シカの安全で効率的な捕獲手法の開発 -シカの集まりやすい環境条件- 和歌山県果樹試験場 環境部 植田栄仁 1.はじめに 近年、ニホンジカ(以下シカ)によるカンキツ類の葉や樹皮の食害が問題となってきてい る。防護柵等の設置や有害鳥獣捕獲・管理捕獲などの対策が講じられているが、今後、狩猟 者の減少が懸念されている。そこで効率的な捕獲手法を確立するため、ライトセンサス調査 によるワナの効果的設置場所の探索や給餌試験による誘引エサの検討を行った。 2.調査方法 1)ライトセンサス調査 夜間、自動車からライトで周囲を照らし、目撃されたシカを記録した。調査は 2012 年 9 月から 2013 年 7 月まで 2 ヶ月毎に実施した。調査経路は有田郡内の林道、集落、山頂周辺 など合計 37.4km で実施した。シカが目撃された地点を広葉樹林、人工林、新規植裁地・伐 採跡地、農地、耕作放棄地、造成地、構造物敷地、車道、河川敷の 9 種類の土地に区分し、 1km 当たりの頭数として集計した。 2)給餌試験 シカが多く集まる造成地内に 2 試験地(造成地 1、造成地 2)を設けた。各試験地には赤外 線センサーカメラを設置し、摂食状況を調査した。カメラは 15 秒間隔で、静止画を 1 枚撮 影したのち動画(明所 30 秒、暗所 10 秒)を撮影する設定とした。 試験は 2012 から 2013 年にかけ実施した。ヘイキューブと米ぬか、ヘイキューブとミカン 枝葉について摂食比較を行った。 3.結果・考察 1)ライトセンサス調査 (1)調査経路の概要は広葉樹林と人工林が大部分を占めている(図 1)。広葉樹林、人工林と も林床植生に乏しく、林道の法面付近は、シカにとって嗜好性が低いとされるシロダモ、 アセビ、ススキ、タケニグサ、ダンドボロギク、マツカゼソウ、ウラジロ、コシダなどが 優占しており、シカによる植生への影響が考えられた。新規植裁地はいずれもシカ防護柵 が設置されていた。 (2)シカは1回あたり約 30 頭目撃され、季節による大きな差は無かった(図 2)。 (3)シカの目撃された地点を分類したところ、耕作放棄地と造成地において 1km あたりのシ カ目撃頭数が多い傾向がみられた(図 4)。 2)給餌試験 (1) シカはヘイキューブと米ぬかの比較試験中において、一度に撮影された頭数は最大 5 頭 で、大きな群れは観察されなかった(図 4)。 (2)ヘイキューブに対し米ぬかの嗜好性はかなり低かった(図 5)。米ぬかを食べたとしても ごく少量で、すぐにヘイキューブのほうに移動した。ミカンの葉はヘイキューブと同様、高 い嗜好性がみられた(図 6)。ミカンの葉がなくなると、枝先や、樹皮を剥がして食べるな ど執着していた。 以上から、有田地域では、わなの設置場所は奥深い森林より、造成地や耕作放棄地が適して いると思われた。また、本地域のシカに対し、ヘイキューブとミカン葉が誘引力のあるエサと なることがわかった。 11 林 道 A線 ( 尾 根) 林 道 B線 ( 尾 根~谷 ) 林 道 D線 ( 尾根 ~谷) 広 川 町 道C線 (尾根 ~谷) 湯 浅 町 E山 ( 造 成地が 多い) 広葉樹 スギ・ヒノキ人工林 新規植栽地・伐採跡地 農地 耕作放棄地 造成地 構造物敷地 河川敷 湯 浅 町 F( カ ンキ ツ園) 広 川 町 C集 落 (水田 ・花木 園・家 庭菜園 ) 有 田 川 町D集落 (カン キツ園 ・水田 ・家庭菜園) 0 2 図1 図2 図4 4 6 10 距離( ㎞) 8 ライトセンサス調査経路の概要 図3 調査時期別目撃頭数 土地分類別目撃頭数(1km あたり) 一度に撮影された頭数の頻度 図5 ヘイキューブと米ぬかの給餌試験時のデータ ヘイキューブ ヘイキューブかす ヘイキューブと米ぬかの摂食状況 ミカン葉 ミカン枝 100% 造成地1 50% 12/21-22 0% 1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 100% 造成地2 50% 12/21-22 0% 100% 造成地1 50% 12/25-26 0% 100% 造成地2 50% 12/25-26 造成地2 1/17-18 食べていた頭数 割合(%) 0% 100% 50% 0% 101 111 121 撮影順(件目) 図6 ヘイキューブとウンシュウミカン枝葉の摂食状況 ヘイキューブかすとはヘイキューブの塊がばらけたものを示す 1/17-18 は機材の不調により造成地1のデータは取得できなかった 12 131
© Copyright 2025 ExpyDoc