進化とは何か? 岐阜市立長森南中学校 1.研究の動機 冬に理科室の水槽にタマミジンコの休眠卵を入れ みたところ、カイミジンコは自然に大量繁殖してい 3年 伊藤 大登 このことから要因としては、水温、水質などが考 えられる。 (3)水質の実験-仮説2の検証①- たが、タマミジンコは繁殖しなかった事実から、そ 以前行った「水質変化に関する実験」の中で、タ の理由を考え、自分なりの仮説を立て、その検証の マミジンコの成体は、 水に含まれる人工的な物質(カ ために本研究に取り組むことにした。 ルキ、洗剤など)に対し、とても敏感に反応するこ とが分かっている。そこで今回は、前回生存率が低 2.研究の内容 い結果となった洗剤をさらに低い濃度にして実験す (1)仮説の設定 ることにした。実験には、0.01、0.005、0.001、0.0005、 ①仮説1 休眠卵は適さない環境であることを感じ、まだ 0.0001%の洗剤溶液を用いた。 〔結果〕 そのままの状態で眠っていた。 ②仮説2 休眠卵はふ化したが、環境が適さなくなって死 んでしまった。 (2)水槽の調査-仮説1の検証- 水槽の中にまだ生きている休眠卵が残っていな いか調べるため、中の組織を採取し、真水にエサ を溶かしたものに組織をつけておき、観察した。 〔結果〕 何も発生しなかった。 〔考察〕 〔考察〕 タマミジンコの生存に影響が見られない濃度は、 今回は水槽内に残っている休眠卵を探したが、30 およそ 0.0005%で、カイミジンコの場合は 0.001% カ所のサンプルで実験したにも関わらず、1 匹も生 だと考えた。ほんのわずかな差だが、タマミジンコ まれなかった。結論として、水槽内に休眠卵はも の成体よりもカイミジンコの成体の方が、水質の変 う残っておらず、水槽内でふ化した後に全て死ん 化に強いことが分かった。 でしまったと考察した。休眠卵の状態ならば、水 (4)温度の実験-仮説2の検証②- 温が 50℃を超えたとしても高い確率でふ化し、ま 以前行った研究において、タマミジンコが生きら た水質が悪くなったとしても影響は無いことから、 れる温度の範囲が分かっている。影響なく生きられ 卵のまま死んでしまうことはまずあり得ない。ま るのは、8~35℃と考えている。そこで今回も前回 た、ふ化したタマミジンコを補食できる生物は、 同様に低温と高温の状態でカイミジンコの様子を観 水槽内には発生していないため、水槽内の環境が 察し、タマミジンコとの比較を行うことにした。 タマミジンコに適さなかったようだ。しかし、タ ①低温での実験 マミジンコが1匹も生きられなかった環境でも、 冷蔵庫(8℃)と冷凍庫(-12℃)に入れ、時間 カイミジンコは大繁殖していた。きっとタマミジ の経過による変化を調べた。 ンコとカイミジンコの生存可能な限界の環境に差 〔結果〕 があるのだろう。タマミジンコは水中の酸素濃度 が低下すると、体内でヘモグロビンをつくり、酸 欠にある程度耐えることができる。 ・冷蔵庫(8℃)に入れた場合 5時間後:全く動かなくなっていた。常温に 置いておくと、活発に動き出した。 24 時間後:動かなかったが、常温に戻すと全 てが動き出した。 ・冷凍庫(-12℃)に入れた場合 (6)進化とは何か?-考えたこと- 2種類のミジンコを比べてみると、生物の進化の 本質が見える気がした。 1時間後:水が凍り、自然解凍しても全て死 滅した。 ②高温での実験 洗面器に熱湯を尐しずつ注ぎ、プラカップ内の水 温を上げていき、カイミジンコの様子を観察した。 〔結果〕 ・30~40℃:活発に動き回る。 ・45℃:動きが激しくなった。 ・50℃:数匹死んでいた。 ・54℃:全て死んで沈んでいた。 〔考察〕 3.研究のまとめ カイミジンコがタマミジンコより高温に強いこと が分かった。低温ではあまり差がなかった。 現在の地球では、生物の絶滅するスピードがど んどん加速しているそうだ。人間か自然に尐し手 を加えただけでも、多くの生物が死滅してしまう (5)実験・観察のまとめ-分かったことなど- ・学校の水槽の中には、生きた休眠卵は残ってい ない。 ・休眠卵のまま死んでしまったのではなく、ふ化 したタマミジンコが、温度や水質などの環境に 恐れがある。生物がいきていくということは、本 当に繊細なことなのだろう。今回の水槽事件はそ の小さな例だと思う。本研究を通して、人間は生 物が本当に繊細なものであることをもっと意識し なくてはいけないと改めて感じた。 適応できずに死んでしまったと考えられる。 (指導教諭 長屋 良憲) ・生存できる洗剤の濃度は、タマミジンコが 0.0005%、カイミジンコが 0.001%である。 ・水質の汚染に対しては、カイミジンコの成体の 方が強い。 ・低温に対しては、どちらが強いかはっきりしな かった。 4.審査評 タマミジンコが成育できなかった環境で、カイ ミジンコが繁殖できていたという事実から、2種 類のミジンコの生き残り戦略の違いを水質と温度 の2点から比較し、進化とつなげてまとめること ・正常な状態が保てる水温はタマミジンコが 30℃ ができました。実験どうしのつながりや濃度・温 までであるのに対し、カイミジンコは 40 までで 度の設定理由の説明が過去のデータを基にしてい あった。 て科学的です。研究の道筋もしっかりしています。 ・水温の高さに対しては、カイミジンコの成体の 方が強い。 また、実験を行う理由や考察においても、読む人 に理解しやすいように表現できる力がすばらしい と思います。
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