肩・肘の超音波断層検査 - GE Healthcare

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肩・肘の超音波断層検査
名古屋市立大学大学院医学研究科
整形外科 後藤英之
はじめに
超音波断層検査は、機器の進歩によってその、診断精度は飛
躍的に向上している。今まで困難であった、腱板内部の変性像
と周囲の断裂部との区別も機器の精度の向上により徐々に克
服されつつある。最近の腱板断裂の診断精度は MRI に匹敵す
るものとなっており、Iannotti ら 1) は腱板断裂 79 例、断裂な
し 20 例の計 99 例の検討を行い Sensitivity 88.1%、Specificity
80.0%、Accuracy 79.8% と報告している。また Teefey ら 2) は
腱板断裂 65 例、断裂なし 6 例の計 71 例について超音波検査
と MRI とを比較検討し、Sensitivity 87.7%、Specificity 83.3%、
Accuracy 87.3% と報告しており、腱板不全断裂についてはそ
の診断精度が低下するものの、腱板完全断裂ではほぼ同等の診
断精度であったと述べている。しかし、超音波検査の場合、検
者の技術によって診断精度にばらつきが出る可能性がある。
O'Connor ら 3) は 3 人の筋骨格系専門の放射線科医による腱板
の評価について検者間の差を調査したが、経験レベルによって
検査所見に差があったと報告しており、肩の超音波検査に関し
てより明確なトレーニングプログラムの確立が必要であると述
べている。また Prickett ら 4) は、腱板断裂の術後の画像評価に
関して金属製のアンカーを使用した場合には MRI のようにアー
チファクトが出現しにくい超音波検査のほうがより有用であっ
たと報告しており術後の経時的な評価にも利用しやすい。また、
超音波検査は簡便で動的評価が可能であることも利点である。
患者さんと向き合って撮像しながら画像を説明すれば病気の情
報をよりわかりやすく伝える事ができ、患者さんにとってもメ
リットが大きい。また、ポータブルエコーはスポーツの現場で、
即座に外傷の診断や、治療の必要性の有無や競技続行の判断に
も使用できる。骨によって隠れる部分や深部の組織の評価など
には限界があるが、外来診療の間のわずか数秒で検査可能であ
り、ぜひ日常診療のツールとして使用して頂きたいと思う。
肩関節撮像方法
体位:患者を坐位とし肩関節伸展、外旋位とする
(座った椅子の後ろの縁を持ってもらうとよい)
この肢位にすることで、肩峰下面に覆われていた棘上筋腱の部分が前方に移動し、描出されやすくなる。
検査の流れ:前方より走査開始
1. 上腕二頭筋長頭腱短軸像
2. 肩甲下筋長軸像
3. プローブを上方に移動し、棘上筋腱前方部分の長軸像
4. プローブを 90 度回転させ、棘上筋から棘下筋の短軸
5. 動態観察:上腕二頭筋長頭腱と肩甲下筋の評価
6. Subacromial arch でのインピンジメントの有無
7. 棘上筋、棘下筋の動態観察
8. 後方関節唇の観察
像を描出
1. 肩関節前方より上腕骨近位部の結節間溝を探し、上腕二頭筋長頭腱の横断面を描出する。
Biceps long head
Humeral head
2. 内側に移動し肩甲下筋腱付着部を観察する。
Subscapularis
Humeral head
観察のポイント:
上腕二頭筋長頭腱の形態や大きさ、周囲の水分の貯留、内側の pulley の形態などについて観察する。
異常がある場合は上腕二頭筋長頭腱に沿って長軸像を観察し、腱の膨隆や縦断裂の有無について観察する。
2
3. プローブを頭側に移動し、棘上筋腱前方部分の長軸像を描出する
Cuff
Humeral head
4. プローブを 90 度回転し棘上筋∼棘下筋腱の短軸像を描出
Cuff
Humeral head
動態観察のポイント:
上腕二頭筋長頭腱:上腕骨頭を内外旋させることで、上腕二頭筋腱の亜脱臼の有無や烏口下インピンジメントの
有無をチェックする。
●
Subacromial arch: プローブを烏口突起と肩峰間に移動させ、烏口肩峰靱帯を描出し、上腕骨頭を回旋させなが
ら肩峰下インピンジメントや疼痛の発生の有無について調査する。下垂位だけでなく、徐々に外転角度を増しな
がら観察する。
●
棘上筋腱、棘下筋腱:短軸像を描出し同様に上腕骨頭を回旋させることで動態観察を行う。
●
後方関節唇:プローブを後方に当てて後方の腱板(棘下筋腱、小円筋腱)の観察とともに上腕骨頭を内旋、外旋
させて関節唇の動態評価を行う。
●
3
腱板断裂の判定
腱板の境界エコーの形態変化や腱板実質部の輝度変化をもとに行う。完全断裂の判定には、腱板境界エコーの扁平化や陥凹と
内部の低エコー領域の存在を認めた場合とし、不全断裂の判定には、関節包面断裂では関節包側境界エコーの突出と低エコー
領域を認めた場合、滑液包面断裂では境界エコーの途絶や扁平化と内部に低あるいは高エコー域の混在を認めた場合としてい
る。また腱内断裂の判定には、関節包側境界エコーの突出と腱内に限局する低あるいは高エコー領域を認めた場合としている 5)。
腱板断裂の診断基準
断 裂 形 態
腱板境界部
腱 板 内 部
完 全 断 裂
扁平化 陥凹
低 エ コ ー
部分断裂 関節包側
突出、扁平化
低 エ コ ー
①
滑 液 包 側
途 絶
低 ・高 エ コ ー
②
腱 内
突 出
低 ・高 エ コ ー
③
腱板完全断裂超音波所見
■長軸像
Cuff
Tear
Humeral head
■短軸像
Cuff
Tear
Humeral head
腱板不全断裂超音波所見
Cuff
2
○
1
○
3
○
Humeral head
4
肘関節走査方法
体位:患者を坐位とし肘関節伸展、回外位、手台を使用
検査の流れ:前方より走査開始
1. 橈骨頭短軸像、回内位/回外位
2. 上腕骨小頭∼上腕骨滑車部:短軸像
3. 上腕骨小頭∼橈骨頭:長軸像、上腕骨滑車から鉤状突起:長軸像
4. 上腕骨内顆部:長軸像、回内筋群、内側側副靭帯の描出
5. 外反ストレスによる動態評価、ストレス下での内側側副靭帯の描出
6. 肘頭、肘頭窩、上腕骨小頭
1. 橈骨頭の短軸像を描出した後にプロープを近位に移動させて上腕骨小頭の短軸像を描出する。
■短軸像
上腕骨小頭
観察のポイント:
上腕骨小頭部は離断性骨軟骨炎の好発部位であるので、軟骨下骨の不整や途絶、欠損、遊離体の有無などがない
か慎重に観察する。遊離体などが疑われる場合はプローブによって圧迫を加えることで遊離体が不安定なものか
どうか判別が可能である。
2. プローブを 90°回転させて、肘関節の長軸像を描出する。
まず、上腕骨小頭から橈骨頭の表れる像を観察する。
■長軸像
上腕骨
小頭
橈骨頭
観察のポイント:
離断性骨軟骨炎があれば上腕骨小頭の斜め前方に病変が認められる。ただし、肘の伸展制限がある場合、病変部
が橈骨頭に隠れてしまうので、肘屈曲位で後方からの観察を行う。そのほか、肘関節長軸像では上腕骨外顆炎に
おける短橈側手根伸筋の付着部や上腕二頭筋腱などの評価も可能である。プローブを徐々に内側に移動していけ
ば尺骨鉤状突起や鉤状窩の観察も可能である。
5
肘離断性骨軟骨炎の超音波断層像 6)
短軸像
長軸像
上腕骨小頭
上腕骨小頭
橈骨頭
Type Ⅰ : 軟骨下骨の不整 上腕骨小頭部の軟骨下骨の表層に不整像を認める。
上腕骨小頭
上腕骨小頭
橈骨頭
Type Ⅱ : 軟骨下骨の途絶 上腕骨小頭部の軟骨下骨の連続性がなくなっている。
上腕骨小頭
上腕骨小頭
橈骨頭
Type Ⅲ : 軟骨下骨の陥凹 上腕骨小頭部の軟骨下骨の陥凹または欠損を認める。
上腕骨小頭
上腕骨小頭
橈骨頭
Type Ⅳ : 軟骨下骨の分離 上腕骨小頭部の軟骨下骨の一部が母床から分離している。
6
3. 肘関節内側の検査:
プローブを内側に移動し、上腕骨内顆に付着する回内筋群、内側側副靭帯の長軸像を描出する。
肘内側側副靭帯の走行と超音波所見
MCL
MCL
観察のポイント:
肘軽度屈曲位で被検者の上肢全体を外旋させてプローブを当てやすくすること。上腕骨長軸に平行にプローブを
当て、内顆を描出したまま、その部位を支点としてプローブの遠位側の端を斜め前方にゆっくりと回旋させて尺
骨鉤状突起を描出することである。
4. 肘外反ストレス撮影による動揺性の評価
外反ストレスを加えて不安定性の評価を行う。プローブを保持していない方の手で被検者の前腕を
把持して外反ストレスをかける。
肘外反ストレス撮影による動揺性の評価
Medial
condyle
ストレス(ー)
Medial
condyle
ストレス(+)
観察のポイント:
不安定がある例では、関節裂隙の開大や、尺骨の橈側(画像上では下方)への落ち込みが認められる。
またこのとき内側側副靭帯のどの部分が伸張されるか観察することで損傷部を推測することもできる。
7
参考文献
1)Iannotti, J.P., et al.: Accuracy of office-based ultrasonography of the shoulder for the diagnosis of rotator cuff tears. J Bone Joint Surg. 2005;
87-A: 1305-1311.
2)Teefy, S.A., et al.: Detection and quantification of rotator cuff tears. Comparison of ultrasonographic, magnetic resonance imaging, and
arthroscopic findings in seventy-one consecutive cases. J Bone Joint Surg. 2004; 86-A: 708-716.
3)O'Connor P.J., et al.: Interobserver variation in sonography of the painful shoulder. J Clin. Ultrasound. 2005; 33:53-56.
4)Prickett W.D., et al.: Accuracy of ultrasound imaging of the rotator cuff in shoulders that are painful postoperatively. J Bone Joint Surg. 2003;
85-A: 1084-1089.
5)後藤英之、他:肩腱板断裂の超音波診断 . 中部整災誌 . 2006; 49: 941-942.
6)後藤英之、他:肘離断性骨軟骨炎に対する低出力パルス超音波治療.日本超音波研究会誌 , 20:37-43,2008.
Venue 40
Musculoskeletal
GE整形外科・リウマチ科超音波WEB www.gehealthcare.co.jp/msk/
販売名 医療機器認証番号
汎用超音波画像診断装置 218ABBZX00060000号
汎用超音波画像診断装置 Venue 40 221ABBZX00092000号
※Venue 40 Musculoskeletalは、上記医療機器の標準機能に
オプションであるMusculoskeletalパッケージを加えたものです。
記載内容は、お断りなく変更することがありますのでご了承ください。
Rev.1.0 0F・CK-1(KM) Printed in Japan Cl D42A1-1