビデンスが第一の情報源となるべきである、と述べている。
本稿ですべての補完代替医療について述べることはできないが、よく知られた治療介入法を以下に取り
- 21 -
上げる。
食餌療法
最も人気のある補完代替医療アプローチは、グルテンないしカゼインもしくはその両方を含む食物を摂取
しない、という食餌療法である。主に 4 つの互いに重なり合う生物学的理論がこの食餌療法を支えている。
すなわちオピオイド過剰、ペプチターゼ活性不良、免疫不全もしくは自己免疫、胃腸の異常である。グル
テンやカゼインは腸内で麻薬作動性物質(opiate agonist)に分解される(Teschemacher, Koch & Brantl,
1997)。自閉症児には腸に異常な漏れがあり、そのためこれらの代謝物が中枢神経系に到達し、強度の
脳内麻薬活動(brain opioid activity)を引き起こし、脳の機能を妨害する、と仮定されている。
麻薬拮抗薬を用いた臨床試験は、当初主張されたほど成功しなかったが、多動及び自傷行為に関して、
少数の自閉症児には、ある程度の効果があるかも知れない( Kolmen, Feldman & Handen, 1995,
Willemsen-Swinkels, Buitelaar, & Van Engel,1996)。しかし「漏れのある腸理論(leaky gut theory)」は、厳
格な科学的調査も十分なエビデンスもなく、依然、論争的なものに留まっている。
Christianson & Ivany (2006) は、自閉症スペクトラム障害における食餌療法の役割に関する科学的エビ
デンスのレビューを行った最新の文献である。彼らはこの論文において、これまでの研究はいずれも実験
デザインに重大な欠陥があり、それがこれらの研究によって見いだされた知見に対する信頼性を損なっ
ている、と指摘している。また彼らは、今後の二重盲検比較試験はグルテン、カゼインのどちらかではなく、
両方を排除すべきであり、また結果の測定には非言語的認知面の測定を含むべきだ、と示唆している。
食餌療法については、重大な副作用は確認されていないものの、元々偏食の多い自閉症者にさらなる食
餌制限を加えることへの懸念も挙げられている。
キレーション (DMSA、リポ酸、クレイバス、天然キレート剤)
自閉症治療におけるキレーションの有効性について、査読を経た公表論文は存在しない。自閉症児のお
よそ 1/3 に、2 才代において発達の重要な指標における明らかな退行が認められることが知られており、そ
こから、予防接種がこの退行および自閉症の原因ではないかとする理論が生まれた。
予防接種悪玉説の根拠のひとつは、エチル水銀誘導体で不活性ワクチンの混合接種薬瓶内での安定
剤として使われるチメロサールである。麻疹・おたふく・風疹の三種混合ワクチンなどの生ワクチンにはチ
メロサールは含まれていない。またチメロサールはもはや子ども向けのワクチンには、2 種混合(DT)イン
フルエンザワクチンを除いて、使用されていない。オーストラリアにおいては、過去にチメロサール含有ワ
クチン接種が行われていた時でも、1 人あたりの接種回数は最大で 6 回であり(三種混合、B 型肝炎、凍
結乾燥へモフィルスインフルエンザ b 型、各 2 回ずつの接種)、その場合でも WHO の定める最大許容摂
取量(3.3μg/kg /週)を下回っている(MacIntyre & Leask, 2003)。
デンマークでは、1992 年に子供用ワクチンへのチメロサール使用を禁止している。そのため、この禁止措
置の前後での自閉症報告率の変化を見ることが可能である(Madsen, Lauritsen, & Pederson, 2003)。それ
によると、自閉症発生率はチメロサール禁止以前から増加していたが、この増加傾向はチメロサール禁止
以後も不変であった。両者の関連性は特定できず、因果関係に関する示唆は得られなかった。神経系を
侵された鉛中毒のケースでも、鉛のキレーションによる神経機能の改善は確認されていない。DSMA キレ
ーションでは、腎臓および肝臓への毒性がモニターされなければならない。有効性のエビデンスがないう
えに、重大な危害および毒性の可能性があることから、この介入法については、極度の注意が必要であ
る。
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イースト過剰増殖 (プロバイオティクス、抗真菌剤、イーストフリーダイエット)
この介入方法は現在でも人気があるが、この治療法の有効性に関する臨床試験は、いまのところ査読誌
には報告されていない。フルコナゾールのような抗真菌剤の長期使用に関しては、肝臓への毒性や剥離
性皮膚炎への警戒が必要である。ナイスタチンは吸収されにくく、下痢を引き起こしやすい。イーストは正
常な状態で腸内および便に共生するものであり、腸内のカンジダの異常増殖が内視鏡で確認されたこと
もない、ということに留意すべきである(Wakefield, Murch, & Anthony, 1998)。
消化酵素
消化酵素投与の有効性について、厳密な科学的研究は存在しない。しかしながら、非盲検臨床試験に
おいて、約 15%の被験者に重大な副作用があったと報告されている(Brudnak, Rimland, & Kerry,
2002)。
セクレチン
セクレチンは小腸で分泌されるペプチドホルモン物質で、すい臓の分泌物を増やす作用を持ち、自閉症
児の胃腸機能を検査するために臨床的に用いられる。セクレチン投与の結果、劇的な自閉症状の改善
がみられたとする報告は、自閉症治療薬としてのセクレチンの可能性に関する広範囲の関心を惹起させ
た。しかしながら、数度の無作為化比較試験はいずれもセクレチンの有効性を立証することに失敗してい
る(Williams, et al., 2005)。Perry and Condillac(2003)は、セクレチン、フェンフルラミン、ナルトレキソンおよ
びアドレノコルチコトロフィン(ACTH)は、自閉症の子どもや未成年者にとって無効あるいは有害性が立
証されている、と指摘している。
三種混合ワクチンの不接種
ロンドンの王立自由病院の Wakefield 博士をリーダーとする研究者グループは、クローン病を罹患した少
数の子どもの経過観察にもとづいて、野生株及びワクチン株の麻疹ウィルスと炎症性腸疾患(IBD)との関
連性を示唆した(Wakefield, Pittilo, & Sim, 1993)。同じ研究グループは、1998 年、別の 12 人の子どもに
関して、自閉症などの発達障害を伴う、非定型 IBD の従来知られていない症候群に関する叙述をした
(Wakefield et al.,1998)。彼らは、麻疹・おたふく・風疹の三種混合ワクチンが IBD を引き起こし、その結果、
必須ビタミンや栄養素の小腸からの吸収が減少し、さらにそれが自閉症を含む発達障害を引き起こすの
ではないか、と推論した。
世界各国の複数の専門家グループが、示唆された関連性は弱いものであり、またこれらの研究には重大
な欠陥があったことを見いだしている。これらの研究は、対照群を欠き、盲検でなく、バイアスがかかって
いる可能性があり、因果関係や有害性をテストするようにデザインされていない。ワクチン接種と自閉症と
の関連づけは、主に親の想起(recall)に基づいており、したがって想起バイアスに服する(MacIntyre &
Leask, 2003)。数多くの大規模な疫学研究が、三種混合ワクチン(もしくはその他のいかなるワクチン)と自
閉症の因果関係をなんら示唆していない(Dales, Hammer, & Smith, 2001; Demicheli, Jefferson, Rivetti,
& Price, 2005; MacIntyre & Leask, 2003; Madsen, et al., 2003; Patja, et al., 2000)。
ビタミン B6 とマグネシウム
自閉症治療のためのビタミンの大量投与への関心は、一部の精神障害はある種のビタミンやミネラルの
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相対的な不足によるものかもしれない、という 1960 年代の理論から、発生している。ビタミン B6 は、それ自
体がいくつかの神経伝達物質の化学合成に組み込まれていることから、特別な関心がもたれている。マ
グネシウムはビタミン B6 大量投与に伴う副作用を軽減するために併用して投与される。コクランレビュー
によれば、この療法の効果に関する研究は、どれも比較試験の基準を満たしていない(Nye & Brice,
2003)。一方、Sikich(2001)は、限られた調査エビデンスをレビューしたところ、ビタミン B6 とマグネシウム
が一部の自閉症者には有効である可能性が示された、としている。しかし、薬剤を投与する際の困難さ
(苦み)に加え、反応を示した被験者においても、その効果は比較的小さかった(Sikich, 2001)。
Howlin(1997)は、感覚神経障害、頭痛、うつ、吐き気、光過敏などの副作用が報告されていることを示唆
し、ビタミン大量投与に対する注意を喚起している。
頭蓋オステオパシー
この療法は頭部を中心とした非常に穏やかなマッサージを行う。治療は数ヶ月にわたることがあり、その効
果は、多動のわずかな減少から、コミュニケーションの大幅な改善まで様々だとされている。しかしながら、
このアプローチに関する適切な評価研究は存在していない(Howlin,1997)。
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5.精神力動的介入
はじめに
Kanner(1943)が最初に自閉症の記述を行ったとき、彼は、まず生物学的・遺伝的原因を推察した。しかし
彼はまた、彼が研究した子どもたちの両親に暖かさが欠けていたことや、両親が他人と機械的に関わる傾
向をもつことについても言及している。カナーや他の影響力のある理論家達は、おそらくこの当時支配的
であった精神力動的な風潮に影響されて、自閉症を、無意識のうちに子どもを拒絶する冷たい親−とくに
母親−によって引き起こされる情緒障害と推定したのである。
この推定はさらに、それを支持する実証的なエビデンスが存在しないにもかかわらず、「冷蔵庫ペアレン
ト」、あるいは「冷蔵庫マザー」理論へと発展した(Jordan, 1999)。 この理論及びそこから導かれた治療法
は、強制収容所を経験した生き残りであるベッテルハイム(Bettelheim, 1967)によって一般に広まった。彼
は、強制収容所の被収容者がトラウマを被ることによって、ひきこもり、不安症、鬱や常同行動の極端な症
状を示すことを直接観察していた。彼は米国で自閉症児が同じような症状を示すのを見て、この子どもた
ちは同じような極端なトラウマを経験したに違いない、そしてそのトラウマは子どもが大部分の時間を共に
過ごす人間、すなわち彼らの両親によって引き起こされたに違いない、と考えたのである。両親が子ども
の障害の主な原因と考えられたために、家庭からの引き離しと入居施設への収容が、しばしば治療として
推奨された(Bettelheim, 1967)。
深刻なトラウマを被った子どもたちが、一見自閉症の症状に合致する様々な行動を示す、というエビデン
スは存在する。このような例は、東欧で虐待と貧困を被った子どもたちがイギリスの家庭に引き取られたケ
ースで観察されている(Rutter, 1999)。しかし、この子どもたちの治療に対する反応は、自閉症児のそれと
は非常に異なったパターンを示したのである。
障害の原因になっていると仮説された親とのすべての絆を断つことと、精神力動的な遊戯療法とが、精神
力動的治療プロセスの主要な構成要素である(Mesibov et al.,1997)。 精神分析家は、このような介入に
よる自閉症児の劇的な治癒・回復例を挙げるが、親との別離、伝統的遊戯療法のいずれをとっても、その
効果を支持するエビデンスは事実上存在しない (Jordan, 1999; Mesibov, 1997)。
一部の研究者は、いまなお自閉症児への精神分析的アプローチに一定の支持を与えている。 例えば
Hobson (1990)は、精神分析的なアプローチが、物を介したやりとりや感情的な絆を強調する点で、有用
かもしれない、と示唆している。また Howlin (1997)は、年齢が上で、比較的能力の高い自閉症児・者には、
個別の心理療法やカウンセリングが、彼らの直面している困難や健常児との相違を自覚することから来る
不安や鬱症状に対処する助けになるかもしれない、と指摘している。
精神力動的介入の例
- 25 -
抱っこ療法
この介入はTinbergen &Tinbergen (1983)の著作に基づいている。彼らは、自閉症は「不安に支配された
情緒的不安定さ」によって引き起こされ、その結果として、社会的な引きこもりと、社会的やりとりからの学
習の失敗が生じる、と主張している。この不安定さは、母親と子どもとの間の絆の欠如から生じ、抱っこ療
法によって軽減できる、とされる。Howlin (1997)は抱っこ療法を、「意図的に不快を引き起こす目的で、子
どもを強く抱き、目あわせを確保し、子どもが慰めを求め、それを受け入れるまでそれを続けるプロセス」と
説明している(p.58)。このアプローチを評価する適切な調査エビデンスは見いだされなかった。
フェラプレイ(Pheraplay)
このアプローチは、DesLauriers(1978)によって開発された。DesLauriersは、自閉症は感覚障害の結果、
情緒的愛着が欠落したものだと主張する。フェラプレイは自閉症児の感覚障害を克服するのに十分なほ
どの強力な刺激的体験をもたらす最善の方法として提案されている。この介入は特定の遊びのスキルを
学習するのではなく、非常に刺激的な他者とのやりとりを提供することに焦点を当てている(Mesibov, et
al., 1997)。このアプローチを評価する適切な評価エビデンスは見いだされなかった。
まとめ
今日、オーストラリアの自閉症分野に関わる臨床家は、精神力動的アプローチをほとんど用いない。 自
閉症が情緒障害ではなく発達障害である、というエビデンスは強力なものであり、精神力動的介入に効果
がないことを示す実証的なエビデンスも今日では存在するからである(Mesibov et al.,1997)。
- 26 -
6.教育的介入−概観−
教育的介入には、行動的介入、発達的介入、療育的介入、複合的介入、家族支援などがある。以
下にその例を挙げる。
行動的介入
応用行動分析(ABA)
(早期)集中行動介入(EIBI/IBI)
現代型ABA(NLPなど)
発達的介入
発達的対人関係・語用論モデル (DSP)
フロアタイム
関係発達的介入
療育的介入
コミュニケーションに焦点を当てた介入
視覚的支援、拡大代替コミュニケーション(AAC)
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)
ソーシャル・ストーリー
ファシリテーティッド・コミュニケーション(FC)
機能的コミュニケーション訓練 (FCT)
感覚・運動的介入
感覚統合療法
聴覚統合訓練
ドーマン・デラカート法
複合的介入
サーツ・モデル
TEACCH
LEAP
その他の介入
武蔵野東学園・生活療法
オプション・メソッド
音楽療法
SPELL
キャンプヒル運動
ミラー法
家族支援
ヘイネンプログラム
「アーリーバード」プログラム
Prizant & Wetherby(1998)は、教育的諸介入は、厳格な伝統的行動介入(例えば IBI・ロヴァー
ス法)と発達的対人関係・語用論アプローチ(例えばフロア・タイム)を両極とする連続体上に
占める位置によって整理することができる、と示唆している。
彼らは、これらのプログラムは以下の各面でそれぞれ異なっている、と指摘している。
・前もって処方された教育法か柔軟なアプローチか
- 27 -
・大人に重きを置くか、子ども中心か
・子どもの自発性を強調する度合い
・子どもの行動への反応
・学習環境の自然さ
・子どもの発達に関する知見に依拠する度合い
・介入の社会的コンテクスト
・他の環境への般化の度合い
・直接教育の集中度、範囲、頻度
・子どもの能力を活用する度合い
・強化の種類
・問題行動への対処法
・データ収集のタイプと集中度
・学習における個人差を認め、利用する度合い
・健常のピアの役割
(Wetherby & Prizant, 1998)
教育的諸介入の連続体を以下に図示する。
<伝統的行動介入(DT-TB*)から関係発達的介入にかけての連続体>
伝統的行動
現代型 ABA
構造的関係発達的介入
介
例:NLP, ILT, PRT,
例:ヘイネン MTW, サ
enhanced milieu
ーツ、アーリーバード
入
(DT-TB)
例:ロヴァー
ス、CARD
複合的介入
関係発達的介入
例 : TEACCH, サ ー ツ ,
例:フロアタイム、フェ
LEAP
ラプレイ, ヘイネン、
ITTT
*訳注:DT-TB は Discrete-Trial Traditional Behavioral Interventions(ディスクリート・トラ
イアルによる伝統的な行動介入)の略
これらの介入法の優劣に関する論争に鑑みると、これらの諸介入の相違の性質と重要性を吟味す
ることが有用である。この編の末尾に、異なる介入法の比較研究を取り上げる。
- 28 -
7.行動的介入
はじめに
行動的介入は自閉症児に対して行われる最も一般的な治療方法の一つであり、これを対象とした研究も
かなりの数に上る(Ian Dempsey & Foreman, 2001)。この章には以下の諸項目が含まれる。(a) 基本的な
用語の定義、(b) 一般的に行われている介入プログラムに関する説明、(c) 行動的介入を対象とした研
究エビデンスの批評、(d)行動的介入プログラムの最近の傾向の概説。ここに提示される情報は、近年の
研究文献と政府機関によって委託された自閉症治療に関するいくつかの包括的なレビューから収集され
た。
定義
行動的介入はオペラント行動に対する行動変容法の技術が介入アプローチの主要な特徴をなすもので
ある(Francis, 2005)。行動的介入は、学習理論に深く立脚しており、ほとんどの人間行動は個人とその環
境の相互作用を通じて学習されるという前提に立っている。したがって、人間行動はその先行事象と結果
事象によって学習され、支配されると理論づけられている。簡単に言えば、子どもたちは正の強化(ほうび)
が得られた行動をより多く学習し、維持しやすく、逆に報酬を得られない(あるいは罰せられた)行動は学
習したり維持したりしにくい。行動的介入は、注意深く環境を調整し、結果を提示することによって、標的と
なる望ましい行動を教え、増やし、その一方で不適切あるいは不適応行動を減らし、なくすことを目的とす
る。
McGahan(2001, p.9)によれば、「行動的介入の方略は時系列的に生起する次の 3 つのカテゴリーに分類
される」。
1. 標的行動が生起する前の先行条件への介入
2. 標的行動が生起した後の結果への介入
3. 新しいスキルを教えたり、不適応行動の頻度や程度を減少させるために代わりとなる適切な行動を教
えるためにデザインされたスキル形成介入や行動的テクニック (Cohen & Volkmar, 1997)。
現在の行動的介入はますます包括的で複雑になる傾向にある。その特徴は、様々な介入テクニック、高
度な構造化、精密な教育テクニックを用いながら、高密度に強化を提示すること、などにある。子どもたち
一人一人にもっとも効果的な強化子を見つけるために機能的アセスメントが用いられる。介入は、標的行
動ならびに関連したスキル領域で長期的かつ全般的な行動の変化を獲得するようにデザインされている
(McGahan,2001)。行動的介入で使用されるアプローチは進化しつつあるが、応用行動分析(ABA)と不
連続試行法(DTT)は、依然としてほとんどの行動的介入プログラムの中心的特徴をなしている(Francis,
2005) 。
- 29 -
応用行動分析(ABA)
応用行動分析(ABA)は、標的行動の増加、減少、維持、般化を図るために、学習理論の諸原則を、系統
的かつ計測可能な方法で適応する介入法である(Sulzer-Azaroff & Mayer, 1991; Sulzer-Azaroff & Mayer,
1977)。ABA の目的は、社会的に有意義な行動をある程度にまで改善することである(Sulzer-Azaroff &
Mayer, 1991)。これらの行動に含まれるのは、文字の読みやその他のアカデミックスキル、ソーシャルスキ
ル、コミュニケーション、適応的な生活スキルなどである。適応的な生活スキルには、粗大運動や微細運
動、食事や食事の準備、排泄、衣服の着脱、個人的なセルフケア、家事スキル、時間の管理、金銭と価
値の理解、家庭や地域社会への順応、労働のスキルが含まれる(Francis, 2005)。Sulzer-Azaroff & Mayer
(1991)によれば、介入結果の評価は観察可能な行動の継時的な(すなわち介入前と介入後の)変化を客
観的に測定することによって行われ、それをもとに、進行中の治療と改善のための新たな目標選定と方針
決定が行われる。
自閉症児に対しては、ABA は以下の目的で用いられる。
・ 行動を増やす(例:強化手続によって課題従事行動や社会的な関わりを増やす)
・ 新しいスキルを指導する(例:機能的な生活スキル、コミュニケーションスキル、ソーシャルスキルを指
導するための、系統的な指示、シェィピング、モデリング、強化手続の使用)
・ 行動を維持する(例:仕事に関連した社会スキルを維持し、般化させるためにセルフコントロールやセ
ルフモニタリングの方法を教える)
・ 行動を 1 つの状況ないし反応から他の状況ないし反応へと般化ないし移行させる(例:リソースルーム
で指示された課題を完成させる行動から、通常学級の教室でも同様に振る舞わせることへ)
・ 問題行動を生起させる状況を制限ないし狭める(例:学習環境を修正する)
・ 問題行動を減らす(例:自傷や常同行動)(MADSEC, 2000)
応用行動分析の様々なプログラムは、次の諸要素によって特徴づけられる。
・ 問題行動や、不足している行動スキルを選定する
・ 新しいスキルの習得などの目標を特定する
・ 標的行動を測定する方法を確定する
・ 現在のパフォーマンスレベルを測定する(ベースライン)
・ 新しいスキルを教えたり、問題行動を減らしたりする介入をデザインし、実行する
・ 標的行動の測定を継続することで、介入の効果を判定する
・ 介入の効果を継続的に評価し、もし必要なら、介入の効果や効率を維持しあるいは改善するための
修正を行なう(MADSEC, 2000)
ディスクリート・トライアル・トレーニング(discrete trial training, 不連続試行訓練, DTT)
ディスクリート・トライアル・トレーニングでは特定のスキルを、始まりと終わりのはっきりした(discrete)小さな
構成要素あるいはステップに分割して、それを一つ一つ教えていく。この訓練はしばしば子どもと親ある
いは教師との一対一のやりとりのなかで行われ、各ステップで成功に対して強化子が与えられる(Francis,
2005)。訓練では一連の試行(trial)を提示する。それぞれの試行は次の 4 つの構成要素から成る。
(1) 指導者やセラピストは短くはっきりとした指示あるいは質問(刺激)を提示する(例:「スプーン持って」)
(2) 子どもの正反応を引き出すために必要であれば、指示の後にあらかじめ決めておいたプロンプト(例:
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指さし)を提示する
(3) 子どもは正反応もしくは誤反応をする(反応)
(4) 指導者やセラピストはそれに応じた結果を与える
DTT は高度に構造化されている。刺激の選択、標的行動の基準、強化の方法は、それぞれの試行が開
始される前に、あらかじめすべて明確に決められる。子どもの正反応のみが強化され、誤反応や逸脱行
動は無視される(Schreibman, Kaneko, & Koegel, 1991)。Wetherby & Prizant(2000)によれば、初期の力点
は、大人が指示や教示を行い、子どもがそれに応じて反応することに力点が置かれている。指導では、言
語プロンプトが多用されるものの、子どもが大人の話す言葉そのものを理解できるようにするために、文脈
的サポートは通常最小限に留められる(Whetherby & Prizant, 2000)。
ディスクリート・トライアル・トレーニングを推奨する人たちによれば、DTT と ABA は同義ではない。むしろ、
DTT は ABA というツールボックスにあるいくつかの指導テクニックの一つにすぎない。ABA のプログラム
で使用される方法には、その他にもチェイニング(行動連鎖)、シェイピング、段階的ガイダンスなどがある
(Francis, 2005; MADSEC,2000)。さらに行動分析に基礎をおく介入は、他の技術やアプローチをも包含
する方向にも進化を重ねつつある。たとえば PECS のような拡大代替コミュニケーションの導入がその一
例である。それにもかかわらず、最も頻繁に引用され、推奨される集中的行動プログラム(Lovaas, 1981:
Maurice, Green, & Luce. 1996)では、引き続き DTT に焦点が置かれ、これが自閉症の子どもを教えるのに、
第一に優先すべき有力な方略であるとされる。
集中的行動介入(Intensive Behavioral Intervention, IBI)あるいは早期集中行動介入(EIBI)
集中的行動介入(IBI)と早期集中行動介入(Early Intensive Behavioral Intervention, EIBI)は、集中的か
つ包括的な行動的介入を表す一般的な呼称である。深刻な行動上の障害も、集中的行動介入の治療対
象となりうる。提唱者たちは、自閉症児は周囲の環境から自発的に学ぶことが難しいので、事実上すべて
のことを教える必要がある、と指摘する(Green, 1995)。
「集中的」というのは、単に子どもが受ける治療の週あたりの時間数を指すだけではない。訓練やカリキュ
ラム、評価や計画、コーディネーションも集中的に行われる。「集中的」とは、少なくとも週 30 時間(できれ
ば 40 時間)の1対1の治療が、週 7 日間、2 年以上継続され、さらにその治療において、訓練されたセラ
ピストや教師が、慎重に計画された学習機会を高頻度に提供し、かつ高頻度に強化する、ということを意
味するのである。セラピーの効果が本当に般化するということは、新しく獲得された行動が様々な場面で
様々な人たちに対して出現するということであるから、行動的介入では、親や先生、きょうだいや友達など
を含めて、セラピーを行う人を広げて行く必要がある。家庭や学校での親やきょうだいや友人たちとの関
わりを通じて、一貫したセラピーが提供されること、それが般化を促進する完全なセラピー環境を作るうえ
での核心をなす(McGahan, 2000)。
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行動的介入の実例
(McGahan, 2001, 11-13 ページの抜粋を含む)
ロヴァース・プログラム
ロヴァース・プログラムは、ABAの諸原則に基づき、Ivaar Lovaas の指導の下、カリフォルニア大学ロサン
ジェルス校の早期自閉症プロジェクト(Young Autism Project)によって開発されたものである。集中的な(週
あたり 40 時間かそれ以上の)行動的介入技法を用いて、2~3 歳の子どもたちを 2~3 年にわたって治療す
る。プログラムの初期段階では、週 40 時間の1対1の DTT を通して、自助スキルや受容的言語スキル、
動作模倣や音声模倣、適切な遊びの基礎を教えることに重点が置かれる。親にも訓練が施され、子ども
が起きている時間のほとんどで介入が行えるようにする(Dawson & Osterling, 1997)。介入の第 2 段階で
は、表出的な言語と友だちとの相互的な遊びに力点が置かれる。さらに段階が進むと、家庭や学校で、
初期のアカデミックスキルやソーシャルスキル、因果関係、観察学習などが指導される。攻撃的行動や自
己刺激行動は、無視やタイムアウト、シェイピングの技法を用いて、また大きな声で「だめ」と言ったり、太
ももを叩くことでコントロールされる(Dawson & Osterling, 1997)。この治療法ではロヴァース・インスティテュ
ートで訓練を受けたセラピストの参加を前提としている。したがって、治療提供者への依存が、様々なコミ
ュニティ場面への治療効果の般化を妨げることもありうる(Health Technology Assessment Information
Service, 1999)。
ダグラス発達障害センタープログラム(Douglas Developmental Disabilities Program)
ラッガース(Rutgers)大学に設立されたこのプログラムは、ABA の諸原則と行動的介入アプローチに基礎
を置く(Dawson & Osterling, 1997)。子どもたちは隔離クラスから高度に構造化されたグループへ、さらに
統合されたクラスへと、3 つのプリスクール教室を段階的に進んでいく。隔離クラスではロヴァースモデル
に大きく依拠した集中的な 1 対 1 の DTT が行われる。第 2 段階の高度に構造化されたグループでは、
子ども 1 人に対して 2 人の指導者がつくセッションが行われ、統合クラスで必要とされるスキルを重点的に
指導する。統合クラスは部分的に LEAP(the Learning Experiences-An Alternative Program for
Preschoolers and Parents)に依拠している。このプログラムは自閉症児と健常児の両方のためにある。家族
のもとにはスタッフが月 2 回訪問する。また親や兄弟のサポートグループが用意されている(Dawson &
Osterling, 1997)。
メイ・インスティテュート
メイ・インスティテュートは ABA の諸原則と行動的介入アプローチに基づく発達段階に沿ったプログラム
を提供する。まず幼児とその家族に対して集中的な(週 15 時間の)家庭療育が提供される。家庭で訓練
を行うセラピストと親は 1 対 1 の介入を行って、自助スキルや言語、問題行動の削減などを重点的に指導
する。家庭に基礎を置いた訓練が完了すると、子どもはインスティテュートの 2 つのプリスクール・プログラ
ム、ステップ1クラスか統合クラスのどちらかに参加する。ステップ1クラスは自閉症の子どものみで構成さ
れ、指示に従うこと、模倣をすること、高度に構造化された小グループで課題に従事することなどの基礎
的スキルを、1 年間学習する。一方、統合クラスは発達障害児と健常児からなる。ここでのカリキュラムは
子どもたちが通常の幼稚園で必要とするスキルを重点的に指導する。サービス・コーディネーターが月に
一度家庭を訪問して、子どもの進歩と親の心配事について話し合いを行う。このプログラムでは外部機関
の紹介や、家族のためのグループサポートやレスパイト・ケアも行っている (Dawson & Osterling, 1997)。
- 32 -
自閉症プリスクール・プログラム
マニトバ大学を基盤とする自閉症プリスクール・プログラムは、ラッガース自閉症プログラムに類似した
様々な行動的・言語発達的な方法を使用する。このプログラムは、大学病院、地方行政機関、地域リソー
スなど多様な分野のスタッフがチームを構成するコラボレーティブなプログラムである。ここでは親やデイ
ケアスタッフが介入を管理する。デイケアスタッフは行動の機能分析を行なったり、行動の変容のための
方略を策定し、評価するやり方の指導を受ける (Health Technology Assessment Information Service,
1999)。
プリンストン児童発達研究所プログラム(PCDI, Princeton Child Development Institute Program)
PCDI の自閉症児プログラムは ABA の諸原則と行動的介入のアプローチを基盤とする。子供たちに対し
て最初に評価が行われ、それに従って基礎的スキルを標的とした個別の行動プログラムが作成される。
全日の治療プログラムに参加する子供たちは 1 日 5.5 時間、週 5 日、年 11 ヶ月、授業に参加する。子供
たちは 30 分ずつの授業に参加する。授業によって活動内容が変わり、教室や教師も変わることがある。
子供たちには別の活動への移行を容易にするために、絵カードスケジュールを用いることを教えられる
(Dawson & Osterling, 1997)。このようなアレンジが子どもの般化を容易にすることが示唆されている
(Health Technology Assessment Information Service, 1999)。また絵カードスケジュールは子どもたちが活
動を自発的に始めたり、選択をしたりすることを学ぶ助けになり、自立を促進する。進捗状況が定期的に
評定されて、個々の目標の見直しが行われる。学習したスキルを家庭でも最大限に般化させるために、ホ
ーム・プログラマーが家庭を月 2 回訪問して授業で達成された行動プログラムを家族が実行するのを援助
することもある(Dawson & Osterling, 1997)。
オンタリオ州の IBI プログラム
1999 年にカナダのオンタリオ州政府は、この地で支配的な早期介入の方法となっている早期集中行動介
入(IBI)に対して、支援を開始した。この大規模なプログラムの効果に関する最近のレポートは、適応行動、
認知、(自閉的)症状の面から子どもを評定した結果、子どもたちが以前の学習率の 2 倍の学習率を達成
したこと、(自閉的)症状が著しく軽減したことを見いだした。4 歳以前に介入を開始し、発達の遅れが軽度
かそれ以上の子供たちが特に好成績を示した。これらの子どもたちはかなりの割合で、認知及び(自閉
的)症状の面で正常域に達したのである。サンプル調査の他のサブグループの結果は様々であったが、
全体的に見て、IBI に関するこの評定は、この介入がコミュニティベースでも効果的であり得ることを示した
(Freeman & Perry, 2006)。
そのほかの ABA プログラムには、イーデンプログラム(Eden Programs)、児童学習センター(The
Childhood Learning Centre)、イエール児童発達(Yale Child Development)、バンクロフト(Bancroft)、ホラ
イズン(Horizon)、プリンス・エドワード島の ABA プログラム、ニュー・ファウンドランド島の ABA パイロットプ
ログラム、ノバスコシアの ABA パイロットプログラム、サスカチュワン ABA パイロットプログラム、アルバータ
ABA プログラムがある。もう一つ、the Comparative Applied Behavioral Analysis to Schooling Program
(CABAS)というABAアプローチもある。家族や保健専門家のためのABAマニュアルも入手可能なものが
多い。ソーシャル・ストーリーやソーシャルスキルトレーニングも自閉症児の治療に使用される行動的介入
である(Heflin & Simpson, 1998)。
- 33 -
行動的介入の研究エビデンス
早期集中行動介入(Early Intensive Behavioral Intervention, EIBI)
ロヴァース法(The Lovaas Method):オリジナル研究
Lovaas(1987)は、カリフォルニア大学ロサンジェルス校で開発された自閉症幼児のための行動療法プログ
ラムの評価を行った。被験者は 4 歳未満の自閉症児 38 名であった。子どもたちは二つのグループに振り
分けられた。19 名の実験群と 19 名の統制群である。実験群は、2~3 年にわたって週 40 時間の応用行動
分析による 1 対 1 の行動的介入を受けた。介入は家庭と学校場面で行われた。統制群は同期間、週 10
時間未満のセラピーを受けた。21 名の自閉症児からなる第 2 の統制群も近隣の施設で週 10 時間未満の
セラピーを受けたが、実験者による治療は受けなかった。
各対象児は治療前にアセスメントを受けた。測定項目は生活年齢、精神年齢もしくは IQ、経過観察や親
の報告に基づいた一連の行動評価である。それには自己刺激行動や認識可能な単語の表出、情緒的
愛着が含まれていた。対象児が治療群に属するか統制群に属するかを知らされていない独立した評価
者によって、治療後に再評価が行われた。子どもにはそれぞれ IQ テストが行われ、彼らがその時点で受
けていた教育的支援のレベルが記録された(たとえば、通常学級、支援クラス)。
以下のような治療結果が報告された。
·
治療群では、47%が「通常」学級で小学校一年次を終了し、IQ テストで平均かそれ以上のスコアを
記録した。2 つの統制群では、1 名のみが「通常」の一年生クラスに所属し、IQが正常域であった。
·
治療群のうち 8 名は言葉の遅れクラスに入学して無事一年次を終了し、平均IQ70(範囲 56−95)を
記録した。2 つの統制群では、計 18 名が言葉の遅れクラスに在籍した(平均IQ70)。
·
治療の後、治療群のうち 2 名が自閉症・知的障害クラスに所属することになり、重度の知的障害があ
ると判定された。対照的に、2 つの統制群のうち 21 名が自閉症・知的障害クラスに所属し、IQ の平均
値は 40 であった。
·
IQ 値の著しい上昇を見せた治療群と対照的に、統制群の IQ 平均値は上昇しなかった。治療後の
IQ 平均値は、治療群で 85.3、統制群では 53.3 であった。
Lovaas(1987)によって報告された実験結果は自閉症児治療の研究で先例のないものだったので、発表
以来、多くの論争の主題となってきた。数多くの研究者たちがこの結果に懸念を表明している。特に、こ
の研究に内在する方法論的な弱点から見て、「回復(recovery)」という主張について論争がある。1990 年
代後半に、Jordan, Jones, and Murray (1998)はこの研究に関する懸念を次のように要約している。
·
統制群は実験群に比べて平均 6 ヶ月年長であった。
·
結果の指標(IQ と教育的評価)は自閉症児が経験する困難の核心的領域の改善を反映していない
かもしれない。
·
IQ の得点は異なるテストを使って評価された。治療の前後に異なるテストを実施された子供たちもい
るので、結果の比較が信頼できないものになっている。
- 34 -
·
長期的なフォローアップのデータはそれぞれのグループで異なる時期に収集されていて、結果比較
の信頼性を損ねている。
·
実験群と統制群では性別などの変数が揃えられていなかった。
·
子どもたちのグループへの振り分けが完全な無作為ではなかった。
·
実験に照会された相当数の子どもたちが一定年齢に換算された精神年齢(prorated mental age,
PMA)に基づいて除外されている。したがって、実験群と一般の自閉症児との比較を行うのが困難に
なっている。
·
実験群の半数の子供たちに良好ではない結果をもたらした変数が示されていない。
Jordan et al. (1998)やその他の研究者たちによって提示されたこれらの問題の多くに対しては、Lovaas や
他の研究者たちの文献によって反論が行われている(たとえば、Lovaas, Smith, & McEachin, 1989;
McEachin, Smith, & Lovaas, 1993; Sallows & Graupner, 2005)。
ロヴァース法:フォローアップ
McEachin, Smith, & Lovaas(1993)は、Lovaas(1987)の研究に参加した子どもたちが平均 11.5 歳になった
時点で、実験の事後評価を行った。研究者たちは子どもたちの教育的位置を記録するとともに、それぞ
れの子どもに 3 種類の標準化されたテストを行った。すなわち知能テスト、ヴァインランド適応行動尺度
(Sparrow, Balla, & Cicchetti, 1984)、児童用人格目録(Personality Inventory for Children) (Wirt, Lachar,
Klinedinst, & Seat, 1977)である。実験者のバイアスを除去するために、オリジナル研究で最もよい結果を
示した 9 名の子どもたちについてはとりわけ厳格な評価測定の方法が採られた。McEachin et al. (1993)に
よれば、ロバースによるオリジナル研究(1987)で最もよい結果を示した 9 名の子どものうち 8 名は知能と適
応的行動の検査で同年代の健常児と区別がつかなかった。
ロヴァース法:部分的な再現例
Anderson et al. (1987)は Lovaas(1987)の研究の部分的な再現実験を行った。参加児は 14 名の自閉症児
で、訓練を受けた専門家から週 15 時間、親による週 5 時間の治療を 1 年から 2 年の期間にわたって受け
た。このプログラムは、嫌悪的な方法(罰)が使用されなかったという点を除けば、Lovaas (1987)で使用さ
れたものと同じであった。治療の結果、14 名の参加児のうち 4 名が 80 以上の IQ 値を達成し、通常学級
で教育を受けるようになったと報告されている。
Birnbrauer & Leach (1993)も Lovaas (1987)の部分的な再現実験を行った。被験児は 11 名で、研究開始
時の年齢は 24 から 48 ヶ月であった。研究者たちは各被験児に週 30 時間の集中的なプログラムを提供
する計画であったが、これは達成困難であることがわかった。実際の治療時間は週あたり 8.7~24.6 時間、
平均で 18.7 時間であった。研究者たちの報告によれば、実験群の 9 名中 4 名、統制群の 1 名が 24 ヶ月
以内に顕著な進歩を見せ、80 以上の IQ スコアに到達した。しかしながら、これらの子どもたちは依然とし
て遊びのスキルが乏しく、自己刺激行動も示していた。研究者たちはその原因を、こうしたスキルを特別
に標的とするプログラムが行われなかったことに帰している。
Smith et al. (2000) は、自閉症児に対する集中的な行動的プログラムの結果と親訓練プログラムの結果
を比較した。参加者は 15 名の自閉症児で、そのうち 13 名は機能的な発話がなかった。子どもたちは無作
- 35 -
為に行動的治療群もしくは親訓練群に振り分けられた。行動的訓練群の子どもは 12 ヶ月間にわたって平
均週 25 時間の訓練を受けた。それ以後、訓練時間は 1~2 年をかけて段階的に減らされていった。親訓
練群は 3~9 ヶ月の親訓練を受けた。フォローアップ時に、知能、視覚的空間的スキル、言語、アカデミック
スキルの検査で、集中的訓練群が親訓練群よりも顕著に高い数値を示した。適応的機能と問題行動に関
しては実質的な違いがなかった。自閉症の比較的軽度な類型(PDD-NOS)に属する参加者が、よりよい
改善を示した。行動的治療群の結果は好ましいものであったが、両グループ間の差違は、McEachin et al.
(1993)などの先行研究で報告されているほど大きなものではなかった。
Eikeseth et al. (2002) は 25 名の自閉症児について、集中的な行動的介入の結果と集中的な折衷的介入
の結果とを比較した。4 歳から 7 歳の子どもたちが、(行動的)治療を監督する専門家が(照会時に)その
子どもを受け入れ可能かどうか、という観点から 2 つのグループに分けられた。行動的介入群は地元の学
校で週 20 時間以上の訓練を受けた。親と教師は、Lovaas の訓練マニュアル(Lovaas, 1981)に示された手
法に基づく介入を行うよう指導された。折衷群の子供も地元の学校で週 20 時間以上の訓練を受けた。折
衷群の子供にはそれぞれ個別化されたプログラムが開発された。それには TEACCH、感覚統合療法、応
用行動分析を含む様々な介入からの要素が取り入れられていた(Eikeseth et al., 2002)。セラピストは子ど
もたちの通常の教室とは別個の部屋で 1 対 1 の折衷プログラムを実施した。
群の割り当てを知らされていない経験を積んだサイコロジストによって子どもたち一人一人に事前、事後
の評価が行われた。知能、視覚的空間的スキル、言語、適応機能を測定するために、標準化されたテスト
が使用された(Eikeseth et al., 2002)。集中的な行動的介入を受けた群は集中的な折衷的介入を受けた群
に比べて顕著に大きな進歩を示した。さらに、集中的折衷介入群に比べて集中的行動介入群の方に、
標準テストで平均域に入るスコアを獲得した子供が多かった(Eikeseth et al., 2002)。しかしながら、以下の
要因によって結果は限定的なものになっている。
·
サンプルサイズが小さい(n=25)
·
それぞれの治療群への子供たちの配置が無作為ではない
·
学習成果測定が社会的な要素よりも認知的な要素に集中している
·
折衷的治療のセッションが子供たちの通常の教室よりもむしろ別室で行われた
·
IQ 50 未満の子供たちが研究から除外された
さらに Eikeseth et al.(2002)は、治療は集中的と表現されているものの、推奨される週 40 時間をかなり下回
るので、他の研究(たとえば、Lovaas, 1987)との比較は難しいと指摘している。
Sallows and Graupner (2005)は、23 名の自閉症幼児を対象に、クリニック主導の集中的行動介入の成果
と、親主導の、より集中的でない行動的介入の成果を比較検討した。月齢 24~42 ヶ月の子どもたちが無
作為に二つの群に分けられた。Lovaas のオリジナル研究(1987)の変数を再現するために、集中的訓練群
は 13 名の子どもたちから構成された。どちらの群の子どもたちも UCLA モデルに基づく訓練を受けた。研
究者たちはクリニック主導群の子どもたちが週 40 時間の治療を受けるように計画した。実際には 1 年目が
平均 39 時間、2 年目が 37 時間であった。それ以降は子どもたちが学校に入るので次第に時間数を減ら
していった。親主導型の子どもたちは 1 年目に平均 32 時間、2 年目に 31 時間の訓練を受けた。治療に
先立ってそれぞれの子どもに対して知能とコミュニケーションスキル、適応行動を測定するためのテストバ
- 36 -
ッテリーが実施された。評価は年 1 回繰り返され、治療終了後にも評価が行われた。ADI-R(The Autism
Diagnostic Interview-Revised)が治療の前後に実施された。
その結果、認知、言語、適応行動、社会性、アカデミックスキルの各測定値でみた治療成果は、両群の子
どもたちで近似していることが示された。研究者たちは、両グループの参加者のうち計 11 名の子ども(参
加者の 48%)を「急速学習者(rapid learner)」と名付けた。これらの子どもたちは治療後の標準化されたテ
ストで平均的なスコアを記録し、7 歳の時点で通常のクラスで問題なく過ごしていた。ただし、これらの子ど
もたちのおよそ 1/3 は治療後にも社会的なスキルでわずかな遅れがみられた。「緩やかな学習者
(moderate learner)」と名付けられたその他の子どもたちの IQ スコアは、治療後、顕著な増加を示さなかっ
た。しかしながら、言語と適応行動においていくつかの変化が認められた。治療前の社会性、言語、認知
スキル(模倣を含む)の数値が良好だと、治療後に成果も大きいという相関関係が認められた。
Sallows and Graupner (2005)の研究結果は、だいたいにおいて Lovaas (1987)の結果と一致している。
ADI-R の使用に伴う診断の厳格さ、無作為による振り分け、強力な動機付けの使用や拡大代替コミュニ
ケーションの使用など研究によって支持されている手続きを使用したこと、などの実験デザインの強固さ
がこの研究の結果に重みを与えている。しかしながら、以下の点に留意が必要である。比較的小さなサン
プルサイズ、治療を受けない統制群がないこと(クリニック主導型であれ親主導型であれ、この研究の両群
は IBI を受けていた)、アセスメントの実施に執筆者らが関与していたことによる潜在的なバイアス(「ブライ
ンド」の評価者の欠如)、IQ35 未満の子どもたちが研究から除外されたこと。実験結果は早期集中行動介
入が自閉症治療に効果的な形態であることを示唆している。プログラムのタイプ(クリニック主導型か親主
導型か)は結果に影響を与えなかったようだし、両群の間にみられた治療の集中度の小さな違いも同様で
ある。治療を受けない統制群や異なる介入方法を受けた比較群がなかったことは、治療を行わない場合
や異なる治療プログラムと比較して結論を導き出すことができない、ということを意味する。
教室場面での行動的介入
Sallows and Graupner (2005)によれば、これまでに 4 つの研究者グループが教室場面での行動的介入の
有効性を調査している。Fenske, Zalenski, Kranz and McClannahan (1985)の行った研究では、プリンストン
児童発達研究所のデイ・スクールに参加して最長 2 年の期間にわたって治療プログラムを受けた 2 グル
ープの子供たちの結果が比較検討された。一方のグループの子どもたちは月齢 60 ヶ月以前にこのプロ
グラムに参加した。もう一方のグループは月齢 60 ヶ月を超えてからプログラムに参加した。子どもたちは
一日 5.5 時間、週 5 日、11 ヶ月間にわたって、プログラムに参加した。プログラム後に、年齢が若いグルー
プの 11 人のうち 6 人は通常学級に配属された。年齢の高いグループではプログラム終了時に通常学級
に在籍していたのは 1 名のみであった。このプログラムが効果的だったと思われる子どももいるが、事前・
事後のテスト結果が提示されておらず、通常学級に在籍する子どもたちがどの程度の支援を必要として
いるのか、も示されていない。また統制群も存在しないので、肯定的な成果をこの介入に帰せしめること
はできない。
Harris, Handleman, Gordon, Kristoff, and Fuentes (1991)はダグラス発達障害センターに通う自閉症児と
健常のピアからなるグループを 1 年間観察した後、言語と IQ のスコアの変化を評価した。9 名の自閉症児
- 37 -
に対しては、介入の前後にスタンフォード=ビネー第 4 版を使って評価が行われた。また 16 名に対して
は Preschool Language Scale を用いて評価が行われた。被験児をそれぞれのテストに振り分けた根拠に
ついては説明が加えられていない。報告によれば、このプログラムを受けた後、自閉症児は IQ で平均 19
ポイント、言語指数で 8 ポイントの増加がみられたと言うことである(Harris et al., 1991)。しかしながら、サン
プリングの方法については説明がなされていない。対象となった自閉症児は介入前の平均 IQ が 70 近く、
比較的高機能であった。介入の目的とプログラムについてもほとんど説明がない。評価担当者は参加者
の状態についてブラインドではなかったし、統制群も設定されていなかった。したがって、これらの結果を
解釈するには、慎重を要する。
Sallows & Graupner (2005)のレビューによれば、より最近の研究として、まず Meyer, Taylor, Levin, and
Fisher (2001)がある。これは 2 年以上の期間に 26 名の自閉症児に対して、授業時間中に 30 時間の介入
を行った。報告によれば、3 年半を経て 26 名のうち 7 名が通常学級に通うようになった。しかしこれらの子
どものうち 5 名は支援サービスを必要とした。次に Romanczyk, Lockshin, and Matey (2001)は、3.3 年の期
間にわたって一群の子どもたちに対して、授業中に週 30 時間の介入を行った。このうち 15%の子どもた
ちが通常学級に通うようになった。しかしながら、これらの研究は方法論上の弱点を有する。 特に事前と
事後のテスト結果が公表されていない点と、通常学級に通うようになった生徒に対して行われている支援
に関する情報が提供されていないという点において。したがって、学級をベースとした行動的介入プログ
ラムからは肯定的な結果が報告されているものの、現状ではこのアプローチの有効性を結論づける証拠
はないと言わざるを得ない。他の場面で行われた近年の行動的介入に関する研究(たとえば、Sallows &
Graupner, 2005)に見られる方法論上の厳格さは、教室をベースとしたプログラムの研究には見られない。
親が主導的に行う家庭をベースとした行動的介入
Lovaas(1987)によって肯定的な結果が報告された後、多くの家庭が集中的行動介入を実施しようとしてき
た。しかしながら、適切な訓練を受けた専門家が不足しているため、多くの家庭は、しばしばコンサルタン
トによる間欠的な支援を受けながら、自分たち自身の責任でプログラムを実施することを余儀なくされてい
る(Johnson & Hastings, 2002)。Lovaas (1987)を初めとするクリニックベースのプログラムの成果が、どの程
度まで親が主導する家庭ベースの行動的介入で再現可能なのかを数多くの研究者が問うてきた
(Mudford, Martin, Eikeseth, & Bibby, 2001)。この疑問に答えるべく、Mudford et al. (2001)は英国で 25 名
の行動コンサルタントを通じて、家庭をベースとした親主導の集中的行動介入を受けた 75 名の自閉症幼
児のプログラムデータをレビューした。彼らの研究によれば、過半数の子どもたちは Lovaas(1987)の研究
の子供たちよりも遅くなってから治療を開始していた。また 16%は最低限の IQ の基準に達していなかっ
た。家庭主導のプログラムでは子供たちへの介入時間はより少なく(週 40 時間に対して平均で週 32 時間)、
専門家の指導を受ける時間もより少なかった。Lovaas プログラムを提供する資格を持ったスタッフから指
導を受けていたのは 21%のみであった。
Mudford et al. (2001)は、彼らの調査対象ケースのうち、どれをとっても Lovaas(1987)のオリジナル研究で
採用された UCLA プログラムに従っていない、と結論づけている。したがって、この親主導の家庭療育プ
ログラムがオリジナル研究の結果を、一部の子どもが「正常機能」を達成したとする主張も含めて、再現で
きる、と仮定する根拠はどこにもない。このレビューは大学という場面以外で Lovaas のプログラムを忠実に
- 38 -
再現することがいかに困難であるかを示している。このことは、親主導の家庭ベースの IBI プログラムがど
れくらいの成果を期待できるかという問題に関して重要な意味を持っている。こうしたプログラムを行って
いる親たちは、実証的に支持されている UCLA のプロトコルに子どものプログラムを近づけるために、集
中的行動介入のサービス提供者からもっと援助を求めた方がよいことを示唆している。Sallows & Grauper
(2005)は、彼らの行った研究では親主導のプログラムがクリニックを主体とするプログラムと同様に効果的
であったと報告している。この親たちが研究者たちからどれくらい支援を受けていたのか、そして、この親
主導のプログラムが他の親を主体とする IBI プログラムとどのように違うのかを明確にすることが重要であ
ろう。
2 番目の研究、Bibby, Eikeseth, Martin, Mudford and Reeves (2002)は Mudford et al. (2001)らのレビュー
で取り上げられた介入プログラムを受けた 66 人の子どもたちの治療結果を検証したものである。親が主体
となった家庭での早期集中介入を平均 31.6 ヶ月行った後、子供たちの成果が評価された。評価ツールは
比較を容易にするために、Lovaas (1987)の研究と同じものが用いられた。検証の結果、子供たちの IQ に
変化は見られなかった。しかしながら、Vineland を用いた適応機能のスコアは著しく増加していた。精神
年齢についても同様であった。介入は一部の子どもたちの言語スキル、適応スキル、知的機能に変化を
もたらしたが、その結果は Lovaas (1987)の出した結果を再現するものではなかった、と彼らは示唆してい
る。介入のコンテクスト、子どもたちのスキル、プログラムの特性と集中度の相違が結果の差違につながっ
たのではないか、と論文の著者らは示唆している。
Johnson and Hastings (2002)は家庭をベースとする IBI プログラムの実行を促進する要因と阻害する要因
を検証した。その結果、経験があり訓練を受けたスタッフを見つけること、資金を用意すること、個人/家族
資源の不足が、最も頻繁に引用される阻害要因だった。他方、献身的な支援チームや財政的余裕、家
族や友人の支援が最も頻繁に引用される促進要因であった。中でも治療チームの質が、阻害要因及び
促進要因として最も頻繁に取り上げられた。特に ABA の専門的知識と技能を有する監督・コンサルタント
レベルのスタッフが少ないことが問題であることが明らかになった。
行動的介入の研究で言及された考慮すべき事柄と限界
スタッフの専門性
Smith (1993) はセラピストの長期にわたる専門的な訓練の重要性を強調している。これはどこでも得られ
るわけではない。治療の一貫性を維持するには専門的知識、訓練、緻密な監督が行われることが要求さ
れる。Smith (2000)の指摘するところによれば、スタッフの不足やスケジュール調整の困難、それに病気と
いったことが、集中治療のアレンジメントを「恐るべきもの」にしており、「従来認識されていた以上に、結果
再現の障害となる」(p. 283)。適切な訓練を受けた経験のあるスタッフを見つけることがいかに困難である
かは、英国における親主導の集中的な行動的介入についてのレビューでも強調されている(Mudford et
al. 2001)
嫌悪的な結果の使用について
Lovaas によって報告されたオリジナル研究の成果が、嫌悪刺激を使用しなくても再現できるかどうか、に
ついてはかなりの論争があった。Lovaas 自身、「この構成要素なしには治療効果の再現は難しいだろう」
- 39 -
と述べている(Lovaas 1987, p. 8)。同様に McEachin et al. (1993) は、このプログラムが他のプログラムに
比べて成功を収めていることを説明しうる明らかな特徴の一つとして、嫌悪刺激の使用を挙げている。し
かしながら、Lovaas 式の集中的行動プログラムに関する現在の説明では、嫌悪的な結果がもはや使用さ
れていないことを強調している。また Sallows and Graupner (2005)は、嫌悪刺激なしのプログラムでも子ど
もによっては有効であることを示している。
IBI プログラムの密度について
早期行動的介入プログラムの最適の集中度がどれくらいなのかについては決定的な証拠がない。多くの
研究者たち(たとえば、Anderson et al., 1987; Sheinkopf & Siegal, 1998; Smith et al., 2000)が、Lovaas の
研究(1987)で対象となったグループに比べて、彼らの研究に参加した子どもたちの改善度が小さかった
のは、週あたりの治療時間が少なかったことの結果だと示唆している。たとえば、Birnbrauer and Leach
(1993)と Sheinkopf and Siegal (1998)の対象児たちはセラピーの終了時に「通常の発達段階」に達するこ
とができなかった。どちらの研究でも、子どもたちが受けた治療は、Lovaas(1987)のオリジナル研究のおよ
そ半分の集中度(1 週 20 時間)であった。論文の執筆者たちは成果が十分に出なかったことの要因を介入
の集中度が小さいことにあるとしているが、「回復(recovery)」という主張や「正常機能」達成ということに関
連した問題に加えて、そのほかにも潜在的に要因となった変数が考えられる。
Sallows and Graupner (2005)は、クリニック主導の集中的行動介入を受けた子どもたちのグループと、そ
れよりわずかに集中度の低い親主導型のセラピーを受けた子どもたちのグループの間でほとんど差違を
見いださなかった。認知、言語、適応、社会性、アカデミックスキルの測定値で両者は近似の結果を示し
た。集中度の最適レベルはどこか、治療の集中度がどの程度まで介入成果を左右するのか、に関しては、
さらに研究が必要とされている。
「回復」という主張
「回復(recovery)」や「治癒(cure)」という主張が最も多くの論争を引き起こしてきた。IBI プログラムが自閉
症によい結果をもたらすということでは、ほとんど意見の相違は見られない。Mesibov (1993)は、このような
集中的介入が好ましくかつ永続的な結果をもたらすことは、とりわけ行動的アプローチが長年にわたって
効果的に用いられてきた以上、驚くに値しない、と述べている。しかしながら、いくつかの集中的行動介入
プログラムの研究に報告された肯定的な結果の程度、特に「正常な(normal)」機能をもたらしたと主張する
プログラムに関するそれには、疑問の余地がある。
ブリティッシュ・コロンビア州健康技術評価によるレポート (BCOHTA, 2000)の著者は次のように示唆して
いる。Lovaas と共同研究者たちは、彼らの有効性に関する主張を発達上の改善を達成できることに限定
していない。むしろ彼らの治療を、所与の自閉症児グループの半分までが「正常機能」を達成できる、とい
う概念と結びつけることを、その公表論文の全体を通じて、許容するだけでなく、促進しさえしている、と。
Mesibov (1993) もまた、Lovaas (1987) と McEachin et al. (1993) に報告された変化の度合いと、それが
本当に意味しているものを疑問視している。
McEachin and Lovaas(1993)の共同執筆者である Smith は、正常機能の達成に関して、研究エビデンスを
もう少し慎重に解釈している。「自閉症児がどのような種類の早期介入をどの程度受けるべきなのか、に
関する議論が、そのような介入がそもそも特別な注目に値するのか、に関する論議に取って代わりつつあ
- 40 -
るのは、勇気づけられることである」(p. 45)。彼はまた、自身が関わった研究に関連して、結果は印象的な
ものであったが、従来の研究には限界もある、と述べている。近年の改善された研究方法を用いた再現
実験が求められている (McEachin et al., 1993)。Howlin (1997)は長期的な治療結果のレビューにおいて、
治療プログラムが何であろうと、ほとんどの子どもたちは学校生活やそれ以降の生活で継続的な支援を必
要としている、と指摘している。
「正常機能」の定義
Mundy (1993) は正常機能(normal function)という用語が不適当かもしれない、と論じている。なぜなら、
Dykens, Volkmar and Glick (1991)や、Szatmari, Bartolucci, Bremner, Bond and Rich (1989) の研究によ
れば、高機能自閉症の人たちは比較的良好な適応スキルや社会的結果を示すが、にもかかわらず、通
常とは異なる思考プロセスや強迫的思考や懸念に関連した著しい困難を依然として有しているからであ
る。Howlin (1997)は次のように結論づけている。すなわち、Lovaas のプログラムは行動的介入の重要性
を確認したが、様々な機能分野における結果や、金銭及び労力に関するコスト対効果の面で、これらの
プログラムを評価するさらなる研究が必要とされていることに注意が必要である、と。
特定のスキルを標的とした行動的介入
このレビューは広範なスキルや発達領域に対応することを目的とした包括的な行動的介入に焦点を当て
たものである。しかしながら、自閉症児の特定スキルの発達を標的とした行動的介入の効果を検証した膨
大な数の研究の存在を認識することは重要である。行動的介入は次のようなことがらに対して行われてき
た。望ましくない行動への対応(自傷行為、攻撃など)、言語発達(受容言語、表出言語、拡大代替コミュニ
ケーションなど)、日常的生活スキル(セルフケア、家事スキルなど)、コミュニティでの生活スキル(職業スキ
ル、公共交通機関の利用、買い物スキルなど)、アカデミックスキル(読み、算数、スペル、書き言葉など)、
社会スキル(社交的やりとり、年齢相応の社会スキルなど)(MADSEC, 2000)。自閉症児の特定スキルに対
応する行動的介入の有効性に関する研究は 1960 年代に始まっている。また 1970 年代初めにはその包
括的な評価が開始された。
DeMeyer, Hingtgen, and Jackson (1981)は、1970 年代に公刊された 1,100 以上の研究をレビューした。彼
らは、行動論に基づく介入だけでなく、他の広範囲の理論基礎に基づく介入もレビューの対象とした。こ
れらの研究を包括的にレビューした結果、彼らは次のように結論づけた。「自閉症児の行動レパートリーを
最大限に広げるための最良の治療法は、系統的な行動的教育プログラムである、ということを圧倒的な数
のエビデンスが強力に示している」と(p. 453)。Mesibov (1998)も同様の結論に至り、子どもたちに対する
すべての介入のうちで行動的介入が最も効果的であったということを調査結果が示している、と述べてい
る。こうした介入のなかには、オペラント条件付けを強調した初期の行動的介入だけでなく、もっと近年に
なって開発された、比較的高機能の自閉症者向けの認知行動的アプローチが含まれる。それらは観察
可能な行動に焦点をあて、学習理論を応用している。自閉症児に対する最近の教育プログラムの大半は、
少なくともいくつかの行動的戦略を取り入れている。
- 41 -
行動的介入に関する研究エビデンスの要約
行動的介入が自閉症児に対して肯定的な結果を生み出してきた、ということについては、評価研究によっ
てよく裏打ちされた全般的合意がある。しかしながら、特定の行動的介入やプログラム、調査結果の解釈
の違いについては引き続き多くの論争がある。Lovaas プログラムに代表される、ABA と DTT を用いる早
期集中行動介入は自閉症児に対する介入戦略のなかでも最も論議を呼んでいるものの一つである
(Heflin & Simpson, 1998; Lovaas et al., 1989)。この論争は結果の主張、排他性、拡張的な効果、従事者
などを巡って展開されている。
BCOHTA(2000)の系統的レビューの著者たちは、集中的行動介入プログラムに関して次のような結論に
至った。
·
Lovaas(1987)と McEachin(1993)の研究は、他の包括的な療法に関する公刊された諸報告よりも方法
論的に優位にあるが、他方で、どのように定義がなされたにせよ、この療法によって子どもたちに「正
常」機能がもたらされる程度を確定するには不適切なものである。
·
いかなる早期の包括的治療プログラムについても、その量(一日あたりの時間とその継続期間)と全
体的な結果との関係を確認するには、有効性に関するエビデンスが不十分である。
·
異なる早期集中治療プログラムを無作為試験することは、倫理的であり、かつさらなる研究知見を得
るために有効である。
·
自閉症と診断された子供たちの「ノーマライゼーション」という観点から早期集中治療プログラムの費
用対効果の分析を行うためには、有効性を示すエビデンスが十分ではない。介入が効果をもたらす
範囲や、その利益の度合いが十分に確定されないかぎり、費用対効果の分析を進めるための基礎
が存在しない。
しかしながら、議論されている行動的介入の性質を特定することが不可欠である。行動的介入はソーシャ
ル・ストーリーからディスクリート・トライアル・トレーニングまで様々であるが、すべての行動的介入プログラ
ムに共通する前提がある。それは、自閉症に関連した諸症状は個人とその環境の間の観察可能な相互
作用を操作することによって、とりわけ観察可能な行動を客観的に測定することを通じて軽減することがで
きる、というものである。個々のプログラムには、子どもや家族、セラピストや環境、方法などに関するバリエ
ーションがほとんど必ずと言ってよいほど存在するので、行動的介入の有効性について十把一絡げに言
及するのは誤解を招きやすいだろう。Howlin(1997)は、行動的介入の利益は、とりわけ親がセラピーに加
わっている場合に顕著である、と結論づけている。
行動的介入における最近の展開
近年、行動的介入はコミュニケーションが生じる物理的、社会的コンテクストの重要性を理解する方向に
拡大している。その結果、オペラント条件付けとコンテクストの認識を組み合わせた介入も行われるように
なった(Diehl, 2003)。プログラムは子どもにとって何が動機付けになっているのか、子どもが何について最
もコミュニケートしたいと思っているのかを考慮に入れることになる(例えば、コミュニケイティブ・テンプテー
- 42 -
ション(communicative temptations))。これによって多くの新しい複合的な介入が登場している。こうした介
入はしばしば「現代型 ABA(contemporary ABA)」と表現されている。このセクションで議論されるプログラ
ムやアプローチに対しては様々な調査報告があるが、その総量が限られていることもあり、より包括的でよ
くデザインされた評価の研究が必要であろう。
プラス思考的行動支援
プラス思考的行動支援(Positive Behavioral Support, PBS)は、個人が適応的で社会的に意味のある行動
を獲得することを援助し、不適応行動を克服することを支援するプロセスである。PBS の第一の目的は、
問題行動の代わりとして機能的なスキルを教えることである。PBS の援助計画は通常、問題行動が無関
係、無効、非効率なものになるように既存の環境を調整することを含む(Horner, O’Neill, & Flannery,
1993)。向社会的行動を増やし、それと同時に不適応行動を減少させるために、プラス思考的行動支援
の介入では、応用行動分析による指導法が強調されている。
機能的アセスメント
機能的アセスメント(functional assessment)は、行動的介入の有効性と効率を最大限に発揮するために用
いることのできる情報の収集プロセスである。機能分析(functional analysis)の主要な産物には以下のもの
が含まれる。(a)問題行動の記述、(b)問題行動が生じる時間、状況、引き金となった出来事の特定、(c)行
動を維持している結果の特定、(d)行動の動機となっている機能の特定、(d) 直接的な観察データの収集
(O’Neill et al.,1997)。
特定の行動の機能を包括的にアセスメントし分析した結果に基づく介入は、伝統的なアセスメントの方式
(基準参照的検査、知能・達成度・行動検査、投影的人格検査、逸話的観察、非構造化面接など)に基づ
いた介入に比べて、効果を発揮する可能性が著しく高いことを、いくつかの研究が示している(O’Neill et
al., 1997; Repp, Felce, & Banton, 1998)。
機能的コミュニケーション訓練
機能的コミュニケーション訓練(functional communication training)の目的は、問題行動に従事する代わり
に、希望するアイテムを手に入れるための適切なコミュニケーションを個人に指導することである。新たな、
あるいは難しい情報やスキルを教えるプログラムでは「無誤(errorless)学習」も用いられる。応用行動分析
が使用されるのは、個人が確実に成功を体験することによって学習効果を最大限にするためである。これ
はプログラム開発者とセラピスト両者のスキルと専門知識にある程度左右される(第9章「療育的介入」を参
照)。
自然主義的指導法
多くの伝統的なディスクリート・トライアルによる介入が学習の般化に失敗していることに対応して、行動療
法家たちは様々な自然主義的指導法(naturalistic teaching)によるアプローチを開発し、導入してきている。
機会利用型指導法(incidental teaching)(Hart & Risley, 1975)、自然言語教育パラダイム(the Natural
Language Teaching Paradigm)(R. L. Koegel, O’Dell, & Koegel, 1987)、ピボタル・レスポンス・トレーニング
(Pivotal Response Training)(L. K. Koegel, Koegel, & Carter, 1998)などは、いずれも自閉症児の言語とコミ
ュニケーションの発達を促す、より自然なアプローチを作り上げることを目指して開発された。これらのア
- 43 -
プローチは、ABA とともに、一部分は保護者と子どもとの相互作用や発達的語用論についての発達関連
文献から引き出された諸原則や相互作用のプロセスに基づいている(Wetherby & Prizant, 2000)。
伝統的なディスクリート・トライアルのアプローチ(TB-DT)と現代型 ABA アプローチの最も大きな違いは以
下の通りである。
·
やりとりの主導権は訓練担当者と子どもが共有するか、子どもの側に重点が置かれる。子どもが好
む活動や子どもが選択した活動がコミュニケーションの主なコンテクストやトピックとなる。
·
訓練担当者が一方的に決めるのではなく、子どもに選択権を与える。
·
ピボタル・レスポンス・トレーニングを組み込んだプレイセラピーやグループセラピー(Schreibman
& Pierce, 1993)では、子どもたちに選択権を与えること、正反応だけでなくその試みも強化するこ
と、適切なモデリングを用いること、自然な結果を提供することによって、自閉症児が学習する動
機付けを強めることに焦点が当てられる(Ian Dempsey & Foreman, 2001)。
同様にピボタル・レスポンス・トレーニングでは、自然な環境で生じる多くの学習機会や社会的な相互関
係に反応することを子どもたちに指導することによって、社会的な役割や出来事の理解促進を手助けす
るために用いられてきた(Simpson et al., 2005)。遊びや言語、社会的なスキルの面でポジティブな変化が
あったことが報告されている。「長期にわたる言語発達の予測変数として、表象的な遊びのスキルは、理
論的かつ実証的に強力な支持を集めている」(p. 822)という Sigman (1998)の観察を考慮すれば、これは
勇気づけられることである。しかしながら、他のやりとりや場面へのこれらのスキルの般化は限定されてい
る(Thorp, Stahmer, & Schreibman, 1995)。
- 44 -
8.発達的介入
発達的、あるいは関係的な介入は、子どもが他者と積極的で有意味な関係を形成する能力に焦点を当
てている。一般的に、これらのプログラムの狙いは、子どもたちが「注意を向け、関係を作り、やりとりを行
い、色々な感情を経験し、最終的には系統だって理にかなったやり方で考え、関係作りをする」ことを手
助けすることである(Atchinson et.al., 1997, p.50)。発達的介入はまた、「ノーマライズ療法(normalized
intervention)」としても知られている。
発達的対人関係・語用論モデル(Developmental Social-Pragmatic Model, DSP)
DSP アプローチは、コミュニケーションにおける率先性、自発性の重要性を強調する点で、現代型ABAよ
りもさらに一歩踏み込んでいる。子どもが現在用いているコミュニケーションのレパートリーを、たとえそれ
が実用的なものではなくても前提とするし、子どものコミュニケーション能力の発達を促すため、より自然な
活動や出来事を文脈として用いる(Wetherby & Prizant, 2000)。DSP アプローチは以下の諸点によって特
徴付けられる。
・ 介入の焦点は、柔軟な構造の枠内で、また、様々な楽しい活動を通じて、子どもの自発的な社会的コ
ミュニケーションを高めていくことにある。
・ 意思表示をするための幅広い方略を身につけさせるために、子どもが多様なコミュニケーション上のレ
パートリー(例:発話、歌、身振り)を発達させることを支援することに重点を置いている。
・ 子どもとのやりとりが主導権の共有、役割交代、相互性によって大きく特徴づけられる。
・ 興味や動機付けに基づいて選ばれた有意味な活動や出来事などを学習のための背景として、介入が
行われる。
・ 子どものコミュニケーション行動の意義は、進行中の活動や状況に照らし合わせて判断され、逸脱した
手段や行動も、コミュニケーションをとるための正当な試みとして認められる。
・ 子どもの生活は、次第に複雑な社会的経験を伴うようになるのであるから、さまざまな社会的なグルー
プ活動がプログラムに組み込まれる。
・ 子どもの発達の順序やプロセスに関する情報が、諸目標の順序立てや、幅広い発達的文脈の中で進
歩を評価するために用いられる。
・ 学習上の文脈を個々の構成要素やスキルに分解するよりもむしろ、場面における支援(例:視覚的手
がかりや身振りによるヒント)が、子どもに活動ややりとりを理解させるために不可欠なものであると考え
る。
・ 問題行動の発生・拡大を防ぐために、社会的に受け入れられる社会的コントロールの方法(例:抗議の
手段、選択する手段)を子どもが獲得することを支援することに焦点を置く。
・ 感情の表現と愛着の共有が、相互作用と学習のプロセスの中核とみなされる。
DSP アプローチは成功の主要な目安として、ディスクリート・トライアルにおける反応を引き出し、測定する
ことにはあまり重きをおかず、それよりも自閉症の子どもの言語発達の順序を理解することに、よりいっそう
重点を置いている。DSP のアプローチは、子どもが幅広い社会的相互作用にうまく参加することを支援す
- 45 -
ることに焦点を当て、その参加度を成功の指標とする。支援にあたっては、個別化された行動をカウント
するよりも、むしろ一つの活動の中で多様なゴールを設定する。また発達の異なる側面の相互依存性に
焦点を当てる。有意味な出来事やルーティンの中でのコミュニケーション能力を高めることにより大きな重
点が置かれる。最後に、ほとんどの DSP のアプローチは、関係性の発達や社会・情動的成長の文脈のな
かでコミュニケーションスキルを発展させることを強調する。対照的に、伝統的な行動的アプローチにおい
ては、動機付けや学習における愛着や感情表現の役割は、ほとんど評価されていない(Wetherby &
Prizant, 2000)。
Delprato (2001)は、TB-DT(訳注:伝統的行動療法-ディスクリート・トライアル)アプローチを使用した研究
と、「ノーマライズされた言語介入」を使用した研究との結果を比較する文献レビューを完成させた。彼は、
レビューの対象とした諸研究に基づいて、「ノーマライズされた言語介入は」、ディスクリート・トライアル・ト
レーニングと比較すると「技能の獲得と般化においてより有効であると考えられる」と結論づけた。さらに
Koegel, Bimbela and Schreibman (1996)や、Schreibman, Kaneko and Koegel (1991)などのような、
Delprato によってレビューされた研究は、自然主義的介入の方が、自閉症児の親たちにより大きなポジテ
ィブな効果をもたらしたことを示している。発達的、あるいは「自然主義的な(naturalistic)」手法を用いてい
る親たちは、ディスクリート・トライアル・トレーニングの訓練を受けた親たちと比べて、より幸福で、よりストレ
スを感じておらず、子どもとコミュニケーションをよりよく取れていると感じている(Koegel et.al., 1996)。
グリーンスパンの DIR/フロアタイム
過去 20 年間に渡って、スタンレー・グリーンスパン(Stanley Greenspan)とその同僚らは、子どもの発達に関
する理論についての非常に多くの論文を発表してきた。そのうちの 1 つだけが、自閉症のことを特別に対
象にしたものである。それ以外には、一連の障害の一つとして自閉症に言及しているものがある程度であ
る。小児臨床プログラム国立センター(National Centre for Clinical Infant Programs)において、グリーンス
パンらは、幼児期から 10 歳までのさまざまな障害のある子どもたちに接してきた。グリーンスパンらは、「発
達、個人差、関係性モデル(Developmental Individual-Difference, Relationship-Based Model, DIR)」と称
される、障害のある幼児・児童への早期介入のための発達論に基づく介入法を開発した。これは、一般に
「フロアタイム(floor time)」アプローチとも呼ばれている(Greenspan, 1998)。
フロアタイムは、子どもがさらなる学習と発達を遂げるために必要な 6 つの機能的な道標(milestones)につ
いてのグリーンスパンの理論に基づいている。Greenspan (1998)によれば、その 6 つの道標は以下の通り
である。
・ 見たものや聴こえたものなど周囲からの感覚刺激に興味をもち、しかも自分自身を落ち着ける二重の
能力
・ 他者と関係を結ぶ能力
・ 身振りによる双方向的なコミュニケーションに参加する能力
・ 複雑な身振りで表現する能力、一連の行動をつなげて、精密かつ熟慮された問題解決の経験へと導
く能力
・ アイディアを作り出す能力
・ アイディアとアイディアをつなげて、それらを現実的かつ論理的なものにしていく能力
- 46 -
DIR/フロアタイムには、低刺激の環境の中で、一日 2∼5 時間、子ども主導の相互作用の経験を持つこ
とが含まれる。プリスクールのプログラムでは、健常児との統合教育の場も設定される。大人が子どものリ
ードに従うような相互作用的な遊びは、外部世界と「つながりたい」と子どもが感じるように仕向ける効果が
あると、グリーンスパンは主張する。さらに Greenspan (1998)は、コミュニケーションを取れない期間が長け
れば長いほど、それだけ親が子どもと関係を持つことは難しくなり、子どもはさらに引きこもっていく、と考
える。したがって Greenspan (1998)は、子どもの問題が同定されれば直ちにプログラムを開始すべきだと
考える。
Greenspan (1998)によれば、介入はこだわりを相互作用に変容させなければならない。もしその変容が生
じれば、子どもは目的を持つようになり、仕草や音声や遊びを模倣できるようになる、と彼は推論する。「私
たちは、18∼30 ヶ月で自閉症や PDD-NOS と診断されたたくさんの子どもたちの療育を行ってきた。彼ら
はいまや大きくなっているが、非常にコミュニケーションに長けており(複雑な文を適切に使用し)、創造的
で、友好的であり、愛情に溢れ、喜びに満ちている」と主張している。
このレビューの過程で、自閉症児に対するグリーンスパンの DIR/フロアタイムの効果に関する、独立の、
査読を受けて公表された研究は確認できなかった。
反応的教育法
反応的教育法(Responsive Teaching, RT)は著者らによって、「6 歳以下の発達的なあるいは社会・情動的
な困難を抱えた、あるいはそのリスクのある子どもたちのために開発された、新しい包括的な、発達的介
入のカリキュラム」である、と説明されている(Responsive Teaching National Outreach Project, 2006)。プロ
グラムは、親を媒介とし、最新の児童発達理論に依拠し、学際的で総合的な内容をもつ。このプログラム
は親が子どもと、もっと反応よく(more responsively)やり取りを行えるよう支援することに焦点を当てている
(Mahoney & Perales, 2005)。加えて、構造化されたカリキュラムは、子どもたちが、認知、コミュニケーショ
ン、社会・情動機能、動機付けと関連した、鍵となる中枢的な行動を発達させることを支援することに焦点
を当てている(Responsive Teaching National Outreach Project, 2006)。
Mahoney and Perales (2005)は、広汎性発達障害(自閉症を含む)を持つ 20 名の幼児に対する反応的教
育法の結果を評価した。2∼5 歳の子どもたちとその親は、8∼14 か月の期間、子どもの社会・情動的発達
を高めることをねらいとした週 1 時間のセッションを受けた。さらに子どもたちは、親から週平均 18.6 時間
の介入を受けた。事前、事後のデータは、母親の子どもに対する応答性が向上していることを示した。ま
た子どもの社会的な認識とコミュニケーションの機能においても改善が見られ、標準化された社会・情動
機能の尺度における得点も向上した。
著者らは、子どもたちの社会・情動の機能の変化は、養育者たちの応答性の向上と関連しているように思
われる、と指摘した。しかしながら、彼らはまた、統制群の欠如などの研究のデザインの限界のために、因
果関係を立証することはできないとも指摘した。この研究には他にも、代表標本抽出の欠如や、被験児集
団の同質性の欠如(多様な広汎性発達障害の子どもたちが含まれている)、被験児の認知機能の程度を
示していないこと、そして、すべての親が介入の後に応答性を向上させたというわけではないこと、などの
限界も存在する。反応的教育法の効果を立証するためには、さらなる研究と、上記の結果の再現が必要
である。加えて、全ての親たちが介入に反応を示したわけではないということにも考慮が加えられるべきで
ある。親によるこのアプローチの受け入れやすさを左右する要因を特定するために、さらに研究が必要と
される。
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対人関係発達指導法(RDI)
対人関係発達指導法(Relationship Development Intervention) (RDI) (Gutstein, 2000; Gutstein &
Sheeley, 2002)は、社会的能力の定型発達のプロセスに基づいて構築された一連の技法と方略である。
RDI の目的は、自閉症の人々の社会的関わりに対する動機づけと関心を高めること、彼らが社会的関係
を楽しみ、その能力と高めることを助けるための活動とコーチングを提供することにある。プログラムは関
係発達アセスメント(the Relationship Development Assessment)の結果に基づいて、個々人に合わせたも
のが作られる。ある子どもの関係性のレベルが測定されると、個別化されたプログラムが作成される。そし
てコーチは、プログラムを実施し、スキルの習得を支援するための訓練を受ける。
RDI は、自閉症の子どもたち、特に高い認知機能を持つ(高機能の)子どもたちに効果があると報告され
ている。プログラムは、自閉症児の社会性の発達を支援するための多くの方略を提供しており、叙述の使
用に特に重点を置いて、相手とのやりとりに関する質問を提示している(Letso, 2006)。しかしながらこれら
の主張はよくデザインされた、統制群を用意した独立した研究によってテストされていない。
予備的な研究において、Gutstein (公刊受領済, Letso, 2000 の引用による)は、RDI による療育を受けた
17 人の子どもたちと、他のプログラムによる療育を受けた 14 人の子どもたちにおける、結果の比較を行っ
ている。RDI による療育を受けた子どもたちは、ADOS の得点及び教室での自立能力において、他のプ
ログラムによる療育を受けた子どもたちよりもより大きな改善を示した。しかしながら、この研究には多くの
方法論的な問題や範囲の限定性が認められ、結果には信頼が置けない。自閉症治療の分野でより包括
的に評価されたプログラムがある以上、RDI は、効果的であることが示されている他の介入法を補助する
ものと見なされるべきである(Perry & Condillac, 2003)。
- 48 -
9.療育的介入
療育的介入(therapy based intervention)には、言語療法のようにコミュニケーションとソーシャ
ルスキルの発達に焦点を当てたものや、作業療法のように感覚運動能力の発達に焦点を当てたも
のがある。これらの介入はその他の介入と組み合わせて用いられることが多い。
コミュニケーションに焦点を当てた介入
コミュニケーションに焦点を当てた介入はその数も多く、自閉症児に対して広く行われている。
これらは単独で行われることもあるし、より包括的なプログラムに統合されることもある。
「拡大
代替コミュニケーション」
(AAC)という用語はこれらの方略の多くを包括したものとして用いら
れる。AAC の方略にはピクチャー・シンボルや手話、会話補助装置の使用が含まれる。このレビ
ューでは、それぞれのコミュニケーションの方略を別個に記述する。そうすることで、個々のア
プローチの特徴や目的を明確にすることができるからである。
視覚的方略と視覚的ヒントを用いた指導法
視覚的な支援・方略は、単独で、あるいは他のプログラムと組み合わせて、自閉症児に対して広
く用いられている。視覚的支援・方略は、表出的ならびに受容的なコミュニケーション(拡大代
替コミュニケーション(AAC))、学習、情報処理、物理的・社会的環境の理解を容易にするため
に用いられている。実物や実物の一部、実物のミニチュア、視覚的なグラフィックシンボルや線
画、輪郭シンボルなどが表出並びに受容的コミュニケーションを支援するために用いられる。
Quill (1997)によれば、安定した、アイコンのようなシンボルは、自閉症児の情報処理スタイルの
強みと認知的特徴にマッチしている。注意の転換が難しいこと、聴覚的スキルよりも視覚的空間
的スキルが良好なこと、非言語的なもののほうが記憶しやすいことがそうした特徴に含まれる。
さらに、Tager-Flusberg (1991)は、想起を促す刺激は子どもたちの言語情報記憶の取り出しを援
助し、結果として視覚的支援が言語や会話を促進する効果も果たしうることを見いだした。
数は多くないが、自閉症児に対する視覚的方略と視覚的な手がかりを用いた指導法の有効性を検
証する研究が行われてきた。こうした研究が扱っているのは、視覚的スケジュール、選択を補助
する視覚的シンボルの使用、理解を手助けする視覚的シンボルの使用(例えば補助言語刺激(訳
注:子どもが話しかけられる側で、介助者が視覚シンボルを指し示す))などである(Mirenda,
2001)。肯定的な結果が報告されてはいるものの、大規模かつ包括的で、よく統制された研究は
行われていない。しかしながら視覚的なシンボルは、より包括的な教育的介入と連携して、ある
いはその一部として用いられれば明らかに有用である。これはサーツプログラムや TEACCH プ
ログラムを見れば明らかである。これらのプログラムでは、視覚的な支援が不可欠な構成要素と
なっていて、もっと幅広い教育的アプローチを背景に使用されている。
手話
手話は、自閉症児の理解と表現を支援するために長く用いられてきた。Jordan, Jones, and
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Murray(1998)によれば、手話は 1990 年代の英国において、自閉症児ならびに学習困難な子ども
たちにために最も広範に使用されている AAC の方略である。手話の提唱者たちによれば、手話は
自閉症児にとってコミュニケーションを「視覚的」にするもので、会話の発達を促進するもので
ある。加えて、手話を使用する副次的な効果として、コミュニケーションの相手と自閉症児のコ
ミュニケーション活動がゆっくりしたものになり、話し言葉によるコミュニケーションを処理す
るための時間を長くとれるようになると示唆されている。Mirenda (2003)は手話を含めた様々な
AAC を使用する自閉症児を対象とした研究のレビューを行った。それによれば、これまでの研究
が示唆するところでは、話し言葉だけを用いたときよりも手話(トータル・コミュニケーションと
も呼ばれる)を用いたときの方が、自閉症児は受容的および表出的語彙をすみやかに獲得するよ
うである。
しかしながら、(a)研究は多くの場合、他の実際的な機能(例えば、要求など)を表現するために
手話を使うよりもむしろ、子どもたちにクリニックで物に「命名する」ことを学習させている。
また、(b)おそらくは子どもたちの微細な運動能力の違いのせいで、子どもによって結果にばらつ
きがある(Mirenda, 2003)。結論的に言えば、自閉症児が手話を使用することに関しては、それを
支持する予備的な証拠が存在するけれども、限界も有しており、したがってより厳格な研究の対
象となってきた他のアプローチやプログラムの補助手段として使用されるべきである。
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)は、絵やシンボル、写真、実物と希望す
るアイテムを交換することによって他者とやりとりすることを子どもたちに指導するプログラム
である。PECS の目的には、(a)子どもの行動を引き出す刺激として役立つと思われるものを見つ
けることや、(b)複数の絵を使ったシステムで単純な質問に対する反応の仕方を学習することが含
まれる。PECS は高度に構造化されたプログラムであり、機能的なコミュニケーションを獲得す
るために、刺激、反応、報酬という行動分析学の原則を用いる。このプログラムは子どもがコミ
ュニケーションを始発することを教え、そのスキルを様々な物やコミュニケーションの相手へと
般化することを教えることができる、と主張している(Schwartz, Garfinkle, & Bauer, 1998)。
PECS のマニュアルは、この手続が実証的にテストされ、非常によい結果が上がっていると記述
している(Atchison et al., 1997; Bondy & Frost, 1994)。PECS は、自閉症児の持つ視覚優位の特
性を媒介として機能的コミュニケーションを指導するために ABA を使う行動的プログラムの一
例である。これはより伝統的な行動的介入のプログラム(例えば、Lovaas, 1987)のように、会
話の発達に口と耳(oral/aural)を重視する方法とは対照的である。
PECS を評価した研究で、十分に統制条件の整ったものはほとんどない。Schwartz et al. (1998)
は自閉症を含む様々な障害児を対象に、PECS の獲得率と、このプログラムが異なる場面と様式
でコミュニケーションにどのような効果をもたらしたかを評価する 2 つの研究を行った。子ども
たちはすべて PECS のステージをマスターしたが、この研究には限界がある。その理由は、対照
群が存在しないこと、子どもたちの情報を就学前の記録に頼っていること、研究の対象となった
子どもたちが均質な群でないことなどである。第 2 の研究では、子どもたちがコミュニケーショ
ンの機能を増やし、指導場面以外の場面への般化が見られたということが示されている。この群
の約半数は PECS 訓練が終了するまでに、自発的な会話を発達させ、PECS 指導の終了後の観察
- 50 -
期間においても言語的なスキルに継続的な進歩が見られた。Charlop-Christy, Carpenter, Loc,
LeBlanc and Kellet (2002) は 3 人の自閉症児を対象に、獲得率と子どもの言語能力への影響につ
いて評定する研究を行った。それによれば、子どもたちは平均 170 分でスキルを獲得し、発話の
平均的な長さに増加が見られたということである。言葉による会話よりもむしろ機能的なコミュ
ニケーションがこのプログラムの目的であり、口頭による会話のスキルを強調しないことで批判
を受けてきたことを考慮すれば、後半二つの研究で口頭による会話が増えたという発見は興味深
い現象である(Richards, 2000)。
ソーシャル・ストーリー
ソーシャル・ストーリーはキャロル・グレイ(Gray & Garand, 1993)によって、自閉症の子どもた
ちに社会的状況を説明し、人とつきあう際の手がかりに対して適切な反応を学べるようにするた
めに開発されたものである。ソーシャル・ストーリーには、子どもたちが彼らの環境の中の手が
かりを理解し、気付くことを容易にするための叙述文(例:
「ベルが鳴ると子どもたちは教室に入
ります」)、ある状況が他の人々にどのような影響を与えるかを説明する認識文(「みんなが先生の
話をよく聞いてくれるとき、先生はうれしいです」)
、子どもたちに反応の仕方を教える指示文(「授
業中は静かな声で話します」)などから成る。ソーシャル・ストーリーは自閉症児に自分自身の行
動を律するすべを教えることができるかもしれないが、このアプローチの有効性を独立に評価し
た実証的に確かな研究はほとんど存在しない。
Richards (2000) は、ソーシャル・ストーリーは、様々な子どもたちと状況に対して効果を発揮
する可能性があると示唆するが、子どもたちがそのストーリーで用いられている言葉や文章をど
こまで理解しているのかは、慎重に吟味されるべきだし、ストーリーの内容は適宜調整されなけ
ればならない、と注意を喚起している。また彼は、ソーシャル・ストーリーのひな形は出版され
ていて入手しやすいので、教師や親や専門家がこのひな形を学んで応用することが可能であると
記している。目下のところ、学齢期の少数の子どもたちを対象にした研究が4つ行なわれている
に過ぎない(Mirenda, 2001)。その結果は肯定的なものであるが、プリスクール期の自閉症児にソ
ーシャル・ストーリーを使用することが有効かどうかを測定するためには、より年齢の小さい子
どもを対象にした研究を含めたもっと大規模な研究が必要である。
会話補助装置
会話補助装置(Speech generating devices, SGDs)は、自閉症児の受容的、表出的コミュニケーシ
ョンの両方をサポートするために次第によく使われるようになっている(Mirenda, 2001)。最も単
純な会話補助装置には、あらかじめ録音済みのメッセージが一つだけ入っていて、装置を使用す
る人がボタンやスイッチやキーを押すとデジタル化された音声が再生される。最も精巧な会話発
生装置は、使用者が言葉を組み合わせて新しい発話をコンピュータで合成された音声という形で
作り出すことができるソフトウェアが組み込まれている。これまでの研究は、会話補助装置が自
閉症児に利益をもたらす可能性を示している。視覚的なグラフィックシンボルと一貫した音声の
表出は、多くの自閉症児の特徴である視覚的学習スタイルや同一性維持の欲求にマッチするかも
知れない(Sigafoos & Iacono, 1993)。さらに、明瞭なメッセージが表出されるので、コミュニケー
ションの相手方にも有益だろう(Mirenda & Schuler, 1988)
。
- 51 -
自閉症児にとって、会話補助装置は以下の諸点で有効であることが示されてきた。理解を支援す
る(Schlosser, Blischak, Belfiore, Bartley, & Barnett, 1998)、スペリングを向上させる(Romski,
Sevcik, Robinson, Mervis, & Bertrand, 1995)
、シンボル学習を促進する(Romski, Sevcik, &
Wilkinson, 1994; Schepis, Reid, Behrmann, & Sutton, 1998)
、大人や同年代の子どもとの相互
的な関わりを増やす(Schepis et al., 1998)
、願望や必要の表現を支援する(Dyches, 1998; Sigafoos,
Didden, & O’Reilly, 2003)。
Mirenda et al. (2000) は、ブリティッシュ・コロンビア州の教育システムで 5 年以上に渡って自
閉症児・者によってこの装置が使われてきた状況について遡及的な分析を行った。報告によれば、
会話補助装置は自閉症の生徒に対して、コミュニケーションのニーズに対応すること、読み書き
能力のスキル発達を支援すること、社会的な関わりを促進することを目的として最も一般的に処
方されていた。会話補助装置の大半はとりわけ中程度から重度の知的障害を持つ低学年の生徒の
ために、有効に使用されていた(Mirenda et al., 2000)。それでも、(a) 様々な会話補助装置を使
用することで、どのような子どもたちが大きな利益を受けやすいか、(b) 装置の導入と使用を支
援するための最も効果的な方略を明確にすること、(c) この装置を使用することが子どもの全般的
な適応機能をどの程度促すのか。これらの点について、さらに研究が必要とされている。
ファシリテーティッド・コミュニケーション
ファシリテーティッド・コミュニケーション(Facilitated Communication, FC)は、コミュニケ
ーション援助技法の一つで、1990 年に Donald Biklen によって、初めて合衆国に紹介された
(National Autistic Society, 1994)。オーストラリア、ヴィクトリア州の Rosemary Crossley が
脳性麻痺の人々を対象に行った仕事がもとになっている。Crossley のセラピーは、身体プロンプ
トによって指さしを作り、手を添えて何かを指ささせ、再び手を添えて手を離させることによっ
て、コミュニケーションを教える。
このセラピーの根拠は、脳性麻痺の人々は動作を行ったりコントロールしたりすることが困難で
ある、ということにある。もし手の動きを方向付けるために注意深い援助がなされれば、障害の
ある人々によるコミュニケーションの意図や思考を明らかにすることができる、という主張は、
世間で注目を集めたし、大きな論争も巻き起こした。
Biklen らは、
自閉症の人々も FC を使ってコミュニケーションすることが可能であると提唱する。
彼らは自閉症の捉え直しをも提案している(Mesibov et. al., 1997)。自閉症は基本的には動作の障
害で、自発的な動作を行うことが困難であり、それゆえ言語の表出も妨げられている状態だとい
うのである(Howlin, 1997)。提唱者らは、自閉症の人々の 80%が知的障害を持っていることを受
け入れず、事実上すべての自閉症者が少なくとも平均的な知能と豊かな感受性を持っていること
が FC によって明らかになった、と主張する(Mesibov et. al.,1997)。
最盛期にはアメリカの幾つかの州で、重度の学習障害を伴う、あるいは無発語の自閉症児が養護
学校から通常学級に移され、ファシリテーターの援助を受けながら、年齢相応の通常のカリキュ
ラムで学んだ。自閉症児に対する FC の有効性を評価する大規模な調査が行われた。この方法を
用いた継続的な、有用な、あるいは自発的なコミュニケーションの証拠は見いだせなかった
(Edelson, Rimland, Berger, & Billings, 1998)。Howlin(1997)と Prior & Cummins(1992)は FC
の有効性を探った研究を再評価した。Howlin(1997)によれば、45 の研究で、独立したコミュニケ
- 52 -
ーションがあると確認できたのは総計 359 人の実験参加者のうち 6%のみであった。しかもこの
6%の人たちの大半で、反応はしばしば部分的にしか正しくなく、大抵は一語からなる最小限の応
答に過ぎなかった。
Howlin は、特に合衆国と英国で自閉症者に FC が広く用いられてきたにもかかわらずこのような
否定的な結果が出たことは、非常に懸念される、と述べている。これらの否定的結果の例として
は次のようなものがある。消極性が強まったこと、他のプログラムに損失を与えるほど教育上の
人的資源を FC に集中させたこと、生徒たちを現実的とは思えないほど普通教育へ導いたこと、
親や介護者に対する身体的・精神的・性的虐待の根拠のない申し立てである。こうした懸念を総
括するかたちで、1994 年にアメリカ心理学会は「ファシリテーティッド・コミュニケーションは
有効性に関する科学的な証拠を欠いており、論争のある立証不十分な方法である」という決議を
採択した。
機能的コミュニケーション訓練(FCT)
FCT は、自閉症の人たちに、問題行動の背後にある「メッセージ」を代替するものとしてサイン
やその他の AAC テクニックを用いることを教える行動的な方略である。FCT の介入では個人に
一つ以上の機能的なメッセージを伝えるように指導し、それと同時に個人の問題行動に変わる肯
定的な代替手段を与える(Keen, Sigafoos, & Woodyatt, 2000)。Mirenda (1997)は 1985∼1996 年
に公刊された FCT の研究成果の包括的なレビューを行った。それによれば、FCT による介入が
開始されると、自閉症を有する参加者らにとって問題となる行動が即座にかなりの程度減少した。
こうした利点はフォローアップのデータが得られる参加者に関して言えば、12 ヶ月間にもわたっ
て維持された。FCT は現在では子どもの問題行動を取り扱う際に「最良の治療法」であると考え
られている。
- 53 -
10.感覚運動的介入
聴覚統合訓練(AIT)
聴覚統合訓練(Auditory Integration Training)は Beard(1982)(Sinha, Silove, Wheeler, & Williams, 2006
の引用による)によって、初めて紹介された。この訓練は、自閉症を含む学習障害者に不快と混乱をもた
らしているという聴覚異常や聴覚過敏、感覚処理異常に対処することを目的としている(Stehli, 1995)。こ
れらの過敏が、子供の注意、理解、学習能力を妨げていると推定されている(MADSEC, 2000)。トレーニ
ングは 1 回 30 分のセッションを 1 日 2 回、10 日間にわたって行う(Mudford et al., 2000)。セッション中、
子供はヘッドホンを通じて音楽プログラムを聞く。このプログラムは、オーディオ・キネトロンという電子装置
を用いて、それぞれの子どもに合わせて特定の周波数をカットしている(Stehli, 1995, MADSEC, 2000 の
引用による)。
最近 Sinha, et al.,(2006)は、自閉症幼児への AIT 及びその他の聴覚系療法(例えばトマティス・ソマノ方
式の音楽療法)の効果に関する研究エビデンスを評価するコクランレビューを発表した。それによると、
AIT の研究の無作為比較試験を適用した 6 研究事例のみがこのレビューの厳格な基準を満たした
(Bettison, 1996; Edelson et al, 1999; Mudford et al, 2000; Rimland & Edelson, 1995; Veale, 1993;
Zollweg, Palm, & Vance, 1997)。他の聴覚系療法に関する研究は、いずれも基準を満たさなかった。6 研
究事例のうち 3 つは、AIT を受けなかった子どもたちと比較して、AIT を受けた子どもたちの有益性を示す
ことができなかった。残りの 3 研究は、セラピー開始から 3 ヵ月の時点で子どもたちの改善を報告している。
しかしながらこれらの研究も、以下のような方法論上の欠点を有している。(a)参加者の年齢が広範囲にわ
たっている、(b)最も信頼のおける基準に照らした診断がなされていない、(c)広汎な結果指標を用いて
いることが結果の比較を不可能にしている、(d)有効性に疑問のある結果指標を用いている(Sinha et al.,
2006)。上記の諸研究の結果を解釈するには、以上の限界を考慮に入れなければならない。
AIT の提唱者は、このコクランレビューは自閉症児によい結果を報告している他の多くの研究を無視して
いる、と主張している。しかしこのレビューの著者らは、バイアスを受けやすい研究を排除するため、厳格
な基準が適用されなければならない、と述べているのである(Sinha,et al., 2006)。現時点では、聴覚系療
法は実験的な段階と言わざるを得ない。また保護者は、これらのアプローチの研究エビデンスとそれに要
する費用についての正確な情報を提供されなければならない(Sinha et al., 2006)。
感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)
感覚統合とは、どんな単純な行動によっても生ずる、多くの異なった感覚上のメッセージを、直ちにかつ
同時に処理する能力を意味する。自閉症児がしばしば複雑な感覚刺激を処理する能力に問題を持って
おり、騒音や布地といった特定の種類の刺激に感受性が高い、ということは立証されている(Howlin,
1997)。自閉症児は感覚的インプットへの反応を調整し、最適の覚醒状態と注意の集中を維持することに
困難を有しているようにみえる(Prior & Ozonoff, 2006)。感覚処理の問題が、自閉症児に一般に見られる
不適応行動や社会関係構築の困難さの原因となっているのかも知れない(Schaaf & Miller, 2005)。
40%もの自閉症児が、何らかの感覚的障害を持っていると報告されている(Attwood, 1998; Rimland,
- 54 -
1990; Taley-Ongan & Wood, 2000)。自閉症の感覚−運動理論は、自閉症児の運動困難は、運動目標の
形成、目標を達成するための運動プランニング、目標を達成するための運動の遂行に関係すると主張す
る。自閉症の認知的、感覚的特性は、これらのうち最初の二つのステップに特に影響を与え、その結果、
顕著な運動機能の障害、すなわち統合運動障害(dyspraxia)をもたらす可能性がある(Anzalone &
Williamson, 2000)。
発達的統合運動障害(developmental dyspraxia)は微細運動及び粗大運動の遂行に関係し、感覚運動的
探索行動、遊び、道具の操作などに影響を与える。口部・音声に関する統合運動障害は、発話及び摂食
行動の発達を阻害する。しかし自閉症と統合運動障害の併発の問題は未解決のままである。模倣と自閉
症に関する最近のある研究では、自閉症幼児に見られる模倣能力の不足を統合運動障害と結びつける
証拠は何も見いだせなかった(Rogers, in press)。
感覚統合療法は、前庭覚、触覚、および固有覚刺激の入力を通じて、脳の感覚処理能力を向上させるこ
とを目指している(Ian Dempsey & Foreman, 2001; Schaaf & Miller, 2005)。この療法は一般に作業療法
士によって行われ、ハンモックに乗せて揺らしたり、平均台で均衡を保させたり、子どもの体をブラッシン
グしたり、なでたり、といったことを行う(Dempsey & Foreman, 2001)。作業療法士は個々の子どもの「感覚
上のニーズ」に基づいて、その子どもに合わせた活動を選択する。感覚統合療法は直接子どもの神経系
の機能に働きかけ、神経系の可塑性を利用して、適応的行動の発達や学習能力の向上をもたらす、と考
えられている(MADSEC, 2000)。
自閉症児に対して感覚統合療法を用いることを勧める意見(Mailloux, 2001; Richards, 2000)や、逸話的
報告(Cook, 1991; Sachs, 1995)はあるが、この療法の効果に関する実験的エビデンスはほとんど文献に報
告されていない。Dawson and Watling (2000)は、感覚統合、聴覚統合及び伝統的な作業療法に関する
エビデンスをレビューしたが、感覚統合療法に関しては質の低いエビデンスしかなく、それらは同療法を
全く支持しないか、せいぜいどちらともとれる程度のものでしかなかった。自閉症への作業療法の効果に
関しては実証的なエビデンスは全く見いだせなかった。MADSEC 自閉症作業班 (MADSEC, 2000)も、
文献をレビューした結果、類似の結論を報告している。彼らの結論によれば、感覚統合療法は現在の研
究に基づく限り自閉症の効果的な治療法とは見なされない。また一つの研究は自傷行為の増加を示して
いるため、その点で注意を要する。
無作為比較試験は行われていないものの、Schaaf and Miller (2005)は、感覚統合療法の効果の何らか
の側面を測定する 80 以上の研究がなされている、と指摘している。しかしながら彼らは同時に、今日まで
に行われている諸研究の有効性に影響を及ぼすいくつかの重要な限界にも言及している。それは(a)研
究対象児の同質性の欠如、(b)今日までの諸研究において、一貫した独立変数(すなわち治療)を同定で
きていないこと、(c)従属変数(結果測定値)がしばしば介入の目的と明確な関連性をもたないか、あるい
はあまりに多くの従属変数が測定されていること、(d)包括的な作業療法の一部としてではなく、感覚統合
療法を単独で実施し、評価していること、などである(Schaaf & Miller, 2005)。感覚統合療法を支持する研
究が存在しないことは、この療法を自閉症治療の中で困難な立場に置いている。現時点ではその有効性
がエビデンスによって支持されていないにも関わらず、オーストラリアにおいて、この療法は自閉症児に関
わる専門家の間で広く受け入れられ、実施されている。
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感覚統合療法と、自閉症としばしば結びつけられる感覚上の特性への対処とを区別することが重要であ
る。感覚的問題に対処する介入は、環境調整であることもあれば、自閉症者への直接介入を含むこともあ
る。言うまでもなく自閉症における感覚上の問題に有効に対処することは、大きな利益をもたらす可能性
を秘めており、このタイプの介入を評価するさらなる研究が必要とされる。
ドーマン・デラカート法(Doman Delacato Method)
グレン・ドーマンとカール・デラカートは、当初、脳損傷をもつ子どもたちのための感覚統合訓練プログラ
ムを立案し、のちにそれを多種多様な障害に適用した。このプログラムは、「パターニング」と呼ばれる、両
親やボランティアのチームの介助による自閉症児のシステマティックな身体練習を提唱する。このプログラ
ムは自閉症児の治癒をもたらすものと称された。統制された集中的な方法で筋肉活動を刺激することによ
り、神経ネットワークが修復される、というのである。
自閉症児に対するこのプログラムの効果の体系だった評価は行われていない。また多くの著者から、この
ような方法の使用に対する深刻な批判が提起されている (Howlin, 1997)。Cummins(1988, cited in
Dempsey and Foreman, 2001)によれば、このプログラムの研究に付帯する方法論上の欠陥のために、こ
の方法の有効性に関して結論を出すことは不可能である。
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11.複合的介入
ここで取り上げるのは、行動的モデルと発達的モデルの諸要素を結合し、自閉症や通常発達に関する近
年の新しい知識を織り込んだ介入ないしプログラムである。これらの介入には、自閉症の特性を説明する
際、その弱点を補う長所を強調する傾向がある。さらにこれらの介入は、学習と発達を促進するため、環
境を調整することに焦点を当てることが多い。
サーツモデル
サーツ(SCERTS)モデル(Wetherby & Prizant, 2000)は、介入プランニングの主要な側面として、対人
コミュニケーション、情動コントロール、交流型支援(Social-Communication, Emotional Regulation, and
Transactional Support)に焦点を当てる。このプログラムの目標は、個々の子どもにとっての主要な問題点
に対応する高度に個別化されたアプローチに基づき、自閉症児の中核的問題点に直接働きかけることで
ある。その強調点は、コミュニケーション、社会的関係性、感覚的特性、家族に焦点を当てた介入にある。
これらは自閉症に関する今日の研究文献から「最良の実践例」を取り入れたものである(Prizant, Wetherby,
Rubin, & Laurent, 2003)。サーツは一つのプログラムと言うよりはサービス提供の一つのモデルであり、独
立にその有効性が実証されているわけではない。しかしながら著者らによれば、このモデルは多くの、そ
れぞれに実証的に支持された治療方法論から組み立てられている(Prizant et al., 2003)。
サーツモデルの主要な特徴は以下の通りである。
・コミュニケーションと言語の障害は、自然な、半構造化されたやりとりにおいて、前言語的及び言語的コ
ミュニケーションスキルを機能的に用いることを強調する、社会・語用論的(social- pragmatic)言語療法に
よって対処する。
・社会的関係性や社会的・情動的な相互性の障害に対しては、グリーンスパンのフロアタイムの一部とし
て開発された方略が用いられる。発達的・自然主義的アプローチに関する章を参照。
・感覚処理の障害は、感覚統合療法と環境調整及び環境的支援によって対処する。多くの自閉症児は
日常生活スキルに支障をもたらすような運動プランニングの不得手さを持っており、これも介入の対象とさ
れる。
・このモデルは家族構成員が子どもの発達を最もよく高めていけるよう、支援し、教育することも強調する。
Wetherby and Prizant(2000)は、サーツモデルの全体像は、個々の構成要素の組み合わせ以上のもので
あることを強調している。彼らは、自閉症児の経験する様々な発達上の困難は、それぞれが独立に生じる
のではなく、それゆえ一つだけを取り出して治療することはできない、と主張する。例えば食事のような日
常の活動も、上述した様々なスキルをすべて含んでいるのである。またサーツモデルは、子どもの発達に
おける長所や子どもの自然のモチベーションに依拠することで、子どもの弱い部分に対処しようとする。
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TEACCH(Treatment and Education of Autistic and Related Communications Handi
capped Children:自閉症および関連のコミュニケーション障害をもつ子どものための治療教育)
TEACCH は自閉症児・者に視覚情報、構造、予測可能性を提供することによって、彼らを児童期、思春
期、成人期を通して支援することを目指した「生涯(whole life)」アプローチである(Cumine, Leach, &
Stevenson, 2000)。このプログラムは 1972 年にノースキャロライナ大学で創設された。今日では、ノースキ
ャロライナ州全域で提供されているだけでなく、ますます多くの世界中の国々で実施されている。Lord &
Schopler(1994)によれば、90 年代中頃において、毎年およそ 240 名の子どもたちが新たに TEACCH のプ
リスクールに参加し、常に 650∼700 名が在籍していたという。自閉症者とその家族に対する支援の継続
性に力点が置かれる。それゆえ、このプログラムでは 2 歳児から支援が開始され、成人期までその支援が
継続される(Jordan et al., 1998)。
TEACCH プログラムでは、スキルの習得を容易にし、独立を促進するため、環境を構造化することに焦点
が当てられる(Dawson & Osterling, 1997)。各エリアの間に明確な物理的及び視覚的境界線を引くことで、
それぞれのエリアで何をすることが期待されているのかを理解することが容易になる(Cumine et al., 2000)。
子どもたちの理解を促進するため、視覚的支援が用いられる。TEACCH プログラムは、できるだけ隔離的
でない教育を提供することを目指している。子どもたちが新しいスキルを学習するときは、一対一のサポ
ートが用意されているが、子どもたちは独立性を身につけるよう励まされ、統合クラスや逆統合クラスが用
意されている(Jordan et al., 1998)。
プログラムの目標は、プログラムの開始時に行なわれる包括的なアセスメントに基づいて、個々の子どもご
とに個別化される(Cumine et al, 2000)。個々の子どもの長所や興味の所在が確かめられ、それが生活ス
キルや職業スキルの獲得を支援する際に利用される(Jordan et al., 1998)。特にコミュニケーションスキル
の発達に力点が置かれ、いろんなコミュニケーション手段の使用が促進される。さらに視覚支援を組み込
んだ構造化された教育を提供することで、自閉症児の理解を助けることにも力点が置かれている。視覚支
援は自閉症児の特性である視覚的学習スタイルに適合させたものである(Cumine et al., 2000)。親はプロ
グラム全体を通じて対等のパートナーとしてプログラムに関わる(Panerai, Ferrante, & Zingale, 2002)。
Schopler, Mesibov, & Baker (1982) は 2 才から 26 才の、TEACCH プログラムを卒業したか、現在在籍中
の 647 名の生徒について結果を評価した。このうち 51%が自閉症の診断を受けていた。これらの生徒は、
診断のみを受けたグループ、診断と親訓練が施されたグループ、診断及び TEACCH クラスでの介入が
行なわれたグループに分けられた。全員の家庭に質問紙を郵送し、親に記入を求めた。結果は、プログ
ラムへの関わりが大きいグループほど、改善度も高い、というものだった。さらにこの研究の対象となった
成人及び青年の施設入所率は7%であった。それに対して 1960 年代に TEACCH 部が発足する以前、
青年と成人の施設入所率は 39∼74%だったと著者らは指摘している(Schopler, Mesibov, & Baker, 1982)。
しかしながら、統制群が用いられていないこと、評価者が研究に対してブラインドでないこと、データが親
からの情報に限られていること、過去 20 年間で収容政策が変化していること、に鑑みると、この結果を解
釈する際には注意が必要である。
他に三つの追跡研究が TEACCH のサービスを受けた子どもたちの結果データを評価している(Lord,
1991; Lord & Schopler, 1989,1994)。いずれの研究もIQの顕著な上昇を報告している。3 才からサービス
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を受け、その当時無言語でIQが 30−50 の範囲内にあった子どもたちが、7 才までにIQ数値で 22∼24 ポ
イント向上した(Lord & Schopler, 1989)。数値の上昇は介入以前に無言語だった非常に年齢の低い幼児
において最も顕著だった(Lord & Schopler, 1994)。しかしながら、これらの研究は、加齢など結果に影響
を及ぼしうる他の要因を排除するために必要な統制を欠いている(Jordan et al., 1998)。
さらに最近になって Ozonoff & Cathcart (1998) は、TEACCH による家庭療育プログラムの効果に関する
より統制の取れた研究を行っている。親たちは自閉症を持つプリスクール期の子どもに対して、家庭で
TEACCH プログラムを実施するよう指導された。年齢、診断、自閉症の障害特性の度合いによってマッチ
ングされた各 11 名の子どもからなる2つのグループが作られた。両グループとも、応用行動分析プログラ
ムによるプリスクールないし学校のプログラムに参加した。しかし治療グループはさらに 4 ヶ月間の
TEACCH に基づく家庭療育を受けた。統制群は全く受けなかった。両グループとも、事前・事後のテスト
を受けた。結果は、治療グループの子どもたちが顕著な改善を果たし、統制群に比べて 3∼4 倍の改善を
示した(Ozonoff & Cathcart, 1998)。
Panerai, Ferrante, & Zingale (2002) は重度知的障害を伴う自閉症児 8 名ずつからなる 2 つのグループで
介入結果を比較した。子どもたちは性、生活年齢(平均 9 才)、精神年齢によってマッチングされた。実験
グループは TEACCH プログラムを受け、統制グループは補助教員の付添で通常学級における統合教育
を受けた。介入前と 12 ヶ月後に心理測定が行われた。結果は TEACCH を受けたグループの子どもたち
が、統制グループよりも顕著に大きな改善を示した。この結果は、TEACCH プログラムの有効性に関して
一応のエビデンスを提供するものである。しかしこのプログラムの有効性が確かめられるためには、より多
くの人数を対象とする今後の研究で、この結果が再現されなければならない。特に、早期介入の重要性
及び異なった治療アプローチの効果に関する昨今の論争に鑑みて、より幼い、プリスクール期の子どもた
ちに関する研究が必要とされる。
Panerai, et al. (2002) は、TEACCH プログラムはセラピストと家族にとって「モデル」となるけれども、それ
ぞれの社会環境や家族環境に合わせて修正されなければならないことを認める。このような修正は研究
結果の比較を複雑なものとし、結果を他の環境に一般化することを困難にする。Howlin (1997) はスタッ
フの技量や経験が介入結果に影響を与えることに懸念を表明している。一方 Jordan et al. (1998) は、
TEACCH プログラムが自閉症児にもたらす短期的及び長期的な効果を評価するために、独立した研究
者が、より大規模かつシステマティックな、統制群を用意した研究を行うことを提唱している。
デンバーモデル
デンバーモデル(The Denver Model)は発達論に依拠しながら行動的技法を取り入れたプログラムである。
1981 年に、デンバーにあるコロラド大学健康科学センターで始められた。TEACCH プログラムと同様、デ
ンバーモデルも自閉症児がすでに獲得しているスキルを伸ばすことを目指している。両親と治療チームと
の四半期に一度のミーティングを通じて、その子どもに合わせたカリキュラムが作られる。あらゆる場面で
子どもに教育するため、目標、対象、教育プラン、活動が議論される。デンバーモデルは次のような教育
要素を含んでいる。型どおりのジェスチャーから徐々に自然なジェスチャーを形成すること、言語に関連
した動作模倣スキルを教えること、コミュニケーション訓練、より社会に受け入れられやすい代替行動を積
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極的に教えること、子どもが自分の目標を達成できるよう、新しい行動的方略を提示し、そちらに方向付
けすること。このレビューの作成時点では、デンバーモデルの効果を評価する研究は見いだせなかった。
LEAP(学習経験−プリスクール児とその親のためのもう一つのプログラム:Learning Experiences-An
Alternative Program for Preschoolers and Parents)
LEAP はペンシルバニア州においてフィリップ・ストレイン(Phillip Strain)が開発した包括的なプリスクー
ル・サービスで、自閉症児と健常発達児の両方に向けられたものである。LEAP はプリスクールでの統合
教育と、親のための行動的スキル訓練から成っている。このプログラムは行動分析の側面も有しているが、
主には発達論に依拠したアプローチである。サービスは親の参加や親訓練を含む。このプログラムでは
一対一の介入は行なわれない。その代わり週 15 時間の教室での指導が行なわれる。クラスには 10 人の
健常児と 3∼4 人の自閉症児が参加し、クラスごとに担任教師が 1 人と補助員が 1 人付く。フルタイムの言
語療法士が 1 人、非常勤の作業療法士、理学療法士が数人、子ども主導の遊びを促すために特別にア
レンジされた教室で子どもと関わる。カリキュラムの主要な目標は、自閉症児を健常児向けのプリスクール
での活動に触れさせ、必要なときだけ、健常児向けのカリキュラムを自閉症児向けに修正しよう、ということ
である。独立した遊びスキルを促進するため、ピアのモデルを用いたり、標的行動をプロンプト、フェーデ
ィング、強化する(Strain & Hoyson, 2000)。
社会的スキル、コミュニケーションスキル、認知スキル、親業スキルに焦点を当てたプログラムのそれぞれ
の要素を評価するために、およそ 36 の個別事例研究が行なわれている(Strain & Kohler, 1998)。LEAP
のプリスクールでの統合的な教育場面で行なわれる、ピアを媒介とする教育の役割に、この研究では力
点が置かれている。現在、LEAP プログラムのより全般的な効果を吟味するための大規模な縦断的研究
計画が進行中である。Strain & Hoyson (2000) は 1982 年にこのプログラムに入った 6 人の子どもたちの
結果を報告している。
介入前、彼らは全員、小児自閉症評価尺度(CARS)で中度から重度と評価された。介入の短期的及び
長期的な効果を測定するために、一連の標準化されたテストや直接観察が、介入前、介入後、フォロー
アップ期に行なわれた。プログラムの終了時及び 10 歳時のいずれにおいても、子どもたちは、小児自閉
症評価尺度において、自閉症と診断されるための基準を満たさなかった。6 人中 5 人は、学齢期を通じて
付き添いなしで通常学級に在籍し続けた。しかしながら Strain & Hoyson (2000) は、参加者が少ないこと、
他の介入及び学習効果を統制することが難しいことから、この結果を解釈する際には注意が必要である、
と指摘している。LEAP プログラムの有効性に関して確かな結論を導き出すためには、これらの結果の再
現実験と、独立した評価やテストが必要とされる。
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12.その他の介入
生活療法/武蔵野東学園(Higashi School)
生活療法(Daily Life Therapy)アプローチは、集団療法プログラムにおいて子どもたちが日常生活に必要
なスキルを身につけられるよう支援することを目指している。主要な目標は、(a)自尊心を高め自立した生
活スキルを獲得させること、(b)体力、体調そしてスタミナの向上、(c)音楽、芸術、演劇などの様々な学習
分野にわたって子供の知性を刺激させること、である(Cumine et al., 2000)。
カリキュラムの内容および指導形態は、発達レベルよりも生活年齢に合わせたものになっており、同年齢
の健常児クラスへの統合を可能にするレベルでの教育が目指されている。このプログラムは東京およびボ
ストンにおけるこのプログラムのために作られた学校で提供されている。日本における学校は自閉症児と
健常児の両方を対象にしているが、ボストンの学校は自閉症児のみを受け入れている(Jordan et al.,
1998)。ボストン校は個別教育計画(IEP)やコンピューター・テクノロジーの利用など、他の特別支援学校
と共通する多くの特徴を有している。現在イギリスにも生活療法に基づく学校を設立する計画がある。
ボストン校で行われている生活療法の有効性に関しては、ごくわずかな研究しか行われていない。肯定
的な結果の報告はあるものの、それらの研究はいずれも確固たる結論を引き出すために必要な方法論上
の厳格さを備えていない。例えば Hardy, Henrichs, & Edwards (1991)は生活療法を受けている子どもた
ちが特に改善を見せたことを報告している。しかしそこでは統制群(control group)ではなく単なる比較群
(comparison group)が用いられており、評価者のバイアスを排除できるような評価方法は用いられていな
い。Richardson & Langley (1997)は統制群を用いているが、マッチングの詳細な方法についての情報は
提供されておらず、研究は「後ろ向き(retrospective)」であり、親や教師の報告に基づいている。Larkin &
Gurry (1998)はボストンでのプログラムに参加した 6 人の自閉症児の学習結果を測定するために観察デ
ータを収集した。彼らは子どもたちの行動に顕著な進歩が見られると報告している。しかし適切な統制群
がないこと、この研究のために特別に作られた公刊されていない評価スケールを用いていること、フォロー
アップで異なる評価者を用いていること、評価者が研究から独立していないこと、などから、この治療の効
果についてこの研究から結論を引き出すことはできない。現時点では、生活療法プログラムに参加してい
る自閉症児の改善の報告は適切にテストされておらず、さらなる研究が必要とされる。
オプションアプローチ (サンライズ・プログラム : Son-Rise Program)
オプションアプローチ(The Option Approach)は、自閉症児が他者と安全で心地よい社会相互作用を行う
ことが可能な環境をつくることを目的とする、親を媒介とした、在宅の、そして子ども中心のプログラムであ
る(Cummins, 1988)。このプログラムは、子どもたちが周りの世界を混乱と苦痛に満ちたものと捉え、その
結果、社会的やりとりや学習機会から身を引いていると仮定する(Howlin, 1997)。それゆえ、親は子どもと
の関わり方を変えて、こどもが興味を持つ活動を、たとえそれが社会的に受け入れられないものであって
も、受け入れ、それに一緒になって参加するように訓練される(Howlin, 1997; Williams & Wishart, 2003)。
治療セッションは通常、日常の環境と結びついた混乱や注意をそらす事物から子どもを守るように特別に
デザインされた「プレイルーム」で行なわれる(Williams & Wishart, 2003)。親と専門スタッフが毎日、一度
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におよそ2時間の一対一の介入を、一日中行う(Jordan et al., 1998)。子どもによっては数ヶ月ないし数年
間、この「プレイルーム」や他の類似の部屋でのセッションを受ける。セッション中、大人は子どものリード
に従い、しばしば子どもの動きを模倣し、子どもの活動に加わろうと試みる。大人は、子どもに彼らと関わ
ろうという気持ちを起こさせるため、「興奮、情熱、エネルギー」を示すことが奨励される(Cummins, 1988)。
Jordan, et al. (1998) はオプションアプローチの効果に関する研究エビデンスをレビューした。それによれ
ば、この治療で用いられている原則やテクニックのいくつかは、研究によって効果的であることが示されて
いる(例:子どものリードに従うこと)。しかしながら、少数の事例研究においてよい結果が逸話的に報告さ
れてはいるものの(Williams & Wishart, 2003)、長期的な結果に関する研究は全くなされていない。
Howlin (1997) はこのプログラムが研究エビデンスを欠いているにも関わらず、奇跡的回復を宣伝し、高
い費用を取っていることに懸念を表明している。Howlin はまた、この治療を受けた子どもたちの一部が、
その後通常学級への統合に著しい困難を示す、という教師からの逸話的報告を引用して、自然な環境で
はなく特殊な環境で治療を行うことの悪影響を心配する。このプログラムの自閉症児に対する長期的な効
果に関してはさらなる研究が必要とされる。
音楽療法
オーストラリア音楽療法協会(The Australia Music Therapy Association, 2006)は、音楽療法を、健康を促
進するため、そして治療的な関係を作り出すことによって生理的、情動的、認知的および社会的ニーズに
応えるために、音楽を計画的かつ創造的に用いる健康職業である、と説明している。音楽療法は子どもと
セラピストとの関係を発展させるコンテクストを作り出せる、と信じられている。Allgood (2005) によれば、
自閉症者に対して、関係構築、コミュニケーションスキル、感覚統合、運動及び身体的発達、認知的発達
を促進するために効果的に用いられている。英国では、音楽交流療法と呼ばれるアプローチが特に自閉
症児のために開発され、数多くの学校のカリキュラムに取り入れられ、多くの言語療法士や心理療法家に
採用されている(Jordan et al., 1998)。このプログラムは初期のコミュニケーションスキルの発達に焦点を当
て、専門家が楽器を演奏する一方で、親やセラピストや教師が子どもに関わる(Jordan et al., 1998)。
今のところ、音楽療法の自閉症児に対する効果に関するエビデンスは主として逸話的なものであり、少数
の臨床レポートや前実験的な研究しか公表されていない(Gold & Wilgram, 2006)。Whipple (2004)は、音
楽療法が自閉症の児童及び青年の訓練の独立変数として用いられている 12 の研究を対象とするメタ分
析を行った。この分析の結果、Whipple(2004)は「すべての音楽的介入は、目的や実施方法の如何に関
わらず、自閉症の児童や青年に対して有効である」(p.90)と結論づけている。しかしながら、このメタ分析
に用いられている基準はゆるやかなものである。9 つの研究のうち公刊されているものは2つだけである。
そのすべてが音楽療法を用いてはいるものの、目的やアプローチは異なっている。結果の評価テストも異
なっているし、少人数の、しかも年齢に大きなばらつきのある子どもたちしか参加していない。自閉症幼児
を対象とする大規模な無作為比較試験は行われていない。このレベルのエビデンスがない以上、音楽療
法がすべての自閉症児に対してあまねく効果がある、という主張は警戒を持って眺めるべきであり、適切
な実験デザインと方法論上の厳格さを備えた研究によってテストされるべきである。
SPELL(Structure-Positive-Empathetic-Low Arousal-Links)
SPELL は英国の全国自閉症協会によって作られた枠組みであり、実践家や親が自閉症者への様々な介
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入を考案し、実施し、評価することを支援する目的を有している。この枠組みは個々の自閉症児の個別の
ニーズを認め、彼らの学習や参加の困難に対処するために子どもの長所に着目するプログラムが必要で
あると強調する(National Autistic Society, 2006d )。SPELL の枠組みを採用したプログラムは、子どもたち
に構造と一貫性を提供し、気を散らす刺激を減らし、高度な組織化を保障し、子どもたちの週 7 日間、1
日 24 時間のすべてを包括する教育及びケアプランを共同でデザインするところに特徴がある。SPELL は
まだ発展途上にあるアプローチであり、継続的にモニターされ、評価されている。このレビューの作成時
点で、SPELL の有効性を評価した研究は見い出せなかった。
キャンプヒル運動(The Camphill Movement)
このアプローチは「ヴァルドルフ(Waldorf)」または「ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)」のカリキュラム
を採用し、共同体生活の重要性、経験とリソースの共有、社会的・教育的・治療的アプローチの発展、と
いう 3 つの原則に従っている(Smith, Laird, & Smith, 2001)。世界中に 600 のヴァルドルフ学校がある。し
かしながら、自閉症やその他の発達障害を持つ人々にこのアプローチが有効なのかどうかを確かめる調
査研究によるエビデンスは存在しないようである。
ミラー法(The Miller Method)
R のウェブサイトで見ることができる(Miller & Eller-Miller,
このプログラムの説明は the Miller Method○
2006)。ミラー法は「認知-発達的システム理論」に基づく。この理論は、健常児の発達は子どもたちがいろ
いろなシステムを形成し、行動の「かたまり(chunks)」を組織する能力に依拠している、と仮定する。ミラー
法は、子どもの「逸脱したシステム(aberrant systems)」(つみきを並べる、刺激に衝動的に反応する、など)
を「機能的な行動(functional behaviors)」に変容させる、と主張する。そのために例えば、子どもたちを 1 メ
ートルほど高さの宙に浮いた「高台(elevated square)」に乗せて、その子どもたちの行動を物語る(narrate)、
などの方法を取る。
Jordan, Jones, & Murray (1998) はミラー法の有効性に関する研究エビデンスのレビューを行った。それ
によれば、このプログラムの結果に関する研究は 1 つしかなく、その 1 つも、独立変数(すなわち治療プロ
グラム)の直接の効果を評価するものではなかった。このプログラムの有効性と長期的な結果を評価する
ために、さらなる調査研究が望まれる。Jordan, Jones, & Murray (1998)は、そのような研究エビデンスがな
い以上、このプログラムは基本的に前実験段階と見なされるべきである、と警告する。
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13.家族支援
はじめに
自閉症児の両親は、子どもの学習を支援するにあたって重要な役割を担っている。多くのプログラムにお
いて、両親は意志決定過程を主導するだけでなく、介入の実施において主要な役割を担っている。その
ため両親は、子どもと接する上で心理的な支え、アドバイス、そしてトレーニングを必要としている。また、
彼らは、受けることができる治療方法や支援サービスに関する、最新でしかも正確な情報を入手する機会
も必要としている。少数ながら増えつつある文献が、自閉症児の両親の体験を検証し、セラピストや教育
者に対して、支援を行う上での最適の方法についての情報を提供している。本章では、自閉症児の両親
との共同作業に関連するいくつかの重要な問題を議論し、さらにこれらのニーズに応えるために特に考
案されたプログラムの例を紹介する。
診断の早期化と、子どもが診断されたらできるだけ早く介入が提供されることに焦点が当てられた結果、
北米やイギリスにおいて、幼児期の自閉症児を対象としたペアレント・トレーニングが、近年急速に拡大し
つつある。この傾向は、オーストラリア全域において、自閉症の早期診断の重要性と、一貫性があり十分
な情報に基づく診断や評価が行われることの必要性を浮かび上がらせている。子どもが診断された時に
サービスが利用可能になっていること、および診断とサービス提供の連携が取れていることが必要不可欠
である。これは、オーストラリア各地の政策立案者、資金提供者、サービス提供者にとって重要な目標で
ある。
家族のストレス
自閉症児の両親は、他の障害児の両親や、健常児の両親よりもずっと大きなストレスを経験する(Honey,
Hastings, & McConachie, 2005)。彼らは心理的障害 (Bromley, Hare, Davison, & Emerson, 2004;
Duarte, Bordin, Yazigi, & Mooney, 2005)および人間関係の破綻(Higgins, Bailey, & Pearce, 2005)の高い
リスクをかかえる。ストレスは、自傷行為や儀式行動、強迫行動といった自閉症児が示す反社会的行動と
しばしば関係している(Higgins et al., 2005)。両親が経験するストレスのレベルは、支援を受けられるかと
いうことと非常に密接に関係しており、自閉症児の母親は、父親よりもずっと大きなストレスにさらされる傾
向がある(Honey et al.,2005)。家族のほかの構成員、特にきょうだいは、自閉症児のきょうだいがいること
に関連するストレスを被りやすい。自閉症児のきょうだいがいることの影響に関してはより詳細な調査が必
要である。自閉症児のきょうだいは、診断後の情報提供と支援、さらに成長過程を通じた継続的な支援を
必要とする。
最近の一連の研究は、自閉症児を抱える家族の体験を調査し(e.g., Bromley et al., 2004; Honey et al.,
2005)、その中でより高い回復力を見せた家族によって示された対処メカニズムを特定し、理解しようと努
めてきた(e.g., Hastings et al., 2005; Higgins et al., 2005; Sivberg, 2002)。これらの研究やその他の研究の
成果は、自閉症児の両親や家族に対するサポートプログラムの開発と実施に利用されていくだろう。
診断時のサポート
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両親は子どもの診断に対して一人一人異なった反応を見せる。驚き、自暴自棄、無力感、また時には子
どもの発達に対して彼ら自身がすでに持っていた懸念の確認も見られる(National Autistic Society,
2006c)。Futagi and Yamamoto (2002)は、自閉症診断の告知時における母親達の認識を研究した。母
親達は、ストレスを減らし、自分達が子どもの診断を受け入るために助けとなったいくつかの要因を特定し
た。この中には、(a)早期の評価と診断、(b)子どもの行動に関する情報とコミュニケーションを支援する方
略、(c)情報と支援を提供する親による自助グループの存在が含まれていた。多くの両親は、診断時に自
分の子どもの予後についての情報を求めるが、このような初期の段階で予後について確実なことを言うの
は困難であることを説明するのが、専門家の責任である(National Autistic Society, 2006c)。
明らかに、専門家達は診断時に家庭をサポートする上できわめて重要な役割を担っている。Nissenbaum,
Tollefson, Resse(2002, p37-38)は、以下の方法によって専門家が家族を支えることを推奨している。

自閉症に関して詳しくなること

家族のニーズを把握してその家族に適した状況を作り上げること

効果的にコミュニケーションを取り、リソースと介入法のリストを提供すること

フォローアップを行い、予後について話し合い、希望を与えること

自閉症の診断を伝える際には個人攻撃的な反応を受けるのが普通であることを認識すること
専門家は診断時に自閉症児の家族に対して適切な情報と支援を提供できるように、常に専門能力を高
める活動に従事するべきである。
情報に関する両親のニーズ
自閉症児の両親は、自分達の子どもの診断を理解し、支援サービスに関して賢明な選択をするために、
情報を必要としている。Pratt (1998)は、インディアナ州各地で自閉症児の家族のために開催された 10 の
フォーラムの結果を報告する中で、診断時に家族に情報を提供する必要性を強調している。提供すべき
ものとしては、基礎的な情報を載せた簡単な文書、将来の行動のチェックリスト、子どもの障害に関する実
用的な情報、重要な組織やリソースの名前や電話番号、などが考えられるだろう。両親は、また長期的に
は次のような情報も必要としている。

子どもの学習を支援するために役立つ方略

利用できる治療や教育サービスに関する情報

教育上の配置などに関する子どもの権利に関する情報

障害児を育て支えることに関係して一般的に生じてくる金銭的な問題やその他の問題に取り組むこ
との助けとなる情報
多くの両親は、どの療育法を利用すべきなのかを知ることは難しいし、様々な取り組みに関する情報が一
箇所に蓄えられていることは役に立つだろうと報告している。Pratt(1998)は、多くの両親は最初に提供さ
れる情報はより楽観的なものを好むと指摘し、また、きょうだいや家族全員に対する支援と訓練を提供す
る必要性を強調している。
両親や専門家のためのガイドラインがあっても、それを必要とする家族の相当な部分にそれが届かない
可能性があるということを銘記することは重要である。このことは、少数民族や社会経済的に不利な条件
に置かれた家族、そして大都市から遠く離れた家族のような不利な状況におかれた集団の場合、特にあ
てはまる。
- 65 -
家族支援の例
ヘイネンプログラム(The Hanen Program)
自閉症児のためのヘイネンプログラムは、ペアレント・トレーニングに焦点を当てた自閉症早期介入プログ
ラムの中で、おそらく最も著名で、最も国際的に普及しているものであろう。ヘイネンセンターは、カナダの
トロントにある政府出資機関であり、新生児から 6 才までの子どもたちのコミュニケーションの発達を促進
するために、養育者を訓練することを専門としている。「モア・ザン・ワーズ(more than words)」は、プリスク
ール期の自閉症児の親のための、ヘイネンの集中的なトレーニングプログラムである。
このプログラムは、その理論的な枠組みを対人関係・語用論・発達的アプローチに拠っており、行動的プ
ログラムと自然主義的な子ども中心のプログラムとの融合を強調する。すなわち、ABA プログラムにみら
れるように活動を計画的に小さなステップに分解して教えることもあれば、より自然的なアプローチの中に
ことばを機能的に用いる機会を組み込むこともある。
このプログラムの目的は、子どもたちの日常の活動を、コミュニケーションを教える機会としていかに活用
するか、を親に学んでもらうことである。ヘイネンセンターのウェブサイトによれば、「モア・ザン・ワーズ」は
今日の最善の実践ガイドラインを取り込み、自閉症スペクトラム障害の子どもたちの学習を高めるために、
愛着、見通し、構造、視覚的なサポートの利用を強調している。このプログラムは成人学習の諸原理を応
用して、対話形式のグループセッションが 8 回、家庭での個別のビデオ撮影及びコーチングのセッション
が 3 回からなる親講習会を行っている。このプログラムの目標は、知識と実践的な実地トレーニングを通じ
て、親が日常生活を学習経験に変えることができるようにすること、そして子どもたちがその生涯を通じて
受ける可能性がある他の治療法を親が支えていけるようにすることである。
McConachie, Randle, Hammal, and Le Couteur (2005)は、「モア・ザン・ワーズ」のプログラムを受けてい
る 2 歳から 4 歳の自閉症児 51 人を対象に比較試験を実施した。一方のグループは直ちに介入を受けた。
もう一方のグループは少し期間をおいてから介入を受けた。結果は被験者募集から 7 ヵ月後に測定され
た。測定対象は、親が促進方略をどの程度利用しているか、親のストレス度、子どもとのやりとりの際に子
どものニーズをうまく満たせる能力、などだった。また子どもの能力レベルや語彙の量、問題行動、社会的
コミュニケーションスキルの測定も行われた(McConachie et al., 2005)。その結果は、(a)親は、自分の子
どもの発達を促進すると思われる方略の適用方法を身につけることができた、(b)講習会に参加した親の
子どもたちは、遅延群の親の子どもたちよりも多くの語彙があった、というものだった。
しかしながら、この調査結果は、(a)この研究に関わった子どもの数が少数である、(b)グループの
割り当てはランダムではなかった、
(c)二番目のグループがプログラムを開始する必要があった
ため、フォローアップまでの期間が短かった、(d)遅延群の親たちは、そのプログラムを待ってい
る間に他の介入を受けていた、(e)子どもたちのスキルの直接測定(ADOS)によっては目立った治
療効果が示されなかった、という事実を考慮に入れて評価されなければならないだろう
(McConachie, et al., 2005)。研究者たちは、このプログラムの有効性に関する具体的なエビデ
ンスを提示するためには、多くの治療センターからデータを集めたり、無作為化試験を用いたり、
このプログラムを他の介入プログラムと比較することが必要である、と示唆している。
ヘルプ!プログラム
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ヘルプ!プログラムは、イギリスの英国自閉症協会(National Autistic Society)によって作られた、自閉症
児の親や養育者のための診断後支援プログラムである。このプログラムは、両親やフルタイムの養育者に
対して診断後の情報やアドバイスを提供すること、自閉症スペクトラム障害、前向きなマネジメントの方略、
地域の支援サービスに関する知識や理解を向上させることを目的としている(National Autistic Society,
2006b)。このプログラムは、5 歳以上かフルタイムの教育を受けている自閉症児の両親や養育者、そして
過去 12 ヶ月以内に自閉症スペクトラム障害の診断を受けた若者や大人を対象としている。
このプログラムの参加者は、初回の「はじめまして」セッション、1回 3 時間、計 6 回のコアセッション、最後
のお別れセッションに参加する。コアセッションのテーマは、(a)自閉症スペクトラム障害、(b)スペクトラムの
中で自分の子どもがどこに位置しているかを理解すること、(c)コミュニケーションと社会的相互作用、(d)行
動支援の方略、(e)教育と次のステップへの移行あるいは成人の生活と移行、(f)法律と権利、などである。
一回のプログラムは 10 家族を対象とする。またプログラム参加者には、親の手引き、情報小冊子、リーフ
レット、児童向け・成人向けの書類ばさみが配られる。本レビュー作成時点で、このプログラムの有効性に
関する調査研究は確認できなかった。
英国自閉症協会「アーリーバード」プログラム
英国自閉症協会(NAS)によって開発された「アーリーバード(Early Bird)」プログラムは、親向けのプログ
ラムで、親たちが自閉症を持つわが子をよりよく理解し、より上手に関われるように支援するものである。こ
のプログラムの目的は以下の通りである。
1. 診断から就学までの期間の両親を支援する
2. 両親を力づけ、子どもが自然な環境の中で社会的コミュニケーションをとり、適切に振る舞えるよう親
が援助できるようにする
3. 子どもが不適切な行動を身につけることを未然に防ぐために、早期から子どもと上手に接するやり方
を親に身につけてもらう (National Autistic Society, 2006a)
「アーリーバード」プログラムは、少人数の講習会に、個別家庭訪問とビデオによるフィードバックを組み合
わせ、子どもに効果的に関わるための知識や技術を親に身につけさせることを目指す。親はこのプログラ
ムに 3 ヶ月参加するが、その間、一週間ごとに 3 時間のトレーニングセッションか家庭訪問のいずれかに
参加することを求められる。NAS は他の組織や機関を対象とするトレーニングコースも用意しており、それ
に参加した組織や機関はこのプログラムを提供する認可を得る。ニュージーランド自閉症協会は「アーリ
ーバード」プログラムを提供する許可を得ている。
NAS は「アーリーバード」プログラムの評価を継続的に行っている。Hardy (1999)はこのプログラムに参加
した親たちに対する効果を評価する予備研究を行った。その結果は、親たちのストレスが減少し、子ども
をより肯定的に見るようになり、子どもとのやり取りにおいて複雑な言葉遣いをすることが減った。これらの
結果は、自閉症の子どもを持つ 119 の家族が参加した、より大規模な研究(Engwall & MacPherson, 2003)
においても再現された。この結果は、家族支援におけるこのプログラムの有効性を示す暫定的なエビデン
スを提供している。しかしながら、より大規模な無作為比較試験が必要とされる。
家族向けプラス思考的行動支援(PBS)プログラム
家族向け PBS プログラムは、子どもの問題行動に対処するために、組織的かつ協調的なやり方で両親と
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専門家が共同作業を行う。このプログラムは通常、日常活動において子どもたちを支援することに焦点を
おき、5 つの局面から成っている。
1. 家族と専門家との間の関係を構築する
2. 問題行動の機能的評価を実施する
3. 介入の場面となる日常のルーティーンを決める
4. ルーティーンのそれぞれに対応する行動支援プランを作成する
5. 支援プランを実施し、必要に応じて見直しを行う
家族向け PBS プランは、(a)問題行動の代わりとなるスキルを教え、増加させるための方略、(b)問題を事
前に防ぐための方略、(c)問題が発生したときにそれに対処するための方略、(d)改善をモニターするため
の方略、を含む。Marshall & Mirenda (2002)によると、これらのプログラムは行動において本質的な長
期にわたる変化を作り出し、改善された生活の質を子どもとその家族にもたらす潜在力を持つ。
例えば Boettcher, Koegel, McNerny, & Koegel (2003) は、家族向け PBS プログラムを潜在的な危機に
直面した自閉症児の家族に提供した。このプログラムは自閉症児とそのきょうだいによる破壊的な行動の
減少をもたらし、さらに家族全体にストレスの減少や肯定的なやりとりの増加といった、その他の肯定的な
副次効果をもたらした。これらの、そしてその他の知見(e.g., Lucyshyn, Albin, & Nixon, 1997; Marshall &
Mirenda, 2002)は、家庭向け PBS の有効性の暫定的なエビデンスを提供している。しかしながら、これら
の知見を再現し、さらに拡張するための、より大規模な比較試験を含む更なる研究が必要とされる。
家族支援の評価
親・家族向けの介入が自閉症児の行動支援アプローチとして好んで用いられるようになってきたため、そ
の有効性を適切に評価することが必要となってきている。Bailey, McWilliam, & Darkes et al. (1998) は早
期介入が家族向けアプローチに内在する目標を達成した度合いを判断する枠組みを示した。それは早
期介入の目的や予期される便益を根本的に見直そうとする専門家や親や政策決定者たちの議論にとっ
て刺激となるだろう。家族支援プログラムの有効性を評価するためには更なる調査研究が必要とされる。
特に家族の離反やうつ病などの間接的影響をも調査対象にすることが望まれる。
まとめ
家族支援は自閉症児の家族にガイダンス、トレーニング、情報、支援を提供することを目的とする。わが
子に関する専門家である両親が、その子どもたちの学習を支援するにあたって中心的な役割を果たすこ
とができるように力を与えることに重点が置かれている。これらのプログラムの成功は、親と専門家との間
に強力かつ協働的な関係が構築されるか否かにかかっている。とりわけ、保健関係者や支援員らが家族
全員のニーズを満たすことによって自閉症児とその家族の幸福を増進する能力を持っているかどうか、が
重要になってくる。そのためには、(a)家族が様々な支援を選択し、コントロールすることを援助する、(b)家
族が複雑なサービスシステムをうまく利用することを助ける、(c)家族、友人、隣人による非公式な支援をう
まく利用できるよう援助する、(d)アセスメントや介入プランニングの過程で家族の事情を考慮する、などの
配慮が必要である。
- 68 -
14.様々な介入の費用便益
自閉症児の治療法に関する調査研究は増えているにもかかわらず、様々な治療法が自閉症児、家族、
社会全体へもたらす費用と便益についての研究はほとんどなされていない(Jarbrink, Fombonne, &
Knapp, 2003) 。わずかに Jacobson, Mulick, & Green (1998)が、費用便益(cost-benefit)モデルを用いて、
早期集中行動介入(EIBI)が社会にもたらす費用と便益の仮の見積もりを提示している。しかしながらこの
試算は、すべての子どもがもっとも理想的な治療効果を得るという仮定のもとに作られており、実際にはあ
りがちな、部分的な効果に留まったケースは想定されていない。それゆえに、この試算は現実的なものと
は言いがたい。Jarbrink et al. (2003) は、いくつかの異なるプログラムの費用と便益を比較するためにさら
なる調査の必要性があると指摘している。
これまでのところ、オーストラリアで実施されている治療プログラムに関する費用効果(cost-effectiveness)の
研究は報告されていない。従って、費用対便益の観点から、あるプログラムが他のプログラムより効果的
だ、ということを示唆するエビデンスは存在しないのである。そこで本レビューの著者は、オーストラリア国
内で自閉症児の治療プログラムを提供するサービスプロバイダーに対して調査を試みた。この調査は、プ
ログラムの種類、治療時間、資金源、関連する費用、期待される短期的効果、および長期的な便益につ
いての情報を提供している。調査結果は、表 6 にまとめた通りである(訳注:表は省略した)。なおこの情報
は、プログラム提供者の自己申告に基づいており、独立な第三者によって検証されたものではないことに
留意されたい。それゆえ、自閉症児をもつことで家族が負う費用、治療サービスの料金と関連費用、多様
な早期介入プログラムそれぞれの費用効果の評価についてのより詳細な調査が待たれるのである。
- 69 -
15.自閉症児のための教育的介入の比較評価
数名の著者が、自閉症児に対して世界各国で行われている主要なプログラムを包括的にレビューしてい
る(e.g., Dawson & Osterling, 1997; Howlin, 1997; Marcus, Garfinkle, & Wolery, 2001; Rogers, 1998)。ど
の著者も、それぞれのレビューに基づいて、各プログラムの理論的枠組みにとらわれず、有効なプログラ
ムに共通する必須要素を抽出している。Dawson & Osterling (1997) は、彼らが効果的なプログラムに必
須と信じる主要な要素について、各プログラムの指導者たちも概ね同意した、と述べている。しかしながら
以下に挙げた要素のそれぞれを満たすために各プログラムが取る方法は、それぞれの哲学的アプロー
チの違いを反映して、異なったものとなっている。
効果的介入の主要な要素
カリキュラム内容
ここには5つの基本的なスキル領域が含まれる。環境の諸要素に注目する能力、他者を模倣する能力、
ことばを理解し、用いる能力、おもちゃで適切に遊ぶ能力(Howlin, 1997)、他者と社会的に関わる能力
(Dawson & Osterling, 1997)がそれである。Marcus, Garfinkle, & Wolery, (2001) は、効果的なプログラム
は、自閉症児の学習特性に基づいて、以下のような介入方略を採っている、と示唆している。すなわち意
味のある情報を明確なものにする、組織化とスケジューリング、教える人や場面を多様にする、積極的に
指示を出す、教材やカリキュラムを個人に合わせる、視覚支援の提供、発達的に適切なレベルの模倣を
教える、発達の弱い領域を補うため、その子どもが強い領域や興味のある領域を用いる。
高度に支援的な教育環境と般化方略
上記の中心的スキルは高度に支援的な教育環境で教えられる。そして計画的により複雑な、自然な環境
へと般化される。Howlin (1997) は行動論的な方略の必要を強調している。
予測可能性とルーティーンの必要
自閉症児は情報が高度に予測可能な方法で提示されると、社会的反応や注意がより改善する。逆に同じ
情報が予測困難な状況で提示されると、彼らの行動は非常に破壊的になる。
問題行動への機能的アプローチ
大部分のプログラムは、子どもの問題行動に対して、子どもの興味やモチベーションを高めること、環境を
構造化し、適切な行動を積極的に強化すること、によって対応している。生活環境の管理(ecological
management)にも関わらず問題行動が続く場合には、問題行動の機能を特定するための分析が行われる。
次いでそれに基づいて、問題行動の引き金や 強化子を取り除くように環境を修正する。また問題行動に
代わるより適切な行動を子どもに教える。Howlin (1997) は問題行動がコミュニケーションとしての機能を
持つこと、それゆえ子どもにより適切なコミュニケーション手段を教える必要があることを強調している。
移行支援
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大部分のプログラムは、学校への移行期が、自閉症児が多大な支援を必要とする時期だと認識している。
効果的なプログラムは、子どもが学校で可能な限り自立できるよう、学校で必要とされるスキルを積極的に
教えている。またこれらのプログラムはしばしば子どもにとって最も適した教育上の配置を見つけるために
積極的な役割を果たし、子どもをその新しい場面に統合させる努力を払う。
家族の関与
効果的なプログラムは、自閉症児への早期介入において親の役割が決定的に重要であることを認識して
いる。大部分のプログラムは、親が子どものプログラムにどう関わるか、どの程度関わるか、を選択できるよ
うにしている。効果的なプログラムは、自閉症児の家族が直面するストレスに敏感であり、親の会やその他
の情緒的支援を提供している(Dawson & Osterling, 1997)。
以上の諸点に加えて、著者らは、全てではないが多くのプログラムに用いられ、かつ言及に値する、と思
われる重要な方略や方法として以下の諸点を挙げている。
視覚支援の利用
Dawson & Osterling (1997) は、補助的コミュニケーション手段の使用がレビューの対象となった多くのプ
ログラムに共通する特徴であると指摘している。加えて Howlin (1997) 及び Quill (1997) は、子どもに予
測可能で容易に理解できる環境を提供するため、視覚の手がかりのある指示を行うことが重要だ、と強調
している。
十分な集中度
Dawson & Osterling (1997) は、レビューの対象とした様々なプログラムが、いずれも最低週 15 時間以上
の治療を勧めている、と指摘している。著者らは、研究文献で論じられている「集中(intensity)」という概念
は複雑なもので、必ずしも「週あたりの時間」だけを意味するものではない、と強調している。週あたりの時
間数だけに焦点を当てることは、本当の重要要因であるところの、子どもとの積極的な意味のある関わり
の度合いから目をそらしてしまう。Marcus, Garfinkle, & Wolery (2001)は、早期介入推進派が週あたりの
時間数を強調しているのは不幸なことだが、もし治療時間数だけでなくカリキュラムや教育内容などの重
要性に焦点が当てられるのであれば、最低週 15 時間、というリミットには意味がある、と示唆している。
多様な分野の専門家によるコラボレーション
多くのプログラムの指導者たちが、自らのプログラムに加えて作業療法が効果を上げそうな子どもたちに
は作業療法が施されるべきだ、と強調する(Dawson & Osterling, 1997)。このように自閉症は疑いもなく、
アセスメントやサービス提供に際して、分野横断的な協力を必要とする(Jordan, 2001)。チームメンバーに
は通常、言語療法士、理学療法士、教師、心理士、そして親が含まれる。
ピアを含むこと
成功しているプログラムの多くは、健常のピア(訳注:同年代の子ども)をプログラムに組み込んでいる
(Dawson & Osterling, 1997)。
自主性の強調
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Marcus, Garfinkle, & Wolery (2001)は、成功している多くのプログラムが子どもの自主性、イニシアチブ、
選択を強調している、と指摘している。
固執性と常同行動への対処
Howlin(1997) はよいプログラムは多くの問題行動の根底にある原因として固執性と儀式行動(rituals)の
重要性を認識している、と指摘している。しかしながらこれらの行動は、子どもにとって不安を鎮めたり、モ
チベーションや報酬の強力な源となるなどのよい機能も果たしうる(固執行動の積極的利用の例として
Attwood (2003)を参照)。
個人差
自閉症の幅広さ(spectrum)を考慮にいれること、自閉性障害の中核的特徴は不変だが、一人一人の子ど
もが、みな異なった強さとニーズのパターンを持つことを認識することが大切である。さらに家族もそれぞ
れ違った目標、リソース、強さ、ニーズを持っている。したがってすべての子どもやその家族に適合する単
独のプログラムは存在しない。これまでの研究が示唆するところでは、早期の集中的な、家族に向けられ
た治療プログラムは、それがいかなる理論的ベースを持っているとしても、それらが子ども一人一人の強さ
と弱さのパターンに合わせ、家族を取り巻く環境を考慮に入れる限り、顕著な短期的及び長期的な利益
をもたらす。
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16.自閉症児の教育的配置
はじめに
自閉症児が学齢期に達したとき、適切な学校選択は、親や早期療育関係者にとって非常に重要な関心
事である。自閉症児は学校環境で特別の困難に直面するために、どのタイプの学校を選択するかが問題
となるのである。自閉症に伴う様々な問題に対処するために、教育が最もよい成績を上げていることは確
かだが(Jordan et al., 1998)、自閉症児にとってどのような選択が最善なのか、特に普通教育へのインクル
ージョンと特殊教育クラスへの配置とではどちらがよいのか、に関して盛んな議論が行われている。
学校選択についての決定は、第一にどのリソースが利用できるかによって左右されるが、特にオーストラリ
アの地方では選択の余地が全くないか、あってもわずかしかない。理想的には学校選択は、各々の子ど
もと家族のニーズと能力によって決定されなければならない。しかし実際には学校がどれだけ子どものニ
ーズに応える能力を持っているか、によっても影響を受ける。親とサービス提供者(教育者を含む)が、で
きるだけ多くの情報に基づいて決定をすることができるようにするべきである。この章では、関連する問題
と研究の概略を紹介する。より包括的なレビューについては、Autism Spectrum Australia(ASPECT),
Satellite Class Project: A Proactive Transition Model for the Inclusion of Students with Autism in Regular
Education Settings (Roberts, 2004)を参照のこと。
全ての自閉症児にとって統合教育がどれだけ適しているかあるいは成功しているか、に関するデータが
ないにも関わらず、学校での在籍状況が早期介入プログラムの成否を判断する一般的な指標とみなされ
ていることは興味深い。
表 7(訳注:省略)はオーストラリアで自閉症児がどのような教育的配置のタイプを利用できるかを示してい
る。
用語の定義
統合(インクルージョン)教育とは、生徒を障害の種類または程度に関係なく、無条件に通常学級に在籍さ
せることを意味する。統合は全ての子どもに適した単一の包括的教育システムが存在することを含意す
る。
メインストリーミング(mainstreaming)は、障害をもつ生徒が特別支援教育課程と通常学級の両方で教育を
受けることを意味する。交流モデルとほぼ同義である。
交流(インテグレーション)モデルにおいては、障害を持つ生徒は普通学校に通学し、教師がその生徒が
うまくやっていけると判断すれば定期的に通常学級に参加するが、彼らの籍はあくまで特別支援教育クラ
スにある。
- 73 -
メインストリーミングと交流は、特殊教育サービスの連続体(full continuum)を含意する。オーストラリアでは、
この連続体は通常の場合、特別支援学校、普通学校の中の特別支援学級、援助付きの通常学級、通常
学級から構成される。
公立学校は州政府教育部門によって運営される。私立学校はカトリックの教育事業や自閉症協会などの
障害者事業その他の民間セクターによって運営される。
特別支援学級・学校には、何らかの障害を持つすべての生徒のための総合的(Generic)なものと、特定の
障害に特化した特定の(Specialized)ものがある(例えば自閉症専門クラス)。
統合教育と特殊教育サービス
教育とは主に生徒に彼らの属する社会や文化での生活を準備させるためにデザインされた社会的集団
活動である(Jenkins, 2002)。国際的には障害児への教育的支援は統合教育モデルへと移行しつつある。
サラマンカ宣言(United Nations Educational Scientific and Culutural Organization, 1994)は、全ての政府
に対して、統合教育政策を採用し、全ての生徒を普通学校に在籍させるよう求めた。
米国では学齢に達した障害を持つ生徒のうち95%が通常学級に在籍している(Kavale & Forness, 2000)。
オーストラリアでも同様に、自閉症を持つ生徒の過半数は通常学級に在籍している。特別なニーズをもつ
人のための統合教育は、障害を持っているからという理由のみでの差別を禁止する障害者差別禁止法
(DDA, Disability Discrimination Act)(Australian Commonwealth Government, 1992)によって支持されて
いる。DDA は、障害児を通常学級で教育することが学校に対して、正当化されえないほどの負担をもたら
すことがない限り、学校は障害児を通常学級に受け入れなければならない、と明示している。
オーストラリアの学校は、障害を持つ生徒の配置を決定するに当たって、通常、法律ではなく政府の方針
に依拠している(Dempsey, 2001)。政府の方針は州によって異なり、統合教育に積極的な度合いにもばら
つきがある。さらに、すべての州が統合を支持する教育政策を掲げてはいるが、統合教育実施のために
追加資源を投じる度合いも、州によって差がある。2005 年に連邦政府は「教育における障害の取り扱い
についての基準」の発表によりすべての州が従うべき基準を取り決めたが、その影響はまだ明白ではな
い。
特別なニーズを持つどんな子どもたちにも統合教育を行うという方針には反対もある。 例えばニューサウ
スウェールズ州では教員組合が、州教育省の統合教育への姿勢、特に資源や職場の問題を理由に、統
合教育への反対方針を明らかにしている。また障害児への特別支援教育サービスの連続体を引き続き
維持することを求める有力な保護者団体も存在する。
オーストラリア全体で44%の生徒が私立学校に通っている。オーストラリア教育、訓練、若者問題省(DE
TYA)のガイドラインによれば、私立学校に在籍している障害をもつ生徒の割合は 1985 年に 0.5%未満
であったが、2000 年にはほぼ 2%に達している。これは実数にして 1060%の増加を意味するが、この期
間の私立学校の生徒数全体の増加率は 30%に止まる。これは支援のための予算が手当てされたことに
よりすでに在学していた生徒が新たに特別のニーズを持っていると認定されたことの結果であろう
(Dempsey, 2001)。
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オーストラリアでは、特別なニーズを持つ生徒の多くは依然として特別支援教育環境に配置されており、
当初通常学級に受け入れられた子どもについても、その一部は後に特別支援学級や特別支援学校に移
籍する傾向がある(Chalmers, Carter, Clayton, & Hook, 1998)。子どもの障害の重さや「社会的不適応」
の度合いが、個人の在籍先が分離教育か統合教育かを決定する重要な要素となっている(Thomas &
Loxley, 2001)。Cole (1999) の示唆するところによれば、統合教育か特別支援教育かといった、障害をも
つ生徒の教育の最適モデルについての議論は、1)障害を持つ生徒の親がどの程度普通教育を望んで
いるか、2)教育的・社会的サービスの費用を特定の予算内に制限しようとする州の意向、の2要因によっ
て最も影響を受ける。
文献レビューによれば、普通教育及び特別支援教育の教師たちは、統合教育に関して、特にその実施
の効果や行政的支援、リソース、彼らが受けた訓練に関連して、賛否入り交じった反応を示している
(Danne, Beirne-Smith, & Latham, 2000)。統合教育は実施のために多大なリソースを必要とするのであり、
リソースの不足に関する不満がいたるところから上がっている。ニューサウスウェールズ州での研究によれ
ば、教師は自分たちが統合教育を実施するために必要な時間、技能、訓練、リソースを欠いている、と感
じている(Wright & Sigafoos, 1997)。校長にとっては、通常学級編入拒否や継続拒否が、親とのもめ事の
大きな原因となりうる(Bailey & Du Plessis, 1998)
自閉症児の教育
自閉症児の統合教育は、以前から激しい論争の的となってきた。かつては、自閉症児は同年代の健常児
から、さらには社会全体からも隔離される傾向にあった。オーストラリアでは、障害をもつ全ての生徒を普
通教育に在籍させる動向の一環として、自閉症の子供たちの統合への動きが増加しているように見える。
少なくとも一部の自閉症の生徒にとっては通常学級の環境はあまりに複雑であることを考慮すると、実証
的な調査研究の不足が懸念される。通常学級が全ての自閉症児にとってどの教育段階においても最適
な配置であると仮定するよりは、彼らのニーズに応じた適切な教育を提供することに焦点を合わせること
が、恐らくは望ましいであろう(Shaddock, 2003)。
重要な問題が未解決のまま残されている。すなわち自閉症児の発達を促進するために最も効果的な教
育は何か、という問題である。ここでは問題をどのように設定するかが重要となる。すなわちどのタイプの
教育的配置が効果的か(統合教育か、それとも特別支援教育の連続体か)を問題にするのか、それともど
のような教育的アプローチが、そのプロセスと内容において自閉症児の学習ニーズを最もよく満たし、そ
の強さを最もよく開発するのか、を問題にするのか、である。教育的配置、採用される教育方法、カリキュ
ラム内容のすべてが、自閉症児の教育プログラムにとって相互に関連する重要な側面である。どこで、ど
のように、何を学習するのか。この 3 つの要素すべてが相互に関連しており、教育を通じて自閉症児のニ
ーズを満たし、その発達を促進するためには、協調を取りながらこの 3 つに同時に対応しなければならな
い(Roberts, 2004)。
- 75 -
生徒や教師にとって自閉症に固有の困難とは何か
他の点では熟練して有能な教育者も、自閉症の難しい性質のゆえに自分たちには自閉症の生徒の必要
を完全に満たす能力がないと感じている、としばしば報告している(Spears, Tollefson, Simpson, 2001)。自
閉症をもつ生徒を教育するには、自閉症を特徴づけるユニークな認知的、社会的、感覚的、行動的な障
害の理解を必要とする。これらの困難には、限定的で混乱した言語スキル、感覚処理の異常、観念を組
み合わせたり統合することの困難さ、彼らが経験する出来事の背景にある意味や関係性を理解すること
の困難、複数の感覚刺激を処理することに見られる問題、見通しのつかないことや変化への抵抗などが
ある(Mesibov & Shea, 1996)。Simpson, de Boer-Ott, & Smith-Myles (2003)は、行動面での症状と合わさ
った認知的および教育的な長所と短所の不規則なパターン(部分的に飛び抜けた才能や断片的な能力
を含む)が、最も優れたスクールプログラムでさえも試されるような特別な教育上の困難の原因となってい
る、と指摘している。
移行支援は、自閉症を持つ生徒の学校での配置が成功するための鍵である。視覚的支援を用い、生徒
が理解できる方法で変化を徐々に導入することで、配置が成功する可能性を高めることができるであろう。
このことはプリスクールから学校への移行、年度ごとの新しいクラスや教師への移行、自閉症を持つ生徒
にとって特に困難な小学校から中・高等学校への移行、そして学校から卒業後の配置について当てはま
る。
中・高等学校における自閉症を持つ生徒についての南オーストラリア州のレポート(South Australia,
2000)では、自閉症スペクトラム障害の個々の生徒のユニークな特徴が、単純には解決できないあらゆる
問題を学校コミュニティにもたらすことが認識されている。しかしこれらの生徒の思考および学習のスタイ
ルと自閉症の性質の理解は、学校及び制度レベルで創造的な対応をとる上での土台ともなる。
南オーストラリア州による研究(South Australia, 2000)の結果は、自閉症をもつ中等学校の生徒に影響を
及ぼしている多くの問題が、コミュニケーション、社会性、思考と学習、および感覚処理における彼らの中
核的な障害に直接関連していることを示している。とりわけ計画的能力の不足と社会的また対人関係的な
能力の不足がこれらの生徒にとっては重大な問題であることが見いだされた。さらに調査の結果、中等学
校生は慢性的不安といった付随的な感情的問題によって悪影響を受けていることがわかった。
自閉症を持つ生徒の統合教育モデルの開発に向けて
明らかに、自閉症を持つ生徒を彼らのニーズと長所に合わせた支援なしに通常学級に配置することは、
全ての関係者、特に自閉症をもつ生徒自身にとって有害であり、彼らのニーズを満たすことも、彼らの長
所を伸ばすこともできないであろう。同様に他の特別なニーズをもつ生徒のためにデザインされた支援を
自閉症をもつ生徒に提供することも、彼らのニーズを満たせず、学校配置を失敗に陥りやすくする。自閉
症をもつ生徒に普通学校の環境で得られる社会的関わりや学習の機会を提供できないならば、彼らの発
達を大いに不利な立場に置くであろう。自閉症をもつ個々の生徒の強みと困難を支えることのできるモデ
ル、すなわち自閉症をもつ生徒の個々のニーズと学校が抱える個々のニーズに対処できる柔軟なモデル
が必要とされている。
- 76 -
しかし、自閉症をもつ生徒の通常学級への統合への動きが増大しているにも関わらず、自閉症をもつ生
徒を通常学級に受け入れ、それを維持することを助けるためのモデルや手続きはきわめて限られている。
その結果、教師、関係者、親は、しばしば援助が受けられていないと感じており(Robertson, Chamberlain,
& Kasari, 2003)、明確なガイドラインと手続きについてのプロトコルが無いままに自閉症をもつ生徒のた
めの包括プログラムを策定せざるを得ない(Simpson et al., 2003)。Rose, Dunlap, Huber and Kincaid
(2003)は、自閉症をもつ生徒のためのいかなる適切な総合的教育プログラムにおいても含まれるべき、実
証的裏づけのある教育実践の中心的な要素として以下の諸点を挙げている。

学習環境とカリキュラムの修正、通常学級における支援、および系統的な指導などの指導方法

その生徒に合わせた特別なカリキュラム内容

生徒と家族のための個別化された支援とサービス

わかりやすい/構造化された学習環境

問題行動への機能的アプローチ

家族の関与及び家庭と学校とのコラボレーション

よく調整されたチームの取り組み

統合手続きの継続的評価
Simpson et al.(2003)は自閉症をもつ生徒の通常学級への統合を成功させるためのモデル(自閉症スペ
クトラム障害統合協働モデル)の中で、互いに結びついたいくつかの主要な構成要素を提案した。彼らは、
このモデルは協働(コラボレーション)を基礎としており、個々の学習者や指導の要素も考慮に入れること
ができる、と指摘している。そのモデルの構成要素は、Rose et al.(2003)によって示された中心的な要素
の他に、以下の諸点を含む。
適切な訓練を受けた支援要員が得られること: 自閉症を持つ生徒のニーズは複雑なものなので、複数
の異なる分野にまたがったメンバーによる協働作業によって包括的なプログラムを立案し、実施すること
が必要である(Jordan, 1999)。
問題解決のための協働的関係に参加できること: 専門のコンサルタントが教師と情報を共有し、相談支
援を提供できるような協働的なコンサルテーション(Idol, 1997; Simpson et al., 2003)。
教育補助スタッフ(補助教員)が得られること: Simpson et al. (2003)は自閉症を持つ生徒を支援する訓
練された補助員が得られるかどうかに、生徒の成功を保証する鍵がある、と示唆する。ただし補助員は必
要なときに生徒を直接補助するためにのみ用いるべきであって、それ以外の時は他の生徒たちと必要に
応じて関わらせるのがベストである、と強調する。
少人数クラスにする: これは自閉症児に必要とされる、より緊密な関わりを可能にするためである。
教師のプランニングのための時間を確保する: これには協働的コンサルテーションの時間を含む。
- 77 -
補助スタッフ(補助教員)の確保と教師に対する実地訓練: 訓練は継続的に、自閉症に関するコンサル
テーションと協働的コンサルテーションにおいて、一般の教師に対し必要に応じてグループ及び個人指
導の形式で行われる必要がある(Simpson et al., 2003)。
学校における肯定的な雰囲気の重要性: 何名かの研究者(e.g., Mesibov, 1992; Simpson et al., 2003)は、
自閉症児やその他の特別なニーズをもつ生徒の統合教育が成功するには、学校コミュニティ全体が肯定
的、受容的な雰囲気であることが決定的に重要である、と強調している。校長の態度は学校全体の雰囲
気や態度を決定する上で非常に重要な役割を果たす。また障害児や健常児の親は学校コミュニティの重
要な一部であり、統合教育についての彼らの態度は、障害をもつ生徒の統合教育の成否に大きな影響を
及ぼす。
統合場面における自閉症をもつ生徒の社会性スキルの開発: 高度に体系的なアプローチが、自閉症児
と健常のピアとの関わりを発展させるのに最も有効であり(Odom & Strain, 1984, 1986)、しかもその進歩
が統合場面でより維持されやすいことがわかっている。
普通教育と特殊教育の教員及び普通学校を経営する自治体のすべてが自閉症を持つ生徒に対する責
任を共有すること: 以前から、障害をもつ生徒の在籍について普通教育の教師にはコンサルテーション
はほとんど行われていない。そのため「通常学級への遺棄(mainstream dumping)」という言葉まで生まれ
た。Simpson et al.(2003)は責任の共有が成功を達成するために不可欠な土台であること、責任の共有は
効果的なコミュニケーションと意思決定の共有及び参加型の運営によって最もうまく達成できることを強調
している。
学校と家庭のコラボレーション: Mandalawitz (2002)は、親と学校はお互いを敵とみなすべきではないと
強調している。なぜなら基本的な信頼なしには両者間に絶え間ない法的な争いが起るからである。親と教
師との間の信頼関係は、一般にコミュニケーションの強化と教育的プログラムの効果的な実行のための鍵
である。
統合教育実施についての継続的評価: これには、カリキュラムの交付と実行、環境の調整、関わりの量
とタイプ、生徒の参加レベル、教師、補助教師、他の生徒の態度を含む(Simpson et al., 2003)。
まとめ
1996 年に Mesibov & Shea (1996)が完全統合教育と自閉症をもつ生徒についての研究文献をレビューし
たとき、彼らが見いだしたのは、統合教育が自閉症児にどのような利益をもたらすか、を判断する際に依
拠できる科学的エビデンスは十分なものではない、ということだった。彼らが見いだした研究は、統合教育
が自閉症児にもたらす利益は、他の障害児にもたらす利益よりももっと限られたものとなることを示唆して
いた。
Harrower & Dunlap (2001)は統合場面での自閉症児に対する行動分析的支援に関する研究をレビュー
した。彼らは、もし必要とする支援が得られるのであれば、統合教育は自閉症を持つ生徒の多くによい結
果をもたらすことを見いだした。
- 78 -
Mesibov & Shea (1996)は、自閉症を持つ生徒の独特な性質は、何らかの特別施策を不可欠なものとす
るにもかかわらず、完全統合政策は自閉症に特化したアプローチを明示的、黙示的に抑圧する、と示唆
している。移行は自閉症をもつ生徒にとって特に困難であり、事前に配慮がなされる必要がある。
自閉症をもつ生徒はどのようなタイプの配置であっても特化したアプローチを必要とすることに疑問の余
地はないが、このことは普通学校システムにとっての機会としても捉えることができる。ニューサウスウェー
ルズ州における現在までの取り組みは、教室にいる自閉症をもつ生徒のための方策を策定する時間と努
力を払った普通学級の教師は、構造化、決まった日課、視覚的支援の提供や社会性スキルの指導とい
った方策が、しばしば教室・学校内の学習上の問題をもつ他の生徒や潜在的には学校の全生徒にとって
有益だと感じていることを示している。また教師は、自閉症をもつ生徒を担任する苦労に対してうまく対応
することで、よりよい教師になったと信じていると報告している。明らかにこの非常に重要な分野において
は、結果と手順についての一層の研究が必要とされている(Roberts, 2004)。
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Williams, K. (2003). Children with autism: How common is it? Paper presented at the Perspectives on
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family experience. Journal of Intellectual Disability Research, 47, 291-299.
Williams, K., Wray, J., & Wheeler, D. (2005). Intravenous Secretin for autism spectrum disorders. The
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Wing, L. (1996). The autistic spectrum. London: Constable.
Wirt, R. D., Lachar, D., Klinedinst, J. K., & Seat, P. D. (1977). Multidimensional descriptions of child
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World Health Organisation. (1992). ICD-10 classification of mental and behavioural disorders: Clinical
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Wright, S. & Sigafoos, J. (1997). Teachers and students without disabilities comment on placement of
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study. American Journal of Audiology, 6(3), 39-47. 105
- 92 -
付録 A
文献レビュー検索方略
最近の刊行物を見つけるためにマルチデータベース検索を実施した。検索対象は 2003 年∼2006
年までに出版された文献に限定した。見いだされた文献はすべて吟味され、関連ある文献は入手
して本レビューにおいて参考にした。入手文献の参考文献リストはハンドサーチしてさらに関連
文献を収集した。本レビュー実施過程で行なったデータベース検索の要旨を以下に示す。
データベース検索
検索したデータベース
検索項目
結果
CINAHL@Ovid
autism
836
ISI Web of Science
autism
2045
Wiley Interscience
autism + treatment
333
autism + early intervention
39
autism + treatment outcomes
4
autism + treatment effectiveness
1
autism + treatment evaluation
2
autism + family support
2
autism + diagnosis
231
autism + early intervention
137
autism + treatment*
12
autism + treatment effectiveness
12
autism + treatment evaluation
6
autism + treatment outcomes
32
autism + treatment*
499
autism + caregiver burden
7
autism + social support networks
19
autism + health care survices
26
autism + diagnosis
406
Medline
PsychInfo
autism + early intervention or treatment
Embase
effectiveness or treatment evaluation
Autism + family support
200
68
autism + early intervention or treatment
PUBMED
effectiveness or treatment evaluation or
192
treatment outcomes
autism + family support
- 93 -
201
autism + intervention or treatment or program or
model
ERIC
autism + family support or social support
162
9
*訳注:autism + treatment という同一の検索項目が重複して挙げられているが、原文のままにしておいた。
- 94 -
付録B レビューとガイドライン
BCOHTA (2000) Autism and Lovaas Treatment. A systematic review of effectiveness evidence. British
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Crewther S.G., Goodyear M.J., Bavin E.L., Lawson M.L., Wingenfield S.A., & Crewther D.P., (2003)
Autism in Victoria: An investigation of prevalence and service delivery for children aged 0-6 years.
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Evans, S. (2003) Service Guidelines: Children with Autism Spectrum Disorders. The Department of
Health and Senior Services, New Jersey.
Jordan R, Jones G, & Murray D. (1998) Educational Interventions for Children with Autism: A literature
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Librera, W. L., Bryant, I., Gantwerk, B., & Tkach, B. (2004) Autism Program Quality Assurance
Indicators: A self-review and quality improvement guide for programs serving young students with
autism spectrum disorders: New Jersey Department of Education.
Ludwig S & Harstall C. (2001) Intensive intervention programs for children with Autism. Health
Technology Assessment Report. Alberta Heritage Research Foundation for Medical Research,
Canada.
MADSEC (2000) Report of the MADSEC Autism Task Force: Maine Administrators of Services for
Children with Disabilities.
Medical Research Council (2001) Autism: Epidemiology and Causes.
McGahan L. (2001) Behavioural intervention for preschool children with Autism. Ottawa: Canadian
Coordinating Office for Health Technology Assessment.
Newfoundland and Labrador Department of Education (2003) Teaching Students with Autism Spectrum
Disorder: Programming for Individual Needs.
Osbourn, P., & Scott, F. (2004) Autism spectrum disorders: Guidance on providing supports and services
to young children with autism spectrum disorders and their families. Technical assistance manual:
New Mexico Public Education Department.
Perry A. & Condillac, R., (2003) Evidence-based practices for children and adolescents with autism
spectrum disorders: Review of the literature and practice guide. Report 107 commissioned by
Children’s Mental Health, Ontario, Canada. www.cmho.org/autism_training.shtml
- 95 -
Special Programs Branch (2000) Teaching Students with Autism: A Resource Guide for Schools. British
Columbia Ministry of Education.
- 96 -