PowerPoint プレゼンテーション

2015.05.13
南アルプスにおける地形変動と土砂収支
―最近の研究動向と展望―
松岡 憲知
今泉 文寿
西井 稜子
大学院教育学研究科
内田 博貴
中部山岳地域の特徴
中部山岳地域は、以下の2つの激しい地形変化を受けている。
①地質条件による地形変化(速い隆起、地震など)
②気象条件による地形変化(豪雨、積雪など)
さらに、地形変化によりつくられた地形が、
さらなる地形変化を加速させている。
元から
あった
地形
変化
更なる変化
により
・・・
により
できた
できた地形
①や②
①や②
①や②
地形
中部山岳地域の特徴
基盤岩の種類、緯度などで地形変化の量は異なる。【空間的な差異】
Ex. 基盤岩が堆積岩だと… 地点の標高が高いと… など
氷期や間氷期といった長期的な視点からみると、
気象条件による地形変化の量は変動。【時間的な差異】
Ex. 暖かい時期だと… 寒い時期だと… など
地形変化が連続していく中で、斜面崩壊等により土砂移動が発生
下流の人間生活へ影響を与えている。
そこで、
空間的・時間的な地形変化の起こりやすさの要因を理解し、地形変
化の発生を予測する。⇒土砂災害対策につなげる。
本論文の目的
標高帯ごと、専門分野ごとの研究は行われている。
Ex. 山頂部における岩盤の重力性変形の研究。
Ex. 山腹部における深層崩壊の研究。
しかし、南アルプスでの地形変化や土砂収支の実態を
総合的に捉えようとする試みは乏しい。
そこで、
①既往研究を総括し、地形変化とそれに伴う土砂収支の実態を多
角的に分析する。
②気候変動や突発的事象に伴う近未来の地形形成環境の変化を
検討する。
南アルプスの概観(地形・地質)
甲斐駒ケ岳・鳳凰山周辺:花崗岩
それ以外:
白亜紀後期~古第三紀の
堆積岩類(四万十帯)からなる。
北岳・塩見岳・悪沢岳・聖岳の周囲から
突出する岩峰や山頂周辺の急傾斜。
⇒ チャート・緑色岩・石灰岩等の岩石
図2 南アルプスの主要な山と河川
仙丈ケ岳・間ノ岳・荒川中岳・赤石岳のなだらかな山頂部。
⇒ 砂岩や頁岩、その互層
現在の隆起速度:4mm/年 … プレートの圧縮に伴う地殻の曲隆という見解。
急流河川(天竜川・大井川・富士川)に激しく下刻され、急峻な地形を呈す。
南アルプスの概観(気候・氷河・永久凍土、森林・植生)
【気候・氷河・永久凍土】
標高差が大きい ⇒ 一流域でも最高点と下流端で平均気温の差が大
氷河や永久凍土は存在しない
(カール等の名残から、かつては存在した。)。
3200m
ハイマツ群落
【植生・森林】
海岸~800m:常緑広葉樹
800~1700m:落葉広葉樹
1700~2600m:亜高山帯針葉樹林
2600m~:ハイマツ群落
2700m~の稜線東側にお花畑
2600m
亜高山帯
針葉樹林
2000m
1700m
落葉広葉樹
800m
2000m以下の斜面を中心に森林の伐採や造林。
江戸時代にも行われていた。
常緑広葉樹
山頂部の諸現象
【周氷河プロセス】
山頂部の緩斜面:凍結融解による物質移動+降雨などに伴う地表流による侵食
間ノ岳周辺の岩屑斜面の斜面物質移動。
日周期性の凍結融解に伴う
地表の上下動による。
特に春と秋に集中(夜寒く昼暖かい)。
上から
凍上による表面の上下動(Surface heave)
斜面方向への移動量(Downslope movement)
土壌中の水分(soil moisture)
の日変化を表す。
土壌中の水分が上昇すると、表面が凍上し、
それが溶けると斜面方向への移動量が上がる。
凍結融解作用を反映した構造土。
⇒日周期の浅い凍結融解のため小規模。
図3 間ノ岳の礫質ローブにおける凍上・フロストクリープ
および関連する環境条件
【重力性変形】
線状凹地列…岩盤クリープ、それに伴う正断層や引張亀裂が原因。
主稜線と地層の走向が平行な山域に多く分布。
稜線の横断面形が三角形だと二重山稜、台形に近いと多重山稜が見られる。
重力性変形
重力性変形
【岩盤風化・落石】
森林限界を超える急斜面は、物理的風化や落石などで構成される。
間ノ岳東側の細沢カール壁…
日周期・数日周期の凍結融解による岩盤の節理の拡大。融雪期の落石。
季節的融解深度が約1mに達したとき、岩盤が最も不安定化する(図4-A)。
10数年に1度、大規模な崩落が発生(図4-B)。
崩落した物質は、豪雨時の土石流により下流へ移動する。
図4 細沢カールの落石(Matsuoka and Sakai, 1999 にデータを追加).
(A)1994 年の融雪期における岩盤の露出面積・積算落石量・岩盤の融解深度(計算値)の変化.
(B)1984 ~ 2002 年の5 月下旬~ 6 月中旬における落石量に基づく平均岩壁後退量の変化.
山腹~渓流部の諸現象
【表層崩壊】
表層崩壊:斜面表層の土壌中、土壌と基盤岩の境界がすべり面。厚さ数mで移動。
深層崩壊:基盤岩中にすべり面。厚さ数10mで移動。
数m
土壌
数10m
基盤
岩
表層崩壊
深層崩壊
南アルプスでは…
花崗岩類から成る地域(甲斐駒ケ岳周辺など)で表層崩壊、
堆積岩地域(間ノ岳、赤石岳周辺など)で深層崩壊の割合が高い。
近年は表層崩壊が多い。
しかし、全国的に崩壊の発生数や面積は減少傾向。特に小規模な崩壊は減少。
森林伐採の行われた地域で多く発生。
【深層崩壊】
南アルプスにおける深層崩壊…急激な隆起、河川の下刻による起伏の増加が原因。
※明治以降の深層崩壊数は他の地域に比べて多い。
北部では、完新世初頭や8世紀ごろに大規模な崩壊が発生。
南部では、宝永地震により大谷崩が形成。
その他の素因:
重力性変形による
岩盤の変形や破砕の進行。
Ex. アレ沢崩壊(図5):
豪雨や長雨ではなく、
岩盤の強度低下により
崩壊の閾値が低下した可能性。
崩壊により裸地化した斜面は、
崩壊後も継続的に土砂生産を行う。
そのため植生の定着を妨げる。
図5 南アルプス周辺のおもな深層崩壊と土砂災害,海岸侵食.
【土石流の発生・流下・堆積】
土石流発生の条件:
渓床勾配が急、土砂・水の存在。
南アルプスは勾配が急で、降水量・土砂供給がともに多く、土石流が発生しやすい。
大谷崩…土石流の頻度が高い。
水が豊富な流動性に富んだ流れ+不飽和状態の流動性に乏しい流れ。
南アルプス全体では、土砂濃度が高い土石流が堆積した形跡(急勾配のため)。
土石流の流動性は土砂の粒度にも依存する。
火山性の地盤の流域では緩勾配の地域まで流れる。
【河川における土砂流出と河床変動】
大井川支流東河内沢…深層崩壊・表層崩壊・土石流が多発。
1982年8月…大規模な降雨流出、上流部で渓床堆積物が増加。
⇒3年後かけて徐々に侵食され、元に戻る。
∴山岳域内に河床堆積物として一時的に貯留される ⇒ その後、下流へ。
下流へ到った山岳域の土砂が
扇状地の河床を上昇させると、
洪水のリスクが増加する。
Ex.富士川流域…
甲府盆地や富士山南西麓でリスク高。
河川が運ぶ土砂量が減少すると
海岸浸食が起きる。
Ex.天竜川…ダム湖に土砂が堆積し、
中田島砂丘などの海岸浸食が顕在化。
図5 南アルプス周辺のおもな深層崩壊と土砂災害,海岸侵食.
土砂収支と地形変化の過去・現在・未来
【現在の土砂収支】
流域における土砂収支はダム湖への流入土砂量を用いて表すことが多い。
とくに大井川は浸食が激しいため,流入土砂量が多い。
流域内を移動する土砂量は
短期的には降雨流出イベントの
大小に依存する(図9)。
大井川流域では1982年に
記録的な降雨を記録している。
流域内を移動する土砂量の
長期的な傾向は不明である。
図9 大井川上流域畑薙第一ダム,井川ダム貯水池への
年間土砂流入量(眞板, 2002 をもとに作成).
【将来の土砂移動・地形変化と対策】
温暖化や集中豪雨の増加が及ぼす影響:
・凍結融解作用は気温、降水量、日射量への依存が高い。
⇒温暖化により高標高帯でも凍結融解作用が起こる。
・積雪域の分布の変化は凍結融解作用が活発な地域の変化につながる。
⇒流域の土砂生産量の変化。
・豪雨に伴う深層崩壊の発生数は増加傾向。
⇒10年単位の増減はあるため、気候変動との関連は謎。
日本の土砂災害による死者・行方不明者は一貫して減少傾向。
「ハード対策(砂防えん堤など構造物の建設など)」の実施、禿山の減少による。
加えて、「ソフト対策(避難情報の発表など)」も実施していく必要性がある。
地形変化の起こる危険個所、タイミングの特定など、
発生予測に関する研究の必要性。
まとめ
結果1
山頂部の緩斜面では日周期性の凍結融解作用が生じ、
それに伴う凍結融解に伴う破砕と落石が頻発し、岩盤の後退や土砂生産に貢献。
重力性変形や深層崩壊に伴う引張性の亀裂や小崖が発達。
結果2
南アルプスでは深層崩壊が多発しやすい地形。
さらに表層崩壊も発生。崩壊後の斜面は土砂移動が継続し、植生の回復が遅れる。
渓流が急勾配の為、頻繁に土砂濃度の高い土石流の流下。
結果3
活発な土砂移動により山地の侵食が進行。落石事故が頻発し、ダムで堆砂が進む。
集中豪雨や地震により、数十年に一度、下流域まで土石流が達する。
結果4
土砂災害の予測のために、年々進行する地形変化、
突発性の気象イベントに伴う極端な地形変化、気候変動による地形変化を識別し、
それぞれの発生メカニズムを解明していく必要性。