超低損失柱上トランス用材料の研究開発 - 新エネルギー・産業技術総合

「超低損失柱上トランス用材料の研究開発」
事後評価報告書
平成15年2月
新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術評価委員会
目
次
はじめに
事後評価分科会委員名簿
審議経過
評価の概要
技術評価委員会におけるコメント
技術評価委員会委員名簿
1
2
3
4
7
9
第1章 評価の実施方法
1-1
第2章 プロジェクトの概要
2-1
第3章 評価
1.プロジェクト全体に関する評価
1.1
1.1 総論
1.2 各論
2.各個別技術に対する評価
3-1
第4章 評点法による評価結果
4-1
参考資料1 プロジェクトの概要説明資料
参考資料2 周辺動向調査
はじめに
「超低損失柱上トランス用材料の研究開発」は、平成10年度より4年間の
計画で開始された。本プロジェクトは、電力供給に用いられている柱上トラン
スで発生している電力損失を削減し、より効率的かつ安定な供給を実現し、か
つ温暖化対策に資するための技術開発として、柱上トランス用の新しい鉄心材
料を開発するものである。
平成14年度に、新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術評価委員会「超
低損失柱上トランス用材料の研究開発」分科会(分科会長:石原 好之 同志
社大学 工学部 電気工学科 教授)において、当該分野に係わる国内外の研
究開発動向や社会情勢の変化も踏まえつつ、プロジェクトの目的・政策的位置
付け、目標・計画内容、研究開発体制や運営状況、成果の意義、実用化可能性
や波及効果等について事後評価を実施した。
本書は、これらの評価結果をとりまとめたものである。
平成15年2月
新エネルギー・産業技術総合開発機構
1
技術評価委員会
「超低損失柱上トランス用材料の研究開発」
事後評価分科会委員名簿
(平成15年1月現在)
分科会
石原
会長
好之
大関彰一郎
酒井
信介
分科会
中村
委員
吉男
松井
正顯
村田
孝一
同志社大学
工学部 電気工学科
教授
(財)省エネルギーセンター
エネルギー環境技術本部 本部長
東京大学
大学院工学系研究科
東京工業大学
教授
大学院理工学研究科 助教授
名古屋大学
大学院工学研究科 教授
東京電力㈱
配電部配電技術グループ
グループマネージャー
敬称略、五十音順
2
審議経過
第1回評価分科会(平成 14 年 10 月 21 日)10:00∼16:00
公開セッション
1.開会(分科会会長、挨拶、資料の確認)
2.分科会の公開について
3.評価の手順等について
4.評価の分担等について
5.周辺動向調査
6.プロジェクトの概要
非公開セッション
7.プロジェクトの個別技術について
8.全体に関する質疑
9.その他(感想など)
10.今後の予定
第2回評価分科会(平成 15 年 1 月 15 日)13:30∼14:30
公開セッション
1.開会、資料の確認
2.評価確定の進め方などについて
3.評価書報告書(案)の審議及び確定
第7回技術評価委員会(平成 15 年 2 月 10 日)14:00∼16:30
1.評価報告書の審議/報告
3
評価概要
1.プロジェクト全体に関する評価
1.1 総論
1)総合評価
本事業は、我が国で発見発明されたナノ結晶軟磁性材料の有効性を活用して
省エネルギーを達成する研究開発であり、政策および社会ニーズと合致してい
る。配電系統の主要損失のひとつである、柱上トランスの鉄損を削減する目標
設定も、エネルギー削減の必要性から、妥当であると判断する。
超低損失を実現する可能性のある素材の組成など、基礎的な分野では、目標
を達成して成果をあげているが、事業全体における所期の目標を達成したとは
言い難い。また、試作品を完成するに至ったことは評価できるが、その後の、
実用化と事業化に関する検討は、具体的になっていない。
以上のことから、本事業は、所期の目標を完全に達成することはできなかっ
たが、基礎的な研究として、超低損失の実現性が高い材料を開発したことは評
価でき、次ステップの研究開発へ道筋をつけた。
2)今後の研究開発の方向性等に関する提言
研究開発段階のマネイジメントに関して、本事業のような直列方式では、各
段階でのフィードバックがかかりにくく、開発された材料が試作品に利用され
ないことなどの問題が生じる。計画段階で目標達成の方策を十分に考慮して、
スケジュールと体制を構築すること、材料製造を複数研究して最も優れたもの
を使用することなどの工夫が必要である。
LCA には、どうしても不確定性が入るので、外部発表した上で、ケーススタ
ディの妥当性について評価を受けるべきである。外部発表によって、社会的な
波及効果に関し、他の LCA 研究者に有用な情報提供することができる。
4
1.2 各論
1)事業の目的・政策的位置付けについて
我が国で発見発明されたナノ結晶軟磁性材料の有効性を活用し、CO2削減と
省エネルギーを進めることは政策的にも意義があり、民間企業だけでは実現が
困難であることから、NEDO の主導でプロジェクトを推進したことは評価でき
る。また、ターゲットを、損失が大きい柱上トランスにしたことは、エネルギ
ーの観点から見て意義がある。したがって、本事業の目的、および政策的位置
付けは、概ね妥当であったと言える。
2)研究開発のマネジメントについて
エネルギー削減の必要性から、配電系統の主要損失のひとつである、柱上ト
ランスの鉄損を削減する目標は妥当である。
プロジェクトは役割分担を明確にした縦型の研究開発構成とし、その中でグ
ループ毎の技術成果を各々の技術課題に反映すべく努力したことは認められる
が、幅広薄帯製造という技術課題の困難さより、各段階でのフィードバックが
かかりにくい結果となった。このような方法で研究開発を進めるのであれば、
企画段階において、事業全体の成果に大きな影響を与える個別技術に対して、
グループ間の支援と連携を強化する体制を考える必要があった。
LCA 評価は、本プロジェクト内で重要な位置付けであるにもかかわらず、各
個別の技術開発の成果がタイムリーに反映されていないので、最終的に達成さ
れた技術を前提条件とした場合の LCA を実施することが必要である。
3)研究開発成果について
事業全体として見た場合、所期の目標数値を完全に達成したとは言い難い。
しかし、超低損失を実現する可能性のある素材の組成など、基礎的な分野に関
しては成果を上げていること、および試作品を完成するに至ったことは評価で
きる。
4)実用化、事業化の見通しについて
NEDO の事業として、開発成果を実用化、事業化すること、あるいは見通し
をつけることは、重要な役割である。本事業では、目標を達成するために、ほ
ぼ全ての期間を費やしたことは理解できるが、実用化と事業化の見通しに関す
るシナリオは具体的になっていない。
開発成果の実用性は高く、関連分野への波及効果は大きいと判断できるので、
研究開発期間で明らかになった課題に関して、継続的な検討が必要である。
5
技術評価委員会におけるコメント
第7回技術評価委員会(平成 15 年 2 月 10 日開催)に諮り、了承された。技
術評価委員からのコメントは特になし。
6
技術評価委員会委員名簿
委員長
岸 輝雄
稲田 絋
大滝 義博
大西 匡
垣田 行雄
小柳 光正
瀬田 重敏
曽我 直弘
高村 淑彦
谷 辰夫
冨田 房男
西村 吉雄
丹羽 清
畑村 洋太郎
平澤 泠
三浦 孝一
村上 路一
独立行政法人 物質・材料研究機構理事長
東京大学大学院工学系研究科教授
株式会社バイオフロンティアパートナーズ代表取締役社長
豊田工機株式会社取締役会長
財団法人日本システム開発研究所専務理事
東北大学大学院工学研究科教授
旭化成株式会社特別顧問
独立行政法人産業技術総合研究所理事
東京電機大学工学部教授
諏訪東京理科大学工学部システム工学部長
北海道大学大学院農学研究科教授
東京大学大学院工学研究科教授
東京大学大学院総合文化研究科教授
工学院大学国際基礎工学科教授
政策研究大学院大学教授
京都大学大学院工学研究科教授
株式会社宇宙情報技術研究所代表取締役副社長
(合計17名)
(敬称略、五十音順)
7
第1章
評価の実施方法
第1章 評価の実施方法
本評価は、「技術評価実施要領」(平成 13 年 5 月制定)に基づいて技術評価を
実施する。「技術評価実施要領」は、以下の 2 つのガイドラインに定めるところ
によって評価を実施することになっている。
総合科学技術会議にて取りまとめられた「国の研究開発評価に関する大綱
的指針」(平成 13 年 11 月内閣総理大臣決定)
経済産業省にて取りまとめられた「経済産業省技術評価指針」
(平成 14 年
4 月経済産業省告示)
NEDO における技術評価の手順は、以下のように被評価プロジェクト毎に分科
会を設置し、同分科会にて技術評価を行い、評価報告書(案)を策定の上、技術評
価委員会において確定している。
「技術評価委員会設置・運営要領」に基づき技術評価委員会を設置
技術評価委員会はその下に分科会を設置
経済産業省
NEDO
理事長
評価報告書(確定) 報告
技術評価委員会
(親委員会)
事務局
評価報告書(案)
技術評価部
分科会D
分科会A
分科会B
図1
分科会C
評価手順
1-1
1.評価の目的
実施要領において、評価の目的は、
評価をする者(評価者)と評価を受ける者(被評価者)が意見交換を通
じ研究開発の意義、内容、達成状況、今後の方向性等について検討し、
より効率的・効果的な研究開発を実施していくこと、
高度かつ専門的な内容を含む研究開発の意義や内容について、一般国民
にわかりやすく開示していくこと、
限られた研究開発リソースの中で、国の政策や戦略に対応した重点分
野・課題へのリソース配分をより効率的に実施していくこと、とされて
いる。
本評価においては、この趣旨を踏まえ、本事業の意義、研究開発目標・計画の妥当
性、計画と比較した達成度、成果の意義、成果の実用化の可能性等について検討・評
価した。
2.評価者
実施要領においては、事業の目的や態様に即した外部の専門家、有識者からなる委
員会方式により評価を行うこととされているとともに、分科会委員選定に当たっては
以下の事項に配慮した選定を行うこととされている。
科学技術全般に知見のある専門家、有識者
当該研究開発の分野の知見を有する専門家
研究開発マネジメントの専門家、経済学、環境問題その他社会的ニーズ
関連の専門家、有識者
産業界の専門家、有識者
また、評価に対する中立性確保の観点から事業の推進側関係者を選任対象から除外
し、また、事前評価の妥当性を判断するとの側面にかんがみ、事前評価に関与してい
ない者を主体とすることとしている。
これらに基づき、分科会委員名簿にある6名が選任された。
なお、本分科会の事務局については、新エネルギー・産業技術総合開発機構技術評
価部評価業務課が担当した。
3.評価対象
平成10年度から平成13年度までの計画で実施されている「超低損失柱上トラン
ス用材料の研究開発」プロジェクトを評価対象とした。
なお、分科会においては、当該事業の推進部室である新エネルギー・産業技術総合
開発機構 省エネルギー技術開発室、及び以下の研究実施者から提出された事業原簿、
1-2
プロジェクトの内容、成果に関する資料をもって評価した。
研究実施者
(財)次世代金属・複合材料研究開発協会
4.評価方法
分科会においては、当該事業の推進部室及び研究実施者からのヒアリングと、それ
を踏まえた分科会委員による評価コメント作成、評点法による評価及び実施者側等と
の議論等により評価作業を進めた。
なお、評価の透明性確保の観点から、知的財産保護の上で支障が生じると認められ
る場合等を除き、原則として分科会は公開とし、研究実施者と意見を交換する形で審
議を行うこととした。
5.評価項目、評価基準
分科会においては、次に掲げる「標準的評価項目・評価基準」(平成 14 年 4 月 9
日、第3回技術評価委員会)に準じて評価を行った。プロジェクト全体に係わる評価
においては、主に事業の目的、計画、運営、達成度、成果の意義や実用化への見通し
等について評価した。各個別技術に係る評価については、主にその目標に対する達成
度等について評価した。
1-3
標準的評価項目・評価基準
【本標準的項目・基準の位置付け(基本的考え方)】
本項目・基準は、あくまでも標準的な評価の視点の例であり、各分科会にお
ける評価項目・評価基準は、被評価プロジェクトの性格、中間・事後評価の別
等に応じて、各分科会において判断すべきものである。
なお、短期間(3年以下)又は少額(予算総額5億円以下)のプロジェクト
に係る事後評価については、以下の「3.」及び「4.」を主たる視点として、
より簡素な評価項目・評価基準を別途設定して評価をすることができるものと
する。
1.事業の目的・政策的位置付けについて
(1)NEDO(国)の事業としての妥当性
単独で立ち上げる事業については、以下の項目により評価することとする。な
お、特定のプログラム制度(研究開発制度)の下で実施する事業の場合、以下の
項目を参照しつつ当該制度の選定基準等への適合性を問うこととする。【注1】
・「市場の失敗」
(行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」
(平成 8 年
12 月)参照)に該当しているか。しない場合、民間活動のみでは改善できな
いこと、公共性の高いことが説明されているか。その際、当該事業に必要な資
金規模や研究開発期間、民間企業の資金能力等は示されているか。
・他の類似事業や関連技術動向を踏まえ、NEDO(国)の関与がなかった場合
(放置した場合)と比較して、NEDO(国)が関与することの優位性がより
高いものであるか。
・当該政策目的の達成に当たって当該事業を実施することによりもたらされる政
策効果が、投じた政策資源との比較において効率的・効果的であるか(費用対
効果はどうか)。(知的基盤・標準整備等のための研究開発の場合を除く)
(2)事業目的・政策的位置付けの妥当性
・評価時点或いは事業開始時点の時代背景認識から見て、事業の目的は妥当で、
政策的位置付けは明確か。
・政策課題(問題)の解決に十分資するものであるか。
・国としての国際競争力に資するものであるか。
2.研究開発マネジメントについて
(1)研究開発目標の妥当性
・目標達成のために、具体的かつ明確な開発目標、目標水準を設定しているか。
・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。
・費用対効果分析が適切に行われているか。(エネルギー特別会計を使用してい
る場合には費用対効果分析を踏まえ定量的なエネルギー政策上の目標が立て
られているか。)
1-4
(2)研究開発計画の妥当性
・目標達成のために妥当なスケジュール、予算(各個別研究テーマ毎の配分を
含む)となっているか。
・目標達成に必要な要素技術を過不足なく取り上げているか。
・研究開発フローにおける要素技術間の関係、順序は適切か。
(3)研究開発実施者の事業体制の妥当性
・目標を達成する上で、事業体制は適切なものか。
・各研究開発実施者の選定等は適切に行われたか。
・関係者間の連携/競争が十分行われるような体制となっているか。
(4)研究開発実施者の運営の妥当性
・意思決定、進捗状況、計画見直し等の検討が適切に行われているか。
・プロジェクトリーダー(サブテーマのリーダーを含む)が有効に機能してい
るか。
・プロジェクト開始後の情勢変化(目標未達が明らかになった場合を含む)へ
の対応は適切であったか。
(5)情勢変化への対応の妥当性
・技術動向や社会・市場ニーズの変化等に対応して、計画を適切に見直したか。
・計画の見直しに当たっては、時代背景の変化を考慮していたか。
3.研究開発成果について
(1)計画と比較した目標の達成度
・成果は目標値をクリアしているか。
・全体としての目標達成はどの程度か。
・立案時点または計画見直し時点の時代背景認識から見て、事業は研究開発と
して成功したといえるか。また、評価時の時代背景から見てどうか。
(2)要素技術から見た成果の意義
・世界最高水準、世界で初めて、又は国際水準から見て優れた成果があるか。
(ある場合は、その根拠及びインパクトが明確に説明されているか。)
・新たな技術領域を開拓するような成果の独創性が認められるか。
(認められる場合は、新たな技術領域の内容、その根拠、規模及び発展性はど
うか。)
・新たな市場創造につながるような新規性、先進性が認められるか。
(認められる場合は、新たな市場の内容、その根拠及び発展性はどうか。)
・汎用性のある(応用分野の広い)技術が開発されているか。
・当初想定していなかったような成果(派生技術等)はあるか。
・将来の時代背景の変化により、重要性の増すあるいは減る成果はどのような
ものか。
1-5
(3)成果の普及、広報
・論文の発表は、質・量ともに十分か。
・特許は適切に取得されているか。
・基本特許が的確に取得されているか。
・特許性は十分あると判断されるか。
・外国特許が適切に出願されているか。
・必要に応じ、成果の規格化に向けた対応が取られているか。
・広報は一般向けを含め十分に行われているか。
(4)成果の公共性【注2】
・成果の公共性を担保するための措置、あるいは普及方策を講じているのか。
(JIS 化、国際規格化等に向けた対応は図られているか、一般向け広報は積極
的になされているか等)
4.実用化、事業化の見通しについて
(1)成果の実用化可能性
・産業技術としての見極め(適用可能性の明確化)ができているか。
・公共財としての需要が実際にあるか。見込みはあるか。
・公共性は実際にあるか。見込みはあるか。
(2)波及効果
・成果は関連分野へのインパクトを期待できるものか。
・当初想定していなかった波及的な成果はあるのか。
・プロジェクトの実施自体が当該分野の研究開発を促進するなどの波及効果を
生じているか。
(3)事業化までのシナリオ
・コストダウン、導入普及、事業化までの期間、事業化とそれに伴う経済効果
等の見通しは立っているか。
【注1】
:
「必要性」の観点からの評価は、政策効果からみて、対象とする政策に係る
行政目的が国民や社会のニーズ又はより上位の行政目的に照らして妥当性
を有しているか、行政関与の在り方からみて当該政策を行政が担う必要が
あるか等を明らかにすることにより行うものとする。
(政策評価に関する基
本方針(閣議決定平成 13 年 12 月)参照)
【注2】:知的基盤・標準整備等のための研究開発のみ。
【全体注】:評価においては、プロジェクトに対する提言を含めて検討を実施するも
のとする。
1-6
第2章
プロジェクトの概要
当該事業の推進部室及び研究実施者から提出された事業原簿をもって、当該プロジェク
トの概要を示す。
「即効的・革新的エネルギー環境技術開発」
「超低損失柱上トランス用材料の開発」
事業原簿(7/25 改定)
2-1
目
次
0. 概要……………………………………………………………………………………2-3
1. 国の関与の必要性・制度への適合性…………………………………..……………2-5
1.1 国が関与することの意義…………………………………………………………2-5
1.2 費用対効果………………………………………………………..….……………2-6
2. 事業の背景・目的・位置付け…………………………………………………………2-6
2.1 事業の背景・目的・意義…………………………………………………………2-6
2.2 事業の位置付け…………………………………………………………………2-8
3. 事業の目標…………………………………………………………………………2-9
3.1 高性能材料の開発………………………………………………………………2-9
3.2 幅広薄帯製造技術の開発………………………………………………………2-9
3.3 柱上トランスの試作・評価………………………………………………………2-9
4. 事業の計画内容…………………………………………………………………… 2-10
4.1 事業全体、個別研究開発項目の計画内容…………………………………… 2-10
4.2 研究開発毎の内容の詳細……………………………………………………… 2-11
4.3 研究開発実施主体の体制……………………………………………………… 2-12
5. 実用化、事業化の見通し(政策目的達成時のイメージ)………………………… 2-12
6. 今後の展開(政策目的達成までのシナリオ)……………………………………… 2-13
7. 中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期……………… 2-13
8. 研究開発成果……………………………………………………………………… 2-14
8.1 事業全体の成果………………………………………………………………… 2-14
8.2 研究開発項目毎の成果………………………………………………………… 2-15
2-2
0. 概要
制度名
即効的・革新的エネルギー環境技術 事業名
超低損失柱上トランス用材料の開発
開発
事業の概要
電力供給に用いられている柱上トランスで発生している電力損失を削減
し、より効率的かつ安定な供給を実現し、かつ温暖化対策に資するための技
術開発として、柱上トランス用の新しい鉄心材料を開発するものである。東北
大学等において研究されているナノ結晶軟磁性材料においては、従来の珪
素鋼板を用いた場合の 1/10 程度まで鉄損削減が期待できる。そこで 2010 年
温室効果ガスの削減に寄与するため、このナノ結晶軟磁性材料を柱上トラン
ス用に適用する技術開発を実施する。
1. 国の関与の必要性・
エネルギー需要の急増、CO2 問題の深刻化等の中で、エネルギー安定供
制度への適合性
給確保と地球環境問題への対応の両立を可能とするエネルギー・環境技術
の一層の研究開発が求められている。「COP3」において、温室効果ガスを
2008 年~2012 年に 1990 年比 6%削減するとの目標を設定し、着実な実施に
向け、エネルギーの供給及び産業、運輸、民生のあらゆる分野での省エネル
ギーの推進技術開発を強化している。本制度では、遅くとも 2010 年までに技
術が確立し、かつある程度普及、実用化するような研究開発を民間により実
施する制度として制定され、上記温室効果ガス削減目標の達成に貢献するこ
ととした。また、本事業は電力供給に用いられている柱上トランスで発生して
いる電力損失の削減を目指している。柱上トランスによる鉄損は総販売電力
の約 0.8%と大きな量を占め、それによるCO2 の排出量は年間 411 万トンにも
達している。この損失を大幅に削減することにより将来的な温暖化対策に大
きく貢献する。
2. 事業の背景・目的・
国内で消費されているエネルギーのうち電力はその使いやすさや品質の
位置付け
点から最も利用されているものであり、送・配電線網の整備により、全国津々
浦々に行き渡っている。しかしながら、この電力を供給する場合には送電の
ロスがあり、このように広範囲に供給しているときにはそこで損失しているエ
ネルギーも無視できないほど大きい。そこで、本研究開発では、柱上トランス
の大きなエネルギー損失を解決するため、低い鉄損と同時に高い飽和磁束
密度を備え、柱上トランス用材料の理想に近い磁気特性を有するナノ結晶軟
磁性材料を利用した超低損失柱上トランス実用化のための新しい材料及び
実用化のための製造技術を開発する。
3. 事業の目標
省エネルギー及び温室効果ガス削減のために推進する本研究開発の目標
(全体目標)
は、超低損失柱上トランス実用化のための新しい柱上トランス用材料と製造
技術を開発することにある。そこで研究開発項目は次の3項目とした。すなわ
ち、(1)低い鉄損、高い飽和磁束密度、良好な加工性を備えた高性能材料を開
発する。(2)幅広材料の大量生産を実現するための製造技術を開発する。(3)
開発した材料で柱上トランスの試作・評価を行い、従来のトランスに対しての
優位性を実証する。
4. 事業の計画内容
H10fy
H11fy
H12fy
H13fy
総 額
(単位:百万円)
(4 年間)
一般会計
特別会計(電特)
特別会計(石特)
253
350
563
360
1,526
特別会計(エネ高)
総予算額(計)
253
350
563
360
1,526
研究開発体制
省内担当原課
産業技術環境局 研究開発課
運営機関
新エネルギー・産業技術総合開発機構
2-3
(実態に併せて記載)
財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会、
(アルプス電気株式会社、大同特殊鋼株式会社、株
式会社高岳製作所)
共同研究先
東北大学 金属材料研究所
5. 実用化、事業化の
本研究開発の成果である超低損失柱上トランス技術は、現在日本で使わ
見通し、波及効果
れている柱上トランスの鉄心材料が 2008 年から 30 年で全て超低損失鉄心材
料に置き換えられると仮定すると、2010 年に年間CO2 排出量 54 万トン削減が
見込まれる。また、柱上トランス以外の電車・自動車用トランス、その他民生
用の小型トランスのコア材料にも適用可能である。さらに種々の電子部品へ
の応用展開が期待できる。特にスイッチング電源用チョークコイルやノイズフ
ィルター用コモンモードチョークコイルに使用される材料においては、高い飽
和磁束密度、低損失または高透磁率の特性を必要としており、コスト競争力
を高めることができれば実用化が期待できる。また、本研究開発で得た超急
冷技術を他材質に展開することが可能と考える。
実用化のためには、材料の低コスト化が不可欠であるが、材料のリサイク
ル等が確立されれば、薄帯に占める原料コスト比率が減少し、現在の鉄基ア
モルファス合金と同等のコストになると考えられる。
6. 今後の展開
プロジェクト終了後は、フィールドにおける柱上トランスの経時的性能評価
等を行い、実用に供すべき基盤技術を確立する。また、早期実用化に向け、
本格的製品製造に必要な技術開発に取り組み、本研究開発により開発した
技術の活用等により、電力供給における柱上トランスの鉄損による損失電力
の低減を実現し、2010 年以降の省エネルギー化、温室効果ガス排出量及び
石油消費量の削減に資する。
7. 中間・事後評価
事後評価 平成 14 年度
8. 研究開発成果
特許(出願 国内優先権主張込み):19 件、学会等発表数:26件、新聞発表
数:3 件
(本資料作成時までの累計とする)
9. 情勢変化への対応
委託先(再委託先)
基本計画の変更
評価履歴
作成日
無し
事前評価(産業技術審議会エネルギー・環境技術
開発部会)
事後評価(技術評価委員会)
平成 14 年 3 月 12 日
2-4
1. 国の関与の必要性・制度への適合性
1.1 国が関与することの意義
本研究開発制定当時、アジアを中心とした発展途上国におけるエネルギー需要
の急増、CO2 問題の深刻化等の中で、エネルギー安定供給確保と地球環境問題への
対応の両立を可能とするエネルギー・環境技術の一層の研究開発が求められていた。
特に、平成 9 年 12 月の「気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(COP3)
」において、
先進各国は温室効果ガスを 2008 年∼2012 年に 1990 年比 5%以上削減、我が国は
6%削減するとの目標を設定した京都議定書に合意したところであり、これは世界で
も最高水準にある我が国のエネルギー利用効率を更に群を抜いた水準にするという
非常に厳しいものであった。このため、京都議定書の着実な実施に向け、エネルギ
ーの供給及び産業、運輸、民生のあらゆる分野での省エネルギーの推進または石油
代替エネルギーの利用に資する技術開発を強化することが重要かつ急務となった。
そこで、早期の実効性を期待でき、かつ新規のエネルギー環境技術について、
研究開発を積極的に推進するため、当該技術課題が解決されれば技術的な体系が確
立し、もって即効性を期待できる新規性又は独創性を有するもので、かつ遅くとも
2010 年までに技術が確立し、かつ有る程度普及、実用化するような研究開発を民間
により実施する制度「即効的・革新的エネルギー環境技術開発」を制定し、上記温
室効果ガス削減目標の達成に貢献することとした。
このような国際的な目標を着実に達成するためには、民間の努力だけでは困難
であり、国がイニシアティブを取りつつ着実に事業を推進することが必要である。
また、革新的技術開発の過程における新規需要、新規産業の創出や国際競争力の向
上という効果、及び CO2 等温室効果ガス排出抑制への取り組みによる日本経済の一
層の活性化も期待できる。以上の点から本研究事業は国による取り組みが有効であ
り、国の事業として行う必要がある。
本研究課題では、電力供給に用いられている柱上トランス用の新しい鉄心材料
を開発し、送電過程での電力損失削減を目指すものである。柱上トランスによる鉄
損は総販売電力の約 0.8%を占め、それによるCO2 の排出量は年間 411 万トンにも
達している。この損失を大幅に削減することにより温暖化対策に大きく貢献するこ
とが可能である。しかしながら、この鉄損削減の実用技術としては、現在のところ
米国ハネウェル社(開発開始時はアライド社)が開発したアモルファス合金を利用
する技術が有るのみである。この技術によれば鉄損を従来技術の 1/4 程度に下げる
ことが出来るが、海外 1 社の独占的供給状態であるため安定供給等の不安がある。
一方、国内における新規低鉄損材料技術として東北大学等においてナノ結晶軟磁性
材料が研究されており、この材料によれば従来技術の 1/10 程度まで鉄損削減が期待
できる。このような技術開発の現状を検討した結果、本研究課題で目標とする低鉄
損化技術にはまだ多くのブレークスルーが必要であり、現状の開発段階では、民間
独自の開発のみで本制度が求める 2010 年にある程度の普及、実用化する段階に到
達するのは困難と考えられる。また企業独自の開発では、得られた技術が共通化す
ることなく企業内に留まるために、広い普及にはさらに時間が必要となる。これに
対して、国の支援の下での開発を行うことによって開発を加速し、目標を早期に達
成する効果が期待できる。また、本課題による省エネルギー化の加速・早期実用化
が産業界の省エネルギー化を大きく加速することも考えられ、このような観点から
2-5
も国による開発への関与が重要である。
1.2 費用対効果
本研究開発は 4 年間総額約 15 億円で実施された。年度ごとの予算推移は
表 1.2.1 の通りである。
環境省の統計によると、日本のCO2排出総量は、1995 年度で 12.18 億トンで
あり、その内電気事業者による電気事業に伴って排出される量は 2.78 億トンである。
一方、電力の送配電に使用されている柱上トランスには鉄損と呼ばれる鉄心材料に
よる損失が生じ、その損失電力は総販売電力の約 0.8%を占める。それによるCO2
の排出量は年間 411 万トンにも達する。
このような状況の下、本研究開発は、鉄損を従来の珪素鋼板の 1/10 以下になる
柱上トランス用材料の開発を実施し、その結果、トランスの鉄損を従来の 1/10 程度
にまで削減し得る柱上トランスの製造基盤技術を確立し、その後早期実用化を図る
ことによって電力消費量の削減に資するものである。1/10 程度までの削減が実現す
れば、CO2排出の削減効果として年間 370 万トン、また省エネルギー効果として
55 億 kWhが期待される。実際には柱上トランスの寿命は 30 年程度と長いため置
き換えには時間を要するが、仮に 2008 年から 2010 年までの 3 年間に総数の 10%
が置き換わるとすれば、販売電力の増加分を考慮して年間約 54 万トンのCO2と約
8 億 kWhの電力損失の削減が可能となる。さらに、柱上トランス以外への適用の
可能性も含めれば、COP3 の実現に向けてより大きな効果が期待できる。
2. 事業の背景・目的・位置づけ
2.1 事業の背景・目的・意義
COP3 における CO2 削減目標を達成するためには、多方面にわたる省エネルギ
ー技術の確立を即効的・革新的に行う必要があった。しかしながら我が国は過去二
度にわたる石油危機を経験してきた中で、高い経済成長を維持しつつ、エネルギー
の使用を抑制してきており、既に世界最高水準のエネルギー利用効率を達成し、更
なる省エネルギーを推進することは容易ではない。
そこで、
「エネルギー使用の合理
化に関する法律(省エネ法)
」を改正し、一層の省エネルギー促進を図るべく省エネ
ルギー対策の強化を進めている。このような中、革新的な技術開発による新規のエ
ネルギー環境技術の実現を図り、早期の実効性を期待できる技術開発を行うことを
目的とした「即効的・革新的エネルギー技術開発」制度を実施することとした。本
制度では、省エネルギー推進に関して政策上意義のあるものを経済産業省(当時通
商産業省)内より募り、提案された 21 研究テーマに対して、平成 10 年 2 月の産業
技術審議会エネルギー・環境技術開発部会 企画・システム委員会における事前評
価(政策評価及び技術評価)を経て採択した。評価にあたっては、研究開発の技術
的な妥当性に加え、即効性や革新性、政策上の意義などが検討され、その結果、6
テーマが採択され実施することとなった。本テーマはそのうちの一つである。
国内で消費されているエネルギーのうち電力はその使いやすさや品質の点から最
も利用されているものであり、送・配電線網の整備により、全国津々浦々に行き渡
っている。このように広範囲に供給する際に発生する送電損失には送電線における
損失や供給のための変圧用柱上トランスによる損失等があるが、これらは無視でき
ないほど大きい。この内、柱上トランスによる損失を生ずる鉄心材料は、現状では
2-6
珪素鋼板が主流であり一部に鉄基アモルファス合金が使用されているが、上記課題
解決のためには、より鉄損の低い材料の開発が必要である。
一方、近年新しい磁性材料としてナノ結晶軟磁性材料が注目を集めている。中
でも鉄・遷移金属系ナノ結晶材料は、低い鉄損と同時に高い飽和磁束密度を備えて
おり、柱上トランス用材料の理想に近い磁気特性を有している。しかしながらこの
材料は、酸化しやすい元素を含むために現在は真空容器中で幅の狭い材料が少量製
造されているにすぎず、柱上トランスに使用するためには幅の広い材料の大量生産
技術の確立が必須である。またナノ結晶軟磁性材料は他の材料と比較して脆く、加
工が難しいという欠点があり、磁気特性の更なる向上と同時に、その加工性の改善
が求められている。
そこで、本研究開発では、柱上トランスの電力損失を削減するため、上記ナノ
結晶軟磁性材料を利用した超低損失柱上トランス実用化のための新しい材料及びそ
の製造技術を開発する。
2.2 事業の位置付け
本研究開発は、大学等により開発されたナノ結晶軟磁性材料を柱上トランスへ
適用し、ここで生じている電力損失を削減するための材料技術等の開発である。経
済規模の拡大に伴って発電所からの送電量が増大する中、柱上トランスでの電力損
失を削減させることは、電力供給における省エネルギー化を図る上で極めて重要で
あり、2010 年温暖化防止のためには早急に実用化を図ることが必要である。このよ
うな観点から、
本事業は公共財的性格を有する技術開発であり、
産業技術戦略上は、
『エネルギー・資源の安定供給』および『革新的・基盤的技術の涵養』に位置付け
られる。
柱上トランスでの電力損失削減を即効的・革新的に行うためには、プロジェクト
開始時点で既に開発中の革新的技術に着目し、これを活用推進することが有効、か
つ効果的な手段である。
2-7
3. 事業の目標
省エネルギー化、温室効果ガス削減のために推進する本研究開発の目標は、超低
損失柱上トランス実用化のための基盤技術を開発することにある。
このための研究開発項目は、次の3項目とした。
(1)低い鉄損、高い飽和磁束密度、良好な加工性を備えた高性能材料の開発
(2)幅広材料の大量生産を実現するための製造技術の開発
(3)開発した材料を用いた柱上トランスの試作・評価、従来の柱上トランスに
対しての優位性の実証
3.1 高性能材料の開発
柱上トランス用鉄心材料は鉄損が低く飽和磁束密度が高いことが望ましい。安
価であることは言うまでもない。この条件に合致した材料として従来から珪素鋼板
が使われ、その飽和磁束密度は高く、鉄損は多くの研究によって向上してきたが、
現在は足踏み状態にある。近年鉄基アモルファス合金薄帯が一部で使用されている
が、珪素鋼板に比較して鉄損は 1/5 程度とかなり低いものの、飽和磁束密度が 3/4
にしか至らないという課題がある。
本研究開発では、鉄損が極めて低く、かつ可能な限り高い飽和磁束密度の材料を
狙う。東北大学等で研究されているナノ結晶軟磁性材料をベースに、鉄損は珪素鋼
板の 1/10 以下で鉄基アモルファス合金の 1/2 以下、及び鉄基アモルファス合金より
高い飽和磁束密度を同時に満たす材料とする。具体的には、鉄損が周波数 50Hz、
飽和磁束密度の 85%の励磁条件(以下、基準励磁条件という)において 0.1W/kg
以下、かつ飽和磁束密度が 1.56T 以上を目標値とする。尚、ナノ結晶軟磁性材料は
脆いという難点が提示されているが、本研究開発では巻き鉄心の製造のために必要
な加工性を有する材料を目指す。
3.2 幅広薄帯製造技術の開発
国内の薄帯製造装置の現状は、薄帯の幅は最大 25mm 程度、一回あたりの生産
量は最大数 kg 程度である。しかし柱上トランスに用いるには鉄基アモルファス合
金と同程度の幅広薄帯を大量に生産することが必要である。本研究開発では、柱上
トランスの量産に対応できる材幅を実現するために、幅 100mm 以上の薄帯を製造
する技術を開発する。酸化しやすい元素を含むナノ結晶軟磁性材料で、幅広薄帯の
製造を可能にするには、雰囲気制御が重要である。本研究開発では、ロールへの不
活性ガス吹き付けにより、低酸化雰囲気をもたらす技術を開発して材料実用化に目
処を付ける。
3.3 柱上トランスの試作・評価
開発した材料を鉄心とする柱上トランスの性能が、従来のトランスに対してエネ
ルギー的に格段優れていることを実証することが肝要である。このため、新材料を
用いて試作した鉄心の性能を評価して、鉄損(以下、トランスの鉄損を無負荷損と
いう)が従来の柱上トランスの 1/10 程度であることを確認する。試作する柱上トラ
ンスの容量は、既存トランスの使用台数の多いタイプが 20kVA、30kVA、50kVA
であること及び比較的少量の鉄心材料で評価できることから、20kVA を選択する。
2-8
また、日本全国の柱上トランスの平均容量は 30kVA であり、その無負荷損はトラ
ンス一台当たり約 80W と計算される。この値は JISC4304 で規格されている無負
荷損の 60%であるため、20kVA 柱上トランスの無負荷損は JISC4304 の規格値の
60%と考えて 60W とし、新材料ではこの 1/10 程度として 6W という目標を設定し
た。
4. 事業の計画内容
4.1 事業全体・個別研究開発項目の計画内容
前記の全体目標を達成するために必要な研究開発項目としては、
(1)低い鉄損、
高い飽和磁束密度、良好な加工性を備えた高性能材料の開発(2)幅広材料の大量
生産を実現するための製造技術の開発(3)開発した材料を用いた柱上トランスの
試作・評価、従来の柱上トランスに対しての優位性の実証、の3項目が挙げられる。
本研究開発は、所期の成果を短期間で達成することを求められているが、課題解決
のために関連分野で優れた開発実績を有する企業で構成する最適な研究体を運営す
ることで、平成 10 年度を初年度とし平成13年度までの 4 年間で終了させること
とした。尚、参加企業が保有する既存の設備を最大限活用して、総予算約 15 億円
とミニマム化を図った。
4.1.1 高性能材料の開発
目標に掲げた基準励磁条件において 0.1W/kg 以下の鉄損と 1.56T 以上の飽和磁
束密度をともに満たす優れた磁気特性と良好な加工性を有するナノ結晶軟磁性材料
の組成探索、及び薄帯のナノ結晶微細組織を精密に制御するための結晶化熱処理条
件の開発を優先する。新材料はジルコニウム、ニオブ等の遷移金属元素を含むこと
が必須であるが、これらの元素は酸化されやすい上に高価であるため、将来の普及
を考慮した製造方案とコスト低減についても研究する。
4.1.2 幅広薄帯製造技術の開発
新材料は酸化されやすい元素を多く含むと予測されるので大気中での製造は難
しく、元素の酸化を防止する製法の研究が必要である。そこで、先ず研究用の薄帯
製造装置を用いて不活性ガスフロー中で良好な薄帯を製造できる条件を検討する。
ここで得られた成果を基に幅 50mm の試作用薄帯製造装置を設置し、雰囲気、射出
条件等の製造技術を研究する。その上で、大型の幅広薄帯製造装置を設計・導入し、
幅 100mm 以上の薄帯を安定して生産できる製造技術を開発する。
4.1.3 柱上トランスの試作・評価
研究用や試作用の薄帯製造装置で製造された新材料を用いて小型鉄心を試作し、
結晶化熱処理を施して鉄心性能を評価し、形状要因の課題を洗い出して、材料開発
にフィードバックすると共に改善策を確立する。この結果をベースに、幅広薄帯製
造装置で製造した薄帯で 20kVA 柱上トランスを試作して性能評価を行い、無負荷
損が所期の値であることを確認する。
2-9
4.2 研究開発毎の内容の詳細
4.2.1 高性能材料の開発
高速回転しているロールに溶融金属を射出して(単ロール液体急冷法)作製す
るアモルファス薄帯を熱処理することにより得られるナノ結晶材料は、ナノメート
ルオーダーの微細且つ均一な結晶組織を有する材料であり、優れた軟磁気特性と比
較的高い飽和磁束密度を示す。本研究開発においては、このナノ結晶軟磁性材料に
関する知見を基にして材料開発を実施し、目標とする磁気特性(基準励磁条件にお
いて 0.1W/kg 以下の鉄損、及び 1.56T 以上の飽和磁束密度)を達成させる。
具体的な開発内容は、
これまでの研究で報告されている Fe-Zr-B または Fe-Nb-B
合金を基本組成とし、これら合金系の複合化または更なる添加元素を検討すること
により低鉄損材料を開発する。また、上記基本組成中のジルコニウムやニオブは比
較的酸化し易い元素であり、酸化雰囲気中においては薄帯作製が困難と予想される
ので、薄帯製造の簡易性を考慮し、比較的高酸素濃度の雰囲気中においても作製可
能な材料の開発も実施する。また、開発材料について結晶化熱処理条件の磁気特性
に及ぼす効果を調べ、微細組織を最適化させる。さらに目標の磁気特性を達成した
材料について、加工性の評価、改善を行う。材料の基本性能の開発は、15mm 幅程
度の薄帯から打ち抜き加工したテストリングを用いて行い、小型トロイダル形状に
加工した鉄心および 50mm 幅の薄帯材料についても特性評価を行う。最後に、経時
変化の調査およびコスト低減にむけた検討を実施する。
4.2.2 幅広薄帯製造技術の開発
目標とする柱上トランス実現のためには幅広薄帯(材料の幅 100mm 以上)を
大量(1 台の鉄心重量 80kg 程度)に生産することが必要である。そこで、ロール
に不活性ガスを吹き付けることによって製造装置周辺の酸素濃度を低減する技術を
開発し、幅広薄帯を大量生産するための基盤技術を開発する。
具体的内容は、研究用の小型薄帯製造装置を使用して、ガスフローに使用するガ
スの種類、及びガスフローの方法と装置周辺の酸素濃度との関係と薄帯の形状制御
パラメーターや作製された薄帯の形状、磁気特性、加工性との関連についての調査
を行い、ガスフロー中での薄帯製造技術の基礎を固める。次にプロトタイプの中型
薄帯製造装置での試作製造条件を求め、これを基に大型製造装置を製作し、幅
100mm 以上の薄帯を安定して生産できる技術を開発する。
4.2.3 柱上トランスの試作・評価
開発した高性能材料を鉄心とする柱上トランスの性能が従来のトランスに対し
てエネルギー的・技術的優位性を実証することが肝要である。このため、鉄心の試
作と性能評価を行い、新材料を使用した柱上トランスの無負荷損が従来の 1/10 程度
であることを確認し、超低損失柱上トランス実用化への見通しを明らかにする。
具体的には、材料を熱処理して薄帯での磁気特性を確認後、小型鉄心の試作を
行い、材料特性と鉄心性能との関係を把握し、形状要因の課題を摘出する。これを
材料開発にフィードバックすると共に鉄心試作加工方案の改善を図る。最終段階で
20kVA 柱上トランスの試作と性能評価を行い、その無負荷損が 6W であることを
確認する。
2-10
4.3 研究開発実施主体の体制
本プロジェクトでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が経済
産業省(開始当時:通商産業省工業技術院)より補助金を受け、実施先を公募によ
り選定し、その結果、財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会(以下 RIMCOF)
に委託した。委託先においては、産業界を中心とする研究開発能力、市場調査能力
及び参加企業の保有設備、保有情報を積極的に活用するために、研究課題を検討し
た上、アルプス電気株式会社、大同特殊鋼株式会社、株式会社高岳製作所に再委託
する体制により開発を行っている。また RIMCOF は、研究開発推進にあたり、本
研究開発の中心となるナノ結晶軟磁性材料の研究を進めている東北大学 井上 明
久教授、秋田県立大学 牧野 彰宏教授、電磁気学の信州大学 山沢 清人教授に協
力を依頼し、井上教授を委員長とする技術委員会を設置して推進に当たっている。
また、4.2.1~4.2.3 に記載した事項はそれぞれ製造フェーズの違いがあり、企業
の専門性が重要であることから、順にそれぞれナノ結晶軟磁性材料で多くの開発実
績を有するアルプス電気(株)
、液体急冷法で活性金属を含む材料の製造研究を実施
している大同特殊鋼(株)
、と鉄基アモルファス合金製トランスの研究開発を進め製
造体制を整えている(株)高岳製作所が実施している。また、全体として開発期間
の短縮を図るため、材料開発、薄帯製造やトランスの試作・評価を並行して行いな
がら適宜前工程へフィードバックするシステムを採用した(図 4.3.1)
。
5. 実用化、事業化の見通し(政策目的達成時のイメージ)
本研究開発の成果である超低損失柱上トランス技術は、日本で使われている柱上
トランス全ての鉄心が 2008 年から 30 年で超低損失鉄心材料に置き換えられると仮
定すると、販売電力の増加分を考慮して 2010 年に年間CO2排出量 54 万トン、電
力損失約 8 億 kWhの削減が期待できることが算出される。その他、発電所から需
要先への電力供給における柱上トランス以外の他の分野への適用としては、電車・
自動車用トランス、その他民生用の小型トランスのコア材料にも応用される可能性
が高い。さらに種々の電子部品への応用展開が期待できる。特にスイッチング電源
用チョークコイルやノイズフィルター用コモンモードチョークコイルに使用される
材料においては高い飽和磁束密度、
低損失または高透磁率の特性を必要としており、
コスト競争力を高めることができれば実用化が期待できる。また、本研究開発で得
た超急冷技術を他材質(活性金属の入った材料、特殊なろう材等)に展開すること
が可能と考える。
クリーンなエネルギーを安定して経済的に供給するシステムを構築することは社
会基盤を整えることに他ならず、事業化に対する課題として、超低損失柱上トラン
スの普及には、国的施策及び電力供給企業の意識改革が必要不可欠である。一方、
新材料の大量生産技術の普及にはコストが重要な要因であることから、本研究開発
による超低損失柱上トランスのコスト競争力を、他の競合技術に比べ遜色無いレベ
ルまで高めることが必要である。
実用化に向けての材料開発面の課題は、原料コストである。試算によれば、原料
コストは現在の競合技術の一つである鉄基アモルファス合金の約3倍であるが、リ
サイクルが確立されれば薄帯に占める原料コスト比率が下がり、同等レベルのコス
トになる。従って、普及初期のリサイクルが見込めない段階では、実用化・普及に
2-11
対する国家的施策による支援が重要な役割を担うと考えられる。
一方、競合技術に比べ新材料の加工性という課題が残されており、柱上トランス
の大量生産に向けては、材料面と柱上トランス製造面の両面からの技術向上による
解決が必要になってくる。機器普及の国家的施策として、トランスを省エネルギー
法の「トップランナー方式」の対象機器とする方向で、同法の所管省庁である経済
産業省と重電業界間の検討が本格的に始まっており、その目標基準値も 2002 年 1
月時点で総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会変圧器判断基準小委員会
中間報告で示されている。2002 年 2 月 22 日締切でパブリックコメントの募集が行
われていた。
以上のように事業化までにはまだ超えなければならない課題はあるものの、数年
間の研究継続で解決できるものである。
6. 今後の展開(政策目的達成までのシナリオ)
プロジェクト終了後は、早期実用化に向け、本格的製品製造に必要な技術開発
に取り組む。また、フィールドにおける柱上トランスの経時的性能評価等、実用化
のための技術の確立が必要となる。
本研究開発により開発した技術の活用等により、
電力供給における柱上トランスの無負荷損による電力損失の削減を実現し、2010
年以降の省エネルギー化、温室効果ガス排出量及び石油消費量の削減に資するもの
である。
7. 中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期
中間評価は実施していない。
2-12
8. 研究開発成果
8.1 事業全体の成果
要素課題である高性能材料の開発、幅広薄帯製造技術の開発 及び柱上トランス
の試作・評価に関する研究開発の成果は、
(1)開発した新材料の磁気特性は、Fe-Zr-Nb-B 合金、Fe-Nb-B-Sn 合金、Fe-Nb-B
合金でいずれも基準励磁条件での鉄損が 0.10W/kg 以下で、飽和磁束密度は
1.56T 以上といずれも目標値に達した。
(2)幅広薄帯製造技術の開発では、Fe-Nb-B 合金で鉄損が 0.10W/kg の幅 100mm
の幅広薄帯の製造技術を開発した。
(3)Fe-Nb-B 合金の幅 50mm 薄帯を鉄心として試作した 20kVA 柱上トランスの
無負荷損は 14W であった。なお、最良の磁気特性を有する Fe-Nb-B-Sn 合金
で設計すると無負荷損は 8W になり、目標値の 6W 程度にかなり近い。
8.1.1 高性能材料の開発
開発の基軸となる基準励磁条件での鉄損は、目標値 0.1W/kg 以下に対して
Fe-Nb-B 合金をベースに組成の探索と最適化を精力的に実施した結果、適正な鉄損
向上添加元素を見出すとともに結晶化熱処理条件の最適化により、Fe-Zr-Nb-B 合
金で 0.08W/kg、
Fe-Nb-B-Sn 合金で 0.08W/kg、
基本の Fe-Nb-B 合金でも 0.10W/kg
の低い鉄損を実現し、目標値を達成していることを確認した。これらの材料はいず
れも飽和磁束密度が 1.56∼1.62T で、目標とする 1.56T 以上を満足している。これ
らの成果は、世界をリードする純国産技術の一つとして確固たるものである。
また、量産における低コスト化を見据えた大気中での薄帯製造を行い、その可
能性を示すとともに、高価な元素であるジルコニウムやニオブの低減が可能である
こと、微細結晶組織が磁気特性に及ぼす影響に関する知見など、確実で有効な方向
性を得た。
8.1.2 幅広薄帯製造技術の開発
研究用の小型薄帯製造装置での雰囲気も加味した実験と試作用の中型薄帯製造
装置での材幅 50mm 薄帯の試作を行った。この段階で、当初は量産を念頭において
ガスフロー中での射出を実施したが、薄帯近傍の酸素濃度の十分な低減は難しいこ
とやガス巻込みによる薄帯の劣化が判明した。そこで、不活性ガス中の減圧下での
射出に変更し、所期の性能を得た。この実績に基づき、材幅 100mm 以上の大型薄
帯製造装置を用いた研究で、減圧方式での薄帯製造を行った結果、基本組成である
Fe-Nb-B 合金で世界で報告例のない幅 100mm 薄帯製造技術を開発した。なお、幅
100mm 薄帯の鉄損は当初 0.13W/kg 以上であったが、製造条件を検討した結果、
最終的に材料本来の鉄損値である 0.10W/kg が得られた。
また、量産における低コスト化を図るための原料費の低減について、純金属の
配合でなくより安価な合金鉄を用いた試作を行い、薄帯製造が可能であることを確
認した。
8.1.3 柱上トランスの試作・評価
基本の Fe-Nb-B 合金による小型トロイダルコアや 500VA 小型トランス鉄心の試
作・評価の結果を踏まえ、20kVA 柱上トランス鉄心を試作した。500VA 小型トラ
2-13
ンス鉄心の鉄損は 0.13W/kg で薄帯や小型トロイダルに近似することが分かった。
これらの試作結果を基に、鉄心材料を有効に活用する設計をしたところ、20kVA 柱
上トランスの無負荷損は Fe-Nb-B 合金で約 10W、Fe-Nb-B-Sn 合金で約 8W にな
った。
20kVA 柱上トランスの試作では、幅広薄帯の開発が遅れたため、Fe-Nb-B 合金の
幅 50mm 薄帯を用いた試作を 1 回実施したに留まった。その無負荷損は 14W で設
計値より高い。
これは、今回の試作で使用した薄帯の磁気特性や表面性状が安定した
ものではなく、結晶化熱処理等も必ずしも最適とは言えないことに起因する。
試作・評価の過程で、ナノ結晶軟磁性材料の鉄心形状依存性は低いことを見出し、
また、結晶化熱処理における鉄心の内部発熱を迅速に放散させる方法を開発した。
これらにより実用化の課題の解決策について知見を得た。
8.1.4 成果の普及、広報
本研究開発で得た成果の普及の取り纏めを表 8.1.4.1 に、その内容を表 8.1.4.2、
8.1.4.3 及び 8.1.4.4 に示す。
学会発表論文は 26 件、
特許件数は 19 件に上っている。
一方、マスコミ等を通じた広報は 3 件である。特に平成 12 年 10 月 16 日の日刊工
業新聞には比較的大きな記事として取り上げられ、広報活動として大きな効果があ
ったと思われる。
8.2 研究開発項目毎の成果
8.2.1 高性能材料の開発
8.2.1.1 低鉄損材料の開発
ナノ結晶軟磁性材料に関する知見をもとに、単ロール液体急冷法を用いて開発を
実施した。
表.8.2.1.1 に本研究開発において開発した合金の代表的な特性を示した。
これら開発合金は全て約 10nm 以下の微細な組織を有するナノ結晶材料であり、
1.56T 以上の飽和磁束密度と 0.1W/kg 以下の鉄損という目標の磁気特性を達成して
いる。
1. 5T 以上の高い飽和磁束密度を示すナノ結晶軟磁性材料として Fe-Zr-B および
Fe-Nb-B 合金が報告されているが、これら合金を複合化した Fe-Zr-Nb-B 合
金の磁気特性を調査し、優れた軟磁気特性を示すことを見出した。図 8.2.1.1
にジルコニウムとニオブの総量を 6at.%とした Fe-Zr-Nb-B 合金について磁気
特性の組成依存性を示す。ジルコニウムが 2at.%付近において高透磁率(μ’)
、
低保磁力( Hc )および低鉄損(W)が得られることが分かる。代表的な
Fe-Zr-Nb-B 合金について磁気特性を表 8.2.1.2 に示す。特に Fe85.5Zr2Nb4B8.5
合金は 0.08W/kg の低い鉄損と 1.62T の高い飽和磁束密度を有している。
2.
しかしながら、この合金は比較的酸化しやすいジルコニウムを 2at.%程度含ん
でおり、雰囲気中の酸素濃度が高い場合においては、薄帯作製工程中に合金が一部
酸化する。また、液体急冷時に使用するノズルとしてシリカガラス等を用いる場合
においては、溶湯金属とノズルとの間に反応が起こり薄帯の作製は難しくなる。柱
上トランス用材料としては幅広薄帯の作製が必要であり、酸素濃度が比較的高い雰
囲気においても作製可能な材料とすることで幅広薄帯の作製も容易となる。そのた
2-14
めに材料開発の課題を大気雰囲気中液体急冷法において作製可能な材料の設計に絞
り込んだ。特に、Fe-Nb-B 系合金について大気雰囲気中液体急冷法を用いての材料
開発を実施した。
高酸素濃度雰囲気中において合金薄帯を作製するには、材料組成を酸化しにく
い元素で構成する必要がある。ニオブはジルコニウムほどではないが酸化物生成自
由エネルギーが低い元素であり、その含有量をなるべく抑えることが必要である。
そこで大気雰囲気中液体急冷法で作製した Fe-Nb-(Mo)-B 合金の磁気特性の調査を
実施した。その結果、ニオブ濃度が 7at.%以上では合金の酸化により薄帯の作製が
困難であることが分かった。また、ニオブ濃度が 5∼5.5at.%の組成においてはモリ
ブデン(Mo)を 0.5∼1at.%添加した Fe-Nb-Mo-B 合金で良好な軟磁気特性が得ら
れ、ニオブ濃度が 6at.%以上ではモリブデンを添加しない Fe-Nb-B 合金において良
好な軟磁気特性が得られた。図 8.2.1.2 に大気雰囲気中液体急冷法により作製した
Fe-Nb-B 合金の磁気特性の組成依存性を示す。ニオブ濃度を 5.5at.%以上と高くし
た組成において高透磁率、低保磁力および低鉄損が得られ、特にニオブ濃度を 6∼
6.7at.%にした合金においては 0.1W/kg 程度の鉄損が得られることが分かった。
表.8.2.1.3 中に代表的な組成の磁気特性を示す。大気雰囲気中液体急冷法により作
製した Fe84Nb6.5B9.5 合金は、0.10W/kg の鉄損と 1.58T の飽和磁束密度を示し、目
標の磁気特性を達成している。これまでに報告されている Fe-(Zr,Nb)-B 系ナノ結晶
材料は全てアルゴン等の不活性ガス置換雰囲気中で作製された材料であり、大気雰
囲気中で作製可能で且つ優れた軟磁気特性を示す Fe-Nb-B 合金は、本研究開発で見
出された組成である。
また、この Fe-Nb-B 系合金への種々の元素を添加し、磁気特性の更なる改善を試
みた。添加元素としては材料費を考慮して比較的安価な材料を選ぶかまたは添加量
をなるべく少なくして特性改善を目指した。この結果、ガリウム添加、リン添加、
リンとランタンの同時添加、および錫の添加はどれも軟磁気特性を向上させる効果
を持つことを見出した。Fe-Nb-B-P および Fe-Nb-B-Sn 合金について磁気特性の組
成依存性を図 8.2.1.3 および図 8.2.1.4 に示す。特に、0.5∼1.5at.%のリン添加およ
び 0.2∼0.3at.%の錫添加を行った合金は優れた軟磁気特性を示し、0.08∼0.09W/kg
程度の鉄損が得られている。一方、リン添加については大気雰囲気中液体急冷法で
は若干作製しづらくなる事がわかった。この問題を克服するためには、リンと同時
にランタンを微量添加(0.05∼0.1at.%)することが効果があると見出している。こ
れらリン、ランタンおよび錫の添加量は 0.05∼1.5at.%と非常に微量であり、この
ような微量添加が特性改善につながる報告はこれまでにない。これら元素の添加量
が微量であることは、添加による飽和磁束密度の減少が小さく、柱上トランス用鉄
心材料として有利である。これら開発合金の代表的な組成について磁気特性を表
8.2.1.4 にまとめた。特に Fe-Nb-B-P、Fe-Nb-B-P-La および Fe-Nb-B-Sn 合金は
1.56∼1.61T の飽和磁束密度と 0.08∼0.09W/kg の低い鉄損を示している。また, 各
合金とも 1×10-6 以下の小さい磁歪値を示している。鉄基アモルファス合金(>1×
10-5 の磁歪値)等の磁歪が大きい材料を使用したトランスにおいては振動に起因す
る騒音が問題視されているが、磁歪が小さい本開発材料においては磁場印加による
振動が小さいと考えられる。
このように開発合金が優れた軟磁気特性、特に低い鉄損を示す原因を調査した
結果、最適熱処理後における磁歪の低減、結晶粒径の微細化および残留アモルファ
2-15
ス相のキューリー温度の上昇が要因と推察した。
8.2.1.2 磁気特性の熱処理温度依存性調査
図8.2.1.5 および 8.2.1.6 にFe-Nb-B、
Fe-Nb-B-P、
Fe-Nb-B-Sn、
およびFe-Nb-Zr-B
合金について磁気特性と結晶粒径(D)の熱処理温度依存性を示した。この結晶化熱処
理は 180℃/分(3K/s)の昇温速度および 5 分の保持時間で実施している。Fe-Nb-Zr-B
合金は 510∼520℃(783∼793K)の熱処理後において、また Fe-Nb-B、Fe-Nb-B-P
および Fe-Nb-B-Sn 合金は 650∼675℃(923∼948K)の熱処理後において高い透
磁率、
低い保磁力および低い鉄損を示し、
最適熱処理温度が存在することがわかる。
各合金とも比較的低温熱処理後においては飽和磁束密度が低く、残留アモルファス
相の体積分率が大きいことが推察される。また、各合金とも熱処理温度が低い場合
には大きい磁歪を示しており、このことが軟磁気特性の劣化に起因するものと推察
する。また、熱処理温度が高いと結晶粒径が大きくなる傾向にある。
また、開発合金の中で代表として Fe-Nb-B および Fe-Nb-B-P 合金を選び、磁気
特性の熱処理条件依存性を詳細に調査した。図 8.2.1.7 および図 8.2.1.8 にそれぞれ
Fe-Nb-B 及び Fe-Nb-B-P 合金について熱処理温度、昇温速度、保持時間と鉄損と
の関係を示した。Fe-Nb-B、および Fe-Nb-B-P 合金ともに昇温速度(α)の速い、
または保持時間(t)の短い条件での熱処理後において低い鉄損を示す傾向がある。
Fe-Nb-B-P 合金は比較的広い熱処理条件で 0.10W/kg 以下の鉄損を示す。
8.2.1.3 加工性の調査
図 8.2.1.9 に各合金の破壊歪(λf)の熱処理温度依存性を示した。λf の値が大きい
ほどその材料は靭性があり加工性が良い。各合金とも結晶化後(ナノ結晶状態)に
おいてはλf の値は減少し、脆くなることがわかる。525∼675℃(798∼948K)で
熱処理を行ったナノ結晶材料のλf は鉄基アモルファス合金(破壊歪=25×103)の
約 1/3 程度の値であり、トランスへの加工は困難である。しかしながら、熱処理前
のアモルファス状態においてはλf=1 を示しており、結晶化熱処理前の段階である
程度のトランスへの加工を実施すれば、トランス製造は可能である。また、これら
開発合金の中で Fe-Zr-Nb-B 合金は、最適温度での熱処理後(510∼525℃(783∼
798K)
)においても比較的破壊歪の大きい材料である。
これら開発合金を用いたトランスの製造は可能と予想されるが、トランス製造に
おける製造コストの低減を考えると、さらなる材料加工性の改善が必要である。特
に材料中の残留アモルファス相の体積分率を増加させることが加工性改善の一つの
手法と予想する。
8.2.1.4 小型トロイダルコア形状での磁気特性評価
トロイダルコア形状における磁気特性の調査を行った。Fe-Nb-B、Fe-Nb-B-P お
よび Fe-Nb-B-Sn 合金について小型のトロイダルコア(面積 52×72mm2、高さ
15mm)を作製し、昇温速度 20℃/分(0.33K/s)、保持時間 30 分および保持温度 640
∼700℃(913∼973K)で結晶化熱処理を施した。図 8.2.1.10 に各合金について鉄
損 の 最 大磁 束 密 度 (Bm) 依 存 性 を 示 す 。 Fe84Nb6.5B9.5 、 Fe84Nb6.5B8.5P1 お よ び
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2 合金は、
1.33T の Bm において、
それぞれ0.12、
0.10 及び0.09W/kg
の鉄損を示し、特にリンまたは錫添加合金ではトロイダルコア形状でも目標の磁気
特性を示した。
2-16
8.2.1.5 50mm 薄帯の磁気特性評価
柱上トランス用鉄心材料として実用化するには幅広薄帯とする必要があるが、特
に材料開発の段階においては 50mm 幅薄帯の磁気特性についての確認まで行った。
開発した合金組成の中で薄帯の作製し易さ、磁気特性およびトランスへの作製し易
さを総合的に考えた場合、Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2 が望ましい。この合金について 50mm
幅薄帯を作製し、磁気特性の確認を行った。50mm 幅薄帯の作製は窒素置換雰囲気
中で行い、長さ約 150m 幅 50mm の合金薄帯の先端部、中央部、終端部の磁気特性
を測定した結果、先端部:0.090∼0.10W/kg、中央部:0.092∼0.10W/kg、および
終端部:0.11W/kg の鉄損が得られた。平均で 0.10W/kg の鉄損を示しており、50mm
幅薄帯において目標の鉄損を示すことを確認した。
8.2.1.6 磁気特性の経時変化調査
本開発合金であるナノ結晶軟磁性材料はアモルファス合金と同様に非平衡材料で
あり、磁気特性の経時変化に伴う劣化が心配される。そこで次に、これら開発材料
について磁気特性の経時変化を調査した。ここでは加速劣化試験を行い、320℃
(593K)の温度で大気雰囲気中に数時間放置し磁気特性の変化を調べた。代表組成
として、Fe85.5Zr2Nb4B8.5、Fe84Nb6.5B9.5、Fe84Nb6.5B8.5P1 および Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
を選び、比較のために鉄基アモルファス合金についても同様な試験を行った。図
8.2.1.11 にその結果を示す。鉄基アモルファス合金は 3 時間(10800s)経過後から
鉄損の増加が始まり、30 時間(108000s)後において約 2 倍の鉄損となる。一方、
いづれのナノ結晶材料も 30 時間(108000s)の経過後において鉄損の大きな増加は
見られず、安定であることが分かった。このように開発合金の経時変化は鉄基アモ
ルファス合金より小さく、実用上問題ないと予想される。
8.2.1.7 原料コストの低減検討
材料開発の最後の課題としてコストの低減があげられる。開発組成においてジル
コニウムまたはニオブは不可欠な元素であるが、比較的高価である。原料費の面に
おいては、開発合金は鉄基アモルファス合金の 3 倍程度であり、柱上トランス用鉄
心材料としての普及を考えると課題と言える。これらジルコニウムおよびニオブ濃
度をなるべく下げた組成において、目標の磁気特性が達成できることが望ましく、
特に低ニオブ濃度組成において材料開発を実施した。ここでは開発を大気雰囲気中
で作製可能な組成について実施した。開発した組成について代表的な特性を表
8.2.1.5 に示す。ニオブ濃度を減少させると鉄損は大きくなる傾向を示すが、ニオブ
を 5.5∼6at.%まで減少させた組成においてもリンまたは錫添加した合金において
0.1W/kg 程度の鉄損が実現できることがわかった。
8.2.1.8 要素技術から見た成果の意義
0.1W/kg 以下の鉄損及び 1.56T 以上の飽和磁束密度を示す材料を実現できたこと
は世界最高水準の成果である。特に Fe85.5Zr2Nb4B8.5 の組成は 0.08W/kg の鉄損と
1.62T の高い飽和磁束密度を示しており、従来にない材料である。また、雰囲気中
の酸素濃度が高い場合(特に大気雰囲気中)においても作製可能な材料として開発
した Fe84Nb6.5B9.5、Fe83Nb6.5B9.5Ga1,Fe84Nb6.5B9P0.5,Fe83.95Nb6.5B9P0.5La0.05 及
び Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2 においても上記の目標特性を満足しており、従来にない材料
2-17
と言える。これらナノ結晶材料は、柱上トランスだけではなく、種々の電子部品へ
の応用展開が可能である。特にスイッチング電源用チョークコイルやノイズフィル
ター用コモンモードチョークコイルに使用される材料においては高い飽和磁束密度、
低損失または高透磁率の特性を必要としており、コスト競争力を高めることができ
れば実用化が期待できる。
8.2.2 幅広薄帯製造技術の開発
8.2.2.1 ガスフロー中薄帯製造装置基礎検討
実験用小型薄帯製造装置を利用して、ガスフローに使用するガスの種類及びガス
フローの方法と装置周辺の酸素濃度との関係について調査した。ロール周りとノズ
ル先端部を囲い、薄帯が飛行する部分に大気遮断用の箱を付けその一部には薄帯の
通り道になる開口部を設け、ノズル近傍からガスを吹き付けることで(図 8.2.2.1)
、
ノズル付近の酸素濃度は、0.1%以下までに低下することを確認した。また、ガスの
種類では、
窒素ガス<アルゴンガス<二酸化炭素ガスの順で酸素濃度は低くなった。
8.2.2.2 試作用薄帯製造装置の導入と 50mm 幅薄帯の製造技術開発
試作用薄帯製造装置は、真空対応型ガスフロー装置である。図 8.2.2.2 に装置概略
図を示す。まず、Fe-Nb-B 合金を使用してガスフローの実験を行った。この装置は、
小型薄帯製造装置とは異なり、ロールが大きく、ロール全体を覆いきれないことま
た、ノズル先端部分を覆うと射出状況の観察がまったくできなくなるため、ロール
後方よりガスを吹き付ける方法でガスフローを行った。ガス量は、0.017m3/s と多
く、ガスの排気が必要なため、装置にブロアを取り付けてガスフロー開始と共にブ
ロアで排気するという方法を行ったが、大気からでは、どれだけがんばっても酸素
濃度は 13%までにしか低下せず、結局、アルゴン置換した後にアルゴンガスを流す
方法で酸素濃度を 2%まで下げることができた。この条件でも、ロール周速度、ノ
ズル/ロールギャップ、射出差圧を適正化することで薄帯製造は可能であり、50mm
幅の薄帯製造ができた。できた薄帯の磁気特性は、透磁率 11,000∼28,000、鉄損
(1.33T、50Hz)0.16∼0.22W/kg と目標値(0.1W/kg 以下)に比べ、やや劣る結
果であった。薄帯のロールに接触した面では、ガスの巻き込みによる多数の気孔が
みられ、それが原因と考えられた。
次に真空中での薄帯製造の実験を行った。その結果、表面肌のきれいな幅 50mm
のアモルファス薄帯を得ることに成功した(図 8.2.2.3 50mm 薄帯写真)
。薄帯の
磁気特性は、得られたアモルファス薄帯をリング状に打ち抜き、結晶化温度以上で
熱処理することでナノ結晶を析出させて評価した。透磁率 35,000∼41,000、磁場
1.3T、周波数 50Hz での鉄損は 0.09∼0.12W/kg と目標値に近い値のものが得られ
た。
また、本装置を用いてこれらの結果を基にガスフロー方式と減圧雰囲気方式につ
いて設備コスト、ランニングコストの比較を行なった。その結果を表 8.2.2.1 に示
す。設備コストではガスフローの方が安くなるが、フローガス費用が余計に掛かり
薄帯原価トータルとしてみると、差がなく、且つ減圧方式では容器が着いており、
万一のトラブルに対しても安全性が高い。
以上のことから、大型装置は真空対応とし、以後は減圧雰囲気での薄帯製造の検
討を行なった。
2-18
8.2.2.3 大型薄帯製造装置の導入と 100mm 幅以上の薄帯製造技術開発
試作用薄帯製造装置の結果に基づいてより量産に近い大型薄帯製造装置を設
計・導入した。この装置の目標は、実用レベルの幅広薄帯を大量に作ることであり、
その特徴は、溶解部とノズル部を完全に分離独立させ、湯受け部をつくり、その部
分にノズルを付けたこと、ノズルをいつでも自由に上昇・下降ができるようにした
ことである。装置概略図を図 8.2.2.4 に示した。最大溶解量は、100kg と大きくし
た。この装置では、ノズルには加工性が良く、溶湯との反応性がない窒化ボロンを
用いた。一般的にノズル材質としては、石英と窒化ボロンが考えられるが、幅広の
ノズルを精密に作るには、
加工性の良いことが重要であり、
窒化ボロンを選定した。
この装置を使用して、電解鉄,純ニオブ、純ボロン金属原料をるつぼに装入し、
誘導加熱溶解して、0.3mm×100mmのスリットから射出することにより 100mm
幅のアモルファス薄帯の製造に成功した(図 8.2.2.5)
。また、原料として純ニオブ
の代わりにフェロニオブ、純ボロンの代わりにフェロボロンを用いても同じように
薄帯製造が可能であることを見出した。これにより、原料費の低減が可能で、原料
コストが低く抑えることができる。製造した 100mm 幅薄帯の磁気特性は、当初鉄
損値は 0.13W/kg 以上であったが、製造条件のロール周速度、雰囲気圧、ギャップ
コントロール、差圧を最適化することで、最終的に透磁率 23,000 で鉄損値が
0.10W/kg(50Hz,1.33T)となり、目標の特性が得られた。
今回の試験では、Fe-Nb-B 合金での薄帯製造試験を行ったが、より高性能な材料
(Fe-Nb-B-Sn など)が開発されており、今後その材料についても薄帯製造試験を
行っていく計画である。
8.2.2.4 要素技術から見た成果の意義
従来の急冷薄帯は、Fe-Si-B 合金に代表されるように極めてアモルファスにな
り易い組成の合金でありかつ、大気中で急冷されるものである。本研究のように、
アモルファスになるぎりぎりの成分(その成分でないと、ナノ結晶化しにくい)で
さらに、減圧下で 100mm 以上の幅の材料製造の報告はなく、世界最高の水準の成
果である。今回の研究で得られた技術を展開すれば、本研究の合金組成以外のより
急冷化が困難な材料薄帯製造に繋がり、新規な材料開発、応用が可能となる。
また、今回のように溶解した材料を一度湯受け部に受ける構造にしたことで、溶
解炉を 2 基使用して連続して生産できる機構ができたこととなり、量産、事業化に
つなげることができる。
8.2.3 柱上トランスの試作・評価
8.2.3.1 小型トランス用鉄心試作・評価
小型トランスの試作を行い、材料特性とトランス性能との関係を把握し、材料開
発にフィードバックした。また、柱上トランス鉄心用熱処理炉検討に必要なデータ
を得た。その結果、鉄心全体の温度を均一にするため、材料の結晶化温度より低い
温度で一旦保持するプレアニールとアモルファス構造から結晶相へ変化させる結晶
化アニールの 2 段階熱処理の有効性を確認した。
小型トランスとしては、15mm 幅薄帯の Fe-Nb-B 合金について、寸法φ40mmφ25mm、高さ 15mm、重さ 70∼80g のトロイダルコアを作製し、小型雰囲気熱処
理炉を用いて熱処理方法及び熱処理条件を調査し、結晶化熱処理後の磁気特性を測
2-19
定した。その結果、50Hz、1.4T で 0.13W/kg の鉄損(50Hz、1.33T 時計算値で
0.12W/kg)を示し、トロイダルコアでもテストリングと同等の磁気特性を示すこと
が確認できた。また、トロイダルコアを揉みほぐすことで材料層間の固着が解放さ
れ、磁気特性が大幅に向上することを確認した。
さらに、磁気特性に対する鉄心形状依存性の検討を実施したところ、形状及び
重量の異なるテストリングとトロイダルコアの鉄損がほぼ同じ値であったことから、
鉄心形状依存性が低いことが判明した。
一方、ラップカット鉄心製造に必要な加工性及び鉄心材料から鉄心に成形する
までの鉄損の変化分を示すビルディングファクターの検討を実施した。加工性の評
価指標として熱処理後の材料の破壊曲げR試験を採用し検証した。鉄基アモルファ
ス合金と比較して、Fe-Nb-B 合金の破壊曲げRが約 4 倍大きく加工性が低いことを
確認した。また、トロイダルコアを用いて、ノーカットコアとラップカットコアの
鉄損の差を検証したところ、ラップカットコアの方がノーカットコアの鉄損より約
1.5 倍悪くなることを確認した。当初、超低損失柱上トランス鉄心製造は、将来の
量産化を見据え、現在主流となっており従来技術のトランス製造で採用されている
ラップカット鉄心方式にて試作予定であった。しかし、上記より、熱処理後の材料
の脆性確保が難しく、現在の処、ラップカット鉄心製造は困難を極めることが予想
され、鉄心成形が可能としても磁気特性が悪くなるため、今回の超低損失柱上トラ
ンス試作は、ノーカット鉄心によるコイル後巻方式を採用せざるを得ないと判断し
た。
図 8.2.3.1 に熱処理後のラップカット部を示す。
8.2.3.2 柱上トランス用鉄心試作・評価
超低損失柱上トランスの試作及び性能評価を行い、従来技術のトランスに対する
技術的優位性を実証することを目的としている。
超低損失柱上トランスを製造する前段として、容量 500VA を選択し、実器と相似
な矩形の小型トランス鉄心を作製し、低鉄損・高磁束密度を実現するための最適熱
処理条件の探索及びトランス製造に際し問題点を顕在化し、それに対する検討を実
施した。
500VA 小型トランスとしては、50mm 幅薄帯の Fe-Nb-B 合金及び 50mm 幅
Fe-Nb-B-Sn 合金を用いて、外形寸法 194×100mm、窓寸法 144×50mm、鉄心積
厚 25mm、高さ(材料の幅)50mm、重量 3.4∼3.8kg(占積率 80∼92%)を製作
し、熱処理後の磁気特性を測定した。図 8.2.3.2 に 500VA 小型トランスを示す。熱
処理方法としては、トロイダルコアの熱処理試験結果を踏まえて、磁気特性向上の
有効性が確認できた熱処理方法(プレアニールと結晶化アニールの 2 段階熱処理方
法)を採用した。また、この 2 段階熱処理方法が可能な 2 室構成の結晶化用熱処理
装置を製作し実験に供した。図 8.2.3.3 及び図 8.2.3.4 に結晶化用熱処理装置の写真
と外形図を示す。図 8.2.3.4 の左側がプレアニールを行う予熱室、右側が結晶化ア
ニールを行う加熱室である。また、本実験に供した熱処理パターンの基本プロファ
イルを図 8.2.3.5 に示す。プレアニール条件としては保持温度 400℃、保持時間 60
分で一定、結晶化アニール条件としては保持温度 520∼660℃、保持時間 30∼60 分
と設定した。熱処理試験は、トロイダルコアの熱処理時と同様に鉄心が雰囲気に直
接触れる状態で実施した。その結果、600℃の熱処理設定温度でトップデータが得
られ、この時の鉄損は 50Hz、1.33T で 0.15W/kg であり、鉄心内部の実測温度は、
2-20
アモルファス構造から結晶相へ変化することに伴う発熱による影響で 700℃近くま
で達した箇所もあり、磁気特性向上の妨げになっていることが考えられた。
トロイダルコアと 500VA 小型トランス鉄心との熱処理の大きな差は、鉄心材料の
発熱による内部の発熱量であり、
この発熱量はコアの質量に依存すると考えられる。
つまり、トロイダルコアと比較して 500VA 小型トランス鉄心は発熱量が大きいた
め、鉄心内部の過剰な温度上昇の影響により、それ以上の磁気特性の向上が図れな
いだろうことが予測された。その抑止策として、鉄心に熱容量の大きな金属塊を接
触させ、自己発熱に伴う余剰熱を外部に放出させる方法で熱処理し、磁気特性を測
定した。その結果、鉄心内部の実測温度は最高温度でも 660℃を超えず、過剰な温
度上昇が抑制された。磁気特性は、保持温度 650℃、保持時間 30 分窒素雰囲気中
の熱処理条件でトップデータを示し、
50Hz、
1.33T で 0.13W/kg の鉄損が得られた。
これらの結果から、500VA 小型トランスにおいてもトロイダルコアやテストリング
と比較的近似な磁気特性を示すことが確認できた。
試作・評価用の超低損失柱上トランスとしては、柱上トランスとして汎用的で、
少量の鉄心材料で評価するに十分な容量である 20kVA トランスを選択した。図
8.2.3.6 にこの鉄心外観(Bコア)を示す。鉄心材料の低鉄損を有効に活用するための
設計手法をとることにより、設計値で鉄心重量は 70kg、無負荷損は約 10W(従来柱上
トランスの約 1/6)となった。一方、試作した 20kVA 柱上トランス(鉄心重量 77kg)
の無負荷損は 14W(1/5 以下)となった。従来柱上トランスに対して約 1/10 の無負
荷損を実現可能とするためには、さらなる低い鉄損または高い飽和磁束密度の材料
開発が必要であることをフィードバックした。また、併せて鉄心の適正熱処理条件
等の柱上トランス製造技術の工夫も必要となってくる。
8.2.3.3 要素技術から見た成果の意義
従来柱上トランスの約 1/10 の低無負荷損を実現できうる超低損失柱上トランス
技術は、世界最高水準の成果といえる。また、トランス鉄心の内外の温度差を均一
化させるための 2 段階熱処理法、及びアモルファス構造から結晶相へ変化すること
に伴う発熱による影響を低減するため、熱容量の大きな金属塊をトランス鉄心に接
触させながら行う熱処理方法の確立は、トランスの磁気特性向上に大きく寄与し、
新たな市場活性化につながる新規性及び先進性のある内容である。更に、ここで得
られた超低損失柱上トランス製造技術は、汎用性の高い技術であり、柱上トランス
技術以外の材料応用分野への適用も期待できる。
2-21
表 1.2.1 年度別予算
課
題
高性能材料開発
幅広薄帯製造技術開発
柱上トランス試作評価
総合調査研究
計
H10
140
99
8
6
253
H11
97
130
101
22
350
H12
87
365
87
24
563
H13
36
238
40
46
360
(百万円)
計
360
832
236
98
1,526
材料設計
ガスフロー中液体急冷技術開発
材料供給
及び小規模薄帯試作
材料特性・構造
フィードバック
フィードバック
評価
小型トランス
試作・評価
幅広薄帯製造技術開発
及び大規模薄帯試作
フィードバック
柱上トランス
試作・評価
超低損失柱上トランス用材料
図 4.3.1 研究開発のフローチャート
2-22
表 8.1.4.1 普及、広報実績
論 文
特 許
広 報
H10 年度
0
0
0
H11 年度
16
6
0
H12 年度
7
8
3
H13 年度
3
5
0
合 計
26
19
3
表 8.1.4.2 論文等リスト
(1)論文
No
題目
発表先
1 Effect of Ti, V, Cr and Mn Additions on the magnetic Journal of Applied Physics,
properties of a Nanocrystalline Soft Magentic Fe-Zr-B Vol.85, 5127-5129 (1999)
Alloy with High Flux Density.
発表者
東北大 井上明久 他
アルプス電気(株)
2 超低損失 Fe-M-B(M=Zr,Nb)ナノ結晶磁性合金の開発 電気学会マグネティックス研究 秋田県立大学 牧野彰宏
会、 MAG-99-179(1999)
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
3 Composition dependence of the soft magnetic
Journal of Applied Physics, V
秋田県立大学 牧野彰宏 他
properties of the nanocrystalline Fe-Zr-Nb-B alloys ol.87, 7100-7102(2000)
東北大 井上明久
with magnetic flux density.
電磁研 増本健
アルプス電気(株)
4 Magnetic properties of zero-magetostrictive
Journal of Magnetism and
nanocrystalline Fe-Zr-Nb-B soft magnetic alloys with Magnetic Materials, 215-216,
high magnetic induction.
288-292(2000)
秋田県立大学 牧野彰宏 他
東北大 井上明久
電磁研 増本健
アルプス電気(株)
5 ナノ結晶 Fe-Zr-Nb-B 合金の軟磁気特性
秋田県立大学 牧野彰宏 他
東北大 井上明久
電磁研 増本健
アルプス電気(株)
日本応用磁気学会、Vol.24,
No.4-2, 675-678(2000)
6 Nanocomposite structure of soft magnetic
Advances in Compoite Materials
Fe-M-B(M=Zr, Hf, Nb), Fe-M-O(M=Zr, Hf, rare earth) and Structures VII
materials.
7 Effect of Nd subtitution on the soft magnetic Scripta mater, 44, 1401-1405
properties of a nanocrystalline Fe84Nb7B9 alloy.
(2001)
秋田県立大学 牧野彰宏 他
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
アルプス電気(株)
秋田県立大学 牧野彰宏
東北大 井上明久
8 Soft Magnetic Properties of Nanocrystalline Materials Transactions, Vol.42,
Fe-Nb-B-P alloys Produced in the Atmosphere by No.8 135-1539(2001)
Melt-Spinning Method.
アルプス電気(株)
秋田県立大学 牧野彰宏
東北大 井上明久
9 Low core loss of nanocrystalline Fe-Zr-Nb-B soft Materials Science and
秋田県立大学 牧野彰宏 他
magnetic alloys with high magnetic flux density
Engineering A304-306 1083-1086 アルプス電気(株)
(2001)
東北大 井上明久
電磁研 増本健
(2)口頭発表
No
題目
1 Composition materials made of nanocrystalline
Fe-Nb-B powder for high frequency
発表先
発表者
10th International Conference on アルプス電気(株)
Rapid Quenched and Metatable 東北大 井上明久
Materials, 1999 年 8 月
電磁研 増本健
2-23
2 Low Core losses of Nanocrystalline Fe-Zr-Nb-B Soft 10th International Conference on 秋田県立大学 牧野彰宏
Magnetic Alloys with High Magnetic Flux Density.
Rapid Quenched and Metatable アルプス電気(株)
Materials, 1999 年 8 月
東北大 井上明久
電磁研 増本健
3 Magnetic Properties of Zero-Magetostrictive
Soft Magnetic Materials
秋田県立大学 牧野彰宏
Nanocrystalline Fe-Zr-Nb-B Soft Magnetic Alloys with Conference 14, 1999 年 9 月
アルプス電気(株)
High Magnetic Induction.
東北大 井上明久
電磁研 増本健
4 ナノ結晶 FeZr-Nb-B 合金の低鉄損特性
第 23 回日本応用磁気学会学術 秋田県立大学 牧野彰宏
講演会、1999 年 10 月
アルプス電気(株)
東北大 井上明久
電磁研 増本健
5 高 い 飽 和 磁 束 密 度 と 零 磁 歪 を 持 つ ナ ノ 結 晶 紛体粉末冶金協会平成 11 年度 秋田県立大学 牧野彰宏
Fe-Zr-Nb-B 合金の軟磁気特性
秋季大会、1999 年 11 月
アルプス電気(株)
東北大 井上明久
電磁研 増本健
6 アモルファス Fe-Zr-Nb-B 合金の磁気特性と結晶化過 紛体粉末冶金協会平成 11 年度 アルプス電気(株)
程
秋季大会、1999 年 11 月
秋田県立大学 牧野彰宏
東北大 井上明久
7 Compositional Dependencce of Soft Magnetic
44th Annual Conference on
秋田県立大学 牧野彰宏
Properties of Nanocrystalline Fe-Zr-Nb-B Alloys.
Magnetism and Magnetic
アルプス電気(株)
aterials, 1999 年 11 月
東北大 井上明久
電磁研 増本健
8 ナノ結晶 Fe-Zr-Nb-B 合金の軟磁気特性と組成依存 日本金属学会 1999 年秋期(第 秋田県立大学 牧野彰宏
性
125 回)大会、1999 年 11 月
アルプス電気(株)
東北大 井上明久
電磁研 増本健
9 ナノ結晶 Fe-Zr-Nb-B 合金の構造と軟磁気特性
日本金属学会 1999 年秋期(第 秋田県立大学 牧野彰宏
125 回)大会、1999 年 11 月
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
10 超低損失 Fe-M-B(M=Zr,Nb)ナノ結晶軟磁性合金
電気学会マグネティックス研究 秋田県立大学 牧野彰宏
会、1999 年 11 月
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
11 ナノ結晶 Fe-Zr-Nb-B 軟磁性合金の磁気特性の経時 日本金属学会 2000 年春期(第 秋田県立大学 牧野彰宏
変化
126 回)大会、2000 年 3 月
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
12 ナノ結晶 Fe-Nb-Nd-B 合金の軟磁気特性
日本金属学会 2000 年春期(第 アルプス電気(株)
126 回)大会、2000 年 3 月
秋田県立大学 牧野彰宏
東北大 井上明久
13 ナノ結晶 Fe-Zr-Nb-B 合金の構造と軟磁気特性
日本金属学会 1999 年秋期(第 秋田県立大学 牧野彰宏
125 回)大会、1999 年 11 月
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
14 超低損失 Fe-M-B(M=Zr,Nb)ナノ結晶軟磁性合金
電気学会マグネティックス研究 秋田県立大学 牧野彰宏
会、1999 年 11 月
東北大 井上明久
アルプス電気(株)
15 Effect of a small addition of Nd substitution on the soft 5th International Conference on アルプス電気(株)
magnetic properties of a nanocrystalline Fe84Nb7B9 Nanostructured Materials, 2000 秋田県立大学 牧野彰宏
alloy.
年8月
東北大 井上明久
16 ナノ結晶 Fe84Nb7B9 号金の軟磁気特性に及ぼす Nd 第 24 回日本応用磁気学会講演 アルプス電気(株)
添加効果
会、2000 年9月
秋田県立大学 牧野彰宏
東北大 井上明久
17 大気中液体急冷法により作製した Fe-Nb-B-P 合金の 日本金属学会 2000 年春期(第 アルプス電気(株)
磁気特性
126 回)大会、2000 年 3 月
秋田県立大学 牧野彰宏
東北大 井上明久
2-24
他
他
他
他
他
他
他
他
表 8.1.4.3 特許等リスト
No.
1
出願No./発明の名称
特願平 11-153102 号
(H11.5.31 出願)
金属薄帯製造用ノズル及び金属薄帯製造装置
出願人
アルプス電気
2
特願平 11-240617 号
Fe基軟磁性合金
(H11.8.26 出願)
アルプス電気、井上明久、
増本 健
3
特願平 11-240618 号
H11.8.26 出願)
Fe基軟磁性合金及びその磁歪の調整方法
アルプス電気、井上明久、
増本 健
4
特願平 11-353711 号
Fe基軟磁性合金
アルプス電気
取下(特願 2000-379384 号に
より国内優先権主張)
5
特願 2000-31034 号
(H12.2.8 出願)
アルプス電気
軟磁性合金及びその製造方法及びそれを用いた磁心
取下(特願 2001-5660 号によ
り国内優先権主張)
6
特願 2000-94697 号
(H12.3.30 出願)
微細結晶組織を有する軟磁性合金とその製造方法
(H1112.13 出願)
備考
アルプス電気
7
特願 2000-140981 号
(H12.5.12 出願)
アルプス電気
高透磁率と高飽和磁束密度を有する軟磁性合金とそ
の製造方法
8 特願 2000-237551 号
(H12.8.4 出願)
アルプス電気
Fe基軟磁性合金磁心の製造方法
9
特願 2000-241615 号
軟磁性材料及び磁心
(H12.8.9)
アルプス電気、井上明久
10
特願 2000-274072 号
軟磁性合金
(H12.9.8 出願)
アルプス電気
取下(特願 2000-278794 号に
より、国内優先権主張)
取下(特願 2000-367138 号に
より、国内優先権主張)
11
特願 2000-278794 号
(H12.9.13 出願)
アルプス電気
高透磁率と高飽和磁束密度を有する軟磁性合金とそ
の製造方法
12 特願 2000-341722 号
(H12.11.9 出願)
アルプス電気
軟磁性合金及び軟磁性合金薄帯
13
特願 2000-367138 号
軟磁性合金
(H12.12.1 出願)
アルプス電気
14
特願 2001-89529 号
(H13.3.27 出願)
Fe基軟磁性合金とその製造方法
アルプス電気
15
特願 2001-126496 号
(H13.4.24 出願)
Fe基軟磁性合金およびそれを用いた磁心
アルプス電気
16
特願 2001-228651 号
Fe基軟磁性合金
アルプス電気
特願 2000-379384 号
(H12.12.13 出願)の再出願
17
特願 2001-228652 号
(H13.7.27 出願)
軟磁性合金及びその製造方法とそれを用いた磁心
アルプス電気
特願 2001-5660 号
(H13.1.12 出願)の再出願
18
特願 2002-16473 号
(H14.1.25 出願)
Fe基軟磁性合金の製造方法及びFe基軟磁性合金
アルプス電気
※H14.2.13 付けで「工業所有
権出願通知書」を提出
19
Fe基軟磁性合金とその製造方法(未出願)
アルプス電気
H14.3 出願予定
(H13.7.27 出願)
表 8.1.4.4 普及、広報実績
No.
広報先
1
日刊工業新聞
2
工業技術
3
JETRO
H12.10.16
vol.41. No.6, 2000
December 2000
題名
新トランス材料
発表者
電力損失 1/10 に
RIMCOF
超低損失柱上トランス用材料の開発
RIMCOF
New Type of High-Performance Transfer Material
RIMCOF
2-25
表.8.2.1.1 開発合金の特性
表.8.2.1.1 開発合金の特性
板厚
組成
Fe85.5Zr2Nb4B8.5
Fe84Nb6.5B9.5
Fe82.8Nb6.5B9.5Ga1
Fe84Nb6.5B9P0.5
Fe83.95Nb6.5B9P0.5La0.05
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
現用珪素鋼板(1)
方向性珪素鋼板(2)
方向性珪素鋼板(2)
Fe基アモルファス合金(1)
飽和磁束
t /µm 密度,B s /T
23
20
20
21
24
22
300
230
350
30
1.62
1.58
1.56
1.58
1.56
1.57
2.03
2.03
2.03
1.55
W a/Wkg-1
鉄損,
比透磁
率, µ ' c
H c /Am-1
保磁力,
0.08a
0.10a
0.10a
0.09a
0.09a
0.09a
0.9 b
0.82~0.96
1.14~1.46
0.21b
59000
39000
41000
47000
44000
49000
4200(3)
3.02
5.01
3.82
3.90
3.98
3.82
5.6~9.6
5.6~9.6
3.18
結晶粒径
磁歪
D /nm λ s ×106
10.7
10.2
9.6
9.6
8.8
-
(Fe85.5Zr2Nb4B8.5はAr雰囲気中その他の合金は大気雰囲気中液体急冷法により作製)
a: f =50Hz, B m =B s ×0.85、b: f =60Hz, Bm=1.4T
c: f =1kHz
(1)深川裕正:脱化石燃料と材料技術 アモルファス変圧器の開発動向,金属(1991年3月号)、P72~78
(2)改定3版 金属データブック 日本金属学会編 P222
(3)実測値
2-26
-0.1
0.2
-0.2
0.2
0.6
-0.1
27(3)
破壊歪
λ f ×103
14
8
7
6
6
8
25(3)
Zr /
1
2
4
6
86
8
6
4
µ’ / 104
11
10
9
3
%
5
0
t.
/ a
B a
t.%
3
5
4
Hc / Am -1
8
7
87
88
3
90
89
6
2
1
91
92
93
5
Fe+Nb(Zr+Nb=6at.%) / at.%
3
0
4
11
10
0.11
0.10
5
9
1.60
6
86
t.%
Zr / 1
0.12
/ a
B at.
%
2
0.09
8
1.65
87
7
W / Wkg-1
Bs / T
88
90
89
91
92
6
93
5
Fe+Nb(Zr+Nb=6at.%) / at.%
図8.2.1.1 Fe-Nb-Zr-B(Nb+Zr=6at.%)合金における透磁率
(µ’ at 1kHz)、保磁力(Hc )、鉄損(W at 50Hz and Bm=1.4T)
及び飽和磁束密度(Bs )の組成依存性
表8.2.1.2 Fe-Zr-Nb-B合金の磁気特性
組成
作製
雰囲気
Fe85Zr1.75Nb4.25B9
Fe85.5Zr2Nb4B8.5
Fe85.75Zr2.25Nb3.75B8.25
Ar中
Ar中
Ar中
飽和磁束
鉄損,
比透磁
密度,B s /T W a/Wkg-1 率, µ ' b
1.61
1.62
1.61
0.10
0.08
0.09
a: f =50Hz, B m =B s ×0.85 b: f =1kHz
2-27
41000
59000
45000
保磁力,
磁歪
H c /Am-1 λ s ×106
3.02
3.02
3.02
-0.1
‐
10
9
8
8
12
5.5
3.5
5.0
3.0 2.0
%
at.
/ Nb
B / a
t.%
11
7
6.5
13
6
5
µ’ / 104
Hc / Am -1
82
4
83
84
85
86
87
88
12
11
10
8
9
8
0.13
1.55
7
0.11
%
at.
/ Nb
B / a
t.%
Fe / at.%
6
13
1.60
W1.33/50 / Wkg-1
Bs / T
82
83
84
85
86
87
5
4
88
Fe / at.%
図8.2.1.2 大気雰囲気中で作製したFe-Nb-B合金における透磁
率(µ’ at 1kHz)、保磁力(Hc )、鉄損(W at 50Hz and Bm=1.33T)
及び飽和磁束密度(Bs )の組成依存性
表8.2.1.3 Fe-Nb-B合金の磁気特性
組成
作製
雰囲気
飽和磁束
鉄損,
比透磁
密度,B s /T W a/Wkg-1 率, µ ' b
Fe84Nb6B10
大気中
1.59
0.12
31500
6.29
0.3
Fe83.5Nb6.5B10
大気中
1.56
0.11
35900
5.33
0.3
Fe84Nb6.5B9.5
大気中
1.58
0.10
39900
5.01
0.2
Fe83.8Nb6.7B9.5
大気中
1.55
0.10
38300
4.93
0.3
Fe83.5Nb5.5Mo0.5B10.5
大気中
1.60
0.20
21300
7.64
1.0
a: f =50Hz, B m =B s ×0.85, b: f =1kHz
2-28
保磁力,
磁歪
H c /Am-1 λ s ×106
0
2
3.5
4.0
9
t.%
/ a
B P / a
t.%
1
4.5
45
3
89
8
50
3.5
µ’ / 104
Hc / Am-1
100
90
91
7
93
92
P / a
t.%
Fe+Nb / at.%
(Nb=6.5)
1
0
0.10
2
3
89
9
0.09
1.57
0.20
8
Bs / T
W1.33/50 / Wkg-1
1.60
90
t.%
/ a
B 0.13
91
92
7
93
Fe+Nb / at.%
(Nb=6.5)
図8.2.1.3 大気雰囲気中で作製したFe-Nb-B-P合金における透
磁率(µ’ at 1kHz)、保磁力(Hc )、鉄損(W at 50Hz and Bm=1.33T)
及び飽和磁束密度(Bs )の組成依存性
2-29
Sn
、y
/ at.
%
0.5
0.4
Fe93.5-x-yNb6.5BxSny
µ’ / 104
Hc / Am-1
5.0
4.5
40
0.3
4.0
0.2
0.1
50
0
8.0
8.5
9.5
9.0
10.0
11.0
10.5
t.%
B, x / at.%
Sn
、y
/ a
0.5
Fe93.5-x-yNb6.5BxSny
0.4
0.09
0.3
0.10
0.08
0.2
0.1
0
8.0
Bs / T
W 1.33/50 / Wkg-1
8.5
9.0
1.55
1.58
9.5
10.0
10.5
11.0
B, x / at.%
図8.2.1.4 大気雰囲気中で作製したFe-Nb-B-Sn合金における透
磁率(µ’ at 1kHz)、保磁力(Hc )、鉄損(W at 50Hz and Bm=1.33T)
及び飽和磁束密度(Bs )の組成依存性
表 8.2.1.4 Fe-Nb-B-Ga、Fe-Nb-B-P、Fe-Nb-B-P-La および
Fe-Nb-B-Sn 合金の磁気特性
組成
Fe83.5Nb6.5B9.5Ga0.5
Fe83Nb6.5B9.5Ga1
Fe82.8Nb6.7B9.5Ga1
Fe84Nb6.5B9P0.5
Fe84Nb6.5B8.8P0.7
Fe84Nb6.5B8.5P1
Fe83.9Nb6.5B9P0.5La0.1
Fe83.95Nb6.5B8.5P1La0.05
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
Fe83.7Nb6.5B9.5Sn0.3
Fe83.8Nb6.5B9Sn0.2
Fe83.7Nb6.5B9Sn0.3
作製
飽和磁束
雰囲気 密度,B s /T
大気中
1.55
大気中
1.56
大気中
1.57
大気中
1.58
大気中
1.56
大気中
1.58
大気中
1.58
大気中
1.57
大気中
1.57
大気中
1.56
大気中
1.61
大気中
1.58
比透磁
保磁力,
磁歪
b
率, µ '
H c /Am 1 λ s ×106
0.10
42400
4.30
-0.3
0.10
41400
4.14
-0.2
0.09-0.10 44000
3.82
0.2
0.09
47100
3.90
0.2
0.09
48800
3.82
-0.1
0.09-0.10 46300
3.58
0.3
0.09
43100
4.06
0.4
0.09-0.10 46100
3.90
0.5
0.09
49000
3.82
-0.1
0.08
49700
3.98
0.3
0.09
50200
3.90
0.0
0.09
49300
4.14
-0.4
2-30
鉄損,
W a/Wkg
1
amor.
bcc + amor.
f = 1kHz
µ' / 1000
6
4
2
0
Fe84Nb6.5B8.5P1
Fe85.5Zr2Nb4B8.5
10
5
0.5
W / Wkg
-1
Hc / Am
-1
Fe84Nb6.5B9.5
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
Bm = Bs×0.85
0.1
0.05
800
900
1000
Annealing Temperature, Ta / K
図8.2.1.5 Fe-Nb-B、Fe-Nb-B-P、Fe-Nb-B-Sn、Fe-Nb-Zr-B
合金における透磁率(µ' at 1kHz)、保磁力(Hc )、鉄損(W at 50Hz
and Bm =Bs×0.85)の熱処理温度依存性
2-31
amor.
bcc + amor.
Bs / T
1.6
1.5
λs / 10-6
2
1
0
D / nm
10
8
6
Fe84Nb6.5B9.5
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
800
Fe84Nb6.5B8.5P1
Fe85.5Zr2Nb4B8.5
900
1000
Annealing Temperature, Ta / K
図8.2.1.6 Fe-Nb-B、Fe-Nb-B-P、Fe-Nb-B-Sn、Fe-Nb-Zr-B
合金における飽和磁束密度(Bs )、磁歪(λs )、平均結晶粒径(D )
の熱処理温度依存性
2-32
Fe 84Nb6.5 B9.5
W /Wkg-1
0.13
time, t /s
0.13
0.13
1000
100
5.8
0.12
0.14
0.11
0.12
0.12
0.12
0.11
at Bm = 1.33T at f = 50 Hz
900
925
950
Annealing temperature,Ta /K
10
Heating rare,α K/s
W /Wkg-1
Fe 84 Nb6.5B9.5
0.12
0.11
0.13
0.12
0.12
0.15
0.13
0.13
0.11
0.18
0.13
0.12
0.12
0.12
0.12
0.15
1
0.17
at Bm = 1.33T
875
0.14
0.10
at f = 50Hz
900
925
950
Annealing temperature, Ta /K
図8.2.1.7 Fe-Nb-B合金の鉄損( W at 50 Hz and B m = B s×0.85)に及
ぼす熱処理保持時間(t)、昇温速度(α)および熱処理温度(T a)依存性
2-33
time, t /s
W /Wkg-1
0.10
Fe84 Nb6.5 B8.5 P1
0.17
0.10
0.10
0.12
0.10
0.10
0.11
0.11
1000
100
860
0.09
0.09
0.13
0.09
at Bm = 1.33 T
at f = 50 Hz
880
900
920
940
960
Annealing temperature, Ta /K
10
Fe 84 Nb6.5B8.5P1
Heating rate, α K/s
W /Wkg-1
0.09
0.11
0.10
0.15
0.10
0.09
0.09
0.13
0.09
0.10
0.13
0.10
0.10
0.10
0.13
0.10
0.10
0.10
1
at Bm =1.33 T
0.1
0.12
at f = 1kHz
875
900
925
950
Annealing temperature,Ta /K
図8.2.1.8 Fe-Nb-B-P合金の鉄損( W at 50 Hz and B m = B s×0.85)に
及ぼす熱処理保持時間(t)、昇温速度(α)および熱処理温度(T a )依存性
2-34
amor.
bcc-Fe + amor.
1000
Fe 84Nb 6.5 B9.5
Fe 83.5 Nb 6.7 B9.3 Ga 0.5
Fe 84 Nb6.5 B 8.5 P1
Fe 83.9 Nb 6.5 B 9 P 0.5 La 0.1
100
λf / 10-3
Fe 83.8 Nb 6.5 B 9.5 Sn 0.2
Fe 85.5 Zr 2Nb 4 B 8.5
10
Fe 78Si 13 B9 amor.
Heating rate ; α= 3 K/s
Keeping time ; t= 300 s
1
650
700
750
800
850
900
950 1000
Annealing temperature, Ta / K
図8.2.1.9 Fe-Nb-B、Fe-Nb-B-Ga、Fe-Nb-B-P、Fe-Nb-B-SnおよびFeNb-Zr-B合金における破壊歪( λf)の熱処理温度依存性
2-35
0.2
Core loss, W / Wkg-1
f = 50Hz
Toridal core
Fe84Nb6.5B9.5
0.1
0.09
0.08
Fe83.7Nb6.5B9.5Sn0.3
0.07
Fe84Nb6.5B8.5P1
0.06
1
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
Maximum induction, Bm / T
図8.2.1.10 Fe-Nb-B、 Fe-Nb-B-P、及びFe-Nb-B-Snトロイダル
コアにおける鉄損(W )の最大磁束密度依存性
2-36
0.8
Core loss, W / Wkg-1
in Air 593K
at Bm=Bs×0.85, f =50Hz
Fe78Si9B13 amor.
Fe85.5Zr2Nb4B8.5
Fe84Nb6.5B9.5
Fe84Nb6.5B8.5P1
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
0.6
0.4
0.2
0
10
0
1
10
2
3
10
10
10
4
5
10
6
10
Time, t / sec.
図 8.2.1.11 Fe 基アモルファス合金 (Fe-Si-B), ナノ結晶
Fe-Zr-Nb-B, Fe-Nb-B, Fe-Nb-B-P, Fe-Nb-B-Sn 合金に
おける鉄損 (W) の経時変化
表8.2.1.5 低Nb濃度材料の磁気特性
組成
Fe83.8Nb6.5B9.5Sn0.2
Fe84.3Nb6.5B10Sn0.2
Fe83.8Nb6B10Sn0.2
Fe84.2Nb6B9.5Sn0.3
Fe83.8Nb5.5Mo0.5B10Sn0.2
Fe83.5Nb5.5Mo0.5B9.5P1.0
Fe83Nb5Mo0.5B9.5P2.0
作製
飽和磁束
鉄損,
比透磁 保磁力,
磁歪
雰囲気 密度,B s /T W a/Wkg-1 率, µ ' b H c /Am-1 λ s ×106
大気中
大気中
大気中
大気中
大気中
大気中
大気中
1.57
1.61
1.59
1.60
1.59
1.60
1.62
0.09
0.09
0.10
0.09-0.10
0.10-0.11
0.11-0.12
0.12
a: f =50Hz, B m =B s ×0.85
b: f =1kHz
2-37
49000
50200
41400
37300
33900
31300
28700
3.82
3.90
4.77
4.77
5.33
5.01
5.81
-0.1
0
0.7
0.3
0.3
1.2
1.4
図 8.2.2.1 ガスフロー装置概略図
図 8.2.2.2 プロトタイプ薄帯製造装置概略図
2-38
図 8.2.2.3 試作した 50mm 薄帯
表8.2.2.1 減圧雰囲気方式とガスフロー方式によるコスト比較
項目
減圧雰囲気 ガスフロー
原料費
100
比例費
38
備考
製品歩留80%とした
100
時の原料費を100とし
電気、ガス、水、消耗
47
品費
26 7年消却
173
設備償却費
29
合計
167
*生産量;100トン/月の場合
設備費;雰囲気10億円、ガスフロー9億円
2-39
溶解室
100kg溶解炉
カーボンブロック
Ar
タンディッシュ
排気
ロール室
急冷帯
ロール
図 8.2.2.4 大型薄帯製造装置概略図
図 8.2.2.5 試作した 100mm 薄帯
2-40
回収室まで10m
図 8.2.3.1 熱処理後のラップカット部
図 8.2.3.2 500VA 小型トランス
2-41
図 8.2.3.3 結晶化用熱処理装置
図 8.2.3.4 結晶化用熱処理装置の外形図
2-42
(予熱室)
(加熱室)
(予熱室)
(装入搬出兼用テーブル)
700
プレアニール
400℃×1h
600
結晶化アニール
520∼660℃×0.5∼1h
温度、℃
500
400
N2 置換
常温
300
200
100
0
0
50
100
150
時間、min
200
250
図 8.2.3.5 熱処理パターンの基本プロファイル
図 8.2.3.6 20kVA 柱上トランス鉄心外観(B コア)
2-43
300
第3章
評価
第3章 評価
1.プロジェクト全体に関する評価
1.1 総論
1)総合評価
本事業は、我が国で発見発明されたナノ結晶軟磁性材料の有効性を活用して
省エネルギーを達成する研究開発であり、政策および社会ニーズと合致してい
る。配電系統の主要損失のひとつである、柱上トランスの鉄損を削減する目標
設定も、エネルギー削減の必要性から、妥当であると判断する。
超低損失を実現する可能性のある素材の組成など、基礎的な分野では、目標
を達成して成果をあげているが、事業全体における所期の目標を達成したとは
言い難い。また、試作品を完成するに至ったことは評価できるが、その後の、
実用化と事業化に関する検討は、具体的になっていない。
以上のことから、本事業は、所期の目標を完全に達成することはできなかっ
たが、基礎的な研究として、超低損失の実現性が高い材料を開発したことは評
価でき、次ステップの研究開発へ道筋をつけた。
<肯定的意見>
○ 当初の予定である無負荷損を実現した製品開発までには至らなかったが、少なく
とも見通しを得る段階まできたことは評価できる。
○ 本プロジェクトは日本で発見発明されたナノ結晶軟磁性材料を実用化させるため
に必要な事業であり、その目的は概ね満足されたように思われる。実際にスケー
ルアップした際に問題となる事項について、問題点が抽出でき、行うべき作業が
見出せたことは有意義であったと思う。3社の連携により目標値を完全に満足で
きなかったが、試作品完成に至ったことは評価すべきことと判断される。
○ 鉄損失が十分の一に近い柱上トランスの製造基盤技術に見通しが立ったところか
ら、置き換え需要幾分の一のトランスが現実の低損失トランスに置き換えられる
ような支援策が検討されるべき。(NEDO 補助事業、グリーン電力料金利用など)
○ 完全に所期の目標を達成したとは言いがたいが、低損失変圧器開発の可能性は十
分に示せていると思われる。
○ 超低損失を実現する可能性のある材料を開発できた事は評価に値する。
○ 電力エネルギー放散防止と CO2 濃度の削減という、国際的にも重要なテーマに対
応している事業であり、多くの研究成果が上がっており、成果をふまえた今後の
発展が大いに期待される。
○ 各研究は見事なほど相互に連携しており、目標が達成され、大きな成果が得られ
ている。
3-1
<問題点・改善すべき点>
● 政策検討の中に、既存トランスと新規トランスの交換のシナリオや実現性の検討、
あるいは LCA 的評価があればよかったと思う。
● 設定目標値を満足できなかったことにはやや不満が残る。100mm 超幅広薄帯を
作製へのめどがたっているとはいえず、また何十 kg という薄帯の巻き取り技術、
均一性の向上についてのガイドラインも得られているとはいえない。また技術・
ノウハウが一方向になっており、全体を見たとき、フィードバックが効いている
ような研究体制をひくことができなかったことが残念である。
● フォローアップ研究や事後調査などが可能であれば、以下の検討を行うべき。ト
ランス製造材料として使用に耐える、薄帯表面性状の判断基準(ピンホールの数、
擦り傷数、表面粗さなど)が決まれば、手作業で良材を判別する必要はなく、検
査ラインでマーキングすれば、良材のみを採取してコア作成が可能。(不良品は、
再溶解して圧延しなおせば良い。)
● 大量普及のための素材製造方法については、歩留まり、品質の均一性などの点でま
だ課題を残していると考えられる。
● 開発した材料全てについて柱上トランスの試作・評価を実施していないことから、
現時点では開発が終了したとは言い難いため、引き続き検討を実施することが望
ましい。
● 事業の成果が実用に供されるかどうかは、その経済性に大きく依存している。将
来は既存材料の高性能化も予想されるので、その辺と本事業の成果との経済的な
比較が必要である。
<その他の意見>
•
プロジェクトの期間は4年とそれなりに長いが、実際の作業はスケールアップ
する必要があり、製造装置の設計・製作・改良などに時間がかかってしまう。し
かし限られた時間に最終成果を出さなくてはいけない制約上、いろいろな見きり
発車の下に作業が進められている。目先の成果も大切であるが、実用化への本質
的な問題点を指摘し、解決への方策を示してほしいと思った。
•
変圧器製造上の観点から、素材特性としてかくあるべきとの検討が不十分であ
る。また、各ステージからのフィードバックが十分ではないように感じられる。
3-2
2)今後の研究開発の方向性等に関する提言
研究開発段階のマネイジメントに関して、本事業のような直列方式では、各
段階でのフィードバックがかかりにくく、開発された材料が試作品に利用され
ないことなどの問題が生じる。計画段階で目標達成の方策を十分に考慮して、
スケジュールと体制を構築すること、材料製造を複数研究して最も優れたもの
を使用することなどの工夫が必要である。
LCA には、どうしても不確定性が入るので、外部発表した上で、ケーススタ
ディの妥当性について評価を受けるべきである。外部発表によって、社会的な
波及効果に関し、他の LCA 研究者に有用な情報提供することができる。
○ 本プロジェクトに対する LCA 評価においては、トランスの使用段階の評価が大き
な影響を及ぼす。その意味で、寿命評価について何らかの評価をすることが望ま
しい。
○ スケールアップを図り、実用製品を目指すとき、特色ある複数の会社に委託する
ことは賢明であるが、一方で今回の直列方式ではなかなかフィードバックがかか
りにくいと思われる。ある会社の成果を下に次の展開を目指す場合、できれば2
社くらいが望ましいと思う。
○ 「材料開発→材料製造→試作品製造」と各テーマが直列に並ぶべき開発を一部平
行して進めると、開発された材料が試作品に利用されていない不合理な事が起こ
る。従って、研究開発期間に考慮を加えるか、材料製造を複数研究し、最も優れ
たもので、次期プロジェクト:試作品製造を行う、などの工夫が必要。
○ 本プロジェクトは、各段階においてまだ多くの問題点を残していると考えられる。
今後どのようにして所期の目的を達成するかの方法を確定しておく必要がある
と考えられる。
○ 開発した材料全てについて柱上トランスの試作・評価を実施していないことから、
現時点では研究開発が終了したとは言い難い。今後は、Fe-Nb-B-Sn 合金を用い
て、引き続き製造技術、柱上トランス試作・評価の検討を行い、実際に使用でき
る製品レベルまで開発を実施して頂きたい。
○ プロジェクトは各企業の役割分担を明確にした縦型の研究開発構成で行われてお
り、事業化の観点から見ると、横型構成より極めて有効な方法と考えられる。
○ プロジェクトの成果は、柱上トランスの事業化に対してはもう一歩という感があ
る。今後は、電力エネルギー放散防止と省エネルギー化の問題ならびに環境問題
に対応するために、柱上トランスだけでなく、IT 機器の高周波トランスまでを網
羅する小型から大型までの各種トランスを対象にした、大きなプロジェクトを立
ち上げることが必要と考える。
3-3
1.2
各論
1)事業の目的・政策的位置付けについて
我が国で発見発明されたナノ結晶軟磁性材料の有効性を活用し、CO2削減と
省エネルギーを進めることは政策的にも意義があり、民間企業だけでは実現が
困難であることから、NEDO の主導でプロジェクトを推進したことは評価でき
る。また、ターゲットを、損失が大きい柱上トランスにしたことは、エネルギ
ーの観点から見て意義がある。したがって、本事業の目的、および政策的位置
付けは、概ね妥当であったと言える。
<肯定的意見>
○ CO2削減という、国家レベルの課題に貢献できることが期待されるので、NEDO
の事業として妥当と考えられる。また、わが国の基盤技術をベースとして、開発
することが計画されており、事業目的、政策的位置付けともに妥当と考える。
○ NEDO が行うべき事業としてはきわめて妥当なプロジェクトといえる。アモルフ
ァス軟磁性材料に対向できる国産アイデアのナノ結晶軟磁性材料の有用性を活
用し、省エネルギーを進めることは政策的にも意義があると思われる。
○ 日本全国いたるところで恒常的に起こっている、エネルギーの損失を低減する技
術である。その使用形態が「一般家庭への配電」に必要なトランスであり、国の
事業として妥当である。
○ 新しい素材を開発し、それを用いた低損失変圧器の開発は、エネルギーの観点から
見ても意義があると考えられる。また、そのターゲットが変圧器の中でも損失の
大きい柱上変圧器であることにも意義がある。開発された素材は、主目的の変圧
器だけでなくその他の機器にも応用が可能であろう。
○ 温室効果ガス削減という目標に対して国を上げて取り組むのは一企業ではなし得
ないことから、NEDO 主導の元でプロジェクトを組んで検討したのは評価できる。
○ プロジェクトは発電エネルギーの放散防止と CO2 濃度の削減という、地球的規模
でその実現が期待されているテーマに対応しようとするもので、その成果は我が
国ばかりでなく世界各国のエネルギー・環境政策にも影響を与えるものである。
従って国の事業として最も妥当な事業の一つであろう。
<問題点・改善すべき点>
● 政策検討の中に、既存トランスと新規トランスの交換のシナリオや実現性の検討、
あるいは LCA 的評価があればよかったと思う。
● 新しい素材の開発というテーマに対しては、開発期間が少し短いように感じられ
た。それが様々な場面でしわ寄せとなって現れたように思われる。
● 今後の実用化シナリオを明確にするのが望ましい。
3-4
● 研究開発対象が柱上トランスという限られた分野のトランスに限定されている。
しかし、電力エネルギーの放散防止、省電力、CO2 濃度削減に貢献するという観
点から見れば、開発対象を商用周波数からIT機器の高周波トランスまでの広範
囲に設定した方が良い。実用化という観点からも広範囲の方が有意義と考える。
<その他の意見>
•
このプロジェクトではライバルとしてアモルファス軟磁性材料、ケイ素鋼板が
あってそれぞれの特徴を持って競合している。この3者を同等にとはいえないが、
他の2つの材料にもプロジェクト参画の機会を与えてやってほしい。(例えば
LCA を的確に算出するなどして)
•
開発した素材を、主目的の柱上変圧器への応用だけでなく、新しい応用も検討す
べきである。
3-5
2)研究開発マネイジメントについて
エネルギー削減の必要性から、配電系統の主要損失のひとつである、柱上ト
ランスの鉄損を削減する目標は妥当である。
プロジェクトは役割分担を明確にした縦型の研究開発構成とし、その中でグ
ループ毎の技術成果を各々の技術課題に反映すべく努力したことは認められる
が、幅広薄帯製造という技術課題の困難さより、各段階でのフィードバックが
かかりにくい結果となった。このような方法で研究開発を進めるのであれば、
企画段階において、事業全体の成果に大きな影響を与える個別技術に対して、
グループ間の支援と連携を強化する体制を考える必要があった。
LCA 評価は、本プロジェクト内で重要な位置付けであるにもかかわらず、各
個別の技術開発の成果がタイムリーに反映されていないので、最終的に達成さ
れた技術を前提条件とした場合の LCA を実施することが必要である。
<肯定的意見>
○ 個別技術の開発については、グループごとの連携がよくとれていて、研究開発目
標に向けて体制が整備されている。
○ 研究開発目標は妥当な設定と思う。
○ 今後ともエネルギー削減の必要性は変わることはないと思われる。したがって、
配電系統の損失の大きな部分を占める変圧器鉄損の削減を目指すことは妥当で
ある。
○ プロジェクトは各企業の役割分担を明確にした縦型の研究開発構成で行われてお
り、事業化の観点から見ると、横型構成より極めて有効な方法であったと考えら
れる。
○ 従来は、低損失柱上トランス用材料の開発では珪素鋼板、アモルファスが中心に
行われてきたが性能は限界に近くなってきており、本プロジェクトはそのブレー
クスルーとなる事業である。
<問題点・改善すべき点>
● LCA 評価は、本プロジェクト内で重要な位置付けであるにもかかわらず、各個別
の技術開発の成果がタイムリーに反映されていないように見受けられる。当初の
計画段階の条件に対する LCA のみでは、外部に対して説得力を欠く。最終的に
達成された技術を前提条件とした場合の LCA も実施することが必要。
● 開発計画のうち幅広薄帯製造技術が実用化にとって大きなウェートを占めており、
この段階の成否がプロジェクト全体に大きな影響を及ぼすことから、この段階へ
の技術支援・連携を強化できる事業体制が必要であったと思われる。
● 各段階でのフィードバックが必ずしも十分ではなかったのではないかと思われる。
3-6
そのあたりの経緯についても、何らかの記載をするべきである。
● 最終目標である「COP3の対応として温室効果ガスを削減する」に対して、プ
ロジェクトとして V/C を考慮した目標を明確にするのが望ましい。
● プロジェクトの成果は、柱上トランスの事業化に対してはもう一歩という感があ
る。今後は、電力エネルギー放散防止と省エネルギー化の問題ならびに環境問題
に対応するために、柱上トランスだけでなく、IT 機器の高周波トランスまでを網
羅する小型から大型までの各種トランスを対象にした、大きなプロジェクトを立
ち上げることが必要と考える。
● 材料開発において設定された飽和磁束密度の目標値は、小数点2桁まで決めてい
るが、それは不自然といわざるを得ない。設定された飽和磁束密度の目標値の根
拠が明確でない。実用材料段階では飽和磁化が減少することを考えると、材料研
究段階においては、おおきめの目標値を掲げるべきではなかったか。
● 電力会社など需要者側からの要求として、検討すべき項目が、他にもあるような
印象を受けた。その辺の目標設定も必要だったのではないか。
<その他の意見>
•
初期の計画にこだわることなく、作製方法を減圧雰囲気にしたことは機敏な判
断と評価できる。しかしそのため実現できなかった操作性向上などマイナス面を
適切に評価し報告書に盛り込んでほしい。
•
LCA 評価は、当初予定の30kVA で行われているが、実際に開発された試作品
が、20kVA であり違和感を禁じえない。
3-7
3)研究開発成果について
事業全体として見た場合、所期の目標数値を完全に達成したとは言い難い。
しかし、超低損失を実現する可能性のある素材の組成など、基礎的な分野に関
しては成果を上げていること、および試作品を完成するに至ったことは評価で
きる。
<肯定的意見>
○ 当初の計画段階に対する LCA に必要となる基礎データを集約し、一応の評価がて
きる体制を整えたことは評価できる。
○ 数値目標の達成度自身は満足されていないが、目標に向けたある程度の水準には
達しており、達成度として概ねよいと判断できる。
○ 開発スケジュール上、材料製造技術開発と同時並行で試作を進めたわけだから、
試作開始時点で性能が最も良い材料を使用した試作品の製造でやむをえない。
○ 素材の組成的には目標の数値にほぼ達したものと考えられる。
○ 超低損失を実現する可能性のある材料を開発できた事は評価に値する。
○ 各項目の目標は達成されており、大きな成果が得られた。
○ 磁気特性は優れているが加工性はアモルファスより劣ると考えられていたナノ微
細結晶材料で、幅広薄帯が作製でき、そのトランスも優れた性能を有することが
分かり、量産化のための多くの知見が得られた。柱上トランス以外の小型トラン
スやモーター類にも適用できる成果が挙がった。
<問題点・改善すべき点>
● 技術的には幅広薄帯作製技術、均一性など解決しなくてはならない問題が多数あ
る。これらはスケールアップして初めてわかった問題であり、これからの解決に
期待する。要素技術としては目新しい技術の開発・確立に至っていないと思われ
る点がやや不満である。
● トランス材料としての、表面厚さ・粗さ等のバラツキ評価手法を、先行して開発
してあれば(他分野の類似技術応用など)得られた材料から、迅速に最適材を選
定して、トランスが試作できたのではないか。
● 変圧器製造の面から見ると、素材の安定供給のためには製造方法をさらに検討し
ておく必要があると考えられる。
● 開発した全ての材料について柱上トランスの試作・評価を実施していないことか
ら、現時点では目標に達したとは言い難い。引き続き製品化へ向けた検討をする
ことが望ましい。
● 研究成果の公表が材料開発項目に偏っており、製造技術、トランス作製の各項目
に関連する論文、口頭発表、特許申請などが皆無というのはおかしい。国プロで
3-8
ある以上、公表が原則であろう。
<その他の意見>
•
数値目標への達成度よりも次の展開(幅広、大量均一、操業性の向上)へ向け
ての技術的な自信・方針が獲得できたかどうかが問題であり、その点に関しての
指針を示すべきと思った。
•
目標の数値に達した素材のみでなく、それ以外の素材についても製造のしやす
さなど、LCA などの総合的な面から検討しておく必要があるのではないか。
3-9
4)実用化、事業化の見通しについて
NEDO の事業として、開発成果を実用化、事業化すること、あるいは見通し
をつけることは、重要な役割である。本事業では、目標を達成するために、ほ
ぼ全ての期間を費やしたことは理解できるが、実用化と事業化の見通しに関す
るシナリオは具体的になっていない。
開発成果の実用性は高く、関連分野への波及効果は大きいと判断できるので、
研究開発期間で明らかになった課題に関して、継続的な検討が必要である。
<肯定的意見>
○ 革新トランスが当初の設計通りに実現できた場合には、エネルギー消費量につい
て、既存トランスと比較して大幅に削減できることを定量的に示したこと。
○ 成果の実用化の可能性は高いと思う。ただしもう少しキーとなるブレークスルー
があり、製造条件を見なおす必要があると思われる。しかしそれは参画した事業
者が実用化しようとする意思があるかどうかにかかっていると思う。
○ コストを度外視して、(政策的補助や、グリーン料金の転用など)置き換え需要の
一部を本開発品で置き換えることは、意義深い。
○ 素材の安定供給が可能となった場合には、十分実用化が可能であると考えられる。
○ 高性能材料の開発、幅広薄帯製造技術、トランス作製の一連の研究で事業化のめ
どが立ったといえる。
○ 小型トランス、チョーク類への波及効果は大きい。
<問題点・改善すべき点>
● LCA の観点から見たとき、実用化にあたっては、さらに下記項目についても見当
する必要がある。
既製トランスを開発トランスに置き換えたときの、既製トランス廃棄に伴う環
境への影響。
既製トランスを開発トランスに置き換えるタイムスパンを考慮に入れた上での
時間軸を考慮に入れた LCA。
リサイクルの観点からの評価。特にボロンが含まれることの問題点を検討して
おく必要がある。
使用時の評価が重要であるので、トランスの寿命を法定耐用年数などという乱
暴な仮定ではなく、統計データに基づく評価が望ましい。また、開発トランスに
ついても何らかの寿命評価を与えること。
● 実用化へ向けて、各社が実操業条件をにらんだ問題点を洗い直し、解決を図るべ
きと思う。しかし現状はまだこの段階に達していないと思う。早くフィードバッ
クがかかる展開を希望する。
3-10
● コスト低減に対する検討が甘すぎる。リサイクル材の普及を待つのは、30 年後と
言うことか。
● コスト面、資源面の検討を十分にする必要がある。事業化までには素材製造方法
の更なる検討が必要であると考えられる。
● 開発した全ての材料について柱上トランスの試作・評価を実施していないことか
ら、現時点では開発が終了したとは言い難い。また、事業化までのシナリオも描
けていない。
● 開発された磁性材料の飽和磁束密度が珪素鋼板より著しく小さいために、同じ性
能を得るためのトランス重量が増し、銅損を含めたトータルの電力損失という点
からみると、革新トランスというには不十分な性能になっており、さらにトラン
ス作製行程の複雑化も問題である。トータルの生産コストは珪素鋼板よりどのく
らい改善が行われたかが不明である。すなわち、革新トランスとして事業化のた
めには、1.さらに飽和磁化大きい材料を開発する、2.さらに幅広の薄帯を作
製する、3.加工性の悪い材料のトランス作製法(ラップカット形に準じた方法)
を開発する、ことが必要ではないか。
● 事業化のためには需要側からの改善すべき点を明確にする必要がある。
<その他の意見>
•
競合している珪素鋼板に対する波及効果が最も高いと思われる。珪素鋼板への
技術革新を促す意味においても本プロジェクトの意義があり、今後も支援すべき
と考える。
•
後継プロジェクトとして、実用化研究を行うことの開発者による自己評価が有
っても良いのではないのか。(ブレーク・スルーすべき課題、不足した基礎技術
など)
3-11
2.個別技術に対する評価
2.1
材料開発
大気雰囲気で作製できる低 Nb 合金を開発し、飽和磁束密度、鉄損ともに目標
値に達していることは評価できる。
結晶粒径は加工性と鉄損の両方に影響があると考えられるので、特性改善を
目標とした結晶粒径変化に対する検討も行うべきであった。
<肯定的意見>
○ 目標値を満足しうる材料を開発できたことは評価に値する。特に大気雰囲気で作
製できる低 Nb 合金を開発した点はよい成果と思う。
○ 大気中で作製した試料で、飽和磁束磁束密度、鉄損ともに目標値に達しているこ
とは評価できる。
○ Sn の添加によって優れた鉄損値を得ている。
○ 添加元素を選択することによって、さらに高性能な材料が得られる可能性が示唆
される結果となっている。
<問題点・改善すべき点>
● Sn 添加の効果を inver 効果とそれ以外の効果とに分け評価できれば、更なる性能
向上に役立つのではないかと思う。大気雰囲気で有効だった Sn 添加が減圧雰囲
気で有効であるかの見極めをする必要がある。幅広、100kg 単位の生産、大型部
品となる実用材・操業をにらんでの合金選択・熱処理設定であるのか吟味する必
要がある。合金としてのチャンピオンデータを求めたわけではないと思うので。
● 設定された飽和磁束密度の目標値の根拠が明確でない。小数点2桁の目標値は奇
異に感ずる。実用材料段階では飽和磁化が減少することを考えると、材料研究段
階においては、おおきめの目標値を掲げるべきではなかったか。
● 結晶化による加工性の劣化が避けられない。一方で、結晶粒径は加工性と鉄損の
両方に影響があると考えられるので、特性改善を目標とした結晶粒径変化に対す
る検討も行うべきであったと考えられる。
● 磁性材料の電気抵抗率は鉄損、加工性、結晶化過程などと密接な関係があるが、
その評価・分析が充分でなかった。
<その他の意見>
•
個別技術の評価ではあるが、開発合金がどの程度想定実用材料に使えるかがプ
ロジェクトとして問われているわけで、個別技術の評価は難しい。
•
鉄損の経時変化はアモルファスより優れていることが明らかになっているが、
実用化を目指す場合は、さらに長時間の加速劣化試験を実施する必要があると考
3-12
えられる。
•
製造技術開発において減圧下作製帯の性能がガスフロー中作製帯より上昇して
いるので、材料開発でも減圧下作製を試みても良かったのではないかと考える。
3-13
2.2
材料製造技術開発
減圧下薄帯製造法によって作製されたものではあるが、短い期間で、幅
100mm の連続薄帯で目標値に近い鉄損が得られたことは評価できる。大量供給
できる製造方法や歩留まりを上げる方法など、解決すべき問題は残されている。
<肯定的意見>
○ 解決しなくてはいけない問題が山積みで難しい展開だったと思うが、トランス製
作に必要な材料を供給できたことは評価に値する。
○ 短期間の内に可能な限り努力されているものと認められる。
○ 減圧下薄帯製造法によって作製されたものではあるが、幅 100mm の連続薄帯で
目標値に近い鉄損が得られたことは大きな成果と考えられる。
○ 薄帯の start 部と end 部の磁気特性の差は、製造技術開発が材料開発研究より組
成均一性、帯厚均一性などの点で不利な条件下にあることを考えると、許容範囲
といえる。
○ 計画時には明らかでなかった、量産化における検討課題が明らかになった。
<問題点・改善すべき点>
● やってみなければわからないとは思うが、実験室レベルの操業から幅広・大量作
製に向かうときの起こりうる問題点に対する予測が不充分で、事前に十分な対策
を取れなかった、あるいは事後に対応できなかったという印象がある。問題解決
よりもともかくトランスを作製するための薄帯を供給することが優先になった
点は残念だ。
● 特性評価方法について、十分な検討をすべきである。他の試料と同一の評価をしな
いと比較が困難である。また、大量供給できる製造方法、歩留まりを上げる方法
など、解決すべき問題は残されていると考えられる。
● 量産化を考えると、減圧下薄帯製造法はガスフロー法に比べ設備投資がかなり高
額になる恐れがある。もう少しガスフロー法を検討しても良かったのではないか。
Ar より軽い不活性ガスや混合ガスなどを検討することが必要と考える。
● Sn を添加した試料の幅広薄帯の製造を期間内に検討すべきであったと考える。添
加元素によって磁気特性が改善されることは多いが、幅広薄帯の量産段階でどの
ような影響があるかを検討する必要があったと考える。
● 幅方向における、組成、磁気特性、帯厚、加工性についてのデータが不足してい
る。
<その他の意見>
•
解決すべき技術要素が多数あるように思い、本プロジェクトとしては最も大変
3-14
なパートと認識している。
•
薄帯幅を広くしていくときの、製造技術上問題点がうまく整理されていた。
•
製造された薄帯の加工性は材料開発段階と比較して変化があったかどうかとい
うように、量産化によってどの特性が材料開発段階より劣化したかを検討する必
要がある。
3-15
2.3
柱上トランス試作・評価
素材の供給が遅れ気味であったと思われるが、開発された素材を用いたトラ
ンスの製造方法は、ほぼ確立されたものと思われる。また、熱処理方法を見出
し、可能な限り低損失を指向したトランスの試作ができた事は評価できる。
製品化へ向けては、軽量化とコンパクト化やコストダウンを図り、性能検証
を長期に渡り実施することが望ましい。
<肯定的意見>
○ 固着開放処理を除き、トランス作製の問題点は概ね解決されているように思った。
○ 加工性が不充分な材料による試作品である結果、外見の目標は達成しなかった。
解説に有った如く、素材の鉄損が 0.08W/kg であれば、目標値は達成できたと思
われる。
○ 素材の供給が遅れ気味であったと思われるが、開発された素材を用いた変圧器の
製造方法はほぼ確立されたものと思われる。
○ 熱処理方法を見出し、可能な限り低損失を指向したトランスの試作ができた事は
評価に値する。
<問題点・改善すべき点>
● 固着開放処理についての手法があまり確立されていないように思った。ビルディ
ングファクターの算出方法にあまり意味がない。負荷状態での試験も実施すべき
と考える。
● ノーカット鉄心にしたために、容積が増しさらに性能を悪化させた。
● 目標の数値の達成には、素材特性の更なる向上が必要と考えられる。変圧器の製
造上、あるいは特性向上のためには素材としてどのような特性が必要であるかを
材料開発へのフィードバックが必要である。
● 製品化に向け、軽量化、コンパクト化、コストダウンを図り、長期性能の検証を
実施することが望ましい。
<その他の意見>
•
試験時間に余裕がなかったが、熱処理温度を 660℃で止めずに、670℃もやるべ
きだったと感じる。
3-16
第4章 評点法による評価結果
評点法の実施について
1.経緯
(1)評点法の試行
通商産業省(当時)において、平成 11 年度に実施されたプロジェクトの
評価(39 件)を対象に、評点法を試行的に実施した。その結果を産業技術
審議会評価部会に諮ったところ、以下の判断がなされた。
数値の提示は評価結果の全体的傾向の把握に有効
評価者が異なっていてもプロジェクト間の相対的評価がある程度可能
(2)評点法の実施
平成 12 年 5 月の通商産業省技術評価指針改訂にて「必要に応じ、評点
法の活用による評価の定量化を行うこととする」旨規定された。
以降、プロジェクトの中間・事後評価において、定性的な評価に加え各
評価委員の概括的な判断に基づく評点法が実施されており、NEDO におい
ても平成 13 年度のプロジェクト評価開始以来、評点法を実施してきた。
(当
初は 1,3,5 の3段階評価)
2.評点法の目的
評価結果を分かりやすく提示すること
プロジェクト間の相対評価がある程度可能となるようにすること
3.評点の利用
評価報告書を取りまとめる際の議論の参考
評価報告書を補足する資料
分野別評価、制度評価の実施において活用
4.評点の利用
(1)の付け方
各評価項目について4段階(A、B、C、D)で評価する。
(2)点法実施のタイミング
第 1 回分科会において、各委員へ評価コメント票とともに上記(1)の点
数の記入を依頼する。
評価報告書(案)を審議する前に、評点結果を委員に提示、議論の際の
参考に供する。
上記審議を行った分科会終了後、当該分科会での議論等を踏まえた評点
の修正を依頼する。
評価報告書(案)の確定に合わせて、評点の確定を行う。
4-1
(3)評点結果の開示
評点法による評点結果を開示するが、個々の委員記入の結果(素点)に
ついては、「参考」として公表(匿名)する。
評点法による評価結果の開示については、あくまでも補助的な評価であ
ることを踏まえ、評点のみが一人歩きすることのないように慎重に対応
する。
具体的には、図表による結果の掲示等、評価の全体的な傾向がわかるよ
うな形式をとることとする。
4-2
5.評点結果
2.5
1.事業の目的・政策的位置付け
2.研究開発マネジメントについて
1.5
3.研究開発成果について
1.5
1.0
4.実用化・事業化の見通しについて
0.0
1.0
2.0
3.0
平均値
評価項目
1.事業の目的・政策的位置付けについて
2.研究開発マネジメントについて
3.研究開発成果について
4.実用化・事業化の見通しについて
平均値
2.5
1.5
1.5
1.0
(注)A=3,B=2,C=1,D=0として事務局が数値に換算。
4-3
A
C
B
B
素点(注)
A B B B
B B C C
B C B D
B D D D
A
B
B
B
(評点シート)
【記入方法、結果取扱いについて】
・各委員からは、各項目について、A、B、C、Dのいずれかを記入してください。
・各委員記入の結果(素点)は、「参考」として公表(無記名)いたします。
(1)事業の目的、政策的位置付けについて
<判定基準>
・非常に重要
→A
・重要
→B
・概ね妥当
→C
・妥当性がない又は失われた
→D
A
B C D
(2)研究開発マネジメントについて
<判定基準>
・非常によい
・よい
・概ね適切
・適切とはいえない
A
B C D
A
B C D
A
B C D
(3)研究開発成果について
<判定基準>
・非常によい
・よい
・概ね妥当
・妥当とはいえない
→A
→B
→C
→D
→A
→B
→C
→D
(4)実用化・事業化の見通しについて
<判定基準>
・明確に実現可能なプランあり →A
・実現可能なプランあり
→B
・概ね実現可能なプランあり
→C
・見通しが不明
→D
以 上
4-4
参考資料1
プロジェクトの概要説明資料
本資料は、第2回「超低損失柱上トランス用材料の研究開発」
(事後評価)分科会
において、プロジェクト実施者がプロジェクトの概要を説明する際に使用したもので
ある。
「即効的・革新的エネルギー環境技術開発」
超低損失柱上トランス用材料の開発
開発期間 H10~H13(4年計画)
2002/10/21
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
省エネルギー技術開発室
1
報告内容
• プロジェクトの背景、目的、開発内容
• プロジェクトの概要、成果 (次世代金属・材料開発協会)
• LCA調査 (富士総研)
2
参考資料1-1
「即効的・革新的エネルギー環境技術開発」
温暖化ガスの着実な削減に向け、1997制定
1. 省エネルギー型金属ダスト回生技術の開発
2. 超低損失柱上トランス用材料の開発
3. 極低電力情報端末用LSIの研究開発
4. SF6等に代替するガスを利用した電子デバイス製造 クリーニングプロセスシステムの研究開発
5. 可燃ごみ再資源燃料化技術開発
6. 吸着剤を用いた新規な天然ガス貯蔵技術開発
7. 産業用コージェネレーション実用技術開発
8. 即効型高効率太陽電池技術開発
3
鉄損による電力損失
総販売電力量7,570億kWh(1995)の0.8%
→ 61億kWh (原油換算57万kl)の損失
→ 鉄損によりCO2排出量 411万トン
4
参考資料1-2
トランス鉄心材料
珪素鋼板 柱上トランス用材料として主流
鉄基アモルファス合金
トランス用材料として一部で使用
珪素鋼板に比べ、鉄損は1/5、飽和磁束密度は3/4
↓
ナノ結晶軟磁性材料
近年開発される
低い鉄損、かつ高い飽和磁束密度
5
国の関与の必要性
柱上トランス鉄損削減の実用技術
現状:アモルファス合金の利用技術のみ
→米国企業1社による材料の独占供給状態
安定供給不安
国内の状況:ナノ結晶軟磁性材料の研究(東北大学)
→トランス鉄損1/10削減の期待
↓
新材料実用化のためには多くのブレークスルーが必要
民間のみでは2010年にある程度の普及、実用化は困難
→国の支援のもとで開発の加速が必要
6
参考資料1-3
開発の内容
・材料開発
低い鉄損:珪素鋼板の1/10以下
高い飽和磁束密度
:鉄基アモルファス合金以上
良好な加工性
・薄帯製造技術
幅広薄帯の大量生産
ガスフローによる雰囲気制御
・柱上トランスの試作・評価
鉄損:従来の1/10程度
7
研究開発体制
経済産業省
NEDO
東北大学 金属材料研究所
次世代金属・複合材料
研究開発協会(RIMCOF)
LCA
富士総研
高性能材料開発
幅広薄帯製造技術
柱上トランス
試作・評価
アルプス電気
大同特殊鋼
高岳製作所
8
参考資料1-4
超低損失柱上トランス用材料の開発
1.研究開発の目的
2.研究開発目標
3.研究開発体制
4.研究開発の成果
5.実用化と課題
9
研 究 開 発 の 目 的
省エネルギー
CO2排出量削減
送 電 損 失 の 削 減
柱上トランスの無負荷損低減
超低損失柱上トランス用材料の開発
高性能材料
の開発
幅広薄帯製造
技術の開発
参考資料1-5
柱上トランス
の試作・評価10
研 究 開 発 の 目 標
高性能材料の開発
幅広薄帯製造技術の開発
基本計画 目標値
基本計画 目標値
鉄 損
珪素鋼板の
1/10以下
0.1W/kg以下
飽和磁
束密度
鉄基アモルファ
ス合金以上
1.56T以上
加工性
(破壊歪)
良好な
曲げ性
ラップカット鉄心作
製可能
幅広薄帯
量産技術
ガスフローによ ガスフローによ
る雰囲気制御 る雰囲気制御
100mm以上
加工性
(鉄基アモルファス合金と同等)
柱上トランスの試作・評価
全損失
材 幅
無負荷損 鉄損
誘電体損他
負荷損 銅損
漂遊負荷損
基本計画 目標値
無負荷損
従来の1/10程度
20kVAで6W程度
11
基本計画では「鉄損」と表現
鉄心材料に求められる性能
CL ∝ IL×
×M
(W) (W/kg) (kg)
低鉄損
珪素鋼板より桁違い
に低い鉄損
↓
送電損失の削減
↓
CO2排出量削減
石油使用量削減
高飽和磁束密度
B×
×S ∝ V
(T) (㎡)
(V)
鉄基アモルファス合金 より高い飽和磁束密度
↓
トランスの小型化
超低損失柱上 トランス用材料
ラップカット
鉄心
広い材幅
W
W
大型鉄心が作製可能 鉄基アモルファス合金 と同等の材幅
↓
工程・コスト低減
良好な加工性
ラップカット鉄心 加工 が可能
巻線
↓
コスト低減
2W
12
参考資料1-6
軟 磁 性 材 料 の 磁 気 特 性
(Fe
FeFe-Nb・
Nb・ZrZr-B)
飽和磁束密度が高く、透磁率の大
飽和磁束密度が高く、透磁率の大
きい鉄・遷移金属系ナノ結晶合金
きい鉄・遷移金属系ナノ結晶合金
が研究開発対象
が研究開発対象
Bs
μ=B/H
H
(Fe-Si-B)
13
鉄心材料の特性比較
飽 和 磁 束 密 度 (
2.0
1990年頃東北大学で 開発した国産技術
珪素鋼板
1.75
ナノ結晶
軟磁性合金
(Fe-Nb・Zr-B)
1.5
20世紀初頭 英国で開発
鉄基アモル
ファス合金
T
1980年頃 米国で発売
1.25
)
0.01
0.1
1.0
鉄 損 (w/kg、50Hz、Bs×0.85)
参考資料1-7
14
鉄損と無負荷損の目標値
2.0
飽 和 磁 束 密 度 (T)
無 負 荷 損 ( W)
(電中研研究報告書 №685016
等)
(電中研研究報告書 №
JISC4304
珪素鋼板
100
目標
50
10W
10W
6W
目 標
150
Fe-Si-B
1.56
1.5
1.0
試作目標
〔20kVA〕
0
10
20
0.2
0.1
30
鉄
損
0.3
(W/kg)
材料特性と無負荷損
ト ラ ン ス 容 量 (kVA)
15
幅広薄帯製造技術の開発目標
不活性ガス
ガスフローによる酸化防止技術を開
ガスフローによる酸化防止技術を開
発し、活性金属元素を多量に含有す
発し、活性金属元素を多量に含有す
るナノ結晶軟磁性合金幅広薄帯の
るナノ結晶軟磁性合金幅広薄帯の
量産化に目処をつける
量産化に目処をつける
薄帯
最大幅25㎜
厚 25μm
溶湯(数kg)
不活性ガス
溶湯(100kg)
不活性ガス
真空容器
薄帯
真空ポンプ
ロール
真空中液体急冷法
( 従 来 技 術 )
幅100㎜以上
厚 25μm
ロール
Fe-Si-B:大気雰囲気
材幅 140~210㎜
厚 25μm ガスフロー中液体急冷法
(開発技術)
参考資料1-8
16
研究開発の年度別計画
研 究 開 発 項 目(再委託先)
平成10年度
高性能材料の開発(アルプス電気)
・組成最適化
平成13年度
(Fe- Nb・Zr-B+Mo, P, Sn・・・)
最
・組成探索
平成12年度
平成11年度
ナノ結晶軟磁性材
料で開発実績
終
・特性・構造評価
幅広薄帯製造技術の開発(大同特殊鋼)
幅広薄帯製造技術の開発(大同特殊鋼)
・ガスフロー中製造技術検討
( 材幅 15 ㎜ )
活性金属の液体
急冷法研究
( 材幅 50 ㎜ )
評
・プロトタイプ機で技術研究
( 材幅 100 ㎜ )
・幅広薄帯製造技術開発
柱上トランスの試作・評価(高岳製作所)
・柱上トランス試作・評価
予
(トロ イダルコア)
鉄基アモルファス
価
・小型トランス試作・評価
( 500VA
,
20kVA
)
トランスの製造実績
算 (合計1,526百万円)
百万円)
(合計
253
350
563
17 360
9
研 究 開 発 実 施 体 制
共同研究
(財)次世代金属・複合
材料研究開発協会
東北大学 金属材料研究所
再委託
連携・競合
アルプス電気株式会社
大同特殊鋼株式会社
株式会社 高岳製作所
年5回開催
技術委員会
委員長 :東北大学 井上明久教授
副委員長:信州大学 山沢清人教授
委 員:秋田県立大学 牧野彰宏教授
:委 託 先 ,再
再委託先研究員
18
参考資料1-9
研 究 開 発 の 成 果
高性能材料の開発 幅広薄帯製造技術の開発 目 標 値 実 績 値
0.08W/kg
飽和磁
束密度
加工性
(破壊歪)
1.56T以上
ラップカット鉄心
作製可能
~
0.1W/kg以下
鉄 損
0.10W/kg
1.56~1.62T
ラップカット鉄心作製困難
⇒ノーカット鉄心に変更
目 標 値 実 績 値
Fe-Nb-B-Sn
100㎜
100㎜以上
材 幅
Fe-Nb-Bで0.10W/kg
Fe-Nb-B
ガスフロー
による雰囲
気制御
量産技術
(鉄基アモルファス合金と同等) (鉄基アモルファス合金に及ばない)
減圧による
雰囲気制御
柱上トランスの試作・評価 目 標 値 実 績 値
無負荷損
(20kVA)
)
6 W 程 度
Fe-Nb-B
14W
⇒ Fe-Nb-B-Snで6W(
見込)
19
省 エ ネ ル ギ ー 達 成 率
30
150
目標達成率
電力損失削減量
無負荷損
100
20
10
50
0
0
目 標
試 作
設計(最良)
参考資料1-10
鉄基アモルファス合金 20
(参考)
20kVAの無負荷損(
の無負荷損(W)
)
の無負荷損(
電 力 損 失 削 減量( 億 kWh)
目標達成率(%)
電力削減目標に対する達成率は、試作で85%、最良設計で100%
電力削減目標に対する達成率は、試作で85%、最良設計で100%
成 果 の 普 及 、 広 報 実 績
1.
件
1.発表論文:
発表論文: 99件
2.
件
2.口頭発表:
口頭発表: 17
17件
3.
件
3.特許出願:
特許出願: 19
19件
4.
件
4.広 報: 広 報: 33件
21
実 用 化 の シ ナ リ オ
高性能材料の開発
最高性能のFe-Nb-B-Sn合金 合金 最高性能の
を適用
幅広薄帯製造技術の開発
特性の安定した幅広薄帯 の量産技術を構築
更に、原料コスト低減を推進
(普及初期の国家的支援に期待)
普及初期の国家的支援に期待)
柱 上 ト ラ ン スの 試 作 ・ 評 価
試作トランスでフィールドテスト実施
更に、温室効果ガス国内排出量取引制度 (京都メカニズム)適用化等を研究
22
参考資料1-11
関連分野への展開
車載トランス、民生用小型トランス用鉄心材料
スイッチング電源用チョークコイル
特殊ろう材(Ti-Zr-Cu-Ni合金薄帯)
合金薄帯)
特殊ろう材
耐 食 ア モ ル フ ァ ス 帯
23
15
高 性 能 材 料 の 開 発
Fe-Nb-B-Snで目標達成
Fe-Nb-B-Snで目標達成
鉄損:0.08W/kg(≦0.1W/kg)
鉄損:0.08W/kg(≦0.1W/kg)
飽和磁束密度:1.56T(≧1.56T)
飽和磁束密度:1.56T(≧1.56T)
アルプス電気
加工性は目標未達
加工性は目標未達
⇒鉄心の加工方案をラップカット方式から
⇒鉄心の加工方案をラップカット方式から
ノーカット方式に変更して対処
ノーカット方式に変更して対処
目標
鉄基アモル ファス合金
Fe-Zr-Nb-B
合金
測定方法
R
Fe-Nb-B-Sn
合金
破壊歪λf=d/(R-d)
Fe-Nb-B
合金
R:曲げ直径 d:板厚
1
10
破 壊 歪(×10-3)
参考資料1-12
100
24
幅広薄帯製造技術の開発
大同特殊鋼
雰囲気制御方法は目標変更 ガスフローでは薄帯の表面性状安定せず、
磁気特性低い ⇒ 減圧雰囲気に変更
材幅 波目標達成 減圧雰囲気下で幅100㎜薄帯 の製造技術を開発
ガ ス フ ロ ー
0.19W/kg 0.1µ
µm
減 圧 雰 囲 気
試 作 条 件
材料 Fe-Nb-B合金
0.10W/kg 差圧 20kPa
薄 帯
雰囲気圧
5kPa
幅 :100mm
出湯温度
1,480℃
鉄損:0.10W/kg
ロール周速 25m/s
0.1µ
µm
薄 帯 の 表 面 観 察
ノズル 0.3×100mm
25
ノズル/ロール間隙 0.3mm
柱上トランスの試作・評価(20kVA)
)
柱上トランスの試作・評価(
高岳製作所
Fe-Nb-B合金薄帯での試作結果 :無負荷損 14Wで目標未達
⇒ Fe-Nb-B-Sn合金の設計値 :無負荷損 6.2Wで達成見込
材料
鉄損(W/g) 質量(kg)
無負荷損(W)
試作実績 Fe-Nb-B 0.134 77 14
設計値 Fe-Nb-B-Sn 0.08 70 6.2
安定量産技術開発
④⑤⑥
鉄心に銅塊を接触させ、発熱による加熱を防止
⑧
〔500VA〕
①②③
⑦
⑨
(1)ノーカット鉄心
鉄心 銅塊
(2)熱処理方案
フィールドテスト実施
26
(3)鉄心完成
(4)柱上トランス外観
参考資料1-13
開 発 課 題 の 展 開
開発課題
発表者
高性能材料
の開発
アルプス電気
小島 章伸
幅広薄帯製
造技術の開
発
技術アイテム
目 標
達 成 状 況
未達課題の代案
鉄損
0.1W/kg以下
0.08W/kg(Fe-Nb-B-Sn)
○
飽和磁束密度
1.56T以上
1.56T(Fe-Nb-B-Sn)
○
加工性
(破壊歪)
ラップカット鉄心作
製可能(鉄アモルファ
ス合金並)
ラップカット鉄心作製困
△
難(鉄アモルファス合金の1/2)
信頼性
柱上トランスに使
用可能
経時変化は鉄アモルファス
合金より小
材幅
量産技術
100㎜以上
幅100㎜薄帯製造
(減圧雰囲気)
減圧雰囲気
△
○
原価低減
合金鉄原料使用
0.1W/kg以下
0.10W/kg (減圧雰囲気)
○
(Fe-Nb-B)
柱上トランス
の試作・評価
無負荷損
(20kVA)
6W
14W注1
(Fe-Nb-B, ノーカット鉄心)
△
高岳製作所
森口 益巳
熱処理条件
最適化
抜熱+2段熱処理を開発
○
鉄心構造
ラップカット鉄心
ノーカット鉄心
△
(注1)14=1.4×0.134×77 参考資料1-14
ノーカット鉄心に変更
(柱上トランスの項
による)
○
ガスフロー雰囲気
無負荷損=α×鉄損×質量 (Fe-Nb-B-Sn合金を
量産へ適用)
○
幅広薄帯の鉄
損
大同特殊鋼
清水 孝純
実用化への課題
減圧雰囲気に変更
Fe-Nb-B-Sn合金で
鉄損0.08W/kgの幅
広薄帯(140-210㎜)
を安定量産可能な
製造条件の最適化
Fe-Nb-B-Sn薄帯最適
加工・熱処理適用で
6W注2達成
試作トランスのフィー
ルドテストによる評
価を実施
ノーカット鉄心に変更
鉄心の加工・熱処理
条件最適化
(注2) 6≒1.1×0.08×70
27
参考資料2
本資料は、第1回「超低損失柱上トランス用材料の研究開発」
(中間評価)分科
会において、評価の事務局である新エネルギー・産業技術総合開発機構技術評
価部から、株式会社
のである。
三菱総合研究所へ関連技術の周辺動向調査を依頼したも
「超低損失柱上トランス用材料の開発」
周辺動向調査
平成 14 年 10 月
株式会社
三菱総合研究所
参考資料 2-1
目
次
1.「超低損失柱上トランス用材料の開発」プロジェクトの目標
2.総合エネルギー調査会省エネルギー基準部会の提言
3.変圧器の種類
(1)変圧器の現状
(2)機械統計年報による分類
(3)変圧器のエネルギー損失
(4)変圧器用鉄心素材
4.柱上変圧器の種類及び技術動向
(1)柱上変圧器の種類
(2)電磁鋼板技術の動向
5.柱上変圧器の市場動向
(1)変圧器の生産動向
(2)柱上変圧器の市場規模
(3)世界の動向
参考資料 2-2
1.「超低損失柱上トランス用材料の開発」プロジェクトの目標
本研究開発の目標は省エネルギー、温室効果ガス削減のために超低損失柱上
変圧器実用化のための次の 3 項目の基盤技術を開発する。
①低い鉄損、高い飽和磁束密度、良好な加工性を備えた高性能材料の開発
②幅広材料の大量生産を実現するための製造技術の開発
③開発した材料を用いた柱上変圧器の試作・評価、従来の柱上変圧器に対
しての優位性の実証
柱上変圧器用鉄心材料は鉄損が低く、飽和磁束密度が高いことが望ましい。
本研究開発においてはナノ結晶軟磁性材料をベースに鉄損は珪素鋼板の 1/10 以
下で鉄基アモルファス合金の 1/2 以下、飽和磁束密度が 1.56T 以下を目標値と
する。
鉄損
飽和磁束密度
繰り返し曲げる回数
達成目標と既存材料の比較
目標値
珪素鋼板
0.1w/kg以下
1w/kg
1.56T以上
2.0T
1回以上
1回以上
鉄基アモルファス
0.3w/kg
1.56T
1回以上
2.総合エネルギー調査会省エネルギー基準部会の提言
総合エネルギー調査会省エネルギー基準部会は省エネルギー法特定機器に高
圧受配電用変圧器の追加を決定し、平成 13 年 11 月に下部組織である変圧器判
断基準小委員会で判断基準がまとめられた。
この特定機器「受配電用変圧器」は、エネルギー消費効率が現状品から 30%
低減したエネルギー変換効率約 99%の最高水準の変圧器を目指したものである。
(1)目標設定のための区分
受配電用変圧器は構造の違い、電源相数、電源周波数等の仕様、負荷率によ
り特性が異なり、エネルギー消費に影響を与えるため、以下のとおり区分され
る。
参考資料 2-3
①構造による区分
油入変圧器とモールド変圧器は絶縁、冷却媒体が大きく異なる。前者は絶縁
油を用いていることから鉄心、巻線が容器内に浸漬され、絶縁油の循環で冷却
される。後者は樹脂層と空気を用いており、巻線を樹脂で覆い空気でその表面
を冷却する構造である。このような使用材料と構造が違うため、油入変圧器と
モールド変圧器に区分する。(JIS 等の規格と同様)
a) 油入変圧器
b) モールド変圧器
②電源相数による区分
巻線、鉄心構成として三相は低圧、高圧各 3 巻線と三相三脚鉄心、単相は低
圧、高圧各 2 巻線と単相二脚鉄心が用いられる。この構成により特性が異なる
ため、単相と三相に区分する。
a) 単相
b) 三相
③電源周波数による区分
電源周波数により電磁材料の素材特性が異なり、また、変圧器に使用される
鉄心使用量が異なり(50Hz と 60Hz を比較した場合は通常 50Hz 品は 60Hz 品
の鉄心断面積の 1.2 倍を要する)特性が変わってくるため、電源周波数 50Hz
と 60Hz に区分する。
a) 電源周波数 50Hz
b) 電源周波数 60Hz
④容量による区分
変圧器は特高需要家と高圧需要家により年間平均等負荷率が異なっているこ
と、及び JIS のキュービクル式高圧受電設備に JIS 品の変圧器(500kVA 以下)
が採用されていることから容量を 500kVA 以下と 500kVA 超過で区分する。た
だし、単相については、500kVA 超過のものが存在しないため区分を設けないこ
ととする。
a) 容量
500kVA 以下
b) 容量
500kVA 超過
参考資料 2-4
(2)トップランナー方式による目標基準
変圧器のエネルギー消費効率は JIS 規格に定める測定法により次式で表され
る。
全損失=無負荷損+基準負荷率2×負荷損
ここで現存する最も優れた変圧器の特性を目標値とするトップランナー方式
により目標基準値が設定される。目標基準値は製造業者が目標年度に国内向け
に出荷するエネルギー消費効率が区分毎に出荷台数で加重平均した値が目標基
準値を上回らないことを義務付けている。
(3)目標年度における改善効果
某社を例にすると 1999 年度の出荷実績を加重平均した1台当たりの全損失
値は 818W に対し、目標基準値に置き換えた全損失値は 570Wと試算されてい
る。この結果、目標年度においては約 30%の改善が期待できる。
また、平均的な機種で全損失値を比較すると現行 JIS 規格値を 100 とすると
旧 JIS 規格値 173、JEM 高効率品 73、目標基準値 62 となり、目標基準値は現
行 JIS 規格値と比較して 38%の改善となる。
エネルギー消費効率の比較
200
エネルギー消費効率全損失比(%)
180
173
160
140
120
100
100
73
80
62
60
40
20
0
旧JIS品
(1975∼1980)
現行JIS品
(1981∼)
JEM高効率品
(2000∼)
出典)省エネルギー法特定機器:
「受配電用変圧器」の判断基準電機 2002.4
日本電機工業会
参考資料 2-5
目標基準値
社団法人
(4)目標年度
目標年度はできる限り早期の目標達成を前提に省エネ化のための技術開発期
間、設計変更及び生産準備期間、製品及び材料・部品の在庫処理等を踏まえて
油入変圧器とモールド変圧器と区分して設定されている。
・油入変圧器
2006 年度出荷分から
・モールド変圧器
2007 年度出荷分から
3.変圧器の種類
変圧器を大きさにより分類すれば、柱上変圧器に代表される小型変圧器、大
口需要家受電用変圧器等の中型変圧器、1次変電所や発電所の送電用大容量変
圧器となる。また、冷却媒体から分類すれば油入変圧器、ガス絶縁変圧器、乾
式変圧器がある。
(1)変圧器の現状
高圧受配電用変圧器は油入変圧器と乾式変圧器に分類される。油入変圧器は
オフィスビルや住宅、事業所等の受配電設備に使用されている。乾式変圧器は
主にモールド変圧器であり、主に建築物の受配電設備に使用されている。
次図に変圧器と使用事業所と容量の関係を示す。
参考資料 2-6
(KVA)
10000
特別高圧大容量変圧器
大容量
(生産台数 約2千台/年)
送変電用
変圧器
容量
(受注生産)
高圧受配電用油入変圧器
1000
(生産台数 約9万台/年)
高圧受配電用モールド変圧器
(生産台数 約1万台/年)
柱上変圧器
(生産台数
100
高圧受電用H種乾式変圧器
(生産台数約100台/年)
約33万台/年)
電力会社
建築物
小規模事業所
中規模事業所
大規模事業所
変圧器の使用事業所と容量
出典)省エネルギー法特定機器:
「受配電用変圧器」の判断基準電機 2002.4
社団法人
日本電気工業会
(2)機械統計年数による分類
変圧器は機械統計年報によると以下に示すように分類され、生産統計が取ら
れている。
参考資料 2-7
電力会社向
生産台数:21,609
金 額:29,128
標準変圧器
生産台数:294,293
金 額:40,080
電力会社向以外
生産台数:78,684
金 額:10,952
1,000kVA未満
非標準変圧器
生産台数:96,303
金 額:103,658
変圧器
生産台数:32,611
金 額:13,967
油入変圧器
生産台数:35,604
金 額:76,298
1,000∼3,000kVA
生産台数:1,464
金 額:4,353
生産台数:2,929,063
金 額:176,478
3,000∼10,000kVA
特殊用途変圧器
生産台数:831
金 額:9,329
生産台数:859,898
金 額:11,421
10,000∼100,000kVA
生産台数:521
金 額:19,725
100,000kVA以上
生産台数:177
金 額:28,924
計器用変圧器
生産台数:1,678,569
金 額:21,319
乾式変圧器
モールド変圧器
生産台数:18,661
金 額:15,907
生産台数:60,699
金 額:27,360
その他の乾式変圧器
生産台数:42,038
金 額:11,453
単位
生産台数:台 金 額:百万円
変圧器の生産量(2001 年)
(3)変圧器のエネルギー損失
変圧器の損失は以下に示すように無負荷損失と負荷損失がある。
ヒステリシス損
変圧器全損失
無負荷損失
(鉄損)
負荷損失
(銅損)
渦電流損
抵抗損
漂遊損
渦電流損(巻線)
その他の漂遊損
図
変圧器の損失の分類
参考資料 2-8
無負荷損失は変圧器が回路に接続されていれば負荷電流が流れなくても発生
する損失である。鉄心により発生するため鉄損と呼ばれ鉄心材質、印加電圧、
周波数により変化するが、負荷電流の影響は受けず一定である。本研究開発は
無負荷損失を低減するために行われている。
負荷損失は負荷電流により巻線において発生するための銅損と呼ばれ抵抗損
と漏れ磁束により発生する漂遊損がある。
無負荷損失と負荷損失の割合は負荷率により異なるが一般的には全負荷時に
おいて無負荷損失は負荷損失より小さい。全損失は次式により求められる。
発生損失=無負荷損失+(負荷率)2×負荷損失
次表に発生損失と省エネ効果を示す。
表
発生損失と省エネ効果(当社試算例:3 相−1000kV A)
変圧器の種類
発生損失〔kW〕
消費電力〔kWh/年〕 電気料金〔千円/年〕
無負荷損失
負荷損失
[負荷率60%時]
[15円/kWh]
約30年前製作品
2.90
17.85
81700
1226
標準仕様変圧器
1.45
12.00
50500
758
高効率変圧器
1.09
10.10
41400
621
スーパー高効率変圧器
0.98
5.38
25600
384
負荷損改良形アモルファス変圧器
0.30
7.60
26600
399
出典)省エネルギーのための最新技術動向(その1)
OEM2001.11
井戸好信
(4)変圧器用鉄心素材
変圧器の運転効率は 1980 年以前の 97.8%から 98.5%(推定)に向上してい
る。変圧器の損失は前述したように鉄損と銅損があり、低損失の技術としては
鉄心材料の改良、鉄心構造の改良、絶縁物の薄葉化等の技術の進歩がある。特
に磁束密度を高く出来る鉄心素材の導入により変圧器が小形化し、巻線導体が
短くなったことが損失低減に寄与している。
次図に鉄心の素材特性を示す。
参考資料 2-9
鉄心の素材特性(代表値例)
板厚
[mm]
け
い
素
鋼
板
鉄損[W/kg]50Hz
1.7T
1.5T
1.3T
飽和磁
束密度
占積率 鉄心の保
[%]
護
2.5
−
2.02
97
無方向性
0.350
方向性
0.350
1.55
−
−
2.02
97
高配高性
0.270
1.00
−
−
2.02
97
磁区制御
0.230
0.85
−
−
2.02
97
−
0.16
1.58
86
アモルファス
0.025
出典)省エネルギーのための最新技術動向(その1)
OEM2001.11
不要
要
井戸好信
4.柱上変圧器の種類及び技術動向
(1)柱上変圧器の種類
電力会社の柱上変圧器に対するニーズとして電力の安定供給、信頼性の向上、
安全の確保、環境調和、保守の簡素化、コストの低減、省エネルギー化等があ
る。これらのニーズを受けて、近年、柱上変圧器は低損失化と多機能化に大き
く変化している。低損失化は鉄心材料となる珪素鋼板の特性改善による低減に
加え、アモルファス磁性材料の導入により大幅な低損失化が図られた。
多機能化は周辺機器を内蔵化することにより、変圧器に種々の機能を持たせ
ている。
①珪素鋼変圧器
鉄心材料となる珪素鋼板の改良は規格の変更に伴い改善が行われている。旧
JIS 品(1975∼1980)に無方向性珪素鋼板、現行 JIS 品(1981∼)に方向性珪
素鋼板、JEM 高効率品(2000∼)に高配向性珪素鋼板が導入され、現在では珪
素鋼板の表面に溝を入れ磁区を細分化し渦電流損を低減した珪素鋼板が実用化
されている。
②アモルファス変圧器
アモルファス磁性材料の特長は鉄損が少ないことであるが、加工性が悪い。
しかし、加工技術の進歩により多数のアモルファス変圧器が商品化されている。
次表にアモルファス変圧器と珪素鋼変圧器との比較を示す。
参考資料 2-10
珪素鋼変圧器を1としてアモルファス変圧器との比較
外
項
目
形
寸
総
油
質
アモルファス変圧器
法
1.05∼1.1
量
量
1.2 ∼1.3
流
1.2 ∼1.3
0.2 ∼0.3
損
0.25∼0.3
負
荷
損
インビ ーダ ンス 電圧
0.95∼1.0
無
無
負
負
出典)電設資材
荷
電
荷
≒1.0
変圧器の種類と最近の技術動向
永田徹
アモルファス変圧器は無負荷損が珪素鋼変圧器の約 0.3 に低減されており、省
エネルギーの面では優れている。しかし、アモルファス自体の飽和磁束密度が
低いため、外形寸法、総重量は珪素鋼変圧器より大きくなる。
③耐雷形柱上変圧器
柱上変圧器の雷保護用の避雷器は、柱上変圧器近くの電柱に設けられている
が、変圧器の高圧側に雷電素子を内蔵することにより、雷サージ保護性能の向
上を図り、架空線の簡単化と美観の向上を図っている。
④多機能形柱上変圧器
架空配電設備は単独の機能を持つ機材の組み合わせにより要求性能を満たし
ていた。そのため機材の多品種化や装柱形態の複雑化となり、工事施工に関す
る負担が増大する問題があった。これの解決策として機能の複合化が考えられ
多機能形柱上変圧器が開発され導入された。
例えば、異容量V結線の灯動共用変圧器や同容量V結線変圧器をベースとし
てカットアウト、避雷器、無停電工事用端子、低圧開閉器等を付属させた変圧
器である。
(2)電磁鋼板技術の動向
電磁鋼板の鉄損低減は主に次の3つの技術要素から進展した。
①高磁束密度方向性電磁鋼板の製造技術
②電磁鋼板の薄手化技術
参考資料 2-11
③磁区細分化技術
電磁鋼板の損失低減推移を次図に示す。高磁束密度方向性電磁鋼板の開発に
より、磁束密度は 1.82Tから 1.92Tに増大し、ヒステリシス損を W17/50 で約
0.2W/kg 低減した。
その後、電磁鋼板の板厚を従来の 0.3mm から 0.23mm へ薄手化することによ
り、古典的渦電流損を W17/50 で約 0.15w/kg 低減することが可能になった。ま
た、レーザー照射、プラズマ照射、溝導入等の磁区細分化技術の開発により異
常渦電流損を W17/50 で約 0.1w/kg 低減した。
1.40
鉄損 W 17/50(W/kg)
1.20
1.22
①
②
③
1.02
1.00
0.87
0.77
0.80
異常渦電流損
0.60
0.40
古典的渦電流損
0.20
ヒステリシス損
0.00
0.30CGO
0.30HI-B
0.23HI_B
0.23ZDKH
方向性電磁鋼板の鉄損失低減推移
出典)電気学会静止器研究会資料:「電磁鋼板の最近の技術動向」2001
久保田猛
今後の方向性電磁鋼板の鉄損低減のためには
①ピニングサイトの除去技術
②表面還流磁区の抑制
③板厚薄手化技術
の技術開発がある。
方向性電磁鋼板の表面には絶縁性および鋼板への張力付与を目的にセラミッ
クス皮膜が被覆されている。セラミックス皮膜と地鉄との界面は平滑でないた
め磁壁移動が妨げられる。表面を平滑化し、磁壁移動のピン止めサイトを除去
参考資料 2-12
することにより W17/50 で約 0.1W/kg の鉄損低減が可能である。
また、磁化過程においては還流磁区の生成、削減があり、磁壁移動に伴うエ
ネルギー散逸が生じる。還流磁区を抑制するためには二次再結晶粒の集積度を
高めることが効果的であり、方位集積度を高めることにより磁束密度が増大し、
W17/50 で約 0.1w/kg の鉄損低減が可能となる。
さらに、磁鋼板の板厚を薄手化(0.23mm から 0.15mm)することにより
W17/50 で 0.35w/kg 程度の鉄損低減が可能となる。
下図に方向性電磁鋼板における低鉄損化の展望を示す。
1.20
ピニングサイトの
除去
鉄損 W 17/50 (W/kg)
1.00
表面還流磁区の制御
0.77
0.80
0.65
0.60
板厚薄手化
(0.15mm)
0.55
0.40
0.35
0.20
0.00
ZDK(M)HO.23mm
図
方向性電磁鋼板における低鉄損化の展望
出典)電気学会静止器研究会資料:「電磁鋼板の最近の技術動向」2001
久保田猛
経済産業省は革新的温暖化対策プログラム「変圧器の電力損失削減のための
革新的磁性材料の開発プロジェクト基本計画」を 2002 年度から3年間計画で実
施している。研究開発は電磁鋼板の鉄損失を W17/50 で現状の 0.75w/kg(から
0.6w/kg 以下に低減するとともに、変圧器の電力損失を現状より 20%以上低減
を目標にしている。
参考資料 2-13
5.柱上変圧器の市場動向
(1)変圧器の生産動向
機械統計年報によると我が国における変圧器の生産額は 1991 年の 3,411 億円
をピークに減少しており、2001 年にはピーク時の約半分の 1,765 億円まで減少
している。最近の 5 年間は年率-8.3%で減少している。
標準変圧器の生産額は 2001 年において 401 億円、
最近の 5 年間は年率-11.0%
で減少している。非標準変圧器の生産額は 1,037 億円、
最近の 5 年間は年率-7.5%
で減少している。特殊用途変圧器の生産額は 114 億円、最近 5 年間は年率-11.2%
で減少している。計器用変圧器の生産額は 213 億円、最近 5 年間は年率-5.1%
で減少している。
変圧器の生産額
億円
平成9年
平成13年
年率
2,498
1,765
- 8.3
638
401
-11.0
1,414
1,037
- 7.5
(3)特殊用途変圧器
183
114
-11.2
(4)計器用変圧器
263
213
- 5.1
変圧器
(1)標準変圧器
(2)非標準変圧器
出所)MRI
350,000
変圧器
百万円
標準変圧器
機械統計年報より作成
非標準変圧器
特殊用途変圧器
計器用変圧器
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
平成4年
平成5年
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
変圧器の生産額の推移
出所)MRI
機械統計年報より作成
参考資料 2-14
平成12年
平成13年
(2)柱上変圧器の市場規模
我が国においては約 1,350 万台の変圧器が設置されている。その内、柱上変
圧器(20,30kVA)は約 900 万台(1998 年度)設置されており、今後の柱上変
圧器の設置台数されており、今後の柱上変圧器の設置台数は世帯数及び世帯数
予測から微増傾向と推定される。
トランス台数の推移(予測)
11,000,000
10,000,000
個数
9,000,000
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
1975
1985
1995
2005
2015
2025
西暦
出典)即効的・革新的エネルギー環境技術開発に関する LCA 調査
平成 14 年 3 月 NEDO
柱状変圧器の置き換え需要は耐用年数を 22 年(法定耐用年数は 18 年)とす
ると 22 年前の設置台数を耐用年数で割ったものが、置き換え需要として推定で
きる。2000 年時点における置き換え需要は約 28 万台と推定される。
また、機械統計年報には柱上変圧器として分類されておらず、柱上変圧器の
市場を推定するために標準変圧器の生産推移を示す。標準変圧器は柱上変圧器
より容量の大きな変圧器が含まれており、柱上変圧器の生産量より大きな値に
なっているが、「超低損失柱上トランスの研究開発」の市場となる分野である。
参考資料 2-15
標準変圧器 数量(台)
標準変圧器 金額(百万円)
電力会社向 数量(台)
電力会社向 金額(百万円)
電力会社向外 数量(台)
電力会社向外 金額(百万円)
台
600,000
百万
80,000
70,000
500,000
60,000
400,000
50,000
300,000
40,000
30,000
200,000
20,000
100,000
10,000
2
年
3
年
平
成
1
平
成
1
1
年
平
成
1
0
年
9
年
平
成
1
平
成
8
年
平
成
7
年
平
成
6
年
平
成
平
成
平
成
5
年
0
4
年
0
標準変圧器の生産推移
出所)MRI
機械統計年報より作成
過去 10 年間標準変圧器の生産量は年率-6.9%で減少し、金額ベースでは年率
-6.7%で減少している。
平成4年
平成13年 年率(%)
標準変圧器
数量(台)
金額(百万円)
561,894
294,293
-6.9
75,075
40,080
-6.7
437,413
215,609
-7.6
51,543
29,128
-6.1
124,481
78,684
-5.0
23,532
10,952
-8.1
電力会社向
数量(台)
金額(百万円)
電力会社向外
数量(台)
金額(百万円)
出所)MRI
機械統計年報より作成
(3)世界の動向
1997 年の気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(COP3)において京都議定書
が採択されてから、先進国にそれぞれの温室効果ガス排出削減目標が設定され
参考資料 2-16
た。また、数値目標を達成するための仕組みとして市場原理を活用する京都メ
カニズムが導入された。
京都メカニズムとは
①クリーン開発メカニズム(CDM)
②共同実施(JI)
③排出量取引
である。
CDM は温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国が協力して、
数値目標が設定されていない途上国内においては排出削減等のプロジェクトを
実施し、その結果生じた排出削減量に基づきクレジットを発行した上で、その
クレジットをプロジェクト参加者間で分配する。
JI は温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国同士が協力して、
先進国内において排出削減等のプロジェクトを実施し、その結果生じた排出削
減量に基づきクレジットを発行した上で、そのクレジットを投資国側のプロジ
ェクト参加者に移転する。
排出量取引は温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国間で、
排出枠の獲得・移転(取引)を認める。
これらの動きを受けて経済協力機構(OECD)および国際エネルギー機関
(IEA)は各国における地球環境問題に取り組んでおり、柱上変圧器の無負荷損
を削減する省エネルギー変圧器の普及促進に対しても取り組み始めた。
「EU 域内の配電用変圧器の無負荷損による電力損失は原子力発電所 7∼8 ヶ
所分」、
「OECD と中国、インド、ブラジル等を加えた世界 30 ヶ国で変圧器をす
べて省エネ型に交換した場合、年間 1500∼2000 億 kWh の電力を削減できる」
との試算が報告されており、省エネ型柱上変圧器の導入・普及を目指した活動
が活発化する。
参考資料 2-17