河道内樹木群の治水上の効果・影響に関する研究 河川局 治水課 課長

河道内樹木群の治水上の効果・影響に関する研究
河川局 治水課 課長補佐 三浦良平
○国総研 河川研究部 河川研究室 室長 山下武宣
北海道開発局 建設部 河川計画課 課長補佐
各地方整備局 河川部 河川計画課長
1
はじめに
河道内の樹木は、出水時の流速を低減することにより堤防等の侵食・洗掘被害を軽
減させるとともに、流木・土砂を集積・堆積させることで生態系の保全や良好な河川
景観形成などの機能を有している。一方で、同樹木群は出水時に水位をせき上げ(河
積阻害)させ、樹木群の密度や配置条件によっては局所的な高速流を発生させるなど
して河床や堤防の侵食・洗掘被害を誘発し、さらに樹木群自身の流木化の恐れもある。
このため河道内樹木群のもつ治水効果や河川環境への影響を適切に評価する事が重
要である。
本研究は、より適切な樹木群管理手法の開発の一環として、河道内樹木群による洪
水流の流速低減、河床や堤防の局所的な侵食・洗掘、流木・土砂の集積・堆積、水位
のせき上げに関する評価手法の開発、および樹木群自身の流木化に関する発生機構の
解明に向けて、平成17年∼19年の3カ年に渡り、調査・研究を行っているもので
あり、特に今回については、樹木群の存在による水理諸量(水位、流速など)の実測
値と計算値の比較を行うことで、既存の水理解析モデルが樹木群管理に十分資する精
度を有しているかについての言及を行う。
H17
2
研究の概要
本研究は、平成17∼19年度の3
カ年を研究期間とし研究を実施する。
研究フローを図−1に示す。
初年度は、河道内樹木群に係る既存
の調査事例の収集を実施し河道内樹木
群の抱える課題を明らかにし、次年度
からは、現地にて樹木群内外の水理諸元
を計測することで、河道内樹木群内外で
起こっている実現象の把握を行い、河道
内樹木群の管理に向けた検討を行った。
河道内樹木群(江の川水系江の川)
研究計画の検討
河道内樹木群に関する全国調査の実施
・河道内樹木群の効果・影響に関する調査・解析事例
・河道内樹木群による堤防等の侵食・洗掘被害の軽減・誘発事例
等
河道内樹木群の流況への影響等の現地調査(モニタリング)河川
の選定
現地調査に向けた準備(モニタリング機器の設置等)
H18−H19
上記調査箇所における現地調査の実施
(出水時の流向、流速、水位等)
準二次元不等流解析等の実施
樹木群の特性を踏まえたより適切な樹木管理手法の検討
研究のとりまとめ
写真−1
樹木繁茂状況(江の川)
図−1
研究フロー
3 調査結果
3.1河道内樹木群の水理現象の把握
河道内樹木群の水理現象の把握のため全国27河川30箇所で現地調査を実施し
た。調査箇所の選定にあたっては、河道特性(河床勾配、流域規模等)が異なる箇所
を選定するよう留意するとともに、調査箇所において樹木群が冠水する規模の出水が
研究期間内に発生するとは限らないことを踏まえて、できるだけ多数の箇所を選定し
ている。(表―1参照)
3.1.1現地調査結果
①平成17∼18年度の調査結果
表−1 現地調査箇所一覧
出水時の流況観測実施
セグメント 状況
平成17∼18年度は、十勝川水系 地整等 水系 河川 位置・地先
H19
十勝川
音更川
左岸1.6∼2.6Km
1
○
音更川を始めとする10箇所で、樹木 北海道
開発局 石狩川
石狩川
左右岸44.5∼58.0Km
2-2
釧路川
釧路川
左岸37.6∼46.2Km
2-2
岩木川
中流部(36∼48Km)
2-2∼2-1
群が冠水する規模の出水が観測され、 東北 岩木川
米代川
米代川
左岸12Km
2-2
○
常磐
河道内樹木群内外の水位・流速の現地
鳴瀬川
吉田川
左右岸23.5Km
2-2
左右岸28.3Km
2-2
渡良瀬川 左岸50.2Km
1
観測を実施した。主な観測結果を以下 関東 利根川
利根川
神流川
左岸9.4Km
1
利根川
小貝川
右岸36.4Km
2-2
○
久慈川
久慈川
左岸6.5Km
2-2
に示す。
久慈川
久慈川
右岸8.5Km
2-2
○
北陸
荒川
荒川
右岸2.75Km∼4.15Km
1
①−1十勝川水系音更川
神林村宿田
阿賀野川 阿賀川
左岸23∼24Km
1
飯寺
樹木群の適正な管理による流下能力
右岸9.8∼10.6Km
1
立川
の確保が課題となっている音更川では、 中部 大井川 大井川 右岸15.6∼16.0Km
1
金谷河原
天竜川
天竜川
左岸12.6Km
2-1
○
平成17年9月台風14号による出水
匂坂
近畿
加古川
加古川
中央12Km
2-1
加古川市八幡・上荘
時に、左岸1.6∼2.6kmにおい
九頭竜川 九頭竜川 右岸19.2Km
2-2
○
福井市天池
て樹木群内外の水位・流速の観測を実
由良川
由良川
右岸36.4Km
2-2
○
福知山市猪崎
淀川
木津川
右岸1.4∼2.2Km
2-2
施した。主流部の流速は3∼4m/s
八幡市八幡一丁畑
淀川
桂川
左岸14.8∼15.4Km
1
○
で、樹木群内流速は0.1∼0.8m
京都市右京区梅津
中国
江の川
江の川
左右岸21.2∼28.8Km
2-1
大貫・川越
/sを計測した。
江の川
江の川
左岸36.6Km
2-1
○
木路原
天神川
天神川
右岸3.7Km
2-1
○
①−2 米代川水系米代川
大塚
2-1
○
○
樹木群の適正な管理による流下能力 四国 吉野川 吉野川 左岸63.4∼64.4Km
太刀野
那賀川
那賀川
左岸6.2Km
2-1
○
古庄
の確保が課題となっている米代川では、
那賀川
那賀川
右岸7.4Km
2-1
南島
平成18年7月低気圧による出水時に、 九州 山国川 山国川 左岸3.0∼4.0Km
2-1
○
高瀬・垂水
矢部川
矢部川
左岸15Km
2-1
右岸12kmにおいて樹木群内外の水
船小屋
位・流速の観測を実施した。
高水敷が1.1m冠水した状況で、低水路の流速が2.6m/sに対し、河道内樹
木群内の流速0.4m/s前後を計測した。
①−3 利根川水系小貝川
樹木群の適正な管理による流下能力の確保が課題となっている小貝川では、平成1
8年6月梅雨前線による出水時に、右岸36.4kmにおいて樹木群内外の水位・流
速の観測を実施した。観測にはビデオを用い、画像解析により樹木群内の流速は0.
26m/sと計測された。
①−4 由良川水系由良川
樹木群の適正な管理による流下能力の確保が課題となっている由良川では、平成1
H17∼H18
8年7月梅雨前線による出水時に、右岸36kmにおいて樹木群内外の水位・流速の
観測を実施した。
低水路流速2.62m/sに対し、樹木内では0.65m/s∼1.38m/sの
流速を計測した。
①−5 天神川水系天神川
倉吉市街地区間を中心として河道内の樹林化が進行し、樹木群の適正な管理による
流下能力の確保が課題となっている天神川では平成18年7月梅雨前線による出水
時に、右岸3.8kmにおいて樹木群内外の水位・流速の観測を実施した。
ADCP(音響ドップラー流速計)を用いた計測によって、樹木群内の流速が0.
3m/s程度であることを計測した。
①−6 吉野川水系吉野川
近年堤外地に残存する竹林の面積・密度が増加し、樹木群の適正な管理による流下
能力の確保、河床や堤防の局所洗掘が課題となっている吉野川では平成17年9月台
風14号による出水時に、左岸63.4∼64.4kmにおいて竹林内外の水位.流
速の観測を実施した。
低水路流速0.7m/sに対し、竹林内では0.4m/sの流速を計測した。
①−7 山国川水系山国川
平成大堰(H2完成)運用開始後、堰下流の土砂堆積と樹木群の適正な管理による
流下能力の確保が課題となっている山国川において流量観測の実施結果と計算値を
比較したところ、樹木群による流下阻害の影響が確認された。
平成 18、19 年度に当該箇所の土砂掘削・伐木除根の実施後、横断測量・河床材料
調査等を行うことで、経年的な変化を把握し、樹林化に繋がる土砂堆積メカニズムの
解明を行っている。
②平成19年度の測定結果
②−1 久慈川水系久慈川
樹木群の適正な管理による流下能力の確保が課題となっている久慈川下流部で
は、平成19年7月15日の台風4号出水時による出水に、左岸8.5kp付近に
おいて、河道内樹木群内外での水位・流速の観測を行った。
河道内樹木群は、右岸高水敷に位置し、主な樹種はメダケ類で面積は3500m
2(縦100m×横35m)、樹高は4.6∼6.5m、枝下高さ1.5∼5.6
m、胸高直径は2∼3cmである。また、下草高は殆ど生育していない。
平成19年7月13日∼7月15日の降雨量は近傍の太田雨量観測所で134
mm、ピーク水位時(TP+6.23
m)における樹木群内水深は1.5m
であった。樹木群内の水位に関して、
樹木内外の水位差に明瞭な変化は見受
けられなかった。一方、樹木群内の流
速を小型メモリー流速計にて計測した
結果、水位ピーク付近の樹木群内の流
図−2
観測位置図(久慈川)
速は0.1∼0.2m/sが計測されている。
40
図−2
8.5km 樹木内上流側
観測位置図(久慈川)
35
6.25
水位[T.P.m]
30
6
25
5.75
20
5.5
15
5.25
10
5
5
水位[T.P.m]
流速(cm/sec)
流速(cm/sec)
6.5
4.75
0
7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/15 7/16
12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 0:00
図−3
7/16
1:00
7/16
2:00
7/16
3:00
7/16
4:00
7/16
5:00
7/16
6:00
7/16
7:00
7/16
8:00
4.5
7/16
9:00
樹木内流速測定結果(久慈川8.5km)
②−2 天竜川水系天竜川
樹木群の適正な管理による流下能力の確保が課題となっている天竜川下流部で
は、平成19年7月15日の台風4号出水時による出水に、左岸12.6kmにお
いて、河道内樹木群内.外での水位・流速の観測を行った。
河道内樹木群は、左岸高水敷脇の中洲に位置し、主な樹種はヤナギ類で面積は7
9500m2(縦530m×150m)
、樹高は6∼17m、枝下高さ0.8∼4.
7m、胸高直径は0.1∼0.35mである。また、平均下草高は1.5mである。
平成19年7月13日∼7月15日の降雨量は振草雨量観測所で326mm、ピ
ーク水位時(TP+15.4m)における樹木群内水深は2.4mであった。
今回の出水で、中洲の上流部は土砂が0.5m程堆積した。中洲の中流部は流木
が樹木によって捕捉され、その下流側で局所的な洗掘が発生した。中洲の下流部に
変化はなかったが、下草は全て倒伏状況となった。
樹木内の流速を小型メモリー流速計にて計測した結果、水位ピーク付近の流速は
0.24m/s、樹木外の流速は浮子による計測結果より2.01m/sが計測さ
れている。
樹木群(柳類)
11.0k
13.0k
東名高速天竜川橋
天竜川
かささぎ大橋
池田水位観測所
12.0k
凡
図−4
例
:圧力式水位計
:CCTV
:小型メモリー式流速計
:水位観測所
観測位置図(天竜川)
写真−2
出水状況
14日
12時
14時
16時
18時
20時
22時
15日
0時
2時
4時
6時
8時
振草(雨量)
10時
12時
14時
16時
18時
20時
22時
16日
0時
時間
2時
4時
6時
8時
10時
0
5
10
15
20
累加雨量 7月13∼15日 326mm
25
30
雨量(mm)
水位(m)
観測箇所の外水位と河川横断図(12.6K)
24.00
24
22.00
22
:樹木外水位
20.00
20
18.00
18
16.00
16
14.00
14
12.00
12
10.00
10
:河川横断図
樹木群内観測箇所
ピーク水 位 7月 15日 12:30 15.41m
8.00
19:30
14日
8
22:30
1:30
15日
4:30
7:30
10:30
13:30
16:30
19:30
22:30
1:30
16日
4:30
7:30
時間
図−5
河道断面図(天竜川12.6km)
流速(m/s)
4.0
▽ ピーク水位
樹木群内流速
樹木群外流速
樹木群により捕捉された流木
3.0
堆積
2.0
洗掘
1.0
約1m洗掘され、周辺は約0.5m堆積した
写真−3
0.0
14日 21:30 23:30 15日
19:30
1:30
3:30
5:30
7:30
9:30
11:30 13:30 15:30 17:30 19:30 21:30 23:30
16日
1:30
3:30
5:30
7:30
時刻
樹木群に捕捉された流木と
洗掘・堆積状況
図−6
流速測定結果(天竜川12.6km)
角
の
浦大
橋
②−3 吉野川水系吉野川
近年堤外地に残存する竹林の面積・密度が増加し、樹木群の適正な管理による流
下能力の確保、局所洗掘対策が課題となっている吉野川では、平成19年7月15
日の台風4号出水時に、左岸63.4∼63.8kmにおいて、竹林内外での水位・
流速の観測を行った。
竹林は、左岸の高水敷に位置し、主な樹種はハチク、マダケで、面積は約180
00m2(縦300×横60m)
、樹高は約8m、枝下高さ約3.4m、胸高直径
は約8cmである。台風4号における平成19年7月14日∼15日の基準地点岩
津上流域平均2日雨量は301mm、ピーク水位時における樹木群内水深は概ね1
m程度であった。
中流(竹林内)
今回の出水で、高水敷の洗掘や堆
上流-2(竹林内)
下流-3(竹林内堤防側)
積などの現象は認められず、倒木
吉野 上流-1(河原側)
下流-2(竹林内河原側)
川
等も発生しなかった。
下流-1(河原側)
樹木群内の水位は、竹林の有無
圧力式水位計・
電磁流速計設置箇所
に係わらず明確な水位差は生じて
いない。また、上下流に水位差が
出水後撮影
生じているが、上流部と下流部で
は縦断方向に180m離れている
事、河床勾配が1/690である
図−7
観測位置図(吉野川)
ことを考慮すると水位に明確な差は生じていない。
樹木内の流速を小型メモリー流速計にて計測した結果、ピーク付近の流速は、上
流部の竹林外では1.4m/s、竹林内では0.3m/sと優位な差が見受けられ
る。これは、下流部においても同様な結果となっている。
水位
A.P.m
65.10
上1(河原部)水位
上2(竹林内)水位
中(竹林内)水位
下1(河原部)水位
下2(竹林内河原側)水位
下3(竹林内堤防側)水位
65.05
65.00
64.95
64.90
64.85
64.80
64.75
64.70
64.65
64.60
2007/7/14 22:30
2007/7/15 0:00
図−8
cm/sec
160
140
2007/7/15 1:30
2007/7/15 3:00
2007/7/15 4:30
水位観測図(吉野川)
流速(上流)
cm/sec
120
上1(河原部)流速
上2(竹林内)流速
100
流速(下流)
下1(河原部)流速
下3(竹林内堤防側)流速
120
80
100
80
60
60
40
40
20
20
0
2007/7/14 2007/7/15 2007/7/15 2007/7/16 2007/7/16
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
図−9
流速(上流)観測図(吉野川)
0
2007/7/14 2007/7/15 2007/7/15 2007/7/16 2007/7/16
12:00
0:00
12:00
0:00
12:00
図−10
流速(下流)観測図(吉野川)
②−4 那賀川水系那賀川
樹木群の適正な管理による流下能力の確保が課題となっている那賀川下流部で
は、平成19年7月15日の台風4号出水時による出水に、右岸7km付近におい
て、河道内樹木群内外での水位・流速の観測を行った。
河道内樹木群は、右岸の高水敷に位置し、主な樹種はアキグミ、ノイバラで面積
は約26,300m2(縦120×横400m)、樹高は1.4∼3.1m、枝下
高さ2.7∼3.1m、胸高直径は1.2∼5.1cmである。また、平均下草高
は0.3∼0.7mであった。
平成19年7月13日∼7月15日の降雨量は近傍の古庄雨量観測所で259
mm、ピーク水位時(TP+15.5m)における樹木群内水深は2.3mであっ
た。
今回の出水で、高水敷の洗掘や堆積などの現象は認められず、倒木等も発生しな
かったが、下草は全て倒伏状況となった。
樹木内の流速を小型メモリー流速計にて計測した結果、水位ピーク付近の流速は
樹木を伐採したD地点0.91m/s、4m未満の樹木であるC地点で0.78m
/sと優位な差は無い。これは植生状態がD地点C点とも大きな差がないことに起
因する。一方、竹林のあるA地点では0.15m/s、4m以上の樹木であるB地
点では0.21m/sと樹木群による流速の低下が観測された。
120
A竹林
B4m以上
C4m未満
D伐採
100
:圧力式水位計
:CCTV
:小型メモリー式流速計
:ビデオ
8.0k
左岸堤
8.2k
7.6k
7.8k
:既設水位計
7.4k
7.2k
80
7.0k
:流量観測所
●○水位流量観測所
A
那賀川橋
凡 例
伐採済み
流向
流 速 流速
c m / cm
s
N
60
40
既設水位計
古庄左岸
N=0°
4m未満樹木
E=90°
W=270°
4m以上樹木
低水路
20
S=180°
D伐採
図−12
7/15 7:00
7/15 8 00
7/15 6:00
7/15 5:00
7/15 4:00
7/15 3:00
7/15 2:00
7/15 1:00
7/15 0:00
7/14 23:00
7/14 22:00
観測位置図(那賀川)
7/14 21:00
既設
7/14 20:00
図−11
7.6k
7/14 19:00
右岸堤
7/14 18:00
A竹林
7/14 17:00
0
圧力式水位計
古庄右岸
B4m以上
C4m未満
7/14 16:00
アキグミ類
流速観測図(那賀川)
3.2.準二次元不等流計算による検証
平成17、18年度に行われた現地観測結果を基に、準二次元不等流計算を実施し、
流速の再現性について検証を行った。
①音更川
音更川では、平成17年9月台風14号による出水時に、左岸1.6∼2.6km
において樹木群内流速は0.1∼0.8m/sを計測している(図−13)。
樹木群を低流速域とみなし、樹木密度、幹の胸高直径から透過係数を算定し、準二
次元不等流計算により樹木内の平均流速を算出した。実測値と計算値の対比結果を図
−14に示す。
実測流速0.1∼0.8m/sに対し、計算流速は若干高めに算出された。原因と
しては、樹木群内に付着堆積した流下物による河積阻害の影響が考えられる。
44
6.0
主流部
実測流速
計算流速(n=0.059)
42
4.0
樹木群
2.0
標高(m)
41
0.0
40
39
-2.0
38
-4.0
37
36
-6.0
0
10
20
30
40
50
60
横断距離(m)
地盤高
図−13
流速観測図(音更川)
図−14
実測水面
計算水面
流速計算結果(音更川)
70
流速(m/s)
43
②米代川
米代川では、平成18年7月低気圧による出水時に、右岸12kmにおいて、樹林
地内の流速0.4m/sが計測されている。
樹木群を低流速域とみなし、樹木密度、幹の胸高直径から透過係数を算定し、準二
次元不等流計算により樹木内の平均流速を算出した。実測値と計算値の対比結果を図
−15に示す。実測流速0.4m/sに対し、計算流速は0.37m/sと算出され
た。
低水路で2.6m前
後の流速を観測
高水敷で約1.1m冠水
高茎草本類
樹木群の準二次元不等
流計算結果0.37m/s
準二次元不等流計算結果 0.37m/s
図−15
樹木群
観測結果
0.4m/s前後
(実測値0.4m/s)
流速計算結果(米代川)
③由良川
由良川では、平成18年7月梅雨前線による出水時に、右岸36kmにおいて樹木
内流速0.65m/s∼1.38m/sが計測されている。
樹木群を低流速域とみなし、樹木密度、幹の胸高直径から透過係数を算定し、準二
次元不等流計算により樹木内の平均流速を算出した。実測値と計算値の対比結果を図
−16に示す。実測流速0.65m/sに対し、計算流速は0.61m/sと算出さ
れた。
36.2km
0.65
計算値(m/s)
2.11
0.61
図−16
樹木群
樹木群
樹木群
2.62
樹木群
樹木群
実測値(m/s)
流速計算結果(由良川)
④天神川水系天神川
天神川では平成18年7月梅雨前線による出水時に、右岸3.7kmにおいて、水
位ピーク時の樹木内の流速約0.3m/sが計測されている。
樹木群を低流速域とみなし、樹木密度、幹の胸高直径から透過係数を算定し、準二
次元不等流計算により樹木内の平均流速を算出した。実測値と計算値の対比結果を図
−18に示す。実測流速約0.3m/sに対し、計算流速は約0.3m/sと算出さ
れた。なお、低水路内流速は観測機器の倒伏によりピーク付近は欠測となっている。
【3.6k 横断図】
6.0
12.0
水位(T.P.+m)
5.0
10.0
4.0
3.0
3.74k 実測水位
2.0
3.74k 不等流計算水位
TPm
8.0
標 高 (T.P.+m)
1.0
樹木群
6.0
0.0
2.5
7/18 0:00
7/18 12:00
7/19 0:00
3.74k右岸樹木群 不等流計算流速
7/19 12:00
7/20 0:00
ADCP高水敷 平均流速 (北方向)
3.74k低水路 不等流計算流速
2.0
ADCP低水路 平均流速 (北方向)
ADCP高水敷 最大流速(北方向)
2.0
流速(m/s)
4.0
樹木群
現況断面
計算水位
ADCP低水路 最大流速(北方向)
1.5
1.0
0.5
0.0
-50
0
50
図−17
100
150
横断距離(m)
200
250
300
0.0
7/18 0:00
7/18 12:00
図−18
水位計測結果(天神川)
7/19 0:00
7/19 12:00
7/20 0:00
流速計算結果(天神川)
以上より、河道内樹木群内の水理諸量の評価については、次の点に留意して実施す
ることで、適正に得られることが確認された。
○樹木群の配置
○樹木群の密度
○樹木群の樹高、枝下長、胸高直径
3.3樹木の倒伏にする調査 荒川水系荒川(北陸)
樹木群の適正な管理による流下能力の確保、出水時における多数の倒木・流木の発
生が課題となっている荒川では、より適切な樹木管理の検討に資するため、倒木・流
木の発生条件を把握するための調査を行った。平成16年7月の梅雨前線による出水
における倒伏状況と流水外力モーメントによる倒伏予測を比較した結果では、倒伏と
判定した樹木の内87%が実際に倒伏していた。しかし、倒伏しないと判断された樹
木でも実際に倒伏している樹木もあり、ゴミの付着によるモーメント増加が原因とし
て考えられる。
平成17年度には河道内樹木の引き倒し実験を行い、胸高直径と倒伏限界モーメン
トとの間に強い相関があることを明らかにした。
100000
18
10000
16
(Kgf・m)
倒伏限界モーメント(kg・m
倒伏が予想される領域
14
(53本中46本が実際に倒伏)
樹高(m)
12
10
8
6
4
1000
100
手引き(平均)
2
沙流川のヤナギ
開発土研 ヤナギ
10
0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
判定係数
3.0
倒伏判定係数の分布
3.5
4.0
4.5
千曲川のハリエンジュ
5.0
本調査(荒川)
倒伏等した樹木 105本
残存した樹木 50本
1
1
10
100
胸高直径(cm)
図−19
倒伏判定係数の分布
図−20
胸高直径と倒伏限界モーメント
4
今後の樹木管理に向けて
本研究により、樹木群内の流速場の実現象を捕らえた多くの事例が収集された。こ
れにより、河道内樹木群内の流速場が明らかとなり、樹木群の透過係数を適正に設定
することで、水理現象を再現できることが明らかとなった。
しかしながら、樹林内の透過係数を厳密に設定するには詳細な現地調査が必要であ
り、多くの時間を要する。打開策のひとつとしてリモートセンシング技術の活用が考
えられる。
河道内の樹林化が課題となっている天竜川下流部では、レーザープロファイラを活
用し河口から25kmまでの区間の河道内樹木群化区間等の植生密度分布図を作成
している。本技術により樹木区域や植生高さや密度を面的に把握することで、迅速な
透過係数の設定が期待される。
また、樹木群管理を実施していく上では、樹木伐採に伴う水あたりの変化等の予測
も必要であり、平面的な流れ場の解析が必要である。
樹木の倒伏については、実現象の発生機構に不明な点が多く、さらなる事例収集と
現地調査等が必要である。また、倒伏の状況によっては、水位のせき上げという副次
的な事象も危惧されることから、多角的な検討が必要である。
遮蔽率
天竜川
天竜川
10
(完全遮蔽)
1
0m
200m
図−21
5
400m
600m
800m
1000m
樹高分布図(天竜川)
0m
200m
図−22
400m
600m
800m
1000m
植生密度分布図(天竜川)
おわりに
本研究は、河道内樹木群による治水上の水理的影響について明らかにし、樹木群内
の水理現象は準二次元モデルによって概ね評価できることを明らかにした。
また、現在も水理諸量の観測は継続しており、新たなデータが計測されれば、それ
らも含めて分析をしていく予定である。なお、河道内樹木群は、河川内の動植物の生
息場として重要な役割を果たすことから、治水と河川環境の調和のとれた河川管理に
ついても、今後の重要な検討課題である。
最後に、関係各位のご理解、ご協力に心から御礼を申し上げるとともに、今後とも
引き続き、ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げる。