TOP INTERVIEW 瀬戸技研工業 代表取締役 ふ く だ わ い ち 福田 和市 ふ く だ (左) 半導体業界には約4年を周期とするシリコン サイクルがあります。技術革新が早く製品のラ イフサイクルも非常に短いため、発売時には大 量の見込み発注が行われ、下降期になると在庫 圧縮を図るために発注が大幅に減らされて起き る現象です。また、半導体製造装置は半導体メ ーカーごとに仕様が異なるため受注生産とな り、競争を優位に進めるために他社に先駆けて、 新世代製品を大量生産する装置の開発が求めら れています。そこで今月は、COF(チップオ ンフィルム)・TAB(テープオートメーティ ッドボンディング)等のフレキシブル基板及び、 ウエハー、ガラス基板等の半導体製造装置の設 計・製造を行って成長する千葉県柏市に本社を 構え、茨城県東海村に工場を持つ、瀬戸技研工 業㈱の福田和市社長に会社の変遷、業界の変化 及び今後の課題と展望をお伺いしました。 聞き手 当社社長 影山俊男 常務取締役 福田 株式会社 たかゆき 貴之(右) まず御社の事業概要をお聞かせ ください。 福田 1976年(昭和51年)6月に、 千葉県松戸市で会社を設立しまし た。瀬戸技研工業㈱とした理由は、 私が四国の愛媛県出身なものです から、単純に瀬戸内海の瀬戸をつ けたものです。 これまでを振り返ると、創業時 は孫請けもしくはひ孫請けで塩化 ビニールの加工を始め、それから めっき業界のタンク・ダクトの製 作や修理といった雑工事を行い、 めっきの仕事が下降気味になった 頃にアルミサッシ関連の仕事を手 掛けました。日本の全てのアルミ C O F ︱ T A B 製 造 装 置 で 業 界 一 ! 研 究 開 発 の 段 階 か ら お 客 様 の ニ ー ズ に お 応 え し 、 ト ッ プ イ ン タ ビ ュ ー 1 TOP INTERVIEW ト ッ プ イ ン タ ビ ュ ー サッシメーカーが一気に設備増強 に入ったときに、めっき技術を活 かして下請仕事を行いました。そ の次にグラビア製版のめっき及び エッチング設備を始め、日本のリ ードフレーム業界が下降気味にな ってくると、台湾や韓国の設備に 乗じて業容を広げ、同時に技術力 を高めてきました。 1988年に知り合ったお客様から、 TABテープを生産する装置の修理 を依頼されたのがきっかけで、そ の製造装置の製作を手掛けるよう になりました。そして今では COF−TAB製造装置が当社の主力 製品となり、業界のトップメーカ ーになりました。 擬似シリコンサイクルに 合わせて設備の増強 御社の沿革を拝見しますと、10 年毎に大きなイベントが見られ ますが、そうした長期計画を建 てられてきたのでしようか。 2 福田 シリコンサイクルとか、10 年毎ということでもないのですが、 お客様ニーズに合わせた設備投資 がちょうど10年毎にしていますの で、そう見えたのかもしれません。 今年の10月、東海村に第二工場を 建設したのも、今後の注文が従来 の製造装置より横幅と長さが大き くなったために、広い工場を建設 したものです。 もう少し詳しくご説明いただけ ますか。 福田 延床面積1,320㎡に70mにも およぶ電子部品をつくる装置の製 造ラインを並べるためです。昔は プリント基板が主流でしたので、 スペースも余り必要としませんで した。ところが今は、薄い樹脂テ ープに基盤を貼り付けたCOFテー プが主力です。 液晶テレビやノート型パソコン、 携帯電話の表示部分、インジェク 大きくなりました。 当然、技術面でも進化し続けな くてはならないものなのでしょ うね。 福田和市代表取締役 トプリンターや医療機器などに使 われて、特に液晶テレビ向けと携 帯電話の需要増加に伴って、COF テープを製造する装置の注文が増 加しています。 そのほか、マイクロマシン対応 装置及びフラットパネルディスプ レー関連装置等も生産することに していまして、これらによって 2008年3月期の売上は、前年度比 22%増の27億円を見込んでいます。 茨城工場の建設で注文も急増 茨城県内に進出された直接のきっ かけは、何であったのでしょうか。 福田 茨城県内にお客様がありま して、メンテナンス工場を近くに 設置して欲しいと言われて、1996年 に茨城工場を建設しました。 工場が出来ると仕事は一段と増 えました。そこで1997年に一階部 分を拡張し、翌年二階部分を増設 しました。お客様仕様の装置は、 スピードアップと量産化で、従来 よりも2倍から3倍の性能アップ を実現しなければなりません。そ のためにCOFテープの横幅は、製 品が出始めた頃の35mm∼70mmか ら158mmに広がり、その分装置も 福田 最近では限界に近いくらい まで線と線の間が狭くなっており 非常に難しくなってきています。そ れに、高品質なCOFテープをつくる 秘訣は、同じ条件でCOFテープをラ イン搬送する事です。工場スペース が狭いと搬送ラインが平坦になら ず、テープに微妙な伸縮をもたらし ます。それが原因で不良品が出来て しまいます。それを防ぐために大き な工場が必要になったものです。 最近頭を痛めていることは、原 材料価格の高騰と納期の短縮化で す。つい2∼3年前までは、「瀬戸 さんの製品は良いのですが、値段 も高いですね」と言われながらも 仕事は受注してきました。ところ が最近では、価格優先で発注先が 決まり、回り回って納期の短い注 文が来るようになりました。 納期と品質とコストという総合 的な評価から御社が選ばれてい るのですね。 福田 そうです。例えば、当社が 1億円の見積もりを出したところ に、他社から8,000万円の見積もり が出されると、金額が選択基準に なって他社へ仕事が決まってしま います。ところが出来てきた製品 の品質が悪くて使い物にならず、再 度当社に製作を依頼してきます。お 客様側の購買担当者が変わったとき にも同じことが起きます。 当社としては、原価ギリギリな らば何とか引き受けますが、原価 を割るような受注は受けません。 コストを下げる方法はいくらでも ありますが「コストは下げました が製品は悪かった」では済まされ ませんので、その辺の兼ねあいに 苦労しています。プリント基板や リードフレームでは、金属が主な TOP INTERVIEW 製作所を設立して、茨城工場内に 事務所を設けました。 新しい仕事を含めてですが、今 はまた、何かを考えなければなら ない時期にさしかかっているよう に感じます。次に出てくる製品は どんなものかを察知し、その技術 力を高め、お客様が着手する時点 では、共同開発の仲間に入れるよ うにしなければなりません。のほ ほんとしていては、他社に取られ てしまい生き残ってもいけません。 素材ですから、加工も比較的容易 でした。ところが今は樹脂が主体 ですから、加工の手間が従来の3 倍も掛かります。すると工賃も3 倍に跳ね上がりますから価格は必 然的に高くなります。ところが新 規に乗り込んでくる業者や安くお こなう業者は、樹脂を加工するた めの高度な技術がないとか、手間 隙を掛けませんから精度が荒くな り、結果として不良品を発生させ てしまいます。そうした問題があ ることを担当者が知らずに発注し、 過去の違う設備の感覚で見積金額だ けで判断しますから、そうした失敗 が起こっています。 展示会は技術力をPRする場 影山社長 高品質を維持するには、技 術力のある協力企業が必要 1から100まで全て出来る会社は ないということですか。そうしま すと、いかにチームを組めるか、 いかに良い仲間とネットワークを 組むかがポイントになりますね。 福田 当社は内製化を進めて技術 力の強化を図ってきました。特に COF−TABをつくる同業者は日本 に数社ありますが、技術力では当 社がトップです。「瀬戸技研ブラン ド」を確立するために外注先の品 質管理までしっかりお願いしてこ こまで来ました。 同業者が少ない反面、競争面で はしのぎを削られているという ことでしょうか。 福田 最終製品のメーカーから出 される注文は、すばやい納品です。 それを受けて部品を生産する当社 のお客様から来る注文は、生産ラ インをセットで発注してきます。 例えば、フォトレジストコーティ ング、現像、エッチング、裏止め、 めっきの装置等々、6台が1セッ トです。納期は早いですが1セッ トの金額は安い装置で数億円もし ますから、注文を逃すわけにはい きません。 30年やってこられて一番の課題 はどんなところでしょうか。 福田 全てが受注生産であること です。しかもお客様の要望を聞い てから装置の設計に入りますので、 見込み生産は一切出来ません。設 計図を元に素材の確定と確保、部 品の外注を発し、3ヶ月から6ヶ 月以内に組み立てて納品します。 この点が情けないのです。情け ないというよりは大変なものです から、なんとか在庫の置ける製品 をつくって、経営を安定させたい と思っています。そこで、2006年 の10月に、千葉市の第一号一般廃 棄物処理許可業及び産業廃棄物処 理業者である「大西総業㈱」に資 本参加をしました。 また、復活した事業がダクトな どの公害設備の製作とメンテナン スです。この事業は、創業当初か らやっていた仕事です。お客様が 「瀬戸技研は装置メーカーだから、 こういう雑仕事はやらないだろう」 と思い込まれて、その仕事が途絶 えていました。この仕事は今も確 実にありますので、復活すること にしました。同年12月に㈱大東化工 展示会に積極的に出展されてい ますが、狙いは会場での取引開 拓なのでしょうか。 福田 その場で注文を受けなくて も、後日問い合わせが必ず来ます。 来場者も出展している製品が欲し いわけではなく、「そういうものが 出来るのであれば、こういう装置 も出来るのではないか」、と言って 照会してきます。受注生産ですか ら展示した製品が、ずばり売れる ことはありません。 それと正直な話、当社はこれま で営業に行くことは殆どなく、口 コミだけでお客様が来てくれてい ました。茨城工場が出来た頃は、 従業員も25∼30名規模でしたから、 口コミで取れる仕事量で十分でし た。ところが今や従業員も80人規 模になりましたので、口コミで取 れる仕事の量では足らず、展示会 に出るようになりました。 生産財の開発では 産学共同研究は難題 大学と共同研究をなされていま すが、取り組み状況はいかがで しょうか。 福田 これがなかなか難しい。当 社のように生産財である製品をつ くる装置をつくるための共同研究 は、シーズやニーズにしろ目的と ト ッ プ イ ン タ ビ ュ ー 3 TOP INTERVIEW 用途が定めにくいといった問題があ ります。千葉大学との共同研究会に は出席しましたが、今ひとつうまく 行きません。もっと踏み込んで行き たいところなのですが、資本力やノ ウハウの問題が加わると、更に難し くなるというのが実情です。 ト ッ プ イ ン タ ビ ュ ー 茨城県には筑波大学や茨城大学、 更には、様々な研究機関がつく ば市にありますが、それらとの 関わりはいかがでしょうか。 福田 例えば、めっきの付け方な どを勉強するとか、半導体の新素 材の研究といったものであれば共同 研究のテーマになるでしょうが、今 までのところ予定はありません。 内製化に適するのは コア製品と量産品 内製化が叫ばれる背景には、ど んな背景があるのでしょうか。 4 福田 それは下請けがなくなって しまった結果ではないでしようか。 大手メーカーはすぐに内製化と言 いますが、大手メーカーの社員の 工賃を元に機械をつくったとした ら、当社の製品価格の5倍くらい になるはずです。したがって、内 製化する製品は、コアになるもの とか心臓部に該当する部分や大量 生産が可能なものだけです。 当社が得意とする一品料理的な 装置を内製化すれば、コスト的に も品質的にも希望した製品は出来 ないでしょう。仮に出来たとして も、時間がかかり過ぎて、出来あ がったときには時代遅れになって いるかもしれません。 自分のところでつくり上げるも のには、おのずと限度があると いうことでしょうか。 福田 当社もそうですが、色々な お客様とお付き合して、考え方も いろいろ組み合わせることによっ て良いものができるのだと思いま す。一社だけの仕事を長く続けて いると、そこに慣れてしまって、 そこからの進歩がなくなってしま います。「自分のところのものが一 番良い」と思っている会社は多いよ うですが、世間はもっともっと進歩 しています。そういうことがちゃん と分かっている会社は、上手に設備 屋を使ってリードオファーを引き出 し、自分たちなりに考えて精度の高 い製品をつくりだしています。 人も企業も強気の茨城 茨城県に来られて従業員の確保 はいかがですか。 福田 その問題も難しいです。茨 城工場は、ほとんど茨城県内の 方々ですが、人が揃いだしたのは、 最近になってです。 それと残念に思うのは、募集を 掛けて来られた人の多くが、大手 企業病にかかっていることです。 「土日祭日は休みたい」と、権利は 大手企業並みの要求をしてきます。 ある程度、技術的な知識も必要 でしょうから、工業系の学校出 身者が多いでしょうか。 福田 そういう人が欲しいのです が、なかなか来てくれません。そ こで来られた人の中から、やる気 のある人を採用するようにしまし た。ただし、会社が知られるよう になってからは、気骨のある人、 熱意・頑張りを見せる人、リーダ ーシップがあると言いますか、人 使いの上手な人も採れるようにな りました。 うるさいくらい言うことと 社外に技術支援部隊を結成 人づくりでポイントとなるとこ ろはございますか。 福田 「リーダーになるために」 といった雑誌がありまして、それ を教材にして、仕事が終わった後 に勉強会を開催しています。但し、 本を読んだ時は分かっていても、 実戦になるとなかなか行動が起こ せません。読んだだけでは意味が ないということを認識させながら 粘り強く進めているところです。 その甲斐あってか、お客様から 「他の設備メーカーの社員と比べる と、お宅の社員は素晴らしいです」 といったお褒めの言葉を掛けてく れるようになりましたので、徐々 に良くなっています。 特に福田社長さんが気を使われ ている点は、ございますか。 福田 私はうるさいです。工場内 では、目の前の仕事を教材に指導 しています。いつも口にするのは、 「買うお客様の立場になってものを つくりなさい。つくり手の目線で なく、逆の立場になりなさい。資 材を買う人は、売る立場になりな さい。」と言っております。また、 「ただつくるのではなく、何のため TOP INTERVIEW 東京ビックサイトで開催さ れた国際電子回路産業展 (JPCA 2001)に展示した 電解銅めっき装置ブライン ドビア及びスルーホールな どに電解銅めっきをする装 置ですが、セミアディティ ブのパターンめっき及び CCL材用めっきも可能です。 の部品なのか、何のためにそうする のかといった事も考えて、仕事をす るように」とも言っております。そ う言った事を時間を掛けて教えまし たので、指示がなくても自分たちで 考え、やるようになりました。その ことが、同業社の従業員より当社の 従業員の方が倍くらい良く働いてい ると見えるようです。 また、お客様の会社を定年退職さ れた方で、当社の装置を使って製品 づくりをされた方々に、会社のブレ ーンとして技術的な指導やアドバイ スをいただくようにしています。 協力会社を得て根を広げたい 御社は常陽銀行が主催するビジ ネスマッチングのイベントにご 参加されていますが、成果はい かがでしようか。 福田 ビジネスマッチングという 他の銀行ではあまりやらない企業 支援策は大変ありがたいです。今 まで2回参加しましたが、成果とし 会社概要 T O P I N T E R V I E W て数社と取引ができました。自分た ちでは見つけられない技術を持つ企 業が茨城県内に多いことが分かりま したので、協力会社をどんどん見つ けていきたいと思っています。 地域的にはどちら方面ですか。 福田 県北、県南、つくば辺りで す。但し、コスト面と納期面で折 り合いがつかないとか、融通性が ネックになるケースがあります。 理由は、大企業との取引感覚が浸 透しているためのようです。具体 的な例でお話ししますと、本社と 茨城工場を比べると、外注の工賃 は茨城県の方が高いです。大企業 に納入するような価格で持ってこ られます。当社は部品をつくる装 置の設備メーカーですから、価格 はワンランク下げてもらわないと 装置がつくれません。当社として は近辺の会社へ発注した方がいい わけですが金額が合わず、やむを 得ず柏市や千葉市から来てもらっ ています。そんなに仕事があると 瀬戸技研工業 株式会社 代表取締役 福田 和市 本 社 電 話 事業内容 設 立 資 本 金 年 商 従 業 員 工 場 関係会社 千葉県柏市藤心上人塚前 962 04-7174-2331 半導体製造装置の設計 ・ 製造 ・ 販売 1976 年 6 月 1,000 万円 22 億 8,600 万円(07 年 3 月期) 80 名 茨城東海工場(東海村) ㈱大東化工製作所(東海村)、大西総業㈱ (千葉市) 写真:茨城第 2 工場 は思えないのですが、どういう訳 か茨城県の業者は強気です。お昼 の弁当代にしてもそうです。本社 の弁当代は320円、こちらは500円 です。町中の食堂に行っても「食 わしてやる」といった雰囲気です。 一般小売店も同じです。根本的に は競争が少ないことと、全体のお 客様が少ないから、その金額でな いとやっていけないのかもしれま せん。 地元にとっては真摯に受止めなけ ればならないお話しです。せっか く大きな工場を茨城県内につくっ てくださった訳ですから、茨城県 内に協力会社を含めて取引先がた くさん出来るとありがたいです。 福田 そうありたいです。私ども もお客様への売値がありますから、 その辺の折り合いができればいい なあと思っています。 福田常務 市場が小さいので価格 が高くなるのは当り前でしょうが、 そのままやっていれば売れなくな ります。他県の価格や市場価格を 理解されている会社はそれなりに うまくやられていると思います。 今の市場環境は半年で変わりま すから、それを含めていかに早く 察して、変化するかでしょう。ま た、社長が申し上げたように、社 内の設備だけではこなせない部分 があります。特に精密樹脂加工が できる企業を求めていますので、 皆さんの力をお借りして茨城県内 に根を広げて参ります。 ト ッ プ イ ン タ ビ ュ ー 5
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