高齢者、車椅子利用者のための 転倒検出システム 成蹊大学 理工学部 情報科学科 教授 小口 喜美夫 成蹊大学 理工学部 情報科学科 助教 塙 大 成蹊大学大学院 理工学研究科 榎本 裕亮 1 研究概要 • ウェアラブルセンサを用いた転倒検出法の提案 – 危険動作である転倒を迅速に検出 – 拘束性が低いウェアラブルセンサの使用 • 転倒検出法 – 加速度、角速度データの使用 – 閾値による判別値の算出により転倒を判断 • 従来技術との評価 – 従来技術と同等以上の精度 – 誤検出の減少(転倒と類似した動作も判別可能) 2 目次 • 研究背景 – 高齢化に伴う問題、システムイメージ、従来技術の問題点 • 転倒検出法作成のためのデータ取得 – 測定環境、測定方法 • 転倒検出法 – 加速度、角速度、角度変化の3つの解析 • 結果 – 評価(従来技術の比較)、想定される用途、業界 • まとめ – 実用化に向けた課題、企業への期待 3 研究背景(1. 高齢化) • 日本の高齢化率 40 日本 高齢化率[%] 35 30 先進国 25 アメリカ 20 ヨーロッパ 15 10 中国 5 韓国 0 1950 1970 1990 2010 2030 2050 年 出展:Untied Nations, World Population Prospects:The 2008 Revision, Population Database 4 研究背景(2. 一人暮らしの高齢者の増加) • 一人暮らしの高齢者 – 孤独死、急病時の対応 7000 20 6000 5000 15 4000 10 3000 2000 5 1000 女性 (人数) 男性 (人数) 男性 (割合) 女性 (割合) 2030 2025 2020 2015 2010 2005 2000 1995 1990 0 1985 0 高齢者人口に占める割合[%] 25 1980 一人暮らし高齢者[千人] 8000 年 出展:平成22年版 高齢社会白書 5 研究背景(3.医療サービス利用率) • 高齢者が医療サービスを利用する割合は高い – 今後の医療サービス(ヘルスケアシステム)の発展 フランス ドイツ 30.8 45.7 23.6 26.1 40.9 32.9 「ほぼ毎日」から 「月に1回くらい」 までの合計 年に数回 韓国 アメリカ 10.5 62.4 26.7 日本 20 40 60 利用していない 25.4 17.7 56.8 0 9.7 33.6 56.7 80 100 6 出展:「第6回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」について 6 研究背景(4. 転倒) • 高齢者は一年間で3人に1人は転倒を経験 – 家庭内の事故件数が最も多い(56.2%:2337件) • 高齢になるほど重い症状になる可能性 – 骨折(14.7%)、大腿のけが、 … – 転倒後症候群といった心的外傷 早期の転倒検出法の確立が必要 出展:独立行政法人 国民生活センター記者説明会資料,"病院危害情報から みた高齢者の家庭内事故", 平成20 年9 月4 日, 2003 年度~2007 年度 までの高齢者の家庭内事故2337件に基づくデータ 7 研究背景(4. ICT技術) • ICT (Information Communication Technology) 技術の発展 – さまざまなホームヘルスケアシステムの実現 • ウェアラブルセンサ – 3軸加速度センサ、圧力センサ、心拍センサ、… – 拘束性が低い – 監視されているという印象が弱い – 生体情報の取得が容易 ウェアラブルセンサを用いた転倒検出法の可能性 8 システムイメージ • 転倒を検出し家族、医療機関に 連絡 ネットワーク 2. 送信 医療機関 (病院、救急センター、 医療サービスプロバイダ等) 3. 必要であれば 救急車などを要請 :ウェアラブルセンサ 1. 転倒検出 家族 今回は1の転倒検出に着目し検討 9 従来技術とその問題点 • 加速度を用いた転倒検出法 – 特許文献2005-237576号の転倒検出法 • 鉛直方向に着目した転倒検出法 – 榎本らによる転倒検出法[1] – Kangasらによる転倒検出法[2] • 問題点 – ジョギングなど素早い動作の区別が困難 加速度が大きい動作にも対応した高精度な転倒検出法 [1] Enomoto, et al., “Data Processing for Fall Detection using an Acceleration Sensor”, ICCCS2009, Korea, A4-02, November, 2009. [2] Kangas, et al., “Sensorband fall detector prototype : validation through data collection and analysis revised version”, ISMICT2007, ID1217, December, 2007. 10 転倒検出法作成のためのデータ取得 • ウェアラブルセンサ – – – – – – 重さ:20g 形状:39(W)×44(H)×12(D) 3軸加速度、角速度を同時に測定可能 右腰に装着 Bluetoothを用いて無線通信 サンプリング周波数:100Hz • 被験者 – 年齢:21-23歳 – 体重:55-65kg 身長:167-178cm • 測定環境 22cm 30cm – 高さ22cmの台から30cmのマットに転倒 11 測定方法 • 転倒動作4種類 – – – – 前方向に倒れる動作 歩く途中に躓く動作 横方向に倒れる動作 後ろ方向に倒れる動作 • 非転倒動作7種類 • 日常生活行動(ADL)で 考えられる動作 – – – – – – – 平地歩行 階段昇降 ジョギング 椅子に座る 布団に横になる 荷物を持ち運ぶ 転倒をこらえる動作 12 転倒検出フローチャート 開始 加速度、角速度データ取得 ①最大値(絶対値)の抽出 no ②加速度判別値の計算 角度変化判別値は 閾値を超えた? 加速度判別値は 閾値を超えた? yes yes 転倒判断信号を出力 ③角速度判別値の計算 no ④角速変化判別式の計算 角速度判別値は 閾値を超えた? yes 判断終了? no no yes 終了 13 転倒検出法 • 転倒、非転倒動作に大きな違い – 閾値での検出 • 3つすべて転倒と 判断した場合転倒 400 30 300 20 200 2 加速度[mps ] – 加速度 – 角速度 – 角度変化 転倒 40 歩行 10 100 0 角速度[dps] • 3つの転倒検出法 0 -10 -100 進行方向加速度 ピッチング角速度 -20 -200 0 1 2 測定時間[s] 3 4 14 ①最大値(絶対値)の抽出 • 加速度、角速度ともに1動作毎の最大値(絶対値)を抽出 35 絶対最大値抽出 2 700 600 15 500 5 400 -5 300 歩行 -15 200 -25 100 -35 0 -45 -100 0 1 2 測定時間[s] 3 躓きのデータの1例 角速度[dps] 25 加速度[mps ] 転倒 4 進行方向加速度 ピッチング角速度 15 ②加速度判別値の計算 • 以前の研究の判別式 – 被験者11名の加速度データを使用 y = − a 0 + a 1 x1 + a 2 x 2 – – – – – …(1) a0,a1,a2を回帰分析により算出 x1:進行方向の絶対最大値 x2:水平方向の絶対最大値 鉛直方向は影響度が低かったため除外 yが閾値を超えたとき転倒と判断 16 ③角速度判別値の計算 • 角速度 – 加速度と同様に回帰分析 – 3軸の中で最も高い1軸のデータを使用 – 閾値を超えた場合転倒と判断 • 加速度の閾値を超える前に角速度の閾値を超える 可能性 17 ④角速変化判別式の計算 ピッチング速度[dps] • 角速度が転倒と判断された場合、前後1秒間ずつ (合計2秒間)の角速度データを積分 • 加速度と同様に回帰分析 • 閾値を超えた場合転倒と判断 積分 400 350 300 250 200 150 100 50 0 -50 -100 角速度 閾値 0 1 2 時間[s] 3 4 18 新技術の特徴・従来技術との比較 • 加速度、角速度を同時に測定可能なセンサの使用 – 転倒と類似した(加速度が大きい素早い)動作の区別が可能 • 検出率の比較 センサ 装着位置 大きい動作 を判別 転倒 検出率 通常動作 検出率 提案した 外部研究1[2] 外部研究2[3] これまでの 転倒検出法 転倒検出法[1] (オウル大学、 (バージニア (加速度、 (加速度) フィンランド) 大学) 角速度) 右腰部 右腰部 腰部 胸、右もも 1ヶ所 1ヶ所 1ヶ所 2ヶ所 × ○ × ○ 97.7% 100% 100% 91% 100% 100% 100% 92% [3] Qiang Li, et al., “Accurate, Fast Fall Detection Using Gyroscopes and Accelerometer-Derived 19 Posture Information” BSN 2009, June, 2009 想定される用途、業界 • 用途 – 転倒検出、健康管理装置(システム) – 運動用具 (回転運動量を計測し、ダイエット効果に換算) – 高齢者歩行用、車いす用エアバッグ装置 • 業界、市場規模 – 日本の高齢者 約2941万2千人(2010年) – 一人暮らしの高齢者 約465万4千人(2010年) – ヘルスケア、携帯電話機器メーカー、病院、介護施設 • 利用者数:300万人、導入費用:10,000円と想定 → 300億円の市場規模 20 実用化に向けた課題、企業への期待 • 実用化に向けた課題 – 転倒検出時のアラーム通知方法(処理方法) – サンプル数増大による精度評価 – 実際の転倒、日常生活行動における高齢者の評価実験 • 企業への期待 – システム化を目指すセンシング技術を持つ企業との 共同研究を希望 • ウェアラブルセンサの開発 • アラーム通知法のプログラム処理など – ヘルスケア、介護、ダイエット分野への展開を考えている 企業には本技術の導入が有効 21 まとめ/補足 項目 内容 従来技術とその問題点 •転倒と類似した動作の誤検出 新技術の特徴 従来技術との比較 •加速度、角速度を用いた検出法 •転倒と類似した動作も判別可能 想定される用途 •転倒検出、健康管理装置(システム) •高齢者歩行用、車いす用エアバッグ装置 想定される業界 •ヘルスケア、携帯電話機器メーカー、病院、介護施設 実用化に向けた課題 •転倒検出時のアラーム通知方法(処理方法) •サンプル数増大による精度評価 •実際の転倒、日常生活行動における高齢者の評価実験 企業への期待 •システム化を目指すセンシング技術を持つ企業との 共同研究を希望 22 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :高齢者、車椅子利用者の ための転倒検出システム • 出願番号 :特願2010-042454 • 出願人 :学校法人成蹊学園 • 発明者 :小口喜美夫、榎本裕亮、 塙大、遠藤久慶 23 お問い合わせ先 成蹊大学 理工学部 光通信網研究室 小口喜美夫 TEL : 0422-37-3732 FAX : 0422-37-3871 E-mail: [email protected] タマティーエルオー株式会社研究成果移転事業部 田島 伸明 TEL:042-570-7240 FAX:042-570-7241 E-mail:[email protected] 24
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