高校生時の一卵性双生児の競争意識と進路決定場面における自主的傾向の関連性 一学校環境の違いに注目して一 学校教育学専攻 臨床心理学コース M08057K 上月直美 I.問題と目的 傾向へどのように影響するのかを明らかにする 三木ら(1964)は、双生児の相互関係が自主的 ことを目的とする。 傾向の発達に与える影響について,r進路の決定」 皿.方法 場面においては、一般児に比べると双生児は自分 1.調査対象者:①双生児群:高等学校を卒業 で決める回数が少なく、他人の決定に従うことが した18歳∼29歳の男女一卵性双生児57組114名。 多いという結果を見出した。一方、天羽ら(1997. (rmiXi」群と縁故法群)。②一般児:高等学校を 1998)は、双生児の競争意識について検討し、同 卒業した18歳∼29歳の男女のうち3歳差までの じ学校にいるものは相手のことにこだわり競争 きょうだいがいる者97組194名。(A大学群と縁 意識が強いものが多いが、一方別々の学校にいっ 故法群)。 たものは得意分野ができて競争意識が減少した 2.調査方法:①双生児群:mixi,パソコンを ものが多いという結果を示した。しかし先行研究 選択してもらい,送信した質問紙に記入し返信。 は,学校環境の違いにより影響を受けた競争意識 縁故法により調査依頼をし,質問紙に記入の上返 と「進路の決定」場面における自主的傾向との関 信用封筒で郵送。②一般児群:各授業の担当教員 連についての報告はなされていない。学校が同じ に依頼して,授業時に調査依頼をし,各自持ち帰 双生児は,相手にこだわり競い合うことに重点を り、質問紙に記入の上返信用封筒で郵送。きょう 置くと考えられる。その結果,自分自身に目が向 だい構成や属性を確認の上,縁故法により調査依 かず,いざ進路を考える際,自分で決めることが 頼をし,質問紙に記入の上返信用封筒で郵送。 できず,他人の決定に従うものが多くなるのでは 3、調査時期:2009年4月∼10月 ないだろうか。逆に,学校が違う双生児は,それ 4.質問紙の構成:(1)フェイスシート=性別, ぞれに得意分野を見つけ競争意識が弱まると考 年齢,所属,きょうだい構成,一般児に対しては, えられる。その結果,直接自分自身を見つめるた 3歳差のきょうだいと通っていた高校が同じであ め,進路決定をするときも自分自身で決めるもの ったか。(2)高校時代のr進路決定」場面におけ が多く,他人の決定に従うものは少なくなるので る相談相手と自主的決定:三木(1964)を参考に はないだろうか。そこで本研究では、①高等学校 して,「進路決定」に関する3人の相談相手を選 が同じもしくは別の一般児,一卵性双生児を対象 択肢と自由記述で回答を求めた。実際の決め方に に,三木ら(1964)の研究を追試発展させ,双生 ついて,相談相手の意見やアドバイスを取り入れ 児の学校環境の違いによって生じる競争意識の たか,自分で決めたか。(3)高校時代の競争意識: 差,競争意識の差によって生じる「進路決定」場 太目ヨ(2004)が作成したライバル観尺度の「相互 面における自主的傾向の差について明らかにす 性・互恵性」12項目とr競争意識」8項目。(4) ることを目的とする。②双生児の競争意識に注目 きょうだい関係:飯野(1994)に倣い,きょうだ し,競争意識が「進路の決定」に見られる自主的 い関係を「共存関係」「対立関係」「保護・依存関 130一 2.競争意識と「進路の決定」場面の自主的傾 係」「分離関係」の各4項目。 皿.結果 向,親和との関連:双生児群の競争意識の高い者 1.回収率:双生児群=回収された23組46名の は相手に勝とうと努力するが実際は相手に完全 うち16組32名を分析対象(有効回答率28%)。き に負けて欲しくないという双生児独特の気持ち ょうだい群:回収された34組68名のうち26組52 を持ち,自分の実力を把握し,進路を決める際自 名を分析対象(有効回答率27%)。 分で決める傾向がある。このことは,相手に頼っ 2.高校が同じ群と違う群による「高校時代の競 たり相談したりすることができる強い結びつき 争意識」の比較1Mam−WhitneyのU検定より,き を感じていることが背景にあると考えられる。双 ょうだい群の「高校時代の競争意識」「競争意識」 生児群の競争意識の低い者は相手と比較して自 に有意差がみられた。きょうだい群において,高 分の実力を把握することが少なく,進路を決める 校が同じ者の「高校時代の競争意識」「競争意識」 際自分で決めることにつながりにくい傾向があ の得点は高校が違う者に比べて有意に高かった。 る。このことは,相手に頼ったり相談したりする パ検定を行った結果,双生児群,きょうだい群の ことができる結びつきをあまり感じていないこ 高等学校環境に有意な人数比率の偏りが見ら札た。 とが背景にあると考えられる。双生児の相手に対 3.「高校時代の競争意識」とr自主的決定」の する競争意識や結びつきが,大学,就職などの独 関連:Speamanの順位相関係数より,双生児群の 立への支えとなっているといえるだろう。 V.今後の課題 「高校時代の競争意識」全体と「自主的決定」の 間では比較的強い相関がみられた。単回帰分析を サンプルサイズの拡大は残された大きな課題 行った結果,双生児群では「高校時代の競争意識」 である。養育者の双生児を育てる基本的姿勢が, はr自主的決定」へ促進的な影響を与えていた(β 双生児の高等学校環境,競争意識,結びつき,自 =.43,p〈.05)。双生児群の「高校時代の競争意識」 主的決定にどのような影響を与えているかを把 2項目とr自主的決定」の間では比較的強い相関が 握することで,双生児の実情にあった進路場面の 見られた。きょうだい群の「高校時代の競争意識」 自主的決定の検討を行えるようになると期待で 各項目と「自主的決定」の間に相関は見られなか きる。 った。 く引用文献〉 4、「高校時代の競争意識」と「親和」の関連= 天羽幸子・詫摩武俊 1997双生児の競争意識について一中学, 双生児群,きょうだい群それぞれのr高校時代の 高校生の一般生徒との比較を中心に一 日本性格心理学会 競争意識」とr親和」の間では比較的強い相関が, 大会発表論文集,6,15 双生児群の「高校時代の競争意識」と「親和」の 天羽幸子・詫摩武俊 1998双生児の競争意識について 日本性 保護・依存関係項目の間では比較的強い相関が, 格心理学会大会発表論文集,7,32−33 きょうだい群の「高校時代の競争意識」と「親和」 飯野晴美 1994 きょうだい関係スケール 明治学院論叢、541, の保護・依存関係頭目,共存関係項目間に低い相 89−109 関がみられた。 三木安正・波多野誼余夫・久原恵子・井上早苗・江口恵子 1964 1V.考察 双生児による人格形成の研究:皿双生児の対人関係の発達 1.高等学校環境の違いと競争意識との関連: 教育心理学研究,12,1,1−11 高等学校環境の人数比率に偏りがあるという限 太田伸幸2004 ライバル関係の認知の基準1ライバル観尺度の られたサンプルであったため,本研究において高 作成 社会心理学研究,19,3,221−233 等学校環境の違いと競争意識との関連は見いだ 主任指導教員:遠藤裕乃 すことはできなかった。 指導教員:遠藤裕乃 131
© Copyright 2025 ExpyDoc