後編 <pdf 形式 868KB - 日米研究インスティテュート

5 大学研究者による問題提起とパネルディスカッション
Speeches from Professors of Japan's five Major Universities
モデレーター Moderator
谷内 正太郎 日本国政府代表、早稲田大学日米研究機構日米研究所教授、
慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授
Shotaro Yachi
Special Envoy of the Government of Japan
Professor, Institute of Japan-US Studies, Organization for Japan-US Studies, Waseda University
Guest Professor, Graduate School of System Design and Management, Keio University
講演者およびパネリスト Speakers and panelists
待鳥 聡史 京都大学大学院法学研究科教授
Satoshi Machidori Professor, Graduate School of Law, Kyoto University
「アメリカ大統領制の特徴とオバマ政権」
“The U.S. Presidential Power and the Obama Administration”
阿川 尚之 慶應義塾大学総合政策学部長・教授
Naoyuki Agawa Professor, Keio University
「アメリカ史のなかのオバマ政権」
“President Obama's Place in American History”
田中 明彦 東京大学大学院情報学環・東洋文化研究所教授
Akihiko Tanaka Professor, the University of Tokyo
「オバマ政権の外交政策と日米関係」
“Foreign Policy of the Obama Administration and Japan-U.S. Relations”
中逵 啓示 立命館大学国際関係学部教授
Keiji Nakatsuji Professor, Ritsumeikan University
「東アジアにおける金融協力と米国」
“US and Diplomacy of East Asian Financial Cooperation”
弦間 正彦 早稲田大学社会科学総合学術院教授・日米研究所所長
Masahiko Gemma Professor, Waseda University
「米国の環境政策とその地球的影響」
“The US environmental Policy and its Global Impacts”
閉会の挨拶
Closing Speech
西村 周三 京都大学副学長
Shuzo Nishimura Executive Vice President, Kyoto University
Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
5大学研究者による問題提起
「アメリカ大統領制の特徴とオバマ政権」
待鳥 聡史
京都大学大学院法学研究科教授
1 比較の中のアメリカ大統領制
私の問題提起としては、アメリカの大統領制の比較政治学的特徴を踏まえて、オバマ政権が直面する政策課題との関係について考え
たい。
アメリカが大統領制を採用する国家であるということは、誰でも知っている常識に属しているだろう。
しかし大統領制といっても、アメリカ以外の国にもたくさんあり、例えば韓国や台湾も大統領制を採用している。大統領制には豊富な
バリエーションがあるというのが、今日の比較政治学では重要な共通理解になりつつある。
そのなかにアメリカを位置づけると、次のようになるだろう。まず、アメリカは大統領制という仕組みを創設した歴史的な経緯につい
て考えると、アメリカはイギリスから独立した際には、君主と議会が対峙しつつ、議会が政策決定の主役であるという制度を継承したこ
とに注目すべきだろう。実際のところ、アメリカの現在の州にあたる各邦(ステート)は、建国当初にはイギリスの議会中心の政治シス
テムを受け継ぐかたちでその憲法を作った。
ところが、君主のいない議会というのはコントロールするのが大変に難しいということが、独立後しばらくの各ステートの経験でわ
かる。それを修正したのが、合衆国憲法の基本構造である。ただし、アメリカとしては当然イギリスのような君主を置きたくないため、
議会を抑制する存在としての大統領を置く。アメリカ大統領制の起源はこのようなものであった。
そのため、アメリカの大統領制の憲法上の基本的な特徴というのは、議会が政策過程の主導権を握りながら、大統領がそれを抑制する
仕組みとして設計されたといえよう。
これは今日の多くの大統領制とは大きく違った姿をとっており、古典的大統領制とでも呼ぶべきものである。その決定的な特徴は、現
代の大統領制の多くの場合において、大統領が政策過程において主導権を握るという仕組みとは逆になっているところにある。すなわ
ち、今の標準的な大統領制というのは、大統領の政策イニシアチブに対して議会がなんらかの抑制をかけていくというのが基本構造に
なっているが、アメリカはその逆の仕組みになっている。
もちろんアメリカにおいても、今日なお議会が政策決定を実質的にすべて行っていると考えるのは妥当ではない。よく知られている
ことだが、20 世紀以降のアメリカは、社会経済問題が非常に複雑化あるいは深刻化し、国内の政策課題も複雑になった。また、覇権国と
して国際政治経済秩序の形成に非常に積極的な役割を果たさなければならないという立場に置かれた。こういう状況変化に対応できる
存在として、大統領とそのスタッフの役割は格段に大きくなった。少なくとも、政策課題(アジェンダ)の設定者は、間違いなく大統領に
なったのである。
それはアメリカ独自の大統領制の現代化ではある。それでもなお、制度構造として古典的大統領制で有ることに起因する制約がなく
なったわけではない。
その意味で、「大統領の政治的資源というのは、結局説得しかない」というリチャード・ニュースタッドの指摘は、依然として大きく
間違っていない。その際の焦点になるのが、大統領が特に連邦議会との関係でいかにして協力を取りつけられるか、という点である。
2 オバマ政権の場合
このことを踏まえてオバマ政権を眺めてみると、古典的大統領制であることによる制約は、オバマ政権の場合には状況的な要因によっ
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て、さらに強められている部分が大きいと考えられる。
状況的要因とはすなわち、特に経済における危機の収拾、それから外交におけるイラク、中東、アフガニスタン、あるいはその他の同
盟関係の再構築といった緊急性の高い課題に取り組まなければならないことを指す。
通常アメリカにおいては、困難な政策課題、危機、あるいは戦争という状況になると、徹底した大統領への一時的な集権化、言い換え
るならば古典的大統領制を事実上一時停止することによって、その困難や危機を乗り越えるという政治的な伝統がある。その最も極端
なかたちが、いわゆる戦時大統領制といわれるような仕組みである。
ただアメリカは、例えば多くのラテンアメリカの国々の大統領制がたどった道筋とは違い、そういう大統領への集権化あるいは戦時
大統領制というものが長期にわたって継続しない。つまり戦争や危機が終わると平常への復帰という現象が起こるという点に、もう一
つの大きな特徴がある。
これらを前提としてオバマ政権の場合を考えると、前のブッシュ政権の時代には、9.11 テロのあと、非常に大がかりな大統領への集
権化、実質的に戦時大統領制といってもいいような状況が存在していた。
しかし、イラク問題の行きづまりあるいは泥沼化というのは、連邦議会と政権との間の距離を少しずつ開き、疎遠なものにしていった。
2006 年の中間選挙以降、民主党が多数となり、大統領と議会との関係というのはさらに悪化した。こうした状態で今回の政権交代が起
こったのである。
つまり、オバマ政権は戦時大統領制のもとで生じていた集権化のピークが過ぎたあとに、非常に難しい政策課題に対処しなければい
けないという状況に置かれていることを理解しておくべきである。
また、政権党である民主党が議会多数党であることにも、次のいくつかの点から、それほど決定的な効果があると考えない方がよいだ
ろう。
一つには、アメリカの議会内政党は、とくに平時の政策過程においては、それほど政権に常に協力する必要もなければ、実際にそうし
てきた実績もない。議会は、各議員が自分の選挙区あるいは自分の支持集団の利益を表出するということに主眼を置いた組織であり、オ
バマ政権だからといって、議会民主党が政権に協力する必然性というのは必ずしもないのである。
もう一つは、民主党は過去において自党から大統領を出しているときに、大統領に必ずしも協力的ではなかったことが指摘できる。た
とえばカーター政権の時期やジョンソン政権の末期において、民主党多数の議会と大統領の間の関係というのはあまり良好ではなかっ
た。
さらに、オバマ政権が直面している課題が議会民主党にとってはあまり得意ではないアジェンダであるということも無視できない。
自動車のビッグ 3 の救済や金融安定化の問題に代表されるように、民主党の支持基盤が求める政策と、政権が推進しようとする救済策
というものが必ずしも整合性がない可能性は高い。しかも中長期的には、例えば医療保険改革といった政策課題に対して、議会民主党は
総論では賛成すると思うが、各論レベルではかなりの逸脱行動が出るであろう。
3 長期的視点の重要性
確かにオバマ政権に対する期待というのは高い水準にあるが、オバマ政権が直面する構造的な制約も非常に大きい。だからといって、
オバマ政権というのは大したことはできないと軽視するべきではないことは、もちろんである。
大切なことは、オバマ政権がアメリカの政治の全体的な流れの中でどういう位置づけであるのかといったことについて、例えば政権
1 期 4 年の間に何を達成できるかということと並んで、あるいはそれ以上に大切なことであるという認識を持つことである。日米関係に
とってのアメリカの政権交代の重要性は、そのような広い文脈の中に位置づけられねばならない。
その意味で、当インスティテュートを設置し、長期的な視点でアメリカの政治の変動を見ることは、ともすれば日本のアメリカ政治へ
の関心が、誰が大統領になるか、二大政党のいずれが議会多数党になるか、あるいは誰が主要なポストにつくかを微視的に観察すること
に傾きがちであるだけに、非常に意味のあることだと私は考えている。
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
Speeches from Professors of Japan's five Major Universities
“The U.S. Presidential Power and the Obama Administration”
Satoshi Machidori
Professor, Graduate School of Law, Kyoto University
(Translation)
1. The American presidential system from the standpoint of comparative politics
For my presentation, I would like to touch on the relationship between the political issues that the Obama Administration is currently
facing and the American presidential system from the standpoint of comparative politics.
The fact that the United States is a nation that has adopted the presidential system is surely a matter of common knowledge.
However, there are many countries other than the United States that employ a presidential system. For example, South Korea has a
presidential system, and Taiwan also has a political system that might be described as presidential. The fact that there are wide variations in
presidential systems around the world is increasingly important from the perspective of common understanding in comparative politics
today.
The positioning of the United States among these various presidential systems is as follows. First, with regard to the historical
development that led to the establishment of the presidential system, we should pay attention to the fact that the United States adopted
a system in which the parliament takes a leading role in policy making, with the monarch and the parliament standing face to face,
which was a result of the influence of the United Kingdom at the time when the United State gained its independence. In fact, each
administrative unit corresponding to the modern American states created its own state constitution that succeeded to the political system
centering on the British parliament.
But, through practical experience, each state became aware soon after independence that it was extremely difficult to control a
parliament when there was no monarch present. The fundamental mechanism of the Constitution of the United States is to rise above
this institutional weakness. However, the United States had no desire to institute a monarchy, and instead it was decided to appoint a
president who would be able to exert control over Congress. This was the origin of the American presidential system.
This means that a basic constitutional feature of the American presidential system is that Congress takes the initiative with regard to
the policy process, while the president holds sway over Congress. This was the way the system was designed.
This system differs considerably from the presidential system employed in many other countries, and it might be described as the
"classical" presidential system. In terms of the defining features of this US-style presidential system, it is the opposite of other forms of
the "modern" presidential system in which the president takes the initiative in the policy process. In other words, the basic structure of the
standard presidential system as it exists today generally involves the national assembly reining in the policy initiatives of the president,
but the structure is the other way round in the United States.
Of course, it is improper to assume that Congress today is effectively in charge of the whole policy decision process. As is well known,
from the 20 th century onward, the situation in the United States has been that socioeconomic problems have been growing ever more
complex and profound, and policy issues on the domestic level are also becoming complex. As the world’s dominant nation, the United
States is in the position of having to play an extremely active role in the formation of international politico-economic order. As the main
agents capable of responding to this change of situation, the role of president and his staff has become significantly strengthened. At
the very least, the role of agenda formulation has been transferred to the president.
In other words, the United States has applied its ingenuity to modernizing its presidential system in its own distinctive manner.
However, this does not mean that the limitations imposed by the classical presidential system have disappeared.
In that sense, the statement by Richard Neustadt that all the president has in terms of political resources is persuasiveness remains
essentially true to this day. The question of how the president relates to Congress and how he gains cooperation from Congress is a
central focus of American politics.
2. The case of the Obama Administration
Looking at the Obama Administration in this light, the limitation caused by the classical presidential system is seems to become wider
than ever in the case of the Obama Administration due to circumstantial factors applying to the administration.
In a word, what the circumstantial factors is having to deal with a raft of urgent problems such as sorting out the economic crisis and,
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in terms of international diplomacy, dealing with problems in Iraq, the Middle East and Afghanistan and rebuilding relations with America’s
allies.
There is a political tradition in the United States whereby whenever a difficult policy issue occurs, be it a crisis or a war, powers
become temporarily concentrated wholly with the president. In other words, in order to overcome the difficulties presented by a crisis the
classical presidential system is suspended. The most extreme example of this tendency is the wartime presidency.
However, in contrast to the presidential system adopted in many Latin American countries, this concentration of powers in the
president or this wartime presidential system does not continue in existence for extended periods. One of the main features of the system
in the United States is that once the war or crisis is over, things revert back to normal.
Looking at the Obama Administration in this light, in the era of the previous Bush Administration, there was an extremely pronounced
concentration of powers in the president following the Iraq War and 9.11, amounting effectively to the establishment of a wartime
presidency.
However, once the United States had become bogged down in Iraq with no clear exit strategy, the distance between Congress and
the Administration slowly increased until eventually the two sides drifted miles apart. Following the mid-term elections in 2006, the
Democrats gained a majority and relations between the president and Congress deteriorated yet further. It was to this background that
the change of administration took place.
In other words, after the peak of centralization of powers had occurred under the wartime presidency, the Obama Administration found
itself in the position of having to deal with some extremely difficult policy issues. This is a point we need to bear in mind.
In addition, even if the Democratic Party is the ruling party and holds a majority in Congress, it does not mean that this will necessarily
be to the benefit of the Obama Administration, for the following reasons.
For one thing, political parties in the United States Congress have no need to cooperate with the administration, particularly in the case
of policy formulation during peacetime, and indeed they have never done so in the past. Since Congress is an organization of individuals
whose remit is to represent the interests of their constituencies and their support bodies, simply because the Obama Administration is
largely made up of members of the Democratic Party offers no guarantees that Congress is necessarily going to cooperate with the
administration.
One more point that needs to be made is that the Democratic Party has not in the past always had a record of cooperating with the
president when the president has been a member of the party. One thinks for example of the poor relations between the Democratdominated Congress and the president during the Carter Administration and toward the end of the Johnson Administration.
Bearing in mind the issues that the Obama Administration is currently having to face, it should be pointed out that this is by no means
an agenda in which the Democratic Party is likely to excel. As typified by the rescue of the Big Three auto manufacturers and the issue
of financial stabilization, a situation may well arise in which there is a lack of concordance between the policies that are demanded by
the Democratic Party’s support base and the rescue policies that the administration is attempting to put into practice. Furthermore, in
the medium- and long-term, although the Democratic Party is likely to support the general gist of the Obama Administration’s policies,
for example in connection with attempts to reform the medical insurance system, it seems quite possible that this support may come
unstuck when we get down to the details.
3. Importance of a long-term perspective
It is clear that the expectations of the Obama Administration are very great, but at the same time, the structural limitations placed on
the Obama Administration also are very great. However, this does not mean to say that we should simply assume that there is really very
little that the Obama Administration can actually do.
The important thing is how the Obama Administration should be positioned within the overall context of American politics and such
questions are just as if not more important than that of what the administration may be able to achieve in its first four-year term. The
importance of the change in the American administration for US-Japan relations should be positioned within a very large and long
context.
In this sense, I think that the establishment of the US-Japan Research Institute and study of changes in American politics from a
long-term perspective have great significance, because in Japan the study of American politics often places more emphasis on close
observation; who will be the president, which party will have a Congressional majority, or who will hold eminent positions.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
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5大学研究者による問題提起
「アメリカ史のなかのオバマ政権」
阿川 尚之
慶應義塾大学総合政策学部長・教授
オバマ大統領とその政権について、アメリカ合衆国の歴史と憲法の観点から考えたい。
就任式の日、私はノースカロライナのグリーンズボローという街にいた。その日、同市のあるロースクールで講義を行う予定だったの
だが、大雪が降り、授業がすべてキャンセルされてしまった。仕方なくホテルの部屋で、就任式とその関係行事をテレビでずっと見てい
た。
アメリカ憲法の規定により、大統領は 4 年、あるいは最長でも 8 年で交代する。平和裏に政権が交代するというのは、一種の無血革命
に他ならない。オバマ氏一行が宿舎を出て、リムジンがホワイトハウスに入ってくるのをテレビカメラがとらえる。あれだけ警備が厳重
なホワイトハウスに、現大統領の地位を奪おうという人間が入ってくるのを、誰も止めようとしない。もちろん銃も撃たない。我々はそ
れを当然だと思っているが、こうしてデモクラシーが滞りなく機能するのは、実は世界の多くの国でそれほど当たり前のことではない。
しかもアメリカではそれが 200 数十年、綿々と続いている。一度もクーデターが起きていない。
オバマ氏をアメリカ史のなかに置いて考える際、2 つの視点があると思う。一つは、選挙戦の最中からオバマ候補が繰り返した、
「チェ
ンジ」、つまり過去の歴史から離脱し、
「変化」をもたらすという側面。もう一つは、オバマ氏が過去にこだわり、
「コンティニュイティー」
つまり「継続」を重んじるという側面。その 2 つである。
日本ではもっぱら、オバマ大統領がどのような経済政策を実施するか、どのような外交政策を打ち出すか、この大統領のもとで日米関
係はどう変化するのか。そうしたどちらかと言えば目先のことばかりに焦点が当たっている。しかし新大統領が採用する政策の大きな
方向性を見極める上で、また現政権の性格をより深く理解するためにも、オバマ大統領の歴史認識を知ることが重要である。
大統領候補の 1 人として名乗りを上げて以来、さらに大統領に就任してからも、オバマ氏はアメリカの歴史を強く意識する発言を繰
り返している。そもそもアメリカ歴代の大統領は、程度の差こそあれ、みな一様にそれまでの歴史を踏まえて国民に話しかける。オバマ
氏だけではない。これはアメリカという国のなりたち、つまり自分たちの手で目標を定め国を建てたという事実に関係があると思われ
る。例えば、もうあまり語られることもなくなった 8 年前のブッシュ大統領の就任演説を読むと、同じように歴史を非常に意識した言葉
が入っている。
“We have a place, all of us, in a long story - a story we continue, but whose end we will not see.”(「我々はみな、歴史と
いう物語の中で占めるべき場を持っている。結末は誰にもわからないが、それでもこの物語を続けるのだ」。8 年後、そのブッシュ大統
領もホワイトハウスを去って、今や歴史の一部になった。
ただ「チェンジ」という言葉を使い続け、ブッシュ政権からの決別を最大の目標に掲げて勝利を収めたオバマ氏が、一方で意外なほど
アメリカ史、それもかなり古いことを意識しているのは、意外なほどである。たとえばこんな 1 節がある。
“Our challenges may be new. The instruments with which we meet them may be new. But those values upon which our success
depends - honesty and hard work, courage and fair play, tolerance and curiosity, loyalty and patriotism - these things are old. These
things are true.”
「我々が直面する試練は新しいかもしれない。それを乗り越えるための手段も新しいかもしれない。しかし成功するかどうかは、我ら
の価値観、すなわち廉直、勤勉、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠、愛国にかかっている。これらの価値観は古く、また正しいのである」
変化を求めるオバマ大統領が、
“old”ということを強調する。
オバマ氏の歴史観には、さらにいくつか注目すべき点がある。一つは黒人がアメリカの歴史に占める位置についての認識である。この
人はリンカーン大統領が好きで、出馬宣言でも、当選が決定したときの演説でも、さらにベルリンでも、リンカーンとその言葉にしばし
ば言及してきた。
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US-Japan Research Institute
リンカーン大統領とオバマ氏には、イリノイ州選出の議員であり、ひょろひょろと背が高く、無名の新人政治家であるという共通点が
ある。しかしもっと重要なのは、リンカーンこそが奴隷解放を行った大統領であったという事実である。大多数の黒人は建国以来奴隷の
身分に置かれていたが、リンカーンが行った奴隷解放宣言によって、初めて自由になった。しかしその後も、特に南部で公然たる差別が
続く。公民権法運動、数々の訴訟など、長い戦いを経て、今ついに黒人大統領が誕生した。そうした歴史を背負う黒人から見れば、リンカー
ンの存在はまことに大きい。オバマ大統領は、リンカーンに始まった長い物語の一つの帰結なのである。
リンカーンはまた、奴隷制や関税問題などをめぐって分裂しかかったアメリカを、南北戦争を戦いかろうじて勝利を収めて、何とかそ
の統一を保った。オバマ大統領もまた、黒人のアメリカ、白人のアメリカではなく、一つのアメリカを掲げる。リンカーンへの言及には、
そういったアメリカの統一という強いメッセージも含まれている。さらにオバマ氏は、自身をリンカーンに重ね、過去に投影して、彼が
大統領となるという未来の不可避性を国民に訴えた。これは極めて高度な選挙戦術でもある。
就任式では、特に黒人が興奮した。彼らには、
「黒人大統領の誕生は自分が生きているうちに起こるはずがないと思っていたのに、そ
れが何と実現した」という感動がある。白人など黒人以外の人たちからしても、「アメリカはいろいろ問題を抱えているけれども、我々
は黒人大統領を選んだ、選べた。自由と平等というアメリカの理念は死んでいない」という誇りを持った。こうしてオバマ氏は、自らの
当選により、すでにアメリカ史上最大の「変化」を成し遂げたのである。
しかしオバマ氏の当選は、ただ黒人が勝ったというだけではない。それを乗り越える大きな意味がある。
一つは、彼が実はベトナム戦争を覚えていない初めての大統領であること。当時は現在よりずっと激しい国内の思想的分裂、戦争をめ
ぐる分裂、黒人問題をめぐる分裂が存在した。オバマ氏はそれを直接体験せず、記憶していない世代に属している。しかも彼は黒人では
あるが、奴隷の子孫ではない。ケニア人の父と白人の母から生まれた人である。就任演説で、
「もし私の父が 60 年前南部にいたら、レス
トランに入らなかったかもしれない」と述べたが、実際の経験ではない。だからこそ彼は白人と黒人のあいだに存在する大きな溝を乗り
越えられるのである。オバマ氏は単に初の黒人大統領であるだけでなく、新しい世代の大統領なのである。
もう一つ、実はオバマ氏は就任演説の中で、リンカーン大統領ではなくジョージ・ワシントン初代大統領を引いている。ワシントン
は独立戦争のさなか敗北の一歩手前まで追い込まれながら、英軍への奇襲に成功して態勢を持ち直した。オバマ新大統領はそのときの
将軍の言葉を引いた。ワシントン将軍は厳寒の冬、ほとんど裸足の者さえ含まれる兵士の一隊を率いて吹雪の中を進軍し、氷が多数浮
くデラウェア川を渡った。そしてイギリス軍を奇襲でうち破って戦況を逆転させ、アメリカ独立の希望をつないだ。それがなかったら
今のアメリカ合衆国はない。だからこそ、我々もまた“In the face of our common dangers, in this winter of our hardship”、
(ワシントン
将軍と同様、危機に直面した我らの冬に)
“let us remember these timeless words. With hope and virtue, let us brave once more the icy
currents, and endure what storms may come.”(時代を超えた貴重なワシントンの言葉を思い起こそう。希望と豪気を持って、我らもま
た凍えつく流れを渡り、嵐を乗り越えよう。)
我々も今、この厳しい経済状況をなんとか乗り切ろうというメッセージは、黒人・白人の区別を超えるものである。そのメッセージを
伝えるために、奴隷所有者であったワシントンの故事をもあえて引く。アメリカの共通の理念は、建国のときに遡ることを示す。このあ
たり、よく考えている。
このように、オバマ氏は歴史を意識したうえで、大統領とは何か、何をするべきかを非常に意識している。リンカーン、ウィルソン、ルー
ズベルトといった大統領と同様、大きな危機に直面するオバマ大統領が、歴史や憲法をたぶんに参照しながら、これからどのような施策
を採用し、国民に語りかけていくのか。見守りたい。
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
Speeches from Professors of Japan's five Major Universities
“President Obama's Place in American History”
Naoyuki Agawa
Professor, Dean, Faculty of Policy Management, Keio University
(Translation)
I would like now to take a look at the same issue from the standpoints of history and the Constitution of the United States.
On the day of the inauguration, I was at a town of Greensboro in North Carolina. I was planning to give a lecture, but on the day of the
inauguration there was a heavy snowfall and all classes were cancelled. Therefore, I watched the whole of the inauguration ceremony
and the related events from morning till night at the hotel.
According to the Constitution of United States, one administration is replaced by another once every four or eight years. This peaceful
replacement is a kind of bloodless revolution. The TV cameras broadcast President Obama’s limousine entering the White House. The
person who will oust the current President is about to enter the strictly guarded White House, despite this, no one tries to prevent him
from doing so nor shoot him. This is something that we take for granted, but in many countries, it is not such a natural occurrence. In
addition, this has been continuing for more than 200 years in the United States. Indeed, the US has not had a coup in its history.
When considering President Obama’s place in American history, there are two aspects. One is the word “change” that was repeated
by President Obama since the presidential election campaign, which underlines the departure from past history and President Obama
as a bringer of change. Another is “continuity,” whereby President Obama respects past precedents and works to maintain continuity.
In Japan, most people tend to take a comparatively short-term view, including what economic policies President Obama will
implement, and how US-Japan relations will change under his presidency. But it is important for us to understand President Obama’s
historical awareness in order to observe the broad directionality of the policies which will be adopted by him only then will be thoroughly
understand the characteristics of the Obama Administration.
Since he launched his bid to be a presidential nominee and after assuming the presidency, President Obama has repeatedly issued
statements hinting at a very strong sense of history. To greater or lesser degrees, previous presidents of the United States have also
addressed the American people on the basis of the nation’s history to date, in a similar manner to President Obama. These tendencies
are thought to be related to the way the United States has fashioned itself as a nation, in other words, the fact that the people set their
own targets and established their nation by themselves. For example, although most of us have probably forgotten about it by now,
the inaugural speech delivered eight years ago by President Bush contained the following passage that indicated the same strong
awareness of history: “We have a place, all of us, in a long story—a story we continue, but whose end we will not see.”
President Obama emphasized “change” repeatedly and won the presidential race by advocating a break from the policies of the Bush
Administration. On the other hand, he surprisingly is keenly aware of American history, dating back to the earliest times of nationhood.
Take the following phrase from his inaugural address for example:
“Our challenges may be new. The instruments with which we meet them may be new. But those values upon which our success
depends—honesty and hard work, courage and fair play, tolerance and curiosity, loyalty and patriotism—these things are old. These
things are true.”
Here, President Obama, who seeks change, emphasized the word “old.”
There are some additional notable features in President Obama’s view of history. One of these is his awareness about the historical
position of the black people. He seems to have a particular liking for President Abraham Lincoln. He has quoted Lincoln frequently in his
speeches and referred to Lincoln in his candidacy declaration as well as in his declaration on being elected president.
There are some similarities between President Obama and President Lincoln. Both are from Illinois, both have physical similarities in
being slim and tall, and they both were relative newcomers on the political stage. But a more important thing is the fact that it is Lincoln
who was the president to achieve the abolition of slavery. Since the foundation of the country, most African-Americans were enslaved,
but after the Emancipation Proclamation by President Lincoln they gained their freedom. Even after that, however, open racism still
existed, especially in the Southern States. A long struggle including the civil-rights movement and countless lawsuits opened the way to
the eventual appearance of an African-American president. From the perspective of a black person who has such an historical legacy,
Lincoln must figure very prominently. President Obama is the conclusion to the long story begun by Lincoln.
Moreover, through victory in the Civil War, Lincoln also succeeded in uniting America, a nation that had divided itself into northern and
southern parts, split by differences over issues such as slavery and tariffs and customs practices. President Obama himself advocates
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uniting America, not an America for whites and an America for blacks. His reference to Lincoln includes a strong message: the unification
of America. In addition, President Obama identified himself with Lincoln and transposed himself into the past, projecting the inevitability
of his future as president effectively to the people. This is a highly sophisticated election strategy.
People throughout the United States, especially African-Americans, were excited at the inauguration ceremony. As far as they are
concerned, there was an indescribable sense of excitement based on a disbelief that they would ever experience such an event during
their lifetimes, while Caucasians and people from other ethnic groups felt no small measure of pride in the fact that, despite the various
problems that have beset them, they had the strength to transcend these problems and select an African-American, proof that America’s
ideals of freedom and equality never die. Against this background President Obama achieved the largest-ever “change” in the history of
America by winning the presidential vote.
His victory, however, does not only mean victory for African-Americans, it has a much greater significance.
Firstly, he is the first president to have no memory of the Vietnam War. In those days, there were more severe domestic divisions over
political and social philosophy, the Vietnam War and race issues than in the present day. He belongs to a generation who did not
experience struggle with these issues. Also, he is not himself descended from slaves. He was born of a Kenyan father and a Caucasian
mother. In his inaugural speech he said that his father would not have been allowed to enter a restaurant if he had been in the southern
states sixty years ago, but he was not stating a real-life experience. This is the reason why he is able to overcome significant divisions
existing between African-Americans and Caucasians.
As a matter of fact, President Obama quoted George Washington in his inaugural address, not Lincoln. During the War of American
Independence, Washington was pushed over the precipice, but he bore down on the British troops successfully and recovered his
troops. The words that President Obama quoted are the words of Washington at that time. In the middle of the bitterly cold winter,
George Washington led his soldiers who were barefoot and charged forward during the snowstorm. They crossed the Delaware River,
which was thick with floating ice. He offered hope to his people by breaking through the British line and turning the tables in the War of
Independence. There would have been no United States today had this event not taken place. Therefore, we should “remember these
timeless words,” “in the face of our common dangers, in this winter of our hardship.” And “with hope and virtue, let us brave once more
the icy currents, and endure what storms may come.”
The message that we should overcome the severe economic conditions is one that transcends the distinction between black
and white. In order to convey his message, President Obama referred to the historical event of the slave-owner George Washington
intentionally. He indicated that common ideals dated back to state’s founding. His speech was a masterful one that was well thought out.
As stated above, President Obama is very conscious of the significance of history and what qualities are requisite for a President
based on such history. In the midst of a great crisis like predecessors such as Lincoln, Wilson or Roosevelt, it is likely that Obama will
refer to the history and the constitution of the United States in deciding what policies he will implement and how he will address the
people of the United States. We will watch the situation closely.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
5大学研究者による問題提起
「オバマ政権の外交政策と日米関係」
田中 明彦
東京大学大学院情報学環・東洋文化研究所教授
私は世界システムの変化の中でオバマ政権というのはどういう位置を占めているか、これが日米関係にどのような影響を与えるかと
いったことについて、私見を述べたい。
非常に単純に私の見解をまとめると以下のようになる。まず、第二次世界大戦を決定づけたのはアメリカであった。次の時代である冷
戦の間の世界の動向を決定づけたのもアメリカであった。引き続く冷戦後の 20 年、1989 年から 2009 年に至る世界の動向を決定づけた
のもアメリカであった。そして、2009 年以降の世界の動向を決定づけるのもアメリカであろう。これが私の見解である。
しばしばアメリカの影響力は低下しているという風に言われる。確かに、さまざまな指標をみると、アメリカの影響力が相対的に低下
している面があることは間違いない。ただし、世界の動向に決定的な影響を与えるというような面でいうと、20 世紀はやはりアメリカ
の世紀であったし、21 世紀に入っても相当しばらくの間は、アメリカが決定的だと私は思っている。たとえば、冷戦後 20 年、ブッシュ
政権の終わりに至るまでの世界をみると、この 20 年の世界は、私はアメリカの指導者のある部分の人たちが抱いた二つの幻想によって
決定づけられてきたと思っている。
第一の幻想は、かつてコラムニストのチャールズ・クラウサマーが主張したユニポーラーモーメントという幻想であった。冷戦は米
ソ二極軍事対決という側面があったが、アメリカが勝った。であるから、アメリカしか極はない。軍事的にアメリカにかなう存在は一切
ない、ということになった。したがって、アメリカがこの軍事力を自らの理想にしたがって賢明に使っていけば、世界中のほかの国がつ
いてこなくとも、よい結果が得られるという風に思った方々がたくさんいた。基本的には、ネオコンサーバティブスと言われる人たちで
ある。しかし、これはやはり幻想の一種であった。先ほどズムワルドさんは、オバマ大統領あるいはクリントン氏のお話を引かれたが、
軍事力がいかに強くとも実現できないことはある。イラク戦争後の統治の困難さ等にそれは表れているし、それから同盟諸国における
アメリカへの信頼感が低下するということにもそれは表れていた。
もう一つの幻想は、単純に言うと、市場原理主義の幻想というものである。米ソ二極軍事対決という側面に加えて、冷戦にはマルクス・
レーニン主義と自由主義的資本主義の対決という側面もあった。この冷戦で自由主義的資本主義が勝った。ここから、市場にすべてを任
せれば、経済は、すべてはうまくいくのだという極論が登場する。政府が関与するということは、これはマルクス・レーニン主義の亜流
にすぎない。したがって、市場における自由放任を阻害するものをすべてなくしていけば、世界はニューエコノミーの状態に到達する。
ニューエコノミーの状態においては、経済停滞などということはもはやありえないと。こういうことが、20 世紀後半から 21 世紀前半の
間に少しいわれたことがある。しかしながら、このような市場原理主義の見解もまた幻想であった。この市場原理主義の考え方にのっ
とって行われたさまざまな現象が破綻したのは、一昨年のサブプライムローン、さらに昨年 9 月のリーマンショックである。
アメリカが決定的だという意味は、アメリカが常によいことをするという意味ではない。つまりアメリカの動向によって、世界は大変
な影響を受けるということである。
そしてオバマ政権の誕生は、このような解釈からするとどのように見られるであろうか。私見では、この二つの幻想を廃して、現実を
直視して変化を実現させようというのが、オバマ政権の世界に対するアプローチであろうと思われる。つまり、アメリカがいかに軍事力
は強くとも、軍事力のみでは成し遂げられることは少ない。したがって同盟国と協調し、多国間協調を行い、国際組織を重視し、対話を
重視してやっていかなければいけないという発想になる。それから経済面においては、市場はもちろん大事ではあるけれども、市場が大
失敗することはあり得るし、その場合に政府の役割というのは大変重要であるということになる。
振り返ってみれば、このような考え方は特に新規なものではない。冷戦になぜアメリカが勝利したかということを考えてみれば、アメ
リカは冷戦に軍事一本槍で勝ったわけではない。同盟諸国その他の連帯を強め、国際機関において多角的な規範をアメリカ自身が守り
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US-Japan Research Institute
つつ行うということをやってきたから冷戦に勝った。さらにアメリカや西側の経済が東側よりもよかったのは、必ずしも市場原理主義
のみでやってきたわけではなかった。社会福祉その他等を実現してきたからである。したがってその面でいえば、オバマ大統領の外交政
策の基調というのは、冷戦が終わったあとのある種の幻想の期間を乗り越えて、再び冷戦のときのアメリカの勝利の教訓に基づいて作
り出されている考え方だと私は思う。
そして、今、このオバマ政権が誕生した後の世界は、オバマ政権の政策が成功するか否かによって、やはり決定的な影響を受ける可能
性がとても大きい。現在の経済危機が 1929 年以来のものだとすれば、不況がかなり長期化するということは考えられる。この中で、中
国にしても、日本にしても、アジア諸国にしても、今後の経済がどうなるかということの一つの大きな要因がアメリカの経済の動向にか
かっていると言われている。
したがってオバマ政権の成否には、日本のみならず多くの国々の命運がかかっているということだと思う。ただし 21 世紀の現在にお
いて、私はやはり 20 世紀とは異なる部分があると思う。それは、アメリカが決定的であると同時に、アメリカ以外にも相当決定的にな
り得る国々もまた登場しているということである。例えば中国。中国は現在の経済不況において、ただちに今のところ大変な困難を抱え
ている、あるいは大破局的なことを抱えているということはない。しかし世界不況が長期化し、さらに深刻化したときに、中国にどのよ
うな影響があるかというのは、相当深刻なものがあり得ると私は思っている。
アメリカが失敗すれば世界が大迷惑を被るが、中国が失敗すれば、同様に世界は大迷惑を被る。その意味で、クリントン国務長官がか
つてフォーリンアフェアーズの論文で書かれたように、中国とアメリカの関係は大変重要なものであって、中国とアメリカのいずれの
国も失敗されては困るというのが今の世界の状況である。
そこで、現在の日米関係についての影響ということを少し述べてみたい。今のオバマ政権の日米関係に対するアプローチのしかたは、
先ほどズムワルド臨時代理大使がおっしゃったように大変賢明なものである。したがって、日米関係は現在良好であるという風に言っ
てよいと思う。ただ、これから最後のところで少しまとめとして申し上げたいが、今の良好な日米関係には大きな脆弱性が宿っていると
思われる。
その最大のものは、日本の国内政治の不安定、不確定さにあると思う。この不安定、不確定さについては、二つの側面がある。一つは、
現在の世界システムの非常に大きな変動の中で、日本において、アメリカと協力して中期・長期の安全保障あるいは経済その他のプロ
グラムを着実に作っていくということが非常に困難になっているからである。もちろん、中期・長期のプランニングを作ろうと思って
いる人たちは官僚にも政治家にもいると思うが、現在の政治情勢のなかで、多くの政治家や官僚には、中期・長期のことを考えるゆとり
がなくなっているように見える。
第二に、不安定、不確定なことは、政権交代が起こる可能性が非常に強い中であるが、前半のご質問にあったように、有力野党である
民主党の安全保障政策に関する見解が些かよくわからないということがある。もちろん民主主義国家であるから、国内における政治対
立を懸命に政治家諸氏が行うのは当然のことであるが、その国内政治自身は国際的な安全保障環境の中にあるということを忘れてはい
けない。
そして国際的な安全保障環境は、危機的な状況とまではいえないが、現在、相当不安定性を増している。かつてジョセフ・ナイ教授は、
「安全保障というのは酸素のようなものであって、十分存在する時は気がつかないけれども、なくなり始めると、もうそれしか考えられ
なくなるものだ」という風におっしゃったことがある。まだ、酸素のようで、あると思っている。そのうちは、ほとんど考える必要がな
いのかもしれない。ただ日本周辺は、依然として中国に核兵器があり、ロシアに核兵器があり、北朝鮮は核兵器を保有しつつあり、弾道
ミサイルを整備しつつある。
このような中で、日本の安全保障を確保するということの最も根本的な仕組みが日米安全保障体制である。この日米安全保障体制の
非常に重要な機能は、現在友好国である国家が友好的でなくならないようにし、現在やや敵対的である国家が敵対的行動を起こさない
ようにさせるところにある。これは、いわゆる抑止の機能である。抑止というのは、相手によくないことを思い留まらせる作用のことで
ある。これは、相当さまざまなことを行い、相手側の認識にかかわることである。相手側が、そういう日米に対して望ましくないことを
するのは自らの利益にならないということを確信させるわけである。その際、日本の有力政党が、そのような抑止の体系のさまざまな要
素について十分考慮を払わないというようなかたちでいる。あるいは、その体系を維持するための努力を積極的にしないというのは、甚
だ国際情勢全般を不安定化させるものであろうという風に思っている。
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
Speeches from Professors of Japan's five Major Universities
“Foreign Policy of the Obama Administration and Japan-U.S. Relations”
Akihiko Tanaka
Professor, International Politics Interfaculty Initiative in Information Studies
and Institute of Oriental Culture, the University of Tokyo
(Translation)
Now it’s the turn of the University of Tokyo. Previous speakers have discussed our topic from the historical and constitutional angles,
but I would now like to offer my personal thoughts on where the Obama Administration is positioned with regard to the changes
occurring in global institutions, and what repercussions this is likely to have on US-Japan relations.
Expressing my viewpoint succinctly, I would like to point out that it was the United States that proved to be decisive in the Second
World War. And it was the United States that determined the passage of world history during the Cold War era. Similarly, it has been the
United States that has determined global developments during the period of 20 years from 1989 to 2009 following on from the Cold War.
It would seem to me that it is the United States that will also determine how the world develops from 2009 onwards.
It is often said that America’s influence is on the wane. It certainly seems true that various indicators appear to show that American
influence is declining in relative terms.
But in terms of decisive influence on global events, the 20th century was clearly the American century, and American influence it
seems to me will continue to be decisive for some time during the 21st century too.
I’d like to take a look at the post-Cold War situation in more detail now. Looking at the world during the 20 years that passed from the
end of the Cold War until the end of the Bush Administration, it seems to me that the world during these two decades was shaped by two
illusions held by some people among the leaders of the United States.
The first illusion, most typically represented in Charles Krauthammer s essay published immediately after the end of the Cold War, was
that of the unipolar moment. The Cold War was the scene of bipolar opposition between the United States and Soviet Union in which
the United States emerged as the victor. Accordingly, the United States is now the single pole and has no military rivals.
There are many people who think therefore that if the United States uses its military power wisely in accordance with its ideals, good
results will come about even if other countries in the world are unwilling to approve. These are the people generally referred to as neoconservatives.
But this is no more than an illusion. Mr. Zumwalt quoted President Obama and ex-President Clinton earlier, and it is clear that there are
many things that cannot be achieved no matter how strong one’s military resources. This is indicated by the difficulties that have arisen
in governance in Iraq following the Iraq war, and it is also reflected in the decline in the trust placed in the United States by its allies.
Another illusion is, put simply, that of market fundamentalism. The Cold War represented the conflict between Marxism-Leninism and
liberal capitalism.
Liberal capitalism proved victorious in the Cold War, and this has led people to assume that the economy would develop smoothly if
everything was left up to the market. State involvement is no more than a sub-current of Marxism-Leninism. So if all barriers to the free
operation of markets are abolished, the world will achieve a new economic state.
A feature of this new economic state is supposedly that economic stagnation will no longer be able to occur. This theory was
advocated by some people from the end of the 20th century through to the 21st century. This concept of market fundamentalism has
also been shown to be illusory.
The illusory nature of market fundamentalism was laid bare by the sub-prime loan crisis that came to the fore the year before last,
followed by shock resulting from the collapse of Lehman Brothers in September last year.
To say that the influence of the United States has been decisive is not to say that everything that the United States does is good. If the
United States follows a particular course, this may have a devastating influence on the rest of the world.
Looking at how one should view the birth of the Obama Administration on the basis of this interpretation, it seems to me that the
approach to the world adopted by the Obama Administration entails doing away with these two illusions and making basic changes.
In other words, no matter how strong the United States may be militarily, there are many things that it cannot achieve by force of arms
alone. This realization results in an approach importance is placed on cooperation with allied nations, on multinational cooperation, on
international organizations, and on dialogue.
In economic terms, although market is of course important, it may sometimes fail dramatically, in which case the role to be played by
the government becomes extremely important.
In historical terms such an approach is not particularly new. The victory of the United States in the Cold War was not attributable only
to its military supremacy.
America won the Cold War because it strengthened its cooperation with its allies and continued to protect a wide range of standards
and principles in international organizations. The economic supremacy of America and the West over the Eastern bloc can also not be
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US-Japan Research Institute
explained solely on the level of market fundamentalism, but was rather the consequence of the realization of effective societies and
welfare systems.
In this sense, it seems to me that the basis for the foreign policy of President Obama involves transcending the period of illusions that
emerged once the Cold War was over and returning to the lessons learnt through America’s victory in the Cold War.
It seems to me therefore highly likely that the world subsequent to the birth of the Obama Administration will be decisively affected by
whether or not the policies of the Obama Administration succeed.
Assuming that the present economic crisis is the worst since 1929, we can expect the current recession to go on for a considerable
length of time. The future prospects for the economies of China, Japan and other Asian countries are thus dependent to large extent on
developments in the economy of the United States.
This means that the success or failure of the Obama Administration will determine the fortunes of many countries including Japan. But
the situation in the 21st century is in many respects not likely to be the same as that during the 20th century.
This is because although the United States is of decisive importance, a number of other countries that may well come to be of decisive
importance are also emerging. One of these is of course China. In the current economic recession, as things stand at present China is
not experiencing enormous difficulties, nor does it appear that disaster lies around the corner.
But if the global recession goes on for too long, it seems to me likely that China would be severely affected, especially if the situation
were to get worse than it is at present.
If America fails the whole world will be sorely inconvenienced, and the same will apply if China fails. In this sense, as Secretary of State
Clinton pointed out in an article submitted to Foreign Affairs, the relationship between China and the United States is of great importance,
and the current global situation is such that the consequences will be dire if either China or the United States fails.
I’d like to go on now to look at US-Japan relations at the present time. The approach to US-Japan relations being adopted by the
Obama Administration is a very wise one, as was pointed out just now by Charge d’Affaires Zumwalt.
I feel that relations between Japan and the United States are on the whole good at the present time. But, at the same time, there is a
certain degree of latent fragility in today’s favorable US-Japan relations as I shall mention again in my summing-up.
The major factor here is the instability and uncertainty of Japanese domestic politics. There are two aspects to this instability and
uncertainty. Within the extremely great changes currently occurring the global system, it is very difficult for Japan to cooperate with the
United States in creating solid programs relating to matters such as security and economic matters in the medium and long term.
I imagine that in the present political climate there are bureaucrats and politicians intent on establishing medium-term and long-term
planning, but such considerations seem to have no place in the minds of the politicians who are currently most influential in determining
policy.
Secondly, this instability and uncertainty are occurring at a time when there is a very strong possibility of a change of government. As
was alluded to in the question in the first half, the approach of the Democratic Party of Japan, the leading opposition party, to security
policy remains somewhat opaque.
Needless to say, since Japan is a democratic country, it goes without saying that politicians often need to give priority to shortterm political gains in domestic politics. but we should not forget that domestic politics itself exists within the international security
environment.
But the international security environment, although not necessarily in a state of crisis, seems to be becoming increasingly unstable.
Professor Joseph Nye once said that security is like oxygen: you may not notice it when it is abundant, but once it begins to disappear it
becomes all-important.
The current security situation is not so dire at this moment. But in the area around Japan, China continues to possess nuclear
weapons, as does Russia too. North Korea is in the process of acquiring nuclear weapons and is building up a stock of ballistic missiles.
Under these conditions, the most fundamental mechanism for assuring Japan’s security is the Japan-US Security Treaty. A very
important function of the Japan-US Security Treaty is to ensure that nations that are currently friendly do not become unfriendly and that
countries that are currently somewhat antagonistic do not engage in overtly hostile activities.
This is what deterrence is all about. Deterrence involves ensuring that the other party is discouraged from engaging in negative
activities. This involves doing all kinds of things and is a question of the attitudes on the other side. The other side should feel certain that
it is not in its interest to engage in any activities that may be inimical to Japan and the United States.
The major political parties in Japan currently give far too little consideration to the various factors involved the system of deterrence.
Failing to take a more positive approach to efforts to maintain this system has the effect of seriously destabilizing the international
situation as a whole.
I believe fervently that creating a bi-partisan security policy consensus as soon as possible is of the utmost importance for stabilizing
Japan-US relations under the Obama Administration. That’s all I have to say at the moment.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
5大学研究者による問題提起
「東アジアにおける金融協力と米国」
中逵 啓示
立命館大学国際関係学部教授
リーマンブラザーズ倒産ショック以来深刻さを増してきた世界同時不況が進行している。その原因が、リスク実態が把握困難な証券
化という近年の金融テクニック等にあることは間違いない。しかしより背景的構造としては、米国が巨額の経常収支赤字を出す一方、産
油国・新興国・日本等が累積的に黒字を生み出しているという大規模なグローバルインバランスが存在する。中国による過剰な貯蓄等
を通じ後者が米国をファイナンスしその旺盛な消費を支えてきた。そして米国の過剰消費が日本や新興国による対米輸出を巨額なもの
にし、それら諸国の実体経済を米国市場への輸出に依存する体質に変えて来た。新興国や産油国により米国にファイナンスされた資金
の一部は、米国の金融機関により対アジア・ドル融資に形を変えて還流してきた。出所の少なくとも一部がアジア地域であった資金が
還流し、その資金にアジアの借り手は金利と為替差額・交換手数料等を支払っているのである。こうして金融面でも米国の金融機関に
部分的に頼る構造が生まれたのである。かくして米国を金融危機が襲った時、米金融機関は自身を救うため世界中から資金を引き揚げ、
減給や失業した米国の消費者は購買力を大きく減じた。そのため円を除く多くの東アジア通貨はその価値を下落させ、日本を含む東ア
ジア諸国は輸出不振から実体経済も不振に陥った。
東アジアに深刻な不況が広がった原因がグローバルインバランスを背景とすることは明らかである。深刻な不均衡が存在する限り東
アジアが再び同種の危機に直面する可能性は低くない。決済をドルだけに依存しすぎない、規模を拡大した東アジア経済が危機に陥っ
た時に IMF 単独だけではその救済が不可能である、のいずれも真実であるならば自立のための東アジア諸国間の金融協力が必要となる。
東アジアがそうしたことを強く実感することになったのが 1997-1998 年のアジア経済危機の時であった。タイ・バーツの下落に端を
発した金融危機はすぐさま韓国、インドネシア等他の東アジア諸国に伝染した。これら諸国では通貨の下落を食い止め最低限の輸入を
確保するため国際的な公的資金による支援が必要であった。IMF 単独では十分な対応が期待できないため日本に期待が集まった。当時
大蔵省財務官であった榊原英資を中心に日本政府はすぐさまアジア通貨基金構想(AMF) を打ち出した。中国を除く東アジア諸国の期待
は高まったが、
IMF は否定的であった。IMF との役割の重複が発生し借り手にモラールハザードが発生するというのがその理由であった。
しかし基金規模の限界から IMF は一旦 AMF 承諾に転じかけたが米国が待ったをかけた。根回しにワシントンを訪れた榊原は米国の反対
に直面することになった。AMF は米国主導の IMF 体制に挑戦し、少なくとも東アジアに日本の優位を確立させることになるというのが
米国反対の理由であった。
結局 AMF 構想は頓挫したが、その後危機が東アジアに留まらずロシア、ブラジルにも広がり、ロシアに投資していた米国ファンド会
社の倒産にまで及んだ。ことここにいたり米国も東アジアにおける日本の主導的役割を容認せざるを得ず、300 億ドルに及ぶ新宮澤イ
ニシャティブ実施を黙認した。しかし新宮澤イニシャティブは一度限りの支援策に過ぎず、米国が AMF のような恒常的な基金設立を認
めたわけでは決してなかった。
金融危機を経験した東アジア諸国は次なる嵐に備え、通貨危機の際に互いに外貨を都合しあうスワップ協定締結を進めた。そして
2000 年 5 月のタイ・チェンマイでの会合における合意をきっかけに二国間スワップ協定のネットワークが構築されたことからチェンマ
イ・イニシャティブ(CMI) と呼ばれるようになった。CMI が、アジア経済危機の経験を背景としていたこと、恒常的な多国間組織では
ないことから、米国も反対しなかった。まさにその一元的政策決定メカニズムをもたないことと、今回の世界同時不況を経験した後では
800 億ドルという CMI の規模の小ささが現在、問題となっており、規模の拡大や CMI を多国間枠組みに変えるための議論が続いている。
ドルに対する過剰な依存状態を改善するために決済通貨をドル一辺倒から離脱する政策としてアジア通貨単位(ACU)設立の動きが
ある。東アジア諸国間の経済取引の決済をアジア通貨のバスケットである ACU を通じて行おうというものである。激しい対ドル変動か
らアジア通貨を守ろうとする試みでもある。しかしながらアジア開銀の黒田東彦総裁を中心に進められてきた同構想も、東南アジア諸
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US-Japan Research Institute
国やインドの賛同を得たものの、結果的には膠着状態に陥っている。米国財務省が開発を主たる目的とするアジア開銀が通貨協力に取
り組むのは越権行為であると反対したのである。反対理由がどのように説明されようとも、米国の真意が東アジアにおけるドル優位が
覆ることに対する警戒にあったことはほぼ間違いない。中国もまたバスケットに台湾と香港ドルを加えることに抵抗を示した。日米中
三国の思惑が絡み合い展開を図れなくなったのである。
進行している米国経済力の相対的低下の中で、第二次大戦後維持されてきたドル絶対優位の仕組みが今後も長年にわたって維持する
ことが困難であることは明らかである。そうであるならば無理を続けることによって生じる混乱を繰り返すよりもより安定的な新たな
仕組みを模索する方が賢明と言えるのではないか。もとよりそれは筆頭国としての米国の地位や筆頭主要通貨としてのドルを否定する
ものではないのだから。グローバルインバランスの解消こそが日米に課された最大のアジェンダなのである。
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
Speeches from Professors of Japan's five Major Universities
“US and Diplomacy of East Asian Financial Cooperation”
Keiji Nakatsuji
Professor, College of International Relations, Ritsumeikan University
(Translation)
The simultaneous worldwide recession that has been growingly serious since the collapse of Lehman Brothers is continuing to
gather momentum. There can be no doubt that a cause of this situation lies in the financial techniques employed in recent years, and in
particular in securitization involving unascertainable attendant risks. However, the structural background to this situation is the large-scale
global imbalance whereby, on the one hand, the United States comes up with an enormous current account deficit while, on the other
hand, the oil-producing countries, the newly industrialized countries, and Japan come up with cumulative surpluses. Through excessive
saving in China, for example, these surpluses have been financing the United States and fuelling its vast appetite for consumption.
Extravagant consumption in the United States has resulted in exports to the United States by Japan and the newly industrialized
countries attaining vast sums and has brought about a change in the structure of the real economies of these nations whereby they have
become reliant on exports to the United States market. Some of the funds that have gone towards financing of the United States by the
newly industrialized countries and the oil-producing nations have flowed back into their countries of origin having been transformed by
American financial institutions into dollar investments in Asia. Funds which at least partially originated in Asia have flowed back, and
borrowers in Asia are paying interest and the balance on exchange rates in addition to switch commissions on such funds. A structure
has thus arisen under which Asian countries are becoming partially dependent on American financial institutions on the financial level as
well.
With the emergence of the financial crisis in the United States, American financial institutions withdrew funds from all over the world in
order to rescue themselves, while American consumers, having experienced falls in income and unemployment, have lost an extensive
proportion of their purchasing power. The consequence of this has been for many Asian currencies with the exception of the yen to
experience a fall in value, and the real economies of East Asian countries including Japan have fallen into recession due to a slump in
their exports.
It is clear that the main cause of the serious recession that is spreading through East Asia is connected with this global imbalance. For
so long as this serious imbalance remains, it is quite possible that East Asia may have to face a similar crisis once again in the future.
Assuming that it is true that settlements should not be excessively reliant on the dollar and also that the IMF alone would not be able to
come to the rescue of expanded East Asian economies that have plunged into crisis, in either of the above cases financial cooperation
among the countries of East Asia is essential in order to ensure their independence.
It was at the time of the 1997-1998 Asian financial crisis that East Asia became strongly aware of this at first hand. The financial crisis
that was initially sparked off by the fall in the value of the Thai baht soon spread to other countries in Eastern Asia such as South Korea
and Indonesia. These countries needed support through international public funds in order to stop further falls in their currencies and
to ensure a minimum level of imports. Since the IMF could not be expected to respond sufficiently on its own, high hopes were held out
especially of Japan in this regard. Centering on Eisuke Sakakibara, who was then Vice Minister of Finance for International Affairs, the
Japanese government immediately proposed the establishment of an Asian Monetary Fund (AMF). Expectations were high among East
Asian nations with the exception of China, but the IMF adopted a negative attitude on the grounds that duplication with the roles of the
IMF was likely to occur and borrowers might cause moral hazard. However, due to the limitations placed on the scale of the fund, the IMF
began to move towards cautious approval of the AMF concept, a development that, however, was stopped in its tracks by the United
States. Mr. Sakakibara visited Washington to take soundings in this regard and was confronted by American opposition to the concept.
The reason for this opposition was that the AMF would be likely to challenge the IMF system led by the United States and would allow
Japan to attain a position of supremacy at least in East Asia.
The AMF concept thus was derailed, but the crisis subsequently spread to include Russia and Brazil in addition to East Asia and even
brought about the collapse of a US fund company that had invested in Russia. It was at this stage that the United States found it itself
with no alternative but to recognize the leading role to be played by Japan and gave its tacit approval to implementation of the New
Miyazawa Initiative worth some 30 billion dollars. But the New Miyazawa Initiative was no more than a one-off support policy and this did
not mean in any way that the United States was prepared to recognize the establishment of a permanent fund such as the AMF.
Having experienced the financial crisis and in preparedness for the next storm, the countries of East Asia moved towards the
conclusion of a swap agreement that would involve them working together to acquire foreign currencies when faced by a currency crisis.
A network of bilateral swap agreements was established on the occasion provided by the agreement reached in Chiang Mai in Thailand
in May 2000 that became known as the Chiang Mai Initiative (CMI). The United States did not object to the CMI due to the fact that its
background was formed by the Asian economic crisis and because it was not intended to be a permanent multinational institution. But it
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US-Japan Research Institute
is precisely because the CMI does not have its own centralized policy-making mechanism and because of its small scale—amounting to
80 billion dollars after the experience of the present simultaneous worldwide recession—that the CMI is now being called into question,
and a debate is currently under way with a view to expanding its scale and changing the CMI into a multinational association.
Moves are currently under way towards setting up an Asian Currency Unit (ACU) as a policy aimed at remedying exclusive reliance
on the US dollar as the international settlement currency in order to break away from excessive dependency on the dollar. The idea is
for the settlement of economic transactions between the countries of East Asia to be made using the ACU, which will comprise a basket
of Asian currencies, the aim of this being to protect Asian currencies from drastic fluctuations in the value of their currencies in respect
to the dollar. However, although this concept that has been pioneered by people such as Haruhiko Kuroda, President of the Asian
Development Bank, met with approval from the countries of Southeast Asia and India, the upshot is that it has now become bogged
down. The United States Department of the Treasury has expressed its opposition on the grounds that it is beyond the remit of the
Asian Development Bank to engage in currency cooperation since the bank’s main purpose is to encourage development. But whatever
reasons the United States may nominally give for its opposition to this idea, its real motivation is clearly to undermine any attempt to
dislodge the dollar from its position of prominence in East Asia. China also expressed opposition to the Taiwanese and Hong Kong
dollars being included in the basket of currencies. The intertwining of these different approaches to their respective interests by Japan,
the United States and China has made it impossible to move forward with this concept.
As the relative decline in the economic power of the United States continues, it is clear that it is going to be difficult to maintain the
structures that have made it possible for the dollar to retain its absolute predominance ever since the end of the Second World War. If
this is indeed the case, it will surely be wiser to explore the possibilities for new and stable structures rather than sitting through constant
repeats of the chaos that is likely to ensue as a consequence of continuing to maintain impractical structures. Such an approach is not
intended to deny the status of the United States as the leading nation or of the dollar as the leading currency. Indeed elimination of the
global imbalance is the most important agenda which Japan and the United States should tackle.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
5大学研究者による問題提起
「米国の環境政策とその地球的影響」
弦間 正彦
早稲田大学社会科学総合学術院教授・日米研究所所長
私の報告内容は環境政策、ことに気候変動の問題に関することである。ただし、ここまでの問題提起とまったく関係がないわけではな
い。米国におけるオバマ新政権、また日本も気候変動の問題に関しては、今後積極的にイニシアチブをとっていかなければならないとい
う状況にあり、重要な政策課題であることに関してはこれまでに提示された論点と変わりはない。
当インスティテュートの活動においても、環境政策、地球レベルでの気候変動の問題に関してどういう形で両国が取り組むのか、さら
に具体的に両国が提案して、全世界的にどういう形で今後温室効果ガスを削減させていくのか、そういうことを考えていかなければな
らない。従って、本日の私の報告では、日米両国の動きが地球的影響を与える事例として、バイオエタノール、バイオ燃料の事例を提示し、
またそれを踏まえた上で当インスティテュートの活動内容について議論したい。
日米が今後考えていく重要な課題として、この気候変動問題が存在する。具体的には温室効果ガス、ことに二酸化炭素の排出量を減ら
していかないことには、地球規模の将来的な危機が発生することはよく知られている。ただしそれがどう我々の生活や地球のありかた
を変えていくのかというのは、方向としてはわかっているが、どの程度のスピードでそれが進むのかということに関しては、まだよく
理解されていないことが多い。いずれにしてもここで対策をとらないことには不可逆的なことになってしまうという認識は多くの人が
持っている。
現在は、COP15 や 16 などを継続していき、京都議定書後の 2013 年以降からの世界の今後の取り組みを議論し、決めつつあるところ
である。なぜ日米がこの分野で率先して枠組みを考えていかなければならないかというと、費用と便益というようなことを考えると、こ
こでイニシアチブをとって他国・地域に先んじていくことによって、比較優位性をもっていろいろな国を巻き込んで、なおかつ両国に
おいても中長期的な便益を高くし、費用を最小化する形で、温室効果ガスの削減を図るようにもっていくことができるからである。世界
の GDP の 35 パーセントほどを占める二国が協調して気候変動問題に取り組んでいくことは重要であるが、世界規模での対策をとるた
めには、EU との協力、さらに中国やインドなどの急速に経済成長を遂げる新興国や、途上国との協力が不可避で、日米が協力してこれ
らのパートナーを取り込んでいくことが必要である。
では具体的にこのインスティテュートでどういうことをすればいいのか次に論じたい。日米間には、いろいろな学会レベルでの交流
や、個人的な研究・教育活動を通じた議論、交流はあるが、それは短期的な交流で終了することが多いわけである。そして、中長期的な
協力関係を築くことが求められており、そのためには共通の分析ツール、手法を共有し、導入可能な政策について、どういう選択がある
のかということを共通の認識を持って考えていく。それが両国で非常に求められている。
本来であれば、学会の活動を通じて、そういう中長期に及ぶ交流が存在していなければならないのだが、現実には存在しているようで
存在していない。国際的な交渉の場で日本案、米国案というものを持ち寄っても、なかなか前提として考えていることが違うと、議論も
かみ合わない。
ましてや最終的に共通の認識を持つなり、共通の取り決めに至るというのはなかなか難しい課題なので、地道だが、こうしたインス
ティテュートの活動も一つなのですが、共通の交流の場、プラットフォームを構築するということが重要であり、ニーズがこの分野にお
いて存在している。
私は経済の分野なので、具体的に何ができるかということを事例として述べたいと思う。バイオエタノールの事例で説明するが、エネ
ルギーの安全保障を考えるということと食料の安全保障を考えるということは、どうも両方同時に成り立たせるというのは難しいこと
になっている。
アメリカがバイオエタノールの生産を推奨するような政策を 2000 年代にブッシュ政権になって導入した。それが全世界的な 2006 年
から 2008 年の夏頃までに観察された農産物価格、食料品価格の高騰、これはエネルギー価格の高騰ということの背景にあるのだが、こ
の責任の一部を負っているということが学会でも議論されてきている。その他に、食料品の価格というのは中国とインドという新興国
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US-Japan Research Institute
において、所得が上がるに従って肉や野菜に対する需要が拡大し、これが農産物価格の高騰をもたらしたという説明もされている。もと
もと肉を生産するためには穀物などの飼料が必要であるが、穀物を生産するための土地に対する需要が高まることによって、土地には
制限があり、供給はそれほど伸びないので、土地やそれを利用して生産する農産物価格が自ずと上がることになる。米国の代替エネル
ギー政策と、新興国の食糧需要の急速な伸びのどちらが農産物高騰の原因になっているのかについては、専門家の間でも議論が分かれ
ている。
これ以外にも、エネルギー価格の高騰に伴って、投機的な資金が穀物の先物市場もしくは現物市場に入り込み、かなり投機的なかたち
での取引が行われて価格が上がってしまったことも農産物価格高騰の要因となっている。
このようにいろいろな要因が存在するが、バイオエタノールの生産を推奨したことによって、米国においてはトウモロコシを生産す
る農家が増え、それが小麦などを生産していた土地をトウモロコシの生産に向け、トウモロコシのみならず、他の土地利用に関して競合
する作物の価格も上がったことが、世界的な農産物価格高騰の主要要因となったことは、事実である。米国は主要な穀物に関しては最大
の輸出国であるから、輸出国で他の農産物に対する需要が発生し、ことの影響は小さくはなかった。つまり、食用以外のエネルギー源と
しての需要が発生し、それによって食料の安全保障が全世界的に脅かされるような状態が観察された。
日本ではお金を出しても穀物を買えないという状態になったと、昨年の春から夏にかけて新聞などでは伝えられ、商社の中では投資
プロジェクトの一環で、外国において土地を買うなり、土地を借りるなりして、とにかく穀物の生産基盤を確保するという試みも行われ
た。そのプロジェクトサイトから、別に日本が購入しなければ、他の国に輸出すればいいわけだが、農産物を生産する土地を外国に確保
するということに日本企業が動くような状況にまで、日本の食料の安全保障を求めるとなってしまった状況に現在はある。
日本の場合は外国に投資するような形で食料安保を確保することができるし、平均的な家計は農産物価格高騰にも生活の質をそれほ
ど落とさずに対応可能であるが、問題は発展途上国であり、農産物が生計費に占める割合、つまりエンゲル係数が非常に高いので、農産
物価格もしくは食料品の価格が高騰すると、貧困層においては非常に生活が苦しくなる問題が存在する。名目所得が変わらない中で、名
目的な農産物価格が高騰したとすれば、これは実質的に生活の質を落とすことになるので、農産物市場の環境変化が日本のような農作
物の輸入国だけの問題だけではなく、発展途上国を巻き込んだ地球規模の問題にもなってしまっている。
これに関しても、我々が早稲田大学の日米研究機構で共同研究しているアメリカの研究者も、米国のエネルギー代替政策が途上国の
貧困層の生活の質を低下させているという内容でフォーリンアフェアーズに 2007 年に書いて警告をしている。しかし、米国におけるバ
イオエタノールの生産を推奨する政策に関しては、今のところ 2008 年の新しい農業法においてもその方針を変えていない。
昨年 6 月にイタリアで国際機関が主催して開かれた食料の安全保障に関する国際会議においても、食用穀物なり農産物をエネルギー
源にすることは、ひとまず控えようという形で、声明がなされた。
では、エネルギーの安全保障と食料の安全保障の両立が可能な方策が存在するかというと、存在する。同じ作物を使うのであるが、茎
や根、葉などの繊維を使う、つまり第二世代のバイオ燃料生産技術の開発によりこれが可能になる。
ただし、今のところバイオ燃料の生産費が通常の原油を使う場合と比べると、最低でもまだ 2 倍、3 倍とかかってしまう現実があるの
で、これはかなりの技術の開発と、あとはそれなりの規模をもって行うような生産体制、またバイオ燃料の場合にはあまり輸送に向かな
いという特徴もあるので、生産地に近いところで消費するようなエネルギー利用体制の確立も模索しなければならない。
日本では農産物に関して作ったものを近隣で消費することを地産地消と言うが、そういう形態もバイオ燃料利用の分野においては目
指していかなければならない。実際、日本では、そういう取り組みで 300 ほどの町村において、パイロット的に地産地消的なプロジェク
トを開始して実施している。また、アメリカでも同様の取り組みを行っているコミュニティもある。
当インスティテュートにおいては、マクロレベルで今後いろいろな政策の取り組みが日米を含む経済なり社会に与える短期的な中長
期的な影響について、共同で共通ツールである経済モデルを使って分析し、結果を公表して議論することをこのインスティテュートで
やっていくべきであると考えるが、同時にそのミクロレベルの、つまりコミュニティレベルでの取り組みも検討することが重要だと考
える。日本はコミュニティレベルでどういう取り組みをしているのかを、米国も学ぶことができ、逆に日本もアメリカの取り組みを参考
にすることができる。米国では関連機関が集積してクラスターを形成して成功している事例が存在するので、そういう成功事例に関し
て日本は学んで取り入れるとよいと思う。
また当インスティテュートというのは、必ずしも私が専門である社会科学の分野のみならず、科学技術の分野を通じた、大使がいろい
ろと気候変動の分野で北大とアメリカのほうのパートナーが協力しているとおしゃっていた科学技術の分野での、共同研究もこのイン
スティテュートを通じても行える組織だと考えている。そのような研究の場を提供してネットワークを形成するような活動をぜひこの
インスティテュートを通じて行えればと思う。
詳しいバイオ燃料の話に関して、本来は説明をする予定だったのであるが時間の関係でできなかったので、配布資料の中にバイオ燃
料使用の利点、バイオ燃料生産振興の課題という形で簡単にまとめられているので、ご参考にしていただけたら幸いである。
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
Speeches from Professors of Japan's five Major Universities
“The US environmental Policy and its Global Impacts”
Masahiko Gemma
Professor, Faculty of Social Sciences, Waseda University
Director, Institute of Japan-US Studies,
Waseda Organization for Japan-US Studies, Waseda University
(Translation)
I would like to talk today about environmental policy and particularly about the issue of climate change. However, that is not to say that
there is no linkage with the topics we have been discussing so far. The Obama Administration in the United States and Japan actively
need to take the initiative in connection with the issue of climate change, which is of no less importance than the other policy issues that
have been presented and discussed so far.
In this institute s activities, we have to consider the following matters; how the two countries will tackle problems involving
environmental policy and climate change on the global level and how they will reduce greenhouse gas emissions internationally by
coming up with proposals more specifically. Therefore, I would like to present some cases of bio-fuels, particularly bio-ethanol, and from
that basis discuss the content of activities engaged in by this institute.
The important issue which both Japan and the United States need to tackle in the future is climate change. It is common knowledge
that a global-level crisis of enormous proportions will occur in the future unless active efforts are made to reduce the emission of
greenhouse gases, in particular carbon dioxide. We have an understanding of how climate change is likely to affect our lives and the
nature of the planet, but we still do not have an adequate understanding of the speed at which the changes are likely to occur. There is a
general consensus, however, that unless measures are taken urgently, the process is going to advance fast and become irreversible.
At present discussions are continuing in various fora, including the upcoming COP15 and future COP16, on future global efforts in
a post-Kyoto Protocol era after 2013, with various policy decisions gradually being made. As to the question of why Japan and the
United States should take the initiative in considering a framework for dealing with this issue, from a cost-benefit perspective, Japan and
the United States would gain an important position by taking the leadership, and Japan-US engagement would also encourage other
countries and regions to participate. Additionally, such efforts would also have mid- to long-term benefits, whereby greenhouse gases
could be reduced while costs of such efforts are minimized. It is important for the two countries, which together account for around
35% of global GDP, to coordinate actions on the issue of climate change. However, in order to make any efforts truly global in scale it
is essential that the cooperation of the EU is attained, and also that of the newly emerging economies, such as India and China, where
economic growth is proceeding rapidly, and developing countries. Japan and the United States therefore need to cooperate with each
other to ensure that these global partners can be included in efforts to tackle climate change.
What this institute should do on the practical level is now discussed. Between Japan and the United States, there are various forms
of exchange, including at the academic level, and through personal research/educational activities. However, it is the case that such
activities often occur only on a short-term or temporal basis. Therefore, it is necessary to create mid- to long-term cooperative relations.
However, to achieve this aim, we need to share common analytical tools and methods, and we should consider what options are
available based on common perceptions. This is precisely what is needed between the two nations at present.
In the ideal case, such mid- to long-term interaction would exist in the context of the activities of academic societies, but in reality
this all too seldom occurs. Although Japanese proposals and American proposals may appear on the same table in international
negotiations, they all too infrequently get taken up for discussion because the criteria assumed as preconditions are so different.
What is most difficult is ultimately to translate a common perception of issues into a common agreement or understanding. Institutes
have their own quiet role to play in this regard, but it is nonetheless an important one and there is a pervasive need in this field to create
a forum and platform for exchange.
As my own background is economics, I would like to raise a few concrete examples of what we can do. I will provide an explanation
citing the case of bio-ethanol. Thinking about both energy and food security, it is extremely difficult to balance these two simultaneously.
The United States made a start with policies aimed at promoting the production of bio-ethanol after the advent of the Bush
Administration during the first decade of the new century. The background to this was the steep rise in the prices of agricultural produce,
food products and energy that occurred all over the world between 2006 and the summer of 2008. Academics debated whether these
policies had not themselves been partially responsible for these price rises. On the other hand, in the newly emerging countries such
as China and India, rise in the prices of food products resulted in increased demand for land to produce food products, since rising
incomes bring about increased demand for meat and vegetables, and it has been argued that this is what brought about the price
rise in agricultural products. Fodder such as cereals is needed to produce meat. Therefore, the demand for land also increased. But
what happens as a result of all this is that increased demand does not actually result in a significant degree of increased supply due
to limitations on the amount of land available. Prices may thus rise of their own accord. Even among experts opinion is still divided on
whether it was the United States policy on alternative energy or the rapid rise in food demand in emerging economies that caused the
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US-Japan Research Institute
surge in food prices.
Another point is that steep rises in energy prices are accompanied by the inflow of speculative funds into the grain futures market and
the spot market. Dealings with a strongly speculative element thus take place and force up prices.
There are thus various factors involved in this regard. However, in the United States, promoting the production of bio-ethanol has
resulted in an increase in the number of farmers engaged in corn production with the consequence that land that was previously used to
produce wheat and other crops is now being used to produce corn. This results in price rises not only for corn, but also for other crops
that are competing with corn for arable land. This is how the price of agricultural produce skyrockets. Since the United States is the
leading exporter of important cereal crops, demand for other agricultural produce in exporting nations has had a significant impact. In
other words, we have witnessed a situation in which demand for crops as a source of energy other than food has threatened global food
security.
Reports in the newspapers last spring and summer suggested that the situation may arise in the future where Japan is no longer able
to obtain food products from abroad even if it has the money to pay for them. It was reported that trading companies were buying and
renting land overseas as part of investment projects, as a means of ensuring sites for grain production. Even if Japan did not purchase
grain from these locations they could easily be exported to other countries. This example shows the current reality whereby even
Japanese companies are having to secure land for food production overseas as a means of ensuring Japan’s food security.
In the case of Japan, it is possible to assure food security through overseas investment and for average household finance to
respond to high agricultural production costs, but this causes problems for developing countries where the proportion of living expenses
accounted for by agricultural produce displays a very high Engel coefficient. This means that any steep rise in the price of agricultural or
food produce has an extremely severe effect on the lives of the poorest sectors of society. In effect, with no increase in nominal income,
any steep increase in the nominal prices of agricultural produce is going to have the effect of lowering people’s actual living standards.
Accordingly, changes to the agricultural produce market are an issue not only for importers of agricultural produce like Japan, but are
becoming a global scale issue that also affects developing countries.
Several policy-oriented papers that appeared in Foreign Affairs have been referred to in this connection today. American researchers
who are working together with us at the Waseda Organization for Japan-US Studies at Waseda University issued a warning about this
matter in Foreign Affairs in 2007. However, policies aimed at encouraging the production of bio-ethanol in the United States have not
changed and are still being pursued in the Farm Bill of 2008.
At a high level international conference on food security organized by international bodies in Italy in June last year a declaration was
issued calling for the use of agricultural produce as sources of energy to be held back.
There is, however, a way in which food and energy security can be balanced. The way this can be achieved is still by using the same
kind of crops, but instead using the fibrous parts of plants such as stems, roots and leaves as an energy source. In other words, the
development of second-generation bio-fuel production technology would enable food and energy security to be balanced.
However, the situation at present is that production costs of bio-fuels using the second-generation technology are at least two or three
times greater than those involved in the production of ordinary bio-fuels made from corn and sugarcane. Accordingly, this involves a
considerable degree of technological development, establishment of a production system on a correspondingly large scale, and, in the
case of bio-fuels, the fact that they are not suited to transportation over long distances. This means that we need to look into utilization
system in which such energy sources can be consumed close to their place of production.
People frequently talk about the local consumption of agricultural produce in Japan, and it is precisely this kind of local consumption
that we need to achieve in the case of bio-fuels. Pilot projects along these lines are currently being implemented in 300 municipalities in
Japan. There are communities making similar efforts in the United States too.
It is up to institutes to analyze the short, medium and long-term effects of future policy on economies and societies including those
of Japan and the United States on a macro level using jointly shared tools based on economic models. The results of these analyses
should then be published and debated. At the same time, people in the United States should be able to study how Japan is coping with
such efforts on the local community level and Japan should also be able to refer to efforts in the United States. In the United States there
are cases where clusters of related organizations have been formed with some success, and these successful cases would be useful for
Japan to learn about and adopt.
This institute can also get involved in joint research in fields including not just my own field of social sciences but also science and
technology, for example in the form of the partnership between Hokkaido University and Harvard University that the ambassador
mentioned in the field of climate change today. It would be good to see this institute engaging in these activities by providing the facilities
for such activities and setting up networks.
I was intending to give a detailed explanation of bio-technology, but time did not allow me to do. Therefore, I would ask you to refer to
the hand-outs, in which you will find a simple description of the benefits of the use of bio-fuels and the issues involved in promoting their
production.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
パネルディスカッション
質問 1:「オバマ大統領が戦時大統領制であるかどうかについて待鳥先生と阿川先生で意見が分かれましたが、どうお考えでしょ
うか」
回答者:待鳥聡史
戦時大統領制であるかどうかということについて私が申し上げたかったのは、どちらかと言いますとオバマ大統領が直面している局
面というのは戦時大統領制ないしはそれに準じるような大統領への権力集中を必要とする局面なのだろうと思うけれども、しかし、お
そらく連邦議会はそこまでの白紙委任に近いものをしてくれるということはないだろうということです。
ブッシュ政権時代に、まさに戦時であったという理由で一時的な集権化がピークに達したあとであって、それを長く続けるというこ
とは非常に難しいだろう、という理解に基づいているものです。ですから、オバマの場合には戦時大統領制に近い集権が必要であるにも
かかわらず、なかなかそれが得られないという状態に直面するのではないか、というのが私の見通しです。
質問 2:「アメリカの大統領の権限が「小さい」と言われたが、憲法上に具体的にどのように制限内容が述べられているのでしょ
うか」
回答者:待鳥聡史
憲法についてのご質問で、私よりも阿川先生の方が適切かとは思うのですが、ごくシンプルに申し上げます。合衆国憲法の条文を見る
と第一条に連邦議会の権限が書いてあって、第二条に大統領の権限が書いてございますが、圧倒的に第一条の方が条文が長いのです。な
ぜかと言うと連邦議会がほとんどの内政事項についてその政策を決めるからなのです。
大統領が議会に対して対抗できる権限というのは、よく知られている拒否権がございますが、あともう一つ積極的に政策イニシアチ
ブを取るための権限というのは一体何があるのかというと、簡単に申し上げれば、いわゆる教書を送る権限くらいしかないのです。これ
を教書送付権と言ったりもしますが、このくらいの権限しかなくて、例えば普通今日の「強い」大統領制の国、つまり強大な権限を持っ
た大統領であれば、予算を大統領だけが出すことができるとか、法律案を大統領が出すことができるとか、そういう権限を持っているの
です。特に予算に関する権限をほとんど持っていないというのは、アメリカの大統領の権限の小ささの代表的なところです。
実は、20 世紀以降の大統領制はほとんどそのあたりについて大統領側に権限を与えておりまして、それが最もよく反映されているの
が、例えば日本の地方自治体ですね。これは 20 世紀の大統領制の設計を非常によく反映したものとなっておりまして、知事とか市町村
長だけが予算を出すことができるという仕組みになっているわけです。このような違いは、18 世紀の末と 20 世紀の真ん中では大統領
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US-Japan Research Institute
の位置づけというのはこれほど変わっているという、端的な例だと言えるように思います。
回答者:阿川尚之
待鳥さんのお答えで十分だと思います。私はオバマさんが危機の時代の大統領だという認識を依然として持っておりますが、9.11 の
時にブッシュさんが直面したような容易ならざる緊急性というのは、やはり薄まっているだろうと感じます。その分経済の比重が大き
くなっていて、これはフランクリン・ルーズベルトの時と逆ですよね。あのときは経済の方が先に危機になり、それから大規模な戦争が
起こって、その 2 つを同時にやらなければいけなかった。オバマの場合、先に国家安全保障上の危機が訪れ、そのまま戦争状態にあると
ころに経済危機が到来した。そういう意味で順番が逆だと思います。そのうえ、これら 2 つの問題は、オバマさんの大統領就任以前に、
すでに起こっていた。
現在の金融・経済危機は言うまでもなくグローバルな性格のものですが、それでもその対処においては国内政治の側面が大きい。そ
ういう意味では戦時大統領制的な、一時的ではあるがほとんど無制限の大統領権限を行使できるという風には、なかなかならない。した
がっていろいろ手を縛られる。実際に、朝鮮戦争の真っ最中、戦争遂行のためにトルーマン大統領が戦争権限に基づいて全国の製鉄所に
おけるスト中止を命令し、国有化しようとしたとき、それは大統領の権限範囲を超えるものであり違憲であるとした有名な最高裁判決
があります。
そうすると、基本的に内政問題である経済分野でオバマ大統領がどこまでできるかというのは、待鳥さんの言われるとおり、戦時の大
統領ほどの権限はもてないと思います。ただし、オバマ政権がブッシュ以上に強権を発動しなければならないとすれば、それは 9.11 の
ようなアメリカ本土を標的とするテロ攻撃がもう一回起きたとき、あるいはそれに類する危機が発生した時でしょう。すなわち安全保
障上の重大なる脅威に直面したならば、オバマは憲法の世界でインヘレント・パワーと呼ばれる、憲法典には書いていない大統領が本
来有するとされる固有の権限をかなり大幅に使って対処するという局面がないとは言えない。そういう感じが致します。そうした可能
性は今の世界情勢を踏まえて考えれば、イラン問題の緊張であるとか、幾つかあるという気がします。若干ファジーな答えですが。
私も谷内さんからいろいろ質問を振られましたけれども、私には回答できないような難しいご質問ばかりです。1 分ずつベストを尽
くしてやりたいと思います。
質問 3:「日米関係をグローバルな視点で考え、戦略的に活用するためには、具体的にはどのように推進すべきでしょうか。グロー
バルなイシューについてはものによっては日本とアメリカのポリシーが合致するとは思えないが、どのような点で協調
が可能でしょうか」
回答者:阿川尚之
私は答えられません。答えられないのですが、今までの日米関係の歴史を見ると、何をしたらいいかと共通の利益を模索するのとは別
に、何かを一緒にやることによってそこから共通の利益が生まれてくるという面もあると思います。
具体的な例で言うと、日米安全保障条約の下で米海軍第 7 艦隊と海上自衛隊の艦艇は共同訓練を重ねてきました。最初のうちはあま
り役に立たなかっただろうと思います。しかし何回も共同経験を重ねるうちに、そこに他の海軍との関係ではあまり見られないような
高度なインターオペラビリティーなど、共有すべき能力が生まれてきた。その積み重ねがあったからこそ、80 年代のソ連封じ込めのた
めの日米防衛協力が可能になり、2000 年代には 9.11 の後のインド洋の海自艦艇による給油活動のような具体的成果が出てきた。グロー
バルな平和構築のための国際的オペレーションに、日本はいつもなかなか出て行かないし、貢献が小さいと言うけれども、アメリカにし
てみると、小さなオペレーションであっても一緒にやってうまくいく、信頼できる国というのは、実は日本なのです。そういう風に聞い
ていますし、私も実感としてそう思っている。勿論日本ができることは限られているけれども、グローバルなイシューについて、これま
での蓄積を踏まえ、日米で協力できる分野はたくさんあります。日本人の特性かもしれませんけれども、こんなことができるだろうかと
ネガティブに考える。しかしアフリカでも何でもやってみると、そこになにか日米間、あるいはアメリカだけではなく多国間で、コンパ
ティビリティーとシナジーが生まれてくる、共通の利益がみつかるということはあるのではないかと、お答えになっていないかもしれ
ませんが、そのように思います。
質問 4:「この NPO が日米双方の研究者に具体的にどのような問題解決機能を与えるのでしょうか」
回答者:阿川尚之
これまた難しいご質問であります。答えられたら私は今回の NPO のことを全部答えられることになってしまうかもしれませんが、一
つだけ申し上げますと、私は日本の NPO でもアメリカの NPO でも成功するところは幾つか特徴があると思います。一つは、当たり前の
ことですけれども人がいる、人材がそろっていると。しかも、強力なリーダーシップがある。NPO というのはあまり民主的でもうまく
いかない、核になる人が責任を持ってやる、という憲法の大統領権限みたいなところがあって、それが必要かなと思います。日本の NPO
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日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
やシンクタンクなどでは、これまでそれほど強いリーダーシップや明確な方向性がなかったのではないかと思います。例外として日本
財団がありますが、あそこだけは創始者の強烈なリーダーシップと独立の精神があって、うまくいったのではないかという感じがしま
す。
それから、当然にしてお金ですよね。お金が潤沢にあった方が当然いろいろなことができます。その上できちんとしたリーダーシップ
とポリシーがあると、うまくいくと。その場合アメリカと日本と今でも違うと思うのは、税制の問題です。私はアメリカの NPO があれ
ほど成功しているのは、お金持ちのなかにガバメントには何に使われるかわからない税金を払いたくないけれども、名誉が残るなら寄
付をする、控除を受けられるからその方がいいという、一種の寄付文化がある。そういう制度と文化が日本にも根付くような税制を作っ
ていただいて、なるべくお上に世話にならず、いろいろ言われずにやりたい。私立の大学の教員としてはそう思います。
質問 5:「オバマ政権でアメリカの国連外交はどう変わるでしょうか」
回答者:阿川尚之
国連外交も私の専門外ですのでよくわかりませんが、一言で言えば、これまでの戦後歴代大統領と同様、オバマさんも、実際の政策過
程において、また世界に向けた広報の一環として、国連の使えるところは大いに使うのではないか、という感想を持っております。
質問 6:「日米同盟の重要性が再認識される一方で、世界は多極化への道を辿りつつあると。日米は何を提唱し、日本は世界・ア
ジアにおいて何を提唱し、実践すべきか、優先度の高い施策を例示していただきたい」
回答者:阿川尚之
これまた答えられたら私は外務大臣になれると思いますが、とても一言で申し上げられません。ご指摘のとおり日米が共通に取り組
むべき問題は多く、その優先順位もつけるべきでしょうが、私は、今日本がやるべきことは、今まで蓄えた日本の強さを生かし、共通の
利害にかかわることについて、日本がアメリカとの協力に主体的に取り組んでいく。そういうことだと思います。アメリカの経済がだめ
になったら日本もだめになる。日本がだめになったらアメリカもだめになる、という共通の危機感を持って取り組む。とかく我々は何か
やろうとすると、いやそんなのは大した役に立たない、効果がない、これこれの問題があるといってなかなかやろうとしません。しかし
給付金の配布だろうがなんだろうが、できることはなんでもやってみるという覚悟で臨みたい。私ももらったら早速使おうと思ってい
たら 5 月までくれないのだそうで、待ち遠しいですけれども、というようなお答えで失礼します。
質問 7:「小沢代表の発言についてどのように評価するか、現在のように日本国内にアメリカ軍の基地がこんなにいっぱいあっ
て、日本が経費をこんなに払っているというのは、大変異常な話なのではないかと、日米関係が重要だと常識は本当に正
しいのか」
回答者:田中明彦
日米同盟関係というものを日本の安全保障政策、日本の国民生活にとってどう評価するかという言わば、根源的な問題ですので、た
だちにここで短い回答を申し上げるのはなかなか難しいのですが、私はやはり日米安全保障体制というのはただ大事だから大事なのだ、
そういうことは当たり前だろう、という言い方は安全保障政策を考えるのにはあまり健全ではないと思っております。やはり日米安全
保障体制は必要性があるから存在するわけです。では必要性はどのように考えたらよろしいか、ということですと、私は小沢代表がおや
りになったことは一つのやり方だと思うのですが、一つ一つ日米同盟に今あるものから引き算でどんどん引いていけばいいと思うので
す。引いていけば何が起こるか、ということです。
現在の東アジアの安全保障環境を考えてみたいと思います。中国には日本を射程に置いた中距離ミサイルがいっぱいあります。核兵
器も沢山あります。北朝鮮にも日本を射程範囲に置いた弾道ミサイルが沢山あります。核兵器を持っております。ロシアにも同じことが
言えます。それから北朝鮮は所謂不審船のようなものもありますし、中国海軍も大変増強を強めておりますし、第四世代と言われる戦闘
機も、日本は増やしていないのに対して、中国は大変な速度で増強している。
こうした中で、いろいろなものを日米同盟から引いていくとどうなるでしょう。一番極端に引いてしまえば米軍基地をなくすという
話でありますが、そうするとアメリカ軍は日本には軍隊を置けませんから、アメリカの最前線基地はグアムとかハワイとか、ということ
になるわけですが、そういう風になったときに、今の日米安全保障条約という紙に書いてある文言がそのまま実行できるかどうか。そ
こまで引かないとしても、第 7 艦隊だけだという風にした時に、抑止力として十分か。抑止というのはこちらに対して悪いことを誰かが
やった時に、確実にそれに対して報復する、ないしはそれに対処できるという能力がこちらにあるということを相手に信じさせること
によってそういうことをしないようにさせることです。そうすると、いかに第 7 艦隊の空母が非常に有力であったとしても、空母部隊だ
けでそのような抑止を維持できるのかというと甚だ疑問ではないかと思います。
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US-Japan Research Institute
いずれにせよ、日米同盟関係を評価するということは、結局、その最も重要な機能においては日本にとって役に立つか役に立たないか、
それがどの程度のコストで実現できるかという計算です。もし日本国民が、アメリカ軍のいなくなった部分を日本国自前の努力で補う
というのであれば一体いくらかかるのかを計算しなければいけません。その値段が今、日米同盟維持の為に払っているお金とどちらが
高いのか、どちらが安いのか。それからさらに言えばお金だけのコストではなく、事実としてみて日本が独自でそういうものを整備しよ
うとした時に、周辺諸国がどのように思うか、その思ったときに周辺諸国がどういう軍事動作を起こすか、という反作用も考えなければ
いけません。そういうものを全部ひっくるめて言ったときに、今のものから一部分だけ引っこ抜いて大丈夫なんじゃないとか、あるいは
全部やめても大丈夫かもしれないと言うようなことはよくよく考えなければいけないと私は思っている次第です。
今の点に関連して私は 20 世紀後半において主権国家のあり方と言うのは様々なあり方が生まれてきていると思います。19 世紀から
20 世紀の初めであれば、主権国家と言った時の典型例として、どこの国にも頼らず、自らのことは自らの軍事力で守り、いざとなれば戦
争をし、というような国家像が一般的だったと思います。ただ、20 世紀後半、北大西洋条約であってももう 50 年、60 年、同盟条約は 50
年、60 年続くと言う世界は、同盟とかそういうものは極めて異例であった主権国家体制とはだいぶ違う世界です。よその国に軍隊がい
るということだけでもって独立国家ではないとか、あるとか、ということではないのではないかと思います。要は、それぞれの国々の安
定、安全保障がどのように保てるかという形のアレンジメントを様々な形、様々な要素を組み合わせてやっていくというのが現代の特
徴だろうと思います。
これは何も軍事問題だけの話ではなく、ほとんど様々な領域においてそういうことが起こっていると思います。昔『新しい中世』とい
う本を書いたことがありますけれども、そこで言っていたことはそういうようなことを言いたかったつもりです。
さらに、狭い意味の日本の安全保障を守り東アジアの安定と平和を守るという意味の日米同盟強化だけにとどまらず、私は、より広い
グローバルなイシューズについて、日米ができるだけ緊密に協力し合う枠組みとして、この関係を重視していくことが重要だと思いま
す。
ただ、このようなグローバルなイシューについて日米が緊密に協力すると言うのは、安全保障条約があるからと言うよりは、日本人と
アメリカ人が先ほどズムワルトさんの話でありますが、それなりに多くの物事について考え方や見方を共有して友達としてやっていけ
るということを前提として行うことではないかと思っています。
友達としてやっていければ更に中国人とも友達になれる場合もあります。現在で言えば中国は名目で言っても世界第三位の経済大国
ですから、日米中という三つはそれだけで世界的に大変な影響力を持つ存在ですから、気候変動問題への解決とか、様々なグローバルイ
シューズにおいて、日米中が協力していくという意味は、少なくなることは一切ないと思います。これからどんどん増えるということで
す。その際に日本人とアメリカ人は友人として様々な領域を扱っていくのではないかと思っています。
質問 8:「金融危機が落ち着いたあと、巨額の経常収支赤字を解消し消費大国から脱却すると仮定して、例えば 2011 年の米国の
GDP はどのくらいに縮小すると予想しますか」
回答者:中逵啓示
これはどうでしょう、経済学者も誰も答えられないと思うのです。これだけ激しい変動の中で、2 年 3 年先を読むということが、非常
に難しいと思います。
一つは、今回のことでシステミック・リスクを起こすような金融機関等の損失がどのくらいになるのかを確定することは簡単ではな
いと思います。それができないと、いつ金融危機から脱却できるのかよくわかりませんし、今でも大体 2 兆ドルくらいかかるのではない
かと言われていますが、オバマ政権は大体 8000 億ドルから 1 兆ドルくらいの公的資金の投入を考えていますが、日本の 90 年代のように
後手後手に回る可能性もあると思います。そうすると時間がかかってしまいます。基本的には消費大国、経常収支の赤字を調整していく
のでしょうが、あまり激しいバンピングはどの国にとってもよくないので、今は速やかに G20 が協力して、日米が協力して、今の状況か
ら脱却することが最優先だと思います。もう少し中期的な話は先ほどもしましたが、経常収支の赤字の問題を含め多分調整は今回一度
に終わるのではなく、時間がかかると思います。
質問 9:「日米で EPA 等を通じてリーダーシップを取ることはどうか。そしてアメリカで広がっている保護主義の中で日本はど
うするのか」
回答者:中逵啓示
これは先ほどの質問と関係があると思いますが、当然大恐慌の時にはスムート・ハーレー法を重要なきっかけに保護主義に走ってし
まったことが危機を長期化させた原因としてあるわけです。今回はそれは皆さんわかっていることですが、先ほど待鳥さんがおっしゃっ
た通り、民主党の中で―具体的にはおっしゃらなかったのですが―例えば労組系従業員のリストラとか例えば GM でこれから起こって
くるわけです。そうした動き現実には大変な抵抗に遭うと思います。それはアメリカだけでなく、世界中で起こっていくわけで、保護主
義を防ぐと発言するのは簡単ですが、実際は大変なことだろうと思います。
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
田中さんは主に安保の面でおっしゃったと思いますが、日米、日本の中で中長期的な視点に立って、みかんの輸入拡大を、池田隼人首
相は広島出身ですが、それにもかかわらず実施したと言われています。そのような志のあるリーダーシップがないと危機脱出は相当厳
しいだろうと思います。貿易の保護主義を防ぐために日米が協力するというのは言うまでもないことだと思います。
質問 10:「アメリカの国債の 90% は海外からの投資で賄われている。今後日本はずっと買い続けることは健全ではないのでは
ないか。中国もちょっと考えているのではないか」
回答者:中逵啓示
私は報告の中でそういうことを示唆させていただきましたが、しかし、先ほど申し上げた通り、ひどいバンピング、暴落は誰も望んで
いません。ですからソフトランディングがあくまでもポイントだと思います。この調整には時間がかかると思います。けれど、方向を間
違えないようにするということが大事で、苦しくなるとアメリカに頼って輸出でなんとか回復するというようなやり方では中長期的に
はやっていけないと思います。
質問 11:「日米安保条約をアメリカが一方的にやめたとしても経済界の結びつきを考えると日米が再び戦争をするとは考えられ
ないが、いかが考えられますか」
回答者:中逵啓示
もうほとんど田中さんがお答えになったと思うのですが、私なりに 2、3 点だけ意見を言わせていただきますと、グローバルインバラ
ンスということを先ほど申しました。これだけでも大変な問題です。これが例えば日米安保条約もなく、我々が今作ろうとしている日米
間のオピニオンリーダーのコミュニティがなく、友情的な結びつきもない、というところでグローバルインバランスの問題を解決しよ
うとすると、これは極めて大変だと思います。重層的で、補完的な日米関係の中で解決するしかないと思うので、日米経済の相互依存関
係のプラス面だけをみるのではなく、経済の深まりによってもたらされる深刻な問題もありますので、簡単ではないだろうと思います。
日英同盟を止めてワシントン条約を造ったのはよかったのですが、その後日本は漂流してしまったという側面もあるので、あまり政治
的なリーダーシップが安定的に正しい結論を導き出せるということを期待し過ぎないほうがいいのではないかと思います。
もう一点申しますと、この日米研究インスティテュートの大きな狙いだと思うのですが、日米間のオピニオンリーダー、あるいは幅広
いピープル・トゥ・ピープルといいますか、対話のコミュニティを作っていくと言うことが非常に大事だと思います。おそらく戦後の
良好な日米関係が日米経済摩擦くらいからだいぶ変わってしまったのではないでしょうか。60 年代に、ハーバードで客員研究員をさせ
ていただいた時に偶然、旧ライシャワー邸に運良く住まわせていただいたのですが、ライシャワー大使が日本の精神的に不安定な青年
に刺されて、日本人の血をもらって「これで私はやっと半分日本人になれた」と言ったのです。ところが、経済摩擦の時に筑波で大きな
国際政治学会のシンポジウムを開催した際アメリカの若い研究者が―日本は 80 年代当時トヨタとかいろいろな自動車販売会社がアメ
リカの車を売ろうと努力していましたよね、中曽根首相もそうした努力の中心でした、―その時に日本は努力していると言っているけ
れども本当は 500 台しか売っていない、と言ったのです。残念ながら当時日本の多くの人がアメリカの一般的な乗用車を買いたいと思っ
ていませんでした。このように日米関係はコミュニティというところからだいぶ離れてしまったので、再構築が大事だろうと思うので
す。
質問 12:「中国より、親日のロシアと日露和平条約を結ぶことが日本の国益に適っているのではないかと思いますが、いかがで
しょうか」
回答者:中逵啓示
先ほどから申し上げている通り、日米なのか日中なのかとか、日中なのか日露なのか、ということでは多分ないと思います。これだけ
グローバルに関わり合いができましたら。主要な国と基本的には喧嘩しないと言うのが外交的に、また一般の人間関係に置き換えても
常識的なことだと思うのです。そういう観点からはロシアとの関係というのは十分努力をしてこなかったといえますから、努力をすべ
きであろうと―やや凡庸な当たり前の答えですが―思います。
質問 13:「アメリカのバイオ燃料熱はすっかり冷めてしまったと聞くが、実情はどうなっているのでしょうか」
回答者:弦間正彦
アメリカの場合にはバイオ燃料の生産にあたり、とうもろこしをエタノールにする工場に対しては、一ガロン当たり当初は 51 セント、
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US-Japan Research Institute
現在でも 45 セントほどの補助金を出す生産推奨策がとられてきています。これを受け、バイオエタノールを加工生産する工場が雨後の
筍のようにどんどんここ 2 ∼ 3 年の間に建てられてきたわけです。
現在どうなっているかと言うと、多くのバイオエタノール工場は倒産の危機に直面していて、かなりのところが生産を停止していま
す。なぜそのような状況になっているかと言うと、原料の穀物、ことにとうもろこしに関してなのですが、価格は一時期、昨年夏からは
下がりましたが、かといって 2003 年の水準に下がったかと言うとそこまで下がっていませんので、高止まったところで主要穀物の価格
が推移しています。ではバイオエタノールを販売する時の価格はどうかと言うとエネルギー価格自体は原油価格がどんどん下がってい
るのと同じように下がっています。ガソリン価格にしても下がっていますので、原油価格が 1 バレル当たり 60 ドルくらいであればバイ
オエタノールを作っても今の政策の枠組みの中で採算が取れるということが言われています。しかし現在はそれよりも低い原油価格に
なっていますので、エタノール生産業者としては経営的に難しい状況になっています。原油価格がそのまま高止るという仮定の下、安易
な投資計画を作って、銀行も資金を貸していましたので、今のような状態になってきて借りた側も、貸した側も困った状況に置かれてい
ます。
また、バイオエタノールの場合、原料となるとうもろこしの生産に季節性が存在するために、操業する期間が限られています。それに
もかかわらずなぜアメリカでエタノール生産工場がこんなに広がったかと言うと、他の農産物を加工する生産ラインの一部を利用して
バイオエタノールを作るような形で操業できたからです。バイオエタノールだけをつくる工場を作るとかなりリスクが高いのですが、
アメリカの場合には粉にして加工しておくと、1 年間の中でかなり長い間操業できるような体制を整えることができたそうです。しかし、
必ずしも年間を通じて操業できるわけではありませんので、残りの期間労働力をどうするのかとか、設備をどう利用するのかというこ
とは事前に考えなければいけなかったと思います。それが教訓です。
ですから、今後の代替エネルギーを推奨するような政策を投入する時には、必ずしもアメリカが今まで取ってきたバイオエタノール
生産の推奨政策というのはそのまま継続することは望ましくないですし、他の国が同じような形で導入するというのももう一度考えて
からやった方が良いかと思います。
元々アメリカの場合にはブラジルのバイオエタノールに比べて生産費が高いので、今のような高い水準の輸入関税をバイオエタノー
ルに対してアメリカは課していますが、それが WTO のドーハラウンドの交渉で下げるような形になりましたら、どんどんブラジルから
バイオエタノールが入ってくる状況になるかと思います。ですから、必ずしもアメリカ国内のバイオエタノールの生産というのは今後
どんどん伸びていく状況にはないと思われます。
質問 14:「日米の共有できるアジェンダとして、UN や米国で提唱されているグリーン・ニューディールプログラムがあるよう
に見受けられますが、日本サイドとしてはどのような協調・提携関係を米国のカウンターパートと築いていく方針で
しょうか。また水資源の有効活用と食料の安全保障には重大な関係があるのではないでしょうか」
回答者:弦間正彦
グリーン・ニューディールに関しましては、そのような方向で、景気対策に積極的に環境・気候変動の分野に投資していく方向で両
国とも動いています。代替エネルギー、これはバイオエタノールだけでなく、ソーラーパネルや風力発電を含めていろいろと対応してい
くという試みがなされています。そうとはいえ 2、3 週間前の New York Times には、米国においてソーラーパネルを作っている会社が倒
産してきているとも書かれていました。このような経済状況ですので、なかなか補助金をもらって作っても売れないのだそうです。中長
期的な目標としてはいいが、短期的に収益性の高いビジネスにするのは難しいという問題に直面しているようです。従業員はレイ・オ
フしなければならず、金融危機の影響を短期的には受けていて、環境分野の企業もかなり苦しい経営状況になっているそうです。中長期
的にはグリーン・ニューディールで経済を復興させていこうとするのですが、なかなかそれまで既存の代替エネルギー関連企業が持つ
かどうかわかりません。日本もそうなのですが、短期的にはかなりの資金を融資し、これらの企業が生き残れるような場を設定しなけれ
ばならないと考えます。
NPO でできることは、この分野では限られているかもしれません。日米の民間なり、国レベルでの協力関係などいろいろなことがで
きますが、NPO のレベルでできる協力は、日米の大学が積極的に情報の共有・公開、政策議論などを行うための場を設定することにあ
ると思います。
社会科学の分野での貢献は、政策分析にあります。多くの政策を使ってグリーン・ニューディールのプログラムを実行していくと思
うのですが、具体的にどのような政策を導入したら一番効率的に地球温暖化の問題への対処と温室効果ガス削減に貢献できるのか、ま
たできるだけ雇用を維持できるのか、人々の所得の向上を通して生活の質を維持できるのか、などいろいろな政策目標があると思うの
ですが、どのようなポリシーミックスが望ましいのか、ベストなオプション、予算によってどのような政策のミックスが可能なのかは
違ってくると思うのですが、このような政策の議論は NPO を通じてできると思います。さらに短期的な政策、中長期的な政策、日米間
でそれぞれどのような取り組みをコミュニティレベルで行うのか、州レベルで行うのか、国レベルで・連邦レベルで行うのかというこ
とも検討できると思います。
気候変動の問題も重要なのですが、世界的に今後の食料の安全保障を考える、日本の安全保障を考えるときには、水の問題、日本はモ
ンスーンアジアに位置しますのでそれほど水不足というのは優先度が高い問題ではないのですが、日本がいろいろなところで作られた
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
農作物を輸入していることを考えると、世界的な水不足は日本の食料の安全保障と関係あるのではないか、というご指摘なのですが、確
かにそうだと思います。
地球温暖化と食料生産との関係ですが、温室効果ガスが、どこから出てくるかというと、アメリカの場合では 65% がエネルギーの消
費によって出ていることが知られています。さらに、生産から流通まで含めると、農業分野が 20% くらいの温室効果ガスの排出源になっ
ていることが分かっています。温室効果ガスを唯一積極的に削減できるのが農業分野です。大気中の CO2 を取り込み、固定化すること
ができる産業は農林業しかないわけです。そのような役目も果たしているので、これは食料生産だけではなく、そのような役割で農業な
り林業を見ていくことも非常に重要なことになるかと思います。この場合、いかに効率的な生産体制を作って温室効果ガスの排出を減
らしていくのかということですが、バイオ燃料の場合にはカーボン・ニュートラルな形で生産システムを構築することが可能です。
水不足に関しては、より効率的な水の使用、利用ができるような制度、政策を導入するということが必要かと思います。また、日本は
島国なので一国の中で考えればよいのですが、東南アジアなどは一つの大きな川を複数の国が共有して川上から川下まで利用していま
すので、いかに有効に水をいろいろな国におけるいろいろな産業が利用できるのか、これは国際的な、経済だけの話ではなく、政治、国
際関係の枠組みの中で考えていかないとならないことだと思います。
質問 15:「アメリカの土地を他の国の企業が買い漁って食料生産ベースを作っているのだけれども日本もやるべきでしょうか」
回答者:弦間正彦
中長期的には開発輸入の形で投資案件として外国で生産することも、ことに穀物や野菜とかを中国で作るといったことだけでなく、
ブラジルで小麦を作るとかですね、そのようなプロジェクトも考えていけばいいのでしょうかという質問です。リスクの分散という面
では食料安全保障の面からは必要かとは思うのですが、そのようなときには一国だけではなく、ニュージーランド―今大使館の方がい
らっしゃっていましたが―とか、オーストラリアだとか、世界いろいろなところと共同でそのようなことを行って、現地の企業にも入っ
ていただいて、現地にもベネフィットがあるような形でのプロジェクトにする必要があるかと思います。長くなりまして、すみません。
質問 16:「ブッシュ政権下での日本のイラクへの自衛隊派遣は現時点でどう評価しますか」「オバマ政権のアフガン・パキスタ
ン政策に日本はどう関与すべきでしょうか」
回答者:田中明彦
私はブッシュ政権の行ったイラク政策は全般について見ると、それほど高い点数はあげられないと思っております。やはりある種、先
ほど申し上げましたようなイリュージョンと言いますか、全能の幻想に囚われたイラク侵攻であったという面が多いと思っています。
ただ、これに関して日本がイラクへの自衛隊派遣を行ったことは日本の国益という観点からしてどう評価すべきかというと、私はこ
れはかなり賢明な政策だったと思っております。結果だけでは判断できませんが、結果的に言えば日本の関係者の犠牲はほとんどなく、
しかもやや全能の幻想に浸ったアメリカでありますけれども、その中で日米関係が悪化するということはなく、むしろ日米関係は良好
に推移したということです。ですから、全般的に言えば私は現段階で見ても日本が 9.11 以降のやや異様な時期に、アメリカに対して支
持をして、しかもかなり限定的な協力によって評価を得たというのは、賢明な政策だったと思っています。
日本がそれに関連してイスラムだとかイラクの世論に対してどのような影響を与えたかと言うと、少なくともそれほどネガティブな
影響ではなかったと言う事はいえると思います。イラク攻撃によって日本への評価が著しく高まったかというとそういうことはないか
と思いますが、著しく下がったかというとそういうこともないと思います。
オバマ政権のアフガニスタン・パキスタン政策に日本はどう関わるべきか。オバマ政権の安全保障に関する政策の基本方針は、アフ
ガニスタンやパキスタンの部族地域のような不安定な地域をできるかぎり不安定でなく、ガバナンスのできる地域に変換させることに
よって、テロリストの根拠地をできるかぎり縮小し、世界的な形でテロリストが活動する余地を少なくするということだと思います。そ
の際において、ブッシュ政権の時に行ったよりは比較的に軍事面よりはそれ以外の民生部分を重視して行うという方針だと思います。
この方針自体について、日本は、強く異論を唱える必要はないし、こういう方針で行くのが正しいと思います。ただ、難しい問題は、
アフガニスタンやパキスタンの部族地域のようなところで、このようなやり方でやれば、事態が短期で目立って改善するかどうかとい
うと、それはなかなか楽観できない面があります。ですから、時間もかかるし、成果もなかなか上がらないと思います。ただ、今言った
様な次第ですから、アフガニスタンやパキスタンに対する援助において、日本が現在の政府による憲法解釈の下ででも、民生部分ででき
るような活動がまったく絶無ではないだろうと私は思っております。やはりアフガニスタン自体にも実際には ODA、それからパキスタ
ンに関してみるとパキスタンの政権安定のための ODA というのは十分可能なわけですから、そちらを進めていく一方、やや中期・長期
的にはこれは私の個人的ないつもの見解ですが、国連ないし国際社会に行う平和維持活動に関する日本のややきつい法的枠組みという
のは見直していく必要があろうかと思っております。
それからもう一つ、先ほど小沢発言の件で、6 者協議への影響というようなご質問があったと思うのですが、やはり 6 者協議へも影響
はあり得るわけです。6 者協議というのは何も必ず北朝鮮を周りの 5 ヵ国がよってたかって首を絞めて言うことを聞かせようという形
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US-Japan Research Institute
になっているわけではありませんが、北朝鮮の望ましくない行動に関してはできる限り残りの 5 ヵ国が一致協力した体制を取ることに
よって北朝鮮に非核化を促し、不必要な行動(弾道ミサイル、あるいはロケットの発射等)を防ごうということが目的です。その中で、日
本における有力政党の党首が日米の間の基本的な安全保障の準備体系をかなり根本的に変えるようなことがあり得るというのは、北朝
鮮の側から見ればこれは 6 者協議の中でとりわけ一致するところの多い日本とアメリカとの間で意見の相違、政策の相違が根本的に生
まれる可能性があるという観測を生み出す可能性がありますので、その観測があるぶんだけ、北朝鮮の行動がますます予測しがたくな
るということで影響が出てくるのではないかと思います。
モデレーターとりまとめ
回答者:谷内正太郎
私の方からご質問にお答えし、まとめに代えたいと思います。
質問 17:「クリントン国務長官は、先のアジア外交で、東南アジア平和条約にサ
インする意向を示しました。アメリカは今後どのように東アジアに関
与するのでしょうか。それは日米、米中、日中にどのような影響を与え
るでしょうか。また、日米中という関係が将来発展することはあるの
でしょうか」
まず、アメリカとこれからの東アジアの関わりですけれども、明らかにブッシュ政権の後半、アメリカの東アジアへの関与は必ずし
も包括的な確立された政策があって、あるいは確立されつつある政策があって、東アジア外交が展開されたということではないと思
います。それははっきり言えば、6 者協議、北朝鮮の核の問題、これに非常に大きくウェイトがあって、日米関係、日中関係、あるいは
ASEAN との関係、それぞれの国にとってアメリカがどう考えているのかは必ずしもよくわからない、そういう状況があったと思います。
今回、クリントン長官が東南アジア友好協力条約にサインすると言うことは、具体的には結果として、あるいは将来の方向として、所
謂東アジアサミットに参加するための、言ってみれば条件、あるいは前提の一つなので、そちらの方に参加する可能性を示すものである
と思います。
アジア政策そのものが、十分ではないことから、クリントン国務長官がそもそも日本、中国、それからインドネシア、韓国ですけれど
も、アジアを最初に選んだということは、まずアジアに取り組まなくてはいけない、これを実際の訪問という形で示してきたのだろうと
思います。また、麻生さんがアメリカに行かれまして、オバマ大統領と話をし、日本の考え方を直接伝えたわけです。これから早急にア
ジア政策がより具体的に出てくると思います。
日米中ということですが、ミニ・ラテラル外交ということで日米中とか、日中韓とか、日米韓とか、日米豪とか、日米印とかですね、
こういうトライラテラルなミニ・ラテラル外交を大いに推進したらいいと思っています。日米中についてはその重要性はますます高まっ
ているのではないかと思います。一つは金融の問題でして、これは言うまでもなく、外貨準備高では中国と日本が世界 1 位と 2 位、しか
もその非常に大きな部分をドル、あるいは米国債を持っているということで、その意味では日米中が同じ船に乗っているというところ
が、金融についてあるのだと思います。こういうことを大いに話し合って、例えば中国と日本とでアメリカのドル基軸体制というものを
支えるという発想も大いに議論してみてはどうかと思います。
それから環境問題、エネルギー問題、これも大いに関係するところだろうと思います。先ほどの質問で、エネルギー戦略の問題があり
ましたが、私は中長期的に、あるいは長期的に見た場合、現在は石油、天然ガス、石炭というのがエネルギーの主要源でありますが、将
来的にこれらが枯渇していく、あるいは非常に少なくなっていく状況になった時に、新しいエネルギー、あるいは代替エネルギー源、こ
うしたものについて主導権を握れるかどうかというところに国家の命運がかかっていると思います。その意味でもエネルギーの問題は
非常に重要で、当然中国なりアメリカとそこをどのようにして取り組んでいくのかということは、できれば話し合いを続け、協調を取り
つつ、共通の方向を目指すべきだと思います。エネルギーというのは非常に重要な日米中で話し合う要因であろうと思います。環境も緊
密な話し合いが当然必要なことです。
さらに、日本もアメリカも海洋国家ですけれども、その観点から言うとシーレーンの問題、あるいは海賊対策の問題、いずれも大事で
あります。他方中国もそこには関心を持っているので、これを将来的な衝突の原因にしてはいけないと思います。こういった問題につい
ても日米中で大いに、今のうちから(もっと前からやるべきだったかもしれませんけれども)話し合っていく必要がある。それは日米中
でそんなにうまくいくわけがないだろうと予め諦めて話し合いに入らないという選択肢は適当ではない、とにかく話し合ってみるとい
うことが大事だろうと思います。
それから先ほど質問が幾つか田中先生と重なってあったのですが、基本的には田中先生がおっしゃったことにほぼ尽きています。た
だ、失われた 10 年(1990 年代)日本は 7 人の首相が登場したわけですけれども、これについて外国の方からは首相が変わると日本の外交
政策は変わるのか、という質問がよくありました。
私がずっと言ってきたのは、外交というのは基本的に国益を追求する技でありますので、総理大臣が変わったからといって国益が急
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
に変わるということは通常はない。ただ、総理によって国益の解釈、あるいはその理解の仕方が若干違うということはあり得るかもし
れませんが、民主主義国である日本においてはどのような人が総理大臣になろうとも大きく変わるということはないだろうと思います。
したがって、あまり余談めいたことを申し上げるのはいかがかと思いますが、仮に民主党が政権を取ったとして、今の自民党・公明党の
連立政権による外交、あるいは対外政策が大きく変わるということは、私はないだろうと思います。
今民主党サイドからいろいろと第 7 艦隊で十分だというようなこと等の意見が出ていますが、これが新しい新政権における外交政策
の一環としてそういうものが打ち出されるという風には正直に言って私は思っていません。これはズムワルトさんが言われましたよう
に、陸、海、空の 3 軍ともに大事であり、海兵隊も大事である。勿論第 7 艦隊、海兵隊も含めたこういう構成の下で日米同盟が維持されて
いるという体制は変わらないのです。更に言えば日本はアメリカの傘の下にある。核保有国たる中国があり、ロシアがあり、北朝鮮も核
武装を進めているのではないかといわれている状況の下で、核の傘の問題はどうするのか。私は必要だと思いますけれども、そういうと
ころをどのように考えるのかを申しますと、今の政権がやっている安全保障政策を大きく変えるということは有り得ない事ではないか
と思います。
オバマ政権のアフガン・パキスタン政策、これについてはアメリカは国際協調を通じるアメリカのリーダーシップの再生と言ってお
りますので、日本としては日米同盟を踏まえ、しかもまだテロとかそういうものが活発化している情勢の下で、アメリカ及びヨーロッパ
諸国、更には関連する周辺の国々と話し合って日本の協力のありかたを考えていく必要があると思っております。
6 者協議の見通しなのですが、正直なところ、今はどのようになってくるかはわからないのです。6 者協議については今ボスワースと
いう特使が日本に来ていますけれども、おそらくアメリカはこれから米朝との対話をやると同時に、6 者協議も始める。それでアメリカ
はこれまでのクリストファー・ヒル次官補が進めてきたこの 6 者協議に対するアメリカの態度、これからどうするかというのは北朝鮮
とよく話をした上で新しく方向性を決めていくのではないかと思います。従って、今見通しはどうかというご質問ですが、米朝間の非公
式な話し合いによる部分が非常に多いのではないか、とこのように思います。
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US-Japan Research Institute
A panel discussion among Professors from Japan's five Major Universities
(Translation)
Question 1:“Do Professor Agawa and Professor Machidori have different opinions on whether President
Obama is a wartime president or not?”
Satoshi Machidori :
What I would like to say about whether he is a wartime president or not is although President Obama is confronting a situation which
requires a wartime presidency or similar centralization of power to the President, it is unlikely that Congress will allow him the carte
blanche that the previous administration enjoyed.
This is based on the understanding that following the Bush Administration, during which temporary centralization of power reached
a peak due to the fact that the country was on an actual war footing, it is unlikely that such a situation could be maintained for an
extended period. Therefore President Obama may experience a situation where he actually needs, but find it very difficult to attain,
centralization of power akin to a wartime presidency.
Question 2:“Can you explain in concrete terms why you think the US President has limited authority?”
Satoshi Machidori :
Since this is a constitutional question, I think that Professor Agawa is in a better place to answer the question than I. However, to put
it quite simply, if we look at the clauses of the American Constitution, the powers of Congress are stipulated in Article 1, and the powers
of the President are stipulated in Article 2. The text of Article 1 is much longer than that of Article 2. This is because it is Congress that
decides on the policies pertaining to most domestic political matters.
In terms of powers that the President can exercise to counter Congress, there is a veto power, which is well known. In terms of other
powers to implement policy initiatives proactively, that is, what you call the constitutionally-allowed reports to Congress, which include
the State of the Union address. These are basically all the powers the President possesses. In contrast, today, usually in countries
where great authority is vested in the President, powers are granted for the President to propose a budget exclusively and other bills.
The fact that the US President has almost no power over the budget represents the limitations of the US President’
s powers.
Actually, in presidential governments in the 20th century and thereafter, powers over most matters are vested in the President. This
is best reflected in the situation in the municipalities of Japan. The municipalities of Japan well reflect the design of the presidential
system in the 20th century. In these municipalities only the governor or the mayor of the city, town or village is authorized to submit
a budget. These differences could be said as a direct manifestation that shows the positioning of the President has changed very
significantly during the period from the end of the 18th century to the middle of the 20th century.
Naoyuki Agawa :
I think Professor Machidori’
s answer covered everything, I recognize President Obama as a President in a time of crisis, I still think
the sense of urgency has lessened compared to that of President Bush at the time of 9.11. Instead, the economic crisis weighs just as
heavily on the Administration. This is in fact exactly the opposite of what happened at the time of Franklin Roosevelt. At that time the
economy plunged into crisis first, and then a large-scale war occurred, and the President had to deal with these two. In the case of
President Obama, National Secutiry crisis has occurred first, then economic crisis has arrived in a state of war directly. In this situation,
its order has been reversed. Beside that, these two problems already came about before assumption of the presidency.
Though it is needless to say that current finance and economic crisis have a global characteristics, handling those crisis have
more domestic policy process. In that sense, it would not go like he can exercises temporary but unlimited authority of the president.
Therefore, his hands are tied.
As a practical matter, President Truman ordered to stop the strike at iron works all over the country and tried to nationalize, be
based on war authority at the time of the Korean Way. There was a well-known Supreme Court decision that Truman’
s order exceed
President’
s authority and against the constitution.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
Then, what can President Obama do, and to what extent, for the economy that basically the internal affairs? I agree with Professor
Machidori’
s opinion, and I also believe the status of the administration as a wartime presidential government should decline. However,
the Obama Administration may have to rule the nation with an iron fist, maybe more than Bush did, if terrorists' attacks which aim the
United States mainland like 9.11 occur again, or, a similar crisis, or another large-scale war break out. If he face a great menace for
the security under the constitution, quite a degree of potential power is invested in the President and it cannot be stated conclusively
that President Obama will not face a situation in which he needs to exercise such power, which may not be directly detailed in the
constitution. I think there are a number of possible causes for such powers to become necessary, such as the problem of Iran,
considering the current state of global affairs.
Question 3:“How should we promote the Japan-US relations to consider from global perspective and
practice in a strategic way concretely? On some global issues, I don’
t think Japan and the
United States share the policy. What kind of point could we cooperate on?”
Naoyuki Agawa :
I cannot answer this question, but, consider the history of Japan-US relations, I think that we will gain common profit by doing
something together besides we grope to gain common profit.
Let me explain with some concrete descriptions. For example, the Seventh Fleet of U.S. navy and the Maritime Self-Defense
Force made repeated joint exercises under the Japan-US Security Treaty. We first thought it would bring few results. However, as
we accumulated experience, the two fleets gained common ability, such as interoperability and functions which would have been
impossible in a relationship with the navy of any other country. Such accumulation of experience thereby enabled Japan-US defense
cooperation to contain the Soviet Union in the 1980’
s and to achieve specifically like refuelling mission by the Fleets ship in the Indian
Ocean after 9.11 in the 2000’
s. In international terms although Japan is sometimes criticized for being slow in participating in military
operations and not making much of a contribution, from the US point of view Japan is a country with which it can work together well
even in minor operations. Of course, Japan cannot do everything. In global issues, it would be out of character for Americans to doubt,
“can we do it?”whereas this doubt is something that rather characterizes Japan. However, I think that if we were to try similar moves in
Africa or other locations in a cooperative manner, some compatibility and synergy would arise.
Question 4:“In concrete terms, what kind of problem solving functions will an NPO offer for researchers
in both Japan and the United States?”
Naoyuki Agawa :
This also is a difficult question. If I could answer this question, I should be able to answer any question about this NPOs. My opinion
is that whether it is in Japan or in the United States, successful NPOs should have some characteristics in common. One thing is, as a
matter of course, they have able human resources.
They also require strong leadership. An NPO organization may not operate too well if it is too democratic. There must be a person
who serves as the core and who takes responsibility for operations. It is something like the presidential authority under the constitution.
This is what I think is necessary. I don’
t think we had NPO and a think tank that have strong leadership or clear directionality in Japan.
The only exception is the Nippon Foundation. I have the impression that this organization has done well because it was led by the
founder who had emphatic leadership and independent spirit.
Then, there is the issue of money. If we had ample funds, of course we could do a lot of things. In the current environment we need
proper leadership and a policy. However, even in such cases, there is still a great difference between the United States and Japan.
It is the tax system. I think it is because there are those very rich people who dislike paying taxes that nobody knows how they will
be used to the government and prefer contribution to gain honour or taking tax deductions. This is why NPOs are so successful in
the United States. I, as a professor of a private university, hope to see a similar system and culture established in Japan as soon as
possible so that we don’
t need to rely on the government for funding, which would give us more freedom of action.
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US-Japan Research Institute
Question 5:“How will the US’United Nations diplomacy change under the Obama Administration?”
Naoyuki Agawa :
I am afraid United Nations diplomacy is outside the realm of my specialty, I am not sure. But, in short, I have an impression that
President Obama will take a positive and engaging approach to the United Nations as policy process and a part of publication to the
world same as successive presidents did.
Question 6:“While the importance of the Japan-US alliance is reaffirmed, the world is moving on a path
to multi-polarity. What should the United States and Japan advocate, and what should Japan
advocate and practice in Asia and the wider world? Please explain high priority policies with
examples”
.
Naoyuki Agawa :
If I could answer this question, it would make me the Minister of Foreign Affairs. And I am not able to respond in a single phrase.
As you pointed out, there are many problems that Japan and the United States should be struggling together and those problems
should be prioritized. I think that what Japan should do now is deal with matter of Japan-US interests with the United States voluntarily,
using the strengths we accumulated. We should do this with a shared sense of crisis that if one economy fails, then your own will fail,
and vice versa. Japan is likely to not doing things when we try to do something. They state reasons such as it is useless, powerless or
there are problems to do. However, I want prepare myself to do anything possible like distribution of Fixed Cash Handout. I was ready
to spend it right away, but then I was told that it wouldn’
t be paid until May. I can hardly wait. Well, this is what I can answer to the
question, thank you.
s comment? Don’
t you think it is quite
Question 7:“What do you think of Party President Ozawa’
abnormal that we have so many United States bases in Japan and Japan has to bear huge
costs? Is the general understanding that the Japan-US relations are important is really
correct?”
Akihiko Tanaka :
This is a fundamental issue and the question of how we evaluate the Japan-US alliance in light of Japan’
s security policy and the
lives of Japanese citizens is quite difficult to answer briefly and promptly here. I don’
t think it is sufficient to say merely that the JapanUS Security Arrangements are important and leave it at that - that is out of question when it comes to the security policy. Naturally,
Japan-US Security Arrangements do exist because they are necessary. Then, the question is how we perceive the necessity. I think
what Party President Ozawa did was one approach. If we engage in a negative sum exercise we would deduct the items of the USJapan alliance one by one. And what would that leave us with?
Let’
s thinik about the current security environment in East Asia. In China they have a lot of medium-range missiles that can reach any
part of Japan. They also have a lot of nuclear weapons. North Korea also has a lot of ballistic missiles with a range capable of hitting
Japan. They also have nuclear weapons. The same is true with Russia. Well, North Korea also has so-called suspicious ships, and the
Chinese Navy also has moved ahead with arms buildup. And the number of fourth generation fighter aircraft is increasing rapidly in
China while the number remains unchanged in Japan.
Under such circumstances, if we were to subtract a number of things from the Japan-US alliance to an extreme extent, what would
happen? Ultimately, there won’
t be any US bases in Japan.. Then, since the US forces could no longer deploy troops in Japan the
frontline bases of the US forces would have to be located in Guam or Hawaii. If that were the case we would have to consider fully
whether what is written in the Japan-US Security Treaty could be exactly implemented. Even if we didn’
t subtract so much, the question
is if it is enough to have only the Seventh Fleet as the deterrence. Deterrence means to discourage someone from doing us harm by
making him believe that we definitely have the capacity to fight back or to counterattack.
Then, no matter how strong the aircraft carrier of the Seventh Fleet is, can such deterrence be maintained only by the aircraft carrier
battle group? I think it is quite questionable.
In any case, the evaluation of the Japan-US alliance hinges on how helpful it may be to Japan in its most important functions, and
how much it would cost for Japan to fulfill the same function. Suppose the Japanese people had to cover themselves what would be
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
lost after departure of the US forces, we need to calculate how much it would cost. Is the price higher, or lower than the price we pay
to maintain the Japan-US alliance today? And, what is more, it is not only financial cost, we also have to consider what the neighboring
countries would think, as a matter of fact, if Japan tried to build up armaments independently. What kind of military actions would
neighboring nations take in response to such a situation? All taken together, we should consider very well before stating that we would
be fine if we subtracted from the arrangements we currently have in place, or stating that we would be able to do without them at all.
In such context, I believe that since the latter half of the 20th century, a wide variety of formats have arisen for sovereign nations. In
the 19th century or the beginning of the 20th century, when I think of a typical example of a sovereign nation, in general, a nation had
its own military forces to defend itself without depending on any other country. However, in the latter half of the 20th century, we had
NATO and the Japan-US Security alliance that had been perpetuated for 50 years. It is quite different from a sovereign nation system,
in which an alliance or similar relationship was quite unusual. I don’
t think it is adequate to judge whether the country is independent
or not merely on the basis of its military forces. The point is, each country makes arrangements to maintain its stability and security in a
variety of formats, combining a variety of factors. This should be one of the characteristics of the modern world.
This is not only about military affairs. I think this kind of thing happens in most of the fields. I once wrote a book entitled“New
Medieval Ages,”and what I told you now, it is what I wanted to say in the book.
Furthermore, I believe it is important to emphasize this relationship for wider global issues as a framework for closer cooperation
between Japan and the United States, while strengthening the Japan-US alliance and protecting Japan's security in a narrow sense,
and in a sense to protect stability and peace in East Asia.
However, with regard to close cooperation between Japan and the United States on such global issues, as Mr. Zumwalt told us
earlier, as a prerequisite, the Japanese and American people should be able to share opinions and views on relatively many things as
friends, not because we have the Security Treaty.
If we cannot be friends, we might as well make friends with Chinese people. At the moment, China is the third largest economy in the
world even in nominal terms. Therefore, just only these three countries, Japan, the United States and China have a great influence on
the world. So, I don’
t think, in solving the climate change issue or other various global issues, it will be less meaningful for Japan, the
United States and China to cooperate with each other. On the contrary, it should be increasingly more important. I think in this regard,
Japanese and American people will be involved in many fields as friends.
Question 8:“If the financial crisis is settled, suppose in 2011, how much will the United States GDP shrink,
assuming that it dissolves a large amount of current deficit and departs from its role as a
consumer nation as in the past?”
Keiji Nakatsuji :
Well, I don’
t think any economist can answer this question completely. It is quite difficult to predict the coming two or three years, in
the midst of such upheaval.
One factor is that it is not easy to determine the exact amount of loss suffered by financial institutions that brought about this
systemic failure. If we cannot appraise the losses we cannot be sure when we can get out of this financial crisis. Even now, the cost is
estimated to be approximately 2 trillion dollars. The Obama Administration is considering spending public funds from approximately
800 billion dollars to 1 trillion dollars. If the US government were not swift and bold enough like Japan in the 1990’
s, then it would take
time. Basically, I think the effort to reduce the current account deficit of the United States is enviatble in the long run, but too drastic an
adjustment would not benefit any country. Now it is time for G20 countries, including Japan and the United States, to cooperate with
each other promptly in the short run to get out of the situation - this is the first priority. About the issue of the current account deficit, I
don’
t think adjustment will be completed during the current crisis.. It will take time.
Question 9:“What if Japan and the United States take leadership, for example, through an Economic
Partnership Agreement (EPA)? And, what will Japan do against the protectionism spreading
in the United States?”
Keiji Nakatsuji :
I think these questions are related to the question earlier. Of course, at the time of the Great Depression, everybody ran toward the
protectionism triggered mainly by the Smoot-Hawley Act. This is one of the causes which prolonged the crisis.
As Professor Machidori mentioned earlier, though not in specific terms, a strong resistance is expected to rise within the Democratic
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US-Japan Research Institute
Party on the issue of General Mortors’restructuring bid affecting labor union employees. This sort of confrontation will happen all
around the world and not only in the United States. Therefore, it is easy to say to prevent protectionism. It will be very difficult to do it in
fact.
I believe Professor Tanaka mentioned it primarily in terms of security, that the former Prime Minister Hayato Ikeda once liberalized
imports of oranges despite the fact that he was born in Hiroshima where farmers produced mandarin oranges. The decision was said
to have been made for Japan and the Japan-US relations from a medium- and long-term perspective. Without a leadership with such
determination, it would be very difficult to get through a crisis. It goes without saying that Japan and the United States cooperate with
each other to prevent protectionism in international trade.
Question 10:“I heard 90% of the US Treasury bonds are purchased by overseas investors. Does Japan
need to continue purchasing for years to come? I don’
t think it is sound. Don’
t you think
China is considering this issue too?”
Keiji Nakatsuji :
As I suggested in my presentation, nobody wants bad bumping and free-fall. What absolutely counts is a soft landing. Such
adjustment is likely to take long time. However, it’
s important for us not to take the wrong direction. Even in difficult times, we should not
think of relying our recovery only on excessive export to the United States economy and exports, I don’
t think we can survive this way
over the medium-and long-term.
Question 11:“Even if the United States revokes the Japan US Security Treaty unilaterally, given their ties in
the economic world, I don’
t think Japan and the United States will go to war again. What do
you think?”
Keiji Nakatsuji :
I think Professor Tanaka answered most of this question, but let me comment on a couple of points. I mentioned global imbalance
earlier. Even this alone is quite a big issue. Suppose, if we were to try to resolve the issue of global imbalance without the JapanUS Security Treaty or a community of opinion leaders ̶ like the one we are trying to build up ̶ then it would be extremely difficult.
It should be solved in the framework of multilayered and complementary Japan-US relations. So, we should not only look at positive
aspect of mutual dependence between Japan and the United States, because there also are problems brought by deepening of the
economic integration. It has been considered successful that that we disolved a Japan-UK alliance and developed the Washington
Convention in 1920’
s, but in a way, Japan has been adrift since then. Therefore, I don’
t think we should expect from political leaders to
constantly reach a right conclusion.
One more thing, I think this is one of the major objectives of the Institute, as I mentioned earlier, I think it is very important to organize
a community for Japanese and American opinion leaders, as a forum for dialogue. I suppose good Japan-US relation built after
Second Word War has changed a lot since the time of Japan-US economic and trade friction. When I went to Harvard as a guest
researcher a few years ago, I was lucky enough to stay at the former residence of Ambassador Reischauer. In the 1960’
s, he was
stabbed by a mentally unstable Japanese man and received Japanese blood in a transfusion. This prompted him to say“At last, I
am half Japanese.”However, when a large-scale symposium of the Japan Association of International Relations was held in Tsukuba
at the time of the economic trade friction, a young American researcher told us that, in Japan, in the 1980’
s, Toyota and many other
companies tried to sell American cars in Japan, even Prime Minister Nakasone played a central role auto sales in the effort – but at that
time. The US researcher complained only 500 cars were sold. Unfortunately and frankly, many of Japanese people were not longing to
purchase an ordinary American car at that time. These two episodes tell how Japan-US relations changed over time. Therefore I belive
it is important to reconstruct a friendly community for Japanese and American opinion leaders.
Question 12:“How about entering into peaceful and amicable working relations rather with Russia, which
is friendlier to Japan than China? Don’
t you think it is in line with Japan’
s national interest?”
Keiji Nakatsuji :
As I say, I don’
t think it is a question of Japan-US, Japan-China, or Japan-Russia, perhaps, because today we engage in global
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
relationships. I think diplomatically, and also from a perspective of human relations, it is common sense that we should not get into a
fight with a major country. From such a viewpoint, since we cannot be said to have made sufficient effort in our relations with Russia, I
think we should start making efforts. This may sound copybook, but that is what I think.
Question 13:“I heard that enthusiasm for bio-fuel has gone down completely in the United States, what is
the actual situation?”
Masahiko Gemma :
In the United States, in the case of production of bio-fuel a production incentive policy was adopted which initially paid 51 cents per
gallon in subsidies to plants which produced ethanol from corn, and even now pays a 45 cent subsidy. As a result, the number of bioethanol processing plants has increased dramatically over the last few years.
With regard to the current situation, most of bio-ethanol plants are in danger of bankruptcy and many have stopped production. This
is because the prices of the material crops, corn in particular, while having declined for some time from the highs of last summer, still
haven’
t gone down to the levels of 2003. As for the selling price of bio-ethanol, just like crude oil prices it has declined. It has been
generally said that if crude oil price were to return to about 60 dollars per barrel, bio-ethanol would become profitable again within the
current policy framework. At present, however, since crude oil prices are below the break-even 60 dollar-level, ethanol producers are
now facing financial woes. Under the optimistic assumption that crude oil prices would remain high, banks accepted easy investment
plans and provided investment funds for the construction of bio-fuel plants. This caused the current situation and led both borrower
and lender into trouble.
In addition, in the case of bio-ethanol, the period of operation is limited because there is seasonality in production of corn.
Nonetheless, the reason why ethanol production plants increased so broadly in the United States is because bio-ethanol can be made
by utilizing a part of the production lines which are used for processing other agricultural products. It is a high risk strategy to build a
plant exclusively for bio-ethanol production. However, in the United States it is possible to establish a system in which the plant can
be operated for an extended period during the year if the crops are ground into powder. However, since this operation cannot be
continued throughout the year, consideration must be given to the issues of how to utilize labor power for the rest of the time and how
to utilize the facilities when not being used for bio-ethanol production. This is what we can learn from the example of bio-ethanol.
It is for this reason that, when it comes to introducing a policy to promote alternative energy in the future, it is not desirable to simply
adopt unchanged the United States’model of incentive policies for bio-ethanol production. Other countries should engage in due
consideration before adopting a similar policy.
Since production was first initiated in the United States, as production costs for bio-ethanol are much higher compared to Brazilian
bio-ethanol the United States imposes a high rate of customs duties on bio-ethanol. However, for example, if through negotiations in the
Doha Round of the WTO the tariff rate on bio-ethanol falls, it will start flowing in from Brazil. It can therefore be seen that in the United
States circumstances are no longer favorable for the continued unfettered growth of bio-ethanol production.
Question 14:“As a common agenda between Japan and the United States, I think there is a Green New
Deal program advocated by the United Nations and the United States. What is Japan’
s
policy for building a cooperative relationship/alliance with the United States? Also, do you
not consider that there is an important relationship between effective utilization of water
resources and food security?”
Masahiko Gemma :
About the Green New Deal, both countries are moving in the direction of making investments proactively in the field of the
environment and climate change measures as part of the economy boosting measures. Various attempts have been made in the
area of alternative energy, which does not only mean bio-ethanol but also includes solar panels and wind-generated electricity.
Nonetheless, two or three weeks ago, The New York Times and other papers reported that solar panel manufacturers are falling into
bankruptcy in the United States. Under such economic conditions, it is not possible for manufacturers to sell products, even with the
benefit of subsidies. These companies face the dilemma that while their business prospects in the mid- to long-term are good, they
are having difficulty in maintaining healthy profitability in the short-term. So employers have to lay off the employees. Companies in
the environmental sector are also facing extremely hard times, suffering from the impact of the financial crisis in the short run. The
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US-Japan Research Institute
Green New Deal is expected to contribute to the economic recovery in the long and medium terms, but it remains unclear whether the
environmental sector will remain healthy until recovery comes about. In Japan too, over the short term, I think it is necessary to provide
ample funding and offer opportunities so that these companies can survive.
There are probably limits to what an NPO can do. Also, private organizations in Japan and the United States or cooperative
relationships at the national level can achieve many things. However, the cooperation that can be achieved at the NPO level is for
Japanese and United States universities to share and disclose information in an active manner, and provide platforms for policy
discussion.
The contribution that can be made by social science lies in policy analysis. I believe that many policies are being used to implement
the Green New Deal program. However, in concrete terms, what kind of policy should we implement to contribute most effectively
to reduction of greenhouse gases or counter global warming? How can we sustain employment? Can we maintain the quality of life
through improvement of people’
s income? There are so many policy objectives. The next issue is to identify a desirable policy mix to
accommodate all these issues. The best policy mix will vary depending on funding that is made available, but I think that various policy
discussions could be held through the activities of this NPO. For short-term policies and medium- and long-term policies, we should
consider the kind of projects that can be performed at the community level or at the state level, or at the national level or federal level
between Japan and the United States.
Of course the issue of climate change is important. But, when we consider world food security in the future, or Japan’
s national
security, there is the issue of water. Since Japan is located in monsoon Asia, a water shortage is not a high priority issue. However,
given the fact that Japan imports agricultural products from all around the world, the global water shortage could have an impact on
Japan’
s food security.
About the relationship between global warming and food production, it is true that food production is a cause of greenhouse gas
emissions. I understand that in the US 65% of emissions are from energy consumption. From production to distribution, approximately
20% of greenhouse gas emissions are from the agricultural sector. The agriculture sector is the sole sector where we can reduce
greenhouse gases, as only agriculture and forestry have the ability to absorb and sequester CO2. Since they also play such a role,
it will be very important for us to consider agriculture and forestry from such a perspective, not merely from the perspective of food
production. In this case, the question is how to build up an effective production system to reduce greenhouse gas emissions, and in
the case of bio-fuels I think it would be possible to establish a production system proactively in a carbon neutral manner.
As to the water shortage, I think it is necessary to introduce a system or policy to ensure more effective utilization of water. In
addition, since Japan is an island country, we can consider issues within our borders, however, in South East Asia for example, since
one large river system is shared and used by a number of countries from upstream to downstream, we should consider how water can
be used effectively by various industries in a number of countries. This is an international issue which should be considered within the
framework of political science, international relations, not only in the context of the economics.
Question 15:“Many foreign companies buy land and create food production bases in the United States.
Should Japan do the same thing?”
Masahiko Gemma :
Should we consider producing food in a foreign country as an investment in food production over the medium- and long term?
Specifically, do we need projects to produce wheat in Brazil, in addition to projects to produce crops or vegetables in China? In terms
of diversification of risk, I think it is necessary from the perspective of the food security. However, in such a case, I think the project
should be conducted not only by one country but jointly with other countries in the world, for example with New Zealand or Australia,
with cooperation from local people and such a project must be also beneficial to them.
Question 16:“How do you currently rate the Self-Defense Force (SDF) dispatch to Iraq under the
Bush Administration?”
,“How should Japan be involved in the Obama Administration’
s
Afghanistan/Pakistan policy?”
Akihiko Tanaka :
By and large, I myself cannot give a high score to the Iraq policy implemented by the Bush Administration. As I mentioned earlier,
I think it was a kind of illusion, or to put it differently, the invasion of Iraq was implemented by a nation under the illusion of its own
invincibility.
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Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
However, in this context, how should we rate the SDF dispatch to Iraq from the perspective of Japan’
s national interest? In those
terms I think it was quite a sensible policy. We cannot judge only from the results, but in terms of the results, there were not so many
victims among Japanese people involved, and, though the United States was rather caught up with the illusion of its own invincibility,
the Japan-US relationship did not worsen, rather, it improved. Therefore, generally speaking, even at the present stage, I think it was
quite a sensible policy that Japan supported the United States in the rather unusual period after 9.11 and its limited cooperation was
appreciated.
In this relation, what was the impact in Islamic countries and Iraq, in terms of opinions about Japan? At least it can be said that the
impact was not so negative. I don’
t think the evaluation of Japan significantly improved because of the Iraq operations, but it did not
drop significantly either.
Now, how should Japan be involved in the Obama Administration's Afghanistan/Pakistan policy? However, I think, the basic principle
of the security policy of the Obama Administration is to convert unstable areas like tribal areas in Afghanistan and Pakistan into less
unstable areas and open to the rule of law and government, as a means of reducing terrorist bases to the greatest extent possible
and reducing terrorist leeway for global activities. In so doing, I think his policy will focus more on civilian sector than military affairs
compared to the Bush Administration.
For this policy itself, I don’
t think Japan needs to voice objections very strongly, and I think it is right to adopt such a policy. However,
the difficult question is whether the situation will be obviously improved in a short period of time in this way in places like the tribal
areas in Afghanistan and Pakistan. We cannot be too optimistic. Therefore, it will take time and it may be difficult to produce results.
However, as I just explained, in terms of assistance for Afghanistan and Pakistan, I believe that there are some civil activities which
Japan should engage in, even based on the constitutional interpretation by the current government. In fact, it is still possible to offer
ODA to Afghanistan, and ODA for administrative stability to Pakistan, and we should proceed with such efforts. On the other hand,
over the medium- and long-term, in my personal opinion, I think it is necessary to review Japan’
s relatively tight legal framework for
peacekeeping operations conducted for the United Nations or the international community.
One more thing, earlier, in relation to Prof. Ozawa’
s comment, I think there was a question about the impact on the Six-Party Talks.
I think the new administration will have an impact on the Six-Party Talks, too. The Six-Party Talks are not a forum for neighboring
countries to gang up on and choke North Korea to control it. However, the purpose of the Six-Party Talks is, by making a concerted
effort against North Korea’
s undesirable behavior, the remaining five countries will encourage North Korea’
s denuclearization and
prevent unnecessary actions (such as ballistic missile or rocket launches). In such a context, the fact that the Party President of
a strong political party in Japan is likely to change the basic security arrangements between Japan and the United States quite
fundamentally, this may lead North Korea to observe that there is a possibility that a fundamental difference in policies between Japan
and the United States has arisen, while it is really the case that our two countries often share common opinions, particular in relation
to the other participants in the Six-Party Talks. Therefore, if the basic security arrangements were altered and North Korea perceived a
decoupling of policy between Japan and the United States, it would become more difficult to predict North Korea’
s actions.
Shotaro Yachi :
I would like to answer the remaining questions to wrap up the session.
Question 17:“Secretary of State Clinton indicated her intention to sign the East Asia Peace Pact when she
visited Asia recently. Going forward, how will the United States get involved in East Asia?
What impact will it have on Japan-US, US-China and Japan-China relationships? And how will
the Japan-US-China relationship develop in the future?”
First, the United States and its involvement in East Asia in future. Obviously, during the latter half of the Bush Administration, I don’
t
think the United States got involved in East Asia under an established, comprehensive policy or a policy which was simply established
exclusively for East Asia diplomacy. Clearly speaking, it placed a great focus on the Six-Party Talks, the nuclear issue of North Korea,
and none of the other countries could understand United States intentions about Japan-US or Japan-China relations, or the relation
with ASEAN countries very well.
Secretary of State Clinton has stated the United States intention to sign the Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia
(TAC). She may have indicated that the United States intends to participate in the East Asia Summit. With the signing of the TAC, US
participation in such a Summit would be possible.
As US Asia policy is not clearly set at the moment, I think that Secretary of State Clinton chose Asia as her first overseas visit – to
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US-Japan Research Institute
Japan, China, Indonesia and South Korea – as a means of demonstrating her intention of focusing on Asia. Also, Prime Minister Aso
visited the United States and had talks with President Obama. This was also used as means to communicate Japan’
s ideas directly. I
think US Asia policy will be defined concretely and promptly from now on.
With regard to Japan-US-China relations I think these are part of multilateral diplomacy and we should strongly promote JapanUS-China, Japan-China-Korea, Japan-US-Korea, Japan-US-Australia, or Japan-US-India dialogues in terms of trilateral or minilateral
diplomacy. The significance of Japan-US-China relations has increased. One element is the finance issue. Needless to say, in terms
of foreign currency reserves, China and Japan rank the first and the second, respectively and a large portion of this is held in dollars
or in US Treasury Bonds. I think, therefore, in terms of finance, Japan, the United States and China are on the same boat. We should
have lively discussions about these matters, for example, the idea for Japan and China to support the US dollar as a key benchmark
currency.
The environmental and energy issue also has a great relevance. Somebody asked earlier about the energy strategy. At the
moment, oil, natural gas and coal are major energy sources. From a medium- or long-term perspective, when these sources are
being exhausted or become scarce in future, whether a nation can take the leadership in new or alternative energy sources will affect
crucially the fate of the nation, making energy issues of the greatest importance. Of course, Japan is not exceptional. At the same time,
we have to recognize that this can become a serious source of international conflicts among major powers. Therefore, I think energy
is one of the very important problems which should be discussed among Japan, the United States and China. We need to talk closely
about the environment, too.
In addition, both Japan and the United States are seafaring countries. From that standpoint, the issue of sea lanes and the issue
of the anti-piracy measures are both quite important, and China has an interest in this issue also. This should not be a cause of
conflict in future. Japan, the United States and China must start discussions on these issues in a concerted manner. I don’
t think it
is an appropriate option to abandon hope by thinking that it will not be possible for Japan, the United States and China to engage in
discussions. We should start talking to each other by any means possible.
Another frequently asked question is about political leadership in Japan. As you know, during the so-called lost 10 years (the 1990’
s),
we had seven prime ministers in Japan, and people from overseas often asks me whether Japanese diplomatic policy changes when
the prime minister changes.
I have always argued that diplomacy is essentially a technique to pursue national interest. Therefore, even if the prime minister is
changed, the national interest will be basically the same under normal conditions. However, it is still possible that the interpretation
of, or the way of understanding the national interest may slightly differ depending on the prime minister, since Japan is a democratic
nation. However, I don’
t think it would change significantly no matter who becomes the prime minister. Therefore, supposing the
Democratic Party take the reins of government, I don’
t think the current diplomacy or external policy of the coalition government of the
Liberal Democratic Party and the Komeito would be changed significantly.
Now, a leader of Democratic Party recently expressed the view that the Seventh Fleet in Japan is sufficient in terms of a US
presence. But, frankly speaking, I don’
t believe this will be adopted as part of diplomatic policies of a new administration. As Mr.
Zumwalt mentioned earlier, all three services – army, air force and navy – and the Marines are all important. It is highly likely that the
total structure of US forces in Japan will be maintained. Furthermore, Japan is under the United States nuclear umbrella. Under the
circumstances where China and Russia, possibly North Korea also possess nuclear weapons, we must address the nuclear umbrella
issue. My impression is that it is unlikely that the security policy of the current administration will be changed significantly by any future
administration.
About the Afghanistan/Pakistan policy of the Obama Administration, the United States cites revitalization of the United States
leadership through international collaboration, I think, for Japan, it is necessary to have consultations with the United States and
European countries, and also with the relevant neighboring countries and consider how Japan can collaborate with them given the
Japan-US alliance, under tha circumstances that terrorism is still rampant there.
About the prospect of the Six-Party Talks, frankly speaking, I don’
t know what will happen. In relation to the Six-Party Talks, a US
special envoy, Ambassador Bosworth is now in Japan, and perhaps the United States is interested in having the Six-Party Talks
simultaneously with the dialogue between the United States and North Korea. I think the United States will determine the new direction
of its approach to the Six-Party Talks, which has been led by Assistant Secretary of State Christopher Hill to date, after having talks with
North Korea. Future prospects will heavily depend on informal meeting between the United States and North Korea.
75
Commemorative Symposium for the Establishment of the US-Japan Research Institute
日米研究インスティテュート設立国際シンポジウム
閉会の挨拶
今日は日米研究インスティテュート設立国際シンポジウムに、お忙し
い中、お越しいただきまして、ありがとうございました。しかも長時間
に渡って参加していただきまして、感謝申し上げたいと思います。今日
は「オバマ政権と今後の日米関係」と題するシンポジウムでございまし
たが、こういうインスティテュートを設立するというのはとてもいいも
のだなと感じながら伺っておりました。というのはこれだけのメンバー
が一堂に会して、これだけ充実した議論ができるという機会はそんなに
多くないと思うからです。大変興味あるシンポジウムであったと思いま
す。
今回、私共が設立しようとするインスティテュートに関しては、私は
四つのチャレンジがあると思っております。四つのチャレンジを説明申
し上げたいのですが、その前に少し余談をさせて下さい。私は 50 年間
英語を勉強して参りましたが、チャレンジと言う英語を自分でちゃんと上手に使えるようになったのは割と最近でございます。チャレ
ンジと言うのは日本語では挑戦と訳しますが、戦いに挑む、というそういう意味でございました。ところがおそらく、本来のチャレンジ
の意味は、困難な仕事に立ち向かうというようなニュアンスがあるかと思います。それは 10 年くらい前にやっとそういうことを身につ
けまして、いろいろなところでチャレンジという表現を使わせていただくことにしております。
今日、最初のズムワルトさんのお話で、大変皆さん英語がお上手であったということを伺いまして、私は自分の恥ずかしい英語歴を申
し上げるのは大変恥ずかしいのですが、私どもが今掲げているチャレンジについて申し上げたいと思います。
一つは、経済的な困難に関するチャレンジです。今回、冒頭白井早稲田大学総長が、さらりと申し上げたと思います、あるいはさらり
としか申し上げなかったと思いますが、実はこういうものを設立するにあたっては、経済的な条件が不可欠でございます。所謂ファンド
レイジングということであります。これに関して、皆さんご承知のように、今困難な時期を抱えております。私共はこれに対するチャレ
ンジをしようと思っております。
第二に、こういうものを大学が行うことの困難に対するチャレンジというのがございます。従来はこういうことは学会等いろいろな
別の場ではございました。あるいは政治の世界、経済界、そういう場でチャレンジがされて、いろいろな日米の研究が進んだということ
はご承知の通りでございますが、大学がこれを中心になって行うというのはあまり先例がございません。特に、私共が今考えております
ことは、今日は主に人文科学、社会科学の分野の先生のお話でございましたが、弦間先生がお話になったように、私共はこれから社会科
学、人文科学だけではなく、自然科学も含めた総合的な研究を日米研究としてやろうということが一つの目標としてございます。これは
実は、やはり大学単位でやらなければ非常に難しい仕事でして、個人の研究者が集まるとどうしても自分の専門分野に偏る傾向がござ
いますので、そういう意味で大学が一生懸命やると言うある種のチャレンジでございます。
三番目に、同じような表現でございますが、異なる大学が、共同して行うということのチャレンジと言うのも大変実は困難を伴ってお
ります。先ほど阿川先生がこういうインスティテュートはリーダーシップが大切だという話をされました。実は、今回は、先ほどからご
説明があったように、あいうえお順の発言になっておりまして、このパンフレットもあいうえお順に書いてございますが、実は一番最後
に載っている早稲田大学が今般、この設立に関しては大変なリーダーシップを取っていただきました。他の 4 大学、それについていくと
いうような感じでございます。更に敢えて申し上げますと、今日本の大学で、これは東京大学さんに叱られるかもしれませんが、私立大
学が大変元気でございます。早稲田大学、慶應大学、立命館大学、この 3 つだけでも十分強力な準備態勢ができます上に、叱られますが
東京大学、京都大学がこれに加わると言う形でこの設立をしていきたいと思っております。会場等を提供いただいた早稲田大学さんに
心から感謝申し上げたいと思います。
最後四番目ですが、日米研究に関して、私は今回日本がイニシアチブを取ってこういう研究を行うということのチャレンジ、というの
も大切なことだという風に考えております。1980 年代、国際交流基金日米研究センター等設置がされました。当時、日本は経済的に大
変豊かな時代でございましたので、かなりのことをすることが可能であったわけですが、今般、大学が日本発でこういう日米研究をやる
という試みは、はっきり言ってチャレンジでございます。大変難しいという風に思っておりますが、今後とも日本発でこういう研究姿勢
を作っていくと言うことを私共5大学で協力してやって参りたいと思いますので、皆さんに心からご支援、絶大なご支援をお願いした
いと考えております。宜しくお願いしたいと存じます。とりわけ、大学がやるということは次の世代の研究者を様々な分野で育成すると
いうことが重要なミッションであると考えておりますので、どうかこれに関しても皆さんのご支援を賜りますことをお願いいたしまし
て、挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。
西村 周三
京都大学副学長
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US-Japan Research Institute
Closing Speech
(Translation)
Thank you very much for taking time in your busy schedule to come and participate in the Commemorative Symposium for the
Establishment of the US-Japan Research Institute. I appreciate your participation in this symposium over a number of hours today. Today’s
symposium was entitled “The Obama Administration and the Future of US-Japan Relations”, and while I was listening to discussions I
felt it is a very good thing to establish such an institute. There are precious few opportunities for these excellent members to get together
and have such fruitful discussions. I think it was a very interesting symposium.
I think there are four challenges for the institute we are going to establish. I would like to explain what these four challenges are. Before
that, and a quick digression, though I studied English for 50 years, until quite recently, I didn’t think that I could use the word “challenge”
properly. The word “challenge” in Japanese is usually used to mean “a call to engage in a contest, fight or competition", to challenge a
person to a fight. However, originally, the word “challenge” also has a meaning that is “a test of someone’s resources in a demanding but
stimulating undertaking.” I learned this just only about 10 years ago, and now I use the word “challenge” on every occasion.
Today, during the first speech by Mr. Zumwalt, I noticed that everybody spoke very good English. So I am embarrassed to tell you
about my poor English history, but I'd like to explain about the “challenges” we face.
Firstly, there is the challenge of economic difficulties. Today I think President Shirai of Waseda University touched on this issue. To
establish an organization such as this one favorable economic conditions are essential. Fund raising is also critical as you may know, we
are confronting difficulties now. We would like to challenge these difficulties.
Secondly, there is a challenge for universities to engage in such a project. In the past, we had this kind of opportunity at various
occasions such as academic meetings. Challenges have face the world of politics and economics and in facing these challenges we
have been able to advance Japan-US studies. However, there is hardly any precedent for the project led by the five universities. Today
we heard comments primarily from professors in the fields of humanities and social sciences, but as Professor Gemma explained, one
of our goals is to advance comprehensive Japan-US studies including but not exclusive to the field of social sciences and humanities. In
fact, this is a very difficult task which should be done on a university basis, because if individual researchers get together, they tend to
place disproportionate weight on their areas of expertise. In this sense, this challenge is one for which universities must make efforts at
creating an inter-disciplinary approach.
Thirdly, and similar to the second challenge, there is also the challenge for different universities to work together, which can create
difficulties. Earlier Professor Agawa told us that leadership is important for this kind of institute. In fact, in this symposium, as already
explained, speeches were made by the speakers in Japanese alphabetical order. The names in this brochure are also printed in
Japanese alphabetical order. However, it was Waseda University which is at the bottom that exerted strong leadership in establishing
this Institute, followed by the other four universities. Furthermore, although the University of Tokyo may scold me for saying it, but now
it is the case that among Japanese universities, private universities are quite active. Waseda, Keio and Ritsumeikan have engaged in
meticulous preparations and I may be reprimanded for saying this, but the University of Tokyo and Kyoto University have followed along.
Let me express my heartfelt appreciation to Waseda University which also provided the venue and other resources for this symposium.
Fourthly and finally, I think it is important for Japan to take an initiative in Japan-US studies like this. It is an important challenge. In
the 1980’s, organizations such as the Japan Foundation Center for Global Partnership were established. In those days, Japan was
financially very rich and could achieve remarkable results. However, frankly speaking, now, an attempt by universities to take an initiative
in Japan-US studies from a Japanese perspective is a challenge. I think it is very difficult, but from now on, we five universities would
like to cooperate with each other to build up a study approach under the leadership of Japan. We sincerely look forward to your fulsome
support. Please help us. One of the most important aspects is for universities to nurture researchers of the next generation in various
fields. Again, we would like to ask your support for this mission. Thank you very much.
Shuzo Nishimura
Executive Vice President, Kyoto University
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