肩の脱臼と関節鏡手術

肩の脱臼と関節鏡手術
図 1.肩関節と股関節
1.肩関節のしくみ
肩関節
肩関節の骨はボールと受け皿の形をしてい
ます(図 1、図 2a)。股関節とよく似た形を
かんせつか
していますが、股関節より受け皿(関節窩)
股関節
きゅうがい
上腕骨
頭
臼蓋
大腿骨頭
が小さく浅く作られています。このため股関
節よりも大きく動くことができますが、その
反面、肩関節は不安定で全身の関節の中で最
かんせつか
関節窩
も脱臼しやすい関節です。また肩関節は骨よ
りも靭帯や腱によって脱臼しないように支
えられているため靭帯や腱が損傷されると
容易に脱臼します(図 1)。
図 2.肩関節の構造
けんばんきん
a.下から見た断面図
肩関節は図 2b のように筋肉(腱板筋)によって取
り囲まれています。これらの筋肉や上腕骨を外して
かんせつか
かんせつしん
受け皿(関節窩)を見ると関節窩のふちに関節唇が
ついており、さらに関節包へとつながっています(図
かんせつほう
上腕骨
2c)。関節包は関節窩と上腕骨頭を袋状に包んでい
かんせつじょうわんじんたい
る膜で、この一部が厚くなり関節 上 腕 靭帯となって
かんせつか
かんせつしん
関節唇
関節窩
かんせつほう
関節包や
かんせつじょうわんじんたい
関節 上 腕 靭帯
b
c
います(図 2d)。断面を下から見ると図 2a のよう
にゴルフボールとティーあるいはハンモックのよう
な構造になっています。
d
じょうわん に と う き ん ちょうとうけん
上 腕 二頭筋 長 頭 腱
後方
前方
かんせつほう
関節包
後方
かんせつか
前方
関節窩
かんせつしん
か か ん せ つ じょうわんじんたい
関節唇 下関節 上 腕 靭帯
2.脱臼ぐせとは?
通常は腕を捻っても図 3 のように関節上腕靭帯がピンと張って脱臼しないように抵抗して
います。あまりにも強い力で捻られたり、事故やタックルなどの強い力で押されると関節窩
から関節唇ごと関節上腕靭帯がはがれたり、関節窩自体が骨折して脱臼します。
関節上腕靭帯
正常
上腕骨
関節唇
関節窩
脱臼
強い捻り
かんせつしんそんしょう
関節唇 損 傷
骨折
図 3.正常と脱臼
一度損傷が起こっても関節唇や骨折が元の位置に戻って治れば問題ありませんが、関節唇が
はがれたままになったり、ずれて治ったりすると再脱臼しやすくなります。特に 10 歳代の
人では 80~90%の人が再脱臼(脱臼ぐせ)するといわれています。反対に 40 歳以上で
初めて脱臼した場合には再脱臼する人はあまりいません。脱臼回数が増すごとに受け皿がす
り減ったり靭帯が傷ついたりするためさらに脱臼しやすくなり、寝返りなどでも脱臼するこ
とがあります。残念ながら脱臼ぐせにはリハビリなどの保存的治療はあまり効果がありませ
ん。このため繰り返し脱臼し、そのために活動が制限される場合には手術を考慮します。
3.関節鏡手術とは?
しゃかくきんかん
①麻酔方法は?
図 4.斜角筋間ブロックのチューブを挿入したところ
通常は全身麻酔をかけて手術を行い
しゃ
ますが、入院ができない人は斜
かくきんかん
角筋間ブロックという局所麻酔で行
うことで日帰り手術も可能です。一
般的に肩の手術後は痛みが強いため、
入院可能であれば首に細く柔らかい
チューブ(直径約 1 ㎜)を挿入し、
じぞく
痛み止めを少しずつ流し続ける持続
しゃかくきんかん
斜角筋間ブロックという方法を行っ
ています(図 4)。チューブの挿入は
超音波エコーで神経を見ながら行うため正確に神経の近くに挿入できます。チューブは 3
日間ほどで除去します。
②手術方法は?
皮膚に 2~4 か所、数㎜~1cm 程度の切開を行い、直径 5 ㎜ほどの内視鏡(関節鏡)や手
術器具を挿入し手術を行います。図 5 のようにアンカーという糸のついた船のイカリのよ
うなものを関節窩に打ち込み、糸で損傷した関節唇や骨折を縫合してやや縫い縮めるように
して修復します(鏡視下バンカート修復術といいます)。アンカーは通常抜去する必要はあ
りません。
正常
脱臼
バンカート修復術
上腕骨
縫合糸
関節唇
関節窩
アンカー
図 5.関節鏡手術
またラグビーやアメリカンフットボール、スノーボードといった非常に強い力がかかるスポ
ーツでは通常の方法では再び脱臼することがあるため、通常の方法に加えて肩甲骨の一部分
である烏口突起という骨を移植して補強を行います(図 6)。通常は切開手術で行いますが、
関節鏡手術で行う方法もあります。
図 6 ブリストウ法
肩峰
前方
烏口突起
上腕骨
上腕骨
共同腱
鎖骨
肩甲下筋
烏口突起
共
同
腱
上
腕
二
頭
筋
関節窩
肩峰
小胸筋
a.前から見た肩
後方
b.ブリストウ法後
c.ブリストウ法後(上から見た)
③術後リハビリについて
術後 2~3 週間ほどは三角布などで固定します。その後肩を動かす訓練を徐々に行います。
手術後 1 ヶ月で 90°程挙上(前ならえの状態)が可能となります。2~3 か月で軽作業が
可能となります。スポーツへの復帰は 6 カ月程度かかります。リハビリは遅すぎると関節
が固くなりますが、術後早期に無理をするとせっかく治した部分がゆるんで、脱臼ぐせが再
発することがあるため、特に術後 3 か月ほどはスポーツなど修復部に強い力が加わること
は避ける必要があります。
④入院期間は?
しゃかくきんかん
通常、入院期間は 4~5 日程度です。入院ができない人は斜角筋間ブロックという局所麻酔
で行うことで日帰り手術も可能です。