伊藤 正裕* SOA 技術を実装した (Masahiro Ito) データセントリックソリューション 大江 信宏* (Nobuhiro Ohe) 山永 康昌* Data-Centric Solution with SOA Technology (Yasumasa Yamanaga) 要 旨 企業の IT 投資において、個々の情報システムの部分最 る SOA(Service Oriented Architecture)技術を実装した。 適化から情報システム全体の最適化を目指すための IT マ SOA はより柔軟で、変化に強い情報システムを構築す ネジメントフレームワークに EA(Enterprise Architecture)が るための設計手法である。たとえば、情報システムを“注 あり、EA においては4つのアーキテクチャ(ビジネス、 文受付”、“在庫照会”、“出荷指示”などの比較的大き データ、アプリケーション、テクノロジー)が定義されて な機能の単位(サービス)の集まりとしてとらえ、これら いる。三菱電機インフォメーションテクノロジー㈱(MDIT) のサービスを、標準化されたメッセージ交換手順で、互い は、EA の中で企業の情報資産の核であり将来にわたって に連携させることができる。どう連携させるかは、サービ 重要となる“データ”に注目し、データを中心としてビジ スの外側の仕組みで実現できる。この SOA の考え方、技 ネスの変化に対応し、企業内データの柔軟な利活用と適切 術をデータセントリックソリューションに実装することで、 な管理ができるソリューションとして、データセントリッ バッチ的なデータの連携だけでなく、リアルタイムの連携 クソリューションを提供している。 を可能とした。これにより、レガシーアプリケーション資 このデータセントリックソリューションをさらに強化 産をリアルタイムに活用できるシステムのフレームワーク するため、ビジネス環境の変化に伴ったビジネスプロセス として、データセントリックソリューションはさらに進化 の変更や拡張を、迅速に行うためのシステム設計手法であ していく。 方法論、実現手段 ビジネス アーキテクチャ データ アーキテクチャ アプリケーション アーキテクチャ テクノロジー アーキテクチャ BPM BPM 連携 データセントリックソリューション 連携 データ保護 SOA SOA データ統合 データ活用 分析 データ交換 データセントリック ソリューション EA(エンタープライズ・ アーキテクチャ) データ保存 データ監視 データ破棄 SOA BPM: Business Process Management SOA: Service Oriented Architecture データセントリックソリューション MDIT は、エンタープライズアーキテクチャのデータアーキテクチャ層に着目してソリューションを提供している。 データセントリックソリューションは、BPM 及び SOA への連携を行っていく。 * 三菱電機インフォメーションテクノロジー(株) 1 1.ま え が き MDIT は、大量データの高速分析技術やデータ統合技術 などをもとに、企業に蓄積されたデータを中心とした連 (2)疎なサービス結合によりシステム変更が容易 (3)異機種間のシステム結合が容易 携・統合・活用を効果的に実現するソリューション群“デ これらによりビジネス環境の変化に伴いビジネスプロセ ータセントリックソリューション”を提供している。今回、 スを迅速に変更あるいは拡張することが可能となる。 このソリューションをさらに強化するため、ビジネス環境 3.2 サービスの粒度 の変化に伴いビジネスプロセスを迅速に変更あるいは拡 張するための設計手法である SOA 技術を実装した。 SOA によるシステム構築を成功させるためにはサービ スの粒度をどの程度の大きさとするかがキーポイントで 本稿では、企業情報システムがおかれている状況、SOA ある。サービスの粒度は、一般に在庫照会サービスや出荷 を支える技術、そして SOA 技術を実装したデータセント 指示サービスのようにビジネスプロセスレベルの粒度に リックソリューションの具体的な内容、特長、事例につい すべきである。これによりビジネスプロセス内の変更があ て述べる。 っても他のサービスへの影響が避けられる。 3.3 SOA を支えるソフトウェア技術 2.背 景 SOA のソフトウェア技術は主に、“分散化”、“疎結合”、 企業の情報システムは、部門内の最適化から、企業全体 “標準的なインタフェース”である。従来の分散化技術や におよぶ経営と一体化した最適化が必要な時代となって EAI(Enterprise Application Integration)によるシステ きている。ますます変化が激しくなる経営環境に対応する ム連携との違いは、標準インタフェースかつ非同期疎結合 ためには、販売・生産・購買・経理など個々の情報システ である。非同期疎結合は、耐障害性向上やシステム連携の ムは、それぞれの部門内の業務効率化だけでなく、企業活 柔軟性を向上させることが可能である。 動全体にわたり最適化され、俊敏で柔軟な企業活動を支え “分散化”、 “疎結合”、 “標準的なインタフェース”を実 るものでなくてはならない。また、バブル崩壊後、ITは企 現する技術としては、Web サービス、JMS(Java(注1) 業戦略の武器であることに変わりはないがROI(Return Message Service ) 及 び XML ( eXtensible Markup On Investments)に対する要求は厳しくなってきている。 Language)がある。これらメッセージ連携と業務システ この為にROIを最大とするためにEAという考え方が導入 ムとの接続には、アダプタが使用される。アダプタは、一 され、現状の“As isモデル”を“To beモデル”へ近づけ 般的に HTTP(Hyper Text Transfer Protocol)、FTP(File る努力がされつつある。このギャップを早期にかつ低コス Transfer Protocol)、SMTP/POP3(Simple Mail Transfer トで“To be モデル”へ導入するシステム設計手法として Protocol/ Post Office Protocol Version 3)、JCA(J2EE(注 SOAが注目されている。 1) Connector Architecture )、 や RDB ( Relational DataBase)入出力などがある(図1)。 3.SOA を支える技術 SOA は、数年前から提唱されてきたシステム設計手法 であるが、近年、EA や変化が激しくなる経営環境に対応 する設計手法として急速に注目が高まっている。SOA と 注文入力 注文受付 システム は、ある程度の大きさの業務アプリケーション機能を“サ 在庫照会 システム 出荷指示 システム ービス”と言われる部品として切り出し、これら部品を組 み合わせてシステムを構築する設計手法である。SOA の 注文 伝票 在庫 確認 注文 伝票 在庫 確認 出荷 情報 出荷 情報 厳密な定義は存在しないが、一般的には、業務システムを “粒度の大きなサービスとして構築”し、これらを“標準 SOA(Service Oriented Architecture)によるメッセージ連携 的なインタフェース”によって“疎結合”で結合してシス テム構築するものである。以下に、SOA のメリット、SOA XML形式のデータ文書 を支える技術を説明する。 SOAメッセージバスと各システムとのインタフェース(JMS、Webサービス) 3.1 SOA のメリット システムを SOA コンセプトで構築することのメリット 図1.SOA 概念図 は、以下の 3 つが考えられる。 (1)サービス再利用や既存資産の流用によるコスト削減 (注1)Java、J2EE は、米国及びその他の国における米国 Sun Microsystems,Inc.の登録商標である。 2 4.中小規模システム向けデータセントリック ソリューションを実現する SOA 技術とその応用 では、データ連携・統合ツール DH の SOA 対応を行っ ていく予定である。 社外 社内 MDIT は、膨大な IT コストをかけないで既存の情報シ 基幹業務システム 外部サービス ステムを活かしながら情報システムの全体最適化を図る 販売管理 経理・給与 生産管理 購買管理 与信照会 ソリューション製品を提供している。MDIT が提供するデ DB DB DB DB ータセントリックソリューションは、データを中心とした 連携・統合・活用を効果的に実現するソリューション群で、 SOA(Service Oriented Architecture)によるメッセージ連携 既存情報資産を有効活用し、少ないリスクでデータ連携・ インターネットEDI (Electronic Data Interchange) 統合などが行える。このソリューションに SOA 技術を取 取引先 り入れることで、既存の情報システムを活かしながら情報 EDI システムの全体最適化を図ることがさらに容易となる。 4.1 データセントリックソリューションにおける SOA 技術 中小規模システム向けデータセントリックソリューシ Mail HTTP FTP etc データ交換 データ連携・統合 BizOrder(注1) DH データセントリックソリューション SOAによる連携 データ連携・統合・活用 図2.データセントリックソリューションにおける SOA 4.2 データ交換ソリューション ョンでのシステム連携・統合には二つの手段があり、連 データ交換ソリューション BizOrder(注2)は、SOA を 携・統合するシステムに応じて選択することができる(図 ベースとした MDIT の最初のパッケージ製品である。社 2)。 内外との連携インタフェースとして電子メール、FTP、フ (1) メッセージによる連携 ァイル入出力をサポートし、処理可能なファイル形式は、 中小規模システム向けデータセントリックソリューシ Excel(注3)、XML、CSV(Comma Separated Values)、 ョンにおける SOA のメッセージングは JMS を採用し 固定長テキストファイルなどを有する。BizOrder は送受 た。社内のシステム連携においては、JMS が適してお 信先の相手をメールアドレス、FTP での相手先アドレス り、社外との連携では、Web サービスが適している。 などの目印により自動判別する。データ受信機能では相手 JMS は、Queue にトランザクションデータを詰め込ん 先のデータ形式を統一されたデータフォーマットへ変換 で次の Queue へデータを送りワークフローを形成する。 し、データ送信機能では送信先別に相手先の要求する形式 これら Queue を管理する為の仕組みが提供されており、 に変換してデータ送信する機能を、プログラミングするこ 送信元または送信先がダウンした場合にも蓄積された となく実現している。データにエラーがあった場合、管理 Queue 情報を復元して処理を続行することが可能で、 者へエラーをメール通知する機能などのデータ交換処理 このため基幹システムとして使うことへの信頼性が高 フローは、テンプレートとして提供している。SOA をベ い。また、JMS では Point to Point と呼ばれる2点間 ースとしているため、導入するシステムに応じて、処理の の通信と Publish Subscribe と呼ばれる1対多の通信を 流れのカスタマイズや新規開発を容易としている。 可能とする。これら機能によりより柔軟なシステム構築 を実現する。 (2) データ連携・統合 メッセージベースの Web サービスや JMS は、リアル BizOrder の適用システムとしては以下のものがある。 (1)インターネット受発注システム 電子受発注は業界毎に標準化が進みつつあるが、現時 点では、各社独自フォーマットによる電子商取引が多い。 タイム性のある少量データの交換には向くが、データを 流通・卸業では、上流(メーカ)と下流(小売)の間で、 XML 化することによるオーバヘッド、データ量の増大 受発注データの集まるハブの役割を担っており、これら によるネットワークトラフィックの増大により大量デ 取引先毎に異なるデータ送受信方法や様々なフォーマ ータ処理には向かない。また、レガシーシステム等、 ットに対応する必要がある。BizOrder における入出力 SOA によるメッセージ連携のバスへデータを流す為の インタフェース及び多様なファイル形式、自動フォーマ インタフェース開発にコストがかかり困難な場合には、 ット変換機能により、電子メール、FTP などインター DB(DataBase)間でのデータ転送に優位性がある。一 ネットを活用した受発注システムのフロントエンド処 般 に は こ の DB 間 で の デ ー タ 転 送 機 能 は ETL 理に活用できる(図3)。 (Extract/Transform/Load)と呼ばれる。DB 連携を (2)情報収集 SOA のメッセージ連携から呼び出すことで、大量デー 社外販売拠点から報告される販売計画・需要予測、生産 タの連携を SOA のビジネスワークフローの中に入れる 委託先拠点から報告される生産・出荷情報など、データ ことが可能となる。データセントリックソリューション フォーマットの一元化が困難なデータを収集するため (注2)BizOrder は、三菱電機インフォメーションテクノロジー(株)の登録商標である。 (注3)Excel、Microsoft.NET は、米国 Microsoft Corporation の米国及びその他の国における登録商標である。 3 のフロントエンド処理に活用できる。これら、電子受発 新規に作成されるアプリケーションシステムを SOA 対応 注以外の電子データは、表形式以外の複雑なデータ構造 にすることができ、Entrance の既存の実績があるアプリ を持つものが多いため、BizOrder のフォーマット変換 ケーション資産を活かしながら、ネットワークベースのア 機能により、DB へ格納できる形式へも変換することが プリケーション実行フレームワークである 可能である。 Microsoft.NET(注3)システムや、J2EE(Java 2 Enterprise Edition)といった異機種との連携、外部とのシステム連 (3)社内システム連携 販売管理システムと在庫管理システム、資材発注システ 携を SOAP(Simple Object Access Protocol)を使って連 ムなどの連携システムとして活用できる。 携することが可能となった(図5)。これにより、Entrance システムをオープンシステムと混在して、安心して運用し 発注書(フォーマットA) 001、8/7、PEN001、1 002、8/7、BOL001、1 003、8/7、ABC002、2 004、8/7、NNN004、1 005、8/7、ZZZ001、1 BizOrder 発注書 (統一フォーマット) zデータ交換機能 zデータ交換機能 (自動フォーマット変換) (自動フォーマット変換) 取引先A社 取引先A社 発注書(フォーマットB) 取引先B社 取引先B社 FTP インター ネット 8/7、PEN001、1 8/7、BOL001、2 8/7、ABC002、1 8/7、NNN004、1 8/7、ZZZ001、1 zデータ制御機能 zデータ制御機能 (フロー制御テンプレート) (フロー制御テンプレート) 社内 社内 8/7、PEN001、1 8/7、BOL001、2 8/7、ABC002、1 8/7、NNN004、1 8/7、ZZZ001、1 z管理機能 z管理機能 z各種入出力インタフェース z各種入出力インタフェース .NET システム z各種ファイル形式の入出力 z各種ファイル形式の入出力 販売管理 発注書(フォーマットC) 001、PEN001、1 、8/7 002、BOL001、1 、8/7 003、ABC002、1 、8/7 004、NNN004、1 、8/7 005、ZZZ001、1 、8/7 続けることができる。 SOAP/HTTP SOAP/HTTP SOAP/HTTP 業務 パッケージ システム SOAP/HTTP SOA(Service Oriented Architecture)によるメッセージ連携 エラー通知 SOAP/HTTP 社外 社外 取引先C社 取引先C社 取引先 Web サービス システム 図3.BizOrder 受発注システムイメージ 4.3 Entrance Entrance SOA対応 対応 SOA SOA対応 J2EE システム データ統合・分析ソリューション SOAによる各システムとのインタフェース SOA のリアルタイム性がなじまない大量データの交換 図5.Entrance の SOA 対応 や、既存システムをそのまま活用したいというレガシーシ 5.む す び ステムの連携を、DB 連携にて実現する場合の手段として、 “データ統合ソリューションの SOA 化”を実現した。 SOA 技術を実装した中小規模システム向けのデータセ 具体的には、SOA によるメッセージ連携のインタフェ ントリックソリューションについて紹介した。今後も、企 ースで、このデータ統合ソリューションを呼び出し、DB 業情報システムに対する経営サイドからの要求や、現行の 間をデータ連携させている(図4)。 情報システムが抱えている様々な課題を解決して、お客様 企業情報システムがさらに発展を遂げられるよう、製品群 レガシーシステム 請求データ作成 システム 請求書発行指示 請求 指示 請求 指示 経理 システム 請求書印刷 システム 請求書 発行 指示 請求データ の提供だけでなくコンサルテーションやサポートサービ スなども充実させていく所存である。 請求書 データ統合ソリューション 参 考 文 献 (1) 石川雅朗ほか:データ経営を効率的に実現するデータセ SOA(Service Oriented Architecture)によるメッセージ連携 ントリックソリューション,三菱電機技報,79,No.4, 263~266(2005) データ統合のSOA対応 XML形式のデータ文書 SOAによるメッセージバスと各システムとのインタフェース 図4.データ統合の SOA 対応 (2) David A. Chappell:Enterprise Service Bus,O’REILLY (2004) (3) 日経コンピュータ・日経ITプロフェッショナル特別編 集版“EA策定ガイドライン”,日経 BP 社(2003) (4) 黒澤基博:データ中心のエンタープライズアーキテクチ 4.4 Entrance(注4)の SOA 対応 ャ,オーム社 (2004) “ソリューションサーバ Entrance DS シリーズ”で は、高生産性言語プログレスⅡにて作成されるアプリケー ションシステムやジョブを SOA 化する接続機構を実現し た。これにより既に稼働中のアプリケーションシステムや (注4)Entrance は、三菱電機(株)の登録商標である。 4
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