自治体の「婚活」事業

生活知識情報
自治体の
「婚活」
事業
第
2回
大瀧 友織
少 子 高 齢 化 が 進 む 日 本。
その現状と私たちや社会
ができる対策を考えます。
0taki Tomoori
博士(人間科学)。広島国際大学心理科学部コミュニケーション心理学
科講師。主な研究テーマは、結婚観・配偶者選択、夫婦関係の変遷など。
自己評価としては3割が「効果が中程度」と回
「婚活」事情の現状
答しています。自治体婚活事業は、どのような
課題を抱えているのでしょうか。
現在、多くの自治体において結婚支援事業が
実施されています。2010年に内閣府が行った調
査によると、事業を実施している自治体は47都
兵庫県における「婚活」事例
道府県のうち、31(66%)にのぼります。
多くの自治体がこのような事業を行う背景に
ここでは、事業の一例として、兵庫県が実施
は、少子化の進行があります。国立社会保障・
している「こうのとりの会」および「ひょうご
人口問題研究所の岩澤美帆氏と三田房美氏は、
出会いサポート事業」
(以下、出会いサポート)
1975年以降の出生率低下の原因の約7割が、未
という2つの結婚支援事業について紹介します。
婚化・晩婚化の進行によるものであると指摘し
前者は1999年に始まった事業で、
「農山漁村
ています。また、1970年代以降「初婚率の総変
部の豊かな自然環境の中での暮らしを希望する
化(減少)
」に占める割合は、見合い結婚の減少
男性と女性が出会えるきっかけをつくること」を
が5割、職場での出会いを通した結婚の減少が
目的としています。当時は自治体がこのような
4割近くを占め、初婚率の低下の主な原因は、
事業に乗り出すことが珍しく、
「県がお見合い事
この2つの要因によるものだと述べています。
業をスタート」などと新聞に報道されて話題に
その他の学校や友人・知人・趣味を介した出会
なりました。対象者は20歳以上の独身男女とし
いや街中での出会いなどから結婚に至る確率は、
ていますが、男性については「主として兵庫県
40年間ほぼ変わっていません*1。
内の農山漁村部にお住まいの方」と限定が付い
ており、少子化のみならず過疎対策を念頭に入
こういう状況のなかで、経済産業省は「伝統
れた事業であることが分かります。
的に結婚を促進する機能を担ってきた家族や地
域、職場に替わって、新たに若年層の結婚を支
それに対して後者は、
「少子化対策の一環とし
援する産業、特に結婚相談業・結婚情報サービ
て、仕事等が忙しくてなかなか出会いの機会が
ス業を中心に、その社会的機能の明確化と活性
ない独身男女の新たな出会いを支援する」こと
化を促すことが重要であると思われる」と報告
を事業目的に挙げており、対象者についても兵
しています*2。
庫県内在住もしくは県内で仕事をしている独身
一方、結婚支援事業を実施している31都道府
男女としています。ただし、いずれも交流会と
県のうち71%の事業において200万円以上の年
呼ばれるいわゆる「お見合いパーティ」を実施す
間予算が計上されているものの、事業に対する
ることが主たる事業で、内容はほぼ同じです。
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下の表は両事業の参加者数、カップル数、カッ
抵抗感を感じるということが、これまでの調査
プル成立割合の平均を示したものです。両交流
結果から明らかにされています。その理由とし
会において、男女共約20人が参加し、
「こうのと
て、参加者たちからは「結婚を支援」する事業
りの会」では4組弱、
「出会いサポート」では6
を利用するのは「自然ではない」ことで、
「最
組強のカップルが成立しています。カップル成
後の手段」であるという点が挙げられています。
立割合はそれぞれ18%、27%となっています。
例えば、
「出会いサポート」の参加女性は次の
ように述べています。
「何かねえ、何かやっぱり自分で探せないみた
事業が抱える課題と今後
いなイメージがあって。
自然じゃないみたいな。
ほぼ同様の事業であるにもかかわらず、上記
もうちょっと自然なシチュエーションで出会っ
のように「こうのとりの会」と「出会いサポー
て付き合って結婚したいって思っていて。
『出会
ト」とでは、カップルの成立割合に違いが生じ
いサポート』は、もう、すごいセッティングさ
ています。このような違いが生じる原因として、
れてるじゃないですか。業者とか、他人にお膳
立てされてまでっていう。友達のセッティング
「こうのとりの会」のスタッフは、特に郡部出身
の男性が「結婚という文字を背負って来ている」
した合コンやと自然にみえるんですけれども、
ことを挙げています。男女の参加意識の差も大
こういうところはお膳立てされてるっていう意
きく、最初の段階で「結婚」がクローズアップ
識が強いんですね。でも、どっちみち一緒なん
され過ぎることが問題であるとも述べています。
ですけどね。
」
また、イベントの企画・進行を請け負うスタッ
したがって、やや矛盾するようですが、結婚を
フも、
「パーティの中でね、結婚まで発展するの
支援するためには、結婚それ自体が目的である
は、エグゼクティブなパーティとか真剣な出会
ことや、他者によってアレンジされている部分
いのマリッジプランではないんです。むしろカ
は「背景」になるように、
かつ「自然な出会い」
ジュアルなパーティなんです」
と話しています。
と認識されるような、サークル的な場として提
このように出会いや結婚を支援するものであ
供することが重要になっていくと考えられます。
るにもかかわらず、その点を前面に出し過ぎる
最近、登山やスキー・テニスなど趣味の要素
ことは、逆効果になる可能性があるといえるの
を強調する婚活事業もみられます。参加者たち
です。つまり、出会いや結婚といったことを前
の話を聞く限りでは、こういった事業のほうが
面に出さずに「背景」となっているようなイベ
スムーズに結婚を支援できるかもしれません。
ントのほうが望ましいということになります。
*1 「職縁結婚の盛衰と未婚化の進展」
『日本労働研究雑誌』2005年
1月号 No.535 16ページ。
これは「こうのとりの会」のみにあてはまる
ものではありません。自治体などが行うこのよ
「少子化時代の結婚関連産業の在り方に関する調査研究報告書」
*2 2006年5月 経済産業省商務情報政策局サービス産業課
うな事業に参加することに対して、男女ともに
表
*3 交流会ごとのカップル成立割合の平均値
「こうのとりの会」
「ひょうご出会いサポート事業」の交流会概要(2007年度実績)
こうのとりの会
出会いサポート
平均参加者数(男性)
22.1人
21.3人
平均参加者数(女性)
21.3人
21.2人
平均カップル成立数
3.7組
6.2組
平均カップル成立割合*3
18%
27%
「カップルの成立割合」は、
〈(成立カップル数)×2÷参加者数〉により算出。
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