麦跡輪換畑における大豆の浅耕うね立て同時播種技術 - 滋賀県

滋賀農技セ研報( Bull. Shiga. Pref. Agric.Tech.Promo.Cent.)46:20−28 (2007)
麦跡輪換畑における大豆の浅耕うね立て同時播種技術*1
中山孝彦・河村久紀 *2 ・北浦裕之*2 ・中井
譲
Simultaneous Seeding and Shallow-tillage Ridging in the Cultivation of Soybeans in
Rotational Upland Field with Wheat as Preceding Crop
Takahiko NAKAYAMA, Hisanori KAWAMURA, Hiroyuki KITAURA and Joe NAKAI
キーワード:うね立て,湿害,出芽,初期生育,浅耕,ダイズ,同時播種,輪換畑
麦跡輪換畑の大豆栽培において,浅く耕耘するとともにうねを立てながら一工程で播種する「浅耕うね立て同時
播種技術」を導入すると,湿害の軽減により,出芽の安定と初期生育が確保できるとともに ,麦稈の集条化により ,
ほ場の乾湿にかかわらず,収量の安定化が図れる.
輪 換畑 に おけ る 収量 の 安定 に は, まず , 出芽 率 の
1.緒
言
改 善 と初 期 生育 の 確保 が 重要 で ある .そ こ で, 浅 耕
に よ り麦 作 期間 中 に形 成 され た 亀裂 を維 持 し, 地 表
滋 賀 県 での 大 豆生 産 は, 水 稲・ 麦・ 大 豆の 2 年3
排 水 性を 向 上す る とと も に, 同 時に うね を 形成 し な
作の輪作体系で作付けされているが, 排水性が悪く ,
が ら 上部 に 播種 を 行う こ とで , 湿害 の軽 減 を図 る 浅
地下 水 位 の高 い ほ場 が 多い . 大豆 の播 種 期は 6 月中
耕うね立て同時播種技術を検討したので報告する( 写
旬か ら 7 月中 旬 で, 梅 雨と 重 なる ため , 出芽 不 良に
真1).
なる こ と が多 い .出 芽 段階 で の湿 害は 収 量へ の 影響
が大きく ,10∼40%も収量が低下する場合 1)もあり ,
乗用型トラクタ
湿害程度 の甚だし い場合には 収量が5∼60%の低収に
なるとの報告もある10)
.
この結果 ,県内の平均収量は年次間変動が大きく ,
ダウンカット式ロータリ
生産 性 が不 安 定で ある .近 年 では 2003年 , 梅雨 入り
後に 降 雨 が続 き ,麦 類 の収 穫 遅延 のた め ,大 豆 の播
種作 業 が 遅れ , 播種 後 も周 期 的に 降雨 が あり ほ 場の
湿潤 状 態 が続 い た. こ のた め ,出 芽・ 初 期生 育 不良
となり ,作付面積は前年に比べ440ha(10% )減少し ,
10a当たり収量が前年に比べ59kg( 31% )減少した .
接地輪駆動式播種機
なお,県 内の大豆収穫 量は5,040tとなり ,前年に比
写真1
べ3,150t(38%)減少した (図1).
*1
本研究は「新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」農産物の提供のための総合研究 」(プロジェクト研究)委託
事業および実証試験・普及展示連携システム構築事業により実施した
*2
浅耕うね立て同時播種
現,農政水産部農業経営課
- 20 -
滋賀県農業技術振興センター研究報告
200
作付面積
収穫量
10a当たり収量
150
6000
100
3000
50
0
10a当たり収量 kg
作付面積ha・収穫量t
9000
第46号(2007)
0
1997
図1
1998
1999
2000
2001
年
2002
2003
2004
2005
滋賀県の大豆作付面積および収量の推移(近畿農政局滋賀農政事務所調査)
2.材料および方法
耘 爪 は取 り 外し た .次 に ,播 種 位置 方向 に 先端 が 向
くように左右対称に耕耘爪を付け替えた(図2 ).
2.1
浅耕うね立て同時播種機の概要
浅 耕 う ね立 て 同時 播 種機 は ,乗 用型 ト ラク タ ,ダ
2.1.2
播種機の取り付け
ウン カ ッ ト式 ロ ータ リ (ホ ル ダー 型) お よび 接 地輪
播 種装 置 と駆 動 輪が 分 かれ て いる 横溝 ロ ール 式 播
駆動 式 播 種機 で 構成 さ れ, 耕 耘爪 (な た 爪) の 配列
種 機 を用 い る場 合 は, 二 つの う ねの 最下 部 付近 で 駆
を変 え る こと で ,う ね を立 て なが ら同 時 に播 種 作業
動 が 取れ る よう に 駆動 輪 をロ ー タリ の中 央 付近 に 取
を行 う . なお , ロー タ リの リ アカ バー は 引き 上 げ,
り付 けた (写真 2).駆動 輪が播種装 置と一体に なっ
耕深は油圧レバーで調整する (写真1).
て い る傾 斜 ベル ト 式播 種 機を 用 いる 場合 は ,駆 動 輪
が 播種 位 置の 側方 15cm にあ るた め ,鉄 棒な ど を溶 接
2.1.1
し駆 動輪の突 起部を8cm程 度に伸長し た.また, ロー
耕耘爪の配列の変更
中 耕 培 土に 用 いる 管 理機 や ロー タリ カ ルチ ャ ーの
タ リ の両 端 に装 着 する 播 種機 の 駆動 輪は , それ ぞ れ
幅に 配 慮 のう え ,ロ ー タリ の 幅に 合わ せ て条 間 を決
ロー タリの中心 寄りに取り 付けた (写 真3).な お,
定し,耕 耘爪の配列を 変更した. 作業幅140cmのロー
横 溝 ロー ル 式播 種 機, 傾 斜ベ ル ト式 播種 機 とも に ,
タリを用 い,播種条数 2条 (条間70cm)の 場合,うね
う ね が崩 れ ない よ うに 鎮 圧ロ ー ルは 外す か ,接 地 圧
の形状を安 定させるた め,ロータ リ中央から 左右35c
をごく低くした.
mの 播種位置 付近の ホルダーに 取り付けら れている耕
図2
ロータリ爪の配列(条間70cm)とうねの形状
注1)耕耘爪は,なた爪を使用し,うねの頂上には耕耘爪を装着しない.
- 21 -
中山
孝彦ら:麦跡転換畑における大豆の浅耕うね立て同時播種技術
横溝ロール式
播種機
駆動輪
駆動輪
伸長した
突起部
ダウンカット式ロータリ
写真2
2. 2
横溝ロール式播種機
写真3
異な る 降雨 状 況下 に おけ る浅 耕 うね 立 て同
傾斜ベルト式播種機の駆動輪
/10aであっ た.浅耕70区は7月28日に1回,平う ね区
は7月13日と7月28日の2回中耕培土を行った .なお ,
時播種機の適応性
2004年 およ び2005年に 滋賀 県農業 技術 振興 センタ
浅耕45区は無中耕無培土とした.
ーの 輪 換 畑( 中 粗粒 グ ライ 土 )に おい て ,播 種 前後
の降 雨 状 況の 異 なる 条 件下 で 浅耕 うね 立 て同 時 播種
2.4
過 湿輪 換 畑に お ける 浅 耕う ね立 て 同時 播 種
機を 試 用 し, 播 種時 の 土壌 含 水率 ,砕 土 率お よ び出
が大豆の生育・収量に及ぼす影響
芽率 (条 長 1.5m, 8カ所 )を 調 査し た. 播種 日は ,6
2004年 に 浅耕 区の 湿 害回 避効 果 を検 証す る ため ,
月7日∼6月23日 (表1参照 ),栽植密度は条間 70cm株
前 作 水稲 の 輪換 畑 (中 粗 粒グ ラ イ土 )で 過 湿区 を 設
間10cmの 14.3株/㎡ とし ,播 種量 は4kg/10aの設 定と
置 し ,乾 ・ 湿両 条 件下 で の生 育 ・収 量を 比 較し た .
した.
過湿 区は,播種を 6月 15日とし ,浅耕70区と平う ね区
にお いて,播種 直後から3 日間を地下 水位(田面 )0
2. 3
排水 良 好な 輪 換畑 に おけ る浅 耕 うね 立 て同
cm,その後3 葉期までを 5cm,成熟期ま でを20cmとし
た.
時播種が大豆の生育・収量に及ぼす影響
2004年および2005年に当センターの麦跡輪換畑( 中
粗粒 グ ラ イ土 ) にお い て試 験 を実 施し た .浅 耕 うね
2.5
浅耕うね立て同時播種技術の現地実証
立て区( ロータリ幅140cm,以 下,浅耕区 )では,条
2005年 に 麦跡 輪換 畑 にお いて , 滋賀 県近 江 八幡 市
間70cm 2条 区( 以下 ,浅 耕70 区) と条 間45cm3 条区
( 黒ボ ク土 ) では 「九 州 136号 」, 大津 市( 砂 壌土 )
(以 下, 浅 耕45区 ) とし ,耕 深 5∼6c mでう ね立 て同
で は 「フ ク ユタ カ 」を 供 試し , 現地 実証 を 行っ た .
時播種を行った .慣行の平うね区(ロータリ幅140cm )
な お ,大 津 市の 土 壌条 件 は過 湿 傾向 で経 過 した . 浅
では ,耕 深 10∼1 1cmと し耕 耘し な がら 同時 に播 種し
耕 区 は, 現 地農 家 が保 有 する 作 業機 によ る 浅耕 う ね
た.
立 て 同時 播 種と し た. 対 照区 は 農家 慣行 と し, ロ ー
2004年は播種 を6月23日と し,播種量は 浅耕70区が
タ リ 普通 耕 によ る 平う ね で施 肥 耕耘 後に 播 種し た .
3.7kg/10a,浅耕45区が6.3kg/10a,平 うね区が5.1kg
近江八幡市での播種日は6月24日 , 播種量は4kg/10a,
/10aであった. 浅耕70区 は7月26日に1 回,平うね区
中 耕培 土は 7月 16日 と7月 28日 の2 回 を行 った .大 津
は7月13日と7月26日の2回中耕培土を行った .なお ,
市 での 播種 日 は7月 13日 ,中 耕 培土 は7月 28日 に1 回
浅耕45区は無中耕無培土とした.
行った .その他の管理は , 両区とも農家慣行とした .
2005年は播種 を6月17日と し,播種量は 浅耕70区が
4.4kg/10a,浅耕45区が6.3kg/10a,平 うね区が5.0kg
- 22 -
滋賀県農業技術振興センター研究報告
表1
第46号(2007)
浅耕うね立て同時播種における降水量と土壌条件の変動に伴う出芽率の変化
降雨状況
播種日
播種前後の降水量 mm
試験年 播種前・播種後
-2∼0日 0∼2日 0∼7日
月/日
少・中
6/7
4.0
12.0
32.0
中・中
6/8
12.0
0.0
20.0
2004
中・多
6/23
11.0
33.0
39.5
2005
中・少
6/17
10.0
0.0
5.0
播種時の土壌条件
含水率
pF値
砕土率
%
%
24.8
2.1
80
30.7
1.0
69
24.6
1.7
87
22.5
1.6
95
出芽率 %
平均
標準偏差
89
84
94
92
±
±
±
±
10.8
12.5
4.6
7.9
注1)pF値は,うね中央部,深さ10cmの測定値
注2)砕土率は2cm以上の土塊の重量%
注3)前作小麦は「ふくさやか」および「農林61号」が混在し,麦稈量は2004年は未調査,2005年は約46kg/a,大豆の供試品種は「九
州136号」
3.結
果
7%では ,砕土率 は70%以 下となった .しかし, 播種
作 業は 可 能で ,播 種 後1 週間 以 内に 40mm程 度 の多 雨
3. 1
異な る 降雨 状 況下 に おけ る浅 耕 うね 立 て同
とな った場合でも ,5.0mmの少雨・乾 燥状態とな った
場合 でも,出 芽は良好で ,出芽率は 80%以上とな った
時播種機の適応性
耕 深 5∼6 cmの浅 耕 によ るう ね 立て 耕を 行 うと ,麦
(表1).
稈をスム ーズに鋤 き込むこと ができ,播種 深5cm程度
で大豆が 播種できた (写真1).傾斜ベル ト式播種機
3.2
排 水良 好 な輪 換 畑に お ける 浅耕 う ね立 て 同
の場 合 , うね の 高さ は ,ロ ー タリ の整 地 板を 上 げて
時播種が大豆の生育・収量に及ぼす影響
播種 機 の鎮 圧 輪を 取り 外 すこ と によ り ,浅 耕7 0区の
2004年 の事 例で は ,播 種2 日後 に37m mの降 雨( 播
場合 は地 際 から 11∼1 2cm( 図 2) とな り ,浅 耕45区
種 後48 時間 の降 水量 33m m)が あり , 平う ね区 につ い
の場合は8∼9cmとなった( データ略 ).なお,突起部
て は, 降 雨翌 日 のpF 値の 上 昇は み られ なか っ たが ,
を伸 長 し 駆動 輪 をう ね の内 側 に付 ける と ,う ね 立て
浅 耕区 につ い ては 0.4∼ 0.5程 度高 く なっ た. その 後
部分 に お ける 駆 動が 安 定し , 駆動 輪に 麦 稈が 詰 まり
も,pF値の上 昇に1日程 度の時間差が みられ,降 雨8
にくくなった.
∼10日後のpF値は0.2程 度高くなり ,土壌水分が 低く
浅耕区 では,耕耘時 のpF値 1.6以上,土 壌含水率が
推 移 した . なお , 以降 も 同様 の 傾向 がみ ら れ, 特 に
25% 程度 以 下で は, 80% 以上 の 土壌 の砕 土 率が 得ら
浅耕45区での 湿害軽減効 果が大きくな った (図3 ).
れたが , 12mmの降雨直後 ,pF値1.0,土壌の含水率30.
降水量(mm)
40.0
35.0
2.8
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
平うね
浅耕うね立て
(条間70cm)
浅耕うね立て
(条間45cm)
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
播
種
5.0
0.0
6/16
6/23
図3
6/30
降水量とpF値の推移(2004年)
注1)pF値は,深さ10cmの測定値
- 23 -
7/7
月/日
pF値
降水量
中山
表2
孝彦ら:麦跡転換畑における大豆の浅耕うね立て同時播種技術
うねの形状と生育・収量および品質
調査区
うねの形状(条間)
浅耕うね立て(45cm)
浅耕うね立て(70cm)
平うね(70cm)
年
開
花
期
成
熟
期
倒
伏
蔓
化
月/日 月/日 0-5* 0-5*
2004 8/8 10/23 1.7 1.8
2005 7/30 10/25 1.2 0.5
平均 8/3 10/24 1.4 1.2
2004 8/8 10/23 0.5 1.0
2005 7/30 10/24 0.0 0.0
平均 8/3 10/24 0.3 0.5
2004 8/7 10/24 0.5 0.5
2005 7/30 10/23 0.0 0.0
平均 8/3 10/23 0.3 0.3
主
茎
長
主
茎
節
数
分
枝
数
最下
着莢
高
全
重
cm
73
62
67
78
50
64
82
55
68
節
15.7
13.4
14.6
16.3
13.7
15.0
15.8
13.8
14.8
本
5.8
4.3
5.1
5.1
5.8
5.5
5.2
6.3
5.8
cm
16.5
9.9
13.2
10.1
7.5
8.8
16.3
7.2
11.7
kg/a
57.5
105.5
81.5
55.0
78.7
66.8
50.7
85.5
68.1
子
実
重
kg/a
24.3
57.6
41.0
26.0
43.4
34.7
22.2
46.6
34.4
(対比)
(110)
(124)
(119)
(117)
(93)
(101)
(100)
(100)
(100)
百
粒
重
g
27.6
35.4
31.5
28.1
34.6
31.3
28.2
32.4
30.3
被害粒
程度
裂
皮
し
わ
0-5*
0.0
0.5
0.3
0.0
0.5
0.3
0.0
0.5
0.3
0-5*
0.5
0.0
0.3
0.5
0.0
0.3
0.5
0.0
0.3
品
質
1-7*
3.8
4.0
3.9
3.8
3.5
3.6
3.5
3.5
3.5
子実
蛋白
質含
率
%/d.w.
45.7
46.5
46.1
45.2
45.7
45.5
46.6
46.7
46.7
*:0−5は無∼甚,0−7は上の上∼下を示す
注1)子実重および百粒重は水分15%換算値,最下着莢高は地際から最下着莢節までの高さ.供試品種は「九州136号」
生 育 相 ,開 花 期お よ び成 熟 期に つい て は, 処 理間
差が な かっ た .平 うね 区 と比 べ ,浅 耕 70区 では ,主
3.3
過 湿輪 換 畑に お ける 浅 耕う ね立 て 同時 播 種
が大豆の生育・収量に及ぼす影響
茎長 に つ いて は やや 短 く, 子 実蛋 白質 含 率に つ いて
場 内の 湿 区の 浅 耕区 で は, 降 雨後 にう ね の上 部 か
は低 く なっ た .播 種後 多雨 の 2004年 の全 重 ,子 実重
ら 速や か に乾 燥し た .20 04年の 場 内の 湿区 ( 播種 後
は増 加 した が ,播 種後 少雨 の 2005年 は出 芽 率が 平う
地下水 位0cmのほ場 )および2005年 の現地の湿区 (播
ね区 よ り 低下 し たた め ,全 重 ,子 実重 も 下回 っ た.
種 直 後に 降 雨が あ った 現 地ほ 場 )で は, 浅 耕区 は 平
品質 , 立 毛中 の 障害 に つい て は, 差が 判 然と し なか
う ね 区に 比 べ, 出 芽率 が 高く , 出芽 率の 標 準偏 差 も
った . 浅耕 45区 で は中 耕 培土 を実 施 せず , 2カ 年と
減 少 した . さら に ,4 葉 期の 根 量, 根長 が 優り , 初
も, 倒 伏・ 蔓 化が 浅耕 70 区よ り増 大 した . なお ,最
期 生 育が 旺 盛で , 開花 期 の根 長 も長 く, 有 意差 が み
下着 莢 高 を除 き ,他 の 形質 に つい ては , 密度 の 差が
ら れ ,開 花 期根 重 ,全 重 ,子 実 重も ,同 様 の傾 向 が
判然 と し なか っ たが , 全重 , 子実 重は 増 加し た (表
み ら れた . しか し ,開 花 期, 成 熟期 につ い ては 処 理
2).
間差 は判然とし なかった.(表3,表 4,写真4 ,写
真5).
出芽不良による連続欠株
浅耕うね立て区(条間70cm)
注1)うね上部から速やかに乾いていく様子と斉一な出芽
写真4
平うね区
注2)鎮圧が強い箇所等での滞水と,出芽不良による連続欠株
播種20日後の生育とほ場の状況(2004年場内湿,「九州136号」)
- 24 -
中山
孝彦ら:麦跡転換畑における大豆の浅耕うね立て同時播種技術
左側2個体;浅耕うね立て区(条間70cm)
写真5
右側2個体;平うね区
4葉期の地上部と地下部の生育(2004年場内湿「九州136号 」)
浅耕うね立て同時播種技術の現地実証
ら れ る. こ れら の 問題 を 解決 す るた め, 各 地で 不 耕
現有のダ ウンカット 式ロータリ (作 業幅190cm)では
起播種法,浅耕一工程播種技術 2)
,一工程畝立播種栽
耕耘 爪 の配 列 を変 える こ とに よ り約 40分 で 作業 機を
培 技 術 12)
, 大豆用 耕う ん同時 畝立 て播種 作業技 術
組み 立 て るこ と がで き ,2 条 播種 の場 合 1時 間 当た
3)4)
, 大 豆浅 耕小 畦立 播種 機 7) など が検 討さ れて い
り約 30a の 作業 が 可能 で あっ た. ま た, 耕 耘爪 (な
る . 小 麦− 大豆 体系 で は, 浅耕 播種 は効 果的 で, 大
た爪)の購 入費用は作 業幅140cmで46,000円,作業幅
豆 の 生育 ・ 収量 が 不耕 起 播種 よ り優 るこ と も多 い と
190cmで 61,000円で, 新たな負担が少な かった(デー
されている1)
.
3.4
タ略).
本試験で取り組んだ浅耕うね立て同時播種技術は ,
一 方 ,条 間 70cmの 現地 にお い ても 浅耕 区 は平 うね
大豆の出芽期から初期生育期において慣行に比べて ,
区と 比 べ ,出 芽 率が 高 く安 定 して おり , 全重 , 子実
土 壌 水分 が 低く 推 移し , 出芽 率 が高 くな る とと も に
重が 増 加 した が 最下 着 莢高 は 低く なっ た .な お ,生
安定し,開花期までの生育量が増加する.
育相 の 差は な かっ たが ,浅 耕 45区 では 浅耕 70区 に比
大豆 は ,発 芽 開始 時 の48 時間 の 冠水 スト レ スに よ
し, 最 下 着莢 高 が高 く なっ た が, 分枝 数 が減 少 し,
り , 発芽 が 阻害 さ れる だ けで な く, 発芽 後 の生 育 ま
一株莢数も少なく,収量はやや減少した (表4).
で 著 しく 阻 害さ れ るこ と が 示さ れ てい る 9)
. 浅耕 う
ね 立 て同 時 播種 技 術は , 浅耕 に より ,耕 起 層下 の 前
4.考
察
作 由 来の 作 物根 な どや 土 壌の 膨 張・ 収縮 に よる 亀 裂
を 保 持し , 地表 排 水性 を 向上 す ると とも に うね 上 部
水 田 輪 換畑 に おけ る 大豆 生 産の 課題 は ,湿 害 や排
に 播 種位 置 を変 更 する こ とに よ って ,地 下 水位 を 低
水不 良 , 降雨 時 の播 種 の遅 れ ,出 芽不 良 など が あげ
く で きる . この た め, 大 豆の 出 芽に 際し て ,急 速 な
表3
ほ場の乾湿,うねの形状と出芽率,生育および収量(2004年,場内)
試験区
ほ場の
乾湿
乾
湿
うねの形状
浅耕うね立て
平うね
浅耕うね立て
平うね
根長
出芽率
94
88
94*
67
%
± 4.6
± 9.3
± 1.6
± 6.9
24.6
19.6
25.8*
16.8
cm
( 126)
( 100)
( 154)
( 100)
4.0
3.2
4.9
4.1
*:5%水準で有意差あり
注1)根長,根重は開花期測定値.
- 25 -
根重
開花期 成熟期 主茎長 全重
g/株
( 124)
( 100)
( 119)
( 100)
月/日
8/8
8/7
7/30
7/30
月/日
10/23
10/24
10/19
10/19
cm
78
82
60
65
kg/a
55.0
50.7
61.2
57.0
子実重
26.0
22.2
29.3
27.5
kg/a
( 117)
( 100)
( 107)
( 100)
滋賀県農業技術振興センター研究報告
表4
現地実証での出芽率,生育,および収量(2005年)
試験区
ほ場の
乾湿
乾
湿
第46号(2007)
出芽率
うねの形状
浅耕うね立て(45cm)
浅耕うね立て
平うね
浅耕うね立て
平うね
96
91
91
89*
72
%
± 5.2
± 6.8
± 7.4
± 7.8
± 11.9
根長
cm
−
−
−
22.3* ( 150)
14.9 ( 100)
根重
開花期 成熟期 主茎長 主茎節 分枝数 最下着
数
莢高
全重
月/日
8/7
8/7
8/7
8/21
8/21
kg/a
78.8
80.2
75.1
66.1
56.7
g/株
−
−
−
1.6 ( 205)
0.8 ( 100)
月/日
10/25
10/25
10/23
11/18
11/18
cm
53
50
55
69
57
節
14.8
14.6
14.1
17.0
15.5
本
3.8
6.2
4.5
6.2
6.6
cm
11.0
5.7
9.9
6.7
9.1
子実重
45.7
47.4
43.5
39.2
35.2
kg/a
( 105)
( 109)
( 100)
( 111)
( 100)
*:5%水準で有意差あり
注1)乾は近江八幡市西生来町(黒ボク土),湿は大津市上田上新免町(砂壌土).条間は浅耕うね立て(45cm)を除き70cm.
根長,根重は開花期測定値.子実重および百粒重は水分15%換算値.乾は「九州136号」,湿は「フクユタカ」を供試.
蔓化,倒伏にうねの形状間での差はなかった.
吸水 に 起 因す る 発芽 障 害や 種 子周 辺の 酸 素不 足 など
粒 着 生数 の 増加 な どが 報 告 され て おり 6)
, 本 試験 に
をも た ら す過 湿 状態 が 改善 で き, 慣行 に 比べ て 出芽
お い ても , 開花 期 まで の 生育 量 の増 加が 確 認さ れ て
率が 高 く 安定 し ,そ の 後の 初 期生 育量 も 慣行 を 上回
い る .特 に ,根 長 ,根 重 ,根 量 の増 加が 見 られ , 過
り,斉一な生育も確保できる.
湿 条 件で の 改善 効 果が 顕 著で あ り, 出芽 と 同様 に 地
一 方 , 耕盤 が 固い ほ 場で の 浅耕 は干 ば つの お それ
があ ると され てい る 11)
.し かし ,小 麦収 穫跡 で大豆
下 水 位の 低 下, 排 水性 や 通気 性 の改 善に よ るも の と
考えられる.
浅耕小畦 立播種機 を使用し, 耕深を5cm程 度とするこ
浅 耕播 種 の試 験 では , 同程 度 の苗 立ち が 確保 さ れ
とで,播 種以降降 雨がない 乾燥時にも 耕起播種(耕深
た 場 合に 浅 耕と 普 通耕 と で収 量 に差 が生 じ るの か と
12cm)と 同等の苗立 ちを確保で きるという 中西らの報
い う 問題 に つい て 判断 を 下す の は難 しく , 東海 地 域
告 8) があり,本 試験におい ても,播種 後の降雨が少
と本県で実施した実証試験での浅耕播種の収量性は ,
ない 200 5年に 同様 の 結果 を得 て いる .ま た ,中 西ら
多 雨 年で は 普通 耕 と同 等 ない し 上回 るケ ー スが 多 い
は小 麦 跡 での 浅 耕播 種 では 耕 深が 浅く , 耕起 層 の麦
が , 干ば つ 年に は その 差 が小 さ くな る傾 向 があ る と
稈割 合 が 慣行 の 耕起 播 種に 比 べて 高く な り, 耕 起後
報告されている 6)
.
に降 雨 よ る土 壌 表面 の 硬膜 ( クラ スト ) が形 成 され
にくくなるとも報告している.
本試 験 にお い ても 収 量に つ いて は, 浅 耕70 区で は
播 種 後の 降 雨が 少 なく , 慣行 の 平う ね区 よ り出 芽 率
従って ,実際の 作業では, 耕深5cm程度 の浅耕によ
が 6%劣 っ た200 5年の 場 内乾 で7% 減 少し た場 合を 除
るうね立て 耕で麦稈を 鋤き込むと 同時に播種 深を5cm
き, 平うね区 に比べ7∼17%増加して いる.また ,栽
程度 と す るこ と によ り 干ば つ が回 避で き る. な お,
植密 度が高い浅耕 45区で は平うね区 より5∼24% 増加
ほ場 内 の 麦わ ら に偏 り があ る 場合 には , 播種 精 度を
している.
保つために ,散布状態を均一にすることが望ましい .
本試 験を 実 施し た200 4年と 2005年 とで は収 量水 準
また , 麦 収穫 か ら大 豆 播種 ま での 期間 が 長く , 雑草
が 大 きく 異 なる . 大豆 で は生 育 量が 一定 以 上に な る
の繁 茂 が 懸念 さ れる 場 合は , 播種 前に 非 選択 性 茎葉
と , 収量 構 成要 素 間の 相 殺関 係 が強 くな り ,あ る 要
処理除草剤を散布する必要がある.
素 を 増大 さ せて も 他方 が 減っ て ,収 量は 変 化し な い
作 業 に 当た っ て, ロ ータ リ の回 転が 速 すぎ る と土
こ と がよ く 起こ る とさ れ て いる 1)
. 浅 耕う ね 立て 同
が遠 く に 飛ん で しま い ,十 分 な高 さの う ねが で きな
時 播 種の 効 果に つ いて も 子実 重 を論 じた 報 告は 少 な
いの で 注 意す る .な お ,う ね を壊 さな い よう に ロー
い が ,重 粘 土水 田 にお い て耕 う ん同 時う ね 立て 播 種
タリ の 整 地板 は 上げ て 作業 す る. この た め, 自 動セ
方 式 によ り ,初 期 の湿 害 が軽 減 され ,生 育 が良 好 に
ンサー等が機能しないので ,作業者の技能によって ,
なるため,収量が増加すると報告されている5)
.浅耕
耕深 や 播 種精 度 への 影 響が 大 きく ,技 術 の習 熟 が求
う ね 立て 同 時播 種 でも 同 様に 湿 害が 軽減 さ れ, 出 芽
められる.
が 安 定し 初 期生 育 も確 保 でき る こと から , 収量 の 安
浅 耕 播 種に よ る初 期 生育 の 促進 ,根 系 の発 達 ,根
定化が期待できる.
- 26 -
滋賀県農業技術振興センター研究報告
現地実証担当農家 では,作業幅190cmのダウンカッ
第46号(2007)
農業研究,65:21
ト式 ロ ータ リ によ る平 うね で の1 行程 条 間70c m3条
3)細川寿 ・高橋智紀 ・松崎守夫 ,2003.大豆用 耕う
播種 を 慣 行と し てい る .浅 耕 うね 立て 同 時播 種 では
ん 同時 畝 立て 播 種作 業 技術 . 平成 14年 度関 東 東海 北
ロー タ リ 幅の 不 足か ら 1行 程 2条 播種 と なり , 作業
陸農業研究成果情報.
効率 が 低 下す る こと が 問題 と なる .し か し, 耕 耘爪
4)細川寿 ・高橋智紀 ・帖佐直・ 大嶺政朗, 2005.重
の配 列 を 工夫 す ると , うね の 高さ は低 く なる が 1行
埴 土 に限 ら ず砂 壌 土ま で 湿害 回 避が でき る ダイ ズ 耕
程3 条 播 種も 可 能と な り, 一 部で 試行 さ れて い る.
う ん同 時 畝立 て 播種 技 術. 平 成16 年度 関東 東 海北 陸
浅 耕 う ね立 て 同時 播 種技 術 は, 一工 程 で耕 耘 ,う
農業研究成果情報.
ね立て , 播種などの複数作業を同時に行うことから ,
5) 細川 寿 ,200 5.農 業 技術 体系
作 物 編, 第6巻 追
作業 時 間 が短 縮 でき , 播種 前 後の 降雨 や 土壌 水 分の
補第27号.農文協.204の70-75
影響 を 受 けに く く, 高 地下 水 位田 での 湿 害を 軽 減で
6) 松尾 和 之, 2005. 農 業技 術体 系
きる . ま た, 播 種作 業 の可 能 日数 や負 担 面積 を 増加
追補第27号.農文協.204の52-59
でき る な ど, 大 豆の 播 種期 が 梅雨 と重 な る地 域 にお
7)中西幸峰・神田幸英・渡辺輝夫・松尾和之 ,2004.
ける 麦 跡 輪換 畑 での 有 効な 播 種技 術と 考 えら れ る.
大 豆 浅耕 小 畦立 播 種機 の 播種 後 降雨 に対 す る苗 立 ち
県 内 の 大豆 栽 培で は ,担 い 手に よる 経 営規 模 の拡
安 定効 果 .平 成 15年 度関 東 東海 北 陸農 業研 究 成果 情
作 物編 ,第 6巻
大と と も に, 低 コス ト 化・ 省 力化 が課 題 とな っ てい
報.
る. こ の ため , 省力 的 な雑 草 防除 技術 の 確立 と とも
8)中西 幸峰・神 田幸英・ 渡辺輝夫・ 松尾和之. 大豆
に, 大 規 模経 営 体の た めの 省 力安 定輪 作 技術 と して
浅 耕小 畦立 播 種に おけ る 麦稈 の影 響, 2005. 平成 16
耐倒 伏 性 の高 い 品種 を 用い た 浅耕 うね 立 て同 時 播種
年度関東東海北陸農業研究成果情報.
によ る 狭 畦密 植 無中 耕 無培 土 栽培 技術 の 確立 に 向け
9)中山 則和・橋 本俊司・ 島田信二・ 高橋幹・金 榮厚
て試験を継続する.
・ 大矢 徹 治・ 有原 丈 二, 2004. 冠 水ス トレ ス が発 芽
時 の ダイ ズ に及 ぼ す影 響 と種 子 含水 率調 整 によ る 冠
謝
辞
水障害の軽減効果.日作紀,73:323−329
10) 大和 田正 幸・ 久力 幸 ,1990. 1988年 福島 県浜 通
本 試 験 の遂 行 に当 た り独 立 行政 法人 農 業技 術 研究
りにおける大豆の湿害の実態調査 .日作東北支部報 ,
機構 中 央 農業 総 合研 究 セン タ ー関 東東 海 総合 研 究部
33:59−60
有原 丈 二 博士 , 東海 大 豆研 究 チー ム松 尾 和之 博 士,
11) 滋 賀県 ,20 02.売 れ る麦 ・大 豆 づく りに 向け て
渡辺輝夫氏,増田欣也氏にご助言を賜った.
の指針.143
滋 賀 県 農業 総 合セ ン ター 農 業試 験場 栽 培部 作 物担
12) 上 村幸 正 ・宮 崎 昌宏 ・ 吉永 悟 志・ 恒川 磯 雄・ 香
当( 現 ,農業技術振興センター栽培研究部作物担当 )
西 修治 ・ 松嶋 貴則 , 1993. 麦跡 だ いず の一 工 程畝 立
の職 員 の 方々 に 終始 ご 協力 を 賜っ た. ま た, 現 地実
播種栽培技術.平成5年度四国農業研究成果情報.
証に つ い ては 普 及部 , 企画 情 報部 の方 々 にご 協 力を
頂いた.ここに記して深謝の意を表する.
引用文献
1) 有原丈二, 2000.ダイズ安 定多収の革 新技術−新
しい生育のとらえ方と栽培の基本−.農文協 . 30-31 ,
195-199
2) 福島裕助・ 内川修・大 賀康之,2003. 水田転作大
豆の 麦 う ね跡 利 用に よ る浅 耕 一工 程播 種 技術 . 九州
- 27 -
中山
孝彦ら:麦跡転換畑における大豆の浅耕うね立て同時播種技術
Summary
In a rotational upland field with wheat as the preceding crop, soybean seed was successfully sown
while simultaneously forming ridges using a machinery system comprising a riding tractor, ground
driving seeder, and down-cut rotary tiller with an altered alignment of curved tines.
Shallow-tillage ridging at a tilling depth of 5 to 6 cm enables the smooth plowing of wheat straw and
hence the sowing of soybeans at a sowing depth of about 5 cm. Even when it rained heavily (about
40 mm rainfall) or during a drought (5.0 mm), in the first one week after seeding, good emergence was
observed with an emergence rate of more than 80%.
Compared to traditional practice, our method of simultaneous seeding and shallow-tillage ridging for
soybeans produced lower soil moisture content and higher stable emergence rates in the emergence
stage to early growing stage, and is expected to increase the quantitative growth until the flowering
stage and stabilize the yield.
- 28 -