NTN TECHNICAL REVIEW No.75(2007) [ 解 説 ] 電装・補機用商品の技術動向と開発商品 Technology trends and development products for accessory 藤 庭 郁 雄* Ikuo FUJINIWA 村松 誠* Makoto MURAMATSU 田 中 唯 久* Tadahisa TANAKA 自動車の環境対応,高機能化などの要求を受けて,NTNでは電装・補機用 商品の長寿命化,高機能化,及び軽量・コンパクト化に貢献する商品を開発 した.本稿ではこれら開発商品の構造,特長並びに評価試験結果を紹介する. In response to the demand of environmental correspondence,high performance, etc. for automobile, NTN developed the accessory products which contribute to long-life, high performance, light weight,and compact . In this paper,we introduce the structure, the feature, and evaluation test result of these development products. 1. にどのように関わり,貢献しているかを紹介する. はじめに なお,クラッチ内蔵プーリについては,商品紹介 「オルタネータ用小型クラッチ内蔵プーリ」に別掲と 自動車は20世紀末から21世紀にかけて,パッシブ する. セーフティからアクティブセーフティへの進化,環境 保護意識の高まり,利便性の向上要求等の要素が絡み 合い,安全,環境(低燃費),快適性,そして低コス トを大きな柱に発達してきた. それに伴い,電装・補機を始めとする自動車部品に 補機ベルト用オートテンショナ オルタネータ用軸受 対して,長寿命化,信頼性向上(=安全),環境負荷 物質の廃止,軽量化,コンパクト化(=環境,低燃費), 振動軽減,静粛性向上,手動から電動への移行(=快 適性)等,要求される水準はますます厳しくなってき ている. NTN ではこれらの要求に対し,軽量コンパクトな 電磁クラッチ用軸受,電気負荷増大に対応するオルタ ネータ用軸受,補機ベルトの静粛性・長寿命化を支え る補機ベルト用オートテンショナやクラッチ内蔵プー リユニット等の商品を開発することで応えている.な 電磁クラッチ用軸受 お,これらの商品には,環境負荷物質が一切含まれて クラッチ内蔵プーリ いないことは言うまでもない. 図1にエンジン概略図と上記NTN商品の適用例を示 図1 エンジン概略図 Engine and accessory device す.以下の各章ではこれら NTN 商品が自動車の発展 ***自動車商品本部 自動車技術部 -110- 電装・補機用商品の技術動向と開発商品 2. 以上に加えて開発した軸受の特長を以下示す. 電磁クラッチ用複列軸受 1 耐泥水性向上 ・従来品に対して泥水浸入量を約1/10に抑制 カーエアコンの電磁クラッチ用軸受は,外部からの (図4) 水分や塵埃が侵入し易い環境で使用されるため,軸受 本来の寿命を確保するには,高い密封性を有するシー ・高速回転時においても安定した耐泥水性を確保 ル機能を具備することが必須である.また,近年の信 ・薄肉軸受(断面高さが標準品の約70%)にも対 応可能 頼性向上要求に対して,グリースの高温長寿命化が課 2 高温長寿命 題となっている.今回,これらの要求に応えた軸受を ・従来品に対して約2倍の長寿命を確保(図5) 開発したので紹介する. 3 環境対応 開発したシールは,FEMや品質工学によりシール ・亜硝酸ソーダを含有しないグリース リップの接触角度,先端形状やシールが接触する相手 摺動面の表面粗さを最適化し,低速回転から高速回転 表1 グリース性状表 Grease properties まで安定した密封性を有している.図2に電磁クラッ チ用複列軸受の断面図を,図3に従来品と開発品のシ 当社従来品 開 発 品 ジウレア ジウレア エーテル油+PAO エーテル油 ールリップ部形状を示す.また,グリースの長寿命化 増ちょう剤 については,外輪回転に適したウレア系増ちょう剤の 基 油 適用によって従来品比2倍の長寿命グリースを開発し 基油粘度 mm2/s(40˚C) 72.3 た. 発錆率 % 10.2 0.8 亜硝酸ソーダ 含有 非含有 表1に従来品と開発品のグリース性状を示す. 100 電磁クラッチ 当社従来品 図2 電磁クラッチ用複列軸受 Cross-section of double-row bearing for electromagnetic clutch 開発品 図3 シールリップ部の形状 Cross-section of seal lip 800 0.4 700 泥水浸入量 g 0.35 0.3 0.25 焼付き寿命 h 試験条件 回転数:2,000min-1 荷 重:1,960N 泥水量:1L/min 10wt% 試験時間:3時間 0.2 0.15 600 500 回 転 数:7,000min-1 荷 重:1,470N オフセット:13mm 軸 受 温 度:160℃ 雰囲気温度:120℃ 400 300 0.1 200 0.05 100 0 試験条件 0 他社品 当社従来品 他社品 開発品 図4 シール性の評価試験結果(シール泥水試験) The evaluation test result of seal nature 当社従来品 開発品 図5 耐久性の評価試験結果 The evaluation test result of durability -111- NTN TECHNICAL REVIEW No.75(2007) 3. 要求される.軸受各構成部品の特長は以下のとおりで オルタネータ用高温長寿命玉軸受 ある. 自動車用発電機は当初,ダイナモと呼ばれる直流発 1 軸受材質 電機であったが,電装品の装着率増加に伴い,小型で 発電能力の大きいオルタネータが使われるようになっ 軸受材には高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)を採用 た.オルタネータには通常,2個の深溝玉軸受が使用 し,安価で長寿命を実現した.さらに,特殊熱処 されており,オルタネータの小型化,軽量化,高出力 理を施して高温での寸法安定性を確保するととも 化に寄与している. に,耐脆性剥離性を向上させた.図8に脆性剥離 寿命比較試験結果を示す. 快適性や安全性,および燃費向上のため車載の電動 2 保持器 化が進んだ現在では,オルタネータのさらなる発電量 アップが求められている.そのため,運転時の軸受の 保持器にはボールの進み遅れによる荷重が絶えず 温度は,現在の150℃から180℃程度まで上昇する 負荷されるため,高い強度が必要とされる.また, ことが予測され,高温下で寿命が長く,かつオルタネ ボールを安定して保持するためには,広い温度範 ータ用軸受に特徴的な剥離(脆性剥離)のない軸受が 囲でポケットすきまが安定していることが重要で 求められている.今回,180℃でも連続使用可能な ある.本保持器材料には,高温性に優れた芳香族 オルタネータ用玉軸受を開発したので紹介する. ポリアミド樹脂を採用し,これら要求に対応して 図6にオルタネータの構造図,図7に軸受概略断面 いる. 図を示す.軸受はロータ,ファン,プーリを含む軸を 3 シール 支持し,ハウジングに取り付けられている.フロント ゴム材質は,新開発の耐熱アクリルゴムを使用し, 軸受は荷重点(プーリ)に近いことから耐荷重性が, 180℃での使用を可能にした.図9にシールゴム リア軸受は周囲の放熱性がよくないことから耐熱性が 材料の耐熱寿命線図を示す. フロント軸受 リア軸受 フロント軸受 図6 オルタネータ概略図 Cross-section of alternator 160 10000 100 80 ACM 開発材 時 間 h 120 時 間 h 図7 オルタネータ用高温長寿命玉軸受 Cross-section of bearing and seal 軸 受:6303 回 転 数:0∼20,000min-1 ラジアル荷重:1,617N 電 流:1.0A 雰 囲 気 温 度:室温 140 リア軸受 60 1000 100 40 20 10 0 開発軸受 SUJ2標準 150 160 180 温 度 ℃ 図8 脆性剥離寿命試験結果 Test result of brittle flaking life 図9 ゴム材料耐熱寿命線図 Durability by seal material -112- 200 電装・補機用商品の技術動向と開発商品 また,常に締代を確保した公差設定とし,低トル 4. クで,かつグリース洩れや外部からの異物侵入を 防止したリップ形状を形成している. 補機ベルト用オートテンショナ 近年,環境への配慮が高まる中,エンジンの小型軽 4 グリース 量化のため,補機類を1本のベルトで駆動するサーペ 水素結合力を強化させたウレア系増ちょう剤を使 ンタイン式が多く採用され,ベルトの伸びや張力調整 用し、添加剤を工夫して高温での寿命を従来比 にオートテンショナが必要となっている. 50%向上させた.表2に開発グリースの性状表を, 補機ベルト用オートテンショナには,ダンパの構造 図10に180℃グリース寿命試験結果を示す.同 として,摩擦式と油圧式の2種類があり,NTNでは,高 時に,脆性剥離寿命も従来品に対して2倍に向上 いダンパ力と高い信頼性により油圧式を採用している. させた. NTN 製オートテンショナの特徴を以下に,構造を なお,このグリースは,亜硝酸ソーダを含有しな 図11に示す. い環境対応グリースである. 5 膨張補正軸受 1 軽 量 リア軸受は,通常は外輪とハウジングの間はすき 油圧ダンパ部のケースであるシリンダとばね座は, ま嵌合される.ハウジング材質はアルミであるこ アルミダイカスト製とし,鋼製のバルブスリーブと とが多く,運転中に軸受がクリープしてハウジン の組合せにより軽量化と耐摩耗性を両立している. グが摩耗すると,発電性能に悪影響を及ぼす. 2 高信頼性 NTNでは,外輪外径部に,線膨張係数が大きく耐 油圧ダンパ部の作動オイルの密封にオイルシール 熱性に優れた樹脂製リングを冠した膨張補正軸受 を採用し,ダンパ内部を気液二層構造とすること を開発し,ハウジングの摩耗防止を図っている. でオイル漏れに対する信頼性を確保している. プーリアーム部とエンジン側それぞれの連結部に は,高強度のゴム製ブッシュを採用し,耐摩耗性 表2 グリース性状表 Grease properties 増ちょう剤 基 油 を向上させ悪環境下での使用を可能にしている. 開発グリース 従来グリース 芳香族ウレア 芳香族ウレア 3 チューニング 一般的なレシプロエンジンにおいて,オートテン エーテル+PAO エーテル+PAO 53.5 72.3 100˚C 8.5 10.1 286 300 >260 227 基油動粘度 mm2/s 40˚C 混和ちょう度(60w) 滴点(˚C) ショナには図12に示すエンジンクランクの角速度 変化に起因する回転2次の正弦波状荷重が入力さ れる. また,図13に示すように,エンジンの回転領域に おいては,エンジンや補機類の負荷に応じたベルト 張力変化が発生し,回転数の低い領域(2000min-1 1000 以下)では特に大きなベルト張力変化があるため, 時 間 h 高いダンパ力が必要とされる場合が多い. 試験温度:180℃ 回 転 数:10,000min-1 800 油圧ダンパの減衰としては,図14に示すような一 方向ダンパであり,そのダンパ力は,エンジン毎 600 の特性に合わせて高ダンパ仕様や低ダンパ仕様な 400 ど最適設定を行うことが可能である.また,リタ ーンスプリングをケースの外側に配置し,多様な 200 ベルト張力要求にも対応可能である. 0 開発グリース 従来グリース 更に,エンジンの小型軽量化や低燃費に貢献する商 図10 グリース寿命試験結果 Test result of grease life 品として,一層小型軽量で低コストを追求した小型補 機ベルト用オートテンショナ(図15)の開発も進め ていく. -113- NTN TECHNICAL REVIEW No.75(2007) 連結部(ゴム製ブッシュ) プーリ部 ばね座(アルミダイカスト) シリンダ(アルミダイカスト) 止め輪 オイルシール 空気 ロッド 油圧ダンパ部 ウェアリング リターンスプリング オイル プランジャ チェックボール バルブスリーブ(鋼製) バルブリテナ プランジャスプリング アーム部 連結部(ゴム製ブッシュ) 図11 補機ベルト用オートテンショナ構造 Sectional view of auto-tensioner for accessory belt 高ダンパ仕様 3000 最大荷重 2000 1000 最小荷重 0 360 0 720 1080 1440 クランク角度 deg 図12 クランク角速度の生波形 Angular velocity of crank pulley テンショナ発生荷重 N テンショナ入力荷重 N 5000 4000 4000 3000 低ダンパ仕様 2000 1000 ばね力 0 -0.6 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 振 幅 mm 「ベルト張力変化大」 テンショナ入力荷重 N -0.4 図14 ダンパ特性 Damping characteristics 4000 3000 2000 最大荷重 1000 最小荷重 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 エンジン回転数 min-1 図13 オートテンショナへの入力荷重変動 Auto-tensioner input load variation depend on engine speed 図15 小型補機ベルト用オートテンショナ Compact auto-tensioner for accessory belt -114- 電装・補機用商品の技術動向と開発商品 5. おわりに 本稿では,自動車の電装補機品の動向及び, NTN の取り組みについて紹介した.このような電装補機用 商品が自動車の安全性,環境対応要求に合致した商品 として広く市場展開されることを期待する. また,電装補機用商品に対する要求はますます高ま ってくることが予想されるため,要求環境に対応でき る高機能商品の開発を一層進めていきたい. 参考文献 1)北野,田中,中川:NTN TECHNICAL No.73 P116 (2005) REVIEW 執筆者近影 藤庭 郁雄 村松 誠 田中 唯久 自動車商品本部 自動車技術部 自動車商品本部 自動車技術部 自動車商品本部 自動車技術部 -115-
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