包絡線定理 Shigeki Isogai Department of Economics, Pennsylvania State University April 13, 2014 Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理を学ぶ理由 最適化を含む問題で比較静学分析をする際に計算が簡単になる (定理の statement は後で述べる). 経済学のモデルの直観が理解しやすくなる. 動的計画法でも有用. Shigeki Isogai 包絡線定理 復習:合成関数の微分と鎖法則 h(x) := g [f (x)] のように複数の関数が組み合わされてできた 関数のことを合成関数という. 合成関数の微分は h′ (x) = g ′ [f (x)] f ′ (x) で与えられる. いつもどおり dx を用いると h′ (x)dx = g ′ [f (x)] f ′ (x)dx つまり (g [f (x)] の増加量) = (g の増加率) × (f の増加量) 一つの変数が複数の経路を通じて関数の値に影響を与えている 場合も同様にして dh [f (x), g (x)] = h1 (·)f ′ (x) + h2 (·)g ′ (x) dx Shigeki Isogai 包絡線定理 パラメトライズされた最適化問題 操作変数以外の変数 (パラメータ) を含む最適化問題を考える. max f (x, w ) s.t. g (x, w ) ≥ 0 x ここで w はパラメータ. この問題を解くような操作変数の値はパラメータの値にも依存 する. そこでこの値を w の関数として x(w ) と表す. また最適化された目的関数の値を価値関数という: V (w ) = max {f (x, w ) : g (x, w ) ≥ 0} x Shigeki Isogai 包絡線定理 具体例:効用最大化問題 一般の L 財の場合を考え,記法の簡単化のためベクトル表記を 用いる (T はベクトルの転置): p = (p1 , p2 , . . . , pL )T , x = (x1 , x2 , . . . , xL )T ∑ このようにすると支出額は p · x = l pl xl と書ける. 効用最大化問題 (UMP) では価格と富水準 (p, w ) がパラメータ になる. UMP の解を需要関数といい,x(p, w ) と書く. また UMP の価値関数を間接効用関数といい, v (p, w ) := max {u(x) : p · x ≤ w } x と書く. Shigeki Isogai 包絡線定理 価値関数 価値関数を max 記号を使わずに表すと V (w ) = f (x(w ), w ) = f (x(w ), w ) + λ(w )g (x(w ), w ) λ も w の関数であること,そして解においては λ(w )g (x(w ), w ) = 0 が成り立つことに注意しよう. Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理 Theorem (包絡線定理) 価値関数が V (w ) = max {f (x, w ) : g (x, w ) ≥ 0} x で与えられ,さらに制約条件のラグランジュ乗数 λ が厳密に正であ るとき,価値関数の w に関する変化率 V ′ (w ) は V ′ (w ) = fw (x(w ), w ) + λ(w )gw (x(w ), w ) で表される. Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の解釈 パラメータ w が変化するとき,w は価値関数 V に対して大き く分けて 2 種類の効果を持つ. 一つは f , g の値を直接変化させる効果 (直接効果). またもう一つ,w が変化するとそれに応じて x(w ), λ(w ) が変 化する.その x, λ の変化を通しても価値関数の値は変化する はずである (間接効果). しかし包絡線定理により,実は間接効果は無視してよいことが わかる. Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の略証 λ(w ) > 0 から,もとの最適化問題の一階条件より fx (x(w ), w ) + λ(w )gx (x(w ), w ) = 0 g (x(w ), w ) = 0 が成り立つことに注意しよう. 鎖法則により (少々ややこしいが簡単なので手計算を勧める) V ′ (w ) =fx (x(w ), w )x ′ (w ) + fw (x(w ), w ) + λ′ (w )g (x(w ), w ) { } + λ(w ) gx (x(w ), w )x ′ (w ) + gw (x(w ), w ) = {fx (x(w ), w ) + λ(w )gx (x(w ), w )} x ′ (w ) + λ′ (w )g (x(w ), w ) + fw (x(w ), w ) + λ(w )gw (x(w ), w ) =fw (x(w ), w ) + λ(w )gw (x(w ), w ) Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の略証 要するに鎖法則を用いた後に一階条件を用いて余分な項を消去 するだけ. 上の計算から,w の間接効果を表す項 (x ′ (w ), λ′ (w ) を含む項) は最適化の一階条件により消去されることがわかる. これにより直接効果のみが残る. Shigeki Isogai 包絡線定理 具体例:効用最大化問題 間接効用関数 v (p, w ) の w に関する微分係数を見てみよう. 定義より v (p, w ) = max {u(x) : p · x ≤ w } x = u(x(p, w )) + λ (w − p · x(p, w )) 包絡線定理から,w の直接効果のみを見ればよいから ∂v (p, w ) =λ ∂w λ は解における制約条件の効用単位の価値を表していたが,こ のことは上の式からもわかる. つまり λ は「富の限界効用」を表す. Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の応用:マッケンジーの補題 次に支出最小化問題 (EMP) を考える. パラメータは価格水準 p と効用水準 u¯. EMP の解をヒックスの需要関数といい,h(p, w ) と書く. また EMP の価値関数を支出関数という: e(p, u) ¯ := − max {−p · x : u(x) ≥ u} ¯ := p · h(p, u) ¯ − µ (u(h(p, u)) ¯ − u) ¯ Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の応用:マッケンジーの補題 包絡線定理により各 pl について ∂e(p, u) ¯ = hl (p, u) ¯ ∂pl またはベクトルで書くと (ベクトル微分については別の講義 ノートで解説する予定) Dp e(p, u) ¯ T = h(p, u) ¯ ある財の価格が上がると,支出はその財の元々の需要量に価格 の増加量を掛けたものになるはずであるというのが直観. 包絡線定理により,価格の上昇による需要量の変化は無視で きる. Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の応用:ロイの恒等式 効用最大化問題でも,少し工夫することで同様の結果が得ら れる. 間接効用関数は v (p, w ) = u(x(p, w )) + λ (w − p · x(p, w )) 包絡線定理により各 pl について ∂v (p, w ) = −λxl (p, w ) ∂pl またはベクトルで書くと Dp v (p, w )T = −λx(p, w ) Shigeki Isogai 包絡線定理 包絡線定理の応用:ロイの恒等式 λ= ∂v (p,w ) ∂w = Dw v (p, w ) であったことを思い出すと − ∂v (p,w ) ∂pl ∂v (p,w ) ∂w = xl (p, w ) または − 1 Dp v (p, w )T = x(p, w ) Dw v (p, w ) 基本的な考え方はマッケンジーの補題と同様であるが,注意す べきことは効用の高さには絶対的な基準がないこと. そこでその基準として「富の限界効用」λ を用いる. 価格が下がった時,効用は元の需要量に富の限界効用を掛けた 分の増加率でもって増加する. Shigeki Isogai 包絡線定理
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