生活知識情報 住まいに関する 支援制度 最終回 大垣 尚司 住まいに関する支援制度の内容や しくみについて紹介します。 Ogaki Hisashi 立命館大学大学院教授 一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事 著書に『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換えるー』 (日本経済新聞出版社) など。 住みかえ編 マイホーム借上げ制度 *2014年3月現在 ホームを貸すことができれば、子育て支援にな セカンドライフと住みかえ る一方で、賃料収入(地方都市の場合、平均で約 6万8000円*2) を得ることができます。しかし、 60歳男女の平均余命は、それぞれ約23年、28 年です*1。仕事を引退したり、子育てが終わっ 大家の仕事はめんどうですし、退去のつど次の たのを機に、20年以上あるセカンドライフを生 入居者を探すのも大変です。一度家を貸すと返 き生き過ごすため、新たな地に住みかえる人が してもらえないのではといった不安もあります。 増えています。また、年を取れば介護施設等へ そこで、国の支援を得て設立された一般社団 の住みかえを余儀なくされる場合もあります。 法人移住・住みかえ支援機構(以下、JT I )が間 こうした結果、大都市から地方へと人口循環 に入って、そうした不安を解消する「マイホー とでもいうべきものが始まっています。 例えば、 ム借上げ制度」が2006年に始まりました。これ 総務省の統計によれば、15 ~ 54歳では地方か は、利用者のマイホームをJT I が借り上げて入 ら大都市へ、55歳以上は大都市から地方へと 居者に転貸し、家賃収入を保証する制度です(図 移動が見られます(図1) 。 2) 。2014年1月30日現在の制度利用者は536 マイホーム借上げ制度の趣旨 名、利用を検討中の登録者は約2,000名です。以 下、 制度の利用条件の概要を紹介しましょう(詳 細はJT I のホームページ www.jt-i.jpを参照)。 住みかえに際し、問題となるのがマイホーム。 売るのはもったいないが、子どもが住むとは限 マイホーム借上げ制度の利用 りません。放置すれば家は急速に傷みます。 一方、若年層が大都市近郊に予算内でちょう ●利用対象者:原則として50歳以上。国籍不問。 どよい立地と広さの借家を見つけることはほと ただし、海外からの利用は日本人に限ります。 んど不可能でしょう。もし、こうした層にマイ なお、定期借地上の住宅や長寿命住宅等につい 15〜54歳 55〜74歳 終身型・ 移住・住みか 定期型 え 支 援 機 構 3年定借で 借上げ 転貸 (JTI) 差額家賃 −5% 利用者 (管理料) (貸主) 新居・実家・ 子どもと同居 シニア向け住宅・ 施設等 図1 人口移動の状況 図2 (総務省「平成25年住民基本台帳人口移動報告」をもとに筆者が作成) ※「白」 は転入者数が転出者数を上回り、 「黒」 は転出者数が転入者数を上回る都道府県。 2014.4 国民 生 活 08 債務保証 自宅・実家等 住みかえ 55歳以上 入居者 10% 空き家・空 き室積立金 空室リスクを 負担※ 国の保証基金 マイホーム借上げ制度のしくみ ※詳細は文中の「家賃保証」を参照 生活知識情報 ては年齢制限なく利用できる制度があります*3。 定期借家契約(期限において必ず明け渡さねば ●対象地域:全国。ただし、近隣に取扱事業者 ならない借家契約)で転貸し、期限に再契約す がいない地域や人里離れた場所は、入居者決定 る形態をとります。 までに時間がかかり家賃も低水準になります。 ●借上げ家賃:転貸家賃から10%の空家・空室 ●対象住宅:アパートや賃貸マンションなどの 積立金(空室時の保証準備積立と機構の運営費) 事業用を除く一般住宅(賃貸部分が小規模な賃 と管理業者に対する管理手数料5%を差し引い 貸併用型住宅は可) 。一戸建て・マンションを問 た金額を利用者に支払います。なお、家賃水準 わず、現に住んでいる必要もありません(相続 は市場相場を基準としますが(周辺相場の8~ した親の家や別荘、二世帯住宅の片側も可。部 9割) 、床面積に比例して高くなるわけではあり 屋貸しは不可) 。一部を荷物置き場として留保す ません。敷金・礼金は入居者からとりません。 ることも可能。違法建築*4は不可(ただし、既 ●家賃保証:マイホーム借上げ制度の利用開始 存不適格住宅*5は可) 。 時期は、最初の入居者が決定した時点からにな ●耐震性の確保:建築確認日が1981年5月31 るので、借上げ賃料が支払われるのは、その時 日以前の住宅については、耐震診断を行い現行 点からになります。最初の入居者が決定した後 耐震基準値の0.7倍に満たない場合には0.7以上 は、空家・空室になっても再募集に当たり設定 となるよう耐震改修を行う必要があります。 した最低保証家賃を支払います。同家賃は市場 ●建物診断と修繕:借上げに当たり簡単な建物 が大きく変化した場合や住宅の経年劣化により 診断を実施し、重大な問題がある場合のみ必要 見直すことがあります。なお、耐震基準値が1 最小限の修繕が必要です。借上げ開始時は利用 以上等の要件を満たす物件については契約期間 者(貸主)によるハウスクリーニングが必要で 中最低保証家賃の金額を一定金額以上保証する す(費用は1㎡あたり1,000円程度) 。内装等を 定額保証制度が適用されます。保証負担は上記 リフォームするかは自由(ただし、古い・汚い 積立金で賄いますが、最悪の事態に備えて国の 場合は家賃に影響します) 。なお、転貸後に貸主 基金(現在5億円)により債務保証がなされて として行うべき修繕・改修は利用者(貸主)負 います。 担となります。 ●借上げ事務の実施:入居者募集や管理はJ T I く たい ●入居者による改修:構造躯体に影響を与えな に協賛する宅地建物取引業者を通じて行います。 い範囲で、入居者がJ T I の承諾を得て自分自身 ●利用手続き:JTIに情報登録をいただき、カウ で内装等の改修を行うことをあらかじめ利用者 ンセリングや家賃の予備査定を行ったうえで利 用意思が固まったら正式に申し込みます。JTI (貸主)に認めてもらいます。 ●借上げ期間:終身型と定期型があります。終 は電話での相談を行っています。お気軽にご相 身型は、利用者(貸主)とそのパートナーの双 談ください。03-5211-0757(受付時間:午前 方が亡くなるまで(明け渡しはその時点で有効 9時〜午後5時(祝祭日を除く) ) な転貸契約の終了時になります) 、定期型は利用 *1 厚生労働省「平成24年度簡易生命表の概況」 者(貸主)が当初に設定する期限まで(この場 *2 首都圏、中京、京阪神以外の都市(一般社団法人移住・住みか え支援機構実績値より) 。 合は中途解約に制約が生じます) 。ただし、対象 *3 https://www.jt-i.jp/lease/system/system.html#02 住宅が老朽化して賃貸の用に供することが難し *4 建築基準法またはこれに基づく法令や条例に違反して建築・改装 した建築物のこと。 くなった場合はその時点で終了します。 *5 建築したときには建築基準法などの法律によって適合していた のに、その後の法律や条令の改正、新しい都市計画の施行など によって違法となってしまった建築物のこと。 ●転貸:借り上げた住宅は、原則として3年の 2014.4 国民 生 活 09
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