非定型的肝切除の基本手技と偶発症への対応 (いわゆる系統的亜区域

日消外会誌 1 9 ( 1 ) 1 8 6 ∼ 9 0 , 1 9 8 6 年
卒後教育 セ ミナ
ー3
非定型的肝切除の基本手技 と偶発症へ の対応
(いわゆる系統的亜区域切除手技)
国立がんセンター病院外科
長谷川 博
山 崎
晋
幕 内 雅 敏
TECHNIQUES OF SYSTEMATIC SUBSEGMENTECTOMY
Hiroshi HASEGAWA,Susumu YAMAZAKI and Masatoshi MAKUUCHI
Hepatosurgett Divislon,National Cancer Center Hospital
索引用語 :肝の系統的亜区域切除,偶 発症への対策,オ キンセル綿
まえが き
本稿 の テ ーマであ る非定型的肝切 除 と云 う意味 は,
昭和 6 0 年 7 月 の 日本消化器外科学会 第 7 回 卒後教育 セ
ミナ ーでの 5 つ の テ ー マを決 め るに際 して, 定 型的肝
切除 に対す る対 称的 なテ
ーマ として命名 された もので
あ る。す なわ ち, 定 型的 な肝切 除 とは, 肝 癌研究会 で
4 領 域 を単位 とし
1の 切除 は,肝 の小範囲切除 の中 で,ブ レイ ン ・ス
S‐
トー ミング的な応用問題 として最 も興味深 い もので あ
り,稿初 に出て くる ことに意義な しとしない。したが っ
1か ら始め
8(右前上区)か ら始 めず に S‐
て,あ えて S‐
ることとした,
1の 系統 的切 除 (特に腫瘍 の 場
1.Couinaudの S‐
以前 か ら定 め られ てい る P A M L の
合)
た切除を意味 し, 非 定型的 な肝切除 とは, 定 型的切除
ー
以外 の肝切除を意味す る とい うこ とで教 育 セ ミナ の
分担 が決定 した もので あ る。 したが って本稿 では, い
わゆ る系統的亜 区域切 除, つ ま りC o u i n a u d の云 う I
S‐
1と は,い わゆ る尾状葉であ り,肝 外科 として は
1)が
「
の
陽 当た らない場所」であ った。し か し,著 者 ら
胆道癌 の手術 に際 して尾状葉枝の重要性を恐 らく世界
で初めて手術映画に よって指摘 し,二 村 ら分がわれわ
か らⅥ‖までの区域 の系統 的切除法 と C o u i n a u d の 区域
に満 た な い 小 さな領域 の 系統 的切 除 法 に つ い て 述 べ
れを積極的 に支持 して多 くの症例 を示 され るよ うに
陽 が当 り」始めてい
なって以来,胆 道外科 の面では 「
る。
一
なお, 基 本手技 と偶発症 とを 応別章 としたが, 部
分的 には密接 不可 分 の所 が あ るので多少 の重複 を免 が
れ な い点 を予 めお断 りしてお きた い。
I , い わゆ る系統 的亜 区域切 除
C o u i n a u d の命 名 した順序 に した が って述 べ る。 な
お, C o u i n a u d の 原 著 の 数字 は 時計文 字 の I か らⅧ で
あ るが, わ が 国 で 今後 どの よ うに肝 の 区域 を命名 して
ゆ くかは定 まって い な い。 そ こで 本稿 で は差 当 り, 普
8の ご
1,S‐
通 の 算用 数字 を s 鋼コ e n t の S の あ とに S ‐
い
つ
こととした
る
。
とく けて表現す
る。また,CTの 発達普及 に伴 い,尾 状葉 が下大静脈を
陽
囲んでいることか ら,いやお うな しに CTの 面 で も「
が当 り」始 め,尾 状葉原発 の腫瘍や転移性 の腫場 の診
断 も容易 につ くようになった。 また超音波診断で も,
尾状葉 の画像 は極めて容易に体外か らとらえられ るよ
うになった。
しか し尾状葉の切除 は,胆 道癌 での切除にせ よ,該
部 に発生 した原発性肝癌 での切 除 にせ よ容易でない。
その主な理 由は,① この区域 の位置 が他 の肝区域 と全
く異な り,門 脈本幹 ないし左右枝 の背側 にある こと,
8 ま で順 に述 べ て ゆ くと, S ‐1 の 切
また, S ‐1 か ら S ‐
つまり下大静脈と門脈との間に決 まれていること,②
下大静脈前面に広い範囲にわたり密着 しており,そ の
除 とい う困難 な問題 が 冒頭 に くる こ とにな る. しか し,
短肝静脈 は尾側 に左右 各 1 ∼ 2 本 , 頭 側 に意外 と太 い
※第 7回 卒後教育 セ ミナ ー ・肝切除 の諸問題
<1985年 10月 9日 受理>別 刷請求先 !長 谷川 博
立 がん セ ンター外
〒104 中 央 区築地 5-1-1 国
科
( 3 ∼ 5 ミ リの直径 の) もの 1 本 が あ り, そ の切断 を誤
ると大出血する。③ この部に肝癌などの腫瘍 がある
と, 摘出ルー トとして, a ) J ヽ網を切開して摘出, b ) 右
葉を次 に述 べ るよ うに超授動 して摘出, c ) 肝 左葉
1986年1月
(LM 2区 域)の儀牲的合併切除を しつつ摘出, と云 っ
た方法 が臨機応変に応用 されなければならないか らで
ある。
要約すれば,大 きな s‐
1の 腫瘍の場合,次の手llkで
安
全性の高 い切除がで きる.①極めて大 きな開創 つ ま り,
胸骨全切開 と上正 中切開に加 えて,右 高位横切開 (後
腋寓線まで)を行 う.② 開心嚢で IVCに Vesse100p,
腎静脈直上で IVCに Vesse100pを
かける。状況 によ
リシャン トチュープをおく。③肝右葉の 「
超脱転」を
行 う。すなわち,肝 右葉 と右副腎 とを分け,短 肝静脈
のすべての枝を尾側→頭側に順次に結紫離断する。さ
らにIVCの 左側壁に入る短肝静脈までも,可能な限 り
離断する。こ れらの操作はすべて,右 葉のウラで,右
か ら,下 か ら行 う。④左右尾状葉 の峡部 (IVCの 正中
線 の ラインにある薄い肝実質)を 切 り離 し,両 側 の切
断面の止血を完全に行 う。⑤門脈左枝 か ら尾状葉 に入
る枝をすべて切断す る。こ の④ と⑤ の操作によ り,今
まで肝全体 と (あたか も一枚岩の ごとく)一 塊 であっ
た S-1に 急 に可動性が生ず る。以上が基本手技であ り,
以後は症例 ご とに対応す る.
なお,S‐
1の 切除に際 して,太 い糸針を肝実質 に数本
か け, この糸を東ねて操 ると操作 が容易 となる。
2.S‐1の 合併切除
左葉 (L,Mな ど)の 肝細胞癌 に際 しては,門 脈内腫
瘍塞栓 (以下門脈 TTと 略)が 潜在性に S‐
1に 搬布 さ
れている可能性 があ り,状 況次第で S‐
1の 合併切除を
行 うべ きである。さもない と,術 後 に集中豪雨的に S―
1に 多発性の転移が証朔 されることがある。
87(87)
が あ る場合 に も左外側 区を一 括切除す るのが原則 で は
あ るが,肝 硬 変 を考慮 す る とこの理 想 な い し原 則 は
往 々に して実行不可能 で あ る。
S,4だ けの全切 除 は,門 脈 左枝勝部 か ら出 る門脈枝
と動脈枝 を離 断すれ ば よいが, この 区域 の胆管 の左肝
管 へ の 合 流 の仕 方 に は個 人 差 が 多 いの で 注 意 を要 す
る。す なわ ち S‐
2,3,4の 胆管 の合流点 が症例 ご とに微
妙 に異 なる。 また 門脈校 とは 門脈賄部 の間近 では併走
せ ず,や や離れ る とグ氏鞘 の結 合織 の 中 で胆管 ・
動脈 ・
門脈 が三つ組 とな ってい る。こ の基本構造 な らびに個
人差 は術 中超音波 で よ く観察 で きる。
なお,S,4の 脈管 構造 は上下 に 2分 され る と考 える
(区別 して切除 な い し保 存 す る)方 が よい。す なわ ち,
正 面 か らみ た普 通 の血 管 造 影 で よ く見 え る S-4の 枝
は,画面 の 中を横走 な い し斜走す るので判 りやす いが,
この枝 は下半 分 の枝 にす ぎな い。上半分 に向 う枝 は正
面 の血 管造影 では切線方 向に走 るため に見 えないが,
その数 は多 く, この領域 は術 中超音波観察 で意外 と広
い こ とが よ く半」る。
したが って s_4の 肝実質 を上 下 に分 けて系統 的 に切
除す る こ とは容 易 で あ り,腫 場 の位 置,門 脈 TT,円 脈
枝 内 の血 流方 向 (A‐
Pシ ャン ト)を 術 中超音波で確認
しつつ 正確 に系統 的 に部 分的切 除 な い し保存 をす べ き
で あ る。
なおS‐
4の肝静脈血の流れには次のような3系統が
あり,これを熟知してお くと出血も少ない。
4の下
① S‐
の
半分 中心部と鎌状間膜寄りの部分の血液は,,直接に
左肝静脈に注ぐ,② 上半分の区域のほぼすべては,中
3.S‐2,S‐
3の 切除
このいずれかに肝痛 があれば,門 脈 TTを 考慮 して
左外側区切除を行 うのが原則である。 しか し,肝 前縁
に近 い S-3の腫瘍で門脈 TTの 無 い場合,お よび A,P
シャン トによる門脈血の逆流がない ことが術中超音波
肝静脈 (IVC寄 り)に ひとまず流入 したのち,結 局 は
左肝静脈 に流入す る。③ S‐
4の 肝縁附近の領域 は,1本
によ り確認 された場合には,肝 硬変 による機能低下を
2,S‐
考慮 して S‐
3い づれかを保存す る術式 が許容 され
る。この際 には実質離断中に腫瘍 が露 出して TWゼ ロ
ミリになるか,な りかかることが往 々に してある。そ
5。S‐
5の 切除
この領域 の意外 な特長 は, この領域 が小 さい と云 う
ことであ り,肝 右葉 の前縁にも達 しない ことがある。
つ ま り,胆 の う床 の右外側の臓側面 はすべ て S‐
6の 領
の際 には,裏 か ら (左葉の臓側 面 か ら)改 めて装膜を
切 り実質を割 るとTWを 広 く保つ ことがで きる。
4.S_4の 切除,特 にその部分的系統切除
にまとまって中肝静脈末浦 (肝縁寄 り)に 注 ぐ。 した
が って,中 肝静脈 の S‐
4か ら来 る枝 とS-6か ら来 る枝
の合流部 はカイゼル ひげ,ない しは人の字 の形 となる。
域 とい うこともしば しばある。 また S‐
5の 門脈校 には
左外側 区に腫 瘍 が あ る場合 には 門脈 TTや 腫瘍部
分での A―Pシ ャン トに よる癌細胞 の左内側 区へ の潜
個人差が強 く,太 い もの 1本 の こともあるが, 2-3
本あって, しか も一部 が S‐
8の 枝 か ら来ていることも
ある.房Jの表現をすれば,S5の 領域に来ている門脈 の
枝 は,その技分かれ,ないしはル ー ツが S_8領域 で も構
在的撒布を考慮 して,い わゆる左 2区 域を切除す るの
が理想的である.そ の逆 の場合つ ま り左内側区に肝癌
わない ことになる。さ らに云えば S‐
8と の境界 は本質
的 に不明瞭である。
88(88)
非定型的肝切除の基本手技 と偶発症への対応
S‐
5切 除の最大 の問題点 は,S-6か ら来 る drainage
5の 肝実質 内を通 る場
veinとして太 い中肝静脈 が S‐
大部分 の症例
6の drainage veinは
合 であ る。こ の S‐
で予想以上に大 く,ま た胆の う床 の直下 (ゼロ ミリと
いって もよいほ どの浅層)を 走 る。 したが って,術 中
超音波検査 で右下肝静脈 の存否,相対的 な太 さを知 り,
可及的 に保存す る。
6.S-6の 切除,特 に部分的 な系統的切除
この領域 は Couinaudの 8つ の区域 の中で S-8の と
7と の境界 が明瞭 なもの
並 んで最大 の区域 であるが S‐
がない。そ こでわれわれは,国 立がんセンター放射線
診断部 の提唱りに よ り,血 管造影上 ほぼ水平 に走 る後
日消外会誌 19巻
1号
従来 この区域 の切除 は下大静脈間近 で手術 の視野 も
悪 い ことか ら,非常 に困難視 されて来た。しか しCTで
は診断が容易であ り,術 中超音波検査 で右肝静脈,右
下肝静脈 に関す る情報 を得 る こと も容易 となった今
日, さほ ど困難 な手術ではな くなった。すなわち,著
者 の開発 した胸骨下半分 タテ害Jり (非開胸)を 上正中
切開 の延長 として加 え,横隔膜 の緊張部を切開す ると,
右肝静脈 の IVCへ の流入部 が手術関係者 (複数)の 視
野 によく入るよ うになる。 これ と同時に高位横切開を
右腋寓線 まで加 え,術 者 と前立ちが脱転 した右葉を in
my handに 取 り扱 える状態 にす ると,い わゆる裸区に
対す る超音波観察,超 音波 ガイ ド下 の穿刺 が,他 区域
区域 の動脈枝 を 6の コメ と呼称 している。 この コメ印
の枝 よ りも早 く分岐す る太 い枝 は通常 2本 あ り,肝 門
に近い方で分岐す る枝は肝右美前縁を支配 し,や や末
と同様 に容易にで きるよ うになる。
肝実質切除 の具体的 目標 としては,右肝静脈 を5∼10
cm余 にわた って露 出す るよ うな肝切除を行 うこ とで
補 の枝 は右葉 の裸区の尾側半分を支配 している。こ れ
6の 亜区域 は,そ れぞれ の実質 が100gを越す ほ
らの S‐
ある。
6の
7の 区域切除 の範囲を決め るに は,前 述 の S‐
S‐
コメ印を術中超音波 で確認 し,S‐8と の境界 を同 じく
ど大 きく,各 亜区域 の部分的系統的切除 は,ア ップル
パ イ半分を 3等 分す るよ うな形で容易 に行い うる。
具体的 には, これ らの主だ った 3本 に撰択的に超音
波 ガイ ド下に色素を注入 して亜区域領域を染 め出し,
分岐点 のグ氏鞘周囲に 目じるしとして濃厚な色素液を
徴量注入 して系統的に en aocに切除す る。その他 の方
法 として,肝 門右側 の臓側面 で門脈右後区域校 の走行
に見当をつ けて肝実質 を浅 く割 り,い わゆる Pポ イン
トを露出す る方法がある。Pポ イン トつ ま り後区域技
6の 枝 が立て続 けに本
の根部 では,前 述 の主だ った S‐
術中超音波,色 素 に よる染 め分けな どで確認す る。 ま
た,S‐8の 末浦を S,7に少 々付けて切 除す る姿勢 で切
ー
離予定線 を肝表面 に電気 メスで マ クす る.な お,中
7の 腫瘍 によって圧排 され,変 形 している
肝静脈 が S‐
ことが多 いので確認す る。
ー
実技 的 には,右 肝 静脈 にテ プを か け,肝 門 で も
Pringle法または片葉阻血 手技 で流 出,流 入路 とも遮
断すれば理想的であるが, これ らの前処置 に余 りこだ
わ る必要 はない。む しろ,オ キシセル綿を上手 に使 っ
幹 か ら校分かれ してお り,亜 区域 の分岐 の原点 を肉眼
で確認 しつつ,撰 択的系統的な切除 を行 うことがで き
て肝実質 か らの出血を最小限 にす る こと,あ るいは,
肝実質を切離予定線 で割 ってゆ くとき,入 念 に両サイ
る。
なお,S‐6の 肝静脈系 は右肝静脈 が主体 の こ とが多
いが,右 下肝静脈 は症例 の 1害J強で よ く発達 してお
り。,こ れが右後区 グ氏輸の背尾側を通 るので,症 例 に
ドとも糸針による止血を行 って,創 底 に見 える右肝静
脈本幹 またはその枝を よく視察 で きるようにす る こと
よってはその保存 に努 め る。肝静脈系 には側副血行が
発達 しやすい といわれているが,術 中 に観察す る限 り
側副血 行 の発達 はそれ ほ ど速やかに起 るもので はな
6の 亜区域で肝静脈系 に損傷を起 した場
い。例 えば,S‐
合,門 脈動脈 の流入を停止 させ ると当該亜区域 は他 の
区域 と同 じ色調に戻 り,流 入血行 が再開 され ると当該
亜区域 の暗紫色 へ の変化 が直 ちに起 る。 この よ うな
うっ血によるチア ノーゼは,壊 死 には到 らないが当分
の間,一 種 の肝機能障害 を人工的に作成す る こととな
ろ う。
7.S‐7の 切除
が大切 である。
具体的 には,右肝静脈 の IVC流 入部近 くの肝実質を
少 しず つ割 って止血の糸針をかけてゆ き,S‐8と の境
ー
界 に付けた電気 メスの マ クとつ なげてゆ く.IVC近
くの肝実質を割 った跡 にはオキ シセル綿をつめておけ
ば,出 血が完全に止 り,約 10分間放置す るとオキシセ
ル綿を除 いて も乾 いた状態 となる。
れ
浅 く長 く肝実質を割 りなが ら進む と,肝 実質 の害」
日の底 に右肝静脈の特徴的な青 白い壁 が見えるよ うに
なる。 ここまで進 めば,右 肝静脈本幹 に沿 って小枝を
払 い,毛 の よ うに細 い 白い索状物 まで も入念に結索す
ると,右 肝静脈 が一層露出 され る。 また,右 肝静脈本
幹 には ピンホ ールか ら 1,2ミ リ長 の裂 けが 出る こ と
1986年1月
は不可避であるが, ここには 「
紙 のよ うに薄 くのば し
たオキシセル綿R」
を先づ 当て,そ の上か ら小指頭大 の
ものを当てて圧迫 してお く。時間が経つ とピンホール
は凝血で 自然 と閉 じてお り,長 い裂けも火勢が衰 えて
いるので,血 管縫合糸で容易に処理で きる.
なお,S‐8と の境界を割 ってゆ く時 には掘 り込む よ
うに害Jり進 んでゆ く。 この際 には先 曲 りの鉗子 で,弯
曲が直角 に近 く,曲 った先端 が短 かい ものが使 いやす
い
.
8。S‐
8の 切除
この区域は Couinaudの区域の中で最大であ り,そ
の全切除を行 うには,中 肝静脈の右縁沿 いに肝実質を
割 って入れば S‐
8の 本幹に達す るので, ここで一 括結
繁 し,変 色 した領域を切除すれば よい。肝断面には右
および中肝静脈の一部おのおの数 cmが 露出す ること
になる。
一方, この区域の
系統的部分切除 に際 しては, この
区域の脈管 が通常 ほぼ 4本 の立体 的な校 に分かれる関
係上,術 中超音波での詳細 な検討 が必要である.肝 腫
瘍 が大 きくて これ らの枝 が圧排変形 された り,そ れが
隣接の区域 にまで及 ぶ と,単 純 な カ リフラワーモデル
的な切除は不可能であ り,理 想的な系統的亜区域切除
に妥協が要求 される.
H.非 定型的切 除時 の偶発症 への対応の
1.出 血対策
出血量を減少 させ ることが繊細 な手術および術後合
併症回避の原動力であ り,そ のため には広 い開創が推
奨 され る。IVCか らの出血は種 々の状況下に起 るが,
肝を挙上中であれば直ちに元通 りの位置 に戻 し,出 血
部 にオキシセル締を少量当てて圧迫 し,同 時 に手術台
の頭側を急角度 に下げる。 この操作 によ り,IVC壁 に
孔 があいていて も下半身の血液 は落差によ り心臓 に還
りやすい状態 となる。
オキシセル綿 は,タ ンポン的使用 とパ ッチ的な使用
を使い分けるべ きである。 タンポン的使用 の利点 は こ
の綿球 が血液を吸って膨潤 した とき,組 織 の割れ 日に
よ く粘着 しなかなか窯Jげ落ちない ことである。縫合止
血す るとき,米 粒 ∼小豆大 の ものを一緒に縫 い込むの
も非常 に効果的である.こ の際 は乾 いた ままで も,生
理的食塩水で濡 らして丸めた もので も有効である。
一方,パ ッチ
的な使 い方 は,薄 く伸 ば したオキシセ
ル綿 に血液 が滲み込んだ場合,薄さ1ミ リ前後 の
柔軟な
粘着性 のある膜に変 ることを利用す るものである。拍
動す る肝静脈壁などに この膜 が貼 りつ くと,広 さと粘
89(89)
着力 とによリパ ッチ的な役 目を果す。し か も血液だけ
の薄膜 と違 って丈夫 な線維の網 の 目が支 えとなる.換
言すれば,ご く薄 いオキシセル綿を支持体 とした フィ
ブ リン膜を血管壁 に外 か ら貼 りつ けることになる。 な
おオキシセル ガーゼ①は厚す ぎて,粘 着 させ るパ ッチ
には不適当であるが,縫 いつ けるパ ッチ としては使途
がある。
2.残 肝 の局所的循環障害へ の対策
残肝実質に濃い変色領域が現れた場合 には流入血の
途絶であ り,壊 死化を考 えて切除すべ きである。一方,
淡 い変色が明瞭 な境界 とともに現れた場合には,静 脈
還流 の障害 (うっ血)が 最 も考 えられ る。 この際 には
血液 の当該区域へ の流入を止めてみると,数 秒後 には
変色が褪色す る。つ ま りうっ血が側副血行経 由で徐 々
に drainageされ る。 この よ うな場 合 に は,該 部 を
drainageしている肝静脈系が,誤 って離断ないしはシ
バ リ込 まれていないかを調べ る。誤 って糸針 がかか っ
ておれば, この糸を外 して,ひ とまず オキシセル綿を
当てて圧 迫 止血 す る。 この よ うな止血用 の糸 を外す処
置 は,意 外 な こ とに,肝 断面 か らの oozingを か え って
止め る こ とが 多 いので,思 い切 って試 み るべ きであ る.
お わ りに
系統 的亜 区域切除 は,肝 硬変合併肝癌 例 で非癌部 の
肝切除 を最小 限 とし,直 経5cm以 下 の肝癌 において も
高率 に証明 され る門脈 内腫瘍栓 に起 因す る肝癌細胞 の
取 り残 しの可能性を最 小限 とす るキ メの細 か な手術 手
技 で あ るめ。 したが って 術 中超 音波検 査 で腫瘍 と周 囲
脈管 との相 対的位置関係 を正確 かつ 詳細 に とらえ,超
音波 ガイ ド下 に担癌 区域 の 門脈枝 内 に色素 を注入 して
当該肝 区域 の範 囲を肝表 面 で知 り,ま た カ リフラ ワー
の根部 つ ま り切 断予定 の 問脈 分岐部 の グ氏輪 を濃紺 の
色素 で 予 め染 め ておいて,深部 での U turnの 目安 にす
るな どの操作 が必要 で あ る。
一 方,腫
瘍学的 にみ る と,非 癌部肝組織 を可及的 に
少 な く切除 して硬 変肝 へ の負担 を軽 くす る とい う意 図
ゆ えに,腫 瘍 周囲の安全地常 的 な TWが
,肝 癌取扱 い
の10ミ
リには遠 く及 ばない ことが多 い。 しか し最
規約
近 の 当院 にお け る肝癌 切除 の遠 隔成績 は 3年 累績生存
率 で64%で あ り,集 学的治療 の今後 一 層 の進歩 に よっ
て, さ らに遠隔成 績 の 向上 が期待 され る。
文 献
1)長 谷川博,山崎 晋 ,幕内雅敏ほか :肝管癌に対す
る尾状葉の en bloc亜全切除の工夫.日 消外会誌
15: 925, 1982
90(90)
非定型的肝切除の基本手技 と偶発症への対応
和,長谷川博 ほか :肝 門部胆管癌
2)二 村雄二,早)ii直
に対す る根治的手術術式.胆と膵 5:l■ 17 15h
1984
3)高 安賢一,森山純之,村松幸男ほか :臨床放射線学
的,肝 内門脈の脈管構築 の検討 とその有用性 につ
いて。経皮経肝的問脈造影を用 いた肝内門脈 の分
岐次数及 び亜区域校 の新 しい命名.日 消病会議
81 : 56--65, 1984
日消外会議 19巻
1号
t
4 ) M a k u u C h i M , H a s e g a w a 母k Hi , YS a ne 彰
The inttdor dEht hepatic vein:Ultrasomた
demonstration.Radiology 148:213--217, 1983
5)山 崎 晋 ,長谷川博,幕内雅依 !細 小肝痛 の臨床病
理学的分析 と,そ れにもとづ く新 しい概念 の切除
法-27例 の検討.肝 臓 22:1714-1724,1981
6)長 谷川博 :肝切除のテクニ ックと息者管理.東京,
医学書院,1985
al: