ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 日皮会誌:90 (12), 1143-1155, 1980 (昭55) 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 弾力線維性仮性黄色腫(劣性n型)の1例 なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示 されます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 一特にその電顕的観察について一 米良 修二 小野 友道* 下川 優子 田代 正昭 要 旨 Pope2)3)は,英国の約MO例のPXE症例を詳細に検討 1.臨床的にcutis し,遺伝形式から2群に,臨床症状からそれぞれ2型, laxa様病変のみを呈したPopeの 劣性H型のpseudoxanthoma elasticum の1例,25歳男 子を報告した. 計4型に分類した.その4型の中で臨床的に種々の合併 を伴わず,皮膚症状としてもPXE特有の皮疹がなく, 2,光頭的には,典型的なpseudoxanthoma elasticum cutislaxa 様の皮膚の弛緩のみがあるものを劣性皿型と の像を示した. して取り上げ, PXEのcriteriaを広げている. 3. 電顕的には,弾力線維の石灰沈着,膠原線維の花 も先に述べた様にPopeの分類に従い,本邦において Rookら 模様状構造,変性細胞とその細胞質内の三種類の封人体 も, 1979年,松mら5)が,以前cut is laxa として報告さ を認めた. れていた症例を,経過を追って検討した結果Popeの 4.本邦報告例を自験例を含めて,文献的に考察を行 分類の劣性II型であるとして報告している. い,電顕所見についても若干の考えを述べた. 今回,我々は, cutisIaxa 様の臨床症状を呈し,組織 学的には,典型的なPXEの像を示す症例を経験した. 1.はじめに そして電顕的観察の結果,現在までの報告に見られる 皮膚の弛緩をきたす疾患として,最近のRook ら1)の PXEの典型的な弾力線維の石灰沈着像と共に,未だ文 Textbook of Dermatology 献上記載のない種々の段階の変性細胞や,その細胞質内 によると Generalized elastorrhexis( cutislaxa) lEyEEEEEl Localized の封人体等の興味ある所見を得たので報告する.また, PXEとcutis laxa の関連について,これらの電顕所見 utisIaxa と失に,若干の文献的考察を行い報告する. n,症 例 Pseudoxanthoma elasticum がある.この中の弾力線維性仮性黄色腫, thoma 患者:25歳,男,農業. pseudoxan- elasticum(以下PXE)は,臨床的には扁平黄色 結節peau d'orange 等の皮膚症状とangioid streaks, 梨子地眼底などの眼症状,心血管系の異常などの合併症 初診:昭和54年6月28日. 主訴:前頚部,両肢高部,両前胸部,腹部,腰部,陰 股部の皮疹. 家族歴:特記すべき事なし.家族に同症はなく,血族 を伴い,組織学的には,弾力線維の変性,断裂,石灰 結婚否定(図1,家系図). 沈着をきたす疾患で,おそらく弾力線維の先天性形成異 既往歴:特記すべき事なし.心血管障害および眼症状 常あるいは代謝異常であろりとされている. はない. 1973年, 現病歴:初診約7年前,腹部の皺閣形成に気付いた. 鹿児島大学医学部皮膚科教室(主任 田代正昭教授) *熊本大学医学部皮膚科教室(主任 荒尾龍喜教授) Shuji Mera, Yuko Shimokawa Masaaki Tashiro and Tomomichi ono: Autosomal recessive type 2 pseudoxanthoma elasticum(Pope)-eIectron micro scopic observasionsof a case. 無症状のため,放置していたが,最近著明になり,腰部 49 4 昭和55年6月17日受理 特掲 別刷請求先:(〒890)鹿児島市宇宿町1208番1号 鹿児島大学医学部皮膚科学教室 米良修二 25 20 18 15 図1 家系図 1144 米良 匡:lほか Iべ川 腰部の皺吠形成. acid orcein Verlioir, ■.. 1Jrド鉄Kossa染色を行い, 他方は,電顕用として約lm 「の人き勺こ細り几,グ ルタール・オスミウム酸の.IIR固定を行V. ■, -■'"■タノール 系列にて脱水,エポソ割2にて包川した.試料はl'orlrr 図2 右朕筒部から右前胸部の皺璧形成. Blum MT2-B 型超ミクロトームにて沁切し,酢酸ウラ および両肢寓部等にも出現してきたので,当科を受診し ニル・クェソ酸鉛で二重染色後,目立12-Aおよび目在 た. H-300型電子顕微鏡で観察,写真撮影を行った. 現症:全身的には,体格中等度,栄養状態良好,身長 結果 164cra,体重64kgで,顔面に持異な所見,表情はなか A 光顕所見 った.皮膚症状としては,両側前頚部,両側飯高から前 皺奘形成部3ヵ所とも同様の組織像を示した.HE染 胸部,腹部,腰部,陰股部から大腿内側後面の皮膚が弛 色では,表皮に著変なく,真皮上層に少数の楕円形ある 緩し,波状の粗大な皺襲が見られたが,皮膚の色調は11と いは小円形細胞が,主に血管周囲性に見られた.主病変 常であった(図2. は,真皮中層から下層にかけて,膠原線糾間に頼粒状の 3).過剰なイ中展性,弾力性はなく, またいわゆるPXEの皮疹も全くなく,自覚症状も≒か 赤紫色から暗赤色の小塊が故在性に多数仁在し,円形あ った.なお現在まで著明な体重の増減の既往心なト. るいは楕円形のクロマチンに乏しい核を有する細胞が敞 検査所見:血沈4mm/60分23mm/120分.郎¶-: 138/68 在性に分布していた(図4 A).Λ(jd orcein Verho汀染 mmHg,左右差はなし脈拍正常,左右差なし末梢血 色で弾力線組を観察すると,順粒状,梶棒状の変形した 液像,異常なし肝機能,血清蛋白,皿青電解質,空腹 ものが数多く見られ,少数の,し常の形態を示すものもあ 時血糖,腎機能,尿所見,基礎代謝,免疫グロブリンペ った.願粒状のものは,HE染色で見られた小塊と一致 補体は正常で,CRP(−),ASLO(士),RA(−), するものと考えられた(図4 Wa-R orcein Verho汀染色で見られ,た変形した弾力線組に一致 (-), HB (一),PPD陽性,DNCB感作成立て B ). Kossa染色ではacid あった.胸部X線,骨X線,心電図,剛湯透視,視力お して黒色に染色され,石灰沈着と思われた.また,真皮 よび眼底所見,神経学的検査は異常はなかった.異常所 中層から皮下脂肪組織内の小血管壁内にも石灰沈着が見 見としては, られた(図4 IQ> 62,性染色体でsmall Yがあった. 化はなくPAS, 病理組織学的所見 C). Gieson 染色では,膠原線却に変 alcian blue, Van コロイド鉄染色では,陽 方法 性所見は見られなかった. 右厳宮部,左腰部,腹部の皺奨形成部および臨床的に 臨床的に正常と思われる皺奘非形成部の右前腕内側部 正常と思われる皺襲形戊の見られない右前腕内側部の合 の組織像は,各染色とも皺奘形成部にくらべて,病変の 計4ヵ所より, 程度は軽度であったが,質的にはほぼ同様の所見であっ 0.5%キシロカイソ局麻下に生検を行っ た.なお,この部位には,血管壁内の石灰沈着は見られ た.得られた組織片は,ただちに2分割し,1つは光 顕用に10%ホルマリン固定し, HE, PAS, alcian blue, なかった. H45 弾ノ卵疎け日反性黄色川ト・劣卜Iに9 吼 "へ f ゜ ’ .”’、、、’で9iSや苫聶麗賜l騏課題側 図4A HE染色 図4B Acid orcein 図4Λ,B, C皺吠形成部の光顕所に.×洲0 VerliofTヽ染色 ドレI 図5 蛇行し,石灰沈着した弾力線維.×50,000 C Kossa染色 CA: calcification 以上の所見は,病変部,臨床的正常部ともPXEの像 蛇行し,一部では断裂した線維にdensityの高い石灰と と一致すると思われた. 思われる物質の沈着があり,その線組の一部にstrands B 電顕的所見 を有するmatrix構造が見られることから,弾力線維 i. 弾力線組および膠原線維の変化 に石灰沈着が起ったものと考えられた(図5, 光顕のacid C).典型的な像では,弾力線組の横断面を示す図6C orcein Verhoff, Kossa染色で変性,変形 した弾力線組が認められた真皮中層から下層に,宵曲, 6 B, に見られるように三層構造が多く見られた.外側は細線 6 H耶 米良 修二はル r;辺 1マf坦で = べな`心・゛万 二/]Ttヤゲブ 。 ●’。?・j'こ1.、゛≒レ、こニト……鷲4j ざ卵旋琵ダ頒 丿ぷi?>:::'-:.- :.>v>-: r・・゛9i: Ela= と網 ?. tl. % %:.二’1 =胤 I・・卜奮√√・撃 粉 白 . ・.{ぷ`.・. 図6Λ 鴇s ,j啼を 倫 嶼齢 瀋 図6B 図6A ・引火沈着にしJq丿丿線維と化模様状を示す膠 原線糾.×2郭0 0 圓6B イj灰沈/0た州杓線紺y)縦断面像. ×30000 図6C 石灰沈杵「だ州り絲紺の横断面隙. X 27300 E: elastic:I'll」(ヽ「 C: collagen 111」円・ CA: calcification /: (low(ヽ1-1 ike appt'arance 図6C 維穎粒状で,一部虫食い像を示し,その内側では石灰沈 また,沈着の形態にはstrandsがやや不り)瞭となっ 着が見ら牡,最内側の中央部ではstrandsと穎粒状の た弾力線組の周囲に石灰沈着が始まり,次第にdensity 石灰沈着が認められた.縦断面は図6Bに示した. を増してトるような像(図7 A, 7 B)とmatrixお I目7 卵小㈲│け1ミ仮性黄色腫 劣性│「型 ● 僧S 図7A 石灰沈着の初川像?.×20000 図7C 虫食い像の外縁を示す弾力線維. ×30000 図7B 軽皮のも灰沈着を示す弾力線維.〉く20000 図7D 虫食い像の外縁とmatrixの石灰沈着を示 す弾力線維.×50000 米良 修二ほか 1148 フデ………:414 '1 4 1 j I・・ ・a ,か 3S … に.=yj . …… ・ ・ ・I,丁 /j ・,. 4,j * ・' ● ブ4J 図8 基底膜(→BL)に囲まれた変性した血管腔と思われる構造とその暗調細胞.×5000 よびstrandsともほぼ正常で,周囲が虫食い様に変化 が,石灰沈着した弾力線維に近接して存在するものの し,次にmatrix内の外側よりに沈着を開始している像 一部は,直径約2,500Åまでの花模様状を示した(図6 (図7 C,7D)などが見られた. なお,膠原線維には,石灰沈着は全く認め得なかった A). ii・ 細胞成分の変化 1149 州力線維性仮性黄色腫一劣性II型 \ia 9 A 図9A 針状結晶の封人体を持 っ変性細胞.×10000 図9B 図9Aの強拡大.ミト コソドリア内の針状結晶. ×40000 ←図9B 1150 米良 修二ほか │刈O ミ】・コソK イ.血管の変化 1) T内の針状結,IIII・の形成迦程. くcut 真皮上層に,基底膜に囲まれた,細胞質・核ともに is laxa 様の皮膚の弛緩のみが見られ,眼底所 に,心血管系障害などの介併も伴わず,組織学的には densityを増し,細胞小器官も不明瞭な細胞が,管腔構 PXEと同様の像を示す・j l:で あ乱 また,遺伝的には検 造を示した.これらは変性した血管と考えた.しかし, 索が充分でないかもしれなトが,劣佻あるいは遺伝とは このいずれの部位にも明らかな石灰沈着は見出し得なか 関係のないものに思われた.このよ・バげ1験例とほぼ同 った(図8). 様の所見を示す症例は,外国においてはShaflVr i;," p.変性細胞の存在 (1957), Carborg" (1959), Macmillianぴ' (1971),本 乳頭下層から真皮深層まで比較的数多くの細胞が見ら 邦においては,肥田野" (1966),小 (1964),野原ら"' れ,その核は長楕円形を呈し,核小体は不明瞭で,細胞 川ら'" (1979)の報告かあり,外国ではPXE,本邦で 質は豊富な突起を持ち,ミトコソドリアは極少数で, はPXEとcutis ERはほとんど見られなかった.これらの細胞は,崩壊 る場合が多い.このように一致した診断が下せない理由 寸前のものまで段階的に認められ,変性壊死に陥る過程 は,肥田野9)により詳細に論じられている.それは,臨 と考えた(図9 床的にPXE特有の皮疹があれば,皮膚の弛緩も一元的 A, 9 B, 11, 12A, 12B, 12C). また,これらの細胞質内には,ライソゾーム様構造の laxa の合併例と診断し報告されてト に考えでPXEと診断しうるがPXE特有の皮疹を欠 ものと,二重膜に囲まれた直径約0.8μまでの小器官が き,かつ限戊所見や血竹障害が見られない場合は,組織 見られ,後者には,針状結晶,微細穎粒状,粗大穎粒状 学的な石灰沈着のみを根拠としてPXEと診断するに の三種の封人体が認められた.このうち針状結品につト は,疑問が残るからと思われる. ては,図10に示すようにdensityを増していく過程が見 しかし, られ,初期のものはcristaが見られることから,この を検討し,遺伝形式より2群に,臨床知状よりそれぞれ 小器官の一部は,ミトコソドリアと思われた(図10, 2型に,計4型に分類し,自験例と同様のcutis 11). の臨床型のものを劣性U型とした(表1).本邦におい 1973年, Pope"'"が英田の即)数例のpxi: laxa様 また前記した三種の封人体の見られない変性細胞の ても, 1979年,松田ら5)により,以前野原ら1o)がcutis 中には,ERが種々の形で変形し,長い突起として見ら laxaとし報告した症例を10余年後観察した結果Pope れ,一部ではミェリソ様構造を呈した.これらも変性 の分類の劣性U型のPXEと診断し報告した.これは, 細胞の壊死に陥いる1つのパターンと考えられた(図13 PXEが進行性の疾患で,症状,病変ともに固定しかい A, ことを示し,興味深いものと思われる.そこで,我々 B, C). 以上電顕所見をまとめると,弾力線組の石灰沈着,膠 は,本邦において文献上10∼20数年の経過の追える同様 原線組の花模様状の変化,既存の報告に見られない著明 の症例を,松田らの症例を含めて2例探し得たので,自 か変性過程の細胞,とくにその細胞のミトコンドリア内 験例と共にPopeの分類に準じて臨床的組織学的に比 の封人体の存在が特徴であった. 較した(表1).症例1は, III. 考 察 1938年,皆見ら12)の報告時 (13歳)には,臨床的に皮膚の弛緩があり,組織学的に 臨床的事項 は弾力線組の石灰沈着はなく,この時期の診断として 以上,自験例の臨床ならびに組織学的所見について述 は,皆見らの報告のごとくcutis べたが,その特徴は,臨床的にPXE特有の皮疹はな れるが,その後, laxa が最適と思わ 1964年,肥田野9)の報告時(35歳) 目51 州ノJ線糾性仮性黄色腫一劣性Ⅱ型 図12A X3000 會 図12B X15000 ・ 図11 針状結晶,微細穎粒状,粗大穎粒状の三種類 図12C X20000 の封人体を持つ変性細胞(図12Aの拡大).×20000 図12A, B, C 変性細胞の崩壊過程. 米良 修二ほか 1152 図13A W13C 図13A rERの豊富な突起を 持つ変性細胞.×24000 図13B 変性細胞のミェリン 様突起.×34000 図13C 変性細胞の様突起. /:封状結晶×40000 図13B 1153 弾力線維性仮性黄色腫一劣性II型 表1 . Popeの分類と本邦報告例 Clinical characteristicsof the genetic group of PXE (After Pope, 1973) Recessive Dominant Recessive Dominant n n l l 12 52 症例2,♀ 皆見ら 肥田野 野原ら 松田ら 3 54 症例1,♀ Number 13歳 35歳 ∼ − − − + 25歳 自験例 S 36歳 25歳 − + − − − + − − − − − + + + + + + − − Cutaneous 12(100%) − 1(8%) − − Classical flexural 35(70%) 7(13.9%) − Macular 33(G6%) 2(3.9%) − General 12(24%) − 40(77%) − 3(100%) peau d'orange and eruption increase General of extensibility cutaneous PXE Vascular 7(56%) − − − − Angina − − Claudication 7(56%) − 9(75%) 4(7.8%) 10(19.7%) − Hypertension 1(8%) 2(3.8%) − Haematemeses 9(75%) 4(7.8%) 18(35%) − Severe 24(47%) − Angioid − Transparent 8(15.8%) + − − − Ophthalmic 4(34%) 24(47%) 1(1.9%) choroiditis − 6(12%) − 4(8%) − − Peau − 9(18%) − − Prominent 3(24%) − 1(8%) − − streaks + retina d'orange retina choroidal 24(48%) 3(5,8%) − Myopia 27(54%) 6(11.9%) − High arched 21(41%) 5(9.8%) − Blue sclerae 18(35%) 3(5.8%) − Loose − − + + vesseIs − − 十(rs) + palate − − − jointedness − − − − Pathologic Denegeration of elasticfiber Calcium fiber depositionin elastic Elastosisperforans serpiginosa 職 業 には,軽度の高血圧症,弾力線維の石灰沈着, perforans serpiginosa(以下EPS)が見られ, elastosis cutislaxa + + 十 + + 一 + 十 + + 一 + 一 + − 学生 会社員 農業 Popeのいう劣性1型は,皮膚の弛緩が見られ,種々の 合併症すなわち心血管系障害,眼症状等を伴わないもの とEPSの合併例でPXEの特殊例と診断し報告してい と解釈すれば,自験例はその典型で,肥田野の観察時も る.この時期をPopeの分類に準ずれば,ほぽ劣性皿型 それに近いものと思われるが,松田らの症例は,野原ら と思われる.症例2は, の観察時も含めて,種々の合併が見られることから,典 1966年,野原ら1°)の報告時(25 歳)には,皮膚の弛緩,歩行障害,梨子地眼底,右近視 型的な劣性I型とするには疑問の余地があると思う.劣 および弾力線維の石灰沈着が見られcutis 性n型は,皮膚の弛緩を唯一の特徴とするものと考えら している.同一症例につき,前述したように, laxa と診断 1979年, れ,Pope自身が認めたにしても疑問を残させる.この 松田ら町こより報告されている.松田らの報告時(36歳) 様な点から,松田らも指摘しているよりに, には,扁平黄色結節peau d'orange, 眼症状すなわち両 類にはなお若干の問題があり,今後検討する必要がある streaks,梨子地眼底等が見られ, と思われる,少くとも今回我々が感じた事は,劣性n型 側近視性乱視angioid Popeとの音信の結果,劣性Ⅱ型としている.ここで Popeの分 のcriteriaを広げる事が必要かもしれないという事であ 1154 米良ト修二ほか……== る.つまり,表1に見られるような,弾力線維の石灰沈 や内側に石灰沈着が始まっているものと思われるものが 着の見られないcut is laxa としか診断しえないような時 あり,両者の考えとも否定しえない所見と考えた(図7 期から,臨床的組織学的にも典型的なPXEの所見を示 し,眼症状,心血管系障害等の合併をきたす時期まで, 広い範囲のものを劣性n型とし,その中で今後検討を重 A, B, C, D).しかし,頻度としては,後者がより 多く見られた. さて, PXEに関しては,前述した石沢沈着について ね,より明確な分類を求めて行く事が必要と思われる. の研究が主で,細胞成分についての若干の記載はある またPope自身も松田らの症例を劣性n型と認めるこ が,今回我々の観察した変性細胞ならびにその細胞内の とから考えると,同様の考えを持っているものとも考え 封人体については末だ記載がない.変性細胞は,変性初 られる. 期のものから崩壊寸前のもめまで段階的に見られ,細胞 またcutis laxa 様の臨床症状を皇するものが,経過 小器官としては,ライソソーム様のもの,少量のER, と共にPXEの臨床的組織学的特徴を持つようになる事 前述した針状結晶,微細穎粒状,粗大穎粒状の三種の封 は,今回述べたように見られるが,最初PXEの皮疹が 人体があり,多数の突起を出している.我々は,この変 出現し,その後全身に拡大,そしてcutis 性細胞をfibrocyte系の変性過程のものと考兇たが,今 laxa様を示し てきた症例は文献上見当らず,全身の皮膚の弛緩をきた すこの劣性n型は,他のPXEの型とは病因が異なるこ た. 三種類の封人体についてはTomonagaら21)のSMON とも示唆され,今後の検討が必要とされる. 1978年Otkjsr 回は明らかなfibroblastからの移行像を見出し得かかっ Nielsen ら13)により,農薬Salpeter 患者の筋細胞,富永ら22)の特発性心筋症の心筋内のミト PXEの病因論上興味 コソドリアにも認められ,とくに富永らは,心筋のミリ 深いものと思われた.自験例の職業も農業であることか コソドリアはカルシウムと強い結合能を有し,心筋細胞 ら,このよりな原因も完全に否定しないものと思われ 内において大量のカルシウムをくみ上げ,筋漿内カルシ によるPXE様病変が報告され, ウム濃度を調節する作用を持ち,そのカルシウムの大量: た. 流入は,何らかの細胞膜の障害が原因であろうとしてい 電顕的事項 次にPXEの電顕的研究は,諸家14)-20)の報告があり, る.我々は,今回観察した三種類の封人体が, PXEの 次第に明らかにされつつあるが,全身的な皮膚の弛緩を 病因とどのような関連を持つものか,追究し得なかった 呈するPXEの劣性n型め症例の電顕所見は,未だ報告 が,比較の意味で,31歳男の典型的PXE患者の扁平黄 されていない. 色結節を電顕的に検索した,その結果,多数のfibrob- まず石灰沈着に関しては,これが弾力線維におこる事 last, 弾力線維の石灰沈着は認められたが,本症例のよ がPXEの本体であることは,ほぼ一致しているが,石 りな変性細胞やミトコンドリア内の封入体などは探し得 灰沈着と弾力線維の変性の時期については議論がある. なかった.そこで,我々は,これら変性細胞,封人体 Hashimotoら“),□福代ら"' Danielsen ら17)19)は,石灰 が,劣性皿型特有のものなのか,あるいはPXEの時期 沈着のごぐ初期には弾力線維はあまり変化していないこ によっては出現するものなのか,今後,他の型の症例も とから,石灰沈着が最初におこりj沈着の度合が増すに 含めてさらに検討したいと思う.\ 犬 つれて弾力線維の変性,変形が起るとしHuangら15) 本論文の要旨は,第79回日本皮膚科学会総会展示にj発 川田ら'≪, Mckeeら2o)は,若干の解釈の違いはあるが, 表した. ≒ ヶイ 弾力線維が成熟過程あるいは成熟後に変性し,その後石 附記 なお,本論文提出後,日本電子株式会社昭島製 灰沈着が起るとしている.我々の観察では,ほとんど変 作所のAnalytical 化のない弾力線維に石灰沈着を起こし七いると思われる の沈着物およびミ!ヽコソドリア内の針状結晶は,いずれ ものと,弾力線維の外縁が虫食い像様に変化し,そのや もカルシウムであることを確認した. , 文 献 1) 2) Pope, CunlifFe, Rook, 3rd ed,, London, A・, W.E.-. 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