S-001 S-002 右肩関節周囲炎患者への認知神経リハビリテーショ ンの一

S-001
S-002
右肩関節周囲炎患者への認知神経リハビリテーショ
ンの一症例報告
肩関節周囲炎の一例:腕立て伏せ200回に向けて
の理学療法
鶴埜益巳
高間省吾 1)・加藤邦大 1)・石田佳子 1)・郷田 悠 1)・
鈴木 勝 1)・山崎博範 2)・藤田耕司 2)
おおさか循環器内科生活習慣病クリニック
医療法人社団誠馨会 千葉メディカルセンター リハビリ
テーション部
2)
医療法人社団誠馨会 千葉メディカルセンター 整形外科
1)
【目的】
認知神経リハビリテーションは、脳の可塑性を基に適正な
行為の運動学習を促すアプローチである。整形外科疾患で
は、炎症性疼痛による反射的な防御性収縮、手術による筋の
滑走不全や骨アライメントの術前との変化など、損傷前とは
異なる中枢神経系での情報処理が要求され、代償運動を学習
する対象者が多い。その多くは代償運動の自覚に乏しく、行
為やその予測に慢性疼痛を内在することとなるため、現状の
身体を認識する促しが必要となる。今回、右肩関節周囲炎の
一症例における介入効果について報告する。
【対象者と方法】
対象者は40歳代の女性、上記の診断で2012年5月24日から
11月16日まで、週1回の頻度で3単位のアプローチを実施し
た。認知神経リハビリテーションの手順に従って観察、分析
を行い、計画的な介入を行った。当初、行為の三人称観察か
ら肩甲帯、肩、肘、手関節、前腕に疼痛と防御性収縮、関節
の硬さ、またそれらを回避する代償運動が、特異的な運動の
異常要素として認められた。その自覚に関する一人称観察で
は肩、肘関節での空間認識で特徴的な乖離を認め、さらに行
為の予測にも疼痛が内在する状況であった。他に予備的問
診、画像検査などから得られた情報を含めて改善の予測要素
を整理し、最終的な改善予測を6ヶ月間で背部へリーチする
行為と設定した。また1ヶ月おきに中間的な改善予測を設定
して、必要な認知課題を組織し実施した。本発表における説
明と同意は紙面にて実施した。
【結果と考察】
6ヶ月間で最終的な改善予測を達成し、本症例にさらなる
行為の運動学習に関する希望を認めなかったために介入終了
となった。
肩関節周囲炎に対する古典的なリハビリテーションの明確
な効果に関する先行研究に乏しく、本症例報告の妥当性を文
献的に検証するのは難しい。しかし、介入当初に計画された
期間や行為の運動学習を実現したため、ある一定の介入精度
に関する妥当性は検証されたと考える。
【はじめに】
今回腕立て伏せ動作時に右肩痛を呈した肩関節周囲炎症例
を担当したので報告する。発表に当たり症例の同意・承諾を
得て報告するものである。
【症例紹介】
28歳男性。職業は消防官。某年5月頃からベンチプレス中
に右肩痛出現。以後、徐々に疼痛が悪化したため6月当院受
診。理学療法処方される。主訴は腕立て伏せ動作中の右肩痛
と肘伸展時の“押しにくさ”であり、1ヶ月後の試験合格の
ために200回可能になることが希望であった。
【理学療法評価及び治療】
症例は開始当初、腕立て伏せの回数は疼痛のため30回から
40回に制限されていた。初期評価では疼痛を考慮し、腕立て
伏せに近似した動作を背臥位にて評価した。肘関節屈曲から
伸展への切り替え時に肩甲骨を徒手的に外転位に保持すると
疼痛が軽減し、“押しやすい”との愁訴の軽減を認めた。前
鋸筋の徒手筋力検査では肩甲骨外転位
(短縮域)
で弱化
(3/5)、
大胸筋の筋長検査では鎖骨部、胸骨部線維共に延長を認め
た。胸骨下角は右側が開大し体幹は左側屈右回旋傾向にあ
り、これは症例が職業柄、梯子を右肩に担ぐ習慣的な動作が
影響していることが示唆された。治療は肩甲骨外転筋群の筋
機能改善を目的に実施した。肩甲骨アライメント修正のため
にテーピングを貼り、肩甲骨外転筋の強化訓練は、肩甲骨外
転最終域に近い短縮域で求心性収縮だけでなく遠心性収縮も
意識させて実施した。
【結果】
7月中旬、前鋸筋筋力は短縮域で4/5と改善を認め、試験当
日は腕立て伏せ190回可能であった。
【考察】
本症例は肘関節屈曲から伸展への切り替え時に肩甲骨が過
内転位となり外転・後傾方向への円滑な運動が阻害されてい
た。原因として仕事による習慣的な動作及び肩甲骨外転筋群
の延長が考えられた。強化訓練は延長を考慮し、短縮域に運
動範囲を限定して実施することが有効であったと考える。
-1-
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着眼点の違いにより、改善が異なった非外傷性肩関
節不安定症の2症例
~機能的関節窩の重要性について~
重度Guillain-Barre症候群を呈した患者に対して
の装具療法と歩行予後について
―単一症例による検討―
遊佐 隆
森本雄太・酒井有佳里・三浦 創・加辺憲人
医療法人社団青嶺会松戸整形外科病院
船橋市立リハビリテーション病院
【目的】
非外傷性肩関節不安定症は、病態が変化し極度な不安定性
を呈することがある。保存的治療を第一選択として、腱板訓
練により肩甲上腕関節の安定化を図ることが重要と報告され
ている。今回は、持続性肩関節脱臼例に対して腱板訓練によ
る治療と随意性肩関節脱臼例に対して肩甲骨の位置異常の改
善を優先した治療を提示し、その着眼点と治療手順の重要性
について報告する。
【症例1 持続性肩関節亜脱臼の難渋例】
20歳女性、右肩持続性脱臼に対して大胸筋移行術を実施
し、順調な回復を呈していた。しかし、反対側である左肩の
痛みと下方不安定性を惹起し、徐々に持続性亜脱臼に移行し
た。理学療法開始時、左肩は常に下方に亜脱臼しており、前
方挙上5°、日本肩関節学会不安定症評価法11点であった。下
垂位での安定化を図るために様々な関節肢位での腱板訓練を
実施したが、目的とした改善は得られず難渋した。
【症例2 随意性肩関節脱臼の良好例】
13歳男子、右肩の肩こり症状が強くなり、轢音と共に随意
に前下方へ脱臼する症状を呈し来院。理学療法開始時、肩甲
骨を下制する際などに前下方に脱臼し、前方挙上80°
、日本
肩関節学会不安定症評価法16点であった。肩甲骨の機能的関
節窩を整え、下垂位での関節窩と上腕骨頭の位置関係の改善
を優先した。スポーツ復帰も含め目的とした改善が得られ
た。
【倫理的配慮】
発表に際し、対象者とその家族に目的・方法・自己決定権
の尊重・プライバシーの保護について説明し、本人と家族か
ら同意を得た。
【考察】
症例1は、下方不安定性が強く出現しており、腱板訓練に
よって肩甲上腕関節の安定性を得ようとした。症例2では、
上肢下垂位での肩甲骨の位置異常を改善することから開始し
た。安定化を図る手段として腱板訓練は有効であるが、翼状
肩甲などにより関節窩と上腕骨頭が不安定な位置関係にある
場合、中枢となる肩甲胸郭関節に着眼し機能的関節窩を整え
ることが重要と考える。
【はじめに】
Guillain-Barre症候群(以下GBS)を呈した患者は、多く
の場合半年以内で発症前と同等の能力を獲得できるが、中に
は半年経過しても実用的な歩行能力を獲得できない症例が存
在する。後者のような患者に対する、歩行能力の回復を目的
とした理学療法は確立されていない。今回、回復期リハビリ
テーション病棟にて重度GBS患者に対し、長下肢装具(以下
KAFO)を使用した歩行練習を行った結果、早期に実用的な
歩行能力を獲得することができた。GBS患者に対する装具療
法の有用性と歩行予後について若干の知見を得たので報告す
る。
【対象】
82歳女性。38病日に当院入院。重度四肢の運動麻痺あり、
粗大筋力は体幹2、股関節、膝関節周囲2、足関節1、その他
は筋収縮を認めず。ADLはすべて介助が必要であった。
【倫理的配慮】
発表に際し、対象者に目的・方法・自己決定権の尊重・プ
ライバシーの保護について説明を行い書面にて同意を得た。
また、当院の倫理委員会にて了承を得た。
【装具の設定・経過】
66病日でKAFOを両側作製。PRIM WALK股継手、SPEX
膝継手、アメリカ式double Klenzak足継手を使用。83病日で
両側AFOに移行したが過度な膝折れあり、病棟ではKAFO
と歩行器を使用して歩行開始となる。182病日にかけて徐々
に膝折れなく家族介助での歩行が可能となる。粗大筋力は体
幹3、下肢は足関節以外で4まで改善しADLも入浴以外自立
となったため、自宅退院となる。195病日より外来リハ開始
しており、現在では自宅内移動自立、訓練ではフリーハンド
歩行が可能となっている。
【考察】
GBS患者に対し過度な運動負荷は、軸索変性した末梢神経
の炎症性変化を惹起する可能性がある。本症例では、KAFO
での段階的な負荷量調整を行うことで、入院期間中に炎症反
応を認めることがなかった。この事実から、歩行の予後が悪
いとされている重度GBS患者に対し、比較的早期からKAFO
を装着しての歩行練習が、疾患の回復を妨げることなく歩行
能力向上に有効である可能性が示唆された。
-2-
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当院のTKA術後の一症例
~術後5日退院プロトコルを用いて~
足関節外側靭帯損傷に対する治療方法の違いにより,
経過が異なった2症例の比較検討
宮内秀徳・澤野靖之・石垣直輝・草木雄二
豊岡 毅・高田彰人・大森康高・中村恵太・杉浦史郎・
西川 悟
船橋整形外科病院 理学診療部
西川整形外科
【はじめに】
今回、当院の超早期退院プロトコルの紹介と、片側人工膝
関節全置換術(以下:TKA)を施行した一症例の術前から
入院中、外来通院2ヶ月間の経過を報告する。
【症例紹介】
70歳代女性、身長:148㎝、体重:63㎏、BMI:28.76、診
断名:右変形性膝関節症。現病歴として数年前から右膝関節
痛を呈し、2014年1月、症状悪化により当院を受診し、右変
形性膝関節症と診断。同年4月に右TKA施行となる。術前X
線でのグレードはkellgren-lawrenceの分類でグレード4であ
った。
【プロトコル】
当院の片側TKA術後プロトコルは、術前日に術前評価実
施。術後1日目から理学療法開始となり、歩行器使用にて全
荷重での歩行、関節可動域練習開始。術後2日目からT字杖
歩行と状態にあわせ階段昇降が許可となる。術後3日から4日
目では屋外歩行、床上動作などの日常生活動作(以下:ADL)
の獲得。術後5日目で自宅退院となる。
【理学療法評価と治療プログラム】
術前評価では患側膝関節動作時痛NRS10/10、可動域が-20°
/
140°(伸展/屈曲)、10m歩行速度12.75秒、WOMACスコア
56点であった。術後1日目ではNRS10/10、可動域が-10°/
115°、10m歩行速度30.27秒であった。1日目より疼痛を抑制
した可動域練習を開始。また、歩行を想定したベッド上での
運動を実施し、早期から荷重を促すことが重要であると考え
る。離床後からは歩行周期を分節に分けた下肢筋群の促通を
行い、歩行効率の向上を図ったプログラムを実施した。退院
時にはNRS5/10、可動域が0°/130°、10m歩行速度13.92秒で
あり、屋外歩行、床上動作などのADLを獲得し、当院プロト
コルに沿った経過で退院となった。退院後の術後2ヶ月では
NRS3/10、可動域が-5°
/125°
、10m歩行速度13.5秒、WOMAC
スコア43点であり、術前以上の関節機能が獲得されている。
【まとめ】
片側TKAの術後症例を術前から術後2ヶ月まで担当した。
入院期間中は当院プロトコルに沿った経過であり、退院後2
ヶ月で術前以上の関節機能獲得となった。
【目的】
足関節外側靭帯損傷の予後に背屈可動域制限が影響すると
報告されている.このような症例に対する保存治療の報告は
少ないが,臨床において脛腓関節のテーピング治療により背
屈可動域が早期に改善する症例を多く経験する.今回はその
代表例として,受傷により背屈可動域制限を呈した後,テー
ピング治療の有無により経過が異なった足関節外側靭帯損傷
の2症例を比較検討したので報告する.
【症例1 経過良好例】
11歳女性 バスケットボールにて相手の足に乗って受傷.
今回が初回受傷であった.MRIにて前距腓靭帯損傷を認めた
が,骨損傷は無かった.受傷直後より歩行時痛が強く,松葉
杖にて受傷より17日間免荷歩行を行った.この間に背屈可動
域制限を認めたため,脛腓関節にテーピングを実施した.受
傷より17日後,全可動域獲得.受傷より38日後には,症状な
く運動も全てできるため終了となった.
【症例2 復帰に長期間を要した症例】
14歳女性 バレーボールにて相手の足に乗って受傷.過去
に捻挫の既往があり,今回が2度目の受傷であった.MRIに
て前距腓靭帯損傷を認めたが,骨損傷は無かった.受傷直後
より歩行時痛が強く,松葉杖にて受傷より16日間免荷歩行を
行った.背屈可動域制限を認めたが,徒手療法と物理療法,
運動療法にて経過観察.受傷より44日後,全可動域獲得.受
傷より72日後,症状なく運動も全てできるため終了となっ
た.
【考察】
症例1と2は受傷機転や画像上の損傷程度,受傷時の理学所
見も同程度である.しかし,最終的な理学療法終了時期には
34日もの差があった.この要因として,症例1は背屈可動域
制限に対し,早期に脛腓関節のテーピング治療を行うこと
で,症例2よりも早期に全可動域を獲得することができてい
る.一方,症例2はこのテーピング治療を行っていないため,
全可動域の獲得が遅れてしまった可能性がある.この違いが
最終的に理学療法終了時期にも影響したと考えられる.
-3-
O-001
O-002
投球障害を経験したことがない少年野球選手の身体
特性 ~ロジスティック回帰分析を用いて~
野手ステップスロー時肘関節痛を有する選手に対す
る介入の一考察―支持脚接地時の荷重制御に着目し
て―
原 素木 1)・岡田匡史 1)・亀山顕太郎 1)・石井壮郎 2)
海津陽一 1,2)・宮田一弘 1)・山路雄彦 2)
松戸整形外科病院 リハビリテーションセンター
2)
松戸整形外科病院MD
1)
日高病院回復期リハビリ室
群馬大学大学院保健学研究科
1)
2)
key words
投球障害・検診・野球
key words
【目的】
本研究の目的は、これまでに投球障害を経験したことがな
い少年野球選手の身体特性を明らかにすることである。
【方法】
野球検診に参加した小・中学生50名を対象とした。参加者
には、ヘルシンキ宣言に基づき、研究の趣旨を説明し、同意
を得た。検診では問診・理学検査・両肘のエコー検査を行っ
た。問診では、投球側の肩または肘に過去から現在にかけて
痛みを経験したかどうかを聴取し、両部位に全く痛みを経験
しなかった選手を「健常群」、両部位のいずれかにでも痛み
を経験した選手を既往、現病問わず「障害群」と定義した。
理学所見は、両肘の圧痛・両肘の可動域・片脚立位バランス
テスト・広背筋テスト・腕振りテスト・挙上位外旋保持機能・
肩甲帯内転テスト・投球側踵殿距離・片手フロントブリッジ・
腕立て伏せ・両股関節屈曲角度の11項目を調査した。検診所
見をデータベース化し、ロジスティック回帰分析を行って、
健常群に有意に関連する身体特性を抽出した(有意水準:p
<0.05)。
【結果】
健常群は23名(46%)、障害群は27名(54%)で、健常群
に関連性を認めた項目は以下の4項目であった。1.投球側・
肩甲帯内転50度以上(オッズ比20.2)2.投球側・踵殿距離
10cm以下(オッズ比11.0)3.片手フロントブリッジが安定
していること(オッズ比11.1)4.非投球側の股関節屈曲角
度120度以上(オッズ比23.7)
【考察】
過去の報告では、野球肩や野球肘の障害群に関する報告が
多いが、現場では健常な状態を維持するための身体特性に関
する情報が必要である。そこで本研究では、これまでに投球
側の肩または肘に痛みを経験してこなかった健常群に着目
し、健常群と関連性のある身体特性を抽出し、その重要度を
オッズ比で表現した。上記の条件を満たす数が多いほど健常
である可能性が高まることを意味する。今後、こうした特性
の妥当性を評価するために、prospective studyも行ってい
く予定である。
投球障害肘・野手ステップスロー・運動エネ
ルギー
【はじめに】
野手ステップスロー(以下STEP)時,肘関節痛を有する
症例に対し,投球側下肢(支持脚)接地時の支持基底面(base
of support:BOS)と上半身重心位置(upper center of gravity:U-COG) の 距 離(BOS, uCOG-Distance: 以 下BC-D)
に着眼し,介入を行うことで改善が得られたので報告する.
【方法】
症例は高校野球選手,外野手である.初期STEPでは肘関
節後方に疼痛を訴えた.動作観察では,支持脚接地後,投球
方向へ早期重心移動,体幹回旋し,肘の突出しを認めた.そ
れに対し,接地時のBC-Dに着眼し介入を行った.介入はク
ロスステップ接地後の静止,静止後支持脚上でトップポジシ
ョンを取ることとした.(1)初期STEP,
(2)初回介入直後
STEP,
(3)2週介入後の最終STEPの3時点におけるSTEPを
側面から撮影した(EXILIM fx-10)
.解析は支持脚接地時の
BC-Dを動画解析ソフトImage Jを用いて算出した(BOS中点
よりuCOGが投球方向にある場合を正,非投球方向にある場
合を負)
.また,3時点におけるSTEPの動作観察,投球時痛
の有無を確認した.なお,本研究にあたり対象者には研究の
趣旨を説明し,書面にて同意署名を得た.
【結果】
3時点のBC-D値は,
(1)1.46cm,
(2)-24.7cm,
(3)-11.24
cmであり,
(2)
,
(3)はBOSに対しU-COGが後方に位置し
ていた.
(2)
,
(3)は,接地後の早期重心移動,早期体幹回
旋が消失し,肘の突出しではなく、上部体幹回旋、肩関節に
よるボール加速を認めた.
(2)
(3)は投球時痛を認めなかっ
た.
【考察】
STEPは支持脚を接地する際,投球方向への運動エネルギ
ーを有する.そのため,BC-Dが負となることで,運動エネ
ルギーにより生じる投球方向への回転トルクと,uCOGへの
重力により生じる非投球方向への回転トルクとが釣り合う.
その結果,早期重心移動,体幹回旋が消失し,肘関節痛消失
に至ったと考える.
【まとめ】
STEPにおけるBC-Dの重要性が示唆された.
-4-
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O-004
学童期野球選手の内側型野球肘に対する予防方法の検討
―第1報 理学所見とエコー検査による横断的実態
調査―
高校野球選手の股関節内旋可動域と大腿骨前捻角と
の関連性~Craig testを用いて~
奥村克成 1)・高橋 真 2)・井所和康 1)・三上紘史 1)・
仲島佑紀 1)
大出拓弥 ・古沢俊祐 ・橋本佳宏 ・橋川拓史 ・
木島丈博 2)・寺門 淳 3)・篠原裕治 4)
1)
1)
1)
1)
船橋整形外科 市川クリニック
牛久愛和総合病院 リハビリテーション科
1)
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所
2)
千葉大学大学院医学研究院 整形外科学 MD
3)
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所 MD・PhD
4)
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所 MD
2)
key words
key words
1)
内側型野球肘・学童期野球選手・障害予防
【はじめに】
野球肘は成長期に多く、肘内側の障害がほとんどを占めて
いるが、その発生要因や予防方法が確立されているわけでは
ない。そこで本研究では、内側型野球肘の発生要因を検討し、
予防の一助とすることを目的とした。
【方法】
C市内の学童期野球選手44名に対し、医師による超音波エ
コー検査(以下エコー)、アンケート調査、理学所見測定を
行った。エコーで描出された内側上顆の画像を、「不整有り」
と「不整無し」の2つに分類した。アンケート調査から、投
球時に肘内側痛の経験がある選手を「疼痛群」、ない選手を
「疼痛無し群」とした。理学所見は上下肢の可動域測定と筋
力測定を行った。肩関節可動域では、肩90°外転位での内旋
(以下IR2)と外旋、肩甲骨固定下での外転と水平屈曲を測
定した。
エコー不整の有無、疼痛の有無における各群間での理学所
見比較をMann-WhitneyのU検定で、疼痛の有無による内側
上顆不整発生の割合をχ²独立性検定を用いて検討した。
また、ヘルシンキ宣言に基づき対象者に説明と同意を得た
上で行った。
【結果】
疼痛群は44名中12名(27.7%)であった。不整あり群は44
名中22名(50.0%)であった。疼痛群の内側上顆不整の発生
率は12名中10名(83.3%)で疼痛無し群の32名中12名(37.5%)
と比較し有意に高かった。疼痛群は疼痛無し群と比較しIR2
が有意に低かった。また、不整有り群は不整無し群と比較し
IR2が有意に低かった。その他理学所見に有意差はなかった。
【考察】
IR2は疼痛の有無、内側上顆不整の有無どちらの群間比較
においても有意差が認められた。IR2の減少は、疼痛の発生
や過度な外反ストレスとの関連が推察され、内側型野球肘に
関与している可能性が示唆された。しかしこの現象が内側型
野球肘の原因か結果かは不明であるため、今後縦断的な調査
を基に発生要因を検討していく必要があると考える。
高校野球・股関節内旋可動域・Craig test
【目的】
我々は先行研究において大腿骨前捻角の評価であるCraig
testの測定値(以下、Craig値)と股関節内旋可動域(以下、内
旋)に相関関係があることを報告した。内旋低下は様々なス
ポーツ障害の原因となることを臨床上経験する。内旋低下と
投球障害との関連性は諸家により報告されているが、Craig
値との関連性を調査したものはみられない。そこで、本研究
では高校野球選手のCraig値と股関節屈曲位での内旋可動域
(以下、屈曲・内旋)との関連性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は股関節に既往のない高校野球選手23名46肢(全国大
会出場経験あり)とした。屈曲・内旋は躯幹座位、股関節屈
曲90°、膝関節屈曲90°にて自動の股関節内旋角度を測定し
た。Craig testの測定方法は腹臥位、股関節中間位、膝関節
屈曲90°にて大転子が最外側に触れた位置で下腿を固定し、
股関節回旋角度を計測した。検者はCraig test実施者と角度
測定者各2名とした。角度測定には傾斜角度計を使用し1°単
位で記録した。統計学的分析は、Spearmanの相関係数を用
い、有意水準は1%とした。本研究は当院倫理委員会の承認
を得て施行した。
【結果】
平均値はCraig値13.4°
、屈曲・内旋26.6°であり、Craig値
と屈曲・内旋との相関関係はr=0.759(p<0.01)で正の相関
関係を認めた。
【考察】
今回、Craig値および屈曲・内旋において野球選手特有の投
球側、非投球側での明確な差は認められなかったが、Craig
値と屈曲・内旋とは正の相関関係を示した。このことから、
内旋には大腿骨の骨形態が関与し、前捻角が過前捻すなわち
Craig値が高いほど内旋も高値を示す。野球選手においても
Craig値と内旋とは相関関係があることより、内旋に対する
アプローチは軟部組織のみならず前捻角を考慮する必要があ
ると考察された。
-5-
O-005
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高校生野球部員に対する集団的理学療法の取り組み
小学生の投球動作の運動能力と発達的評価の関連
石田健太・木下 仁
粕山達也 1)・堀内智美 2)・笹本 仁 2)
医療法人沖縄徳洲会 千葉徳洲会病院
1)
key words
key words
健康科学大学 健康科学部 理学療法学科
富士河口湖町立河口小学校
2)
高校野球・集団的理学療法・アンケート
【はじめに】
現在千葉県内にある公立高校、(以下S高)野球部で、怪
我の予防、怪我をした選手のリハビリ、また調子の維持、パ
フォーマンスの向上を目的に集団的な理学療法の介入を週一
回実施している。発表ではその取り組みと、障害に関しての
アンケート調査を実施した結果を報告する。
【倫理的配慮】
本発表に際しては、S高の学校長、監督、部員に対し発表
の趣旨を書面にて十分に説明し、同意を得た。
【対象】
S高野球部員36名(1年生10人、2年17人、3年生9人)
【方法】
身体のどこかの疼痛の有無を、はい、いいえの2項目と、
痛む場所がどこであるかを肩、肘、腰、膝、足部の5項目で
実施した。部位に関しては複数選択を可能とした。
【実施日】
平成26年4月30日
【結果】
・有病率:50%(18人/36人)3年5人、2年7人1年6人・疼
痛部位:肩6人、肘5人、腰3人、膝7人、足部2人
【取り組みと考察】
野球において、障害の生じている原因は、運動連鎖の破綻
から生じていることが多く、全身を評価する必要があると言
われている。そのため、集団で介入をする際は、全身の機能
を簡潔に評価し、その結果に基づいて、集団、個別のメニュ
ーを作成する必要がある。今回は、集団的評価として、上肢、
体幹下肢柔軟性、筋力・バランスをそれぞれ5項目ずつのチ
ェック項目を作成し、選手に実施させた。項目は検者を必要
とせず、できれば○、できなければ×という簡単な方法とし、
選手各自でテストを実施した。その結果をもとに、×項目に
ついては、トレーニング方法を説明し、練習前のアップの時
点で行うよう指導した。スポーツの現場での理学療法士の役
割は主に怪我をした選手の個別のリハビリである。しかし、
理学療法士として、身体機能のチェックを集団に対して簡潔
に行い、結果に基づいたトレーニングを実施することでチー
ム全体の障害予防、パフォーマンスの向上に結び付けるので
はないかと考える。
投球障害・成長期・運動発達
【目的】
近年,小学校における運動器検診が各地で実施され,児童・
生徒の運動器機能障害やスポーツ障害を早期発見,治療を行
う試みが盛んになっている.運動発達の段階を適切に評価
し、運動能力向上や障害予防につなげることが重要である。
本研究の目的は,小学生における投球動作から運動能力と発
達的評価の関連を調査し,成長期の発達的特徴について考察
することである.
【方法】
対象は,富士河口湖町の小学生1~3年生49名(平均年齢:
7.0±0.9歳,男子22名,女子27名)であった.測定方法は,
新体力テストで実施されるソフトボール投げを動画撮影し,
量的および質的評価を行った.量的評価は運動能力としてソ
フトボール投げの測定距離を使用し,質的評価には文部科学
省の実践調査研究で使用された5段階の運動発達的評価を使
用した(段階5が最も成熟した動作)
.動画撮影はビデオカメ
ラ(GoPro Hero社製,GoPro Hero3)を使用し,サンプリ
ング周波数120fpsにて行った.測定距離と発達的評価の関連
にはSpearmanの順位相関係数を使用した.本研究は健康科
学大学倫理委員会の承認を受けて行われた.
【結果】
発達段階の分布は,段階1はおらず,段階2が3名(6.1%:
男2,名女1名),段階3が22名(44.9%:男6,名女16名)
,段
階4が19名(38.8%:男9名,女10名)
,段階5が5名(10.2:男
5名)であった.測定距離と発達的評価の間には有意な相関
が認められた(r=0.74,p<0.05)
.
【考察】
1980~90年代の先行研究によると,投球動作の発達は男子
では平均5歳頃には成熟したパターンを示すと報告されてい
るが,本研究の結果では2割程度の男子のみ成熟している結
果であった.投球動作は環境や経験等の後天的の要素が強く
影響する動作とされており,現代においては投球は未熟な者
の割合が多く、運動能力に影響していることが明らかとなっ
た.
-6-
O-007
O-008
当院回復期病棟入院患者における脚伸展トルクとバ
ランスの関連性―後期高齢者を対象として―
立ち上がり動作離殿時の着眼点~膝痛の有無が関節
角度・筋活動・足圧分布に及ぼす影響~
木下 亮 1)・櫻井瑞紀 1)・直井俊祐 2)
鈴木昌道 1)・佐藤詩野 1)・山口 茜 1)・橋川拓史 1)・
寺門 淳 2)
医療法人社団健育会 竹川病院 リハビリテーション部
東京医科大学病院 リハビリテーションセンター
1)
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所
北千葉整形外科 脊椎・スポ-ツ医化学研究所PhD/MD
2)
1)
2)
key words
StrengthErgo・後期高齢者・バランス
key words
【目的】
厚生労働省によると,転倒の発生率は前期高齢者と比べて
後期高齢者で高く,転倒とバランスの関連を示す報告は多
い.当院ではStrengthErgo(以下SE)を使用しており,立
位での評価が困難な方にも安全に使用でき,多くの研究発表
があるが,後期高齢者を対象とした研究は少ない.そこで,
後期高齢者を対象としたSEによる脚伸展トルクとバランス
との関連性を明らかにし,今後の基礎的データとして用いる
事を目的とした.
【対象】
平成24年4月から平成25年9月まで当院回復期病棟に入院し
ていた大腿骨頚部・転子部骨折患者の女性43名.平均年齢
84.0±6.0歳.歩行レベルは補助具の有無を問わず屋内歩行が
自立.認知機能は本研究の主旨を理解できるものとした.ま
た本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った.
【方法】
脚伸展トルクの測定にはSEを使用.等速性にて20回転/分
で5回の連続駆動を行い,左右のピークトルク(以下PT),PT
体重比を測定.バランスの指標は,Functional Balance Scale
(以下FBS)
・Timed Up and Go・10m最速歩行時間を測定し,
測定時期は退院1週間前とした.解析方法は,各項目の平均
値と標準偏差を算出.患側・健側のPT体重比の2群間と頸部・
転子部骨折の2群間の差を単相関で比較.次に従属変数をPT
体重比,独立変数を各バランス項目としPearsonの相関係数
を算出,R≧0.5を相関あり,有意水準は5%未満とした.
【結果】
PT体重比は患側0.54±0.22[Nm],健側0.61±0.33[Nm]
で有意差を認めた.頸部・転子部骨折間の有意差は認められ
なかった.患側のPT体重比とFBSにて0.5以上の有意な正の
相関が認められた.
【考察】
SEによる脚伸展トルクは,股・膝関節伸展筋群,足関節底
屈筋群が関与しているとされている.FBSは他のバランス項
目と比較し補助具を使用せずに行う事から,補助具の影響が
なく脚伸展トルクが反映された事で,FBSとの関連が高く認
められたと考える.今後,前期高齢者との比較や歩行自立度
判定の一助に出来ればと考える.
変形性膝関節症・離殿・疼痛
【目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)患者では,立ち上がり動作
で疼痛を訴える事が多い。そこで,立ち上がり動作離殿時に
着眼し、疼痛を誘発する機能障害の因子を多面的に検討し
た。
【方法】
対象は膝OA患者29名(男性6名,女性23名)とし,測定項
目は立ち上がり動作における関節角度,筋活動,足圧中心(以
下CFP)とした。関節角度は画像解析ソフト(Image-J)にて,
離殿時の体幹・膝関節・足関節の屈曲角度,各関節屈曲角度
の総和を測定した。筋活動はNoraxon社製Myosystem1400に
て,内側広筋(以下VM)・内転筋・半腱様筋・前脛骨筋
(以下
TA)を測定した。筋活動開始から終了に対する筋活動開始
から離殿時の比率(以下活動比率)を測定した。CFPはMedicaputeurs社製Win-podにて,足長に対するCFP最大後方偏
位から離殿時までの距離の比率を測定した。統計はロジステ
ィック回帰分析にて,目的変数に疼痛の有無,説明変数にそ
の他の項目とした。有意水準を1%未満とした。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に同意を得た上で行っ
た。
【結果】
立ち上がり動作にて疼痛を有するものは20名,疼痛を有さ
ないものは9名であった。求められた回帰式はp=7.66-0.21*足
関節背屈角度+0.10*VM活動比率-0.08*TA活動比率であった。
回帰式の判別的中率は89.66%であった。
【考察】
立ち上がり動作離殿時に足関節背屈角度,TA活動比率が
低値,VM活動比率が高値であることが疼痛に関連すると示
された。その他の項目は抽出されなかった。このことから,
立ち上がり動作離殿時において足関節戦略を活用できず,早
期に膝関節戦略を用いることで,VM活動比率が高値化し,
重心の上方化を行ったと考える。これにより,膝関節圧縮ス
トレスを増大させた立ち上がり動作が疼痛に関連した因子と
なったと考える。よって,膝OA患者のSTS動作に介入する
際,膝関節だけでなく,離殿時における足関節背屈機能の向
上が疼痛の鎮静化には重要になると考える。
-7-
O-009
O-010
アキレス腱断裂縫合術後患者における歩行の特徴
~足底圧中心軌跡による分析~
健常成人によるFlexion Lag肢位の筋活動について
金子貴俊・宮本 梓・岩崎 翼・大町 聡・鈴木美幸・
村山俊樹
内藤裕子 1)・細川智也 2)・丹治信志 1)・斉藤 翔 1)
医療法人社団 紺整会 船橋整形外科病院 理学診療部
医療法人社団 紺整会 船橋整形外科病院 スポーツリハ
ビリテーション部
特定医療法人慶友会 慶友整形外科病院 リハビリテーショ
ン科
key words
key words
1)
2)
アキレス腱断裂・歩行の特徴・COP
【目的】
アキレス腱断裂縫合術後患者の歩行の特徴について,先行
研究では前足部への荷重減少や踵接地時間が延長していると
の報告は散見する.しかし,アキレス腱断裂縫合術後患者の
足底圧中心軌跡(center of foot pressure;以下COP)につ
いての報告は少ない.そこで本研究の目的は,アキレス腱断
裂縫合術後患者において術後2ヶ月及び4ヶ月時における
COPを測定し,歩行の特徴を明らかにすることである.
【方法】
対象は2012年4月から2013年12月までに当院にてアキレス
腱断裂縫合術を受け,術後2ヶ月及び4ヶ月時にCOPを計測
した14症例(男性7例,女性7例,平均年齢43.4±12.1歳,平
均身長165.0±6.7cm,平均体重64.1±12.6kg)である.
計測に使用する機器はMedicapteurs社製足底圧計測機器
Winpodを用いた.計測方法は裸足での自由歩行における健
側及び患側のCOPを記録した.健側及び患側に対してそれ
ぞれ5回施行し平均値を抽出した.
Winpod上にて踵骨内側縁から母趾内側縁を直線で結び,
その内側縁の中点から抽出されたCOPとの交点までの距離
を算出した.また,その距離をCOP中央値とした.
統計学的処理は術後2ヶ月及び4ヶ月時におけるCOP中央
値の健患側の差,健側及び患側におけるCOP中央値の術後2
ヶ月時と4ヶ月時の差を,それぞれ対応のあるt検定を用い,
有意水準を5%とした.
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,対象者には十分説明し同意を得
た.
【結果】
術後2ヶ月時におけるCOP中央値は健側と比べ患側におい
て有意に低値を示した(p<0.05).
【考察】
当院における術後リハビリテーションプロトコルは装具を
用いることで早期全荷重を許可し,概ね術後5週目以降に装
具除去している.術後2ヶ月時におけるCOP中央値は健側と
比べ患側において有意に低値を示していることから,アキレ
ス腱断裂縫合術後患者の歩行の特徴として,患側のCOPは
健側に比べ内側に偏位していることが示唆された.
Flexion Lag・膝屈曲筋・筋電図
【目的】
膝屈筋腱を用いた前十字靭帯再建術(以下、ACLR)後の
膝深屈曲位における筋力低下が報告がされている。膝深屈曲
位における筋力低下の指標として、Flexion Lagが臨床で用
いられている。しかし、測定肢位における筋電図学的な検討
は報告されていない。本研究ではFlexion Lag測定肢位(以
下、FL肢位)における膝屈筋群の筋活動を明らかにするこ
とを目的とした。
【方法】
本研究の趣旨を説明し、同意の得られた膝関節に既往のな
い健常男性8名(平均年齢26±2.6歳)を対象とし、非利き側
下肢を測定肢とした。運動課題は中嶋らの方法に準じ、片足
立ちにて股関節中間位・足関節最大底屈位での膝自動屈曲と
し、膝関節角度90°
・120°
にて測定した。被験筋は半膜様筋(以
下、SM)
、大腿二頭筋(以下、BF)とし、表面筋電図計(Kisseicomtec社製)を用いた。計測は、角度が安定した後の5秒
間の筋活動を採用し、最大随意収縮時の筋活動にて正規化
(%MVC)した。解析項目は、
(1)各筋の膝屈曲90°
・120°で
の筋活動の比較、
(2)各角度でのSM・BFの筋活動の比較と
した。統計処理は、各々Wilcoxon符号順位検定を用いて、有
意水準は5%とした。
【結果】
FL肢位における筋活動は、90°に比べて120°での筋活動が
有意に高値を示した。
(p<0.01)また、各角度の筋活動は、膝
屈曲90°
・120°
ともにBFに比べてSMが有意に高値を示した(p
<0.01)
。
【考察】
FL肢位における筋活動は、90°に比べて120°で有意に高値
を示し、膝屈曲角度の増加に伴い筋出力が増大する結果とな
った。また、各角度においてBFに比べてSMが有意に高い結
果を示し、このことからFL肢位は、SMの筋活動を反映する
指標となる可能性がある。
【まとめ】
本研究において、健常成人のFL肢位による筋活動を調査
した.今後、ACLR後のFlexion Lagにおける筋活動につい
て検討したい。
-8-
O-011
O-012
変形性膝関節症におけるlateral thrust出現の関連
因子
血流制限運動は運動後における疲労度の回復が早い
運動様式である~高負荷運動や低負荷運動と比較し
て~
渡邉博史 1)・古賀良生 2)・大森 豪 3)・遠藤和男 3)・
蕪木武史 4)
坂井 匠 1)・高橋弥駒 2)・中村未希 2)・筒井弥寿子 2)・
渡辺真友子 2)・浅野綾子 2)・馬場 淳 2)・小林 健 2)・
山口卓哉 2)・荒井繁人 2)・森川紀宏 2)
三条総合病院 リハビリテーション科
二王子温泉病院
3)
新潟医療福祉大学
4)
新潟医療センター リハビリテーション科
1)
2)
key words
首都医校 理学療法学科
麻生リハビリ総合病院 リハビリテーション室
1)
2)
変形性膝関節症・lateral thrust・関連因子
key words
【目的】
内側型変形性膝関節症(膝OA)の特徴的な歩行として、
立脚初期に膝が外側方向へ「横ぶれ」を示すlateral thrust
(thrust)がある。このthrustが起こる要因を疫学調査から
検討したので報告する。
【対象】
2007年(07年)と2010年(10年)の新潟県松代地区住民膝
検診を両方とも受診した800名(67.9±11.7歳)を対象とした。
【方法】
検診内容は07年、10年とも同様で、問診や医師による視触
診・計測(円背、thrustの有無、関節可動域等15項目)
、体
組成及び筋力測定と立位膝関節前後X線撮影(X線)を実施
した。X線像から膝外側角(FTA)を求め、膝OA病期はK-L
分類で評価し、grade2以上を膝OAとした。そしてthrustの
判定結果から、3年間で陰性→陽性に変化した出現群(女性
83膝、男性83膝)、陰性→陰性で変化しなかった非出現群(女
性480膝、男性483膝)に分け、thrust出現の要因について07
年時の膝OA有無及び男女別に検討した。統計処理は出現・
非出現間を目的変数に、07年時の視触診と測定項目を説明変
数とし多変量解析を行い、有意水準は5%未満とした。本研
究は対象者に説明し同意を得て行った。
【結果】
有意差を認めた項目は、女性の非OAでは股関節内旋可動
域(オッズ比2.7)、OAではFTA(同5.8)、男性の非OAでは
円背(同4.1)とFTA(同2.1)、OAではFTA(同2.6)であり、
股関節内旋可動域が小さい、FTAが大きい、円背であるこ
とが、thrust出現に関与する結果であった。
【考察】
Thrustは膝OAの発症・進行要因であり、今回、thrust出
現に股関節可動域や円背の関連を認めたことより、膝OAの
理学療法では、膝機能を含む全身的な構築学的変化に対する
治療が重要と示唆された。
血流制限運動・疲労度・筋力向上
【背景】
血流制限運動は,四肢の基部をベルトによって適切に圧迫
し,血流を制限した状態で行う低負荷筋力トレーニングであ
る.血流制限運動は,短時間の低負荷運動であっても,血流
制限を行わない通常の運動と比較して筋力向上や筋肥大の効
果が効率よく得られることが知られている.本研究の目的
は,低負荷血流制限運動における運動終了後の疲労度の変化
を,血流制限を行わない高負荷運動や低負荷運動における運
動後の疲労度の変化と比較することによって,明らかにする
ことである.
【方法】
対象は健常成人12名とした.被験者は,座位にて右側手関
節掌背屈運動を低負荷運動,高負荷運動,低負荷血流制限運
動の3種類の運動様式で実施した.低負荷運動は血流制限を
行わない1回反復最大重量(one repetition maximum: 1RM)
の40%の運動,高負荷運動は血流制限を行わない1RMの80%
の運動,低負荷血流制限運動は血圧測定用カフで上腕基部を
100mmHgで加圧して,前腕の血流を制限した上で1RMの40
%の運動を行う設定とした.右上肢の疲労度は,numeric
rating scale(NRS)を用いて運動負荷前,運動負荷終了後
の5時点で評価した.
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,被験者に対して本研究の目的及
び方法を十分に説明し,同意を得た.
【結果】
運動負荷直後の疲労度は,低負荷運動と比較して,低負荷
血流制限運動と高負荷運動において高値を示した.運動負荷
終了直後より20分後までのNRSの経時的変化では,高負荷運
動と比較して,低負荷血流制限運動と低負荷運動は有意に低
値を示した(P<0.01)
.
【結語】
健常成人における低負荷血流制限運動は,運動後の疲労が
高負荷運動と比較して早く回復する運動様式であることが明
らかになった.
-9-
O-013
O-014
中高年女性における前十字靭帯再建術後の筋力回復
に影響を与える要因について
高校女子バレーボール選手における下肢障害に関連
のある危険因子 ~ロジスティック回帰分析を用い
て~
中村恵太・渡辺純子・大槻和美・豊岡 毅・杉浦史郎・
西川 悟
高橋佳佑・岡田匡史・亀山顕太郎
西川整形外科
key words
松戸整形外科病院 リハビリテーションセンター
中高年女性・WBI・予後予測
key words
【目的】
先行文献にて中高年女性における前十字靭帯(以下ACL)
再建術の予後については、様々な報告を散見する。実際に臨
床においても術後リハビリテーション(以下術後リハ)を進
めていく中で、筋力回復に難渋する症例を経験することがあ
る。そこで今回、筋力回復に影響を与える要因について調査
したので報告する。
【方法】
対象は、ハムストリングス腱によるACL再建術を施行し、
スポーツ復帰を目標に術後リハを1年以上行った中高年女性
14例(27~50歳:平均37.6歳)とし、診療録より振り返り調査
を行った。調査項目は、年齢、受傷してから手術までの日数、
半月板損傷の有無、複合靭帯損傷の有無、kellgren-lawrence
分類、再建4ヶ月後の可動域制限(以下4ヶ月ROM制限)の
有無、再建4ヶ月後の体重支持指数(以下4ヶ月WBI)、再建
1年後の患側WBIとした。統計は、再建1年後の患側WBIを
従属変数とし、ステップワイズ重回帰分析を行った。なおこ
の研究は、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。
【結果】
ステップワイズ重回帰分析の結果、4ヶ月ROM制限の有無、
4ヶ月WBIの健側値・患側値の3項目のみが採用された。回
帰式は、再建1年後の患側WBI=切片38.006+(4ヶ月ROM制限
の有無×-20.761)+(4ヶ月健側WBI×0.475)+(4ヶ月患側WBI
×0.337)となり、自由度調整R2は0.947であった。
【考察】
再建1年後の患側WBI回復には、4ヶ月時点でROM制限を
改善出来ているか、患側のみならず健側WBIもどれだけ回
復できているかが重要であった。このことから、4ヶ月とい
う比較的早期の段階でROMとWBIを評価することにより、1
年後の筋力回復の予測が可能となり、スポーツ復帰の指標の
1つとして有用なものになると考えられる。
【まとめ】
中高年女性におけるACL再建1年後の患側WBI回復には、
4ヶ月時点でROM制限を改善出来ているか、健側・患側とも
にWBIがどれだけ回復できているかが重要であった。
バレーボール・下肢障害・フィジカルチェッ
ク
【目的】
本研究の目的は、高校女子バレーボール選手を対象にフィ
ジカルチェックを実施した結果から、下肢障害に関連のある
項目を抽出し下肢障害の危険因子を特定することである。
【方法】
対象は、私立高校の女子バレーボール部員24名とした。フ
ィジカルチェックは問診と理学所見の検査を行った。理学所
見は 1. FFD(cm)、2. Hands-UP Squat Test、3. Knee to
Wall Test(cm)
、4. しゃがみ込みテスト、5. 前方荷重しゃ
がみ込みテスト、6. 片脚Squat Test、7. 踵殿部距離(cm)、
8. 体幹回旋可動域、9. 体幹回旋筋力テスト、10. 片脚立位保
持時の骨盤前後位、11. 自動下肢伸展挙上
(ASLR Test)、12.
片手フロントブリッジ、13. 関節弛緩性(東大式)有無の13
項目とした。また、問診にて現在パフォーマンスに影響しな
い程度の痛みも含め、その原因がバレーボールに起因する疼
痛を下肢に有する選手を下肢現病歴ありとした。統計学的処
理はSPSS 17.0 for windowsを使用し、問診項目とフィジカ
ルチェック項目を独立変数、下肢現病歴を従属変数としてロ
ジスティック回帰分析を行った。
【説明と同意】
被験者にはヘルシンキ宣言に基づき、説明と同意を得た上
で研究を行った。
【結果】
前方荷重しゃがみ込みテストが不可能である場合とポジシ
ョンがセンターであることが下肢現病歴と有意に関連があっ
た。オッズ比は前足部荷重しゃがみ込み不可能が17.4倍、ポ
ジションがセンターであることが23.1倍であった。
【考察】
しゃがみ込みテストと下肢現病歴に関連がなく、前方荷重
しゃがみ込みテストと下肢現病歴に関連が認められたことか
ら高校女子バレーボール選手に対するフィジカルチェックで
は前方荷重しゃがみ込みテストの方が有用であると言える。
今後は前方荷重しゃがみ込みテストの可否に関わる因子の検
討や選手を前向きに調査することで下肢障害の発症要因にな
っているか否かを調査していきたい。
-10-
O-015
O-016
ジョギングを用いたウォームアップ時間の検討
高校陸上競技選手における慢性疼痛発生と身体機能
の関係
三浦貢拓 1)・田浦正之 1)・茂太裕美 1)・岡安栄治 1)・
大林 亮 1)・金坂美穂 1)・宮崎 愛 1)・岡村 求 1)・
柴宮洸自 1)・湯山琢夫 2)
中川和昌
高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
医療法人社団 郷愛会 湯山整形外科 リハビリテーショ
ン科
2)
医療法人社団 郷愛会 湯山整形外科 整形外科
1)
key words
ウォーミングアップ・ジョギング・適正時間
key words
【目的】
スポーツ愛好家の大多数が主運動前にウォームアップ(以
下w-up)としてジョギングを用いる事が多い。また、それ
がどの程度必要かと助言を求められる機会もある。しかし、
w-upの先行研究において適正時間は5~20分と不明確で、方
法もジョギングを用いた報告は少ない。そこで本研究の目的
はジョギングを用いたw-upの適正時間を明確にする事であ
る。
【方法】
対象は事前に研究の目的と方法を口頭と書面で説明し同意
を得た、健常人男女各7名の計14名、平均年齢30.96±11.26歳
である。方法は安静座位10分、トレッドミル走行、各2回立
ち幅跳び・反復横跳びの順で行い、これを同一被験者が計5
回行った。トレッドミル走行は傾斜3%、スピードはBorgの
自覚的運動強度で「楽~ややきつい」、走行時間は各被験者
ランダムに0・5・10・15・20分とした。環境設定は同一の室
内環境・服装とし、次の施行まで最低48時間以上あけた同一
時間帯に行った。
統計処理は平均値をフリードマン検定、下位検定はSchefee法を使用し、有意水準は5%未満とした。また、平均値を
用いた回帰曲線を使用して推定最大立ち幅跳びの距離・反復
横跳びの回数が得られる為の時間を推察した。尚、本研究は
当院の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
立ち幅跳び、反復横跳び共に0分と15分、0分と20分に有意
差を認めた。また回帰式より推定最大立ち幅跳びの距離・反
復横跳びの回数が得られる為のジョギング時間は共に17分と
なった。
【考察と今後の展望】
今回行った立ち幅跳び・反復横跳びは大半のスポーツに関
係すると言われている。よってジョギングを用いたw-upの
適正時間は17分と明確に助言ができる。現在、スポーツ愛好
家が増え続けている為、w-upに関する助言が増えると予想
される。また、それに伴い怪我や障害も増加する事が考えら
れ、今後はw-upと怪我や障害の関係性についても検討して
いきたい。
ランニング動作・陸上競技・障害予防
【目的】
陸上長距離走選手を対象に,定期的な身体機能チェックの
結果から,慢性疼痛障害との関連を把握することを目的とす
る。
【方法】
対象は高校陸上部に所属する長距離走選手50名
(男子35名,
女 子15名, 平 均 年 齢16.5±0.8歳, 身 長164.8±7.5cm, 体 重
53.4±5.6kg)であった。なお全対象者に対し,研究の意義や
内容に関して十分に説明し,紙面上で同意を得た上で測定に
取り掛かっている。
対象者全員に対し障害を定期的にチェックし,慢性的な疼
痛の有無または練習量の増大等で発生する疼痛の有無を確認
した。身体機能は約3か月毎に測定しており,測定項目は身
長,体重,体脂肪率,Straight Leg Raising(SLR)
,Heel Buttock Distance(HBD)
,股関節伸展角度,股関節内外旋角度,
足関節底背屈角度,アーチ高率,股関節外転筋力,股関節伸
展筋力,起き上がりテスト,立ち上がりテストであった。
分析は身体機能測定実施後半年の間において疼痛が発生し
た群(疼痛群)と,発生しなかった群(正常群)の両群間で,
各測定項目をMann-WhitneyのU検定にて比較検討した。有
意水準は5%とし,統計ソフトはSPSS 18.0J for Windowsを
使用した。
【結果】
疼痛群は26名,正常群は24名であった。障害部位は腰部6
名,股関節3名,膝関節5名,下腿部7名,足関節・足部7名で
あった(重複含)
。障害群で股関節伸展角度が有意に大きく
(障害群30.6±4.3°
,正常群28.1±3.1°
,p=0.027)
,足関節底
屈角度が大きい傾向にあり(障害群51.5±5.3°,正常群45.8
±13.0°,p=0.061),立ち上がりテストの結果は有意に大きい
結果(障害群10.1±3.4回,正常群7.8±3.8回,p=0.032)となっ
た。
【考察・結語】
スポーツ障害予防のために定期的な身体機能測定は重要で
あるが,長距離走においては過剰な可動域や筋力が障害発生
のサインとなる可能性が示唆された。今後,競技成績やパフ
ォーマンスレベルとの関係を加味した上で検討する必要があ
る。
-11-
O-017
O-018
6ヶ月間に3回のみの介入による介護予防教室の効
果
大学柔道選手の傷害発生と回復過程に関連する心理
的特性の検討
寺山圭一郎 1)・小川明宏 1)・秋葉 崇 1)・根本亜友美 1)・
土谷あかり 1)・阿左美祐二 1)・中川晃一 1,2)
小林好信 1)・山口 香 2)・橋本佐由理 2)
東邦大学医療センター佐倉病院 リハビリテーション部
2)
東邦大学医療センター佐倉病院 整形外科
2)
key words
key words
千葉医療福祉専門学校
筑波大学
1)
1)
介護予防教室・体力測定・自宅での運動
【はじめに】
厚生労働省作成の介護予防マニュアル(以下マニュアル)
によると運動器の機能向上には週2回以上の介入が必要とさ
れており、それが困難な場合、自宅での運動メニューを指導
し、実施状況のモニタリングを行うことが望ましいとされて
いる。
【目的】
6ヶ月間に3回のみの介入による介護予防教室で参加者の身
体機能の向上を図ることが出来るかを明らかにする。
【方法】
2013年10月~2014年3月の間に実施した介護予防教室に自
らの意思で参加した65歳以上の地域在住高齢者43例を対象と
した。6ヶ月の間に3回の教室を実施。初回は体力測定と自宅
での運動メニューの指導を実施した。体力測定は、マニュア
ルに則り、握力、開眼片脚立ち、5m歩行、Timed Up and
Go test(以下TUG)の計測を実施。これに加え、下肢筋力
として膝伸展筋力を計測した。3ヶ月後の2回目に、体力測定
の結果をフィードバックし、転倒に関する講義を実施。6ヶ
月後、再度体力測定を実施した。教室開始時と終了時の体力
測定結果についてWilcoxonの符号付順位検定にて分析した
(p<0.05)
。運動メニューは、マニュアルを参考にオリジナ
ルのパンフレットを作成した。
【倫理的配慮】
本研究は所属施設の倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
膝伸展筋力体重比が34.8±13.3(33.8)→45.6±17.0(45.6)
%、
TUGが8.39±1.64(8.22)→8.01±1.33(7.57)秒と6ヶ月後に有
意な改善が認められた。その他の項目に有意差は認められな
かった。
【考察】
本研究の対象は、自らの希望により介護予防教室に参加し
ていたことから、意欲が高く、自宅での運動メニューを継続
できたものと考える。この事から、自ら介護予防教室に参加
するなど意欲の高い症例は指導のみでも十分な効果が得られ
ることが示唆された。
スポーツ傷害・心理的特性・ストレス
【目的】
近年、スポーツ傷害に対するストレスや心理的な要因の関
与が報告されている。本研究は、スポーツ傷害予防の示唆を
得ることを目的に、スポーツ傷害と関連する心理的特性につ
いて調査を行った。
【方法】
16大学の男女柔道部員350名を対象(筑波大学体育系研究
倫理委員会の承認を得て、書面にて説明し、同意を得た)に、
自記式質問紙による前向き調査を行い、スポーツ傷害と心理
的特性の経過を1年間追跡した。調査項目は、傷害の有無や
程度、大学競技成績、ストレスや競技に関わる心理的特性等
である。傷害発生、回復過程に関わる心理的特性や競技成績
について統計学的に分析を行った。統計処理はt検定、Wilcoxonの符号順位和検定、カイ2乗検定等を用いた。
【結果】
1年の間に傷害を発生した群(以下、INJ群)としなかった
群(以下、NOI群)について、INJ群はNOI群に比べ、傷害
発生前にストレス反応が有意に高かった。しかし、INJ群は、
傷害発生後にスポーツ競技特性不安の低下や、レジリエンス
の向上がみられた。また、1年の間に傷害から回復した群(以
下、REC群)としなかった群(以下、NOR)について、REC
群はNOR群に比べ、指導者の支援認知が高かった。さらに、
大学で競技成績を残していない者の中に、NOR群の割合が
有意に多いことがわかった。しかしNOR群は、1年の間に、
問題解決度、指導者の支援認知が向上し、スポーツ競技特性
不安が低下していた。
【考察】
身体的な要因以外に心理的ストレスが傷害発生の原因とな
る可能性があることが示唆された。また、傷害は選手にとっ
て心理的成長をもたらす可能性がある。競技成績がなく、指
導者からの支援を認知しづらい状況にある選手にとっても同
様のことがいえる。
【まとめ】
競技スポーツにとって成績は大変重要ではあるが、成績が
ない選手に対して、彼らが将来指導者になる可能性や生涯ス
ポーツとして柔道を続けていくことへの支援が必要ではない
だろうか。
-12-
O-019
O-020
当院での心不全及び重複障害症例の心臓リハビリテ
ーション
内部障害の疾患別にみた急性期リハビリテーション
におけるOutcomeの比較
町 雅史・八幡純治・小口貴之・増澤尚樹・手塚昌男
篠原智行・関香那子・土田奈生子
岡谷市民病院 リハビリテーション科
日高病院 急性期リハビリ室
key words
key words
心不全・重複障害・高齢者
【緒言】
当院は2011年に心大血管リハビリテーション施設基準を取
得し、心臓リハビリテーション(以下CR)を開始している。
未だ問題点や課題が多いが、徐々に依頼数は増えており、週
に1度医師と合同回診をすることもあり、徐々に実績を重ねて
きている。CRを始めた中で、当院は慢性心不全(以下CHF)
症例が多い傾向にあると実感している。今回、CHF症例に
ついての2年間の調査と、当院での取り組みについて報告す
る。
【対象と方法】
2011年8月~2013年7月にCHFの診断にてCRを実施した症
例を対象とし、依頼数、在院日数、リハ依頼までの日数、身
体機能、入院・退院時FIM、転帰、合併症の有無を調査した。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、対象者に不利益が生じ
ないよう十分な配慮のもとで行った。
【結果】
依頼数は41例(男性23例、女性18例)。平均年齢80.6±10.4
歳、依頼までの日数8.2±9.6日、在院日数49.4±39.2日、FIM
入院時67.3±30.8→退院時98.3±27.5、転帰は自宅21例、老健
2例、回復期5例、療養型5例、他慢性期1例、他急性期1例、
死亡8例。合併症罹患率はHTが最も多く、次いでDM、HLP
が6割、HUAが3割、CKD2割となった。
【考察】
入院時ADLが低く、依頼までの日数・在院日数が長く、
高血圧を合併される症例が多い傾向となった。これらから、
血行動態を把握しつつ早期介入する事が最も重要であり、再
入院の防ぐ事が必要と考える。
【結語】
本来CRとは、CPXによる運動処方に従って自転車エルゴ
メーターや歩行による20~30分の有酸素運動を行うことをイ
メージされる。しかしこの超高齢化で、CPXそのものが実
施困難である患者が増加傾向にある。当然そのような患者は
日常生活動作が負荷となり、心不全増悪をきたす。今後の
CRの取り組みとして、改めて起居、座位、立位、歩行とい
った基本動作や日常生活動作、嚥下などを運動負荷と考え、
全人的なリハビリテーションというものに視点を向けてい
る。
内部障害・急性期・Outcome
【はじめに】
リハビリテーション(リハ)の対象疾患は多岐にわたり、
疾患により患者の全体像や介入効果の特徴があると考えられ
る。今回、内部障害のうち3つの疾患におけるリハ実施後の
Outcomeの違いを検証した。
【方法】
平成25年8月から平成26年3月に内部障害により当院に入院
し、リハを実施した後に退院に至った267名のうち、最も多
かった疾患の肺炎、心不全、腎不全で入院した患者を対象と
した。各疾患の特徴を把握するため、年齢、入院前の高齢障
害者の日常生活自立度(以下、自立度)
、リハ開始時のFunctional Independence Measure(以下、FIM)
、1日のリハ単
位数を調査した。Outcomeは入院前の生活環境への復帰率、
在院日数、FIMgain(入院時と退院時のFIMの差)
、FIMgain
を単位で除したFIM効率とした。各疾患で群分けしOutcome
の比較をχ2乗検定や一元配置分散分析を用いて検証した。有
意水準は5%とした。なお、個人情報の取り扱いはヘルシン
キ宣言に従い、また連結可能匿名化した。
【結果】
肺炎群56名、心不全群18名、腎不全群13名であった。同様
の順に、平均値は年齢83.1/83.7/77.8歳、リハ開始時FIM
38.6/58.1/57.4点、1日の単位数3.5/2.7/2.0単位であった。
入院前の自立度の最頻値はC2/J2およびA1/J2であった。
年齢以外で有意差が認められ、また、入院前の自立度と疾患
にも有意な関連性が認められた。Outcomeは復帰率64.3/
77.8/75.0 %、 在 院 日 数31.9/18.1/41.8日、FIM gain2.8/
20.8/10.7点、FIM効率0.07/0.92/0.25であった。復帰率に
は群間で有意な違いが認められなかったが、その他では有意
差が認められた。
【考察】
疾患によりOutcomeに違いを認めた背景には、入院前や
リハ開始時の動作能力の違いがあったためと考えられた。ま
た、疾患により費用対効果が異なることが示唆された。今後、
調査対象を増やし、疾患の特徴やリハ効果の更なる検証をし
ていきたい。
-13-
O-021
O-022
寒冷療法(クリッカー,アイスパック)による皮膚
温度,筋硬度への効果検証
健常若年女性の月経周期と腹横筋の関係性
生方 瞳・松村彩奈
狩野大輝 1)・加藤仁志 2)・金安宏誠 3)・松井孝行 4)・
森裕紀夫 5)・入山 渉 2)・松澤 正 2)
高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
医療法人社団 鎮誠会 季美の森整形外科
群馬パース大学大学院
3)
介護老人保健施設うらら
4)
利根中央病院
5)
イムス太田中央総合病院
1)
2)
key words
key words
ランダム化比較対照試験・寒冷療法・効果検
証
【目的】
寒冷療法には局所新陳代謝の低下,毛細管透過性の減少,
一次的血管収縮と二次的血管拡張,浅部疼痛受容器に対する
麻痺作用,筋紡錘活動の低下などの生理学的作用があり,疼
痛軽減,炎症緩和などの目的で用いられる.しかし,寒冷療
法による皮膚温度(表在温度,深部温度)と筋硬度への効果
を検証した先行研究は見当たらない.そこで,本研究では,
寒冷療法による皮膚温度および筋硬度への効果を検証するこ
とを目的とした.
【方法】
対象者(健常成人30名)に研究内容を説明し参加への同意
を得た後,ランダムに1群(クリッカー施行群),2群(アイス
パック施行群),3群(対照群)の3群に10名ずつ割り付けた.
1群はクリッカーによる寒冷療法を10分間施行した.2群はア
イスパックによる寒冷療法を10分間施行した.1, 2群ともに,
寒冷療法後30分間安静にした.寒冷部位は1, 2群ともに右下
腿三頭筋とした.3群は40分間安静とした.介入前,介入直
後,5,10,15,20,25,30分後の計7回,表在温度,深部温
度,筋硬度を測定した.その後,多重比較法(Bonferroniの
方法)を用いて,表在温度,深部温度,筋硬度の変化量を群
間比較した.
【結果】
表在温度は介入直後から15分後までは2群で低下した.深
部温度は介入5分後から30分後まで2群で低下した.また,25
分以降は1群の深部温度も低下した.筋硬度は,1群,2群共
に変化は認められなかった.
【考察】
寒冷療法によって皮膚温度は深部温度,表在温度ともに低
下することが明らかとなった.表在温度は15分以降に元の温
度に戻るが,深部温度は30分後も低下したままであった.筋
硬度に関しては,一般的に冷却により筋温度が減少し弛緩し
ている筋を収縮させることで筋硬度が上昇すると考えられる
が,寒冷療法によって筋硬度は低下しなかった.
【まとめ】
寒冷療法により皮膚温度(表在,深部)は低下するが,筋
硬度は低下しないことが明らかとなった.
インナーユニット・月経・筋厚
【目的】
月経周期を大別すると,月経期・卵胞期・排卵期・黄体期
の4期に分けられる.月経前から月経中は,スポーツ外傷が
多いという報告やパフォーマンスが低下すると報告され,卵
胞期から排卵期にかけては筋力が増大するという研究結果が
報告されている.一方,月経周期中に筋力は変動しないとい
う研究報告もあり統一した見解が得られていない.そこで本
研究は,腹横筋の筋厚を計測し,月経周期における変動を明
らかにすることを目的とした.
【方法】
対象者は月経周期の安定している若年健常女性30名とし
た.対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,承諾を得
た後に計測を開始した.月経周期は28日周期とし,最終月経
日より逆算して月経期(3日目)
,卵胞期(12日目)
,黄体期(21
日目)の3期間に分けた.腹横筋の測定には超音波画像診断
装置(My Lab Five),リニア式プローブを用い,背臥位で
安静呼吸終末時と筋収縮時の腹横筋の筋厚を左右それぞれ記
録した.統計解析は、安静時と収縮時の筋厚の比較にはttest,月経周期の時期による筋厚の変化量は一元配置分散分
析を用い,事後検定にはBonferroni法にて検討した.いずれ
の検定も有意水準は5%未満とした.
【結果】
腹横筋の筋厚は,月経周期の時期にかかわらず,安静時に
比べ収縮時に有意に増加した.また,月経周期の全ての期に
おいて,筋厚の変化量に有意差は認められなかった。
【考察】
月経周期中における腹横筋の筋厚に差が認められなかった
ことから,女性ホルモンは筋厚や筋収縮を直接的に変化させ
るほどの働きはないことが推測される.さらに,月経周期に
おける腹横筋の筋収縮に変化がないことから,女性は月経周
期に関係なく運動が可能であることが考えられる.今後は,
出血や月経痛に伴う気分不快,緊張,意欲低下などの心理的
変化も視野に入れ,心身の周期性を考慮したコンディショニ
ングの必要性について今後検討が必要であると考える.
-14-
O-023
O-024
回復期リハビリテーション病棟退院患者における
Balance Evaluation Systems Testの得点の疾
患特性
パーキンソン病患者の姿勢異常に前頭葉機能の注意
機能障害が影響する
三上恭平・加茂 力
長谷川智 1,2)・大河原七生 1,2)・幸地大州 1)・渡辺真樹 1)・
臼田 滋 2)
登戸内科・脳神経クリニック
公立七日市病院
群馬大学大学院保健学研究科
1)
2)
key words
回復期リハビリテーション病棟・バランス・
疾患特性
key words
【目的】
Balance Evaluation Systems Test(BESTest) は、1. 生
体力学的制限、2. 安定限界/垂直性、3. 予測的姿勢制御、4. 姿
勢反応、5. 感覚適応、6. 歩行安定性の6つのセクションから
なるバランス評価指標である。本研究の目的は、回復期リハ
ビリテーション(リハ)病棟退院患者におけるBESTestの得
点の疾患特性を検討することである。
【方法】
対象は、回復期リハ病棟を退院時に杖(T字杖または4点杖)
歩行、又は杖なし歩行が監視レベル以上で可能であった47名
であった。退院時に BESTest、Functional Independence
Measure(FIM)、Functional Balance Scale(FBS)10m最大
歩行時間(10m Maximum Walking Time: MWT)を測定し
た。対象者を運動器疾患と脳血管疾患に群分けし、各指標の
群間の差の検定と各群における指標間の相関を検討した。本
研究は、公立七日市病院倫理委員会の承認を得て実施し、対
象者には本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。
【結果】
運動器群(n=29、年齢77.9±10.6歳、入院期間65.7±20.3日、
FIM107.8±10.4点、FBS49.8±5.5点)と脳血管群(n=18、74.4
±8.9歳、入院期間81.9±43.2日、FIM104.4±14.6点、FBS51.2
±5.7点)間で、BESTestの各セクション得点及び合計点に
有意差は認めなかった。両群ともに、BESTestの得点とFIM、
MWT、FBSは中等度以上の相関を認めたが、セクション2
と各指標の相関の程度は、運動器疾患に比して脳血管疾患で
は弱く、セクション5では、逆に強い相関を認め、セクショ
ンによって疾患により異なる傾向が認められた。
【考察】
本研究では、歩行能力や日常生活の自立度が比較的高い対
象者が多かったが、セクションによって疾患特性が反映され
る可能性が示唆された。今後、入院中の経過を含めた詳細な
検討が必要である。
パーキンソン病・姿勢異常・注意機能障害
【はじめに】
パーキンソン病(PD)患者の姿勢異常は抗PD薬に抵抗性
で,すくみ足を特徴とする歩行障害と同様にその病態は解明
されていない.しかし,歩行障害は前頭葉内の機能代償を用
いた視覚刺激が有効と報告されており,前頭葉機能障害と関
係すると考えられている.PDの前頭葉機能障害に注意障害
がある.歩行障害と同様に姿勢異常にも前頭葉機能障害が関
係することを推定し,特に注意障害の姿勢異常への影響を検
討した.
【方法】
対象は2012年7月から10月にリハビリを実施し,本研究の
趣旨について説明し同意を得たPD患者で,Mini-Mental State
Examination27点以上の14名(男性8名,女性6名.平均年齢
69.6±10.2歳)である.姿勢の評価は,頸部屈曲角度,体幹
屈曲角度,体幹側屈角度,骨盤側方傾斜角度を測定した.注
意機能の評価はTrail Making Test(TMT)A,Bを実施した.
TMT-AおよびTMT-Bと各姿勢評価項目との関係は,ピア
ソンの積率相関係数により解析した.発表に際し個人が特定
できないよう配慮した.
【結果】
TMTの平均は,TMT-A55.9±73.2秒,TMT-B258.0±170.2
秒であった.TMT-Aと各姿勢評価との間には相関関係を認
めなかった.TMT-Bと体幹側屈角度との間には正の一次相
関関係(r=0.59,p<0.05)を認めた.
【考察】
TMT-Bは注意の分配と転換性能力の評価である.TMT-B
と体幹側屈角度の間に認められた正の一次相関関係は,前頭
葉機能障害である注意障害がPDの姿勢異常に関係すること
を明らかにしたものである.歩行障害と同様に,前頭葉内の
機能代償を応用したリハが姿勢異常の治療法となる可能性が
ある.
-15-
O-025
O-026
横断的研究からみた神経難病におけるQOL評価と
SEIQOL-DWの可能性
地域在住パーキンソン病者のMDS-UPDRSと
Berg Balance Scale ~転倒の有無からみた一考
察~
寄本恵輔 1,2)・白神晃子 1)・小野充一 1)
黒川良輔・綾部由郎
早稲田大学大学院 人間科学研究科 健康福祉科学研究領域
2)
国立精神・神経医療研究センター
1)
key words
医療法人社団 健育会 竹川病院
神経難病・QOL・SEIQOL-DW
key words
【背景】
神経難病患者のOutcomeとして、QOL評価を用いること
が多い。しかし、健康関連QOL(以下HR-QOL)評価の限界
があり、神経難病患者のQOL評価を捉えることは困難であ
り、主観的QOLを測定するSEIQOL- DWが注目されている。
【目的】
本研究の目的は、神経難病に使用されているQOL評価を調
査し、SEIQOL-DWの可能性を述べることである。
【方法】
QOL評価及びSEIQOL-DWの論文数、神経難病に使用され
ているQOL評価、神経難病でSEIQOL-DWが使用されている
論文を検索(PubMed/医中誌を使用、原著及び総説使用、抽
出期間1995-2013年)。QOL評価はPubMed 4623件、医中誌
974件、SEIQOL-DWはPubMed 71件、医中誌21件、各疾患
のQOL評価論文はPubMed 208件、医中誌77件、抽出論文で
使用されているQOL評価356件を調査し分類する。さらに
SEIQOL-DW 21件(医中誌)から神経難病に焦点化した13件
よりSEIQOL-DWの有用性と課題について検討を加える。な
お、本研究はヘルシンキ宣言を遵守している。
【結果】
抽出した論文よりQOL評価、SEIQOL-DWは年々多く使
用され、神経難病におけるQOL評価はHR-QOLが多かった。
SEIQOL-DWの可能性として質的な患者理解から一次元的
な量的表現ができること、身体機能と相関がないこと、医療
的ケアの介入のツールになることが述べられ、課題として
は、信頼性・妥当性研究の不足、面接援助技量の担保、十分
な教育体制の必要性が述べられていた。
【考察】
本研究では神経難病におけるQOL評価について横断的文献
検索から傾向を述べたに過ぎない。しかし、HR-QOLのメリ
ット、デメリットを理解した上で主観的QOLであるSEIQOLDWの可能性について示したことは理学療法において重要な
意味があった。SEIQOL-DWを使用することにより神経難病
患者の療養や意思決定を支援するprocessを知り、患者と共
通認識を持ったStrategyになる重要なコミュニケーションツ
ールになるものと考えた。
Parkinson’s Disease・MDS-UPDRS・
Berg Balance Scale
【背景】
進行性疾患であるParkinson’s Disease(以下:PD)の二
次的障害を予防する必要性が高まる一方で,転倒要因に関す
る報告は少ない.我々は地域在住PD者のBerg Balance Scale
(以下:BBS)を二年間調査したが転倒との関係性はなかっ
た(2013).そのため,本研究では非運動症状も評価できる
MDS-UPDRSを用い,転倒に関わる因子について検討する
ことを目的とした.
【方法】
対象:医師からPDの診断を受けたPD友の会会員7名(男5:
女2)
.全対象者の平均年齢67.4±6.0歳,罹病期間15.0±13.7
年,H&Y2.4±0.5.脳血管障害や心疾患の既往がある者は除外
した.5名はL-Dopaを服用.
測定方法:日差変動とオフ状態の影響を考慮し,7名を二
日 間 に 分 け て 同 刻 に 測 定 し た. 各 個 人 のMDS-UPDRSと
BBSは同日に測定した.一ヶ月以内の転倒の有無から,転倒
あり群(4名)と転倒なし群(3名)に分け,MDS-UPDRS
の各PartのスコアとBBS得点を比較検討した.なお,全対象
者にはヘルシンキ宣言に基づいて本研究の趣旨を説明し書面
にて同意を得た.
【結果】
転倒あり群:MDS-UPDRSスコアPart1A1.5±0.6,Part1B
8.8 ± 3.8.Part216.0 ± 3.4,Part324.8 ± 7.8,Part42.8 ± 2.5 総
スコア53.8±14.0.BBS50.0±3.4点.
転倒なし群:MDS-UPDRSスコアPart1A1.3±0.6,Part1B
7.0±1.7,Part29.0±3.6,Part310.7±7.1,Part43.7±3.1総ス
コア31.7±8.6.BBS50.7±3.2点.
【考察】
転倒あり群はPart2と3,総スコアで転倒なし群を上回った.
これはPart2と3のBBSで評価できない歩行やすくみ足,姿勢
安定性の項目が関係しているためと考える.非運動項目にお
いては,Part1Aスコアの多くが認知障害1点であり,1Bスコ
アはばらつきがあり,傾向がみえなかった.今回は対象者が
少なく統計による検討が行えなかったため,今後の追跡調査
が必要である.また,Part2と3の運動項目においても転倒と
関係性のある項目を明らかにしていきたい.
【まとめ】
転倒あり群はMDS-UPDRSの運動項目と総スコアで転倒
なし群を上回った.
-16-
O-027
O-028
重度不全麻痺を呈した頸髄損傷者の座位でのADL
獲得に向けての介入~姿勢制御に着目して~
ALS患者の動的肺コンプライアンスについて
芝崎伸彦 1)・今井哲也 1)・望月 久 2)・沼山貴也 3)
高橋良太
狭山神経内科病院 リハビリテーション科
文京学院大学大学院 保健医療科学研究科
3)
狭山神経内科病院 神経内科
1)
IMSグループ 医療法人社団明芳会 新戸塚病院
2)
key words
key words
姿勢制御・座位・知覚
【はじめに】
頸髄損傷者に対する理学療法は残存筋の筋力増強や環境設
定が一般的に行われている.今回,重度不全麻痺により積極
的な筋力増強が行えない頸髄損傷者に対し,座位での姿勢制
御の特徴を踏まえ,介入した結果,残存機能向上,座位での
Activities of Daily Living(以下ADL)獲得に至った為報告
する.本報告において,患者及び家族に趣旨説明を行い,同
意を得た.当院倫理規定に基づき,病院長の承認を得た.
【症例紹介】
80歳代女性.平成26年2月C6頸髄損傷受傷,保存的加療後,
同年4月当院入院.入院時,改良Frankel分類B2,改良Zancolli分類C6BI.Manual Mascle Test(以下MMT)体幹1,下
肢1 ‐ 2.基本動作全介助.座位の特徴として,上肢残存筋
の過剰な筋緊張亢進にて頭部,体幹を中間位~軽度屈曲位に
保持し,重心位置を固定する姿勢制御であった.その際,疼
痛Numerical Rating Scale(以下NRS)5を伴っていた.上肢
支持なしの座位保持困難であり,重心位置変化に対し制御困
難であった.食事や車椅子駆動時の体幹保持できず介助を要
した.Barthel Index(以下BI)0点.
【介入方法】
座位にて頭部,上肢,体幹に若干動く支持面(バランスボ
ール)を与え,症例が安定して動ける範囲内で前後左右への
重心移動を行い,殿部支持面の知覚探索を促した.
【結果】
介入2ヵ月後,改良Frankel分類C1,改良Zancolli分類C6BII.
MMT体幹2,下肢2.座位時,上肢残存筋筋緊張亢進伴わず
体幹保持可能となり,NRSは0.上肢支持なしの座位1分半保
持可能.食事,車椅子駆動自立.BI15点.
【考察】
過剰な筋緊張亢進による固定を伴わずに能動的に動ける課
題設定,介入により身体運動に伴う支持面の知覚が促せたこ
とが体幹筋の賦活,姿勢制御の改善に繋がったと考える.頸
髄損傷者の座位でのADL獲得に対し,積極的な筋力増強が
行えない場合でも,姿勢制御に注目し,介入することが改善
に繋がると考えられる.
ALS・肺コンプライアンス・人工呼吸
【目的】
人工呼吸器装着中のALS患者を対象に、Cdyn計測の再現
性について検討し、Cdynと患者の年齢、罹病期間等の関連
性についても検討した。
【方法】
対象はALS患者で人工呼吸器管理を必要とする24名とし、
へルシンキ宣言に基づき説明し同意を得た。平均年齢70.83
±8.53歳、罹病期間は中央値68.5ヵ月
(24~134ヵ月)
、人工呼
吸器装着期間は中央値51ヵ月(3~119ヵ月)である。測定方
法は、人工呼吸器Trilogy100(Philips社製)において換気モ
ードをSIMVまたはPC-SIMVで、CdynはCdyn=Vt/(PIPPEEP)の式を用いて算出した。測定は検者Aが2回、検者B
が1回実施した。1回の測定における数値の読み取りは3回行
われ、平均値を代表値として採用とした。検者内再現性は検
者Aの1回目と2回目の測定値の、検者間再現性は検者Aの1
回目とBの測定値の再現性について検討した。再現性の検討
には、級内相関係数(ICC)を、Cdynと罹病期間等との関連
性の検討にはPearsonの相関係数を用いた。
【結果】
検者Aの測定によるCdynは、1回目が26.36±9.18m l/cmH2O、2回目が26.85±9.79 ml/cmH2Oであり、ICCは0.94であ
った
(p<0.05)
。また、検者Bの測定によるCdynは26.44±8.48
ml/cmH2Oで あ り、 測 定 値 の 間 のICCは0.97で あ っ た(p<
0.05)
。Cdynと各項目の相関では、年齢:r=0.10(p=0.63),
罹病期間:r=-0.55(p<0.01),人工呼吸器装着からの期間
r=-0.65(p<0.001)であった。
【考察】
Cdynの検者内および検者間のICCは0.9を上回り、再現性
は優秀であった。したがって、Cdynは臨床場面においても
十分に活用可能なものと考えられた。また罹病および人工呼
吸器装着期間が長くなるにつれてCdynが低下することも示
唆され、肺の柔軟性を維持するには発症早期から肺コンプラ
イアンス低下を予防していくことが望ましいと考えられた。
-17-
O-029
O-030
脊髄損傷患者の回復期における呼吸筋トレーニング
の効果について
運動強度の違いによる血糖値降下予測%HR Borg
scaleの検討
金子賢人 1)・山口育子 2)・片山雄一 1)・村山尊司 1)・
川上貴弘 1)
小林ちえみ
国保多古中央病院
千葉県千葉リハビリテーションセンター 成人理学療法科
2)
東京医療学院大学 保健医療学部 リハビリテーション学科
1)
key words
key words
脊髄損傷・呼吸筋トレーニング・呼吸筋力
【目的】
脊髄損傷の死亡原因は肺炎が最も多く呼吸器合併症を予防
していく必要がある。急性期の報告に比べ回復期以降の呼吸
リハビリテーションの効果についての報告は少ない。そこで
今回は回復期の脊髄損傷患者に対し呼吸筋トレーニング(以
下VMT)を実施し、その効果について検討した。
【対象】
受傷後3ヶ月以上経過した胸髄損傷患者1例。症例;30代男
性。AIS:A。障害高位:Th3。MAS:上肢0、下肢1。身長
181cm、体重89.0kg、BMI:27.1。喫煙歴20年。
【説明と同意】
本研究は当センター倫理委員会にて承認をされ、文書にて
同意を得た。
【方法】
研究デザインはA-B-A’にてA、A’期をコントロール期と
し、通常の理学療法を60分。B期を呼吸訓練介入期として通
常の理学療法45分、腹部重錘負荷法5分、スーフル(株式会
社ポーラファルマ社製)での呼吸訓練を10分1日2回行った。
各期は4週間、計12週間とした。各期の前後で、オートスパ
イロ507(ミナト医科学株式会社製)による呼吸機能及び呼
吸筋力の測定、胸郭可動域(胸郭拡張差を腋窩、剣状突起周
径)の測定、Numerical Rating Scale(以下NRS)を車椅子
坐位で測定した。
【結果】
呼吸訓練前後での最大吸気圧(以下PIMAX)が25.3cmH2O
から40.7cmH2Oへ増大した。また上部胸郭可動域は6.0cm拡
大した。一方A’ではPIMAXは維持されたが、上部胸郭可動
域は4.0cm減少し、呼吸機能及び最大呼気圧、下部胸郭可動
域は変化がなかった。
【結語】
VMTは最大呼気を促し、残気量を減少させ、最大吸気圧
が増大したと考えられた。またPIMAXの増大は胸郭可動域
の拡大など二次的効果に寄与した事が考えられた。しかしA’
期で胸郭可動域が減少した事については痙性による影響が考
えられ、今後はその関連性についても検証しなければならな
い。また今回は胸髄損傷1例であり今後は症例数を増やし、
訓練効果の検証や呼吸機能への関連性についても検討する必
要がある。
血糖値・運動強度・%HR
【目的】
糖尿病の運動療法では、最大酸素摂取量の40~60%程度、
Borg scaleでちょうど良いからややきつい程度が推奨されて
いる。しかし、インシュリン使用者では運動により著しく低
下する者が多い。安全に運動療法の即時効果が期待できうる
運動強度を把握する目的で運動強度の違いによる血糖値降下
量を測定し、強度指標としての%HRとBorg scaleについて
検討した。
【方法】
対象者は健常者4例。研究目的、内容を説明し、文書にて
同意を得た。自転車エルゴメーター負荷を基準に低負荷2、
中負荷3~4、強負荷5~6、最強負荷8にて実施。脈拍、血糖
測定を臨床検査技師の協力を得て行なつた。最終的な運動強
度%HRはKarvonen法にあてはめて計算。又、本人よりBorg
scaleを聴取。
【結果】
低・中・強負荷ではそれぞれ血糖値降下量平均は17.8mg/
dl、27mg/dl、38mg/dlとなった。%HRは10.2~21.4%、14.4
~35%、28.5~58%となった。Borg scaleはかなり弱いから
ちょうど良い、弱いからややきつい、ちょうど良いからきつ
いとなった。中負荷で低血糖にならなかった1例のみ最強負
荷で実施し、血糖値降下は44mg/dlとなった。この負荷量で
インシュリン使用者の低負荷と同程度の血糖値降下量となっ
た。Borg scaleできつい、%HRは25.9%と低い値を示した。
本来負荷量が増す中等度以上で血糖値は糖新生を伴って上昇
するとされているが、4例では負荷強度を上げると血糖値降
下は大きくなった。又Borg scaleでも弱いからちょうど良い
と感じても低血糖領域に入る例があった。
【まとめ】
運動療法を実施するに当たり運動強度の指標をどれにした
らいいのか?症例の背景因子を十分に調査し、実際に使用で
きるのか評価してみなければならない。一律に安易に使用す
べきではない。
-18-
O-031
O-032
心筋梗塞患者における不安抑うつと活動量の継時的
変化および自律神経機能との関連性
特発性自律神経障害の起立性低血圧症状に対する対
処法の検討
小川明宏 1,2)・丸岡 弘 2)・寺山圭一郎 1)・秋葉 崇 1)・
根本亜友美 1)・土谷あかり 1)・清水一寛 3)・清川 甫 3)・
中神隆洋 3)・平野圭一 3)・中川晃一 1)
秋葉 崇 1)・榊原隆次 2)・小川明宏 1)・寺山圭一郎 1)・
根本亜友美 1)・土谷あかり 1)・中川晃一 1)
東邦大学 医療センター佐倉病院 リハビリテーション部
2)
埼玉県立大学 大学院 保健医療福祉学研究科
3)
東邦大学 医療センター佐倉病院 循環器センター
2)
key words
key words
東邦大学医療センター佐倉病院 リハビリテーション部
東邦大学医療センター佐倉病院 神経内科
1)
1)
不安抑うつ・活動量・心臓自律神経機能
【はじめに】
急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction;AMI)の不
安抑うつが活動量(Physical Activity;PA)に及ぼす影響
を調査し,予後規定因子である心臓自律神経機能と不安抑う
つやPAとの関連性を検討した.
【方法】
対象はAMIにて入院後にCR実施し退院して,発症6ヶ月経
過した患者.測定項目は1)心臓自律神経機能:短時間HRV
をチェックマイハート(DailyCare BioMedical.)にて測定.
2) 不 安 抑 う つ: 質 問 紙Hospital Anxiety and Depression
Scale;HADSを実施.不安(Anxiety;A)と抑うつ(Depression;D)の点数にて,不安抑うつ無;AD(-)
,不安
抑うつ有;AD(+)に分けた.3)PA:歩行強度計(MTKT02DZ.Terumo)にて退院から1ヶ月(1M)と発症後6ヶ
月(6M)の一日当り平均歩数及び消費エネルギー量(消費E)
を測定.AD有無の1Mと6Mの歩数・消費Eを比較,また6M
のHRV,HADS,PAの関連性を調査.統計解析はWilcoxon
符号付順位検定,Spearman順位相関係数を実施(P<0.05)
.
【倫理的配慮および説明と同意】
対象者に書面と口頭にて説明し同意を得た.本研究は所属
施設の倫理委員会にて承認を得ている.
【結果】
対象19名でAD(+)7名,AD(-)12名.AD(-)は6Mで有
意に歩数が増加(P<0.05).消費Eと副交感神経指標HF,お
よび歩数とHFに相関を認めた(P<0.01).HADS-Aと交感
神経指標L/H(P<0.01),HADS-DとL/Hに相関を認めた(P
<0.05).
【考察】
不安抑うつが退院から6ヶ月の活動量に影響を与え,同時
に活動量と不安抑うつは心臓自律神経機能へ影響する可能性
が示唆された.
起立性低血圧・対処法・足組み姿勢
【目的】
姿勢変化に伴う血圧低下は,圧受容器反射系の賦活により
維持されている.しかし,何らかの原因でこれらが障害され
ると起立性低血圧(OH)が出現する.実際の臨床現場にお
いてOHは,患者の転倒頻度を増加させると共に,高度OHを
伴うと離床に難渋することが多い.OHはリハビリテーショ
ンの阻害因子である一方,対処法の効果を比較した報告は少
ない.今回,特発性自律神経障害患者のOHに対して対処法
の検討を行ったため報告する.
【方法】
当院神経内科に精査目的で入院された多系統萎縮症
(MSA)
患者5名,レビー小体型認知症(DLB)患者1名を対象とした.
OHに伴う自覚症状は全症例に出現しており,ADLになんら
かの制限を受けていた.これらの症例に対して,平日夕方,
能動的座位起立試験(安静10分後に,能動座位,能動起立で
の血圧・脈拍を自動血圧計で測定)を以下の方法で施行した.
A群:足関節底背屈運動非実施・弾性ストッキング非装着,
B群:足関節底背屈運動実施群,C群:弾性ストッキング着
用群.加えて、起立後の足組み姿勢での変化を確認した.
【説明と同意】
口頭にて本研究の趣旨について説明し同意を得た.
【結果】
A群の立位開始3分での血圧は平均73/49.5mmHg、脈拍86
bpmであった.B群では血圧:84.2/52.2mmHg、脈拍:85.8
bpm、C群 で は 血 圧:85.6/55.4mmHg、 脈 拍85.8bpmでA群
と比較して高値を示した.加えて,立位での足組み姿勢でも
血圧:96.4/63mmHg、脈拍82.4bpmと高値であった.
【結論】
OHに対して足関節底背屈運動,弾性ストッキング着用,
足組み姿勢により,ある程度の効果が認められた.今後、症
例数を増やしつつ様々な角度から検討していきたい.
-19-
O-033
O-034
脳性麻痺アテトーゼ患者の疼痛に対する経皮的末梢
神経電気刺激法の即時効果―プラセボ群との比較―
rt-PA投与患者に対する予後予測~NIHSS下位項
目と社会的背景からの検討~
高木健志 1,2)・新田 收 2)・楠本泰士 3)・西野展正 1)・
松尾沙弥香 1)・若林千聖 1)・津久井洋平 1)・干野 遥 1)
林 翔太・冨岡一直・町田 光
社会医療法人 輝城会 沼田脳神経外科循環器科病院 リハ
ビリテーション部
一般財団法人 ひふみ会 南多摩整形外科病院
2)
首都大学東京大学院人間健康科学研究科
3)
東京工科大学医療保健学部理学療法学科
1)
key words
key words
rt ‐ PA・NIHSS下位項目・社会的背景
脳性麻痺・疼痛・TENS
【はじめに】
Cheingらによると、経皮的末梢神経電気刺激法(以下:
TENS)後に運動療法を行うことで、疼痛を抑制しながらの
運動療法が可能といわれているが、脳性麻痺アテトーゼ型患
者の疼痛に対するTENSの効果を評価した研究は少ない。そ
こで本研究は、TENSの脳性麻痺アテトーゼ型患者の疼痛に
対する鎮痛効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象は、2013年4月から2014年3月までの期間中、当院に通
院した成人脳性麻痺アテトーゼ型患者9名とした。9名を2群
に分け、期間を空けTENS(低周波数(4Hz)・低刺激強度)
とプラセボの両方の介入を行った。両群とも、電極は疼痛部
位を挟むように添付し30分間行い、介入前後でVASによる
疼痛の評価を行った。統計学的処理は、介入方法と測定時期
を2要因とする二元配置分散分析を行った後、多重比較検定
を行った。なお、ヘルシンキ宣言に則り全症例に対し十分な
説明を行い、ご本人・ご家族の了承は得た。
【結果】
分散分析の結果、測定時期に主効果を認めた(F値:38.1、
自由度:1、P値:0.00)。介入方法×測定時期には交互作用
は認めなかった(F値:2.74、自由度:1、P値:0.118)
。多
重比較検定の結果、両群とも介入前よりも介入後で有意に低
値を示した。介入前後で、TENS群は49.6±26.1mm(平均値
±標準偏差)から26.1±19.8mm、プラセボ群は45.3±25.6mm
から31.8±22.9mmと変化した。
【考察とまとめ】
TENSは脳性麻痺アテトーゼ型患者の疼痛に対し即時的な
鎮痛作用を有していることが明らかとなった。先行研究によ
ると、TENSはプラセボ群に対し有意に疼痛を軽減するとさ
れており、本研究と結果が異なる。これは、脳性麻痺アテト
ーゼ型患者の疼痛は筋・骨関節・神経・心因性と多岐にわた
り、VASではそのような質的な疼痛を反映できなかったた
めだと考えた。このことから、脳性麻痺アテトーゼ型患者の
疼痛に対するTENS効果判定には、質的な疼痛評価が必要で
あることが示唆された。
【目的】
National Institutes of Health stroke scale(以下:NIHSS)
は,急性期脳卒中患者に対する重症度総合評価スケールとし
て使用されている.そのため,NIHSSを用いた脳卒中患者に
おける転帰先に関する文献は散見される.本研究では,NIHSS
からみた転帰先の予測,それに関与する投与24時間後のNIHSS
下位項目,社会的背景を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,平成20年1月から平成25年9月に入院したrt-PA投
与患者41例(平均年齢68.0±14.8歳)とした.調査項目は性別,
年齢,転帰先(自宅・転院)
,NIHSS及びその下位項目,同
居人数,キーパーソン(以下:KP)とし,後方視的にカルテ
から情報収集を行った.転帰先の違いでのNIHSSのカットオ
フ値の算出にはROC曲線を用いた.NIHSS下位項目はMannWhitneyのU検定を使用し,年齢,同居人数には独立したt検
定,性別,KPにはカイ二乗検定を用いた.統計ソフトは
SPSS statistics19を使用し,有意水準は5%未満とした.本
研究は当院倫理委員会の承認を得て,実施した.
【結果】
自宅群,転院群によるNIHSSでのROC曲線の曲線下面積は
投与24時間後では0.76であり,転帰先の違いでの妥当なカッ
トオフ値は7.5であった.転帰先に関与するNIHSS下位項目
は意識レベル,顔面麻痺,麻痺側上下肢,感覚に有意差を認
めた.性別,年齢,同居人数,KPは統計学的には有意差を認
めなかった.
【考察】
rt-PA投与患者の投与24時間後における転帰先予測では,
NIHSSが8点以下で自宅退院が可能であることが示唆され
た.有意差を認められた NIHSS下位項目としては,起居動
作,移動手段の再獲得に必要な因子,嚥下機能に関与する因
子が転帰先に影響していると考えられる.また,その他の因
子では有意差を認めなかったが,KPについては再考の必要
性が有るため,症例数を増やし,今後さらに調査を継続して
行っていきたい.
-20-
O-035
O-036
ボトックス施注直後からの入院での短期集中的理学
療法による身体機能の変化
ロコモティブシンドロームの評価法と運動機能検査
の関連
仲里美穂 1)・間嶋 滿 2)・倉林 均 2)・小峰美仁 1)・
浦川 宰 1)・知念亜紀子 2)・前田恭子 2)・関根佳子 1)・
青木伸暁 1)
新宮準平 1)・川口桂蔵 1)・斎藤亮太 1)・橋川拓史 1)・
寺門 淳 2)
埼玉医科大学病院 リハビリテーション科
2)
埼玉医科大学病院 MD
2)
key words
key words
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所(MD・
PhD)
1)
1)
ボトックス・理学療法・身体機能
【目的】
ボトックス施注直後からの入院での短期集中的理学療法に
よる身体機能の変化を検討することを目的とした。
【対象】
対象は2011年8月~2013年12月の間に当科に入院し、足関
節底屈筋群を中心にボトックス投与が施注された痙性片麻痺
患者の内、杖・装具の使用の有無に関わらず、施注前に監視
以上の歩行が可能であった14例(平均年齢:55.1歳、男/女:
10例/4例、診断:脳梗塞3例 脳出血8例 くも膜下出血1例 脳
性麻痺1例 髄膜炎後遺症1例、片麻痺のGrade:7 - 7例、9-2例、
10-2例、11-3例、罹患期間:8.2±1.8か月)であった。ボト
ックス施注前と退院前で足関節底屈筋のModified Ashworth
Scale(以下MAS)、足関節背屈の他動的可動域(以下ROM)
、
両側脚伸展筋力の体重比(N・m/kg)、10m最大歩行時間(秒)
と歩数、Timed Up and Goテスト(以下TUG)での所要時間
(秒)を測定した。統計処理には対応のあるt検定、Willcoxon
の符号付順位和検定を用いた。尚、全例施注直後から投与筋
の伸長とROM練習を開始し、翌日からこれに加えて筋力増
強運動を行った。本研究に際しては対象者に説明し、同意を
得て行った。
【結果】
主なボトックス施注筋は腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長
母趾屈筋、長趾屈筋で、一人当たりの総単位数は187.5単位
であった。施注前後で統計上有意な改善が認められた項目
は、MAS 、背屈ROM、10m歩行時間と歩数であり、その他
の項目では有意な改善は認められなかった。
【考察】
ボトックス施注とその直後からの入院での短期集中的理学
療法を併用したことにより、筋緊張やROMの改善が得られ
た。歩行機能では10m歩行において速度の増大と歩数の減少
がみられ、歩容の観察では足部接地や振り出しが改善した症
例も見られた。今後は症例数を拡大し、定量的な歩行解析手
法を用いて歩行機能における効果や施注後入院での短期集中
的理学療法を行うことの有用性について検討していきたい。
ロコモティブシンドローム・ロコモ5・運動
機能検査
【目的】
ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)の評価はロコチ
ェック、ロコモ25とその簡易版としてロコモ5が提唱されて
おり、運動機能検査として2step test、立ち上がりテストが
挙げられている。今回、ロコモの評価と運動機能検査を活用
することで、ロコモの早期発見、予防介入に役立てることを
目的とし、以下のような調査・検討を行った。
【方法】
対象は70歳以上の当院外来患者101名とし身長、体重、BMI、
年齢、性別、ロコチェック、ロコモ5、ロコモ25、各運動機
能検査(立ち上がりテスト、2step test、Functional Reach
Test、Timed Up & Go test:以下TUG)を調査した。各調
査項目に対してロジスティック回帰分析、重回帰分析を行っ
た。また今回の調査ではヘルシンキ宣言に基づき対象者に同
意を得た上で行った。
【結果】
ロコチェックでロコモと判定された者(以下ロコモ群)91
名、判定されなかった者(以下非ロコモ群)10名、ロコモ5
ではロコモ群59名、非ロコモ群42名、ロコモ25ではロコモ群
54名、非ロコモ群47名となった。ロコモの有無を目的変数と
したロジスティック回帰分析では抽出されるものはなかった
。重回帰分析では2step testを目的変数とする
(R2=0.2621)
と 立 ち 上 が り テ ス ト、TUG、 ロ コ モ5が 採 用 さ れ た(P<
。
0.01、R2=0.6172)
【考察】
今回、ロコモ5とロコモ25のロコモ群、非ロコモ群の人数
はほぼ同数であることから2つの評価の精度は同等だと考え
る。統計処理ではロコチェックと関連のあるものは抽出され
ず、2step testにおいてロコモ5が採用された。ロコチェック
はロコモの有無の判定に使用でき、ロコモ5は2step testと関
連がみられたことから重症度の経過を身体機能と合わせて評
価することができる。加えてロコモ25を行うことでロコモの
要因をより詳細に分析することが可能であると考える。以上
のようにロコモの早期発見、予防介入においてロコモの評価
と各運動機能検査を合わせて活用することが重要である。
-21-
O-037
O-038
若年成人における後方2ステップテストの信頼性の
検討
歩行補助具を使用した基本バランス能力テストの有
効性とカットオフ値の検討
兎澤良輔 1,2)・宮島恵樹 1)・平野正広 1)・勝木員子 1)・
遠藤元宏 1)・加藤宗規 1)
和田祥平 1)・久保川温加 2)・村田康成 2)・黒澤保壽 1)
了徳寺大学 健康科学部 理学療法学科
2)
医療法人社団了徳寺会 葛西整形外科内科 リハビリテー
ション科
2)
key words
key words
石岡循環器科脳神経外科病院
介護老人保健施設サン・テレーズ
1)
1)
後方2ステップテスト・信頼性・若年成人
【目的】
後進歩行は前進歩行よりも転倒との関連が強いことが示唆
されており,高齢者への評価を推奨する報告がある.しかし,
後進歩行は高齢者にとって難易度が高い.そこで,我々は後
進歩行の簡便化を目指し,後方2ステップテストを考案し,
その信頼性の検討を行った.
【方法】
若年成人19名に対し,後方2ステップテストを検者1名にて
3回連続で実施した.後方2ステップテストは既存の2ステッ
プテストを参考に方法を考案した.対象者を両足揃えた状態
で立位にし,最大努力で後方に2歩ステップさせ,踵部から
踵部までの距離を測定した.3回の測定結果について反復測
定による分散分析と多重比較法としてShaffer法を行い,そ
の後,級内相関係数(ICC),Bland-Altman分析(BAA)に
て信頼性の検討を行った.統計処理はR2.8.1を使用した.本
研究は了徳寺大学倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】
平均値±標準偏差は1回目が222.0±31.5cm,2回目が232.4
±30.7cm,3回目が234.9±31.0cmであった.また,1回目の
数値は2回目,3回目の数値と比較して有意に低い数値であっ
た.そのため1回目を除外し,2回目,3回目の信頼性を検討
した所,ICC(1,1)は0.90となった.また,BAAの結果,2回
目,3回目に系統誤差は含まれず,最小可検変化量の95%信
頼区間は27.1cmであった.
【考察】
1回目の測定結果は2回目,3回目の結果よりも有意に低い
値となった.これは後方への最大ステップという不慣れな運
動であったため,1回目の測定は有意に低い数値になったと
考えられる.しかし,2回目以降の信頼性は系統誤差も含ま
れず,検者内信頼性ICC(1,1)は0.90と高い信頼性を示した.
今後は,転倒との関連など臨床における意義について,デー
タの採用方法を含めて検討する必要がある.
【まとめ】
後方2ステップテストを行う際,信頼性の高い測定を行う
ためには1度練習を行った上で本測定を行うことが推奨され
た.
基本バランス能力テスト・T字杖・シルバー
カー
【目的】
近年,バランス能力評価で基本バランス能力テスト(以下
BBT)が使用されつつある.屋内歩行自立のカットオフ値
は25点とされているが,補助具使用者は補助具使用下で評価
した方が,臨床的有効性があるのではないかと仮説を立て,
補助具使用下および未使用下でのBBT値の差と,補助具使
用下でのカットオフ値を検討することを目的とした.
【方法】
対象は当法人内老健施設利用者52名(男性23名,女性29名,
年齢79.2±8.4歳).歩行補助具と自立度の内訳はT字杖歩行自
立13名,監視14名.シルバーカー歩行自立14名,監視11名で
ある.重度の認知症,高次脳機能障害により動作を理解でき
ない者は除外した.歩行補助具の使用と未使用BBTの平均値
を算出し,自立と監視群間の有意差をMann-Whitney U-test
で求めた.補助具使用BBT項目は,立位姿勢・動作に関わ
る部分とし,感度と特異度を用いてカットオフ値を求めた.
対象者にはヘルシンキ宣言に沿い研究の旨を説明し同意を得
た.
【結果】
T字杖歩行自立群の歩行補助具使用BBT39.7±4.9点,未使
用BBT24.3±6.7点.監視群の補助具使用BBT31.3±1.8点,未
使用BBT23.2±4.1点.シルバーカー歩行自立群の歩行補助具
使用BBT48.3±1.6点,未使用BBT23.9±6.3点.監視群の補助
具使用BBT39.1±5.4点,未使用BBT21.2±6.0点であった.補
助具使用BBT値はT字杖,シルバーカーの両者ともに自立と
監視に有意差を認めた(p<0.05)が,未使用の群間の比較で
はほぼ同値で有意差は得られなかった(NS)
.
歩行補助具使用BBTの自立群と監視群間の感度と特異度は,
T字杖は36点で感度89%,特異度87%,シルバーカーは46点
で感度87%,特異度84%で判定性が最も高かった.
【考察】
T字杖,シルバーカーを使用したBBT値で自立判定を行な
うことに有効性を持つこと,および高精度の判定性を得られ
たT字杖の36点,シルバーカーの46点が屋内歩行自立のカッ
トオフ値になり得る事が示唆された.
-22-
O-039
O-040
KS measureを用いた健常者における脛骨の前方
移動距離の検者内・検者間信頼性
起立動作において大腿前傾角度変化量は骨盤及び下
腿角度変化量による影響を受けるか
志賀江莉 1)・小澤琢也 2)・岩本 航 3)
関田惇也・豊田裕司・萩原耕作・湯田健二
医療法人 誠馨会 新東京病院 リハビリテーション室
藤仁会 藤村病院 リハビリテーション科
3)
社会福祉法人 仁生社 江戸川病院 スポーツ医学科
海老名総合病院
key words
key words
1)
2)
脛骨の前方移動距離・KS measure・信頼性
【目的】
脛骨の前方移動距離(Anterior Translation Of The Tibia:
ATT)は大腿骨に対し脛骨がどれだけ前方に移動したかを
意味し、近年膝の安定性を見る指標として用いられている。
ATTが大きいと前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:
ACL)損傷の発生リスクが高まることが報告されている。
ATTを測定する方法としては主観的な評価とKT2000を用い
たものがあるがKT2000は予測値を測定する器具である。そ
こでATTの実測値を測定できるKS measureが開発された。
しかし、KS measureの測定における再現性および検者の性
別や臨床経験による違いを調査したものはない。そこで本研
究では検者内信頼性・検者間信頼性を調査しKS measureが
臨床的に有用な機器であるかどうかを検討した。
【方法】
対象は健常者66人(男性20名、女性44名)の膝関節130膝。
対象者の年齢はACL損傷リスクが高い20歳から39歳までと
した。測定機器はKS measureを用いて30IbfでATT(単位:
mm)を少数点第1位まで測定した。測定に関しては臨床経
験3年目の男性理学療法士Aと臨床経験1年目の女性理学療法
士Bの2人で行い、1膝に関してATTを3回測定した。検者A、
Bの測定順は交互に行い、検者内・検者間信頼性を検討した。
統計手法はSPSS ver.21を用いて検者内・検者間の級内相関
係 数(Intraclass Correlation Coefficient:ICC) を 求 め た。
本研究はヘルシンキ宣言に準拠し研究協力者の人権について
配慮し行った。
【結果】
検者AにおけるATTの平均は6.3±2.2mmで検者Bにおける
平均は6.1±2.3mmであった。また検者Aの検者内:ICC(1, 3)
は0.998。検者Bの検者内:ICC(1, 3)は0.997。検者A、Bの
検者間:ICC(2, 3)は0.978であった。
【考察】
KS measureは検者内・検者間ともにICCが0.9以上で優秀
な成績となり高い信頼性があると言える。今回の結果より検
者の性別、経験年数問わず、臨床において高い再現性で
ATTを測定できる機器であることが証明された。
起立動作・角速度計・大腿前傾運動
【目的】
我々は,先行研究にて,起立動作最終域における膝関節回
旋運動に対して,大腿前傾運動に伴う角度変化量が影響する
と報告したが,角度変化量に影響する要因については不明で
あった.そこで,本研究は,骨盤及び下腿の運動に着目し,
大腿前傾角度変化量に対する骨盤及び下腿角度変化量の影響
に関して,角速度計を用いて検討することとした.
【方法】
対象は健常成人21名(26.3±4.0歳,性別:男16名,女5名)
とした.測定課題は座位からの快適速度での起立動作とし
た.測定には無線モーションレコーダー(MicroStone社製)
を使用し,骨盤,大腿,下腿の角速度を計測した.本研究は
ヘルシンキ宣言に基づき,同意を得て行った.
起立動作の全周期を大腿前傾運動開始時から終了時までと
定義した上で,全期間を100%とし,5%毎の角速度の平均値
を算出した.その後,5%毎の角度変化量を求め,開始時か
ら各時期まで加算し,時期ごとの角度として求めた.値は前
傾を正とした.
動作開始時,骨盤最大前傾時,下腿後傾開始時,動作終了
時の間の期間をそれぞれ1相から3相に分け,各相にて,骨盤,
大腿,下腿の角度変化量を算出した.そして,算出した大腿
角度変化量と,骨盤,下腿角度変化量の相関分析を行った.
有意水準は5%とした.
【結果】
1相では骨盤角度変化量(p<0.05,r=0.502)に相関を認
め,下腿角度変化量には認めなかった.
2相では骨盤角度変化量(p<0.01,r=-0.933)下腿角度変
化量(p<0.01,r=0.773)に相関を認めた.
3相では骨盤角度変化量(p<0.01,r=-0.567)に相関を認め,
下腿角度変化量には認めなかった.
【考察】
各相において,骨盤前傾角度,後傾角度変化量が大きいほ
ど,大腿前傾角度変化量も大きくなることが示唆された.ま
た,骨盤後傾及び下腿前傾が起きる相では,下腿前傾角度変
化量が大きいほど,大腿前傾角度変化量も大きくなり,この
相では骨盤前傾及び下腿前傾の二つの要因が大腿前傾角度変
化量に影響を及ぼすことが示唆された.
-23-
O-041
O-042
長時間VDT作業における姿勢戦略~頭頸部傾斜と
骨盤傾斜に着目して~
当院リハビリテーション科スタッフにおける移動・
移乗の介助技術向上を目指した取り組み 第2報
内藤健太 1)・神崎智大 1)・石田智子 1)・橋川拓史 1)・
寺門 淳 2)
小野雅之
AMG 桜ヶ丘中央病院 リハビリテーション科
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所
2)
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所 PhD/
MD
1)
key words
VDT作業・頭部前方傾斜角・骨盤傾斜角
key words
【目的】
パソコン等の画像表示端末(Visual Display Terminal:以
下VDT)作業従事者は、頭部や上肢の位置を変え姿勢を長
時間保持する能力が求められるが、時間推移における姿勢変
化や筋活動について調査したものは渉猟し得ない。そこで本
研究は長時間のVDT作業における姿勢戦略について検討し、
治療介入の一助とすることを目的とした。
【方法】
健常成人男性15名(平均年齢26.8±4.3歳、平均身長171.9
±3.2cm)を対象とした。作業課題は60分間のタイピングゲ
ームとした。作業環境として背もたれのない椅子を使用し、
机上のパソコン配置を規定し、その他は任意とした。作業時
の姿勢評価と筋活動測定を同期して行った。姿勢評価は大転
子、C7棘突起、T9棘突起からの垂線を引き、各ランドマー
クと耳孔を結び作業中の各傾斜角と骨盤傾斜角を測定した。
筋活動は安静時を基準とした腰部多裂筋、最長筋、内腹斜筋、
外腹斜筋の筋電図積分値を算出した。安静座位・課題開始・
30分・60分において姿勢戦略のタイプ分類を行い、その傾向
について調査した。また、ヘルシンキ宣言に基づき対象者に
説明と同意を得た上で行った。
【結果】
耳孔は常に各ランドマークより前方にあり、時間推移に伴
い前方化は増大した。また、骨盤前傾が優位な者は多裂筋の
筋活動が高値を示し、後傾が優位な者は低値を示した。
【考察】
時間推移に伴う頭頸部前方傾斜には一定の傾向が見られた
が、骨盤傾斜は2つのタイプに分かれた。骨盤前方傾斜をす
る者は頭頸部への屈曲モーメントに対し多裂筋が作用してい
ると考える。骨盤後方傾斜をする者は各体節を基軸に対し前
後に移動する姿勢戦略を取るが、筋活動が低値を示すため、
長時間作業により後方支持組織への応力集中が推測される。
以上より、VDT作業従事者の座位姿勢評価を行う際には骨
盤、頭頸部の傾斜の相対性を評価し、それに合わせた介入・
環境設定が重要であると考える。
移動・移乗・平均参加回数
【はじめに,目的】
AMGでは、患者や利用者の自立支援のために、対象者に
とって過不足のない移動・移乗の介助を提供することが求め
られており、この課題に対する取り組みを第32回関東甲信越
ブロック理学療法士学会で発表した。この取り組み(以下前
回)では参加者の平均参加回数が少ないという課題が残った
ため、平成25年度(以下今回)に対策を講じた結果、参加回
数に増加が見られたので報告する。
【方法】
告知により集まったリハスタッフ16名に対し実技講習会、
動画を用いた症例検討会を行い、アンケート調査を行った。
実技講習会はAMG内研修と平成24年度開催の「理学療法士
による移動の介助」の内容とした。期間は平成25年9月から
毎週水曜日全12回、18時から1時間とした。アンケートは講
習会開始前と修了後に行い、質問内容は移動・移乗の介助を
提供することへの不安や他職種に対して指導する自信の有無
等とした。アンケート結果をFisherの直接確率法により検討
し、有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
参加者に研究内容を文書にて説明し同意を得た。
【結果】
前回の参加回数は全10回中平均が3.36回にとどまってい
たが、今回は全12回中平均が7.43回まで増加した。アンケ
ートでは講習会前に、移動・移乗の介助に不安を感じている、
安全に介助が行えているかの問いでの否定回答が有意に多か
った。講習後は、症例検討は有意義だった、講習会は必要、
内容に満足したという肯定回答が有意に多かった。
【考察】
参加回数増加の要因としてはスケジュール調整をしたこ
と、症例検討会を行ったことが挙げられる。症例検討会は普
段自らが抱えている悩みを共有でき、問題解決もしやすくな
り、参加意欲を向上させるためには有効だったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
この取り組みへの参加回数を増やしスタッフの技術向上が
得られることが、患者や利用者の自立支援に繋がるものと考
えている。
-24-
O-043
O-044
特別支援教育の訪問教育における理学療法士と教員
との相互理解に基づく協働のあり方について
介護老人保健施設における運動療法機器買い替えに
ついての経緯報告
鈴木 哉 1)・吉田泰江 2)
山口翔平
神奈川県立三ツ境養護学校
神奈川県立相模原養護学校
医療法人社団和風会 介護老人保健施設メディケアイースト リハビリテーション科
1)
2)
key words
特別支援学校・重症心身障害児・多職種連携
key words
【目的】
在宅で生活する重度重複障害を有する児童生徒への特別支
援教育の訪問教育では、理学療法士(以下PT)が教員と協
働する役割も重要である。本演題では、訪問教育を受ける児
童生徒の課題に対して、どのようにPTと教員が各々の専門
性を理解しながら、日常的な同僚として連続性をもって発展
的に協働できるかを示す。
【方法、症例】
PTと担任(以下MT)は、訪問教育前後に授業中の生徒の
様子を映像と授業記録から分析し、授業内容と授業へのPT
評価の活かし方を確認した。その後授業にて教育効果を確認
した。事例生徒は、小学校3年生在籍時に「小脳出血による
遷延性意識障害」と診断を受け、中学部より特別支援学校肢
体不自由教育部門へ入学し訪問教育を受ける。訪問教育開始
時の横地分類(改定大島分類)はB1、GMFCSレベル5であ
った。PTは2012年度訪問教育全49回のうち3回、各回約2時
間の授業に同行した。授業中は生徒の身体的負担に留意し
た。
【倫理的配慮、説明と同意】
本発表にあたり、保護者、学校長、関係教員に発表主旨、
内容について承諾を得た。
【結果】
MTはPTとの協働により、生徒の達成感、主体性をより
活かす授業を行った。生徒は適切な環境下で感覚、運動に気
づき、自発運動を増やした。
【考察】
重度重複障害を有する児童生徒の訪問教育では、(1)個別
学習の利点を活かし児童生徒の反応を心身共に観察し把握す
ること(2)児童生徒の自発的な動きを拾い、意味づけを教
員と児童生徒が協働で行うこと(3)家庭生活に変化を起こ
す場であることを意識する。(1)~(3)を活かす為のPTと教
員の専門性を融合した関わりは、「子どもに寄り添う」教育
の視点に有益と考えられる。
【理学療法としての意義】
1.日常的に教員の専門性を理解した上で理学療法の理論を
教育分野に反映させること2.訪問教育との協働を通して、在
宅の重度重複障害児の主体性を尊重しながら安心・安全な教
育、地域医療、福祉に寄与できる意義がある。
介護老人保健施設・パワーリハビリテーショ
ン・運動療法機器
【目的】
当施設は開設以来パワーリハビリテーションをサービスと
して提供している。運動療法機器を使用した機能訓練を入所
利用者と通所利用者に提供している。今回、使用していたロ
ーイングマシン、トレッドミル、エアロバイク、ニューステ
ップの運動療法機器の買い替えを行う上で台数や機器の選定
の依頼が所属施設からあった。運動療法機器の選定、台数の
決定を稟議作成に結び付け買い替えに至るまでを経験する機
会を得たので以下に報告する。
【方法】
調査期間は平成26年2月1日~平成26年2月28日。対象者は
期間中に当施設に入所している在所者数147名と通所してい
る通所登録者数201名の合計348名。対象者が使用しているロ
ーイングマシン、トレッドミル、エアロバイク、ニューステ
ップの使用状況を調査した。調査方法は利用状況管理表から
営業時間(9:00~17:00の8時間)と各曜日の使用状況を調
査し提案した。上記4種類の運動療法機器の台数の選定する
ための判断材料として買い替えのための稟議書を作成し施設
側へ提案した。
【倫理的配慮】
個人情報保護とヘルシンキ宣言に基づいている
【結果】
ローイングマシン0台、トレッドミル2台、ニューステップ
3台、エアロバイク3台を新規買い替えを提案とした。ローイ
ングマシンは考慮した結果新規買い替えの提案に至らなかっ
た。
【考察】
今回の経緯について身体機能の評価や日常生活活動の評価
のみでなく、環境因子、運動療法機器の情報収集など多くの
情報を統合と解釈させることが重要であると考える。利用状
況を把握し、その内容を客観的に数値化することも稟議書作
成に生かすためには重要であると考える。
【まとめ】
運動療法や物理療法を用いて失われた身体の機能を取り戻
す治療を提供することだけでなく稟議書作成において理学療
法士の専門的な情報収集が生かされた。稟議後トレッドミル
2台、ニューステップ3台、エアロバイク3台を新規買い替え
に至った。
-25-
O-045
O-046
車椅子レンタル制度の運用を開始して
肩関節疾患症例における肩関節機能とQOLとの関
係性についての検討
北郷仁彦・田中康之
島村知生・松澤啓之
千葉県千葉リハビリテーションセンター
社会福祉法人 太陽会 安房地域医療センター リハビリテ
ーション室
key words
車椅子・レンタル・運用
key words
【目的】
当センターでは平成24年11月から成人病棟にて車椅子のレ
ンタル制度を開始した。本調査は運用状況等を調査し、より
効率的な運用方法を検討することを目的とする。
【方法】
当センターでは成人病棟110床に対し、評価用で入院直後
に使用する車椅子を2機種40台常備している。評価が終わる
とカタログ記載の59機種から、車椅子を選定し個別にレンタ
ルしている。レンタルを依頼する際に記入する依頼票から平
成24年11月から1年間の個別レンタルの利用状況を調査した。
また理学療法士(以下、PT)24名を対象にレンタル制度に
なって良い点、悪い点について自由記載形式でアンケート調
査を実施した。倫理的配慮:本調査は事業評価の一環で実施
した。PTには本調査について口頭で説明し、回答をもって
同意を得たものとした。
【結果】
依頼票から165名の車椅子利用者に23機種185回の個別レン
タルが行われていた。そのうち3機種が20回以上、4機種が10
回以上、2機種が5回以上レンタルされており、14機種は2回
以下のレンタル数であった。アンケートは19名(76%)から
回答があり、良い点67件、悪い点64件の記載があった。記載
内容は、良い点では27件が「利用者への適合の向上」、12件
が「管理に要するマンパワーの削減」、8件が「安全・衛生面
の向上」に分類された。悪い点では27件が「運用の困難さ」
、
20件が「選定・調整における技術不足」、8件が「管理の困難
さ」に分類された。
【考察】
アンケートからレンタル制度により適合・安全衛生面で利
用者利益が向上した一方で、レンタル制度運用の困難さや選
定・調整に困っている状況が明らかになった。本調査で、車
椅子の選択肢59機種中5回以上レンタルされた機種は僅か9機
種であり、比較的固定した機種がレンタルされる傾向が明ら
かとなった。今後は選択肢を絞り車椅子選定におけるPTの
負担を軽減するとともに、レンタル手続きを簡素化する等、
運用面での改善を図る必要がある。
肩関節疾患・肩関節機能・QOL
【目的】
当院外来理学療法通院中の肩関節疾患一症例に対し、肩関
節機能とQOLとの関係性を調査する。
【対象および方法】
対象はX年当院整形外科受診、左肩関節周囲炎の診断で外
来理学療法処方された50歳代女性。方法は自動関節可動域評
価(肩関節・肩甲上腕関節屈曲、C7-母指間距離)、総合的
評価として肩関節JOA、パフォーマンス評価としてASES、
QOL評価にはSF-36v2(身体的・精神的サマリースコア)を
用いた。評価項目は初診時より1ヵ月毎に計4ヵ月間データを
取り、可動域評価、JOA、ASES、SF-36v2を比較検討した。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき、調査の趣旨・内容について十分
に説明し、同意を得た。
【結果】
可動域は肩関節屈曲初期125°→4ヵ月目170°、肩甲上腕関
節屈曲90°→125°
、C7-母指間距離45cm→25cm、JOAは57→
89.5、ASESは41.66→73.3、VAS7→3、SF36v2は身体的サマ
リースコア141.7→155.2、精神的サマリースコア137.6→162.1で
あり、初期と4ヵ月時点の比較でいずれも改善を認めた。
【考察】
本症例の初期介入時の主訴は、夜間痛・挙上障害・結帯障
害であった。本症例の疼痛改善・挙上可動域拡大・結帯可動
域拡大に則した理学療法プログラムを実施したことで、ROM・
疼痛・JOA・ASES・QOLスコアの改善に至ったと考える。
本症例に関して、主訴である動作を保障する機能制限を理学
療法により改善したことが、QOLスコア改善に影響した可能
性が考えられた。
【まとめ】
肩関節周囲炎一症例に対し、肩関節機能とQOLとの関係性
について調査した。本症例の肩関節機能とQOLスコアは初
期と4ヵ月時点での比較ではいずれも改善を認めた。本症例
における肩関節機能改善はQOL改善の一因となった可能性
が考えられた。今後は症例数を増やし、肩関節機能とQOLと
の関係性の調査を進めていく。
-26-
O-047
O-048
左肩人工骨頭置換術後の症例を経験して
復職に挙上位での動作を必要とする上腕骨近位端骨
折を呈した高齢女性に対する理学療法介入報告
秋山健二
井手一茂 1)・長澤康弘 1)・高木竜児 1)・堀山祐史 1)・
竹内由夏 1)・森田良平 2)
医療法人SHIODA 塩田病院 リハビリテーション科
医療法人社団誠和会 長谷川病院 診療部 リハビリテー
ション科
2)
医療法人社団誠和会 長谷川病院 診療部
1)
key words
人工骨頭置換術・挙上動作・代償動作
key words
【はじめに】
人工骨頭置換術の目的は疼痛の軽減・関節機能の向上であ
る。手術によって再建された構造を壊さないよう早期に正常
な関節可動域(以下ROM)を獲得することと構造に適した新
しい運動学習をすることである。今回、挙上動作獲得(肩関
節屈曲90°以上)に難渋した症例を経験したので以下に報告
する。症例には、説明と同意を得て行っている。
【症例】
70歳代女性、平成25年8月26日、転倒受傷。左上腕骨脱臼
骨折にて入院(Neer分類3parts大結節の破綻有り)。9月4日、
左肩人工骨頭置換術施行。術後7ヶ月時点において、週1~2
回の外来リハビリ継続中である。
【経過】
術後6週目よりactiveROM訓練を開始となった。術後6週
目のactiveROMは、屈曲40°外転30°外旋-15°。挙上時にお
いて肘関節屈曲運動や肩甲骨の過度な挙上運動及び体幹の伸
展・対側への側屈運動といった代償動作が出現していた。術
後7ヶ月時点のactiveROMは、屈曲80°外転60°外旋5°
。前述
した挙上時においての代償動作は減少しているが術後4ヶ月
頃よりactiveROMに著変ない。在宅生活において疼痛はな
く炊事以外は自立レベルである。
【考察】
外旋機能低下が著明である為、挙上制限及び代償動作が出
現した。運動療法時に背臥位で施行後、座位へと移行してい
たが傾斜台を使用し少しずつ重力をかける方法を選択してい
れば肩甲骨の動きを認知しやすく誤った代償動作を早期に改
善できたのではないかと考える。また、セラバンドを用いて
外旋筋群の求心性収縮を目的に筋力訓練を施行したが、三角
筋の収縮が強く代償動作を助長したと考えられる。早期に無
負荷で適切な刺激を意識させ段階的に運動を進める必要があ
ったと考える。
【まとめ】
挙上動作には腱板機能や肩甲胸郭関節の機能が必要であ
る。機能獲得の為に施行する運動は、適切な負荷や方法であ
るかを考慮することや代償動作を助長せずに改善できている
かを確認し運動を進めることが大切と考える。
上腕骨近位端骨折・高齢女性・理学療法
【はじめに】
今回,復職に際し,挙上位での動作を必要とする70代後半
の女性に対し,理学療法介入する機会を得た。本症例におけ
る理学療法評価,経過を以下に報告する。
【症例紹介】
現病歴は,X年Y月上旬に転倒にて受傷し,X-pにて上腕
骨外科頚2-part外反陥入骨折と診断。医師より,X-pにて仮
骨形成確認後,理学療法指示出るも,本人の都合により,受
傷後5週より外来にて理学療法開始(週2回)。理学療法開始
時,肩から手指の浮腫が残存。肩周囲の軟部組織,骨折部周
辺の安静時痛,圧痛,肩・肘の運動時痛を認めた。背臥位で
の肩屈曲他動ROMは75°
であった。座位にて,頭部前方偏位,
胸椎後彎増強,肩甲骨拳上,外転,上方回旋位,前傾を呈す
る不良姿勢を認めた。職業は上肢拳上位での動作が必要な洗
濯業務であった。
【説明と同意】
対象者には本報告の内容,個人情報の保護について,文書
及び口頭で説明し,同意を得た。
【理学療法経過】
受傷後5週より,物理療法,浮腫対策,肩ROM Exを行っ
たが,最終域での疼痛,違和感の訴え強く,屈曲ROMの改
善もあまりみられなかった。そのため,受傷後8週より,林ら
が考案したstooping exを参考に側臥位での肩甲骨操作によ
るROM Exを開始した。結果,受傷後10週には,背臥位での
肩屈曲他動ROMは135°と改善がみられ,受傷後14週で洗濯
業務にて右上肢を使用した作業が可能となった。介入後,胸
椎,肩甲帯の不良姿勢の改善もみられた。
【考察】
先行文献と比較し,理学療法開始が遅延していたが,肩
ROM改善がみられた。経過より骨折部に負荷をかけない肩
甲骨操作によるROM Exが効果的だったと考えられる。ま
た,胸椎・肩甲帯の不良姿勢の変化から,肩ROM改善には
肩甲骨・胸椎の可動性改善の寄与も大きいと推察される。
【まとめ】
理学療法開始が遅延した上腕骨近位端骨折の症例に肩甲骨
操作によるROM Exを行うことで,良好な治療成績を得るこ
とができた。
-27-
O-049
O-050
肩関節脱臼後に腋窩神経麻痺を伴った腱板広範囲断
裂に対して保存療法を選択した一症例
結帯制限に対し骨盤・脊柱アプローチにて改善の見
られた一症例
加藤邦大 1)・高間省吾 1)・鈴木 勝 1)・藤田耕司 2)
小泉香織
医療法人社団 誠馨会 千葉メディカルセンター リハビ
リテーション部
2)
医療法人社団 誠馨会 千葉メディカルセンター 整形外科
松戸整形外科病院 リハビリテーションセンター
key words
key words
1)
腋窩神経麻痺・腱板広範囲断裂・保存療法
【はじめに】
肩関節脱臼後に腋窩神経麻痺を伴った腱板広範囲断裂に対
して保存療法を選択した症例を担当したので報告する。発表
にあたり症例には十分に説明し、同意・承諾を得た。
【症例紹介】
75歳女性、主婦。某年12月旅先で転倒し右肩関節脱臼。近
医にて整復、その後MRIにて腱板断裂認め、翌年1月当院紹
介。腱板広範囲断裂、腋窩神経麻痺と診断、保存療法を選択
し、同年2月理学療法処方。主訴は上の物が取れない、更衣、
洗髪動作困難であった。
【理学療法評価及び経過】
開始当初、疼痛は自制内。右上腕外側に感覚鈍麻、右三角
筋MMT1、右肩関節可動域(以下ROM)は自動で屈曲30°
外
転15°であった。腋窩神経麻痺を考慮し、上肢下垂位による
神経への牽引ストレスを防ぐためのADLやセルフエクササ
イズを指導するとともに他動ROM訓練により拘縮予防に努
めた。同年5月更衣、洗髪動作は両手で行えるようになった
が、挙上初期に肩甲上腕関節の求心位がとれないまま肩甲骨
を挙上、内転する代償が残存していた。右三角筋MMT3-
で他動的に肩関節を屈曲させ、その位置での保持は可能であ
ったため、上肢下垂位のまま体幹を前傾させることで挙上初
期の肩関節屈曲を代償し、その位置から体幹を伸展しながら
肩関節を屈曲する方法を指導すると自動で120°屈曲可能とな
った。
【考察】
腱板広範囲断裂の保存療法では肩甲骨機能や三角筋の重要
性が挙げられている。本症例では腋窩神経麻痺を合併してい
たため、まずは回復を期して、腋窩神経への牽引ストレスを
防ぐよう配慮した。その後は腋窩神経の回復に合わせて、挙
上初期の代償運動を修正するために上肢下垂位のまま体幹を
前傾して肩関節を屈曲し、それから三角筋と残存腱板により
肩甲上腕関節の求心性を保つことで代償的に挙上動作の獲得
をはかった。しかし、腱板広範囲断裂の保存療法は経過に伴
い退行変性の進行が指摘されており、十分な説明と同意を得
た上での経過観察が必要である。
結帯動作・肩甲上腕関節・骨盤・脊柱アプロ
ーチ
【はじめに】
今回、左肩関節の痛みによる結帯制限から、着物の着脱が
困難な症例を担当した。肩甲上腕関節(以下GH)の治療に加
え、骨盤・脊柱へのアプローチを実施した所、結帯可動域及
び痛みの改善が見られた為、ここに報告する。
【対象・経過】
49歳女性 診断名:両側疼痛性肩関節制動症 職業:茶道
講師(和服着用)主訴:結帯にて左肩後部に痛みがあり和服
後方の調整が困難 既往歴:左変形性股関節症 経過:2012
年5月発症し他院で8ヶ月治療後、2014年1月当院受診。同日
理学療法開始。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき症例に趣旨を十分に説明し同意を
得た。
【初期評価】
(2014年1月 左を記載)
関節可動域)屈曲105°伸展45°外転80°外旋30°棘指長31.5
cm
整形外科的検査)Hawkins impingement test:陽性(以
下+)水平内転テスト:+ lift off:+
坐位での骨盤後傾方向の可動性・胸腰椎の屈曲・肩甲骨前
傾の可動域制限あり
【治療】
1. 肩後方組織リラクゼーション 2. 肩甲帯・骨盤・脊柱の
協調運動
【最終評価】
(4ヶ月後 左を記載)
関節可動域)屈曲125°
伸展60°
外転90°
外旋55°
棘指長26cm
整形外科的評価)Hawkins impingement test:陰性(以
下‐)水平内転テスト:‐ lift off:軽度陽性
胸郭に対する肩甲骨前傾可動域増加
着物着用にて襟抜き(着物の後方より襟を後ろに引き込む
所作)で疼痛改善
【考察】
諸家の報告では結帯動作制限にはGHの因子と肩甲胸郭関
節(以下ST)の因子が挙げられている。本田らは、結帯時
は肩甲骨の前傾・下方回旋を要すると述べている。本症例は
左GH内旋の痛みに加え、左肩甲骨前傾の可動域制限が見ら
れた。GH内旋の治療だけでは改善が少なく、骨盤・脊柱へ
のアプローチによってST可動性が増加した結果、結帯動作
改善に繋がったと考える。
-28-
O-051
O-052
二次予防事業対象者の主観的健康感と生活機能・運
動機能との関連
介護予防教室参加者の介入による身体機能変化とそ
の満足度
高橋さおり 1)・加藤仁志 2)・入山 渉 3,4)・岡田佳織 5)・
長谷部光洋 4)・蛎崎悠菜 2)・嶋崎陽介 2)・田中聖之 2)・
寺島和希 2)・長谷部藍 2)・羽田 量 2)・鳥海 亮 2)
堀山祐史 1)・長澤康弘 1)・井手一茂 1)・原田直美 1)・
内藤大貴 2)
医療法人社団 誠和会 長谷川病院 リハビリテーション科
医療法人社団 博翔会 五香病院 リハビリテーション科
1)
前橋赤十字病院 リハビリテーション課
2)
群馬パース大学 保健科学部 理学療法学科
3)
群馬パース大学大学院 保健科学研究科 保健科学専攻
4)
ほたか病院 リハビリテーション科
5)
須藤病院 リハビリテーション診療部
1)
key words
2)
key words
主観的健康感・二次予防事業対象者・関連項
目
【目的】
高齢者の生命予後は,自身で感じる健康感が関連すると報
告され(芳賀ら,1991),この自身で感じる健康感を主観的健
康感という.高齢者の主観的健康感と関連がある項目を調べ
た先行研究はいくつかあるが,二次予防事業対象者を対象と
した研究は見当たらない.そこで,本研究は二次予防事業対
象者の主観的健康感と関連がある項目を明らかにすることを
目的とした.
【方法】
介護予防事業に参加した二次予防事業対象者46名(男性16
名,女性30名,75.6±6.6歳)を対象とした.対象者に主観的
健康感,生活機能,運動機能を調査した.主観的健康感は
Visual Analog Scaleを用いて調査した.生活機能は老研式活
動能力指標,Motor Fitness Scale(以下,MFS)で調査した.
運動機能は握力,等尺性膝伸展筋力,長座位体前屈,開眼片
脚立ち時間,Functional Reach Test,Timed Up and Go
Test,5m歩行速度とした.統計学的解析には,統計ソフト
R2.8.1を使用し,主観的健康感を目的変数,生活機能2項目
と運動機能7項目を説明変数とした重回帰分析をステップワ
イズ法にて行った.対象者には研究目的,方法,個人情報取
扱,結果公表方法等を記した紙面を口頭にて説明,同意書へ
の署名にて同意を得て研究の対象とした.
【結果】
主観的健康感に関連する項目として,MFSの合計点のみ
抽出された.標準偏回帰係数は0.42,決定係数は0.17であっ
た.他の項目に主観的健康感との関連はみられなかった.
【結論】
二次予防事業対象者の主観的健康感はMFSと関連がある
ことが明らかになった.MFSは高齢者の生活機能を現す指
標であり,二次予防事業対象者の主観的健康感を向上させる
ために個々の生活を把握し,生活機能に着目し介入していく
ことが必要と考えられた.生活機能に着目し介入することは
要介護状態となる可能性が高い二次予防事業対象者が自立し
た生活を送ることに繋がる.本研究は介護予防事業の内容検
討に有意義であると考えられた.
満足度・介護予防教室・自主トレーニング管
理
【はじめに】
近年、増加する介護認定者への対策として介護予防事業が
実施されている。その一方で、理学療法士が介入した予防教
室における効果とその満足度を調査した報告は少ない。健康
維持には、運動への好感や楽しさ・継続意欲を維持した運動
習慣が必要である。平成25年、我々は市の一次予防事業に参
加・協力した。介入では126bpmの音楽を用いたリズムに合
わせた体操(以下リズミック体操)、運動に関する講義、自
主トレの指示と管理を行った。本研究では参加者の介入結果
とその満足度を報告することを目的とした。
【方法】
対象は市が行う教室に参加し、研究内容を説明の上、参加
同意の得られた男女25名(平均年齢72.7歳±5.5歳)とした。
約30分間のリズミック体操、自主トレに関する講義の内容を
月1回の全3回で行った。教室の開始前には身体機能検査とし
て2ステップテスト(以下2step)、片脚立位を計測した。終
了後には自主トレ維持を促す管理票の配布、教室の満足度、
理解度に関するアンケート調査(5段階1思わない、不満足5
とても思う・満足)を行い、参加者の割合をみた。身体機能
の統計学的処理では介入前後の比較に対応あるt検定を用い、
有意水準を5%とし、統計ソフトJSTATを使用した。
【結果】
運動機能は2 stepで1.34±0.12から1.46±0.12と有意差(p<
0.01)を認めたが片脚立位で53.9秒±43.1秒から58.5秒±45.4
秒と有意差(p<0.39)を認めなかった。教室の講義理解度・
満足度・運動継続は4以上で100%であった。
【考察】
リズミック体操は2stepより有意に向上し、片脚立位では
有意差を認めなかった。その理由として体操はステップを数
多く取り入れ静的バランスよりも動的バランス機能向上が見
込めたと考える。3回の介入で効果が出たのは自主トレの管
理を行ったため教室の満足度・理解度は高い数値を示したと
考える。
-29-
O-053
O-054
訪問リハビリテーションを利用する在宅要介護者の屋
内生活空間の身体活動と生活意欲,動作能力との関連
短時間型通所リハビリテーションの効果
岡元祐樹 1)・角田賢史 1)・林 克郎 2)
大沼 剛 ・橋立博幸 ・張 振志 ・阿部 勉 ・
井口大平 3)・齋藤崇志 4)・柴 喜崇 5)
1)
2)
1)
1)
医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会病院
岩崎学園 横浜リハビリテーション専門学校
1)
2)
板橋リハビリ訪問看護ステーション
杏林大学保健学部理学療法学科
3)
浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション部
4)
訪問看護リハビリテーションネットワーク
5)
北里大学医療衛生学部
1)
2)
key words
在宅・身体活動・生活意欲
key words
【目的】
地域在住の要支援・要介護者における自宅屋内の身体活動
遂行には,日常生活動作能力とともに生活活動に対する意欲
が関わると考えられる.本研究は,在宅要支援・要介護者の
屋内生活空間における身体活動と生活意欲および動作能力と
の関連について検討することを目的とした.
【方法】
対象は,訪問リハビリテーションを利用する在宅要支援・
要介護者54人(平均年齢80.4±7.8歳)であった.本研究は,
北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得るとと
もに,研究概要を対象者または家族に対して事前に口頭と書
面にて説明し,同意を得て実施した.全対象者の屋内生活空
間における身体活動(home-based life-space assessment
(Hb-LSA)),生活意欲(vitality index(VI)),日常生活動作
能力(functional independence measure(FIM),運動FIM,
認知FIM)を調査した.Hb-LSAは,過去1か月間において,
自宅屋内を中心とした生活空間を移動または活動したレベル
と,その頻度および自立度を調べた結果を得点化(得点範囲
0-120点)する指標である.統計解析にて,Hb-LSAとVI,
FIMとの関連を分析した.
【結果】
各指標を調べた結果,Hb-LSA47.6 ± 27.2 点,FIM90.1 ±
27.0点, 運 動FIM62.1±21.8点, 認 知FIM28.0±7.8点,VI8.5
±1.5点であった.単相関分析では,Hb-LSAとVI(rs=0.355)
,
FIM(rs=0.551),運動FIM(rs=0.627)の間に有意な相関が
認められた.また,Hb-LSAを従属変数,VI,運動FIMを独立
変数,年齢を調整変数とした重回帰分析(stepwise)を実施し
た結果,運動FIM(偏回帰係数β=0.590,p<0.001, 95%CI=
0.463-1.011,自由度調整済決定係数0.374)がHb-LSAに対す
る有意な関連項目として抽出された.
【考察】
本研究対象のように生活意欲が比較的保たれている高齢者
では,屋内生活空間における身体活動に対して実際の日常生
活動作の自立度が密接に関連する要因になると考えられた.
1時間以上2時間未満・運動機能特化型・介
護予防
【目的】
平成21年度より1時間以上2時間未満の通所リハビリテーシ
ョン(以下短時間型通所リハビリ)制度が開始された。当院
通所リハビリでは、運動機能の維持向上を目標としたトレー
ニングを主体に実施していることから、利用者に対して定期
的に運動機能に関する評価を実施している。今回そのデータ
から短時間型通所リハビリの効果について若干の知見を得た
のでここに報告する。
【方法】
当院通所リハビリ利用者16名
(平成25年8月~平成26年4月)
に対し、握力、膝伸展筋力、5m歩行速度、Timed up and
Go test(以下TUG)
、functional reach(以下FR)を実施し、
初回利用時と2ヵ月後を比較した。内訳は男性7名、女性9名。
介護度は要支援1:8名、要支援2:2名、要介護1:3名、要介
護2:2名、要介護3:1名。疾患は運動器疾患12名、脳血管疾
患4名。年齢66~92 平均77歳であった。また、今回の調査
に関して利用者には口頭・文書にて説明し同意を得た。
【結果】
平均値の値が、膝伸展筋力+115%、5m歩行速度+117%、
TUG+119%と上昇を認め、有意に改善した。握力、FRの
値は有意差なしであった。
【考察】
今回の結果では膝伸展筋力、5m歩行速度、TUGといった
歩行能力に関する数値が有意に改善した。この結果の背景に
は、利用時間のほぼすべてを運動に費やせるという点や、全
利用者に20分の個別リハビリを行っているという点が歩行能
力に良い影響を与えたのではないかと考える。
【まとめ】
当院短時間型通所リハビリ利用者の運動機能評価の推移を
調査した。短時間型通所リハビリは運動に特化した介入が可
能であるため、運動意欲の高い利用者や回復途上で個別のセ
ラピスト介入が必要な利用者に対してニーズに沿った介入が
できる。短時間型通所リハビリの利用者の多くは介護度が低
く、運動機能トレーニングの対象となりやすいため、評価に
基づいた適切な介入により介護予防の効果が期待できる。
-30-
O-055
O-056
在宅中高年介護者の体重支持指数と介護負担感との
関連について
保健福祉複合施設での理学療法士の役割について
~現在までの実績と今後について~
山岡郁子 1)・長田久雄 2)・新野直明 3)・杉澤秀博 2)・
藤井 顕 1)・内山田悟朗 1)・中邑まりこ 1)・高橋 聡 1)・
國井佳代子 1)
井出友洋
軽井沢町 国民健康保険 軽井沢病院 リハビリテーション科
藤リハビリテーション学院 理学療法学科
桜美林大学大学院 老年学研究科
3)
桜美林大学 加齢・発達研究所
1)
2)
key words
在宅中高年介護者の体力・体重支持指数・介
護負担感
key words
【研究背景】
1980年Zaritが介護負担感を定義して以降、家族介護者の
負担感要因についての研究がされてきた。介護負担感とは、
要介護者のADL、介護者の有職率、介護時間の長さ、拘束
時間、認知症の有無、などが関係するといわれているが、介
護者の身体的な要素を変数として投入された研究は少なく、
理学療法分野ではさらに少ない。厚生労働省は理学療法士が
健康増進や介護・転倒予防事業に積極的に関与してもよいと
したが、介護者の健康についてはあまり取りざたされていな
い。健常介護者ありきでのシステム構築では、在宅介護を含
めた地域生活が維持困難となる危険性を有すると考え、今回
は介護者の体力について調査を行い基礎資料としたいと考え
た。仮説は介護者の体力の1指標であるWBIが、介護負担感
に影響を与えている、とした。
【方法】
桜美林大学倫理審査委員会番号13006で承認を受け2013年8
月から同年12月までの期間で、承諾を得た方から指定された
日時・場所で、同意書を得て調査した。データは研究責任者
の外部接続できないHDに保存しており終了時には消去する
予定である。千葉県・東京都の地域包括支援センターで承諾
を得た11施設の代表者の紹介で在宅介護をしている40歳以上
の中高年者を選定してもらい、参加中止基準にあたらない合
計31名に本人の体重支持指数Weight bearing index(WBI)
と、介護負担感に関する調査を実施した。介護負担感はFunctional Imdependence Measure(FIM)の各介護項目につい
て負担を感じる程度を5件法にて点数化し、WBIとの関連を
みた。
【結果】
在宅介護者の平均WBIは0.31±0.110であり、負担感合計へ
の影響は見られなかった。しかし、項目別にみた場合は、セ
ルフケアに関する介護についてWBIの影響がある傾向が見
られ、年代別では80歳代WBIと移乗に関する負担感では相
関係数-0.775で高い負の相関が見られた。
保健福祉複合施設・理学療法士・個別運動指
導
【はじめに】
平成19年より軽井沢町保健福祉複合施設において理学療法
士が個別に運動の指導等を行っている。そこで当施設での個
別指導の実績と今後の展望について報告する。
【方法】
個別指導における月別絶対人数平均、男女比、平均年齢か
ら分析する。また利用者のうち長座前屈と握力左右平均の半
年後の再測定可能であった14名(男性3名、女性11名)につ
いて分析する。
【結果】
月別絶対人数平均は平成20年度56.1±8.6人から平成25
年度は60±9.5人と増加した。男女比は毎年男性が3割強、
女性が6割強である。平均年齢も平成20年度67.1±1.7歳か
ら平成25年度69.5±0.7歳と増加傾向である。また再測定
した14名は膝疾患4名、腰部疾患8名、無疾患2名、長座前屈
の増加者13名、握力左右平均の増加者11名であった。
【考察】
個別指導は病院リハビリ終了者や個別指導の希望がある人
に対して運動プログラム作成と指導を行っている。月別絶対
人数平均も増加し夏場は多く冬場は減少傾向となる。平均年
齢も増加しており、初期からの継続者が多いことが推測され
る。利用者も女性が多く、男性への運動の啓蒙が今後の課題
となる。再測定可能な利用者も有疾患は下半身が多く、腰部
から下肢の運動が中心となり、測定値の増加になったと考え
られる。健康増進施設に理学療法士が常駐することで、より
安全で効果的な運動の指導、また疾患がある場合には早期に
町内の病院に誘導できるなどの対策ができ、各町内の連携施
設への架け橋的な作業を行うことで町内での効率的な健康増
進活動の一助になると考えられる。今後の展望として、現在
腰部術後2週間で入院リハビリを終了し、健康増進施設での
運動指導を行っている症例がいるため、同様の症例が増加す
ることで適切な医療費の削減の一助になると考えられる。
【まとめ】
保健福祉複合施設での理学療法士の実績と今後の展望につ
いて報告した。
-31-
O-057
O-058
重度被殻出血を呈し歩行自立に至った症例―画像所
見に基づいた治療介入を通して―
ロボットスーツHAL®による回復期脳卒中患者一例
の歩行速度改善について~練習時速度条件の違いに
よる変化~
澤本陽平
川木雅裕
社会医療法人河北医療財団 河北リハビリテーション病院
医療法人鉄蕉会 亀田メディカルセンター
key words
key words
被殻出血・予後予測・画像所見
【はじめに】
今回,広範な被殻出血を認めた症例に対し,画像所見に基
づいた予後予測から治療介入を進めた結果,独歩獲得に至っ
た症例を経験したため,ここに報告する.
【症例紹介】
50代男性.左被殻出血による右不全片麻痺の診断.MRI画
像上,出血の中心は被殻周囲だが,高さは中脳レベルから皮
質レベルまで至っており,広範な血腫を認めた.発症当初の
Br.Stageは上下肢ともにIであり,重度の感覚障害を認め,
基本動作やADL動作は全般重介助であった.当院回復期病
棟へ転院した20病日目では,脳室の圧迫が解消された他,血
腫は被殻,淡蒼球,尾状核にかかる程度まで吸収された.Br.
Stageは上肢II,手指I,下肢IIであり,基本動作は軽介助と
なった.その後48病日目では画像上血腫は被殻周囲に残存す
るだけで,ほぼ認めなくなった.Br. Stageは上肢III,手指
III,下肢Vであり病棟内歩行と日常生活動作は自立となった.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿って事前に研究の主旨の説明を行い,
同意を得た.
【介入方法】
発症初期は広範な脳出血を認めていたが,当院転院時には
血腫の範囲が限局されてきていた.特に皮質脊髄路の経路で
ある内包後脚の圧迫が減少していたことなどから,長下肢装
具を使用した積極的な歩行介入を図った.また早期より下肢
の筋出力を重視し,支持物を使用しないような治療プログラ
ムを施行した.
【考察】
水上らは被殻出血の予後は,内包後脚の障害が軽度の場合
良好であると述べている.本症例では発症当初からの画像所
見の経過より,内包後脚の圧迫が減少したことから今後歩行
ベースでの生活が可能と考えられた.早期からの積極的な歩
行介入が脳の下肢領域における可塑性を促通し,歩行自立に
至ったと考えられる.このように画像所見と身体機能の変化
から予後予測を行い,理学療法介入を行うことがさらなる機
能回復を促すものと考えられる.
ロボット・脳卒中・歩行速度
【目的】
近年,ロボティクスが臨床研究で取り上げられるようにな
ってきているが,その使用法を示した報告は未だ少ないよう
に思われる.今回,当院で使用しているCYBERDYNE社の
ロボットスーツHAL福祉用®(以下,HAL)を用いて,歩行
練習中の速度の違いが練習後の速度に及ぼす影響を脳卒中一
例で検討した.
【方法】
使用物品はHAL単脚型を使用し,転倒予防のために免荷機
能付歩行器を使用した.1回の実質歩行時間は20分で,歩行距
離は400mとした.初回はHAL装着下でのComfortable speed
での歩行練習(以下,HAL練習C)
(1),2日後にHAL装着下
でFast speedでの歩行練習(以下,HAL練習F)
(1)を実施
し,その2日後にHAL非装着下で速歩での練習(以下,速歩)
を実施した.その後2週間経過観察し,再度HAL練習C(2)
を実施,2日後にHAL練習F(2)を実施し,2週間経過観察
を行った.なお,HAL練習Fでは,HAL練習Cの約1.2~1.5倍
の速度で過剰努力とならない程度でその都度調整した.評価
として,各介入前後で10m歩行テストを行い,最大歩行速度,
歩数,ケイデンスを計測した.また,練習時歩行速度と練習
後最大歩行速度(HAL非装着下)の相関係数を算出した.な
お本研究での介入中は理学療法を並行して進めた.
【説明と同意】
本症例に対し,ヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨に関
する説明を十分に行い同意を得た.
【結果】
歩行速度は実施前0.94m/sec→HAL練習C(1)1.06m/sec→
HAL練習F(1)1.43m/sec→速歩1.27m/sec→経過観察1.45m/
sec→HAL練 習C(2)1.53m/sec→HAL練 習F(2)1.68m/sec
→経過観察1.76m/secであった.練習速度と練習後の歩行速
度には強い相関がみられた(r=0.976)
.
【考察】
本症例は,HAL装着により歩行速度に改善を認めた.HAL
非装着下の速歩よりも,HAL装着下であるHAL練習C(1)や
HAL練習F(1)での速度増加率のほうが高く,さらに練習
時歩行速度と練習後歩行速度の間に高い相関が認められたこ
とから,歩行速度は練習時の速度に依存して改善する可能性
があると考えられる.
-32-
O-059
O-060
脳幹出血にて右片麻痺、運動失調を呈した症例に対
する車椅子処方及びクッション処方~食事動作に着
目して~
脳血管障害患者におけるFES(機能的電気刺激)によ
る治療効果報告~10m最大歩行速度による検討~
野島洋平 1)・啓利英樹 2)・榎本洋司 3)・佐藤広之 1)・
小暮英輔 4)・今井正樹 1)
高野結佳・伊藤貴史
慈誠会 練馬駅リハビリテーション病院
介護老人保健施設 新座園
3)
慈誠会 徳丸リハビリテーション病院
4)
国際医療福祉大学 三田病院
医療法人社団 苑田会 苑田会リハビリテーション病院
key words
1)
2)
key words
脳幹出血・不随意運動・車椅子処方
【はじめに】
本症例は左脳幹出血にて右片麻痺、運動失調を呈しており
安静時には上下肢共にアテトーゼ様不随意運動が出現してい
た。今回上肢の不随意運動に着目し座位安定による短時間で
の食事動作効率向上を目的に車椅子及びクッション処方を行
った。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき今回の症例報告に対する説明と同
意を得た。
【症例紹介】
発症23病日にて本院入院となる。入院当初BRS上肢3、下
肢3、手指4であり表在・深部感覚共に重度鈍麻、右上下肢に
著明な痺れが出現していた。端座位姿勢では体幹運動失調が
出現しており体幹左側屈位、骨盤後傾位、後方重心著明の為
軽介助~監視が必要であった。STEFテストでは非麻痺側
29/100点となった。食事動作は非利き手の左手で行ってい
る。体幹左側屈位となり麻痺側不随意運動、体幹失調が著明
に出現する為非麻痺側前腕を机に付く事で安定性を得てお
り、お茶碗を完食する時間は5分30秒であった。
【介入内容と結果】
モジュラー型車椅子にて座張、背張を調節し骨盤前傾・胸
椎伸展を促し腹部筋が適切な収縮を行えようにした。また、
腕枕を使用し体幹失調にて不安定となっている体幹伸展アラ
イメントを維持できるようにポジショニングを行った。その
結果、車椅子処方から2週間でSTEFテストは非麻痺側43/100、
お茶碗を完食する時間は3分23秒と改善が見られた。
【考察】
本症例は円背により腹部筋が短縮位となっている為体幹失
調も重なり筋収縮が発揮できない状況である。末梢を動かす
際の体幹の先行的な筋収縮が出現しない事で更に不随意運動
が増悪していると考える。今回、車椅子の座張、背張を調節
する事で体幹伸展を促し腹部筋の筋出力が発揮しやすくな
り、体幹失調が減少したと考える。更に腕枕にて体幹安定性
を向上させることで麻痺側不随意運動が減少したと考える。
体幹を安定して保持する事が可能となった為非麻痺側前腕の
固定が外れ食事動作効率向上が図れたと考える。
機能的電気刺激・歩行・脳血管障害
【目的】
物理療法は理学療法の主体の一つであり、電気刺激療法は
脳卒中治療ガイドラインにおいて有用性が示されている。今
回、脳血管障害患者1名に機能的電気刺激(以下FES)を使用
し、10m最大歩行速度(以下10MWT)の変化を認めたため
報告する。
【方法】
対象は脳出血により左片麻痺を呈し、杖と金属支柱付き短
下肢装具(以下AFO)にて屋内歩行が自立している50歳代の
女性とした。FESはバイオネス社製のNESS/L300を使用し
た。通常の理学療法に加えA-B-A方式にて1期をベースライ
ン、2期をFES介入期、3期を判定期として各々5日間10MWT
を計測した。計測条件は裸足とAFO装着の2条件とし、2期
においてFES介入直後に裸足歩行の計測を実施した。統計学
的処理として、各期の歩行速度の平均値について対応のある
t検定を行った。有意水準は全て5%未満とした。統計ソフト
はR2.8.1を使用した。本研究を行うにあたり、ヘルシンキ宣
言に従い対象者に説明と同意を得た。
【結果】
裸 足 歩 行 で は1期27.9±3.5m/min、2期39.5±5.8m/min、2
期(裸足)31.6±3.4m/min、3期31.3±5.3m/minであった。各
期の平均値に全て有意差を認め、1期よりも2期3期共に歩行
速度が向上した。FES装着時は裸足歩行よりも歩行速度が速
かった。AFO歩行では各期の平均値に全て有意差を認めな
いが、3期は1期よりもわずかに歩行速度の向上を認めた。一
方でAFO歩行はFES装着時よりも歩行速度が速かった。
【考察】
FES使用による即時効果と持続効果を認めた。即時効果に
ついては、FESによる筋促通が歩行パターンの改善に繋が
り、歩行速度の向上を認めたと考える。持続効果については、
通常理学療法の併用であった事を考慮する必要がある。ま
た、AFO歩行との差異はあるものの、FESが良好であった
という患者の主観的評価も得られており、FESは治療の有望
な手段として考える事ができる。
-33-
O-061
O-062
回復期脳卒中片麻痺患者における歩行速度と下肢筋
力の関係:シングルケースによる縦断的検討
両側内包後脚梗塞により体幹機能障害・姿勢調節障
害をきたした症例
品川あさみ 1)・立本将士 1,2)・杉田 翔 1)・
小宅一彰 1,3)・近藤国嗣 1)・大高洋平 4)
小方優帆・岡山博信・岡本賢太郎
公益社団法人 地域医療振興協会 横須賀市立うわまち病院
東京湾岸リハビリテーション病院
2)
神奈川県立保健福祉大学 大学院 保健福祉学研究科
3)
信州大学 大学院 医学系研究科
4)
慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室
1)
key words
歩行能力・等尺性膝伸展筋力・徒手筋力計
key words
【目的】
これまでの横断研究において,脳卒中患者の歩行速度は,
非麻痺側よりも麻痺側下肢筋力との関連が強いと報告されて
いる.しかしながら,脳卒中患者の歩行速度と下肢筋力の関
連について,縦断的検討は十分でない.そこで本研究では,
脳卒中患者における歩行速度の縦断的変化に麻痺側と非麻痺
側いずれの下肢筋力が関連するかシングルケースにて検討し
た.
【方法】
対象は,50歳男性,くも膜下出血による右片麻痺,評価開始
時は発症後73日,麻痺側下肢運動機能はBrunnstrom stageIII
であった.歩行速度と下肢筋力の評価は,週約5回の頻度で6
週間,合計25回実施した.歩行速度の評価は,至適速度で
10m歩行を2回実施した.下肢筋力の評価は,徒手筋力計を
使用し,車椅子上にて左右の等尺性膝伸展筋力を3回ずつ測
定した.歩行速度と下肢筋力は,平均値を解析に用いた.統
計解析では,Pearson積率相関係数を用いて歩行速度と下肢
筋力の関連を検討し,有意水準は5%とした.本研究は,対象
者に研究内容の十分な説明後に同意を得て実施した.
【結果】
初回評価から最終評価にかけて,歩行速度は0.14 m/sから
0.55 m/sへ向上した.麻痺側下肢筋力は初回評価から19回評
価まではほぼ一定であるが,その後最終評価までに95.9kgfか
ら122 kgfへ増加した.非麻痺側下肢筋力は初回評価から8回
評価にかけて208kgfから284kgfに増加したが,その後はほぼ
一定であった.評価25回分の歩行速度と下肢筋力の相関係数
は,麻痺側が0.93(p < 0.01),非麻痺側が0.64(p < 0.01)で
あった.
【考察】
歩行速度の縦断的な変化は,非麻痺側よりも麻痺側下肢筋
力との関連が強いことが示された.その理由として,8回目
評価以降に非麻痺側下肢筋力はほぼ一定となるが,歩行速度
と麻痺側下肢筋力はいずれも増加が継続したためと考えられ
た.今後は対象者数を増やし,本研究結果の一般化可能性を
検証したい.
脳梗塞両側同時発症・体幹機能障害・姿勢調
節障害
【目的】
脳梗塞両側同時発症という稀有な症例を経験した.一般的
な片麻痺では体幹機能は温存されると報告されているが,両
側発症の本症例の場合,体幹機能に顕著な障害を来たしたこ
とが特徴的といえる.姿勢調節障害に対する理学療法に加え
立位・歩行訓練を中心に介入し,歩行獲得に至ったためここ
に報告する.
【対象】
70代女性.診断名:脳梗塞.現病歴:右下肢の麻痺を自覚
し発症,夕方左下肢にも同症状を認め当院搬送.既往歴:高
血圧・糖尿病・坐骨神経痛・右膝痛.病前ADLは全自立,
FIM125点.
初期評価にて,意識レベルはGCS:E4V5M6.随意運動は
Brunnstrom Recovery Stage:両側上肢5-手指5-下肢5,感
覚障害は両上肢軽度鈍麻,右上肢に痺れの訴えあり.筋緊張
は体幹腹側に著明な緊張低下を認めた.高次脳機能障害はな
し.介助量は起居動作・移乗:中等度介助,立位保持:軽介
助,歩行は不可であった.ADLはFIM77点・mRSグレード5.
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,本人及び家族に説明し口頭と書面
にて同意を得た.
【理学療法介入】
第7病日より理学療法介入,短期ゴールを基本動作自立・
長期ゴールを屋内歩行自立とし,体幹筋緊張調整訓練・端座
位での選択的な骨盤運動・立位歩行訓練を中心に介入した.
【結果】
最終評価時,体幹の筋緊張改善とともに,基本動作全項目
自立,歩行も室内壁つたい歩行自立に至った.ADLはFIM
122点・mRSグレード1に改善し,第59病日に自宅退院とな
った.
【考察】
両側伝導路の障害により姿勢調節系の破綻を呈したと考え
た.筋緊張や中心軸・姿勢セットを司る錐体外路系の障害に
よって,近位筋運動障害と姿勢保持が困難で基本動作に介助
を要していた.体幹・姿勢調節訓練により動作能力改善に至
ったと考える.
【まとめ】
随意的な運動実行系のみにとらわれず,両側障害により惹
起し得ると考えられる姿勢調節系に着目・介入することで動
作改善に導くことができたと考えた.
-34-
O-063
O-064
転倒後に生活機能が低下した高齢の慢性閉塞性肺疾患
既往者に対する訪問リハビリテーションの介入効果
維持期脳卒中両片麻痺者に対する長期訪問リハビリ
テーションが収縮期血圧改善に及ぼす効果の検討
澤田圭祐 1)・橋立博幸 2)・千葉美幸 1)・古屋仁美 1)・
笹本憲男 3)
橋立博幸 1)・澤田圭祐 2)・古屋仁美 2)・芦川聡宏 2)・
千葉美幸 2)・広瀬知宏 3)・笹本憲男 4)
1)
医療法人笹本会おおくに訪問リハビリテーション
杏林大学保健学部理学療法学科
3)
医療法人笹本会やまなしケアアカデミー
1)
2)
2)
key words
key words
杏林大学 保健学部 理学療法学科
医療法人笹本会おおくに訪問リハビリテーション
3)
獨協医科大学病院リハビリテーション科
4)
医療法人笹本会やまなしケアアカデミー
在宅高齢者・訪問リハビリテーション・歩行
【目的】
本報告では、転倒後に生活機能が低下し、短期的な訪問リ
ハを実施して歩行、動作能力、屋内生活空間での活動が改善
した高齢の慢性閉塞性肺疾患既往者の事例を通して、訪問リ
ハの介入効果を検討することを目的とした。本研究はヘルシ
ンキ宣言に基づき、訪問リハの概要およびデータの学術的利
用について対象者および家族に対して説明し同意を得た。
【症例】
90歳、男性、慢性閉塞性肺疾患(夜間のみ在宅酸素使用)
を既往し、自宅屋内独歩、屋外T字杖歩行可能で、基本動作
能力bedside mobility scale(BMS)40/40点、屋内生活空間
home-based life-space assessment(Hb-LSA)59/120点 で
あった。平成26年2月に転倒して胸椎圧迫骨折を受傷し、歩
行困難、BMS 22点、Hb-LSA 21点で、ベッド上の生活とな
り日中も酸素が必要となった。自宅内外の活動が乏しく速や
かな機能・活動の改善と虚弱進行予防が課題となり、要介護
3にて週3回、40分/回の訪問リハを開始した。訪問リハ開始
時は連続歩行距離9m(要介助)、歩行前後でSpO295%から75
%へ低下、歩行自己効力感modified gait efficacy scale
(mGES)
10/100点であった。
【経過】
平成26年4月までの1か月間で計15回の訪問リハ(呼吸運動、
起立・立位練習、歩行練習)を実施した結果、連続歩行距離
65m(T字杖/伝い歩きにて自立)、歩行後のSpO2は94~97%
を保てる状態になるとともに、歩行自己効力感もmGES47点
へ改善した。また、基本動作能力はBMS39点とほぼ自立レ
ベルへ改善し、屋内生活空間での活動もHb-LSA37点へ向上
した。
【考察】
本症例は、転倒後に訪問リハを実施した結果、歩行の自立
度と持久性が改善したことによる歩行自己効力感の向上と基
本動作能力の改善によって、屋内生活空間での活動の向上が
得られたと推察された。屋外活動が困難な超高齢の慢性閉塞
性肺疾患既往者において集中的な訪問リハと歩行の改善が屋
内生活空間での身体活動向上に重要であると考えられた。
維持期脳卒中・高血圧・訪問リハビリテーシ
ョン
【目的】
本報告では,発症後の急性期に基本動作全介助レベルにて
自宅退院した後に30か月間の訪問リハを実施した脳梗塞両片
麻痺者の事例の経過をとおして,訪問リハの継続による収縮
期血圧(SBP)の改善効果について検討することを目的とし
た.なお,訪問リハの概要およびデータの学術的利用につい
て,対象者および家族に対して説明し同意を得た.
【症例】
69歳,男性,慢性腎不全を既往し,平成22年12月に脳梗塞
両片麻痺を発症した.入院後,医師より予後について機能改
善困難と診断され,発症後1か月に自宅退院し,要介護5にて
平成23年5月より3回/週,40分/回の訪問リハを開始した.訪
問リハ開始時は,基本動作能力bedside mobility scale(BMS)
0/40点と全介助レベルで,両上下肢と体幹に運動麻痺があ
り,訪問リハでは家族への介護方法の指導と併せて基本動作
練習を中心に実施した.血圧コントロールが不良(SBP120200mmHg)で易疲労と日間変動がみられたため,介入時に
留意してリスク管理しつつ介入内容を随時調整した.
【結果】
訪問リハ開始時から平成25年10月までの30か月間で月平均
12回,計377回の訪問リハを実施し,BMSは平成24年4月26点,
平成25年4月33点と改善した.毎回訪問リハ時のSBPの3か月
間ごとの値について一元配置分散分析および多重比較検定に
て比べた結果,訪問リハ開始1-3か月後(平均159mmHg)ま
たは13-15か月後(平均187mmHg)に比べて25-27か月後(平
均129mmHg)または28-30か月後(平均128mmHg)は有意
に低い値を示した.また,訪問リハ開始後3か月間ごとの
SBPの平均値と訪問リハでの歩行練習の累積実施回数との
Pearson相関係数を算出した結果,有意な負の相関が認めら
れた(r=-0.692)
.
【考察】
本症例は発症時に血圧コントロール不良で著しい高血圧を
呈していたが,歩行練習をできるだけ早期から開始し,訪問
リハを継続的かつ長期的に実施することによって,SBPの改
善を促進できた可能性があると考えられた.
-35-
O-065
O-066
多職種連携により在宅復帰が可能となった多系統萎
縮症の一症例
妊娠時の腰痛へのアプローチ ~未体験領域への体
験を通して~
根本亜友美・小川明宏・寺山圭一郎・秋葉 崇・
土谷あかり・中川晃一
竹沢友康 1,2)
東邦大学医療センター佐倉病院 リハビリテーション部
社会医療法人 中山会 宇都宮記念病院 リハビリテーシ
ョン科
2)
Sunset group
key words
key words
1)
多系統萎縮症・自己吸引・多職種連携
【はじめに】
多系統萎縮症は進行性疾患であり、必要な介護は幅広く家
族の不安も増大する。今回、在宅復帰困難と考えられた多系
統萎縮症患者が多職種の介入により在宅復帰可能となったの
で報告する。
【説明と同意】
発表にあたり症例に説明し同意を得た。
【症例紹介】
50歳代男性。6年前に歩行時のふらつきを自覚し、1年前に
多系統萎縮症と診断。妻は脳血管障害により高次脳機能障害
を呈している。そのため、キーパーソンは長女となっている
が、就業のため深夜から朝にかけて不在となる。
【経過】
20XX年X月に誤嚥性肺炎で入院。1か月後にリハビリテー
ション開始となる。開始時、長期臥床による廃用症候群の影
響で基本動作に軽介助が必要であった。その後、不顕性誤嚥
による肺炎と自己喀痰困難による窒息を予防する目的で気管
切開が施行された。これにより、頻回な吸引が必要となった。
本人と家族は自宅退院を強く希望していたが、家族の支援が
得られず自己吸引の手技を獲得する必要があった。このた
め、理学療法では自己吸引動作獲得に向けて、座位姿勢の安
定を目的に体幹機能の向上に対するアプローチを実施した。
また、病棟看護師と作業療法士により自己吸引動作の指導が
実施された。これに加え、在宅支援看護師により家族の負担
軽減を目的にヘルパーやデイサービスの導入、また、病態管
理や自己吸引動作の安全確認を目的に訪問診療、訪問看護の
調整が行われた。
【結果】
端坐位保持が可能なレベルまで体幹機能が向上した。これ
に加え、自己吸引の手技を獲得したことで、在宅復帰が可能
となった。
【考察】
在宅復帰の希望を実現するべく、院内外での他職種による
カンファレンスにて多岐にわたるアプローチを行った。これ
により、在宅復帰が可能となったと考える。しかし、進行性
の疾患であることから、今後は自己吸引の実施が困難となる
ことが予想されるため、引き続き多職種によるサポートが必
要となると考える。
ウイメンズヘルス・妊娠・理学療法
【はじめに】
ウイメンズヘルス領域における理学療法は卒後教育として
学ぶ機会が少ないうえに,異性の理学療法士にとっては,デ
リケートな場所にある為,対応に苦慮することが予想され
る.妊娠による心身機能の変化,実施時におけるリスク管理
等の課題を検討することが必要である.今回,妊娠中期にか
けて腰痛を訴えた症例に対するアプローチから得られた知見
について報告する.
【対象と方法】
対象は20歳代女性.妊娠29週の経産婦.本研究の目的と内
容を十分に説明し文書にて同意を得た.主訴は「時折,右の
腰が痛くなる,また恥骨付近が痛くなる」
.腰痛を感じたの
は妊娠25週目.既往歴として運動器疾患の罹患なし.また,
母体,胎児共に健康上の問題等なし.妊婦へ理学療法介入に
あたっては,主治医への許可を受けた上で,リスク管理を十
分に行いながら実施した.
【結果】
理学療法評価より得られた問題点として,身体重心が後方
に位置し,胸椎後弯及び骨盤後傾位となる.骨盤の分離運動
は困難で脊柱起立筋,下腿三頭筋の過緊張が観察され,体幹
前屈モーメント,股関節の屈曲,外転モーメント,足関節底
屈モーメントが増加することが考えられる.また,歩行,日
常生活動作においても妊婦特有の肢位,姿勢が認められた.
これら複数要因により腰痛が誘発されるのではないかと結論
付けた.方法は運動療法を行う前に身体コンディション調整
として筋リラクゼーションやストレッチ,アライメント調整
の実施.その後,腹横筋,骨盤底筋群に機能特化した治療を
行った.
【考察】
妊婦への治療経験は臨床では未経験であり,その全てが模
索しながらの介入であった.実際の臨床現場では,異性が理
学療法にいたるまでには慎重かつ確実に乗り越えて行かなけ
ればならない課題があることを実感した.また,妊娠時だけ
でなく,出産後の身体ケア,腰痛予防等を含めた関わりに理
学療法が貢献できる道標を確立することが望まれる.
-36-
O-067
O-068
骨盤回旋角度の変化が胸郭形状に与える影響
水平角度計を用いた骨盤傾斜角度の測定~東大式角
度計との比較~
遠藤辰弥 1)・一條幹史 2)
齋藤彰誉 1)・平尾利行 1)・妹尾賢和 1)・細川智也 2)・
藤原教弘 2)・榊井晴也 1)
医療法人社団 成和会 伊藤整形外科 リハビリテーショ
ン科
2)
医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 リハビリテー
ション科
1)
key words
船橋整形外科病院 理学診療部
船橋整形外科病院 スポーツリハビリテーション部
1)
2)
key words
骨盤回旋角度・胸郭形状・左右差
【目的】
胸郭は体幹機能に関わる運動器であり、呼吸運動に関わる
呼吸器でもある。臨床では骨盤回旋角度の変化で胸郭形状が
変化することを多く経験するが、骨盤回旋角度が胸郭形状に
与える影響を検証した報告は少ない。今回、骨盤回旋角度の
変化に伴う呼吸運動時の胸骨下角の変化にて検証した。
【方法】
対象は健常男性11名(平均年齢27.5±3.6歳)とした。測定
肢位は背臥位とした。条件を背臥位(以下Neutral)、左側に
10°傾斜台挿入(以下右回旋10°)、右側に10°傾斜台挿入(以
下左回旋10°)の3条件とし、それぞれ最大努力呼吸時の左右
胸骨下角の変化を側方からデジタルカメラにて撮影した。胸
骨下角は矢状面上で胸骨体下端と第10肋骨を結ぶ線の延長線
と床面との成す角度とし、各条件での最大吸気角度と最大呼
気角度をImage Jを用いて算出した。Neutralの骨盤傾斜角度
はデジタル水平器を用いて計測し右傾斜を+、左傾斜を-と
した。統計学的判断は一元配置分散分析反復測定で主効果を
確認後、Neutralを基準としたDunnett検定を用いて危険率
5%未満を有意とした。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究内容
を十分に説明し同意を得た。
【結果】
左胸骨下角は右回旋10°で吸気、呼気ともにNeutralと比べ
有意に減少し(p<0.01)、左回旋では呼気で有意に増加した
(p<0.05)
。Neutralの骨盤傾斜角度は右傾斜が有意に多かっ
た(p<0.05)。胸骨下角の左右差は左回旋10°で最も小さかっ
た。
【考察】
胸骨下角の変化は骨盤回旋に伴う腰椎、胸椎の回旋により、
非回旋側の肋軟骨陥凹が増強し非回旋側の胸骨下角が減少し
た可能性が考えられた。胸骨下角の変化の左右差はNeutral
の骨盤右傾斜による仙骨、腰椎の左回旋位が左右差に関与し
た可能性が考えられた。
【まとめ】
骨盤回旋角度の変化に伴う胸骨下角の変化には左右差があ
り、Neutralの骨盤傾斜角が影響している可能性が示唆され
た。
骨盤傾斜角度・水平角度計・信頼性
【目的】
骨盤傾斜角度測定は、画像所見や三次元動作解析を用いて
の報告が散見されており、臨床で測定を行う際は東大式角度
計(TG)を使用することが多い。しかし、TGで測定を行う
際に難渋することを経験する。我々は先行研究において水平
角度計(HG)における骨盤傾斜角度測定の検者内・検者間
信頼性を求め、高値であることを報告した。本研究の目的は、
HGとTGを用いて骨盤傾斜角度を測定し、両者の検者内およ
び検者間信頼性を比較検討することである。
【方法】
対象は、本研究に同意を得た下肢疾患に既往のない健常人
10名(男性6名、女性4名)である。対象者の平均年齢、身長、
体重はそれぞれ26.1(22-32)歳、167.6(±5.9)cm、59.7(±
7.6)kgであった。測定機器には、EBISU社製の建築用スー
パースラントED-20SSMGと従来のTGを使用した。測定肢
位は目線を平行、上肢を胸の前で組み、背部・臀部を壁に接
地させ、踵を壁から5cm離れた位置で、両母趾と踵を揃える
ように立位姿勢を設定した。骨盤傾斜角度は水平線と、上前
腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線の為す角と定義し、角度は1度
刻みで計測した。計測時は、ブラインドを用いて測定者の主
観が入らないよう実施した。測定者は3名で、被験者1名に対
し3回ずつ計測した。検討項目は、HGとTGによる骨盤傾斜
角度の検者内信頼性と検者間信頼性を級内相関係数(ICC)
にて調査した。
【結果】
測定者3名の検者内信頼性は、HGがそれぞれ0.951、0.946、
0.934で あ り、TGが そ れ ぞ れ0.946、0.934、0.882で あ っ た。
HG、TGの検者間信頼性はそれぞれ0.885、0.825でありHGの
方が高値を示した。
【考察】
HG、TGともに検者内信頼性・検者間信頼性にて高値を示
した。HGの信頼性がTGよりも高値を示す傾向があることか
ら、HGによる骨盤傾斜角度測定は有用なものであると考え
る。更にTGでは目測にて水平軸を設定するが、HGでは基本
軸操作が不要で移動軸操作のみであることから簡便に測定が
実施可能となると考える。
-37-
O-069
O-070
骨盤傾斜の客観的計測値と股関節内外転筋力との関
連性について
回復期リハビリテーション病院における胸腰椎圧迫
骨折患者の歩行予後に与える因子の検討
小保方祐貴 1)・佐々木沙織 2)・猪股伸晃 3)・武井健児 4)・
福原隆志 2)・大河原和也 3)・奥井友香 2)・中川和昌 5)
本多輝行 1)・渋谷正直 1)・青山敏之 2)・高木己地歩 1)・
夏山ほのか 1)・仲野友香 1)・米田伶衣 3)
1)
医療法人龍邦会 東前橋整形外科 リハビリテーションセンター
せせらぎ病院附属あさくら診療所 リハビリテーション科
3)
上牧温泉病院 リハビリテーション課
4)
群馬大学附属病院 リハビリテーション部
5)
高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
1)
2)
2)
key words
key words
イムス板橋リハビリテーション病院 リハビリテーション科
茨城県立医療大学 保健医療学部 理学療法科
3)
横浜新都市脳神経外科病院 リハビリテーション科
トレンデレンブルグテスト・骨盤傾斜角度・
等尺性筋力
【目的】
本研究の目的はトレンデレンブルグテスト(以下TRテス
ト)に関し,骨盤傾斜の客観的計測値と股関節内外転筋力と
の関連性について検討することである.
【方法】
対象は下肢に既往症のない健常成人男性18名(36脚)とし
た.Hardcastle Pらの方法(1985)を参考に30秒間のTRテス
トを実施し,前額面での動画撮影を行った.解析ソフト(Frame
DiasIV)を用い骨盤傾斜角度(PTA)を計測した.なお,
PTAが増加することは,遊脚側上前腸骨棘が拳上することを
意味する.TRテスト中に遊脚側上前腸骨棘が水平線よりも
下方に変位し,PTAが負となる対象者をTRテスト陽性と定
義し,陽性群と陰性群に分けた.股関節内外転筋力はハンド
ヘルドダイナモメーター(μTas F-1)を用い最大等尺性筋力
を測定した.PTAの最大値および最小値,筋力測定値の群
間比較(Mann-WhitneyのU検定)を行い,各群内のPTAと
筋力測定値との関連性(Spearmanの順位相関係数)を検討
した.解析ソフト(SPSS ver.16.0)を用い,有意水準は5%
とした.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究に関する十分な説明を行い,書面による
同意を得た.
【結果】
29脚が解析可能であり陽性群は11脚,陰性群は18脚であっ
た.陽性群のPTAの最小値は-2.3±2.0°,最大値は0.5±0.3°,
陰性群の最小値は3.1±1.8°,最大値は5.9±2.1°であった.陽
性群の外転筋力は33.5±6.4kgf,内転筋力は28.1±2.5kgf,陰
性群の外転筋力は33.0±5.1kgf,内転筋力は28.0±3.7kgfであ
った.PTAの最大・最小値ともに陽性群が有意に低値を示
した(p<0.05)が,筋力の群間比較では有意差を認めなか
った.また陽性群のみに外転筋力とPTA最大値との間の相関
係数がρ=0.64(p<0.05)となり,中等度の正の相関を示した.
【考察】
両群の股関節内転外転筋力に差はないという結果は先行研
究と一致した.陽性群に関しては,股関節外転筋力と骨盤傾
斜が関連している可能性が示唆された.
回復期リハビリテーション・胸腰椎圧迫骨折・
歩行予後
【目的】
胸腰椎圧迫骨折後、疼痛やバランス能力、歩行能力の低下
によりADLが低下するケースは多い。しかしながら、圧迫
骨折患者の歩行予後について回復期病院退院時に関する報告
は少ない。よって、本研究では圧迫骨折患者の回復期病院入
院時の身体能力や認知機能などの因子が、回復期リハビリテ
ーション実施後の歩行予後に与える影響について、受傷前の
歩行能力を基準として調査することを目的とした。
【方法】
対象は回復期病院である当院に入院した圧迫骨折患者55名
(81.5±8.2歳)とした。対象者の群分けはFIM歩行項目を利
用し、受傷前の歩行能力と比較して低下した群20名(低下群)
と、変化なしまたは向上した群35名(維持向上群)に群分け
した。調査項目は性別、年齢、急性期入院期間、回復期入院
時の認知機能(HDS-R)
、疼痛(NRS)
、バランス能力(FBS)、
歩行能力(FIM)、ADL(FIM)として入院時に評価した。統
計学的解析はカイ二乗検定、Mann-WhitneyのU検定、対応
のないt検定を用い、有意水準はp<0.05とした。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に沿い、当院倫理委員会の規定に
基づき実施した。
【結果】
統計学的解析の結果、性別、年齢、急性期入院期間、HDSR、NRS、FIMは有意差はなかった。一方、FBSは低下群17.6
±12.0点、維持向上群28.0±13.6点、FIM歩行項目は低下群3.1
±1.8点、維持向上群4.9±1.5点であり、ともに低下群で有意
に低かった。
【考察】
本研究より回復期入院時のFBSと歩行能力は、圧迫骨折患
者の受傷前を基準とした歩行予後に影響する一方、疼痛は関
与しないことが示唆された。これは圧迫骨折後、回復期病院
入院時において、疼痛の残存を認めても身体機能がある程度
保たれていれば、回復期退院時、受傷前の歩行能力に達する
可能性がより高いという指標になると考える。
-38-
O-071
O-072
下部体幹の安定性が肩関節挙上における身体活動に
及ぼす影響について
青少年における片側腰椎初期分離症の身体機能との
関係~体幹・股関節回旋機能に着目して~
鈴木 伸 1)・丹 友樹 1)・田村耕一郎 1)・松井 康 2,3)・
広瀬秀史 4)
若山慶行 1)・鈴木昌道 1)・橋川拓史 1)・寺門 淳 2)
広瀬医院
2)
筑波技術大学保健科学部
3)
筑波大学大学院人間総合科学研究科
4)
広瀬医院整形外科
2)
key words
key words
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所
北千葉整形外科 脊椎・スポーツ医科学研究所 PhD/
MD
1)
1)
Bracing・下部体幹・肩関節挙上
【はじめに】
肩関節のリハビリテーションにおいて,肩甲胸郭関節(以
下肩甲骨)のアプローチは重要であり,体幹の安定性は肩甲
骨の安定性と可動性向上をもたらすとされている。しかし,
挙上時に体幹の安定に伴う身体活動の変化を測定した論文は
少ない。本研究の目的は下部体幹を安定させた状況で肩関節
挙上動作の各種測定を行い,身体がどのように変化するかを
検証することである。
【対象と方法】
対象は本研究の趣旨を説明し同意を得た健常男性10名(平
均年齢28.6±4.4歳)とした。方法は努力性のない自然挙上(以
下自然挙上群)と腹筋群全体を収縮させた自然挙上(以下
Bracing群)の2種類の挙上を,身体にランドマークを添付し
矢状面よりデジタルカメラで撮影した。測定項目は,最大挙
上角度,挙上角度30°刻みで肩甲骨上方回旋角度と画像解析
(ImageJ)を用いてランドマークから上下部体幹傾斜角,骨
盤傾斜角,前胸部傾斜角を測定した。0°~最大挙上位の各身
体変化量と30°刻みの各身体変化量に関して,2群間で比較し
た。
【結果】
Bracing群で,0~30°間の上部体幹屈曲角変化量が減少(p
<0.05),60~90°間の前胸部傾斜角変化量が増大(p<0.01)
した。最大挙上角度やその他の項目は有意差を認めなかっ
た。
【考察】
Bracing群における,上部体幹屈曲角減少や前胸部傾斜角
増大は,上肢挙上初期の重心前方化に対する体幹屈曲方向へ
の重心移動制御と後の体幹伸展への円滑な移行により生じた
現象であり,Bracingにより体幹の安定化が図られたと考え
た。中尾らの先行研究より下部体幹の安定に伴い肩関節最大
挙上角度が増大すると報告されているが,本研究では有意差
が認められなかった。このことは,両群間における下部体幹
角,骨盤傾斜角に関して有意差がみられなかったことから,
肩挙上時,同部位の運動の多様性,個別性が示唆されたこと
が原因として考えられる。今後はさらなる挙上パターンの解
析を行い,身体変化を検証していきたい。
片側初期分離・股関節回旋・利き手足
【目的】
腰椎分離症は、青少年に発生頻度が多い腰部障害であり、
片側に発生する事が多い。その要因として、下肢柔軟性との
関係が報告されているが、片側腰椎初期分離症と身体機能の
関係を検討した報告は少ない。そこで、片側腰椎初期分離症
における股関節回旋、体幹回旋機能との関連について検討
し、治療と予防の一助とする事を目的とした。
【方法】
対象は当院を受診した伸展時腰痛患者のうち、脊椎専門医
によりMRI検査で初期分離症を認めた左側分離群25名(男性
23名、女性2名)
、右側分離群15名(男性11名、女性4名)、初
期分離症が認められなかった46名(男性19名、女性27名)に
分類した。なお多椎分離は除外とした。各群に対して可動域
測定を(体幹回旋、股関節内旋・外旋)、一側股関節外旋に
対する反対側内旋(以下内/外旋比)
、スポーツ種目・利き手
足・競技年数・練習頻度を調査した。統計処理は一元配置分
散分析、Turkeyの多重比較検定を用い左側分離群、右側分
離群、非分離群の3群間を比較し有意水準5%未満とした。ま
た、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に同意を得た。
【結果】
左側分離群は非分離群と比して右股関節内旋が低値(P<
0.05)
、右内/左外旋比で右内旋が低値(P<0.01)だった。そ
の他、各群間に有意差はなかった。左側分離群のスポーツ種
目は野球11名、サッカー7名で回旋スポーツが多く、非利き
手足側(右利き)の発症が25名中23名(92%)と多かった。
【考察】
今回の結果から片側腰椎初期分離症の患者は体幹回旋機能
より、股関節回旋機能が影響していた。左側分離群は野球、
サッカーの交差性回旋動作での発症が多く、非利き手側の発
症が多い事から、右股関節内旋制限、左股関節外旋優位の内
/外旋比の左右差により、左側腰椎が代償し片側性の応力が
加わっていると推察された。非分離群と比較すると片側腰椎
初期分離症は股関節回旋の左右差改善が有用と考えるが本研
究の発症要因を前向きに検討する事が必要と考える。
-39-
O-073
O-074
人工股関節全置換術後の外転筋力改善不良症例にお
ける股関節外転筋力、疼痛、歩行速度の推移
大腿骨頸部・転子部骨折術後患者における退院時歩
行自立度に関わる股関節外転筋力の検討
桂田功一 1)・木下一雄 1)・吉田啓晃 2)・青砥桃子 3)・
樋口謙次 1)・中山恭秀 2)・安保雅博 4)
吉沢和也 1)・武市尚也 2)・西山昌秀 2)・堀田千晴 3)・
石山大介 2)・若宮亜希子 2)・中田秀一 2)・松永優子 2)・
松下和彦 2)
東京慈恵会医科大学附属柏病院 リハビリテーション科
東京慈恵会医科大学附属第三病院 リハビリテーション科
3)
東京慈恵会医科大学附属葛飾医療センター リハビリテー
ション科
4)
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座
1)
聖マリアンナ医科大学 東横病院 リハビリテーション室
川崎市立 多摩病院 リハビテーション科
3)
聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション部
2)
key words
1)
2)
人工股関節全置換術・筋力・改善
key words
【目的】
THA後の股関節外転筋力の改善が不良な症例に着目し検
討した報告は渉猟し得ない。本研究の目的は術後5か月時の
外転筋力が術前未満の値であった症例の筋力、疼痛及び歩行
速度の推移を明らかにし、理学療法介入の一助とすることで
ある。
【方法】
対象は変股症の診断で後方進入法THA後の104例(男性22
例、女性82例、平均年齢63歳)とし、評価時期は術前、退院
時、術後2か月(2M)及び5か月(5M)とした。評価項目は、
基礎項目(年齢、性別、BMI、入院期間)、股外転筋力(Nm/
kg)、疼痛VAS(mm)、5m歩行速度(m/s)とした。5Mの時
点で術前以上の筋力値に改善した改善良好群(良好群)
、術
前値未満であった改善不良群(不良群)に分け、群間の差の
検定及び外来有無と評価時期の二要因による反復測定の分散
分析及び多重比較を行い、各評価項目を比較した。本学倫理
審査委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】
良好群は89例、不良群は15例であり、基礎項目は両群間で
有意差を認めなかった。外転筋力は不良群において術前と比
較し退院時に有意に低下していた。群間比較では、術前は不
良群が、5Mは良好群が有意に高値であったが、退院時、2M
は差を認めなかった。疼痛は、不良群において術前と比較し
退院時、2M、5Mで低下を認め、群間比較では、術前より不
良群の方が疼痛は低く、退院時以降で不良群が有意に低値と
なった。歩行速度は、不良群は退院時と比較し5Mにおいて
改善を認め、群間比較では、術前のみ不良群が有意に速かっ
たが、その他の時期には差を認めなかった。
【考察】
退院時に術前の筋力値を下回る症例はより積極的な指導が
求められると考えられた。疼痛は不良群においても術後有意
に改善し、筋力改善不良の因子である可能性は低いことが示
唆された。今回は不良群も歩行速度の低下は認めず、今後は
歩容や身体活動量と外転筋力低下との関連を調査していく。
大腿骨頸部・転子部骨折・退院時歩行自立度・
股関節外転筋力
【目的】
大腿骨頸部・転子部(大腿骨)骨折術後患者の退院時歩行
自立度に関わる要因には,膝関節伸展筋力が関連するとの報
告が多いも,股関節周囲筋との関連性についての報告は少な
い.本研究の目的は大腿骨骨折術後患者の歩行自立度に影響
する退院時下肢筋力とその筋力水準を明らかにすることであ
る.
【方法】
対象は大腿骨骨折術後に理学療法を施行した連続285例の
うち,除外基準(入院前屋外独歩困難例,HDS-R:20点以下
例,術後合併症例)を満たさない症例である.評価項目は年
齢,性別,術式,在院日数,疼痛,下肢筋力である.下肢筋
力は膝関節伸展筋,股関節伸展筋,股関節外転筋の両側等尺
性筋力値(kgf)から,体重比(%)を算出した.歩行自立度
はFIMで歩行自立群と非自立群に分類した.
統計解析は2群間比較で差を認めた因子を独立変数,歩行
自立度を従属変数としたロジスティック回帰分析を用い,カ
ットオフ値の抽出にはROC曲線を用いた.
本研究は当院生命倫理委員会の承認を得て実施された(承
認番号:第91号)
.
【結果】
除外基準を除いた71例のうち,自立群は39例,非自立群は
32例であった.自立群は若年(自立群:71.1歳/非自立群:
82.4歳)で,下肢筋力が高値[膝関節伸展筋力術側(自立群:
27.7%/非自立群:20.2%)
,非術側(47.5/31.3)
,股関節伸展
筋力術側(33.6/23.3)
,非術側(44.1/28.3)
,股関節外転筋力術
側(25.6/15.3)
,非術側(31.2/19.6)
]であり有意差(p<0.05)
を認めた.
ロジスティック回帰分析の結果,
歩行自立度の関連要因に,
非術側股関節外転筋力(p<0.05,オッズ比:1.26,95%CI:
1.14-1.40)が抽出され,そのカットオフ値は28.0%(感度:
0.74,特異度:0.91,曲線下面積:0.88であった.
【考察】
退院時歩行自立度には膝関節伸展筋力とともに,非術側股
関節外転筋力がより関連する可能性が示唆された.
【まとめ】
退院時非術側股関節外転筋力は,退院時歩行自立度に影響
し,カットオフ値は28%(体重比)である.
-40-
O-075
O-076
人工骨頭置換術後股関節脱臼を繰り返し人工骨頭抜
去した症例のリハビリ経過について
高齢人工股関節全置換術(THA)後患者と壮年
THA後患者の入院中の術後筋力回復推移の比較
山岸由美子 1)・佐藤 愛 2)・大塚訓喜 3)
小澤哲也 1)・大山由廉 1)・佐藤隆一 1)・小池和幸 1)・
大澤貴子 1)・勝俣 勲 1)・兵頭昌樹 1)・野寄浩司 2)
山田記念朝日病院 リハビリテーション科
山田記念朝日病院 リハビリテーション科 OTR
3)
山田記念朝日病院 整形外科
1)
小田原市立病院 リハビリテーション科
小田原市立病院 整形外科
2)
key words
1)
2)
人工骨頭抜去後のリハビリ・環境整備・肯定
因子
key words
【症例】
A様、女性。転倒により左大腿骨頚部骨折受傷し人工骨頭
置換術施行。既往にパーキンソン・L4すべり症。受傷前U字
型歩行器で屋内歩行自立。
【治療経過】
手術後B病院でリハビリ開始。両下肢振戦・固縮・筋力低
下あり。U字型歩行器で歩行獲得後、当院に転院。歩行安定
し自宅退院許可も出たが、その翌日トイレより車椅子へ移乗
時、左股関節の痛み増強。X-pにて左股関節脱臼を認め、B
病院へ転院した。B病院で観血的整復術を施行。筋緊張から
脱臼肢位を取りやすかったため、外転装具装着。U字型歩行
器見守り・トイレ動作中介助、症状安定し当院へ転院。左股
関節の痛みの訴えなし。脱臼肢位を取りやすく、動作時筋緊
張が亢進。自身でトイレから車椅子移乗時、左股関節痛み増
強。X-pにて脱臼あり、B病院に転院。人工骨頭除去術施行。
リハビリでは起居動作自立・移乗見守り、平行棒内立位可能、
車椅子駆動可能となり当病院に転院。ゴールは車椅子への移
乗・駆動の自立、平行棒内歩行。左右脚長差は10CMで立位時、
右膝を屈曲して下肢の長さを調節。左下肢全荷重可であった
が体重負荷は不十分で右下肢のみでの立位も不可能であっ
た。立位を安定させるために、脚長差分の高さの台を作成。
また移乗時臀部の持ち上がりが不十分だったため、車椅子・
トイレのひじ掛けをとり平行移動を可能とした。筋力強化は
右下肢・両上肢で施行。振戦低下のため動作を繰り返し行っ
た。これらによりADL介助量は低下、患者の満足度も得ら
れた。
【考察】
この症例ADLの介助量低下・QOL向上には3つの肯定因子
があると思われる。1)認知面での機能低下がなかった2)上
肢機能の維持3)モチベーションの高さである。歩行獲得と
いうゴールには到達することができなかったが、できる
ADLを伸ばし、QOL向上につながったと思われる。本症例
の発表に関して、患者本人・家族より承諾書をいただいた。
高齢者・人工股関節全置換術・筋力
【目的】
高齢人工股関節全置換術(THA)後患者における術後の
筋力回復推移は多数報告されているが、術式や術後の理学療
法によって異なるのが現状である。また、高齢THA後患者
はMRIで評価した中臀筋の筋委縮が遷延することも報告され
ており、筋力回復も遅延する可能性がある。そこで、高齢者
と壮年者のTHA後の筋力推移を比較した。
【方法】
2011年1月から2014月3月までに当院にて変形性股関節症を
原疾患として前方侵入法によるセメントレスTHAを施行し
た19例(男性2例、女性17例、年齢65±9歳)を、高齢群10例
(≧70歳)と壮年群9例(<70歳)に分類した。なお、神経学
的疾患を有するものは対象から除外した。調査項目は理学療
法進行状況、術後在院日数および等尺性股外転と膝伸展筋力
の体重比(%BW)を術前と退院時に調査した。対象者には
研究の内容を説明し、研究に参加することの同意を得た。統
計学的解析方法は各群の理学療法進行状況と在院日数の比較
はマンホイットニーのU検定、筋力推移の比較は年齢群と測
定時期の2要因分散分析を行った。
【結果】
壮年群と高齢群で理学療法進行状況と術後在院日数(中央
値21 vs. 25日)は差を認めなかった。壮年群と高齢群の筋力
推移を比較すると、股外転は術前(壮年群 vs. 高齢群;19.8
±1.8 vs. 16.3±1.7 %BW)
、 退 院 時(18.7±1.4 vs. 18.2±1.3
%BW)
、膝伸展は術前(29.3±2.8 vs. 23.4±2.7 %BW)、退院
時(28.0±2.4 vs. 21.3±2.3 %BW)であり、それぞれ交互作用、
年齢と測定時期による主効果を認めなかった(p > 0.05)
。
また、術前に対する退院時の筋力の回復率を壮年群と高齢群
で比較すると、股外転(101±8 vs. 113±7 %)と膝伸展(98
±9 vs. 97±9 %)は有意差を認めなかった(p > 0.05)。
【結語】
高齢者と壮年者のTHA術後の理学療法進行状況は同等で
あり、筋力回復推移も差を認めなかった。また、退院時まで
に筋力は97~113%まで回復することが示された。
-41-
O-077
O-078
人工膝関節全置換術における術後可動域と入院期間
との関連性について
人工股関節全置換術後の靴下着脱動作獲得が困難で
あった一例
三枝慎弥 1)・桜井徹也 1)・石井義則 2)・野口英雄 2)・
佐藤潤香 2)
山下 翔
とちぎメディカルセンター 下都賀総合病院 リハビリテー
ション科
医療法人 葦の会 石井クリニック リハビリテーション科
2)
医療法人 葦の会 石井クリニック 整形外科
1)
key words
人工膝関節全置換術・膝関節屈曲可動域・入
院期間
key words
【目的】
近年、医療技術の向上や医療費抑制に伴い、人工膝関節全
置換術(TKA)後の在院日数も短縮傾向にある。当院では
術後10日まではクリニカルパスに従い後療法を進めるが、退
院時期は本人・家族の意向を尊重し決定している。しかし、
患者の退院意志決定に影響する因子は定かではない。本研究
では、術後リハビリテーションの再考を目的としてTKA患
者の術後可動域が退院意志決定に影響しているかについて調
査・検討した。
【対象・方法】
対象は、当院にてTKAを施行した181名213膝(平均在院
日数37±12日)とした。調査項目は、(1)在院日数37日未満
群と37日以上群における退院時膝屈曲可動域の比較、
(2)
Kettelkampの報告による日常生活に必要な膝屈曲100°獲得
群と100°未満群における入院期間の比較、(3)100°獲得日数
と入院期間との関連性、(4)100°獲得後の平均在院日数とし
た。(1)
・
(2)はマン・ホイットニの順位検定、(3)はスピ
アマンの順位相関係数検定にて統計解析を行い、有意水準は
5%未満とした。本研究はヘルシンキ宣言に従い、当院の倫
理委員会の承認を得て、十分な説明を行った上で同意を得ら
れた症例を対象とした。
【結果】
退院時膝屈曲可動域は37日未満群103±12°、37日以上群
101±14°で有意差を認めなかった。入院期間は100°獲得群37
±11日、100°未満群39±14日で有意差を認めなかった。100°
獲得日数は17±9日で入院期間との相関関係は認められず、
100°獲得後の平均在院日数は20±13日であった。
【考察】
本研究結果から、術後可動域と入院期間との関連性は認め
られず、患者が退院を決めるには可動域の影響は少ないと考
えられた。医療資源の効率活用の面からも、TKA後のリハ
ビリでは可動域のみに捉われることなく、ADL動作の自立性
向上を重視した具体的アプローチが必要であることが示唆さ
れた。
体幹・安定・靴下着脱動作
【はじめに】
今回,人工股関節全置換術(以下THA)を施行し靴下着脱
動作獲得が困難であった症例を経験したので以下に報告す
る.なお,報告にあたり十分な説明の上同意を得た.
【症例紹介】
55歳男性,右変形性股関節症にてTHA(前方進入)施行.
【初期評価】
術前日:ROM右股関節屈曲85°伸展5°外旋10°外転10°体幹
屈曲15°伸展10°.MMT右下肢3~4レベル,体幹2レベル.
歩行は独歩.端座位両上肢支持にて可,靴下の着脱は端座位
でかがみ込みにて可能.
【経過】
術後1日目より介入開始.ROM右股関節屈曲60°外転10°体
幹屈曲10°
,MMT右下肢3~4レベル体幹2レベル,歩行器歩行
可.5日目で独歩可,股関節屈曲70°.6日目より靴下着脱動
作練習を開始.端座位では着脱動作困難.自宅では畳上の生
活のため,長座位で着脱を行ないたいと希望.長座位では,
足部を体幹に引き寄せられず,後方に倒れ動作困難.また,
股関節屈曲時に体幹が安定しないため,PNFでの骨盤・下
肢パターンを中心に介入した.その際,体幹筋収縮の後,下
肢の運動が行われる様に注意し介入を進めた.なお,坐骨-
踵の距離は長座位で右32cmであった.9日目に坐骨-踵の距
離が長座位で右25cmとなったが動作を行うと長座位保持困
難.よって端座位での着脱動作を行う事とし,13日目に自宅
退院となった.
【最終評価】
術後13日:ROM右股関節屈曲90°伸展5°外旋20°外転25°体
幹屈曲25°伸展20°.MMT右下肢3~4レベル,体幹2レベル.
歩行独歩可.
【考察】
本症例は,体幹筋の固定が弱いために,股関節周囲筋の筋
出力が発揮できず,靴下着脱動作を円滑に遂行できない症例
であった.介入により,坐骨-踵距離の短縮がみられたもの
の,体幹筋の協調的な同時収縮が不十分であったため,最終
的に動作獲得には至らなかったものと考える.靴下着脱動作
において,体幹柔軟性,筋力が必要であると示唆する症例で
あった.
-42-
O-079
O-080
75歳未満と75歳以上の高齢者に対する人工膝関節
全置換術後の関節可動域の比較
人工股関節全置換術前後の股関節可動域と術後の自
覚的靴下着脱動作困難感の関係
森 洋平・西村直樹・青木啓成
石井健史 1)・古谷英孝 1)・廣幡健二 1)・美崎定也 1)・
三井博正 2)・杉本和隆 2)
社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院
苑田会人工関節センター病院 リハビリテーション科
苑田会人工関節センター病院 整形外科
1)
2)
key words
人工膝関節全置換術・高齢者・関節可動域
key words
【目的】
75歳未満の高齢者(以下 前期群)と75歳以上の高齢者(以
下 後期群)の人工膝関節全置換術(以下TKA)前後の関節
可動域(以下ROM)において,後期群の治療効果について
検証することを目的とする.
【方法】
平成22年11月から平成25年5月の期間にTKAを施行した症
例.調査項目はKellgren-Lawerence分類(以下K/L分類)
,
在院日数,リハ介入量,術前屈曲ROM,術後1週,3週,8週,
12週目の屈曲ROMと術前からの改善率とし,2群で比較し
た.
【倫理的配慮】
個人を特定する情報を提示しないよう配慮した.
【結果】
対象は前期群25例33膝(平均年齢68.6±4.8歳),後期群57
例85膝(平均年齢80.5±3.2歳)
(以下前期/後期群順で記載)
分類は(II:2,III:10,IV:21)/(II:9,III:32,IV:43,V:
1)であった.在院日数(日)は21.8±4.8/21.5±5.2,PT介入
量(単位)は86.2±27.6/80.2±23.6でいずれも有意差を認め
なかった.屈曲ROMは,術前129.0±16.6/120.8±14.9,術後
1週 目105.3±12.0/100.0±13.0,3週 目122.7±11.5/115.4±
12.0,8週 目124.1±10.3/117.4±10.7,12週 目125.5±11.1/
117.7±11.5で各時期に有意差を認めた.改善率(%)は1週目
82.7/83.7,3週目96.2/96.3,8週目97.5/97.6,12週目98.2/
98.0でいずれも有意差を認めなかった.
【考察】
TKA後のROM改善経過を年齢間で比較した研究は少な
い.本研究より後期群ではどの時期でも前期群より可動域は
低いが,改善率では12週にわたり前期群と同等の改善を示し
た.TKA後の屈曲ROM改善経過は後期群でも前期群と同様
の治療効果が得られると考えられた.
人工股関節全置換術・股関節可動域・靴下着
脱動作
【目的】
人工股関節全置換術(THA)の術後成績は良好であるが,
靴下着脱動作に困難感を有している症例が多い.靴下着脱動
作と股関節可動域に関して縦断的に経過を追った報告はな
い.本研究の目的は,術後の靴下着脱動作困難感を聴取し、
困難群と困難なし群に分け,股関節可動域の経時的変化に差
があるかを明らかにし,治療の一助にすることとした.
【方法】
対象は当院で初回THAを受けた者とし,重篤な合併症を
有する者は除外した.方法は,術後6ヶ月の時点で,日本語
版WOMACの靴下着動作と脱動作指標(1困難なし,2少し困
難,3中程度困難,4困難,5かなり困難)を用い,困難なし
群(1)と困難あり群(2~5)に分け,各群の術前,術後3,6
ヵ月の股関節可動域(屈曲,外転,外旋)を調査した.統計は,
各可動域に対し,群と期間を要因とした反復測定による二元
配置分散分析および多重比較検定を行った(有意水準5%).
対象者に本研究の説明を行い,同意を得た.
【結果】
82名(女性70名,男性12名,平均年齢64.2歳)が対象とな
った.困難なし群は着動作37名,脱動作47名,困難あり群は
着動作45名,脱動作35名であった.解析の結果,着・脱動作
ともに屈曲及び外転には交互作用が無く,外旋のみに認めら
れた.主効果検定の結果,屈曲,外転ともに時期が経過する
につれて有意な改善を示した.群間差は屈曲のみに認めら
れ,困難なし群が有意に大きい結果であった.外旋に対する
単純主効果検定の結果,術前と術後3ヵ月には群間差は無く,
術後6ヶ月の着動作で困難なし群が有意な改善を示したが,
脱動作においては差が認められなかった.
【考察】
靴下着脱動作の困難感には,術前から屈曲可動域が良好で
ある群が困難なく動作が遂行できており,着動作に関して外
旋可動域の良好な群が困難感を減少させていた.特に,靴下
着動作の改善を図るには,術前の屈曲可動域を考慮にいれ,
外旋可動域を改善させることが重要である.
-43-
O-081
O-082
超音波画像診断装置を用いた膝関節屈曲制限の検討
~TKA後の症例について~
広背筋の位置と肩甲骨可動性との関係―超音波画像
診断装置を用いた広背筋の矢状面アライメントに着
目して―
野城正恵・渋谷利秋・難波英海・徳田有美・
田草川雅道
笹川健吾 1)・新井恒雄 1)・三枝 超 2)
一般財団法人 同友会 藤沢湘南台病院
三枝整形外科医院 リハビリテーション科
三枝整形外科医院MD
1)
2)
key words
key words
超音波画像診断装置・TKA・膝関節屈曲制限
【はじめに】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)後において,膝関節
屈曲可動域制限を生じるケースがある.屈曲制限の因子とし
て,しばしば膝蓋上嚢の癒着が報告されている.しかし,
TKA後の症例に関しての報告は少ない.
本研究の目的は,TKA後の屈曲可動域制限のある膝と制
限のない膝を比較し,膝蓋上嚢及びその周囲の軟部組織の関
連と機能構造を,超音波画像にて観察することで制限因子を
検討することである.
【方法】
対象者は60~80代女性7名7膝,平均71.8歳,術後経過期間
は3週~8ヶ月とした.観察には超音波画像診断装置(ALOKA製 Prosound SSD 5000)を用い,プローブは7.5MHzを
使用した.対象者は端坐位を保持し,検者が他動的に膝関節
の屈伸運動を行った.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,十分な配慮を行い,本
研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行
い同意を得た.
【結果】
TKAの術中に膝蓋上嚢は部分的に除去されているが,制
限のない膝では超音波画像にて膝蓋上嚢と思われる低エコー
像(以下,膝蓋上嚢部),その深層には大腿骨前脂肪体と思
われる部位(以下,PFP部)が観察された.しかし,制限の
ある膝は膝蓋上嚢部がほとんど観察できなかった.また,制
限のない膝は膝蓋上嚢部を介して,中間広筋とPFP部が逆方
向へ動いていることが観察された.これに対し,制限のある
膝はPFP部と中間広筋が同一方向へ動いていることが観察さ
れた.
【考察】
TKA後において,制限のない膝は膝蓋上嚢部が大きく保
たれているが,制限のある膝は膝蓋上嚢部が小さく,癒着し
ていると示唆された.膝蓋上嚢は膝関節屈伸運動の円滑化に
関与しているが,膝蓋上嚢部も術前と同様に中間広筋とPFP
部の滑走性に関与していると考える.以上のことから,TKA
後に癒着しやすい部位は膝蓋上嚢部とPFP部であると示唆さ
れ,屈曲可動域の獲得には膝蓋上嚢部とPFP部の滑走性の獲
得が重要であると考える.
広背筋・筋膜・超音波画像診断
【目的】
一般的に広背筋の外側縁は体幹の前後径1/2に位置してい
るが、臨床で特に胸椎後弯が強い症例の広背筋は前方に位置
していることを経験する。広背筋の位置を後方へ修正するこ
とで体幹の伸展性の向上、肩甲骨可動性が向上するという経
験から、筋膜に依存された筋のアライメントの存在を推測し
た。今回、筋アライメントと体幹の伸展性、肩甲骨可動性お
よび筋機能との関係について探索した。
【方法】
対象は健常成人男性6名(平均年齢24.5±1.98歳)とした。
測定は超音波診断装置(ソノサイトジャパンSonosite Mシリ
ーズ)を使用。筋膜リリース(以下:MFR)により右側に
おける広背筋の位置を腹臥位で脊柱方向へ改善し、介入前後
の広背筋の位置、腹臥位下肢伸展挙上(以下:RASLR)時
の多裂筋・広背筋筋厚、肩関節水平外転可動域(以下:HA
可動域)
、肋骨下角について測定した。広背筋の矢状面の位
置は、腹臥位にて安静吸気時に測定し、第10肋骨付着部から
腹側に存在する筋膜付着部の距離にて測定した。MFRは180
秒施行した。筋厚と広背筋位置の画像処理には、画像処理ソ
フトImage Jを用いた。統計処理は、MFR施行前後の各項目
にWilcoxonの符号付順位和検定を実施し、有意水準は5%未
満とした。
【説明と同意】
対象者には、実験の前に本研究の説明をし、書面にて同意
を得たうえで行った。
【結果】
広背筋筋膜付着部距離は、肋骨像でMFR前2.07±0.71cm、
MFR後1.48±0.53cm。短軸像でMFR前1.75±0.39cm、MFR後
1.39±0.34cm。HA可動域はMFR前27.9±3.82°
、MFR後30.4±
5.46°
で有意差が認められた(p<0.05)
。
【考察】
今回は、MFRを施行した結果広背筋位置とHA可動域につ
いて有意差を認めた。広背筋位置の変化については、広背筋
筋膜の脊柱方向への伸張により筋膜の位置が変化したためと
考える。HA可動域の向上については、広背筋と強く筋膜連
結している大胸筋筋膜が伸張されたことと推察された。
-44-
O-083
O-084
高齢者における腰椎軟性コルセット装着が端座位リ
ーチに及ぼす影響
健常男性における異なる角速度条件での等速性トレ
ーニングが歩行に及ぼす影響について
森田絵美 1)・曾根祥仁 1)・三枝洋喜 1)・西崎香苗 1)・池
上仁志 2)・廣瀬 昇 3)
小野達也 1)・田中博之 1)・西崎香苗 1)・池上仁志 2)・
廣瀬 昇 3)
貢川整形外科病院 リハビリテーション科
貢川整形外科病院 整形外科
3)
帝京科学大学 医療科学部 理学療法学科
2)
key words
key words
貢川整形外科病院 リハビリテーション科
貢川整形外科病院 整形外科
3)
帝京科学大学 医療科学部 理学療法学科
1)
1)
2)
高齢者・端座位リーチ・3次元動作分析
【目的】
腰椎手術後は,手術後の腰椎の不安定性の予防や骨癒合の
サポート,疼痛の軽減を目的として腰椎軟性コルセットを着
用する.腰椎軟性コルセットは,腹腔内圧の上昇と体幹の運
動を制限する.今回我々は,腰椎軟性コルセット装着が座位
リーチ動作に及ぼす影響について3次元動作分析システムを
用いて検討した.
【方法】
対象は,中枢および整形外科疾患を有さない健常高齢者19
名(男性・68.5±5.5歳)とし,研究の目的等十分説明し,同
意を得た上で行った.マーカーを第2中手骨,上前腸骨棘な
どに貼付し,右上肢90°外転端坐位(開始姿勢)で右側方へ
の最大リーチ動作をコルセット非装着・装着で計測した.開
始姿勢を基本軸,最大リーチ時を移動軸とし,骨盤傾斜角(両
上前腸骨棘を結んだ線),体幹側屈角(T7と両腸骨稜の中点
を結んだ線)
,上部体幹回旋角(両肩峰とC7の水平面上の変
化)
,骨盤回旋角(両上前腸骨棘と尾骨の水平面上の変化)
を算出した.また,第2中手骨の水平移動距離よりリーチ距
離を算出した.算出されたコルセット非装着・装着の各値を
Wilcoxon t-testを用いて検定を行った(p<0.05).
【結果】
リーチ距離はコルセット非装着24.6±5.cm装着23.6±4.cm
(p=0.02),骨盤傾斜角度は非装着19.6±6.1°装着20.5±5.1°
(p=0.02),体幹側屈角度は非装着24.1±5.7°装着20.9±5.3°
(p=0.01),上部体幹回旋角度は非装着6.6±4.9°装着7.9±4.1°
(p=0.09),骨盤回旋角度は非装着5.6±2.6°装着7.4±1.8°
(p=
0.01)であった.
【考察】
座位側方リーチ動作は,リーチ距離の延長に伴って骨盤傾
斜と座圧中心の側方移動距離が増加し(松村純ら,2012),
坐位における側方重心移動動作では,体幹側屈が骨盤傾斜を
制御することにより大きな重心移動を可能にすることを報告
している(冨田昌夫ら,1991).コルセット装着による体幹運
動制限が,重心移動の低下につながり,リーチ距離が低下し
たと考えられる.
等速性トレーニング・角速度・歩行速度
【目的】
筋力トレーニング方法のひとつである等速性トレーニング
は,一定の角速度で関節角度を変化させながら行う筋力増強
方法であり,動作パフォーマンスの向上に有効とされてい
る.今回我々は,角速度の違いが筋力や歩行に及ぼす影響に
ついて検討したので報告する.
【方法】
対象は研究の同意を得た健常男性16名(年齢26.4±2.87歳)
とし,くじ引き法により,30°/secトレーニング施行群(30°
/
sec群),健常成人歩行時膝伸展角速度である240°/secトレー
ニング施行群(240°/sec群)に群分けした.トレーニング方
法は,両群とも,膝屈曲・伸展最大トルク値50%の負荷で屈
伸運動を8回(週2回×4週)実施した.効果判定のため,施
行前後に等速性膝伸展筋力(30°
/sec・240°
/sec)
・10m歩行
速度を計測し,三次元歩行分析より,膝伸展角速度を算出し
た.得られた各値より,t検定を用い統計処理を行った(p<
0.05)
.
【結果】
30°
/sec伸展最大トルク体重比変化率は,30°
/sec群右90.1
±29.8%(p=0.01)左55.1±45.8%(p=0.01)
,240°
/sec群右41.6
±63.3%左26.5±44.6%であった.240°
/sec伸展最大トルク体
重比変化率は,30°
/sec群右24.6±29.3%左11.4±28.5%,240°/
sec群右30.8±25.3%(p=0.01)左28.2±21.9%(p=0.01)であり,
240°/sec群が有意に増加した.左膝伸展角速度変化は,30°
/
sec群2.7±9.8 °
/sec,240 °
/sec群17.2±20.7 °
/sec(p=0.03),
10m歩行速度変化は,30°
/sec群0.0±0.2m/s,240°
/sec群0.1
±0.1m/s(p=0.03)であり,240°
/sec群において有意に増加
した.
【考察】
健常成人の歩行膝伸展角速度と同等の角速度でトレーニン
グを施行した240°/sec群では,歩行時膝伸展角速度や歩行速
度が増加しており,仕事量が少ないにも関わらず240°
/secの
方が歩行能力を向上させることが明らかとなった.動作パフ
ォーマンスの向上を目的として等速性トレーニングを実施す
る場合,角速度の設定が重要であることが示唆された.
-45-
O-085
O-086
健常成人における片側下肢での床押しによる寝返り
動作の解析
腱板への負担の少ない日常生活動作とは?~コンピ
ューターシミュレーションの開発~
平井郁弥 1)・飯田恵美 2)・小島千鶴 3)・土野有寿 4)・
関屋 昇 5)
岡田匡史 1)・福岡 進 1)・川井誉清 1)・原 素木 1)・
石井壮郎 2)・山㟢 敦 3)
医療法人社団青虎会 ツル虎ノ門外科・リハビリテーショ
ン病院 リハビリテーション科
2)
独立行政法人労働者健康保健機構 横浜労災病院
3)
南東北グループ 医療法人財団健貢会 総合東京病院
4)
東京ほくと医療生活協同組合 王子生協病院
5)
昭和大学 保健医療学部 理学療法学科
1)
key words
松戸整形外科病院 リハビリテーションセンター
松戸整形外科病院MD
3)
文京学院大学 保険医療技術学部
1)
2)
寝返り・三次元解析・床反力
key words
【目的】
寝返り動作研究ではパターン分類、各要素間の関連性、重
心と床反力作用点の関係、3時限キネマティクス等の視点か
ら検討した研究が散見されるが、寝返り動作の生体力学的メ
カニズムの理解は十分とは言えない。本研究では健常者に高
い頻度で認められる寝返り動作の1パターンを取り上げ、運
動学的、運動力学的に記述し、寝返り動作の特徴を明らかに
することを目的とした。
【方法】
健常成人男性8名を対象として、右膝立て背臥位から左側
臥位までの一連の寝返り動作を、被験者の快適な速度で行わ
せた。開始肢位を、右膝関節屈曲角度(45°, 60°, 90°
, 110°,
135°
)と右股関節内外転(0°,外転位(15cm))の2要因で
操作して10条件(5水準×2水準)とし、これ以外に「好みの
下肢位置」を加えて11条件とした。各条件の動作を3次元動
作解析装置と床反力計を用いて計測し、課題遂行時の「主観
的な動作のしやすさ」を10段階法で評価した。
【説明と同意】
被検者には十分に研究の説明を行い、同意を得た。
【結果と考察】
(1)主観的に最も寝返りしやすい開始肢位は「股関節内外
転中間位、膝屈曲110°」であり、「好みの開始肢位(膝屈曲
109.5°
、足部位置が股関節内外転0°から0.4cm内側)」はこの
開始肢位に最も近いものであった。これらの結果は、自由な
寝返り動作の中でも最もやりやすい動作が選択されているこ
とを示唆している。
(2)開始肢位の膝関節屈曲角度が大きく、
且つ股関節外転位の条件(外転位_膝110°、外転位_膝135°
)
で股関節外転角度および外旋角度が大きくなった。寝返り時
の足位置による股関節角度の違いの理由は明らかではない
が、最適な床反力を得るための方略を示唆している。(3)左
右の床反力垂直成分は相反的に作用(右が増大するときに一
致して左が減少する)することが一貫して示された。この結
果は、右下肢の床押しによる寝返りにおいて、左下肢が一定
の役割を担っていることを示している。
三次元動作解析・日常生活動作・シミュレー
ション
【目的】
本研究の目的は日常生活動作によって腱板へかかる張力を
定量的に推定し、その張力を増減させる動作パターンをシミ
ュレーションできるシステムを開発することである。
【方法】
計測は三次元動作解析装置(Vicon MX)と床反力計を用
い、サンプリング周波数は100Hzとした。全身の体表の特徴
点に39個の反射マーカーを貼付し、空間座標データと床反力
データを計測した。各動作の開始と終了は上肢下垂位とし、
解析区間を時間で正規化した。計測課題は立位での挙上動作
25試技、前方リーチ動作15試技、水平内転リーチ動作20試技、
結帯動作20試技、結髪動作25試技を右上肢で行うように指示
を与えた。105試技の計測で得られた空間座標データと床反
力データを用いてデータベースを作成し、主成分分析を行っ
た。その後、最適化手法を用いて様々な動作パターンをシミ
ュレーションできるシステムを構築し、シミュレーションし
た動作を3Dアニメーションにて観察できるようにした。被
験者は健常成人男性1名とした。なお、本研究は文京学院大
学保健医療技術学部倫理委員会にて承認を得て行った。
【結果】
シミュレーションの結果の一例から、前方リーチ動作にお
いて肘関節の屈伸を伴うリーチ動作では腱板へかかる張力は
小さく、肘関節が伸展位のままのリーチ動作では腱板へかか
る張力が大きくなることがわかった。その他の動作において
もある一定の傾向がアニメーションにて確認された。
【考察】
肩関節腱板修復術後のリハビリテーションでは段階的に肩
関節への負荷を増やしていく。それに伴い腱板に働く張力も
増大することが推察されるが、日常生活動作において腱板に
かかる張力を定量的に評価した研究はない。今後、データ量
を増やしこのようなシミュレーションを普遍的なものにして
いければ患者、治療者とも容易に理解できる情報が提供で
き、安全かつ効率的にリハビリテーションの質の向上に貢献
できる可能性があると考えた。
-46-
O-087
O-088
股関節伸展運動に伴う多裂筋筋厚と胸郭側方偏位と
の関係
脊椎椎体骨折患者におけるBKP施行前後の動的バラ
ンスの評価~Functional Reach Testを用いて~
内海彩香 1)・松本拓也 2)・渡辺幸勇 1)・岡崎倫江 4)・
柿崎藤泰 3)
池田陽香 1)・清水菜穂 1)・白井智裕 1)・小谷俊明 2)
医療法人社団 鎮誠会 千葉きぼーるクリニック リハビ
リテーション科
2)
医療法人財団 明理会 春日部中央総合病院
3)
文京学院大学 理学療法学科
4)
麻布十番プライマリメディカルクリニック
2)
key words
key words
聖隷佐倉市民病院 リハビリテーション科
聖隷佐倉市民病院 整形外科
1)
1)
腰部多裂筋・胸郭側方偏位・股関節伸展運動
【目的】
腰部多裂筋(以下LMM)の機能に関する報告は散見され
る.柿崎らは胸郭側方偏位側の逆側にLMM筋厚の低下が生
じるとしている.また前額面上での胸郭側方偏位において
は,一般健常人の8割以上が左側であるとしている.これら
の報告から右側LMMに筋厚低下が生じやすいことになり,
四肢運動に先行して働くLMMの活動様式に一定のパターン
が生じやすいことも十分推測される.本研究は胸郭左側方偏
位を有する場合の股関節伸展運動時の左右LMMの筋厚変化
を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は胸郭の左側方偏位を有する健常成人男性16名(年齢
22±1.45歳)とし,除外基準として立位前額面上で骨盤中心に
対し胸郭中心が相対的に右側方偏位の者と側弯を有する者と
した.対象者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用
いて,本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た.なお,本研
究は文京学院大学倫理委員会の承認を得て実施した.LMM
筋厚の測定には超音波画像診断装置
(日立メディコEBU-8500)
を用いた.安静腹臥位で左右それぞれのLMM筋厚測定後,
ハンドヘルドダイナモメーターを用いて腹臥位膝関節屈曲位
で左右股関節最大伸展筋力を測定し,最大筋力の30%の筋出
力で等尺性股関節伸展運動時の左右LMM筋厚を測定した.
統計処理は対応のあるt検定を用い優位水準1%未満とした.
【結論】
安静時に対する右股関節伸展時および左股関節伸展時の
LMM筋厚変化率は右側が有意に低値を示した(p<0.01)
.
【考察】
本検討により右側,および左側股関節伸展運動において右
側のLMM筋厚に低下がみられた.これは臨床で経験する体
幹機能の再建による下肢を含む末梢部の病態運動が改善する
メカニズムの解明に寄与するものと考えられる.それと同時
に,四肢運動のコントロールの向上目的で施行する理学療法
プログラムの一つとして重要な指針となる可能性も示唆され
た.
脊椎圧迫骨折・Balloon Kyphoplasty・
Functional Reach Test
【目的】
脊椎椎体骨折に対するBalloon Kyphoplasty(以下BKP)は、
術後早期より疼痛が軽減され、歩行状態を含めたQOLも回
復する場合が多いとされている。しかし、術前後の動的バラ
ンスの推移については明らかにされていない。そこで本研究
の目的は、当院にてBKPを施行患者に対し、術前後での動
的バランスを評価し比較・検討を行うことである。
【方法】
対象は、脊椎圧迫骨折を呈し当院にてBKPを施行した患
者49例(男性12例、女性37例、年齢77±6.6歳)とした。除
外基準として、入院中に他疾患の増悪があったもの、同意が
得られなかったものとした。方法は、手術前(手術前日)と
手術後(手術後1週間)の2回、動的バランス評価として、
Functional Reach Test(以下FRT)を測定、2群間で比較検
討した。統計学的処理は、対応のあるt検定を用い、危険率
5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき説明と同意を得て実施
した。
【結果】
FRTは、手術前平均12.9±9.0cm、術後平均20.3±8.0cmと
なり有意差が認められた。
(p<0.05)
【考察】
本研究の仮説としてBKP施行により対象者の動的バラン
スの改善が図れ、転倒リスクを軽減できるのではないかと推
察した。今回の結果よりBKP施行患者は、術後動的バラン
スが改善することが示された。また、術後の数値は転倒のカ
ットオフ値と比較すると、上回っており、転倒リスクも改善
される可能性が考えられる。FRTに影響を受ける要因とし
て、体幹の前方への動きが大きいと報告されている。今回の
対象者で考えると、脊椎椎体骨折による椎体の不安定性や椎
体内圧の上昇による痛みが推察され、BKPを施行したこと
により疼痛が軽減しFRTが改善したのではないかと考える。
しかし、本研究は疼痛とFRTの関連性の検討を行うことが
できていないため、検討を続けていく必要がある。
-47-
O-089
O-090
しゃがみ込み動作における予測的姿勢調節の分類と
膝痛発症との関連~足圧中心前後移動による検討~
頸椎症性筋萎縮症に左肩腱板広範囲断裂を合併した
一例
栗原 靖・山田翔太・伊藤厚史・高橋哲二
佐々木磨美・川井誉清
北小岩整形外科 リハビリテーション科
松戸整形外科病院 リハビリテーションセンター
key words
key words
予測的姿勢調節・しゃがみ込み動作・足圧中
心移動
【目的】
予測的姿勢調節は、主運動に先行して重心動揺を最小限に
抑えるための活動とともに、主運動の運動成果に関与するこ
とがあげられる。そこで本報告では、しゃがみ込み動作開始
前の足圧中心(以下:COP)前後移動による分類を行い、膝
痛発症との関連について検証することを目的とした。
【方法】
対象は、当院に通院する整形外科的膝疾患者34名(しゃが
み込み動作時の膝痛あり:17名、膝痛なし:17名)で、本研
究について文書および口頭にて説明を行い、参加への同意を
得た。計測機器は、重心動揺計(Medicapteurs社製WINPOD)を用いた。課題動作は、重心動揺計上を裸足で行う至
適なしゃがみ込み動作で、静止立位姿勢(踵骨間距離20cm、
軽度足部外転位)から動作を開始(静止立位姿勢時の平均
COP前後移動量+2SDの時点)し、動作終了は個々の達成で
きるところまでとした。しゃがみ込み動作開始前のCOP前
後移動は、a)COPが主運動方向と逆へ移動し、その後主運
動方向へ移動する群(以下:反対群)、b)COPが動作開始
前から主運動方向へ移動する群(以下:同側群)の2群に分
類された。この分類の違いと膝痛発現との関連について、カ
イ2乗独立性検定を行った。
【結果】
反対群は15名、同側群は19名であった。反対群では、膝痛
あり5名、膝痛なし10名で、対して同側群では、膝痛あり、膝
痛なしはそれぞれ12名、7名となり、同側群の膝痛発現が有
意に多かった(p<0.05)。
【考察】
しゃがみ込み動作開始前に生じるCOP前後位置の調整が、
その後の動作中における膝関節への力学的負荷に影響を与え
ることが示唆され、先行的な段階から必要な機能について着
目する必要性が考えられた。臨床では、膝痛者に反対群の動
きを獲得することが有用と考えられるが、今後、運動学的分
析を行い、予側的姿勢調節の理解を深める必要性があると言
えた。
頸椎症性筋萎縮症・腱板断裂・理学療法
【はじめに】
頸椎症性筋萎縮症は上肢脱力や筋萎縮を主症状とする疾患
であり、保存療法による改善例も報告されているが、具体的
な理学療法に関する報告は少ない。今回我々は頸椎症性筋萎
縮症に左肩腱板広範囲断裂を合併した一例を経験したのでそ
の臨床経過を報告する。
【症例】
60歳代男性。20年以上前より徐々に左肩関節周囲の筋萎縮
を自覚し、左肩挙上困難となった。近年、踏み台から転倒し
た際に左肩を強打し、当院を受診した。MRIでは棘上筋、棘
下筋完全断裂、C3-4、C4-5に椎間板による脊髄圧迫を左優
位に認めた。感覚障害はなく、三角筋と上腕二頭筋の筋萎縮
が著明であった。初期評価時、可動域は肩屈曲20°
、外転20°、
徒手筋力検査は肩屈曲、外転、肘屈曲1レベルであり、三角筋、
上腕二頭筋、棘下筋の明らかな萎縮を認め、左上腕骨頭は1.5
横指下方亜脱臼を呈していた。疼痛は安静時、夜間時、動作
時にあった。
【説明と同意】
対象者には趣旨を説明し、同意を得た上で行った。
【理学療法】
肩甲帯機能を向上させ腱板筋群が効率よく働く環境を整え
ること、疼痛軽減を目的に肩甲帯と肩甲上腕関節へのアプロ
ーチを行った。肩甲帯へのアプローチは、側臥位で抵抗を加
えながらリーチ運動を行い、前鋸筋を促通した。テーピング
は、骨頭下方亜脱臼に対して骨頭を関節窩に引きつけるよう
に棘上筋、三角筋の走行に沿って施行した。9か月間理学療
法施行し、疼痛は消失、可動域は屈曲80°
、外転45°
と改善し
た。しかし、筋力に変化はみられず、現在は可動域の変化も
停滞している。
【考察】
発症から長期経過したため三角筋、上腕二頭筋筋力の著し
い改善はみられないが、腱板断裂による骨頭亜脱臼を関節窩
に引きつけるようにテーピングを施行した状態で理学療法を
行うことにより、痛みを取り除き、効率よく腱板筋群が働く
環境を整えることができたと考える。その結果、肩甲帯機能
向上を図れ、肩挙上可動域の拡大に至ったと考える。
-48-
O-091
O-092
腰部脊柱管狭窄症による運動麻痺の有無がQOLに
及ぼす影響
脊椎圧迫骨折における骨折部位と円背の有無による
影響について
綱島 脩 1)・櫻井愛子 1)・保坂 亮 1)・井川達也 1)・
西山 誠 2)・朝本俊司 2)・石川雅之 2)・中村 聡 2)・
石原慎一 2)・福井康之 2)
石津克人・中山裕子・保地真紀子・渡邊直樹・
細野敦子
新潟中央病院 リハビリテーション部
国際医療福祉大学三田病院 リハビリテーション室
2)
国際医療福祉大学三田病院 脊椎脊髄センター
1)
key words
key words
腰部脊柱管狭窄症・運動麻痺・QOL
【目的】
腰部脊柱管狭窄症(以下LSCS)による疼痛が日常生活や
社会活動などのQOLに影響を受けるとされている.しかし
LSCSによる運動麻痺のQOLへの影響は未だ不明である.そ
こで運動麻痺を有する患者のQOLにおける影響について検
討したので報告する.
【対象と方法】
対象は当院で顕微鏡下椎弓切除および後方固定術を受け,
本研究の同意が得られた患者とした.さらに術前・退院時の
アンケートを回収し得たLSCS患者から無作為に25名(男性
12名,女性13名,平均年齢71.6±8.8歳)を選定した.アンケ
ートは疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生
活障害,心理的障害の5設問から構成されるJOABPEQと腰
痛,殿部下肢痛,殿部下肢痺れの3項目からなるVisual Analog Scale(以下VAS)を使用した.対象者を「麻痺あり群」
と「麻痺なし群」の2群に分類し,群と期間を因子とした反復
測定2元配置分散分析を用いてJOABPEQ5項目とVAS3項目
をそれぞれ比較した.
【結果】
麻痺あり群は6名,麻痺なし群は19名であった.疼痛関連
と歩行機能障害は群と期間に主効果を認めた.心理的障害は
群に主効果を認めた.また、腰椎機能と社会生活は群と期間
に主効果を認めなかった.VAS3項目は期間に主効果を認め
た.全項目に交互作用は認めなかった.
【考察】
術後の疼痛関連障害の改善に伴い歩行機能障害も改善した
と考えられる.また麻痺の有無に関わらず,殿部下肢痛や痺
れも改善したことから,疼痛関連障害や歩行機能障害は疼
痛,痺れに比べ運動麻痺による影響が大きいことがわかっ
た.以上より,麻痺を有する患者に対し,動作獲得に向けた
指導がより重要であることが示唆された.さらに,疼痛関連
障害や歩行機能障害改善は心理的障害改善にあまり影響しな
いことがわかった.腰椎機能障害、社会生活障害では術後の
コルセット着用による動作や活動制限によって術後3週時で
は改善しなかった.今後は長期的な評価が必要であると考え
られる.
脊椎圧迫骨折・骨折部位・円背
【目的】
脊椎圧迫骨折症例における骨折部位と円背が疼痛,ADL
及び入院期間に与える影響を調査し,関連について検討し
た.考察を加え報告する.
【方法】
対象は神経症状のない脊椎圧迫骨折患者45例(平均年齢
81.3±5.8歳)とした.骨折部位により胸椎群20例,腰椎群25
例に分類し,カルテより調査した年齢,PT開始時・退院時の
Barthel Index(以下,BI)
,PT開始時・移動能力獲得時・退
院時のVAS,移動能力獲得に要した期間,入院期間について
比較検討した.さらに,脊椎X線撮影より胸椎後弯角を計測
し,50°未満を非円背,50°以上を円背とし,胸椎群-非円背13
例,胸椎群-円背7例,腰椎群-非円背19例,腰椎群-円背6例
に分類,群内で上記調査項目について同様に比較検討した.
統計はt検定を用い,有意水準は5%とした.尚,本研究は当
院の倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】
胸椎群と腰椎群の比較では,腰椎群で移動能力獲得時,退
院時のVASが高く,移動能力獲得に要した期間が長かった.
年齢,BI,PT開始時のVAS,入院期間においては差がなか
った.円背の有無による比較では,胸椎群内においては全て
の項目で差がなく,腰椎群内においては,腰椎群-円背で年齢
が高く,退院時BI が低値で,移動能力獲得に要した期間が
長かった.PT開始時のBI,PT開始時・移動能力獲得時・退
院時のVAS,入院期間には差がなかった.
【考察】
胸椎群よりも腰椎群で疼痛が強く,移動獲得に期間を要す
ことから,骨折部位による影響が示唆された.円背の有無で
は,腰椎群-円背がより高齢で,移動能力獲得にもより期間
を要し,ADLが低いまま退院に至っていることが明らかにな
った.円背を有する高齢腰椎圧迫骨折症例に理学療法を実施
する際は,入院期間中に十分ADLが改善しない可能性に留意
し,早期よりADLの向上を図る必要があると考えられた.
-49-
O-093
O-094
痙縮治療後の歩行評価―床反力計内蔵型トレッドミ
ルによる歩行分析―
舌への感覚刺激が立位バランスへ及ぼす影響
渡部幸司・佐々木亜由美・杉野佑子
青木郁弥 1)・尾名高裕生 1)・中山康利 1)・尾崎健一 2)・
加藤譲司 1)・清水康裕 1)
順天堂東京江東高齢者医療センター リハビリテーション科
輝山会記念病院 総合リハビリテーションセンター
国立長寿医療研究センター 機能回復部
1)
2)
key words
key words
痙縮治療・床反力・トレッドミル
【はじめに】
ボツリヌス療法は痙縮治療において脳卒中ガイドライン
2009でグレードAと推奨されているが,治療前後の効果判定
としての明確な評価が確立されていない印象である.当院で
は痙縮に対する一般的な評価と共に,床反力計を用いた歩行
分析も行っている.当院の痙縮治療の傾向と床反力解析によ
る歩行評価を検討した.
【対象・方法】
慢性期脳卒中患者7名(男5名,女2名,うち複数実施対象者
含む)
,平均年齢62.50±10.8歳,疾患内訳は脳梗塞5例,脳出
血1例,くも膜下出血1例であった.対象者に対し,Brunnstrom
Recovery Stage(BRS)L/E,関節可動域測定(ROM)
,Modified Ashworth Scale(MAS),10m歩行の各評価を行い,経
時的変化量を算出した.また歩行評価として床反力計測を行
い,麻痺側単脚支持時間(sec),麻痺側両脚支持期割合(%)
,
ストライド長(mm),また垂直方向の床反力波形を比較検
討した.なお床反力計測には床反力計内蔵型トレッドミル
(ADAL3D)を用いた.当院倫理委員会規定に基づき調査を
行った.
【結果】
当院の痙縮治療の傾向として,MASの中央値は膝関節1+
→1,足関節2→1+とそれぞれ1段階低下を認め,その後も維
持している傾向であった.また10m歩行は症例により変化に
差があった.提示する1症例に関して,痙縮治療後2週で麻痺
側単脚支持時間の延長を認め,その後12週まで維持している
傾向であった.ストライド長に関しては治療前に比べ延長し
た.
【考察】
当院の痙縮治療の傾向から,対象者によってはMAS等の
変化に比べ,歩行速度の向上や床反力の変化を認める対象者
もおり,客観的歩行評価が必要であると考える.床反力計内
蔵型トレッドミルでの評価は,多数歩のデータ採取が出来,
時間・距離因子の変化を捉えることが可能であるため,歩行
評価として有用であることが示唆された.
舌感覚・立位バランス・口腔機能
【目的】
咀嚼・嚥下や構音などの機能は、臥位よりも座位・立位で
バランスが要求される場面で必要になることが多い。摂食時
のポジショニング等でバランスが安定することにより、口腔
機能が改善する報告などみられる。しかし、舌の状態が変化
することによりバランスにどのような影響を与えるかの報告
はほとんどない。そこで、本研究は、舌への感覚入力を行う
前後で立位バランスを評価し、その影響を明らかにすること
を目的とした。
【方法】
対象は、ヘルシンキ宣言に基づき同意を得た年齢32.1±7.9
歳(平均±標準偏差)の健常成人23名(うち男性10名)
。バラ
ンスの評価は、重心動揺計(グラビコーダG620;アニマ社製)
にて望月ら(2010)の提唱するIPSを、舌への刺激前後で計
測し比較した。舌への刺激について、速順応性の有被膜性神
経終末などを意識し20秒間に40回の刺激を行ったFast刺激群
(11名)と、遅順応性のメルケル細胞などを意識し20秒間に
10回の刺激を行ったSlow刺激群(12名)にランダムに分類し
て行った。刺激は綿棒にて、舌尖・舌背・両舌縁部の4か所
に行った。各郡において刺激前と刺激後をWilcoxonの符号
順位検定にて解析した(p<0.05)
。
【結果】
Fast群のIPSは、刺激前が2.12±0.22、刺激後が2.20±0.24と
有意な向上が認められた。Slow群のIPSは、刺激前が2.26±
0.24、刺激後が2.27±0.25と有意差は認められなかった。
【考察】
舌の触圧覚は三叉神経主知覚核へ入力される。三叉神経核
は解剖学的に前庭神経核に隣接し、相互のシナプス結合を有
すると言われている。このことが一因となり、本研究の結果
とおり舌への速い刺激により前庭神経核が刺激され、立位バ
ランスの向上につながったと考えた。舌への速い感覚入力
は、立位バランスに影響を与えることが示唆された。
-50-
O-095
O-096
前足部回内可動域が片脚立位の重心動揺に与える影
響
ライトタッチが静止立位姿勢制御に与える影響
―Stabilogram-diffusion解析による検討―
芹田 祐・宮本 梓
鈴木陽介 1)・星 文彦 2)
慶友整形外科病院 リハビリテーション科
1)
key words
key words
白岡整形外科 リハビリテーション科
埼玉県立大学 保健医療福祉学部 理学療法学科
2)
前足部可動域・重心位置・重心動揺
【目的】
片脚立位は足部を支点として、下腿を外側傾斜するので足
部回内可動域が必要であると考えられる。しかし片脚立位の
安定性に関しては、股関節の機能に着目した研究が多く、足
部可動域に言及している報告は少ない。従って本研究は足
部、特に横足根関節回内可動域(以下 前足部可動域)に着目
し、片脚立位の重心動揺に与える影響を明らかにすることを
目的として行った。
【方法】
ヘルシンキ宣言に則り、事前に研究趣旨を説明して同意が
得られた健常成人男性15名(平均年齢24.2歳)を対象とした。
非荷重での前足部可動域と片脚立位時の踵骨外反角(以下
LHA)を計測した。重心動揺計グラビコーダGP-7(アニマ
社製)を用いて、開眼で30秒間片脚立位を保持させた。重心
動揺軌跡長(以下 LNG)、前後方向への動揺平均中心変位を
足長で除し100を乗じて、足長に対する踵からの割合(以下
重心位置)を算出した。LNG、重心位置ともに3回の平均値
を代表値とした。統計処理は、LNGと前足部可動域を変数と
した単回帰分析を行った。また(1)前足部可動域と重心位置
(2)重心位置とLNG(3)前足部可動域とLHAを変数とし、ピ
アソンの積率相関係数を行った。尚、有意水準は5%未満と
した。
【結果】
前足部可動域を説明変数(x)、LNGを目的変数(y)とする
と、y=-4.62x+180.04(p<0.05,R2=0.28)で、負の直線回帰
式を得た。(1)ではR=0.71(p<0.05)で正の相関を認めた。
(2)ではR=-0.51(p<0.05)で負の相関を認めた。(3)では
R=-0.75(p<0.05)で負の相関を認めた。
【考察】
重心位置が前方変位したことで足趾屈曲筋が効率的に機能
し、足部安定性の向上に寄与したことでLNGが減少したと考
えられた。また前足部回内位になることで、相対的に後足部
(踵骨)が外反位となり、足部の剛性が高まったことがLNG
減少の一因として考えられた。
【結論】
片脚立位を安定して行うには、重心位置を前方変位する必
要があり、それには前足部可動域が重要であることが示唆さ
れた。
姿勢制御・フィードバック・ライトタッチ
【目的】
本研究は,指先触覚により体性感覚入力が足圧中心(以下
COP)動揺に及ぼす影響を,Stabilogram-diffusion 解析を
用いて動揺の時間的特性を観察し,立位姿勢制御における指
先からの体性感覚の役割を探索することを目的とした。
【方法】
対象は,健常成人男性14名であった。被験者に固定点へ指
先で軽く触れる(以下LT)または触れない状態(以下NT)で
開眼(以下EO)および閉眼(以下EC)で静止立位をとらせ,
その時のCOPの軌跡をWin-Pod(MediCapteures社製)で計
測した。指先の接触は右手の人差指で計測時間中100g以下
となるようにモニターした。解析はCOPの軌跡から0.05秒間
隔でSDプロットを求め,最小二乗法からSD解析値(境界点
)
,拡散係数Drs・Drl,ハースト指数Hs・Hl)
座標(Δt,
〈Δr2〉
を算出した。統計は4条件におけるSD解析値について二元配
置分散分析および多重比較検定を行った。また,有意水準5
%として処理した。実験はヘルシンキ宣言および個人情報保
護に則り,事前に研究の主旨を十分に説明して同意が得られ
た上で行った。
【結果】
SDプロットにおいて,〈Δr2〉およびDrsはLTにより小さく
なり,NTとの間に有意差がみられたが,EOとEC条件間で
は有意差はみとめられなかった。DrlはEO条件においてLT
ではNTに比べて有意に小さくなった。また,EC-LTでEONTよりも有意に小さくなった。HlのEO-ECの条件間で主効
果に有意差および交互作用がみられ,ECにおけるNTでより
小さな値となった。
【考察】
指先の接触は新たな参照枠を作り,開ループにおける制御
をより確実なものとするとともに,閉ループ制御におけるフ
ィードバック情報としても重要であることが示唆された。Hl
は,視覚情報がない条件で反持続性が強くなったことから,
短時間領域における不確実な制御が長時間領域の制御により
影響するものと考えられる。
-51-
O-097
O-098
姿勢と胸郭・肋骨部の位置を捉えた評価について
前額面状において画像解析を用いた一考察
三次元動作分析装置の仮想マーカーを用いた関節角
度と関節可動域測定の相互間の妥当性
柳 宗 1)・齋藤 元(MD)2)
新井雅子 1)・牛久保智宏 2)
幕張整形外科 リハビリテーション科
幕張整形外科
独立行政法人東金九十九里地域医療センター 東千葉メデ
ィカルセンター
2)
アニマ株式会社
1)
1)
2)
key words
key words
姿勢・胸郭・形態変化
【目的】
胸郭は、呼吸器疾患を有する者の病理学的変化から起こる
呼吸器としての視点や身体運動をより分節的に表出させる運
動器としての役割を相互に果たすと考える。そこで、姿勢に
おける前額面の胸郭形態を評価し関係性について考察する。
【方法】
対象は脊柱に著明な変形を有さない健常成人男性38名(年
齢23.4±2.2歳、 身 長171.4±3.0cm、 体 重64.4±4.6kg)。 測 定
体位は正面を向き上肢は自然下垂位前腕橈骨縁を前方に向け
た背臥位、45°ファーラー位、座位とした。部位は、体幹よ
り垂直な仮想線を中心に胸骨頸切痕と胸骨剣状突起を結び胸
骨傾斜側を計測。上部肋骨は、第2肋軟骨外側端中央部の右
側を基準に仮想の平行線から左側への高低差を計測。下部肋
骨は、肋骨弓下端の右側を基準に仮想の平行線から左側への
高低差を計測。肋骨下角を剣状突起と第10肋骨を結び胸骨傾
斜角より求めた垂線とのなす角とし左右比較した。撮影は胸
部矢状径の高位に設定し1分間安静呼吸後に行った。数値算
出はImageJを用い、統計処理は各項目における左右差を比
較するため対応のあるt検定を実施。また、各姿勢3条件間の
胸郭形態を比較するため一元配置分散分析と多重比較を用い
相関分析を行った。なお有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には本研究の説明と同意を得た。
【結果】
各項目の左右差に有意差を認めた。(p<0.05)各姿勢と胸
郭位置、形態には有意差を認めなかった。(p<0.05)アライ
メントの傾向は、胸骨右傾斜。上部肋骨は右肋軟骨外側端中
央部は低位、左高位。下部肋骨は右肋骨弓下端は高位、左低
位。肋骨下角は左側角度が優位に大きかった。
【考察】
各設定条件下の胸郭形態に変化は少なく、個々の形状にお
いて項目毎に角度や高さは量的に異なるが特定の位置関係を
有する非対称性が示唆された。呼吸様式や姿勢制御の因子を
考慮し胸郭・肋骨部の位置取りを捉えたアライメント評価は
治療を行う上で一視点となると考える。
三次元動作解析装置・関節可動域測定・仮想
マーカー
【背景】
生体の機能評価において運動学的に基づく評価が重要であ
る。その中で三次元動作分析装置は運動学的なデータを直接
取得する事が可能である有用な機器である。三次元動作分析
装置としてMA-3000ユニットタイプによる仮想マーカー計測
があるが、ゴニオメーターを利用する関節可動域測定
(ROMT)や通常の動作分析の計測に比べどの程度の精度があるか
という定量的なデータが示されていない。今後患者評価を行
う上で、精度の検証が不可欠である為、ROM-T、仮想マーカ
ーを利用した関節角度計測を比較する事で精度評価を行う。
【方法】
検査者は理学療法士1名。被験者は異常のない4肢に対し股
関節屈曲・内転・外転・内旋・外旋、膝関節の屈曲・伸展、
足関節の背屈の自動、他動の56関節を計測。研究の趣旨や内
容を口頭と書面で説明し同意が得られた上で行った。方法は
3点が固定されたマーカーユニット(FRマーカー)を腰・左
右下腿・左右足部に取り付け、一定の距離にある点をポイン
タで指し仮想的なマーカーとして利用した。ROM-Tは、日
本リハビリテーション医学会と日本整形外科学会で推奨する
関節可動域表示ならびに測定法の手順に基づいて行った。
【結果】
足関節背屈で10゜以上、股関節外旋で5゜以上の誤差を生じ
た。その他の関節は5゜
以下の誤差にとどまった。
【考察】
足関節背屈で誤差の要因は、ROM-Tの移動軸は第五中足
骨であるが、動作分析ではマーカー取り付け用具を第五中足
骨の代わりに用いている為、位置が一致せず誤差の要因にな
ったと想定する。股関節外旋は、水平面での運動である事と
移動軸が下腿中央線の為、2つの関節を跨いで計測・計算す
る為、一般的に誤差の要因が多い。足関節背屈、股関節外旋
で誤差を生じたが、その他の関節ではROM-Tと仮想マーカ
ーの差が5゜
以下と小さかった。足関節背屈、股関節外旋の測
定方法を検討する事によって、仮想マーカーを臨床現場で利
用できる事が明確になった。
-52-
O-099
O-100
新入職員と指導担当者の双方からみた新入職員教育
の課題
当院理学療法部門におけるアクシデント事例の検討
―発生時間と影響度に着目して―
伊能幸雄 1)・村永信吾 2)・鵜澤吉宏 3)
竹内伸行 1,2)・山本由子 2)・三浦麻里恵 2)
1)
亀田クリニック リハビリテーション室
亀田メディカルセンター リハビリテーション事業管理部
3)
亀田総合病院 リハビリテーション室
1)
2)
2)
key words
key words
高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
本庄総合病院 リハビリテーション科
新入職員・指導担当者・新入職員教育
【目的】
理学療法士(以下,PT)の新入職員が臨床現場で必要と
なる力量を新入職員とその指導担当者(以下,SV)から調査
し,新入職員教育の課題を見出すこと.
【方法】
対象は,2013年4月1日に当院に入職した新卒のPT10名(男
性7名,女性3名)とSV(男性10名,経験年数:6.8±2.4年)
とし,本研究についての説明と同意を得た.調査期間は2014
年1月27日~2月25日とし,個別インタビュー形式で以下の質
問に対して自由な意見を求めた.新入職員への質問は,「臨
床にでてみて自分には足りないと思ったことは何ですか?」
.
SVへは,
「新入職員の指導場面で,不足していると思ったこ
とは何ですか?」とした.得られた意見を「資質」,「知識」
,
「技術」
「教育・管理」の4カテゴリーに分類し,新入職員と
SVで各カテゴリーの人数比率をχ2検定にて比較した.
【結果】
回答数は,新入職員:41個,SV:28個,計69個.これを4
つのカテゴリーに分類した. 新入職員の回答の内訳は,資
質(4個,9.8%),知識(18個,43.9%),技術(18個,43.9%)
,
教育・管理(1個,2.4%).同様にSVは,資質(13個,46.4%)
,
知識(6個,21.4%),技術(7個,25.0%),教育・管理(2個,
7.1%)であった.更に,新入職員とSVの4カテゴリーの比率
を比較したところ有意な差が認められた(p<0.01).
【考察およびまとめ】
新入職員自身が不足していると感じることは知識や技術に
関することが多く,一方でSVは資質と感じていることがわ
かった.職業人として専門知識・技術の修得は必須であるが,
その基盤となる資質面の充実の必要性は言うまでもない.本
調査の結果から見えてきた新入職員教育の課題は,第三者的
にSVが感じている資質面の成長の重要性を,どう新入職員
に伝え,そして理解してもらうかということであると考え
る.
アクシデント・アクシデントレベル・影響度
【目的】
アクシデントの発生時間と頻度,レベルの関連性を明らか
にすることを目的とした。
【方法】
本庄総合病院理学療法部門(当院)で2006年9月から2013
年6月に生じた事例57件を対象とした。理学療法士の経験年
数と発生時間(1時間単位)を抽出し,アクシデントレベル
を国立大学附属病院医療安全管理協議会の影響度分類(影響
度)で評価した。この指標はレベル0(患者に実施せず),1(実
害なし)
,2(処置不要)
,3a(簡単な処置)
,3b(濃厚な処置),
4a(傷害や後遺症が残り機能障害なし)
,4b(傷害や後遺症
が残り機能障害あり),5(死亡)の順序尺度のため0を0,1
を1,2を2,3aを3,3bを4,4aを5,4bを6,5を7とスコア化
し分析した。各時間帯別の発生件数をχ2乗検定,影響度を
Kruskal-Wallis検定で比較した(有意水準5%)。本庄総合病
院倫理委員会の承認を得て実施し,関係者情報は連結不可能
匿名化して処理した。
【結果】
時間帯別の発生件数は9時台4件,10時台11件,11時台14件,
12時台2件,14時台8件,15時台8件,16時台4件,17時台6件で,
10時台と11時台の2時間で全体の43.9%を占めたが,各時間
帯間に有意差を認めなかった(p>0.05)。時間帯別にみた各
事例の影響度は,9時台はレベル1が3件,2が1件,10時台は1
が4件,2が3件,3aが2件,3bが2件,11時台は1が3件,2が5件,
3aが6件,12時台は1が1件,3aが1件,14時台は1が3件,2が2
件,3aが3件,15時台は1が2件,2が1件,3aが5件,16時台は
2が1件,3aが3件,17時台は1が1件,3aが5件で,各時間帯間
に有意差を認めなかった(p>0.05)
。
【考察】
10時台11時台の発生が多かった。当院では患者が集中しリ
ハビリテーション室が混雑する時間帯である。業務量が多い
時間帯はアクシデント発生に関係すると推察される。しかし
件数,影響度共に発生時間の違いによる統計学的な差を認め
ず,本研究結果ではアクシデントが発生した時間帯と発生頻
度および影響度には関連が無いと示唆された。
-53-
O-101
O-102
「リハビリテーション部における組織管理」~バラ
ンスト・スコアカードとキャリアラダー導入の経過
と課題~
経験年数によるインシデント再発状況及び医療安全
の取り組み効果について
宮野慎太郎・伊藤進一
中川清隆
一般社団法人 巨樹の会 八千代リハビリテーション病院
医療法人社団 誠馨会 総泉病院 リハビリテーション部
key words
key words
組織管理・バランスト・スコアカード・キャ
リアラダー
【はじめに】
近年、若年化している組織が増加しており、当院リハビリ
テーション部(以下リハ部)の現状も同様で、人材育成が急
務となっている。また、社会情勢の変動に対応できる組織体
制の為にも業務及び人材管理の体系化が必要と考える。以下
に組織管理フレーム構築への取り組みを紹介し、今後の課題
について検討したい。
【リハ部の現状】
a)新人教育体制について
新人教育部、学術部、企画部の3体制で実施していたが、
各々が独立して指導内容、評価基準を設定しており、連携性
が低いのが現状である。
b)目標管理と人事考課
人事考課表と年間の目標管理をキャリア別の評価用紙にて
実施している。しかし、評価基準や達成度の評価が不明確に
なっているのが現状である。
【組織管理フレーム構築の経過】
a)バランスト・スコアカードの導入
BSC導入準備として、研修への参加と作成支援を認定指導
者に依頼しBSC作成を開始。平成25年度からリハ部BSC運営
部を立ち上げ、戦略マップ及びスコアカードを作成し、定例
会議にてモニタリングを実施。アクションプラン担当への指
示やスタッフ全体への周知等の活動を実施。
b)キャリアラダーの導入
当院リハ部におけるセラピストの仕事リストと、各々に必
要な能力リストの作成から開始。次に、経験年数別のグレー
ドを設定し到達目標の文言を作成。運用に向けて内容の見直
しを実施中。
【今後の課題】
a)BSCの課題
スタッフへの周知活動も継続しているが、全体まで浸透し
ていないのが現状である。現在は病院全体のBSC運営も開始
している為、病院全体との連動性も課題となる。
b)キャリアラダーの課題
仮のキャリアラダーは完成したが、人事考課等への活用を
想定すると仕事リスト、能力リストともに不十分と考え、現
在修正作業中である。
【おわりに】
セラピスト能力や臨床業務を言語化する事は大変困難だ
が、組織管理フレームの構築の為に引き続き取り組んでいき
たい。
医療安全の取り組み・インシデント・経験年
数
【はじめに】
インシデントを未然に防ぎ、安全な環境下で訓練を施行す
る為に、医療安全の取り組みを実施してきた。その効果を知
る為、年度別、経験年数別に再発状況を比較検討したので以
下に報告する。
【医療安全の取り組み】
(1)H21年度からインシデントの報告会 (2)H22年度か
らインシデントレポートの閲覧 (3)H23年度からリスクの
高い患者へのリスク管理指導
【対象と方法】
H22~24年度の訓練時のインシデントレポートを集計。経
験年数を1年未満、1-3、3-5、5-10年未満、10年以上と分
類。H22、23年度にインシデントを起こしたセラピストの翌
年の再発状況を年度別、経験年数別で比較検討した。統計処
理は対応のあるt検定を使用し、有意水準は5%未満とした。
【結果】
H22、23年度、H23、24年度の比較結果は、有意差を認め
た(p<0.05)
。経験年数別では、H22年度の1年未満、H23年
度の1-3、3-5年未満は翌年に有意差を認めた(p<0.05)。
H22年度の1-3、3-5年未満、H23年度の1年未満は有意差を
認めなかった(p>0.05)。5年以上は件数が少なかった為統
計処理を実施しなかった。
【考察】
H22、23年度共に有意にインシデント件数が減少し、全体
としては取り組み効果があったと考える。経験年数別では、
H22年度の1年未満は、取り組み(3)によって情報共有が行え、
H23年度の1-3、3-5年未満は、取り組み(1)
、
(2)の継続
した取り組みによって危険予知能力の不足を補うことで減少
に繋がったと考える。H22年度の1-3、3-5年未満は、取り
組み(1)、(2)の継続的な啓発が不十分であり、H23年度の
1年未満は、個々の事例に対して要因や対策が不十分であっ
たことがインシデント減少に繋がらなかった要因であると考
えられる。
【結語】
H21年度からの取り組みは有用であるが、継続的に啓発し
ていくこと。また、個々の事例に対して要因や対策を検討し、
危険を察知する感受性を個々が日頃から高めていくことが重
要であると考えるに至った。
-54-
O-103
O-104
学術集会への参加行動―参加理由と得た知識の活用
先に関する調査
千葉県理学療法士会員の学術活動の調査報告
―2010年度からの4年間について―
今井覚志 1,2)・鈴木徹也 1,2)・福井将悟 1,2)・
市川雅彦 1,2)・宮城新吾 1)・松原 徹 1)・石毛 崇 1)・
濱中康治 1)・大久保忠 1)・菊池佑至 1)・渡辺重人 1)・
松尾郁美 1)・田中尚喜 1)・千葉徹也 1)
菅谷繋喜 1)・山岡郁子 2)・嶋田誠子 3)・石井清誉 4)・
藤井 顕 2)・茂木忠夫 5)
東京都理学療法士協会 区西南部・区西部ブロック 第1
回学術集会運営委員会
2)
慶應義塾大学病院 リハビリテーション科
千葉県理学療法士会 学術局資料部 すこやかリハビリケ
アセンター リハビリテーション課、2)同 藤リハビリテー
ション学院 理学療法学科、3)同 国保多古中央病院 リハ
ビリテーション科、4)同 総合医療センター成田病院 リハ
ビリテーション科、5)千葉県理学療法士会 学術局 さんむ
医療センター リハビリテーション科
key words
key words
1)
1)
理学療法士・学術集会・参加行動
【目的】
本調査は理学療法士の学術集会への参加理由,得られた知
識の活用先などの参加行動を明らかにすることを目的とし
た。
【方法】
所属理学療法士約1100名の区域で,特別講演2題(運動器1
題,神経1題),一般演題9題(研究報告2題,症例検討7題)
から成る学術集会を開催した。その際にアンケート調査を実
施し,経験年数,参加理由および得られた知識の活用先を尋
ねた。参加理由は4択(自己研鑽,ポイント取得,命令,そ
の他),知識の活用先は6択(基礎知識,臨床,スタッフ教育,
学生教育,研究,その他)からの複数回答とした。なお,ア
ンケート調査は無記名とし,公表に同意された方のみ提出し
ていただいた。
【結果】
学術集会に参加した理学療法士は159名であった。アンケ
ートの回答者は89名(回収率56%)であった。理学療法士経
験年数は,1年目が18名,2-3年目が21名,4-5年目が17名,
6-9年目が18名,10年以上が15名であった。学術集会への参
加理由は,自己研鑽が83%と最も高く,ポイント獲得は49%,
職場からの命令およびその他の理由は10%以下であった。経
験年数別の特徴として,1年目の72%はポイント獲得を理由
としているが,その他の年代は35-48%と低値であった。特
別講演で得られた知識の活用先は,基礎的知識が84%,臨床
が69%,スタッフ教育が18%,学生教育が10%,研究が4%で
あった。一般演題の活用先はそれぞれ43%,49%,16%,9%,
15%であった。経験年数別の特徴として,4年目以降から教
育関連への貢献が高くなる傾向を認めた。
【考察】
理学療法士の学術集会への参加理由は,理学療法士協会の
生涯学習制度の影響を強く受けている可能性がある。また,
同じ演題であって,参加者の注目するポイントおよび演題か
ら得られる知識は,経験年数によって異なる可能性も示唆さ
れた。
学術調査・学術活動・教育支援
【背景】
理学療法士(以下PTと略す)の地位・技能の向上を目指し、
社会への寄与を目的に、1993年から生涯学習システムが導入
され、2013年には有資格者は10万人を超え、日本PT協会入
会者は8万人弱となった。PTは健康増進や介護・転倒予防事
業への積極的な関与を期待され、システムの重要性は大きく
なってきている。千葉県理学療法士会(以下千葉士会と略す)
学術局は会員の学術研鑚支援の為に、以前より会員の学術ニ
ーズや動向把握、学術業績等についての調査を実施してき
た。学術業績報告は会員の学習意欲を促す意味で以前より千
葉士会誌に掲載し、2010年より千葉士会ニュース(以下ニュ
ースと略す)に掲載している。今回は2010年度以降の調査結
果を振返り、今後の学術支援のための資料としたいと考え
た。
【方法】
千葉士会学術局主催の研修会会場にて調査票を配布し、ニ
ュースにも掲載し、調査に同意した会員が自主的に報告を行
う形式とした。氏名、所属施設でどのような場での発表であ
るかを年度毎に集計した。調査期間は2010~2013年の間に受
けた会員からの報告を対象とし、年度毎・種別ごとの比較を
行った。活動内容はその年度に公表した原著論文、その他論
文、著書執筆、講師、学会発表とした。
【結果】
学術活動は2012年度新人教育プログラム改定で、症例検討
IIIは必須ではなくなった影響が出ると予測したが、年度によ
る傾向には変化がなかった。報告数はどの年度も職場の学術
活動への理解や、教育システムの影響を受け、多人数職場か
らは報告数が多い傾向にあり、少人数職場の会員への支援方
策が必要と考えられた。全体に対する論文投稿数は少なく、
発表から学際的な探究方法に関する教育支援の必要性を感じ
た。しかし、発表数が多数という事は臨床データ蓄積がされ
ているという事でもあり、会員の臨床技能向上に対するニー
ズを表しているともいえた。
-55-
O-105
O-106
デイサービスにおける個別機能訓練加算2導入の効
果~移動能力への影響を検討~
生産人口への運動に対するアンケート調査~当院に
できる介入方法の検討~
市川保子
原田直美・長澤康弘・赤池貴光・井手一茂
特別養護老人ホーム 松葉園 リハビリテーション科
医療法人社団誠和会 長谷川病院リハビリテーション科
key words
key words
個別機能訓練加算2・FIM・認知症
【目的】
当施設では個別機能訓練加算2を導入している。利用者様
やご家族の要望として、下肢筋力や移動能力の向上・維持が
最も多いが、算定人数の増加に伴い、個別でのプログラム実
施が難しい状況にある。そこで、機能訓練指導員における体
操の実施に加え、介護職員との連携の強化を試み、移動能力
に変化が生じたかを検討した。
【方法】
個別機能訓練加算2を算定している利用者様88名の、移動
の支援方法の検討を介護職員と共同で行い、実施状況を共有
する。この利用者様のうち、平成26年4月末の時点で4ヶ月以
上継続して実施している61名を対象とした。検討方法は、初
回評価と平成26年4月末で、a)FIMの移動項目の点数を比較、
b)対象者を認知症の有無に分け、FIMの移動項目の点数を
比較した。統計処理はt検定を用いて、有意水準を5%未満と
した。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり、対象者には
研究内容を十分に説明し、同意を得た。
【結果】
a)初回評価時と平成26年4月末でFIMの移動項目点数を、
t検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(p<0.05)
。
b)認知症の有無による検討:初回評価時と平成26年4月末
でFIMの移動項目点数t検定を用いて検定した結果、認知症
ありでは有意差は認められなかった(p>0.05)。認知症なし
では有意差が認められた(p<0.05)。
【考察】
現在、3時間30分で平均30名(1日当たり)の利用者様を機
能訓練指導員1名で対応しており、必然的に小集団でのプロ
グラム実施が増えている。個別に対応することが難しい状況
にあるが、介護職との連携を強化し、実践的な支援をするこ
とで、利用者様の移動能力の向上に繋がった。認知症を有す
る利用者様においては、向上には至らなかった。
【まとめ】
本研究結果より、当施設における個別機能訓加算2の導入
が利用者様の移動能力の向上に有用であると言えた。
生産人口・健康増進・運動
【目的】
当院では地域の健康増進に貢献するコンセプトがあり、定
期的に「健康まつり」を開催している。今回、健康まつりの
中で運動に対するアンケート調査を実施した。調査結果より
今後の当院で実施できる介入方法について検討した。
【方法】
対象は健康まつりに参加し、アンケートの協力を得られた
20~65歳の54名(男27、女27)である。まず、対象者に運動
を実施しているか、していないかを訪ねた。実施者には、1)
頻度、2)時間、3)場所、4)内容について質問した(3)、4)
は複数回答可)
。未実施者には、その理由としてa)したいと
思わない、b)したいが実際に行動できていない、c)時間
のゆとりがない、d)方法が分からない、e)環境がない、f)
一人だけでは行えない、について質問した(複数回答可)
。
分析は各年代、項目に区分して、その割合を示した。
【結果】
未実施者は33名(61%)であった。中でも30代は14名中12
名(85%)と最も未実施者の割合が高かった。未実施者の理
由の割合として、cが32%、bが28%であった。実施者の特
徴では、40代からは運動実施者が増加傾向となっており、頻
度は毎日が47%、時間は1時間が42%、場所は自宅近隣が70
%、内容はウォーキングが46%であった。
【考察】
結果から、未実施者の特徴として、時間的制約や行動力の
問題によって運動が行えていない。実施者では、近隣の環境
を利用して簡単に実施できる運動を習慣づけていると考え
る。このことから、生産人口への介入では、自宅や近隣で短
時間、簡易的かつ効果的に実施できる運動を指導する場を設
ける必要がある。また、運動の必要性を理解してもらうこと
も必要と考える。
【まとめ】
地域の健康増進において生産人口の運動未実施者の特徴に
配慮した介入を行っていきたい。
-56-
O-107
O-108
歩行時股関節内外転角度と身体認識角度の関係性
運動イメージの鮮明さを高める介入方法の検討
―fMRIによる検証―
吉田雅宣 1)・濱田裕幸 1,2)・稲崎陽紀 1)・小林 準 1)・
赤星和人 1)
濱田裕幸 1,2)・長井亮祐 1)・大谷匡史 1)・安武経秋 1)・
小林 準 1)・赤星和人 1)
市川市リハビリテーション病院
千葉大学大学院医学研究院
1)
2)
市川市リハビリテーション病院
千葉大学大学院 医学研究院 認知行動生理学
1)
2)
key words
身体感覚・歩行・股関節
key words
【目的】
股関節機能は正常歩行を遂行する上で重要な構成要素であ
る.しかし,身体感覚と歩行の関係性についての報告は少な
い.そこで本研究は健常者における固有受容感覚と歩行能力
の関係性を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は健常男性12名(年齢34.4±5.3歳)とした.ビデオカ
メラ(JVC社製)を使用し,歩行立脚中期の股関節内転角度
と股関節,足関節の身体認識角度(立位条件,臥位条件,座
位条件)を前額面上から撮影した.立位条件は,立位にて股
関節と踵が床面に対し垂直位となる位置に骨盤位置を修正す
るように求めた.臥位条件では,臥位にて股間節内転位,外
転位の位置から,股関節と足関節が体軸と平行となる位置に
足部を移動させるように求めた.座位足関節条件では,足部
の内外反の運動を許容する板の上に足部を置き,足部内反
位,外反位の位置から,板を水平にするように求めた.各足
5回の測定を行い,計測の順序は各被験者ランダムに選択し
た.指標として上前腸骨棘,膝蓋骨中心,内外果中点にマー
カーを貼付した.得られた動画をimage-jを用いて解析した.
股関節内転可動域(ROM)と筋力を徒手筋力測定器(日本メ
ディックス micro FET2)にて測定した.統計はSpearman
の順位相関係数を用い,従属変数を歩行立脚期の股関節内転
角度とし,独立変数を各身体認識課題,筋力,ROMとして相
関関係を検証した.有意水準は5%未満とした.研究に際し,
当院倫理審査委員会の申請と承認を得た.被験者に説明を行
い,同意を得た後に,実験を行った.
【結果】
歩行時の股関節内転角度と各条件間の相関関係は,臥位条
件r=0.63(p=0.13),立位条件r=0.61(p<0.01),座位条件r=
-0.10(p=0.61),となり立位条件に有意な相関を認めた.筋力,
ROMは有意な相関を認めなかった.
【考察】
健常者の歩行と立位時の身体認識は密接に関与しているこ
とが示唆された.介入の要素としての妥当性を検証するため
に今後,患者群等で比較し,臨床応用への可能性検討をして
いきたい.
運動イメージ・脳活動・fMRI
【はじめに】
近年,
脳卒中片麻痺患者の機能回復を促通する方法として,
運動イメージ(MI)時の脳活動をトリガーとして,麻痺肢の
運動をサポートするBrain Machine Interfaceを用いた介入が
注目されている.しかし,MI時の脳活動や鮮明性を高める
方法は不明である.そこで本研究は,MIの鮮明性を高める
介入を明らかにするために,機能的磁気共鳴像(fMRI)を
用いて,検証を行った.
【方法】
対象は健常男性2名(平均25.0±2.8歳)とした.MRI装置
(1.5T, TOSHIBA)を使用し,各介入前後のMI課題と4つの
介入条件時(実運動,他動運動,知覚,コントロール)の脳
画像を撮像した.MI課題は,右手関節の掌背屈のMIを求め
た.実運動条件は,自動運動を求め,他動運動条件は,検査
者が他動運動を行った.知覚条件では,運動範囲を5段階に
分け,検査者が他動的に動かし,心的に位置の回答を求めた.
コントロール条件は,他条件と同時間の安静を求めた.また,
MI課題後にMIの鮮明さをVisual analogue scale(VAS)に
て回答を得た.各条件は異なる日に測定し,7日以上の間隔
を設けた.介入前後のMIと介入は,休息と課題各24秒を5回
行った.解析はソフトウェアSPMを使用し,課題と休息の
差分により,脳活動部位を同定した.本研究は当院の倫理審
査委員会の承認を得て,対象には十分な説明と同意を得て実
験を行った.撮像は,診療放射線技師の管理の基行った.
【結果】
介入時の運動関連領域の有意な賦活は,実運動条件,知覚
条件,他動運動条件の順に広範囲であった.介入前後のMI時
の脳活動に有意差は認められなかった.VASの平均増加率
は,実運動条件245.3%,他動運動条件56.4%,知覚条件117.4%,
コントロール条件11.7%となった.
【考察】
介入時の脳活動と介入後のVASの増加率は,自動運動がよ
り高値を示し,実運動を行うことがMIに有効であることが
示唆された.しかし,運動が困難な患者に対しては,知覚条
件が有益である可能性が推察された.
-57-
O-109
O-110
股関節内外旋筋力・可動域・知覚と片脚立位重心動
揺の関係性について
上肢操作課題が与える立位バランスへの影響 ~縄
回し動作課題における検討~
稲崎陽紀 1)・濱田裕幸 1,2)・吉田雅宣 1)・小林 準 1)・
赤星和人 1)
鈴木敦子 1)・竹内章朗 2)・愛澤泰之 2)・高儀 隼 2)・
長谷川雄一 2)・森田康昭 2)・渡辺裕之 2)・眞島圭佑 2)
市川市リハビリテーション病院
千葉大学大学院医学研究院
医療法人社団東光会 戸田中央リハクリニック
医療法人社団東光会 戸田中央リハビリテーション病院
1)
1)
2)
2)
key words
股関節・重心動揺・片脚立位
key words
【目的】
安定した立位や歩行には股関節からの正常な感覚入力が必
要不可欠と考えられる。これらは股関節内外旋などの深部筋
による影響が大きいとされている。そこで今回、健常者にお
ける片脚立位重心動揺の成績と股関節内外旋筋力・可動域・
知覚の関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常者12名(平均34±4.6歳、男性10名、女性2名)
とした。方法は片脚立位重心動揺(実効値面積、以下RMS
と単位面積軌跡長)を計測した。股関節内外旋の知覚検査(以
下JPS)は、検査者がランダムに内外旋角度を指定し、被験
者が自動運動にて再現した角度との誤差を記録した。股関節
の関節可動域(以下ROM)は、臥位にて股関節の1°単位に
て可動域を測定した。内外旋筋力はハンドヘルドダイナモメ
ーターにて測定した。統計解析は内外旋筋力については対応
のあるt検定、JPS、ROMについてはウィルコクソン順位和
符号検定を用いて比較を行った。有意水準は5%未満とした。
本研究は当院の倫理審査委員会の承認を受け、対象者に同意
を得て実施した。
【結果】
RMS良好側・不良側に分け比較したところ内旋筋力で有
意差を示した(p<0.05)。外旋筋力、ROM、JPSで有意差は
認められなかった。また、単位面積軌跡長を同様に比較した
が全ての項目に有意差は認められなかった。
【考察】
今回の研究から股関節の内旋筋力が健常者の片脚立位重心
動揺に関与していることが示唆された。これらは、中殿筋・
小殿筋などの骨盤制動作用を有する筋の影響によるものと考
えられる。また本研究の結果からは健常者における股関節内
外旋の知覚と片脚立位重心動揺との間に関連性は認められな
かった。先行研究から知覚の感度は加齢に大きく影響するこ
とから、このことが本研究の限界として考えられる。
【まとめ】
今後、姿勢制御における股関節筋力・知覚の役割を年代ご
とに比較し検証していくことは臨床的にも有用なものになる
のではないかと考える。
上肢操作課題・立位バランス・体幹筋
【はじめに】
体幹筋の適切な活動はバランス能力において重要と言われ
ている。臨床における障害像として、健側の活動に依存した
姿勢制御により、体幹深層筋と表在筋の協調性が失われバラ
ンス能力の低下をきたす様子が見受けられる。
当院では、バランスの能力の低下に対して縄回し動作課題
を実施している。縄回し動作は、律動的・持続的な上肢操作
により、過剰に働く表在筋を抑制させて深層筋を賦活し、バ
ランス能力の改善に繋がると考える。そこで本研究では、縄
回し動作課題の効果を、深層筋群トレーニングと比較し立位
バランスに与える影響を検証した。
【対象】
健常成人男女24名とした。本研究は戸田中央リハビリテー
ション病院倫理委員会の承認を得て行った。
【方法】
介入課題は座位での縄回し動作と腹部引き込み運動とし
た。介入前後における閉眼静止立位の重心動揺とIPS(開眼
立位における正中前後左右の重心移動範囲と面積から算出さ
れる値)を測定・比較した。また、介入前のIPSより低値群・
高値群に分類し、介入前後のIPSより変化率を検出した。
【結果】
縄回し動作群は、閉眼立位では有意に総軌跡長の減少がみ
られた。外周面積・矩形面積・単位面積軌跡長は変化がみら
れなかった。また、IPSは変化がみられなかった。IPSの変
化率は低値群が有意に改善する傾向がみられた。
一方腹部引き込み群は、閉眼立位では有意に総軌跡長の減
少がみられた。その他の項目は変化がみられなかった。また、
IPSは有意に改善がみられた。IPSの変化率は低値群・高値
群に変化はみられなかった。
【結語】
縄回し動作群において、腹部引き込み群と比べて有意な改
善効果は得られなかった。しかし、IPSの低値群・高値群の
変化率に注目すると低値群にて改善する傾向が見られた。こ
れはバランス能力に問題があると考えられる患者において、
律動的・持続的な上肢操作課題におけるバランス能力改善の
可能性を示唆していると考える。
-58-
O-111
O-112
脳卒中片麻痺患者における手すりを使用した階段昇
降動作能力の自立度に影響を及ぼす要因の検討
起立訓練の回数増加に伴う脳卒中患者の在院日数の
短縮及びカットダウン期間の短縮の効果
影山力生・大木雄一
栗田慎也・鈴川活水・小澤俊昭・五十嵐由晃・
門脇悠太・南川智亮
医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院 リハビリテーション部
key words
社会医療法人財団 大和会 武蔵村山病院 リハビリテーシ
ョン科
脳卒中・階段昇降・要因
key words
【目的】
脳卒中片麻痺患者を対象に,手すり使用での階段昇降動作
能力の自立度に影響を及ぼす要因を検討すること.
【対象】
平成25年11月から平成26年4月の間に当院回復期リハビリ
テーション病棟へ入院していた初発脳卒中片麻痺患者17名.
平均年齢は79.5±7.0歳で,検査内容が理解困難な者,重篤な
整形外科疾患を有する者は除外した.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に研究の主旨と個人情報保護に関して説明し,同意
を得た上で実施した.本研究は当院臨床研究倫理審査委員会
の承認を得た上で行われた.
【方法】
Functional Independence Measureの階段昇降の項目6点
の者を手すり使用での自立群(A群:9名),1~5点の者を非
自立群(B群:8名)とした.評価項目は性別,年齢,体重,入
院日数,下肢Brunnstrom Recovery Stage(下肢BRS)
,Functional Balance Scale(FBS),麻痺側および非麻痺側の下肢伸
展筋力体重比(下肢伸展筋力)
,麻痺側下肢荷重率,非麻痺側
上肢握力の10項目とし,評価時期は退院1週間前とした.統
計処理は,10項目に関して2群間の比較を行い,有意水準は5
%とした.
【結果】
FBS(A群52.3±2.0,B群36.5±7.9),麻痺側下肢伸展筋力(A
群1.09±0.43,B群0.43±0.25),非麻痺側下肢伸展筋力(A群
1.33±0.41,B群0.77±0.28),麻痺側下肢荷重率(A群91.2±
10.8,B群62.6±18.0)において両群間に有意差が認められた.
その他の項目に関して有意差は認められなかった.
【考察】
脳卒中片麻痺患者の手すりを使用した階段昇降動作自立に
はバランス能力,両下肢の伸展筋力,麻痺側下肢荷重率が影
響していることが示唆された.
起立訓練・在院日数・カットダウン期間
【目的】
起立訓練は、エビデンスの推奨グレードが高く、身体機能
改善による在院日数の短縮や、半側空間無視や嚥下障害にも
有効な訓練方法と報告されている。
回復期の現状と今後の行方-平成24年度の実態調査結果か
らによると、平成24年度回復期リハビリテーション病院の脳
卒中患者の全国的な平均在院日数は89.4日、入院時平均FIM
は68.4点、平均FIM利得は17.4点である。
当院の平成24年度に入院した患者215名の平均在院日数は
47.1日、入院時平均FIMは69.7点、FIM利得は24.3点であり、
入院時のFIM点数は変わらないが、在院日数は短く、より高
いFIM利得を得ている。
当院は、原則的に1日300回の起立訓練を目標に実施してい
る。更に、集団起立訓練と称し、訓練時間とは別に1日100回
の起立訓練を実施している。
導入前後の脳卒中患者の変化について検討した。
【方法】
集団起立訓練を開始した2013年9月から2014年5月の期間に
入退院した120症例(起立群)と、直前の2012年12月から2013
年9月の期間に入退院した105症例(コントロール群)の2群
を比較検討した。
比較項目は、在院日数、KAFOからAFOへのカットダウ
ン期間、入院時と退院時のFIM、FIM利得、下肢の運動麻痺
を比較した。統計学的解析はt検定を行った。
【結果】
在院日数は起立群48.1±28.8日、コントロール群56.2±33.9
日と有意な差を認めた。
さらに、カットダウン期間においても起立群36.5±23.4日、
コントロール群53.7±18.4日と優位な差を認めた。その他の
項目については、両群における統計学的な差は認められなか
った。
【考察】
当院では集団起立訓練を実施し、起立の反復回数を増やし
た。それにより、生活動作の学習機会が増し、FIMの早期改
善と在院日数の短縮へ結びついた。
加えて、KAFOが適用となる重度運動麻痺を呈した患者
は、起立訓練を用いて安定した動作学習と筋力強化を行うこ
とで、早期カットダウンが得られたと考える。
-59-
O-113
O-114
回復期脳血管疾患の歩行自立に至る日数を予測する
~年齢による差の検討~
回復期脳血管疾患における歩行予後予測~入院時の
基本動作能力から見る退院時歩行自立の検討~
菊池俊明・月成亮輔・宮前 篤・長井亮祐・丸本常民・
山口 元・稲崎陽紀・吉田雅宣・小林 準・
赤星和人(MD)
山口 元・菊池俊明・月成亮輔・宮前 篤・丸本常民・
長井亮祐・稲崎陽紀・吉田雅宣・小林 準・
赤星和人(MD)
市川市リハビリテーション病院 リハビリテーション部
市川市リハビリテーション病院
key words
key words
回復期・脳卒中片麻痺患者・歩行自立日数
【目的】
回復期脳卒中患者の歩行自立に至る日数を予測する報告は
散見されるが,予測精度はあまり高くない.その原因として
は,症例の個人差が大きいことが考えられる.本研究では年
齢に着目し群分けを行い,予測精度の差が生じるか検討し
た.
【方法】
対象は平成21年10月から平成25年12月までに当院に入院し
た初発脳卒中片麻痺患者191名(年齢68.5±12.7歳,発症から
入院までの日数29.9±11.7日,入院日数117.5±45.8日)とした.
そのうち歩行自立に至った112名を,65歳未満,65歳以上の2
群に分けた.除外項目は,入院時歩行自立,状態悪化による
転院,測定に同意が得られなかったものとした.統計はR
(Ver2.8.1)を使用して重回帰分析(ステップワイズ法)を行
い,有意水準は5%とした.入院から歩行自立に至る日数を
従属変数とした.独立変数は,年齢,発症から入院までの日
数,SIAS-m(Hip),歩行能力8段階,FIM合計点とした.多
重共線性を確認するために,各変数の分散拡大要因の値が10
以上の変数は除去した.また,自由度調整済み重相関係数(以
下R2)が0.5以上で説明可能である基準とした.
【説明と同意】
対象者に対して研究の目的・方法を十分に説明し,同意を
得た.収集したデータは日常診療で必要なものであり,当院
の臨床審査委員会の了承を得ている.
【結果】
歩行自立に至る日数は,65歳未満(50名)は,12.34×歩行
能力-12.0×SIAS-m
(Hip)
-0.62×FIM合計+0.54×年齢+52.34.
R2=0.53(P<0.05)となり,予測可能となった.65歳以上(62
名)は,16.06×歩行能力-0.62×FIM合計+26.27.R2=0.36(P
<0.05)となり,予測不可能となった.
【考察】
今回の各指標では,65歳以上は歩行自立に至る日数は予測
不可能となり,65歳未満と比較し,より個人差が大きくなる
可能性があると考えられる.また65歳以上は,SIASは影響
せず,歩行能力・FIMが影響する因子となったことから,機
能的な因子の影響が少なくなる可能性があると考えらえる.
回復期・基本動作能力・予後予測
【目的】
脳血管疾患における歩行予後予測は,リハビリテーション
を効果的・効率的に行う上で不可欠である.急性期では退院
時歩行自立度を予測する際,入院時の座位,起き上がり動作
の自立度に関連があるとの報告があるが,回復期での報告は
見られない.今回,回復期入院時の基本動作自立度から回復
期退院時の歩行能力が予測可能か検証し,基本動作の中でも
どの動作が予測因子として有効であるか比較検討した.
【方法】
対象は平成21年10月から平成25年7月までに当院に入院し
た初発脳血管疾患による片麻痺患者179名(年齢68.5±12.44
歳,男:女94:85,発症から入院までの日数30.0日±11.79)
とした.除外項目は,評価時点で歩行が自立の者,状態悪化
による転院の者,測定に同意が得られない者とした.入院時
の寝返り,起き上がり,坐位,立ち上がり動作の各項目の自
立度FIM7段階(全介助~自立)に準じ評価した.基本動作自
立度と退院時歩行自立度との関係をROC曲線より,AUC(曲
線下面積)を求め,その予測能を判別した.その際AUC0.7
以上を判別可能とした.またROC曲線より,退院時歩行の自
立・非自立を予測するカットオフ値を算出した.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して研究の目的・方法を十分に説明し同意を得
た.収集したデータは日常診療で必要なものであり,当院の
臨床審査委員会の了承を得ている.
【結果】
対象者179名(歩行自立112名,非自立67名)において,各
動作ともにAUCは0.74~0.80となり,全ての基本動作にて退
院時歩行能力は予測可能となった.各動作の比較では,立ち
上がり動作にて最も高い数値(感度0.76,特異度0.70,AUC≒
0.80)となり,カットオフ値は入院時見守りレベルとなった.
【考察】
回復期においても基本動作自立度から退院時歩行能力を予
測できることが示された.先行研究では急性期では座位・起
き上がり動作が退院時歩行能力の予測因子とされているが,
回復期では立ち上がり能力がより有効な予測因子であると考
えられる.
-60-
O-115
O-116
当院における自宅復帰脳卒中患者の傾向と必要因子
の検証
回復期リハビリテーション病棟における脳血管疾患
患者についてのADL能力と在宅復帰の関係
平澤津隼人・末永達也・中村 学・手島雅人
吉田恭平
医療法人社団苑田会 竹の塚脳神経リハビリテーション病院 リハビリテーション科
医療生協さいたま 埼玉協同病院
key words
key words
脳卒中・転帰先予測・クラスター分析
【目的】
自宅退院を決定する要因について、先行研究では身体・認
知機能、ADL、同居家族人数などが関連するとしている。今
回は当院の脳卒中患者に焦点を当て、身体・認知機能、ADL、
社会的因子から患者の傾向を把握し、転帰先予測の一判断材
料にすることを目的とする。
【対象・方法】
平成25年4月1日~平成26年3月31日の期間に退院した脳卒
中患者280名(男性180名、女性100名、平均年齢69.8±13.4)を
対象とした。対象者の年齢、性別、入棟病日、在院日数、同居
家族人数、入院時・退院時FIM、FIM利得、入院時Brunnstrom
Stage、障害側、転帰先を当科医療記録から抽出した。また、
上記項目を基にクラスター分析を行い、得られたクラスタ間
で各項目毎に記述統計、比較検定を行った。
【結果】
クラスター分析により、1群141名、2群47名、3群52名、4群
37名に分類された。比較検定の結果、年齢は2群が他群より
有意に若く、入棟病日は1・2群が3・4群より有意に短く、在
院日数は2群が他群より有意に長かった。入院時FIMは1群が
他群より有意に高く、運動項目FIM利得は2群が他群より有
意に高く、認知項目FIM利得は1・2群が3・4群より有意に高
く、入院時Brunnstrom Stageは2・4群が1・3群より有意に
stageが低く、障害側は2群が他群より右麻痺が多かった。同
居家族人数には有意差を認めなかった。
【考察】
今回の結果より、入院時の身体機能が低下した状態でも、
年齢が若く、入棟病日が短く、在院日数が長い分、リハビリ
期間が得られることで、身体機能・ADLが改善し、自宅復
帰の可能性が示唆された。また、FIM利得が高い2群の障害
側では、右麻痺が多かった。右麻痺では、プッシャー症候群
の回復が左麻痺に比べ早いとの報告や、半側空間失認などの
高次脳機能障害が質的に軽度であるとの報告があり、左麻痺
患者に比べ身体機能の回復が得られた分、ADLが改善し、
FIM利得の向上に繋がったと考える。
脳血管疾患・在宅復帰・FIM
【目的】
脳血管疾患患者の在宅復帰に必要な要因とFIM総得点にお
けるカットオフ値を算出すること。
【対象】
当院に2011年7月から2012年12月に退院した脳血管疾患患
者220名を対象とした。調査方法は、カルテより後方視的に
行い、得られたデーターは個人が特定できないようにした。
【方法】
対象者の退院先を在宅復帰群とその他群の2群に分け、さ
らに2群を入院時と退院時に分けて差の検討を行った。次に
優位な差がみられた変数の多重共線性の確認を行い、r>0.
9以上は一方を排除し独立変数とし、在宅復帰群およびその
他群を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行なっ
た。また、同様の2群を従属変数、入院時、退院時のFIM合
計点数を独立変数としたROC曲線解析を行い、ROC曲線下
面積とカットオフ値を求めた。尚統計学的解析は、統計ソフ
トSPSS Dr2 For windowsを使用し、有意水準は5%未
満とした。
【結果】
各2群比較において、全ての項目が有意差を示した。しか
し多重ロジスティック回帰分析では、HosmerとLemeshow
の検定において不適合が示された。またROC曲線解析では、
入院時のAUCは0.868、カットオフ値は60点(感度75%、特
異度86.7%、陽性適中率93.8%、陰性適中率56.5%、的中率
78.2%)であり、退院時のAUCは0.881、カットオフ値は92点
(感度75%、特異度90%、陽性適中率95.2%、陰性適中率57.4
%、的中率79.1%)であった。
【考察】
本研究において、在宅復帰に影響する因子は抽出されない
が、FIM総得点では、入院時と退院時の基準となる中等度価
値のカットオフ値が算出された。その陽性適中率は高く、一
方で陰性適中率が低いことから、入院時と退院時のFIM総得
点が在宅復帰に影響しているが、ADL能力以外の要因につ
いても考慮が必要であると考えられた。
-61-
O-117
O-118
歩行未自立脳卒中患者の退院先に影響を及ぼす要因
の検討
胸郭モビライゼーションにてLICが増加したTPPV
管理のALS一症例
添田 遼・大木雄一
今井哲也 1)・芝崎伸彦 1)・沼山貴也 2)
医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院 リハビリテーション部
1)
key words
key words
狭山神経内科病院 リハビリテーション科
同 神経内科
2)
脳卒中・退院先・要因
【目的】
本研究の目的は,歩行未自立脳卒中患者の退院先に影響を
及ぼす要因を検討することである.
【対象】
対象は,65歳以上の初発脳卒中片麻痺患者23名とした.対
象者には本研究の趣旨書面にて説明し,同意を得た.また当
院臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.
【方法】
収集データは,退院先,年齢,性別,発症から入院までの
日数,入院日数,退院時下肢運動麻痺,退院時FIM(総得点,
運動項目,認知項目),介護可能な同居家族人数,外泊練習
及び住宅改修の有無とした.対象を,自宅退院群(A群)と
自宅以外への退院群(B群)に分け,上記収集データに関し
群間比較を行った.FIMに関して有意差を認めた場合は細項
目ごとに群間比較を行い,全ての統計学的検定の有意水準は
5%とした.
【結果】
A群8名,B群15名であった.平均入院日数(A群:110,B
群:153),平均退院時FIM運動項目得点(A群:56.6,B群:
31.8),介護可能な平均同居家族人数(A群:3.1,B群:1.1)
,
外泊練習の有無(A群:有り5,B群:有り1),住宅改修の有
無(A群:有り5,B群:有り2)で有意差を認めた.FIM運
動項目内での群間比較(中央値)では,清拭(A群:4.5,B群:
1)
,更衣・上衣(A群:5,B群:2)
・下衣(A群:5,B群:1)
,
トイレ(A群:5,B群:1),排尿管理(A群:5,B群:1)
,
排便管理(A群:4.5,B群:1),移乗・ベッド(A群:5,B群:
3)移乗・トイレ(A群:5,B群:1),移動(A群:4,B群:
1)
,階段(A群:4,B群:1)で有意差を認めた.
【考察】
歩行未自立脳卒中患者が自宅退院するためには,日常生活
動作の多くが監視レベル程度の動作能力を有していること
と,介護者の人数が複数名いることが必要であることが示唆
された.また,外泊練習と住宅改修も重要であることが推察
された.
ALS・胸郭モビライゼーション・Lung
Insufflation capacity(LIC)
【目的】
侵襲的陽圧換気(TPPV)管理の筋萎縮性側索硬化症(ALS)
一症例における胸郭モビライゼーション(胸郭モビ)の即時
的な動的肺コンプライアンス(Cdyn)およびLung insufflation capacity(LIC)への影響を検討する。
【方法】
対象は本研究の説明と同意を得られたTPPV管理中のALS
患者一症例とした。胸郭モビを実施し測定を行う日(実施時)
と胸郭モビを実施せず測定のみを行う日(非実施時)を無作
為に9日ずつ設定し、手順は実施時に前Cdyn測定、胸郭モビ
施行、LIC測定、後Cdyn測定を行い、非実施時に前Cdyn測定、
LIC測定、後Cdyn測定を行う。測定は人工呼吸器からモニ
ターされるCdyn算出し、LICはバックバルブマスクを用いて
気道内圧が40cmH2Oになるまで送気し止め解放する方法で
行われた。胸郭モビはBed上の背臥位で胸骨捻転を10分間実
施した。実施時、非実施時のLICおよびCdyn変化量の比較
はMann-WhitneyのU検定を用いて解析した。
【結果】
全体のCdynは17.23±1.80ml/cmH2Oであった。胸郭モビ非
実施時のCdyn変化量は0.58±0.88 ml/cmH2OでLICは689.4±
55.3ml、胸郭モビ実施時のCdyn変化量は0.66±0.20 ml/cmH2O
でLICは762.2±25.3mlであった。Cdyn変化量は有意な差を示
さなかったが(p=0.20)
、LICは実施時に有意に上昇した。
(p
<0.05)
【考察】
実施時と非実施時ではCdynは変化を示さず、LICでは実施
時に有意に上昇した。実施時にLICが上昇した要因は、胸郭
モビを行うことで胸郭の可動性が改善し、強制吸気時の吸気
範囲が拡大した事と考えている。Cdynに変化が得られなか
った要因として、VTの範囲における胸郭可動性は維持され
ていた事を考えている。その為、胸郭モビは常に可動してい
る範囲を超えて胸郭可動性を促す事を示唆し、胸郭モビに
LICを併用することで効果的な強制吸気を促す事が可能と考
えている。
【まとめ】
TPPV管理のALS一症例において胸郭モビはLICの向上を
示す効果がみられた。
-62-
O-119
O-120
Stiff-person syndromeを呈するPERMに対する
理学療法の経験
頭蓋咽頭腫全摘出後に症候性ナルコレプシーを呈し
た症例の理学療法経験
小林朋子・林 明人・相場彩子・吉田久雄
清水沙理
順天堂大学 医学部 附属浦安病院 リハビリテーション科
千葉県千葉リハビリテーションセンター リハビリテーショ
ン療法部 成人理学療法科
key words
key words
Stiff-person syndrome・PERM・有痛性
筋痙攣
【はじめに】
Stiff-person syndrome(以下SPS)は主に成人に発症し,
持続性の全身性筋硬直と発作性有痛性筋痙攣を主症状とする
稀な症候群である.今回,脳脊髄炎に伴いSPSと同様の症状
がみられる PERM(progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus)と診断された患者を担当した.急激
な症状変化と有痛性筋痙攣のため,立位の獲得に難渋した.
PERMに対する理学療法の報告はないため報告する.尚,報
告に際して本人から同意を得た.
【症例情報】
年齢:40歳代 性別:女性 主訴:足のつっぱり,歩きに
くさ 現病歴:平成25年5月より足のつっぱりを実感,痙性
四肢麻痺と診断.9月より歩行困難,車いす生活となり10月
当院入院,理学療法開始.
【理学療法経過】
入院直後より理学療法開始,全身的な筋力低下と下肢の痙
縮が著明でありストレッチを中心に,人の多い環境で理学療
法を行っていた.10月末より有痛性筋痙攣が触覚刺激で増強
するとともに膝関節屈曲位をとり,軽度の関節可動域訓練し
か行えなかった.11月初旬,PERMと診断され薬物治療開始,
1月より立位練習を開始したが70°の膝関節屈曲拘縮とミオク
ローヌスにより保持は困難であった.そのため関節可動域の
改善に対し,刺激を最小限に抑えるように,肢位の調整,温
熱療法の併用,時間帯は人の少ない時間に行う等の対応を行
った.2月には疼痛が軽減し膝関節屈曲拘縮が改善,立位保
持が可能となった.
【考察】
SPSでは接触刺激や音,光に反応し,筋痙攣を起こすと言
われている.SPSの診断となり,診断前からの介入は刺激を
高め有痛性筋痙攣を誘発していたため,関節可動域が改善さ
れないのではないかと考えた.そのため,できるだけ刺激の
少ない方法に変更していったことで関節可動域の改善につな
がり,立位が獲得できたと考える.
症候性ナルコレプシー・覚醒・理学療法
【はじめに】
頭蓋咽頭腫全摘出後に両側視床損傷を合併し、症候性ナル
コレプシーを呈した症例の理学療法経験を得た。薬物療法と
理学療法(以下,PT)により覚醒と身体機能向上が得られ、
在宅復帰が可能となった経過報告である。
【症例紹介】
10代女児、MRIにて頭蓋咽頭腫が発見された。全摘術後に
両側視床と右中脳損傷の合併により意識障害が遷延し、発症
3ヶ月後に当センター転院となった。本報告に際し家族に十
分な説明を行い同意を得た。
【経過】
転院時、揺さぶり等強い刺激を加える事で覚醒し、覚醒す
れば理解表出は頷きで可能であった。ADL全介助、情動面
では発動性低下と退行現象が見られた。覚醒向上を目標とし
て、起居動作等での自発運動促通や抗重力姿勢保持訓練を実
施した。PT開始当初は覚醒低下、易疲労性、退行現象により
積極的な訓練は困難であった。負荷量に留意しつつPT意欲
を引き出す為に好きな音楽を使用する等工夫をした。PT開
始6ヶ月後には覚醒向上し、自発運動や姿勢保持能力の改善
により基本動作面では声掛けと手すり使用で移乗可能となっ
た。PT意欲も増し歩行訓練開始により持久力も向上した。
この頃より家族や職員との関わりから情動脱力発作に気付
き、精査にて症候性ナルコレプシーと診断され薬物療法が開
始された。薬物療法開始に伴い著明な覚醒向上が得られ、積
極的な歩行訓練が可能となった。PT開始11ヶ月後には発動
性低下とバランス不良の為に声掛けと適宜介助は要するが、
在宅生活が可能となった。
【考察】
意識障害に対する運動療法では精神活動の賦活等が重要と
言われている。本症例においても当初より音楽等の快適刺激
により覚醒向上とPT意欲が得られた。更に本症例の覚醒低
下が症候性ナルコレプシーによるものと診断され、薬物療法
開始による著明な覚醒向上がPTをより効果的にしたと考え
られる。覚醒と身体機能向上が在宅復帰を可能にしたと言え
る。
-63-
O-121
O-122
複数回の長期臥床による著明なADL低下を克服し
たPOEMS症候群の理学療法経過
pusher現象を呈した症例に対する,トイレ内での
立位保持の介助量軽減を目的とした環境設定の試み
今井正太郎 1)・山中義崇 1,2)・稲垣 武 1)・古川誠一郎 1)・
天田裕子 1)・村田 淳 1)・三澤園子 2)・桑原 聡 2)
若旅正弘・大木雄一
医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院
千葉大学 医学部 附属病院 リハビリテーション部
2)
千葉大学 医学部 附属病院 神経内科
1)
key words
key words
POEMS症候群・神経障害・長期臥床
【はじめに】
POEMS症候群は末梢神経障害,臓器腫大,内分泌異常,M
蛋白血症,色素沈着,浮腫など多彩な臨床症状を呈する希少
疾患であり,神経障害のみならず大量の胸腹水や栄養障害に
よりADL障害が重度化することも少なくない.今回我々は,
長期臥床により一時的にADLが著しく低下したが自宅退院
を達成した症例を経験し,理学療法が果たした役割について
考察した.
【倫理上の配慮】
対象者に説明と同意を得,個人が特定されないよう配慮し
た.
【症例】
57歳男性.X-7年秋に女性化乳房,色素沈着,下肢浮腫で
発症,X-6年10月にPOEMS症候群の診断で当院入院,理学療
法を開始した.
【経過】
MMTは下肢近位筋5/5,遠位筋0-2/0-2,深部覚は足首以
下で消失し,ADLは車いすレベルであった.サリドマイド・
デカドロン治療後,X-5年1月自己末梢血幹細胞移植術が施
行された.クリーンルーム入室時も床上で関節可動域訓練や
下肢筋力強化,呼吸リハなど自主訓練を指導した.離床許可
直後よりリハ室リハを開始した.当時の下肢筋力は近位筋
4/4遠位筋0-2/0-2であった.2月より立位歩行訓練を実施し
下肢筋力は近位筋で5/5に改善,遠位筋には変化なく,4月に
は短下肢装具使用にて杖歩行自立を達成し自宅退院した.以
降,外来受診時に通院リハも継続し自主訓練指導を行い,一
時,趣味のゴルフ復帰を果たした.X-1年10月,両側大腿部
広範囲潰瘍により再度入院,2回の植皮術が施行された.感
染を契機に敗血症性ショックとなり,約4カ月の臥床が続い
た.大腿部植皮で関節可動域訓練も制限され,できる範囲で
筋力強化を継続した.ICU退室時,下肢近位筋2/2遠位筋0/0
であったが,後に近位筋5/5まで改善し杖歩行獲得したX年4
月,自宅退院した.
【考察】
下肢遠位筋力は改善せず下垂足は残存したが,下肢近位筋
力強化により長期臥床後もADLは拡大し,安定した杖歩行を
獲得した.臥床中,地道に二次障害対策を継続したことも良
好な転帰の要因と考える.
pusher現象・環境設定・排泄動作
【はじめに】
pusher現象に対する排泄動作場面の環境設定を題材とし
た報告は私が調べた範囲においては無い.今回,pusher現
象を呈する症例に対して環境設定を行うことでトイレ内の立
位保持の介助量が軽減したため報告する.なお,本研究は当
院の臨床研究倫理審査委員会において承認され(承認番号
117)
,本人及び家族に書面をもって説明し承諾を得た.
【方法】
症例は60歳代男性,右被殼脳出血にて当院回復期リハビリ
テーション病棟に入院中であり,112病日が経過していた.意
識障害を認めJapan Coma ScaleはI-3,重度の左半側空間無
視,注意障害を認めた.Brunnstrom recovery stageは左上
肢,手指,下肢ともにIIであり,左上下肢の感覚は表在・深部
ともに重度の低下を認めた.右上下肢に明らかな筋力低下は
認められなかった.clinical rating scale for cotraversive pushingは 最 重 度 の6で あ っ た.Functional Independence Measureは39点であった.排泄動作は,立位での下衣着脱時に看
護スタッフ2人による介助を要した.pusher現象が認められ,
トイレ内での立位保持は左後方へ不安定であり,介助量は
Bedside Mobility Scaleにて0(動作不可能)であった.トイ
レ内の環境設定はpusher現象を抑制するため,非麻痺側股
関節が内転位,非麻痺側肘関節が伸展位となるよう以下のよ
うに設定した.1. 立位保持時の非麻痺側足部の位置を規定す
るためにテープを床面に貼り,2. 非麻痺側足尖より前方40
cm,側方45cm,高さ140cmの位置に手すりを設置した.
【結果】
環境設定によりトイレ内での立位保持はBedside Mobility
Scaleにて2(ほぼ動作可能)となった.トイレ内の下衣の着
脱は,看護スタッフ1人の介助により可能となった.
【考察】
環境設定によりpusher現象が抑制され,介助量の軽減につ
ながったと考える.今後,同様な環境設定が他のpusher現
象を呈している症例に有効か検討していきたい.
-64-
O-123
O-124
リアルタイム足圧分布計測システムを用いた脳卒中
片麻痺者の理学療法介入と効果
バーチャル機器を使用した運動効果および運動習慣
井上和久・丸岡 弘・原 和彦
中野克己
埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
埼玉県総合リハビリテーションセンター 医療局 リハビリ
テーション部 理学療法科
key words
key words
足圧中心・脳卒中片麻痺者・歩行
【目的】
歩行中の足圧中心(COP)に着目して、脳卒中片麻痺者へ
の歩行評価、介入、効果について検討した。
【方法】
脳卒中により歩行障害を呈する2症例を対象とした。歩行
解析にはリアルタイム足圧分布計測システムを使用した。歩
行時、両足全体のCOPの軌跡Cyclogramと、左右の足圧分布
を観察した。入院時から2週間後(1回目)、6週間後(2回目)
、
14週間後(3回目)を計測し、歩行の評価、介入、効果判定
に活用した。
症例1:50代男性、脳梗塞右片麻痺。入院時、下肢Br-stage
III、平行棒内AFO、3動作揃え型にて中等度介助。3回の計
測は、すべてAFOを使用し、1回目は4点杖で3動作揃え型、
2回目はT字杖で3動作揃え型、3回目はT字杖で3動作前型で
あった。
症例2:50代女性 脳梗塞右片麻痺。入院時、下肢Br-stage
IV、T字杖とオルトップAFO、3動作前型にて一部介助。3
回の計測は、すべて杖・装具不使用であった。各症例に本研
究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。当センター倫
理委員会(承認番号H25-10)。
【結果】
症例1:1回目の歩行では、周期毎のCOPのばらつきが大き
く、かつ右(麻痺側)下肢は1点の支持点に集約され、歩行練
習は右下肢の支持性向上を最優先に実施した。2回目、COP
のばらつきは改善したが、1点支持は残り、右下肢の前後へ
の運動性を促した。3回目、COPは左右対称的な蝶型の波形
を描いた。症例2:1回目の歩行では、右(麻痺側)下肢の方
がCOPで作る荷重面積が狭く、かつ後方寄りであり、歩行練
習は、右下肢の支持性、前足部蹴り出し向上を実施。2回目、
右下肢の前方荷重は改善したが、荷重面積は狭く、前後左右
の安定性向上を促した。3回目、COP荷重面積は左右対称的
に近づいた。
【考察】
歩行中のCOP及び足圧分布は、歩行の変化を鋭敏に捉え、
評価に貢献していた。また、実施プログラムの効果を判定す
る上でも有効であった。COPの活用により、より効果的な理
学療法へとつなげていきたい。
Wii Fit U・トレーニング・運動効果
【目的】
本研究はバーチャル機器(Wii U、Wii Fit U)を使用し、
健康成人の運動効果及び運動習慣について調査を行い検討す
ることを目的とした。
【方法】
本研究は、ヘルシンキ宣言に則り被験者に調査の目的や手
順を説明して署名による同意を得た。また、所属機関の倫理
委員会で承認済み(第25068号)
。対象は、本研究に同意の得
られた健常成人8名に対してバーチャル機器を1ヶ月間使用
し、トレーニング前後の運動習慣・運動効果について身体測
定(身長・体重・BMI・腹囲・柔軟性)および酸化ストレス
度(d-ROM)と抗酸化能力(BAP)を指尖採血により分析
した。実施手順として、1)身体測定・指尖採血、2)Wii Fit
Uのトレーニングを実施(1日30分以上1時間以内、1週間3回:
計4週間12回実施)
、3)トレーニング終了後、再度身体測定・
指尖採血を実施した。また、どのような行動変容あったか無
記名アンケートを実施した。トレーニング前後の統計処理は
IBM SPSS Statistics Ver.21を使用し、体重・BMI・腹囲・
柔軟性・d-ROM・BAPの比較はWilcoxon符号付順位検定を
行い、有意水準は危険率5%とした。
【結果】
トレーニング前後の結果、柔軟性のみ有意な増加傾向が認
められた(p<.05)
。アンケート結果は「普段の生活に少し
でも変化があった」が75%、「今後何か運動を始めてみよう
と思いますか」の回答として、
「少しでも運動を実施したい」
という回答が100%であった。さらに、この研究を体験した
ことにより「家族にWii Fit Uの運動を進めたい」という回
答が75%であった。
【考察】
今回、Wii Fit Uを使用し週3日4週間の短い期間でトレー
ニングを実施した結果、体重・BMI・腹囲・d-ROM・BAP
には有意な差が認められなかったが、柔軟性のみ有意な増加
傾向が認められた。また、アンケート結果より運動習慣を意
識するようになることが明確となり行動変容(国民の健康増
進や運動習慣の増加)が現れる事が期待された。
-65-
O-125
O-126
急性期病院からの在宅移行支援~小児人工呼吸器導
入患者に対する理学療法士の関わり~
小規模通所介護施設での簡易的な集団体操による実
施後の変化についての一考察
坂本彩花 1)・松尾 洋 1)・竹内万里子 1)・薄 直宏 1)・
駒場泉恵 2)
木村太祐 1)・数野順子 1)・小倉里美 2)・平野幸子 2)・
前園佑貴 2)・松本宏明 2)・金井美樹 2)・東山剛士 2)・
末益麻衣 2)
東京女子医科大学八千代医療センター 医療技術部 リハ
ビリテーション室
2)
東京女子医科大学八千代医療センター リハビリテーショ
ン部
1)
key words
西部診療所 リハビリテーション課
介護老人保健施設 プライムケア川越
1)
2)
在宅支援・人工呼吸器・小児疾患
key words
【はじめに】
近年の急性期医療の進歩により,当院の新生児科・小児科
においても,人工呼吸器管理下で長期入院するケースが増加
している.それらの在宅移行に際し,援助する両親等は退院
後の生活イメージに対する不安が強く,在宅支援を必要とし
ている現実も散見される.そこで,入院中に早期から理学療
法士が他職種とともに自宅退院に向けて介入することによっ
て,円滑に退院した症例を経験したので報告する.
【対象】
2012.4~2014.4に当院で出生し,在宅人工呼吸器を導入し
自宅退院となった症例7例(修正月齢:8.75±1.92ヶ月,疾患:
気管軟化症(内5例慢性肺疾患,2例心疾患を合併),内3例が
在宅酸素療法導入).
【介入内容】
自宅退院に向けて主治医・病棟看護師・医療ソーシャルワ
ーカー・訪問看護・訪問リハビリと連携して1移乗練習(車,
バギー),2環境調整(動線の確認,ベッド周囲の環境調整,
沐浴方法,ポジショニング,電圧の確認),3呼吸理学療法指
導を行った.
【倫理】
個人情報に配慮し,同意を得た.
【結果】
自宅訪問から退院までの日数は16.85±10.60日であった.
在院日数は,226.42±97.35日であった.
【考察】
在宅人工呼吸器導入症例に対し,早期から理学療法士・他
職種が連携しながら在宅移行支援を行うことによって,自宅
でのスムーズな動線確保や呼吸ケアが家族でも実施可能とな
り,退院後の生活に対する不安の払拭,在宅に対する具体的
なイメージにつながることが考えられる.しかし,対象症例
の中には,外泊後の児の体調不良や新たな問題点の出現によ
り再度外泊を行う等、様々な対応が必要であったため、自宅
訪問から退院までの日数・在院日数にばらつきが生じた.急
性期病院であっても,家族のNeedsの把握と多職種との連携
を行い,生活の場を考えながら在宅移行支援を行っていく必
要があり,在宅移行支援には適切なタイミングで児・家族・
住環境を評価・介入していくことが重要であると考えられる.
集団体操・通所介護・運動
【目的】
運動習慣がない小規模通所介護施設の利用者に集団体操を
実施する機会があり、実施前後での機能測定に若干の変化が
みられたので報告する。
【方法】
当法人の小規模通所介護施設利用者16名(平均年齢85±
6.96歳)を対象とした。集団体操の介入期間は3か月間とし
実施前後で機能測定を行った。集団体操の内容は簡易的で以
下の4つを実施した。1、座位足踏み体操2、股屈曲挙上保持3、
膝伸展保持4、立位足踏み体操。測定項目は左右膝痛、腰痛、
左右膝伸展筋力、左右片足立位、10m最大歩行時間、体操の
満足度とした。
統計解析は、各測定の介入前後の比較にWilcoxonの符号付
順位和検定又はMann-WhitneyのU検定を用い有意水準は5
%未満とした。
【説明と同意】
利用者様には本研究の内容を説明し同意を得た上で実施し
た。
【結果】
測定の結果、介入前後において左片足立位、左右膝伸展筋
力、体操の満足度に有意な改善がみられた。その他の検査項
目に関しては、統計的な有意差はみられなかったものの若干
の改善傾向が得られた。
【考察】
運動習慣がない小規模通所介護施設の利用者に簡易的な集
団体操を実施した結果、左片足立位、左右膝伸展筋力、体操
の満足度の項目に有意な改善傾向が得られた。今回の簡易的
な集団体操でも、神経的要素の働きにより筋力の発揮力向上
が得られ、膝の伸展筋力向上や片足立位の向上に繋がったの
ではと考えた。また、簡易的な集団体操が運動の動機づけに
なり、体操の満足度の改善にも繋がったのではと考えた。参
加利用者は、介入経過と伴に体操に嫌がらず参加し協力的で
体もしっかり動かし努力している姿勢がみられてきた。
今回の簡易的な集団体操でも運動の動機づけになり運動の
次のステップ移行や機能維持の一助になりうると考えた。
今回、通常業務のすきま時間を活用し体操を行なった。関
係職員との連携も含め、このような介入も地域包括ケアにお
ける一つの方法になりうると考えた。
-66-
O-127
O-128
血液透析患者の在宅復帰時と6ヵ月後の訪問調査を
行った1症例
大腿骨近位部骨折手術後の歩行に関する回復期病院
入院時FIMによる予後予測
園 英則・上杉 睦
横野裕行・若林厚史・田村麻衣・谷之口忠大・
加藤 茜・二宮一騎・芝西智史
医療法人社団 善仁会 介護老人保健施設ハートフル瀬谷 リハビリテーション部
key words
みどり野リハビリテーション病院 リハビリテーション科
透析・在宅復帰・訪問調査
key words
【はじめに】
近年,透析患者の増加に伴い,理学療法士が透析患者に対
応する機会が増えている.透析患者は週3回の血液透析(1回
4~6時間)という特殊な通院治療を継続するが,在宅復帰ケ
ースについての報告は少ない.在宅生活は様々であるため,
個々のケーススタディを蓄積していく必要がある.今回,当
施設より在宅復帰をし,6ヵ月後の在宅生活を追跡調査した
ので報告する.
【方法】
対象は透析患者1名(80歳代女性,要介護2,既往歴:慢性
腎不全,糖尿病,左大腿骨転子部骨折).転倒し,左大腿骨
頸部骨折を受傷.4ヵ月の入院後,当施設に入所する.3ヵ月
間週7回の個別リハビリを実施し,在宅復帰を実現する.退
所時は訪問指導を行い.家屋改修と透析通院方法を検討し
た.評価方法は,FIMの総合得点と細項目,改修箇所(玄関
と階段),介護サービスの利用状況,これらを在宅復帰時と6
ヵ月後で比較した.研究の実施,個人情報の取り扱いに関し
てはヘルシンキ宣言を順守し,対象者の同意を得た.
【結果】
FIMの総合得点は,在宅復帰時113点から退所後6か月120
点に改善した.主な改善項目は移動と階段であった.改修箇
所は想定通りに機能し,安全な移動や階段昇降が可能となっ
た.しかし,透析後は低血圧により歩行と階段昇降動作に差
があり,透析前は自立レベルだが,透析後は送迎職員の介助
を要する事があった.介護サービスの利用状況は,週2回の
訪問介護(清掃)のみであった.
【考察】
在宅復帰後,FIMの点数は改善したが,透析後は一時的に
身体機能が低下することがある.そのため,透析通院時は,
身体機能の低下を想定した移動方法を検討しておく必要があ
る.今後は,理学療法士が復帰後の生活状況を追跡調査する
と同時に,本人と密接な関係にある透析外来機関とも連携を
はかり,検討した改修箇所や移動方法についての情報提供が
のぞまれる.
大腿骨近位部骨折・歩行形態・FIM
【目的】
大腿骨近位部骨折術後患者の回復期病院入院時FIMの各項
目から、退院時の歩行形態の予測を行うこと。
【方法】
2013年1年間の大腿骨近位部骨折での当回復期病院入院患
者82名を調査対象とした。対象者の入院時下位FIM項目を、
退院時に“病前歩行形態へ回復したか否か”
“歩行が自立か
否か(歩行形態は考慮しない)”の2条件に対し各々2群間で
比較検討した。尚、階段昇降、入浴、浴槽移乗項目は入院時
に未実施の場合が多く検討項目から除外した。その後、各々
単変量解析にて有意差が認められた項目を独立変数として多
重ロジスティック回帰分析を行い、この結果で得られた項目
に対しROC分析を行った。
【倫理的配慮】
当院の規定に従い、個人情報の取り扱いに十分留意するこ
とを条件に、本研究実施の承認を得た。
【結果】
病前歩行形態へ回復した率は24%であり、入院時FIM項目
は理解、記憶以外の全項目で有意差が認められた。退院時の
歩行自立率は47%であり、入院時FIM項目は全てに有意差が
認められた。その後の多変量解析では、前者はベッド移乗項
目が抽出され、カットオフ値/感度/特異度が5点/85%/53%
であった。後者はベッド移乗、上衣、表出の3項目が抽出され、
順に5点/83%/63%、7点/61%/90%、7点/83%/66%であった。
【考察】
病前歩行形態への回復に対しベッド移乗項目が抽出され、
カットオフ値が監視となったことについては、回復期病院へ
の入院時から立ち上がり、方向転換等を介助なく行うことが
できるレベルの筋力、立位バランスが必要なことが考えられ
る。また、歩行自立への回復に対し上衣、表出項目も抽出さ
れたことについて、上衣項目は座位バランスや上肢の巧緻
性、表出項目はコミュニケーション能力が歩行自立に影響を
及ぼす一因子となることが考えられる。
【まとめ】
回復期病院への入院時から退院後の歩行形態を予測し、退
院後の生活調整を円滑に進めていくため、今後さらに追及し
た研究を進めていきたい。
-67-
O-129
O-130
大腿骨頚部骨折患者が歩行獲得するために必要な身
体機能の検討
転倒・転落に関する認知面の影響について ~院内
転倒・転落調査の結果から~
西澤陽子 1)・西澤茂子 2)・小林大輔 3)・田中 勇 3)・
和田啓義 4)
阿部公一・屋田茂樹・佐々木寛法・小滝治美
医療法人社団 一心会 初富保健病院 リハビリテーション科
医療法人社団 三思会 介護老人保健施設 さつきの里あ
つぎ リハビリテーション科
2)
医療法人社団 三思会 とうめい厚木クリニック リハビ
リテーション科
3)
医療法人社団 三思会 東名厚木病院 リハビリテーション科
4)
医療法人社団 三思会 東名厚木病院 整形外科
1)
key words
転倒・大腿骨頚部骨折・歩行
key words
【目的】
転倒骨折は寝たきりの3番目の原因として重要である.本
研究では,大腿骨頚部骨折患者の退院時の身体機能を測定し,
歩行獲得に必要な測定項目とその指標を検討した.
【方法】
大腿骨頚部骨折で入院し,術前に歩行可能であった23名
(男性9名,女性14名,平均年齢82.6±9.5歳)を対象とした.
当院退院時FIMに従い,対象者を退院時歩行自立群(以下,
歩行群)と介助歩行・車椅子群(以下,車椅子群)に分け,
2群の特徴を比較するとともに身体機能を測定,比較した.
測定項目は握力,足趾把持力,Functional Reach Test(以下,
FRT),Lateral Reach Test(以下,LRT),開眼片脚立位,
Fall Risk Index(以下,FRI)とした.倫理的配慮として,
対象者には研究に対する説明を十分に行い,書面にて同意を
得た.
【結果】
歩行群は11名(男性5名,女性6名,平均年齢78.5±8.1歳)
,
車椅子群は12名(男性4名,女性8名,平均年齢86.3±9.5歳)
であり,車椅子群の年齢は歩行群に比べ有意に高かった.測
定した身体機能は,全ての対象者において標準値を下回って
いた.2群間で有意差のあった項目は年齢,握力であった(p
<0.05). FRT,LRT,片脚立位,足趾把持力,FRIでは2群
間に有意差は認めらなかった.
【考察】
今回の結果から,転倒骨折した患者が歩行獲得するにはバ
ランス機能よりも筋力獲得が関連していた可能性があった.
また,対象者の身体機能は全体的に低かった.年齢と握力は
相関があり,加齢とともに筋力低下が起こり歩行困難となっ
たと考えられる.その他の項目では有意差は認められなかっ
たが,これは対象者数が少なくデータの精度が低いことが原
因として考えられる.今後は,さらに対象者数を増やすとと
もに歩行獲得に必要な下肢筋力を明らかにし,効率よくリハ
ビリ介入するための方向性を探っていく必要がある.
転倒・転落・認知機能・排泄行動
【目的】
当院では、身体拘束のない介護・すべての患者様の離床に
努める介護を病院理念に掲げている。今回、転倒・転落の発
生報告を分析し、若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は、平成25年3月~8月に提出された転倒・転落の発生
報告書のべ252件(男性126件・女性126件・平均年齢82.4歳)
である。これらを集計し、更に対象のMMSE・DBDS・FIM
を測定した。尚、個人情報の取り扱いには、十分注意し、個
人が特定できないよう配慮した。
【結果】
対象者の53%はMMSEが20点以下で10点以下が24%含ま
れた。転倒転落の発生時刻は、日中、夜間帯、深夜帯で30%
前後であった。発生場所は自室内が66%で、デイルーム16%、
トイレ内13%がこれに次いだ。転倒転落に至った理由は、排
泄関連が28%、自己動作の開始が14%であった。状況に関し
ては、ベッドから床への転落が52%・歩行中の転倒が19%・
車椅子からの転落が16%で、MMSE20点以下では、車椅子
からの転落が比較して多い傾向にあった。機転としては、異
常なし66%、外傷14%、打撲のみ10%で、骨折に至ったのは
1%であった。更に、転倒回数に関してMMSE20点以下21点
以上で区分して両群間に差はなったが、特異的因子としては
複数回転倒者では見当識、再生、注意と計算が抽出された。
FIM認知項目ではFIM1~4と5~7群間に転倒回数に差はなか
った。DBDSでは、30点以上の群で複数回転倒者が多かった。
【考察】
認知機能の低下は、転倒・転落の危険因子といわれるが、
今回の調査では、その有無にかかわらず、転倒・転落の傾向
に大きな差がないことが示唆された。しかしながら、排泄欲
求と排泄行動の出現する過程で転倒・転落のリスクが高いと
いう結果から、それらの行動をコントロールできない認知症
を有する患者様の行動特性を早期に把握する必要がある。今
後も、転倒転落の調査を継続するとともに、認知症患者の転
倒転落行動について分析していきたい。
-68-
O-131
O-132
転倒予防教室に参加した女性中高齢者のロコモ25
と転倒及び運動機能評価の関連性
回復期病棟の腰痛患者に対してプレーテイングを加
えた包括的アプローチが早期退院に繋がった一症例
西澤茂子 1)・西澤陽子 2)・小林大輔 3)・田中 勇 3)・
和田啓義 4)
新井龍一
八潮中央総合病院
社会医療法人社団三思会とうめい厚木クリニック リハビ
リテーション科
2)
介護老人保健施設さつきの里あつぎ リハビリテーション科
3)
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 リハビリテーション科
4)
社会医療法人社団三思会東名厚木病院 整形外科
1)
key words
ロコモ25・転倒予測・運動機能
key words
【目的】
ロコモティブシンドロームを評価するロコモ25は質問式で
簡便に行える。転倒及び運動機能テストと関連性があれば、
ロコモ25で簡便に転倒予測が可能になるのではないかと考え
検証する事を本研究の目的とした。
【対象と方法】
対象は当法人主催転倒予防教室参加の女性27名(平均年齢
73.3±5.6歳)。評価は先ずロコモ25及び転倒リスク評価のFall
Risk Index(以下FRI)を自己記載してもらった。次に運動
機能テストとして膝伸展筋力、握力、足趾把持筋力、5m最
大歩行速度、Timed Up & Go、開眼片脚立ち、2ステップテ
スト(以下2ST)、ファンクショナルリーチ、長座位体前屈を
測定した。統計はロコモ25が16点以上(以下ロコモ群)と16
点未満(非ロコモ群)の2群に分けて、ロコモ25とFRI及び
運動機能テストでピアソンの相関検定を行った。次に相関の
あったテストとロコモ25で回帰分析を行い、各テストがカッ
トオフ値時のロコモ25の点数予測を行った。危険率は全て5
%とした。
【説明と同意】
倫理的配慮としてヘルシンキ宣言に基づき参加者には研究
に対する説明を行い同意を得た。
【結果】
ロコモ25はロコモ群13名、非ロコモ群14名。FRIはカット
オフ値10点以上が13名、10点未満が14名。運動機能テストと
の相関はFRIと正の相関(r=0.5)、開眼片脚立ち、2STと負
の相関(r=-0.45,r=-0.55)を認めた。その他のテストは相関
がなかった。各テストのカットオフ値と一致するロコモ25の
点数はFRIでは17.2点、開眼片脚立ちでは17.7点、2STでは
12.4点であった。
【考察】
ロコモ25と相関があったFRI、開眼片脚立ち、2STは転倒
やバランス能力の評価であることから、ロコモ25は転倒リス
ク及びバランス能力の低下を予測する評価としても有用であ
ることが示唆された。回帰分析でもロコモ25のカットオフ値
とそれぞれ一致していることから、ロコモ25のカットオフ値
は転倒やバランス評価のカットオフ値としても捉えられる事
が示唆された。
腰痛・プレーテイング・包括的アプローチ
【はじめに】
プレーティングは徒手療法の一つである.その中で関節に
対してプレートとハンマーを使用した振動刺激(以下Hammering)は関節包内運動を促し,疼痛の軽減,筋スパズム
の軽減,アライメント修正などの効果がある.今回,恥骨骨
折後の腰痛のためADLが低下した症例に対してHammering
を施行し,さらに包括的アプローチを行うことで早期退院に
至ったため報告する.
【説明と同意】
ヘルンシキ宣言に基づき本人と家族に説明を行った上で書
面にて同意を頂いた.
【症例紹介】
82歳,認知症の女性(現病歴)H25.11.27家の中で左側に尻
もちをつき転倒し右恥骨骨折と診断され当院入院,同年12.12
回復期病棟転棟となる.
【理学療法評価】
車椅子介助にてリハ開始.痛みが強く寝返り,起き上がり
の際声を上げ5分以上の座位保持が不可能.痛みのためリハ
を拒否.食欲不振があり食事摂取量が少なく,寝たきりとな
り体力低下が伺えた.痛みは動作時に右腰部から臀部に
VAS10,立位では体幹が右へ崩れ,骨盤の傾斜に伴う機能
的脚長差がみられた.また恥骨周囲の評価では痛みは再現で
きなかった.股関節に可動域制限があり,全身の防御性筋収
縮が強く筋緊張が高い状態であった.
【治療】
本症例の問題点は疼痛による活動制限であり,評価結果か
ら,痛みの原因を脊柱由来によるものと捉えた.互い違いの
椎間関節に対してアライメントを正す方向にHammeringに
て振動刺激を加えた結果,寝返り時の痛みや股関節の防御性
収縮もなくなり,歩行能力の改善がみられた.その後体幹,
股関節周囲筋の運動療法を追加し,補高靴の検討,他職種と
連携して食事内容の変更や積極的な離床を行った.最終1.25
にはVAS0,独歩可能となり在宅復帰となった.
【まとめ】
プレーティングにより早期に疼痛が緩和したことで運動療
法に繋げることができた.また,回復期の特性を生かし他職
種との連携によって,離床を促せたことが認知面向上,身体
能力向上に大きく貢献したものと思われる.
-69-
O-133
O-134
内側広筋の筋厚が膝蓋大腿関節症患者の膝蓋骨マル
トラッキングに与える影響
膝びまん型色素性絨毛性結節性滑膜炎に対する術後
理学療法の経験
荻原 陵・松澤啓之
渡邉友彦
安房地域医療センター リハビリテーション室
公益財団法人 長野市保健医療公社 長野市民病院 リハビ
リテーション科
key words
key words
膝蓋大腿関節症・内側広筋・筋厚
【目的】
膝蓋骨マルトラッキングに対する内側広筋筋厚の影響を調
査すること。
【方法】
膝蓋大腿関節症を有する外来理学療法通院患者1症例に対
し、研究の目的を説明し、同意を得た上で、筋厚・下肢筋力・
疼痛出現膝角度の測定を行った。介入頻度は週1回40分、home
exerciseとして股関節内転筋群収縮を伴う膝最終伸展運動を
行った。筋厚の測定は超音波測定装置LOGIQ E9を用いて、
内側広筋厚・外側広筋厚・大腿中央前面部筋について計測し
た。測定は長軸像を記録し、画像解析ソフトimage Jを用い
て、皮下脂肪下から大腿骨までの筋組織厚を計測した。下肢
筋力は、BIODEX System4を用い、角速度を60deg/sec、300
deg/secとして測定。膝屈曲30°時点でのトルク値を採用し
た。疼痛出現膝角度は、膝自動伸展運動時に、疼痛が出現し
た時点での膝屈曲角度を計測した。各項目の測定は2ヶ月毎
に計3回行った。
【結果】
大腿中央筋厚は初期評価時20.8mm/2か月後21.0mm/4か月
後21.0mm、内側広筋厚は18.8mm/18.9mm/19.2mm、外側広
筋厚は20.1mm/20.3mm/20.4mm。膝伸展トルクは60deg/sec
で 7.5n-m/7.7n-m/7.8n-m、300deg/sec で 6.1n-m/6.0nm/6.5n-m。疼痛出現膝角度は膝屈曲25°~55°間/30°~50°
間
/30~50°間であった。
【考察】
大腿中央筋厚・内側広筋厚・外側広筋厚が肥厚すれば膝伸
展トルクは増大すること、膝屈曲30°時点での膝伸展トルク
が向上しても、疼痛出現膝角度に変化がないことが示唆され
た。このことから膝蓋大腿関節の疼痛においては筋量より
も、外側広筋に対する内側広筋収縮のタイミング、内側広筋・
外側広筋収縮の比率といった筋機能の要素が重要であると考
えられ、諸家の理論・先行研究を裏付ける結果となった。
びまん型色素性絨毛性結節性滑膜炎・膝関節
可動域・大腿四頭筋筋力
【はじめに】
色素性絨毛性結節性滑膜炎
(pigmented villonodular synovitis:以下PVS)は,関節痛,腫脹関節内血腫,関節可動域
(以下ROM)制限を認め再発を繰り返しやすい.治療は,主
に関節切開下での滑膜切除術が行われる.今回,PVSの中で
も特に臨床症状が強く,再発しやすいびまん型の症例に対す
る膝関節前後同時手術後の理学療法を施行し,良好な膝ROM
を獲得する事が出来たのでその経過を報告する.今回の症例
報告に際し,患者の了承を得ている.
【症例】
54歳女性.2010年左膝痛出現.他院にてMRI含め精査され
るも診断不明.2012年8月左膝痛再燃,以降徐々に左膝関節
の腫脹増悪.2013年4月関節穿刺で淡血性関節液を認め,MRI
でびまん型PVSを疑われ,当院整形外科へ紹介.2013年5月
手術目的に入院となる.
【手術】
2013年5月7日左膝びまん型PVSに対し,膝関節前後を切開
し,関節滑膜全切除・後方関節包全切除術・関節周囲軟部病
変切除術施行.
【理学療法経過】
術後翌日より,理学療法開始.荷重制限は無くROM訓練を
開始した.2日目からは,CPM(1日2回)を併用し,早期に
ROM改善出来るよう努めた.7日目には屈曲120°伸展0°
,14
日目には屈曲130°
伸展0°
と改善し,28日目には屈曲150°伸展
0°と改善した.左膝伸展筋力は,開始時MMT1であり早期よ
りsettingを開始.疼痛の影響があり,術後16日目を経過して
もactiveで伸展出来ず,settingも困難で筋力の回復が遅延し,
歩行獲得も遅れた.settingが可能となった17日目以降は,松
葉杖歩行可能となり,27日目に杖歩行獲得し退院となった.
【考察】
膝関節滑膜全切除・後方関節包切除術後,軟部組織の癒着
が生じないよう,膝蓋骨モビライゼーションを積極的に実施
した.その結果,ROM改善に繋がったと考えられる.膝蓋
骨の動きは保たれたが,settingが困難であり筋力の回復が遅
延し,杖歩行が遅れた.早期に大腿四頭筋筋力の回復が,歩
行状態に影響することを再認識した.
-70-
O-135
O-136
膝後外側痛と水腫の残存する1症例―骨形態・関節
アライメントに着目して―
慢性疼痛に対しTENSを併用した関節可動域練習が
著効した1症例
太田 岳 1)・小崎俊季 1)・多田雄俊 1)・宮澤俊介 2)
井上桂輔・箱守正樹・豊田和典
箕山クリニック
M’s PT Conditioning
JAとりで総合医療センター リハビリテーションセンター
1)
2)
key words
変形性膝関節症・関節アライメント・脛骨外
捻
key words
【はじめに】
今回両側変形性膝関節症の診断を受け,右膝関節に水腫と
疼痛の増減を繰り返す症例を経験した.これらの症状に関節
アライメントに着目した運動療法を実施し良好な結果が得ら
れたので報告する.また対象者にはヘルシンキ宣言に基づき
本発表の主旨を口頭ならびに書面にて十分説明し同意を得ら
れた後に評価,介入を行った.
【症例紹介】
57才女性.競技種目は競技エアロビクスで,練習を週2回
程度,トレーニングを週2回を行っている.主訴は椅子座位
保持から立ち上がる時などに出現する膝後外側の伸長痛であ
る.
【理学療法評価】
圧痛は大腿二頭筋,腓腹筋外側頭に確認された.関節可動
域は伸展0°
(左膝は反張約5°),屈曲は160°であった.筋力
は徒手筋力検査において大腿四頭筋4,大殿筋4.骨形態の左
右差は脛骨捻転では右の外捻が大きく,また軽度の後外側回
旋不安定性(PLRI)が確認された。片脚スクワット動作中
の下肢関節アライメントは足関節外転位,膝関節では大腿骨
に対する下腿外旋位,股関節では内転・内旋位の増強が観察
された.
【考察】
本症例は右の脛骨外捻増大とPLRIが確認され,閉鎖運動
連鎖(CKC)で足部が正中を向くことで下腿が内旋,大腿骨
が内旋と運動連鎖が起こる。この膝外反,脛骨外旋を伴う動
作を繰り返すことで大腿二頭筋,腓腹筋外側頭の筋緊張亢進
が持続したことによりtendinopathyが生じ,伸長痛が出現し
たと考える.
【アプローチ】
本症例に対する理学療法の方向性はCKC局面での膝外反,
脛骨外旋の制動とした。その為に大腿二頭筋,腓腹筋外側頭
の柔軟性の改善,フォワードランジでの大腿四頭筋,大臀筋
の筋力増強を行い,足部肢位を軽度外転位に設定して実施し
た.約1ヶ月後の来院時には主訴である疼痛は消失した.
【結語】
足部外転位は膝外反や脛骨外旋を増強させる要素とされる
が,患者個々の身体的特性によって、逆に制動に働く場合も
あることが示唆された。
慢性疼痛・TENS・関節可動域練習
【はじめに】
慢性疼痛は破局的思考やネガティブな行動になりやすく、
恐怖心から疼痛を回避するために過度な安静や機能障害に陥
り、疼痛の悪循環を生むと言われている。TENSは慢性疼痛
に対して鎮痛効果があるが、効果は1時間程度と言われてお
り、持続的な鎮痛効果は期待できない。今回、経皮的電気神
経刺激(以下、TENS)を併用した関節可動域練習により慢
性疼痛による機能低下を抑制できたため報告する。
【説明と同意】
家族に個人が特定されないように配慮することとして同意
を得た。
【症例紹介】
頸椎症性頚髄症と診断された80歳代男性で、症状としては
四肢麻痺(ASIA分類C)、右横隔神経麻痺、右手に腫脹を伴
う疼痛があった。受傷より3カ月後の当院入院時には右上肢
自動運動は母指伸展10度のみで右手は腫脹、発赤があり、他
者の介入は拒否的だった。認知機能低下が疑われ、pain assessment in advanced dementia(以下 PAINAD)は9点で
あった。
【治療内容】
ポジショニングと他動関節可動域練習(以下1期、第106~
133病日)、TENSを併用した他動関節可動域練習(以下2期、
第134~141病日)、TENSを併用した自動関節可動域(以下3
期、第142病日~)を患者の反応を見て順次変更した。電極は
C6-7デルマトームに貼付し、強度は運動レベルとした。位
相時間100μ秒、周波数1~200Hzで変調させ20分間実施した。
【結果】
1期はPAINAD9点で自動運動も変化なかった。2期はPAINAD5点で手指屈曲40度、手関節背屈15度自動運動が出現し
た。3期はPAINAD4点で手指屈伸80度、手関節背屈25度で
あり、着衣で肘伸展協力動作が出現し、手浴の拒否も軽減し
た。
【考察】
TENSにより一時的な鎮痛効果が得られ自動運動ができた
ことが、右手に対する恐怖心を払拭し疼痛の悪循環を断ち切
り、運動参加を増やし、組織血流量を増加させて持続的な効
果に繋がったと考えた。TENSを併用した関節可動域練習が
慢性疼痛に有効であることが示唆された。
-71-
O-137
O-138
人工膝関節全置換術後,両側股関節周囲筋の筋力低
下によりT字杖歩行の獲得に難渋した症例
COPD急性増悪症例~短期介入による身体機能・
健康関連QOLの変化~
大岐恵莉 1)・川島由香里 1)・田中尚喜 1)・金 景美 1)・
寶田恵理 1)・梅村 悟 1)・伊藤博子 1)・三嶋真爾 2)
衣田 翔
湘南東部総合病院
JCHO東京新宿メディカルセンター リハビリテーション室
2)
JCHO東京新宿メディカルセンター 整形外科
1)
key words
key words
人工膝関節全置換術・股関節周囲筋・歩行能
力
【はじめに】
人工膝関節全置換術(以下TKA)術後患者の両側の股関節
周囲筋に対し積極的に筋力増強運動を実施した結果,歩行能
力の向上がみられたため報告する.
【症例紹介】
74歳女性,約10年前両側変形性膝関節症の診断.3か月前に
左TKA施行,今回右TKAを施行した.尚,本症例には発表
の主旨について説明を行い,同意を得た.
【右TKA術前評価】
屋内両側T字杖,屋外車椅子を使用.関節可動域(Rt/Lt)
は股関節屈曲(115°/100°)伸展(10°/10°)膝関節屈曲(125°
/110°)伸展(-15°/-10°).両側下肢筋力は,大殿筋・中殿筋・
内転筋は2~3/5,大腿四頭筋は4/5.10m歩行は32秒33歩で
あった.
【経過】
術後2日より全荷重.術後9日より歩行器歩行練習開始.術
後31日よりT字杖歩行練習,術後39日より屋外歩行練習を開
始した.股関節周囲筋への筋力増強運動として,大殿筋に対
し背臥位での殿部挙上運動や腹臥位にて股関節伸展運動,段
差昇降練習を実施した.中殿筋に対しては,立位にて対側骨
盤挙上運動や下肢外転運動を実施した.
【退院時評価(51日目)】
屋外T字杖歩行自立.関節可動域(Rt/Lt)は股関節屈曲
(115°/110°)伸展(10°/10°)膝関節屈曲(115°/120°
)伸展
(-10°
/-5°
)
.両側下肢筋力は大殿筋・中殿筋・内転筋は3~
4/5,大腿四頭筋は4/5.10m歩行は19秒28歩であった.
【考察】
本症例は,今回TKA施行前屋内両杖歩行であったが,股
関節周囲筋の筋力低下に着目し,筋力増強運動を継続して行
った結果,術後約7週間という長い期間を要したが屋外杖歩
行を獲得できた.手術により両側膝関節のアライメントが修
正され,股関節周囲の筋力強化を積極的に実施した結果,歩
行時の大殿筋および中殿筋の筋出力が向上し,歩行能力が向
上したと考える.TKA後の理学療法では大腿四頭筋の筋力
低下が歩行能力低下の原因とされる報告が多いが,他関節で
ある股関節周囲筋に対しても,積極的に行う必要性があると
考えた.
COPD・呼吸リハビリテーション・健康関連
QOL
【はじめに】
慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)急性増悪にて当院に入
院となった症例に対し、12日間の呼吸リハビリテーション
(以下、呼吸リハ)を実施した。先行研究では4週間の治療期
間が推奨されているが、短期介入における治療効果を身体機
能面・健康関連QOLの観点から検討したので報告する。
【症例紹介】
60代男性、BMI:18.7。喫煙歴は20本/日×40年であり喫
煙指数は800である。同疾患名による治療は初であり、薬剤
による治療効果も影響している。
【倫理的配慮】
本発表について口頭と文書にて十分な説明を行い、署名に
より同意を得た。
【方法】
COPDに対するエビデンスに基づいてプログラムを立案し
た。具体的に推奨しているプログラムとしては、「下肢によ
る全身持久力トレーニングが最も強く推奨されている」、「歩
行に関わる筋群のトレーニングが必須」とされている。これ
らに基づき、FITTによる運動プログラムを処方し実施した。
尚、徒手的胸郭可動域訓練や呼吸介助は、効果が実証されて
いないため実施していない。
【結果】
エビデンスに基づいた呼吸リハにより、身体機能面に於い
ては、呼吸数の減少、安静時・労作時のSpO2の増加、mMRC
の改善、胸郭可動域の拡大、6MDの延長、PaCO2の減少を認
めた。また、健康関連QOLはSF-36による評価を行い、「身
体機能におけるQOL」に於いて、改善が認められた。
【考察】
治療プログラムに於いて、1、胸郭可動域訓練を実施しな
くても可動域の改善が認めらた。2、有酸素運動により酸素
化能の改善を認め、その効果は労作時において著明となっ
た。3、短期介入に於いてQOLの改善を認めた。4、エビデ
ンスに基づいたプログラムの実施により、短期介入に於いて
も身体機能の改善が認められた。
-72-
O-139
O-140
EF10%の低心機能例が、開心術後の心臓リハビリ
テーションで自宅退院へ至った症例
椎骨動脈瘤術後の中枢性呼吸機能不全による長期人
工呼吸器管理からの離脱までに至った症例
池谷祥吾 1)・鬼村優一 1)・菅野友樹 1)・小川優美 1)・
磯村 正 2)・星野丈二 2)・前田雅美 3)・米澤静香 4)
小林英美 1)・新井康弘 1)・木村 泰 1)・高橋勇貴 1)・
橋元 崇 1)・青木一泰 2)
葉山ハートセンター リハビリテーション科
葉山ハートセンター 心臓血管外科
3)
葉山ハートセンター 診療連携室
4)
葉山ハートセンター 栄養室
練馬光が丘病院 医療技術部 リハビリテーション室
練馬光が丘病院 脳神経外科
1)
1)
2)
2)
key words
心臓リハビリテーション・開心術・低心機能
key words
【はじめに】
低心機能例への心臓リハビリテーション(以下、心リハ)
は有用とされているが、開心術後の重症心不全状態の心リハ
プロトコールは確立されていない。今回、EF10%の低心機
能例が、術後心不全増悪なく独歩での自宅退院へ至った為報
告する。なお、症例にはヘルシンキ宣言に則りデータ使用に
関する趣旨及びプライバシー保護について、十分な説明を行
い同意を得た。
【症例】
70代男性。5年前に拡張型心筋症と診断され僧房弁形成術・
三尖弁形成術を施行。以後、4度心不全増悪を繰り返す。入
院時EF15%、MR3度、Wt62.7kg、BNP1979.9pg/ml。
【経過・介入】
某年12月うっ血性心不全で当院入院。僧房弁閉鎖不全症再
発に伴いカテコラミン離脱困難。30病日目LOSでICUへ。34
病日目僧房弁置換術・CRT-P植え込み術施行。抜管・IABP
抜去後の術後6日目より心リハ開始。術後8日目ICU退出。術
後20日目カテコラミン離脱。術後46日目自宅退院。
低心機能に加え、pacingの設定上運動時のrate response
がなく、リハビリ中の血圧低下が問題であった。そのため、
カテコラミンの慎重な減量に並行して血圧応答に着目した離
床と運動療法を行った結果、6分間歩試験(6MWT)で240m
連続歩行を血圧応答問題なく可能であるところまで確認し退
院が決定した。退院時 EF10%、MR3 度、Wt50.5kg、BNP
1733.7pg/ml。退院に際しては6MWTの結果より、安全な活
動量を2.2METsと設定し、日々の活動量をセルフコントロー
ルするよう指導。それ以上の活動は家族フォローとサービス
利用へと環境調整し、独歩での自宅退院となった。
【結語】
重症心不全例でも術後の医学的な治療状況に合わせた離床
と活動量の上限を細かく設定することで退院へ繋げることが
可能であった。今後は、退院後のフォローアップ体制の充実
が課題である。
椎骨動脈瘤術後・中枢性呼吸機能不全・人工
呼吸器離脱
【はじめに】
椎骨動脈瘤に対する術中操作で中枢性呼吸機能不全を合併
する事が報告されているが、そのような症例が人工呼吸器管
理となった場合、予後不良であり、人工呼吸器離脱に至った
という報告も少ない。今回、椎骨動脈瘤術後に中枢性呼吸機
能不全を呈した症例に対して、離床を中心とした呼吸リハビ
リテーションを行い、長期人工呼吸器管理から離脱に至った
症例を報告する。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り、発表に際し個人の特定に繋がらな
い様に配慮した。
【症例紹介】
61歳、男性。既往に脳出血と脳梗塞、病前ADLは屋内伝
い歩き、屋外車椅子移動レベル。平成X年5月に頭痛にて当
院受診。右椎骨動脈瘤の診断で、頭蓋内右椎骨動脈塞栓術施
行。手術終了時に失調様呼吸・意識障害を認め、手術後も人
工呼吸器管理を継続。POD12に気管切開術施行。POD14に
人工呼吸器離脱を試みるも、低換気による低酸素・高二酸化
炭素血症にて再度人工呼吸器管理となった。
【経過】
POD11より理学療法開始。意識レベルJCSII-10、Brunnstrom
stage左上肢・手指I、下肢II。初期では、運動負荷増大に伴
い失調様呼吸が出現し低換気を認めたが、全身状態に注意し
離床を継続し、呼吸筋・骨格筋の筋出力と換気量増大を図っ
た。POD40から立位保持練習開始。運動負荷に伴う低換気
が改善し、低酸素・高二酸化炭素血症が是正された。POD62
にSIMVからCPAP、POD110からTピースにてweaningを行
い、POD130に人工呼吸器から離脱。POD156に急変して死
亡退院となったが、人工呼吸器を離脱した期間で呼吸器系の
有害事象はなく経過していた。
【考察】
椎骨動脈瘤術後の中枢性呼吸機能不全にて人工呼吸器管理
となった症例に対し、離床による呼吸筋や末梢骨格筋への刺
激入力、換気量増大による肺や胸郭への刺激にて呼吸中枢を
賦活させた事で、呼吸調節障害が改善して人工呼吸器離脱に
至ったと考える。
-73-
O-141
O-142
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血発症後,急性心不
全を合併した1症例
重症下肢虚血により両側下腿切断後、歩行器歩行獲
得に至った症例の経験
神田真里
久保和也 1)・松本純一 1)・村田健児 2)・中村友美 1)・
亀田光宏 1)・榊 聡子 1)・寺部雄太 3)・大平吉夫 4)・
安藤 弘 5)
社会医療法人至仁会 圏央所沢病院 リハビリテーション科
IMS(イムス)グループ 春日部中央総合病院 リハビリテーション科
山手クリニック
3)
埼玉医科大学病院 形成外科・美容外科
4)
日本フットケアサービス株式会社
5)
IMS(イムス)グループ 春日部中央総合病院 循環器科
1)
2)
key words
くも膜下出血・急性心不全・不整脈
key words
【はじめに】
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血では,脳だけでなく呼吸
循環器も含めた全身の管理が重要である.特に不整脈は発生
する可能性が高いが,その殆どは一過性であり発症から数週
間で改善することが多いと報告されている.本症例は心疾患
の既往はないが,発症当初より心室性期外収縮(以下PVC)
が発生していた.24病日には全身に浮腫出現,呼吸状態悪化
により急性心不全の診断となった.12病日から24病日に着目
し,リハビリテーション介入時のリスク管理について考察す
る.尚この発表はヘルシンキ宣言に基づき,御家族の同意を
得ている.
【症例】
年齢:70代後半.既往歴:高血圧,痔.診断名:くも膜下
出血,脳内出血.Hunt and Kosnik類:Grade4
【検査データ】
心臓エコー:左心室駆出率67%
【考察】
くも膜下出血による不整脈の発生率は60%から100%であ
り,H&K分類で重症な程不整脈の発生率は高いとの報告が
ある.本症例はH&K分類4であり,不整脈の発生率は高かっ
たと考えらえる.12病日に血管拡張剤が追加されたがPVC
は継続していた.また同病日に,24時間IN-OUTバランスチ
ェックが終了となった.このことから,リハビリテーション
介入時は継続した全身観察が必要であり,リスク管理が重要
であると考えた.具体的にはリハビリテーション介入時に心
電図波形,浮腫の場所や程度,尿の色や量の3項目のフィジ
カルアセスメントを重点的に行った.16病日には尿道カテー
テル抜去,18病日には尿測定が終了となったことから,浮腫
の場所や程度に関しては看護師に報告,尿の色や量に関して
は病棟スタッフへ確認を行い,チームでの情報共有を行っ
た.結果として,全身状態の変化に応じたリハビリテーショ
ンの介入と,病棟との情報共有が行えたと考える.くも膜下
出血では脳血管攣縮期以降,全身管理を目的とした点滴やモ
ニターが終了となることが多い.しかし日々の細やかな変化
に目を向け,病棟スタッフと情報共有を図ることでリスク管
理に繋がるのではないかと考える.
重症下肢虚血・下腿切断・歩行
【目的】
重症下肢虚血(以下CLI)患者は血流障害により壊疽、切
断術施行となることがあり、大切断後の機能予後は不良とい
われている。先行研究より片側下腿切断後の歩行獲得率は33
%と報告されているが、両側下腿切断後の報告は稀少であ
る。今回、CLIによる両側下腿切断後患者に対し理学療法介
入後、歩行器歩行獲得に至った症例を経験したのでここに報
告する。
【症例紹介】
60歳代男性。既往歴に2型糖尿病・虚血性心疾患、慢性腎
不全により血液透析施行中の症例である。入院前歩行状況は
杖歩行自立であった。Fontain分類4度(左前足部、右2趾頭部・
右踵外側の壊疽)
であり、CRP33.5 mg/dl、WBC19600個/μl、
安静時痛・感染徴候を認め、創傷治療・血管内治療目的で入
院となった。入院後4日目より理学療法介入となった。
本症例報告は対象者に対し、口頭および書面による十分な
説明をし、同意を得て実施した。
【経過】
入院直後より両下肢免荷対応となり、
移動は車いすとした。
活動量低下に伴う廃用症候群予防のため下肢関節可動域訓
練、非荷重下での下肢筋力強化を中心に行った。その後、壊
疽の進行を認め、入院3週目に左下腿切断、6週目に右下腿切
断を施行し、ソフトドレッシングにて断端管理を行った。左
断端創の離開を認め、左断端の形成に遅延を認めた。切断術
後の等尺性膝関節伸展筋力(右/左)は22.6kg/19.4kgであっ
た。
15週目に右下腿義足(TSB式下腿義足)
、20週目に左下腿
義足を装着し、平行棒内での歩行訓練を開始した。27週目に
病棟内の歩行器歩行が自立となった。歩行自立時の等尺性膝
関節伸展筋力は(右/左)32.5kg/29.3kgであり、向上を認めた。
【考察】
CLIによる両側下腿切断後の機能予後に関する報告は少な
い。今回、CLIによる両側下腿切断後の症例において、切断
前より廃用症候群を予防し、義足装着後、積極的な運動療法
を継続することで、
歩行器歩行獲得が可能となったと考える。
-74-