17 黄熱 1.黄熱について 黄熱の流行地域としては,アフリカと中南米の一部で,それも赤道を中心として南と北の緯度にして約 20 度の範囲内です。 黄熱の病原ウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する黄熱ウイルスで,節足動物媒介ウイ ルス(アルボウイルス)B群に属するウイルスです。この黄熱ウイルスは日本脳炎ウイルス,デング熱ウイ ルス,ウエストナイルウイルスと近縁のウイルスです。人が感染するのはウイルスを保有しているネッタイ シマカなどに吸血されることによります。 潜伏期は通常3∼6日で,突然の頭痛,めまい,発熱をもって発病します。体温は 39 ∼ 40℃に達し,筋 肉痛が強く現れます。吐き気を伴うことも多く見られます。2病日以降に見られるFaget症候(熱のわりに は脈拍数が少ない)が特徴です。3病日頃から熱は散発的に下降し始めますが,黄疸,吐血,下血,強い蛋 白尿など激しい症状が現れ,重症例では昏睡状態となり,死亡します。致死率は5∼10%といわれています。 症状の程度は上記の定型的な症例から不顕性感染例まで,さまざまなものがあります。 黄 熱 2.黄熱ワクチン ワクチン株である17D−204株は強毒黄熱ウイルスAsibi株をニワトリ胚初代培養細胞によって継代を重 ねて弱毒化したものです。 黄熱ワクチンはこの 17D − 204 株を発育鶏卵に接種してつくった生ワクチンです。そのため,卵アレル ギーの強い人には注意が必要です。凍結乾燥製剤であり,使用時に「黄熱ワクチン溶解液:日本薬局方生理 食塩液」3 mL をワクチンの入ったバイアルにゆっくり注入します。1∼2分間静置後, 「静かに」振り混 ぜて均一の懸濁液を作り,そのうち 0.5mL を接種します。 わが国で使われているワクチンは輸入ワクチンであり,ゼラチンが含まれています。そのため,ゼラチ ン対するアレルギー反応既往歴等の問診を十分に行い, 接種後は観察を十分に行うことがワクチン添付文書 に記載されています。 3.予防接種スケジュ−ル 一般の医療機関での接種は行われていません。検疫所などで接種を受けることになります。(参照 p21, Q16 予防接種全般についての項) 生後9カ月以上で,かつ,南米,アフリカで黄熱感染が公的に報告されており,黄熱ウイルスに感染す る危険のある国に渡航する場合で, 黄熱ウイルスへの曝露リスクが高いと考えられる人に対して奨められて います。黄熱ワクチンは,黄熱ウイルスへの曝露の可能性が低い地域では,一般的には推奨されていません。 接種に際しては,黄熱ウイルスに感染するリスク,各国の入国条件,ワクチン関連の重篤な副反応の可 能性(年齢,免疫状態等によって異なる)について考慮し,判断します。 厚生労働省検疫所(FORTH)のホームページに記載されている, 「黄熱に感染する危険のある国」 , 「黄 熱予防接種の推奨地域」は下記の通りです。 「黄熱に感染する危険のある国」 アフリカ地域:アンゴラ,ウガンダ,エチオピア,カメルーン,ガーナ,ガボン, ガンビア,ギニア, ギニアビサウ,ケニア,コンゴ共和国,コンゴ民主共和国,コートジボワール,シエラレオネ,スー ダン,セネガル,赤道ギニア,中央アフリカ,チャド,トーゴ,ナイジェリア,ニジェール,ブル キナファソ,ブルンジ,ベナン,マリ,南スーダン,リベリア,ルワンダ,モーリタニア 191 アメリカ地域:アルゼンチン,エクアドル,ガイアナ,コロンビア,スリナム,パナマ,フランス領 ギアナ,ブラジル,ペルー,ベネズエラ,ボリビア,トリニダード・トバゴ(トリニダード島のみ), パラグアイ 「黄熱予防接種の推奨地域」:厚生労働省検疫所(FORTH)[平成 25(2013)年8月現在 URL:http:// www.forth.go.jp/useful/yellowfever.html]より引用抜粋 黄 熱 黄熱ワクチン接種証明書が要求される国へ渡航する人に対して,0.5mLを1回皮下に接種します。黄熱ワ クチン接種証明書は,接種後 10 日後から 10 年間有効です。黄熱予防接種証明書を要求している国,黄熱ワ クチンの接種を行っている検疫所ならびに検疫所以外の医療機関の情報は, 厚生労働省検疫所のホームペー ジ(FORTH)に掲載されています[平成 25(2013)年8月現在 URL:http://www.forth.go.jp/useful/ yellowfever.html]。 また,政令(検疫法施行令)の改正に伴い,予防接種等の手数料が改訂されています(手数料は平成 22 (2010)年 10 月 1 日以降接種分から変更されています)。視診,問診等の診察料・証明書・予防接種料は厚 生労働省検疫所ホームページ(FORTH) [平成 25(2013)年8月現在 URL:http://www.forth.go.jp/news/ 2010/07301819.html]をご参照ください。 生後9カ月未満の乳児はワクチンによる脳炎発症の危険性が高くなるため接種できません。また,免疫 抑制を来す治療中,免疫機能に異常がある場合,本ワクチンの成分にアナフィラキシーの既往がある場合も 接種できません。妊娠又は妊娠している可能性のある女性への接種は推奨できません。ただし,妊娠又は妊 娠している可能性のある女性が黄熱の流行している地域へ旅行しなければならず, どうしても旅行を延期で きず,かつネッタイシマカに対する十分な防虫ができない場合は接種を考えざるを得ない場合があります。 すなわち,予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ接種するかどうかが考慮されます。 高齢者では,他の年齢層に比べ重篤な副反応が発現する可能性が示唆されているため,高齢者への接種 にあたっては,接種前後の健康状態の観察を十分行う等注意が必要です。ワクチンの添付文書によると,米 192 国での報告では,65 ∼ 74 歳および 75 歳以上での重篤な副反応発現率は 10 万人あたり 3.5 人および 9.1 人で あり,25 ∼ 44 歳の年齢層に比し,それぞれ 12.3 倍および 32 倍であったと記載されています。詳しくは黄 熱ワクチンの添付文書を確認してください。 4.黄熱ワクチンの副反応 黄熱ワクチンの副反応はおおむね軽いものです。ワクチン接種後5∼ 10 日の間に 10 ∼ 30%に発疹,頭 痛,筋肉痛,発熱などの症状が発現します。ただし,稀にショック,脳炎(20 万人接種に 1 人程度),肝機 能障害,呼吸不全,意識障害(錯乱),熱性多臓器不全 Viscerotropic disease(40 万人接種に 1 人程度),ギ ラン・バレー症候群などの重篤な副反応の発現が報告されています。ワクチン添付文書によると,熱性多臓 器不全とは,接種2∼5日目に疲労,筋肉痛,頭痛を伴う発熱があらわれ,呼吸不全,肝機能障害,リンパ 球減少,血小板減少,高ビリルビン血症,腎不全等の急速な進行を特徴とする多臓器不全です。 米国ACIPでは,接種後に重篤な有害事象が起こる可能性があるため,黄熱ウイルスへの曝露リスクのあ るヒト,又は国による接種証明が要求されるヒトに限り黄熱ワクチンを接種すべきであるとしています (CDC/MMWR 59(RR07)1-27/(2010.7.30))。 Q1 A 妊婦への接種は推奨できないとのことですが,予防接種免除の医師の証明書があれば 接種しなくてもかまわないのでしょうか。 黄熱ワクチンは生ワクチンなので,妊婦への接種は原則的に行われません(接種不適当者) 。妊娠 しているため接種が受けられない人は医師の証明書をもらって行けば, 検疫官が確認してくれます。 しかし, 国によっては通用しないこともありますので,あらかじめ旅行会社や検疫所でよく確かめてください。 できれば妊娠中の場合,流行国への入国は避ける方が無難です。 Q2 A 卵アレルギーのある人への接種はできますか。 ワクチンウイルスを培養する際にニワトリの胎児細胞を使っており, さらにそれを発育鶏卵に接種 してつくったワクチンのため,卵アレルギーの強い人には注意が必要です。また,このワクチンにはゼラチ ンが含まれていますので,ゼラチンアレルギーの人は注意が必要です。 193 黄 熱
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