日消外会誌 1 9 ( 1 ) 1 8 6 ∼ 9 0 , 1 9 8 6 年 卒後教育 セ ミナ ー3 非定型的肝切除の基本手技 と偶発症へ の対応 (いわゆる系統的亜区域切除手技) 国立がんセンター病院外科 長谷川 博 山 崎 晋 幕 内 雅 敏 TECHNIQUES OF SYSTEMATIC SUBSEGMENTECTOMY Hiroshi HASEGAWA,Susumu YAMAZAKI and Masatoshi MAKUUCHI Hepatosurgett Divislon,National Cancer Center Hospital 索引用語 :肝の系統的亜区域切除,偶 発症への対策,オ キンセル綿 まえが き 本稿 の テ ーマであ る非定型的肝切 除 と云 う意味 は, 昭和 6 0 年 7 月 の 日本消化器外科学会 第 7 回 卒後教育 セ ミナ ーでの 5 つ の テ ー マを決 め るに際 して, 定 型的肝 切除 に対す る対 称的 なテ ーマ として命名 された もので あ る。す なわ ち, 定 型的 な肝切 除 とは, 肝 癌研究会 で 4 領 域 を単位 とし 1の 切除 は,肝 の小範囲切除 の中 で,ブ レイ ン ・ス S‐ トー ミング的な応用問題 として最 も興味深 い もので あ り,稿初 に出て くる ことに意義な しとしない。したが っ 1か ら始め 8(右前上区)か ら始 めず に S‐ て,あ えて S‐ ることとした, 1の 系統 的切 除 (特に腫瘍 の 場 1.Couinaudの S‐ 以前 か ら定 め られ てい る P A M L の 合) た切除を意味 し, 非 定型的 な肝切除 とは, 定 型的切除 ー 以外 の肝切除を意味す る とい うこ とで教 育 セ ミナ の 分担 が決定 した もので あ る。 したが って本稿 では, い わゆ る系統的亜 区域切 除, つ ま りC o u i n a u d の云 う I S‐ 1と は,い わゆ る尾状葉であ り,肝 外科 として は 1)が 「 の 陽 当た らない場所」であ った。し か し,著 者 ら 胆道癌 の手術 に際 して尾状葉枝の重要性を恐 らく世界 で初めて手術映画に よって指摘 し,二 村 ら分がわれわ か らⅥ‖までの区域 の系統 的切除法 と C o u i n a u d の 区域 に満 た な い 小 さな領域 の 系統 的切 除 法 に つ い て 述 べ れを積極的 に支持 して多 くの症例 を示 され るよ うに 陽 が当 り」始めてい なって以来,胆 道外科 の面では 「 る。 一 なお, 基 本手技 と偶発症 とを 応別章 としたが, 部 分的 には密接 不可 分 の所 が あ るので多少 の重複 を免 が れ な い点 を予 めお断 りしてお きた い。 I , い わゆ る系統 的亜 区域切 除 C o u i n a u d の命 名 した順序 に した が って述 べ る。 な お, C o u i n a u d の 原 著 の 数字 は 時計文 字 の I か らⅧ で あ るが, わ が 国 で 今後 どの よ うに肝 の 区域 を命名 して ゆ くかは定 まって い な い。 そ こで 本稿 で は差 当 り, 普 8の ご 1,S‐ 通 の 算用 数字 を s 鋼コ e n t の S の あ とに S ‐ い つ こととした る 。 とく けて表現す る。また,CTの 発達普及 に伴 い,尾 状葉 が下大静脈を 陽 囲んでいることか ら,いやお うな しに CTの 面 で も「 が当 り」始 め,尾 状葉原発 の腫瘍や転移性 の腫場 の診 断 も容易 につ くようになった。 また超音波診断で も, 尾状葉 の画像 は極めて容易に体外か らとらえられ るよ うになった。 しか し尾状葉の切除 は,胆 道癌 での切除にせ よ,該 部 に発生 した原発性肝癌 での切 除 にせ よ容易でない。 その主な理 由は,① この区域 の位置 が他 の肝区域 と全 く異な り,門 脈本幹 ないし左右枝 の背側 にある こと, 8 ま で順 に述 べ て ゆ くと, S ‐1 の 切 また, S ‐1 か ら S ‐ つまり下大静脈と門脈との間に決 まれていること,② 下大静脈前面に広い範囲にわたり密着 しており,そ の 除 とい う困難 な問題 が 冒頭 に くる こ とにな る. しか し, 短肝静脈 は尾側 に左右 各 1 ∼ 2 本 , 頭 側 に意外 と太 い ※第 7回 卒後教育 セ ミナ ー ・肝切除 の諸問題 <1985年 10月 9日 受理>別 刷請求先 !長 谷川 博 立 がん セ ンター外 〒104 中 央 区築地 5-1-1 国 科 ( 3 ∼ 5 ミ リの直径 の) もの 1 本 が あ り, そ の切断 を誤 ると大出血する。③ この部に肝癌などの腫瘍 がある と, 摘出ルー トとして, a ) J ヽ網を切開して摘出, b ) 右 葉を次 に述 べ るよ うに超授動 して摘出, c ) 肝 左葉 1986年1月 (LM 2区 域)の儀牲的合併切除を しつつ摘出, と云 っ た方法 が臨機応変に応用 されなければならないか らで ある。 要約すれば,大 きな s‐ 1の 腫瘍の場合,次の手llkで 安 全性の高 い切除がで きる.①極めて大 きな開創 つ ま り, 胸骨全切開 と上正 中切開に加 えて,右 高位横切開 (後 腋寓線まで)を行 う.② 開心嚢で IVCに Vesse100p, 腎静脈直上で IVCに Vesse100pを かける。状況 によ リシャン トチュープをおく。③肝右葉の 「 超脱転」を 行 う。すなわち,肝 右葉 と右副腎 とを分け,短 肝静脈 のすべての枝を尾側→頭側に順次に結紫離断する。さ らにIVCの 左側壁に入る短肝静脈までも,可能な限 り 離断する。こ れらの操作はすべて,右 葉のウラで,右 か ら,下 か ら行 う。④左右尾状葉 の峡部 (IVCの 正中 線 の ラインにある薄い肝実質)を 切 り離 し,両 側 の切 断面の止血を完全に行 う。⑤門脈左枝 か ら尾状葉 に入 る枝をすべて切断す る。こ の④ と⑤ の操作によ り,今 まで肝全体 と (あたか も一枚岩の ごとく)一 塊 であっ た S-1に 急 に可動性が生ず る。以上が基本手技であ り, 以後は症例 ご とに対応す る. なお,S‐ 1の 切除に際 して,太 い糸針を肝実質 に数本 か け, この糸を東ねて操 ると操作 が容易 となる。 2.S‐1の 合併切除 左葉 (L,Mな ど)の 肝細胞癌 に際 しては,門 脈内腫 瘍塞栓 (以下門脈 TTと 略)が 潜在性に S‐ 1に 搬布 さ れている可能性 があ り,状 況次第で S‐ 1の 合併切除を 行 うべ きである。さもない と,術 後 に集中豪雨的に S― 1に 多発性の転移が証朔 されることがある。 87(87) が あ る場合 に も左外側 区を一 括切除す るのが原則 で は あ るが,肝 硬 変 を考慮 す る とこの理 想 な い し原 則 は 往 々に して実行不可能 で あ る。 S,4だ けの全切 除 は,門 脈 左枝勝部 か ら出 る門脈枝 と動脈枝 を離 断すれ ば よいが, この 区域 の胆管 の左肝 管 へ の 合 流 の仕 方 に は個 人 差 が 多 いの で 注 意 を要 す る。す なわ ち S‐ 2,3,4の 胆管 の合流点 が症例 ご とに微 妙 に異 なる。 また 門脈校 とは 門脈賄部 の間近 では併走 せ ず,や や離れ る とグ氏鞘 の結 合織 の 中 で胆管 ・ 動脈 ・ 門脈 が三つ組 とな ってい る。こ の基本構造 な らびに個 人差 は術 中超音波 で よ く観察 で きる。 なお,S,4の 脈管 構造 は上下 に 2分 され る と考 える (区別 して切除 な い し保 存 す る)方 が よい。す なわ ち, 正 面 か らみ た普 通 の血 管 造 影 で よ く見 え る S-4の 枝 は,画面 の 中を横走 な い し斜走す るので判 りやす いが, この枝 は下半 分 の枝 にす ぎな い。上半分 に向 う枝 は正 面 の血 管造影 では切線方 向に走 るため に見 えないが, その数 は多 く, この領域 は術 中超音波観察 で意外 と広 い こ とが よ く半」る。 したが って s_4の 肝実質 を上 下 に分 けて系統 的 に切 除す る こ とは容 易 で あ り,腫 場 の位 置,門 脈 TT,円 脈 枝 内 の血 流方 向 (A‐ Pシ ャン ト)を 術 中超音波で確認 しつつ 正確 に系統 的 に部 分的切 除 な い し保存 をす べ き で あ る。 なおS‐ 4の肝静脈血の流れには次のような3系統が あり,これを熟知してお くと出血も少ない。 4の下 ① S‐ の 半分 中心部と鎌状間膜寄りの部分の血液は,,直接に 左肝静脈に注ぐ,② 上半分の区域のほぼすべては,中 3.S‐2,S‐ 3の 切除 このいずれかに肝痛 があれば,門 脈 TTを 考慮 して 左外側区切除を行 うのが原則である。 しか し,肝 前縁 に近 い S-3の腫瘍で門脈 TTの 無 い場合,お よび A,P シャン トによる門脈血の逆流がない ことが術中超音波 肝静脈 (IVC寄 り)に ひとまず流入 したのち,結 局 は 左肝静脈 に流入す る。③ S‐ 4の 肝縁附近の領域 は,1本 によ り確認 された場合には,肝 硬変 による機能低下を 2,S‐ 考慮 して S‐ 3い づれかを保存す る術式 が許容 され る。この際 には実質離断中に腫瘍 が露 出して TWゼ ロ ミリになるか,な りかかることが往 々に してある。そ 5。S‐ 5の 切除 この領域 の意外 な特長 は, この領域 が小 さい と云 う ことであ り,肝 右葉 の前縁にも達 しない ことがある。 つ ま り,胆 の う床 の右外側の臓側面 はすべ て S‐ 6の 領 の際 には,裏 か ら (左葉の臓側 面 か ら)改 めて装膜を 切 り実質を割 るとTWを 広 く保つ ことがで きる。 4.S_4の 切除,特 にその部分的系統切除 にまとまって中肝静脈末浦 (肝縁寄 り)に 注 ぐ。 した が って,中 肝静脈 の S‐ 4か ら来 る枝 とS-6か ら来 る枝 の合流部 はカイゼル ひげ,ない しは人の字 の形 となる。 域 とい うこともしば しばある。 また S‐ 5の 門脈校 には 左外側 区に腫 瘍 が あ る場合 には 門脈 TTや 腫瘍部 分での A―Pシ ャン トに よる癌細胞 の左内側 区へ の潜 個人差が強 く,太 い もの 1本 の こともあるが, 2-3 本あって, しか も一部 が S‐ 8の 枝 か ら来ていることも ある.房Jの表現をすれば,S5の 領域に来ている門脈 の 枝 は,その技分かれ,ないしはル ー ツが S_8領域 で も構 在的撒布を考慮 して,い わゆる左 2区 域を切除す るの が理想的である.そ の逆 の場合つ ま り左内側区に肝癌 わない ことになる。さ らに云えば S‐ 8と の境界 は本質 的 に不明瞭である。 88(88) 非定型的肝切除の基本手技 と偶発症への対応 S‐ 5切 除の最大 の問題点 は,S-6か ら来 る drainage 5の 肝実質 内を通 る場 veinとして太 い中肝静脈 が S‐ 大部分 の症例 6の drainage veinは 合 であ る。こ の S‐ で予想以上に大 く,ま た胆の う床 の直下 (ゼロ ミリと いって もよいほ どの浅層)を 走 る。 したが って,術 中 超音波検査 で右下肝静脈 の存否,相対的 な太 さを知 り, 可及的 に保存す る。 6.S-6の 切除,特 に部分的 な系統的切除 この領域 は Couinaudの 8つ の区域 の中で S-8の と 7と の境界 が明瞭 なもの 並 んで最大 の区域 であるが S‐ がない。そ こでわれわれは,国 立がんセンター放射線 診断部 の提唱りに よ り,血 管造影上 ほぼ水平 に走 る後 日消外会誌 19巻 1号 従来 この区域 の切除 は下大静脈間近 で手術 の視野 も 悪 い ことか ら,非常 に困難視 されて来た。しか しCTで は診断が容易であ り,術 中超音波検査 で右肝静脈,右 下肝静脈 に関す る情報 を得 る こと も容易 となった今 日, さほ ど困難 な手術ではな くなった。すなわち,著 者 の開発 した胸骨下半分 タテ害Jり (非開胸)を 上正中 切開 の延長 として加 え,横隔膜 の緊張部を切開す ると, 右肝静脈 の IVCへ の流入部 が手術関係者 (複数)の 視 野 によく入るよ うになる。 これ と同時に高位横切開を 右腋寓線 まで加 え,術 者 と前立ちが脱転 した右葉を in my handに 取 り扱 える状態 にす ると,い わゆる裸区に 対す る超音波観察,超 音波 ガイ ド下 の穿刺 が,他 区域 区域 の動脈枝 を 6の コメ と呼称 している。 この コメ印 の枝 よ りも早 く分岐す る太 い枝 は通常 2本 あ り,肝 門 に近い方で分岐す る枝は肝右美前縁を支配 し,や や末 と同様 に容易にで きるよ うになる。 肝実質切除 の具体的 目標 としては,右肝静脈 を5∼10 cm余 にわた って露 出す るよ うな肝切除を行 うこ とで 補 の枝 は右葉 の裸区の尾側半分を支配 している。こ れ 6の 亜区域 は,そ れぞれ の実質 が100gを越す ほ らの S‐ ある。 6の 7の 区域切除 の範囲を決め るに は,前 述 の S‐ S‐ コメ印を術中超音波 で確認 し,S‐8と の境界 を同 じく ど大 きく,各 亜区域 の部分的系統的切除 は,ア ップル パ イ半分を 3等 分す るよ うな形で容易 に行い うる。 具体的 には, これ らの主だ った 3本 に撰択的に超音 波 ガイ ド下に色素を注入 して亜区域領域を染 め出し, 分岐点 のグ氏鞘周囲に 目じるしとして濃厚な色素液を 徴量注入 して系統的に en aocに切除す る。その他 の方 法 として,肝 門右側 の臓側面 で門脈右後区域校 の走行 に見当をつ けて肝実質 を浅 く割 り,い わゆる Pポ イン トを露出す る方法がある。Pポ イン トつ ま り後区域技 6の 枝 が立て続 けに本 の根部 では,前 述 の主だ った S‐ 術中超音波,色 素 に よる染 め分けな どで確認す る。 ま た,S‐8の 末浦を S,7に少 々付けて切 除す る姿勢 で切 ー 離予定線 を肝表面 に電気 メスで マ クす る.な お,中 7の 腫瘍 によって圧排 され,変 形 している 肝静脈 が S‐ ことが多 いので確認す る。 ー 実技 的 には,右 肝 静脈 にテ プを か け,肝 門 で も Pringle法または片葉阻血 手技 で流 出,流 入路 とも遮 断すれば理想的であるが, これ らの前処置 に余 りこだ わ る必要 はない。む しろ,オ キシセル綿を上手 に使 っ 幹 か ら校分かれ してお り,亜 区域 の分岐 の原点 を肉眼 で確認 しつつ,撰 択的系統的な切除 を行 うことがで き て肝実質 か らの出血を最小限 にす る こと,あ るいは, 肝実質を切離予定線 で割 ってゆ くとき,入 念 に両サイ る。 なお,S‐6の 肝静脈系 は右肝静脈 が主体 の こ とが多 いが,右 下肝静脈 は症例 の 1害J強で よ く発達 してお り。,こ れが右後区 グ氏輸の背尾側を通 るので,症 例 に ドとも糸針による止血を行 って,創 底 に見 える右肝静 脈本幹 またはその枝を よく視察 で きるようにす る こと よってはその保存 に努 め る。肝静脈系 には側副血行が 発達 しやすい といわれているが,術 中 に観察す る限 り 側副血 行 の発達 はそれ ほ ど速やかに起 るもので はな 6の 亜区域で肝静脈系 に損傷を起 した場 い。例 えば,S‐ 合,門 脈動脈 の流入を停止 させ ると当該亜区域 は他 の 区域 と同 じ色調に戻 り,流 入血行 が再開 され ると当該 亜区域 の暗紫色 へ の変化 が直 ちに起 る。 この よ うな うっ血によるチア ノーゼは,壊 死 には到 らないが当分 の間,一 種 の肝機能障害 を人工的に作成す る こととな ろ う。 7.S‐7の 切除 が大切 である。 具体的 には,右肝静脈 の IVC流 入部近 くの肝実質を 少 しず つ割 って止血の糸針をかけてゆ き,S‐8と の境 ー 界 に付けた電気 メスの マ クとつ なげてゆ く.IVC近 くの肝実質を割 った跡 にはオキ シセル綿をつめておけ ば,出 血が完全に止 り,約 10分間放置す るとオキシセ ル綿を除 いて も乾 いた状態 となる。 れ 浅 く長 く肝実質を割 りなが ら進む と,肝 実質 の害」 日の底 に右肝静脈の特徴的な青 白い壁 が見えるよ うに なる。 ここまで進 めば,右 肝静脈本幹 に沿 って小枝を 払 い,毛 の よ うに細 い 白い索状物 まで も入念に結索す ると,右 肝静脈 が一層露出 され る。 また,右 肝静脈本 幹 には ピンホ ールか ら 1,2ミ リ長 の裂 けが 出る こ と 1986年1月 は不可避であるが, ここには 「 紙 のよ うに薄 くのば し たオキシセル綿R」 を先づ 当て,そ の上か ら小指頭大 の ものを当てて圧迫 してお く。時間が経つ とピンホール は凝血で 自然 と閉 じてお り,長 い裂けも火勢が衰 えて いるので,血 管縫合糸で容易に処理で きる. なお,S‐8と の境界を割 ってゆ く時 には掘 り込む よ うに害Jり進 んでゆ く。 この際 には先 曲 りの鉗子 で,弯 曲が直角 に近 く,曲 った先端 が短 かい ものが使 いやす い . 8。S‐ 8の 切除 この区域は Couinaudの区域の中で最大であ り,そ の全切除を行 うには,中 肝静脈の右縁沿 いに肝実質を 割 って入れば S‐ 8の 本幹に達す るので, ここで一 括結 繁 し,変 色 した領域を切除すれば よい。肝断面には右 および中肝静脈の一部おのおの数 cmが 露出す ること になる。 一方, この区域の 系統的部分切除 に際 しては, この 区域の脈管 が通常 ほぼ 4本 の立体 的な校 に分かれる関 係上,術 中超音波での詳細 な検討 が必要である.肝 腫 瘍 が大 きくて これ らの枝 が圧排変形 された り,そ れが 隣接の区域 にまで及 ぶ と,単 純 な カ リフラワーモデル 的な切除は不可能であ り,理 想的な系統的亜区域切除 に妥協が要求 される. H.非 定型的切 除時 の偶発症 への対応の 1.出 血対策 出血量を減少 させ ることが繊細 な手術および術後合 併症回避の原動力であ り,そ のため には広 い開創が推 奨 され る。IVCか らの出血は種 々の状況下に起 るが, 肝を挙上中であれば直ちに元通 りの位置 に戻 し,出 血 部 にオキシセル締を少量当てて圧迫 し,同 時 に手術台 の頭側を急角度 に下げる。 この操作 によ り,IVC壁 に 孔 があいていて も下半身の血液 は落差によ り心臓 に還 りやすい状態 となる。 オキシセル綿 は,タ ンポン的使用 とパ ッチ的な使用 を使い分けるべ きである。 タンポン的使用 の利点 は こ の綿球 が血液を吸って膨潤 した とき,組 織 の割れ 日に よ く粘着 しなかなか窯Jげ落ちない ことである。縫合止 血す るとき,米 粒 ∼小豆大 の ものを一緒に縫 い込むの も非常 に効果的である.こ の際 は乾 いた ままで も,生 理的食塩水で濡 らして丸めた もので も有効である。 一方,パ ッチ 的な使 い方 は,薄 く伸 ば したオキシセ ル綿 に血液 が滲み込んだ場合,薄さ1ミ リ前後 の 柔軟な 粘着性 のある膜に変 ることを利用す るものである。拍 動す る肝静脈壁などに この膜 が貼 りつ くと,広 さと粘 89(89) 着力 とによリパ ッチ的な役 目を果す。し か も血液だけ の薄膜 と違 って丈夫 な線維の網 の 目が支 えとなる.換 言すれば,ご く薄 いオキシセル綿を支持体 とした フィ ブ リン膜を血管壁 に外 か ら貼 りつ けることになる。 な おオキシセル ガーゼ①は厚す ぎて,粘 着 させ るパ ッチ には不適当であるが,縫 いつ けるパ ッチ としては使途 がある。 2.残 肝 の局所的循環障害へ の対策 残肝実質に濃い変色領域が現れた場合 には流入血の 途絶であ り,壊 死化を考 えて切除すべ きである。一方, 淡 い変色が明瞭 な境界 とともに現れた場合には,静 脈 還流 の障害 (うっ血)が 最 も考 えられ る。 この際 には 血液 の当該区域へ の流入を止めてみると,数 秒後 には 変色が褪色す る。つ ま りうっ血が側副血行経 由で徐 々 に drainageされ る。 この よ うな場 合 に は,該 部 を drainageしている肝静脈系が,誤 って離断ないしはシ バ リ込 まれていないかを調べ る。誤 って糸針 がかか っ ておれば, この糸を外 して,ひ とまず オキシセル綿を 当てて圧 迫 止血 す る。 この よ うな止血用 の糸 を外す処 置 は,意 外 な こ とに,肝 断面 か らの oozingを か え って 止め る こ とが 多 いので,思 い切 って試 み るべ きであ る. お わ りに 系統 的亜 区域切除 は,肝 硬変合併肝癌 例 で非癌部 の 肝切除 を最小 限 とし,直 経5cm以 下 の肝癌 において も 高率 に証明 され る門脈 内腫瘍栓 に起 因す る肝癌細胞 の 取 り残 しの可能性を最 小限 とす るキ メの細 か な手術 手 技 で あ るめ。 したが って 術 中超 音波検 査 で腫瘍 と周 囲 脈管 との相 対的位置関係 を正確 かつ 詳細 に とらえ,超 音波 ガイ ド下 に担癌 区域 の 門脈枝 内 に色素 を注入 して 当該肝 区域 の範 囲を肝表 面 で知 り,ま た カ リフラ ワー の根部 つ ま り切 断予定 の 問脈 分岐部 の グ氏輪 を濃紺 の 色素 で 予 め染 め ておいて,深部 での U turnの 目安 にす るな どの操作 が必要 で あ る。 一 方,腫 瘍学的 にみ る と,非 癌部肝組織 を可及的 に 少 な く切除 して硬 変肝 へ の負担 を軽 くす る とい う意 図 ゆ えに,腫 瘍 周囲の安全地常 的 な TWが ,肝 癌取扱 い の10ミ リには遠 く及 ばない ことが多 い。 しか し最 規約 近 の 当院 にお け る肝癌 切除 の遠 隔成績 は 3年 累績生存 率 で64%で あ り,集 学的治療 の今後 一 層 の進歩 に よっ て, さ らに遠隔成 績 の 向上 が期待 され る。 文 献 1)長 谷川博,山崎 晋 ,幕内雅敏ほか :肝管癌に対す る尾状葉の en bloc亜全切除の工夫.日 消外会誌 15: 925, 1982 90(90) 非定型的肝切除の基本手技 と偶発症への対応 和,長谷川博 ほか :肝 門部胆管癌 2)二 村雄二,早)ii直 に対す る根治的手術術式.胆と膵 5:l■ 17 15h 1984 3)高 安賢一,森山純之,村松幸男ほか :臨床放射線学 的,肝 内門脈の脈管構築 の検討 とその有用性 につ いて。経皮経肝的問脈造影を用 いた肝内門脈 の分 岐次数及 び亜区域校 の新 しい命名.日 消病会議 81 : 56--65, 1984 日消外会議 19巻 1号 t 4 ) M a k u u C h i M , H a s e g a w a 母k Hi , YS a ne 彰 The inttdor dEht hepatic vein:Ultrasomた demonstration.Radiology 148:213--217, 1983 5)山 崎 晋 ,長谷川博,幕内雅依 !細 小肝痛 の臨床病 理学的分析 と,そ れにもとづ く新 しい概念 の切除 法-27例 の検討.肝 臓 22:1714-1724,1981 6)長 谷川博 :肝切除のテクニ ックと息者管理.東京, 医学書院,1985 al:
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