泥炭地の農耕地における泥炭層浅部の圧縮性について - 寒地土木研究所

技術資料
泥炭地の農耕地における泥炭層浅部の圧縮性について
小野寺 康浩*
置土耕地、および美唄湿原内の未墾地である。
1.はじめに
無置土耕地と置土耕地は、造成から25年以上経過し、
泥炭地の農耕地化には、排水と置土
(客土)
が必要不
現在は休耕している。造成にあたり、無置土耕地では
1)
可欠である 。しかし、それに伴い長年にわたる地盤
排水改良が行われ、置土耕地は排水改良と約20cm 厚
沈下が生じ、過湿障害や排水不良が発生しているとこ
の置土(客土)
が施されている。両耕地ともにヨシ、ス
ろも多い。このような泥炭農地の回復を図るためには、
ゲを主要な構成植物とする低位泥炭が堆積している。
置土、暗渠排水、埋木除去
2)
などの2次整備が必要
未墾地は、表層約10㎝の生活層(ササの根系)の下に、
となる。
スゲ、ツルコケモモを主要構成植物とする中間泥炭が
一方、既耕地の泥炭は、未墾泥炭地(以下、未墾地
堆積している。
と称す)と異なり、長年の営農によって理化学的に変
化する3) だけでなく、排水、荷重などの影響により
2-2 試料
工学的性質も変化している。
調査地では、幅2m、深さ1.5m程度を人力で掘削し、
泥炭農地の2次整備では、耕地特有の排水や農作業
泥炭層断面の構成植物、分解度、水分、鉱質土の混入、
により、圧縮、脱水収縮などの履歴を受けている泥炭
色調などを観察し、泥炭層の層位を区分した。
層の力学的特性を把握することが重要である。
圧密試験と物理試験のための試料は、泥炭層の各層
本報では、造成から長年を経過した泥炭地における
(縦・横・高さともに
位の中央深度より1,000㎝3の容器
泥炭層浅部の圧縮性の特徴などを述べる。
10㎝の角管)を用いて採取した。
2.調査概要
3.調査結果
2-1 調査地
3-1 泥炭層の物理的性質と Wn/Li
調査地は、北海道美唄市内に位置する無置土耕地、
泥炭層の深さ方向の自然含水比(Wn)、強熱減量(Li)
強熱減量 Li (%)
自然含水比 Wn (%)
深 さ (cm)
200 400
600 800 1000
20
40
Wn/Li
2
60 80 100
0
0
0
20
20
20
40
40
40
60
60
60
80
80
80
100
100
100
未墾地
無置土耕地
4
6
8
10
12
置土耕地
図-1 深さ方向の自然含水比 Wn、強熱減量 Li、Wn/Li
寒地土木研究所月報 №645 2007年2月
55
および自然含水比と強熱減量の比
(Wn/Li)を、図-1
に示す。泥炭層の自然含水比は、未墾地、無置土耕地、
18
置土耕地の順に高く、また、無置土耕地と置土耕地は
未墾 1層
16
未墾 2層
れて自然含水比が低い。強熱減量は未墾地と無置土耕
14
未墾 3層
地では73 ∼ 97%と高いが、置土耕地の表層付近の泥
12
炭層は置土(鉱質土)
が混入しており66%とやや低くな
っている。
Wn/Li は、未墾地では深さ方向の変動が小さいが、
間隙比 e
耕地化による排水改良などの影響で表層に近づくにつ
6
浅では深部よりも低くなっている。Wn/Li は泥炭の
4
などに用いられるが、深さ方向の
2
Wn/Li の変化は未墾地と耕地で傾向が異なり、耕地
1
では圧縮、収縮の影響があらわれている。
3-2 深さ方向の圧縮性
未墾地と無置土耕地の層位別試料による圧密試験
無置土 3層
8
よる圧縮や鉱質土の混入などによって、深さ約50㎝以
圧縮履歴の推定
無置土 2層
10
無置土耕地は排水改良、置土耕地は排水改良と置土に
4)
無置土 1層
10
100
1000
2
圧密圧力 P (kN/m )
図-2 未墾地と無置土耕地の e-logP 関係
(段階載荷)で求めた e−logP 関係を、図-2に示す。
なお未墾地、無置土耕地ともに、最表層には置土や鉱
2
圧密降伏応力 Pc (kN/m )
質土は存在していない。
0
無置土耕地の泥炭層は排水改良や農作業の履歴を受
(深さ0∼ 13㎝)
、第2層(13 ∼ 25㎝)、第
け、第1層
3層(25 ∼ 65㎝)の順に間隙比が低く、また e-logP 曲
(20
さ10 ∼ 20㎝)で間隙比がやや低いものの、第2層
∼ 60㎝)
と第3層
(60 ∼ 95㎝)の間隙比はかなり高く、
e-logP 曲線は無置土耕地よりも上方に位置し、高圧縮
性である。未墾地と耕地の泥炭層を比較すると、とく
に、浅層部での圧縮性の差異が大きくなっている。
泥炭層の深さ方向の圧密降伏応力(Pc)を図-3に
示す。層位毎の圧密降伏応力は e−logP 曲線より求め
たものであり、耕地の泥炭の e−logP 曲線からは比較
深 さ (cm)
一方、未墾地は常時の地下水位よりも上の第1層(深
20
30
40
50
20
線は深さ方向の層位順に低圧縮性から高圧縮性へと遷
移している。
10
0
40
60
未墾地
80
無置土耕地
置土耕地
100
図-3 深さ方向の圧密降伏応力 Pc
的明瞭に圧密降伏応力を算定することができた。
未墾地、無置土耕地、置土耕地の圧密降伏応力を比
較すると、未墾地よりも無置土耕地、置土耕地のほう
少し5)、圧縮や収縮が進んでいるためであろう。
が高く、とくに表層付近の差が大きい。耕地では深部
に比べ浅部において高い圧密降伏応力を示す特徴がみ
3-3 圧密降伏応力と Wn/Li
られる。このように耕地の泥炭層は、深部に比べ浅部
図-4には、圧密降伏応力と Wn/Li の関係を示し
において過圧密領域の範囲が拡大している。これは、
た。圧密降伏応力と Wn/Li には相関関係が認められ
耕地化して長年経過した泥炭地の浅部は、排水改良や
る。耕地の泥炭については、Wn/Li から圧密降伏応
置土
(客土)
による荷重増加、農作業の履歴、鉱質土の
力を推定できることが示唆される。
混入や分解の影響などで泥炭の繊維構造間の間隙が縮
なお、泥炭の沈下特性については構成植物の種類に
56
寒地土木研究所月報 №645 2007年2月
(独)北海道農業研究
今回の調査を進めるにあたり、
12
Wn /Li
10
8
未墾地
センター寒地温暖化研究チームの永田修氏、同センタ
無置土耕地
ー美唄分室の小見山松夫氏をはじめとする各位には、
置土耕地
現地調査において多大のご協力を頂戴した。試料の採
取では、国土交通省北海道開発局札幌開発建設部の中
6
川靖起氏、栗田啓太郎氏、当研究所資源保全チームの
4
を表します。
石田哲也氏のご協力を得た。末筆ながら深甚なる謝意
2
0
10
20
30
40
参考文献
50
2
圧密降伏応力 Pc (kN/m )
1)梅田安治・長沢徹明:泥炭地水田のホ場整備、農
業土木学会誌、45、pp.845-848.(1977)
図-4 圧密降伏応力 Pc と Wn/Li
2)小野寺康浩・小野学・白戸利克・佐竹達也:埋木
除去後の泥炭農地の地耐力と圧縮性、北海道開発
6)
よっても変化することが報告されている 。長年を経
土木研究所月報、No.634、pp.27-32.(2006)
過した農耕地の泥炭層の圧縮性と構成植物との関係に
3)石渡輝夫・沖田良隆・斉藤万之助:耕地化後の泥
ついては今後の課題である。
炭 層 の 物 理 性 と 組 織 構 造、 ペ ド ロ ジ ス ト、
Vol.43、No.1、pp.2-6.(1999)
4)宮川勇:泥炭の土質工学的調査研究 第3報 石狩
4.おわりに
泥炭の一般的物理性について、土木試験所報告、
無置土耕地、置土耕地の泥炭層は深さ方向に圧縮性
が変化しており、表層に近いほど圧縮性が低い傾向が
No.20、pp.63-88.(1958)
5)小野寺康浩・相馬尅之:飽和含水比による農地泥
認められた。
炭の物理的性質の推定、農業土木学会北海道支部
耕地化され長年を経過した泥炭地の浅部は、排水、
研究発表会講演集、53、pp.206-209.(2004)
置土
(客土)、農作業の履歴などを経て、圧縮や収縮が
6)神谷光彦・梅田安治:泥炭の構成植物と沈下特性、
進み、未墾地に比べ圧縮し難くなっている。農耕地に
高有機質土に関するシンポジウム発表論文集、土
おける泥炭の力学的性質の評価では、農耕地特有の性
質工学会(現 : 地盤工学会)高有機質土の力学的
状変化を受けている泥炭層浅部の調査が重要となる場
性 質 お よ び 試 験 方 法 に 関 す る 研 究 委 員 会、
合もあろう。
pp.5-10.(1989)
小野寺 康浩*
寒地土木研究所
寒地農業基盤研究グループ
水利基盤チーム
主任研究員
寒地土木研究所月報 №645 2007年2月
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