日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合設立50周年記念 コラーゲンペプチド・ファクトブック出版事業 コラーゲンからコラーゲンペプチドへ 日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合 目次 1. 総論 コラーゲンからコラーゲンペプチドへ 2. コラーゲン・ペプチドの概要 2-1. コラーゲンとコラーゲン・ペプチドの違い 2-2. コラーゲン・ペプチドの製造方法 2-3. コラーゲン・ペプチドの用途 2-4. 作用メカニズムについて 日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合(旧名:日本にかわ・ゼラチン工業組合)は、昭和62 年に「にかわとゼラチンー産業史と科学技術」の本を出版いたしました。 現在の組合名に変更し、このたび工業組合設立50周年記念事業としてコラーゲンペプチド・ファク トブック( 「にかわとゼラチンー産業史と科学技術」増補版)を平成26年度に出版すべく、データ の整理、執筆・編集作業を進めています。 このファクトブックは、近年、急速に進んでいるコラーゲン、コラーゲンペプチドの機能性に関する、 内外の研究データ、エビデンスを集大成し、広く発表、報告させていただくものです。 今後のコラーゲン、コラーゲンペプチド市場の健全かつ着実な成長に寄与するものになればと企画さ れたものです。 出版は、平成26年度を予定していますが、その一部をデジタル・ブックの形式で紹介させていただ きます。 日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合 1. 総論 コラーゲンからコラーゲンペプチドへ 人類の歴史と密接に関わるコラーゲン □動物の体内に最も多く存在するたんぱく質であるコラーゲンは、古くから膠や皮革として 利用されてきた。にかわは 接着剤として人類の歴史に密接に 関わっており、現在でも、伝 統工芸品や美術品の修復に利用されている。 □19 世紀に入ると写真産業の隆盛に伴い、写真フィルムの素材としてゼラチンの利用が進み、 現在でも広く利用されている。 □戦後、ゼラチンの用途として拡大したのが食用分野と医薬品分野である。食用分野は、現在、 ゼラチンの利用が最も多い分野であり、冷えるとゲル化するという特徴やぷるぷるっとした 食感を生かして、ゼリー、ババロア、マシュマロ、グミなどに利用されている。 □医薬品分野では、カプセルとしての利用の他、火傷の被覆材、手術時の癒着防止フィルム、 止血剤、手術用糸などにも利用されている。 コラーゲンペプチドの登場で機能性研究が加速 □1970 年代にゼラチンを加水分解して低分子化したコラーゲンペプチドが登場。ゼラチン と異なり、温水にも冷水にも溶けるという特徴を生かして、ヘアケア製品や注射剤の安定剤、 研究用試薬などに利用されてきた。 □1990 年前後から飲料への採用が進み、1990 年代後半から 2000 年代にかけてその機能 性への注目が高まっていった。美容ドリンクやサプリメントなどの機能性食品への配合が拡 大した。当時、健康や美容に敏感な一部の消費者の間で「ゼラチンを飲む」というスライル が注目され、ゼラチンと同様の成分で構成されるコラーゲンが健康雑誌を中心に美肌成分と して紹介されるようになる。 □一方、コラーゲンはたんぱく質の一種であり、経口摂取すると消化され、アミノ酸に分解 されてしまう。そのため、特定の組織や肌の合成に優先的に利用されることはなく、コラー ゲンを直接摂取することの美容効果について懐疑的な主張も少なからず存在していた。 □こうした背景の中、コラーゲンの美容効果を裏付けるためのエビデンス開発が 2000 年前 後から加速した。特に、コラーゲンペプチドの機能性研究が積極的に進められ、コラーゲン を経口摂取することでヒドロキシプロリンペプチドの血中濃度が長時間上昇すること、ペプ チドが線維芽細胞を刺激し再生を促進することなどが明らかにされた。 □また、ヒト試験を通じて、コラーゲンペプチドの摂取が目尻や角質の水分量を増加、肌の 弾力をアップさせるといった効果が発表されている。コラーゲンの断片であるコラーゲンペ プチドをとると、体内で「コラーゲンが壊れている」と認識され、コラーゲンを作る細胞(肌 では線維芽細胞)へのシグナルとなり、その働きが活発化すると考えられている。 内外美容を代表する成分として消費者に支持 □美容やアンチエイジング意識の高まりに加え、コラーゲンペプチドの体感性が追い風とな り、美容素材としての人気に火が付いた。 □コラーゲンの需要拡大のけん引役となったのが、美容食品およびドリンクの開発である。 美容効果を突き止めるエビデンス開発が進展し、従来の化粧品を中心とした「外から効かせ る」 (ぬる)保湿剤としてのコラーゲンだけでなく、「内から効かせる」(とる)コラーゲン、 すなわち食品への採用が加速した。 □加工適性に優れることや、他の機能性素材と比べ安価であること、体感性が高いことによ り、ドリンクを中心にゼリー、ヨーグルト、キャンディなどさまざまな加工食品で利用が進 んでいる。特に、多くの化粧品メーカーや食品メーカーから発売されているコラーゲンドリ ンクは消費者の支持を得ている。 □コラーゲンの美容効果を得るには、 「コラーゲンを吸収しやすい形で効率よく補給する」 (効 率摂取型)、 「大量にコラーゲンを補給する」(大量摂取型)、という 2 つの摂取方法がある。 「骨・関節」でエビデンス開発進む □美肌以外の分野では副素材としての採用が中心だが、 「髪」「骨・関節」 「血管」などを対 象にエビデンス開発が進んでいる。中でも、注目を集めているのが「骨・関節」の領域。 □高齢化社会の到来により骨・関節の健康維持に対する消費者ニーズ・潜在需要は高まって いる。同分野ではグルコサミンやコンドロイチンなどが先行しているが、海外では肌よりひ ざ関節の痛み軽減にコラーゲンペプチドが採用されているケースが多いことも、この流れを 後押ししている。最近の研究では、骨の細胞(骨芽細胞)にコラーゲントリペプチドが取り 込まれることが確認されている。 □また、毛髪に対する効果も期待されている。特に 40 代を境に、女性の髪の悩みは急速に 顕在化する。美容成分として高い認知度、人気を誇るコラーゲンの強みと美髪作用に関する エビデンスを活用し、女性ニーズを捉えることで、新たな市場が拓ける可能性がある。 2. コラーゲン・ペプチドの概要 2. コラーゲン・ペプチドの概要 2-1. コラーゲンとコラーゲン・ペプチドの違い 2-1. コラーゲンとコラーゲン・ペプチドの違い 皮膚や骨、軟骨の主成分。体内では 3 重らせん構造を形成 □コラーゲンは、体を構成するたんぱく質の約 30%を占め、皮膚や骨、軟骨、腱などの主 成分として網目のような線維構造を作り、組織の構造や柔軟性を保つ役割を担う。 □動物の体内に最も多く存在するたんぱく質で、細胞の周りや細胞と細胞の間に存在する複 合分子である細胞外マトリックスの主成分。 □加齢とともに減少することが知られ、40 代は、20 代の半分にコラーゲン量が減少すると 言われている(図 1) 。また、加齢とともに架橋と呼ばれる現象によってコラーゲンが分解 されにくくなり、代謝が低下する=老化したコラーゲンが排出されずに体内に蓄積されるこ とが知られている。 図1:コラーゲンは加齢に伴いん減少、劣化する 100 正常なコラーゲンの割合 80 60 40 ヒトのアキレス腱から正常なコラーゲンだけ抽出した。 20 その結果、年齢別に見ると、25 歳くらいから急速に正常 0 20 40 60 年齢 80 (歳) なコラーゲンの割合が減少することが分かった。 (データ:東京農工大学名誉教授の藤本大三郎氏らの研究) □コラーゲンは、3 本の鎖がらせん状に絡まった 3 重らせんを形成(図 2)。約 3000 個のア ミノ酸から構成される(1 本の鎖に約 1000 個のアミノ酸が結合)。最も多いアミノ酸がグリ シンで全体の 3 分の 1 を占め、プロリン、アラニン、ヒドロキシプロリンと続く。 図 2:三重らせん構造を一つの単位(分子)とするコラーゲン コラーゲンヘリックス領域 300nm α2 α1 2nm α1 C 末テロペブタイド N 末テロペブタイド 複数集合して、コラーゲン線維を形成する □存在部位によって、コラーゲンを構成するアミノ酸配列や分子構造が異なり、29 の分子 種の存在が知られている(図 3)。 □体内に最も多量に存在するのが、皮膚や骨の主成分であるⅠ型コラーゲン。動物種によっ てコラーゲンのアミノ酸配列は異なるが、例えばヒトとウシのアミノ酸配列を比較すると、 97%が一致する。 図 3:主なコラーゲンの分子種と体内での分布 型 I II III IV V VI VII VIII 角膜、血管 内皮細胞 主な分布 皮膚・骨・腱 など 軟骨 皮膚・動脈 壁 基底膜 角膜 種々組織 基底膜近傍 型 Ⅸ Ⅹ XI XV XVIII XXVI XXVIII 主な分布 軟骨 軟骨 軟骨 腎臓 肺・肝臓 精巣・卵巣 神経細胞周 辺基底膜 コラーゲンを低分子にして吸収性を高めたもの=コラーゲンペプチド □コラーゲンを構成するアミノ酸は、結合力が強いペプチド結合で結ばれ、安定的な構造を と っ て い る。 □コラーゲンに熱をかけて 3 重らせん構造をほどいた状態にしたのがゼラチン。分子量は数 万∼数十万。コラーゲンは水に溶けないが、ゼラチンは温水に溶け、冷却するとゲル化する という特性がある。この特性を利用して、写真フィルムや医薬品カプセルなどへ応用されて い る。 □コラーゲンペプチドは、ゼラチンを酵素で分解して、低分子化したもの。分子量は数百∼ 数千で、より吸収性が高いといわれている。 □分子量が小さいコラーゲンペプチドは、冷水にも溶けやすいという特性を有し、機能性食 品や美容ドリンクなどゼラチンでは難しかった製品への応用が可能になった。 □このようにたんぱく質を低分子化したものをペプチドと呼び、アミノ酸が 2 個つながった ものをジペプチド、3 個つながったものはトリペプチドと呼ばれる(ジは 2、トリは 3 を意 味するギリシャ数字に由来)。 □原料として使用するゼラチンの種類や分解酵素の種類や条件などによってコラーゲンペプ チドの機能性や体内への吸収効率は変化する。 図 4:コラーゲンを加熱・消化酵素で低分子化してコラーゲンペプチドができあがる アミノ酸 大 魚や肉に含まれるコラーゲン (分子量約30万) 3本の束状になっている。 アミノ酸約3000個 加熱 分子量 ゼラチン (分子量数万~ 数十万) 束状のコラーゲンが 3つにほどける。 アミノ酸約1000個 消化酵素で分解 アミノ酸30~50個 小 コラーゲンペプチド (分子量数千) アミノ酸3個(トリペプチド) アミノ酸2個(ジペプチド) 2-2. コラーゲン・ペプチドの製造方法 ブタ、ウシ、魚の皮などが主な原料 □コラーゲンは様々な動物の体内に存在するたんぱく質だが(図 6)、工業生産に利用され ている原料は豚皮、牛骨や牛皮、魚皮やウロコなどが主となっている。 □これらの原料を酸やアルカリで処理してから、加熱分解してゼラチンを抽出。ゼラチンを 加水分解し、低分子化したのがコラーゲンペプチドとなる(図 5) 。 図 5:原料からコラーゲンペプチドが完成するまでの流れ ブタ、ウシ、 魚などの原料 加水分解 (酸、アルカリ処理後、加熱) 加水分解 (酵素など) 精製 殺菌 ゼラチン 乾燥 コラーゲン ペプチド 図 6:食材のコラーゲン量 牛すじや豚肉、鶏の手羽、魚の皮などに多く含まれる。 食材 コラーゲン量 (mg/g) 牛肉 7.5 牛すじ 49.8 豚小間肉 11.9 豚スペアリブ 14.6 豚レバー 18 鶏もも肉 15.6 鶏手羽先 15.5 鶏手羽元 19.9 鶏レバー 8.6 鶏砂肝 23.2 鶏骨つきぶつ切り肉(皮あり) 15.3 鶏ヤゲン軟骨 ハム 40 11.2 サケ(皮なし) 8.2 サケ(皮あり) 24.1 なまり節(カツオ) 16.6 うなぎのかば焼き 55.3 はも皮 76.6 はも肉 25.4 いか 13.8 えび 11.5 しらす干し 19.2 こうなご 12.9 あさり 鶏がらスープの素(粉末) 11 26.9 2-3. コラーゲン・ペプチドの用途 <概要> □コラーゲンから製造されたゼラチンは、食品素材や医薬品原料、工業用途などに利用され て き た。 □その研究は戦前にさかのぼり、冷えるとゲル化するという特徴を生かして、食品のゲル化 剤や粘着剤、医薬品のカプセル、写真フィルムや印画紙など、幅広い分野に応用されてきた。 □これに対し、コラーゲンペプチドは低分子化されているため冷水に溶けやすく、加工が容 易という特徴を有する。 □水にサッと溶け、臭いも軽減されているためサプリメントや美容ドリンクなど、ゼラチン では難しかった用途も実現可能となった(図 7) 。 図 7:コラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチドの特徴と主な用途 分子量 特徴 水への溶解性 主な利用用途 ・ソーセージの皮、コラーゲン スポンジ、化粧品、 ・ゼラチン、コラーゲンペプチド の原料 コラーゲン 30 万 ・動物体内に最も多く存在するたんぱく質 (全たんぱく質の30%) ・主成分として骨、皮、腱あるいは鱗に含まれ るが、ほぼ全ての臓器に存在する。 溶けない ゼラチン 数万~数十万 ・加水分解によりコラーゲンの三重らせん構造 がこわれ、ランダムコイル状になっている。 温水で溶け、冷却す るとゲル化する 一般食品 医薬品カプセル コラーゲンペプチド 数百~数千 溶ける 機能性食品 化粧品 ・コラーゲン、ゼラチンを加水分解したもの <化粧品分野> □1970 年代より化粧品の保湿剤として利用されてきた。 □可溶化技術の進歩、コラーゲンの美容効果への注目が高まるにつれ、1990 年代より化粧品へ の配合が加速。抗シワ効果や保湿効果などが期待され、基礎化粧品やメイクアップ化粧品、ヘア ケア製品などに採用されている。 主な商品:スキンケアクリーム、ファンデーション、ローション、パックなど <機能性食品分野> □1990 年代より飲料へのコラーゲンペプチドの配合が進み、2000 年前後を境に市場が拡大。健 康志向の高まりやサプリメントブームに加え、体感性の高さが消費者に支持され、市場をけん引 した。 □中でも美容分野はコラーゲンペプチドの需要拡大に大きく貢献している。化粧品として塗るだ けでなく、体の内側から効かせる内外美容の定着を追い風に、コラーゲンペプチドをメイン素材 として、大手食品・化粧品メーカーから中小メーカーがサプリメントや美容ドリンクを発売して いる。 □美容に続く機能性分野として期待されているのは「骨・関節」分野。副素材としての活用が中 心だが、ひざ関節痛を訴求テーマにサプリメントへの配合が進む。 主な商品:サプリメント、美容ドリンク <一般食品分野> □ソーセージの皮(ケーシング)としてコラーゲンは利用されている。 □ゼリー、ババロア、マシュマロ、グミなど、ぷるぷるっとした食感が特徴の洋菓子の他、 ハム・ソー セージ、日本酒、スープなどにゼラチンは利用されている。 □ゼラチンは、口の中に入れると、口膣内の温度で表面が溶け、滑りがよくなるという特徴があり、 介護食にも積極的に利用されている。 □一般食品へのコラーゲンペプチドの配合も進んでいる。具体的には、納豆や雑炊、ヨーグルト、 チョコレートなど多様な食品に利用されている。コラーゲンの認知度向上に伴い、製品の差別化 の一環として展開するケースが多い。 <医薬品分野> □ゼラチンの乾燥すると強度が増す、酸素や水分を通しにくいといった性質を応用し、医薬 品のソフトおよびハードカプセルに利用されている。 □カプセルの物性を調節することで、充填した医薬品の放出速度を操作することも可能で、薬 剤伝送システム(ドラッグ・デリバリー・システム)としての技術開発も進んでいる。 □火傷の被覆材、手術時の癒着防止フィルム、止血剤、手術用糸などにもゼラチンは利用さ れている。 □コラーゲンペプチドは肝臓疾患の栄養補給剤や注射剤の安定剤などに利用されているほか、 近年では、再生医療分野でのコラーゲンペプチドの研究が盛んで、人工皮膚や人工角膜、人 工血管といった再生組織のバイオマテリアルとしての利用が期待されている。 <工業分野> □写真の感光材料の 1 つとして 1800 年代よりゼラチンは使用されている。代替物質の研究 も進められたが、ゼラチンを上回る特性を有する物質は開発されていない。 2-4. 作用メカニズムについて コラーゲンペプチドがシグナルとなって体内でのコラーゲン産生を促す □たんぱく質の一種であるコラーゲンは、口から摂ると消化酵素の働きでアミノ酸に分解される ので、特定の組織や皮膚などでコラーゲンが増えるわけではない、というのが定説だった。 □2000 年代に入ってから、コラーゲンの作用メカニズムの研究が加速。2005 年に、京都府立大 学大学院の佐藤健司教授が、コラーゲンを摂取するとプロリルヒドロキシプロリンやヒドロキシ プロリルグリシンと呼ばれるアミノ酸が 2 つつながったコラーゲン特有のペプチドが血中で特異 的 に 増 加 す る こ と を 確 認 し た。 □吸収されたコラーゲンペプチドは、皮膚や骨などでコラーゲンを作る線維芽細胞や骨芽細胞に 働きかけ、間接的にコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促す。コラーゲンの断片であるコラーゲ ンペプチドを摂ると、体内でジペプチドがシグナルとなり、これらの細胞の働きが活発化すると 考えられている(図 8) 図 8:コラーゲンの作用メカニズム コラーゲンを口からとると・・・ 消化管で分解 ジペプチド/ トリペプチド 腸管から吸収 コラーゲンを作る 線維芽細胞や骨芽細胞を 活性化し、コラーゲンを再合成
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