年一度の外部監査の受け方

シドニーの公認会計士から(第 3 話):年一度の外部監査の受け方
DFK 公認会計事務所 豪州勅許会計士 藤田圭亮
2011 年 10 月 5 日
10 月になりました。
シドニーでは、今週から夏時間が開始され、夏の息吹きが感じられる季節となりつ
つあります。シドニー湾では、まだ海水の温度は低いですが、そろそろ魚たちが活
発に喰いを入れ始める時期です。
今回は、外部監査を受けるのが初めての方むけに、外部監査について説明してみた
いと思います。
(1) 豪州の外部監査
日本と同様、豪州会社法でも年 1 度の法定監査を受ける会社の規模が決まっていま
す。大きい会社は、関係者が多く、社会的影響が大きいので、監査を受けなければ
ならないという建前です。
以下の 3 つの条件のうち 2 つを満たしていると、監査免除申請書(ASIC Form 384)
を ASIC(豪州証券局)に提出することより、監査免除となります(逆に言うと、下
の 2 つを満たしていないと監査が必要)。
A) 豪州の会社の収入が A$25Million/年以下
B) 豪州の会社の総資産が年度末で A$12.5Million 以下
C) 豪州の会社の従業員数が年度末で 50 人以下
上の基準を満たし、監査免除になっても、実際は、日本の親会社の希望(年 1 度く
らいは外部のチェックを入れたほうがよいという考え)で、監査が行なわれること
が多いです。
(2) 実施手続き
年次監査の手続きは、会社の規模によって左右されます。効率性の観点から、小規
模の会社に対する監査は、一発型(中間監査なしで本監査のみ)が多いです。中規
模以上の会社監査は、締め切りがきついため、2発型(中間監査と本監査)が一般
的です。
以下に、2発型の監査日程例をあげてみます。
日時
期間
3月15日から
1週間(監査人数2人)
3月31日
期末日
4月10日から
2週間(監査人数3人)
4月25日
7月31日
内容
中間監査
棚卸の立会
本監査
本社監査人へのクリアランス
豪州財務諸表の ASIC 提出期限
(3) 中間監査の内容
中間監査は、本監査の前倒しです。本監査の締め切りがきつく設定されて場合など
に、前に倒せるものは倒そうという発想です。
内容は、(A)本監査に必要となる、銀行などへの確認状の発送、(B) 内部統制
の監査、(C)最初の11ヶ月の PL の監査 などです。
本監査の締め切りが、本当にどうにもならないほど厳しいときは、Hard Close といっ
て、11ヶ月の監査を完了させて、期末の12ヶ月と比べるという荒業を使います。
しかしながら、一般的にはこの Hard Close は監査総時間がかかりすぎるという欠点
があります。
(4) 本監査の内容
本監査では、BS,PL の項目を1つずつ監査していきます。
この際、小さな勘定科目は、重要性の原則(A$100,000 とか会社の規模に応じて具体
的に決まっています)から見て重要でないものは、監査されず、飛ばされます。
大きな勘定科目は、いろいろな角度(大きすぎないか、小さすぎないか)から監査
されますが、全数調査でなく、標本調査によって監査されます。
(5) 監査を受ける心得
監査で必要になる書類は、“Client Information Request”などが、監査人側から事前に
送られてきますので、それに基づいて、準備しておけば万全です。もし、送られて
こなければ、監査人側に催促しましょう。
しかしながら、例えば、「現場でサイコロを振って、選ばれた標本についての質
問」などは、現場に監査人が到着してからしかわかりませんので、事前には顧客に
は伝えられません。会社法上、監査人に聞かれたことには答える義務がありますの
で、正直に答えてください。
事実に関する質問については、真実を答えるしかないのですが、厄介なのは、見込
みについての質問です。例えば、「資産の減損」、「事業の継続性」によく顔を出
す、将来のキャッシュフローなどは、将来の見込みをベースにしています。
どこの会社も、将来 2-3 年の事業計画がありますので、それが現実に即しているも
のである限り、事業計画をベースに使われるのが無難です。事業計画からキャッシ
ュフローをはじくのは、そんなに難しくありません(事業計画にキャッシュフロー
が入っている場合もあります)。
(6) その他よく問題になる事項
<財務諸表がいつまでたってもこないのですが>
監査側が財務諸表を作成している場合など、いつまでたっても財務諸表が来ないと
いったお話をよく耳にします。監査人側でスムーズに作業が流れていれば、実地監
査終了日から、1 ヶ月くらいで財務諸表が出来上がるはずですので、1 ヶ月を目安と
して催促されるのがよいと思います。
<小額の誤りが発見されたのですが、General Ledger を修正する必要あるのでしょう
か>
監査には重要性の概念(1 円の間違いを修正する必要はない)があるため、原則は、小
額については修正の必要はありません。一番厳格な手続きで知られる米国基準での
監査でも、小額の誤りについては監査人に修正要求義務が課されているのみで、顧
客はそれに応じる義務はないようです。
<監査終了後に、確認とか言って毎年 Management Representation Letter というもの
に署名を求められるのですが、内容がよくわからないです>
Management Representation Letter は、監査基準に基づいて、監査人が顧客に要求する
ことになっている書類です。
内容は、監査人に、必要な情報を会社側として開示しましたということに尽きます。
その開示した情報の内容を、具体的に列挙しているので、長くなります。文体例が
監査基準で示されているので、特別の事情がない限り、文体は標準文体のはずです。
署名するときに、監査基準に示されている標準文体と違うのかどうか聞いてみまし
ょう。違う部分があれば、そこは注意して読む必要があります。